老健施設における看取り - 全国老人保健施設協会

特集
July Vol.25 No.4
80%
特集
老健施設における看取り
82.5%
77.9%(病院)
病院
60%
老健施設における看取り
40%
自宅
20%
タブートピックとされてきた「死」
いまこそ真剣に考えよう
たずにいると、いざ現実として死に直面した際、
0%
いたずらに恐怖を抱き、動揺する。結果、貴重な
9.1%
診療所
老健施設
その他
5.9%
2.6%
1951
1.5%
1960
1970
1980
1990
老人ホーム
2000
人生の最期の時間を、医師まかせにしてしまう。
12.6%(自宅) 3.5%(老人ホーム)
2.4%(診療所) 2.3%(その他) 1.3%(老健施設) 2010
出典)厚生労働省「人口動態統計年報」
かつての日本は 2 世代・ 3 世代が同居する大家
そもそも、医療は治療の場である。したがって、
備をする「終活」や、自ら自身の葬儀の喪主とな
老健施設としても、確実に高まりつつある看取り
族で、高齢者の大半が、子どもや孫に見守られな
死に対しては徹底的に抗い闘うのが医療で、医師
り、友人・知人を招いて行うお別れの会の「生前
の需要について、もはや看過することはできない
がら、老衰などにより自宅で生を終えた。人に
は宿命的に最期まで患者を生かす手立てを施さざ
葬」が注目されている。終活イベントなるものま
現実に直面しつつあるといえるだろう。
とって死とは、すぐ身近に存在していたものだっ
るを得ない。平均寿命が延び、世界一の長寿国と
であり、そこでは白装束を着て棺桶に横たわる入
本特集では、そのような現状を踏まえ、これま
た。
いわれる日本だが、本当に納得できる人生の終え
棺体験をさせてくれるという。
でその必要性は認識されつつも、なかなか焦点を
ところが、厚生労働省「人口動態統計年報」を
方をしている人はどれくらいいるのだろうか。
それらを肯定・否定するものではないが、ここ
当てて語られることはなかった「老健施設におけ
みると、昭和 51 年を境に自宅で死亡する人と医
人は不老不死ではない。老いの先には必ず死が
へきて、ようやく日本においても積極的に死を語
る看取り」をテーマに取り上げることとした。
療機関で死亡する人の割合が逆転している(右図
訪れ、これだけは等しく例外はない。死は特別な
ろうという風潮が生まれつつあるのは確かである。
特集前半では、識者の意見として 2 人にインタ
参照)
。その後、介護保険制度が始まり、死亡場
ことではなく、誰にも必ず訪れる現実であるなら、
所として特別養護老人ホームや老健施設などの介
「尊厳死」や「平穏死」
・
「安楽死」という言葉も、
ビュー取材を行った。 1 人目は、全老健で平成
自分や大切な肉親の死について、元気なうちから
以前に比べれば、各段に周知が進んできたように
16 年から老健施設での看取りに関わる調査研究
護施設も加わると、自宅で死亡する人はさらに減
きちんと向き合い、真剣に考えておくことは、な
思う。
事業に委員として関わり、
「老健施設における看
少し、いまでは年間死亡数約 114 万人のうち約
んらむだなことではない。
「自分はどう死にたい
こうした動きは、統計にも表れ始めており、近
取りのガイドライン」作成にも尽力された東憲太
8 割が病院、約 1 割が施設、あとの約 1 割が自宅
か」を考えることは、それはそのまま「どう生き
年、自宅で死亡する人の数が少しではあるが増加
郎副会長。 2 人目は、日本尊厳死協会副理事長を
での死亡となっている。
たいか」を考えることにほかならないからだ。
している。これは死亡場所として、高額な医療費
務め、
「平穏死」なる概念を掲げ、在宅での看取
ほんの 40 年ほどの間に、なぜそこまで変わっ
今後、
「高齢多死時代」を迎えるにあたり、
が必要となる医療機関から、在宅や施設等へとシ
りを実施している長尾和宏医師である。さらに、
てしまったのだろうか。核家族化による生活様式
我々は、これまでみてみぬふりをしてきた“死”
フトさせようとする国の方針も後押ししているよ
特集後半では、看取りに積極的に取り組む老健施
の変化、医療保険制度の充実、医療技術の進歩
について、真剣に考え、よりよい死への準備をす
うだ。
設「いなば幸朋苑」
(鳥取市)を訪れ、現場の声
等々考えられる要因は多々あるが、そこには近代
る時期にきているのではないだろうか。
実際、平成 23 年度に全老健が実施した「介護
をレポートする。
日本人の死生観も関係してくるのではないか。身
※終 末期に自ら意思表明できない状態になったとき
のため、あらかじめ医療行為に対する要望を明記
しておく文書。
老人保健施設がもつ多機能の一環としての看取り
老健施設における看取りは、在宅死・病院死と
のあり方に関する調査研究事業」でも、全体のほ
どこが違うのか、あるいはどこが共通するのか。
ぼ半数の老健施設が年間 1 件以上の看取りを行っ
よりよい“死”を迎えるために、我々は何ができ
ており、その件数は近年特に増加傾向にあること
るのか、あるいは何をすべきか。
がわかっている。
本特集を読んだ老健施設関係者の一人ひとりが、
いま一度看取りを見つめ直すきっかけとなれば幸
近なところから“死”をできるだけ遠ざけてきた
結果、いつしか我々日本人にとって死はタブート
ピックとなってしまった。日本において、
「事前
※
指示書(意思表示書、リビングウイル)
」 が普
変わりつつある日本人の死生観
老健施設での看取り需要も高まる
及しにくい理由も、そこにある。
最近、中高年層の間では、戒名を考えたり、お
老健施設で看取りを行った方の家族からは、
死を敬遠し、日常的に死を考え・語る習慣をも
墓を購入したりと、生前から自分の死に対する準
「とても満足している」との意見が多数を占め、
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いである。
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