3次元形状計測および3次元画像処理応用技術

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3次元形状計測および3次元画像処理応用技術
株式会社 ゲン・テック
sは主として2次元画像に基づく特徴抽出、マッチ
1. はじめに
ング、dは3次元点群、面を処理し面張り、モデル変
当社は最先端の3次元コンピュータビジョン理論
形などの処理をするものである。これらの技術を
を核として技術開発を推進するハイテクベンチャ
融合し、さまざまな製品を開発あるいは計画して
ーである。工業計測分野の発展に寄与する技術、
いる。
ならびに人間の感性の領域を拡大するマルチメデ
ィア、アーティフィシャルリアリティの構築を支
援する技術の開発を手掛けている。すなわち一方
は高精度を追求する分野、他方はGood Lookingを
目指す分野の双方を3次元イメージベースモデリン
2.
3次元形状計測機 プレシジョン601
(PR601=ピーアールシックスオーワン)
PR601は、ヘブライ大学のA. Shashua博士が発明
グとしてとらえ、認識技術との組み合わせにより、
した新しい3次元認識技術に基づく、画期的な非接
独自の技術として開発を進めている。
触型の高精度3次元自動計測システムである。精度、
現在、工業計測分野では非接触、高精度、高速
性を兼ね備え、3次元計測の分野に革命をもたらす、
イスラエルCogniTens社製3次元計測機プレシジョ
ン601(PR601)を企画立案し、販売している。一
方、マルチメディア分野ではGentrix、3次元市街地
モデラ、モーションアナリシス、モザイキング、
顔の認識の応用製品などを開発あるいは計画中で
ある。
また、3次元コンピュータビジョンではフランス
INRIA出身のStephane Laveau博士、顔の認識では
MITのTomaso Poggio教授、3次元画像処理分野では
ヘブライ大学のAmnon Shashua博士など、各分野で
著名なスタッフが研究および実際の開発を指導し
ている。
核となっている技術は、a写真計測(Photogrammetry)
sコンピュータビジョン d3D
Geometry。aは2次元画像を使用する3次元復元、
写真1 PR601
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時間、計測可能な対象物のサイズ、それぞれにお
の高精度測定が実現される。接続誤差は数ミクロ
いて、従来の3次元計測方法の常識を覆えす革命的
ン以下で、例えば2mの被測定物の場合、接続後の
な計測システムだ。この技術革新は、工業製品の
測定誤差は±100ミクロン以下となる。
もちろん小型の部品も計測が可能なことはいう
生産工程や品質管理システム、デザインリバース
エンジニアリングなどに飛躍的な進歩をもたらす。
までもない。
殊に、製造業において現在最も重要な課題となっ
d高速
CCDカメラからの画像を直接コンピュータに入
ているプロダクトサイクルの短縮に、大幅な改善
力できることから、画像取り込み段階での処理時
をもたらすこととなる。
当社では、イスラエルで開発・製造を行い、メ
間が大幅に短縮される。新しく開発された「トリ
ンテナンス・セールスを日本でという国際分業体
リニアテンソル3次元演算理論」を用いて線形計算
制で、この分野に取り組んでいる。
を行うため、演算処理時間も大幅に短縮された。
例えば、バンパーのような大型部品を測定する場
2.1 3次元形状計測に求められているもの
合(写真2)
、測定開始から結果表示までは約1時間
3次元形状計測に求められているもの─それは非
接触、高精度、高速、高密度、大型物体の計測、
を満たすシステムである。PR601はこれらの要請
に同時に応えることができる(表1)
。
2.2 基本技術および特長
PR601の基本技術は写真計測である。非接触で、
しかも市販のCCDカメラによる測定ができる。
写真2 バンパー測定例
a非接触かつ高精度
新しい3次元写真計測理論の応用、およびサブピ
クセル処理の実現により、高精度な測定が可能と
で完了する。
なった。1回の撮影による測定領域は300×300mm
f高密度
高密度な測定が可能である。測定で得られる点
程度で、±50ミクロンの高精度である。
s大型対象物の測定
群密度は標準で1平方ミリメートル当たり4点に及
3次元データの自動接続技術の採用により、大型
ぶ。これは膨大な測定点を作り出す照明設備によ
対象物の測定が可能となった。独自開発の3次元デ
る。特殊な照明によって微小なテクスチャを与え
ータ接続理論を用いているため、高精度を保ちつ
ることで、テクスチャのない、滑らかな自由曲面
つ、自動的な3次元データの接続(スティッチング)
も高精度に計測することが可能となった。
が可能で、従来の技術では困難だった大型対象物
gCADとの比較表示
測定結果とCADデータとの比較表示
が行える。測定結果は3次元座標点の集
特長/方式
非接触測定
高精度測定
高速測定
大型対象物測定
自由曲面の3次元測定
全自動測定
自動データ解析・出力
CMM
Sorry
YES
Sorry
YES
Sorry
Sorry
Sorry
レーザ法 モアレ法
YES
YES
YES
YES
Sorry
Sorry
Sorry
Sorry
YES
YES
Sorry
Sorry
Sorry
Sorry
PR601
YES!
YES!
YES!
YES!
YES!
YES!
YES!
表1 PR601と他の高精度3次元計測方式との比較
32 ︱eizojoho industrial
合COP(Cloud Of Points)として出力され
る。これに測定物の基準点(CAD上の
対応する座標)を入力することにより、
自動的にCOPとCADとの位置合わせが
行われ、すべての測定点を元のCADデ
ータと比較表示することができる。
h全自動、簡易な設定
操作は容易で専門技能を必要としな
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い。ユーザフレンドリなGUI操作環境が用意され、
力する。
CADデータを取り込み対話型でコンピュータに計
測箇所を指示するだけで、パスプラニング(測定経
2.6 COP解析ソフト(COPアナライザ)
路設定)ができる。パスプラニング後、自動的に測
COP解析ソフトは、PR601によって測定された
定が実行される。この測定の下準備は30分程度で
点群データを解析する。CADデータを参照して
完了する。
COPデータへ面張りし、測定指示された位置で
●測定シーケンス
CADデータと比較し、差を一覧表にまとめること
・CADデータ読み込み:IGES CADデータを読み込む
ができる。
・パスプラニング:CADデータを表示し対話型で
測定経路を設定する
・測定開始:全自動で、各部がシンクロして動き、
3. ゲン・テック社開発製品
開発中あるいは研究中のソフトを紹介する。
対象物をくまなく撮影する
・測定結果の解析:点群とCADを比較し差を色で
3.1 イメージベースモデラ
表示する
測定開始から測定の結果の解析までは約1時間であ
被写体の大きさと生成する結果により3つのソフ
トを揃えている。いずれも異なる技術によって開
る。
発されており、一口に3次元と言っても適用すべき
2.3 仕様(表2)
技術は条件によってそれぞれ異なる。
aGentrix(ゲントリックス)
2.4 構成
通信と動画像の融合をはかるのにうってつけの
カメラヘッド、照明設備(イルミネーション)、
試料台(ステージ)、ワークステーションの4部分
画期的かつユニークなソフトである。
被写体を2方向から撮影した2枚の画像をもとに
して、その中間画像を高速に生成する。はじめに
から構成される。
中間画像の再構成情報をオフラインで作成してお
2.5 1号機の稼動状況
き、それに基づいて中間画像をリアルタイムで生
1号機はトヨタ自動車に納入され、1998年4月よ
成する。中間画像を極めて高速に生成できるため、
り自動車部品の検査に応用される。測定によって
角度を変えた画像を次々生成表示することにより、
得られるCOPデータへ面張りし測定指示個所にお
マウスの指示に追従して被写体を滑らかに回転さ
けるCADデータと比較し、差を一覧表にまとめ出
せることができる。画像の枚数を増やして全周が
見えるようにするこ
とも可能である。
測定対象物
測定物の最大サイズ
測定精度
自由曲面を含む大型部品の3次元形状
約2×1×0.75mまで
(上記の最大サイズに対して)50∼100ミクロン(2シグマ)
博物館の収蔵品の
展示、商品展示など、
CAD図面のない製品
測定時間
測定時結果の比較
約60分
CADデータ(IGES)との比較
出力データ
測定機寸法
q3次元点群座標データ wCADデータとの比較データ
e数値レポートまたは映像出力
W4,800×H4,200×D3,000mm
測定機重量
制御キャビネット寸法
4,500kg
W600×H1,400×D900mm
画像数枚と再構成情
使用ワークステーション
SGI INDIGO2
で生成するので、転
表2 仕様一覧
の表示モデル作成に
最適といえる
(写真3)
。
インターネットで
動画像を送る場合も、
報だけ送って受信側
送は短時間で済む。
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写真3 Gentrixデータ表示例
バーチャルカタログとして使えば、ユーザは被写
次元モデルのドアを入って、室内を順に見てまわ
体を自由に回転させて確かめることができる。
るといったバーチャルリアリティ環境の構築にも
画像の生成はソフトだけでできるので、プラグ
インをインストールしておくだけでよい。
同様の技術に、Apple社のQuickTime VRのオブジ
利用可能である。
OSはUNIX対応だがWindowsNT、95用の開発も
計画している。
ェクトムービーなどがあるが、これらの技術では
なお、この開発は通産省情報処理振興事業協会
あらかじめ作成した中間画像を、順次画面上に表
(IPA)より「創造的ソフトウェア育成事業」とし
示する。そのため滑らかな物体の回転を表現する
て委託を受け開発したものである。
ためには非常に多くの静止画像をデータとして持
つ必要があり、当然転送にも時間がかかるという
点がネックとなっていた。
なお、この技術はNTTデータ通信株式会社から
委託を受け、特にネットワークを通じて画像を転
送する技術について開発を進めている。また、資
金面においては、開発当初から通信・放送機構の
ベンチャー企業向け助成金である先進技術型研究
開発助成金の交付を受けることができ、技術開発
を円滑に進める上で大変役立った。
s大型構造物3次元モデラ(写真4)
Gentrixより大きな被写体を対象として3次元モデ
ルデータを作成するソフトである。これまで困難
であった大型構造物を簡単にモデル化できる画期
的なソフトといえる。もちろんテクスチャを有す
る3次元モデル(CAD、VRMLデータ)である。
2枚以上の写真から、簡単な操作で建築物の外観、
屋内、3次元市街地などのモデルを構築する。作成
されたモデルは、VRMLで出力することも、汎用3
次元CADの入力として利用することもできる。
作成されたデータにより、バーチャルな建築物
の外観を眺めたり、レンダリングしてパース図を
作成したりするのに利用できる。また、作成した3
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写真4 3次元モデラによる東京都庁復元
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d3次元市街地モデラ
埋め込むにはかなりの手間を要する。
航空写真をもとにして、大型構造物3次元モデラ
本ソフトでは、走行する車などの実写ビデオ画
よりさらに大規模な3次元市街地モデルを生成する
像からカメラおよび車の3次元的動きを復元でき
ことができるソフトで、現在開発を検討している。
る。1枚の写真から被写体の3次元的位置ばかりで
2枚の写真から3次元図面を作成する装置として解
なく、カメラ自身の3次元的位置も復元できるため、
析図化機があるが、人間が立体視する必要があっ
ゆたかな動きのあるCFを製作することができる。
た。本ソフトでは、この作業の自動化、高速化を
ねらっている。
このデータをもとに車種を変えたり(戦車にし
たり)
、3次元CGで作成したアニメキャラクタ、キ
市場背景としては、都市計画、防災などの公共
ングコングなどを車に乗せたり、その車を背景と
的な要請として、都市のインフラストラクチャを
合成するなど、3次元画像中に容易に違和感なく埋
情報として含む3次元地図情報システムの構築が強
め込み、新しいムービーとして製作することがで
く望まれている。またサイバーモール、カーナビ
きる。
ゲーション、CFなど商業的応用においても、3次
sモザイキング
元市街地モデルに対する需要はきわめて高い。こ
複数の2次元画像を滑らかに接続してパノラマ画
の他、無線中継局設置場所の検討、大気拡散シミ
像を作成するソフトである。現在接続に多少時間
ュレーション、作業の高速性を生かして不動産管
がかかるが、より高速なものの開発を目指してい
理、地図の更新などへの応用も考えられる。
る。動画CF、モーショングラフィックスの背景な
Philadelphia2000プロジェクト、Berlinの3次元モ
どさまざまな応用が考えられる。Apple社の
デル化プロジェクトでは建築物のCADデータを使
QuickTime VRのパノラマムービーに対応する技術
用したり、実測によって都市のモデルを作成した
である。
りしているが、本ソフトを使用すれば、より容易
な作成が可能になるだろう。
4. まとめ
3.2 画像合成
以下のソフトは前者は3次元、後者は今のところ
以上のように当社は最先端のコンピュータビジ
2次元だが、実写とCGを合成してモーショングラ
ョン技術を軸とし、認識技術の応用も手掛けてい
フィックス、CFなどを作成するのに特に効果的な
る。技術革新の波は、自動車・コンピュータを経
ためここにまとめた。
て、近い将来には家庭用ロボットの時代が到来す
a3次元モーションアナリシス
るものと確信している。当社では、そのロボット
動画CF、アニメーションの製作などに絶大な効
果を発揮するソフトで、プロトタイプを試作中で
の眼の機能を担う技術の開発を、さらに進めてゆ
きたいと考えている。
ある。荒野を走行する車のタイヤの動きから、車
の動きを力学的に計算してモーショングラフィッ
クスを製作するのは容易ではない。あるいは車を
実写で撮影したとしても、CGの背景に違和感なく
☆!ゲン・テック
3 03-3473-5344 6 03-3280-4375
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