ジュニア期における女子ハンドボール選手の 体力及び

スポーツトレーニング科学6:65−71研究協力校との共同研究(中学・高校生ハンドボール選手)
ジュニア期における女子ハンドボール選手の
体力及び運動能力の発達特性
金高 宏文1),安田 三郎2),海江田貴嗣3),亀沢美香子4),會田 宏5)
1)鹿屋体育大学スポーツトレーニング教育研究センター 2)鹿児島県立鹿児島南高等学校,
4)
山川町立立川中学校,
3)
鹿児島市立谷山中学校 5)
武庫川女子大学文学部 1.はじめに
により検討した。
ハンドボールに限らず,多くのスポーツ種目は一
なお,体力や運動能力の測定は,年2∼3回のペー
般的に中学1年生から開始され,基本スキルやゲー
スで実施し,3年間にわたってチームの競技力を高
ム練習等を通じて,高校3年生までにはスポーツ種
める上での参考としても活用した。
目独自の体力や運動能力を有するようになる。しか
し,専門化するジュニア期の体力や運動能力の変化
2.研究方法
を継続的に明らかにした知見はそれほど多くない。
1)測定対象
スポーツ種目を専門化することで,どんな体力や運
中学生は鹿児島市立谷山中学校女子ハンドボール
動能力がいつ頃から伸びていくのかを知ることがで
部,高校生は鹿児島県立鹿児島南高等学校女子ハン
きれば,発育や経験年数に応じたトレーニングを検
ドボール部に所属する女子生徒を測定対象とした。
討することができるであろう。
両校とも鹿児島県内では強豪校であり,谷山中学校
ハンドボールは,攻守の切り替えが速く,急激な
は九州大会ベスト8(1
3年度),鹿児島南高等学校
方向転換や急停止・急加速といった軽快なフット
チームは九州大会ベスト3(15年度)の実績を有す
ワークとハンドボールの投能力や操作能力が要求さ
るチームであった。表1,2は,各チームの3年間
れるスポーツ種目である。従って,これらの運動能
の主な戦績とチーム構成を示している。
力の発達過程を知ることができれば,トレーニング
なお,両校は隣接し,練習試合等で交流している
内容を適宜修正することや,付加することができる
チーム同士で,ハンドボールの専門的なトレーニン
であろう。しかし,ジュニア期の女子ハンドボール
グ方針に大きな相違は見られない。また,毎年2∼
選手のこれらの運動能力の変化に関する知見は見あ
4名の生徒が,谷山中学校のチームから鹿児島南高
たらない。
等学校のチームへと入部している。
そこで本研究は,中学1年生から高校3年生まで
2)測定項目
のジュニア期の女子ハンドボール選手の体力や運動
測定項目は,先行研究(會田ら1994,高松ら1991)
能力の発達の特性について,3年間の継続的な測定
を手がかりにハンドボール競技のフィールドプレー
表1 谷山中学校の3年間の戦績とチーム構成
年度
九州大会
九州選抜大会
九州中体連
(3月)
(8月)
平成13年度
(2001)
県大会
県中学選抜
県総体
(2月)
(7月)
不出場
チーム構成
3年
2年
3位
2人 9人
1年
合計
7人 18人
平成14年度
(2002)
ベスト8
1回戦
2位
1位
8人 4人 10人 22人
平成15年度
(2003)
不出場
1回戦
3位
2位
4人 10人
− 65 −
6人 20人
金高・安田・海江田・亀沢・會田
表2 鹿児島南高校の3年間の戦績とチーム構成
年度
全国選抜
(3月)
平成13年度
(2001)
全国大会
全国IH
国体
(8月) (10月)
2回戦
不出場
九州大会)
(2月)
九州大会
九州大会*
(6月)
九州大会+
(8月)
チーム構成
3年
2年
1年
3位
1回戦
7人
0人
9人 16人
合計
平成16年度
(2002)
1回戦
2回戦
1回戦
3位
2回戦
2位
0人
9人
6人 15人
平成15年度
(2003)
2回戦
2回戦
ベスト16
3位
3回戦
4位
8人
6人
7人 21人
九州大会):全国選抜大会の九州予選,九州大会*:全国IH前のシード試合,九州大会+:国体の予選大会
ヤーの専門的な運動能力を評価することができると
/ フットワーク能力:25m走(スタンディング
考えられるハンドボール投能力とフットワーク能力
スタートで手動計時した),
50m方向転換走(ス
及び一般的な体力を選択した。選手の形態的特性は,
タンディングスタートで実施しスタートの合図
身長,体重及びインピーダンス法による体脂肪率
により計測),方向転換能力(50m方向転換走
(タニタ社製TBF−305,子供モード)を測定した。
のタイムより25m走のタイムを2倍して減じた
以下は,測定した体力や運動能力である。
値とした)。詳しい測定は金高(2002)を参照。
) 柔軟性:立位体前屈,長座位前屈,新長座位
なお,各測定項目は2回以上測定し,全身反応時
間,25m走,50m方向転換走を除いて高い値を成績
前屈
* 筋力・筋パワー:握力(右),背筋力,脚伸
とした。全身反応時間25m走,50m方向転換走は,
展パワー(コンビ社製アネロプレス3500により
小さい値を成績とした。
体重と同値の負荷での最大伸展パワーを測定),
3)測定
腹筋力(30秒間の反復回数を計測)
測定は,各チーム全員を計測するようにし,全て
+ 敏捷性:全身反応時間(竹井機器社製全身反
の項目は同日に屋内体育館で行った。なお,選手が
応測定装置¿型により光刺激に対する単純反応
怪我等を有して十分な測定が出来ない項目は,当該
時間を計測),5秒間のステッピングテスト(竹
項目について測定しないこととした。
井機器社製ステッピングテスターTKK−5
301
4)分析
により計測),
20秒間のサイドステップ(1.
2m間
中学1年生から高校3年生までの経時的な体力や
隔で計測)
運動能力の発達変化を検討するために,各測定対象
, ジャンプ力・パワー:垂直跳(滞空時間式に
者の各測定項目を中学入学年の4月1日を0日とし
より跳躍高を計測),RJパワー,接地時間及び
て各測定日のトレーニング日数へと換算し,トレー
跳躍高(ディケイエイチ社製マルチジャンップ
ニング日数と各測定項目の散布図を作成した。例え
テスタにより計測),最大無酸素性パワー(コ
ば,高校3年の4月1日の測定は,トレーニング日
ンビ社製パワーマックスVÀにて計測)
26日目にあたり,その縦軸に3年生の各被験者
数18
- 持久力:PWC150
(コンビ社製エアロバイク
のある測定値がプロットされることになる。そして,
測定項目毎に全測定値とトレーニング日数の関係性
−75XLにて計測)
. ハンドボール投能力:3歩のステップによる
遠投,3歩のステップによるジャンプ遠投,ス
を示す近似曲線(主に多項式)を求め,各測定項目
の発達傾向を求めた。
テップシュートの最大投スピード,ジャンプ
シュートの最大投スピード(ゴール後ろよりス
ピードガン・ディケーター社製PSK−PROによ
り計測)。詳しい測定は金高(2002)を参照。
− 66 −
研究協力校との共同研究(中学・高校生ハンドボール選手)
図1 ジュニア期における女子ハンドボール選手の体力及び運動能力の発達の変化¸
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金高・安田・海江田・亀沢・會田
図2 ジュニア期における女子ハンドボール選手の体力及び運動能力の発達の変化¹
− 68 −
研究協力校との共同研究(中学・高校生ハンドボール選手)
図3 ジュニア期における女子ハンドボール選手の体力及び運動能力の発達の変化º
3.結果
当たりも含む),持久力のPWC150,ハンドボールの
図1∼3は,中学1年生から高校3年生までのト
投能力のジャンプシュートのシュートスピード,25
レーニング日数にともなう全被験者の体力と運動能
m走(減少)であった。
力の発達変化を示したものである。
また,中学校期から引き続いて高校生期も発達傾
ほとんどの測定項目で中学校期に発達(増加ある
向をした測定項目は,体内脂肪率,立位体前屈,背
いは減少)傾向を示し,高校生期には横這い(定常
筋力,腹筋力,反復横跳,RJパワーとその接地時
化)傾向を示した。この傾向を示した測定項目は,
間(減少),50m方向転換走(減少)であった。遠
体格で身長と体重,柔軟性では長座位前屈と新長座
投能力(ステップ,ジャンプ)とステップシュート
位前屈,筋力では握力,両脚・脚伸展パワー及び体
のシュートスピードは,高校生期も発達したが,両
重当たりの両脚・伸展パワー,敏捷性では全身反応
者とも3年生時に定常化をする傾向が見られた。
時間(減少)とステッピング・立位,ジャンプ力で
一方,中学生期にはほとんど発達せず高校生期に
は垂直跳とRJの跳躍高,最大無酸素性パワー(体重
急激に発達した測定項目は,方向転換能力であった。
− 69 −
金高・安田・海江田・亀沢・會田
なお,ジュニア期を通じて定常化傾向を示した測
跳,RJパワー,その接地時間といったフットワーク
定項目は,体重当たりの背筋力,体重当たりのPW
に関わる能力とハンドボールの投能力であった。こ
C150であった。
れらは,主にハンドボール競技特有の能力であり,
身体(骨や筋等)の成長だけでなくハンドボール特
4.考察
有の動作を習熟することが必要で,高校生期も含め
本研究は,中学1年生から高校3年生までのジュ
て長いトレーニング期間を要して発達することが推
ニア期の女子ハンドボール選手のトレーニングにと
測された。
もなう体力や運動能力の発達の特性を3年間の横断
また,タイプÁの発達傾向を示す方向転換能力
的・継続的な測定により検討した。
は,ハンドボールのトレーニングを開始したばかり
その結果,女子ハンドボール選手の体力や運動能
の中学生期ではほとんど伸びず3年ほど経過した高
力の発達傾向は,図4のように大きく4つのタイプ
校生期で急激に伸びていた。中学生からハンドボー
に分かれることが明らかとなった。タイプ¿は,中
ルを始める女子生徒にとって,ハンドボールのハン
学生期に大きく発達し,高校生期には停滞するもの。
ドリングの習得・習熟は優先課題で難しく,同時に
タイプÀは,中学生期,高校生期と継続的に発達す
急激な方向転換を意識してトレーニングすることは
るもの。タイプÁは,中学生期は停滞し,高校生期
さらに困難なことが予想される。それ故,通常のト
に大きく発達するもの。タイプÂは,中学生期,高
レーニングでは方向転換能力を習熟(発達)できな
校生期とほとんど変化しないものであり,全て体重
いのかもしれない。全国大会で活躍する中学生,高
当たりの体力・運動能力を示すものであった。
校生チームの選手の多くが通常の中学生より3年ほ
タイプ¿は,柔軟生,筋力,敏捷性,垂直跳,最
ど早く小学4年生からハンドボール競技を開始して
大無酸素性パワー,持久力といったほとんどの一般
いることや,方向転換能力のみに優れていること(金
的な体力・運動能力であった。これらの体力・運動
高2002,2005)を鑑みると,方向転換能力はハンド
能力は,一般的な骨(≒身長)の成長と連動し,骨
ボールのハンドリングがある程度習熟しないと通常
の成長が止まる高校生期には筋の長さの発達も止ま
のトレーニングにより発達できないのかもしれな
り,筋出力の発達の停滞により生じていることが予
い。従って,中学生期に方向転換能力の発達を求め
想された。
るのであれば,通常のハンドボールのトレーニング
一方,高校生期も発達するタイプÀは,背筋力や
以外に方向転換能力を高めるようなトレーニングを
腹筋力といった体幹筋力,50m方向転換走,反復横
特別に導入する必要があると考えられた。
図4 ハンドボール競技の継続的なトレーニングで見られた体力・運動能力の発達タイプ
− 70 −
研究協力校との共同研究(中学・高校生ハンドボール選手)
参考文献
5.まとめ
本研究は,中学1年生から高校3年生までのジュ
・會田 宏ら(1994)女子ハンドボール競技者の一
ニア期の女子ハンドボール選手のトレーニングにと
般的および専門的な体力・運動能力の特性,体育・
もなう体力や運動能力の発達の特性を3年間の横断
スポーツ科学3:71−77,武庫川女子大学.
的・継続的な測定により検討した。
・金高宏文ら(2002)全国大会レベルで活躍する中
その結果,ジュニア期の女子ハンドボール選手の
学女子ハンドボール選手の一般的体力及び専門的
体力や運動能力の発達傾向は,一般的な体力・運動
運動能力の特性−全国大会ベスト8チームと地区
能力とハンドボールの専門的な運動能力で異なって
大会ベスト8チームの比較より−,スポーツト
おり,前者は高校生期に発達が停滞し,後者では高
レーニング科学4:2−7,鹿屋体育大学.
校生期にも発達が継続するというものであった。
・金高宏文ら(2005)全国大会レベルで活躍する高
従って,発達傾向を手がかりにジュニア期の女子
校女子ハンドボール選手の一般的体力及び専門的
ハンドボール選手の一貫したスポーツトレーニング
運動能力の特性−全国大会ベスト3チームと地区
を考えると,中学生期は一般的な体力・運動能力に,
大会ベスト3チームの比較より−,スポーツト
高校生期では専門的な運動能力に重点をおくトレー
レーニング科学6:32−36,鹿屋体育大学.
ニングの工夫をすることが勧められる。また,方向
・高松 薫ら(1991)体力・運動能力テストにおけ
転換能力は,通常のハンドボールのトレーニングだ
るスポーツタレントの発掘方法に関する研究−そ
けでは中学生期に停滞するため,別途取り出してト
の2,球技スポーツにおける完成段階の体力・運
レーニングすることが必要と考えられた。
動能力テスト項目について−,平成2年度日本体
育協会スポーツ医・科学研究報告書Ä.スポー
ツタレントの発掘方法に関する研究−第2報−,
日本体育協会.
− 71 −