タイ東北地方における稲作の栽培と米流通の実態 -高品質米を中心として- トワムヤン サイジャイ(東京農大院),板垣啓四郎(東京農大) 背景と目的 タイの稲作は国内の各地域で行われているが、北部・東北部・中央部・南部の各地域によって、稲作の栽 培パターンや栽培される稲の品種が大きく異なる。東北地方は高品質米の主産地として、様々な自然条件の 下で栽培されている。そこで東北地方における産地の栽培パターンとその変動をもたらす基本的要因を明ら かにするために、高品質米の産地において、稲作の栽培パターン・流通経路に関して、聞き取り調査を実施 した。本報告ではその結果を明らかにする。 1.稲作栽培 タイの稲作栽培をみると、Season Rice と Off-Season Rice に大別される。Season Rice にはうるち米とも ち米が含まれ、雨季の初めに稲の栽培が始まる。雨季作では、主として自給用および国内消費用の米が栽培 されている。雨季作稲の総栽培面積は 5,767 万ライ(1 ライ=0.16ha)である。Off-Season Rice はうるち米で あり、乾季に Season Rice を収穫した後に栽培する。Off-Season Rice は販売目的のみに栽培されており、灌 漑システムが整っている地域で栽培されることが多く、総栽培面積は 943 万ライである。稲の植え付け方法 としては、①水田で田植えする、②畑に籾米を撒く、③水田に籾米を撒く、④畑に穴を掘り、籾米を落とす、 ⑤高地の畑に穴を掘り、籾米を落とす、というように 5 つの種類が存在する。稲作の栽培期間は地域や自然 環境によって左右される。雨季作の Season Rice 栽培期間は 5 月から 11 月、収穫期間は 11 月末から2月で ある。乾季作の Off-Season Rice 栽培期間は1月から5月の間、収穫期間は5月から6月である。 2.東北地方の稲作栽培 東北地方は海抜100~200mの台地からなり、そこにムー川とチー川が貫流しているが、流域に広い山地が ないために流量は少ない。土壌は塩分を含み水利条件も悪く、森林等を開拓して造成した土地には天水田比 率が高いために収穫量の年次変動が大きい。単収は低いが、高品質米の栽培が可能な地域である。 <米の種類と品種> 東北地方の農民のほとんどはもち米を主食としているが、聞き取り調査によってうるち米も多く食されてい ることが分かった。もち米とうるち米の割合は地域によって違うが、大きく 2 つのグループに分けられる。 1) 東北地方の北側にある県はもち米品種の栽培面積が 6-8 割である。 2) 東北地方の南側にある県はうるち米品種の栽培面積が 6-9 割である。 Season Rice を栽培する農家が用いる品種の約8割以上は、農務省が推奨している品種である。推奨品種は 購入しやすく、白米の品質が良いうえに需要が大きい。推奨されている高品質米には Khao Dowk Mali 105 (うるち香り米) 」 ・ 「RD 6(もち米) 」 ・ 「RD15」などといった品種がある。 Off-Season Rice を栽培する農家は、販売目的のみで栽培するために品種選択の幅が広い。 <高品質米の普及化> 東北地方は、他の地域に比べて高品質米の生産量が最も多い。主要な高品質米の産地は、Tung Ku La Rong Hai 平原(面積は210万ライ)であり、国内最大の高品質米産地となっている。もともとこの地域は、開発され る以前から、塩類集積土壌、乾燥・水不足などの問題があり、稲作は栽培されていたものの生産性が低かっ た。そのために政府は農民の所得向上のため、地域開発政策としてダムやポンドの設置、土壌の改良、Khao Dowk Mali 105(高品質米)品種の植え付け振興を開始した。この品種は劣悪な土壌でも良く育ち、また価格が普通 米よりも高い。多くの農家がこの品種を栽培するようになった。このことがきっかけとなって、農家が販売 目的で生産を始め、栽培面積が増加していった。 3.稲作栽培パターン 東北地方における稲作栽培には3つのパターンがみられる。 ①雨季:Season Rice を栽培する 乾季:Off-Season Rice を栽培する ②雨季:Season Rice を栽培する 乾季:野菜を栽培する ③雨季:Season Rice を栽培する 乾季:牧草を栽培する ①の場合は年間を通じ同一の農地に2回米を栽培する。Off-Season に栽培される稲の品種は、販売目的の みで栽培を行うためほとんどうるち米である。また①-③までの Season Rice は、種類によって栽培パターン が異なる。この差異は以下のように考えられる。 ・Season Rice はすべてうるち米を栽培する ・Season Rice はもち米とうるち米を栽培する ・Season Rice は高品質米(Khao Dowk Mali 105 や RD15 品種)のみを栽培する このように東北地方における農家の栽培パターンの選択が異なる要因としては、①米食の好み、②販売目 的(高米価品種) 、③政府の振興、④農地の土壌・灌漑・環境条件や農家の持つ固有条件などが考えられる。 4.米の流通構造 収穫後11月末から1月の間に大量の米が流通する。年間の米供給量は籾米で2,600~2,700万t、精米量に 換算すると1,500~1,600万t生産されている。国内の米需要量は精米換算で979万tであり、総生産量の6割 と推定されている。残りの4割が輸出向けとして流通される。タイは自由な米売買システムのため、流通には 様々な仲買人が存在している。基本的には市場メカニズムによってコントロールされているが、売買してい る米は、政府が決めている品質基準を満たしていなければならない。米の流通には様々な主体が関係してい る。流通段階では生産者から精米業者までが籾での物流で、精米業者以後が精米での物流である。国内外の 消費者が購入する米はほとんどの場合一旦バンコクへ輸送される。輸出向けの米はバンコク港から輸出され る。 図1タイにおける米流通経路 籾米ブローカー 輸出業者 国外消費者 精 生 地元商人 米 精米ブローカー 産 者 政府機関 業 者 農協・農家グループ 卸売業者 小売業者 国内消費者 出所:Department of Internal Trade, Ministry of Commerce:Thailand より筆者作成。 生産者の手を離れた籾米は、精米業者へ行きつくまでに様々な仲買人の手を経由する(図1参照) 。仲買人 とは、籾商人・籾ブローカー・籾米市場・農家組織・政府組織である。このほかにも、生産者から直接精米 業者のところへ持ち込まれるルートもある。また精米で、精米業者から直接輸出業者や精米卸売業者持ち込 むケースもある。精米ブローカーが精米業者から米を買い付け、輸出業者と精米卸売業者に持ちこむルート もある。この場合には精米ブローカーが精米業者と輸出業者および精米卸売業の仲介役を果たしている。
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