2016 年 7 月 九州大 センサー1000 台の稲作大規模実験を 4 法人と 生産費を 4 割削減、今年度から全国で普及活動 篤農家の多くは、あぜで区切られた田んぼ、一 枚一枚の特徴をそらで語ることができる。 「ここは 水持ちが悪くて油断すると雑草が生える」 「こっち は肥料が抜けやすいので、多めに施肥しないと収 量が上がらない」という具合だ。 しかし、高齢農家が次々に引退し、若い雇用労 力を抱えた大型の農業法人が農地を引き受けるよ うになると、篤農家の技に頼れないのが悩みだ。 農業生産の現場で急速に普及し始めたのが、ITを利用した農業技術。優れた経験をI Tでデータに置き換え、幅広く伝えることで、日本農業全体の技術水準を引き上げる。情 報機器、総合電機メーカー各社がIT農業生産市場に参入し活気が出てきた。 注目を集めるのが、九州大学が中心の農匠ナビ1000プロジェクトだ。全国を代表す る4つの大規模農業法人と、コスト削減に向けた研究を進める。文字通り農の「匠」に導 かれ、新しい技術を編み出すイメージだ。 茨城県龍ケ崎市で100ヘクタール余りの水田を経営する横田農場の横田修一社長は、 プロジェクトの一環で380枚ある田んぼのすべてにセンサーを設置した。24時間水量 や水温などを監視してデータを送る。 「似たような土壌条件のところで同じ水管理をしていたつもりが、データを見ると田ん ぼの水の状態が全く違っていたところがあった。センサー情報を精密にチェックすれば収 量を増やし、結果的に1キロ当たりのコメ生産費を下げることができる」と横田社長。コ スト削減には省力化や肥料削減などがすぐに頭に浮かぶが、単位面積当たりのコメ収量を 伸ばすことも有力な手段。ITで田んぼの特徴をつかんで最適の水管理を行えば、増産に 結びつく。 滋賀県で150ヘクタールを経営するフクハラファームの福原悠平常務もセンサーを設 置した。 「 (父親の)社長が言っていた意味が少しわかるようになってきた」 設置したセンサーから送られてくるデータを読みながら、長年の経験や勘で農作業をし てきた社長の技術として、マニュアルに落とし込む作業を進める。土壌、作物、水、温度、 天候など複雑な条件に応じた営農技術を、篤農家は体で覚えてきた。それを標準化するこ とで情報を従業員と共有したり、世代を超えて引き継いだりすることが可能になると福原 常務は考えている。 九大などは農匠ナビの基本技術開発を、2015年度までの2年間で終えた。水田セン サーのほか、田んぼを均平にしたり、細かく収穫量をチェックできるコンバインの開発な ども進めた。玄米1キロ当たり生産費を、全国平均の4割減に相当する150円まで引き 下げる野心的な目標は、4法人で達成し16年度からは全国で普及活動に入っている。 農匠ナビの普及で今年度から協力を行うJA全農は「農業法人が開発したもので、農家 の目線に一番近いのが特徴。農家の所得向上に役立つ」として、全国のモデルJAなどで 試験導入を進めている。 九大の南石晃明大学院教授の話 4法人に1000台のセンサーを設置しほ場ごとの水 の状態をリアルタイムで把握したのは、世界で初めての大規模実証試験。これらの成果を 広げていくことが、日本のコメ生産の競争力強化に役立つだろう。 (ニュースソクラ www.socra.net 山田優・農業ジャーナリスト)
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