循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2009 年度合同研究班報告) 心疾患患者の妊娠・出産の適応、管理に関するガイドライン(2010年改訂版) Guidelines for Indication and Management of Pregnancy and Delivery in Women with Heart Disease (JCS 2010) 合同研究班参加学会:日本循環器学会,日本産科婦人科学会,日本小児循環器学会,日本心臓血管外科学会, 日本心臓病学会 班 長 丹 羽 公一郎 千葉県循環器病センター成人先天性 心疾患診療部 協力員 石 井 徹 子 東京女子医科大学循環器小児科 上 塚 芳 郎 東京女子医科大学循環器内科 明 国立循環器病研究センター周産期科 太 田 真 弓 さいとうクリニック児童診療部 石 公 神 谷 千津子 国立循環器病研究センター周産期科 照 井 克 生 埼玉医科大学総合医療センター産科麻酔科 中 谷 敏 大阪大学大学院医学系研究科保健学 班 員 青 見 茂 之 東京女子医科大学心臓血管外科 赤 木 禎 治 池 田 智 白 岡山大学循環器疾患治療部 国立循環器病研究センター小児循環 器診療部 川 副 河 野 了 筑波大学救急集中治療部 篠 原 子 東京女子医科大学循環器小児科 立 野 滋 千葉県循環器病センター成人先天性 野 村 実 東京女子医科大学麻酔科 萩 原 誠 久 東京女子医科大学循環器内科 池 ノ 上 克 宮崎大学医学部附属病院 越 後 茂 之 えちごクリニック 和 泉 徹 北里大学循環器内科学 八木原 俊 克 国立循環器病研究センター心臓血管外科 中 専攻機能診断科学講座 西 宣 文 国立循環器病研究センター心臓血管内科 籏 義 仁 自治医科大学循環器内科・成人先天 松 田 義 性心疾患センター 雄 東京女子医科大学産婦人科 泰 徳 隆 千葉県循環器病センター成人先天性 心疾患診療部 心疾患診療部 外部評価委員 (構成員の所属は 2010 年 8 月現在) 目 次 Ⅰ.改訂にあたって……………………………………………… 2 9.望ましい施設基準:心疾患の重症度と管理施設 …… 27 Ⅱ.総 論………………………………………………………… 3 Ⅲ.基礎心疾患別の病態………………………………………… 28 1.妊娠・分娩の循環生理:妊娠・出産における母体の 変化 ……………………………………………………… 3 2.妊娠前の検査項目 ……………………………………… 5 3.妊娠カウンセリング …………………………………… 6 4.母体経過観察基準 ……………………………………… 17 5.妊娠中の循環動態評価 ………………………………… 18 6.胎児評価法 ……………………………………………… 19 7.感染性心内膜炎 ………………………………………… 21 8.妊娠中の薬物療法 ……………………………………… 25 1.先天性心疾患 …………………………………………… 28 2.肺高血圧症 ……………………………………………… 35 3.弁膜症 …………………………………………………… 38 4.大動脈疾患 ……………………………………………… 43 5.心筋症 …………………………………………………… 46 6.不整脈 …………………………………………………… 48 7.虚血性心疾患 …………………………………………… 51 8.心不全(共通の病態として) ………………………… 53 9.高血圧症 ………………………………………………… 54 1 循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2009 年度合同研究班報告) Ⅳ.産科的管理の注意点………………………………………… 55 1.避妊法(各論) ………………………………………… 55 2.母体の循環病態が胎児に与える影響 ………………… 57 3.妊娠継続可否の判断 …………………………………… 58 4.子宮収縮のコントロール ……………………………… 58 5.分娩法の選択 …………………………………………… 60 6.分娩時の麻酔 …………………………………………… 61 Ⅴ.母体の治療と注意点………………………………………… 64 1.抗不整脈治療 …………………………………………… 64 2.抗心不全治療 …………………………………………… 66 3.侵襲的な治療 …………………………………………… 69 Ⅵ.将来的な研究の方向性……………………………………… 70 Ⅶ.妊娠・出産の手引き………………………………………… 71 文献………………………………………………………………… 74 (無断転載を禁ずる) 整脈治療などが行われ,妊娠・出産が可能になる例が多 Ⅰ 改訂にあたって くなっている.これらを受けて,2005 年に「心疾患患 者の妊娠・出産の適応,管理に関するガイドライン」が 公表された 4). 欧米ではこれまでに心疾患の妊娠・出産に関するいく 2 医療の発達の恩恵により,心疾患の予後は著明に改善 つかのガイドライン 5)-10),単行書 11)-16)が発刊されてい している.これに伴い,妊娠可能な心疾患女性の数は年々 る.一方,日本では,心疾患女性の妊娠・出産に関する 増加している.我が国では,心疾患女性の妊娠が総妊娠 専門家は非常に少なく,この分野に関する成書 17),18)も 数の 0.5 〜 1 %に相当し,不整脈などを含めれば,その 少ない.このため,妊娠・出産が可能であるにもかかわ 割合は 2 〜 3%程度までに高まる .また,新生児医療 らず,避妊を勧められたり,妊娠・出産が非常に危険で の進歩に伴い,早期産児の生存率と予後が飛躍的に改善 あるにもかかわらず,妊娠して重大な合併症を生じたり した.このため,妊娠後期の母体の循環への負荷が大き することもみられていた.また,妊娠・出産に際して, く,合併症が予想される場合は,妊娠を中断して分娩に 適切なカウンセリングや治療を受けられない場合も少な 移行することも可能となっている.最近は,妊娠・出産 くなかった.この点から,2005 年のガイドラインは有 の高年齢化がみられているが,心疾患の女性は一般女性 用であり,広く用いられてきたと考えられる.また,最 と比べて挙児希望が強いことが多く,若い年齢で結婚す 近公表された,米国心臓病学会(American College of ることも少なくない 3). Cardiology:ACC) お よ び 米 国 心 臓 協 会(American 妊娠中は,体液循環の負荷のみならず,血液学的,呼 Heart Association:AHA)の成人先天性心疾患ガイドラ 吸機能的,内分泌学的,自律神経学的な変化を来たし, イ ン 6), さ ら に, カ ナ ダ 心 臓 血 管 学 会(Canadian 心拍出量と心拍数の増加,不整脈の増加,凝固能の亢進, Cardiovascular Society:CCS)の成人先天性心疾患ガイ 大動脈中膜弾性線維の断裂と大動脈拡張が生じる.また, ドライン 7)-10)も,妊娠・出産に関して詳しく述べている. 出産時は,陣痛,出血,出産直後の静脈還流増加など, また,心疾患女性の妊娠・出産に関するデータも,徐々 急激な循環動態変化が起こる.この他,出産に対する精 に 蓄 積 さ れ て き て い る 19). ま た, 欧 州 心 臓 病 学 会 神的ストレスも少なくない.母体治療薬は,胎児先天異 (European Society of Cardiology:ESC),日本成人先天 常を生じることがある.さらに,育児による疲労や不眠 性心疾患研究会を中心として,心疾患の妊娠・出産の登 も母体へ大きな影響を及ぼす.このため,心疾患の中に 録制度が始まり,データの集積が行われている 20).5 年 は,妊娠・出産がハイリスクと考えられる疾患がある. 前と比べて,これらの動向を取り入れたガイドラインの 心疾患の妊娠・出産に関しては,疾患の種類や循環動 作成が望まれ,今回の日本循環器学会ガイドラインの部 態が多彩であるため,従来から多数例での報告が少なか 分改訂版が企画された. った.また,手術管理の進歩により,最近の 20 〜 30 年 今回のガイドラインでは,前回のガイドライン作成に で救命されるようになった複合型先天性心疾患 貢献された班員の約 1/3 が交代した.また,部分改訂と (complex congenital heart disease)が,妊娠年齢を迎え いうこと もあ り,多く の項 目や記 載内 容は,前回の るようになってきている.循環動態の異常のために,出 2005 年のガイドラインを踏襲している.しかし,前回 産が難しいとされていた修復術後疾患でも,再手術や不 のガイドライン公表後に報告された論文のデータを可能 1),2) 心疾患患者の妊娠・出産の適応、管理に関するガイドライン な限り取り入れ,updated な内容にすることを心掛けた. が不十分で,専門家も少ない分野であり,倫理的な問題 特に,産科的な内容,それぞれの疾患各論に関しては, から前方視的な研究はほとんど行われていない.したが 新しいデータの報告が少なくないため,大きく改訂した って,ランク付けが困難なことが多いため,必ずしもす 項目もある.また,総論の新たな項目として,「心理社 べての項目において記載されているわけではない. 会的問題」 (「妊娠カウンセリング」の第 6 項),「妊娠中 の循環動態評価」 「妊娠中の薬物療法」を加えた.また, , 新しい試みとして,「将来的な研究の方向性」に関する 項目をガイドラインに加え,現時点での問題点と今後の Ⅱ 総 論 研究の方向性を概観した.さらに,診療の際の便宜を考 慮して,診療のチェックリストや,患者さん用のパンフ レットとして利用可能な表を掲載した,「妊娠と出産の 1 妊娠・分娩の循環生理:妊娠・ 出産における母体の変化 1 循環動態の変化(図 1) 手引き」をガイドラインの末尾に加えた. これまでに述べてきたように,一つひとつの疾患単位 では妊娠・出産数が少なく,また,対照を設けた研究が 倫理的に行いにくいために,臨床経験的な研究がほとん どを占めている.したがって,証拠のレベルは,経験者 心疾患を有する女性の妊娠・出産を考える上で,通常 の合意に基づく場合が多い.今回は,前回に比べて,個々 の妊娠・出産における循環動態の変動を理解することが の症例の蓄積がやや進んでおり,経験的ではあるが,臨 重要である 21),22).妊娠・出産における循環動態の変化は, 床に即した改訂が行われたものと考えている.しかしな 単に体液循環の変化のみによって引き起こされるもので がら,本ガイドラインの内容は,心疾患女性の,妊娠前, はなく,血液学的変化,呼吸機能の変化,内分泌学的変 妊娠中,出産時,産褥期の管理に主眼が置かれ,出産後 化,自律神経学的な変化の影響も受ける.通常の妊娠・ の問題点(授乳・育児が母体の心疾患に与える影響,妊 出産では,これらの変化は巧妙なバランスをとりながら 娠・出産が心疾患の長期予後に与える影響,次回妊娠の 維持されている.すなわち,変化の起こる時期,変化の 見通しなど)に関しては,データの蓄積が少ないために, 程度,変化が最大となる時期,最大変化を来たしたとき ごく最小限の記載にとどまっている.これらの問題点に の母体側の反応性などによって,さまざまな適応過程を ついても,今後の研究の発展によって明らかになってい とっている 23)-28). くことを期待したい. 妊娠では,コルチゾール,エストロゲン,アルドステ それぞれの手技・治療法に関する,「証拠のレベル」 ロンなどの増加に伴い,ナトリウム貯留が起こるため, と「推奨の程度」は,ACC/AHA のガイドラインの記載 循環血漿量は妊娠 4 週頃から増加し始め,妊娠 10 週頃 法に従った(表 1,2) .しかしながら,いまだにデータ より増加傾向が顕著となる.その後は妊娠 32 週頃には 表 1 証拠のレベル Level A 複数の無作為介入臨床試験やメタ分析で実証された もの Level B 単一の無作為介入臨床試験や,無作為介入でない臨 床試験で実証されたもの Level C 専門家の意見,ケース・スタディ,標準的治療など で意見が一致したもの 最大となり,正期に至るまでほぼ一定か,緩やかに増加 する.単胎の場合,通常,循環血漿量は妊娠前の 40 〜 50%増加する 29)-32).この循環血漿量の増加は,腎尿細 管でのナトリウム再吸収亢進を伴う,体内の総ナトリウ ム量の増大によって引き起こされる.心拍数は妊娠経過 とともに増加し,妊娠 32 週前後でピークに達し,妊娠 前の約 20%程度の増加を示す.1 回拍出量は妊娠前期か 表 2 推奨の程度 ら上昇し,妊娠 20 〜 24 週でピークとなる.これらの変 有用性・有効性が証明されているか,見解が広く 一致している Class Ⅱ 有用性・有効性に関するデータあるいは見解が一 致していない場合がある Ⅱ a データ・見解から有用・有効である可能性が高い Ⅱ b データ・見解から有用性・有効性がそれほど確立 されていない Class Ⅲ 有用・有効でなく,時に有害と証明されているか, 否定的見解が広く一致している 化に伴って,心拍出量も妊娠 20 〜 24 週にかけて妊娠前 Class Ⅰ の 30 〜 50 % ま で 増 加 し, そ の 後 は 一 定 の 値 を 保 つ 31)-34).一方,妊娠の経過に伴って,大動脈圧および 全身血管抵抗は低下する.特に子宮,乳房,腎臓などへ の血流が増加するため,拡張期血圧が低下する.妊娠後 期には増大した子宮による下大静脈の圧迫により,仰臥 位で低血圧を引き起こすことがある.肺動脈圧は,肺血 3 循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2009 年度合同研究班報告) 図 1 妊娠に伴う循環動態の変化(文献 29 より改変) 120 100 115 90 110 105 80 100 70 95 90 60 85 50 80 pre 4 8 A 心拍数(beats/min) 4 8 (W) 8 12 16 20 24 28 32 36 post B 血圧(mmHg) (W) 1500 1400 7 1300 6 1200 1100 5 1000 900 4 800 3 700 2 600 pre 4 8 12 16 20 24 28 32 36 post C 心拍出量(L/min) (W) pre 4 8 12 16 20 24 28 32 36 post D 体血管抵抗(dyne・sec・cm−5) (W) 流量の増大にもかかわらず,肺血管抵抗の低下により一 子宮収縮によって,循環血液量が 300 〜 500mL 増加する. 定を保つ.妊娠中の心機能は,これら前負荷と後負荷の これらによって,心拍出量は 15 〜 25%増加し,一過性 影響を大きく受けているが,通常,その変化に的確に適 に心拍数や血圧は上昇する 21),22).仰臥位では,増大し 応している 4 pre 12 16 20 24 28 32 36 post 31)-36) . た子宮が腹部大動脈と下大静脈を圧迫するため,多少と 分娩中の循環動態は,体位,分娩様式,陣痛,麻酔の もリスクのある心疾患合併妊婦の陣痛管理には左側臥位 程度などから大きく影響を受ける.陣痛に伴う痛み刺激 が好ましい.分娩進行時の怒責は,循環動態の急激な変 により,交感神経系の緊張が亢進し,心筋収縮力,全身 化の原因となるため,少なくとも NYHA 分類Ⅱ度以上 血管抵抗,静脈還流量が増大する.さらに,陣痛に伴う の妊婦は,硬膜外麻酔などの麻酔分娩の適応とされてい 心疾患患者の妊娠・出産の適応、管理に関するガイドライン る 23)-26). 費量の増加を上回る心拍出量の増加による動静脈酸素分 分娩時の母体出血量は経腟分娩で 500mL 程度(帝王 圧較差の低下によって,動脈血酸素分圧は上昇する.呼 切開では約 2 倍)であり,妊娠中にもたらされた循環血 吸数の増加と二酸化炭素分圧の低下は,腎臓での重炭酸 漿量の増大で補われる範囲である.分娩直後は子宮によ の排出を促進させ,代償性呼吸性アルカローシスとして る下大静脈の圧迫が解除され,急激な静脈還流の増加が 血中 pH は正常域に維持される.妊娠後期には労作時の 起こる.分娩直後一過性に増加した心拍数や血圧は,児 分時換気量と酸素消費量は最大となるが,予備呼吸量は の娩出後 10 分程度で元のレベルに戻る.増加していた 維持されるため,労作が制限されることはない.動脈血 心拍出量は,分娩後 1 時間以内に 10 〜 20 %低下する. 酸素分圧は肺胞レベルの換気量増加によって上昇する. 妊娠中に増加した循環血漿量のため,分娩後は一過性に 一方,動脈血二酸化炭素分圧は低下し,胎盤レベルでの 容量負荷の状態を来たす.分娩後に循環動態が正常化す 胎児から母体への二酸化炭素の移動を促進させる 21)-23). るまでには約 4 〜 6 週間かかるといわれている 21),22) .こ れらの急性変化は分娩直後の心機能にも影響を及ぼす可 能性がある 35),36). 血管壁の変化 妊娠中にはエストロゲンやエラスターゼの影響で血管 壁の構造にも明らかな変化が生じ,その脆弱性が増す. 血液学的変化 2 4 大動脈壁の中膜には,細網線維の断裂,酸性ムコ多糖類 妊娠前期から中期にかけて,赤血球容量の増加以上に の減少,弾性線維配列の変化,平滑筋細胞の増殖と過形 循環血漿量が増加するため,ヘモグロビン値やヘマトク 成が認められる.これらの変化により,妊娠中の大動脈 リット値が低下し,相対的貧血状態となる.腎臓でのエ 径は軽度増加し,動脈壁のコンプライアンスも上昇する. リスロポエチン産生亢進によって増加した赤血球は,よ 一方,これらの変化は大動脈壁の脆弱性を増すため,上 り厚く球状に変化し,胎盤の通過に適した形態へと変化 行大動脈拡大を伴う Marfan 症候群などでは,大動脈解 する .白血球数は好中球を主体に増加し,平均 9,000 21) 〜 11,000/mm となり,妊娠末期には 18,000/mm 程度ま 3 離を引き起こす危険性がある 39)-41). 3 で上昇することがある.分娩時には平均 13,000/mm3 で 2 妊娠前の検査項目 ある.血小板数は軽度減少することがあるが,正常値以 下まで低下することはない.妊娠後期には,血漿フィブ 妊娠年齢の心疾患女性が,妊娠・出産時の変化に十分 リ ノ ー ゲ ン,von Willebrand 因 子, 第 V,V Ⅱ,V Ⅲ, に適応できるかどうか,妊娠前に予測する必要がある. IX,X,X Ⅱ因子が増加し活性化される.このため,妊 肺動脈圧,心室機能,大動脈径,チアノーゼ,NYHA 娠中は,血栓・塞栓症のリスクが高くなる 21),22),37),38). 心機能分類などを把握することは,母体・胎児の合併症 このことは,血栓症のリスクのある患者や,血栓形成に を予測する上で重要である.これらの評価を行うための より重大な合併症(脳塞栓など)を起こすリスクのある 妊娠前検査には,病歴,診察,胸部X線,心電図,心臓 患者では,特に注意が必要である. 超音波検査などが含まれる.必要であれば,心臓カテー 3 呼吸機能の変化 テル検査も行う.心機能の予備能が低下していると考え られる場合(NYHA 分類Ⅱ度以上の場合,NYHA 分類 妊娠中の呼吸生理機能は,母体の呼吸状態および胎盤 Ⅰ度でも左室駆出率が低下している場合,NYHA 分類 における母体と胎児間のガス交換を反映する.妊娠の進 Ⅰ度の大動脈弁狭窄の場合など)は,運動負荷テストを 行に伴い胸式呼吸から腹式呼吸へと変化する.予備吸気 行う.運動負荷テストは,妊娠後期と同様の循環動態に 量,1 回換気量,肺活量は増加するが,予備呼気量,残 対応できるかを判定できるため,心機能の予備能の客観 気量は減少する.安静呼気時の肺容量(機能的残気量)は, 的評価法として有用である 42),43).不整脈を認める場合 妊娠子宮による横隔膜の上昇により低下する.一方,吸 は,Holter 心電図を行う.また,大動脈拡張を生じやす 気容量は増加するため全肺気量はほとんど変化しない. い疾患(Marfan 症候群など)で,大動脈の評価が十分 妊娠中の内分泌学的変化により末梢気管支は拡張する でない場合は,心臓 MRI 検査や心臓 CT 検査などを行 が,主気管支の拡張性が変化することはない.妊娠前期 う 44).これらの検査所見を組み合わせて,妊娠リスクを より,プロゲステロンの呼吸中枢に対する直接作用とし 予測し,患者と妊娠について十分に話し合うことが重要 て分時換気量を増加させ,妊娠末期にかけて増加してい である.(「妊娠中の循環動態評価」参照) く酸素消費量に対応する.呼吸数の増加,および酸素消 5 循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2009 年度合同研究班報告) 3 妊娠カウンセリング ③ 育児 / 社会生活 / 保険 心疾患女性は,出産後に心不全や不整脈などを併発し 心疾患の男女共通の問題点 1 たり,心臓の状態が悪化したりすることがある.このた め,出産後しばらくの間,育児を行うことが難しい場合 心疾患患者の妊娠・出産時の問題点,安全性などにつ がある.中等症以上の心疾患を持つ女性の場合は,出産 いて,妊娠前にカウンセリングを行うことが望まし 年齢は 30 歳代よりも 20 歳代の方が,また出産回数が少 .妊娠前カウンセリングは,妊娠可能年齢であ ない方が,より妊娠・出産に耐えられる 46).心疾患男性 る思春期以降,結婚前,妊娠前などに行う.カウンセリ の場合も,中等症以上では,育児参加が十分にできない ングの内容は,妊娠・出産の母体リスク,胎児リスク, 場合がある.さらに,再手術,心不全,不整脈などによ 遺伝,将来的展望(患者の寿命,家族環境,経済的自立, る治療や入院も,加齢により増加する 53),54).一般家庭 保険など社会心理的展望も含む),性行為,育児などの では,男性が家庭の経済的な負担を担うことが多いため, 問題を含む.先天性心疾患の調査では,既婚率は女性の 育児などの社会的・経済的側面を考慮すると,中等症以 方が男性よりも高い 3).さらに,女性の結婚年齢は,一 上の心疾患男性も,高齢で子どもを持つことは望ましく い 45),46) 3) 般女性と比較すると有意に若い .心疾患患者は,結婚・ ない.また,心疾患がある場合,生命保険や疾病保険に 妊娠後に,比較的早期に疾患が悪化する可能性を考慮し 入れない場合も多い 3),53),55)-57). た結果とされる.男性は,妊娠・出産時のリスクはない が,それ以外の問題点は女性と共通することが多い. ① 性行為,妊娠のしやすさ 重症心疾患であっても,一般と変わらず,男女ともに 性行為は可能である 46) .心疾患を持つ女性の避妊は,性 行為自体が危険だからではなく,妊娠・出産そのものの リスクが高いからである.心疾患患者は,性行為に積極 2 情報提供の原則 心疾患を持つ女性の妊娠に関するカウンセリングのポ イント 45)として,以下の 4 項目が挙げられる. (1)母体のリスク(母体の安全は最重要かつ最優先と することを見失ってはいけない) (2)胎児に対する影響(母体の心疾患に起因する種々 の要因) 的でない場合が多い.この原因の 1 つは,性行為や妊娠・ (3)遺伝 出産に関する適切なカウンセリングを受けていないため (4)実生活と照らし合わせた総合的展望(将来におけ である 47) .先天性心疾患女性は,基本的には一般と比べ, 月経の周期,持続期間,出血量,安定性などに差がみら る母親の予後,寿命ならびに家族全体としての妊娠 環境と将来設計) れない.しかし,先天性心疾患,特に,チアノーゼ性や これらを常に念頭に置いて,まず患者本人に,次に本 外科手術回数の多い先天性心疾患は,月経異常や無月経 人が最も話を聞いてもらいたいと判断される人(夫・パ の頻度が高いとする報告もある 48),49).また,チアノー ートナー,家族など)とともに,何度も繰り返し説明し, ゼが残存する女性は,月経の出血量が多い.非チアノー 確認し,情報を共有する.その他,分娩はいかなる方法 ゼ性先天性心疾患では,妊孕能(妊娠のしやすさ)は一 か,妊娠中はどれくらいの頻度で診察が予定されるか, 47),50) ,Fontan 手術後やチアノ 入院時期はいつ頃か,などの細部にわたる疑問について ーゼ性先天性心疾患では,月経異常と妊孕能の低下が一 も,特に初回妊娠の場合は時間をかけてわかりやすく繰 般的とされている 51),52). り返して説明する.2 回目以降の妊娠では,前回妊娠中 般と同様なことが多いが ② 遺伝 の経過を体験しているために,自己管理の点において患 者の理解を得やすい.しかし,第 1 子の世話に加え,第 心疾患の親子間の繰り返し頻度は,一般頻度と比べる 2 子目の方が楽であるという一般通念に家族ともどもと と高い.母親が心疾患である場合は,父親が心疾患であ らわれた結果,日常生活で無理をしてしまうことが多く, る場合より高い.多くは多因子遺伝形式によるとされて 前回に比べて疲労感や動悸などを強く自覚する傾向があ おり,飲酒や喫煙,向精神薬の内服などの,既知の要因 る.中等度以上のリスクでは, 世間一般の考えとは逆に, の摂取に対する注意喚起も必要である(「妊娠カウンセ 妊娠回数が増えるほど,心機能維持に対するより注意深 リング」─「遺伝カウンセリング」参照). い配慮が必要となることを,家族にも理解してもらう. 心疾患合併妊娠は,小児期から先天性心疾患で経過観 6 心疾患患者の妊娠・出産の適応、管理に関するガイドライン 察中の患児が妊娠年齢に達する場合と,先天性あるいは にわたり,細やかな連携を展開する上での情報発信源と 後天性心疾患が妊娠時に初めて診断される場合とに分け なる必要がある. られる.後者では,結婚の前後になって初めて,妊娠に 本ガイドライン以外に,心疾患合併妊娠に関するリス 関するカウンセリングが行われることが多い.しかしな クの評価や管理などの参考として,次のようなものがあ がら,小児期から経過観察がなされている場合には,妊 る.心疾患患者の妊娠・出産に関するものとして,欧州心 娠可能年齢となる前後の適当な時期に,生活環境や性格 臓病学会(2004年)45)および Spanish Society of Cardiology などを十分配慮した上で,妊娠した場合,避妊する場合, 58) (2000 年) による妊娠ガイドライン,Toronto グループ さらには中絶が必要となった場合などについて,教育を による,母体 NYHA 心機能分類・チアノーゼ・不整脈 始めることが重要である.カウンセリングを開始する時 などを考慮したリスク・スコアを用いた評価法 59)などが 期を明示するのは困難であるが,日本の性的環境を考え ある.成人先天性心疾患の管理ガイドラインでは,カナ ると,例えば,中学校在学中にカウンセリングを開始す 7)-10) ダ心臓血管学会(2009 年) ,米国心臓病学会および る意義は十分にあると考えられる.定期受診の際に,母 米国心臓協会(2008 年)6)によるガイドラインが,妊娠・ 親(あるいは父親)が同伴しているときは,家族皆で考 出産に関して記載している.また,米国弁膜症管理ガイ え,情報を共有することが可能となるため,妊娠に関す 60) ドライン(2006 年) の中にも,妊娠・出産に関する記 るカウンセリングを行う良い機会となる.ただし,重要 載がある.さらに,心疾患患者の妊娠・出産に関する成 なことは,実生活において妊娠は「許可する,しない」 書もいくつか出版されている 14),61),62). という次元の問題ではなく,本人を中心とした世界で決 定される,ということである.この原則を自然に受け入 3 禁忌疾患 / 病態 れた上で,生命の危険を伴うほどのハイリスク妊娠,あ 妊娠の禁忌を考える際に,ニューヨーク心臓協会(New るいはリスクを無視して妊娠を希望する場合など,理想 York Heart Association:NYHA)の心機能分類が用いら 的とはいえない状況でのカウンセリングにも対応する. れることが多い(表 3).比較的安全と考えられている そのためにも,基本路線をガイドラインによって知って NYHA 分類Ⅱ度以下では,妊娠が許容されることが多 おく必要がある.さらに,個々の状況で調整,変則法が いが,それでも死亡例がみられるので,NYHA 心機能 生じることは必然であろう. 分類のみで予後を推定し絶対的な判断を下すことは危険 妊娠後に初めて心疾患が指摘された場合には,心雑音, である.Perloff & Koos は,母体死亡率は NYHA 分類Ⅰ 心電図異常,不整脈などをきっかけに,産科から循環器 〜Ⅱ度で 0.4%,NYHA 分類Ⅲ〜Ⅳ度で 6.8%,胎児死亡 を専門とする医師へと紹介されることが多く,ここから 率は NYHA 分類Ⅳ度で 30%と報告している 63). カウンセリングが開始されることになる.この時点で可 妊娠の際に厳重な注意を要する,あるいは,妊娠を避 及的速やかに,正確な診断をする必要がある.本人,夫・ けることが強く望まれる心疾患・病態としては,表 4 に パートナー,家族らにとって,驚きとショックは大きい 示すものが挙げられる 64)-66).これらでは,母体・胎児 ため,わかりやすい説明を何度も繰り返し行うなどのケ ともに死亡率や罹病率が高く,妊娠を勧めることはでき アを要する.また,心理的なケアも重要である. ない.妊娠が判明した場合,話し合いによって中絶する カウンセリングは,循環器担当医と産科医が中心とな ことが好ましいが,妊娠を継続する場合には,高いリス って進められるが,必要に応じて,心臓血管外科医,麻 クを十分に伝えた上で,厳重な注意を要する. 酔科医,集中治療室担当医,新生児科医ら,さらに可能 であればカウンセラーや看護師の参加協力がなされ,チ ームとして各専門領域からの情報提供や説明,相互理解 が確認されていく.患者も含め,特に専門領域間で情報 を懇切丁寧に交換することは,非常に大切である.循環 器担当医からの情報提供は,基礎心疾患の診断名と循環 動態の現状報告だけでは不十分である.既往手術の術式 と説明,内服薬,予測できる心負荷のパターン,不整脈 とその対処法,長年の経過観察によればこそ把握できる 患者の性格や心理状態,今回の妊娠が今後の心疾患の予 後に与える影響,出産時同時避妊手術に関する検討など 表 3 NYHA(New York Heart Association)の心機能分類 Ⅰ度 心疾患があるが,身体活動に制限なし,通常の労作で 症状なし Ⅱ度 心疾患があり,身体活動が軽度に制限される,通常の 労作で症状あり Ⅲ度 心疾患があり,身体活動が著しく制限される,通常以 下の労作で症状あり Ⅳ度 心疾患があり,すべての身体活動で症状が出現する. 安静時にも症状があり,労作で増強する 7 循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2009 年度合同研究班報告) 表 4 妊娠の際に厳重な注意を要する,あるいは,妊娠を避け ることが強く望まれる心疾患 ◦肺高血圧症(Eisenmenger 症候群) ◦流出路狭窄(大動脈弁高度狭窄平均圧:> 40 ~ 50mmHg) ◦心不全(NYHA 分類Ⅲ - Ⅳ度,左室駆出率< 35 ~ 40%) ◦ Marfan 症候群(上行大動脈拡張期径> 40mm) ◦機械弁 ◦チアノーゼ性心疾患(動脈血酸素飽和度< 85%) (文献 64 〜 66 より引用改変) 避妊法(総論) 4 どちらがより良い状態か. (4)投薬や手術により疾患の状態が改善する可能性が あるか否か. (5)機械弁置換術後などでワルファリンを使用してい るか否か. ④ 社会的な面から考慮する事項 (1)年齢. (2)既婚か未婚か,未婚の場合は定まったパートナー の存在,結婚の予定. ① 原 則 (3)生活の安定性. 成熟女性は誰でも妊娠する可能性がある.成熟してい (4)本人の職業. れば未婚・既婚は問わない.年齢や社会的条件にも左右 (5)生活地域,管理する医療機関との距離. されない.妊娠は許可されて行うものではない.まして, (6)子供の数,将来の希望. 禁止できるものではない. 現在のような個人の価値観の多様性が認知されている 社会において,避妊に関するカウンセリングで最も重要 なことは,母体のリスクによる根拠のみから判断すると 5 遺伝カウンセリング ① 総 論 いうことであり,カウンセリングを行う人あるいは受け 心疾患患者の妊娠を考える際には,心疾患の親子間の る人の個人的観念にとらわれないということである. 繰り返しの可能性など,遺伝学的な知識を正確に伝える 避妊を行うか否か,妊娠・出産を希望するならば,い 必要がある.その意味において,心疾患患者の妊娠・出 つ妊娠をするか,時間的に疾患の治療を先行させるか, 産に関連した,遺伝カウンセリングや遺伝相談の重要性 妊娠・出産を先行させるかなど,以下の項を参照し具体 は増している.一方で,遺伝カウンセリングを行うにあ 的方法を決定する. たっては,対象者本人の自己決定権,わかりやすい十分 67) なお,Thorne らは,心疾患合併の妊娠・出産のリス な説明,未成年者への配慮,得られた情報の守秘義務な クを,4 段階にクラス分類している.また,世界保健機 ど,基本的人権に関与する事態への慎重な対応が強く求 関(WHO)は,ある避妊法が,ある疾患合併女性に対 められる. して適合しているか否かを 4 段階にクラス分類してい 遺伝カウンセリングでは,相談に来る人をクライエン 68) .これらのクラス分類により,どの心疾患の女性に ト,相談に応じる人をカウンセラーと呼ぶ.遺伝カウン 対して,どの避妊法を推奨するかの参考とすることがで セリングは,習熟した専門スタッフ(臨床遺伝専門医が きる. 望ましい)がコメディカルスタッフ(遺伝カウンセラー) る ② 避妊方法の選択 と共同して行う.カウンセリングの内容が,単なる遺伝 医学情報の提供にとどまらず,クライエントの立場に立 永久不妊法として,卵管結紮による永久不妊術がある. った,問題解決の援助,心理的な対応をする技術,高度 妊娠の可能性を残すものとしては,子宮内避妊器具,低 な倫理的内容と知識なども必要とされるようになり,臨 用量避妊薬,古典的バリア法がある.また,パートナー 床遺伝専門医とは別に,専門職の遺伝カウンセラーの果 の避妊法として,精管結紮による永久不妊術やコンドー たす役割が大きくなった.遺伝カウンセラーは,医師が ム法などがある.それぞれに利点,欠点がある.避妊方 診断を下すことを補助する,再発リスクを評価する,再 法に関する詳細は「避妊法(各論)」に譲る. 発に関する情報を患者がわかる言葉で説明する,患者が ③ 疾患側から考慮する事項 (1)妊娠が危険とされている疾患あるいは状態か否 か. (2)疾患が進行性か慢性的か. 8 (3)現在の状況と将来の予測される状況を比較して, 適切な決断を下して行動がとれるように手助けをする, などの仕事を担当する. 遺伝カウンセリングにおいてはいくつかの重要な注意 点がある.遺伝医学関連 10 学会および研究会の提唱す る「遺伝学的検査に関するガイドライン」69)によると, 「遺 心疾患患者の妊娠・出産の適応、管理に関するガイドライン 伝カウンセリングは,遺伝性疾患の患者・家族またはそ 患性検査などの遺伝学的検査の意味についての情報 の可能性のある人(クライエント)に対して,生活設計 が含まれる.遺伝カウンセリング担当者は,遺伝性 上の選択を自らの意志で決定し行動できるよう臨床遺伝 疾患が同一疾患であっても,その遺伝子変異,臨床 学診断を行い,遺伝医学的判断に基づき遺伝予後等の適 像,予後,治療効果などにおいて異質性に富むこと 切な情報を提供し,支援する医療行為である」とされ, 「遺 が多いことについて,十分留意する必要がある. 伝カウンセリングにおいては,クライエントと遺伝カウ (4)遺伝カウンセリング担当者は,被検者が理解でき ンセリングの担当者との良好な信頼関係に基づき,様々 る平易な言葉を用い,被検者が十分理解しているこ なコミュニケーションが行われ,その過程で心理的精神 とを常に確認しながら,遺伝カウンセリングを進め 的援助がなされる.遺伝カウンセリングは決して一方的 る必要がある.被検者の依頼がある場合,またはそ な遺伝医学的情報提供だけではないことに留意すべきで の必要があると判断される場合は,被検者以外の人 ある」と記載されている.すなわち,遺伝カウンセリン 物の同席を考慮する. グは,あくまでもクライエントの自由意志による相談で (5)遺伝カウンセリングの内容は,一般診療録とは別 あり,カウンセラーが遺伝的側面に関するあらゆる情報 の遺伝カウンセリング記録簿に記載し,一定期間保 を提供することにより,それを参考にしてクライエント 存する. が自己決定することが重要である.この決定は他人から (6)被検者が望んだ場合,被検者が自由意志で決定で 強制されてはならない.また遺伝カウンセリングにおい きるように,遺伝カウンセリングは継続して行うこ ては,クライエントの人権と利益の尊重を最優先課題と とが望ましい.また必要に応じて,臨床心理的,社 し,また得られたクライエント個人の遺伝情報を厳密に 会的支援を含めた,医療 ・ 福祉面での対応について, 守秘する必要がある. 情報提供する必要がある. 遺伝カウンセリングの原則は,遺伝関連 10 学会およ (7)遺伝学的診断結果が,担当医師によって,被検者 び研究会が提案した「遺伝学的検査に関するガイドライ の血縁者にも開示されるような場合には,臨床遺伝 ン(2003)」 に,また,心疾患系疾患における遺伝カウ 専門医の紹介など,その血縁者も遺伝カウンセリン ンセリングの様々な留意点は,日本循環器学会の「心臓 グを受けられるように配慮する. 69) 血管疾患における遺伝学的検査と遺伝カウンセリングに 70) 関するガイドライン (2006)」 に詳細が記載されている. (8)遺伝カウンセリングは,遺伝学的検査の実施後も, 必要に応じて行う. 以下に「遺伝学的検査に関するガイドライン(2003)」 2)目的に応じた遺伝学的検査における留意点 より遺伝学的検査と遺伝カウンセリングの項目を抜粋し ①発症者を対象とする遺伝学的検査 て掲載する. ② 遺伝学的検査と遺伝カウンセリング( 「遺伝学 69) 的検査に関するガイドライン(2003)」 より) 1)遺伝学的検査と遺伝カウンセリングの大原則 (1)遺伝学的検査は,十分な遺伝カウンセリングを行 った後に実施する. (1)遺伝学的検査は,発症者の確定診断を目的として 行われることがある. (2)発症者の確定診断の目的で行われる遺伝学的検査 の場合も,結果的にその情報が,血縁者に影響を与 える可能性があることについて,検査前に十分説明 し,理解を得ておく必要がある. (3)血縁者の発症前診断,易罹患性診断,保因者診断 (2)遺伝カウンセリングは,十分な遺伝医学的知識・ などを行うための情報を得ることを第一の目的とし 経験を持ち,遺伝カウンセリングに習熟した臨床遺 て,既に臨床診断が確定している患者に対して,疾 伝専門医などにより,被検者の心理状態を常に把握 患の原因となっている遺伝子変異などを解析するこ しながら行う必要がある.遺伝カウンセリング担当 とがある.この場合は,得られた情報が適切に血縁 者は,必要に応じて,精神科医,臨床心理専門職, 者に開示されるか,あるいは利用されることによっ 遺伝看護師, ソーシャルワーカーなどの協力を求め, て初めて意味のある遺伝学的検査となること,疾患 チームで行うことが望ましい. の原因となる遺伝子変異が見出されなくても,本人 (3)遺伝カウンセリング担当者は,できる限り正確で 最新の関連情報を被検者に提供するように努める. これには疾患の頻度,自然歴,再発率(遺伝的予後), さらに保因者検査,出生前検査,発症前検査,易罹 の臨床診断に影響しないことを,検査の前に被検者 に十分説明し,理解を得ておく必要がある. ②保因者の判定を目的とする遺伝学的検査 (1)遺伝学的検査は,家系内に常染色体劣性遺伝病や 9 循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2009 年度合同研究班報告) X連鎖劣性遺伝病,染色体不均衡型構造異常の患者 (2)有効な治療法および予防法が確立されていない疾 がいる場合,当事者が保因者であるかどうかを明ら 患の発症前検査は,前項の要件がすべて満たされて かにし,将来,子孫が同じ遺伝病に罹患する可能性 いる場合に限り,かつ当該疾患の専門医・臨床遺伝 を予測するための保因者検査として行われることが 専門医・精神医学専門医などを含む複数の医師によ ある. り,可能な限り,臨床心理専門職・看護師・ソーシ (2)保因者検査を行うにあたっては,被検者に対して, その検査が直接本人の健康管理に役立つ情報を得る 目的のものではなく,将来の生殖行動に役立つ可能 性のある情報を得るために行われるものであること を十分に説明し,理解を得る必要がある. (3)将来の自由意思の保護という観点から,小児に対 する保因者診断は基本的に行わないことが望まし い. ンセリングを行った上で,実施の可否を慎重に決定 する. b.易罹患性検査 (1)多因子疾患などに関する易罹患性検査を行う場合 には,検査の感度,特異度,陽性・陰性結果の正診 率などが十分なレベルにあることを確認する. (2)易罹患性検査に際しては,担当医師は,遺伝子 (4)保因者検査を行う場合には,担当医師および関係 (DNA)変異が同定されても,その発症は疾患によ 者は,診断の結果明らかになる遺伝的特徴に基づい り一様ではなく浸透率や罹患性に対する効果(寄与 て,被検者およびその血縁者ならびに家族が社会的 率)などに依存すること,また,検査目標とする遺 な差別を受ける可能性について十分に配慮する. 伝子に変異が見出されない場合であっても発症する ③発症予測を目的とする遺伝学的検査 (1)発症を予測する遺伝学的検査には,単一遺伝子の 変異でほぼ完全に発症を予測することのできる発症 前検査と,多因子疾患の罹患性の程度もしくは罹病 リスクを予測する易罹患性検査がある. (2)発症予測を目的とする遺伝学的検査の対象者は, 可能性が否定できないことなどについて,被検者に 十分に説明し,理解を求める. c.家族性腫瘍に関する検査 (1)易罹患性検査のうち,家族性腫瘍に関する検査に 関しては,関連遺伝子の多様性に配慮した,慎重な 対応をする. 一般に健常者であるため,厳格なプライバシーの保 (2)家族性腫瘍の易罹患性検査に関しては,本ガイド 護および適切な心理的援助が措置される必要があ ラインに加えて,家族性腫瘍研究会の「家族性腫瘍 る.特に就学,雇用および昇進,ならびに保険加入 における遺伝子診断の研究とこれを応用した診療に などに際して,差別を受けることのないように配慮 する. a.発症前検査 (1)有効な治療法および予防法の確立されていない疾 関するガイドライン」に準拠する. (3)家族性腫瘍の易罹患性検査を行うにあたっては, 検査の感度,特異度,陽性・陰性結果の正診率など が十分なレベルにあることを確認する. 患の発症前検査においては,以下のすべての要件が ④薬物に対する反応性の個体差を判定することを目的と 満たされない限り,行わない. する遺伝学的検査 ◦被検者は判断能力のある成人であり,被検者が 自発的に発症前検査を希望していること. 薬物代謝酵素の遺伝子多型検査による薬剤感受性診断 は,直接治療に役立て得る情報であり,有用性が高いと ◦同一家系内の罹患者の遺伝子変異が判明してい 考えられるが,この情報が社会的差別などに誤用される るなど,遺伝学的検査によって確実に診断でき ことのないよう,他の目的の遺伝学的検査と同様の注意 ること. が必要である. ◦被検者は当該疾患の遺伝形式,臨床的特徴,遺 ⑤出生前検査と出生前診断 伝学的検査法の詳細についてよく理解してお (1)妊娠前半期に行なわれる出生前検査および診断に り,検査の結果が陽性であった場合の将来設計 は,羊水,絨毛,その他の胎児試料などを用いた細 について熟慮していること. 胞遺伝学的,遺伝生化学的,分子遺伝学的,細胞・ ◦遺伝学的検査後, 結果が陽性であった場合には, 発症後においても,臨床心理的・社会的支援を 含むケアおよび治療を行う医療機関が利用でき ること. 10 ャルワーカーなどの協力を得て,複数回の遺伝カウ 病理学的方法,および超音波検査などを用いた物理 学的方法などがある. (2)出生前検査および診断として遺伝学的検査および 診断を行うにあたっては,倫理的および社会的問題 心疾患患者の妊娠・出産の適応、管理に関するガイドライン を包含していることに留意し,特に以下の点に注意 して実施する. ◦胎児が罹患児である可能性(リスク),検査法の 診断限界,母体・胎児に対する危険性,副作用な ③ 先天性心血管疾患 1)遺伝的要因 71) 旧厚生省班研究の全国調査(1986 年) では,日本に どについて検査前によく説明し,十分な遺伝カウ おける先天性心血管疾患の発生頻度は生産児の 1.06%で ンセリングを行うこと. あり,新生児死亡の原因となる先天性疾患の中では最も ◦検査の実施は,十分な基礎的研修を行い,安全か 頻度が高い.一方,日本小児循環器学会疫学委員会の調 つ確実な検査技術を習得した産科医により,また 72) 査(2003 年) では,その成因による内訳は,染色体異 はその指導の下に行われること. 常(Down 症候群,Turner 症候群,22q11.2 欠失症候群, (3)絨毛採取,羊水穿刺など,侵襲的な出生前検査・ Williams 症候群など,8.2%)や遺伝子病(Noonan 症候群, 診断は,下記のような場合の妊娠について夫婦から Holt-Oram 症候群,Marfan 症候群,遺伝性 QT 延長症候 の希望があり,検査の意義について十分な理解が得 群など,4.7 %)などの遺伝要因によるものが全体の約 られた場合に行う. 12.9 %,母体の全身疾患,胎内感染,催奇形因子など, ◦夫婦のいずれかが,染色体異常の保因者である場 環境(外的)要因によるものが 0.5 %であり,残りの 合. ◦染色体異常症に罹患した児を妊娠,分娩した既往 86.7 %は成因不明の多因子遺伝(多くの先天性心疾患, 特発性肺高血圧症,特発性心筋症など)によると報告さ を有する場合. れている.多因子遺伝とは,個人の遺伝的素因(遺伝子 ◦高齢妊娠の場合 . 異常)と環境(外的)因子との相互関係によって疾患が ◦妊婦が新生児期もしくは小児期に発症する重篤な 発生するものを指す.すなわち,純粋にメンデル遺伝の X連鎖遺伝病のヘテロ接合体の場合 . みで説明できる先天性心血管疾患は一部であり,大半は ◦夫婦のいずれもが,新生児期もしくは小児期に発 胎内での形態形成,生後の発達・発育,加齢に伴う環境 症する重篤な常染色体劣性遺伝病のヘテロ接合体 要因によって疾患遺伝子の関与の程度が左右され,表現 の場合 . 形の多様性と深くかかわっていることが明らかになって ◦夫婦のいずれかが,新生児期もしくは小児期に発 きた 73)-76).一方,近年のゲノム医学ならび遺伝子改変 症する重篤な常染色体優性遺伝病のヘテロ接合体 マウスを用いた発生工学の目覚ましい発展により,多く の場合 . の遺伝性先天性心血管疾患の責任遺伝子が明らかになっ ◦その他,胎児が重篤な疾患に罹患する可能性のあ る場合. (4)重篤なX連鎖遺伝病のために検査が行われる場合 を除き,胎児の性別を告げない. (5)出生前診断技術の精度管理については,常にその 向上に努める. てきた.その代表的な疾患と表現型および疾患遺伝子を 表 5 に掲載する 73)-75),77),78).各疾患の臨床像や妊娠・出 産における問題点に関しては,本ガイドライン後半の各 論の項を参照されたい.また,先天性心血管疾患におけ る遺伝的要因に関する詳細は,American Heart Associa- tion Congenital Cardiac Defects Committee より出された (6)母体血清マーカー検査の取り扱いに関しては,厚 声明 78),およびボストン小児病院より出されているホー 生科学審議会先端医療技術評価部会出生前診断に関 ム ペ ー ジ Congenital Cardiovascular Genetics Program 77) する専門委員会による「母体血清マーカー検査に関 を参照されたい. する見解」,日本人類遺伝学会倫理審議委員会によ 2)環境要因 る「母体血清マーカー検査に関する見解」,および また先天性心血管疾患の成因には,遺伝子異常のみな 日本産科婦人科学会周産期委員会による報告「母体 らず,妊娠中の胎児および母体の環境要因も重要であ 血清マーカー検査に関する見解について」を十分に る 79).妊婦の喫煙は児の心室中隔欠損症,Fallot 四徴症, 尊重して施行する. 心房中隔欠損症,完全大血管転位症の発症の危険因子で (7)着床前検査および診断は極めて高度な知識・技術 あることが,また妊婦の飲酒は中枢神経系の障害を伴う を要する,いまだ研究段階にある遺伝学的検査を用 胎児性アルコール症候群とともに,Fallot 四徴症,心房 いた医療技術であり,倫理的側面からもより慎重に 中隔欠損症,完全大血管転位症の発症と関連することが 取り扱う.実施に際しては,日本産科婦人科学会会 報告されている 72),80).また,母体が妊娠早期に風疹ウ 告「着床前診断に関する見解」に準拠する. イルスに感染すると,先天性風疹症候群として,先天性 11 循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2009 年度合同研究班報告) 表 5-1 代表的な遺伝性および染色体異常による先天性心血管疾患 疾患名 Alagille 症候群 心血管系異常 心血管系以外の表現型 疾患遺伝子,変異蛋白 遺伝子座 20p12 末梢性肺動脈狭窄,肺動脈弁狭 胆汁うっ滞,顔貌異常,精神発 JAG1(jagged-1) 1p12 窄,Fallot 四徴症,心室中隔欠損, 達遅滞,腎形成不全,眼異常, NOTCH2 心房中隔欠損,大動脈狭窄,大 蝶型脊椎 動脈縮窄 Barth 症候群 拡張型心筋症,左室緻密化障害 神経筋異常,白血球減少,ミト TAZ(Tafazzin) Xq28 コンドリア代謝異常,精神発達 遅滞 Cat-Eye 症候群 左心低形成,総肺脈還流異常, 虹彩裂,鎖肛,耳介変形,小顎症, DGCR duplication 心室中隔欠損,心房中隔欠損 腎形成異常 22q11.1 8q12.1 CHARGE 連合 Fallot 四 徴 症, 房 室 中 隔 欠 損, 虹彩欠失,後鼻孔閉鎖,発達遅 CHD7 7q21.11 Ebstein 病,完全大血管転位 滞,腎形成異常,性器低形成, SEMA3E 耳介変形,難聴,食道気管瘻 Trisomy 21 Down 症候群 房室中隔欠損,心室中隔欠損, 顔貌異常,成長発達遅滞,十二 Multiple 心房中隔欠損,鎖骨下動脈起始 指腸閉鎖,鎖肛,気管軟化症, 異常 難聴,甲状腺機能低下,筋緊張 低下,白血病 Duchenne 型 筋 ジ 心筋症,刺激伝導系障害,僧帽 進行性骨格筋萎縮 DMD(Dystrophin) Xp21.2 ストロフィー 弁逸脱 Trisomy 18 トリソミー 18 心室中隔欠損,動脈管開存,大 子宮内発育遅延,羊水過多,臍 Multiple 動脈二尖弁,肺動脈二尖弁 帯動脈異常,顔貌異常,精神運 動発達遅滞,指の重なり,筋緊 張低下 Ehlers-Danlos 症 候 僧帽弁逸脱,三尖弁逸脱 大動脈 皮膚の脆弱性,皮膚関節過伸展, COL5A1,A2(Ⅰ,Ⅱ 9q34.2-q34.3, 群 拡大,脳動脈瘤,心房中隔欠損 皮下出血,青色強膜,気胸 型) 2q31 COL3A1(Ⅳ型) 2q31 1p36.3 PLOD(Ⅳ型) 4p16 Ellis-Van Creveld 巨大心房中隔欠損,房室中隔欠 四肢短縮,多指症,爪低形成, EVC 症候群 損 骨盤異形成 Fabry 病 心筋虚血,心筋梗塞,僧帽弁閉 四肢疼痛,知覚異常,被角血管 GAL(α-galactosidase) Xq22.1 鎖不全,左室肥大,心筋症,不 腫,低汗症,腎不全,脳血管障害, 整脈,うっ血性心不全 角膜混濁,白内障,便秘,食道 アカラシア,難聴 Friedrich 失調症 心筋症,刺激伝導系障害 進行性失調,筋緊張低下 FRDA(Frataxin) 9q13 Unknown Goldenhar 症候群 心 室 中 隔 欠 損, 動 脈 管 開 存, 顔面非対称,脊椎異常,小耳症, Unknown Fallot 四 徴 症, 大 動 脈 縮 窄, 心 下顎形成不全,難聴,眼球結膜 房中隔欠損 類上皮腫 内臓錯位症候群 単心房,単心室,共通房室弁口, Kartagener 症 候 群: 男 性 不 妊, ZIC3,LEFTY2,CFC1, Xq26.2, 肺動脈閉鎖,大血管転位,房室 内臓逆位,気管支拡張症,難聴 ACVR2B 3p22-p21.3, 中隔欠損,刺激伝導系障害 1q42.1,2q21.1 Ivemark 症候群:無脾症 / 多脾症 Holt-Oram 症候群 心房中隔欠損,心室中隔欠損, 橈骨系統異常(拇指異常,第 2 TBX5 刺激伝導系障害(洞性徐脈,房 ~第 5 指異常) ,上肢低形成 室ブロック) ホモシステイン尿 血栓塞栓症,大動脈拡大 先天代謝異常,精神発達遅滞, MTHFR 症 骨格異常(高身長, 四肢指伸長) , 水晶体偏位,精神障害,血栓塞 栓症,骨粗鬆症 Hurler 症候群 心筋症,房室弁および半月弁閉 先天代謝異常,特異的顔貌,進 IDUA(Alpha-L鎖不全 行性骨異形成,発達遅滞,角膜 Iduronidase) 混濁,難聴,成長障害,脊柱側彎, 多毛症,肝脾腫 Jacobsen 症候群 左心低形成,心房中隔欠損,心 精神運動発達遅滞,顔貌異常, BARX2 室中隔欠損 足指関節の変形(槌趾症候群) KCNQ1 J e r v e l l - L a n g e - QT 延長症候群 難聴 KCNE1 Nielsen 症候群 12 12q24.1 1p36.3 4p16.3 Deletion 11q25 11p15.5 21q22.1-q22.2 心疾患患者の妊娠・出産の適応、管理に関するガイドライン 表 5-2 代表的な遺伝性および染色体異常による先天性心血管疾患 疾患名 Kabuki 症候群 LEOPARD 症候群 Marfan 症候群 Leigh 脳症,NARP 症候群 MERRF 症候群 筋緊張性ジストロ フィー Noonan 症候群 骨形成不全 トリソミー 13 Pompe 病 Rubinstein-Taybi 症 候群 Treacher-Collins 症 候群 結節性硬化症 Turner 症候群 VACTERL 連合 22q11.2 欠失症候 群 Williams 症候群 心血管系異常 大動脈縮窄,大動脈二尖弁,僧 帽弁逸脱,心室中隔欠損,肺動 脈狭窄,大動脈狭窄,僧帽弁狭 窄,Fallot 四 徴 症, 単 心 室, 両 大血管右室起始,大血管転位 肺動脈狭窄,房室ブロック,肥 大型心筋症 心血管系以外の表現型 疾患遺伝子,変異蛋白 遺伝子座 Sporadic 顔貌異常,精神運動発達遅滞, Unknown 皮膚紋理異常,骨格異常(脊柱 側彎,股関節形成障害,小指短 縮),難聴 多発性黒子,眼間開離,外陰部 PTPN11,KRAS 異常,精神遅滞,成長障害,難 SOS1,RAF1 聴 大動脈拡大,房室弁閉鎖不全, 高身長,水晶体脱臼,近視,青 FBN1(Fibrillin) 僧帽弁逸脱,大動脈弁輪拡大, 色強膜,脊柱彎曲,漏斗胸,ク TGFBR1,2 解離性大動脈瘤,肺動脈拡張, モ状指,関節の過伸展,長い手 肺動脈弁閉鎖不全 足, 肥大型心筋症 進行性精神運動発達障害,痙攣, mitochrondrial loci 小脳失調,哺乳嚥下障害,筋緊 張低下,視神経萎縮 心筋症 ミオクローヌス,癲癇,小脳失 MTTK 調,筋緊張低下,知的退行,低 身長 刺激伝導系障害,心筋症,僧帽 筋強直,筋変性,白内障,眼瞼 DMPK,ZNF9 弁閉鎖不全 下垂 肺動脈狭窄,肥大型心筋症,心 翼状頚,低身長,発達遅滞,鳩胸, PTPN11,KRAS, 房中隔欠損 漏斗胸,眼瞼下垂,出血傾向, SOS1,RAF1 血小板機能異常 僧帽弁逸脱,大動脈弁閉鎖不全, 骨脆弱性,多発骨折,難聴,青 COL1A1 色強膜,下肢の彎曲変形および COL1A2 大動脈拡大 短縮,成長障害,顔貌異常 心室中隔欠損,動脈管開存,心 精神発達遅滞,全前脳胞症,小 Multiple 房中隔欠損 頭症,前額部傾斜,難聴,耳介 変形,揺り椅子状足底,多指趾 グリコーゲン蓄積による心筋肥 先天性代謝異常,筋力低下,肝 GAA(Lysosomal 大 腫大,巨舌 Alpha-Glucosidase) 多岐の先天性心疾患,左心低形 発達障害,顔貌異常,多毛,眼 CREBBP(CREB-binding 成 瞼裂斜下,眼間開離,上顎低形 protein) 成,前額部突出,低身長,幅広 い母指趾 心室中隔欠損,動脈管開存,心 耳介形成異常,難聴,下顎形成 TCOF1(Treacle 房中隔欠損 不全,頬骨形成不全,脈絡膜欠 protein) 損,両側下眼瞼部欠損,口蓋裂, 後鼻腔閉鎖 心臓腫瘍(横紋筋腫) ,不整脈 腫瘍,痙攣,顔面血管線維種, TSC1(Hamartin) , 白斑,カフェオレ斑,骨硬化, TSC2(Tuberin) 腎形成異常,精神発達遅滞,自 閉症 大動脈縮窄,大動脈二尖弁,左 低身長,翼状頚,盾状胸,毛髪 Multiple 心低形成,心房中隔欠損,心室 線の低位,卵巣形成異常,腎形 中隔欠損 成異常,難聴 心室中隔欠損,心房中隔欠損, 脊柱の異常,鎖肛,気管食道瘻, Numerous loci 動脈管開存 橈骨異形成,四肢の異常,腎泌 尿器の異常 大動脈離断,総動脈幹遺残,肺 円錐動脈幹異常顔貌,鼻咽腔不 TBX1,UFD1L, 動 脈 閉 鎖 を 伴 う Fallot 四 徴 症, 全口蓋裂,胸腺低形成,副甲状 右側大動脈弓,鎖骨下動脈起始 腺機能低下,低カルシウム血症, 異常,心室中隔欠損 易感染性,鎖肛,精神発達遅滞, 精神障害,血小板減少症 大動脈弁上狭窄,肺動脈弁上狭 精神発達遅延,妖精様顔貌,虹 ELN(Elastin) 窄,末梢性肺動脈狭窄,大動脈 彩の放射線模様,高カルシウム 狭窄,肺動脈狭窄,心筋症 血症,不正咬合,視空間認知障 害,関節拘縮,筋緊張亢進,学 習障害,視覚認知障害 12q24.1, 12p12.1 2p22-p21,3p25 15q21.1 9q33-q34, 3p24.1 mitochondrial DNA mitochondrial DNA 19q13.2 3q13.3 12q24.1, 12p12.1, 2p22-p21,3p25 17q21.33 7q21.3 Trisomy 13 17q25 16p13.3 5q32 9q34 16p13.3 Unisomy X(45,X) Unknown del 22q11.2 7q11.23 13 循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2009 年度合同研究班報告) 白内障や先天性難聴とともに心室中隔欠損症,心房中隔 欠損症,肺動脈狭窄症が高率に発症する .血糖値のコ ②特発性心筋症 肥大型心筋症の約 50 %に常染色体性優性遺伝による ントロールが不良な糖尿病の母体からは,肥大型心筋症, 家族歴が認められる 87).ミオシン,アクチン,トロポニ 内臓錯位症候群,房室中隔欠損症,完全大血管転位症な ン,トロポミオシンなどのサルコメア収縮に直接関連す どが発症する 79) .また SLE やシェーグレン症候群に罹 る要素以外にも,タイチンなどの細胞骨格や膜蛋白カベ 患した妊婦では,抗 SSA,抗 SSB 抗体が経胎盤的に移 オリンなどのシグナル伝達物質の異常でも肥大型心筋症 行して児に高度房室ブロックが発症することがあり,治 ) が発症することが明らかとなり 87),88(表 6),筋細胞肥大 療として 1 度房室ブロック段階での母体へのステロイド の原因として筋収縮におけるカルシウム感受性の亢進が 投与が推奨されている 81),82).フェニルケトン尿症では, 考えられている 89).家族性肥大型心筋症では,約 50 % 高フェニルアラニン血症により Fallot 四徴症,心室中隔 に遺伝子異常が明らかにされている.その中では,心筋 欠損症,心房中隔欠損症,大動脈縮窄症,左心低形成症 βミオシン重鎖(MHY7)での変異が約 20 %,心筋ト 候群などが発症する.妊娠前からの低フェニルアラニン ロ ポ ニ ン T(TNNT2) お よ び 心 筋 ミ オ シ ン 結 合 蛋 白 食によるコントロールが必要となる 83).また,胎児に先 (MYBPC3)での変異が各々約 10%であり,これらの 3 天性心血管疾患をもたらす可能性のある薬剤として,ア 種類の家族性肥大型心筋症の主要な原因遺伝子となって ンフェタミン(心室中隔欠損症,動脈管開存症,心房中 いる.その中では,MYH7 および MYBPC3 の変異例で 隔欠損症など),ヒダントイン(肺動脈狭窄症,大動脈 は肥大の程度が強く,TNNT2 の変異例では肥大の程度 狭窄症,大動脈縮窄症など),トリメタジオン(完全大 は軽いが心収縮力の低下し比較的早期より拡張相に移行 血管転位症,Fallot 四徴症,左心低形成症候群など), する.弧発例の肥大型心筋症おいても約 15 %に変異が リチウム(Ebstein 病,三尖弁閉鎖症など)が報告され ) 見つかる 87),88(レベル C). ている 73)-75),79) .妊婦が摂取するビタミンの過不足も先 肥大型心筋症類似の病態を示す疾患として,多くの蓄 天性心血管異常と深い関係がある.ビタミン A の過剰摂 積病の原因遺伝子も明らかになってきた.Pompe 病(α 取は胎児に,心臓流出路障害とともに中枢神経系や口蓋 1,4- グルコシダーゼ欠損),Danon 病(リソゾーム膜蛋 や胸腺の異常を来たす 76),84).妊婦の葉酸摂取が不足す 白欠損症),Fabry 病(αガラクトシダーゼ A 欠損症), ると胎児に心室中隔欠損症などの心血管異常を来たすた AMP 活性化蛋白キナーゼ変異症などでは心肥大がみら め,食品への葉酸の添加もなされている 76),79),85),86).母 れる 87),88),90). 体の有機溶媒への曝露も胎児に房室中隔欠損症,完全大 拡張型心筋症の家族内発症は肥大型心筋症に比べて少 血管転位症,肺動脈狭窄症など様々な先天性心疾患をも なく,約 30 %とされている.原因遺伝子としては,α たらす 79). アクチニン,デスミン,タイチン,ジストロフィンなど, 3)各疾患群にみられる遺伝子異常 心筋細胞骨格や細胞接着分子に変異が認められることが ①先天性心疾患 多いが,肥大型心筋症同様にサルコメア変異も報告され 先天性心疾患の多くは多因子遺伝と考えられており, ) ている 87),88),91(表 6).不整脈原性右室心筋症は,臨床 メンデル遺伝様式には従わないことの方が多い.しかし 的に右心室に期限を有する心室性不整脈を主症状とし, ながら,先天性心疾患を持つ親から生まれる子供たちは 病理組織学的に右心室優位の心筋細胞の変性,脱落と線 先天性心疾患を繰り返す頻度が高く,一般頻度に比べて 維脂肪浸潤の増加を示す疾患である.遺伝子異常として, 3 〜 5 倍と考えられている .この場合,母親が先 約 30 %の症例にプラコフィリン 2(PKP2)が,またそ 天性心疾患の場合,父親が先天性心疾患である場合より の他に,デスモプラキン,プラコグロビン,プラコフィ 頻度は 2 倍以上高い.日本小児循環器学会の全国調査に リン,リアノジン受容体 -2,TGF β 3 などの遺伝子変異 よると,親子間での疾患一致率は,心房中隔欠損症(66.7 ) が報告されている 92),93(レベル C). %)および動脈管開存症(66.7%)が最も高く,次いで ミトコンドリア心筋症は,ミトコンドリアにおけるエ 心室中隔欠損症(47.1%),Fallot 四徴症(28.6%)であ ネルギー産生障害に基づいて引き起こされるミトコンド 72),74),76) 72) .一方,最近の発生生物学ならび遺伝子工学の目覚 リア病の中で,肥大型心筋症,拡張型心筋症,拘束型心 ましい発展により,先天性心疾患の原因となる数多くの 筋症,刺激伝導障害などの多様な心病変を示す代謝性心 遺伝子異常が明らかになってきた.前述の表 5 に原因が 筋症である 95),96).一般にミトコンドリア病では,中枢 明らかになった代表的な遺伝性先天性心血管疾患を示し 神経障害(精神運動発達遅滞,痙攣,意識消失),筋力 る た 14 79) 7),9) . 低下,乳酸アシドーシスなどの全身症状がみられること 心疾患患者の妊娠・出産の適応、管理に関するガイドライン 表 6 遺伝性心筋症の疾患遺伝子 蛋 白 心筋βミオシン重鎖 心筋トロポニン -T α- トロポミオシン 心筋ミオシン結合蛋白 -C 心室型ミオシン必須軽鎖 心室型ミオシン調節軽鎖 心筋トロポニン -I 心筋α- アクチン タイティン 心筋トロポニン -C 心筋α- ミオシン重鎖 筋肉 LIM- ドメイン蛋白 カベオリン -3 メタビンキュリン ジャンクトフィリン -2 オブスキュリン デスミン α- アクチニン サイファー,ZASP ホスフォランバン K-ATP チャネル 心筋 Na チャネル αB クリスタリン FHL2 ラミニンα4 マイオファラディン ジストロフィン ラミン A/C δ - サルコグリカン エメリン タファディン,G4.5 フクチン デスモプラキン プラコグロビン プラコフィリン TGFβ3 リアノジン受容体 -2 デスモグレイン 3 α- ディストロブレビン AMP 活性化プロテインキナーゼ α- ガラクトシダーゼ α1,4- グルコシダーゼ ライソゾーム膜蛋白 2 遺伝子 MYH7 TNNT2 TPM1 MYBPC3 MYL3 MYL2 TNNI3 ACTC TTN TNNC1 MYH6 CSRP3 CAV3 VCL JPH-2 OBSCN DES ACTN2 LDB3 PLB ABCC9 SCN5A CRYAB FHL2 LMNA4 MYPN DMD LMNA SAGD EMD TAZ FKTN DSP JUP PKP2 TGFB3 RYR2 DSG3 DTNA PRKAG2 GALA GAA LAMP2 遺伝様式 AD AD AD AD AD AD AD AD AD AD AD AD AD AD AD AD AD AD AD AD AD AD AD AD AD XR XR AD AD XR XR XR AR AR,AD AD AD AD AD AD AD XR AR XR 主な表現型 肥大型心筋症,拡張型心筋症,拘束型心筋症,左室緻密化障害 肥大型心筋症,拡張型心筋症,拘束型心筋症 肥大型心筋症,拡張型心筋症 肥大型心筋症,拡張型心筋症 肥大型心筋症 肥大型心筋症 肥大型心筋症,拡張型心筋症,拘束型心筋症 肥大型心筋症,拡張型心筋症,左室緻密化障害 肥大型心筋症,拡張型心筋症 肥大型心筋症,拡張型心筋症 肥大型心筋症 肥大型心筋症,拡張型心筋症 肥大型心筋症 肥大型心筋症,拡張型心筋症 肥大型心筋症 肥大型心筋症 拡張型心筋症,拘束型心筋症,ミオパチー 拡張型心筋症 拡張型心筋症,左室緻密化障害 拡張型心筋症,肥大型心筋症 拡張型心筋症 拡張型心筋症 拡張型心筋症,肥大型心筋症 拡張型心筋症 拡張型心筋症 拡張型心筋症 拡張型心筋症,筋ジストロフィー(Duchenne,Becker) 拡張型心筋症,左室緻密化障害,筋ジストロフィー(Emery-Dreifuss) 拡張型心筋症,筋ジストロフィー(limb girdle) 拡張型心筋症 左室緻密化障害,拡張型心筋症,Borth 病 拡張型心筋症 不整脈源性右室心筋症,拡張型心筋症 不整脈源性右室心筋症,拡張型心筋症 不整脈源性右室心筋症 不整脈源性右室心筋症 不整脈源性右室心筋症 不整脈源性右室心筋症 左室緻密化障害 肥大型心筋症,WPW 症候群 Fabry 病 Pompe 病 Danon 病 AD:常染色体優性遺伝,AR:常染色体劣性遺伝,XR:X 染色体劣性遺伝 がある.ミトコンドリア心筋症は母系遺伝を示すことが する遺伝的情報を説明する必要がある. 多く,無症状の母方家族に変異が検出されることがあり, ③遺伝性不整脈 遺伝学的な配慮が必要である. 突然死の原因となる遺伝性 QT 延長症候群,カテコラ これらすべての遺伝性心筋疾患においては,妊娠に伴 ミン誘発多形性心室頻拍,Brugada 症候群,進行性心臓 う循環動態の変化により生じる母体および児へのリスク 伝導障害,家族性洞機能不全症候群,家族性心房細動, を十分に説明するとともに,児への疾患の繰り返しに関 QT 短縮症候群などにおいて,遺伝子変異が明らかとな 15 循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2009 年度合同研究班報告) ) っている 96)-98(表 7) . 遺伝性不整脈疾患の内服治療の詳細および植込み型除 QT 延長症候群は,基礎疾患がみられずに心電図上 QT 細動器の適応については,日本循環器学会「QT 延長症 間隔が延長し,心室頻拍や心室細動から失神および突然 候群(先天性・二次性)と Brugada 症候群の診療に関す 死に至る可能性のある疾患群である.現在までに,カリ るガイドライン(2007 年)」102)を参照されたい. ウムおよびナトリウムチャネル遺伝子を中心として, これらすべての遺伝性不整脈疾患においても,妊娠に LQT1-LQT12 まで分類されており,300 以上の遺伝子異 伴う母体および児へのリスクを十分に説明するととも 常が報告されている .その内訳は,LQT1 (約 40%), 97)-99) に,児への疾患の繰り返しに関する遺伝的情報をカウン LQT2(約 30 〜 40%),LQT3(約 10%)とされており, セリングする必要がある. LQT1 〜 LQT3 で全体の約 90 %を占める.一般に LQT1 ④その他の先天性心血管疾患 は運動中や水泳中に,LQT2 では睡眠中の聴覚刺激(目 22q11.2 欠 失 症 候 群,Marfan 症 候 群,Loeys-Dietz 症 覚まし時計など)により,LQT3 では安静時および睡眠 候群,Ehlers-Danlos 症候群,原発性肺高血圧症,Eisen- 中に心事故を起こす. menger 症候群,先天性心疾患術後遺残病変,Fontan 手 Brugada 症候群は,右側胸部誘導心電図(V1-V3)に 術後などにおいては,妊娠・出産に際して生じる母体の て 右 脚 ブ ロ ッ ク 様 の 心 電 図 波 形 と 特 徴 的 な ST 上 昇 循環動態の変化に伴い,母親と胎児の厳重な管理が必要 (coved 型または saddle back 型)を伴う,中年男性に多 である.また,児への疾患の繰り返しに関する遺伝的情 い特発性心室細動の症候群である.責任遺伝子としてナ トリウムチャネルαサブユニット(SCN5A)の異常が 15 〜 25%に報告されている 100). 報を説明する必要がある. 6 心理社会的問題 カテコラミン誘発多形性心室頻拍は,学童や青年期に 妊娠の際には内分泌学的変化が起こり,たとえ正常妊 おいて運動や交感神経の刺激に伴い心室頻拍から失神や 娠であっても,妊娠・出産や母親になること,子育てに 突然死を来たす症候群であり,心筋細胞小胞体のリアノ 対する不安などが生じることが多い.また,出産後は, ジン受容体(RyR2)の遺伝子異常が報告されている 101) . いわゆるマタニティブルーや,産後うつと呼ばれるうつ 状態など,精神的な動揺を来たすことも多い 103). 表 7 不整脈疾患にみられる遺伝子異常 Romano-Ward 症候群 KCNQ1 LQT1 KCNH2 LQT2 10.5 LQT3 Ankyrin-B LQT4 KCNE1 LQT5 KCNE2 LQT6 KCNJ2 LQT7 CACNA1C LQT8 CAV3 LQT9 SCN4B LQT10 AKAP-9 LQT11 SNTA1 LQT12 Jervell & Lange-Nielsen 症候群 KCNQ1( homozygous) JLN1 KCNE1( homozygous) JLN2 Brugada 症候群 SCN5A BrS1 CACNA1C BrS2 CACNB2 BrS3 GPD1-L BrS4 SCN1B BrS5 KCNE3 BrS6 カテコラミン誘発性多形性心室頻拍 RyR2 RyR2 16 先天性心疾患では,疾患による症状,合併症,繰り返 す入院・手術などの身体的制約や社会適応障害,家族・ 11p15.5 7q35-36 3p21-23 4q25-27 21q22.1-q22.2 21q22.1-q22.2 17q23.1 12p13.3 3p25 11q23.3 7q21-q22 20q11.2 11p15.5 21q22.1-q22.2 3p21-24 12p13.3 10p12.33 3p21 19q13.1 11q13-q14 1q42–q43 生育歴などが原因と思われる不安や抑うつを持ちやす い 104).また,その不安や抑うつを不定愁訴や身体症状 に転換している場合もある.周産期にはこれらの症状が 悪化しやすく,さらに心疾患の女性は健康な女性以上に 妊娠・出産に対する願望が強いため 105),妊娠が及ぼす 自身の健康へのリスクや遺伝的リスクへの不安を感じて いることが多い 106). 「実生活において妊娠は『許可する・しない』という 次元の問題ではなく,本人を中心とした世界で決定され ることである.この原則を自然に受け入れたうえで,生 命の危険を伴うほどのハイリスク妊娠,あるいはリスク を無視して妊娠を希望する場合等,理想的とはいえない 状況でのカウンセリングにも対応しなくてはならない」 と前回ガイドラインに述べられている 4).これは,実際 に思春期・青年期の心疾患患者において,自身の疾患や 病状,妊娠リスク,避妊,遺伝的リスクの情報などの認 知度が低い 107)ことも原因であるが,個人の価値観や道 徳的規範などにかかわる倫理観などの影響も受けている ためと考えられる 108).また,妊娠前に妊娠のリスクに ついて主治医や家族との話し合いやその受容が行われて 心疾患患者の妊娠・出産の適応、管理に関するガイドライン いないことが多いのも現状である 109). あり,妊娠 27 〜 28 週頃から増加する場合や,妊娠 35 週 上記の周産期における抑うつや不安の予防には,思春 前後で増加する場合などがある.不整脈は,分娩時の警 期・青年期において,心疾患(病名,治療法,身体制限 戒に貴重な情報となるため,Holter 心電図は妊娠中に何 の有無,通院の必要性),避妊,性行動,社会的サポー 度か施行することが推奨される.心臓超音波検査は,第 トなどに関する正確な情報伝達と教育が必要である 107). 1 回目を妊娠前あるいは妊娠判明後すぐに,第 2 回目は さらに,妊娠,出産,遺伝リスクなどに関する情報伝達 妊娠 26 〜 28 週頃に施行し,ここで早期の分娩待機入院 も必要である.妊娠前より抑うつや不安などの症状のあ の予定時期を概ね計画する.そして,入院後の第 3 回目 る患者では,早期の精神療法や薬物投与を行うことによ 検査は,安全で適切な分娩日(帝王切開術の場合も)を り,症状の改善を図る必要がある.これは,周産期にな 予測あるいは決定するための情報とする.ハイリスク妊 ってからこのような症状を生じた場合も同様である.妊 娠では,入院安静を続けても母体体重コントロールの限 娠初期・後期・産後の心理状態の違いにより,介入方法 界となり,息切れなどの明らかな心不全症状が出現する が異なる場合もある 108).また,妊娠中に入院が長引い 直前で,なおかつ胎児の発育停止となるポイントを妊娠 たり,出産後の育児不安が生じた場合など,周産期を通 終了・出産のときとする.このポイントを逃さぬよう, して身体的・精神的負担を軽減させるために,家族や地 しかも事前に予測するために,心臓超音波検査をより頻 域のサポートなどの環境調整も有用である. 回に行う.このポイントは胸部 X 線検査での心拡大が最 4 母体経過観察基準 終的に一段階進行する頃に相当するが,心臓超音波・胸 部 X 線検査の両者と診察所見を総合的に判断して,分娩 時期を決める.脳性ナトリウム利尿ペプチド(BNP)値 心疾患合併妊娠では,妊娠に伴う母体の循環動態の変 の増加は,特に中等度以上のリスクにおける経過観察に 化が,心機能に影響を及ぼす可能性が高く,結果として 役立つが,分娩時期を決定する具体的な値はない. 母児の罹病率が高くなり,場合により死亡することもあ 循環器担当医は,心疾患の重症度にかかわらず,妊娠 る.したがって,産科医,循環器を専門とする医師,麻 が判明した時点で心臓超音波検査などによる心形態およ 酔科医,看護師を中心とするチームによる継続的な観察 び心機能の評価を速やかに行い,産科担当医にこの時点 が必要である 110) .観察するポイントとしては,不整脈, での状態を説明し,分娩前後も含めた妊娠経過観察時の 心不全,血栓症などが主なものである 111). 注意点について情報提供する必要がある.不整脈は,妊 合併症を持たない妊婦の定期健診スケジュールは,お 娠経過中に出現または悪化する場合があるので,妊娠の およそ妊娠 11 週末までに 3 回程度,12 週から 23 週末ま 早期に Holter 心電図検査を施行しておくと,後の不整脈 では 4 週ごと,24 週から 35 週末までは 2 週ごと,それ以 出現・増加時との比較が明瞭となる.胸部 X 線検査は, 降 40 週末までは 1 週ごとが標準的なものとされている. 放射線被曝による催奇形性のリスクの低くなる妊娠 12 これを基本として循環器担当医は,個々の心疾患の重症 週以降であれば可能であるが,一般的には必要と判断さ 度,すなわち妊娠のリスクレベルに準じた経過観察のス れる場合に限り,妊娠 16 週以降に行われている.特に ケジュールを組み立てていく.例えば,手術未施行の心 ハイリスク妊娠で帝王切開術を施行する場合には,前日 室中隔欠損症(小欠損孔)のように,妊娠継続に伴い心 に仰臥位の胸部 X 線検査を行っておくと,術後撮影分と 不全徴候を生じるとは考えにくい軽症の心疾患の場合 の比較がしやすい.心臓 CT 検査や心臓 MRI 検査は,胎 は,必ずしも妊婦健診ごとに循環器外来も受診する必要 児へ危険が及ぶ可能性を考慮して,診療上必要不可欠な はない.一般に重症度が高まるほど,健診時には両科を 場合にのみ,十分な説明をした上で施行することが望ま 同日受診するかたちが多くなり,情報の交換を密に行う しい(「妊娠中の循環動態評価」参照). ことが必要となる.例えば,Rastelli 術後で中等度の肺 原則として,病態の変化がとらえられたら,回数を増 動脈狭窄と重度の肺動脈弁逆流があり,右室拡大・三尖 やして 1 〜 2 週に 1 回の健診とするが,心機能低下や心 弁逆流が著明で,心室性期外収縮が頻発するような,右 不全徴候がみられた場合には,ただちに入院安静とし, 室容量負荷の影響が通常よりも早期に出現する条件の場 必要に応じて治療を追加する. 合には,妊娠 22 週頃から 2 週おきの観察が望ましい. 管理上の注意点は,体重の増加量を理想的なものにし 妊娠 30 〜 31 週頃からの早期の分娩待機管理入院となる て,肥満による心負荷の増大を防ぐことであり,軽度で と,毎週の循環器担当医による診察が必要となる.不整 も心不全状態にある場合には塩分制限が推奨されてい 脈の増加は心不全の悪化に伴い顕著になるが,個人差が る.さらに,感染や妊娠高血圧症候群が心不全の誘因と 17 循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2009 年度合同研究班報告) なるので注意が必要である.産科的,循環器的評価だけ は,入院管理とともに頻回の超音波検査による肺高血圧 でなく,コントロールに注意を要する結合組織病(膠原 の評価が必要である. 病)などを合併している場合は,外来通院の際の総合的 産褥期には心機能が低下する場合もあり,再度の循環 な評価が困難であれば,入院して経過を観察しながら慎 動態評価が必要となる.産科の 1 か月健診は全員が受診 重な管理方針の決定をすることが望ましい. するため,検査を施行する良い機会である.妊娠・分娩 5 による心血管系への生理的な影響は半年程度続くと報告 妊娠中の循環動態評価 されている 116)ため,重症度に応じて半年間は定期的な 経過観察が必要である.さらに,長期的な心機能予後に 妊娠・出産に伴う循環動態の変化に対して,母体心臓 関してはほとんど知られていないが,妊娠・分娩の影響 の適応可否を見極めるためには,妊娠産褥を通じ,経過 だけでなく,授乳も含めた育児行為が心負荷となり得る 中複数回にわたって循環動態の評価を行うことが望まし ため,重症例では分娩後半年以降も循環動態評価を含め い. た経過観察が必要である. 1 心臓超音波検査 2 妊娠中の循環動態を評価する上で,非侵襲的かつ情報 量の多い心臓超音波検査は非常に有用である 112) .妊娠 心臓 MRI 検査 放射線被曝がないという点で,妊娠中の心臓 MRI 検 査は,安全度が高いと考えられる.右心系の評価や,複 による循環動態の変化に伴い,通常の妊娠においても, 合型先天性心疾患・術後症例などでは,心臓超音波検査 心臓超音波検査上の各指標は変化する.左室径は拡張末 による評価が困難な場合があるが,心臓 MRI 検査はこ 期,収縮末期ともに数 mm 程度増加し,壁厚も 1 〜 2mm のような場合であっても,心室容積や循環動態の評価に 増加するため,左室心筋重量は増加する 30).また,左室 有用と考えられる.従来は,胎児異常の精査のために 短縮率や駆出率などの左室収縮能が不変あるいは増加す MRI 検査が頻用されてきたが,MRI 検査の胎児への危 る一方,拡張能においては,妊娠後期には僧帽弁通過血 険性(熱・騒音・磁場などの影響)の詳細についてはわ 流速度の E 波(拡張早期波)の減高と A 波(心房収縮期 かっていないため,診療上必要な場合にのみ施行するこ 波)の増高を認め,拡張能の指標である E/A の低下が観 とが望ましい 117). 察されている 35) .他にも,弁輪拡大と機能的な僧帽弁, 三尖弁,肺動脈弁逆流や,少量の心嚢液貯留は,通常の 3 心臓カテーテル検査,心臓 CT 検査 妊娠においてもしばしば観察される 113).また,下大静 放射線被曝の問題から,診療上施行することが有益と 脈は妊娠子宮の増大に伴って圧迫され,妊娠後期には右 判断した場合にのみ施行する.胎児線量が 100mGy 未満 房流入部位において血管径が縮小していることが多い. では,被曝による胎児の発達遅滞,中枢神経系障害,先 心血管疾患合併妊娠においては,妊娠直前あるいは妊 天異常のリスクの増大などは,現在のところ認められて 娠による循環変化がまだ軽微である妊娠初期に,最初の いないため,妊娠中絶の正当な理由とならない 118).診 アセスメントを行うことが望ましい.低 – 中等度リスク 断手法から受けるおおよその胎児線量を表 8 に示す 119). 患者の場合,心負荷が最大に近づく妊娠中期後半(26 腹部への放射線照射をできる限り減らすために,腹部遮 〜 28 週)に再検し,改めて循環動態の評価を行う 蔽や,カテーテルアプローチを大腿動脈ではなく橈骨動 114) . 評価項目としては,体循環心室の機能,弁や流出路狭窄 脈にするなどの工夫が必要である. の有無と程度,三尖弁逆流や肺動脈弁逆流から推定され る肺高血圧の有無や程度,心拍出量などの一般的な評価 項目と,機械弁合併妊娠における弁の評価や,Marfan 症候群における上行大動脈径の測定などの,個々の疾患 に応じた評価項目が挙げられる. ハイリスク患者や,自他覚症状の出現を認めた場合な どにおいては,必要に応じてさらに頻回のアセスメント が必要である.上行大動脈径が 40mm 以上の Marfan 症 候群の患者では,1 〜 2 週間ごとに超音波検査による大 動脈径の測定が望ましいとされ 115),肺高血圧症患者で 18 表 8 通常の診断手法から受けるおおよその胎児線量 検 査 従来型 X 線検査 腹 部 骨 盤 胸 部 CT 検査 腹 部 骨 盤 胸 部 頭 部 平均(mGy) 最大(mGy) 1.4 4.2 1.4 4 < 0.01 < 0.01 8 49 25 79 0.06 0.96 < 0.005 < 0.005 (文献 119 より引用改変) 心疾患患者の妊娠・出産の適応、管理に関するガイドライン 6 胎児評価法 図 2 胎児心拍数モニタリングによる胎児評価法 A Reactive NST(正常) 子宮内胎児の well-being の評価法として,胎児心拍数 モニタリングによる Non Stress Test(NST),超音波断 層法を用いた Biophysical profile(BPP),さらに胎児超 音波ドプラ法による血流計測などがある. 1 ) 9) 胎児心拍数モニタリング 120)-122(表 現在,胎児心拍数モニタリングによる胎児評価法とし Non Stress Test(NST)と, て広く用いられているものは, Contraction Stress Test(CST)である. NST は子宮収縮がない状態で,胎児の一過性頻脈の 有無をみるものである.心拍数基線は,迷走神経支配の 発達に伴い,妊娠の経過とともに下降するが,正常は 110 〜 160bpm である.心拍数基線が 15bpm 以上上昇し, 15 秒間以上持続することを一過性頻脈という.一過性 B Non-reactive NST(異常) 頻脈が 20分間に2回以上みられる場合は正常で, 「reactive NST」と呼び,胎児の well-being は良好であると判断す る. 逆 に,2 回 以 上 み ら れ な い 場 合 を「non-reactive NST」と呼び,異常とする(図 2). CST は分娩中と同じ頻度の子宮収縮を薬物負荷や乳 頭刺激で起こし,胎児の遅発一過性徐脈出現の有無をみ るものである.つまり,子宮収縮というストレスを胎児 に与えることにより,胎児予備能を評価しようとする検 査法である.検査の適応は子宮胎盤循環不全が予想され るハイリスク妊娠,すなわち糖尿病,妊娠高血圧症候群, 過期妊娠,子宮内胎児発育不全などである.CST の判 定は,陽性(positive),陰性(negative),陽性でも陰性 で も な い(equivocal)[ 過 強 陣 痛(hyperstimulation), 疑陽性(suspicious)],不成功(unsatisfactory)の 4 つに 表 9 胎児心拍数図の用語および定義(日本産科婦人科学会 2003) ◦心拍数基線──正常脈 110 ~ 160bpm 分けられる.10 分以内に子宮収縮が 3 回あり,遅発一過 ◦一過性徐脈──分類の基準 持続時間 2 分未満 心拍数減少の開始から最下点までの時間 30 秒未満: 変動一過性徐脈(15bpm 以上の心拍数低下,15 秒~ 2 分持続) 30 秒以上: 早発一過性徐脈(一過性徐脈の最下点と子宮収縮 の最強点が一致) 遅発一過性徐脈(一過性徐脈の最下点が子宮収縮 の最強点から遅れる) 持続時間 2 分以上 遷延一過性徐脈(15bpm 以上の心拍数低下,2 分 から 10 分持続) で,「positive CST」と呼び,異常とする(図 3).一方, 性徐脈が全子宮収縮の半数以上にみられる場合が陽性 10 分以内に子宮収縮が 3 回あり,遅発一過性徐脈がない 場合を陰性として「negative CST」と呼び,99%の確率 で胎児が 1 週間生存できるといわれている(図 4).この 場合には 1 週間おきに分娩まで繰り返し施行すれば,児 の安全を保証できることになる.陽性でも陰性でもない (equivocal)とき,あるいは不成功(unsatisfactory)の ときは翌日再検査とする. 19 循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2009 年度合同研究班報告) 2 計点により胎児の状態を評価するが,4 点以下が異常と 超音波断層法 123),124) 定義されている(表 10). 超音波断層法を用いて Biophysical profile(BPP)を BPP には,急性期と慢性期のマーカーが混在している. 観 察 す る. こ れ は 呼 吸 様 運 動, 胎 動, 筋 緊 張,Non 例えば,NST における一過性頻脈の消失,呼吸様運動 Stress Test(NST),羊水量の 5 項目からなるスコアリン と胎動の減少,筋緊張低下などの変化は,急性期の変化 グシステムである.正常を 2,異常を 0 として,その合 と考えられる.これに対して羊水量の減少は,慢性的な 低酸素状態時の血流再分配機構により,腎臓への血流が 図 3 positive CST(異常) :遅発一過性徐脈 減少した結果,尿量の低下を来たすことで引き起こされ ると解されている. 羊水量の簡単な評価法に Amniotic Fluid Index(AFI) がある.これは,超音波プローブを母体の長軸に沿って 垂直に置き,子宮が 4 分割された場所でのそれぞれの羊 水深度の和を cm で表したものである.AFI が 5cm 以下 の場合を羊水過小と判定し,この場合は,胎児の状態が 悪く帝王切開となる症例や,Apgar Score や臍帯動脈血 pH の低値を示す症例が増加することが知られている. この AFI と NST を組み合わせた胎児評価法は,modified biophysical profile(modified BPP)と呼ばれ,どちらも よければそのまま経過観察,一方が悪ければ一段階上の 検査法(Contraction Stress Test あるいは BPP),そして 図 4 negative CST(正常) 表 10 Biophysical profile(BPP)の判定基準 Biophysical variable 正常(スコア = 2) 異常(スコア = 0) 胎児呼吸様運動(FBM) 30 秒以上の FBM が 30 分間に 1 回以上 30 秒以上の FBM を 30 分間で認めない 胎動(FM) 明瞭な躯幹 / 四肢の運動が 30 分間に 3 回以上(連続 躯幹 / 四肢の運動が 30 分間に 2 回以下 運動は 1 回と数える) 胎児筋緊張(FT) 躯幹 / 四肢の伸展とそれに引き続く屈曲が 30 分間に 弱い四肢の伸展位で屈位に回復しない,胎動消失, 1 回以上か,手掌の開閉運動が 1 回以上 手掌が一部開いたまま Non Stress Test(NST) 胎動に伴う一過性頻脈(15bpm 以上,15 秒以上) 一過性頻脈が 20 分間で 1 回以下か,15bpm 未満の が 20 分間で 2 回以上 とき 羊水量(AFV) 垂直断面像で 2cm 以上の羊水ポケットが認められる 羊水ポケットがないか,2cm 未満のとき (Manning FA,et al. Am J Obstet Gynecol 1980;136:787-795 より) 20 心疾患患者の妊娠・出産の適応、管理に関するガイドライン どちらも悪ければ分娩を考慮するというアルゴリズム は欧米と比較して明らかに低い.したがって,両親,特 で,広く用いられるようになってきた. に母親が先天性心疾患を有する場合は,先天性心疾患の 3 超音波ドプラ血流計測 125) ドプラ血流計測による胎児血流動態の評価法は,周産 期領域では,超音波入射角による補正を必要としないイ ハイリスク群として,十分精通した検査者による胎児心 スクリーニングが望ましい. ② 観察の時期 ンデックスを用いた波形分析が行われている.代表的な 一般的な超音波診断装置において,妊娠 18 週以降は イ ン デ ッ ク ス と し て,S/D ratio,Resistance index, 胎児心スクリーニングが可能とされている.それ以前は Pulsatility index が知られているが,どのインデックスに スクリーニングが困難な場合がある 126)-128).妊娠 20 週 も優劣はなく,いずれも末梢血管床の血管抵抗を代表す 台前半は胎児心臓の観察が最も容易な時期である.一方, るとされる.すなわち,血管抵抗が増大すれば拡張末期 半月弁の狭窄性疾患や房室弁の逆流性疾患では,妊娠後 の血流が流れにくくなり,これらの値が増大する.拡張 期に心臓の形態異常が明らかになってくることがあるた 期血流の途絶や逆流が観察される場合には,予後不良な め,妊娠 30 週以降に再検することが望ましい.妊娠 35 周産期事象が多くみられる.波形分析において考慮すべ 週を過ぎると胎児心臓の詳細な観察は難しくなる. き因子に,胎児心拍数や呼吸様運動をはじめとする biophysical activity や測定部位などが挙げられる. 4 ③ 観察のポイント 四腔断面のみの観察では診断率が 50 %以下にとどま 胎児評価法の限界 るため,ハイリスク群に対して胎児心スクリーニングを 前述およびその他各種胎児評価法の普及は,周産期死 行う場合は,両親の心疾患の内容にかかわらず,心臓全 亡の減少に大きく貢献してきたが,適切な運用にあたっ 体の精査が必要である.実際の検査手順の詳細について ては,陰性的中率は高いが陽性的中率は低く,偽陽性が は,日本胎児心臓病研究会が作成した「胎児心エコー検 多いという限界と問題点を理解しておく必要がある. 129) 査ガイドライン」 などを参照されたい.ハイリスク群 Non Stress Test(NST),Contraction Stress Test(CST), のスクリーニングでは,多くの心臓基本断面の観察が必 Biophysical profile(BPP)にて児の状態良好と判定した 要になるが,その一部の基本断面について以下に示す(図 にもかかわらず,児死亡に至るのは,各々 1.9 〜 6.45, 5). 0.3,0.65%と報告されている 5 123) . 胎児心疾患のスクリーニング (1)腹部断面:胃泡の位置,下行大動脈および下大静 脈などの観察. (2)四 腔 断 面: 心 尖 部 の 向 き, 心 臓 の 大 き さ(total cardiac dimension:TCD, cardio thoracic area ratio: 両親のどちらかが心疾患を有する場合,胎児が心疾患 を持つ危険性は明らかに増加するため(「妊娠カウンセ CTAR),心内形態(心房・心室の左右のバランス, リング」-「遺伝カウンセリング」参照),先天性心疾患 中隔の形態,房室弁の形態,心室壁の厚さ),房室 弁逆流,肺静脈の形態と流速などの観察. のハイリスク群として胎児心臓超音波検査によるスクリ ーニングの適応と考えられている.ただし,我が国にお (3)流出路─三血管断面:2 本の大血管の血管分岐,血 いて母体の保護を目的とした中期中絶が認められる胎児 管関係,大きさなどの観察. の週齢は妊娠 22 週未満である.これ以前では,胎児心 なお,胎児心疾患を有する場合は不整脈や心外異常を 疾患の診断の結果,妊娠を継続するか否かが重要な問題 合併する率が高く,これらの合併疾患によっては,児の となることがあり,検査前に十分な説明と同意を得るこ 予後が大きく左右される可能性もあるため,心形態以外 とが極めて重要となる. の観察も必要である 130). ① 検査施行者 7 感染性心内膜炎 1 概 要 胎児心臓超音波検査に十分精通した検査者(産科医, 小児科医,または技師)が,スクリーニングを施行する のが望ましい.現在我が国で施行されている一般産科超 音波検査ではレベルが不均一であり,スクリーニング体 感染性心内膜炎の発症には 2 つの要因が関与する.心 制が確立されていないため,先天性心疾患の胎児診断率 臓もしくは血管に感染しやすい部分があることと,菌血 21 循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2009 年度合同研究班報告) 図 5 正常の胎児心臓超音波検査図シェーマ 主肺動脈 上行大動脈 上大静脈 左 左 右室 左室 右房 左房 下行大動脈 下行大動脈 A 四腔断面像 B 三血管断面像 A: 四腔断面像:心臓が胸郭やや左に存在し,心尖部は左側を向く.心断面積は胸郭断面積の約 1/3 を占める.左右の心房心室は同等の大きさである. B: 三血管断面像:左前から右後ろにかけて,ほぼ一直線上に並ぶ 3 本の血管の断面が描出される. 血管径は左前から,大,中,小の順番である. 症を生ずる感染源の存在である.易感染病変は,高速血 流のジェット衝撃の加わる部分,乱流,ずり速度の速い 部分である.感染リスクのある心疾患は,日本循環器学 会(2008 年改訂),米国心臓協会(AHA,2007 年改訂), 欧州心臓病学会(ESC,2009 年改訂)の感染性心内膜 炎のガイドラインなどで広く報告されている 131)-134). 具体的には,心内膜炎の既往,チアノーゼ性先天性心疾 患,大動脈肺動脈吻合術後,人工弁などの,合併症発生 率や死亡率が高い疾患群である.一方,心室中隔欠損症 や,僧帽弁逆流の合併した僧帽弁逸脱症などの,比較的 軽症の疾患群は,AHA の最新のガイドライン(2007 年 改訂)以降は,感染性心内膜炎のハイリスク疾患から除 外されることとなったが 132),これらの疾患は,女性に も頻度が高く,心内膜炎発症後の死亡率は決して低くは ない.そこで,日本循環器学会のガイドライン(2008 年改訂)では,術後 6 か月以降の心房中隔欠損症や動脈 管開存症などを除く,ほとんどの先天性心疾患を,感染 ) 性心内膜炎の予防措置の必要な疾患としている 131(レベ ル B)(表 11).あえて感染性心内膜炎の予防のための 抗菌薬投与が必要ないとされる心疾患を別の表に示す 1) (表 12).一方,菌血症の感染源は,泌尿生殖器,分娩, 出産,血管内留置カテーテルあるいは外科手術であ ) る 131(レベル B).また,菌血症は,流産,会陰切開な どを伴う経腟分娩,帝王切開などで起こる. 2 頻 度 心内膜炎が妊娠中あるいは出産後に発生することは少 22 表 11 歯 口科手技に際して感染性心内膜炎の感染予防を必要 とする心疾患 Class Ⅰ 特に重篤な感染性心内膜炎を引き起こす可能性が高く,予防 が必要であると考えられる心疾患 ◦生体弁,同種弁を含む人工弁置換後 ◦感染性心内膜炎の既往 ◦複雑性チアノーゼ性先天性心疾患(未手術,姑息術,修 復術後) ◦体肺短絡術後 Class Ⅱ a 感染性心内膜炎を引き起こす可能性が高く,予防が必要であ ると考えられる心疾患 ◦多くの未修復先天性心疾患,術後遺残病変のある先天性 心疾患 ◦後天性弁膜症 ◦閉塞性肥大型心筋症 ◦弁逆流を伴う僧帽弁逸脱 Class Ⅱ b 感染性心内膜炎を引き起こす可能性が必ずしも高いと証明さ れていないが,予防を行う妥当性が否定できない心疾患 ◦人工ペースメーカあるいは植込み型除細動器(ICD)植 込み術後 ◦長期にわたる中心静脈カテーテル留置 (文献 131 より引用改変) 表 12 感 染性心内膜炎の予防のための抗菌薬投与が不要とさ れる心疾患 ◦心房中隔欠損症(二次口型) ◦修復手術後 6 か月以上経過して,遺残短絡のない以下の疾 患(心室中隔欠損症,動脈管開存症,心房中隔欠損症) ◦冠動脈バイパス術後 ◦僧帽弁逸脱症(逆流のないもの) ◦生理的あるいは機能的心雑音 ◦川崎病またはリウマチ熱の既往(弁機能不全を伴わないも の) (文献 131 より引用改変) 心疾患患者の妊娠・出産の適応、管理に関するガイドライン ない 135).早期診断が重要であるが,妊娠中の循環血液 感染が疑われる経膣分娩に対しては,抗菌薬投与を推奨 量増加のため,心内膜炎による心不全,頻拍,動悸など している.日本循環器学会のガイドライン(2008 年改訂) の症状がマスクされることと,発生頻度が低いために, においても,分娩や産科的手術・手技の際の,感染性心 診断が遅れることが多い 45).我が国の先天性心疾患を対 内膜炎予防を目的とした抗菌薬投与は推奨されていない 象とした全国調査 136),137) では,妊娠・出産に合併した心 が,合併症予防の観点から適切な抗菌薬予防を行うこと 内膜炎の発生は認めていない.しかし,心疾患全体を対 ) を否定してはいない 131(表 13). 象とした全国調査では,産科的処置後の心内膜炎をわず 一方で,経腟分娩後の菌血症の頻度は 0 〜 5%と低い かながら認めた 3 138) が 45),ハイリスク心疾患では,感染を起こした場合の重 . 大性と抗菌薬の費用を比較した場合,抗菌薬投与を否定 予後,治療 ) する根拠はない 45),132)-134(レベル C).また,ハイリスク 妊娠中あるいは出産後早期の心内膜炎は,母体・胎児 以外の疾患も含む,日本の先天性心疾患に関する心内膜 ともにリスクは高いと考えられるが,母体死亡率は非妊 炎の調査での死亡率は 8.8%であり,決して低い値では 娠時と同様である 45),134),139) .心内膜炎は,先天性心疾患 における母体死亡の主要原因の 1 つである 140) なかった 137),142).AHA ガイドライン(2008 年改訂)132) .抗生物 とその後の議論でも指摘されているが,抗菌薬投与のリ 質治療は,非妊娠時と同様に,起因菌の抗生物質感受性 スクとされる抗菌薬アレルギーはほとんど認められてい に応じて使用する 141) .妊娠中は,薬剤の胎児移行や催 ない. 奇形性を考慮する必要がある 45).連鎖球菌感染が多いた 成人先天性心疾患に関する AHA の最近のガイドライ め,起因菌不明の場合は,アンピシリン(8 〜 10g/ 日を ン 6)では,ハイリスク群の妊娠の際には,抗菌薬予防を 4 〜 6 回に分割投与)とゲンタマイシン(60mg あるいは 推奨しており,教科書 143),144)でも同様の推奨がされてい 1mg/kg/ 日を 2 〜 3 回に分割投与)の併用が推奨される(抗 る.また,合併症のない経腟分娩は,あくまでも結果で 生物質の使用方法については,文献 131,134 を参照). あって,合併症が生じるかどうかは,分娩前に予知する ペニシリンは安全だが,ゲンタマイシンは,胎児に聴覚 ことは不可能である 144).また,成人先天性心疾患の女 障害を生じる可能性があるため,2 週間以内の投与とし, 性の妊娠においては,分娩第 2 期を短くすることが推奨 血中濃度を測定することが推奨される 133),134) (レベル されており,会陰切開を行うことも少なくない.このた B).また,前期破水や感染兆候を認める場合は,敗血 め,ハイリスク群では,予防投薬を推奨している. 症に準じた抗生物質投与を行う.妊娠中の心内膜炎に対 以上から,本ガイドラインでは,心疾患女性の産科的 する心臓外科手術は,流産を生じやすいため,慎重な検 手術・手技や分娩時の抗菌薬の予防投与の適応を,以下 討が必要である 45). のように考える.少なくとも,感染性心内膜炎のハイリ 4 スク群においては,分娩時の抗菌薬の予防投与を推奨す 予 防 る.文献 6,144)に記載されている,予防投薬を推奨 132) AHA ガイドライン(2007 年改訂) は,合併症のな された心疾患を表 14 に示す.日本循環器学会の感染性 い経腟分娩には,抗菌薬での予防を推奨していないが, 心内膜炎のガイドライン(2008 年改訂)131)では,表 11 表 13 抗菌薬の予防投与を必要とする手技(心疾患や産科の手術・手技に関係するもの) Class Ⅰ 感染性心内膜炎の予防として抗菌薬投与をしなくてはならないもの ◦心臓手術(人工弁,人工物を植え込むような開心術) Class Ⅱ b 感染性心内膜炎の予防のためではないが,手技に際して抗菌薬投与をしてもよいと思われるもの ◦生殖器(経腟子宮摘出術,経膣分娩,帝王切開,感染していない組織における子宮内容除去術,治療的流産,避妊手術,子宮 内避妊器具の挿入または除去) ◦その他(心臓カテーテル検査,ペースメーカや除細動器の植え込み) Class Ⅲ 手技に際して抗菌薬投与をしなくてもよいもの ◦消化管(経食道心臓超音波検査) ◦泌尿器・生殖器(感染していない組織における尿道カテーテル挿入) ◦その他(中心静脈へのカテーテル挿入) (文献 131 より引用改変) 23 循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2009 年度合同研究班報告) の Class ⅠおよびⅡ a の疾患がハイリスク群に相当する. 準は存在しない.泌尿生殖器や消化管に対する手術・処 ハイリスク以外の心疾患では,感染性心内膜炎の発生頻 置後に発生する心内膜炎の起因菌のほとんどが Entero- 度の低いことを考慮して,抗菌薬の予防投与を推奨しな coccus faecalis であることを考慮すると,分娩時に心内 いが,その他の合併症予防などの,リスク・ベネフィッ 膜炎に対する抗菌薬の予防投与を行うならば,主として トの観点から,予防投与を行うことを否定するものでは 腸球菌に対して行うことが望ましい.日本循環器学 ない. 会 131),AHA132),ESC134)の感染性心内膜炎に関する改訂 しかし,予防投薬は,個々の症例や妊娠の状況,社会 ガイドラインは,泌尿生殖器や消化管の手技,処置に対 状況によって異なり,実際に診療に携わる産科または循 する,感染性心内膜炎の予防を推奨していないため,日 環器担当医の専門的な判断に委ねることとする.ただし, 本循環器学会の感染性心内膜炎の旧ガイドライン(2003 感染性心内膜炎の予防に関するガイドラインが大幅に変 145) 年) における「泌尿生殖器,消化管の手技・処置に対 更されたことにより,診療現場での混乱も予想されるこ する予防法」を改変して,参考のために示す(表 15). とから,以上のような見解を,医療従事者から患者さん 実際の予防投与に際しては,適応と方法,母体や胎児・ に十分に説明することが重要である. 新生児に対する影響などを考慮する必要がある. 現時点において,分娩時の抗菌薬の予防投与方法の基 表 14 産科的手術・手技や分娩時において,抗菌薬の予防投与が推奨される心疾患注) ACC/AHA 成人先天性心疾患ガイドライン(2008)より(文献 6) ◦弁膜症の術後(人工弁や人工物を使用した場合) ◦感染性心内膜炎の既往 ◦先天性心疾患 未修復のチアノーゼ性心疾患(短絡術後や導管を使用した姑息術後を含む) 人工的なパッチや device による完全修復術後だが,手技後 6 か月以内の場合 修復術後だが,人工的なパッチや device の周囲に遺残短絡が残る場合 心臓移植患者が心臓弁膜症になった場合 Congenital Heart Disease in Adults(3rd edition)より(文献 144) ◦人工弁置換術後 ◦(体肺)短絡術後,人工導管を使用した手術後 ◦感染性心内膜炎の既往 ◦チアノーゼ性先天性心疾患 ◦免疫抑制剤を使用中の心臓移植患者 ◦先天性大動脈弁膜症など 注)分娩時に抗菌薬の予防投与が推奨される心疾患については意見の一致をみていない. 表 15 泌尿生殖器,消化管の手技,処置に対する,感染性心内膜炎の予防法*1 ◦特に重篤な心内膜炎を引き起こす可能性が高い心疾患を対象とした予防法 対 象 投 与 方 法 アンピシリン 2.0g とゲンタマイシン 1.5mg/kg(120mg を超えない)の筋注 / 静注を処置前 30 分 以内に併用.6 時間後にアンピシリン 1g 静注またはアモキシシリン 1g 経口投与 アンピシリン / アモキシシリ バンコマイシン 1.0g 静注(1 ~ 2 時間かけて)とゲンタマイシン 1.5mg/kg(120mg を超えない) ンにアレルギー の筋注 / 静注を併用.処置前 30 分以内に投与を終了させる 通 常 ◦それ以外の場合の予防法 対 象 投 与 方 法 *2 経口投与可能 アモキシシリン 2.0g を処置 1 時間前に経口投与(体格に応じ減量可能) 経口投与不能 アンピシリン 2.0g を処置前 30 分以内に静注 / 筋注 アンピシリン / アモキシシリ バンコマイシン 1.0g 静注(1 ~ 2 時間かけて) ,処置前 30 分以内に投与を終了させる ンにアレルギー (文献 145 より引用改変) 131) 132) 134) ,米国心臓協会(2007 年) ,欧州心臓病学会(2009 年) の感染性心内膜炎に関する改訂ガイ * 1 日本循環器学会(2008 年) ドラインは,泌尿生殖器や消化管の手技,処置に対する,感染性心内膜炎の予防を推奨していない.本表は,心疾患の女性に対して, 分娩時の感染性心内膜炎の予防を行う場合の参考として,日本循環器学会の感染性心内膜炎に関する旧ガイドライン(2003 年)145) から引用,改変したものである 131) の「歯科,口腔手技,処置に対する予防法」の表には,アモキシシリン投与量 * 2 日本循環器学会ガイドライン(2008 年改訂) 「成人では体重あたり 30mg/kg でも十分といわれている」,「日本化学療法学会では,アモキシシリン大量投 (成人 2.0g)について, 与による下痢の可能性を踏まえて,リスクの少ない患者に対しては,アモキシシリン 500mg 経口投与を提唱している」と記載され ている.アモキシシリン投与量は,体格や消化器症状を考慮して,適宜減量することが可能である 24 心疾患患者の妊娠・出産の適応、管理に関するガイドライン 8 148),149) 起こる可能性がある(胎児毒性) .分娩前の薬物 妊娠中の薬物療法 使用では,新生児に離脱症状が出現することがある 148). 2 母体投与薬物の胎児への影響 1 母体投与薬物の母乳への移行と 新生児への影響 妊婦に対して薬物を使用する際は,母体と胎児に対す 母乳栄養の利点は確立され,授乳中に禁忌となる(あ る有効性と危険性のバランスについて考慮する必要があ るいは,授乳中は服用を中止すべきとされる)薬物はほ る.生殖年齢の女性に対して,特に長期の薬物投与をす とんどない.多くの薬物において,母乳中への薬物移行 る際は,妊娠の可能性について確認し,なるべく安全性 はわずかであるため,母乳栄養の新生児の薬物血中濃度 の高い薬物を選択する必要がある.薬物の胎児への有害 は,治療域よりはるかに低いのが通常である.しかし, 作用には,大きく分けて,催奇形性と胎児毒性の 2 つが 授乳中の薬物の新生児や乳児に与える影響については, ある. 十分なデータがない.また,新生児の薬物代謝は遅延し 日本産婦人科医会先天異常モニタリング調査による ており,蓄積効果により血中濃度が上昇する可能性があ と,出生した児の先天異常の発生率は 1.7 〜 2 %前後で るため,半減期の長い薬物などには注意が必要であ ある 146) .一般に,全先天異常のうち,発生が環境要因 る 147),149). によるものは 5 〜 10%程度とされ,薬物によるものは 2 〜 3%程度とされている 146).医薬品による先天異常は, 薬物による先天異常のさらに一部となる.妊娠の可能性 3 薬物の胎児・新生児への危険性に 関する情報 か計画のある女性に投薬する際は,薬物の催奇形性に注 薬物の胎児・新生児への危険性に関する情報は,米食 意する必要がある. 品医薬品局(Food and Drug Administration:FDA)の薬 母体に投与された薬物は,一部の例外を除いて胎盤を 剤胎児危険度分類(pregnancy category)が引用される 通過する.分子量の小さな薬物や,脂溶性の薬物は胎盤 ) ことが多い 11(表16) .妊娠中の使用に関して, X 分類(胎 を通過しやすい.薬物は遊離型薬物の状態で,濃度勾配 児への危険性が証明されている)の薬物は絶対禁忌であ に従って胎盤を通過するため,蛋白結合率の低い薬物は, り,D 分類(胎児への危険性の証拠がある)の薬物は相 胎児および羊水中で比較的高濃度に達する 147),148).妊婦 対禁忌(極めて限定的な適応において使用が容認される) へ投薬する際は,薬物の胎盤通過性についてあらかじめ となっている.この分類を基に,妊娠中と授乳中の薬物 確認し,胎児毒性を最小限にとどめることが必要である. 使用のガイドブックが定期的に刊行されている.本ガイ 逆に,薬物の胎盤通過性を利用することにより,胎児不 ドラインにおける,薬剤胎児危険度分類,催奇形性,胎 整脈や胎児心不全などの胎児心疾患に対して,母体への 児毒性,新生児への影響などに関する情報の多くは,こ 薬物投与による経胎盤的治療が行われることもある 129) . 11) のガイドブックの第 8 版(2008 年刊行) を参考とした. 薬物の胎児への有害作用は,薬物の使用される妊娠の 薬物の母乳中への分泌については,米国小児科学会から 時期に依存する.受精前から妊娠 27 日まで(無影響期) の勧告も参考とした 150).なお,妊産婦や授乳婦への使 は,毒性のある薬物を投与されても,受精しないか,着 用に関する医薬品の添付文書情報 151)では,相対的また 床しないか,妊娠早期に流産するとされる.妊娠 28 〜 は絶対的禁忌と記載されている薬物が多く,一般的な医 50 日(絶対過敏期)は,胎児の重要な臓器が形成され 療の実情や FDA 勧告などとの解離がしばしば認められ る時期であり,催奇形性の危険が最も高いため,この時 る.そこで,疾患の各論の薬物治療の表においては,医 期の薬物投与は特に慎重にする必要がある.妊娠 51 〜 療用医薬品の添付文書情報 151)の,「妊婦,産婦,授乳婦 112 日(相対過敏期,比較過敏期)は,胎児の重要な臓 等への投与」の項に記載された重要事項も併記して,注 器の形成はほぼ終了しているが,生殖器の分化や口蓋の 意を促すこととした.妊産婦や授乳婦への使用に関して, 閉鎖などはこの時期にかかるため,催奇形性のある薬物 薬剤添付文書上は禁忌扱いとされるか,保険診療として の投与はなお慎重であった方がよい.妊娠 113 日から分 認められていない場合には,本人や家族に対して十分な 娩まで(潜在過敏期)は,器官形成が終了しているため, 説明と同意を得る必要がある. 催奇形性の危険はほぼなくなる.しかし,母体に投与し た薬物が胎盤を通過することにより,胎児の機能的発育 への影響,発育の抑制,胎児循環不全などの有害作用が 25 循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2009 年度合同研究班報告) 表 16 米食品医薬品局(FDA)の薬剤胎児危険度分類(pregnancy category) カテゴリー A B C D X 米食品医薬品局基準 ヒトの妊娠第 1 期(あるいはそれ以降)の女性の対照研究において,胎児への危険性が証明されず,胎児への障害の 可能性が低いもの 動物の生殖研究では胎児への危険性は証明されていないが,ヒトの妊婦に対する対照研究が実施されていないもの. あるいは,動物の生殖研究では胎児への有害作用が証明されているが,ヒトの妊娠第 1 期の対照研究では胎児への有 害性が証明されず,妊娠中期以降の危険性が証明されていないもの 動物の研究では胎児への有害作用(催奇形性,胎仔毒性)が証明されているが,ヒトの妊婦に対する対照研究が実施 されていないもの,あるいは,ヒト・動物ともに研究が実施されていないもの.潜在的な利益が胎児への潜在的な危 険性より大きい場合にのみ使用すること ヒト胎児への危険性の確実な証拠が存在するが,その危険性にもかかわらず,特定の状況(例えば,生命が危険にさ らされている状況や重篤な疾病において,安全な薬剤が使用できないか無効な場合など)では,妊婦への使用による 利益の方が容認されるもの 動物またはヒトでの研究で胎児異常が証明されるか,ヒトでの使用による胎児への危険性の証拠が存在し,使用によ る潜在的な利益よりも危険性の方が明らかに大きいもの.妊婦または妊娠する可能性がある女性には禁忌なもの (文献 11 より訳出,改変) 4 妊娠中や授乳中の使用に特に注意 を要する薬物 形性があり,不整脈への適応がジギタリス中毒などに限 られるため,妊娠中に使用される状況は少ないと考えら 心疾患女性に使用される薬物で,妊娠中や授乳中の使 れる.また,添付文書上のフェニトインの使用適応は, 用に特に注意を要する薬物に関して,以下に述べる.薬 てんかん発作に限られていることにも注意する必要があ 物治療の詳細に関しては,「感染性心内膜炎」,「肺高血 る. 圧症」,「弁膜症」,「高血圧症」,「子宮収縮のコントロー アミオダロンは高濃度のヨードを含み,胎児の甲状腺 ル」,「抗不整脈治療」,「抗心不全治療」などを参照され 機能異常(主に機能低下症だが亢進症もある)の副作用 たい. があるため,基本的に禁忌とされている(FDA 勧告の アンジオテンシン変換酵素阻害薬やアンジオテンシン D 分類).母体・胎児の難治性不整脈などに対して,ア 受容体拮抗薬は,胎児・新生児の腎臓に直接作用して, ミオダロンの投与が避けられない場合は,厳重な注意が 腎不全や流産・死産などを引き起こす 152)ため,妊娠第 2 必要である.アミオダロン使用による胎児奇形の報告が 〜 3 期の使用は禁忌(FDA 勧告の D 分類)とされている 以前にみられたが,偶然であった可能性が高いとされて (レベル B).また,対照研究ではないが,ヒトへのアン いる.アミオダロンは母乳中での濃縮が報告されている ジオテンシン変換酵素阻害薬の使用において,催奇形性 が報告されている 26 フェニトインは,胎児ヒダントイン症候群などの催奇 ため,妊娠第 1 期の使用においても, 153) ため,内服中の授乳は避けることが望ましい. ボセンタンは,動物実験において催奇形性が報告され, 特に厳重な注意が必要である.同様な作用機序のアンジ FDA 勧告では X 分類(絶対禁忌)とされている. オテンシン受容体拮抗薬も,妊娠第 2 〜 3 期の使用は禁 ループ利尿薬は比較的安全に使用可能であるが,母体 忌(FDA 勧告の D 分類)であり,催奇形性への厳重な 低血圧や子宮胎盤血流低下を避けるために,過量投与や 注意も必要である. 急速投与に注意が必要である.抗アルドステロン薬であ β遮断薬は,以前より子宮内胎児発育不全(intrauterine るスピロノラクトンは,抗アンドロジェン作用による胎 growth retardation:IUGR)との関係を指摘されてきたが, 児の女性化が懸念されるが,実際の報告はない.多くの もともとの母体リスクや,過量投与による胎盤循環不全 利尿薬は,FDA 勧告の C 分類とされ,妊娠高血圧症候 の影響の方が大きいと考えられている.分娩近くにも使 群に使用する際は D 分類とされている. 用する場合は,胎児・新生児の徐脈や低血糖に対する注 ジゴキシンの使用に際しては,母体の血中濃度モニタ 意が必要である.多くのβ遮断薬は FDA 勧告の B また リングによる使用量の調節が,母体・胎児のジギタリス は C と分類され,妊娠第 2 〜 3 期に使用する場合は D 分 中毒の予防に有用となる. 類となり,特に分娩に近い時期の使用について注意が喚 抗凝固療法を行う際は,凝固能を経時的にモニターし 起されている.なお,アテノロールは妊娠全期間におい て,出血や血栓症などの合併症に注意する必要がある. て,D 分類とされている.メトプロロールは,母乳中で ワルファリンは妊娠初期の使用で催奇形性が報告され, の濃縮が報告されているため,内服中の授乳は避けるこ また,胎盤通過性もあるため,胎児・新生児の出血性疾 とが望ましい. 患のリスクがある.ヘパリンは,分子量が大きく胎盤を 心疾患患者の妊娠・出産の適応、管理に関するガイドライン 通過しないため,胎児毒性はないが,ワルファリンと比 変化に十分に対応が可能であり,循環器担当医のコンサ 較して,血栓症の発症が多いとされている.欧米では低 ルテーションを受けつつ,産科医が中心となり妊娠・出 分子ヘパリンの使用が増えていているが,国内での適応 産を進められる(循環器を専門とする施設でなくても管 症に心血管疾患に対する血栓予防はない. 5),46),154) 理可能である) (レベル B).しかし,中等症以上 アスピリンには,催奇形性や胎児動脈管早期閉鎖など の心疾患(NYHA 分類Ⅱ度以上,チアノーゼ性疾患の の胎児毒性があり,周産期死亡率を高めることが知られ 修復術後など)では,妊娠・出産時に心血管系合併症を ているが,抗血小板療法として低用量投与を行う場合は, 生じる場合があり 5),42),154),155),胎児リスクも高い 42),64)- FDA 勧告の C 分類とされ,比較的安全である.しかし, 66),156) 薬剤添付文書上は,「出産予定日の 12 週以内の妊婦には 性で,妊娠・出産のリスクが高いことが予想される場合 (用量にかかわらず)禁忌」とされているため,妊娠中 は,計画的に妊娠する必要があり,妊娠後は循環器を専 後期に使用する際には,十分な説明と同意を得る必要が 門とする施設で診療を受けることが推奨される.また, ある. 思春期や成人期を迎えた先天性心疾患女性は,出産設備 9 (レベル B).したがって,中等症以上の心疾患女 の整った成人先天性心疾患診療施設に紹介されること 望ましい施設基準:心疾患の 重症度と管理施設 が,推奨される 161),162).以上より,望ましい施設基準を 表 17 に示す. 心疾患女性の妊娠では,妊娠による循環動態,呼吸機 能,血液学的・内分泌学的・自律神経学的変化などが加 わる(「妊娠・分娩の循環生理」参照)ことにより,背 景となる心疾患の病態が修飾される 154).また,出産時 は循環動態が急激に大きく変動する.この妊娠・出産時 の変化に対する,母体・胎児の適応の程度は,母体の心 疾患の重症度に応じて異なる.したがって,心疾患女性 の妊娠・出産管理体制は,母体の心疾患の重症度に大き く依存する.心疾患の多数を占める軽症心疾患の場合 (NYHA 分類Ⅰ度)は,一般の妊娠と同様で妊娠・出産 リスクは低く(レベル B),妊娠・出産時の循環動態の リスクの高い妊娠の場合は,妊娠・出産を慎重に 計画する必要がある.ハイリスク心疾患の妊娠に精 通している,産科医,循環器を専門とする医師(循 環器内科医,循環器小児科医,成人先天性心疾患を 専門とする医師,心臓血管外科医など),麻酔科医, 新生児科医などの協力が得られる,循環器を専門と する施設での管理が必要である.リスクの低い妊娠 の場合は,一般と同様に妊娠・出産が可能であるが, 感染性心内膜炎予防が必要な場合が少なくない. (レベル B,文献 140,158) 「心疾患患者の妊娠・出産の適応,管理に関するガイ 表 17 中等症以上の心疾患の妊娠・出産の管理を行うための循環器を専門とする施設の基準 ①循環器科を専門とする医師(循環器内科医,循環器小児科医,心臓血管外科医など)によるコンサルテーションが,妊娠・出 産時を通じて容易に得られる ②カテーテル・インターベンションや心臓外科手術が施行可能であり,24 時間体制で心血管造影室や手術室が使用可能である(ま れではあるが,妊娠中の病態悪化に対し,カテーテル・インターベンションや心臓血管手術を,緊急に行わざるを得ない場合 がある) ③麻酔科医が常駐(24 時間対応)し,中心静脈圧,動脈圧,肺動脈圧などの連続モニターが可能であり,麻酔装置が常備されて いる.さらに,緊急帝王切開や無痛分娩に対応できる ④臨床工学技士の協力が常に得られ,人工呼吸器,人工心肺装置,大動脈内バルーンパンピング(IABP)装置,経皮的心肺補助 装置を含む機器が,常に使用可能である ⑤集中治療施設があり,各科医師,助産師,産科病棟看護師の協力が得られる 早産・低出生体重児管理が可能な新生児集中治療室 (NICU) ⑥新生児科医が常駐し, 分娩に立ち会える.妊娠22週以降の病的新生児, の存在 ⑦人工妊娠中絶を安全に行える ⑧分娩待機室が完備されている ⑨重症の母体や胎児の状態を観察でき,必要に応じて入院管理が行える ⑩分娩室,分娩手術室を備えている ⑪心臓超音波検査(循環動態の変化を即時に的確に把握できる)が常時稼働できる ⑫ハイリスクの心疾患女性の妊娠・出産には,産科,循環器科,循環器小児科,麻酔科,新生児科,心臓血管外科,内科関連各科, 遺伝科,さらに,循環器疾患分野での経験のある看護師,コメディカルを含む総合したチーム医療を必要とすることが多い (レベル B,文献 42,55,56,64 〜 66,140,157,158,160,163) 27 循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2009 年度合同研究班報告) ドライン」作成委員会の全国調査では,26%の施設で, 159) クが高くなる可能性があるので,注意が必要である. .今後,心疾患女性の妊娠・ 心房中隔欠損症単独に対する分娩時の感染性心内膜炎 出産を扱う主要施設は,このようなチームを確立するこ の予防は不要だが,僧帽弁逆流を伴う僧帽弁逸脱を合併 とが望まれる 5),154),158),160),163)が,同一施設内でチームを する場合は,分娩時の感染性心内膜炎の予防が推奨され 確立できない場合でも,心疾患に精通した専門各科に容 る. チーム診療が行われていた 易にコンサルトできる体制を構築することが望ましい (レベル B). ③ 心室中隔欠損症 小児期に心不全症状を示さず,左右短絡のまま成人に Ⅲ 達した例では,妊娠・出産によく耐容する.基本的に左 基礎心疾患別の病態 室容量負荷疾患であるため,妊娠中は体血管抵抗が下が ることから,心不全を発症することは少ない.短絡量の 少ない例では,妊娠による循環血液量の増大に伴って, 1 心雑音が大きくなるが,循環動態的には大きな影響はな 先天性心疾患 い.漏斗部欠損例では,大動脈弁直下に短絡血流が存在 するため,隣接する大動脈弁右冠尖が欠損孔に向かって 1 非チアノーゼ性心疾患(非手術例) 尖に変形が生じて大動脈弁逆流を呈する場合がある.有 意な大動脈弁逆流の場合,心室中隔欠損症の病態を修飾 ① 概 要 することがある.有意な大動脈弁逆流以外は,負荷は軽 明らかな合併心疾患のない単純疾患の場合について述 度で妊娠時の問題は少ない.しかし,漏斗部欠損に伴う べる.肺高血圧症(Eisenmenger 症候群)合併,有意の 大動脈弁逆流は進行性のことが多く,機械弁置換術後の 不整脈合併,その他の有意な心臓血管疾患合併の場合に 妊娠では,抗凝固療法による母体・胎児のリスクが少な は,それぞれの項に述べる.合併症のない心房中隔欠損 くない(「弁膜症」─「抗凝固・抗血小板療法」参照)た 症などの,ごく一部の疾患を除くと,感染性心内膜炎の め,大動脈弁の変形と逆流の状態によっては,弁置換術 リスクがあるため,これらの心疾患に対しては,分娩時 を必要としない軽症のうちに,心室中隔欠損症の修復術 の感染性心内膜炎の予防が推奨される(「感染性心内膜 を行うことが推奨される.高度の肺高血圧症合併例では 炎」参照). 妊娠は禁忌である(「肺高血圧症」参照). ② 心房中隔欠損症 ④ 心内膜床欠損症(房室中隔欠損症) 心房中隔欠損症は,成人先天性心疾患の中で最もよく 心内膜床欠損症(房室中隔欠損症)は,通常は小児期 みられるものである.妊娠のために心拍出量が増大し, に手術される.しかし,一次孔型心房中隔欠損症に僧帽 心雑音が大きくなった結果として,初めて診断されるこ 弁裂隙を合併する不完全型で肺高血圧症もない例では, とがある.心房中隔欠損症は,短絡量が多い場合でも, 小児期を通じて無症状なことが多く,妊娠を契機に発見 特に大きな合併症なく妊娠・出産を終えることが多いが, されることがある.この場合の病態は,心房中隔欠損症 妊娠後期に上室性不整脈が頻発するか,奇異性塞栓症を に僧帽弁逆流が合併しているにすぎず,多くの場合は妊 合併することがある 135).心房中隔欠損症を有する妊婦 娠・出産を通じて大きな問題なく経過する.ただし,心 164) .僧 房性不整脈の管理が必要となることがある.肺高血圧症 帽弁前尖逸脱のために僧帽弁逆流を呈することがある 合併例では,心室中隔欠損症における場合と同様の管理 が,妊娠・出産について大きな問題となることは少ない. が必要である. が肺高血圧症を合併する率は低いとされている 未修復例と修復術後例の妊娠の比較に関する,最近の多 施設共同研究(後方視的検討)によると,未修復例では, 妊娠高血圧腎症,子宮内胎児発育不全,胎児死亡などの リスクが高かったことが報告されている 28 引き込まれ(大動脈弁右冠尖逸脱),結果として,右冠 165) .以上より, ⑤ 動脈管開存症 短絡量が少なく,肺動脈圧も正常の例では,特に問題 なく妊娠・出産を経過する.短絡量が多い例では,妊娠 一般的に,未修復例の妊娠・出産時の心合併症のリスク 経過とともにうっ血性心不全を示す可能性があるた は高くないが,妊娠合併症や胎児・新生児合併症のリス め 166),妊娠前に経カテーテル的閉鎖術や手術治療を施 心疾患患者の妊娠・出産の適応、管理に関するガイドライン 行しておくことが望ましい. 出産時の出血による前負荷の低下からショックに陥るこ 肺高血圧症例では妊娠そのものが禁忌である.さらに, とがある. 本症では肺動脈瘤を合併することがあり,妊娠中や産褥 二尖弁性の大動脈弁狭窄症では,大動脈縮窄症や動脈 期に,まれに大動脈や肺動脈の解離や破裂を来たす場合 管開存症など,他の異常を合併している可能性もあり, がある 167) 注意深く評価する必要がある.また,大動脈二尖弁は大 . 動脈嚢胞性中膜壊死を伴うとされており,妊娠 7 か月目 ⑥ 先天性大動脈弁狭窄症(ニ尖弁症を含む,「弁 膜症」─「弁膜症と人工弁置換術後」も参照) 以降に大動脈解離を発症することもある 173).妊娠中に 妊婦の大動脈弁狭窄症は,ほとんどが先天性二尖弁に 体・胎児への影響は大きい 174). 伴うものである 168).予後は弁狭窄の重症度によって異 * Ross 手術:大動脈弁位に弁を含んだ自己の肺動脈基 なる.軽度から中等度の狭窄では,妊娠期間を通じてな 部を移植し,肺動脈弁は通常生体組織弁を移植する. んら合併症を起こすことなく経過する.一方,最近の報 告では,中等症以上では,たとえ妊娠の予後が順調であ っても,遠隔期に外科的インターベンションが必要とな る確率が高くなる 169) ことが報告されている.これは, 大動脈弁置換術を施行した症例報告も散見されるが,母 ⑦ 肺動脈弁狭窄症 右室肥大を呈する.狭窄部圧較差が 50mmHg 以上あ れば治療の対象となる.本症では多くの場合は心拍出量 妊娠が中等症以上の大動脈弁狭窄症の自然歴を悪化させ が正常範囲に保たれ,無症状であるが,妊娠を契機に心 る可能性を示すものであり,注意が必要である. 雑音や呼吸促迫で発見されることも多い.右室機能不全 高度大動脈弁狭窄は,平均圧較差> 40mmHg,弁口 症状を示すことはまれである.妊娠前 NYHA 分類Ⅱ度 面積< 1.0cm /m ,著しい心肥大,左室機能低下のある の症例が,妊娠中に一時的にⅢ度になったという報告も 例である.この場合は妊娠の経過とともに,循環血液量 ある 175)ため,有症状例には注意が必要であるが,本疾 と 1 回拍出量の増大のために狭窄部の圧較差が増加す 患の妊娠予後は概して良好である.中等度までの肺動脈 る.結果として,左室の仕事量を増やし,肥大した左室 弁狭窄症は,妊娠中も大きな問題になることは少ない. 心筋に相対的虚血を引き起こし,狭心痛,左心不全,肺 高度狭窄で症状の強い例では,経皮的バルーン肺動脈弁 うっ血を来たすのみならず,時に突然死を来たすことす 形成術が考慮される.この際,放射線被曝に伴う器官形 らある 170). 成異常を避けるため,妊娠中期以降まで治療を遅らせる 高度大動脈弁狭窄症例では母体リスクが極めて高い. ことが望ましい. 2 2 したがって,大動脈弁置換術や経皮的バルーン大動脈弁 形成術により,大動脈弁狭窄解除後に妊娠することが推 ⑧ Ebstein 病 奨される 171).機械弁置換術後の妊娠では,抗凝固療法 Ebstein 病は,三尖弁中隔尖または後尖(または両尖) による母体・胎児のリスクが少なくない(「弁膜症」-「抗 の心尖部側偏位による三尖弁逆流が主たる病態である. 凝固・抗血小板療法」参照)ため,妊娠中の抗凝固療法 三尖弁逆流,右室機能,さらに心房中隔欠損を介する右 のリスクを回避するために,生体弁置換術または Ross 左短絡によるチアノーゼの程度などが,妊娠経過に影響 手術*が選択肢となり得る.バルーン弁形成術は石灰化 する.また,しばしば WPW 症候群を合併するため,発 や変形の著しい弁には不適であり,また高度大動脈弁逆 作性上室頻拍を認めることが多く,頻拍性心房粗動から 流を生じる可能性があるため,弁置換術の方がより確実 の失神や心室細動を生じるリスクもある.これら条件に な効果を得られる.万一,弁狭窄未解除例が妊娠した場 おいて軽症例ではほとんど合併症はみられないが,重症 合には,極めて注意深く経過を観察し,症状の出現に注 例では右心不全,奇異性血栓塞栓症,感染性心内膜炎, 意を払い,心電図検査や心臓超音波検査を繰り返して, 低酸素血症などがみられることがある.チアノーゼは妊 変化を把握する必要がある 172).妊娠早期に心症状が強 娠後に初めて気づかれることがあるが,高度になると胎 く出た場合には,人工妊娠中絶を考慮する.心電図での 児と母体のリスクが増加する(「先天性心疾患」─「チア 新たな再分極(ST-T)変化の出現や,超音波ドプラ法 ノーゼ残存例」参照). 計測による 1 回拍出量の経時的増大が認められない場合 44 例の Ebstein 病の妊婦における 111 妊娠という多数 などは,注意が必要である.この場合は,安静やβ遮断 例報告 176)によると,生産児は 76%で,そのうち 27%が 薬などによる加療が必要となる.なお,高度大動脈弁狭 早期産児であった.自然流産が 19 例,人工流産が 7 例, 窄症においては,心拍出量は前負荷に依存しているため, 新生児死亡が 2 例あった.出産は 11%が帝王切開による 29 循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2009 年度合同研究班報告) ものであった.チアノーゼ母体からの児の出生時体重は に比べて心不全や不整脈の頻度が高い 180)ため,妊娠時 小さく,新生児の 4%に先天性心疾患を認めた.しかし, には注意が必要である.房室弁逆流を伴う僧帽弁逸脱を 母体死亡はなく,罹病率も低かった. 合併する場合は,分娩時の心内膜炎予防を推奨する.な ⑨ 修正大血管転位症(修正大血管転換症) 解剖学的右房が僧帽弁を介して解剖学的左室に結合 ③ 心室中隔欠損症術後 し,解剖学的左房が三尖弁を介して解剖学的右室に結合 遺残症や肺高血圧症がなく,NYHA 分類Ⅰ〜Ⅱ度で し,大動脈は解剖学的右室から起始し,肺動脈は解剖学 あれば,妊娠によく耐容し,母体と胎児の予後は良好で 的左室から起始する疾患である.心室中隔欠損,肺動脈 ) ある 166),179(レベル B).妊娠前 NYHA 分類Ⅱ度以上の症 弁狭窄,肺動脈弁下狭窄,Ebstein 病様の三尖弁異常を 例では,心不全を合併することがある 179).肺高血圧症 合併することが多く,循環動態はこれら心内異常および 残存例は「肺高血圧症」の項に従う. 体心室である右室機能に依存する.房室ブロック,発作 大動脈弁逆流が合併する場合,妊娠中の容量負荷増大 性上室頻拍などの不整脈が多い. により心不全が発症することもあるが,通常,妊娠中の 妊娠・分娩は,心内異常が軽度,特に三尖弁逆流が軽 末梢血管抵抗低下が有利に働くため,妊娠・出産には比 度以下であれば,母児双方へのリスクは少ない.しかし, ) 較的よく耐えられる 5(レベル B).大動脈弁逆流の悪化 体循環右室の機能不全,特に三尖弁(体循環側房室弁) に対しては血管拡張薬が有効である 181)が,アンジオテ 逆流の進行が問題となる例がある.単冠動脈例での心筋 ンシン変換酵素阻害薬は胎児腎毒性と催奇形性の可能性 虚血の報告もある.児の流死産は 20 %前後で,これは があるため,妊娠中は禁忌である. 心内異常によるチアノーゼのある例で多い 177),178) . 妊娠分娩の管理は,弁疾患,心室中隔欠損,房室ブロ ック,それぞれの管理に準ずる. 2 非チアノーゼ性心疾患(修復術後) ① 概 要 30 お,肺高血圧症残存例は「肺高血圧症」の項に従う. ④ 心内膜床欠損症(房室中隔欠損症)術後 遺残症や肺高血圧がなく,NYHA 分類Ⅰ〜Ⅱ度であ ) れば,妊娠によく耐容する 166(レベル B).遺残症(房 室弁逆流および狭窄,左室流出路狭窄),不整脈(上室 性頻脈,完全房室ブロック),肺高血圧症などが問題と なるため,妊娠前の十分な心機能評価が必要である.内 非チアノーゼ性先天性心疾患術後は,良好に修復され, 臓心房錯位症候群*注:に合併した房室弁逆流は進行する 遺残症(特に肺高血圧症)や続発症の程度が軽い場合は, 可能性が非合併例より高く,また,洞性徐脈,完全房室 遺伝の問題を除けば,一般と同様に妊娠・出産,経腟分 ブロック,上室性頻脈の発生率も高い 1),182),183).したが ) 娩が可能である 59),166),179(レベル B). って,妊娠中の心不全や不整脈の出現には注意を要す 修復術後に遺残短絡が残る場合,修復術により短絡は る 59).肺高血圧症残存例は「肺高血圧症」の項に従う. 消失したが術後 6 か月未満であり,特に人工材料を用い 悪化した房室弁逆流に対して抗心不全治療を行う場合 た手術の場合,修復術後に弁逆流(房室弁,大動脈弁, があるが,アンジオテンシン変換酵素阻害薬の使用は胎 肺動脈弁)などの遺残症・続発症を伴う場合などは,感 児腎毒性の可能性から禁忌となる. 染性心内膜炎のリスクが高くなる.よって,このような *注)内臓心房錯位症候群(heterotaxy syndrome):無 症例においては,分娩時や産科的手術・手技の際の,予 脾症(asplenia)または右側相同(right isomerism),多 防投与を推奨する(「感染性心内膜炎」参照,レベル B). 脾症(polysplenia)または左側相同(left isomerism)と また,術後,中等度以上の遺残病変,続発病変があり, 呼ばれる,内臓位置異常と心臓血管異常を合併する症候 妊娠中に悪化することが予想される場合は,再手術,カ 群である.胸腹部内臓および心臓大血管の通常の左右関 テーテル・インターベンションなどで,妊娠前に修復し 係が崩れる(錯綜,錯位する)ために,この用語となっ ておくことが推奨される. ている. ② 心房中隔欠損症術後 ⑤ 動脈管開存症閉鎖術後 妊娠によく耐容し,母体と胎児の予後は良好であ 遺残症や肺高血圧症が無く,NYHA 分類Ⅰ〜Ⅱ度で ) る 166),179(レベル B).手術後でも妊娠時に不整脈を合併 ) あれば,妊娠によく耐容する 179(レベル B).コイル塞 することがある 179).成人期での手術例は小児期手術例 栓術後も基本的に同じである. 心疾患患者の妊娠・出産の適応、管理に関するガイドライン 閉鎖,右側心室(形態的左室)肺動脈間に心外導管を使 ⑥ 肺動脈弁狭窄症術後 う心外導管手術,三尖弁置換術などである.房室ブロッ 重度の弁狭窄残存や再狭窄の頻度は低く,NYHA 分 クにはペースメーカ植え込みを行う場合もある. ) 類Ⅰ〜Ⅱ度であれば,妊娠・出産によく耐容する 179(レ 原則的に,妊娠前の NYHA 分類Ⅰ〜Ⅱ度であれば, ベル B). 妊娠によく耐容する 177),187).三尖弁置換術後は「弁膜症」 有意な狭窄が残存している例では,妊娠前にカテーテ の項に,ペースメーカ植え込みは「抗不整脈治療」の項 ル治療あるいは再手術を考慮する. に従う.一部の症例に,従来の修復方法と異なり,左室 を 体 心 室 と す る double switch 手 術( 註 )が 行 わ れ て い ⑦ 先天性大動脈弁狭窄症術後 る 187).この術式は,妊娠時の容量負荷に十分耐え得る と考えられるが,現時点で出産経験の報告は確認できな Konno 手術後は「弁膜症」の項に準じる. Ross 手術 *注) 後は,大動脈二尖弁や大動脈縮窄症と同 様に,妊娠による大動脈壁組織の変化が元来の壁異常を 助長するため,大動脈拡張の進行に注意を要する 41),184) . い. 体心室である右室の三尖弁逆流を伴う疾患であり,修 復術後も,人工弁や何らかの遺残病変・続発病変が残る Ross 手術後の妊娠において,大動脈弁位の自己肺動脈 ことが多いため,感染性心内膜炎のリスクは高いと考え 弁や肺動脈弁位の移植弁への悪影響はなく,妊娠中や妊 られる.以上から,分娩時の心内膜炎予防を推奨する. 185) .抗 *注)double switch 手術:心房位と大血管の血流転換手 凝固療法を必要としない Ross 手術は,機械弁の使用を 術を同時に行い,最終的に左室が体心室となる(心房 避けられるため,大動脈弁置換術を必要とする若年女性 位変換術である Mustard 手術もしくは Senning 手術と, にとって,考慮に値する術式と考えられる.Ross 手術 大血管位変換手術の Jatene 手術もしくは心外導管手術 は自己組織の置換であるが,右室流出路は人工物を使用 の組み合わせで行われる.術式の詳細については, 「成 することが少なくないため,感染性心内膜炎のリスクは 人先天性心疾患診療ガイドライン」188)を参照された 高い.よって,分娩時の心内膜炎予防を推奨する(レベ い). 娠後の母体合併症はなかったという報告がある ル B). 3 ⑧ Ebstein 病術後 チアノーゼ性心疾患(修復術後) Fallot 四徴症修復術後だけではなく,完全大血管転位 右心機能が悪く,有意な三尖弁逆流を伴い,右室拍出 症修復術後,Fontan 手術後など,複合型先天性心疾患に 量が少ないため,妊娠中の容量負荷時に右房拡張を生じ, 対する修復術後患者の妊娠・出産も行われるようになっ 上室性不整脈を伴うリスクがある.生体弁による三尖弁 た. 置換術後では(「弁膜症」参照),容量負荷増大により弁 チアノーゼ性先天性心疾患は,修復術後も含めて,感 機能の低下や右心不全悪化が起こることがある.WPW 染性心内膜炎のリスクが高いため,分娩時や産科的手術・ 症候群による上室性頻脈も心不全を増悪させる.妊娠前 手技の際の予防投薬を推奨する(「感染性心内膜炎」の 176) の NYHA 分類Ⅰ〜Ⅱ度であれば,妊娠に耐容する (レ ベル B).母体の心合併症は少ないが,流早産率が高い とされる 176).弁形成術後でも何らかの遺残弁病変が残 項を参照). ① Fallot 四徴症修復術後 ることが多いため,人工弁置換術後の場合も含めて,感 修復されている場合の多くは,妊娠・出産が可能であ 染性心内膜炎のリスクは高いと考えられる.そこで,基 ) る 189(レベル B).妊娠・出産のリスクは,心機能,遺 本的に,分娩時の心内膜炎予防を推奨する(レベル B). 残症,続発症の程度と循環動態の良否に左右される.ま た,妊娠時は,一般的に心拍数が上昇するが,Fallot 四 ⑨ 修正大血管転位症術後 徴症では,自律神経系機能の異常のため,運動時と同様 修正大血管転位症は,体心室が形態学的右室であり, に妊娠時の心拍数の上昇が悪い 2).しかし,NYHA 分類 その心室の房室弁である三尖弁は Ebstein 病様形態異常 I 度の場合は,心不全や不整脈の合併は少ない.Fallot 四 を伴うことがある.右室機能低下が加齢とともに現れ, 徴症修復術後患者の多くは,軽度から中等度の肺動脈狭 三尖弁逆流の出現増悪が心機能低下を悪化させる 177) . 窄・逆流以外に,循環動態に大きな異常がない場合は, 完全房室ブロック合併の頻度も高い 186). 妊娠・出産リスクは一般の妊娠に近い 190),191).しかし, 手術は合併する心内異常による.単なる心室中隔欠損 高度右室流出路狭窄遺残,高度肺動脈弁逆流(三尖弁逆 31 循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2009 年度合同研究班報告) 流を伴うことが多い),右室機能不全などを伴う場合は, するため,上室頻拍,体心室房室弁逆流の増悪,心不全, 妊娠による容量負荷が加わると,右心不全の増強,上室 血 栓 症 な ど を 生 じ や す く, 母 児 と も に リ ス ク が 高 頻拍・心室頻拍などを合併することがある 1),36),192),193) (レ ) い 197),198(レベル C)(表 18).NYHA 分類Ⅰ〜Ⅱ度で, ベル B).20%程度に合併症を認める 194)が,特に NYHA 心機能が良好で,洞調律が保たれている場合は,妊娠時 分類Ⅱ度の場合は,妊娠中の不整脈を認めることが多く, の心負荷に耐え得るため妊娠・出産は可能である 197). 出産後の心不全も 1/3 程度に認める.また,出産後に大 しかし,この条件を満たす例は多くはない.妊娠中は, 動脈弁逆流が増悪し,大動脈弁置換術が必要となること 体静脈や右房から肺動脈への通路狭窄の進行,心機能悪 もある 195) 化,動脈血酸素飽和度低下,血圧変動などに,十分に注 . 妊娠危険因子は,遺残心室中隔欠損,中等度以上の肺 ) 意する必要がある 197(レベル C).ワルファリンを使用 動脈弁狭窄・逆流,中等度以上の大動脈弁逆流,上行大 している場合は,催奇形性のリスクがあるため,妊娠初 動脈拡張(40mm 以上),右室機能不全(心胸郭比 60 % 期 3 か月は中止あるいは他剤に変更する.アミオダロン 以上),左室機能不全(駆出率 40 %以下),頻脈型不整 は高濃度のヨードを含むため,使用する場合は,胎児の 脈の既往などである 45),193) (レベル B).また,肺高血圧 甲状腺機能低下のリスクを考慮する必要がある. 合併例では,妊娠リスクは非常に高い.妊娠前に,心機 妊娠・出産可能な条件を満たしている母体でも,妊娠・ 能,右室流出路狭窄,肺動脈弁逆流などの評価を行うこ 出産で重大な心血管合併症,非心臓血管関係の合併症を とが望ましい.22q11.2 欠失症候群は 50%の再発危険率 生じることが少なくない.流産を高頻度(人工流産を含 のため,合併の有無に注意を払う必要がある 45).しかし, ) む流産率:50 〜 60%程度)に認める 197)-199(レベル C). Fallot 四徴症に合併した同症候群の妊娠例は非常に少な 低出生体重児の出産が少なくない.また,無月経や月経 い. 異常も多いため,不妊率が高い 198).分娩時には十分な 胎児リスクはやや高く,一般と比べると,流産率が少 補液を行い,必要により出口鉗子や吸引を用いて,分娩 なくとも 2 倍である (レベル C). 第Ⅱ期を短縮することも行われる. 心室中隔欠損兼肺動脈閉鎖の修復術後は,妊娠・出産 妊娠前に,妊娠可能かどうかの評価を十分に行い,妊 が可能であるが,流産率や合併症発生率が高い.また, 娠継続による合併症が少なくないこと,生産児を得られ 193) 無月経などの母体異常も認めることが多い 196) . る可能性が有意に低いこと,出産後も育児を十分に行え ない可能性があることなどを,患者・家族と十分に話し Fallot 四徴症修復術後は,多くの場合は良好に修復 されているため,妊娠・出産リスクは一般妊娠に近 い.妊娠・出産危険因子は,高度肺動脈弁逆流によ る右室機能不全,左室機能不全,肺高血圧などであ り,心不全の増悪,頻脈性不整脈を伴うことがある. 高度の右室流出路狭窄を伴う場合は,妊娠前に再手 術治療を行うことが推奨される. (レベル B,文献 189,190,193,194) ② Fontan 手術後 Fontan 手術は機能的修復術であり,全身への血流を駆 出する体心室はあるが,肺血流を駆出する肺動脈心室は なく,右房,体静脈あるいは大静脈系の人工血管が肺動 脈への通路となる.このため,中心静脈圧は高く,容量 負荷に対応する予備能が低い.また,心拍出量も少ない. チアノーゼは,ないか軽度に残存する.上室頻拍が起こ りやすく,頻拍に対する耐容能が低い.さらに,凝固能 が亢進しているという特徴がある 45).妊娠中,特に妊娠 後期は,心房・心室の容量負荷が増大し,凝固能も亢進 32 合う必要がある 1). ③ 完全大血管転位症修復術後 心房位転換手術後(Mustard 手術あるいは Senning 手 術後)で,体心室機能が良好で,遺残病変が軽度の場合 ) は,妊娠リスクはあまり高くはない 200)-203(レベル B). しかし,流産率が高く(29%),有意な不整脈(22%), 妊娠時高血圧(18%),早期破水(14%),切迫早産(24 %),早産(31 %),低出生体重児(22 %)など,産科 表 18 Fontan 手術後の妊娠に関する母体・胎児の合併症 ◦体静脈うっ血 ◦体心室機能の悪化 ◦房室弁逆流の増悪 ◦上室頻拍 ◦血栓栓塞症 ◦奇異性血栓症(心房中隔欠損を作成してある fenestrated Fontan の場合) ◦流早産 ◦低出生体重児 ◦不妊,無月経 (レベル B,文献 1,195,198,199) 心疾患患者の妊娠・出産の適応、管理に関するガイドライン 的合併症も多い 204).胎児生命予後は良好であるが,早 産や低出生体重児がやや多い 200)-206) (レベル B). 疾患の妊娠・出産に関する報告は,依然として少ない. しかし,欧州心臓病学会からの報告では,チアノーゼ性 心房位転換手術は,右房血流と左房血流を転換し,右 先天性心疾患女性の 42/238(18 %)が出産を経験して 室が体心室を担うため,右室が後負荷(体血圧)に加え いる 211). て,妊娠時の容量負荷に耐え得るかが,妊娠リスクを決 める.右室(体心室)機能低下,遺残肺高血圧,不整脈 ① 肺高血圧症のないチアノーゼ性先天性心疾患 ) などが妊娠・出産危険因子となる 45(レベルC) .妊娠中 肺動脈閉鎖・狭窄を伴う,肺血流減少型のチアノーゼ や出産後に,心不全(16%),右室機能不全(約 10%), 性先天性心疾患が,心内修復術を施行されず,チアノー 三尖弁逆流増悪,心房細動を含む上室頻拍(数%),洞 ゼが残存している状態である.肺血流増加のための姑息 機能不全などが起こることがある 200)-204) (レベル B).ま 手術(Blalock-Taussig 短絡術*注)など)を受けている場 た,出産後の心臓移植を含むと,母体死亡を 4%程度に 合もある.Fallot 四徴症,完全大血管転位症,総動脈幹症, 認める 205).完全大血管転位修復術後は,妊娠・出産に 単心室症,三尖弁閉鎖症などが該当疾患である.妊娠・ はよく耐用するが,1/4 で右室機能が悪化し,1/2 で三尖 出産リスクは,チアノーゼの程度に依存し,母児ともに 弁逆流が悪化する.さらに,約半数では,これらの変化 リスクは高いが,特に胎児リスクが高い.妊娠・出産に が出産後も改善しない 206) .アンジオテンシン変換酵素 伴う母体の心血管系合併症を約 30 %に認める 212)-214). 阻害薬の使用は胎児腎毒性の可能性から禁忌となる 45). チアノーゼの程度に依存するが,生産児を得られる確率 動脈位変換手術後(Jatene 手術)は,心機能は良く, は低い(レベル C)(表 19). 不整脈も比較的少ないが,肺動脈狭窄,肺動脈弁逆流, *注)Blalock-Taussig 短絡術:鎖骨下動脈と肺動脈を吻 大動脈弁逆流,冠動脈狭窄・閉塞による虚血性病変など 合する術式である.肺血流減少型心疾患の肺血流を増 が,危険因子となる可能性がある.妊娠・出産に関する 加する目的で施行する. 比較的良好な結果が報告されている 207) が,まだ報告自 1)母体リスク 体が少ない. 妊娠中は,体血管抵抗が低下し,右左短絡が増加する Rastelli 手術後の妊娠・出産は少ないが,心機能がよく, ために,チアノーゼは増強する.このために,全身症状 右室流出路狭窄が高度でない場合は,妊娠・出産のリス が悪化することがある 156).心予備能が低いため,妊娠 クは高くない 208),209) .右室流出路狭窄が高度の場合は, 中の容量負荷や出産時の急激な循環動態変動に対応でき 右室機能不全,心室頻拍,心房細動を含む上室頻拍など ず,房室弁逆流の悪化,心機能低下,心不全の増悪など を生じる可能性が高く,妊娠前に再手術による修復が推 をみることがある.しかし,妊娠・出産による母体死亡 奨される.妊娠前に右室流出路導管狭窄,肺高血圧,右 ) は少ない 212)-214(レベル B).血液凝固系異常,血小板減 ) 室機能などの評価を十分に行う必要がある 11(レベル 少,血小板機能異常などの出血凝固系異常,さらに血管 C).また,妊娠中に左室流出路狭窄が進行することが ) 増生を伴うため,分娩時に大量出血を生じやすい 156(レ ある 24). ベル B).一方,妊娠後期の凝固機能亢進により,肺血 ④ その他の特異な疾患 これ以外に,両大血管右室起始症 48),心室中隔欠損の ない肺動脈弁閉鎖症 210) などでの出産の報告がある.母 体,胎児ともに合併症を認めるものの,妊娠・出産は可 栓症や脳梗塞を生じることがある.深部静脈血栓症は, これらの血栓症の原因となる 156).以上の事実から,妊 娠後期の抗凝固薬使用の適否に関しては意見の統一がな されていないが,妊娠後期に血栓形成予防のためにヘパ リンを使用する場合がある. 能であるとされるが,いまだ経験症例数が少ない. 4 チアノーゼ残存例 チアノーゼを呈する先天性心疾患は,妊娠・出産の適 応・管理の違いから,以下の 2 つの病態に二分される. 「肺 高 血 圧 症 の な い チ ア ノ ー ゼ 性 先 天 性 心 疾 患 」 と, 「Eisenmenger 症候群」である.両者ともに母児の妊娠 リスクは非常に高いが,前者のリスクは特に胎児に高く, 後者のリスクは特に母体に高い.チアノーゼ性先天性心 表 19 チ アノーゼ性先天性心疾患の妊娠に関する母体・胎児 の合併症 ◦心機能低下,心不全 ◦出血,脱水 ◦血栓塞栓形成,奇異性血栓 ◦チアノーゼ増悪 ◦流産,早期産,死産,低出生体重児 (レベル B,文献 212 ~ 214) 33 循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2009 年度合同研究班報告) 2)胎児リスク (レベル B). 胎児リスクは非常に高く,自然流産,早産,死産,子 宮内胎児発育不全が多い 212)-214) 1)母体および胎児のリスク (レベル B).高度チアノ Eisenmenger 症候群は,チアノーゼ性先天性心疾患と ーゼでは,胎児の発育は阻害され(動脈血酸素飽和度 同様に妊娠中にチアノーゼの増強を認める.出血傾向と SaO2 が 85%以下では,生産児を得られる確率は 12%と ともに,広範な肺血栓症を発症することがある 156).肺 される),妊娠初期 3 か月での流産が多い (レベル 血管閉塞性病変を伴うため,肺血管抵抗が固定され,出 B).しかし,胎児リスクはチアノーゼの程度だけでは 産時の急激な循環動態変化に対し適応が困難であ なく,本来母体が持っているチアノーゼ性先天性心疾患 る 27),156).このため,出産時の多量出血(チアノーゼ心 の重症度や心機能(心拍出量)にも依存する. 疾患に伴う,出血凝固異常のため)により,血圧低下お 3)母体の妊娠・出産時の管理 よび酸素飽和度低下を生じることがある 216).また,肺 左室,右室機能,肺動脈圧,心機能分類を妊娠前に十 血栓症と同時に,肺出血を伴うこともある 216).母体死亡 分に評価する.心機能が悪く(駆出率 40%以下),チア は,主に出産後数日から 1 か月以内に起こる 27),215),217). ノーゼが高度(SaO2 < 85%)の場合は,母児リスクと 死亡原因は,肺動脈血栓症,出産時多量出血による循環 もに高いため,避妊あるいは人工流産することが勧めら 血液量減少,出産直後の急激な静脈還流量増加やチアノ 212)-214) (レベル B).周産期の血栓塞栓症発生予防と ーゼの急激な増悪などに起因する 27).帝王切開は,自然 して,脱水の予防や補正に加え,妊娠後期 3 か月から出 分娩と比較して死亡率が高いとの報告がある 6)が,重症 産後 1 か月は抗凝固療法を行うことがある (レベル 例に対して帝王切開を行っているというバイアスがあ C).循環動態不安定ないし産科的適応がある場合は, る.このため,現状では,経腟分娩との優劣は明らかで れる 211),213) 156) 帝王切開を行う 156) .妊娠後期から出産時は,経皮酸素 ない(レベル B).チアノーゼの重症度によるが,流早産, 飽和度モニターを行う.経腟分娩の際は,無痛分娩が推 死産の頻度が高い 27),215),216).Eisenmenger 症候群は,短 奨される 211).チアノーゼ性心疾患は感染性心内膜炎の 絡とチアノーゼが残存した心疾患であるため,感染性心 ハイリスク患者であるため,分娩時や産科的手技・処置 内膜炎のハイリスク患者となる.よって,分娩時や産科 の際の抗菌薬の予防投与を推奨する(「感染性心内膜炎」 的手技・処置の際の予防投与を推奨する(「感染性心内 参照 156) ,レベル B). ② Eisenmenger 症候群(「肺高血圧症」も参照) 膜炎」参照). 2)Eisenmenger 症候群で妊娠継続をする場合の対応 (表 20) 肺血流増加を伴う左右短絡疾患や,肺血流増加とチア 妊娠継続を希望する場合は,妊娠 20 週以降は入院と ノーゼを呈する両方向性短絡疾患などに合併する,非可 して安静を保ち,脱水の予防や補正を行い,呼吸困難時 逆的肺血管閉塞性病変である.前者の基礎心疾患には, は酸素投与を行う.周産期には,ヘパリン投与や継続酸 心室中隔欠損症,心房中隔欠損症,動脈管開存症,心内 素投与を行う.出産時は,経皮酸素飽和度,呼吸心拍数 膜床欠損症(房室中隔欠損症)などが,後者の基礎心疾 ) をモニターし,無痛分娩,集中治療室管理とする 156(レ 患には,総肺静脈還流異常症やその他のチアノーゼ性心 ベル C).帝王切開を行う場合は,麻酔時の体血管抵抗 疾患などが該当する.チアノーゼおよび肺血管閉塞性病 低下を避け,できる限り循環動態を一定に保つ 218),219). 変の程度によるが,妊娠・出産のリスクは非常に高い. 大量出血や血圧低下は致死的となるので早急に補正す 肺動脈圧 / 体血圧> 2/3 の肺高血圧症は,母体死亡の可 る.死亡例は広範な肺動脈血栓症を認めることが多い. 能性がある 156).特に,肺血管閉塞性病変の進行した Eisenmenger 症候群では,母児ともに極めてリスクが高 く, 妊 娠 を 続 行 し た 場 合 の 母 体 死 亡 率 は 約 39 〜 50 ) % 27),215)で,胎児死亡率も高率(50%)である 27),216(レ ベル B).1997 〜 2007 年の Eisenmenger 症候群の妊娠・ 出産の報告例では,母体死亡率は 25 %と低下している が, 依 然 と し て 死 亡 率 は 高 い 217). こ の た め, Eisenmenger 症候群での妊娠は避けることが望ましい. 妊娠した場合も,人工妊娠中絶が推奨される.妊娠年齢 に達した女性は,避妊を心掛けることが推奨される 156) 34 表 20 Eisenmenger 症候群で妊娠継続する場合の注意点 ◦妊娠 20 週以降は入院管理,出産後も 2 週間は入院管理 ◦酸素投与 ◦強心薬,利尿薬投与(心不全合併時) ◦出産時の心拍,動脈圧,動脈血(経皮的)酸素飽和度,ヘ マトクリット値の監視 ◦出血や血圧低下による循環動態変化に対する的確な対応 ◦抗凝固薬の使用(使用の可否につき定説はない) ◦脱水の予防,早期補正 (レベル C,文献 156,215,217 ~ 219) 心疾患患者の妊娠・出産の適応、管理に関するガイドライン 抗凝固療法の適否については一定の見解がないが,施行 する場合は,妊娠 20 週からヘパリン投与を開始し,出 産直前に中止,さらに,出産後に再開する 156),215).しか し,元来,出血傾向の強い Eisenmenger 症候群でのヘパ リン投与には厳重な注意を要する 216).出産後最低 2 週 間は入院管理とし,全身状態や循環動態の厳重な監視を 行う 156).周産期の一酸化窒素やボセンタンなどの肺血 管拡張薬の使用には,現在,明らかな有効性が認められ ていない.また,出産直後の循環虚脱に対して,補助循 環使用により救命された例があるが,広く行われるもの ではない. Eisenmenger 症候群の妊娠・出産は,母体死亡率(30 〜 70%),胎児死亡率(約 50%)がともに高いため, 妊娠・出産は避けることが強く望まれる.出産後数 日〜 1 か月以内に死の転帰をとることが多い. (レベル B,文献 27,215) 2 肺高血圧症 1 概 要 肺動脈平均圧が 25mmHg 以上の状態を肺高血圧とい う.肺高血圧症は種々の原因で肺高血圧が持続している 病態である.肺高血圧症例は,病態の進展とともに,右 心不全,低酸素血症,喀血,不整脈など種々の合併症を 併発し,予後は極めて不良な場合が多い.表 21 に最近 用いられている肺高血圧症の臨床分類を示す 220).肺高 血圧症臨床分類 / 第 1 群の肺動脈性肺高血圧(pulmonary arterial hypertension:PAH)に属する症例には,特発性 PAH や先天性心疾患に合併する PAH などがあり,これ らは若年女性に発症する頻度が高く,治療中の妊娠合併 が問題となる.一方,第 2 〜 4 群の肺高血圧症は,好発 年齢は中高齢であり,妊娠が問題となることは多くはな 表 21 肺高血圧症を来たす疾患(2008 年:Dana Point 第四回 肺高血圧症国際シンポジウム) 1. 肺動脈性肺高血圧症: (pulmonary arterial hypertension: PAH) 1.1 特発性 PAH 1.2 遺伝性 PAH 1.2.1 BMPR2 1.2.2 ALK1,endoglin(遺伝性出血性毛細血管 拡張症合併の有無は問わず) 1.2.3 原因不明 1.3 薬剤 / 毒物 1.4 関連疾患 1.4.1 結合組織病 1.4.2 HIV 感染 1.4.3 門脈圧亢進症 1.4.4 先天性心疾患 1.4.5 住血吸虫症 1.4.6 慢性溶血性貧血 1.5 新生児遷延性肺高血圧症 1`. 肺静脈閉塞性疾患 / 肺毛細血管腫症 2. 左心系疾患による肺高血圧症 2.1 収縮能障害 2.2 拡張能障害 2.3 弁膜症 3. 肺疾患および / または低酸素血症による肺高血圧症 3.1 慢性閉塞性肺疾患 3.2 間質性肺疾患 3.3 拘束性─閉塞性の混合型を示すその他の肺疾患 3.4 睡眠呼吸障害 3.5 肺胞低換気症 3.6 高地慢性曝露 3.7 成長障害 4. 慢性血栓塞栓性肺高血圧症 5. 原因不明の複合的要因による肺高血圧症 5.1 血液疾患:骨髄増殖性疾患,摘脾 5.2 全身性疾患:サルコイドーシス,肺ランゲルハ ンス細胞組織球症:リンパ脈管筋腫症,神経線 維腫症,血管炎 5.3 代謝疾患:糖原病,Gaucher 病,甲状腺疾患 5.4 その他:腫瘍,線維性縦隔洞炎,透析中の慢性 腎不全 (文献 220 より引用) い. 正常の肺血管では,血管拡張(distension)や閉塞し の低酸素血症が生じる.肺高血圧症例における妊娠・出 ていた血管の再疎通(recruitment)などの機序により, 産のリスクは極めて高いことを銘記する必要がある. 肺血流量が増加しても肺動脈圧の上昇は軽減され,低圧 系の肺循環動態は維持される.しかし種々の肺高血圧症 では,もともと低圧系を維持する機序が破綻して肺高血 圧を発症している.このため,妊娠によって循環血液量 が著増すると(「妊娠・分娩の循環生理」参照),さらに 2 主要な肺高血圧症例の妊娠・出産時 経過 ① 特発性 / 遺伝性肺動脈性肺高血圧症 肺動脈圧が上昇する.この結果,右心不全の悪化と換気 肺高血圧症臨床分類の第 1 群に属する特発性 PAH と遺 血流比不均等の拡大が起こり,右左短絡が存在する先天 伝 性 PAH は, 従 来 は 原 発 性 肺 高 血 圧 症(primary 性心疾患例では,短絡血流量の増加により,さらに高度 pulmonary hypertention:PPH)と呼ばれていた疾患に相 35 循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2009 年度合同研究班報告) 当する.PPH は原因不明の高度の肺高血圧症を主徴と 亡原因の多くは肺高血圧クリーゼか原因不明の突然死 し,妊娠可能年齢の女性に好発することが知られ,また (20 例,27%)で,肺血栓塞栓症や脳血栓症による死亡 未治療例では診断から死亡までが平均 2.8 年と極めて予 例も存在した.70 例の出産については 31 週未満の出産 後不良である.本症は我が国では特定疾患治療研究事業 が 20%,32 〜 36 週の出産が 33%,37 週以降出産の満期 の対象疾患(難病)に指定され,臨床調査個人票を用い 出産が 47%であった 27).生産児は 66 例であったが,胎 た疫学調査では,2007 年度に 1,023 例が登録されている. 児死亡または早期新生児死亡(生後 1 週間以内)が 6 例, 本症では時に妊娠を契機に新たに診断される例が散見さ 後期新生児死亡が 3 例(先天性心疾患のため)あり,胎児・ れる. 新生児死亡率は 13 %であった.分娩様式や麻酔法と周 PPH における妊娠・出産の報告は 1964 年に遡る 221). 産期死亡との間に一定の関連はなかった.最近の研究で 本報告では 16 例の PPH 例における 23 回の妊娠結果につ は,本症における妊娠関連の死亡率は減少している可能 いて解析が行われた.妊娠期間中 9 例が死亡した.その 性が示されている.しかし,現在でも妊産婦死亡率は うち 7 例は突然死であり,6 例の死亡時期は妊娠最後の 30 〜 50 %と推定され,予後規定因子も明らかではな 2 か月であった. また 1978 年から 1996 年の 18 年間の肺 い 222). 高血圧症合併妊娠を集計した Weiss らの論文では,PPH については 27 例が報告されている.妊産婦死亡は 8 例(30 ③ その他の先天性心疾患に合併する肺高血圧症 %)であり,全例が出産後の死亡であった.呼吸困難や 短絡性の先天性疾患では,Eisenmenger 症候群の診断 チアノーゼが出現し,喀血,肺高血圧クリーゼが生じ, 基準には合致しないがこれに準じる高度肺高血圧の合併 肺血栓症例も存在した.妊娠 31 週未満の出産は 22 %, 例,修復術後も肺高血圧症の残存する例,小児期に心内 32 〜 36 週の出産は 37 %,満期の出産は 41 %であった. 修復術を行っているが,成人期になって肺高血圧が出現 新 生 児 の 出 生 時 体 重 は 低 い 傾 向 に あ っ た(1,978 ± している例など,様々な病態の症例が存在する.これら 758g).早産児の 3 例が死亡した.PPH の個々の臨床症 の症例における妊娠・出産時の現状については十分なエ 状や周産期における治療内容と予後とは相関しなかっ ビデンスはない.手術未施行の短絡性の先天性心疾患 / た 27). 肺高血圧合併例では,妊娠時に肺高血圧がさらに高度と ② Eisenmenger 症候群(「先天性心疾患」-「チ アノーゼ残存例」も参照) に対しては,Eisenmenger 症候群や PPH に準じて対応す 先天性心疾患において,体循環系 - 肺循環系間に両方 容能が保たれている場合には,慎重な経過観察が必要で 向性または逆方向性の血流短絡が存在し,体血圧と同程 あるが,特に問題なく妊娠を経過することもある. 度の肺高血圧症(肺血管抵抗が 10 wood 単位以上)が存 在する場合が Eisenmenger 症候群と定義されている. 本 なり,Eisenmenger 化する場合がある.このような妊婦 る必要がある.ただし,肺高血圧が高度でなく,運動耐 ④ 全身疾患の合併症としての肺高血圧症 症候群も肺高血圧臨床分類の第 1 群に属するが,病態生 PPH や先天性心疾患に関連する肺高血圧症以外にも, 理上では右 - 左短絡が存在する点で他の PAH と大きく異 結合組織病(膠原病)や門脈圧亢進症など多様な PAH なり,低酸素血症が高度であることを特徴とする. 合併例で妊娠の報告があるが,妊娠経過について情報の Eisenmenger 症候群例の妊娠については,1940 年代か 集積は少ない.高安大動脈炎,結合組織病に合併した ら 1978 年の間,44 例 70 回の妊娠結果について調査が行 PAH,薬剤性の PAH,肺血栓塞栓症,多発性末梢性肺 われ,妊娠関連死は 52 %,妊産婦死亡率は 30 %であっ 動脈狭窄など,25 例の肺高血圧症合併妊娠を分析した たとの報告がある 215).早産は 55 %で生じ,約 1/3 例で Weiss らの報告では,妊産婦死亡例は 14 例(56%)と極 は子宮内胎児発育不全がみられ,周産期の新生児死亡率 めて高く,全例が出産後の死亡であり,死因は心不全で は 28 %であった.その後,前記の Weiss 論文では,73 あったとしている 27). 例の Eisenmenger 症候群の妊娠結果が報告され,妊娠中 の死亡が 3 例,出産後 30 日以内の死亡が 23 例,その後 の死亡が 3 例あった.出産後に低酸素血症の増悪,肺高 血圧クリーゼ,徐脈,肺血栓塞栓症,脳血管障害,痙攣 などの様々な合併症が生じ,Eisenmenger 症候群例の出 産に関連した死亡例は 26 例(36 %)に達していた.死 36 3 肺高血圧症例に対する妊娠・出産時 の治療ガイドライン ① 避妊と中絶 基本的には,肺高血圧症例では妊娠を忌避することが 心疾患患者の妊娠・出産の適応、管理に関するガイドライン 強く推奨され,確実な避妊を行い,仮に妊娠した場合に は必要により早期の中絶処置を行うことを考慮する 223) . る増悪因子となる.また,静脈血栓症の危険性も 6 〜 10 倍となると考えられている.Eisenmenger 症候群では奇 妊娠時には,肺高血圧症の重症度の高い妊婦が必ずしも 異性塞栓の危険性も増加する.以上より,通常は抗凝固 予後不良とは限らない.危険性を十分認識した上で妊娠 療法が推奨されるが,妊娠中や分娩時において,母体・ を継続する場合には,適切な時期に入院し,専門チーム 胎児双方に致命的となる出血のリスクも増加するため, の十分な監視下に出産に臨むことが必須となる.循環動 抗凝固療法の可否については意見の一致がみられていな 態の不安定化や呼吸不全が進行した場合には,適切な時 い.海外では低分子ヘパリンが使用されているが,用量・ 期の帝王切開を考慮する(「妊娠継続の可否の判断」参 用法は標準化されていない.ワルファリンは,授乳中の 照).ただし,これまでの報告では,必要措置を行って 新生児への悪影響はないと考えられている.肺高血圧症 も肺高血圧症例での極めて高率の妊産婦死亡は改善され 患者では出産後も母体の病状悪化や急変があり,肺血栓 ていない. ② 生活制限 塞栓症の関与も想定されているので,出産後も 2 〜 6 か 月は抗凝固療法の継続が必要とされている. 3)肺血管拡張薬 心血管系への過負荷を避ける目的で,心拍出量の増大 肺高血圧症に有効な治療が行われ始めたのは 1995 年 を来たす過度の運動は避ける必要がある.妊娠子宮によ 以降で,肺高血圧症合併妊娠例の治療成績についてはま る下大静脈の圧迫を避けるために,安静時は左側臥位を だ十分なエビデンスはない.海外では重症例にエポプロ 試みる. ステノールを使用して出産に成功した例が報告されてい ③ 酸素吸入 る.ボセンタンは動物実験で催奇形性が報告され,妊婦 の肺高血圧症治療には適さない.シルデナフィルについ 正常妊婦の動脈血酸素分圧(PaO2)は 100mmHg 以上 ては,動物実験では安全性が示されているが,ヒトにつ に保たれている.動脈血酸素分圧が 70mmHg 以下では, いてはエビデンスが少ない 223). 子宮内胎児発育不全が生じることが報告されているた め, 肺 高 血圧 症合 併 妊 娠例 で も,動 脈 血酸 素 分圧を ⑤ 周産期の治療 70mmHg 以上に保つよう酸素吸入を続行することが必 通常,肺高血圧症合併妊娠では,妊娠 16 週頃より安 要とされている. 静強化が必要なる場合が多いとされているが,病状悪化 ④ 薬物療法 や子宮収縮が生じた場合には,より早期の入院が必要で ある.種々の内科治療と,心電図や経皮的動脈血酸素飽 肺高血圧症の妊婦に対する薬物療法(特に肺血管拡張 和度(SpO2)の監視が必要であり,動脈圧や肺動脈圧 薬)の使用の報告は少なく,十分なエビデンスは存在し の観血的な計測も必要となる場合がある.輸液は最小限 ない.一般論として,薬物療法の限界が近づいた場合は, となるよう注意する 223). 妊娠週数によって,人工妊娠中絶,または,分娩への移 行が推奨される(「妊娠継続可否の判断」や,下段の「分 ⑥ 分娩時期 娩時期」を参照).中等症以上の肺高血圧症の妊婦では, 分娩時期は母体と胎児の状況によって決定される.妊 分娩後の病状悪化の可能性も十分あるため,授乳を断念 娠 22 週以降は胎児の生存が可能な場合がある.そこで することも検討する.個々の薬物療法の詳細については, 妊娠 22 週までに母体の病状が悪化した場合には妊娠中 「弁膜症」─「抗凝固・抗血小板療法」や「抗心不全治療」 絶を考慮する(海外のガイドラインでは 24 週との記載 の項なども参照されたい. もある).比較的安定して妊娠が継続した場合には,母 1)利尿薬 体と胎児の状態を観察しつつ,分娩の至適時期を判断す 肺高血圧症患者で右心不全が悪化した場合は,利尿薬 る.母体の病状が進行性の場合は,早期の分娩を提案す の処方が避けられない場合がある.ループ利尿薬のトラ る.妊娠 34 週以降の分娩では,新生児の予後と生育は セミドやフロセミドが推奨される.スピロノラクトンは ほぼ正常であることが期待できるが,妊娠期間が長くな 抗アンドロジェン作用を持つことから推奨されない. るほど母体の危険性も増加する.しかしながら,より早 2)抗凝固療法 期に分娩すれば,分娩直後の母体の病状がより安定しや 妊娠中(特に妊娠後期)は,出産時の出血に対応する すいか否かは定かではない.肺高血圧例では出産直後に ため過凝固の状態にあるとされ,これは肺高血圧に対す 死亡事故が多いため,1 週間程度は集中治療室で十分な 37 循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2009 年度合同研究班報告) 監視が必要である.急変時には蘇生が不可能な場合があ ホスホジエステラーゼ 5(PDE5)阻害薬(シルデナ ることを,本人・家族に十分周知しておく必要がある. フィル:1 錠 20mg,1 日 3 回,食後):ホスホジエステ ラーゼ 5(PDE5)阻害薬は,cGMP の分解を阻害し,肺 ⑦ 分娩様式と麻酔 動脈平滑筋の弛緩,肺動脈圧の低下作用を示す. 視覚 分娩様式(帝王切開,経腟分娩)と麻酔様式(全身麻 異常(青視症・黄視症),四肢痛・筋痛などの副作用が 酔,局所麻酔)は,どの組み合わせについても成績に差 あるとされる.ニトログリセリン,硝酸イソソルビドな はないとの報告がある 224) .一般に肺高血圧症例では早 どとの併用は禁忌である. 産の場合が多く,この場合は出産時間が長くなり,緊急 エポプロステノール:エポプロステノールは化学合成 帝王切開が必要になることが多い.このため,準備を整 されたプロスタサイクリンナトリウム塩で,最も強力な えた予定手術が望ましい.麻酔は全身麻酔より負担の少 肺血管拡張作用を持つ.本薬剤は経口摂取が不可能であ ない局所麻酔(硬膜外麻酔,または脊髄麻酔の併用)が り,精密輸注ポンプを用いて,中心静脈を介した 24 時 好まれる. 間の持続静注が必要である.投与量症例によって大きな 4 差がある.本治療は肺高血圧症を専門とする施設で行わ 肺高血圧症治療薬(表 22) れることが望ましい. プロスタグランジン I2(プロスタサイクリン)誘導体 (ベラプロスト徐放錠:1 錠 60μg,1 日 2 回,食後,最 3 弁膜症 1 弁膜症と人工弁置換術後 大 6 錠まで):プロスタサイクリンは血管内皮で産生さ れる生理活性物質で,強力な肺血管拡張作用と血小板凝 集抑制作用を有し,血管平滑筋増殖抑制作用も持つと考 えられている.添付文書上は,妊婦または授乳婦への投 与は禁忌とされている. ① はじめに エンドセリン受容体拮抗薬(ボセンタン:1 錠 62.5 わが国では小児期のリウマチ熱はほとんどみられなく mg,1 日 2 回,食後,最大 4 錠まで) :エンドセリンは なり,結果として妊娠 ・ 出産可能な年齢のリウマチ性弁 血管内皮由来の強力な血管収縮物質で,血管平滑筋の増 膜症の患者は極めて少なくなった.一方,先天性心疾患 殖や炎症にも関与し,肺高血圧症の成立と進展に関連し 患者,特に術後患者において,弁逆流や弁狭窄を残存し ている.ボセンタンは エンドセリンの受容体への結合 た例の管理が重要となってきている.これら先天性心疾 を阻害し,血管拡張作用を示す.動物実験において催奇 患術後の弁膜症患者では,単独の弁膜症として病態を把 形性を示し,妊婦または妊娠している可能性のある女性 握するよりも,基礎疾患(房室中隔欠損症や単心室形態 に対しては禁忌となっている. など)の合併病変として病態を把握する必要がある.弁 表 22 肺高血圧治療薬の特徴(妊娠中および授乳中の使用) 薬 剤 分 類 FDA 勧告 特徴・副作用 催奇形性 使用中の授乳 経口投与 点滴静注 経口投与 肝障害 経口投与 視覚異常 なし なし 恐らく可能 恐らく可能 不明*2 潜在的毒性 ベラプロスト エポプロステノール プロスタサイクリン プロスタサイクリン B B ボセンタン エンドセリン受容体拮抗薬 X シルデナフィル PDE Ⅲ阻害薬*3 添付文書* 妊婦 授乳 1 1 2 1 1 2 2 1 ”(文献 11)に従った(空欄は記載のない薬剤) . 注)薬剤情報は“Drugs in Pregnancy and Lactation 8th edition(2008) *薬剤添付文書による, (妊産婦 / 授乳婦)への投与に関する情報. 1 禁 忌:妊婦または妊娠している可能性のある婦人には投与しないこと.また,投与中に妊娠が判明した場合には,ただち に投与を中止すること.授乳中の婦人に投与することを避け,やむを得ず投与する場合には授乳を中止させること 2 相対禁忌:治療上の有益性が危険を上回ると判断される場合のみ投与すること.妊娠または妊娠している可能性のある婦人に は投与しないことが望ましい.妊娠中の投与に対する安全性は確立されていない * 2 ボセンタンは動物実験で催奇形性を報告されているが,ヒトでの使用においては不明である * 3 ホスホジエステラーゼⅢ阻害薬 【注意事項】 1)妊婦への使用に際しては,適応・禁忌を確認すること. 2)適応外または禁忌とされる薬物を使用する場合は,十分な説明と同意を得ること. 38 心疾患患者の妊娠・出産の適応、管理に関するガイドライン 膜症患者の妊娠に関しては,証拠レベルの高いランダム 一般に,弁逆流性疾患は,弁狭窄性疾患と比べ,妊娠 化比較研究はなく,症例報告または観察研究の報告があ に耐容しやすいとされる.重症大動脈弁狭窄,大動脈弁 る の み で,ACC/AHA task force の 弁 膜 症 ガ イ ド ラ イ または僧帽弁逆流で NYHA 分類ⅢまたはⅣ度,僧帽弁 ン 60),ESC task force の弁膜症ガイドライン 225),および 狭窄症で明らかな症状のあるもの,肺高血圧(肺動脈圧 スペイン心臓病学会の心疾患の妊娠ガイドライン の中 が体血圧の 75%以上),左室駆出率< 40%,機械弁置換 に記載がある. 術後,Marfan 症候群(大動脈弁逆流の有無に関係なし) 妊娠中は生理的に循環血漿量が 40 〜 50%増加し,心 は,妊娠・出産における母体と胎児双方のリスクが高い 拍出量も増加し,心拍数も 10 〜 20/ 分増加する.これら とされる 58),60).上に述べた病態以外では,妊娠・出産 の変化は妊娠第 1 期から徐々に始まる.総論に述べたよ は比較的安全とされている(表 23). うに,妊娠中にはエストロゲンやエラスターゼの影響で 先天性・後天性の弁膜症(人工弁置換術後を含む)は, 血管壁の構造にも明らかな変化が生じ,その脆弱性が増 弁逆流を伴わない僧帽弁逸脱を除いて,感染性心内膜炎 す.一方,娩出中は子宮が収縮し,血圧も上昇するなど のリスクが高いと考えられる.これらの疾患においては, 循環器系へ与える影響も大きい(「妊娠・分娩の循環生理」 産科的手術・手技や分娩時において,予防投薬が推奨さ 参照).これらの影響は,逆流症か狭窄症か,またどの れる(「感染性心内膜炎」参照). 弁かによって異なってくる. 1)リウマチ性僧帽弁狭窄症 58) 弁口面積< 1.5cm2,または,NYHA 心機能分類の悪 ② 概 要 い例はハイリスクであり,NYHA 分類Ⅳ度では母体の 心臓超音波検査などで,妊娠前の弁膜症の状態を可能 死亡率 30%との報告がある 226). な限り評価しておく必要がある.循環動態,肺高血圧症 軽症で症状が比較的軽い場合は,利尿薬を中心とした の程度,弁の状態などの評価は必須である.BNP 値は 内科的治療を行う.また,塩分制限や安静も必要である. 弁膜症の重症度評価に有用であり,妊娠前および妊娠経 心拍数を減少させるためにβ遮断薬の使用も考慮され 過中の心負荷の指標となる可能性がある.現病歴の聴取 る 227).ただし,β遮断薬は胎児の胎内発育不全,徐脈, の際に,患者の運動能力,心不全の病歴の有無,随伴す 低血糖,子宮収縮を起こす可能性が危惧されるため,そ る不整脈の状態などについて,詳しく聞くことが必要で の適応は慎重に判断し,もし使用する場合には,可能な ある. 限り低用量から使用を開始し,血中濃度をモニターする 表 23 母児のリスクから分類した妊娠と弁膜症ガイドライン 母児ともに低リスク 大動脈弁狭窄症 無症候性 左室機能正常 平均圧較差< 25mmHg 弁口面積> 1.5cm2 大動脈弁逆流症 NYHA 心機能分類Ⅰ~Ⅱ度 左室機能正常 僧帽弁狭窄症 重度の肺高血圧合併なし 弁口面積> 1.5cm2 圧較差< 5mmHg 僧帽弁逆流症 NYHA 心機能分類Ⅰ~Ⅱ度 左室機能正常 僧帽弁逸脱症 母児ともに高リスク 重度狭窄 重度肺高血圧合併 左室機能低下 NYHA 心機能分類Ⅲ~Ⅳ度 重度肺高血圧合併 左室機能低下 NYHA 心機能分類Ⅱ~Ⅳ度 重度肺高血圧合併 左室機能低下 NYHA 心機能分類Ⅲ~Ⅳ度 重度肺高血圧合併 左室機能低下 僧帽弁逆流なし または軽─中等度の僧帽弁逆流あるも左室機能正常 軽─中等度狭窄 肺動脈弁狭窄症 ◦母児への高リスク 重度肺高血圧合併(肺動脈圧が体血圧の 75%以上) 左室機能低下(左室駆出率< 40%) 抗凝固療法を必要とする機械弁置換術後 Marfan 症候群 ◦母児への低リスク 左室機能正常(LVEF > 50%) (文献 1 参照) 39 循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2009 年度合同研究班報告) ことが望ましい. 能である.薬物治療としては,利尿薬やヒドララジンな 妊娠前から心房細動がある場合は,全身性血栓塞栓症 どの血管拡張薬が使用される.妊娠中のアンジオテンシ のリスクが高いため,抗凝固療法を妊娠前から妊娠全期 ン変換酵素阻害薬の使用は,避けることが望ましい 230). 間を通して行う必要がある(「弁膜症」─「抗凝固・抗血 左室機能の低下している大動脈弁逆流症の場合は,妊 小板療法」参照).妊娠後に初めて心房細動に移行した 娠のリスクは高まる.Marfan 症候群の場合は,妊娠中 場合は,心拍数コントロールの目的でβ遮断薬またはジ に急激な大動脈解離を生じることもあるので,妊娠継続 ゴキシンが用いられる.洞調律への復帰が期待されると には慎重な判断が必要である(「大動脈疾患」-「Marfan きには,プロカインアミドが用いられる 228) .効果がな 5)肺動脈弁狭窄症 を用いた左心耳内血栓の評価は,妊娠前より実施する必 無症状の肺動脈弁狭窄症の場合は,妊娠・出産が通常 要がある.近年,カテーテル・アブレーションの技術が 可能である.狭窄程度の増悪のために,妊娠中にバルー 進歩したため,可能な限り妊娠前にカテーテル・アブレ ン弁形成術が施行された報告がある.妊娠中,心臓超音 ーションの適応を検討することが望ましい. 波検査による肺動脈血流評価は困難になることが多いた 中等度以上の狭窄の場合(弁口面積< 1.0cm2)は,弁 め,三尖弁逆流波形の計測による推定右室圧で判断する 病変の形態が適しているならば,妊娠前に僧帽弁のバル 必要もある. ーン形成術(もしくは手術による交連切開術)を考慮す る.妊娠中に僧帽弁狭窄が進行した例でのバルーン形成 術の報告もある. ハイリスク症例の場合は,抗凝固療法を行っていない 2 抗凝固・抗血小板療法 ① 概 要 場合に限り,硬膜外麻酔による分娩が勧められる.さら 妊娠時の抗凝固療法や抗血小板療法は,母体のみなら に,分娩前より Swan-Ganz カテーテルを挿入し,循環 ず児への影響もあるため,その実施にあたっては十分な 動態をモニタリングすることが推奨される 229) . 説明と同意を得る必要がある.機械弁による弁置換術を 2)僧帽弁逆流症 受けた患者の場合には,生涯にわたる抗凝固療法が必要 今日の日本では,妊娠可能年齢の女性の僧帽弁逆流症 であるが,これは妊娠中も例外ではない.むしろ妊娠時 の多くは,僧帽弁逸脱症が原因である.僧帽弁逆流症の には凝固能が亢進するため,十分な抗凝固療法が行われ 場合は,妊娠により体血管抵抗が減少することより,多 ていても,1 〜 4 %の母体死亡が報告されている 60),231). くの場合は妊娠に耐容可能である.症候性の僧帽弁逆流 人工弁患者以外の,深部静脈血栓症および心房細動でワ 症患者で,逆流の原因が僧帽弁逸脱症の場合は,僧帽弁 ルファリン治療中の場合も問題となる. 形成術によって改善することも多いので,妊娠前に手術 を受けることが推奨される. ② 各薬剤での注意点(表 24) 肺うっ血などの症状があれば利尿薬を投与し,高血圧 1)ワルファリン があればヒドララジンで対処する.アンジオテンシン変 非妊娠時における長期経口抗凝固療法薬として確立し 換酵素阻害薬は,胎児毒性と催奇形性の可能性があるた ているが,妊娠初期におけるワルファリンの使用は,胎 め,妊娠中の使用は避けることが望ましい 40 症候群」参照). い場合には,直流除細動を行う.経食道心臓超音波検査 230) .腱索断 児に対する催奇形性の問題より勧められない.ワルファ 裂による急性増悪の場合には,緊急手術による腱索修復 リンは分子量が小さく胎盤通過性があり 232)-234),FDA が必要である. の妊娠時における薬剤使用のカテゴリー(表16)では「D」 3)大動脈弁狭窄症 に分類されている(レベル C). 「先天性心疾患」─「非チアノーゼ性心疾患(非手術例 ①ワルファリンの催奇形性 または修復術後)」-「先天性大動脈弁狭窄症」の項を参 妊娠初期(6 〜 12 週)に母体にワルファリンが投与さ 照. れると,胎児に対する催奇形性があることが知られてい 4)大動脈弁逆流症 る.最も多い異常は,骨形成,軟骨形成の異常である. 大動脈弁逆流症の原因には,Marfan 症候群による弁 次に多いのは,脳神経の発達の異常で,小脳症などがあ 輪拡大,大動脈二尖弁,感染性心内膜炎による弁破壊な る.催奇形性は用量依存性といわれ,1 日量 5mg 以下で どがある.妊娠に伴って全身血管抵抗が低下するため, はそれを含め全体のリスクが少ないとされてい 無症状の大動脈弁逆流症は,多くの場合,妊娠に耐容可 る 235),236).催奇形性の危険率の高さについては一定して 心疾患患者の妊娠・出産の適応、管理に関するガイドライン 表 24 抗凝固・抗血小板薬の特徴(妊娠中および授乳中の使用) 分 類 FDA 勧告 ワルファリン クマリン誘導体 D ヘパリン 未分画ヘパリン C 低分子ヘパリン B B 抗血小板作用 C 抗血小板作用 抗血小板作用 B B 薬 剤 エノキサパリン ダルテパリン アスピリン (低用量) ジピリダモール チクロピジン 特徴・副作用 催奇形性(骨・軟骨形成,脳神経系) 胎児の出血性合併症 長期投与で脱灰化促進(母体の骨折) ワルファリンより血栓症の頻度が高い ヘパリン惹起性血小板減少の報告 心血管疾患の血栓予防に適応なし 比較的安全と考えられる 使用量によらず妊娠 28 週以降は使用不可 低血圧,狭心症状の悪化 出血,肝障害 添付文書* 妊婦 授乳 催奇形性 使用中の授乳 あり 可能 1 なし 可能 1 なし なし 可能 可能 2 1 2 1 なし 潜在的毒性 2 1 なし なし 恐らく可能 潜在的毒性 2 2 1 1 1 ”(文献 11)に従った. 注)薬剤情報は“Drugs in Pregnancy and Lactation 8th edition(2008) . *薬剤添付文書による, (妊産婦 / 授乳婦)への投与に関する情報(空欄は記載のない薬剤) 1 禁 忌:妊婦または妊娠している可能性のある婦人には投与しないこと.また,投与中に妊娠が判明した場合には,ただち に投与を中止すること.授乳中の婦人に投与することを避け,やむを得ず投与する場合には授乳を中止させること 2 相対禁忌:治療上の有益性が危険を上回ると判断される場合のみ投与すること.妊娠または妊娠している可能性のある婦人に は投与しないことが望ましい.妊娠中の投与に対する安全性は確立されていない.授乳中の婦人に投与する場合に は,本剤投与中は授乳を避けることが望ましい 【注意事項】 1)妊婦への使用に際しては,適応・禁忌を確認すること. 2)適応外または禁忌とされる薬物を使用する場合は,十分な説明と同意を得ること. いない. 部位の膿瘍,血小板減少,出血などが問題となる. ②胎児の出血性合併症 ヘパリンによる抗凝固療法を行った場合と,妊娠中を 胎児は酵素系とビタミン K 依存性凝固因子が未発達 通してワルファリンによる経口抗凝固療法を行った場合 のため,母体よりもワルファリンの影響が容易に出現す を比較すると,ヘパリン群で有意に血栓症の発生が多く る.このため,34 〜 36 週目までにはワルファリンの投 12 〜 24 %に達し,特に血栓弁などの重症な合併症が起 与は中止し,ヘパリンの点滴静注で抗血栓療法を行いな こり得るとされる 243). がら,娩出中の胎児出血死を予防することが望まし ③投与量の調節 い 237) .特に,ワルファリンの効果が持続している場合は, AHA/ACC のガイドラインによると,1 日 2 回,1 日量 帝王切開の適応となる. 35,000IU で開始されるべきとされているが,個体差が大 ③母乳栄養児への影響 きいため,慎重に投与量を選択する.ヘパリン効果のモ 乳汁中へはワルファリンの不活性な代謝物のみが移行 ニターは,APTT あるいはヘパリン活性を用いて少なく さ れ, 授 乳 中 の 乳 児 へ 悪 影 響 は な い と 言 わ れ て い とも週 2 回は行う必要があるが,日内変動が大きいため, ) る 238),239(レベル C). データの解釈には注意を要する.また,ヘパリン結合蛋 2)ヘパリン 白の増加のため,妊娠後期においては,ヘパリンの必要 未分画ヘパリンは分子量が大きく胎盤移行性がないた 量がより高くなることを考慮する必要がある 244),245). め,胎児に害を及ぼすことはない 240).FDA の妊娠時に ④分娩法 おける薬剤使用のカテゴリーでは「C」に分類される. 経腟分娩では,抗凝固薬非投与の場合に比べて出血量 ①問題点 は変わらないとされている.帝王切開の場合は,ヘパリ ヘパリン療法の問題点は,有効な治療域をどう維持す ン点滴静注により多量出血を合併することが報告されて るかという点である.妊娠時は,ヘパリンの必要量が非 いるので,帝王切開の開始 4 時間前までには,ヘパリン 妊娠時に比べて多くなる.これは,妊娠時におけるヘパ の点滴靜注を中止する.ヘパリン投与中の妊婦が急に帝 リン結合蛋白の増加,循環血漿量の増加,凝固因子の増 王切開の必要に迫られたときは,プロタミンを用いてヘ 加,腎臓のクリアランスの問題などによる. パリンの作用の中和を行う.ヘパリン(未分画ヘパリン, ②副作用 あるいは低分子ヘパリン)は,分娩後に再開し,4 〜 5 長期間にわたるヘパリンの投与は,脱灰化を促進し, 母体の骨折のリスクを大きくする 日間はワルファリンと併用する. 241),242) .その他,注射 41 循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2009 年度合同研究班報告) 3)妊娠時の抗凝固療法についての米国ガイドライン ヘパリン惹起性血小板減少が報告されている.著しい 弁膜症や深部静脈血栓症など,妊娠中にもかかわらず, 血小板減少が認められた場合については,ヘパリンの 抗凝固療法が必要な場合について,以下のような 3 つの 方法が推奨されている 246). 点滴静注は困難である. 4)我が国の実態に沿った人工弁置換術後の妊娠時の抗 (1)抗 Xa 活性値や体重により用量調節した低分子ヘパ *注 1,2) リンを,妊娠全期間にわたって使用する . (2)APTT 値により強力に用量調節した未分画ヘパリ ンを,妊娠全期間にわたって使用する *注 1,3) ) 凝固療法 248(図 6) 人工弁置換術後女性の妊娠・出産にあたって最も重要 なことは,たとえ現時点での心機能や人工弁機能が良好 であり,適切な抗凝固療法を行っていても,母体の血栓 . (3)妊娠 13 週まで未分画または低分子ヘパリンを使用 塞栓症のリスク,ワルファリン内服による胎児の催奇形 し,その後,妊娠第 3 期の中期までワルファリンの 性,頭蓋内出血などのリスクが存在する事実があること, 内服を行い,分娩まで再び未分画または低分子ヘパ また適切な管理方法が確立していないことを,(できれ リンを使用する. ば妊娠・出産に先だって)時間をかけて説明することで ただし,最近のデータによれば,低分子ヘパリンでは ある.その上であえて妊娠・出産を希望する場合は,次 血栓弁のリスクが高いという報告もみられ,妊娠中の低 のような方法が勧められる. 分子ヘパリンの治療については意見の統一をみていな ワルファリンおよびヘパリンの項で記したように,妊 い 娠第 1 期には,ワルファリンによる胎児奇形発生の恐れ 247) . *注 1)我が国においては,インスリンのようにヘパリ があるため,ワルファリンから未分画ヘパリンまたは低 ンの皮下注射を患者自身が行うことは保険診療上認め 分子ヘパリンへの変更が必要となってくる.低分子ヘパ られていない. リンの場合,ヘパリンの自己注射の練習および,ヘパリ *注 2)我が国においては,低分子ヘパリンの使用は, ンの用量決定のために,短期間入院することが望ましい. 限られた保険適用しかなく,弁膜症や深部静脈血栓症 妊娠第 14 週以降は患者に,ヘパリンの皮下注射をそ の血栓塞栓症予防に用いることは認められていない. のまま使用し続けるか,ワルファリンの経口投与に変更 *注 3)未分画ヘパリン使用時の合併症として,最近, するかの選択がある.ヘパリンは血栓症予防効果が不確 図 6 機械弁置換術後の妊娠中の抗凝固療法 (妊娠前よりワルファリンを内服していた女性の場合) 母体・胎児へのリスクの説明 (本人と家族に) 抗凝固療法の評価 ワルファリンのみ (<5mgは安全か?) はじめの6∼12(14)週:ヘパリン 次の13(15)∼33(35)週:ワルファリン 34∼36週:ヘパリン持続静注 分娩:ヘパリン持続静注中止 産褥:ヘパリン持続静注,ワルファリン再開 ワルファリンのみ 42 妊娠中絶 ヘパリンのみ 心疾患患者の妊娠・出産の適応、管理に関するガイドライン 実であり,ワルファリンの経口投与への変更が母体にと って望ましいと思われる 249) . 皮的僧帽弁形成術を行うことにより,抗凝固療法が不要 となる可能性がある. 妊娠 36 週には,ワルファリンの経口投与は中止し, 2)僧帽弁逆流症に対する僧帽弁形成術 凝固能をモニタリングしながら用量を調節したヘパリン 僧帽弁逆流症の場合,機械弁による僧帽弁置換術の代 の点滴静注に切り替える. わりに,僧帽弁形成術を行うことが可能ならば,抗凝固 分娩の方法は,人や施設の準備が事前に整いやすい予 療法が不要となる. 定帝王切開が望ましい. 3)僧帽弁・大動脈弁疾患に対する生体弁による置換術 5)深部静脈血栓症の予防としての抗凝固療法および治療 生体弁は抗凝固療法が不必要なことがメリットであ 妊娠中は凝固能の亢進がみられる.特に,深部静脈血 る.しかし,機械弁に比較すると,生体弁の耐久性は劣 栓は妊娠中に生じやすくなる 250).プロテイン C や S の る.挙児希望が強い場合,まずは生体弁による弁置換術 異常のほか,プロトロンビンの異常を持った症例では, を行い,児を得た後に生体弁が劣化した場合に,機械弁 少なくとも 8 倍リスクが高いといわれる 251).妊娠中に による 2 度目の弁置換術を考慮するという,二段構えの 深部静脈血栓症を発症するリスクの高いものは,体内に 方法もあり得る.しかし,この場合は開心術を 2 回行う 抗凝固能を持つ因子の先天性の異常,深部静脈血栓症の ことになるので,十分な説明と同意が必要である. 既往,抗リン脂質抗体症候群で死産・流産の経験のある もの,などである. 4 大動脈疾患 1 Marfan 症候群 58),252)-259) 抗凝固療法としては,分娩まで未分画ヘパリンの皮下 注投与と,それに引き続く産褥 4 〜 6 週間のワルファリ ンによる経口抗凝固療法を行う 250). 治療は非妊娠時のそれと同じに行われる.すなわち, APTT がコントロールの 1.5 〜 2 倍になるように調節し ① 病 態 たヘパリンの点滴静注を行う.症状が安定したら,ヘパ 手の指や上下肢が長いなどの特徴のある体型,眼病変, リンの皮下注を分娩まで続け,産褥 4 〜 6 週間はワルフ および心臓大血管病変を示す症候群である.常染色体優 ァリンによる経口抗凝固療法を行う. 【付記】(表 24) 性遺伝の遺伝性疾患であるが,30 %ぐらいは突発性に 発症する.心臓大血管病変として重篤な大動脈瘤や心臓 抗血小板薬の妊婦に対する安全性(FDA の薬剤胎児危 弁膜症を合併することから,その自然経過は予後に重大 険度分類) な影響を及ぼすことが知られている.多くは 20 〜 40 歳 虚血性心疾患,川崎病冠動脈病変や不整脈に合併する に発病するが,特に大動脈解離の発症を予測することは 妊娠,あるいは妊娠高血圧症候群などにおいて,低用量 困難であり,突然死や緊急手術を回避することは現状で アスピリンなどの抗血小板療法を行うことがある. は難しいと考えられる. (1)アスピリン:低用量投与の場合は「C」.妊娠第 1 Stanford A 型解離は,大動脈弁輪拡張症(annuloaortic 期および 3 期の高用量投与の場合は「D」.我が国で ectasia:AAE)に合併することがほとんどであるが,上 は「出産予定日の 12 週以内の妊婦には(用量にか 行大動脈(Valsalva 洞を含む)の最大径が 50mm 以上で かわらず)禁忌」とされている.したがって,投与 解離することが多いといわれている.しかし,その中で する際には十分な説明と同意が必要である. 5%以下の少数例は 40mm 前後で解離するという報告が (2)ジピリダモール:「B」 ある.また,Stanford B 型解離は,上行大動脈径と解離 (3)チクロピジン:「B」 との関係が不明であり,発症の予測は非常に困難である. ③ そ の他,別の観点から見た,妊娠を希望する 弁膜症を持つ若年の女性に対する処置 抗凝固療法に伴う様々な問題を避けるために,次のよ うな処置を妊娠前に行っておくことが考えられる. したがって,Marfan 症候群において,予測できない解 離の発症により,緊急手術や突然死の心血管事故が起こ る可能性があることを説明することが重要である. ② 妊娠・出産(表 25) 1)僧帽弁狭窄症における経皮的僧帽弁形成術(PTMC) 妊娠による変化として,大動脈壁中膜には細網線維の 人工弁置換の適応となるよりも軽症の僧帽弁狭窄症 断裂,酸性ムコ多糖体の減少,弾性線維配列の変化,平 で,心房細動が存在しない場合などは,可能であれば経 滑筋細胞の増殖と過形成がみられ,その結果として動脈 43 循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2009 年度合同研究班報告) 壁のコンプライアンスが上昇すると,Marfan 症候群の 解離の発生は少なく,通常分娩が可能である.しかし, 大動脈壁は極めて脆弱となる.さらに,妊娠・出産によ 解離や大動脈瘤破裂が経過中に発症する可能性について る心臓大血管に対する容量負荷や圧負荷(疼痛刺激や怒 説明する.上行大動脈径のモニターは,上段に述べたと 責も)が加わることにより,妊娠中期から末期,または 同様に行い,拡大傾向のないことを確認する.上行大動 分娩時や分娩後の,大動脈解離や大動脈瘤破裂を合併す 脈径の拡大傾向が認められた場合は,妊娠中絶を勧める. ることがある.また,弁膜症は心不全の原因になる.し 出産を希望する場合は,前述の 40mm 以上と同様に行う. かし,大動脈瘤の初期病変や心疾患のない場合は,正常 一般的に,40 〜 45mm 以上の上行大動脈拡張を伴う 分娩が比較的安全に行われている.遺伝は 50 %の確率 Marfan 症候群に対して,大動脈解離の予防を目的とし で起こり,乳児期に発症する例もある. て,β遮断薬の投与が行われることが多いが,投与開始 妊娠・出産をより安全に行うためには,妊娠前に心臓 の基準に定説はない.Marfan 症候群合併の妊娠にβ遮 ならびに全身の血管の検査を行い,外科治療の適応のあ 断薬を使用する場合は,β遮断薬の母体と胎児への影響 る心疾患や大動脈疾患は,妊娠前に手術を受けるよう指 に注意する必要がある. 導し,術後回復してから再検討を行うことが必要である. 弁膜症(大動脈弁および僧帽弁逆流症)発症の可能性 妊娠前に上行大動脈(Valsalva 洞を含む)の最大径が について説明する.また,経過中に心不全を発症し,妊 44mm 以上の場合は,妊娠をしないよう指導する.妊娠 娠継続が困難となり,母児ともに危険な状態になる可能 を継続する場合は,大動脈瘤破裂や解離した場合の手術 性について説明する. ができない可能性や,手術を行っても母児ともに救命で 僧帽弁逆流症併発例については,弁膜症のガイドライ きない可能性が高いことを説明する.それにもかかわら ンに準じて治療を進める. ず妊娠し,妊娠の継続を希望した場合には,上行大動脈 妊娠年齢に達した Marfan 症候群は,既に何らかの弁 径の変化のモニターが必須である.そのためには,心臓 膜症を合併している可能性が高く,特に僧帽弁逸脱と僧 超音波検査の反復が必要となるが,妊娠中期から後期に 帽弁逆流を伴う場合は心内膜炎のリスクが高い.よって, かけては週に 1 回以上行い,上行大動脈径の拡大のない 弁 膜 症( 人 工 弁 置 換 術 後 も 含 む ) を 合 併 し て い る ことを確認する.急速な上行大動脈径の拡大を認めた場 Marfan 症候群では,産科的手術・手技や分娩に際して, 合は,母体の安全のため妊娠中絶の適応となる.上行大 抗菌薬の予防投薬を推奨する(「感染性心内膜炎」参照). 動脈径の拡大を伴う Marfan 症候群では,帝王切開分娩 を基本とするが,心臓血管外科のある病院で行うことが 2 ) 26) 高安病 260)-262(表 強く推奨される.麻酔科との緊密な連携が重要であり, 主に若い女性に発症する結合組織病(膠原病)で,動 血圧や疼痛管理を厳重に行う必要がある.上行大動脈の 脈の炎症を主体とし,動脈の狭窄や閉塞により症状が出 最大径が 40mm 以上 44mm 未満の場合も同様の経過観察 現する.大動脈に炎症が波及すれば,大動脈弁逆流,大 を行う. 妊娠前の上行大動脈の最大径が 40mm 未満の例では, 表 25 Marfan 症候群の妊娠・出産におけるポイント ①遺伝する可能性が 50%あることを説明する( 「遺伝カウン セリング」参照) ②外科治療の適応がある場合,妊娠前に手術を受けるよう指 導する ③上行大動脈径(Valsalva 洞を含む)44mm 以上か,大動脈 解離がある場合は,妊娠しないよう指導する それ以下は,妊娠可能と告げるが,解離による急変の可能 性を説明する ④上行大動脈径 40mm 未満は,通常分娩が可能である(レベ ル B) ⑤僧帽弁逆流症は,弁膜症のガイドラインに準じて治療を進 める ⑥必要に応じてβ遮断薬を投与する(母体と胎児への影響に 注意する) ⑦血圧管理や疼痛管理を厳重に行う 44 表 26 高安病の妊娠・出産におけるポイント ①未治療の腹部異型大動脈縮窄では,腎性高血圧から心不全, 腎不全が報告されている 敗血症,妊娠高血圧腎症となることもあり予後不良である (レベル B) ②異型大動脈縮窄─大動脈縮窄のガイドラインに準じる ③大動脈弁逆流症─弁膜症のガイドラインに準じる ④大動脈瘤(大動脈弁輪拡張症を含む)─ Marfan 症候群に準 じる ⑤虚血性心疾患(冠動脈入口部狭窄)─外科治療後の適応を 検討する ⑥高血圧症に対しては,β遮断薬を投与し,ACE 阻害薬(ARB) は用いない ⑦ステロイド治療の継続をするが,投与量増量に至ることは まれである ⑧自己免疫性疾患,結合組織病(膠原病)としての病態に注 意する ACE 阻害薬:アンジオテンシン変換酵素阻害薬,ARB:アン ジオテンシン受容体拮抗薬 心疾患患者の妊娠・出産の適応、管理に関するガイドライン 動脈瘤,大動脈縮窄などを合併することがある.鎖骨下 動脈や冠動脈に狭窄がみられることもある.また,肺動 先天性大動脈縮窄症 3 脈に炎症が波及すれば,肺高血圧症を合併し,心肺機能 未修復例は妊娠中に高血圧,左心不全,さらに大動脈 の低下を来たす. 瘤形成,大動脈解離などの重大な合併症が認められるこ 妊娠・出産の報告はあるが,多数例の報告は認められ とがある.しかし,修復術後は,母児とも良好な妊娠・ ないため,指針を記載するのは困難と考え,少数例の報 出産経過をとることが多い 263),264). 告をまとめ情報を記載する. 大動脈縮窄症や,合併頻度の高い大動脈二尖弁では, 妊娠・出産は基本的に可能であるが,高血圧を認める 大 動 脈 壁 に い わ ゆ る 嚢 胞 性 中 膜 壊 死(cystic medial 場合には,計画的に高血圧をコントロールして妊娠高血 necrosis)を伴い,大動脈中膜弾性線維の断裂により大 圧腎症,腎不全および心不全に注意して出産へと導くこ 動脈壁の脆弱化を生じる 41),265).妊娠中は大動脈壁の組 とが重要である.子宮内胎児発育不全や低出生体重児も 織学的変化が進行し,容量負荷が加わるため,著明な大 多く,流産・死産も少なくない. 動脈拡張が起こりやすい.拡張が進行し,大動脈瘤形成, 外科治療の適応のある心疾患や大動脈疾患は,妊娠前 破裂,解離を生じることがある 173),266).これらの合併症 に手術を受けるよう指導する.腹部の未治療の異型大動 の頻度は低いが,大動脈拡張を伴い,妊娠中に高血圧を 脈縮窄を有する場合,腎性高血圧から心不全や腎不全と 合併する場合は,安静,β遮断薬投与での管理を必要と なることが報告されている.また,敗血症や妊娠高血圧 ) する 263(レベル B).また,大動脈縮窄症の妊娠では, 腎症を合併することもあり,この場合の予後は不良であ 高血圧の合併が 22%程度にみられる 267),268). る. 大動脈縮窄症や,合併頻度の高い大動脈二尖弁は,心 ステロイド治療は継続する.妊娠・出産例は,妊娠前 血管内膜炎または感染性心内膜炎のリスクがある.そこ からプレドニゾロン内服量 5 〜 15mg/ 日でコントロール で,分娩時や産科的手術・手技の際の予防投薬を推奨す がついている場合が多く,妊娠中は炎症反応が軽度に増 る(「感染性心内膜炎」参照) . 加したか,あるいは不変であった.帝王切開術前後にプ レドニゾロン内服を中止とし,水溶性プレドニゾロンの ① 未修復大動脈縮窄症 静脈内投与に切り替える.出産後も,プレドニゾロン内 未修復大動脈縮窄例は,少なからず母体死亡(3 〜 9%) 服を続けるが,維持量程度であれば母乳栄養に問題はな を認めたが 263),269),適切な高血圧治療により,死亡例は いとされている.動脈の狭窄部位があるなどの理由で低 まれとなった 264).妊娠中に大動脈瘤,大動脈解離,大 用量アスピリン(80 〜 100mg/ 日)を内服する場合もある. 動脈瘤破裂 266),269),左心不全 269),Willis 動脈輪の動脈瘤 妊娠中および授乳中の低用量アスピリンの内服は,一般 破裂を生じることがある 10).収縮期圧を 140mmHg 以下 的には比較的安全と考えられているが,添付文書上は, に保つことを目標とし, β遮断薬を使用する(レベル C). 出産予定日 12 週以内および授乳中の内服は禁忌扱いと しかし,血圧が下がりすぎると胎盤血流が減少するため, されている.よって,以上の状況で使用する際は,説明 定期的な血圧測定が必要である 264),271). と同意を得る必要がある(「弁膜症」─「抗凝固・抗血小 ) 胎児死亡は 10 〜 25 %に認められる 263),264),268(レベル 板療法」参照).その他,結合組織病として,感染,貧 B).胎盤血流量は一般と比べて減少している場合が少 血 (鉄欠乏性),凝固因子異常などにも留意して管理する. なくないが,生産児の出生時体重は一般と同様である 異型大動脈縮窄については,次項の「先天性大動脈縮 264),271) 窄症」に準じる.大動脈弁逆流症併発例では,「弁膜症」 に準じる.大動脈瘤(AAE を含む)では,前項の「Marfan 症候群」に準じる.虚血性心疾患(入口部狭窄)では, まず外科治療を行い,その後の妊娠・出産の適応を検討 する(「虚血性心疾患」参照). 血管炎であり,ステロイド治療中であることが多く, 弁膜症の合併も少なくない.よって,血管内膜炎や感染 (レベルC). 未修復の大動脈縮窄症は,妊娠前に手術ないしはカ テーテル・インターベンションによる修復を受ける ことが望ましい.縮窄より遠位部の過度の低血圧は, 流産や胎児死亡を合併することがあるため,未修復 の妊婦の高血圧治療は注意を要する. (レベル B,文献 263,271) 性心内膜炎のリスクが高いと考えられる.以上より,産 妊娠中でも大動脈縮窄症の修復は可能だが,内科的 科的手術・手技,分娩に際して,予防投薬を推奨する(「感 治療が困難な心不全や大動脈解離が認められる場合 染性心内膜炎」参照) . を除くと推奨されない.妊娠中は大動脈壁が脆弱化 45 循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2009 年度合同研究班報告) し,大動脈解離の危険が増加するため,妊娠中のバ る 273)ことなどから,妊婦に肥大型心筋症が潜在的に合 ルーン血管形成術は推奨されない.しかし,ステン 併している可能性は少なくない. トを併用すれば,比較的安全に施行できる可能性が 肥大型心筋症合併妊娠では,循環血漿量の増加と体血 ある. 管抵抗の低下により,左室流出路収縮期圧較差が増大す (レベル B,文献 272) るため,僧帽弁逆流も増強し,うっ血性心不全を発症す ることが危惧される.しかし,実際には妊娠前に胸痛, ② 大動脈縮窄症修復術後 労作時呼吸困難,失神などの症状を有する例でも,これ らの症状が悪化することは少なく,逆に妊娠により胸部 修復術後の多くは,安全な妊娠・出産が可能である. 症状が軽快する例もあり,大部分の例は妊娠に耐え得る 上行大動脈拡張,大動脈弁狭窄遺残,大動脈弁逆流の観 275),276) 察が必要だが,特にパッチ修復術後やバルーン形成術後 脳血管障害の合併は多くないとされてはいるが,特に家 では,修復部大動脈瘤形成に注意する必要がある.心臓 族歴を有する肥大型心筋症合併妊婦では,心血管イベン MRI 検査は妊娠中も施行可能であり,合併症の診断に トによる入院が多いとする報告もある 277).うっ血性心 有用である 263) .有意な狭窄がなくとも,妊娠中に高血 圧を伴うことが少なくない 267) ため,定期的な血圧測定 .肥大型心筋症合併妊娠でも,うっ血性心不全, 不全,狭心痛,心房細動などの臨床症状を発症した症例 ) は,各種の治療に対して反応しにくい 278(レベル B). が必要である 271).高血圧を合併する場合は,β遮断薬 閉塞性肥大型心筋症では,感染性心内膜炎のリスクが高 ) 投与が有効である 263(レベル B).修復術後も未修復例 いため,産科的手術・処置,分娩の際の予防投与を推奨 と同様に,大動脈拡張や瘤形成を生じることがあり,大 する(レベル C,「感染性心内膜炎」参照). 動脈径の観察は重要である.Willis 動脈輪部動脈瘤の妊 娠中の悪化の有無については,明らかでない 270).また, 修復術後で,再狭窄などの合併症が少ない場合でも,流 産率が高く,胎児予後は必ずしも良好ではない 267) . ② リスク要因 35 歳以下の若年者において,突然死の発症があるこ ) とが知られているが,実際にはその頻度は低い 275),276(レ 妊娠中の内科治療は安静と高血圧治療が中心となる. ベル B).しかしながら,最大壁厚 30mm 以上,心停止 大動脈拡張の進行を予防するため,β遮断薬を使用する および持続性心室頻拍の既往,反復性の失神,突然死の ことがある 263).帝王切開術を推奨する報告もあるが, 家族歴などはハイリスクグループとされ,このような場 硬膜外麻酔による無痛経腟分娩で危険なく出産が可能で 合は妊娠・出産の適否について慎重に検討する必要があ ある 264) .しかし,バルーンカテーテルによるインター ベンション治療を行った例は,大動脈解離の危険が高い と推測されるため,β遮断薬の妊娠中の継続投与と選択 的帝王切開術が推奨される 263). 大動脈縮窄症修復術後の妊娠は,母児ともにリスク は低い.しかし,高血圧や大動脈拡張を伴う場合は, β遮断薬による内科管理を行う必要がある. (レベル B,文献 263) 5 心筋症 ) る 276(レベル C). ③ 対 応 胸部症状が出現した場合には入院安静として,それで も症状が持続する場合には,β遮断薬の投与を開始す る 275),276),278).心房細動に対しては直流除細動を行う. 心室頻拍に対しては母体の救命を第一にアミオダロンを 投与するが 275),胎児への影響が大きい(「妊娠中の薬物 療法」参照).妊娠後期にカテーテル・アブレーション, DDD ペースメーカの植え込み 279),植込み型除細動器の 植え込み 280)の後に出産した報告もある. 一般には経腟分娩が可能であるが,分娩時には静脈還 1 肥大型心筋症 ① 概 要 46 流を低下させる体位や怒責はなるべく避ける必要があり 281) ,呼吸・循環の悪化がみられるか強く予想されると ) きには,帝王切開も選択し得る 275(レベル C).多量の 出血や子宮収縮薬の使用などの際には,母体と胎児の循 肥大型心筋症の有病率は 10 万人当たり 17.3 〜 374 人 環動態のモニターを行う(「胎児評価法」参照).降圧が と報告されており 273),274),まれな心疾患ではない.また, 必要な場合は,一般にはヒドララジンが第一選択である. 女性患者のうち 40 歳以下の若年症例が約 15 %を占め ) 降圧薬については高血圧の項参照 280(レベル C). 心疾患患者の妊娠・出産の適応、管理に関するガイドライン 分娩時の硬膜外麻酔によって,静脈還流の減少,左室 脈などが認められる.心臓超音波検査では左室および右 充満圧の低下,左室流出路圧較差の増強などを介して血 室の拡大と収縮性低下が特徴的であるが,心膜液貯留, 280) ,厳重な循環動態の管理を要す 僧帽弁・三尖弁・肺動脈弁逆流も認められる.心筋生検 る(レベル C).超音波ドプラ法は,出産時の左室流出 では,心筋細胞変性,間質浮腫,線維化などが高率にみ 圧低下が生じるため 282) られるが,いずれも非特異的であり,これらの所見の有 路圧較差の評価として有用である (レベル C). 1 無が予後と相関しないとの報告もあり 287),心筋生検は 拡張型心筋症・産褥心筋症 (周産期心筋症) 診断に必須ではない. 心不全発症例の治療は,入院安静と塩分制限を基本と し,ヒドララジンや硝酸薬による血圧の管理と後負荷軽 ① 拡張型心筋症 減療法,およびループ利尿薬の投与を行う(レベル C). 拡張型心筋症は比較的まれな疾患であることのほか 両心室内に血栓を生じることが多いため,心臓超音波検 に,男性に多いこと,小児期を含む若年者では予後が不 査による定期的な観察とヘパリンによる抗凝固療法を行 良であり,既にアンジオテンシン変換酵素阻害薬を含む ) う 288(レベル C).NYHA 分類Ⅲ〜Ⅳ度の重症心不全を 抗心不全治療を導入されている症例が多いことなどの理 発症した症例に対して,免疫グロブリン 289)やアザチオ 由から,本症を有する女性が妊娠・出産を経験すること プリン 290)などを用いた報告があるが,その有用性はい は少ない 283).心不全が代償期にあり NYHA 分類Ⅰ度が まだ定まってはいない.最重症例では,拡張型心筋症例 持続し,薬物投与を中断することができる症例ならば, と同様に,カテコラミンの投与,IABP(大動脈内バル 妊娠により致死的な心不全にまで至ることは少ない 284) ーンパンピング)や体外循環なども考慮する.出産後の しかし,妊娠後期に重症心不全を発症する例もあり 285) 慢性心不全に対しては,拡張型心筋症の治療に準じて, . , また後述の産褥心筋症の原因がいまだ不明であり,潜在 アンジオテンシン変換酵素阻害薬やβ遮断薬の投与を行 する拡張型心筋症からの移行も否定できない現状では, ) い,状況に応じては心移植の適応も検討する 291(レベル 軽症心不全例でも妊娠・出産については慎重な検討を要 C). する(レベル C,「心不全(共通の病態として)」参照). 心筋生検で炎症細胞の浸潤が証明された症例では,免 疫抑制剤が有効となる可能性があるが 290),副作用など ② 産褥心筋症(周産期心筋症) のため使用されることはあまり多くない.小規模の検討 心疾患を指摘されていない妊婦が,妊娠後期から産褥 であるが,ガンマグロブリンが産褥心筋症の左室機能を 期に拡張型心筋症類似の病態を呈し,うっ血性心不全を 改善したとする報告もある 289).産褥心筋症への 16kDa 発症する原因不明の心筋症を産褥心筋症(周産期心筋症) プロラクチンの関与が報告されてから,臨床でもブロモ と称する.米国における発症は 1,000 〜 15,000 分娩に 1 クリプチン投与により左室収縮能が改善した症例が報告 例であり,心筋症による妊婦死亡の約 70%を占める されるようになってはいるが,現時点では前向き試験で 283) . 妊娠高血圧症候群,高齢出産,多産婦,アフリカ系民族, 効果が証明されているわけではない 292). 遷延分娩,多胎妊娠などが危険因子とされるが,人種, 産褥心筋症患者のうち,分娩後も左室駆出率 50 %以 多胎については関連が強くないとする統計も発表されて 下が継続する症例では,再妊娠により心機能が悪化して いる 286) .産褥心筋症の機序として,心筋炎,自己免疫 死亡する率も高いため,このような症例では避妊を強く 機序,アポトーシス,ウイルスやクラミジア感染の関与, ) 勧める 293(レベル B).一般には,分娩後に心収縮力が チアミン(Vit. B1)欠乏などが報告されているが,その 正常化した例では,再度の妊娠・出産は可能であると考 原因はいまだ明らかではない. えられるが,産褥心筋症の既往のない妊婦よりも,心不 発病は出産後 1 か月以内が最も多い.初発症状は胸痛, 全の再発のリスクが高く,胎児と母体の予後が不良であ 労作時呼吸困難,動悸のほか,発作性夜間呼吸困難,喀 ることも指摘されており,慎重な検討が必要である 294). 血などの肺うっ血症状,血栓塞栓症などが高頻度にみら れる.約 50%は分娩後 6 か月までに正常心機能に回復す ③ 胎児・新生児への影響 るが,左室機能低下が遷延進行することもあり,このよ 妊娠末期や出産後の発症が大部分であるが,低出生体 うな症例の予後は不良である. 重児や死産の頻度がやや高い.薬物使用時には,胎児お 胸部 X 線では心陰影の拡大,肺うっ血,胸水貯留,心 よび母乳栄養児への影響も十分考慮する必要がある (「抗 電図では左室肥大,ST-T 変化,種々の伝導障害と不整 不整脈治療」,「抗心不全治療」の表を参照). 47 循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2009 年度合同研究班報告) 6 不整脈 1 妊娠中や出産時には,母体の循環動態に急激な変化が 起こる(「妊娠・分娩の循環生理」参照).そして,循環 母体に基礎心疾患を伴わない場合の (一般の妊娠時の)不整脈 ① 一般の妊娠時不整脈の頻度 血液量増加,心拍出量増加,心拍数増加,内分泌機能変 健常女性の妊娠時の不整脈として,上室性期外収縮, 動,自律神経系機能変動などに加えて,妊娠・出産・育 心室性期外収縮,発作性あるいは慢性の心房粗・細動お 児に伴う精神的・肉体的な負担も誘因となって,様々な よび心房頻拍,発作性上室頻拍,心室頻拍,伝導障害等 不整脈が起こり得るようになる 295).妊娠・出産が不整 の報告がある.しかし,単源性あるいは多源性上室性期 脈発症ないし再発にどの程度寄与しているかを解析した 外収縮,多源性心室性期外収縮,上室性期外収縮連発以 報告は少なく,妊娠前から不整脈の発生を予測すること 外の複雑な不整脈の合併はまれである 1),295),297)-301). は困難である.そのため,少ないながらも現在までに集 積されたデータから,不整脈発生時の母体および胎児の ② 頻脈性不整脈 予後を予測し,妊娠中の不整脈治療の有効性や安全性を 1)上室性期外収縮,心室性期外収縮 考え,さらに基礎心疾患があればその評価も行いながら, 期外収縮は非妊娠時の女性でも高率にみられ,24 時 管理計画を立てることが重要である. 間 Holter 心電図検査では,上室性が 64 %,心室性が 54 妊娠中の不整脈の頻度はそれほど多くはない.10 万 %と報告されている.妊娠時においてはそれぞれ 89%, 妊娠に対して洞性不整脈が 104(0.1%),心房性および 74%である 2).上室性あるいは心房性期外収縮は,妊婦 心室性期外収縮が 33(0.03%)と,治療の不要な不整脈 の約 60 %にみられ,妊娠中の不整脈の中で最も頻度が の割合が比較的多いが,治療を要するような不整脈は, 高い 295),303).ほとんどが無症状であるが,期外収縮の頻 上室頻拍が 24(0.02 %),心房粗・細動が 2(0.002 %), 度が増加すると,動悸や胸部不快などの症状を自覚する 心室頻拍ないし心室細動が 2(0.002%),房室ブロック ことが多くなる 295).治療を要することはまれであるが, が 1.5 と比較的少ない割合となっている 1),25),295)-301). 禁酒,カフェイン摂取制限,脱水改善目的の飲水,十分 不整脈を来たす基礎心疾患として,弁膜症,心筋症, な睡眠などの生活指導,精神的サポートなどの後に,必 先天性心疾患などがあるが,近年のリウマチ性弁膜症の 要があると判断された場合に薬物治療を検討する. 減少や,成人に達する先天性心疾患患者の増加により, 2)発作性上室頻拍 妊娠中に不整脈を合併しやすい心疾患患者の割合も変化 副伝導路を介する房室回帰性頻拍(WPW 症候群など) している 25),135),302).妊娠前に不整脈を合併していた先天 や,房室結節回帰性頻拍などの上室頻拍は,妊娠中に約 性心疾患患者では,妊娠後も引き続き不整脈に対する治 50%が再発する 304).一方,妊娠中には発作性上室頻拍 1) 療ないし厳重な管理が行われることが多い .先天性心 の頻度が増加し,出産後に軽快するとした報告もあ 疾患術後は,妊娠中に有意に心拍変動が低下し,このこ る 298).22 %の症例において,非妊娠時に比較して妊娠 とが不整脈の発生に影響する可能性がある 2).心疾患以 中の方が,症状が悪化するとの報告もある 305).妊娠中 外では,甲状腺機能異常,電解質異常,薬物などに起因 に初発する発作性上室頻拍は比較的まれである 301). する二次性不整脈も起こり得る. 3)心房粗動,心房細動,心房頻拍 ここでは,母体に基礎心疾患を伴わない場合の不整脈 基礎心疾患のない心房粗・細動や心房頻拍は,比較的 (不整脈単独)と,基礎心疾患を伴う場合の不整脈に分 まれと報告されている.これらの不整脈の妊婦では,弁 けて述べる.基礎心疾患の有無にかかわらず,不整脈に 膜症,先天性心疾患,心筋症,甲状腺機能亢進症,電解 よる有意の循環動態変化は,母体・胎児双方への影響が 質異常などを合併する場合が多い.基礎心疾患の有無に 大きいため,適切な対応が必要となる.不整脈治療に際 かかわらず,発作性の心房粗動,心房細動,心房頻拍の しては,薬物の母体・胎児双方への影響を勘案する必要 妊娠中の再発率は,約 50%と考えられている 304).洞調 がある(「妊娠中の薬物療法」参照). 律に復帰できない場合には,抗凝固療法や抗血小板療法 を考慮するが,その催奇形性作用や出血性疾患の合併が 妊婦や胎児に与える影響は大きいので,慎重に投与する 必要がある(「弁膜症」─「抗凝固・抗血小板療法」参照). 48 心疾患患者の妊娠・出産の適応、管理に関するガイドライン 4)心室頻拍 双方に悪影響を及ぼす可能性がある. 基礎心疾患を伴わない正常妊婦での心室頻拍の報告は 先天性心疾患術後患者が,妊娠中に有意な不整脈を認 少ない.特発性心室頻拍として流出路起源性やベラパミ める場合でも,不整脈の種類によっては,厳重な観察や ル感受性の症例が報告されている 306).また,妊娠を契 適切な抗不整脈治療を行えば,罹病率は高いものの母体 機に特発性心室頻拍を発症する場合や,発作の頻度が増 死亡は少ない 25),59),179),297).しかし,頻脈性不整脈の場 加する場合もある.基礎心疾患のない,無症候性の特発 合は,基礎心疾患に基づく循環動態異常や心機能低下の 性心室頻拍には,治療の有用性は示されていない. 影響を受けて,母体・胎児ともに罹病率が高く,母体死 5)QT 延長症候群 亡に至ることもある.さらに,胎児の流死産や低出生体 遺伝性 QT 延長症候群の妊娠期間中におけるリスク評 重児の頻度も高くなる 25),59),179),297). 価に関しては,Rashba 等 307)が詳しく検討している.妊 娠中の不整脈イベントの発生率は妊娠前と比較して著変 がないが,出産後の発生率は有意に高く,不整脈イベン ② 妊娠時不整脈の頻度 先天性心疾患およびその手術後の妊婦の調査におい .遺伝子解析の結果 て,厳重な観察を要する不整脈(有意な不整脈)を 6.6 では,出産後の不整脈イベントは,type 2 において高率 %程度に認め,そのうち 3.5%は不整脈治療を要した 1). にみられる 308). 先天性心疾患術後は,疾患により妊娠中の心拍数の増 ト回避にβ遮断薬は有効である 307) ③ 徐脈性不整脈 加がみられないことがあるという特徴がある 1),2).さら に,妊娠中の不整脈発生あるいは悪化の頻度が高い.ま 基礎心疾患のない正常妊婦では,妊娠中の徐脈性不整 た,妊娠後と比べ,妊娠中は不整脈の増加が認められ 脈の新たな発症は少ない. る 1). 1)洞不全症候群 基礎疾患のない正常妊婦の洞不全症候群は,甲状腺機 ③ 先天性心疾患の不整脈機序とその病態 能低下症による徐脈や,自律神経反射で起こる神経調節 頻脈性不整脈の発生には不整脈基質(substrate),電 性失神による一過性徐脈が多い.無症候性の場合は,妊 気的異常興奮である期外収縮(trigger),心臓の容量負 娠・分娩中を通して治療の必要性もない場合が多い 306). 荷や圧負荷などを来たす誘因(modulating factor)の 3 2)房室ブロック つが関与している.先天性心疾患術後患者においては, Ⅰ度からⅡ度房室ブロック(Wenckebach 型)までは, 手術時に形成された切開線やカニュレーション部位が障 妊娠年齢において比較的多くみられるが,臨床的に問題 害心筋領域や瘢痕として心房や心室に残存している可能 となることはない 309).完全房室ブロックの多くは先天 性がある.それら障害心筋領域と心臓内に元来存在する 性であり,無症候性の場合には治療の対象とならないこ 解剖学的障壁(弁輪,分界稜,動静脈─心筋接合部)が, とが多い.後天性あるいは基礎心疾患のある場合には, リエントリー性頻拍回路の一部や伝導遅延部位や異常興 治療の対象となる 310).先天性完全房室ブロックが妊娠 奮部位を形成することがあり,これが substrate となる. 中に初めて診断される場合もあるが,無症候性の場合は 手 術 前 後 の 病 態 や 手 術 術 式 に 特 有 な substrate や 基礎心疾患の有無を問わず,一時ペースメーカも不要な modulating factor を生じることがある. 場合が多い 2 311) . 母体に基礎心疾患を伴う場合の不整脈 ① 病態的意義 心房手術後患者の場合,心房内到達のための心房自由 壁への切開,複雑な心房内修復手術,心室中隔基部の修 復手術などのために,洞機能不全や房室ブロックを来た すことがある.基礎心疾患に伴う刺激伝導系の障害や, 抗不整脈薬の投与により,さらに洞機能不全や房室ブロ 基礎心疾患患者,特に先天性心疾患術後では,妊娠・ ックを来たしやすくなると考えられる 312). 出産時に不整脈を新たに発症するか,既存の不整脈が増 1)頻脈性不整脈を伴いやすい基礎心疾患 悪することがある.特に心房粗・細動,心房頻拍,心室 WPW 症候群は Ebstein 病に合併しやすく,房室回帰 頻拍,高度房室ブロックなどは,有意な循環動態の変化 性頻拍や偽性心室頻拍の原因となる.修正大血管転位症 を生じやすく,母体や胎児への影響が大きいため,的確 でも 10 %前後に Ebstein 病を合併することから,WPW な診断と緊急治療を要することが多い.また,抗不整脈 症候群が一般よりも高頻度にみられる.また,修正大血 薬の使用は,心機能低下や催奇形性など,母体と胎児の 管転位症や内臓心房錯位症候群などは,2 つの房室結節 49 循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2009 年度合同研究班報告) を有することがあり,それらを頻拍回路の一部とした房 室回帰性頻拍を認めることがある 313) .基礎心疾患患者 における上室頻拍には,基礎心疾患がない場合と同様に, 房室回帰性頻拍,房室結節回帰性頻拍,心房粗動,心房 頻拍などがある.多くの心房頻拍は,障害心筋領域や瘢 全の強い場合は,不整脈治療を要する傾向が強い 2),318). ⑤ 妊娠前の検査とカウンセリング 1)妊娠前の検査 痕や解剖学的障壁によって回路の一部が形成された,マ (1)抗不整脈薬投与を行っていない場合は,妊娠中の クロリエントリー性心房頻拍(非通常型心房粗動,心房 不整脈増悪因子の有無(不整脈の既往,基礎心疾患 内リエントリー性頻拍,incisional 心房頻拍)である 314) . の循環動態,心不全の有無,心不全治療薬使用の有 基礎心疾患術後の上室頻拍のうち,頻度が高く重要なの 無)を確認する.不整脈増悪因子を持つ場合は,慎 が三尖弁周囲をリエントリー回路とする通常型心房粗動 重な経過観察を要する. である.発作性の心房粗動・心房細動は,リウマチ性弁 (2)妊娠前に運動負荷検査を行うことにより,心筋予 膜症,完全大血管転位症,房室中隔欠損症(特に僧房弁 備能だけでなく,妊娠時の不整脈出現の有無判定の 逆流遺残),多脾症に多く,慢性の場合はリウマチ性弁 参考になる場合がある(運動負荷検査の際は妊娠中 膜症に多い 1),304). と同様に,心拍数増加,心拍出量増加,末梢血管拡 心内修復術のため右室自由壁切開閉鎖(直接閉鎖,パ 張,カテコラミン分泌増加などが認められる). ッチ修復),肺動脈弁下心筋切除,心室中隔閉鎖(直接 2)妊娠前のカウンセリング 閉鎖,パッチ閉鎖)などが行われた Fallot 四徴症術後患 基礎心疾患術後妊娠患者の不整脈に関する以下に述べ 者には,マクロリエントリー性心室頻拍が発症すること る背景的知識を,妊娠・出産を望む患者に十分に説明し, が少なくない 315) .不整脈源性右室心筋症では,抗不整 脈薬の継続により良好なコントロールが得られている が,妊娠第Ⅲ期に心室頻拍を認めた報告がある 316) 理解を得る必要がある. (1)基礎心疾患自体が重症あるいは妊娠継続が困難な 場合(心不全が強い場合など)を除き,不整脈とい . Fallot 四徴症,心房中隔欠損症,心室中隔欠損症,房 室中隔欠損症(特に僧房弁逆流遺残),多脾症などで, う理由だけで,避妊する必要はない 317),318). (2)上室性期外収縮や心室性期外収縮単独では,抗不 手術後の続発症・遺残症を伴う場合や,経年的に心室あ 整脈薬投与による母体・胎児への弊害の方が大きい るいは心房負荷の増大する場合に,有意な不整脈の合併 ため,通常は治療の対象にならない 317),318). 頻度が高い 1).右室が体循環側心室を担う,修正大血管 転位症術後(血流転換術を施行してない場合)や 177) , 完全大血管転位症の Mustard/Senning 手術後 201)や,肺循 環側心室がないことから前負荷予備能が低い Fontan 手 術後 197) では,妊娠中に上室頻拍を合併すると緊急治療 (3)妊娠中に動悸を強く訴える場合があるが,多くは 不 整 脈 で は な く, 妊娠 時 の 生 理 的 洞 性 頻 脈 で あ る 295). (4)頻脈性不整脈(特に上室性)は,妊娠中に緊急治 療を要する場合がある. (5)抗不整脈薬投与継続中の場合は,薬剤の安全性を を要する場合が多い. 心房細動は心房内血栓形成傾向が強く,妊娠時の凝固 検討し,安全性が確立できていないときは,薬剤変 能亢進状態と重なるため,早期治療を要する.一方,心 更あるいはカテーテル・アブレーションも考慮する 室頻拍は妊娠中の発生自体が少なく,非持続型では治療 1) を要する例も少ない .治療を要する不整脈は妊娠前か ら認められる場合もあるが,妊娠 7 か月以降に増加する ことが多い 1). (「抗不整脈治療」参照). ⑥ 妊娠中の経過観察 先天性心疾患術後患者の妊娠中の不整脈は,母体・胎 児に対する危険因子の 1 つであり,成人先天性心疾患担 ④ 不整脈危険因子 当医,麻酔科医,産科医,不整脈を専門とする医師,新 妊娠の生理的変化(「妊娠・分娩の循環生理」参照) 生児科医の密接なチーム医療により経過観察を行うこと に加え,上に述べた基礎心疾患や心臓手術術式特有なも が必要である. のの他に,修復術で加えられた心房あるいは心室切開線 外来経過観察には,以下の診察,検査項目が含まれる . は頻脈性不整脈の重要な基質になる可能性があ る 317),318).さらに,心房負荷を伴う病態では上室頻拍を, 心室負荷を伴う病態では心室性不整脈を生じやすい 50 同一疾患でも,NYHA 心機能分類の悪い場合や,心不 317) . (1)不整脈に関する問診:特に動悸,頻脈,徐脈の既 往の有無. (2)心電図検査:長めの記録(3 分間)による不整脈 心疾患患者の妊娠・出産の適応、管理に関するガイドライン 不整脈治療」参照),薬剤変更あるいは人工栄養への変 チェック. (3)Holter 心電図検査:動悸の訴えが強い場合,上記 検査で更なる情報を必要とする場合など. (4)体表面加算平均心電図検査:心室頻拍が危惧され 更も考慮する 317),318). 7 虚血性心疾患 1 概 要 る病態の場合. ⑦ 不整脈増悪因子の評価 心不全や術後の遺残症・続発症を伴うなど,不整脈増 妊娠可能年齢の女性における虚血性心疾患の頻度は低 悪因子を認める場合は,不整脈を専門とする医師のいる く,周産期の急性心筋梗塞発症は極めて稀(1/1 万分娩) 総合病院での出産が望ましい.抗不整脈薬投与を受けて ではあるが,ライフスタイルの欧米化や妊婦の高齢化に いる場合,妊娠中は薬剤吸収,体内活性,排泄などが非 より,今後増加することが予想されている 58),320),321). 妊娠時と異なる 5)ため,経時的な薬剤血中濃度の測定が 50 歳未満の女性における虚血性心疾患の危険因子は, 必要である.また,抗不整脈薬は催不整脈作用を認める 喫煙,高血圧,高コレステロール血症,低 HDL 血症, 場合もあるため,治療効果判定を慎重に行う. 糖尿病,家族歴,妊娠高血圧症候群,経口避妊薬内服の 既往である 322),323).特に,喫煙あるいは高血圧と経口避 ⑧ 入院加療を要する病態 妊薬内服既往の重複は,周産期急性心筋梗塞発症の最も 循環動態変化をもたらす頻脈性不整脈では,急激に心 不全が悪化する場合もあるので,入院による加療が望ま しい.特に,基礎心疾患による心不全を認める場合や, 重大な危険因子である 324). 2 急性心筋梗塞の基礎病態 心房圧の高い病態(房室弁狭窄,中等度以上の房室弁逆 周産期における急性心筋梗塞は,16 〜 45 歳の妊婦の 流,心室拡張末期圧が高い場合など)では,入院により いずれの妊娠時期においても発症の報告があるが,年齢 緊急の治療を要する.また,心不全の併発あるいは悪化 が 33 歳以上の妊娠後期において最も多い 321).経産婦に の際は,入院を必要とする. 多く,梗塞部位は前壁が多い.母体死亡は,発症時ある いは発症 2 週間以内に最も多く,死亡率は 21 〜 50 %で ⑨ 分娩時の管理 分娩時は,急激な循環動態的変化を伴う ある.急性心筋梗塞発症の病因は,冠動脈硬化が最多だ 319) .このため, が 50 %未満であり,冠動脈造影で狭窄が認められず, 妊娠中にみられる不整脈の悪化,新しい不整脈の出現を 冠攣縮あるいは冠動脈内血栓が原因と考えられる場合も みることが多い.分娩時に有意な不整脈の出現または悪 少なくない 321),323).妊娠に伴う高血圧,あるいは,周産 化の可能性がある場合は,心拍数,血圧,心電図などの 期に投与される麦角アルカロイド,ブロモクリプチン, モニター監視が必須となる. オキシトシン,プロスタグランジンなどが誘因となるこ 帝王切開の適応は,一般的な産科的適応に準ずる.胎 ともある 323).その他,結合組織病(膠原病),冠動脈瘤 児適応による帝王切開を除けば,基本的に母体の心循環 の残存した川崎病,鎌状赤血球症,血小板増多症,周術 動態の重症度により帝王切開の適応を決定する.不整脈 期感染症,血液凝固異常,冠動脈血栓塞栓症なども,周 を伴う先天性心疾患術後の女性に対して帝王切開を行う 産期急性心筋梗塞の原因となり得る 321). ことは比較的少なく,多くは経腟分娩が可能である 1). 冠動脈解離による急性心筋梗塞は出産直後に発症する ことが多い.80 %で左前下行枝にみられるが,多枝に ⑩ 出産後の外来管理 及ぶこともある 323),325).冠動脈解離の原因として,妊娠 出産後に,心不全増強,不整脈合併,既存の不整脈の に よ る 血 管 壁 へ の 壁 応 力 の 増 大 326), 抗 リ ン 脂 質 抗 悪化を認める場合などがある.妊娠中に有意な不整脈合 体 327),血管外膜の炎症 328),嚢胞性中膜変性 329)などの関 併を認めた場合,病棟内歩行や入浴などを開始する頃か 与が指摘されてはいるが,未だ明確ではない. ら,循環動態が妊娠前の状態に戻るまでの約 4 週間は, 不整脈の発生や悪化に注意が必要である.出産後早期は (特に授乳を行っている場合),心電図モニター装着が難 しく,Holter 心電図は十分に行えないことがある.また, 150) 授乳により抗不整脈薬が児へ移行する場合には (「抗 3 診 断 周産期の心筋虚血や心筋梗塞は,典型的な胸痛,心電 図検査,心臓超音波検査などにより診断される.胸痛, 呼吸困難,嘔気などの症状は,正常妊婦でもしばしば自 51 循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2009 年度合同研究班報告) 覚する症状であるため,虚血性心疾患が念頭にない場合 動脈解離では緊急手術が必要である.胎児への影響を考 は,診断が遅れることとなる.また,診断に際して妊娠 慮すると,妊娠初期にはこれらの手技はできる限り避け による母体変化も考慮に入れる必要がある.心電図でⅢ る必要がある.妊娠中に冠動脈造影の施行を余儀なくさ 誘導の Q 波,T波陰転化,V1 誘導での R/S 比の増大など れる場合は,橈骨動脈アプローチを選択するなど,胎児 は,正常妊婦でも認められることがある.血液生化学検 の放射線被曝を最小とする方法で行う必要がある.薬剤 査 に お い て は, 正 常 分 娩 で も, ミ オ グ ロ ビ ン,CK, 溶出性ステントは,術後に抗血小板薬の使用が必須であ CK-MB は出産 30 分後に正常値の 2 倍に上昇するため, るため,周産期症例では使用しにくい. 心筋梗塞の生化学的診断にはトロポニンを測定する 330) . 心筋梗塞後の左室リモデリング予防のために,β遮断 心臓核医学検査や心臓カテーテル検査は,母体・胎児へ 薬,低用量アスピリン,スピロノラクトンの投与は許容 のリスクより有用性が勝ると判断されたときにのみ施行 される(レベル C).アンジオテンシン変換酵素阻害薬は, する. 胎児毒性(胎児・新生児の腎機能障害,羊水過小,子宮 4 内発育不全,頭蓋骨低形成など)と催奇形性の懸念があ 治 療 り,妊娠中は中止することが望ましい 152). 妊娠によって増大する心負荷を軽減し,心筋虚血を防 ぐために,β遮断薬が第一選択となる(レベル C).また, 5 虚血イベント予防への対処(図 7) 低用量アスピリンは妊娠中の心筋虚血発作予防に有効で 妊娠中および産褥期の心血管系へのストレスを可能な ある(レベル C).ただし,我が国では「出産予定日の 限り減らすことに留意する.妊娠初期にコントロール不 12 週以内の妊婦には(用量にかかわらず)禁忌」とさ 良な心筋虚血が認められる場合は,中絶を考慮する(レ れているため,投与する際には十分な説明と同意が必要 ベル C).分娩時には適度な除痛と酸素投与が必要であ である. る.虚血性心疾患合併妊娠の分娩に帝王切開は必須では 急性心筋梗塞に対する血栓溶解療法は,胎児への催奇 ないが,適切な薬物治療にもかかわらず心筋虚血が明ら 形性がなく,母体・胎児とも予後が良好であるとの報告 かで,循環動態が不安定なときには,帝王切開を選択す が多い 331).しかし,母体の出血については十分な注意 る.いずれの出産後にも,最低数時間は,循環動態の持 が必要であり,特に出産時の出血リスクは高い.報告は 続モニターが推奨される. 限られているが,妊娠中の経皮的冠動脈形成術や冠動脈 極端な血圧上昇や頻脈は避ける必要がある.胸痛や不 バイパス術も有効である 332),333) .冠動脈解離に対しては ステント留置術が第一選択であるが,広範囲にわたる冠 安の軽減にはモルヒネが有効ではある(レベル C)が, 新生児の呼吸抑制を来たす可能性がある.経口硝酸薬は 図 7 妊娠に伴う虚血性心疾患への対処 虚血性心疾患合併の疑い 症状・基礎疾患の有無, 高血圧,喫煙などのリスク評価 心電図検査・心臓超音波検査 採血検査(生化学的診断にはトロポニンを測定) 急性心筋梗塞 狭 心 症 β遮断薬 + アスピリン コントロール不良 経皮的冠動脈形成術, 冠動脈バイパス術を考慮 52 血栓溶解療法 経皮的冠動脈形成術 注)妊娠に虚血性心疾患を合併することがあることを念頭に置く。 常に胎児への侵襲度を考慮する。 冠動脈造影は,PCI/CABGまで考慮した上で施行する。 分娩時に十分な除痛,酸素投与,モニタリングを施行する。 心疾患患者の妊娠・出産の適応、管理に関するガイドライン 虚血性心疾患や血圧コントロールのために使用されるこ とが多いが,安全性についての情報は少ない.抗血小板 8 心不全(共通の病態として) 1 病 態 薬を投与中の症例では,貧血のチェックを頻回に行う必 要がある. 6 川崎病冠動脈病変 心不全は左心不全,右心不全,収縮障害性,拡張障害 川崎病既往の女性が既に出産年齢に達している.冠動 性などに分けられるが,いずれの病態でも妊娠の経過中 脈狭窄がなく,心機能が正常である場合は,妊娠・出産 に認められる容量負荷や頻脈はその増悪因子となる.妊 に問題はないと考えられている.しかし,冠動脈病変(特 娠時には,循環血液量の増大,心拍数の増加以外にも, に冠動脈狭窄病変)を残した場合,心筋梗塞後や冠動脈 体血管抵抗と肺血管抵抗の低下が認められ(「妊娠・分 インターベンション後(冠動脈バイパス術後)の妊娠・ 娩の循環生理」参照),後二者は心不全コントロールに 出産は,虚血病変の進行や心不全悪化の可能性がある. 際して通常は有利に働くが,不全心では前二者の不利な 妊娠中の循環動態変化や凝固能亢進状態の,冠動脈病変 影響の方が強く表れ,妊娠中に状態が悪化することが少 に与える影響については明らかではない.また,冠動脈 なくない.すなわち,本来なら妊娠の経過とともに増大 病変を残した川崎病の妊娠の報告は,いまだ少ない.少 すべき 1 回拍出量を,不全心ではまかなうことができず, なくとも 43 人の冠動脈病変を持つ川崎病の女性の,合 全身の低灌流状態を引き起こす.また,容量負荷のため 計 60 回の妊娠・出産の報告がある 334)-340).そのうちの 心室拡張末期圧は上昇し,このため肺動脈圧が上昇して 7 人は,冠動脈バイパス術後である .1 人は無 肺うっ血を来たす.静脈圧も増加して末梢浮腫の状態と 334) 337),338),340) .冠 なる.心臓超音波検査で観察すると,妊娠中期以降は健 動脈瘤があっても冠動脈狭窄を認めず,左室駆出率も良 常例でも左室径が大きくなるが,不全心では心拡大がよ 好な場合は,合併症なく妊娠に耐容できている.出産の り顕著に認められ,これにより心室壁張力が増大して, 半数は経腟分娩で,残りは帝王切開である.母体死亡は ますます心機能が障害される. 治療で,妊娠中に急性心筋梗塞を起こしている ない.約2/3の患者は低用量アスピリン,ジピリダモール, ニトログリセリン,ヘパリンなどが投与されている.こ 2 リスク要因と対処 れらの患者は,妊娠中に心筋梗塞を起こしていない.出 心不全を有する妊婦は,その程度が強いほど死亡率が 生児は 3 例が低出生体重児で,1 例に心室中隔欠損を認 高い.児については,早期産および子宮内胎児発育不全 めたが,他はすべて正常児であった. が多く,死亡率が高いことが知られている.したがって, 妊娠中の低用量アスピリンの使用に関する世界的な流 NYHA 分類Ⅲ度以上の女性に対しては妊娠しないよう れは,胎児への影響も少なく比較的安全と考えられてい に勧め,たとえ妊娠しても早期に中絶を行うことが推奨 るが,我が国では薬剤危険度に関する研究・整備が不十 されている 58),294),320). 分であるため,投与の際には十分な説明と同意が必要と NYHA Ⅲ度以上の例,心筋機能低下例(駆出率< 40%, なる. 抗血小板薬や抗凝固薬の影響については, 「弁膜症」 または拘束型心筋症,肥大型心筋症など)では,チアノ ─「抗凝固・抗血小板療法」を参照のこと. ーゼ例,症候性持続性不整脈例と同様に,経過中に心不 川崎病については,妊娠前の評価が最も重要である. 全や不整脈などの心血管系イベントを起こしやすい 59) 成人期川崎病への対応は,日本循環器学会のガイドライ (表 27).先天性心疾患例でも,NYHA Ⅱ度以上,心不 ン 341)を参照されたい.冠動脈狭窄を認める場合は,妊 全の既往例では,心血管系のイベントを起こしやすいこ 娠前に冠動脈病変を評価し,適応があれば妊娠前に冠動 ) とが報告されている 342(レベル B). 脈インターベンション,冠動脈バイパス術が推奨される. 胎児においても,母体の NYHA 分類Ⅲ度以上,チア 心筋梗塞後で心機能の悪い場合は,心不全,心筋症に準 ノーゼ例で,死亡,早期産児,呼吸促迫症候群などのリ じる.適切な分娩方法と麻酔法は明らかでないが,冠動 スクが高くなる. 脈狭窄病変では,無痛分娩や帝王切開が安全と考えられ しかし,例えば駆出率で何%以上なら妊娠継続が可能 る.冠動脈病変を伴う場合は,妊娠中の注意深い経過観 か,といった明確なガイドラインが呈示されているわけ 察を必要とする. でもなく,また妊娠時の心機能循環動態の変化も予測し がたい点が多い.したがって,個々の症例において,注 意深く臨床経過や心臓超音波検査などの検査結果を観察 53 循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2009 年度合同研究班報告) し,病態の変化が認められれば,入院の上,適切な加療 表 27 妊婦,胎児の予後に影響を与える心疾患 (文献 59 より引用改変) 規定因子 を行うことが重要である.過労は避ける一方で,逆に極 オッズ比 p (95%信頼区間) 6(2-21) 0.0044 17(6-47) 0.0001 15(3-70) 0.0009 度の安静による静脈うっ滞にも注意が必要である.塩分 制限についても同様である. 心血管イベントの既往 症候性持続性不整脈 NYHA >Ⅱまたはチアノーゼ 母体 左心狭窄疾患* 7(3-18) 0.0001 (左室流出路または流入路狭窄) 9(3-32) 0.0011 心機能障害*2 児 NYHA >Ⅱまたはチアノーゼ 8(2-30) 0.0035 3 産褥心筋症 この病態に関しては,「心筋症」─「産褥心筋症(周 産期心筋症)」に記載されている. 母体では,心不全,症候性持続性不整脈,脳梗塞の発生をもっ て予後不良とした.児では,死亡,早期産児,呼吸促迫症候群, 脳室内出血,子宮内胎児発育不全を予後不良とした. * 大動脈弁弁口面積< 1.5cm2,僧帽弁弁口面積< 2.0cm2, 左室流出路収縮期圧較差> 40 〜 50mmHg *2 体心室駆出率< 35 〜 40 %または 拘束型心筋症,肥大型 心筋症,チアノーゼ性心疾患 9 高血圧症 妊娠にみられる高血圧症の分類 343)は,妊娠高血圧症 候群の新しい定義・分類として 2005 年 4 月より変更さ れた(表 28).高血圧症合併妊娠では,正常血圧の妊婦 表 28 妊娠高血圧症候群の定義・分類(日本産科婦人科学会,2005) 1. 名 称 妊娠中毒症を妊娠高血圧症候群(pregnancy induced hypertension:PIH)との名称に改める. 2. 定 義 妊娠 20 週以降,分娩後 12 週までに高血圧がみられる場合,または高血圧に蛋白尿を伴う場合のいずれかで,かつこれらの 症候が偶発合併症によらないものをいう. 3-1. 病型分類 1)妊娠高血圧腎症(preeclampsia) 妊娠 20 週以降に初めて高血圧が発症し,かつ蛋白尿を伴うもので分娩後 12 週までに正常に復するもの. 2)妊娠高血圧(gestational hypertension) 妊娠 20 週以降に初めて高血圧が発症し,分娩後 12 週までに正常に復するもの. 3)加重型妊娠高血圧腎症(superimposed preeclampsia) ①高血圧症が妊娠前あるいは妊娠 20 週までに存在し,妊娠 20 週以降に蛋白尿を伴うもの. ②高血圧と蛋白尿が妊娠前あるいは妊娠 20 週までに存在し,妊娠 20 週以降に,何れか,または両症候が増悪するもの. ③蛋白尿のみを呈する腎疾患が妊娠前あるいは妊娠 20 週までに存在し,妊娠 20 週以降に高血圧が発症するもの. 4)子癇(eclampsia) 妊娠 20 週以降に初めて痙攣発作を起こし,てんかんや二次性痙攣が否定されるもの.発症時期により妊娠子癇・分娩子癇・ 産褥子癇とする. 3-2. 症候による亜分類 1)症候による病型分類 高血圧 軽症 血圧がいずれかに該当する場合 ①収縮期血圧が 140mmHg 以上で 160mmHg 未満 ②拡張期血圧が 90mmHg 以上で 110mmHg 未満 重症 血圧がいずれかに該当する場合 ①収縮期血圧が 160mmHg 以上の場合 ②拡張期血圧が 110mmHg 以上の場合 蛋白尿 原則として 24 時間尿を用いた定量法で判定し,300mg/ 日以上で 2g/ 日未満の場合 2g/ 日以上の場合.随時尿を用いる場合は複数回の新鮮尿検査で, 連続して 3 + (300mg/dL)以上の場合 2)発症時期による病型分類 妊娠 32 週未満に発症するものを早発型(early onset type), 妊娠 32 週以降に発症するものを遅発型(late onset type)とする. 【付 記】 1)妊娠蛋白尿(gestational proteinuria) :妊娠 20 週以降に初めて蛋白尿が指摘され,分娩後 12 週までに消失するもの.病型分 類には含めない. :加重型妊娠高血圧腎症を併発しやすく,妊娠高血圧症候群と同様の厳重な管理が求められ 2)高血圧症(chronic hypertension) る.妊娠中に増悪しても病型分類には含めない. 3)肺水腫・脳出血・常位胎盤早期剥離および HELLP 症候群*は必ずしも妊娠高血圧症候群に起因するものではないが,かなり深 い因果関係がある重篤な疾患である.病型分類には含めない. 4)高血圧を h・H,蛋白尿を p・P(軽症は小文字,重症は大文字),早発型を EO(early onset type),遅発型を LO(late onset type) ,加重型を S(superimposed type)および子癇を C と略記する. 例)妊娠高血圧腎症は(Hp-EO) , (hP-LO)など,妊娠高血圧は(H-EO) , (h-LO)など,加重型妊娠高血圧腎症は(Hp-EOS) , (hP-LOS)など,子癇は(HP-EOSC) , (hP-LOSC)などと表示する. ,肝酵素上昇(Elevated Liver Enzyme) ,血小板減少(Low Platelets)を主徴候とする症候群であり,妊娠中(主 *溶血(Hemolysis) に 27 週以降)や産褥期に発症する 54 心疾患患者の妊娠・出産の適応、管理に関するガイドライン に 比 べ て, 早 産, 子 宮 内 胎 児 発 育 不 全(intrauterine 29 に示す 11),347). growth retardation:IUGR),周産期死亡,妊娠高血圧症 候群などの周産期異常を伴いやすいことが知られてい る.なかでも,妊娠高血圧症候群を合併すると,常位胎 盤早期剥離や周産期死亡は増加するといわれている 344). Ⅳ 産科的管理の注意点 また,原疾患も妊娠により影響を受けて,悪性高血圧, 脳出血,心不全,腎機能障害などが起こりやすくなるの で,適切な管理が要求される.これには降圧薬の使用が 1 避妊法(各論) 1 避妊を指導する時期 中心となるが,妊娠中の薬剤使用にあたっては次のよう な問題に注意を要する. 催奇形性と胎児毒性 1 妊娠経過観察中に,その妊娠終了後のさらなる妊娠が Placebo との比較試験が少ないために,明らかに使用 望ましくないことが明らかである場合,分娩直後や帝王 禁忌とされている薬は少ない.同様に,臨床試験が十分 切開時は,卵管結紮を行いやすい環境なので,産科医と に蓄積されていないので,使用が安全とされている薬も 循環器担当医から本人・家族に対して,卵管結紮に関す 少ない(レベル C).多くの文献からその使用が安全と る十分な術前説明と同意を得ておくことが望ましい.妊 されているのは,メチルドパとヒドララジンである 11). 娠継続が不可能なために,人工妊娠中絶術を施行する場 アンジオテンシン変換酵素阻害薬やアンジオテンシン受 合も,同様に卵管結紮術を施行することが可能である. 容体拮抗薬は,胎児・新生児の腎臓に直接作用して,腎 妊娠・出産後の経過観察中に心機能の悪化がみられ, 不全や流産・死産などを引き起こすため,妊娠第 2 〜 3 次回の妊娠をすすめられなくなった場合は,初回妊娠前 11),345) (レベル B).また,対照 の評価と同様に,主として循環器担当医の判断で避妊の 研究ではないが,ヒトへのアンジオテンシン変換酵素阻 指導が開始される.このとき,個々の状況に即した最適 害薬の使用において,催奇形性が報告されているた な避妊法について,産科医と循環器担当医による検討と ,妊娠第 1 期の使用においても,厳重な注意が必 説明がなされ,患者の納得の下に最良の方法が選択され 期の使用は禁忌とされる め 153) 要である.同様な作用機序のアンジオテンシン受容体拮 抗薬についても,催奇形性と胎児毒性への注意が必要で ある. 2 子宮血流との関連 る. 2 避妊法 各避妊法を使用した場合の,1 年後に妊娠する確率を 表 30 に示した.一般に,避妊法を完璧に使用すること 降圧効果を重視するあまり血圧を下げすぎると,それ は現実的でないため,一般的な使用法による推定妊娠率 までかろうじて維持されていた子宮血流のバランスの破 を参照にされたい.我が国で最も使用されている避妊法 綻 が 起 こ り, 児 心 音 に 変 化 を も た ら す 場 合 が あ る. はコンドーム法であり,90 %以上との報告がある.避 『Williams 産科学』には,ヒドララジンの頻回投与によ 妊効果が高い経口避妊薬,子宮内避妊器具(intrauterine り血圧が急激に低下した結果,胎児徐脈が認められた症 contraceptive device:IUD),避妊手術の使用割合は,2 例が報告されている 343) .同様の変化はメチルドパやニ フェジピンでもみられる.降圧薬投与開始あるいは増量 をする際には血圧の詳細な観察を必要とする. 3 降圧薬投与の可否とその選択 %未満と極めて低い. ② 卵管結紮術 永久不妊術であり,確実である.再疎通術は困難なこ とが多い.手術のため,入院が必要となり,非妊娠時の 軽症から中等度の高血圧合併妊娠に対する降圧薬の有 施行は,既に子供のいる主婦には困難なことが多い.以 用 性 に つ き,46 論 文 4,282 例 で 検 討 し た Cochrane 下のように実施される. review346)では,どの降圧薬が有用であるかは結論付け 1)帝王切開時の卵管結紮術 られないと報告されている(レベル A). 最も簡単で確実な卵管結紮が可能である.術前に卵管 我が国および外国で妊娠中に使用されている主な降圧 結紮の方針は決定しておく.ただし,今回出生した児に 薬の特徴,副作用,ならびに授乳に関する注意点を表 障害がある場合や,転帰死亡の可能性が出生後にわかる 55 循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2009 年度合同研究班報告) 表 29 主な降圧薬の特徴(妊娠中および授乳中の使用) 薬 剤 メチルドパ クロニジン アテノロール プロプラノロール メトプロロール オクスプレノロール ラベタロール ソタロール ヒドララジン ニフェジピン ニカルジピン 硝酸イソソルビド 分 類 副作用・特徴 催奇形性 使用中の授乳 B C D C→D C→D C→D C B→D C 倦怠 口渇 欧米で選択 使用報告少ない IUGR 低血糖 徐脈 IUGR 低血糖 徐脈 IUGR 低血糖 徐脈 IUGR 低血糖 徐脈 IUGR 低血糖 徐脈 徐脈 頭痛 新生児血小板減少 なし なし なし なし なし なし なし なし なし 恐らく可能 恐らく可能 潜在的毒性 潜在的毒性 潜在的毒性 潜在的毒性 恐らく可能 潜在的毒性 恐らく可能 C 頭痛 動悸 低血圧 なし 恐らく可能 1 1 C 使用報告少ない 胎児腎形成障害 腎不全 羊水過小 胎児腎形成障害 腎不全 羊水過小 胎児腎形成障害 腎不全 羊水過小 子宮胎盤循環低下 胎児脱水 女性化作用の可能性 血小板減少 溶血性貧血 なし 恐らく可能 2 1 可能 1 1 あり*3 恐らく可能 1 1 あり*4 恐らく可能 1 1 なし 恐らく可能 2 1 なし なし 恐らく可能 可能 2 2 1 1 カンデサルタン*4 ロサルタン*4 中枢性降圧薬 中枢性降圧薬 β遮断薬 β遮断薬 β遮断薬 β遮断薬 β遮断薬 β遮断薬 末梢血管拡張薬 カルシウム 拮抗薬 硝酸薬 アンジオテンシン 変換酵素阻害薬*3 アンジオテンシン 変換酵素阻害薬*3 アンジオテンシン 受容体拮抗薬*4 フロセミド 利尿薬 C(D) スピロノラクトン 利尿薬 ヒドロクロロチアジド 利尿薬 C(D) C(D) *3 カプトプリル エナラプリル*3 添付文書*2 妊婦 授乳 2 1 2 2 1 2 1 1 1 1 1 1 1 2 1 2 1 FDA 勧告* C→D C→D C→D あり *3 IUGR:子宮内胎児発育不全 ”(文献 11)に従った. 注)薬剤情報は主に“Drugs in Pregnancy and Lactation 8th edition(2008) * B → D/C → D:妊娠第 1 期の使用は B または C 分類だが,妊娠第 2-3 期の使用は D 分類となる C(D):通常は C 分類だが,妊娠高血圧に使用の場合は D 分類となる (妊産婦 / 授乳婦)への投与に関する情報(空欄は記載のない薬剤) * 2 薬剤添付文書による, 1 禁 忌:妊婦または妊娠している可能性のある婦人には投与しないこと.また,投与中に妊娠が判明した場合には,ただち に投与を中止すること.授乳中の婦人に投与することを避け,やむを得ず投与する場合には授乳を中止させること 2 相対禁忌:治療上の有益性が危険を上回ると判断される場合のみ投与すること.妊娠または妊娠している可能性のある婦人に は投与しないことが望ましい.妊娠中の投与に対する安全性は確立されていない ,妊娠第 1 期の投与にも厳重な注意が必要である * 3 アンジオテンシン変換酵素阻害薬は催奇形性が報告されているため(文献 153) * 4 同様な作用機序の,アンジオテンシン受容体拮抗薬も催奇形性への注意が必要である 【注意事項】 1)妊婦への使用に際しては,適応・禁忌を確認すること 2)適応外または禁忌とされる薬物を使用する場合は,十分な説明と同意を得ること 表 30 各種避妊法と 1 年間の推定妊娠率 避妊法 避妊なし 性交中絶(腟外射精) 月経周期・禁欲法 コンドーム ペッサリー 経口避妊薬 子宮内避妊用具 卵管結紮術 精管結紮術 一般的な使用 85% 27% 25% 15% 16% 8% 0.1-0.8% 0.5% 0.15% 理想的な使用 85% 4% 1-9% 2% 6% 0.3% 0.1-0.6% 0.5% 0.1% (日本産科婦人科学会編 「低用量経口避妊薬の使用に関するガイドライン(第 2 版)」 (2005 年)より引用・改変) 場合もあるので,患者には十分な説明と同意が必要であ る. 2)経腟分娩後の卵管結紮術 分娩翌日,もしくは 2 日後の実施が行いやすい.臍直 下に 10mm 程度の横切開を加えることで可能である.分 娩直後に行う理由は,子宮が大きく,臍直下の切開で卵 管を直視下に見ることができるからである.開腹による 感染のリスクもあるが,分娩に対する感染対策はとられ ているので,問題にはならない.麻酔は腰椎麻酔,硬膜 外麻酔,全身麻酔のいずれでもよい. 3)腟式卵管結紮術 子宮内掻爬による妊娠初期の人工妊娠中絶術に続い て,腟式に卵管結紮術が可能であるが,術者が経腟手術 の習熟者であることが求められる.感染については,人 56 心疾患患者の妊娠・出産の適応、管理に関するガイドライン 工妊娠中絶術に対する感染対策はとられているので,問 題にはならない.麻酔は腰椎麻酔,硬膜外麻酔,全身麻 2 酔のいずれでもよい. 母体の循環病態が胎児に与え る影響 4)内視鏡下卵管結紮術 分娩後,非妊娠時のいずれも,小切開で手術が可能で ある.気腹を行うので全身麻酔による管理が必要とされ る. ② 子 宮 内 避 妊 器 具(Intrauterine contraceptive devices:IUD) 1 Eisenmenger 症候群(「先天性心疾 患」-「チアノーゼ残存例」,「肺高 血圧症」参照) 経皮的動脈血酸素飽和度が 80 〜 85%以下は妊娠が継 続しない.妊娠初期の胎内死亡となり,流産となる.一 手術操作は容易で,比較的安全な処置とされている. 般にヒトの流産は 20 %位あると考えられ,その半数は ただし,挿入時には迷走神経反射に注意する.抜去すれ 胎芽の染色体異常である.この場合の胎芽死亡の時期は, ば再び妊娠が可能となる.器具が子宮体部に挿入されず, 胎芽の心拍動が観察される以前であるが,経皮的動脈血 子宮頸部にとどまっている場合(挿入不全)があり,避 酸素飽和度が 80 〜 85 %以下での胎芽・胎児死亡では, 妊不成功となることがある.また,排卵推定時期は他の 一度心拍が認められてから後の死亡であることが多い. 方法との併用が望ましい.IUD 挿入後は必ず超音波断層 妊娠が継続しても,胎児は子宮内発育不全を呈する. 法で位置確認を行う.1 年に 1 回交換する.あまり長期 子宮内胎児発育不全は,児の生活環境が悪いことを意味 に交換せずに挿入した状態を続けると,抜去が困難にな し, 高 度 に な る と 胎 児 機 能 不 全(non-reassuring fetal ることがある.骨盤内感染症時には使用禁止である. ③ 低用量経口避妊薬 status)から胎児死亡に至る. 安静と酸素投与は有効と考えられ,妊娠を継続する場 合は妊娠全期間の入院管理とする. 避妊効果は高い.月経第 5 日目より服用を開始し,20 妊娠の末期まで妊娠の継続が可能なことはまずなく, 日もしくは 21 日間服用を続ける.服用中止後 2 〜 3 日で 妊娠 30 週前後で何らかの症状が発現し,帝王切開,早産, 消退出血が始まる.その出血の第 5 日目から次のクール 低出生体重児出生の結果になる.心疾患合併妊娠の管理 を開始する.血栓症,心不全のハイリスク群には安全性 で,新生児集中治療室が必要な理由がここにある.妊娠 が確立していない.我が国では,心疾患に対する使用は の継続を中止しなければならない理由は,肺出血,心不 未承認で保険適用がない. 全,低酸素血症の進行,胎児機能不全などである. ④ コンドーム 確実に正しく装着していれば,避妊効果は高い.パー トナー任せになるので確実性がない. ⑤ 基礎体温 2 開心手術(「侵襲的な治療」-「心臓 血管外科手術,補助循環」参照) 妊娠中の体外循環使用の,胎児に対する安全性は全く 保証されていない.特に妊娠後半期の体外循環の使用は, 胎内死亡となる危険性が極めて高くなる.もし,妊娠中 本人の自覚のみに任せることになるので確実性はな に開心手術が必要になり,児の生存を望む場合は,帝王 い.普通はコンドームとの併用を指導する. 切開を先行させる. ⑥ パートナーの避妊手術(精管結紮術) 3 心不全 心疾患の女性が死亡することもあり,男性パートナー 母体が心不全に陥った場合,過強陣痛と胎児機能不全 の将来の生活を考えると積極的には勧められない. の症状が先行する場合がある.胎児機能不全に対して, 産科医は緊急帝王切開を行うようにトレーニングされて いるが,母体の心不全を伴う場合は,麻酔の導入などを かなり慎重に行う必要がある. 徐々に進行してくるうっ血性心不全に対しては,抗心 不全療法の適応がある.急激な利尿の場合には,子宮循 環不全で胎児死亡の危険がある. 57 循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2009 年度合同研究班報告) 4 母体の頻脈性不整脈 未満(超低出生体重児)や妊娠 28 週未満の出生児(超 早産児)の予後は,周産期医療の発達した現在でも厳し 発作性上室頻拍では,可及的速やかに治療を行う.発 いことが少なくない.アメリカ産婦人科学会が示したこ 作に伴う末梢血管の収縮はさほど胎児に影響を与えな の時期における生存率は,妊娠 25 週以降で 75%である い.自宅で発作が起こった場合は必ず来院させ,母体の が,生産児の約半数に何らかの障害がみられることを報 頻拍の治療と母体・胎児管理を行う.治療の方法は日頃 ) 告している 348(レベル B). 最も効果のある方法がよい. 我が国の主要施設において,2001 年に出生した児の 5 母体の徐脈性不整脈 徐脈に対してペースメーカを植え込んでいない女性 生存率を妊娠 22 週より 1 週ごとに検討したところ,27.2 %,58.2 %,80.9 %,92.1 %,94 %となった.隣接する 週での生存率の比較では,22 週と 23 週(p=0.0053),23 は,妊娠が必ずしもペースメーカ植え込みの適応にはな 週と 24 週(p=0.0017)で有意差がみられたが,24 週以 らない.分娩中の出血やショックのために,ペースメー 降では差はみられなかった. カが必要になる可能性がある.そこで,分娩前に経静脈 表 31 に,1984 年から 1997 年の 14 年間における,東 的ペースメーカを一時的に挿入し,ショック対策とする 京女子医科大学母子医療センターでの生産児の神経学的 ことができる. 後遺症(主として脳性まひ)の発生率を週数別で示す. 3 妊娠継続可否の判断 妊娠 32 週以降では生存率は 97 %,障害発生率は 1 %と なり,妊娠 32 週が早期娩出の 1 つの目安と考えられる. 各施設において,このような治療成績を加味しながら, 1 母体からみた判断 「禁忌疾患 / 病態」の表 4 に該当する場合には,母児と 娩出時期を決定する必要がある. 4 子宮収縮のコントロール もに極めてハイリスクのため,人工妊娠中絶が勧められ る. 子宮収縮のコントロールは,産科治療に特有の治療で 心不全や不整脈のため母体の病態が継続的に悪化し, ある.切迫流産・早産には,子宮収縮抑制薬が適応とな 母体の健康ないし生命が著しく脅かされることが予測さ り,一方,陣痛誘発をする場合や微弱陣痛がみられる場 れる場合には,妊娠中断(中絶ないし早期娩出)を考慮 合には,子宮収縮促進薬が適応となる.これらの治療で する.また,母体の病態の継続的な悪化のため,胎児頭 は,循環器系への重大な副作用もまれでないため,厳重 囲の発育が停止した場合には,妊娠の中断(早期娩出) な観察を要する. とする. 心不全悪化の診断は,安静療法にもかかわらず呼吸苦 1 子宮収縮抑制 を訴える,継続的に心拍数が増えていく,浮腫が増強す 妊娠 37 週未満の早産は,陣痛や破水から早産に至る る,体重が急速に増加する,などの徴候がみられること 自然早産,母体や胎児の適応で早産となる人工早産に分 による.胸部 X 線検査で心拡大の進行と肺うっ血の出現 けられる.心疾患合併妊娠では後者が圧倒的に多いが, が認められた場合には,循環器を専門とする医師にコン 前者の場合もみられる.東京女子医科大学における 10 サルトする. 年間の検討では,心疾患合併妊娠における自然早産の頻 不整脈では,それによる心不全の悪化や,危険な不整 度は 3.4%(13/381)で,一般的な頻度と差がなかった. 脈(心室頻拍発作など)を繰り返す場合は,妊娠の中断 したがって,決してまれな合併症ではなく,切迫早産治 (中絶ないし早期娩出)を考慮する. 療(tocolysis)が必要とされる.切迫早産治療の禁忌と チアノーゼの場合は,「先天性心疾患」─「チアノーゼ 残存例」を参照する. 2 早期娩出児の予後 出産の時期を決定するにあたり,分娩時の妊娠週数別 に,生存率や神経学的後遺症を含む生産児の障害発生率 がどの程度なのかが,大きな要因となる.特に,1,000g 58 表 31 生産児の神経学的後遺症の発生率(妊娠週数別) 24 週以下 24 ~ 27 週 28 ~ 31 週 32 週以上 入 院 20 158 311 3,478 死亡(%) 12(60) 19(12) 18(6) 87(3) 障 害 1(13) 30(22) 37(13) 30(1) (東京女子医科大学母子総合医療センター,1984 〜 1997 年) 心疾患患者の妊娠・出産の適応、管理に関するガイドライン して,母体側の合併症(子癇あるいは重症の妊娠高血圧 されている 351).両薬剤ともに,子宮収縮のパターンが 症候群,高血圧,心疾患,出血,甲状腺機能亢進症), 自然陣痛と類似している. 胎児側の合併症[胎児死亡,致死的先天異常,羊膜炎, 胎児機能不全(non-reassuring fetal status),子宮内胎児 ① オキシトシン 発育不全(intrauterine growth retardation:IUGR)]に加 オキシトシンによる子宮収縮パターンは,投与開始か え,4cm 以上の子宮口開大,推定体重 2,500g 以上,妊 ら内圧が高く,規則的な周期で子宮収縮が認められる. 娠週数 37 週以上などが予想される場合などが挙げられ 感受性は妊娠週数によって異なり,個人差も大きい.薬 .子宮収縮抑制薬の投与方法を表 32 に,主な副作 剤感受性は,妊娠 20 〜 30 週より増し,34 〜 36 週には 用を表 33 に示す.短期間での切迫早産治療は有効とさ 変化なく,37 週より再び増加する.投与時間が 8 〜 10 れているが,長期間での有効性については認められてい 時間を超えると,感受性は低下し,投与量を増やしても る 349) 2) ない (レベル B).切迫早産治療の目的で子宮収縮抑制 有効陣痛を得られないことが多い.投与方法としては, 薬を心疾患合併妊婦に投与する場合には,頻脈性不整脈 点滴本体に薬剤を入れて行う点滴静注法や,注入ポンプ の既往があるかどうかを検討し,心房性・心室性期外収 を使用する持続静脈注入法が行われているが,後者の方 縮がみられる場合には,その頻度と重症度を考慮して, が安全性は高い.前者を選択する場合は,注入速度およ 禁忌とするか心拍数モニターを装着するかなどの,注意 び陣痛発作の頻回な確認が必要である.分娩促進中には, 深い管理下で使用するかどうかを判断する. 2 分娩監視装置を使用し,医師や助産師の母児観察が必須 である.特にオキシトシンの場合は,効果が現れる投与 子宮収縮促進 開始直後 3 〜 5 分から,効果が安定するまで 40 分間かか 陣痛誘発をする場合や微弱陣痛がみられる場合には, る.このため,オキシトシン増量後の 40 分は過強陣痛 子宮収縮促進薬が使用される.現在では,安全性と有効 に注意する 352)-355). 性から,オキシトシンとプロスタグランジンが主に使用 過強陣痛を予防するため,投与は少量より開始し,ゆ 表 32 各種子宮収縮抑制薬の投与方法と禁忌 投与方法 リトドリン(β刺激薬) テルブタリン(未承認) 硫酸マグネシウム インドメタシン(未承認) 投与禁忌 リトドリン(β刺激薬) 硫酸マグネシウム インドメタシン 50μg/min から始め,10 ~ 20 分おきに 50μg/min ずつ増量する 10μg/min から始め,10 分おきに 5μg/min ずつ増量する 4g を 30 分かけて静注した後に,母体のマグネシウム血中濃度をモニターしながら,子宮収縮 が止まるまで 2 ~ 4g/hr で投与する 25 ~ 50mg 座薬あるいは内服を 6 時間ごとに 48 時間まで コントロール不良の糖尿病,肺高血圧症 低カルシウム血症,重症筋無力症,腎不全 消化性潰瘍,血液疾患,肝腎機能不全,喘息,膵炎,直腸炎,産科出血 表 33 各種子宮収縮抑制薬使用の際に注意すべき副作用 リトドリン(β刺激薬) 重 大: 肺水腫,急性心不全,無顆粒球症,低カリウム血症,横紋筋融解症 新生児: 心室中隔壁の肥厚,腸閉塞 その他: 頻脈,不整脈(母体および胎児) ,肝機能障害,血小板減少,振戦,高血糖,高アミラーゼ血症を伴う唾液腺腫脹,頭痛, 紅斑など 硫酸マグネシウム 重 大: 肺水腫,呼吸不全,心ブロック,心停止,テタニー,筋マヒ,低血糖,顔面紅潮,体熱感,麻痺性イレウス,横紋筋融 解症 新生児: 骨の異常所見 (上腕骨近位側骨幹端に放射線透過性の横断像や皮質の皮薄化) インドメタシン 重 大: ショック,肝機能障害,腎不全,消化管出血,喘息,再生不良性貧血,溶血性貧血,皮膚粘膜眼症候群(Stevens-Johnson 症候群) ,羊水過少 胎 児: 動脈管収縮,腎不全,腸穿孔 新生児: 壊死性腸炎 59 循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2009 年度合同研究班報告) っくり増量して有効陣痛に至るようにする.1 〜 2mIU/ 頸管未熟例でも有効で,陣痛誘発の作用以外に頸管熟化 min より開始し,安全限界である 20mIU/min 以内にとど 作用を有する.プロスタグランジンは,糖尿病や妊娠高 める.また,一日総投与量は,10IU 以内にする.これは, 血圧症候群に使用可能である. オキシトシンには抗利尿作用があり,20mIU/min 以上投 PGF2 αの投与方法は,点滴静注法または持続静注法が 与すると,腎クリアランスが著しく低下するためである. 行われている.過強陣痛を予防するため,オキシトシン オキシトシンによる誘発分娩後に弛緩出血を起こすこと と同様に,投与は少量より開始する.0.5 〜 2.0μg/min があり,分娩後の第 4 期もオキシトシンを引き続き使用 より開始し,安全限界である 25μg/min 以内にとどめる. するとよい.オキシトシンの副作用は表 34 に,オキシ 25μg/min 以上では,過強陣痛の頻度が上昇し,副作用(下 トシンの禁忌は表 35 に示す. 痢・嘔吐・咳など)が出現しやすい.投与中の管理につ ② プロスタグランジン 同時投与は著明な過強陣痛のリスクのため避ける必要が プロスタグランジン(prostaglandin:PG)352)は不飽和 ある.PGE2 は経口投与で使用する.欧米では腟座薬や 脂肪酸の一種であり,大きく 9 種類に分けられる.その ゲルの腟内,頸管内投与が行われているが,我が国では うち,子宮収縮作用を有するのは E1,E2,F2 α である. 承認されていない. 妊娠中は羊膜や子宮筋などで生産され,子宮筋に作用す PGE2 は子宮収縮作用と頸管未熟例の頸管熟化作用が る.半減期は短く,調節性がある.PGF2 αは妊娠末期に 期待できる.通常 1 クールは 1 回 1 錠,1 時間おきで,計 使用されると,投与開始直後は不規則で,内圧が低く, 4 〜 6 錠投与となっている.効果が認められないときは 持続が 1 〜 1.5 分と長い.その後次第に作用持続時間が 翌日以降の再投与となる.他の薬剤誘発法と同様に,分 短縮し,内圧が低いままでも分娩は進行する.分娩直前 娩監視装置を使用の上,医師と助産師による母児観察が には規則正しい収縮となり,自然陣痛の子宮収縮パター 必要である.PGE2 錠は調節性に乏しいため,陣痛誘発 ンと似た陣痛となる.プロスタグランジン使用中に,胎 効果が認められれば,投与を中止して,経過観察する. 児頻脈が認められることがあるが,中止すれば回復する. プロスタグランジンの副作用は表 36 に,プロスタグラ プロスタグランジンは個体による感受性の差が少ない. ンジンの禁忌は表 37 に示す. 表 34 オキシトシンの副作用 ◦過剰投与による過強陣痛 (間欠期 1 分以内,発作 90 秒以上) ◦胎児機能不全および胎児死亡 ◦子宮破裂 ◦分娩後出血 ◦不整脈,血圧変動 ◦大量輸液による肺水腫 ◦悪心,嘔吐 表 35 オキシトシンの禁忌 絶対禁忌 ◦全前置胎盤 ◦常位胎盤早期剥離 ◦児頭骨盤不均衡 ◦切迫子宮破裂 ◦胎児機能不全 ◦過強陣痛 慎重投与 ◦児頭骨盤不均衡や胎児機能不全の疑い ◦妊娠高血圧症候群 ◦心・腎・血管障害症例 ◦軟産道強靭症 ◦多産婦 ◦胎位異常 60 いてはオキシトシンに準ずる.また,オキシトシンとの 5 分娩法の選択 1 分娩時の循環病態 心疾患合併妊婦において,分娩は最も循環動態が変化 するときであり,生命への危険が及ぶ可能性を念頭に, 慎重に管理を行う必要がある.分娩が開始されると,心 表 36 プロスタグランジン(PG)の副作用 1)オキシトシンと共通するもの ◦過剰投与による過強陣痛 (間欠期 1 分以内,発作 90 秒以上) ◦胎児機能不全および胎児死亡 ◦子宮破裂 ◦分娩後出血 ◦不整脈,血圧変動 ◦悪心・嘔吐 2)プロスタグランジンの平滑筋刺激作用によるもの ◦腹痛,下痢(消化管刺激による) ◦咳,喘鳴,呼吸困難 (気管支平滑筋の刺激による) 3)その他 ◦動悸,頻脈 ◦薬剤静脈投与中,注入部の静脈炎 心疾患患者の妊娠・出産の適応、管理に関するガイドライン 拍出量は陣痛開始前と比べて 13 %増加するといわれ, 娩後に元の安定した循環動態へ戻るまでに 4 〜 6 週間か 子宮収縮時にはさらに 34 %増加し,総計約 50 %は増加 かる. するといわれている 356) .また,分娩中は心拍出量の変 化を減少させるために,左側臥位をとることが推奨され 3 麻酔(「分娩時の麻酔」参照) ている 357).これは,仰臥位低血圧症候群を予防するた 分娩に際し,硬膜外麻酔を行うことは,心拍出量を減 めにも有用である. 少させるため負荷の軽減に有用であり,また疼痛緩和が 2 分娩法の選択 一般的に経腟分娩が推奨されるが,一部の例外的な症 例では帝王切開術が選択される(表 38) .心疾患の中で 帝王切開術の適応が明らかとされるものは,上行大動脈 行えるため,患者の不安を取り除くことも可能である. さらに産科的緊急処置に速やかに対応できるといった利 点もある. 6 分娩時の麻酔 1 必要性 径の拡大を伴う Marfan 症候群と,分娩前にワルファリ ンからヘパリンへのコントロール不良の機械弁装着の場 合とされている 2).その他のハイリスク群に属する場合 でも帝王切開を考慮することがある 358).また,術後の 分娩中の循環動態は,体位,分娩様式,陣痛,麻酔の 運動能力評価において,自覚的には日常生活に不便を感 程度などに大きく影響を受ける(「妊娠・分娩の循環生理」 じないとされていても,実際に運動を行うと,ごく軽い 参照).したがって,妊婦が合併する心疾患の種類と程 運動でも支障が生じるということもあるため,分娩によ 度によっては,これらの影響を緩和するための鎮痛・全 る負荷に対する心血管耐容能力を正しく判断することが 身管理と適切なモニタリングが,経腟分娩に際しても必 重要である.これは心疾患の種類によらず,全般にわた 要となる.硬膜外麻酔による鎮痛法は,循環動態変化が り注意を要する. 少なく,効果的な鎮痛を提供できる優れた方法であ 産科処置としては,母体負荷を軽減するために,分娩 第 2 期を短縮する目的で,吸引や鉗子分娩を行うことも ある.中等度〜高度リスク群では,少なくとも分娩後 72 時間はモニター管理を行う必要がある.一般に,分 表 37 プロスタグランジン(PG)の禁忌 絶対禁忌 1)オキシトシンと共通するもの ◦全前置胎盤 ◦常位胎盤早期剥離 ◦児頭骨盤不均衡 ◦切迫子宮破裂 ◦胎児機能不全 ◦過強陣痛 2)プロスタグランジンの平滑筋刺激作用によるもの ◦緑内障,眼圧亢進症例(PGE2,PGF2α) ◦喘息(PGF2α) 慎重投与 1)オキシトシンと共通するもの ◦児頭骨盤不均衡,胎児機能不全の疑い ◦胎位異常 ◦軟産道強靭症 ◦心障害症例 ◦多産婦 2)その他 ◦喘息の既往歴を伴う症例 ◦悪心・嘔吐がある症例 表 38 帝王切開術の適応 一般 1)母体適応 ◦児頭骨盤不均衡 ◦軟産道強靭 ◦狭窄,瘢痕,骨盤内腫瘍により経腟分娩が困難なとき ◦子宮破裂の危険があるとき(前回帝王切開,子宮筋腫核 出術などの既往) ◦母体に危険が迫っているとき(重症妊娠高血圧症候群, 子癇,前置胎盤,常位胎盤早期剥離,心疾患,肺疾患, 腎疾患,肝疾患などの合併など) ◦試験分娩,吸引分娩,鉗子分娩によっても経腟分娩不可 能と考えられるとき 2)胎児適応 ◦胎児機能不全 ◦臍帯脱出 ◦遷延横位,胎位・胎勢・回旋異常 ◦胎児の未熟性が予測される骨盤位 母体心疾患 ◦心機能低下 ◦血圧変動がきっかけで循環動態が破綻しやすい場合 Marfan 症候群,有意な大動脈縮窄,大動脈弁狭窄,高 度肺動脈狭窄,Fontan 術後(経腟分娩が可能なことも あるが極めてまれ) ◦肺高血圧 ◦コントロールが困難な不整脈 ◦機械弁(抗凝固薬のコントロール不良) ◦チアノーゼを呈する場合 61 循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2009 年度合同研究班報告) ) る 359(レベル C). 2 な鎮痛を図る.分娩中は側臥位とし,適切なモニタリン グを継続する.子宮収縮に伴う変動を的確に把握するた 適応と禁忌 めには,観血的モニタリングや経胸壁心エコー検査の有 硬膜外麻酔の良い適応となるのは,頻脈性不整脈,虚 用性が高い(レベル C). 血性心疾患,逆流性弁疾患,僧帽弁狭窄症などである. 出産時には怒責を避け,鉗子・吸引分娩により分娩第 相対的禁忌とされる疾患は,大動脈弁狭窄症,閉塞性肥 Ⅱ期短縮を図る.児娩出後に弛緩出血対策として用いら 大型心筋症,有意の右左シャントを伴う先天性心疾患, れる子宮収縮促進薬は,それぞれに心血管系に対する特 Eisenmenger 症候群,機械弁置換術後で抗凝固療法を受 有の副作用がある(表 34,36).マレイン酸メチルエ けている患者などである 360). ルゴメトリンは血管収縮作用が強く,高血圧や冠動脈攣 3 縮などを来たすことがある.したがって,児娩出後の子 麻酔前評価 宮収縮薬の投与は回避するか,必要ならばオキシトシン 心疾患合併妊婦においても,産科的適応により妊娠正 を持続静注することで影響を最小限にする(レベル C). 期前に緊急帝王切開術を必要とする場合があるため,十 なお,抗凝固療法を継続している場合には,硬膜外血 分早い週数に麻酔科医によるコンサルテーションを受け 腫などのリスクがあるため,この方法は避ける必要があ ることが望ましい.その際には,心疾患の病態と治療経 る. 過,妊娠中の状態変化と現在の心機能,手術・麻酔歴と その問題点,産科的経過と分娩方針について,循環器担 5 帝王切開術における麻酔法選択 当医や産科医から十分な情報を得る. 心疾患合併妊婦の帝王切開においては,個々の心疾患 特に妊娠・出産におけるリスクが高いと考えられる先 の病態を考慮して,最も安定した循環動態を提供できる 天性心疾患の場合は,現在の循環動態と,周産期におけ 方法を選択する.ある麻酔法が他の方法より優れている る循環動態管理目標とその許容範囲について,担当医よ という証拠はない.通常は,麻酔範囲を徐々に広げてい り助言を得る必要がある.それらに基づき,経腟分娩, く硬膜外麻酔か,オピオイドを用いた全身麻酔が選択さ 予定帝王切開,緊急帝王切開のそれぞれについて,麻酔 れる(レベル C). と周術期管理の計画を立て,患者に説明する. 麻酔法選択に際して考慮すべき点を表 39 にまとめて 4 示す.また個々の心疾患における,経腟分娩の鎮痛法や 硬膜外無痛分娩の方法 帝王切開術の麻酔法についての報告を表 40 に示す. 妊婦は麻酔中の誤嚥性肺炎の危険性が高いため,麻酔 新生児がオピオイドなど麻酔薬の影響下に娩出される 開始 8 時間前には絶飲食とする.下部腰椎間に留置した ことを,あらかじめ新生児科医に伝え,分娩時のスタン 硬膜外カテーテルより,低濃度局所麻酔薬(0.25%ブピ バイと適切な対処のできる体制をとる. バカイン)を 3mL ずつ 9 〜 12mL まで少量分割注入し, 児娩出後には,弛緩出血の予防と治療目的に子宮収縮 T10 以下の無痛域を得る.その後は,0.1 %ロピバカイ 促進薬をルーチンに投与することが多い.子宮収縮促進 ンなどとフェンタニル 2μg/mL 混合液を 6 〜 12mL/hr で 薬は平滑筋に作用し,様々な心血管系の副作用を持つた 持続硬膜外注入し,急激な交感神経遮断を避けつつ十分 め,選択に留意する(前項参照).オキシトシン 10 単位 表 39 心疾患合併妊娠の帝王切開術の麻酔法選択に際して考慮すべき点 誤嚥性肺炎リスク 交感神経遮断 交感神経刺激 体血管抵抗 肺血管抵抗 胸腔内圧 心収縮力 経食道心臓超音波モニタリング 症状の訴え 抗凝固療法中 62 脊髄くも膜下麻酔 ほとんどなし 急激 なし 硬膜外麻酔 ほとんどなし 緩徐 なし 低下 低下 調節困難 不変 不変 苦痛 可能 避ける 調節困難 不変 不変 苦痛 可能 避ける 全身麻酔 あり 軽微 挿管・抜管時 浅麻酔で上昇 麻酔薬により低下 人工換気により調節可能 調節呼吸で上昇 抑制する可能性 容易 不可能 リスクは低い 心疾患患者の妊娠・出産の適応、管理に関するガイドライン 表 40 基礎心疾患と麻酔法 疾 患 頻脈性不整脈 頻拍 上室頻拍 心室頻拍 先天性 QT 延長症候群 不整脈源性右室異形成 細動と粗動 心房細動 早期興奮症候群 WPW 症候群 徐脈性不整脈 洞徐脈・洞停止 完全房室ブロック 人工ペースメーカ 虚血性心疾患 狭心症 急性心筋梗塞 陳旧性心筋梗塞 川崎病冠動脈障害 先天性心疾患 Eisenmenger 症候群 肺動脈弁狭窄症 先天性右肺動脈欠損症 三尖弁閉鎖症 Fontan 手術後 Ebstein 病 完全大血管転位症 Mustard 手術後 大動脈縮窄症 肺動脈弁閉鎖症+心室中隔欠損症 肺動脈弁閉鎖症+正常心室中隔 修正大血管転位症 両大血管右室起始症 総動脈幹症 冠動脈奇形 単心室 後天性弁膜症 僧帽弁狭窄症 僧帽弁逆流症 大動脈弁狭窄症 大動脈弁逆流症 僧帽弁狭窄+大動脈弁狭窄症 僧帽弁狭窄+大動脈弁逆流症 僧帽弁逆流+大動脈弁逆流症 感染性心内膜炎 心筋疾患 心筋症 肥大型心筋症 拡張型心筋症 産褥心筋症 大動脈疾患 大動脈炎症候群(高安動脈炎) 先天性結合組織疾患に伴う血管病変 Marfan 症候群 肺性心疾患 肺動脈高血圧症(PAH) 麻酔 なし 経腟分娩 硬膜外 鎮静薬 脊麻 鎮痛 脊麻 帝王切開術 硬膜外 全身 他の 脊硬麻 麻酔 麻酔 麻酔法 不整脈 ○ ◎ ◎ ◎ ● ○ ○ ○ ● ○ ◎ ● ● ● ◎ ◎ ◎ ● ● ◎ ◎ ○ ◎ ● ● ● ○脊硬麻 ○ ○ ● ◎持続脊麻 ○ ◎ ◎ ● ◎ ● ○ ● ◎ ◎ ◎ ● ● ● ● ● ● ● ◎ ◎ ● ◎ ◎ ○ ○ ● ●持続脊麻 ● ○ ○ ● ● ● ● ○ ●持続脊麻 ●持続脊麻 ● ● ● ● ◎ ● ○ ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ◎ ● ● ● ◎ ● ◎ ○ ● ● ◎ ● ● ● ● ◎ ○ ● ● ● ● ● ○ ○ ○ ○ ● ◎ ○ ● ● ◎ ● ○ ◎ ◎ ○ ● ● ◎ ◎ ○ ○ ● ◎ ● ● ◎ ◎ ◎ ● ◎ ◎ 局所浸潤 注)○が日本でのみ報告あり ●が外国のみ報告あり ◎は国内外で報告あり 63 循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2009 年度合同研究班報告) ボーラス静注では,5 単位ボーラス静注と比較して血圧 低下と ST 低下が有意に多く 361) ,マレイン酸メチルエル ゴメトリンと比較しても ST 低下が多かった 362) .したが を要する場合もある. 妊娠中に安全性の確立している抗不整脈薬はなく,す べての抗不整脈薬は投与に厳重な注意を要する 317),318), って,最も循環動態に対する影響が少ない子宮収縮促進 363),364) ) .FDA の薬剤胎児危険度分類 11(表 16)と,米国 薬投与法として,オキシトシン持続静注が推奨される(レ 小児科学会による薬剤の母乳分泌の有無に関する勧 ベル C). 告 150)を参考として,妊娠中の抗不整脈治療に関して述 べる(表 41).これらの勧告は,形態的,機能的に正常と Ⅴ 考えられる心臓に合併した妊娠中の不整脈に対する,抗 母体の治療と注意点 不整脈薬の限られた使用経験に基づいたものである.器 質的心疾患に伴う不整脈の場合には,基礎心疾患固有の 循環動態や心機能なども考慮して使用する必要がある. 1 個々の抗不整脈薬の胎児・新生児に対する影響につい 抗不整脈治療 て,特に注意すべき点を述べる(「妊娠中の薬物療法」 参照).フェニトインは,胎児ヒダントイン症候群など 1 の催奇形性があり,不整脈への適応がジギタリス中毒な 基本的事項 どに限られるため,妊娠中に使用する機会は少ないと考 妊娠中に,不整脈によって有意な循環動態の変化を生 えられる.また,添付文書上のフェニトインの使用適応 じる場合,母体・胎児へ与える影響が大きく,緊急治療 は,てんかん発作に限られていることにも注意が必要で 表 41 主な抗不整脈薬の特徴(妊娠中および授乳中の使用) 薬 剤 FDA V-W 分類* 勧告*2 適 応 キニジン プロカインアミド ジソピラミド リドカイン IA IA IA IB C C C B 種々の不整脈 種々の不整脈 種々の不整脈 VT メキシレチン IB C VT フェニトイン IB D ジギタリス中毒 フレカイニド プロパフェノン アテノロール プロプラノロール メトプロロール IC IC Ⅱ Ⅱ Ⅱ C C D C→D C→D アミオダロン Ⅲ D ソタロール ベラパミル アデノシン ジゴキシン Ⅲ IV NA NA B→D C C C VT,SVT VT,SVT SVT,VT,Af SVT,VT,Af SVT,VT,Af VT VT,SVT SVT,VT,Af SVT SVT,Af 特徴・副作用 血小板減少 ループス様症候群 子宮収縮 徐脈,中枢神経系副作用 徐脈,中枢神経系副作用 低出生体重児 胎児ヒダントイン症候群 不整脈に対する保険適用なし 正常な心臓ではなし 正常な心臓ではなし IUGR,低血糖,徐脈 IUGR,低血糖,徐脈 IUGR,低血糖,徐脈 甲状腺機能異常 徐脈,IUGR 徐脈 低血圧,徐脈 悪心,顔面紅潮 徐脈,低出生体重児 添付文書*3 妊婦 授乳 2 1 2 1 2 1 2 催奇 形性 使用中の授乳 なし なし なし なし 恐らく可能 恐らく可能 恐らく可能 恐らく可能 なし 恐らく可能 2 あり 可能 2 なし なし なし なし なし 恐らく可能 恐らく可能 潜在的毒性 潜在的毒性 潜在的毒性 1 2 2 2 1 1 1 1 1 1 なし 禁忌 2 1 なし なし なし なし 潜在的毒性 恐らく可能 恐らく可能 可能 2 1 2 2 1 1 1 Af:心房細動,IUGR:子宮内胎児発育不全,NA:クラス外,SVT;上室頻拍,VT:心室頻拍 不整脈薬の Vaughan Williams 分類による 薬剤情報は主に“Drugs in Pregnancy and Lactation 8th edition(2008) ”(文献 11)に従った. * 2 B → D/C → D:妊娠第 1 期の使用は B または C 分類だが,妊娠第 2 〜 3 期の使用は D 分類となる (妊産婦 / 授乳婦)への投与に関する情報(空欄は記載のない薬剤) * 3 薬剤添付文書による, 1 禁 忌:妊婦または妊娠している可能性のある婦人には投与しないこと.また,投与中に妊娠が判明した場合には,ただち に投与を中止すること.授乳中の婦人に投与することを避け,やむを得ず投与する場合には授乳を中止させること. 2 相対禁忌:治療上の有益性が危険を上回ると判断される場合のみ投与すること.妊娠または妊娠している可能性のある婦人に は投与しないことが望ましい.妊娠中の投与に対する安全性は確立されていない. 【注意事項】 1)妊婦への使用に際しては,適応・禁忌を確認すること. 2)適応外または禁忌とされる薬物を使用する場合は,十分な説明と同意を得ること. * 64 心疾患患者の妊娠・出産の適応、管理に関するガイドライン ある.Vaughan Williams 分類Ⅱ群薬(β遮断薬)は,子 (ATP)の静脈内投与(5 〜 10mg)が安全かつ有効と考 宮内胎児発育不全との関連を指摘されてきたが,もとも えられている 364). との母体リスクや,過量投与による胎盤循環不全の影響 長期間の発作予防が必要な場合は,β遮断薬またはジ の方が大きいと考えられている.分娩前や授乳中のβ遮 ゴキシンの投与が比較的安全と考えられている 373).非 断薬使用に際しては,新生児の徐脈や低血糖に注意する 特異性β遮断薬は妊娠前期の投与は避け,心臓特異的な 必要がある.メトプロロールは,母乳中での濃縮が報告 β1 遮断薬(メトプロロール)を使用することが望まし されているため,内服中の授乳を避けることが望ましい. いと考えられている 374).また,薬剤抵抗性で incessant アミオダロンは,胎児の甲状腺機能異常が報告されてい 型の発作性上室頻拍の症例では,妊娠後半で高周波カテ るため,使用の際は厳重な注意が必要である.また,ア ーテル・アブレーションを安全に行えたとの報告もあ ミオダロンは,母乳中に濃縮されて分泌されるため,授 る 370),374). 乳中の使用は避けることが望ましい.ジゴキシンの使用 3)心房粗動,心房細動 に際しては,母体の血中濃度モニタリングによる使用量 循環動態が不安定な場合は直流除細動を施行するが, の調節が,母体・胎児のジギタリス中毒の予防に有用と 頻脈性心房細動では心拍数コントロールのためにβ遮断 なる. 薬およびジゴキシンの投与が必要となる 375).なお,妊 非薬物治療として,妊娠中の直流除細動(DC)は安 娠中の直流除細動は安全とされている 365). 全とされている 365). 4)心室頻拍 妊娠中に悪化が予想される徐脈性不整脈は,器官形成 持続性心室頻拍で循環動態が不安定であれば,ただち 期での放射線照射を避ける意味から,妊娠前にペースメ に直流除細動を行う.妊娠中の直流除細動は安全とされ ーカ装着を考慮する必要がある.また,妊娠中に再発率 ている 365).安定した心室頻拍の場合は,リドカイン, の高い頻脈性不整脈 366) では,診断されていれば妊娠前 メキシレチンおよびプロカインアミドの投与が安全また のカテーテル・アブレーションが検討される.妊娠中に は比較的安全と考えられている 375).また,右室流出路 おけるカテーテル・アブレーションや,ペースメーカお 起源の場合はβ遮断薬が有効な場合が多い 299).致死的 よび植え込み型除細動器(ICD)の植込みに際しては, 不整脈など,重篤な不整脈では,アミオダロンの投与も 心臓超音波検査,3 次元マッピングシステムの使用など 検討される 5). により,X 線照射時間をなるべく短くするかゼロにする 5)QT 延長症候群 317),367)-370) .ペースメーカないし 心停止や失神発作などのイベントは,妊娠期間中と比 植込み型除細動器装着後例は,比較的安全に出産でき 較 し て, 分 娩 後 に 多 く 認 め ら れ る と 報 告 さ れ て い る 371),372). る 308),312).β遮断薬による予防的治療の継続が,妊娠期 方法が報告されている 2 治療の適応と実際 間中のイベント発生を有意に抑制することから,β遮断 薬の継続が必須であると報告されている 308),312). ① 頻脈性不整脈 ② 徐脈性不整脈 1)期外収縮 妊娠期間中の有症候性の洞不全症候群や房室ブロック 非妊娠時と同様に,基礎心疾患がなく,無症状または の 場 合 は, 恒 久 ペ ー ス メ ー カ 植 え 込 み の 適 応 と な 軽度の症状の場合は,原則として治療の対象とならない. る 312),317),318).一時ペースメーカおよび恒久ペースメー 2)発作性上室頻拍 カに関しては,胎生 13 週以後の器官形成後であれば, 発作性上室頻拍既往の妊婦の半数が妊娠中に発作が再 発するとの報告から 366) ,妊娠前から発作性上室頻拍が 確認されている症例においては,妊娠前に高周波カテー テル・アブレーションを行うことが望ましいと考えられ 照射線量を最小限に抑えた状態で,比較的安全に行える と考えられている 306). ③ 基礎心疾患に合併する不整脈 る. 基礎心疾患に合併する不整脈の治療に際しては,前項 妊娠中に発作性上室頻拍が持続すると,胎児血流障害 の不整脈治療の原則に加えて,基礎心疾患に起因する心 を来たすため,早急な治療が必要となる.循環動態が安 機能異常や循環動態異常についても勘案する必要があ 定している場合は,迷走神経刺激法を試みる.これらの る.心疾患術後患者は,妊娠中有意な不整脈を認める場 方法で停止が得られない場合は,アデノシン三リン酸 合でも,厳重な観察あるいは的確な抗不整脈治療を行え 65 循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2009 年度合同研究班報告) ば,罹病率は高いものの母体死亡は少ない 1),179),307),376). 的に使うことが多い.胎盤を容易に通過するが,胎児血 ただ,妊娠中に頻脈性不整脈を伴うと,原疾患に基づく 中のジギタリス濃度は母体よりも低濃度(50 〜 100 %) 循環動態や心機能の異常がある場合は,母体・胎児とも に維持され,大きな問題となることは少ない. に罹病率が高く,母体死亡の可能性もある.胎児の流死 産,低出生体重児の頻度は高い 1),179),375).また,慢性心 房細動は,器質的心疾患を伴う母体に生じると,心不全 を伴いやすく,流産を生じやすい 297) .なお,抗凝固・ 抗血小板薬の影響については,「弁膜症」─「抗凝固・抗 血小板療法」を参照のこと. 2 抗心不全治療 ③ 硝酸薬 血管拡張に伴う減負荷効果を期待して,急性心不全治 療に使われる. ④ ホスホジエステラーゼⅢ(PDE Ⅲ)阻害薬 血管拡張薬作用と心収縮力増強作用を併せ持ち,体内 貯水傾向の心不全には使いやすい.添付文書上は,アム リノンとオルプリノンは妊婦への使用が禁忌とされてい 本項では,日本循環器学会による急性心不全治療ガイ 377) ドライン(2006 年改訂版) ,および慢性心不全治療ガ 378) イドライン(2005 年改訂版) において,急性・慢性心 不全の薬物療法として記載されている薬剤を中心に,動 ⑤ カ ルペリチド(ヒト心房ナトリウム利尿ペプ チド製剤) 物発生毒性試験(以後,生殖試験),ヒトにおける催奇 カルペリチドは,血管拡張作用,ナトリウム利尿作用, 形性,胎児新生児への毒性,母乳への移行性などについ レニン─アルドステロン系抑制作用を有し,また交感神 て述べる.いずれの薬剤においても,抗心不全治療を目 経抑制作用があることから,肺うっ血を合併した心不全 的とした妊婦への使用報告が少ないため,主に抗不整脈 症例に使われる.ただし,重篤な低血圧,心原性ショッ 薬あるいは降圧薬として使用した際の副作用を記述して ク,脱水例には禁忌である.比較的新しい薬剤であり, いる.心不全の母体(および胎児)の状態によっては, 妊婦に対する使用報告は少ない. 循環動態や薬効が変化する可能性があることを考慮する 必要がある.また,比較的安全とされる薬剤を使用する 場合であっても,継続する場合には,循環動態の評価や 血中濃度の測定を行う必要がある(レベル B). 急性・慢性心不全治療薬の,妊娠中および授乳中の使 用に関する注意点を,FDA の薬剤胎児危険度分類基 ) 準 11(表 16)と,薬剤添付文書情報 151)を参考にして, ⑥ カテコラミン 概ね安心して使用可能と考えられる. 2 慢 性 ① ジギタリス(ジゴキシン) 表 42 に示す.添付情報で適応外または禁忌とされる薬 ジゴキシンは強心薬,抗不整脈薬として,以前から広 剤を使用する場合は,十分な説明と同意を得ることが勧 く心疾患合併妊婦に使用されている.胎盤通過性は 0.5 められる. 〜 1.0 と良好であり 58),胎児の頻脈性不整脈治療にも用 1 急性・亜急性 いられることがある.ヒトでは低出生体重児の報告があ るが 58),比較的安全に妊婦に投与できると見なされてい 慢性心不全にも使用される薬剤については,次項に詳 る.妊婦では,循環血液量の増加などにより血中濃度が 細を記載する. 上昇しにくい一方で,腎機能障害の合併や過剰投与によ ① 利尿薬 急性心不全にはフロセミドの使用が一般的である.母 体の循環改善が主たる目的である.注意事項として,過 度の利尿による子宮循環低下,胎児利尿による脱水や電 解質バランスの異常などがある. ② ジギタリス 主として,頻脈性心房細動時の心拍数コントロール目 66 る. る不用意な血中濃度の上昇が出生児の死亡を招いたとす る報告もあり 379),血中濃度のモニターが勧められてい る(レベル C). ② ル ープ利尿薬(フロセミド,エタクリン酸, ブメタニド,ピレタニド,アゾセミド) 生殖試験では,母獣死亡,流産,胎仔の重症な水腎症 と骨格異常の報告がある 11).フロセミドは,ヒトの胎盤 を通過するため,出生直後の新生児に利尿作用と電解質 心疾患患者の妊娠・出産の適応、管理に関するガイドライン 表 42 主な抗心不全薬の特徴(妊娠中および授乳中の使用) 薬 剤 分 類 FDA 勧告* フロセミド 利尿薬 C(D) スピロノラクトン クロロサイアザイド ジゴキシン ニトログリセリン 硝酸イソソルビド カルベジロール メトプロロール ヒドララジン 利尿薬 利尿薬 ジギタリス 硝酸薬 硝酸薬 β遮断薬 β遮断薬 末梢血管拡張薬 アンジオテンシン 変換酵素阻害薬*3 アンジオテンシン 変換酵素阻害薬*3 C(D) C(D) C B C C→D C→D C カプトプリル*3 エナラプリル*3 カンデサルタン*4 ロサルタン*4 ミルリノン アムリノン オルプリノン カルペリチド ドパミン ドブタミン イソプロテレノール アンジオテンシン 受容体拮抗薬*4 PDE Ⅲ阻害薬 PDE Ⅲ阻害薬 PDE Ⅲ阻害薬 hANP カテコラミン カテコラミン カテコラミン C→D C→D C→D 特徴・副作用 催奇 形性 子宮胎盤循環低下 なし 胎児脱水 女性化作用の可能性 なし 血小板減少 溶血性貧血 なし 徐脈,LBWI なし 使用報告少ない なし 使用報告少ない なし IUGR,徐脈,低血糖 なし IUGR,徐脈,低血糖 なし 頭痛,新生児血小板減少 なし 胎児腎形成障害,腎不全, あり*3 羊水過小 胎児腎形成障害,腎不全, あり*3 羊水過小 C B C 使用報告少ない 使用報告少ない 使用報告少ない 使用報告少ない 使用報告少ない 使用報告少ない 使用報告少ない 添付文書*2 妊婦 授乳 恐らく可能 2 1 恐らく可能 可能 可能 恐らく可能 恐らく可能 潜在的毒性 潜在的毒性 恐らく可能 2 2 2 2 2 1 1 2 1 1 可能 1 1 恐らく可能 1 1 恐らく可能 1 1 なし なし 恐らく可能 恐らく可能 1 1 1 1 なし なし なし 恐らく可能 恐らく可能 恐らく可能 2 1 1 2 2 2 2 胎児腎形成障害,腎不全, あり*4 羊水過小 C C 使用中の授乳 1 1 1 1 1 hANP:ヒト心房性ナトリウム利尿ペプチド,IUGR:子宮内胎児発育不全,LBWI:低出生体重児,PDE Ⅲ阻害薬:ホスホジエス テラーゼⅢ阻害薬 ”(文献 11)に従った.空欄は記載の無い薬剤である. 注)薬剤情報は“Drugs in Pregnancy and Lactation 8th edition(2008) * B → D/C → D:妊娠第 1 期の使用は B または C 分類だが,妊娠第 2 〜 3 期の使用は D 分類となる. C(D):通常は C 分類だが,妊娠高血圧に使用の場合は D 分類となる (妊産婦 / 授乳婦)への投与に関する情報,空欄は記載なし * 2 薬剤添付文書による, 1 禁 忌:妊婦または妊娠している可能性のある婦人には投与しないこと.また,投与中に妊娠が判明した場合には,ただち に投与を中止すること.授乳中の婦人に投与することを避け,やむを得ず投与する場合には授乳を中止させること. 2 相対禁忌:治療上の有益性が危険を上回ると判断される場合のみ投与.妊娠または妊娠している可能性のある婦人には投与し ないことが望ましい. ,妊娠第 1 期の投与にも厳重な注意が必要である * 3 アンジオテンシン変換酵素阻害薬は催奇形性が報告されているため(文献 11) * 4 同様な作用機序のアンジオテンシン受容体拮抗薬も,催奇形性への注意が必要である. 【注意事項】 1)妊婦への使用に際しては,適応・禁忌を確認すること 2)適応外または禁忌とされる薬物を使用する場合は,十分な説明と同意を得ること 異常を来たす 11).明らかな催奇形性や胎児の有害作用の 容体を介する副作用が少ないが,日本での適応症は高血 報告はないが,一般に利尿薬は胎盤の血流障害を生じる 圧に限られ,また,妊婦への使用報告は少ない. ) 可能性があるため,慎重に投与する必要がある 11(レベ ル C). ④ サ イアザイド系利尿薬(ヒドロクロロチアジ ド,トリクロルメチアジド) ③ ア ルドステロン拮抗薬(スピロノラクトン, エプレレノン) 生殖試験では催奇形性や胎仔の有害作用は認められ ず,ヒトの妊娠初期の投与で関連した催奇形性は報告さ スピロノラクトンは,動物では胎仔への抗アンドロジ れていないが,妊娠後期の投与により,新生児の血小板 ェン作用があると推測されているが,ヒトでは催奇形性 減少や 380)溶血性貧血 381),新生児の低血糖の報告があ や有害作用の報告はみられない 11).妊婦への投与報告は り 382),低カリウム血症・低ナトリウム血症により胎児 少ないため,安全性は明らかでない.エプレレノンは, が徐脈を呈した症例 383),母乳への移行は少量であるが アルドステロン受容体への選択性が高く,性ホルモン受 母乳分泌低下の報告がある 384). 67 循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2009 年度合同研究班報告) ⑤ ア ンジオテンシン変換酵素阻害薬(カプトプ リル,エナラプリル,リシノプリル) ラットでは生殖能力の減退や交配回数の減少,母獣へ の多量投与で胎仔の体重減少や骨格異常が報告されてい ラットにおける生殖試験では,胎仔の発育不全,水腎 る 11). 症,骨化障害が報告されている.また,対照研究ではな 現在までにヒトでメトプロロールに関連した催奇形性 いが,ヒト妊婦への使用により,先天性心疾患や中枢神 や胎児の有害作用の報告はなく,カルベジロールとビソ 経系の発生異常などの催奇形性が報告されている 153) . プロロールには妊婦への投与報告がない.ただし,他の ヒト妊婦の妊娠中期と末期の投与により,胎児の腎形成 β遮断薬(アテノロール,プロプラノロール)では子宮 障害,羊水過小,頭蓋骨低形成,肺低形成,四肢拘縮, 内胎児発育不全や胎盤重量の低下の報告があるので,同 新生児の腎不全や無尿,動脈管開存,子宮内胎児発育不 様の作用を来たす可能性がある 11). 全,新生児死亡の報告がある 385),386) .本薬剤により,胎 メトプロロールは母乳での濃縮が報告されているの 児の低血圧と腎血流低下が生じて腎形成の障害を来た ) で,使用中の授乳は避けることが望ましい 392(レベル し,尿量減少により羊水過少,骨格障害が引き起こされ C). ると推測されているが,病理学的には尿細管の変性が主 体であり,成因はまだ明らかではない 11),387),388). ⑧ 末梢血管拡張薬 本薬剤は一般に,慢性心不全患者に対して薬剤の忍容 慢性心不全で使用される末梢血管拡張薬には,ヒドラ 性がある限り投与が推奨されているが,妊娠中や妊娠を ラジンや硝酸薬(硝酸イソソルビド)などが挙げられる. 予定する場合には投与を中止する必要がある(レベル ヒドララジンは以前から妊娠高血圧症候群における高血 C). 圧治療の第一選択薬として用いられているが,ヒトの胎 ⑥ アンジオテンシン受容体拮抗薬(ロサルタン, カンデサルタン) 盤を通過し,胎児の血中濃度は母体と同等あるいは母体 よりも高濃度になると報告されている 393).妊婦への投 与により,胎児の頻脈性不整脈や 394),母体に SLE 様症 ロサルタンのラット母獣への投与により,胎仔の体重 状が生じ,子宮内胎児発育不全で出生した新生児が心タ 減少,腎臓の病理組織変化(腎盂の拡大,腎乳頭浮腫, ンポナーデで死亡したとの報告がある 395). 皮質内細動脈の内膜肥厚,慢性の炎症性変化,腎実質の 硝酸イソソルビドは,妊婦の投与で母体の血圧の低下 不規則な瘢痕)の報告がある 389) . 本薬剤はアンジオテンシン変換酵素阻害薬に比してヒ ト妊婦での使用報告は少ないため,安全性については不 明である.結節性動脈周囲炎を基礎疾患とした高血圧の や心拍数の上昇は認められるが,胎児への悪影響を示す 報告はない 11). ⑨ アミオダロン 妊婦へのロサルタンの投与により,羊水過少症と子宮内 高濃度のヨードを含み,妊婦への投与で,胎児の先天 胎児死亡が生じ,腎には異常を伴わず顔面と四肢に奇形 性甲状腺機能低下症の報告が多い 396)が,甲状腺機能亢 が認められた報告と 390),妊婦に対するカンデサルタン 進症の報告もある 397).また,新生児の QT 延長例もあ の投与により,新生児の運動神経麻痺と一時的な無尿, ) る 11).母乳への移行が高いため授乳は避ける 11(レベル 血清クレアチニン値の上昇がみられた報告がある 391). C). 本薬剤はアンジオテンシン変換酵素阻害薬と類似してい アミオダロンは半減期が長く脂肪蓄積があることか るため,先天性心疾患や中枢神経系の発生異常などの催 ら,妊娠の可能性がある場合および妊娠中の投与を避け 奇形性が生じる可能性が考えられる.また,妊娠中期か ) る 398( FDA の D 分類,レベル C). ら後期の使用において,胎児の腎形成障害や腎不全をき たす可能性が示唆されている 11).以上より,本薬剤は, ⑩ 経口強心薬 アンジオテンシン変換酵素阻害薬と同様に,妊娠中や妊 ピモベンダン,ドカルパミン,デノパミン,べスナリ 娠を予定している場合には投与を中止する必要がある. ノンが経口強心薬として我が国で認可されているが,慢 ⑦ β 遮断薬(カルベジロール,メトプロロール, ビソプロロール) 我が国ではカルベジロールのみ慢性心不全に対する保 68 険適用が認可されている. 性心不全患者に対する長期投与については否定的な報告 が多い.妊婦への投与報告がないため,副作用などは不 明である. 心疾患患者の妊娠・出産の適応、管理に関するガイドライン 3 侵襲的な治療 脈狭窄症などが考えられる.大動脈縮窄症においては, 組織学的に存在する大動脈壁の嚢胞性中膜壊死(cystic medial necrosis)が,妊娠に伴いさらに脆弱性を増して 1 カテーテル・インターベンション ① バルーン弁形成術 我が国では,妊娠・出産可能な年齢におけるリウマチ いる可能性があるため,バルーン弁形成術は危険と考え られる.また,大動脈弁狭窄症に対するバルーン弁形成 術では,大動脈弁逆流の発生を最小限に抑える必要があ り,慎重なバルーンサイズの選択が必要である(クラス Ⅱ a,レベル C). 性弁膜症を経験することは,皆無に等しいと思われる. (1)肺動脈弁狭窄症および末梢性肺動脈狭窄症 しかしながら,先天性の肺動脈弁狭窄症,大動脈弁狭窄 適応:右室─肺動脈圧較差 50mmHg 以上 症,および僧帽弁狭窄症などを伴う妊娠・出産は時に経 験される.また,東南アジア諸国では,リウマチ性弁膜 症患者がいまだに多く存在するため,これらの国から日 バルーン径:肺動脈弁輪径の 100 〜 140% (2)大動脈弁狭窄症 適応:左室─大動脈圧較差 50mmHg 以上,弁口面 積 0.6cm2/m2 以下 本に移住した女性が,リウマチ性弁膜症を合併している 可能性もある. 弁膜症の場合,妊娠経過中の心拍出量増大に伴い,圧 較差も増大することが知られている 28),154),358).通常,そ バルーン径:大動脈弁輪径の 80 〜 100% (3)僧帽弁狭窄症 適応:肺うっ血症状,心房性不整脈合併のある場 の変化は許容範囲内であり,心不全症状の出現を認める 合 ことは少ない.しかしながら,狭窄の程度が強い場合は, 2)有効性と予後 妊娠経過中に心不全症状が増悪することが報告されてい 妊娠中に施行されたバルーン弁形成術の長期予後に関 る.このような状況において,バルーンカテーテルを用 する報告は,極めて限られている.肺動脈弁狭窄症に対 いた妊娠中のカテーテル治療の有効性が報告されてい するバルーン弁形成術においては,良好な長期予後が報 る.いずれも経験は限られており,緊急避難的意味合い 告されている.一方,大動脈弁狭窄症においては,石灰 が強い.このため,妊娠中のバルーン弁形成術を主体と 化や変形の著しい弁には不適あるいは効果が不十分であ するカテーテル治療は,あくまでも急性の心症状の改善 り,大動脈弁逆流の進行により人工弁置換術を含む外科 を目的に施行されるものであり,通常のカテーテル治療 治療を必要とする場合が多く,長期予後は必ずしも良好 の治療基準をそのまま適応するものではない.しかしな とは限らない(クラスⅡ a,レベル C). がら,心臓超音波検査所見などから,妊娠継続に伴い極 めて重篤な合併症が発生する可能性のある場合には,そ ② カテーテル心房中隔欠損閉鎖術 の適応を考慮する. 心房中隔欠損症に対する,Amplatzer 閉鎖栓によるカ 各狭窄病変に起因する妊娠経過中の心症状(動悸,息 テーテル治療が可能となり,我が国の治療実績も増えて 切れなど)は,心疾患に起因するものか,通常の妊娠経 きている.未治療の心房中隔欠損症でも,多くの場合は 過に伴う一過性のものか,鑑別が困難な場合が多い.カ 通常の妊娠・出産が可能であり,妊娠中にカテーテル治 テーテル治療に際しては,存在する心症状が狭窄病変に 療が必要となることは通常は考えられない. よってもたらされているという評価を客観的に行う必要 がある 358),399),400).また,狭窄病変の評価は妊娠経過を 2 妊娠中の心臓血管外科手術,補助循環 通して複数回行う必要があり,特に妊娠前との比較が重 妊娠中に心臓血管外科手術が必要とされる状況が時に 要である. みられる 154),156).大動脈狭窄性病変の進行,弁逆流性疾 カテーテル治療の時期は,胎児の器官形成時期を経過 患に伴う弁逆流悪化や心不全増悪,大動脈拡張性疾患で した後の,妊娠 18 週以降に行われることが望ましい. の大動脈解離や巨大瘤,あるいは,感染性心内膜炎罹患 さらに,胎児への放射線被曝を最小限にとどめるために, による疣腫(vegetation)や心不全増悪などが,手術介 母体腹部周囲を放射線遮蔽用具で保護することが推奨さ 入判断などの決め手となる 154),156),174),402).これら緊急手 れる 400),401). 術例の多くは,以下の 2 つの場合である. 治療の対象としては,明らかな心症状を有する肺動脈 弁狭窄症,大動脈弁狭窄症,僧帽弁狭窄症,末梢性肺動 (1)胎児発育が出生後の発育に不十分な時期は,人工 流産後に外科手術を行う. 69 循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2009 年度合同研究班報告) (2)胎児に出生後の発育が望める時期は,帝王切開あ で施行することが望まれる. るいは誘発分娩を行い,同時あるいは直後に心臓血 管外科手術を行う. 妊娠中の人工心肺を用いた手術は,母児ともに危険率 が非常に高い.心臓外科手術中に母体に低心拍出状態を Ⅵ 将来的な研究の方向性 生じるが,この低心拍出状態から胎児を守ることが非常 に大切である.胎児側にとって,高流量,高血圧(動脈 今回のガイドラインは,2005 年の前回ガイドライン 平均圧を高く保つ)を保ち,低体温を避け,さらに人工 公表後に報告された論文のデータを,可能な限り取り入 ) 心肺運転時間が短いことが望ましい 402(レベル B).人 れている.しかし,疾患別の総妊娠・出産数が少なく, 工心肺運転中は,胎児心拍数モニタリング下に,胎児心 倫理的に対照を設けた研究が行えないために,多くは経 拍数を一定に保つ.胎児徐脈発生時には,人工心肺流量 験的な研究に限られている.新しい研究が少ないため, を増量すると,胎児徐脈が回復することが多い.妊娠中 前回の記述を踏襲した部分も少なくない.このような状 の開心術による胎児死亡率は,13 〜 20 %と報告されて 況の中で,今後の改訂に向けての研究の方向性を概観し ) いる 156),402(レベル B).一方,妊娠中の心臓血管外科手 てみる. 術による母体死亡率は低い 402) が,母体罹病率は高い. したがって,内科的治療が限界で,母体に明らかな悪影 今後の診療・研究の方向性は,大きく分けると,(1) カウンセリング, (2)診療体制, (3)母体管理(父性管理) , 響を及ぼすと考えられる場合以外には,妊娠中の心臓外 (4)胎児管理,(5)周産期管理,(6)出生児および母体の 科手術を避けることが望ましい(レベル C).あるいは, 出産後の遠隔期管理に分類可能である.これら 6 項目に 可能な限り非侵襲的な治療法を選択することが望まれ ついて以下に要約する(表 43). る.人工心肺運転中は,陣痛進行安定化作用を持つプロ ゲステロン血中濃度が下がるため,子宮収縮が始まるこ とがある 174) .人工心肺運転中に陣痛が起こると,胎児 死亡を起こすため,人工心肺運転中は子宮収縮が起こら ないように監視する必要がある 402) .このために,プロ 1 カウンセリング(Prepregnancy Counseling) 心疾患女性(男性も含む)が,結婚,妊娠,出産時期 を迎える場合に,専門的知識を持った医療関係者からの ) ゲステロン投与が行われることも多い 174(レベル B). カウンセリングが必要である.しかし,適切なカウンセ 外科手術が避けられない場合,妊娠 16 〜 20 週あるい リングを行うためには,多くの分野でデータが不足して は 24 〜 28 週以降に手術を行うと,胎児の安全性が高い いる.例えば,心疾患が妊娠・出産に与える影響,胎児 ) とされる 358),399),400(レベル C).現在では,新生児管理 に与える影響,妊娠・出産が心疾患の予後に与える影響 が発達しているため,28 〜 30 週以降であれば,分娩後 などに関するデータは不十分である.母体および胎児の 404),405) .手術中に胎 妊娠・分娩時の管理や治療に関しても,データに基づい 児機能不全(non-reassuring fetal status)がみられる場合 た明らかな基準がない.さらに,誰がどのような場所で や,胎児徐脈が持続する場合は,緊急帝王切開術を行う カウンセリングを行うか,遺伝に関するカウンセリング ことがある.妊娠中の心臓血管手術は,心臓血管外科, をどのように行うかなどは,今後の実際の臨床で広く行 循環器内科または小児科,麻酔科だけでなく,産科や新 えるように確立しなければならない問題である.また, 生児科などの周産期部門も含むチーム医療を行える施設 カウンセリングと同時に,心理的なサポートも非常に重 の外科手術を行うことも可能である 表 43 心疾患女性の妊娠・出産に関する,今後の研究の方向性 ①カウンセリング ②診療体制 ③母体管理 妊娠・分娩の管理,遺伝(再発危険率) ,母体・胎児の予後,家族の協力体制,心理学的アプローチなど チーム診療,望ましい診療施設基準,周産期センターとの協力など 循環動態のモニタリング,各心疾患別の管理,避妊法,薬物治療,インターベンション(カテーテル治療, 心臓血管手術) ,父性管理など ④胎児管理 母体の心疾患の胎児への影響,母体投与薬物の胎児への影響,胎児 well-being のモニタリング,胎児先天 異常の診断,胎児治療 ⑤周産期管理 周産期モニタリング,分娩誘発法,麻酔法,分娩管理,新生児管理(早産・低出生体重児,先天性心疾患児), 母体投与薬物の母乳移行,授乳が母体の心疾患に与える影響,育児 ⑥出生児および母体の 母体の心機能評価,妊娠・分娩が心疾患の自然歴に与える影響,児の成長発達,次回妊娠時の注意点など 出産後遠隔期管理 70 心疾患患者の妊娠・出産の適応、管理に関するガイドライン 要であるが,この面での研究は始まったばかりである. 2 診療体制 5 周産期管理(Perinatal Management) 母体および胎児にとっての適正な分娩時期を決定する 中等症以上の心疾患の女性は,妊娠・分娩の際に循環 ための,母体・胎児モニタリング法も今後確立する必要 器系の合併症を伴うか,早期産児や低出生体重児,先天 がある.適正な分娩誘発法や麻酔法なども,改善の余地 性心疾患児を出産することが少なくない.これらの点か があると考えられる.母体投与薬物の母乳移行と新生児 らも,チーム診療(multidisciplinary approach)が必要 移行についても,新たな治験が望まれている.母乳哺育 なことは明らかである.しかしながら,産科医,循環器 の母体への影響や,出生児の心機能に対する影響の解析 を専門とする医師(循環器内科医,循環器小児科医,成 も,今後の課題となる. 人先天性心疾患を専門とする医師,心臓血管外科医な 疾患女性の妊娠に習熟したチームはいまだに少ない.必 出生児および母体の出産後遠隔期管 理(Long-term Follow-up of Mother and Child) 要に応じて,母体搬送や新生児搬送を行うなど,周産期 中等症以上の心疾患では,心不全,不整脈,血栓形成 センターとの密接な共同治療も,今後さらに検討すべき などの母体合併症が知られているが,これら合併症の長 課題である.日本の現状において,どのような体制をど 期予後についてはほとんど知られていない.しかし,こ のように構築していくかも,今後の大きな課題である. れらの合併症が遷延した場合,母体の生命予後や罹病率 ど),麻酔科医,新生児科医,看護師,臨床心理士など, すべての分野のスペシャリストと必要な設備を備えた心 3 母体管理(Maternal Management) 6 に与える影響は大きく,また,育児にも影響すると考え られる.これらの合併症の中長期予後の解明,危険因子 妊娠・出産がハイリスクである心疾患が明らかになり の解析なども,今後重要な課題である.早期産児や低出 つつあるが,これらの心疾患の妊娠・出産に関するデー 生体重児の分娩が少なくないが,出生児の予後,発達, タの集積は少ない.循環動態の適正なモニタリング方法, 管理方法などに関しても,明らかになっていない.次の 母体合併症の危険率の予測方法などは,今後明らかにす 妊娠・出産を希望する場合の,母体および胎児の危険率 べき問題である.また,避妊が勧められる場合に,日本 に関しても明らかではない. 人に最も適した避妊法はいまだ確立されていない.妊娠 今後,チーム医療の発達,心疾患女性の妊娠・出産数 中の薬物治療の際の,適正な薬剤の選択,使用量,効果, の増加,心疾患女性の妊娠・出産の登録制度の順調な運 胎児に与える影響なども,今後の検討が必要である.妊 営が予想される.次回のガイドライン改訂時期までには, 娠中のインターベンション(カテーテル治療や心臓血管 以上に述べた研究の方向性や,現在の問題点のいくつか 手術)に関して,これらの適応,方法,術中・術後管理 は,解明されていることが期待される. 方法,術後妊娠可能時期などについても,いまだ明らか でない. 4 胎児管理(Fetal Assessment) Ⅶ 妊娠・出産の手引き 母体の心疾患が胎児に及ぼす影響や,母体投与薬物の 胎児への影響などに関する,基礎的・臨床的な研究の蓄 本ガイドラインの内容は多岐にわたるため,診療の際 積が期待される.胎児超音波検査などによる,胎児発育 の便宜を考慮して,「心疾患をもつ患者さんとご家族の の評価,胎児の well-being の診断,胎児臓器の形態機能 ための,妊娠・出産に関する手引き」を作成した(表 診断などは,今後さらに精度が高まることが予想される. 44).診療のチェックリストや,患者さんに手渡す資料 胎児モニタリングの精度が高まることにより,適正な分 として,利用されることを想定している.個々の症例の 娩管理が可能となり,母児の周産期予後の向上が期待で 心疾患の状態や社会的環境などを考慮して,適宜改変し きる.心疾患女性の妊娠では,心臓をはじめとする胎児 て使用されたい. 先天異常の合併が多いが,胎児治療に関する研究は,安 全性や倫理面の問題などクリアすべき点がなお多い. 71 循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2009 年度合同研究班報告) 表 44 心疾患をもつ患者さんとご家族のための,妊娠・出産に関する手引き 医療の発達の恩恵により,心疾患の患者さんの治療成績や生活の質が改善し,妊娠・出産が可能な患者さんの数は年々増加して います.一方で,妊娠の際に厳重な注意を要する,あるいは,妊娠を避けることが強く望まれる心疾患も存在します.この手引き は,心疾患をもつ患者さんが,結婚,妊娠・出産をする前に,知っておいていただきたいことを,まとめたものです. 大多数の心疾患の女性は,特に危険性の高い心疾患でない限り,専門医の指導・管理のもとに,妊娠・出産す ることが可能です.しかし,ご自身の心疾患の状態を把握し,妊娠による母体や胎児・新生児への危険性を理解 した上で,安全な妊娠・出産を目指す必要があります 妊娠すると体に大きな変化が生じます.血液量,心拍数,心拍出量が増加し,血圧と全身の血管抵抗は低下し ます.結果として,心臓の負担が大きくなり,心不全,不整脈を起こすことがありますが,通常はこの変化に的 妊娠による 確に適応しています.妊娠後期には,増大した子宮による下大静脈の圧迫により,仰臥位で低血圧となることが 体の変化 あります.妊娠後期には,血液中の凝固因子が活性化されるため,血栓症のリスクが高くなります.また,ホル モン作用により,血管壁の脆弱性が増すため,疾患によっては,動脈瘤や動脈解離が起こりやすくなります ,重度の流出路狭窄(大動脈弁狭窄症など),心不全(中 重度の肺高血圧症(アイゼンメンジャー症候群など) 等度以上の場合) ,マルファン症候群(上行大動脈の拡張を伴う場合),機械弁置換術後(ワルファリン内服中) , 妊娠リスクの チアノーゼ性心疾患(チアノーゼが残存する場合)などでは,妊娠の際に厳重な注意が必要か,妊娠前にカテー 高い心疾患 テル治療や手術での修復が必要か,妊娠を避けることが強く望まれる場合があります 心疾患をもつ患者さんに対する妊娠・出産のカウンセリングは,妊娠判明後に初めて行われることが多いのが 実情ですが,安全な妊娠・出産を目指すためには,妊娠前からカウンセリングを受けることが理想です.具体的 なカウンセリング内容は,患者さんの心疾患の状態や,社会的環境によっても,異なります.あらかじめ,心疾 患や妊娠に対する理解を深め,家族や担当医と妊娠について相談し,出産後も含めた協力体制を確認しておくこ とが必要です. 重症な心疾患であっても,一般と変わらず,男女ともに性行為は可能です.チアノーゼ性心疾患(未手術,修 復術後,チアノーゼ残存などを含む)や,肺高血圧症の女性は,月経異常が合併するか,妊娠しにくい場合があ ります. 妊娠(前) 比較的リスクの高い心疾患の女性は,妊娠中や出産後に,心不全,不整脈,血栓症,出血性合併症,チアノーゼ, カウンセリング 大動脈瘤や大動脈解離などが,出現または悪化する場合があります.結果として,流産や早産となるか,胎児や 新生児の状態が悪化することもあります.母体の状態が不安定なため,授乳や育児を行うことが難しくなる場合 もあります.また,妊娠中や育児中は,母体の不安や抑うつ状態が悪化することがあります. 両親や家族,特に母親に先天性心疾患がある場合は,先天性心疾患の子供が生まれる可能性が高くなります. 一方で,喫煙,過度の飲酒,特殊な薬物の服用など,心疾患の発生との関連が強い環境要因もありますので,こ れらに対する注意も必要です.また,特殊な不整脈や心筋症など,遺伝子異常の合併が確認された心疾患では, 特に注意が必要となります. 避妊法として,子宮内避妊器具,低用量避妊薬,卵管結紮(永久不妊術)などがあります.パートナーの避妊 法としては,コンドーム法や,精管結紮(永久不妊術)などがあります 心疾患担当医は,妊娠が判明した時点で,最初の心臓検査を行い,現在の心疾患の状態と,出産前後も含む妊 娠中の注意点について,産科担当医に情報を提供します.比較的リスクの低い心疾患では,妊娠中期後半(26 妊娠中の ~ 30 週)に,2 回目の心臓検査を行います.リスクの高い心疾患では,さらに頻回の検査が必要となります.妊 心臓検査 娠中は,基本的に X 線検査を行いませんが,診療上不可欠と判断した場合は,腹部への放射線照射を最低限にし つつ行う場合もあります 胎児の健康状態や発育状態を評価するために,産科において,胎児心拍数図検査や胎児超音波検査を行います. 両親のどちらかが心疾患をもつ場合は,心疾患のリスクが高くなることが多いため,胎児心臓超音波検査をお すすめしています.妊娠 20 週前後は胎児の心臓の観察が最も容易な時期なので,この時期に初回検査を行うこ 胎児の評価 とが多くなっています.妊娠後期に心臓の形態異常が明らかになる場合もあるため,妊娠 30 週前後に再検する ことが望ましいとされています 妊娠中や出産後に感染性心内膜炎になることは少ないとされています.しかし,発症した場合には,長期の抗 感染性心内膜炎 生剤治療が必要とされ,妊娠中に外科手術が必要となることもまれながらあります.そこで,感染性心内膜炎の の予防 リスクが高い心疾患では,出産時においても抗生物質の予防投与を行うことが推奨されています.予防投与の対 象となる患者さんは,心疾患や出産の状況によって異なります 妊娠を管理する医療施設は,心疾患の重症度と地域の医療事情などを考慮して,決定されます.心疾患の大部 分を占める,ごく軽症の心疾患の場合は,妊娠・出産のリスクは一般と同程度であるため,心疾患担当医からの 情報提供に従って,産科医が中心となって妊娠を管理します(心疾患を専門とする施設でなくても,管理可能で .中等症以上の心疾患では,妊娠・出産時に合併症を生じる場合もあり,胎児リスクも高くなります.この 妊娠を管理する す) ような場合は,計画的に妊娠する必要があり,妊娠後は心疾患を専門とする施設で産科的管理を受けることが, 医療施設 推奨されます.早産・低出生体重児の出産が予想される場合は,新生児集中治療室(NICU)も必要となります. 一施設内ですべての診療を行うことが困難な場合は,医療機関同士の緊密な連携のもとに,妊娠・出産を管理し ます 妊娠中に薬物を使用する際は,母体と胎児に対する有効性と危険性のバランスについて検討します.薬物の胎 児への有害作用には,大きく分けて,催奇形性と胎児毒性の二つがあります.妊娠を計画しているか,妊娠の可 能性がある場合は,比較的安全な薬物へ変更する場合があります.薬物の母乳中への移行はごく少量にとどまり 薬物療法 ますが,一部の薬物では,濃縮効果のために,母乳中の薬物濃度が高くなる場合もあります. 妊娠中の使用に特に厳重な注意を要する心疾患治療薬として,アンジオテンシン変換酵素阻害薬,アンジオテ ンシン受容体拮抗薬,ワルファリン,一部の抗不整脈薬などがあります 概 要 72 心疾患患者の妊娠・出産の適応、管理に関するガイドライン 侵襲的な治療 産科的な管理 出産後の管理 弁狭窄症などに伴う妊娠・出産で,妊娠中のカテーテル治療が必要になる場合があります.妊娠中に心臓血管 外科手術が必要となることはまれですが,その場合は,母体と胎児への影響は極めて大きなものとなります 母体の病状が悪化し,母体の健康ないし生命が著しく脅かされることが予測される場合には,妊娠の中断(中 絶ないし早期の分娩)を考慮します.母体の病状の悪化のために,胎児の健康状態や発育状態が悪化した場合も, 妊娠の中断(早期の分娩)を検討します. 産科的管理のための薬物(陣痛誘発薬や陣痛抑制薬など)を使用する際は,母体の心疾患や胎児に対する影響 に十分に注意します.出産は,一般的に経腟分娩を目指しますが,一部の例外的な症例や,母体・胎児の急変時 には,帝王切開術を行います.硬膜外麻酔を行って,出産時の心負荷の軽減と疼痛緩和を行う場合もあります 病状によっては,長期入院か,頻回の外来通院が必要となる場合もあります.母体の病状や治療薬によっては, 母乳栄養を断念せざるを得ない場合があります.また,育児参加が困難となる場合もあります.早産を余儀なく された場合は,新生児の集中治療や長期入院が必要となる場合もあります.家族による心身のサポートは,母体 や新生児にとって,大きな助けとなります 注)この表は,心疾患女性の妊娠カウンセリングや診療を行う際の便宜を考慮して,一般的な説明内容をまとめたものである.説 明の際のチェックリストとして,あるいは,患者さんに手渡す資料として使用可能である.個々の症例の病状や社会的環境な どを考慮して,適宜改変する必要がある. 73 循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2009 年度合同研究班報告) 文 献 1. 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