道徳的判断に影響するパースナリティ要因 および家庭環境的要因の研究 上 田 敏 見 (心理学教室) 申 谷 恵里子 (大阪タナック株式会社) I問 題 T e man,L M(1926)はIQ130以上の1000名の知能優秀児をランダムにえらんだ統 制群と比較し,正直性テストその他の道徳性テ」ストにおいて前者がきわめてすぐれている事実を見 出した。吉益脩夫(1950)は,青少年受刑者に矢口髭テストを実施して矢口能程度を調べたところ, それは小学校6年生の平均レベルにほぼ相当すること,その中には約10%の精神薄弱児が含まれ ていることが明らかとなった。丹羽淑子(1957)は,6才児(IQの平均はH9)について,道 徳的成熟度とI Qの関係を分析した結果,両者間に有意のオ目関(φ=o.357)を認めた。。嵯峨敏( 1957)は,小学校4・5・6年生の各クラスから知能の優秀者・劣等者を各5名宛抽出して知能 優秀群・劣等群を構成し,両群に田所式道徳性診断テストを実施した。その結果,優秀群は自己・ 近親・友人・社会のいずれの領域においても平均して劣等群より高い道徳意識をもっていることが 明らかになった。また,小林芳郎(1966)は,中学生を対象にした研究において,知能テヌトと 道徳性診断検査の両者の結果の相関をとったところ,その相関値は.60∼.67となり,道徳性の 意識的側面と知能テストで要求される知的判断力との間に高い相関関係のあることが見出された。 以上の諸研究は,知能が道徳意識形成上の重要な要因であることを強く示唆している。 次に,子どもの道徳意識の形成に影響する要因として家庭の生活条件からくる父母の生活様式や 生活意識・態度などをとり上げた研究も少なくない、丹羽淑子(1957)は,子どもの道徳的成熟 度と母親の態度とは有意の相関(φ=0,25)があることを示し,嵯峨敏(1957)は,父兄のP T A諸行事への出席数を資料として父兄の教育的関心と子どもの道徳意識の関係を調べ,この関心の 高い群の子どもの道徳意識が低い群の子どものそれよりすぐれていることを明らかにした。 Ho f fman,M.I、.,&Sヨl t zs t e i n,H.D.(1967)は,中学生について,親のしつけ方の 3つの型(p owe r a s s e r t i o・,l ov e w i t hd r awa l,1nd u c t i on)と道徳的発達の 関係に分析を加え,中流層の家庭の子どもにおいてはp owe r a s s e r t i onをあまり用いない こと,i nd u c t i onをしばしば用いることと道徳性の各側面の発達がよいことはかたり関係が深 いが,l ov e w iけd r awa iはほとんど無関係であることを見出した。倉貫美紀(1968)は, 4才∼8才の250名の子どもの道徳的判断と母親の養育態度との関係を検討し,「相互性による 懲罰」を選ぶ子どもの家庭は民主的であること,各懲罰の選択はある点まで実際生活の経験に対応 していること,などの結果を得,児童の懲罰に対する考え方に与える母親の影響の大きいことを明 示した。これらの諸研究の結果からすれば,子どもの道徳意識の形成に家庭の生活条件や両親の態 一7五一一 度たとの要因が大きく参与していることが分る。 次に,子どもの交友関係と道徳的判断についても若干の研究がみられる。嵯峨敏(1957)は, 担任教師の観察やソシオグラムなどにより,学級内で信望の厚い者およびf言望がなく孤立状態にあ る老を抽出して交友関係の広い群と狭い群を構成し,両群の道徳意識の傾向の比較検討を試みた。 その結果,交友関係の広い群の道徳意識は,狭い群のそれよりも,友人・社会の両領域においてい ちじるしく高いことが確められた。上田敏見・中止猛・松本倫子(1961)は,小学生についてソ シオメトリック・テストを実施し,社会測定的地位の上・■F群の適応性を分析した。その結果によ ると,上位群は下位群よりも適応性においてすぐれていることが分った。松山安雄(1964)は学 級における社会測定的地位と行動特性の研究において,小学3年生,6年生,中学3年生を被験者 として好きな人嫌いな人を選択させ,17項目の行動特性について各自のクラスの全成員を相互に 評定させ,同時に自己評定もさせた。その結果によると,社会測定的地位上位群は,下位群よりも, 正直さ・善悪判断・公共心・責任感などにおいて,いずれの学年も一貫して,有意にすぐれていた。 このようにして,子どもの交友関係とその道徳性とは深い関係を有することが示唆された。 なお,道徳的判断と自己概念の関係についての明確な結果を得た研究は見当らない。R oge r s, O.R一(1954)は現実自己と理想自己のd i s c r ep an cyをもって社会的適応の指標としたが, 長島貞夫(1962)はこれのみでは不十分だとし,有意味た他者が自分をどう見ているかという他 者自己と現実自己のd i s c r e p aηcyを導入することが適応の予測の精度を高めることになる, と主張した。椎野信治(1966)も大学生を被験者として自己記述尺度・Y−G性格検査を用いた 検討を重ね,現実自己と理想自己のd i s c r e p3ncyの大きい者ほど情緒不安定で非主導的であ ること,現実自己と父親自己,現実自己と母親自己,現実自己と友人自己のそれぞれのd i s c r− ep ancyスコアの大きい者ほど情緒不安定であり社会的不適応を示すことを明らかにした。 L i p s i t t,L・P・(1958)は,小学校4・5・6年生的300名にC MASと自己概念スケー ルを施行し,自己概念の測度が不安ヌコアと高い相関を示すこと,高不安児が低い自己概念評定値 (または高いd i s c r e p a nc y)を示すこと,などの結果を得た。また,Gu a r d o,C.J。(1 966)は,小学校6年生4クラス(男58名,女56名)の中から高自己概念群(男女各15名ずつ ),低自己概念群(男女各15名ずつ)を構成し,自己概念と社会測定的地位の間には正相関がみら れるであろうという仮説の検証を試みたところ,この仮説は十分支持された,と報じている。以上 の諸研究を総合してみると,暫定的ではあるが,自己概念および各種のそれの間のdiscrepancy と道徳的判断の間には有意の正相関が認められるのではないかと予想される。 そこで本研究においては,中学1年生について,道徳的判断に影響すると考えられるパースナリ ティ要因および家庭環境的要因の若干をとりあげ,それらと道徳的判断の関係を分析するため,次 にかかげる4仮説の検証を試みた。 仮説I 道徳的判断と知能との間には有意の関係がみられるであろう。 仮説皿 道徳的判断と家庭環境的要因(家庭の一般的状態・家庭の一般的雰囲気・両親の教 育的関心)との間にも有意の関係がみられるであろう。 仮説皿 道徳的判断とソシオメトリック・テストによる社会測定的地位とは有意の正相関を 示すであろう。 一72一 仮説Iv 皿 方 道徳的判断と自己概念との間には有意の関係がみられるであろう。 法 被験者 奈良市立昌雄中学校1年生6クラス男子119名,女子126名,合計245名。 測定用具 (1)阪本一郎著 原理別・領域別 阪本式道徳性診断検査(金子書房発行)。 (2)学研式知能診断テスト。 (3)田研式家庭環境診断検査の中の,(イ)家庭の一般状態,(口)家庭の一般的雰囲気, ←う両親の教育的関心,の3項目より成る質問紙。 (4) ソシオメトリック・テスト(3人制限・規準は自習・清掃・相談にのってくれ る好きな友人)。 (5〕長島貞夫他(196?)の作製したS eは一D iエj e r en t i a1尺度(中学校用 35項目)……現実自己・理想自己・他者自己(担任の先生)の3個の自己概念 を7段階評定させる。 実施時期 1968年6月12・17の両日、12日には(3)と(5)を.17日にはその他を,いずれも 午前中に施行した。 手続き 道徳性診断検査の実施に当って与えられた教示は,「これから行なう検査は,学力検査や知能 テストのように能力を測定するものではありません。又,学校の成績とも関係がありませんので, 思った通りを正直に書いて下さい.、.」であった。各生徒に用紙を配布し,検査のやり方を詳しく説 明した。採点は手引に従って行ない,領域別診断票のI部∼亙部の合計得点を粗点とした。この検 査では,得点の高い者ほど道徳的判断の発達は良いとされる。 学研式知能診断テストは同校がすでに実施していたので,その結果を用いた。 田研式家庭環境診断検査の中から選んだ3項目は,3枚にとじた質問紙に印刷した形にして配 布,実施した。与えた教示は,「これから行なう検査は,皆さんの家庭がどんな状態であるか,又、 皆さんが家庭に対してどう考えているか,などについて自分で考えてみるためのものです。よく読 んでから,自分の思う通り正直に書き入れて下さい。」であった。採点の方法は,同検査の手引に 従ったσこの検査では,得点の高い岩ほど家庭環境が良好とされている。 ソシオメトリック・テスト実施の際の教示は,「これから配布するプリントはテストではあり ません。簡単なものですから楽な気持で書いて下さい。」であった。社会測定的地位得点のウエイ トは各順位等しくI点とし,3規準のそれぞれにおいて各人の受けた選択数の合計をもって地位得 点とした。 自己概念の調査は,3枚つづりになったプリント〔35項目の形容詞対,たとえば,無口な一一・一 おしゃぺりな,のそれぞれについて7段階評定 (とても,かなり,やや,どちらでもない,やや, かなり,とても,)をさせる〕を配布し,やりカを詳しく説明し,被験者が理解したのを確認して から反応を求める,という方式を用いた。 なお,本研究の統計的分析に用いた被験者は,6クラスのオリジナル・サンプルから選ばれた 道徳的判断に関する上位群(阪本式道徳性診断検査における粗点56∼61点の者60色男子22名, 一73一 女子38名)と下位群(同検査における粗点41∼52点の老 60名;男子35名,女子25名)であ る。ただし,道徳的判断とソシオメトリック・テストによる社会測定的地位との関係の分析におい ては,ソシオメトリック・テストが各クラス毎に選択を行なわせる方式をとったので,各クラス別 に,被験者全員の道徳性診断検査粗点と社会測定的地位得点の相関係数を算出することにした。 皿結 果 1 道徳的判断と知能 表1に示したように,道徳的判断上位群(粗点平均58.20)と下位群(粗点平均48.OO)の問に は知能偏差値の有意差が認められた(t=3・73,d f=118,p<・O1)。したがって,道徳的判 断の高い者は知能も高いことが示された。 表1道徳的判断と知能 道徳性診断 沚クの粗点 LX 上位群 Sぴ 天 下位群 SD2 差 上一下 t 知能偏差値 58.20 57.55 1.59 23.55 48刀O 52.90 7.77 68.12 lO−20 4.65 25.61** 3.73** 一 I d f=1I8(注).**…P<.Ol 2 道徳的判断と家庭環境的要因 妻2は家庭環境診断検査の3項目の得点と合計点の平均および分散を示したもの,それにもとづ く分散分析の結果を示したのが表3である。これによると,項目と.上・下×項目に1%レベルの有 意性が認められた「そこで上・.F x項目について単純効果の検定を行なったところ,両親の教育的 関心の項目にのみ1%レベルの有意差が認められたが(t=3,897,df=354),他の2項目に おける両群差は有意水準に達しなかった。このようにして,道徳的判断の高い上位群の両親の教育 的関心は,下位群のそれよりも有意に高いことが明らかになった。 さらに,上・下両群間で有意差が確認された「両親の教育的関心」をとらえる15の質問項目のい ずれにおいて有意の差を示すかを探索するため,各質問項目毎にX㌢ストを施行し分析を試みた。 その結果は表4に示すように,問(32),問(35)においては1%レベルで有意の差がみられた(そ れぞれ,X場=l I27双と12.85;、u土2)。又、間(30)では5%レベルの有意差が見出された 2 (X=7.70,d f=2)。その他,聞(33) 「あなたの両親のどちらかは,あなたの学校のPT Aの会などに出席しますか」においても5%レベルに近い有意差がみられた。 一74一 表2 道徳的判断と家庭環境的要因 家庭の一般的 家庭の一般状態 ■X 両親の教育的 雰 囲 気 関 心 合 計 点 一 H 56,85 34.05 57.78 148.58 23.89 2I.65 26.04 135.08 57.23 33.57 54.17 144.93 17,85 23.72 38.67 154.26 一〇.38 O.48 3.61 上位群 Sぴ 一X 下位群 SD2 差 上一.F 3.65 一■I.III■ II 一 一 一 一」」■ 表3 表2にもとづく分散分析表 MS SS df F■ I ■ ■ I − 5915 .997 133 .225 118 5782 .772 240 45670 .667 目 2 42083 .006 21041. 503 .上.・下x項目 2 261 .950 130. 975 .711 14. 092 (Between) 上 ■ 1 下 errOrb) (Within) 項 I 119 er。。。(W) 236 3325 Tota] 359 51586 一 一 一 簡 **・… ・・ 133−225 491 O07 2. 7I8 料 料152 1493. 9,294料 9294料 ■ 皿 ・66ギ 一 一 L 吹メDO1 表4 道徳的判断と両親の教育的関心 (30)あなたの両親のどちらかは,子どもがわるいことをしても注意しませんか。 (1)全然しない (2)ときにはする 13)いつもする 、,、∵ 53 上位群 41 17 下位群 (32)あなたの両親のどちらかは,あなたの話相弔こなってくれますか。 (・)lllが1 v(・〕撚なつ よくなってく (3)れる 上位群 24 36 下位群 31 22 一75一 1 X名 11,272料 一 (35)あなたの家では,何か決めるときに,みんなの意見をきいて,相談しますか。 (・)全然しない(・)ときにはする(・)携碧談し .4 下位群 簡 3 30 27 11 39 10 X 12,849料 **・… P<.O1 *・・… …・P<二.05, 3 道徳的判断と社会測定的地位 表5は,道徳的診断検査における各個人の粗点とソシオメトリック・テストに。よる各個人の学級 内における社会測定的地位得点(受けた選択数)との相関係数を,各クラス別に示したものである・・ これによると,クラスにより,男女によって必ずしも一貫していないが,全体としては6クラス中 表5 道徳的判断と社会測定的地位 2組 1組 N r 20 0407 18 女子 20 0洲青 20 全体. 40 。耕 38 (淘 *・… ・!・ N 16 I9 O〃者 O〃青 20 0235 N r O,074 20 O.354 19 0217 O.414 20 O,428 18 048寺 18 ・40 OB78 371 。。。書 N r O.348 6組 5組 r N 男子 4組 3組 34 O.082 O.339 学年平均 r 39 O.358 **P<.O1 P<.05 , 4クラスにおいて有意の相関が得られ,学年平均としても.358という中等度の相関がみられた。 男女を比較してみると,6組を除く他のクラスでは,いずれも女子の相関の方が高い傾向がうかが われる。このように,道徳的判断の高い者は,社会測定的地位も高い傾向があり,この傾向は特に 女子においていちじるしいことが示唆された。 4・道徳的判断と自己概念 上位群・下位群に属する各個人のD得点〔Os g oodら(1957)によるD宣”一丁,dは各概 念間の差〕を算出し,現実自己一理想自己,現実白已一他者自己,理想自己一他者自己のそれぞれ のDについて両群間の差を検定した。この結果を示したのが表6で,これによると,現実自己一理 想自己間のd i s c r epanc yおよび現実自己一一他者自己間のd i s c r epancyにおいては,い ずれも1%レベルで,理想自己一他者自己間のd i sc repancyにおいては5%レベルで,それ それ上・下面群問に有意の差が認められた。すなわち,道徳的判断の上位群は,下位群よりも,自 己概念問のd i s c r e pancyが小さいことが見出された。つまりこれを適応の指標とするたらば, 上位群は,下位群よりも,よりよく適応していることを示すものといえる。 一76一 表6 道徳的判断と自己概念 現実自己一理想自己 現実自己一他者自己 理想自己一他者自己 11.03 726 11.97 8.89 3,54 12.89 13.OO X.45 I3.62 11.85 P4.25 ?R.63 一L97 一2.19 一1.65 料一3.32 料一3.99 *一2,46 一 ユD 上位群 SD2 。L I ■ ■ 一 D ’D 一F位群 SD2 @■ 一一一一一■ 一」L・ 、.■ 差 上一一下 ■ ■止 t (湧 w 考 *… ・P<.05, **・…・…・P<.O1 察 先ず仮説Iは支持されたといえる。道徳性診断検査における上位群は,下位群よりも,知能偏差 値が有意に高いという本結果は,丹羽(工957),嵯峨(1957),小林(1966)の結果と一致す るものであって,知能が道徳的判断の形式に大きく影響する要因の一であることを示すものといえ よう。 仮説皿は, 「両親の教育的関心」において支持された。Hof fman&S aいz s t e i n(196 7),丹羽(1957),嵯峨(1957)らの結呆においても,子どもの道徳的判断と両親の教育的関 心や養育態度とは有意の関係にあることが認められており,本研究で得た結果と矛盾するものでは ない。なお,両親の教育的関心をとらえる15個の質問項目に対する反応をX今ストを用いて分析し たところ,問(30),問(32),問(35)においては,それそれ5%ないし1%レベルの有意差を両 群間に認め,さらに,問(33)においても5%の有意水準に近い差を見出すことができた。すなわ ち,道徳的判断の上位群に属する子どもの両親は高い教育的関心をもち,その家庭では両親がいつ も子どもたちの良き相談相手となっており,又,家庭で何かを決める時には,いつも家族のみんな の意見をきいて決定するという民主的で,のぞましい父母の態度がみられるようである。このよう な両親の関心や態度が,日常のふれあいを通じて,子どもののそましい道徳意識や判断力をつちか っていくものと考えられる。 仮説皿は,ほほ支持されたといってよいであろう。6クラス中4クラスにおいて,道徳的判断の スコアと社会測定的地位スコアの間に有意の相関が見出され,残る2クラスにおける相関値も. 、339,.302という正相関を示している。この結果は,一般に道徳判断の高い子どもは,学級内 における社会測定的地位も高い傾向があり,道徳的判断の低い子どもは,社会測定的地位も低いと いう傾向を反映するものといってよい。嵯峨(1957),上田地(1961),松山(工964)の結果 と比較してみると,その傾向において一致すると考えられる。なお,本研究では性差を問題として とりあげていないが,女子における相関値は,I個の例外(6組)をのぞいて,男子のそれより高 い傾向が認められ,興味ある示唆が得られた。この面の性差がはたして一般的にみられるものなの か,この究明は今後の研究にゆだねたい。 一77一 仮説w も十分支持されたといえるであろう。道徳的判断の上位群においては,下位群よりも, 3種の自己概念間のd i s c r epヨn cyメコァが有意に小さい,という明確な結果が得られたが, これは上位群の適応がよりすれていることを反映するものと考えられる。長島(1962).椎野 (1966)の指摘した他者自己と現実自己のd i s c r ep an cyも適応の指標として扱ってみたが, 本結果に関する限りでは,理想自己と現実自己のd i s c r ep an cyの場合と何ら異なる傾向を示 さなかった。 以上,本研究においては,道徳性診断検査でとらえた道徳的判断とパースナリテイおよび家庭環 境の若干の要因との関係の分析を試み,いささか興味ある結果を得たのであるが,このことから, ただちに道徳的行動とそれら諸要因の関係を明示したとは考えてはいない。今後は,意識と実践の ずれを考慮に入れて,道徳的実践面と本研究でとりあげた諸要因がいかなるかかわりをもっている かについて,検討をすすめていく必要があるであろう。 V 要 約 本研究は,中学1年生(6クラス,245名 )に阪本式道徳性診断検査を実施し,道徳的判断と 知能,家庭の一挺勺状態や雰囲気,両親の教育的関心,学級内における社会測定的地位,自己概念 との関係の分析を試みたものである。得られた結果の主なものを要約すると,次のようである。 (1)道徳的判断の上位群の矢口能偏差値は,下位群のそれよりも有意に高かった。 (2〕上位群に属する子どもの両親の教育的関心は,下位群の両親のそれよりも有意に高かった。 (3)道徳性診断検査の粗点と社会測定的地位得点の相関を分析したところ,6クラス中4クラスに おいて有意の正相関が認められ,他に柵・でもかなりの正相関が得られた。この傾向は,女子に いちじるしいことが示唆された。 (4〕上位群における,現実自己一理想自己,現実自己一先生白已,理想自己一先生白已の各d i s− c r e p an c yスコ了は,下位群のそれよりも,有意に低かった。 参 考 文 Guardo,O.J.1966 献 Self−concept and persona1 space in ’hHdren・Universi ty Mic rofリms, Inc・ A口n Arbor, Michigan、 冒。ffman,M.L一,& SaItzstein,H.D. 1967 Parent discipl ine 3nd the chi ld Is mora1development・ J・pers・soc・ 上Σじウ」三.;、リ5・45■57・ 小林芳郎 1966 道徳意識と能力 教育心理,14,11,6卜65. 倉貫美紀 1968 児童の道徳判断についての研究 教心研,16・1O O−11O・ τ■ipsitt,L.P.1958Aself−co■ceptscaleforchH〔1ren and i tls re1目t i oηship to the chi ldren,s form of t11e mani fest anxiety sca−e・ Chi Id Develpm., 29, 463−472・ 松山安雄 196全 学級における社会的地位と行動特性の研究 大阪学芸大学紀要5.1卜 24. ・一78一 長島貞夫 1962 操作的方法による自我の心理学的研究 野間教研紀要,21集,62−102 長島貞夫他1967 自我出適応の関係についてめ研究(2)一S61f−Di 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