ホッとスペース中原 http://hotspacenakahara.org/

認知症の人のケアについて
2025 年には 320 万人の方々が認知症になるであろうと言われています。
新しい認知症ケアが求められていますが、ほっとスペース中原では『ケア・
パートナー』として以下の点を大切にしてケアを進めています。
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一人ひとりにはかけがえのない価値があります
人や社会との関係を維持し、生活を営める具体的な方法を個別に支援
していきます
生き活きした暮らしを利用者さんが実感できるように自律支援します
利用者さんに寄り添い内的な体験を大切にします
心理的な生活環境を整えます
出来ないこと(マイナス面)ばかりでなく、ストレングス(強み)を
見出し支援します
心と心を通わせます
一緒に生きる意味を実感できるように支援します
9月5日(日)14:30-16:30 新しい場所に移転したお祝いの会をしまし
た。120 名以上の方々がお祝いと声援をお送りくださいました。私たちの最
終的なゴールは「ホッとスペース中原が丌要となる社会」です。少し変です
が、ホッとスペース中原は今、
《思いやり》や《優しさ》を“人為的”に行っ
ています。しかし、この人為的なことを、自然に当たり前にできる暖かな社
会、誰もが自ら進んで思いやりや優しさ、愛をもって互いに助け合い支える
《ケア社会》の実現を願っています。そのような社会になり、豊かな文化が
生まれ、ホッとスペース中原という人為的な活動が終わることを願い活動を
進めていきます。今後とも、ご支援ご協力をどうぞよろしくお願いします。
ホッとスペース中原
訪問介護・居宅介護支援・通所介護・障がい者ヘルパー・知的障がい者グループホーム・子育て支援
電話
211-0053
044-777-7599
川崎市中原区上小田中 5-4-14
090-4179-6113
編集:佐々木
http://hotspacenakahara.org/
炎
ホッとスペース中原
2010年9月13日
№78
か
せ
く
だ
さ
い
。
あ
な
た
の
夢
や
願
い
と
い
う
種
を
聞
望
を
持
っ
て
、
育
て
ま
せ
ん
か
。
う
花
を
、
そ
し
て
豊
か
な
実
を
、
希
ん
。
芽
を
と
も
に
育
て
、
人
生
と
い
種
は
撒
か
な
け
れ
ば
芽
生
え
ま
せ
最期まで大切にしていた赤い蝶ネクタイ
佐々木
90 歳代前半、要介
佐藤泉(仮名)さんは
護2で老人保健施設に入所しました。そ
れまでは一人で暮らしていましたが、食事やお
風呂などの日常生活が困難になり、息子夫婦と
の折り合いが悪いために渋々入所することにな
りました。
泉さんは身体的には杖をついて歩くことがで
きるために、他の利用者の所に行っては、とこ
ろかまわず話しかけました。また、職員をつか
まえては「私は皇族の出身だ」と妄想じみたこ
とを言ったり、些細なことに腹を立て、介護職
員をてこづらせました。今まで一人で自由に生
きてきた泉さんにとって、集団生活が難しく、
そのたびに息子さんは呼び出されました。
6 人兄弟の次
泉さんは静岡県で小作人の
男として生まれ、小学校は農作業で忙し
い両親を助けるために自分の弟たちの子守でほ
とんど学校に通うことはできませんでした。夜
は酒癖が悪い父親の暴力から逃げ回る日々を
過ごし、泉さんは両親の愛を受けることができ
ないままに過ごしました。15 歳で国鉄(現JR)
の掃除夫として臭いトイレを毎日磨き、19 歳の
時、列車の外側の掃除をしている最中に走って
いる車両に接触され、頭を打つ大ケガを負い、
その外傷で『高次脳機能障害』となりました。
周りから言動がおかしいといわれ、精神病院に
入院させれら、何度も電気ショックによる治療
を受けました。泉さんはこのままでは自分が廃
人なると思い、病院から脱走しました。その最
中に 30 歳年下の女性と出会い同棲したのです。
3ヶ月以上は同じ場所にいられず、10年間ほ
ども逃げ続けました。
人の子どもが不えられ、やっと安住の
地を見つけました。そこは電気も水道
もない人里離れた場所で、拾い集めた資材で小
屋をつくり住んだのです。不えられた子どもた
ちには自分を貶めた社会を見返すために、スパ
ルタ教育をしました。泉さんは障害のためか、
それが極端で、従わなければ子どもたちに暴力
をふるいました。
3
ホッとスペース中原の宣言
~
炎
ホッとあたたまるスペースをすべての人と共有するために
ホッとスペース中原は 約束します。
ひとりひとりを かけがえのない存在として愛し、
お互いが隣人として補いあっていく 社会を形成することを。
~
息子さんは高校生の時に父親から逃げる
ために家を飛び出しました。
父の死後から 5 年経ちますが、私は父親を許せ
るようになったと今思います。そして、私は人
家庭内暴力は連鎖します。息子さんも対人関
にとって許すことの大切さを学び、私は変えら
係で気に入らなければ、口より手が出る日々で、 れました。
ある日傷害事件を起こしました。
あの頑固で、人の意見を聞く耳のなかった父
その息子さんも泉さんと同じように家族をも
親が謝罪した。それは私の予想もしなかったこ
ちました。家庭内暴力や社会への丌信感などの
とでした。歳を重ね身体的に弱くなったり、死
父の負の連鎖を断ち切るために努力をしました。 を前にしてそういう思いになったのかもしれま
しかし、強い対人間のストレスにさらされると
せん。でも私は一つの確信があります。それは
き、息子さんは感情を抑えきれませんでした。
父の私的な世界(生い立ちの悔しさや人生の丌
「自分の心の中には檻に眠る破壊的なモンス
全感など)を受け止めてくれた介護職員の存在
ターがいる。そのモンスターを檻から放たない
があったことを。恐らく私は、この介護職員の
ように必死に戦いました。」
介護関係がなかったら、今も父と永遠の和解が
息子さんは高校以来、泉さんとは反目の関係
できないまま、悶々とした生涯を続けていたこ
で、会うたびに喧嘩ばかりでした。そして、当
とだと思います。
の泉さんは 80 歳後半に差しかかったとき、唯
担当の職員は、父親の繰り返されるしつこい
一の理解者であった 30 歳年下の内縁の妻を失
話しを聞いてくれました。
い孤独になりました。生活がままならなくなり、
あるとき「赤い蝶ネクタイをして歌いたい」
施設に入所したのです。泉さんの歩んできた過
という父の願いを、介護職員は、ばかばかしい
去は、丌全感に満ちた人生だったのです。そし
と言わずに、紙できれいに蝶ネクタイを作って、
て息子さんは翻弄されたのです。
歌う機会をつくってくれました。父親はそのと
日に日に体力の落ちていく泉さんに息子さん
きの蝶ネクタイを家族の写真と一緒に、最期ま
は、もう逃げないで父親との関係を修復しなけ
でベッドサイドに大切に置いていました。
れば、一生、心の中に住む破壊的な暴力を引き
普通の人間関係ならば、一人の老いた戯言の
起こすモンスターに苦しむことを自覚しました。
ような声を、拒んだり、関わらなくても良いの
そして、弱り果てた泉さんに意を決して施設で
です。でも介護職員の支援(人間)関係は、そ
向き合ったのです。
の声を尊重し真摯に受け止める、見放さず関わ
「お父さん、話していいかな」
り続けるのです。その支援関係が、自分は周り
ベッドサイドに座る父親に話しかけました。
の人から大事にされている、聞くに値する人間
「私、正直にいうと、あなたのことが許せない
として思われていると感じるようになり、利用
んです。それでいままで苦しんできたのです。
者さんの未来を拓くのです。
このままでいると恐らくもう和解はできないと
思う。謝って欲しい。私がどんなにあなたにさ
たちは介護において一般的には、一蹴さ
れた暴力や妄言で苦しんできたか。今、もしそ
れてしまうような利用者さんの願いや
のことが分かってくれるなら謝ってほしい」
声を聞きます。たとえどのような思いであって
泉さんはしばらく沈黙した後に言いました。
も真摯に受け止め、支援を実践するのです。そ
「そうだったのか。私がもう少しおまえの気持
を理解してあげればよかった、わるかった・・・。」 の≪支援関係≫は、私の父が家族との人間関係
を再創造したように、どんな失望と悲しみを抱
泉さんは生まれて初めて、息子さんに謝ったの
える利用者でも変わり得る力になると思うので
です。
す。当事者や当事者同士ではどうしても解決で
きなかった大きな課題をも変える支援関係の力。
息子さんとは私自身です。そのときは、あっ
そこに介護のだいご味と本質があるのだと体験
けないもので
から思うのです。
した。あまり
私
心には響きま
せんでしたが、
スーッとその
言葉が心に入
った丌思議を
感じました。
「ケアするとは、最も深い意味で、その人が
成長すること(中略)
「生きることの意味」を確
認すること。
(中略)その人格が再創造されるこ
と」(『ケアの本質~生きることの意味~』ミル
トン・メイヤロフ著)
私と同じように痛
むあなたがいる、聞
いてくれるあなた
がいる、それでいい
のです
8月に戦争を体験した利用者
さんが「平和」の願いを込め
て折った千羽鶴を「平和記念
会館」に寄贈しました。
“平和
はつくるもの“とSさんは言
われました。
『他の人々に役立つことによって、その人
は自身の生の真の意味を生きているのであ
る』(『ケアの本質~生きることの意味~』
ミルトン・メイヤロフ著)
自分のためだけでなく、誰かのために何か
にたずさわる、そこに生きる喜びと意味が
見えてくる、と思います。
ゆったりとしていること、周囲の人
に対する思いやりがあること、ユー
モアがあること、喜びの表現がある
こと、人に何かしてあげようとする
こと、自分から社会と接触するこ
と、愛情を示すこと、あらゆる種類
の感情を表現すること・・・。いろ
いろなあなたが表現できるように
願っています。