2011 年戦略計画 - NEDO:ワシントン事務所

エネルギー省、「2011 年戦略計画」を発表
2011 年 5 月 12 日
NEDO ワシントン事務所
松山貴代子
エネルギー省(DOE)が 2011 年 5 月 11 日、今後の目標や指針を説明する「2011 年戦略計画(2011
Strategic Plan)注 1」を発表した。DOE の主要ミッションは、トランスフォーマティブな科学技術解決策を介してエ
ネルギー・環境・核の課題に対応することにより米国の繁栄と国家安全保障を確保することであるが、新戦略
計画では同ミッションを達成するため、(1)クリーンエネルギー分野における米国リーダーシップの確保;(2)理
工学における活気ある努力の維持;(3)DOE 利害関係者の英知を活用できる枠組みの確立;(4)核安全保障
の強化という 4 つのカテゴリーに分けて、各カテゴリー別に具体的な成果目標を説明している。ここでは、カテ
ゴリー(1)と(2)の成果目標を報告する。
1. 米国エネルギーシステムの変容(Transform Our Energy Systems) … 米国エネルギーシステムをタイ
ムリーで実質的かつ効果的に変容させ、クリーンエネルギー技術における米国リーダーシップを確保する
ことを目的とする。
A. 既存技術の活用
(a) 需要の伸びを抑制するため、省エネルギーを推進 … 米国の国家エネルギー目標の達成に向けた
最も迅速でコスト効率的な方策の一つである、エネルギー効率の改善を推進する。DOE では、住
居・ビル・施設のエネルギー効率を改善する新アプローチを促進するほか、自動車燃費を向上させ
る技術の開発・導入のために産業界と提携し、2015 年までに 100 万台の電気自動車を普及させる
という大統領目標の達成に尽力する。
【成果目標】
• DOE と住宅都市開発省(Department of Housing and Urban Development =HUD)は 2013
年度末までにコスト効率的に総計 110 万戸の省エネ化を行うため協力する。DOE プログラム
は推定約 100 万戸の改善に貢献する。
• 省エネ基準(年間最低 6 つの家電機器)やベストプラクティスの設定・更新や、2015 年までに
米国規格協会(ANSI)が認定する商業・産業部門対象の省エネ認証プロセスを確立することに
よって、エネルギー使用合理化経済への移行を助長する。
(b) クリーンエネルギー技術の実証と普及 … 米国のエネルギー問題を進展させるためには、消費者と
産業界の双方がクリンエネルギー技術を導入する必要があるが、安定した包括的エネルギー政策
を欠くために、民間部門によるクリーンエネルギー技術の導入は遅れている。DOE は民間部門の
融資を引き出す為、クリーンエネルギー事業に取り掛かる企業にローン保証を提供する。
【成果目標】
• 2012 年までに、再生可能エネルギーの発電量(在来型の水力発電とバイオ発電を除く)を倍増。
• 2015 年までに、年間 50 万台のプラグイン・ハイブリッド自動車用のバッテリー生産能力を支援。
• 運転年数が 60 年を超えた軽水炉の材料劣化に関する包括的評価を 2012 年 9 月までに完了。
(c) 送電網の近代化 … 新技術の実生活の場でのパフォーマンスを理解するために、計器を装備した
マイクログリッドを助成するほか、周波数調整や大量エネルギー管理(bulk-energy management)
注1
戦略計画の全文は、http://www.energy.gov/news/documents/DOE_StrategicPlan.pdf で入手可能。
1
に使用される貯蔵技術の実証・普及を促進する。また、スマートグリッド導入で発生する新たなセキ
ュリティ上の脅威をモニターし、セキュリティ基準や通信基準の策定で他省庁や産業界と協力する。
【成果目標】
• 2013 年までに 1000 個以上の同期フェーザ計測器(synchrophasor measurement unit)を設
置することにより、米国送電網をより良く理解し、その調整を可能にする。
• 2013 年までに、2,600 万個以上のスマートメーターを住宅やビジネスに設置する。
• 2015 年までに、実用規模のエネルギー貯蔵コストを 30%削減する。
(d) 国内天然資源の良識的な開発 … 石油・天然ガス業界は、米国経済の当面のニーズを満たすため
に、深海掘削事業や陸上の非在来型天然ガスといった困難な分野に入り込んでいる。DOE は、地
理空間モデリングや多孔質媒体の流量、機械的/構造的応力解析や複雑な流体シミュレーション等
の研究分野における専門知識や経験を提供して、連邦政府がこうした事業に伴うリスクの理解で遅
れをとらないようにする。
B. 必要な新解決策の発見
(a) 前競争的な(precompetitive)研究開発を介したエネルギーイノベーションの促進 … 実証によって
エネルギーシステムに影響を与えることが出来るタイムリーな研究開発プログラムを実施する。新
規のエネルギー技術を国家目標が定めるペースで実用化していくため、DOE では、理工学と技術
開発の境界が見極めにくいものの、連邦政府の役割が最強である研究開発に焦点をあてた研究を
追及する。DOE はまた、目的志向で学際的な面を強化し、基礎研究と応用研究の連結を強め、産
学官の協力を推進する。
【成果目標】
• ARPA-E は 2012 年度までに、トランスフォーマティブで潜在的にディスラプティブなエネルギー
技術の開発を促進し;インパクトの強いエネルギーイノベーションの市場移行を進め;エネルギ
ー革新における米国のリーダーシップの向上に貢献し;自らを刷新的で極めて効率の良い持続
可能な組織として確立させる。
• 2014 年までに地下貯留層を探査する 2 つの革新的技術を実証することにより、新炭素隔離や
地熱エネルギーシステムといった地質学的技術に伴う先行投資コストやリスクを軽減する。
• 商業的用途における内熱エンジンや核分裂、および、在来型発電所の高忠実なシミュレーショ
ン(high-fidelity simulation)を 2015 年までに実証し、高性能コンピューターシミュレーションを
産業エネルギー部門へ統合する。照射材物性研究所(Irradiated Materials Characterization
Laboratory)において、照射済燃料を検査する先進技術を実証する。
• 2020 年までに、コスト効率的な電気自動車を可能にする電気駆動部品(蓄電システムや電気
モーター、電気管理装置、等)の革新的な解決方法を開発する。
(b) 産業界への技術移転の推進 … 民間部門が中小企業革新研究(SBIR)や中小企業技術移転
(STTR)計画、ARPA-E や共同研究開発協定(CRADA)及びローン保証を介して、DOE の研究開
発成果を商業化することを推進する。DOE はまた、コントラクター主導の画期的技術移転メカニズ
ムを策定することを目指す。
【成果目標】
• 商業化への障壁に対応し、取引コストを引き下げる新規の契約手段を使って、産業界による
DOE 研究開発の実用化を奨励する。
(c) 技術のテストベッドと実証プロジェクトの創設 … DOE は、エネルギー技術の商業化・導入に先立っ
て、システムの性能や便益、課題や環境リスクを十分に理解できるように、エネルギー技術の性能
を操作環境で評価・特性化する能力を引き続き構築する。
2
【成果目標】
• 2015 年までに、新たな国立技術ユーザー施設を最低 2 箇所完成させる。
• 2016 年までに、小型モジュール炉の設計保証(design certification)を完了させる。
• 2012 年までに、生産コストが 1 ガロンあたり 2 ドル未満というセルロース系エタノール技術を開
発する。
• 2016 年までに、最低 5 件の実用規模炭素回収貯留(CCS)実証プロジェクトを稼動させる。
• 研究所の研究開発成果をパイロット実験に使用して、新型の予燃焼回収技術と二次燃焼回収
技術が 90%の二酸化炭素を回収することを立証する。
(d) パートナーシップのてこ入れ … 州・地方政府、電力会社や小売業者は新規エネルギー技術の導入
を実現させる鍵であり、DOE は省エネや再生可能エネルギー技術グラントを州・地方政府へ提供し
ている。DOE は気候・エネルギーの課題に対応する州政府政策を引き続き支援し、州政府のベス
トプラクティスを国家レベルで再現することを目指す。DOE は、クリーンエネルギー技術の開発導入
や、気候変動やエネルギー安全保障等への対応という共通の目標を進展させるために国際パート
ナーシップを促進する。DOE は必要に応じて、内務省、HUD、商務省、国務省、環境保護庁、農務
省、その他省庁と、連邦エネルギー政策やプログラムの策定や実施を調整する。
C. エネルギーに関する全国的対話をリード
(a) エネルギーシステム及びその進化に関する健全な情報を提供 … DOE が所有する、エネルギー技
術・エネルギーインフラ・エネルギー市場および消費者行動に関する広範な知識、および、気候モデ
リング・大規模生態実験・大気放射や気候予測の正確さを向上させるシミュレーション方法論等に
基づいて、政策策定者やプログラムマネジャーや民間部門に非の打ちどころのない分析を提供す
る必要がある。
(b) エネルギーリテラシー(識字能力)の推進 … 明日の世界的リーダーとなる青年層を喚起するため
にインターアクティブなゲームやソーシャルメディア等の今日の技術を活用することによって、エネル
ギー目標の達成に必要なモメンタムを生み出すことが出来る。DOE は、全国的なエネルギー教育
活動の策定・実施に積極的に参加するほか、エネルギー問題への認識と理解を高めるために学術
機関や産業界、連邦省庁やその他の利害関係者等との関係を活用する。
【成果目標】
• 国内のエネルギーリテラシーを向上させる最有望な教育オポチュニティを 2012 年までに確認
する。
• 2013 年までに、国立研修教育資源(National Training and Education Resource)プラットフォ
ームにオンライン用のエネルギーリテラシー材料を提供する。
(c) 連邦政府による持続可能性の主導 … DOE は、国内エネルギー利用の変容で模範を示すユニー
クな位置を占めている。施設内化石燃料燃焼・一時的放出(fugitive emission)・電力購入からの温
室効果ガス(GHG)排出を 2020 年までに 28%削減し、出張や職員通勤といった外部源からの
GHG 排出を 13%削減するため、DOE は持続可能性を管理意思決定に統合する。また、連邦政府
全体のエネルギー消費と持続可能性に影響を与えるため、他の連邦省庁と協力する。
【成果目標】
• GHG 排出を 2020 年までに 2008 年比 28%減にするという DOE の進路を保ち、他省庁の
GHG 排出削減目標達成を支援する。
3
2. 理工系のエンタープライズ(The Science and Engineering Enterprise)… 理工学における活気ある努
力を国家経済繁栄の要石として維持することを目的とする。
A. 自然界に関する知見の拡大
(a) 素粒子物理学(Subatomic Physics)
【成果目標】
• 量子色力学や核力(nuclear force)理論を検証し、天体物理学プロセスでエキゾチックな重要
原子核を作り出すため、2019 年末までにジェファーソン研究所およびミシガン州立大学の核物
理研究施設を完成させる。
• 自然力の統一(unification of the forces of nature)、ブラックホールの構造、宇宙の起源に関
する疑問を解明するため、エネルギーや宇宙論の未開拓分野において一連の実験を 2020 年
まで行う。
(b) 化学・物質研究(Chemical and Materials Research)
【成果目標】
• X 線 自 由 電 子 レ ー ザ ー ( X-ray free electron laser ) や 次 世 代 シ ン ク ロ ト ロ ン 光 源 ( next
generation synchrotron light source)の建設および利用を検討する。
• 2020 年までに、触媒作用や電熱作用(electrothermal behavior)、放射線抵抗性や耐久力と
いった新規特性を持つ多種多様な新物質や、エネルギー技術の進展に貢献する多種多様な新
物質を開発・研究する。
(c) 気候科学
【成果目標】
• 結合気候システム(coupled climate system)の理解における不確実さ(uncertainties)の主要
な原因を 2015 年までに究明する。
B. DOE ミッションを前進させる新技術の開発
(a) バイオエネルギー
【成果目標】
• システム生物学の方法を使って 2015 年までに、実現可能なバイオ燃料工程を創りだし、二酸
化炭素環境での微生物に関する理解を高める。
(b) 核融合エネルギー
【成果目標】
• 健全なプロジェクト管理原則を維持しつつ、国際熱核融合実験炉(ITER)建設の米国責任を全
うする。
• 国家点火キャンペーンで 2012 年まで国立点火施設(National Ignition Facility)を宣伝し、オ
ープンサイエンス・ユーザー計画を確立する。
(c) 計算科学と高性能計算
【成果目標】
• 1016 のプラットフォームを介して、高性能計算機やソフトウェアの開発と導入を継続する。
C. 世界一の技術労働人口の維持
【成果目標】
4
• 省内指導者によって特定された DOE 科学技術労働人口の技能格差に対応する方法で、大学
院生を 2015 年まで支援する。
DOE の主要部局は、同省の主席研究官である DOE 科学担当次官と協議をしながら、各部局の実行計画を
「2011 年戦略計画」に基づいて策定していく。DOE では、毎年度の予算編成プロセス開始時に同戦略に沿っ
た進捗状況を評価するほか、科学担当次官室が中心となって戦略計画の公式な見直しを 4 年毎に行う予定で
ある。
5