II-3-2. 電気信号を増幅する素子

II-3-2.
電気信号を増幅する素子
ラジオ、テレビ、携帯電話などは、空間を伝搬して届く微弱な電気信号を、見たり聞いたり出来る大
きさの信号に増幅することによりその機能を果たし、我々の生活を豊かにしてくれる。今回の実験では、
これら装置の動作の1つの重要な要素である増幅作用について学習する。電気を増幅する素子の代表と
して、トランジスタが挙げられる。トランジスタは、1948年にショックレー、バーディーン、ブラ
ッティンにより発明された。彼らはこの業績により1956年にノーベル物理学賞を受賞することとな
った。
トランジスタの発明以前は、電気信号の増幅には真空管を用いた。真空管では、真空中を飛ぶ熱電子
を制御することにより増幅作用を生じさせる。一方、トランジスタでは、半導体と呼ばれる固体中を流
れる電子もしくは正孔を制御することにより増幅作用を生成する。トランジスタの発明により、真空か
ら固体へと材料における画期的な進化が達成された。
トランジスタは、p形、n形と導電性の異なる半導体の組み合わせよりなり、p形(n形)半導体の
薄膜をn形(p形)半導体でサンドイッチ構造にすることにより構成される。このような構造を用いる
ことにより、半導体という材料が増幅作用という機能をもつことになる。
増幅機能をもつ他の素子として、オペアンプ(演算増幅器)が挙げられる。オペアンプはICの一種
であり、複数のトランジスタから成り、理想特性に近い増幅特性を実現した素子である。オペアンプの
項においていくつかの具体例について説明するが、このような理想増幅特性を持つ増幅素子が実現され
ると、新たな興味深い応用方法が創出され、各種の回路が実現されるようになった。
1. 目的
本実験の目的は、代表的な増幅素子であるトランジスタ、オペアンプについてその増幅作用を学び、
実際に回路を用いて増幅作用実験を行うことで、素子の機能を理解することである。
注意
本実験ではオシロスコープを頻繁に利用する。材料機能工学実験Ⅰ「オシロスコープの使い方」のテ
キストをよく読んで復習しておくこと。
1
2.概論
2-1.トランジスタ
2-1-1.トランジスタとは
トランジスタには、その導電性の違いにより npn 形と pnp 形がある。これら2つのタイプのトラン
ジスタは、実用上電流の流れる方向のみ異なり他は同等なので、ここでは npn 形を例にとって説明する。
図1(a)に示すように npn 形トランジスタは、ベース(B)と呼ばれる薄いp形半導体がエミッタ(E)、
コレクタ(C)と呼ばれる n 形半導体に上下から挟み込まれた構造を持つ。トランジスタは基本的には
電流制御素子であり、ベースに流れる電流によりエミッタからコレクタへ流れる電流が制御される。こ
こで、トランジスタの動作において本質的な量は電流であり、電圧でないことを注意しておく。図1(b)
にトランジスタを表す回路記号を示す。npn 形と pnp 形では矢印の方向が逆であり、流れる電流の向き
が異なることを意味する。また、図1(c)はトランジスタの外観である。
C
コレクタ(C)
B
n形半導体
E
npn 形
p形半導体
ベース(B)
C
n形半導体
B
エミッタ(E)
E
pnp 形
(a)npn 形トランジスタ
(b)トランジスタの回路記号
(c)トランジスタの外観
図1.トランジスタ概略図とその回路記号と外観
2
2-1-2.トランジスタを用いた増幅
図2を用いて、トランジスタの増幅原理を簡単に説明する。電源 VCC によりトランジスタのコレクタ
にはコレクタ電流 IC が流される。また、ベースには入力信号 Vin によりベース電流 IB が流され、その結
果、エミッタに流れるエミッタ電流 IE は、
I E  I B  IC
…
(1)
で与えられることとなる。トランジスタは前記のように電流制御形の素子であり、このベース電流 IB
によりコレクタ電流 IC を制御することが可能である。その電流増幅率hFE は、次式で定義され、
hFE 
IC
IB
…
(2)
VCC
IC
RL
Vin
RB
Vout
IB
IE
図2.トランジスタを用いた増幅の原理
というトランジスタの素子構造等によって決まる定数となる。電流増幅率hFE の大きさは、通常、40
~200である。即ち、ベース電流 IB の小さな変化が40~200倍に増幅され、コレクタ電流 IC の
大きな変化に増幅される。
次に、電圧増幅率 GV を導出しよう。そのため、増幅現象を回路的に見なおす。図2より、出力電圧
Vout と電源電圧 VCC とコレクタ電流 IC との間には、
3
Vout  VCC  RL I C
…
(3)
の関係が成り立つことがわかる。ここで、負荷抵抗の大きさを RL とした。次に、入力信号電圧 Vin が減
少したと仮定する。ベース電流 IB も減少し、その結果、コレクタ電流 IC も減少する。一方、電源電圧
VCC は一定であるので、
(3)式により出力電圧 Vout が増加することになる。今とは逆に、入力信号 Vin
が増加した時は、ベース電流 IB は増加し、その結果、コレクタ電流 IC も増加する。この場合は、先ほ
どとは反対に(3)式により出力信号電圧 Vout が減少することがわかる。よって、入力信号電圧 Vin の
変化を追従するように出力信号電圧 Vout が変化することがわかる。例えば、同図に示すような正弦波電
圧が入力信号 Vin に加わると、正弦波の出力電圧 Vout が発生する。ただし、入力信号が増加する時は出
力信号は減少し、入力信号が減少する時は出力信号は増加するため、プラスマイナスが逆転し、反転増
幅が達成される。
オームの法則により、
IB 
Vin
RB
…
(4)
が成り立つので、(2)―(4)式を連立して、IB、IC を消去し整理すると、
Vout  VCC 
RL
hFEVin
RB
…
(5)
が与えられる。入力信号電圧 Vin の変化により引き起こされる出力信号電圧 Vout の変化項に注目すると、
電圧増幅率 GV は
GV 
Vout
R
  L hFE
Vin
RB
…
(6)
と導き出される。電圧増幅率 GV はトランジスタの持つ電流増幅率 hFE のみならず、増幅回路を構成す
る抵抗 RB ならびに RL にも依存することがわかる。
4
2-2.オペアンプ
2-2-1.オペアンプとは
オペアンプとは、理想的な増幅特性を持った増幅器である。実際のオペアンプは1個のトランジスタ
ではなく複数のトランジスタと抵抗などからなる集積回路(IC)である。その特性は、
1)電圧増幅率は限りなく大きく(3万~100万倍)
2)入力インピーダンスはきわめて大きい(106Ω以上)
3)出力インピーダンスはきわめて小さい(数十Ω)
という増幅器としては理想的なものである。即ち、増幅器を動作させる入力電力をほとんど消費せず、
信号を非常に大きく増幅し、出力電力のほとんどすべてを負荷で消費させることが出来る。
-入力端子(V-)
-
出力端子(Vout)
+入力端子(V+)
+
図3.オペアンプを示す回路記号
図3にオペアンプの回路記号を示す。オペアンプには二つの入力端子があり、差動増幅器として動作す
る。その結果、オペアンプは+入力端子と-入力端子の端子電圧差に依存した出力を発生する。また、
+入力から入力した信号を同相で増幅し、-入力から入力した信号は逆相で増幅する。よって、+入力
端子の入力信号を V+、-入力端子の入力信号を V―とすると、オペアンプからの出力信号 Vout は、
Vout   (V  V )
(α:増幅率(~数万以上))
で与えられる。
5
…
(7)
図4.オペアンプの形状
実際のオペアンプは図4に示されるように、8~12本程度の端子がついている。回路中でオペアン
プを実際に使用するときには、オペアンプに動作用の電圧をかける必要がある。このための端子が2本
ついており、通常、+15V と-15V といったように、2本の端子にプラスとマイナスの同じ大きさの電
圧をかけてオペアンプを使用する。つまり、回路内でオペアンプを使用するときには、V+と V-、Vout
の端子に加え、+15V と-15V(741 の場合)の電源用の端子も配線する必要がある。本実験で用いる
741 型オペアンプの場合の各端子と記号との関係は、以下の図で示されるとおりである。
8
7
6
5
Vout
+15V
-
+
V+
V-
1
2
3
-15V
4
図5.オペアンプの配線図(図4を上から見た場合)
このように理想的な特性を持つオペアンプであるが、そのまま使うと増幅率が大きすぎ微小な入力電
圧によっても出力電圧が飽和してしまう。その結果、出力電圧の飽和値は電源電圧で制限されるものの、
増幅器としての動作が不安定となる。したがって、オペアンプは、通常、負のフィードバックをかけた
回路構成で使用される。以下で、オペアンプを用いた代表的な増幅回路について述べる。
6
2-2-2.オペアンプを用いた増幅
(1) 反転増幅回路
オペアンプの出力を、抵抗を介して-側の入力端子に接続すると、反転増幅回路を構成することがで
きる(このように出力に応じて入力を変化させることをフィードバック(帰還)という)。
その例を図6に示す。図6の回路の場合、電圧増幅率 GV が
GV  
Rf
… (8)
Ri
となり、フィードバック抵抗 Rf と R1 との比で与えられる。
Rf
R1
Vin
If
V-
I1
V+
-
Vout
+
図6.オペアンプによる反転増幅回路
この回路の動作原理を簡単に説明する。先に述べたようにオペアンプは増幅率が非常に大きいので、
+入力と-入力の端子電圧が少しでも異なると出力にきわめて大きな電圧を発生する。この回路の場合、
抵抗 Rf を通して負のフィードバックが-入力端子にかかるように設計されている。つまり、出力側の電
圧が大きくなった場合は、フィードバック抵抗 Rf から-入力端子に出力電圧をうち消す方向の負のフィ
ードバックがかかる(次ページにこれをまとめる)。
7
V- < V+
Vout は正の大きな電圧
フィードバック抵抗を経由して、負の大き
な電圧が V-に入力
フィードバック抵抗を経由して、正の大き
な電圧が V-に入力
Vout は負の大きな電圧
V- > V+
最終的に、-入力端子の電位はアースに接続されている+入力端子と同じ0V の電位になって安定化
される。
V  V  0V
…
(9)
この条件を用いて、回路の電圧増幅率 GV を導出する。(9)式より、オペアンプの-端子の電圧 V-
はアース(0V)と等しいから、
Vin  I 1  R1
…
(10)
Vout  I f  R f
…
(11)
一方、オペアンプの入力インピーダンスは非常に高いから、オペアンプ内部には、ほとんど電流が流れ
込まない。よって、
I f   I1
…
(12)
(10), (11), (12)式より、この回路の増幅率 GV を計算すると、
GV 
Rf
Vout I f R f


Vin
I 1 R1
R1
…
(13)
(13)式から、図6の回路の増幅率は、抵抗 Rf と R1 の比で与えられ、入力電圧 Vin と出力電圧 Vout の
符号は反対であることがわかる。このため、この回路は反転増幅回路と呼ばれる。
8
(2)非反転増幅回路
オペアンプを用いて非反転増幅回路も作製することもできる。その例を図7に示す。
Vin
+
Vout
-
Rf
R1
図7.オペアンプによる非反転増幅回路
入力信号電圧 Vin は+入力端子に印可される。抵抗 R1 と Rf により構成されるフィードバック回路に
より、-入力端子にも+入力端子と等しい電圧 Vin が印可されたとき始めて、両者の電圧差がキャンセ
ルされオペアンプが安定する。抵抗 Rf と R1 からなるフィードバック回路を考えると、-入力端子には
これらの抵抗により出力信号電圧 Vout が分圧され[R1 / ( R1 + Rf ) ]Vout の電圧が発生することがわかる。
一方、この電圧は入力信号電圧 Vin に等しいことから、
Vin 
R1
Vout
R1  R f
…
(14)
の関係が導き出せる。よって、この回路の電圧増幅率 GV は、
GV 
Rf
Vout
1
Vin
R1
と与えられることがわかる。
9
…
(15)
3.実験
本実験では、RC 結合型増幅回路に関する実験およびオペアンプによる反転増幅回路(Rf=100KΩで交
流入力・直流入力)の測定を行う。また時間が許せばオペアンプの他の実験は時間があれば行う(オプ
ション:実施のときは加点考慮)。
3-1.実験を行うに当たっての一般的な注意事項
・ 測定用回路(トランジスタ用、オペアンプ用)は壊れやすいので、丁寧に扱うこと!破損した場合
は実験終了後に修理してもらう。
・ 実験で用いた抵抗・コンデンサなどの値などは必ず記録を取り、レポートに記載すること。
・ 結線を行う場合は、必ず全ての電源を off にしてから行うこと。また、電源を on にする前に、電源
のつまみ等が0になっているか、配線が正しいかどうかのチェックを必ず行うこと。
・ トランジスタやオペアンプへの電源投入は慎重に行う。これらの素子に加える規定の電圧以上は、
素子が壊れる恐れがあるので絶対にかけないこと!(トランジスタの場合は、+12V、オペアンプ
の場合は、正負の端子にそれぞれ+15V および-15V)。また、電源の電圧は全て徐々に上げるよう
にする。オペアンプの場合は、+と-の電源からほぼ同時に電圧が加わるようにする。
・ トランジスタ回路とオペアンプ回路の、電源電圧(VCC, ±15V)、入力信号電圧(Vin)、出力信号電圧
(Vout)は、赤い端子が+側、黒い端子が-側である。逆にすると正しく測定が行えない。
・ オシロスコープの設定を確認してから、測定を行うこと。
(材料機能工学実験Ⅰの「オシロスコープ
の使用法」のテキストを復習しておくこと)
 電圧と時間のレンジを変化させるつまみのうちの微調整用のつまみが、0(一番右はしの
cal.の位置)になっている。
 オシロスコープのプローバのスライドスイッチが“×1”の状態になっている。
 Ch1 と Ch2 の測定モードが交流の場合は”AC”、直流の場合は”DC”になっている。
 交流電圧測定時には、”AC”モードに、直流電圧測定時には”DC”モードに設定する。等々
・ テキスト中の“ピークトウピーク値”とは、正弦波の振幅の値である(下図参照)。間違えないこと!
実験の持ち物としてグラフ用紙(方眼紙、片対数グラフ)を持参すること。
この電圧値がピークトウピーク値
10
3-2.トランジスタ(2SD1265A)による増幅実験
3-2-1.回路の説明
本実験では、図8に示すような npn トランジスタを用いたエミッタ接地形増幅回路を用いる。
VCC
R1
RL
C1
C2
Vin
R2
I C VL
R3
Vout
オシロスコープ
C3
図8.エミッタ接地増幅回路
コンデンサのインピーダンスは、1/jC で与えられるように、動作周波数が高くなるほど小さくなり
信号が流れやすくなる。つまり、交流信号に対しては抵抗分とならない。以上を考慮すると、図8は交
流信号に対しては図9に示すような等価回路で表される。この回路を用いることにより、信号に対する
増幅器の入力インピーダンスや出力インピーダンスが決められる。一方、図8の直流等価回路は図10
のようになり、この回路とトランジスタの静特性を用いてコレクタ電流 IC が適切に流れるよう抵抗 R1、
R2、R3が決められるというバイアス設計が行われる。
11
VCC
Vout
R1
RL
R2
R3
IC
Vin
RL
R1//R2
図9.交流等価回路
図10.直流等価回路
12
3-2-2.電圧増幅率の測定―入力信号電圧依存性
トランジスタ増幅器を用いて、交流の入力信号電圧が増幅される様子を観察する。まず、入力信号の
周波数は 1kHz に固定し、入力信号電圧 Vin のピークトウピーク値を 5mV から 25mV まで変化させた
ときの出力信号電圧 Vout のピークトウピーク値を測定し、このときの増幅率を求める。
3-2-2-1.配線
以下の手順にしたがってトランジスタ増幅実験の配線を行う。配線前には、全ての電源が off になっ
ていることを確認してから行うこと。配線は全て赤色端子が+側、黒色端子が-側である。どれが何の
電源かわからない場合は、指導教員に尋ねるか、下記の絵を参照すること。
(1) 正弦波発振器(ファンクションジェネレーター)の output 出力端子を、ケーブルを用いてトラ
ンジスタ増幅回路の入力端子 Vin に接続する。
(結線用ケーブルは、BNC端子と赤・黒のワニ口クリップが両端についているものを使用す
る)
(2) トランジスタ動作用の直流電源を増幅回路の Vcc 端子に接続する。
(3) オシロスコープの Ch1、Ch2 をそれぞれ回路の Vin、Vout にプローバを用いて接続する。
オシロスコープ
(Ch1 に入力を、Ch2 に出力を
つなぎ、同時にスクリーンに
表示して、増幅率・反転を比
較する)
Ch1
ファンクションジェネレータ
(交流波を入力するのに使う
output 端子につなぐこと)
Ch2
入力 Vin
出力 Vout
+
-
+
-
直流電源
(トランジスタ回路の電源
電圧 VCC 用.+12V かける)
電源 Vcc
+
—
トランジスタ回路
図11.トランジスタ回路による増幅実験の配線
13
-
+
3-2-2-2.測定
配線が正しいかどうかを、指導教員に確認してもらう。
確認後、以下の手順に従って、信号増幅実験を開始する。
(1)トランジスタ動作用の直流電源のスイッチを on にし、さらに output スイッチを on にする。
この状態でメーターの針を見ながらダイヤルをゆっくり廻し、+12V に設定する。
(2)正弦波発振器(ファンクションジェネレーター)で周波数1kHz の正弦波信号を発生させる。
このとき、入力信号電圧 Vin は、トランジスタ増幅回路により増幅されたのち、出力信号電圧
Vout となって出力される。
(3)オシロスコープを見ながら、入力信号電圧 Vin のピークトウピーク値を 5~25mV の範囲内で
5点程度変化させる。このときの Vin と出力信号電圧 Vout のピークトウピーク値をオシロスコ
ープの画面から読み取る。Vin と Vout の波形がともに正弦波で、互いに反転していることもオ
シロスコープで確認する。さらに、電圧増幅率 GV を算出し、実験結果を以下のような表にま
とめ、レポートに記載せよ。測定が全て終了したら、電源の電圧を0にもどし、スイッチを off
にする。
表1.
入力電圧[mV]
出力電圧[mV]
電圧増幅率|Gv|
(4)表1の結果から、入力信号電圧 Vin 対出力信号電圧 Vout のグラフを描く。グラフは章末のグラ
フの書き方にのっとって正しく描くこと。
(5)グラフの傾きから電圧増幅率 Gv を求め、レポートに記載する。
14
3-2-3.電圧増幅率の測定―電圧増幅率の周波数依存性
次に入力信号電圧 Vin のピークトウピーク値を 20 mV に固定し、周波数を 100 Hz から1MHz に変
化させたときの出力信号電圧 Vout のピークトウピーク値を測定し、電圧増幅率 GV の周波数依存性を求
める。
回路の配線は3―2―2「電圧増幅率の測定―入力信号電圧依存性」と同じである。
測定
(1)3-2-2の実験終了後、同じ回路を用いて実験を行う。まず、トランジスタに動作用電圧を
印加するため、トランジスタ動作用の直流電源のスイッチを on にし、さらに output スイッチ
を on にする。この状態でメーターの針を見ながらダイヤルをゆっくり廻し、+12V に設定す
る。
(2)オシロスコープで確認しながら、正弦波発振器(ファンクションジェネレーター)で 20mV の
電圧を発生させる。このとき、信号発生器から回路への入力信号電圧 Vin が 20mV となる。
(3)信号発生器を用いて、入力信号電圧 Vin の大きさを 20mV に固定したまま、周波数を 100Hz
から 1MHz に変化させ、このときの出力電圧 Vout を測定する。電圧増幅率が急激に変化する
周波数領域では、細かく測定点を変えて測定を行うこと。周波数を等間隔に変えて測定を行う
必要はない。
注:正弦波発振器の周波数を増加させると、その出力抵抗と入力コンデンサ C1 により入力電
圧 Vin が低下するので、周波数を変更する毎に Vin=20mV を確認し調整のこと。
結果を以下のような表にまとめ、レポートに記載せよ。
表2.
周波数[Hz]
出力電圧[mV]
電圧増幅率|Gv|
(4)表2の結果を片対数グラフにプロットせよ。測定が全て終了したら、電源の電圧を0にもどし、
スイッチを off にする。広い範囲(100Hz~1MHz)の数値を扱うので片対数グラフを使用。
片対数グラフの使用法がわからない場合は、遠慮無く指導教員に質問すること。
15
3-2-4.スピーカーを用いた音声増幅実験
トランジスタによる増幅回路を用いて音声の増幅実験を行う。入力信号として前項で使用の正弦波発
振器とAMラジオの出力信号を用いる。以下の手順で実験を進める。
(1) 図12 (a)に示すように増幅回路の入力端子に前項の実験で使用の正弦波発振器を、出力端子
にスピーカーユニットをそれぞれ接続する。また正弦波発振器の出力ボリュウムを最低にして、
さらにスピーカーユニットのボリュウムスイッチを off にしておく。
(2) トランジスタ動作用の直流電源のスイッチを on にし、さらに output スイッチを on にする。こ
の状態でメーターの針を見ながらダイヤルをゆっくり廻し、+12V に設定する。
(3) 正弦波発振器の電源を入れ周波数を1KHz に設定し、入力電圧を 10mV にしてスピーカユニッ
トのボリュームスイッチをONにしてキーンという音が聞こえるまで大きくする。周波数を変
化させ可聴周波数域(30Hz~20KHz)の音の大小・高低を耳と波形で確認しレポートにまと
める。
電源
+
-
+
VCC
入力
正弦波
発振器
+
スピーカーユニット
出力
-
電源
トランジスタ交流増幅器
Vin
Vout -
AM
ラジオ
(a)正弦波発振器―音声実験
イヤホーンミニプラグ
入
力
(b)AMラジオ―音声実験
図12.スピーカーユニットを用いた音声実験の配線
(4)次にトランジスタ動作用電源のスイッチを off にし、スピーカーユニットのボリュウムスイッチ
を off にする。また正弦波発振器よりの入力を外す。AMラジオを接続前にあらかじめチューニ
ングしておき、いったんAMラジオの電源ボリュウムを off にする。
(5)次に図12(b)に示すように正弦波発振器に代わってAMラジオを増幅回路の入力端子に、出
力端子には(a)同様スピーカーユニットを接続する。
(6)トランジスタ動作用電源を on して+12Vを加え、AMラジオの電源を入れ順次ボリュウムを大き
くしオシロのCH1で入力波形を確認したら、スピーカーユニットのボリュウムスイッチを on
し音が聞こえるところまで少しづつ大きくする。このときの入力と出力の波形と音声をよく比較
のこと。
*周波数特性を有する増幅器を介すると音声出力はどのようになるかをレポートにまとめること。
16
3-3.オペアンプによる増幅実験
3-3-1. 回路の説明
図13に示すようにオペアンプを用いた反転増幅回路を用いて増幅実験を行う。2章で説明したよ
うに、反転増幅回路においては、電圧増幅率 Gv は、入力抵抗 R1 とフィードバック抵抗 Rf により、
GV  
Rf
…
R1
(16)
と与えられる。
本実験では、フィードバック抵抗を 10kΩ、100kΩ、330kΩと3通り変えて増幅実験を行い、(16)
式の関係が成立することを確認する。入力信号は、交流と直流の両方の場合について実験を行う。
なお、実験は反転増幅回路についてのみ行い、非反転増幅回路については時間の都合上、割愛する。
Rf
Vin
If
R1
I1
+15V
Vout
-
オシロスコープ
+
-15V
図13.オペアンプを用いた反転増幅回路
17
3-3-2.反転増幅回路における電圧増幅率―入力信号が交流の場合
最初に、オペアンプ増幅回路に交流信号を入力し、入力信号電圧が増幅される様子を観察する。
3-3-2-1.配線
以下の手順にしたがってオペアンプ反転増幅回路を用いた交流増幅実験の配線を行う。配線前には、
全ての電源が off になっていることを確認すること。配線は全て赤色端子が+側、黒色端子が-側であ
る。どれが何の電源かわからない場合は、指導教員に尋ねるか、下記の図14を参照すること。
(1) 正弦波発振器(ファンクションジェネレーター)の output 出力端子を、ケーブルを用いて反転
増幅回路の入力端子 Vin に接続する。
(結線用ケーブルは、トランジスタ増幅回路の場合と同様、BNC端子と赤・黒のワニ口クリッ
プが両端についているものを使用する)
(2) オペアンプ動作用の直流電源を反転増幅回路につなぐ。トランジスタとは異なり、オペアンプ
の場合は、動作させるために+15V と-15V を同時に印加する必要がある。そのため、直流電
源2個と回路に2カ所ある VCC 端子とを接続する。
(3) オシロスコープの Ch1、Ch2 を、それぞれ回路の Vin、Vout にプローバを用いて接続する。
オシロスコープ
(Ch1 に入力を、Ch2 に出
力をつなぎ、同時にスク
リーンに表示して増幅
率・反転など波形を比較
する)
Ch1
正弦波発振器
(ファンクションジェネレータ)
(交流波を入力するのに使う
(output 端子につなぐ)
)
直流電源(2台)
(オペアンプの電源電圧 VCC 用(±
15V)2台の電源の+と-の端子
と、回路の電源 Vcc の+と-の端子
をつなぎ、電源に15Vかければ、
オペアンプの電源入力端子に+15
Vと-15Vがかかるようになって
いる)
Ch2
出力 Vout
電源 Vcc
+
-
+
-
+
入力 Vin
-
+
-
オペアンプ反転増幅回路
図14.オペアンプ反転増幅回路—交流増幅実験の配線
18
- +
-
+
3-3-2-2.測定
配線が正しいかどうかを、担当の先生に確認してもらう。
確認後、以下の手順に従って、信号増幅実験を開始する。
(1) 3-2-2-1の配線が完了した状態では、回路中にはまだフィードバック抵抗が入っていな
い。まず、10kΩの抵抗を回路の所定の位置に接続し、反転増幅回路を完成させる。このとき、
渡された抵抗の中から、カラーコードを読み取ることにより、必要な抵抗値をもつ抵抗を探し
出すこと。
(カラーコードの読み方については、事前に調べておくこと)
(2)オペアンプ動作用の2台の直流電源のスイッチを on にし、それぞれ 15V 印加する。
(この状態で、オペアンプの2つの電源端子に±15V が印加される)
(3)信号発生器で周波数 1kHz の正弦波信号を発生し増幅回路の入力端子に印加する。このとき、
信号発生器からの入力信号電圧 Vin は、反転増幅回路により反転増幅されたのち、出力信号電圧
Vout となって出力される。
(4) オシロスコープを見ながら、入力信号電圧 Vin のピークトウピーク値を 20~200mV の間の 10
点程度で変化させる。このときの Vin と出力信号電圧 Vout のピークトウピーク値をオシロスコー
プの画面から読み取る。また、Vin と Vout の値から、各入力電圧値について、電圧増幅率を算出
せよ。Vin と Vout の波形がともに正弦波で、互いに反転している(逆位相になっている)ことも
オシロスコープで確認せよ。
(5) 以上の結果を、以下のような表に結果をまとめ、レポートに記載せよ。測定が終了したら、い
ったん電源の電圧を0にもどし、スイッチを off にすること。
(6) 以上の実験をフィードバック抵抗が Rf2 = 100kΩ、Rf3 = 330kΩの場合についても同様
に行い、Gv の値を算出し、結果を表にまとめて、レポートに記載する。フィードバック抵抗を
交換するときは、必ず全ての電源のスイッチを off にして行うこと。全ての測定が終了したら、
電源の電圧を0にもどし、スイッチを off にすること。
(7) 表にまとめた結果をグラフ用紙(方眼紙)にプロットせよ。さらにグラフの傾きから増幅率 GV
を求めよ。
表3.
フィードバック抵抗の値
入力電圧[mV]
出力電圧[mV]
19
### kΩ
電圧増幅率|Gv|
3-3-3.反転増幅回路における電圧増幅率―入力信号が直流の場合
次にオペアンプ増幅回路に直流信号を入力し、入力信号電圧が増幅される様子を観察する。
3-3-3-1.配線
反転増幅回路の交流電圧増幅実験終了後、以下の手順にしたがってオペアンプ反転増幅回路を用いた
直流電圧増幅実験の配線を行う。配線前には、全ての電源が off になっていることを確認すること。
(1)交流電圧の増幅実験が終了後、正弦波発振器(ファンクションジェネレーター)と反転増幅回路
をはずす。
(2) フィードバック抵抗も、いったんはずしておく。
(3) オペアンプ動作用の直流電源と反転増幅回路の間につないだケーブルはそのままにしておく。
(4) オシロスコープの Ch1、Ch2 と回路の Vin、Vout をつなぐプローバの接続はそのままにしておく。
(5) 直流電圧電源の output 出力端子を、
ケーブルを用いて反転増幅回路の入力端子 Vin に接続する。
オシロスコープ
(Ch1 に入力を、Ch2 に出
力をつなぎ、同時にスク
リーンに表示して増幅
率・反転など波形を比較
する)
Ch1
直流電源(2台)
(オペアンプの電源電圧 VCC 用(±
15V)2台の電源の+と-の端子
と、回路の電源 Vcc の+と-の端子
をつなぎ、電源に15Vかければ、
オペアンプの電源入力端子に+15
Vと-15Vがかかるようになって
いる)
入力信号用直流電圧電源
Ch2
+
入力 Vin
出力 Vout
-
+
-
電源 Vcc
+
-
+
-
- +
-
オペアンプ反転増幅回路
図15.オペアンプ反転増幅回路—直流増幅実験の配線と使用入力信号
20
+
3-3-3-2.測定
配線が正しいかどうかを、担当の先生に確認してもらう。
確認後、以下の手順に従って、信号増幅実験を開始する。
(1) 交流信号の増幅実験の場合と同様、まず 10KΩのフイードバック抵抗を回路の所定位置に接続
する。
(2) オペアンプ動作用の2台の直流電源のスイッチを on にし、それぞれ 15V 印加する。
(この状態で、オペアンプの2つの電源端子に±15V が印加される。
)
(3) 入力信号用直流電源の出力を 0~2.0V の間で 10 点程度で変化させ、このときの入力信号電圧
Vin と出力信号電圧 Vout の値をオシロスコープを用いて読み取る。このときオシロスコープで直
流の入力信号や出力信号の電圧を読み取るときは、GND(0V)と DC モードを切替えながら常に
GND 位置を確認して行う。(AC モードでは直流成分は測定できないことに注意)
*測定に際し、入力を短絡して出力が 0V であることを確認。(offset adj.の VR により調整)
(4)Vin と Vout から、各入力電圧値について電圧増幅率を算出せよ。また、Vin と Vout の符号が反
転していることも確認のこと。
(5)以上の結果を、以下のような表に結果をまとめレポートに記載せよ。測定が終了したら、いった
ん電源の電圧を0に戻し、スイッチを off にすること。
(6) 以上の実験をフイードバック抵抗が Rf2=100KΩの場合についても同様に行い、Gv の値を算出
し結果を表にまとめてレポートに記載する。フイードバック抵抗を交換するときは、必ず全て
の電源のスイッチを off にして行うこと。全ての測定が終了したら、電源の電圧を0に戻しスイ
ッチを off にすること。
(7)表にまとめた結果をグラフ用紙(方眼紙)にプロットせよ。さらにグラフの傾きから増幅率 Gv
を求めよ。
表4.
フィードバック抵抗の値
入力電圧[V]
出力電圧[V]
21
###kΩ
電圧増幅率|Gv|
4. 事前課題
1)図 8 の回路において、抵抗 R1~R3 までの役割について説明しなさい。
2) 図 8 の回路において、コンデンサ C1~C3 までの役割について説明しなさい。
3) 図8の回路において、電源電圧=12V、無信号時コレクタ電流 IC=6mA、hFE=100 として、抵抗 R1~R3、
RL の抵抗値を算出する過程を示して、それぞれの値を求めなさい。
4) 図 8 の回路において、中域の増幅率を、h パラメータ(hfe および hie)を用いた実用等価回路を書き
求めなさい。また、その際図 9、図 10 に示したような交流等価回路および直流等価回路が得られる理由
について説明しなさい。
5) 図 8 の回路において、低域遮断周波数は何によって依存するかを説明しなさい。また、式的に低域遮
断周波数がどのように表されるかを求めなさい。
6) 図 8 の回路において、高域遮断周波数は何によって依存するのか説明しなさい。
7) 抵抗のカラーコードを調べてまとめなさい。
5.検討課題
1) 事前課題 4)で求めた増幅率の式より、今回使った回路の増幅率を計算し、実験値と理論値の比較を
しなさい。また、理論値と実験値のずれについて考察しなさい。ただし、h パラメータは、II-3-1 の実験
で求めた値を用いること。(電気系がはじめてのグループは、hfe=120、hie=500[]で計算しなさい)
2) 事前課題 5)で求めてきた低域遮断周波数の式および実験に用いた素子の値から、低域遮断周波数の
理論値を求め、実験結果と比較しなさい。また、理論値と実験値のずれについて考察しなさい。
3) オペアンプの実験において、増幅率の理論値を計算により求め実験値との比較を行いなさい。また、
理論値と実験値のずれがある場合はそのずれについて考察しなさい。
4) ラジオを使った増幅の実験で、ボリュームを変えたときに起きた現象をまとめ、その起きた理由に
ついて説明しなさい。
6.感想および実験の反省
本実験全体の感想、5 段階評価での理解度、実験方法等で改善すべき点などを A4 用紙半分~1 枚程度
にまとめなさい。
※注意:本実験でのレポートは、マイクロソフトワードなどのワードプロセッサにより作成し、また、
グラフなどはマイクロソフトエクセルなどにより作成すること。作成したグラフには、すべてのグラフ
に対して表題、横軸、縦軸を明記し、単位の書き忘れに注意が必要である。また、実験レポートは、2
週間以内に完成させることを原則とし、それ以降のレポートに関しては 60 点満点で採点するので注意
が必要である。なお、やもえない理由がある場合には、その旨を事前に連絡すること。レポートが受理
22
されていない場合は欠格となる。
また他人のレポートを写したと判断した場合、不正行為であるので欠格とする。また、他人に写させた
人も同罪で 0 点になるので、他人にコピーされないように注意が必要である。なお、参考書や HP を参
照した場合は、その出展を明記することは、当然行わなければならない。
参考図書
(1) 松波
弘之、吉本
昌広
(2)トランジスタ技術編集部
著、
編、
半導体デバイス
実用電子回路ハンドブック1
(3)P.E.グレイ、C.L.サール
半導体素子とモデル
共立出版社(株)
著
CQ出版社
MIT基礎電子工学教科書
II
産業図書(株)
付録
グラフの書き方
グラフには定められた書式があるので、正しく記入すること。
注意事項
・ 軸と目盛りは必ず書くこと。
・ 縦軸と横軸の数値が何の値で、単位が何かを明記する。
・ グラフの表題を入れる。図は下に表題を入れ、表は上に表題を入れることが基本であるのでそれを
守ること。
・ データのプロットは、●、○、×などで。特に複数のデータを1枚のグラフにプロットする場合は、
マークを変えて区別がつくようにする。
23