990514 Application Note No.103 S-8330一石 15/-9V 8ビット・プログラマブル電源 S‑8330シリーズ 携帯機器に多く使われるLCDパネルの電源は、通常 バッテリー電圧より高い正電圧を必要とするため、 昇圧回路が必要になります。 昇圧回路は、パネルのコントラスト調整を行なう ために昇圧した正電圧の値を外部で調整できること や、パワーオフによる残像を防止するために正電圧 を0Vに放電する機能が要求されます。 またSA方式(smart addressing)やMLA方式(multili ne addressing)などの駆動方式では、外部で調整さ れた正電圧の値に連動する負電圧電源も必要となり ます。 ここでは、LCDパネル電源の構築に適したICである S‑8330を用い、以上の機能を実現した電源回路を紹 介します。 ●S‑8330の基本動作 S‑8330は、出力電圧調整用電子ボリュームおよび スイッチングトランジスタを内蔵したPWM制御昇圧 型スイッチングレギュレータICです。 図1にS‑8330の基本動作回路を示します。内蔵スイ ッチングトランジスタ(Msw)をオンオフすることで、 インダクタ(L)にエネルギーを蓄え出力に放出し、 高い正電圧を発生させ、S‑8330のVOUT端子が電子ボ リュームで設定した電圧値になるように、内蔵スイ ッチングトランジスタのオン時間をコントロールし ます。スイッチングの周波数は固定で、50kHz(S‑83 30B)と180kHz(S‑8330A)の2種類があり、おおむね負 荷電流が1mA未満で50kHz,1mA以上で180kHzを選びま す。 出力正電圧値は、電子ボリュームにより8bitの分 解能で12Vの範囲を可変でき、最大出力電圧が20〜3 0Vから2Vステップで製品を選べます。 電子ボリュームは、図2に示しますように8bitのシ フトレジスタと8bitのラッチを備えており、VCLKの 立ち上がりエッジでVDINのデータをシフトレジスタ に記録させていき、VSTRBを一度Hiにすることでデ ータをラッチしVSTRBをLoに戻すことでデータを保 持します。またVCLK=VSTRB=Hiにてリセットされ最 小出力電圧に設定されます。 パワーオフ機能は、S‑8330のON/OFF端子をLoにす ることで行なえ、内蔵スイッチングトランジスタ(M sw)を常時オフおよび内部回路をオフし消費電流を ほとんどカットします。またS‑8330内蔵のNchトラ ンジスタ(Mdc)がオンしますので、外にてダイオー ド(D)と正電圧出力間の外付けトランジスタ(M1)を オフさせることで、出力コンデンサ(CL)の電荷をデ ィスチャージし正電圧出力を0Vにできます。この回 路例では、小信号用トランジスタ(M2)を用い、ON/O FF端子のLo信号に連動して、外付けトランジスタ(M 1)をオフさせます。ツェナーダイオードZDは、外付 けトランジスタ(M1)のゲート・ソース間に耐圧以上 の電圧が加わらないように電圧をクランプするため のものです。 ●15V/‑9V電源への応用 S‑8330の外付けにトランスを使用することで、SA, MLA方式で必要な正電圧、負電圧を得られます。 図3にフライバック構成にて正負電圧を出力する15 V/‑9V電源回路を示します。基本動作は、S‑8330内 蔵スイッチングトランジスタ(Msw)がオンにてトラ ンス(T1)の1次側に電流を流しエネルギーを蓄積し、 オフにてトランスの2側と3次側からエネルギーをそ れぞれの巻線比に比例して出力に放出し、正電圧や 負電圧を発生させます。 出力正電圧値はS‑8330のVOUT端子を正電圧出力+V OUTに接続することで安定化しており、出力負電圧 値はトランスの2次側と3次側の巻線比によって決ま り安定化します。トランスの2次側の巻線数をn2、3 次側の巻線数をn3とすると、出力負電圧値‑Voutは − Vout = − D M1 松下/MA720 CONT S−8330B30 VIN ZD 02CZ15 VOUT +VOUT 正電圧 NEC/ 2SJ356 VDIN VCLK VCLK Cin − VSTRB 電子 ボリ ューム + ‑ PWM 制御回路 VREF VIN 設定 CR発振回路 MSW RESET VSS Mdc 8‑bit シフトレジスタ VDIN + ・・・(1) で決まりますの で、出力負電圧値‑Voutは出力正電圧値+Voutと連 動することになります。 この電源回路は、トランス(T1)により特性が大き L 村田/LQH4N/100uH n3 × +V o u t n2 RA: RB: 500k Ω 1M Ω ON/OFF M2 + LCD パネル CL −ニチコン/ F93/ 100u RESET VSTRB READ 8‑bit HOLD ラッチ 電子 VOUT ボリューム 図1 S-8330 基本動作回路 Seiko Instruments Inc. 図2 電子ボリューム回路 1 S-8330一石 15/-9V 8ビット・プログラマブル電源 く変わりますので、選定のポイントを説明します。 まずトランスの1次側のインダクタンス値がS‑8330A 使用の場合は22〜100µH,S‑8330B使用の場合は47〜2 20µHになるようトランスの1次側の巻線数n1を決め ます。図3の例ではS‑8330Bを使用し1次側のインダ クタンス値を100µH程度に設定しました。 内蔵スイッチングトランジスタがオンしトランス の1次側に電流が流れる状態にて、トランスの2次側 および3次側には下式(2),(3)であらわされるV1,V2 電圧が発生します。 V1= n2 × + VIN n1 ・・・(2) V2 = n3 × + VIN n1 ・・・(3) より0Vにすることが可能になります。 この回路では、出力正電圧値と出力負電圧値の比 の精度はトランスに依存しますので、精度には限界 があります。一般に精度を要求される場合には、こ の回路の正電圧出力と負電圧出力の間に0Vを基準と した反転増幅器を追加して負電圧を作り出したり、 負電圧出力に負電圧3端子レギュレータを追加する などの対応が施されます。 図3回路は、15V/‑9V出力,負荷0.5mAでの高効率を ターゲットとした設定です。このときの効率特性を 図4に示します。 S-8330B トランス:スミダ CEE93 6375-002(ノンギャップ )使用 80% このV1,V2がダイオードD1,D2にかかりますので、 ダイオードの逆耐圧特性に注意して選定します。 内蔵スイッチングトランジスタがオフしトランス の2次側と3次側に電流が流れる状態では、トランス の1次側に電圧が発生し、S‑8330のCONT端子には下 式(4)であらわされるVCONT電圧がかかります。 VCONT = n1 × + Vout + VIN n2 VIN=2.8V VIN=3.8V VIN=5V 効率 η(%) 70% 60% 50% 40% 0.01 ・・・(4) 0.1 1. 出力電流 I OUT(mA) 図4 このVCONTがS‑8330のCONT端子の耐圧33Vをこえな いよう、トランスの1次側の巻線数n1とトランスの2 次側の巻線数n2の比を決める必要があります。 またトランスの特に2次側と3次側の巻線比ずれが 出力負電圧値ずれに大きく効いてきますので注意が 必要です。一般にトランスのコアにはギャップを設 けますが、ギャップが大きいと巻き方によるずれが 大きく影響してくるようなので、できればギャップ がないものをおすすめします。 パワーオフは、S‑8330のON/OFF端子をLoにするこ とで行なえます。パワーオフにてS‑8330内蔵のNch トランジスタ(Mdc)がオンし、正電圧出力を0Vにし ます。負電圧出力側は、外付けの小信号用トランジ スタM1,M2,M3および抵抗R1の回路を付加することに トランス スミダ/CEE93 VOUT VIN S−8330B24 VDIN + Cin − VCLK VSTRB VIN 電子 ボリ ューム + ‑ VREF 15V に設定 ON/OFF T1 M1 +VOUT 正電圧 D1 松下/MA720 CL1 + 2 次側 ニチコン/ 20 F93/10u − RESET PWM 制御回路 Mdc CR発振回路 Msw CONT 1 次側 10 VSS 10. R1 100k 3 次側 12 D2 松下/ MA720 M2 M3 LCD パネル CL2 + ニチコン/ F93/ − 10u 負電圧 ‑VOUT 図3 15V/-9V 電源回路 Seiko Instruments Inc. 2
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