職場を越境する社会人学習のための理論的基盤の

Japanese Journal of Administrative Science
Volume 21, No.2, 2008, 119-128.
経営行動科学第21巻第2号, 2008, 119−128.
Research Note
研究ノート
職場を越境する社会人学習のための理論的基盤の検討
―ワークプレイスラーニング研究の類型化と再考―
荒 木 淳 子
東京大学大学院情報学環
Consideration on Theoretical Basis for Research of Adult Learning
Crossing the Border of Workplace:
Classifying and Reviewing of Workplace Learning Studies
Junko ARAKI
(Interfaculty Initiative in Information Studies, The University of Tokyo)
The purpose of this study was to review previous studies about workplace learning to give
a theoretical basis for the future study. Because workplace learning is an interdisciplinary research topic, prevent and previous works in this field have investigated each issue on the discipline basis, e.g., economics, management studies, psychology, and sociology.
The author defines workplace learning by the way they view learning and where they draw
the boundaries of the workplace. They view learning as reflection through experiences or
participation in communities. Reviewing the related studies, the author found that classified
into four types: (1)“workplace experience approach,” (2)“workplace participation approach,”
(3)“cross-boundary participation approach,” and (4)“cross-boundary experience approach”.
Almost all previous works appeared to belong to the “workplace experience approach”, despite the fact that workplace learning in its own form and limitation of learning chances takes
place beyond the boundaries of the workplace. This must be taken into consideration in future studies, which will have to increasingly adopt the “cross-boundary experience approach”.
We will find new conceptions of adult learning through proceeding with studies of “crossboundary experience approach”.
Keywords: workplace learning, reflection, participation, cross-boundary,
communities of practice, networks
2002)などがある。Rothwell(2002)は,従来の研究が
問題
あまりに訓練者に着目しすぎていた点を批判し,これか
企業の人材育成に関する研究や実務では,仕事を通
らは「職場での有能な学習者(competent workplace
じて如何に効果的に人材を育成するかという課題への関
learners)」の時代であると述べる。職場での有能な学
心が高まっている(中原・荒木, 2006)
。仕事を通じた人
習者とは,
「自らの学習ニーズを自発的に把握し,その
材育成は,もともと OJT(on the job training)と呼ば
ニーズに合うリソースを探し,自らの学習経験を組織化
れ,実態に関する研究も多い。しかし最近は,例えばメ
し,結果を評価することができる個人」
(Rothwell, 2002,
ンタリング(Kram, 1988 )やコーチング(榎本,
xviii)である。彼らは,学び方を習得し,リアルタイム
1999)のように,仕事のための学習のより意識的・効果
で,仕事中に学ぶ学習者でもある。
また,WPL は,効果的な学習手法としても注目され
的な実施に関心が寄せられている。
仕事のための学習を,今後どのように意識的・効果
る。Enos, Kerhahnm & Bell(2003)は,調査より,マ
的に実施するかについて,示唆となるのが,職場での学
ネジャーのスキルの多くが,インフォーマルな WPL に
習に関する研究である。これらは,広くワークプレイス
よって獲得されることを明らかにした。また,中小企業
ラーニング(workplace learning:以下,WPL と略)
に対する調査では,WPL が,従業員の職務満足とも強
研究と呼ばれる。WPL は,最近は,新しい職場での学
く関わっていた(Rowden, 2002)
。
しかし,WPL に関する研究は,経済学,経営学,心
習を指す言葉としても用いられるようになっている。
WPL への関心の背景には,事業環境の変化や創造性
理学,コミュニケーション論,教育学,社会学,政治学,
への着目(蔣, 2003)
,新しい学習者像の登場(Rothwell,
人間学など多領域にまたがり(Rothwell & Sredl, 2000)
,
−119−
研究ノート
経営行動科学第21巻第2号
どのような学習活動を WPL と呼ぶかは研究領域や研究
もう一つは,WPL と業績との関係を強調する立場で
者ごとに異なっている。このため,領域や関心に応じた
ある(中原・荒木,2006; Rothwell & Sredl, 2000; 蔣,
研究が,それぞれ個別に発展しているのが現状である。
2003; Watkins, 1995)
。この立場では,フォーマルかイ
WPL に関する研究を整理し,今後研究すべき課題を明
ンフォーマルかを問わず,業績に結びつく学習を WPL
らかにすることが求められる。
であると定義する。例えば Rothwell & Sredl (2000)
ところが,先行研究を学際的な視点で整理し,レビ
は,
「個人や組織のパフォーマンスを改善する目的で実
ューした論文はほとんどない。WPL に関連する諸学問
施される学習その他の介入の統合的な方法」を,
領域の研究をレビューした論文に,中原・荒木(2006)
workplace learning & performance と呼ぶ。中原・荒木
がある。しかし,そこでは今後,ワークプレイスラーニ
(2006)もまた,Rothwell & Sredl(2000)の定義を踏
ング研究には教育工学のアプローチが有効であることを
まえ,企業研修や職場でのインフォーマルな学習を含む
示唆しているものの,WPL 研究で何を明らかにすべき
「企業の人材育成施策活動」を総称して,WPL と呼ん
でいる。
かまでは検討されていない。
更に,仕事のための学習は,企業においても物理的
実際に,WPL と業績との関係について研究を行った
職場の境界を越えつつある(小豆川, 2005)。社員が
のが,蔣(2003)である。蔣(2003)は,職場でメンバ
SNS やブログ等を用い,組織の壁を越えて情報交換し,
ーが,PDA を用いて毎日15分の学習を行うという実験
学びあう会社(ワークス研究所, 2007)や,社外の勉強
の結果を紹介している。学習の目的は,メンバーが顧客
会や社会人大学院などに参加して,仕事に関する知識を
サービスを革新するテーマを発見したり,顧客の変化を
積極的に学ぶ社会人の姿も見られる(荒木, 2007)
。
めぐる情報共有・ノウハウ伝承を行ったりすることであ
こうした状況を踏まえるならば,仕事のための学習
った。その結果,メンバー全員に情報が共有され,
「顧
を考える際,職場での学習を指す「ワークプレイスラー
客の変化について事実に基づき,考え探索し続けてい
ニング(WPL)
」という概念自体,今後は拡張していく
る」という状態が出現した。また,WPL は,スキル獲
必要があると考えられる。そこで本稿では,仕事のため
得や職務満足の向上にも有効である(Enos et al. 2003;
の学習に関する研究課題を明らかにするため,WPL に
Rowden, 2002)
。
関する先行研究をレビューする。そして今後は,社会人
インフォーマルな側面を強調する研究が,WPL の実
の仕事のための学習について,どのような研究アプロー
態を詳細に記述しようとするのに対し,業績との関係を
チが求められているのか,その研究の理論的基盤につい
強調する研究は,より効果的な介入の手法について探求
て検討する。
しようとするものである。仕事のための学習を効果的に
行うための実践的示唆を得ようとする点で,本稿は,後
(1) 定義
者の問題意識に近いものと見なすことができる。従って
ワークプレイスラーニング(WPL)とは,
「主に仕事
本稿では,WPL を,
「個人や組織のパフォーマンスを
での活動と文脈において生じる人間の変化と成長」
改善する目的で実施される学習その他の介入の統合的な
(Fenwick, 2001)と一般に定義される。先述したように,
方法」
(中原・荒木, 2006; Rothwell & Sredl, 2000)と定
WPL に関する研究は多様であるが,それらはおおよそ
義する。
WPL をこのように定義した場合,仕事のための学習
2つの立場に分けることができる。
一つは,企業研修等のフォーマルな学習に対し,職
を効果的に行うための実践的示唆として,先行研究では
場での教え合いといった,WPL の主にインフォーマル
何が明らかにされており,今後は何を明らかにすること
な側面を強調する立場である(Garrick, 1998)
。インフ
が必要なのか。次節では,WPL に関する先行研究を,
ォーマルで偶発的な学習が,成人学習の中心であると考
(1)研究が依拠する学習観,(2)研究が対象とする WPL の
えられていることもあり(Marsick & Watkins, 2001)
,
境界に基づいて整理する。
これまでの WPL 研究では,この方向に大きな関心が向
学習観に着目する理由は,仕事のための学習を効果
けられてきた(Ellinger, 2005; Skule, 2004)
。ここで言う
的に行おうとする場合,どのような学習観に立つかによ
インフォーマルで偶発的な学習とは,意図的ではあるが,
って,実施の方向性が異なるからである(長岡, 2006)
。
高度には構造化されていない学習を指す(Marsick &
また,WPL は,必ずしも物理的職場に留まらない。そ
Watkins, 2001)
。例えば,自律的な学習,ネットワーキ
こで,先行研究が,それぞれどの範囲までを WPL とし
ング,コーチング,メンタリング,学習ニーズの再検討
ているかについて見る。
を含む実施計画などがこれに当たるという。
以上,2軸に基づき,WPL の先行研究の類型化を行
−120−
職場を越境する社会人学習のための理論的基盤の検討
う。そして結論として,今後の WPL 研究では,職場を
て説明する。
越境する学習者の活動と経験を明らかにする必要がある
(2) 経験による内省学習観
ことを述べる。
経験による内省学習観に基づく WPL 研究には,Kolb
(1984)の他,Marsick & Watkins(2001),Rothwell
WPL 研究における2軸
(2002)がある。Marsick & Watkins(2001)は,イン
(1) 学習観
フォーマルで偶発的な学習を重視し,それらを,(1)きっ
WPL 研究には,それぞれの研究が依拠する学習観が
かけ,(2)経験の解釈,(3)代替する解決策の探索,(4)戦略
ある。長岡(2006)によれば,学習モデルには,(1)学習
の学習,(5)計画的解決策の算出,(6)意図的・非意図的な
転移モデル,(2)経験学習モデル,(3)批判的学習モデル,
結果の評価,(7)教訓,(8)ビジネスの文脈でのフレーミン
(4)正統的周辺参加モデルの4つがある。
グという8つのステップでモデル化している。
Rothwell(2002)もまた,インタビュー調査から,職
学習転移モデルとは,学校や研修といった教育プロ
グラム内で習得した知識やスキルを,職場に転移し,応
場での学習のプロセスを,(1)きっかけとなる環境の経験,
用するというモデルである。学習転移モデルに基づく
(2)学習の重要性の認識,(3)学習が引き起こされる問題や
WPL 研究には,例えば Cromwell & Kolb(2004)があ
環境について好奇心を持つ経験,(4)情報探索,(5)情報処
る。Cromwell & Kolb は,大学の管理職を対象に,ト
理,(6)情報を有益な形に統合し,短期記憶/長期記憶に
レーニングを受けた管理職がその後,トレーニングで得
内面化する,(7)将来に知識を応用する,(8)学んだことを
たスキルを実際にどのぐらい職場で用いているかに関す
振り返り,新しい環境に新たに獲得した知識を応用する,
る研究を行った。その結果,組織の支援,直属の上司の
(9)学習過程と学習過程の評価の振り返りを促すダブルル
支援,同僚の支援,同僚ネットワークのいずれもが,ト
ープのきっかけを経験する,といったステップに分けて
レーニングの内容を職場で活かすことに正の効果を与え
いる。どちらのモデルも,Kolb(1984)の4つのステー
ていた。しかし,WPL は,仕事と学習を統合する新し
ジ内に該当する内容がある。
経験からの内省学習観の基礎となるのが,Dewey
い概念である(Rothwell, 2002)
。このため,仕事と学習
を切り分ける学習転移モデルは,本稿では対象としない。 (1916; 1933)の「反省的思考」概念である。反省的思考
経験学習モデルとは,個人が自らの経験から独自の知
とは,自らの信念や知識に基づく仮説を,現実世界の中
見(マイセオリー)を紡ぎだすことを学習と捉えるモデ
で注意深く観察し検証していくことである。Dewey の
ルである。代表的な研究に,Kolb(1984)がある。
思想に影響され,専門家の専門性に関する研究をおこな
Kolb は,経験学習として(1)実践,(2)経験,(3)省察,(4)
ったのが Schön(1983)である。Schön は,医師や弁護
概念化,という4つのステージを提示し,個人は,この4
士,教師のような専門家を,
「反省的実践家(reflective
つのステージのサイクルを継続することで学習するとい
practitioner)
」と見なす。そして,反省的実践家の専門
う。また,批判的学習モデルとは,学習者自身が「ある
性の本質は,
「行為の中の省察(reflection in action)
」
べき姿」を描くプロセスを重視し,自分自身の状況を意
にあると指摘した。行為の中の省察とは,行為の過程で,
識的に省察することを通じて,現状に対する問題意識を
複雑で多様な状況との対話を通じて,自らの行為を振り
育むことを学習と捉えるモデルである。どちらのモデル
返ることである(Schön, 1983)
。しかしその過程は,言
も,個人の経験からの内省に着目する点は共通している。
語化することはできない。Schön(1983)では,言葉に
そこで,本稿では経験学習モデルと批判的学習モデルの
できないが,ある投資のリスクについて感じている銀行
ように,経験からの内省を学習と捉える学習観をまとめ
投資家や,症状から経験した症例をもとに仮説を立て,
て,
「経験による内省学習観」と呼ぶ。
検証していく中で2つ以上の疾病の併発を発見する眼科
一方,以上3つのモデルと全く異なる学習モデルが,
医が挙げられている。
内省による学習は,成人教育の分野でも重視されて
正統的周辺参加モデルである。正統的周辺参加モデルは,
学習を,個人の経験というより,ある社会的活動への参
いる(Cranton, 1996; Mezirow, 1991)
。Mezirow は,経
加と捉える。本稿では,正統的周辺参加モデルのような
験による内省を,(1)内容の振り返り,(2)プロセスの振り
学習観を,
「参加学習観」と呼ぶ。
返り,(3)前提の振り返りに分けている。そして,個人の
以上,WPL 研究が依拠する学習観には,(1) 経験に
よる内省学習観,(2) 参加学習観という,2つの学習観が
存在すると考えられる。以下,それぞれの学習観につい
知覚,考え,行動やその効果そのものに対する批判的振
り返りである「前提の振り返り」を重要視している
(Mezirow, 1991)
。
−121−
研究ノート
経営行動科学第21巻第2号
表1 学習メタファーの対比
経験による内省学習観が,個人が経験をどのように
獲得メタファー
参加メタファー
学習の目標
個人の知識の豊かさ
共同体の構築
学習
あることを獲得すること
参加すること
生徒
知識の受け手
周辺的参加者
徒弟
教師
知識の提供者、促進者、
媒介者
熟達した参加者(先輩)
知識、概念
資産、所有物、商品
共同体での実践、語り、
活動
知ること
所有しようとすること
共同体に帰属し、参加し、
コミュニケートすること
認識し,振り返り,学習するかという,個人の内面に着
目するのに対し,学習の起きる文脈や状況に着目する学
習観が,次に述べる参加学習観である。
(3) 参加学習観
社会的活動への参加を学習と捉える立場に,状況的学習
論がある。状況的学習論は,学習を,学習者と周囲の
人々や道具,コンテクスト,環境などとの相互作用の中
でおこなわれる社会的活動として捉える(上野,1999)
。
状況的学習論では,学習は学習者が一方的に知識を獲得
する活動ではない。
状況的学習論は,1970年代,認知科学において学習
出典:Sfard(1998)p. 7,美馬・山内(2005)p. 142より筆者作成
と実践との統合を目指す動きから生まれた理論である
経験による内省という学習観と,参加という学習観
(三宅・白水, 2003)
。Brown, Collins & Duguid(1989)
は,互いに排他的ではない。また,どちらが正しいとい
は,学習が実践の中で行われる過程を,
「認知的徒弟制」
(Cognitive Apprenticeship)としてモデル化した。認知
的徒弟制とは,熟練者が新参者に(1)仕事をやってみせ
(modeling),(2)実際に教え(coaching)
,(3)新参者が独
うこともない。経験による内省でも,ある活動に参加す
ることによって,こうした内省が促されると考えれば,
2つの学習観は両立し得るものでもある。
WPL の境界
り立ちできるよう助け(scafolding)
,(4)次第に手を引い
次に,WPL の境界について見よう。企業で働く人の
ていく(fading)という一連の学習過程である。
認知的徒弟制を社会的文脈に広げたのが,Lave &
WPL は,今や物理的職場の境界を越えつつある(小豆
Wenger(1991)である。Lave & Wenger は,ユカタ
川,2005)
。社員が SNS やブログ等を用い,組織の壁を
ン地方のマヤ族の産婆やリベリアのヴァイ族とゴラ族の
越えて情報交換し,学びあう会社の事例も次々に報告さ
仕立屋たちといった伝統的な徒弟制の観察から,職場で
れている(ワークス研究所,2007)
。更に,社内だけで
仕事を学ぶことは,職場の共同体に参加する過程である
なく,社外の勉強会や社会人大学院などにも参加して,
と考えた。そして,徒弟制のように人々が参加し,共に
積極的に学ぶ社会人も見られる(荒木,2007)
。
そこで,研究を WPL の境界によって,(1)職場志向,
活動に取り組み,学習が行なわれる場のことを,
「実践
(2)越境志向に分ける。職場志向とは,主に,職場での仕
共同体(Community of Practice)
」と呼んだ。
徒弟制の職場では,親方や同僚,新参者が一つの目
事経験や学習に着目する立場である。一方,越境志向と
標に向かって作業を分担し,共同で活動をおこなう。新
は,職場以外の学習活動にも幅広く目を向けて WPL を
参者は,初めはごく軽い役割を担うことで共同体に参加
論じる立場である。
(
「正統的周辺参加」Legitimate Peripheral Participation:
LPP)し,次第に共同体全体の活動を知り,その一員と
(1) WPL 研究の4類型
学習観と WPL の境界より,WPL 研究は次の4つの類
なっていく。Lave & Wenger(1991)は,このように
実践共同体概念を提示することで,社会のいたるところ
型に分けられる。
に存在する場が学びの共同体となり得ることを示した。
「Ⅰ 職場経験アプローチ」は,経験による内省とい
Sfard(1998)は,共同体への参加を学習と捉える学
う学習観に立ち,そのような学習を促す環境を,主に個
習観を「参加メタファー」
(participation metaphor)と
人が所属する職場に着目して分析する研究アプローチで
呼び,従来の知識獲得メタファー(acquisition meta-
ある。
「Ⅱ 職場参加アプローチ」は,参加による学習と
phor)と対比する(表1)。参加メタファーでは,学習
いう学習観に立ち,そのような学習を促す環境を,主に
とはある共同体に参加することであり,学び手とは共同
個人が所属する職場に着目して分析する研究アプローチ
体に参加し,共同体の熟達者とともに活動し,対話する
である。
「Ⅲ 越境参加アプローチ」は,参加による学習
ことを通じて学んでいく。知ることとは,知識を持つこ
という学習観に立ち,そのような学習を促す環境を,職
となのではなく,共同体に所属し,参加し,そこで他の
場やそれ以外の共同体への参加に着目して分析する研究
メンバーとコミュニケーションを行うことである。
アプローチである。
「Ⅳ 越境経験アプローチ」は,経験
による内省という学習観に立ち,そのような学習を促す
−122−
職場を越境する社会人学習のための理論的基盤の検討
日本で同様の研究を行ったのが,金井(社団法人関
環境を,職場やそれ以外の共同体への参加に着目して分
西経済連合会人材育成委員会, 2001)である。金井は,
析する研究アプローチである。
以下,各類型の WPL 研究について整理する(類型と
新規事業・新市場開発など,仕事をゼロから立ち上げた
経験がリーダーとしての成長につながる経験であるとし
研究事例については表2を参照)
。
て,これらを「一皮むける経験」と呼ぶ。しかし松尾
(2) 職場経験アプローチ
(2006)
,谷口(2006)は,個人の資質や仕事経験に着目
職場経験アプローチとは,経験による内省という学
習観に基づき,個人の熟達化を促すための経験を,職場
する研究が,経験学習が行われる文脈にはほとんど関心
が払われない点を批判している。
での仕事に着目して明らかにしようとする立場である。
職場での経験学習にとって人的支援関係が重要であ
職場経験アプローチの WPL 研究は多く,その多くは
ることに着目した WPL 研究が Kram(1988)
,Seibert
経営学におけるものである。
(1999)
,Ellinger(2005)である。
職場経験アプローチの研究は,(1)経験から学ぶ個人の
Seibert(1999)は,マネジャーの学習にとって重要
資質に着目するもの(楠見, 1999; Mitchell, Levin &
な日々の行為の中での省察は,周囲の人々からのフィー
Krumboltz, 1999; Rothwell, 2002)
,(2)リーダーや熟達者
ドバックを受けて自分自身について問うことで,促進さ
の仕事経験に着目するもの(社団法人関西経済連合会人
れることを明らかにしている。Ellinger(2005)もまた,
材育成委員会,2001; McCall, 1998)
,(3)経験から学ぶた
アメリカのある会社の従業員13名に対するインタビュー
めの組織的文脈に着目するもの(松尾, 2006; 谷口,
から,インフォーマルな学習を促進する組織のコンテク
2006),(4)職場での経験学習の支援に着目するもの
スト要因として,(1)学習志向のリーダーシップ及びマネ
(Ellinger, Ellinger & Keller, 2003; Ellinger, 2005; Kram,
ジメント,(2)学習にコミットする内部の文化,(3)仕事の
1988; Seibert, 1999)に分けられる。
ツールやリソース,(4)学習のための人的関係の網を挙げ
経験から学ぶ個人の資質について,楠見(1999)は,
ている。
社会人と大学生に対する調査を行った。その結果,社会
職場での人的関係による支援として最近特に注目さ
人の経験からの学習を支える態度として「挑戦性(責任
れるのが,メンタリングやコーチングである(榎本,
や難易度の高い仕事,変化の大きい職場を好む)
」
,
「柔
1999; Kram, 1988)
。
軟性(新しい考え方や視点の切り替え,相手に応じた対
処をしようとする)
」が重要なことが明らかとなった。
Kram(1988)は,組織の中で個人のキャリアを発達
させる関係に注目し,上司や先輩(メンター)と部下や
Mitchell et al. ( 1999 ) は ,「 計 画 さ れ た 偶 然 性
経験の浅い若手(プロテジェ)との間に,基本的に非公
(planned happenstance)
」理論の中で,個人が遭遇する
式に結ばれる支援的な関係を,メンター関係と呼ぶ。メ
偶然を活かしながらキャリア発達を遂げていくためのス
ンターによる支援手法が,メンタリングである。メンタ
キルとして,(1)好奇心:新しい学習機会を探索すること,
リングには,メンターが,プロテジェの仕事遂行過程を
(2)粘り強さ:失敗に挫けず努力すること,(3)柔軟性:態
支援するキャリア的機能と,相談に乗ったり,自らが役
度と環境を変えること,(4)楽観性:新しい機会を可能で
割モデルになったりする社会・心理的機能とがある(久
到達できるものだとみなすこと,(5)リスク・テイキン
村,1997; Kram, 1988; 宗方・渡辺,2002)
。コーチング
グ:不確実な結果に直面しても行動をとることを挙げて
もまた,双方向のコミュニケーションから相手の気づき
いる。
を促す手法として理解されることが多い(榎本, 1999)
。
Rothwell(2002)もまた,インタビュー調査より,ワ
メンタリングやコーチングは,日本企業でも広く注目さ
ークプレイスでの学習者の役割として,(1)環境に対する
れ(奥林・平野, 2004)
,職場での学習に効果的であるこ
認識者としての役割,(2)情報収集者としての役割,(3)分
とが指摘されている(Ellinger, Ellinger & Keller, 2003)
。
析者,(4)評価者の4つを挙げ,それぞれに対応する43の
コンピタンシーを示している。
人的支援関係だけでなく,組織の戦略や構造にまで
踏み込んで分析しているのが,谷口(2006)
,Rothwell
資質に着目する研究に対し,経験の質や内容に着目
(2002)である。谷口(2006)は,職場で経験が積み重
したのが,McCall(2002)である。McCall は,実際の
ねられ学習するプロセスを,その経験が置かれた状況に
企業経営者に対するインタビューから,リーダーに必要
着目して分析する「コンテクスト・アプローチ」を提唱
なスキルの形成を促す「経験」が,変化を生み出す仕事
し,個人が仕事経験から教訓を引き出し,学習する過程
や高レベルの責任を負う仕事,タスクフォースなど,本
を,
(1)部門レベルの戦略・構造といった「グローバル
来の職務・役割には規定されていない非公式な活動であ
コンテクスト」
,
(2)組織による個人への地位や役割の
ることを明らかにした。
−123−
研究ノート
経営行動科学第21巻第2号
「アサインメントコンテクスト」
,
(3)個人がそのアサイ
か説明することができなかったのである。Wenger は,
ンメントをどのように認識するか,そのトリガーとなる
苦情処理係が計算手続きの意味を理解できないのは,彼
イベント等の「イベントコンテクスト」の3つのコンテ
らが学習できていなかったことによるものではなく,会
クストから分析している。Rothwell(2002)もまた,
社の中で彼らに与えられた位置づけによるものであり,
様々な産業や階層の企業人60人へのインタビュー調査か
彼らが会社のネットワークや諸活動へのアクセスを制約
ら,WPL を促進する/減退させる組織の状態として,
組織の支援状態や個人への権限委譲,WPL と事業や報
されていたためであるという。Wenger(1998)は,
「理解する」ということが単なる知識の問題ではなく,
参加のあり方の違いであることを指摘した。
酬との結びつきを指摘している。
組織の文脈だけでなく,個人の仕事の信念に着目し
Billet(2001)もまた,社会文化的視点から,職場活
たのが松尾(2006)である。松尾は,
「仕事はどうある
動への参加の違いについて論じている。Billet は,個人
べきか」について個人が持つ理論,当人にとっての「仕
の職場での活動への参加のあり方は,職場での機会の与
事の成功をもたらす原理・原則」を,
「仕事の信念」と
えられ方と,個人の認識との相互作用によるものである
定義する。そして,自動車や不動産の営業担当者,IT
という。しかし,職場での学習機会へのアクセスは,例
コンサルタント等への質問紙調査とインタビュー調査か
えば,雇用形態やジェンダーに基づいた情報偏在性によ
ら,経験からの学習と組織特性,個人の信念との関係に
って異なる。Billet は,WPL の支援として,職業知識
ついて分析している。その結果,自己実現や学習を重視
を発達させるために必要な職場での活動に,個人が十分
する目標達成志向の信念,顧客満足や信頼を高めること
参加できるようすることが必要であることを指摘してい
を重視する顧客志向の信念や,顧客志向と内部競争が共
る。
存しているといった組織特性が,経験から学ぶプロセス
職場への参加をどのように支援するかという視点か
に重要であった。組織学習の視点から,同様の指摘を行
ら,職場での学習を妨げる組織要因について分析した研
った研究に,安藤(2001)がある。
究が,Lohman(2005)である。Lohman(2005)は,
以上,職場経験アプローチに基づく WPL 研究は多く,
主にインフォーマルな WPL に着目し,318人の公立学
そのほとんどは,主に経営学の分野における研究である。
校の教師と企業の人材開発者に対して,職場でのインフ
しかし職場経験アプローチでは,職場を超える学習につ
ォーマルな学習に関する調査を行った。調査の結果は,
いてはほとんど取り扱われてきていない。
どちらのグループにおいても,時間不足と同僚との仕事
範囲における接点のないことが,インフォーマルな学習
(3) 職場参加アプローチ
を妨げていた。更に企業の人材開発者においては,イン
職場参加アプローチは,参加による学習という学習
フォーマルな学習に対して支援的でない組織文化や,他
観に立ち,個人が職場に参加していく過程を明らかにし,
人がインフォーマルな学習活動に参加するのを快く思わ
参加の過程を支援しようとする考え方である。
ないこと,ある知識の専門家になかなかたどり着けない
状況的学習論の立場から,冷凍冷蔵庫の仕事や旋盤
工場での仕事といった技能系職場や,古典芸能のような
ことなどが,インフォーマルな学習を妨げる要因となっ
ていた。
伝統的徒弟制の職場について分析した研究に,上野
しかし,1つの実践共同体を前提とする職場参加アプ
(1999)
,福島(1995; 2001)
,ホワイトカラーの職場を対
ローチには,個人が組織に同化する過程に過ぎないとい
象に,職場への参加について分析した研究には,
う批判や,人は1つの実践共同体にだけ参加しているの
Wenger(1998)
,Billet(2001)
,Lohman(2005)があ
ではないという批判もある(加藤・有元, 2001)
。これに
る。
対し,複数の実践共同体への参加を前提とするのが,次
Wenger(1998)は,Alinsu(仮称)という保険会社
の越境参加アプローチである。
の苦情処理係の職場を分析している。苦情処理係には,
保険料支払いのための計算式を記入したワークシートが
(4) 越境参加アプローチ
配られ,彼らはこの書式に従って金額を算出していた。
越境参加アプローチは,参加による学習という学習
しかし,苦情処理係には保険会社間のコーディネーショ
観に立ち,職場だけでなく,職場を越境した学習活動全
ンの仕方は説明されていなかったため,複数の保険会社
体に幅広く目を向けていこうとする立場である。
と契約している顧客に対して支払う金額と,算出する数
徒弟制をモデルとした実践共同体は,その後拡張さ
式との関係は理解されていなかった。保険料の金額につ
れ,活動の共有化やメンバーの結びつきが緩やかな概念
いて苦情を言ってくる顧客がいても,なぜその金額なの
へと変わっていく(Wenger, 1998; Wenger, McDermott
−124−
職場を越境する社会人学習のための理論的基盤の検討
& Snyder, 2002)
。例えば Wenger et al.(2002)では,
つある。Knight & Pye(2005)は,これをネットワー
社内の部門横断的な問題解決チームや勉強会なども,実
クラーニング(network learning)と呼ぶ。
践共同体の例として挙げられている。実践共同体概念の
しかし,参加学習アプローチでは,学習が行われる
こうした変化には批判もある一方で,どちらの定義も有
状況は分析できても,それらの知見から,仕事を通じて
用との見方もある(Hodkinson & Hodkinson , 2004)
。
個人が効果的に学ぶためにどのような学習環境を整えれ
実際,日本企業の知識労働者は,社内外の勉強会といっ
ばよいかという示唆を得ることは難しい(上野・ソーヤ
た緩やかな実践共同体に参加し,そこでの活動からキャ
ー,2006)
。なぜなら,参加学習アプローチでは,参加
リア発達が促されている(荒木, 2007)
。現代の WPL 研
メンバーがそこでどのような経験をし,何を学んでいる
究では,実践共同体概念を拡張して用いることが必要で
かには,あまり注意が払われないからである。最近は,
あろう。
実践共同体における個人の経験や学びに着目する研究も
Wenger(1998)はまた,単一ではなく複数の実践共
同体への参加を前提とした学習のあり方を提示している。
行なわれているものの(Blåka & Filstad, 2007)
,ごくわ
ずかである。
個人は職場の実践共同体以外にも,異なる実践共同体,
あるいは大学や家庭や地域といった様々な共同体に属し
(5) 越境経験アプローチ
ており(多重成員性 multimembership)
,学習とは,多
越境経験アプローチとは,経験による内省という学
重成員性を調停(reconciliation)しながら一つのアイデ
習観に立ち,職場を越境した学習活動全体にも目を向け
ンティティへと結節(nexus)させていく過程である
て個人の熟達を促す経験に着目する立場である。
越境経験アプローチの研究として,キャリア発達研
(Wenger, 1998)
。
複数の実践共同体への参加は,Engeström (1987)
,
究が挙げられる。キャリア発達研究では,職場における
Engeström, Engeström & Karkkainen(1995)
,佐伯・
経験だけでなく,年齢や個人のライフイベント(結婚や
中西・若狭(1996)などによっても注目されている。
出産といった)とキャリア発達との関係が論じられる
Engeström et al.(1995)
,Tuomi - Gröhn&Engeström
(Levinson, 1978; Super, 1991)
。しかし,本稿が対象と
(2003)は,健康福祉センター,小学校,船室メーカー
しているのは,仕事のための学習である。キャリア発達
では,多様な専門家と一般住人,教師同士,監督と職工
研究が分析対象とするライフイベント等の経験は,それ
とが境界を越えて学習することから,共同体を越えた多
に特化するものではない。
越境経験アプローチとして,個人の仕事に関わる経
様で水平的な活動の文脈において,専門性が発達すると
験について,職場を越えた場も視野に入れて実証的に明
いう見方を提示している。
複数の実践共同体間での知識習得について研究して
いるのが,Gherardi & Nicolini(2002)
,Tagliaventi &
Mattarelli(2006)である。
らかにしようとする研究は,極めて限られている。職場
を越えた仕事に関する経験を分析した研究に,Viskovic
(2005),酒井・八重樫・久松他(2006)などがある。
Gherardi ら(2002)は,建築現場では,現場監督,
Viskovic(2005)は,教師の教授スキルやアイデンティ
エンジニア,主契約者の三者で安全に関する解釈に違い
ティが,制度的な学習よりも,様々な実践共同体(部門
がみられることから,仕事には複数の不連続な実践共同
やチーム,キャンパスや作業グループ等)での経験を通
体が存在し,人々は,それぞれの実践共同体の知識を統
じた,インフォーマルな学習によって行なわれているこ
合し,解釈することを通じて学んでいるという。
とを指摘している。
Gherardi らは,このように複数の実践共同体が連なる
酒井ら(2006)は,メディア・リテラシーに取り組
状況を,「実践共同体の星座」(constellation of com-
む教師達の学習を支援するオンライン学習プログラムを
munities of practice)と呼ぶ。
開発し評価した。そこでは,教師達は職場を越境し,外
Tagliaventi & Mattarelli(2006)もまた,北イタリア
部の専門家(メディア業界に勤務する人々,メディア・
の病院において,4つの専門職グループ間での知識のフ
リテラシー研究者,メディア・リテラシーに先進的に取
ローをネットワーク分析の手法で分析した。そして,知
り組んできたベテラン実践者)との相互作用の中で,メ
識 の 共 有 に は , 操 作 的 な 近 接 性 ( operational
ディアの送り手の実際的な状況や,メディア・リテラシ
proximity)と組織についての共通の価値観(患者中心
ーの理論的背景といった知識を獲得し,内省を行なって
主義など)が重要であることを指摘している。このよう
いた。
に越境参加アプローチでは,仕事に関する複数の実践共
しかし,企業における越境経験アプローチに基づく
同体間のネットワークに着目した WPL 研究が行われつ
研究は,企業事例の報告などはあるが(ワークス研究所,
−125−
研究ノート
経営行動科学第21巻第2号
表2. WPL 研究の4類型と代表的な研究事例
職場志向
経験による
内省学習観
参加学習観
越境志向
Ⅰ 職場経験アプローチ
Ⅳ 越境経験アプローチ
経験による内省という学習観に立ち、そのような学習を
促す環境を、主に個人が所属する職場に着目して分析
する研究アプローチ。
(1)経験から学ぶ個人の資質に着目した研究(楠見、
1999; Mitchell, Levin & Krumboltz, 1999;
Rothwell, 2002)、(2)リーダーや熟達者の仕事経験に
着目した研究(社団法人関西経済連合会人材育成委員
会、2001; McCall, 1998=2002)、(3)経験から学ぶため
の組織的文脈に着目した研究(松尾、2006; 谷口、
2006)、(4)職場での経験学習の支援に着目した研究
(Ellinger, Ellinger & Keller, 2003; Ellinger, 2005;
Kram, 1988=2003; Seibert, 1999)などがある。
経験による内省という学習観に立ち、そのような学習を
促す環境を、職場やそれ以外の共同体への参加に着目
して分析する研究アプローチ。
実証的研究として、Viskovic(2005)、酒井・八重
樫・久松他(2006)など がある。
Ⅱ 職場参加アプローチ
Ⅲ 越境参加アプローチ
参加による学習という学習観に立ち、そのような学習を
促す環境を、職場やそれ以外の共同体への参加に着目
して分析する研究アプローチ。
状況的学習論の立場から、冷凍冷蔵庫の仕事や旋盤
工場での仕事といった技能系職場や、古典芸能のような
伝統的徒弟制の職場について分析した研究(上野、
1999; 福島、1995、2001)、ホワイトカラーの職場を対象
に、職場への参加について分析した研究( Billet, 2001;
Lohman, 2005 ; Wenger, 1998)などがある。
参加による学習という学習観に立ち、そのような学習を
促す環境を、職場やそれ以外の共同体への参加に着目
して分析する研究アプローチ。
複数の実践共同体への参加に着目した実証的研究と
して、Engeström (1987)、Engeström, Engeström
& Karkkainen(1995)、Gherardi&Nicolini
(2002)、 Tagliaventi & Mattarelli(2006)、
Tuomi-Gröhn&Engeström(2003)、 Wenger
(1998)、Wenger, McDermott & Snyder(2002)、
などがある。 2007)
,実証的な研究は管見の限りない。
引用文献
提言:WPL 研究の新たなアプローチに向けて
安藤史江 2001 組織学習と組織内地図 白桃書房.
以上,本稿では,WPL 研究について,それぞれの研
荒木淳子2007 企業で働く個人の「キャリアの確立」を
究が依拠する学習観と,学習環境の境界とを軸とする4
促す学習環境に関する研究―実践共同体への参加に
つの類型に整理した。それぞれの類型と代表的な研究に
着目して―.日本教育工学会論文誌, 31(1), 15−27.
Billet, S. 2001 Co-Participation: Affordance and engage-
ついて,表2にまとめた。
験に関する研究は,いずれも職場経験アプローチに分類
ment at work. New Directions for Adult and Continuing Education, 92, 63-71.
される。しかし,職場を越境した学習や経験を含めて分
Blåka, G. & Filstad, C. 2007 How does a newcomer con-
最近注目されるメンタリング,コーチングや仕事経
析する研究は,ほとんどないと評価せざるを得ない。
struct identity? A socio-cultural approach to
workplace learning. International Journal of Life-
一方,職場や職場を越境する学習の場について研究
long Education, 26, 59-73.
が蓄積されてきたのが,参加アプローチの研究である。
しかしこうした研究の多くは,職場や職場を越境する実
Brown, J. S., Collins, A. & Duguid, P. 1989 Situated cog-
践共同体への参加の実態を明らかにしようとするもので
企業で働く個人の学習の場は,今や物理的な職場の
nition and the culture of learning. Educational Researcher, 18, 32-42.
Cranton, P. A. 1996 Professional development as transformative learning: New perspectives for teachers
of adults. NJ: Jossey-Bass Inc. (入江直子・三輪建二
枠を超えつつある。今後,仕事のための学習を如何に効
監訳 おとなの学びを創る 専門職の省察的実践を
あり,仕事のための学習を効果的に行うためには,どの
ような介入が望まれるかといった視点での研究は非常に
少ない。
果的に行うかを考えるためには,職場を越える様々な学
めざして 鳳書房 2004).
習空間において,個人がどのような活動や経験をし,そ
Cromwell, S. E. & Kolb, J. A. 2004 An examination of
れらがどのように個人の成長につながっているのかも含
work-environment support factors affecting trans-
めて研究を行なう必要があるだろう。社会人の学習に関
fer of supervisory skills training to the workplace.
する新しい知見は,こうした研究の蓄積の中から得られ
Human Resource Development Quarterly, 15, 449-
るはずである。そのためには今後,
「越境経験アプロー
471.
チ」による実証的研究の進展が望まれる。
Dewey, J. 1916 Democracy and education. New York:
−126−
職場を越境する社会人学習のための理論的基盤の検討
Journal of Training and Development, 8, 21-31.
The Macmillan Company (河村望訳 民主主義と教
育 人間の科学社2000).
加藤浩・有元典文(編著) 2001 状況論的アプローチ2 認
Dewey, J. 1933 How We Think. New York: D. C. Heath
and Company (植田清次訳 思考の方法 春秋社
知的道具のデザイン 金子書房.
Knight, L. & Pye, A. 2005 Network learning: An empirically derived model of learning by groups of or-
1955).
ganizations. Human Relations, 58, 369-392.
Ellinger, A.D., Ellinger, A. E. & Keller, S. B. 2003 Supervisory coaching behavior, employee satisfaction,
Kolb, D.A. 1984 Experiential learning. NJ: Prentice-Hall.
and warehouse employee performance: A dyadic
Kram, K.E. 1988 Mentoring at work: Development rela-
perspective in the distribution industry. Human
tionships in organizational life. San Diego: Universi-
Resource Development Quarterly, 14, 435-458.
ty Press of America (渡辺直登・伊藤知子訳 メン
Ellinger, A. D. 2005 Contextual factors influencing in-
タリング―会社の中の発達支援関係― 白桃書房
2003).
formal learning in a workplace setting: The case of
“reinventing itself company.” Human Resource
Development Quarterly, 16, 389-415.
Engeström, Y. 1987 Learning by Expanding : An activity-theoretical approach to developmental research.
楠見孝 1999 中間管理職のスキル, 知識とその学習. 日
本労働研究雑誌474, 39-49.
Lave, J. & Wenger, E. 1991 Situated learning legitimate
peripheral participation . Cambridge, UK: Cam-
Helsinki: Orienta-Konsultit Oy (山住勝広・松下佳
bridge University Press (佐伯胖訳 状況に埋め込
代・百合草禎二・保坂裕子・庄井良信・手取義宏・
まれた学習―正統的周辺参加― 産業図書 1993).
Levinson, D. J. 1978 The Seasons of a man's life. New
高橋登訳 拡張による学習 新曜社 1999).
Engeström, Y., Engeström, R. & Karkkainen, M. 1995
York: Ballantine Books (南博訳 ライフサイクルの
Polycontextuality and boundary crossing in expert
心理学 (上) (下) 講談社 1992).
cognition: Learning and problem solving in com-
Lohman, M. C. 2005 A Survey of factors influencing the
plex work activities. Learning and Instruction, 5,
engagement of two professional groups in informal
319-336.
workplace learning activities. Human Resource
Development Quarterly, 16(4), 501-527.
榎本英剛 1999 部下を伸ばすコーチング PHP 研究
所.
Marsick, V. J. & Watkins, K. E. 2001 Informal and incidental learning. New Directions for Adult and Con-
Enos, M.D., Kerhahnm M.T. & Bell, A. 2003 Informal
tinuing Education, 89, 25-33.
learning and the transfer of learning: How managers develop proficiency. Human Resource Development Quarterly, 14, 369-387.
松尾睦 2006 経験からの学習―プロフェッショナルへ
Fenwick, T. 2001 Tides of Change: New themes and
McCall, M. W., Jr. 1998 High flyers.Boston: Harvard
questions in workplace learning. New Directions
Business School Press (金井壽宏監訳 ハイ・フラ
for Adult and Continuing Education, 92, 3-17.
イヤー―次世代リーダーの育成法― プレジデント
の成長プロセス― 同文舘出版.
社 2002).
福島真人(編) 1995 身体の構築学 ひつじ書房.
福島真人 2001 暗黙知の解剖 認知と社会のインターフ
Mezirow, J. 1991 Transformative dimensions of adult
learning. New York: Jossey-Bass.
ェイス 金子書房.
Garrick, J. 1998 Informal learning in the workplace.
美馬のゆり・山内祐平 2005 「未来の学び」をデザイン
する―空間・活動・共同体― 東京大学出版会.
London: Routledge.
Gherardi, S. & Nicolini, D. 2002 Learning in a constella-
Mitchell, L & Krumboltz, J.D. 1999 Planned happens-
tion of interconnected practices: Canon or disson-
tance: Constructing unexpected career opportuni-
ance? Journal of Management Studies. 39, 419-436.
ties. Journal of Counseling and Development, 77,
久村恵子1997メンタリングの概念と効果に関する考察―
文献レビューを通じて―. 経営行動科学11(2), 81-100.
115-124.
三宅なほみ・白水始 2003 学習科学とテクノロジ 放
Hodkinson, H. & Hodkinson, P. 2004 Rethinking the
concept of community of practice in relation to
送大学教育振興会.
宗方比佐子・渡辺直登 (編著) 2002 キャリア発達の心
schoolteachers' workplace learning. International
−127−
理学―仕事・組織・生涯発達―川島書店.
研究ノート
経営行動科学第21巻第2号
ネルヴァ書房.
長岡健 2006 学習モデル―学び方で効果は変わるか―.
中原淳編著 荒木淳子・北村士朗・長岡健・橋本諭
著 企業内人材育成入門 (第2章:pp.63-100)
Skule, S. 2004 Learning conditions at work: a framework to understand and asess informal learning in
ダ
the workplace. International Journal of Training
イヤモンド社.
and Development, 8, 8-20.
中原淳・荒木淳子 2006 ワークプレイスラーニング研
究序説:企業人材育成を対象とした教育工学研究の
Super, D. E. 1991 A life-span, life-space approach.
ための理論レビュー. 教育システム情報学会誌,
Brown, D. & Brooks, L. (eds) Career Choice & Development. New York: Jossey-Bass.
23(2), 88-103.
奥林康司・平野光俊 (編著) 2004 キャリア開発と人事
Tagliaventi, M. R. & Mattarelli, E. 2006 The role of
戦略 中央経済社.
networks of practice, value sharing, and operational
Rothwell, W. J. 2002 The Workplace learner. New
proximity in knowledge flows between professional
groups. Human Relations, 59, 291-319.
York: AMACOM Books.
Rothwell, W. J. & Sredl, H. J. 2000 Workplace learning
谷口智彦 2006 マネジャーのキャリアと学習―コンテ
and performance:Present and future roles and
competencies, Vol.1(3rd.Ed.). Amherst MA: HRD
クスト・アプローチによる仕事経験分析― 白桃書
房.
Tuomi-Gröhn, T. & Engeström, Y. 2003 Between school
Press.
and work. Amsterdam: Elsevier Science.
Rowden, R. W. 2002 The relationship between
workplace learning and job satisfaction in U.S.
上野直樹 1999 仕事の中での学習―状況論的アプローチ
small to midsize businesses. Human Resource Development Quarterly, 13, 407-425.
上野直樹・ソーヤーりえこ (編著) 2006 文化と状況的
― 東京大学出版会.
学習―実践, 言語, 人工物へのアクセスのデザイン
佐伯胖 1995 「学ぶ」ということの意味 岩波書店.
― 凡人社.
佐伯胖・中西新太郎・若狭蔵之助 (編) 1996 フレネの
上野直樹・土橋臣吾(編) 2006 科学技術実践のフィール
教室―1学びの共同体― 青木書店.
ドワーク せりか書房.
酒井俊典・八重樫文・久松慎一・山内祐平 2006 教師の
メディア・リテラシー学習を支援するオンライン学
Viskovic, A. R. 2005 ‘Community of practice’ as a
習プログラムの開発. 日本教育工学会論文誌, 30(2),
framework for supporting tertiary teachers' infor-
113-123.
mal workplace learning. Journal of Vocational Edu-
cation and Training, 57(3), 389-410.
Schön, D. A. 1983 The reflective practitioner: How pro-
fessional think in action. New York: Basic Books
Watkins, K. E. 1995 Workplace learning: Changing
(佐藤学・秋田喜代美(訳) 専門家の知恵―反省的実
times, changing practice. New Directions for Adult
and Continuing Education, 68, 3-15.
Wenger, E.1998 Communities of practice learning,
meaning, and identity. Cambridge, UK: Cambridge
践家は行為しながら考える― ゆみる出版 2001).
Seibert, K. W. 1999 Reflection-in-action: Tools for cultivating on-the-job learning conditions. Organization-
al Dynamics, Winter, 54-65.
University Press.
Sfard, A 1998 On two metaphors for learning and the
Wenger, E., McDermott, R. & Snyder, W. M. 2002 Cul-
Educational Re-
tivating communities of practice. Boston: Harvard
dangers of choosing just one.
search, March, 4-13.
Business School Press (野村恭彦監修 コミュニテ
ィ・オブ・プラクティス ナレッジ社会の新たな知
社団法人関西経済連合会人材育成委員会2001 一皮むけ
識形態の実践 翔泳社 2002).
た経験と教訓 豊かなキャリア形成へのメッセージ
―経営幹部へのインタビュー調査を踏まえて―. 社
ワークス研究所 2007 イデオロギーとしてのワークプ
レイス Works, 84, 2-39.
団法人関西経済連合会.
蒋麗華 2003 ワークプレイスラーニング:創造的 OJT.
Works, 56, 2-3.
(平成19年10月26日受稿,平成20年5月14日受理)
小豆川裕子 2005 インターネットと職場におけるコミ
ュニケーションの変容 橋元良明・吉井博明 (責任
編集)
ネットワーク社会 (第10章:pp.240-265) ミ
−128−