シャープは、1960 年代に電卓で液晶の 液晶を自社の

産業学会全国大会 自由論題 報告要旨
横浜市立大学 赤羽 淳
報告テーマ:「シャープはなぜ経営危機に陥ったか?」
シャープは、1960 年代に電卓で液晶の事業化にいち早く成功した。その後もシャープは、
その後も
液晶を自社の中核事業に位置づけ、経営資源を集中
液晶を自社の中核事業に位置づけ、経営資源を集中していく。
2000 年代に入ってからは、
他の日本企業が大型パネルの生産から撤退していく中でも
大型パネルの生産から撤退していく中でも設備投資を拡大し、
設備投資を拡大し、 AQUOS、
亀山モデルといったブランドも
といったブランドも積極的に訴求していった。その結果、シャープは、
シャープは、世間で
は液晶事業の勝ち組企業として認識されるようになった
組企業として認識されるようになった。しかし、2010 年代に入ると,に
年代に入ると,
わかに業績の悪化が顕著になり、会社存続の危機に陥る事態が発生する こうした 2000 年
わかに業績の悪化が顕著になり、会社存続の危機に陥る事態が発生する。こうした
代の繁栄から 2010 年代初頭の急速な経営危機の過程は、どのように理解すればよいのだろ
うか。本報告では、以下の図表
以下の図表 1 で示す「競争優位の形成過程」の枠組みを用いて、シャ
の形成過程」の枠組みを用いて、シャ
ープの液晶事業が競争力を失っていった
ープの液晶事業が競争力を失っていった背景の解析を試みる。
図表 1:競争優位の形成過程
結論を簡潔に述べると、シャープの液晶事業戦略に見出される特徴は、
シャープの液晶事業戦略に見出される特徴は、1)デバイスを中
心とした製品差別化、2)製造技術のブラックボックス化、3)日本におけるものづくりへ
のこだわり、などであった。これらは、いずれも技術力を経営戦略の要諦と位置づけ、デ
のこだわり、などであった。これらは、いずれも技術力を経営戦略の要諦と位置づけ、デ
バイスを軸とした高品質化をはかることで他社(とりわけ韓国、台湾企業)との競争も勝
ち抜けるとする考え方であった。すなわち、シャープの事業戦略は、通常の競争優位の形
ち抜けるとする考え方であった。すなわち、シャープの事業戦略は、通常の競争優位の形
成過程と異なり、図表 2 に示されるようなプロダクトアウト型の性格が強かったと考えら
れる。
図表 2:プロダクトアウト型の事業戦略
1
年代から 2000 年代半ば頃までは、液晶製品市場も成長局面にあり、デバイスを中
年代半ば頃までは、液晶製品市場も成長局面にあり、デバイス
心とした差別化戦略が功を奏す局面にあったと考えられる。したがって、シャープのプロ
功を奏す局面にあったと考えられる。したがって、シャープのプロ
ダクトアウト型思想にもとづく積極的な設備投資戦略やブランド戦略は、一定の成果を納
思想にもとづく積極的な設備投資戦略やブランド戦略は、一定の成果を納
めた。しかし、2000 年代半ば
半ば以降、最大のアプリケーション製品であった液晶テレビのコ
以降、最大のアプリケーション製品であった液晶テレビのコ
モディティ化が顕著となり、
モディティ化が顕著となり、技術を軸としたプロダクトアウト型の戦略が通用しない局面
プロダクトアウト型の戦略が通用しない局面
になった。加えてシャープは、
加えてシャープは、2000 年代半ば以降、海外液晶テレビ市場の開拓や液晶パネ
の開拓や液晶パネ
ルの外販の拡大といった新しい課題にも直面するようになった。しかしながら、シャープ
ルの外販の拡大といった新しい課題にも直面するようになった。しかしながら、シャープ
は、この局面でも基本的に先の三つの要素に象徴されるプロダクトアウト型の戦略を大幅
この局面でも基本的に先の三つの要素に象徴されるプロダクトアウト型の戦略を大幅
に変更することはなかったのである
のである。
結局,シャープの経営危機の最大の要因は、
シャープの経営危機の最大の要因は、2000 年代半ば頃を境に競争環境が変化した
のにもかかわらず、技術追求を軸とした事業戦略 を変更しなかったことが指摘でき
のにもかかわらず、技術追求を軸とした事業戦略の大枠を変更しなかったことが指摘でき
る。この点を通常の競争優位
通常の競争優位の形成過程でみれば、シャープは「(A)市場ニーズの正確な
特定」をおろそかにしていた
特定」をおろそかにしていたと解釈できる(図表
3)
。
1990
図表 3:シャープの事業戦略
一方,プロダクトアウト型の事業戦略の文脈でみれば,液晶テレビが
方,プロダクトアウト型の事業戦略の文脈でみれば,液晶テレビがコモディティ化
コモディティ化し
ていたにもかかわらず、引き続き先端技術による製品差別化戦略を採ったことが、そもそ
ていたにもかかわらず、引き続き先端技術による製品差別化戦略を採ったことが
も間違いだったことになる(図表
(図表 4)。製品の同質化が進展した液晶テレビでは、規模の経
済を追求し、価格競争力を武器に液晶テレビ市場でシェアナンバーワンを目指すか、
済を追求し、価格競争力を武器に液晶テレビ市場でシェアナンバーワンを目指すか、デザ
イン、流通、サービスなど、
、機能とは別の軸も加えて、総合的な差別化を図ることが、本
差別化を図ることが、本
来は求められたと考えられる。
2
図表 4:シャープの事業戦略(プロダクトアウト型の視点でみた場合)
3