無線マルチホップネットワークにおける RTS/CTS 使用時の最大

社団法人 電子情報通信学会
THE INSTITUTE OF ELECTRONICS,
INFORMATION AND COMMUNICATION ENGINEERS
信学技報
IEICE Technical Report
無線マルチホップネットワークにおける
RTS/CTS 使用時の最大スループットに関する解析
杉本
拓也†
稲葉 雅彦†
関屋 大雄†
阪田
史郎†
柳生 健吾‡
†千葉大学大学院融合科学研究科 〒263-8522 千葉県千葉市稲毛区弥生町 1-33
‡株式会社NTTドコモ 先進技術研究所 〒239-8536 神奈川県横須賀市光の丘 3-6
E-mail:
†{sugimoto@graduate, inabya@graduate, sekiya@faculty, sakata@faculty}.chiba-u.jp
‡[email protected]
あらまし 無線 LAN の標準である IEEE 802.11 を用いた無線マルチホップネットワークにおいて,これまで様々
な形態に関して定量的なスループット解析が試みられているが,IEEE 802.11 のオプションである RTS/CTS を用い
た場合のスループット解析例はほとんどない.現実のネットワークでは RTS/CTS を使用することによるパケットの
衝突回避の効果が考えられ,そのような状況においても,スループットを理論的に解析することは重要である.本
稿では,直線状の無線マルチホップネットワークにおける,RTS/CTS 使用時の UDP の片方向フローの最大スルー
プットに関する理論解析を行う.さらに,シミュレーションを行い,解析結果とシミュレーション結果を比較する
ことにより解析の妥当性を示す.
キーワード 無線マルチホップネットワーク,無線 LAN,IEEE 802.11,RTS/CTS,スループット解析
Analysis of Maximum Throughput for RTS/CTS-used
Wireless Multi-hop Networks
Takuya SUGIMOTO†, Masahiko INABA†, Hiroo SEKIYA†, Shiro SAKATA†, and Kengo YAGYU‡
†Graduate School of Advanced Intergration Science, Chiba University
1-33, Yayoi-cho, Inage-ku, Chiba, 263-8522 Japan
‡Research Laboratories, NTT DOCOMO, INC.
3-6, Hikari-no-oka, Yokosuka-shi, Kanagawa, 239-8536 Japan
E-mail:
†{sugimoto@graduate, inabya@graduate, sekiya@faculty, sakata@faculty}.chiba-u.jp
‡[email protected]
Abstract Although quantitative throughput analyses have been conducted for wireless multi-hop netwoks, RTS/CTS
defined as an option in IEEE802.11 is not well-considered in most of these analyses. Because RTS/CTS has been recognized
effective in terms of packet collision avoidance in real networks, it is important to theoretically analyze the throughput
considering such situations. This report presents the theoretical analysis of the maximum throughput for one-way UDP flow in
case when RTS/CTS is used in linear multi-hop networks. The validity of the analysis is proven through the comparison of
results between the analysis and the simulation.
Keyword Wireless Multi-hop Network, Wireless LAN, IEEE 802.11, RTS/CTS, Throughput Analysis
1. は じ め に
無 線 LAN で は ,MAC プ ロ ト コ ル と し て IEEE 802.11
近年,無線アドホックネットワークが注目されてい
Distributed Coordination Function (DCF) の 利 用 が 標 準
る.無線アドホックネットワークは,無線端末同士が
化 さ れ て い る . し か し , IEEE 802.11 DCF は シ ン グ ル
アクセスポイントなどを介さず,相互に直接接続する
ホップでの利用を想定しているため,マルチホップネ
ことができる自律分散型のネットワークであり,かつ
ットワークにそのまま適用した場合,隠れ端末問題や
無線の届かない端末間においても端末を経由して通信
さらし端末問題,過度のパケット損失,スループット
を行うことができるマルチホップネットワークである.
の低下などの多くの問題を生じることが知られている
既存のネットワークインフラが不要で,柔軟かつ容易
[1]-[2].
にネットワークを構築できる.
上記の問題を解決し,高スループットを維持する方
Copyright ©2008 by
IEICE
法の一つとして,ネットワークトポロジを考慮しなが
Carrier Sensing Range
らマルチホップネットワークの容量をトラフィックの
関 数 と し て 表 し ,理 論 的 に 解 析 す る こ と が 挙 げ ら れ る .
これまでにも,定量的なスループット解析が試みられ
FLOW
1
2
3
4
16
17
18
19
20
て い る [3]-[7].し か し ,こ れ ら の 解 析 で は ,IEEE 802.11
の オ プ シ ョ ン で あ る RTS(Request to Send), CTS(Clear
to Send)の 使 用 を 考 慮 し て い な い .
Transmission Range
図 1
直線状のマルチホップネットワークトポロジ
し か し ,RTS/CTS を 使 用 し な い 場 合 ,デ ー タ フ レ ー
ムを送信している端末に対して周りの端末がそれをキ
2.2. ネットワークのスループット解 析
ャリアセンスして衝突を回避する受動的な衝突回避で
IEEE 802.11 DCF を 用 い た 無 線 マ ル チ ホ ッ プ ネ ッ ト ワ
あ る が ,RTS/CTS を 使 用 し た 場 合 ,デ ー タ フ レ ー ム を
ークにおける問題を解決し,高スループットを維持す
送信したい端末が制御フレームを送信することで衝突
る方法の一つとして,ネットワークトポロジを考慮し
を回避させる能動的な衝突回避である.したがって,
ながらその容量をトラフィックの関数として表し,定
この両者の衝突を回避するプロセスは異なる.
量的に解析することが挙げられる.これまでにも無線
現 実 の ネ ッ ト ワ ー ク に お い て ,RTS/CTS を 使 用 す る
ことでパケットの衝突回避の効果は十分に考えうる.
マルチホップネットワークにおける定量的な解析が試
み ら れ て い る [3]-[7].
し か し ,文 献 [3]-[7]は RTS/CTS の 使 用 を 考 慮 せ ず ,実
図 1 に直線状のマルチホップネットワークのトポロ
際 に RTS/CTS を 使 用 し た 場 合 に つ い て は 解 析 し て い
ジ の 例 を 示 す . 文 献 [3]-[4]で は , 図 1 の よ う な 十 分 に
ない.
長い直線状のマルチホップネットワークにおいて,片
したがって,本稿では,直線状の無線マルチホップ
方 向 UDP フ ロ ー を 生 成 し た 場 合 の ス ル ー プ ッ ト に つ
ネ ッ ト ワ ー ク に お け る , RTS/CTS 使 用 時 の UDP の 片
い て 解 析 し て い る .文 献 [5]で も ,十 分 に 長 い 直 線 状 の
方向フローの最大スループットに関する理論解析を行
ト ポ ロ ジ を 考 え て い る が ,双 方 向 UDP フ ロ ー が 生 成 さ
う.さらに,シミュレーションを行い,解析結果とシ
れ た 場 合 の ス ル ー プ ッ ト 解 析 を 行 っ て い る . 文 献 [6]
ミュレーション結果を比較することにより解析の妥当
も,直線状のトポロジにおける双方向フローのスルー
性 を 示 す と と も に ,RTS/CTS を 使 用 す る 場 合 と 使 用 し
プット解析を行っているが,ホップ数が少ない場合を
ない場合の違いに明らかにする.
考えており,ボトルネックを特定することで最大スル
ー プ ッ ト を 導 出 し て い る .文 献 [7]で は ,様 々 な ネ ッ ト
2. 従 来 研 究
ワークトポロジの容量を解析する包括的な手法を示し
ている.
2.1. IEEE 802.11 DCF
し か し , こ れ ら の 文 献 で は , 文 献 [8] に 倣 っ て
IEEE 802.11 DCF プ ロ ト コ ル は , 他 の 無 線 端 末 の 送
RTS/CTS の 使 用 を 考 慮 し て い な い .RTS/CTS を 使 用 し
信を検知し,自局の送信の開始及び抑制を決定する
なくても,キャリアセンスの効果により衝突回避の効
CSMA/CA(Carrier Sense Multiple Access with Collision
果 は 十 分 に 考 え ら れ る が ,RTS/CTS を 使 用 す る か 否 か
Avoidance)を 基 本 と し た 自 律 分 散 型 の MAC プ ロ ト コ
でパケットの衝突回避のプロセスは異なる.したがっ
ル で あ る . し か し , IEEE 802.11 DCF は シ ン グ ル ホ ッ
て RTS/CTS 使 用 時 の ネ ッ ト ワ ー ク の ス ル ー プ ッ ト を
プの無線ネットワークでの利用を想定しているため,
理論的に解析することは,それを使用することによる
隠 れ 端 末 が 存 在 す る と CSMA/CA が 正 常 に 動 作 し な い .
パケット衝突回避の効果を明確にするとともに,使用
こ の 隠 れ 端 末 問 題 を 回 避 す る た め に ,IEEE 802.11 DCF
していないときとの違いを調べるためにも重要である.
ではデータ送信に先立ち無線リソースを予約する仮想
キ ャ リ ア セ ン ス (VCS: Virtual Carrier Sense)が オ プ シ ョ
3. RTS/CTS 使 用 時 の 片 方 向 フ ロ ー の 理 論 解 析
ンとして規定されている.
VCS で は ,デ ー タ 送 信 を 行 い た い 無 線 端 末 は ,要 求
図 1 に示すような直線状の無線マルチホップネット
信 号 と し て RTS を 受 信 端 末 に 送 信 す る .RTS を 受 信 し
ワ ー ク に お い て , RTS/CTS を 使 用 し て 片 方 向 UDP フ
た 受 信 端 末 は ,確 認 信 号 と し て CTS を 送 信 端 末 に 返 信
ローが流れている状況を想定し,ボトルネックとなる
す る . RTS あ る い は CTS を 受 信 し た 他 の 無 線 端 末 は ,
リ ン ク に お け る 衝 突 ,お よ び NAV に よ る 影 響 を 解 析 す
該当フレームに規定されている期間,送信禁止状態
ることにより,最大スループットを導出する.
(NAV: Network Allocation Vector) を 設 定 す る こ と で ,
隠れ端末問題を回避する.
3.1. 解 析 における仮 定
本解析で導出する解析式はスループットが最大と
なるネットワークの状況を仮定している.負荷が低い
信時間は全て等しいものとする.
片 方 向 フ ロ ー の 解 析 は [3]-[5] で 行 わ れ て い る が ,
RTS/CTS の 動 作 上 , そ の ま ま 用 い る こ と は で き な い .
状態まで含めたネットワークの状況全てを表すもので
はないことに注意する.解析によって得られたスルー
プットの式から求められる最大値が,ネットワークの
最大スループットとなる.
解析では以下を仮定する.
(1)
各端末の送信範囲はキャリアセンス範囲の 2 倍
未満とする.
(2)
3.2. ネットワークのスループット
端末 i がデータ送信に先立ち,無線リソースの予約
に使用する時間をエアタイムと定義する.エアタイム
に は ,DIFS(Distributed Inter Frame Space)の 時 間 (DIFS),
RTS の 送 信 時 間 (RTS), SIFS(Short Inter Frame Space)の
時 間 (SIFS), ノ ー ド (i+1)か ら の CTS の 送 信 時 間 (CTS)
ス ル ー プ ッ ト が 最 大 と な る 点 に お い て ,衝 突 が
が 含 ま れ る . エ ア タ イ ム に は , RTS フ レ ー ム の 衝 突 及
生 じ る .ま た ,NAV に よ る 影 響 を 受 け る 可 能 性 の あ る
び NAV に よ る 影 響 で 起 き る 再 送 の 時 間 も 含 ま れ る と
時間に各端末のバッファに常に送信するべきパケット
す る .バ ッ ク オ フ は 解 析 の 仮 定 (2)よ り エ ア タ イ ム に 含
が存在する.
めない.
全端末がバッファに送信すべきパケットを持
十 分 に 長 い 期 間 [0, Time]を 考 え ,S i を ノ ー ド i の エ ア
ち,常に送信機会を待っているため,バックオフは一
タ イ ム と し x = | S i |/Time と す る .x に 対 し て 理 想 的 に ,
つの端末が占有する時間ではなく,全ての端末が共有
パケット送信において使用されると考えられる時間を
して減らす時間である.
y と す る . y の 時 間 は 送 信 端 末 が 受 信 端 末 か ら CTS を
(3)
ボ ト ル ネ ッ ク と な る リ ン ク 付 近 で は ,各 端 末 の
受け取った後にパケットを送信する時間と考えられる
送信確率は等しく,フローを転送するための送信時間
の で ,SIFS,パ ケ ッ ト の 送 信 時 間 (PACKET),SIFS,ノ
が各リンクで等しい.
ー ド (i+1)か ら の ACK の 送 信 時 間 (ACK)を 含 む も の と 考
(4)
文 献 [8]で は ,キ ャ リ ア セ ン ス 範 囲 が 2 倍 以 下 の と き
えることができる.このとき x と y の間には以下の関
に RTS/CTS を 使 用 す る と ,送 信 範 囲 と キ ャ リ ア セ ン ス
係式が成立する.
範 囲 が 1:2 の と き に RTS/CTS を 使 用 し て い な い 場 合 と
y = αx L (1)
近 似 的 に 同 等 に な る こ と が 示 さ れ て い る . 文 献 [3]-[7]
ではこれに倣って送信範囲とキャリアセンス範囲を
1:2 と す る こ と で RTS/CTS を 考 慮 し て い な い . し か し
α=
2 ⋅ SIFS + PACKET + ACK
DIFS + RTS + SIFS + CTS
ながら,その衝突回避のプロセスは異なる.ゆえにそ
d = DATA/(2・SIFS+PACKET+ACK), data_rate を デ ー
の違いを調べるために本稿では送信範囲とキャリアセ
タの伝送速度とすると,衝突が生じない理想状態にお
ン ス 範 囲 の 比 を 1:1 と す る .
け る ネ ッ ト ワ ー ク の ス ル ー プ ッ ト T(y)は
ボトルネックとなるのは中心になるリンクである.
例えば,図 1 では,端末数が偶数のため,中心にホッ
プ す る リ ン ク で あ る ノ ー ド 10 か ら ノ ー ド 11 へ の リ ン
クとなる.端末数が奇数の場合は,中心となるノード
が 送 信 端 末 と な る リ ン ク と な る .(4)の 仮 定 を 満 た す た
T ( y ) = y ⋅ d ⋅ data _ rate
と 表 す こ と が で き , (1)か ら
T ( x ) = αx ⋅ d ⋅ data _ rate L ( 2)
めには,ボトルネックとなる端末のリンクの送信端末
と な る .し か し ,こ れ は 衝 突 の 影 響 や ,NAV に よ る 影
のキャリアセンス範囲内にいる端末,ボトルネックと
響を考慮しない,理想状態を示すものである.以下で
なるリンクの送信端末と衝突を生じる可能性のある端
その影響について解析する.
末 ,及 び そ の 端 末 の RTS/CTS の 影 響 を 受 け る 端 末 が 片
方向フローを送信している必要があるため,少なくと
3.3. 理 論 解 析
も 10 端 末 以 上 の 無 線 マ ル チ ホ ッ プ ネ ッ ト ワ ー ク で あ
RTS/CTS を 使 用 し た と き の 片 方 向 フ ロ ー で は ス ル ー プ
れば,解析の仮定を満たす.
ッ ト に 与 え る 影 響 と し て , (1)RTS と RTS の 衝 突 ,
本稿の解析及びシミュレーションでは,十分に長い
(2)NAV に よ る 送 信 無 効 期 間 ,の 2 通 り の 影 響 が 考 え ら
直線状のマルチホップネットワークの例として,図 1
れる.ここでは,図 1 に示すマルチホップネットワー
に 示 す よ う な 20 端 末 か ら な る 直 線 状 の ト ポ ロ ジ を 考
クにおいて,ボトルネックとなるリンクで生じるこの
える.このときのボトルネックとなるリンクは,上記
2 通りの影響について理論解析を行う.
で 示 し た と お り ノ ー ド 10 か ら ノ ー ド 11 へ の リ ン ク で
あ り ,(4)の 仮 定 を 満 た す リ ン ク に お い て 使 用 さ れ る 送
Carrier Sensing Range
Carrier Sensing Range
8
9
10
11
12
13
14
8
9
10
NAV
11
12
13
14
x
x
x
x
x
x
x
x
x
x
x
x
x
x
RTS
RTS
RTS
Collision
図 2
RTS と RTS の 衝 突 パ タ ー ン
図 3
NAV に よ る 影 響
3.3.1. RTS と RTS の 衝 突
図 2 に RTS と RTS の 衝 突 パ タ ー ン を 示 す . 図 2 は ,
示 し た よ う に , ノ ー ド 10 と ノ ー ド 12 が 同 時 に 送 信 を
図 1 に示す直線状のマルチホップネットワークの一部
す る 可 能 性 の あ る 時 間 は 1-(x+y)と な る . こ の と き に ,
であり,図中の x は各端末のエアタイムを示す.ここ
ノ ー ド 12 が 送 信 し た RTS に よ っ て ノ ー ド 11 に NAV
で は ,ボ ト ル ネ ッ ク と な る リ ン ク と し て ノ ー ド 10 か ら
が 設 定 さ れ た 時 間 が , ノ ー ド 10 に と っ て の NAV に よ
ノ ー ド 11 の リ ン ク を 考 え る . 図 2 に お い て , ノ ー ド
る送信無効の期間であるといえる.この期間は,ノー
10 が RTS を 送 信 し て い る と き に ノ ー ド 12 が RTS の 送
ド 12 の x に 含 ま れ る RTS 以 降 の 時 間 と ,x を 使 用 し た
信 を 開 始 す る . ま た は , ノ ー ド 12 が RTS を 送 信 し て
分 だ け 設 定 さ れ る NAV の 時 間 ,つ ま り y と の 和 と 考 え
い る と き に ノ ー ド 10 が RTS の 送 信 を 開 始 し た と き に
ら れ る の で , NAV に よ る 影 響 ρ NAV は
RTS と RTS の 衝 突 が 発 生 す る .こ こ で 問 題 と な る の は
ノ ー ド 10 と ノ ー ド 12 が 同 じ 時 間 に 送 信 す る 可 能 性 の
ある時間である.
ノ ー ド 10 に 着 目 す る .ノ ー ド 10 は ノ ー ド 11 を キ ャ
リ ア セ ン ス し , か つ ノ ー ド 11 か ら の RTS を 受 信 し た
bx + y
K ( 4)
1 − ( x + y)
SIFS + CTS
b=
DIFS + RTS + SIFS + CTS
ρ NAV =
分 だ け NAV を 設 定 す る . し た が っ て , ノ ー ド 10 と ノ
と 求 め る こ と が で き る .(1)式 よ り ,(4)式 も x の 式 に 書
ー ド 12 の 送 信 が 重 な る 可 能 性 の あ る 時 間 は ノ ー ド 11
き換えることができる.
が 使 用 し た エ ア タ イ ム 及 び そ の 時 間 に 基 づ い て NAV
が設定された時間を引いたものであり,その時間は
1-(x+y)と な る . ゆ え に こ の 衝 突 率 ρ r , r は
2x
⋅ a L (3)
1 − ( x + y)
RTS
a=
DIFS + RTS + SIFS + CTS
ρ r ,r =
と 求 め る こ と が で き る . (1)式 よ り , (3)式 は x の 式 に
3.4. RTS/CTS 使 用 時 の最 大 スループット
ボ ト ル ネ ッ ク と な る リ ン ク と し て ノ ー ド 10 か ら ノ
ー ド 11 へ の リ ン ク を 考 え , 衝 突 お よ び NAV に よ る 影
響 を 解 析 し た .そ の 結 果 ,RTS/CTS 使 用 時 の 最 大 ス ル
ー プ ッ ト は 理 想 状 態 を 示 す (2)式 に (1), (3), (4)式 を 考 慮
することで,以下のように表すことができる.
T ( x) = (1 − ρ NAV ) ⋅ (1 − ρ r ,r ) ⋅ αx ⋅ d ⋅ data _ rate
⎞
⎛
bx + αx ⎞ ⎛
2ax
⎟⎟
⎟⎟ ⋅ ⎜⎜1 −
= ⎜⎜1 −
⎝ 1 − ( x + αx ) ⎠ ⎝ 1 − ( x + αx ) ⎠
⋅ αx ⋅ d ⋅ data _ rate L (5)
書き換えることができる.
3.3.2. NAV に よ る 影 響
図 3 に NAV に よ る 影 響 を 受 け る 例 を 示 す . 図 3 も ,
(5)式 は ,NAV に よ る 影 響 を 受 け ず に 端 末 が 無 線 リ ソ
図 2 と同様に図 1 に示す直線状のマルチホップネット
ー ス を 使 用 で き る と き に ,RTS/CTS が 正 常 に 作 動 し た
ワークの一部であり,図中の x は各端末のエアタイム
分だけデータが送信できることを示している.
を示す.
こ の と き , dT(x)/dx = 0 と す る x = x * を 求 め る こ と で
図 3 に お い て , ノ ー ド 11 に NAV が 設 定 さ れ る と , ノ
(5)式 か ら 最 大 ス ル ー プ ッ ト T(x * )を 導 出 す る こ と が で
ー ド 10 は そ の 間 は 何 を し て も , ノ ー ド 11 に デ ー タ を
きる.
送信することが不可能となる.したがって,この時間
ここで,直線状のマルチホップネットワークにおけ
は , ノ ー ド 10 に と っ て NAV に よ る 送 信 無 効 期 間 , と
る最大スループットを具体的に導出する.表 1 に解析
考えることができる.
及びシミュレーションで用いるパラメータ諸元を示す.
こ の NAV に よ る 送 信 無 効 期 間 を 導 出 す る . 3.3.1 で
IEEE 802.11a を 想 定 し ,VoIP を 模 擬 し て デ ー タ ペ イ ロ
表 1
解析及びシミュレーション
1.2
で用いるパラメータ諸元
168 bytes
24 bytes
2 bytes
20μs
20 bytes
14 bytes
14 bytes
18 Mbps
12 Mbps
50m
50m
45m
9μs
16μs
34μs
15
255
4
Throughput[Mbps]
1
Packet Payload (DATA)
MAC header
PHY header
PHY Pramble
RTS size
CTS size
ACK size
Channel bit rate
Control Frame bit rate
Transmission range
Carrier sensing range
Distance of each node
Slot Time
SIFS Time
DIFS Time
Minimum Contention Window Size
Maximum Contention Window Size
Retransmission limit
0.8
0.6
RTS-Throughput
0.4
nonRTS-Throughput
0.2
analysis result
0
0
0.2
0.4
0.6
0.8
1
1.2
1.4
Offered Load[Mbps]
図 4
スループット
5. 考 察
シミュレーションによるスループットの最大値と,
解析結果によるスループットの最大値が一致しない理
由及び解析の妥当性について考察する.
図 5 と 図 6 に ,RTS/CTS を 使 用 し た と き と 使 用 し な
いときの平均バッファ長及び衝突率をまとめて示す.
図 5 に お け る 衝 突 率 は RTS と RTS の 衝 突 率 ,図 6 の 衝
突 率 は DATA と DATA の 衝 突 率 で あ る .
図 5(b)よ り ,負 荷 が 0.85Mbps ま で は 全 く 衝 突 が 起 き
ー ド サ イ ズ を 168bytes と す る . 解 析 で は x * = 0.117 の
ていない.しかし,最大スループットが得られる負荷
と き 最 大 ス ル ー プ ッ ト 0.785Mbps が 得 ら れ る .
が 0.900Mbps の と き に ,RTS と RTS の 衝 突 が 起 き て い
4. シ ミ ュ レ ー シ ョ ン に よ る 評 価
均 バ ッ フ ァ 長 は 0.3 に 満 た な い . 最 大 ス ル ー プ ッ ト が
る .次 に 図 5(a)に 着 目 す る .負 荷 が 0.85Mbps ま で は 平
解析の妥当性を示すために,シミュレーションを用
得 ら れ る 負 荷 0.900Mbps の と き , 各 端 末 の 平 均 バ ッ フ
いて評価する.シミュレーションにおけるネットワー
ァ 長 は 1 付 近 に 点 在 し ,1 を 超 え て い る も の も あ れ ば ,
クトポロジは,図 1 と同じものを用いる.図 1 におい
それを下回っているものも存在する.負荷が
て , ノ ー ド 1 で デ ー タ ペ イ ロ ー ド サ イ ズ 168bytes の
0.950Mbps 以 上 に な る と 全 て の 端 末 の 平 均 バ ッ フ ァ 長
UDP ト ラ フ ィ ッ ク を 生 成 し ,RTS/CTS を 使 用 し て ノ ー
が 1 を 越 え る .こ の た め ,解 析 式 の 仮 定 (3)が 最 大 ス ル
ド 20 に 送 信 す る .各 負 荷 に 対 し て シ ミ ュ レ ー シ ョ ン 時
ープットを得る地点では満たされない.したがって,
間 30s と し て 5 回 ず つ 受 信 ス ル ー プ ッ ト の 測 定 を 行 う .
最大スループットを得るためには別途この状態を解析
比 較 の た め に 送 信 範 囲 と キ ャ リ ア セ ン ス 範 囲 を 1:2 と
す る 必 要 が あ る . 負 荷 が 0.950Mbps 以 上 の と き の ネ ッ
し , RTS/CTS を 使 用 し な い 場 合 も 示 す .
トワークは前述のとおり,平均バッファ長が 1 を超え
図 4 にスループットの結果を示す.図中の
て い る の で 解 析 の 仮 定 (3)を 満 た す .こ の と き の ボ ト ル
RTS-Throughput は ,送 信 範 囲 と キ ャ リ ア セ ン ス 範 囲 を
ネックリンクの各値について,シミュレーション値と
1:1 と し RTS/CTS を 使 用 し た 場 合 ,nonRTS-Throughput
理論値の比較を表 3 にまとめて示す.表 3 より,本稿
は 送 信 範 囲 と キ ャ リ ア セ ン ス 範 囲 を 1:2 と し て
で示した解析式は,ネットワークの定常状態の各値と
RTS/CTS を 使 用 し て い な い 場 合 の 結 果 を 示 す .
よく一致し,解析式の妥当性を示している.
シ ミ ュ レ ー シ ョ ン で は 負 荷 が 0.900Mbps の と き に 最
次に,最大スループットの地点について考察する.
大 ス ル ー プ ッ ト 0.854Mbps が 得 ら れ る . シ ミ ュ レ ー シ
文 献 [5]に よ る と ,送 信 範 囲 と キ ャ リ ア セ ン ス 範 囲 の
ョン結果と解析結果を比較すると,最大スループット
比 が 1:2 の と き に RTS/CTS を 使 用 し て い な い 片 方 向 フ
の値が一致しない.しかし,スループットが最大値を
ローにおけるスループットの最大値は,平均バッファ
迎えた後に急落し,定常状態となったスループットの
長 が 限 り な く 0.33 に 近 づ い た と き と さ れ て い る .こ れ
値と,解析結果はほぼ一致する.シミュレーション結
は ,平 均 バ ッ フ ァ 長 が 0.33 未 満 の と き ,あ る 端 末 が 送
果 よ り 一 定 と な っ た ス ル ー プ ッ ト 値 は 0.800Mbps, 解
信すべきパケットをバッファに保持していた場合,そ
析 結 果 は そ の 値 に 対 し て 誤 差 が -1.88%と わ ず か な ず れ
の前方の 2 ホップまでの端末が,送信すべきパケット
に収まっている.
を持っていないことを示している.ゆえに衝突が発生
1
0.1
0.1
0.08
0.06
0.04
0.6
0.8
1
1.2
1.4
Offered Load[Mbps]
(a) 平 均 バ ッ フ ァ 長
図 5
10
1
0.4
0.6
0.8
1
Offered Load[Mbps]
1.2
1.4
(b) 衝 突 率
送 信 範 囲 :キ ャ リ ア セ ン ス 範 囲 =1:1
RTS/CTS 使 用 時 の 平 均 バ ッ フ ァ 長 と RTS-RTS 衝 突 率
0.2
0.15
0.1
0.05
0.01
0
0.4
100
node1
node2
node3
node8
node9
node10
node11
0.25
0.1
0.02
0.01
node1
node2
node3
node8
node9
node10
node11
1000
C o llision Prob ability
10
node1
node2
node3
node8
node9
node10
node11
0.12
A v erag e V u ffer L en g th
100
0.3
10000
0.14
node1
node2
node3
node8
node9
node10
node11
1000
C o llisio n Pro b ability
A v erag e B u ffer L en g th
10000
0
0.4
0.6
0.8
1
1.2
1.4
Offered Load[Mbps]
0.4
(a) 平 均 バ ッ フ ァ 長
図 6
0.6
0.8
1
Offered Load[Mbps]
1.2
1.4
(b) 衝 突 率
送 信 範 囲 :キ ャ リ ア セ ン ス 範 囲 =1:2
RTS/CTS を 使 用 し な い と き の 平 均 バ ッ フ ァ 長 と
DATA- DATA 衝 突 率
表 3
シミュレーション値と解析値の比較
6. ま と め
Simulation
Analysis
Error
RTS utilization
0.112
0.117
+4.5%
に お け る , RTS/CTS を 使 用 時 の UDP の 片 方 向 フ ロ ー
ρr, r
0.106
0.099
-7.5%
の最大スループットに関する理論解析を行った.その
ρNAV
0.300
0.317
+5.4%
結果とシミュレーション結果を比較することにより解
本稿では,直線状の無線マルチホップネットワーク
析の妥当性を示した.さらに,シミュレーション結果
を 精 査 す る こ と に よ り RTS/CTS を 使 用 し た 場 合 と し
しない状態でパケットリレーが次々と行われるため,
ない場合での最大スループットとなる点の違いを明ら
最大スループットを達成することができる.
か に し た .今 後 の 課 題 と し て は RTS/CTS を 使 用 し た 場
図 4 よ り ,RTS/CTS を 使 用 し て い な い と き の 最 大 ス
合の双方向フローの解析が挙げられる.
ル ー プ ッ ト は 負 荷 1.05Mbps の と き 1.04Mbps と な り .
図 6(a)(b)に 注 目 す る と ,文 献 [5]に 示 さ れ た と お り 最 大
スループットが達成されるまでは,平均バッファ長が
0.33 以 下 で 衝 突 が ほ ぼ 起 き て い な い こ と が わ か る . 衝
突が発生した瞬間にスループットが急落することも図
4 お よ び 図 6(a)(b)か ら わ か る .
RTS/CTS を 使 用 し て い な い 場 合 に つ い て 考 察 す る ,
図 4 及 び 図 5(a)(b)に 着 目 す る と ,負 荷 が 0.900Mbps の
と き に 最 大 値 を 得 て い る が , 図 5(b)か ら 衝 突 を 含 ん だ
上 で 最 大 値 を 達 成 し て い る . こ れ は , RTS パ ケ ッ ト が
データパケットに対して小さく,衝突率が低いことに
加 え て VCS の 機 能 に よ っ て RTS と CTS の 交 換 が 正 常
に作動したリンクからデータが送信されるためである.
し た が っ て ,RTS/CTS を 使 用 し て い な い 場 合 に 比 べ て ,
ある程度衝突が起きるような状況においても,スルー
プットが急落することがなく,そのような状況におい
て 最 大 ス ル ー プ ッ ト が 達 成 さ れ る こ と が ,RTS/CTS を
使用した場合における特徴と言える.
したがって,これまでは送信範囲とキャリアセンス
範 囲 の 比 を 1:2 と す る こ と で 近 似 的 に RTS/CTS の 効 果
を 考 慮 し て い た が , RTS/CTS を 使 用 す る か 否 か で そ
れぞれの状態は正確に解析すべき必要があることがわ
かった.
文
献
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[6] 松 本 , 関 屋 , 阪 田 , 谷 萩 , 柳 生 “
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ッ ト 解 析 ,” 信 学 総 大 , Mar. 2008.
[7] Y. Gao, D. Chiu, and J. C. S. Lui, “Determining the
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