特 集 テレワーク〈2〉 中堅企業におけるテレワーク活用 明豊ファシリティワークスでの事例紹介 さか た あきら 坂田 明 明豊ファシリティワークス株式会社 代表取締役社長 1.当社ビジネスモデルとテレワーク 当社のテレワーク活用によるワークスタイル変革は、当社 のビジネスモデルと密接に関係しているため、最初にその関 ロセスを可視化することで、顧客との信頼関係を構築できる 情報共有環境をつくることを目指してきた。 当時(1994年頃)の情報通信環境は、インターネットが 普及し始め、企業ではホストコンピューターからクライアン 連性について記述する。 当社は、建設プロジェクトに関して発注者側に必要な支 トサーバーへの移行などが行われ始めた時期で、大手企業で 援業務を提供するコンストラクションマネジメント(以下 も一人1台PCが珍しい状況であった。当社は、まだ約50名規 CM)サービスを行っている。 模であったが、デジタル化の急速な進展を見て、 「隠し事の CMとは、 「設計者」や「施工者」といった利害関係者が ない社会の実現」を確信し、高い倫理観や透明性のある風 プロジェクトをマネジメントするのではなく、第三者性を持 土づくりを競争優位性のトップに置いた。その上で優秀な情 つ建築や設備の専門職(CMr:コンストラクションマネジャ 報通信関連人材の確保・教育を行い、企業規模なりにでき ー)が、品質、工期、コストなどプロジェクトの全般を顧客 得る限り最新の技術や機器を取り入れ、CMサービスに関連 側に立って運営管理(PM:プロジェクトマネジメント)す した情報の徹底したデジタル化と働き方の変革に取り組んで る手法である。 きたのである。この取組が結果的に現在のテレワーク環境に 当社は、そのCMサービス提供の対価として、いわゆる設 つながっている。 計費や管理費にみられる工事費用に対する%(パーセンテー ジ)という形ではなく、当社メンバーの想定負荷をベースと 2.ワークスタイル したマネジメントフィーをいただいている。 昨今の建設資材高騰、建設従事者不足等の建設市場にお 当社では、CMサービスに関わる全ての業務をはじめ、個 いては、建設コストの高騰で入札が成立しない事態も発生し 人のスケジュール管理や経費処理などの一般業務、人事面 ており、基本計画段階から要件整理や仕様などを精査し、 では課題設定や教育・評価、ナレッジマネジメントに至るま 予算の範囲で本来の目的を実現可能とする専門家の知識や で、全てがシステム化されており、所定の個人認証を受ける 経験が必要とされるプロジェクトが急激に増えているのであ ことで、本人が持つ権限の範囲ほぼ全部の作業がオフィス内 る。 と同様にオフィス外でも行うことができる。 我が国において、サービスへの対価(フィー)を得るため 営業やプロジェクトマネージャー(PMr)といった外勤型 には、そのサービスが高度に専門的(=プロフェッショナル) のワーカーは、プロジェクトごとに部門を横断したチームで で、その対価に見合う価値があると、顧客や関係者に認めら 活動するため、フリーアドレス型のオフィスでノートPCを持 れ評価されることが大変重要である。そのために当社では、 ち勤務している。その延長線上で客先や現場など全く場所に 常に顧客側に立つプロであることを示すと同時に、全てのプ とらわれない働き方が可能である。 固定席でデスクトップPCを利用している管理部門やデザ CM(コンストラクション・マネジメント) 手法による プロジェクト・マネジメント お客様 マネジメント フィー プロフェッショナル サービス 供給者(プロ) さらに、承認作業の多い管理職には、ノートPCよりも操 作性の容易なiPhone/iPadをノートPCに加えて配布するな お客様の専門性を補完し 良いものを安く早く実現 プロセスの透明性担保 ・設計事務所 ・ゼネコン ・設備工事会社 など 図1.ビジネスモデル概念図 20 Webを介してリモート操作できる環境を提供し、必要に応じ てオフィス以外で業務を行うことができる。 ●プログラミング ●設計マネジメント ●工事発注支援 ●施工マネジメント 当社(プロ) 完全中立・ベンダーフリー イナーといった内勤型のワーカーについても、自宅のPCや ITUジャーナル Vol. 44 No. 10(2014, 10) ど、業務の特性とその効率化の目的、セキュリティの確保な ど、条件に適した環境が提供されている。 この「どこでもオフィス」という環境が整備されているこ とから、社員には「テレワーク従事者」と「そうでない者」 に基づく等級を基本に、時間当たりの単価(プロジェクト という概念はなく、全ての社員が最も効率の良い場で働くと コスト)が設定されており、このマンアワーシステムと先 いう意識が根づいているのである。 のプロジェクト管理システムを連携させ、過去のデータ分 析を通じて、顧客に提供するCMサービスのメニューや、 そのフィーを見積もったり、各人の可視化された負荷状況 3.テレワークを支える独自のシステム をベースに、プロジェクト期間中の当社コストの予実管理 を行うこともできる。 ビジネスモデル確立と競争優位性確保のために取り組んだ 〈ビジネスプロセスコラボレーション(BPC)システム〉 デジタル化とそれを活用する環境で、テレワークを徹底実践 し、社員がどこにいても情報の可視化と情報を即座に共有・ 業務の効率化を図るとともに、 「透明なプロセス」を保 分析・加工・レビュー・発信できる仕組みづくりを行う中 つツールとして、お客様や、設計者、施工者などの関係者 で、独自のシステム構築も行ってきた。 が、必要な情報を必要な時に確認できるよう、プロジェク 〈明豊プロジェクト管理システム〉 トごとのWebに、当該プロジェクトの関連情報を掲載し、 セキュリティに基づいて確認できる環境を提供している。 プロジェクトを遂行するために必要な作業や、その承認 BPCのインターフェイスをデジタル地図上にリンクさせ、 などを行うシステムで、顧客やプロジェクトの基本情報を はじめ、関連書類や、予算、工事コスト、プロジェクトス 日本全国100か所以上にわたる複数プロジェクトの同時進行 ケジュールなど、プロジェクトに関わる全ての情報がデジ や海外に住む外資系企業の意思決定権者に対しても、時間 タルで一元管理されており、プロセスのどの時点でも確認 と場所にとらわれないCMサービスを提供できるなど、大変 することが可能である。 な強みを発揮している。 〈明豊マンアワーシステム〉 これらの運用システムは当社内で自社開発しており、経営 ABC(Activity Based Costing:活動基準原価計算) 者や実際に使用する社員からの要望、システム環境の変化な の考え方に基づくコスト管理システムで、当社の社員は全 どに即座に対応し、CMサービスの品質や管理会計の精度向 員、毎日の行動について、 「提案書作成」 、 「顧客との打合 上と、経営のスピードを上げることに貢献してきた。 せ」、「社内会議」、「入札業務」、「積算」、「現場監 また、社内に蓄積された膨大なデータを様々な指標で分 理」・・・など活動ごとに要した時間を、プロジェクト番 析・加工する専門部署を設け、工事価格のベンチマークデー 号とその活動コードを付けて入力する。これをデータベー タや、目的別の工事予算比率、社員一人ひとりのアクティ ス化することにより、全社を通して、どのプロジェクトに、 ビティの経時変化から当人の成長を評価するなど、経営はも 誰が、何の活動に、どれだけ時間を要したかを把握するこ ちろん社員、さらにはお客様にも有益な情報を提供、活用し とができるのである。社員には、その専門性・能力・役割 ている。 ベンチマークデータ 会社業績 セキュリティアラート プロジェクト別損益 明豊 マンアワーシステム (ABC/ABM) アサインの最適化 Prj.情報共有 プロジェクト 進捗管理、アラート支援 支援システム 申請、承認ワークフロー 一般業務 支援システム ナレッジデータベース カルテ 図2.テレワーク環境を支える独自のシステム ITUジャーナル Vol. 44 No. 10(2014, 10) 21 特 集 テレワーク〈2〉 ており、 「フェアネス」と「透明性」の理念に基づく企業風 4.導入の体制と工夫 情報のデジタル化=テレワーク環境をつくる第一歩とし 土が、情報セキュリティをも支えると考え、常に高い意識で 臨んでいるのである。 て、全社員の情報リテラシーの確認と同時に、必要な情報 を必要なタイミングで入力することの意識付けに注力し、ペ 6.人事評価制度 ーパーレスの徹底にも取り組んだ。1994年から数年間のデジ タル化導入初期段階では、個々人が独自の知識を持ち、い 出退勤、時間外労働など、労働時間は全てマンアワーシ わゆる職人技的にそれを活かすことが当社の競争優位性の一 ステムによって管理されており、通常勤務やテレワーク、オ つとなっていたこともあり、 「できる社員」の情報の可視化へ フィスにいる・いないの概念を超えて、社員は働く場所を意 の抵抗も少なからずあった。 識することなく毎日の業務を遂行している。 そのため、経営者自らが導入のリーダーとなり、システム 一人ひとりの課題設定や、上司との面談結果、各種研修 導入の目的や要求水準、達成期日を明確にし、必要と思わ の記録など、人事面に関わる情報もシステム化されており、 れる投資については、費用対効果についての議論に時間を掛 個人ごとのカルテとして継続的に管理し、社員個々の成長を けることをせず、社員と共に考え、検証し、システムの都合 促す情報として活用している。 に合わせてビジネスモデルを曲げることのない姿勢を貫いて きた。 また評価については、 「納得感の高い評価」を目標にして 丁寧な制度運用を行っている。直属上司だけでなく、同じプ 自社内でのシステム開発にふみきったのも、社員一人ひと ロジェクトを担当した上位者の意見を取り入れる仕組みを設 りが目的に則した情報の活用ができるよう、市販の仕組みに けたり、役員及び各部門長で構成された「一人ひとりの最終 頼ることなく、通常業務に負荷を掛けない情報入力の仕組 みの構築に併せて有益なデータや指標などを数多く社内にい ●「テレワークは全社員にとって不可欠」 ち早く発信することにこだわったからである。 自宅は 情報をできる限りオープンにすることで、今では全社で自 休息の場 発的に情報の分析・加工や発信が行われている。その上で当 社事業に貢献したと認められた社員を誉める風土を作ること で、 「管理者側のツール」ではなく「社員のツール」としての 定着が進み、この環境を活用しなければ「仕事にならない」 ということころまで進化してきた。 テレワーク 短時間なら 自由に ポリシー 労働時間は ありのまま申告する。 5.セキュリティ テレワーク環境の構築により、いつでもどこでも社内のリ ソースにアクセスし、情報を共有できるという利便性の一方、 本人と上司と 会社の 長時間なら、 事前に会社 に相談 ・安全面の確認 ・在宅環境を整備 信頼関係 図3.就業規則と運用 「働く人の心の安らぎ」への配慮 お客様の重要な情報を守るためのセキュリティには、暗号化 や操作ログの管理をはじめとしたでき得る限りの仕組みを導 入している。 また、社員の情報漏洩防止意識を高いレベルで維持し、 その信頼性をお客様にも理解していただくために、2007年に は国際規格「ISO27001」の認証を全社で取得し、外部専門 家による定期審査に加えて、社内に専門チームを設けて厳格 な定期チェックを行っている。 ・キャリアカウンセラー ・産業医 ・なんでも相談サービス (外部委託) ・コミュニケーション支援(一人年間2万円) ・お誕生日休暇(2万円小遣い付き) さらに、全社員が毎年更新提出する誓約書には、企業理 念に準拠した社内ルールや情報漏洩への対策などが明記され 22 ITUジャーナル Vol. 44 No. 10(2014, 10) 図4.組織マネジメントを補足するセーフティネット ● サービス品質の向上 (良いモノを、早く、安く提供) ● ブランド力の向上 ● 生産性向上 ● 収益予実管理の精度向上 フィーの差別化 高収益企業へ 効率的経営 社員の処遇に反映 優秀な人材確保 図5.テレワーク活用による成長戦略 評価を決める会議」では、全ての社員について、その評価者 るなど、プロのサービスとして顧客の高い評価をいただいて が「なぜこの評価に至ったか?」を説明する場を設け、その いる。今後更にCMサービスの認知度向上やブランド力アッ 妥当性を会議参加者全員で審議し、各人の評価を確定して プにつなげていきたいと考えている。 いる。もちろん、システム部門のリーダー及びメンバーにつ いても同様に評価が行われている。 働く場所の自由度が増す分、社員の活動にマネジメント の目が行き届きにくくなることは事実ではあるが、プロジェ また、 〈企業理念〉 、 〈隠し事のない経営〉 、 〈働く環境と最 新のツール〉 、 〈成長の実感〉 、 〈人事評価の納得性〉などを実 現してきたことにより、年々優秀な人材が集まり、各人がプ ロとして成長し、定着している。 クト管理システムやマンアワーシステムなどの同じプラットフ さらに、ライフワークバランスという視点では、出産・育 ォームで全社員が同時に情報を共有することで、社員は高い 児により在宅テレワークを利用した女性社員は延べ14名とな 意識でプロフェッショナルワークに従事し、マネジメントは り、結婚や妊娠を機に退職を選択することが少なくなった。 その働き方や、キャリアプランの支援を行うことが可能とな 特に女性社員から妊娠の申し出があった時には、上司や周囲 っている。ただし、システムだけではフォローしきれないface がそのことを慶事として温かく迎え、同時に休暇中の仕事の to faceのコミュニケーションや社員の心のケアなどに配慮し やりくりを担当部署任せにせず、全社を挙げて取り組むなど、 た、組織マネジメントを補足する仕組みも取り入れている。 200人程度の企業規模ならではの強みを発揮している。また、 定年や退職後の再雇用社員も13名(6%)となっている。 冒頭に述べたとおり、復興事業や東京オリンピック開催を 7.効果と今後 当社がビジネスモデル確立と競争優位性確保のために取り 背景に、建設資材高騰や建設従事者不足などは数年にわた り続くと予想され、事業をプロジェクト化するところから、 組んだ、デジタル情報化とそれを活用する環境で、テレワー 品質、工期、コストはもちろん安全にマネジメントする第三 クを徹底実践し、情報の可視化とコミュニケーション(情報 者性を持つプロの存在はますます重要になると考える。 を即座に共有・分析・加工・レビュー・発信できる仕組み 事業分野の拡大・多様化に伴い、生産性やサービス品質 づくり)を実現することで、顧客及びその他のプロジェクト 向上のみならず、より専門性の高い人材の確保や、海外との 関係者との信頼を確実なものとすることができた。同時に、 コミュニケーションがますます必要とされており、テレワー プロジェクト期間中の生産性向上や、さらには関連情報の整 クの導入・活用範囲は今後とも拡大するものと考えている。 理、提供、分析、DB化など、プロジェクトのどのフェーズ 将来にわたっても有効なツールなどを積極的に取り入れ、場 でも必要な業務に対応することができるだけでなく、プロジ 所や時間にとらわれず更に働きやすい環境を整備していく方 ェクト完了時点ですぐに、顧客にプロジェクトの情報(成果 針である。 物)を提供し、そのまま資産管理用のデータとして活用され ITUジャーナル Vol. 44 No. 10(2014, 10) 23
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