平成13年度 弘前大学医学部保健学科 理学療法学専攻 共同研究報告書 弘前大学医学部保健学科理学療法学専攻 平成 13 年度共同研究報告集 平成13年度共同研究報告書 タイトル: 片麻痺患者の歩行能力予測指標としての Functional Reach Test と Timed Up & Go Test の有用性 について 黎明郷リハビリテーション病院 理学療法室 須藤 真史,藤田由香,貴田貴子,浅利尚美,工藤育子,野宮育美 弘前大学医学部保健学科 對馬 均,対馬 栄輝 Ⅰ 研究の背景 脳卒中片麻痺患者では随意運動の回復段階の評価とともに、平衡反応に代表される姿勢維持能力の評価が重 要とされている。Functional Reach Test(以下;FRT)と Timed Up and Go Test(以下;TUGT)は立位や歩行 における動的バランスを評価する指標として、その簡便さと有効性が明らかにされてきている。そこで、脳卒 中片麻痺の活動性につながる立位や歩行時の動的バランス能力に注目し、それが片麻痺患者の歩行能力を予測 する指標としての有用性を検討したので報告する。 FRT 及び TUGT について Duncan によって提唱された FRT は、立位で上肢を可能な限り前方へ腕を差し伸べた時の最大リーチ距離を 計測するもので、Duncun らは 217 人の老人を対象とした6ヶ月間の前向き研究を実施した結果、6ヶ月以内に 転倒する確率(オッズ比)は、FRT 不能群では 8.07、FRT6 インチ(15cm)以下の場合は 4.02、FRT6 〜 10 イ ンチ(15 〜 25cm)の場合は 2.00 であることを報告している。 一方、Podsiadlo らによって紹介された Timed Up and Go Test は、実際の日常生活場面に近い条件の中で動的 なバランス能力を評価できることが特徴と言える。彼らの研究では、TUGT が機能的動作能力の数量的評価法 としての信頼性(検者内 ICC = 0.99、検者間 ICC = 0.99)と妥当性が示唆されている。また、臨床的に移動能 Ⅱ 力を予測する目安として、TUGT の値が 20 秒以内であれば屋外外出可能、30 秒以上かかる場合は要介助とい う値が示されている。 脳卒中片麻痺患者の FRT・TUGT 値の妥当性 脳卒中片麻痺患者において、臨床的な機能状態や歩行能力との関係から、これらのテストが片麻痺患者の動 作能力や立位・歩行時の動的バランスを評価する指標としての妥当性について検討を行った。 対象は、入院中の歩行可能な回復期の脳卒中片麻痺患者 26 例で、痴呆、重度の高次脳機能障害、股・膝関節 の変形性疾患の既往を有しない者とした。内訳は、男:16 例、女:10 例、年齢 50.7 ± 14.8 歳、発症からの期 間は 6.2 ± 3.6 ヶ月で、下肢 Brunnstrom stage はⅢ:4 例、Ⅳ:7 例、Ⅴ:10 例、Ⅵ:5 例、右片麻痺 16 例、左 Ⅲ 片麻痺 10 例であった。 方法としては、FRT 及び TUGT の値を目的変数、下肢 Brunnstrom stage、感覚障害の有無、歩行実用度、杖 ・装具使用の有無を説明変数とした重回帰分析(ステップワイズ法)により行った。なお歩行の実用度につい ては、屋外歩行自立、院内歩行自立、訓練室内自立の3群に分類して処理した。 分 析 結 果 に つ い て み て み る と 、 FRT に 影 響 を 及 ぼ す 要 因 と し て は 杖 の 使 用 と 感 覚 障 害 が 選 択 さ れ た ( R2=0.728, P< 0.01) 。 こ れ に 対 し て TUGT に つ い て は 、 歩 行 実 用 度 が 有 意 な 変 数 と し て 選 択 さ れ た (R2=0.733, P<0.01)。これらの結果から、まず FRT の妥当性について解釈すると、動的なバランス維持能力 の良し悪しは感覚障害により大きく左右されており、結果的に歩行時の杖の使用となって現れていることから みて、FRT を動的バランスの指標として用いることの妥当性が示唆された。つぎに TUGT についてみると、こ のテスト動作には立ち上がる、歩き出す、加速−減速、方向を変える、腰掛けるといった「動作の連合」の要 素が不可欠であることから、単に動的バランスというだけでなく、より総合的に、どれだけ実用的な歩行がで きるかという能力を測る指標として、極めて高い妥当性を有していることが裏付けられた。 つぎに、これらのデータをもとに判別特性分析とロジスティック回帰分析を用いて、FRT、TUGT の値から 歩行の実用度の予測を試みたところ、FRT では 25cm をカットオフ値として、訓練室内歩行レベルか院内実用 レベル以上かを判別できることが示唆された。これは Duncun らによって提示されている転倒リスクの予測指 標としての境界値とほぼ一致している。 -1- 平成 13 年度共同研究報告集 一方、TUGT では 20 秒を境界値として訓練室内歩行レベルにとどまるか院内実用レベル以上の歩行能力を達 成できるか判別可能であることが示唆された。ちなみに、屋外実用レベルのカットオフ値は 17 秒という値が算 出された。これについては、片麻痺の実用歩行能力の予測という点では、 Podsiadlo ら 9)によって示された 「TUGT 値が 20 秒以内であれば屋外外出可能」という予測移動能力の目安よりも、より現実的な値であると思 われる。 Ⅳ まとめ 以上、脳卒中片麻痺に対する理学療法の evidence を探る試みとして、片麻痺の活動性につながる立位や歩行 時の動的バランス能力に注目し、その指標としての FRT・TUGT の可能性について検討してきた。今回の結果 から、 FRT・ TUGT の値は片麻痺の動的バランスや歩行能力を的確に反映するものであること、そしてさら に、FRT・TUGT の値からおおよその歩行実用度を推測することができることなどが示唆された。これらの事 実から、脳卒中片麻痺に対する理学療法効果判定の指標として FRT や TUGT を用いることの臨床的価値は極 めて高いものと考える。今後の課題としては、検者間での信頼性の検討や、歩行困難なレベルの患者について の分析など、研究を継続させることが必要である。 ○黎明郷リハビリテーション病院 理学療法部門2001年度研究活動のまとめ <研究実績> 1.PTジャーナルに研究論文発表 須藤真史,藤田由香,貴田貴子,浅利尚美,工藤育子,野宮育美,對馬 均,対馬栄輝:脳卒中片麻痺に対す る理学療法の evidence を探る−理学療法効果判定の指標としての FRT・TUGT の可能性−.PTジャーナル, 36:***-***,2001. 概要 脳卒中片麻痺に対する理学療法の evidence を探る試みとして、片麻痺の活動性につながる立位や歩行時の動的 バランス能力に注目し、その指標としての FRT・TUGT の可能性について検討した。26 人の回復期脳卒中片麻 痺患者を対象とした、これまでの研究結果から明らかになった点として、FRT・TUGT の日内・日間の再現性 は高いこと、それらの値は片麻痺の動的バランスや歩行能力を的確に反映するものであることを強調した。ま たこれまでのデータを再整理し、判別特性分析とロジスティック回帰分析を用いて歩行の実用性の予測を試み た結果、FRT では 25cm をカットオフ値として、TUGT では 20 秒を境界値として歩行実用度を推測することが できることが明らかとなった。さらに、3例の片麻痺患者を新たに対象として、 10 週間にわたって FRT・ TUGT を定期的に測定し、経時的変化について分析した。その結果、FRT 値や TUGT 値の推移は歩行実用度を 的確に反映していることが示唆された。これらの事実から、脳卒中片麻痺に対する理学療法効果判定の指標と して FRT や TUGT を用いることの臨床的価値は極めて高いものと考える。今後の課題としては、検者間での 信頼性の検討や、歩行困難なレベルの患者についての分析など、研究を継続させることが必要である。 <継続中の研究取り組み> −プロジェクトとの関連から− 1.脳卒中片麻痺におけるこれらの Test を継続的に実施し、その結果から、測定値の経時的変化と機能回復との 関係を縦断的に検証する。 2.Functional Reach の反復練習がその能力向上に寄与するか否かという視点から、Functional Reach のバラン ス訓練としての有効性を検証する。 これらについては 2002 年度の継続課題として進める。 -2- 平成 13 年度共同研究報告集 平成13年度共同研究報告書 タイトル: 腹臥位と立位における腓腹筋の反応時間の比較 鳴海研究所清明会鳴海病院 ○石田 水里 弘前大学医学部保健学科 対馬 栄輝 【 目的】 下肢の筋を対象に荷重位で測定する筋反応時間(RT)は,非荷重位で測定する RT よりも遅延すると考える。RT のうち特に電気力学的遅延(EMD)は,その性質上,測定肢位の変化だけでなく外部負荷量にも影響を受けるから である。そこで,今回は腓腹筋を対象として腹臥位と立位における RT を測定し,それらに違いがあるか検討するこ とを目的とした。 【 対象と方法】 対象は健常男性 12 名(平均年齢 23.8 ± 3.5 歳,平均身長 171.6 ± 5.1 ㎝,平均体重 60.3 ± 2.7 ㎏)である。測定 肢は,立っている被検者を押したときに踏み出さなかった下肢とした。測定肢の腓腹筋外側頭(GL)・内側頭 (GM)に表面電極を貼り付け,足底には ON-OFF スイッチ(スイッチ)を取り付けた。RT の測定はベッド上腹臥 位または立位で行った。それぞれの肢位において安静を保持させ,予告なしのフラッシュ(光刺激)に対しできるだ け速く強く足関節底屈を行わせて測定した。測定の順番は無作為とし,各肢位につき 5 回ずつ繰り返した。光刺激 に同期したトリガーと GL・GM の筋電波形(EMG)およびスイッチの電位を sampling rate 2kHz でデジタル変換 し,パソコンに取り込んだ。筋活動開始は,光刺激前における EMG 振幅の最大値を越えた時点で判断した。RT を 各肢位における光刺激から筋活動開始までの運動前反応時間(PMT),筋活動開始から足関節底屈が起こるまでの EMD に分ける。PMT・EMD の測定には S(UNIX,ISAC)によるプログラムを用いた(石田ら,2000)。PMT・ EMD は被検者別,筋別に 5 回測定の平均を求めて採用した。 【 結果】 腹臥位または立位における GL・GM の PMT,GL・GM の EMD と年齢,身長,体重との相関係数を求めた結 果,腹臥位の GM-EMD と体重(r=-0.58,p<0.05)および立位の GL-PMT と体重(r=0.61,p<0.05)に有意な相関 があった。また,腹臥位の PMT と立位の PMT に有意な相関があった(GL は r=0.66,p<0.05 ,GM は r=0.64,p< 0.05)。次に各 PMT または EMD を腹臥位と立位で比較すると,paired-t 検定で腹臥位よりも立位の PMT および EMD が有意に遅延した(GL・GM とも p<0.01)。 【 考察】 腹臥位よりも立位の RT はすべて遅延していた。しかし RT と体重との相関係数は有意なものと有意でないものが 混在し,短絡的に体重の影響を受けるとは考え難かった。RT には外部負荷というよりも,単に肢位の違いが強く影 響したと考える。例えば荷重位の肢位・動作へ RT を応用させたいときは,可能な限り荷重位で測定することが望ま しいであろう。ただし,今回測定していない他の変数による影響も否定できないため,さらに検討を加える必要があ る。 ○発表学会等: 第36回日本理学療法士学会,第19東北理学療法士学会 -3- 平成 13 年度共同研究報告集 平成13年度共同研究報告書 タイトル: 脳卒中片麻痺患者の装具使用に関する研究 青森慈恵会病院 ○大沢 由貴,河村 善信,米塚 尚子,太田 直子, 唐牛 忍,石鳥 真奈実,築舘 真由美 保健学科理学療法学専攻 對馬 均 Ⅰ.MAFO 装着自助具の試作とその課題 (発表者青森慈恵会病院 ○渡辺 文郎,弘前大学医学部保健学科 對馬 均) はじめに 脳卒中片麻痺患者の中には,短下肢装具(ここでは以下 MAFO とする)を自力で装着することが困難な 例が多くみられる。このような症例に対して、装具装着を自立させるという観点から MAFO 装着時に使 用する自助具を試作したところ,比較的に良好な結果が得られた。これまで装具の装着に関する報告等は ほとんどされておらず,また、このような症例に対する対処法や指導法も確立されているとは言い難い。 そこで、今回試作した自助具を紹介するとともに、その効果と実用性,問題点を検討したので報告する。 症例の装具装着状態 今回の試みの対象となった症例は当院に入院中の慢性期脳卒中患者(左片麻痺、76 歳、男性)である。 発症は H12.4.13 で,リハ開始 21 ヶ月経過している。症例の基礎的情報として、Brunnstrom stage は 上肢Ⅰ,下肢Ⅲ,健側上下肢の MMT は 4 レベル, HDS-R14 点,注意・認知の障害がみられる。 装具の装着状況は、自力での MAFO 装着に最短でも 5 分程度要し,装着後の踵部の適合が不十分な状態 であった。 試作した自助具の紹介(写真1,2)と装具装着時 間の比較検討 写真1試作した自助具 写真2MAFOセッティング後 材料は木材(ベニヤ板,ひば板),蝶番,ネジ,L 字固定具を使用し、ベルクロを自助具の横板に貼付して、MAFO 自体の固定力を増加させている。足底 面と床面の角度は自由に調整可能である。 この試作した自助具の有効性を検討する意味で、使用の有無による装着時間を測定・比較を行った。装具 装着はいずれも高さ 36 cm のプラットホーム上端座位にて行った。自助具使用にあたっては、MAFO をあらかじめセッティングした自助具を足下に置き,そこへ下肢を運び入れる様指示した。なお、装着に 要する時間の測定はストップウォッチにて行った。 結 果 MAFO 装着に要する時間は、自助具を使用した場合平均 1 分 23 秒、使用しなかった場合平均 6 分 31 秒 であり、使用しなかった時に比べ 5 分程度の時間の短縮を認めた。また,踵部の MAFO への適合につい ても、若干の不十分さは認められるものの,不使用時に比べると格段に良好であった。症例からの主観的 装着感としても、「MAFO が固定されているため装着し易い」,「楽に装着出来る」と好評であった。 考 察 -4- 平成 13 年度共同研究報告集 自助具を使用した結果から,この症例に関してはMAFOの装着時間が短縮されることがわかった。その 理由としては,①自助具を使用したことによりMAFO自体が固定され安定性が、下肢の運び入れが容易 になったこと,② MAFO のベルクロの帯が靴下等に付着せず下肢を MAFO にスムーズにはめることが できたこと,③ mental 面の低下からくる装着動作の迷いが,自助具の使用により迷いなく MAFO を装 着出来たことなどが考えられた。この自助具の適用条件としては,座位保持能力,健側上肢筋力等の様々 な機能・能力がある程度必要であることが考えられる。 一方、自助具が下肢の外転・外旋傾向への対応ができないなどの課題も明らかとなったことから、これら に対する改善策の検討や、他の症例での実用性の確認なども含め,今後、さらに研究を進めて行きたい。 Ⅱ.青森慈恵会病院における訪問リハビリテーションサービス〜効果検討に向けたベースラインづくりの 取り組み〜 (発表者 青森慈恵会病院 石鳥真奈実、河村善信、大澤由貴,弘前大学医学部保健学科 對馬 均) はじめに 当院では介護保険導入に伴い、平成 12 年 4 月より、2 名の理学療法士が訪問リハビリテーション(以 下、訪問リハ)を実施している。訪問リハ開始から 2 年が経過しようとしているが、利用者の居宅にお ける心身の機能、日常生活動作(以下、ADL)の維持向上を目指し実施している。多くの課題を抱えて いる現在、利用者の現状を詳細に把握し指導に活かすとともに、将来的に訪問リハの効果検討を行うため のベースラインを把握することを目的として、ADL 実態調査を行ったので、考察を加えて報告する。 対象と方法 当院で訪問リハを受けている青森市内の利用者で、平成 13 年 12 月の時点で、ADL 評価得点の結果が把 握できている 29 名(男性 14 名:69 ± 9.7 歳、女性 15 名:69.7 ± 10.2 歳)を対象とした。対象者の ADL 評価には、機能的自立度評価法(以下、FIM)を用いた。その他の調査項目は、性別、年齢、疾患 名とした。 結 果 1. 対象者の一般状況およびサービス内容 対象者の内訳は、脳血管疾患 21 名、整形外科疾患 5 名、その他(パーキンソン病、廃用症候群)3 名で あった。当院における訪問リハの主な内容は、ROM ex.等の機能回復練習、歩行・基本動作指導、ADL 練習・指導、家族への介助方法の指導、家屋改修のアドバイス等である。1回の訪問時間は 30 分前後 で、訪問頻度は 1 週間に 1 回が 17 名、1 ヶ月に 2 回が 7 名、1 ヶ月に 3 回が 2 名、1 ヶ月に 6 回が 3 名 であった。訪問リハ開始から平成 13 年 12 月までの訪問期間は平均 12.0 ± 4.9 ヶ月(MAX18 ヶ月、 MIN3 ヶ月)であった。 2.ADL調査(FIM)結果 FIM の得点を対象者全体でみると平均 94.2 ± 25.6 点であった。疾患別では整形疾患が 112.8 ± 9.3、 脳血管障害 91.9 ± 26.2、その他の疾患 79.3 ± 30.4 であった。全体として FIM の結果を自立度の高い 項目から列挙すると、①理解(6.5 ± 0.9)、②排尿コントロール(6.4 ± 1.5)、③排便コントロール (6.2 ± 1.6)、④記憶(6.1 ± 1.4)、⑤社会的交流(5.9 ± 1.6)、⑥ベッド・車椅子への移乗(5.7 ± 1.7)、⑦食事(5.7 ± 1.8)、⑧トイレへの移乗(5.6 ± 1.7)、⑨トイレ動作(5.6 ± 1.8)、⑩表出 (5.5 ± 2.2)、⑪問題解決(5.3 ± 1.9)、⑫歩行・車椅子(5.3 ± 1.6)、⑬整容(5.2 ± 1.8)、⑭更 衣(上)(4.8 ± 2.1)、⑮更衣(下)(4.7 ± 2.1)、⑯清拭(3.8 ± 2.1)、⑰階段(3.0 ± 2.3)、⑱ 浴槽への移乗(2.9 ± 1.7)という結果であった。 考 察 1.当院訪問リハ対象者のADL状況 今回の ADL 実態調査で自立度が最も高かったのは『理解』の項目であったことから、理解力が、ADL を大きく左右する鍵となるのではないかと思われる。一方、自立度が著しく低かったのは、『清拭』、 『階段』、『浴槽への移乗』であった。これは、種々の理由により自宅入浴が困難なことを物語ってお -5- 平成 13 年度共同研究報告集 り、この項目の改善に的を絞ったサービスの必要性を物語っている。 2.効果検討のための帰結尺度としてのFIM 今回の ADL 実態調査で、FIM を用いた理由は、FIM の方が Barthel Index(以下、BI)よりも評価 段階が細かく、ADL をより客観的かつ詳細に評価できるという点である。いわゆる『慢性期』の対象者 に対する訪問リハの効果を検討するためには、評価尺度が 3 段階(自立、部分介助、全介助)の BI では 尺度が粗すぎて小さな変化は感知され難いと言える。今回の調査から得られた対象者の ADL 状況の傾向 や評価結果をベースラインとして、今後、定期的に FIM による ADL 評価を行い、その経時的変化を明 らかにすることで、訪問リハの効果を検討して行きたいと考える。 ○発表学会等: 第36回日本理学療法士学会,第19東北理学療法士学会 -6- 平成 13 年度共同研究報告集 平成13年度共同研究報告書 タイトル: 片麻痺患者に対する運動負荷試験の変法について〜欧論文抄読から 鳴海研究所清明会鳴海病院 ○長内 央臣 弘前大学医学部保健学科 対馬 栄輝 【抄読論文】 1)タイトル:脳卒中片麻痺患者における低負荷のトレッドミル負荷試験 R.F.Macko,et al:Low‑Velocity Graded Treadmill Stress Testing in Hemiparetic Stroke Patients.Stroke 28:988−992,1997 本研究の目的は,多様な歩行障害を示す脳卒中片麻痺患者に対する低負荷でのトレッドミル負荷試験の安全 性と有効性を検証することである。対象は発症後3ヵ月以上を経過した脳卒中患者31例で,うっ血性心不全, 狭心症,末梢血管障害,整形疾患,痴呆は除外した。31例中,冠動脈疾患(CAD)の既往ありが7例(冠動脈バ イパス術歴3例,心筋梗塞入院歴4例),CADの既往なしが24例で内11例は安静時ECGの異常所見が見られた。ま た,高血圧症の既往が22例(β遮断薬3例,他の降圧剤19例)で見られたが研究期間中の服薬は継続した。研 究に必要な移動能力は自助具(4点杖,歩行器など),または近位監視で少なくとも30feet間歩行可能を条件 とした。対象者のADLはT字杖使用19例,自助具なし5例,車椅子使用7例(少なくとも30feet間は,四点杖5 例,T字杖1例,歩行器1例で移動可能)であった。方法は,最初に平地歩行の安楽な30feet間の所要時間を計 測し,測定6回中上位3回の平均値(mile/h)を採用した。トレッドミルではベルトの最小可動速度を0.5 mile /h,ハンドレールの支持は任意とし,ECG,バイタルをモニターしながら,傾斜0°,速度0.5mile/hで開始 し,各々の歩行能力に応じて0.1mile/hごとに増大し,0.5mile/h以上で3分間以上連続歩行可能な速度を目標 速度とした。15分間の休憩後,Harborプロトコールの変法により開始2分間は傾斜0°,次の2分間は傾斜4%, その後2分毎に2%ずつ傾斜を挙上した。運動負荷終了基準は,目標心拍数(年齢予測最大心拍数=220−年 齢),不安定な歩容,心肺徴候(American College of Sports Medicineの基準),ECGで2mm以上のST下降 (ミネソタコードの心筋虚血レベルよりも更に1mm以上),RPP(二重積;負荷試験終了前後に立位で測定)と した。得られたデータから,平地歩行とトレッドミル負荷試験の速度の関係および負荷試験終了基準の分類を 比較した。 結果は,平地の平均歩行速度は1.6±0.6mile/hであった。平地歩行とトレッドミル負荷試験の速度の関係は高 い相関が見られた(r=0.8)。トレッドミル負荷試験は,31例中30例が試験を完了しその基準は,主観的疲労 (23例),心肺徴候(4例),麻痺側下肢の疲労(1例),非麻痺側下肢の疲労(1例),跛行(1例)であっ た。1例は傾斜0°のトレッドミル歩行が途中で困難(ADLで車椅子移動)となった。平均目標心拍数は129beat /min(予測最大心拍数の平均84%;予測最大心拍数の75%以上が26例,75%以下が4例でβ遮断剤服用2例,呼 吸困難1例,跛行1例)であった。CADの既往のある7例中に歩行障害1例,股関節痛1例,洞性頻脈のあるST下降 1例が見られた。CADの既往のない24例中,7例に無症候性心筋虚血反応(タリウム‑201シンチグラフィー,血 管造影法にて陽性;ST下降5例,心室性期外収縮のあるST下降1例,呼吸困難1例)が見られた。平均RPPは236. 1±48(負荷試験前101.3±12.9で平均133%の増大)であった。 脳卒中に合併する心疾患は,リハビリテーションと長期の健康維持を妨げる重要な因子であるが,運動負荷試 験は脳卒中患者の全身持久力訓練の処方に必要なスクリーニングとして多用されていない。この理由は,転倒 リスクのある患者ではトレッドミル歩行の安全性の欠如がある。先行研究では軽度運動障害の若年CVD患者 に,Bruceのプロトコールを使用している。しかし,本研究ではBruceのプロトコールは困難であるため,低負 荷としたプロトコールにより運動負荷試験の終了基準まで実施することが可能であった。高齢脳卒中片麻痺患 者(平均年齢71歳)を対象とした背臥位での自転車エルゴメーター負荷試験の研究では,11例中2例だけが予 測最大心拍数の85%より大きい値まで到達し,RPPの中央値が55%増加したことを報告したが,本研究では大 多数が予測最大心拍数の平均84%まで達し,RPPが133%増大した。この結果から,本研究でのRPPが最大運動 -7- 平成 13 年度共同研究報告集 負荷の際の心機能を十分に反映する指標であり,低負荷のプロトコールが負荷試験として有効な方法であった ことを示す。対象者の負荷試験の終了理由が麻痺側下肢の疲労ではなく,主観的疲労か心肺徴候であった。つ まり,麻痺側下肢の問題よりも身体的デコンディショニングが最大運動負荷能力を制限する重要な因子である ことを示す。タリウム‑201シンチグラフィーを用いたトレッドミル負荷試験の研究では,CADの既往のない慢 性期CVD患者の28%に無症候性心筋虚血が存在したことを報告し,本研究でもほぼ同様の結果となった。この ことは,本研究の負荷試験が脳卒中片麻痺患者に高率に合併するCADと,無症候性心筋虚血の存在を証明でき る方法であったことを示している。 2)タイトル:片麻痺患者に対するブリッジ運動を用いた運動負荷試験 Tetsuya T,et al:Bridging Activity as a Mode of Stress Testing for Persons With Hemiplegia.Arch P hys Med Rehabil 80:1060−1064,1999 本研究の目的は,片麻痺患者に対する負荷試験の変法としてのブリッジ運動(BA)を用いた負荷試験プロト コールを確立することである。対象は,車椅子坐位が30分以上可能な脳卒中片麻痺患者69例(発症後2週以 上)と健常者10例で,重度の虚血性心疾患,コントロール不能な高血圧症,肝・腎機能障害,β‑blockerの服 用は除外した。最初に,BAの負荷プロトコールを設定するため,片麻痺群5例を対象に22℃空調の部屋で15分 間の安静後,1分間に3回繰り返す(3RPM)BAを最初の4分間で行い,以後4分毎に6RPM,12RPM,18RPM,24RPM へ増加させた。運動ペースはメトロノームに合わせて継続するよう指示した。運動中は,Benchmark Exercise System(呼吸気流量計,呼気ガス分析装置)及びECGで,酸素摂取量(VO 2)と心拍数(HR)をモニターし た。BAの各RPMの最後の1分間のHRとVO 2の平均値から心拍酸素係数を求めた。5例とも安静時から24RPMまでのB Aプロトコールを完了し,HRとVO2の関係は直線回帰されたこと(心拍酸素係数は0.19(R2=0.98))から,BA プロトコールは全対象者に適用と判断された。このプロトコールを用いて,片麻痺群44例と健常群10例におけ る各RPMのHRと安静時HRからの増加量,VO 2,心拍酸素係数を比較し,健常群10例と片麻痺群44例中39例(88.6 %)は安静時から24RPMまでBAプロトコールを完了(中止→腰部脊椎症2例,開始直後で辞退2例,心房性期外 収縮1例)した。その結果,2群間の安静時HRからの増加量は,6,12,18,24RPMで有意差があったが,各RPMのH R,VO2で有意差がなかった。心拍酸素係数は健常群(0.29±0.04;R 2=0.97)よりも片麻痺群(0.21±0.08; R2=0.98)で有意に低かった。この実験から,1週間以内に片麻痺群5例(発症後3ヵ月以上)と健常群5例で, 同様の比較実験を行い,BAプロトコールのテスト・リテスト再現性を調査した結果,級内相関係数(ICC)は 両群の各RPMで,HR>0.9,VO 2>0.7,心拍酸素係数では健常群0.75,片麻痺群0.98であった。BAプロトコール による実験から3〜4ヵ月間の脳卒中リハ・プログラム(週5日のPT,OT,ST,adapted physical education) 介入後のHR,VO2,心拍酸素係数の変化を検証した結果,HRは介入後のテストの各RPMで有意に低かったが,VO 2では有意差がなかった。心拍酸素係数は介入後で有意に増加した。 多くの脳卒中患者は,伝統的なトレッドミル,自転車エルゴメーター負荷試験が困難なため,上肢エルゴメー ター,改良型自転車エルゴメーター,低負荷強度のトレッドミルや自転車エルゴメーター,反復起立動作,体 幹前後屈運動,などの多様な方法が試行されている。しかし,座位や立位の支持性が不十分な片麻痺患者はい ずれの方法も不可能である。BAはすべての脳卒中患者にとっての急性期リハ・プログラムで可能な基本的ベッ ドサイド訓練の1つであり,本研究はBAを負荷試験として採用した最初の試みである。BAプロトコールの信頼 性と妥当性は,すべての負荷レベル(RPM)でのHR,VO2,心拍酸素係数のテスト・リテスト再現性の検定で, 0.7よりも大きなICCを示し,健常群と片麻痺群で回帰直線が求められたことから実証された。BAがHRに影響を 与える因子は,活動筋の筋収縮パターン,運動強度,動静脈血酸素較差,循環血液量,姿勢変化に対する静脈 環流量,心筋収縮性,心理的ストレスとされている。本研究のHRの安静時からの増加量は,健常群よりも片麻 痺群で大きくなる傾向を示した。この事は,身体活動性が低い片麻痺患者ではベッド上で臥床傾向にあり,廃 用性の心機能低下が生じていたためと考えられる。また,両群の各RPMのHRは有意な変化がなかったが,これ は本研究が背臥位で実施されたこと,BAが主に運動神経の両側性支配下にある体幹筋を用いていることから, 片麻痺による運動制限の影響と姿勢変化に対する静脈環流の変化が小さくなり,各負荷レベル(RPM)間のHR に影響を与えることが少なかったと考えられる。しかし,仮に坐位や立位での運動負荷では,心機能の低下と 静脈組織の適応能力の低下により,心拍出量の減少とHRの増加が生じると考えられる。さらに,片麻痺患者の 基本動作のVO2については,腕の挙上,寝返り,ブリッジ,起き上がり,立ち上がり,steppingから成る個 々の基本動作のレベルを比較した結果,立ち上がりとstepping以外の動作で片麻痺群と健常群でVO 2に有意 差がなかったことが報告されている。本研究のBAのすべての負荷レベルでのVO2においても両群に有意差が ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ -8- 平成 13 年度共同研究報告集 なかったが,これは各RPM間のHRの反応結果と同様である。本研究で体力の指標としたて心拍酸素係数は,HR が無限大に増加したと想定した時の酸素脈(酸素消費量/心拍数)に相当し,VO2maxと十分に相関すると報告 されている。健常者のVO2maxは体力の指標として一般的だが,障害者や高齢者に対して最大の運動負荷を与え ることは困難である。しかし,心拍酸素係数は最大下運動から導き出され心肺持久力の通常の指標となる。本 研究の心拍酸素係数は片麻痺群よりも健常群で高かったが,2群間の心拍酸素係数の違いは体力レベルの違い として解釈できる。本研究はリハ・プログラム終了時の測定で,HRの減少と心拍酸素係数の増加を示した。こ れは,体力レベルと運動機能の改善によって引き起こされたと考えられ,片麻痺患者の訓練効果の指標として 心拍酸素係数を適応できる可能性を示唆する。 ○保健学科理学療法学専攻内抄読会にて発表 ・ ・ -9- 平成 13 年度共同研究報告集 平成13年度共同研究報告書 タイトル: 頸髄症に対して手術治療を行った顔面肩甲上腕型筋ジストロフィー患者の理学療法 国立療養所岩木病院 ○花田 直美,工藤 貴子,宇野 光人 弘前大学医学部保健学科 石川 玲 【はじめに】 肩甲上腕型筋ジストロフィー(以下 FSHD)は顔面筋、上肢および肩甲帯を主体とし腰部、下肢筋の筋力低下を 呈する。進行は比較的緩徐であり立位、歩行能力は中年以降まで保たれ、天寿をまっとうする症例が多い。本症に対 する理学療法の目的は筋力維持、関節拘縮を防ぐことであり、立位・歩行練習は有効な運動プログラムである。今 回、頸髄症を合併し歩行不能となった症例を経験し、手術前後の理学療法を行う機会を得たので報告する。 【症例の経過】 52 歳、男性。13 歳頃から両上肢の脱力があり 45 歳で FSHD の診断を受ける。H12 年 4 月歩行困難となり当院入 院。検査の結果、C3/4 頸髄症を合併したと診断される。H12 年 5 月 23 日手術(C3-7 laminoplasty)施行。術後 7 日目より、四肢 ROMex.、ヘルプアームを使用した上肢機能運動、起立台による立位練習、頸部周囲筋の等尺性運動 を開始し、頸椎ソフトカラー装着は2週間とした。術後、四肢の痺れ、脱力感が改善し、我々が試作した起立補助ベ ルト使用下での立位保持が可能となった。しかし H12 年 12 月、再び症状増悪。頸椎後弯に伴う術後瘢痕組織による 再狭窄と診断され、H13 年 5 月7日 手術(後方除圧、棘突起スペーサー抜去、硬膜外組織除去)施行。術後9日目 からソフトカラー装着にて坐位練習を開始した。11 日目から平行棒内にて簡易膝装具を使用して立位保持練習を開 始。足関節背屈可動域が改善し、手袋・靴下状の触・痛覚鈍麻、痺れが軽減したことにより、立位の安定性が向上し た。膝周囲筋低下による膝折れ防止のため、膝装具を用い、4 週目には平行棒内歩行が可能となった。現在は歩行練 習、上肢機能運動、ADL 練習などを中心とした理学療法を継続している。また後弯防止のため、ソフトカラーは現 在も装着中である。 【考察】 術後再悪化の経験から、FSHD に頸髄症を合併した本症例では頸部の前弯を保つことが重要である。FSHD では そもそも頸部周囲筋が弱く、リハビリテーションでの筋力回復は見込めないので、カラー除去にこだわるべきではな い。術後プロトコルは通常の頸髄症プロトコルに準じ、積極的に離床、立位練習を開始した。本症例は術後 4 週目 に膝装具で膝伸展筋力をサポートすることにより平行棒内歩行が可能となった。術後の回復が比較的早かったのは、 頸髄症に多くみられる痙性による運動障害はむしろ少なかったこと、感覚障害が軽減したこと、立位練習の継続によ り、立位・歩行に必要な可動域を十分獲得できていたことによるものと思われる。 ○発表学会等: - 10 - 平成 13 年度共同研究報告集 平成13年度共同研究報告書 タイトル: 筋強直性ジストロフィーの運動機能障害度分類 国立療養所岩木病院 ○宇野 光人,花田 直美 弘前大学医学部保健学科 石川 玲 【概要】筋強直性ジストロフィー(以下 MyD と略す)は、常染色体優性遺伝の形式をとり、筋強直と筋 萎縮を主徴とする疾患である。四肢の筋萎縮・筋力低下は近位筋優位であり、顔面筋、咬筋、胸鎖乳突 筋、前腕、及び下腿筋群に早期に出現し、多くの例は、発症後 15 〜 20 年で歩行が困難になる。また、 強くこぶしを握った後、開こうとしてもなかなか開けず時間がかかる grip myotonia、叩打刺激により 筋が持続的に収縮する percussion myotonia 等のミオトニー反応を認める。さらに、白内障、心筋伝導 障害、内分泌異常、禿頭、生殖腺萎縮や知能低下、性格異常等、全身性多岐に渡る異常を特徴とする。 上記のような際だった特徴にもかかわらず、MyD では、未だに運動機能障害度が制定されておらず、類 似疾患としてデュシェンヌ型筋ジストロフィー(以下 DMD と略す)の運動機能障害度がしばしば用い られてきた。しかし、筋強直や筋萎縮・筋力低下のパターンの相違により、合致しない点も見受けられ る。さらに発症年齢が 10 歳代〜 50 歳と幅広く、その進行過程も各症例間で著しく異なっていることか ら、年齢からの推測も困難である。 運動機能障害度の分類は、その進展過程における診断や治療効果判定、または理学療法を実施する上での 評価の基準として必要であり、さらに MyD は、筋ジストロフィー関連施設のみならず、一般病院でも多 数見受けられる疾患であることから、今回、MyD の運動機能障害度分類の作成とその普遍性・汎用性の 検討を試みたので報告する。 【対象・方法】当院入院の MyD 患者 28 名(男性 16 名、女性 12 名)、外来 MyD 患者 14 名(男性 7 名、女性 7 名)に研究参加を依頼し、インフォームドコンセントを得た。我々の選択基準は、発症年齢 が 10 歳代〜 50 歳の MyD であり、出生直後から筋症状を有し、呼吸困難・哺乳力低下で死亡すること もある重篤な congenital type や 60 歳代になっても僅かな筋力低下のみで健常者と区別が付けにくい不 全型症例は除外した。さらに既に死亡した MyD 患者の内、運動機能障害を少なくとも 5 〜 10 年に渡っ て、経時的変化を評価できた 9 名(男性 7 名、女性 2 名)も対象とした。 すべての患者に対して、3 ヶ月毎に運動機能障害度の分類を行った。その判定基準には、DMD の判定 基準であるニューヨーク大学障害度と厚生省 8 段階分類の問題点を検討し、改良した判定基準(以下 DMD Stage と略す)と国立療養所鈴鹿病院で MyD の判定基準として考案した移動 Stage の判定基準 (以下鈴鹿移動 Stage と略す)を使用した。MyD は症例毎に著しく進行過程が相違しており、そのため DMD 以上に各段階間での進行過程とは逆の過程を辿るいわゆる「逆転現象」が起きやすいことから、今 回さらに各運動項目を抽出し、各段階に複数の運動項目を設け、その段階のすべての複数運動項目が可能 だった場合にその段階とする簡易な判定基準(以下岩木 MyD Stage と略す)も試行した。 判定には、筋ジストロフィー評価に熟練した PT4 名、PT 助手 2 名が当たった。 【結果】DMD Stage を使用した場合、判定不能だったのが 5 例、検者間で不一致だったのは 4 例であ り、逆転現象も 5 例みられた。鈴鹿移動 Stage では Stage7 の座位保持可能が端座位保持可能なのか支 持(各種坐位保持装具)があれば坐位保持可能なのか判然としないため、判定不能だったのが 3 例あっ たが、PT・PT 助手とも検者間で不一致はなかった。岩木 MyD Stage では判定不能だったのが 1 例あっ たが、PT・PT 助手とも検者間で不一致はなかった。また、鈴鹿移動 Stage では階段昇降が要介助で可能 にもかかわらず、平地歩行の 10m 独歩が不可能だったのが 4 例等、Stage2 と Stage3 間で「逆転現象」 が起きていた。 既に死亡した MyD 患者 9 名(男性 7 名、女性 2 名)の経時的変化でも、歩行可能時期と階段昇降時 - 11 - 平成 13 年度共同研究報告集 期、さらに床からの立ち上がりや訓練用台からの立ち上がり時期が混在していることがわかった。また、 死亡時の障害段階は歩行時期に死亡した例が 3 例、端座位保持可能または支持があれば坐位保持可能時 期が 5 例、常時臥床時期が 1 例等、DMD Stage が障害段階と疾患全体の進行度を表しているのに対し て、MyD では必ずしもそれが相関してないことがわかった。 【考察】DMD の判定基準として用いられてきたニューヨーク大学障害度と厚生省 8 段階分類では、進行 過程とは逆の過程を辿るいわゆる「逆転現象」が起きる可能性があり、臨床の場で混乱が起きることもあ った。しかし、それらを改良した DMD Stage(厚生省筋ジス研究第4班 PT・OT 共同研究連絡会によ る)が作成されたことによって、DMD の判定ではその混乱も収束することになった。一方で、MyD は、その発病率においても DMD に匹敵するにも関わらず、障害段階分類作成に遅れをとってきた。さ らに DMD の障害段階分類が MyD に使用されることにより、その進展過程における診断や治療効果判 定、または理学療法を実施する上での評価の基準としても不十分なことがあった。 今回の結果はこのこ とを如実に表しており、他の研究報告で実際にみられるDMDの障害段階分類をMyD患者に適用するようなこ とは行うべきではないと考える。 従来、各段階の項目を考える上で、障害段階分類の最初の段階は、介助なしの安定した階段昇降という 項目であることが多かった。今回の研究の結果では、その考えが踏襲された鈴鹿移動 Stage では「逆転 現象」が起きやすくなることがわかった。また、鈴鹿移動 Stage では、平地歩行可能(独歩で 10m 以 上)→介助歩行可能(10m 以上)→介助歩行可能(10m 未満)という段階進展だが、しかし、今回の研 究では、独歩で 10m 以上可能だが、トランスファーや車椅子からの立ち上がりが介助という症例が 2 例 いた。さらに実際に日常生活では、独歩で 10m 以上可能でも転倒の恐れから介助歩行をしている症例が 6 例あったことから、鈴鹿移動 Stage は全体像や各症例の進行過程の把握が不十分であると考えられ た。 我々は、MyD が全身多岐に渡る疾患であり、その進行過程が各症例間で著しい相違を見せることから、 まず、最も難しい運動項目を安易に階段昇降にしないことを留意点とした。さらに各障害段階に複数の項 目を抽出することが各段階間での「逆転現象」を起きにくくし、その結果として非常に把握しにくい MyD 症例でも全体像が捉えやすくなると考えた。また、その段階の項目のひとつでも不可能な項目があ ると次の段階に移るという規定により、判定が簡便になり、理学療法評価法として、普遍性・汎用性が飛 躍的に増大すると考えた。 今回の研究では、岩木 MyD Stage では、判定不能だった症例は 1 例だった。この症例は、頸・上肢筋力 の筋萎縮、筋力低下が著しく、トランスファーは全介助であり、電動車椅子の座面を特別に高くすること によって立ち上がり可能という症例であった。しかし、平行棒内歩行は可能であったことから、Ⅵの注釈 として「トランスファー介助でも平行棒内歩行 10 往復以上ならⅤとする」を添えた結果、岩木 MyD Stage は今回の全症例に適合した。また、歩行に関しても、日常生活や評価時の転倒の危険性から、独歩 には拘らないことにした。それがまた、障害段階分類の一般化につながっていくのではないかと考えた。 今後の課題として、症例をさらに重ね、歩行パターンによって障害段階分類を樹形図化したり、他のパラ メータとして下肢のみならず上肢や体幹の筋力との相関を検討するなどし、岩木 MyD Stage の妥当性に ついてさらに検討する必要があると考える。 ○発表学会等:第 57 回国立病院療養所総合医学会、平成 14 年度厚生労働省精神・神経疾患筋ジストロ フィー班会議発表予定 - 12 - 平成 13 年度共同研究報告集 平成13年度共同研究報告書 タイトル: 頸髄症に対して手術治療を行った顔面肩甲上腕型筋ジストロフィー患者の理学療法 国立療養所岩木病院 ○工藤 貴子,宇野 光人,花田 弘前大学医学部保健学科 石川 玲 直美 【概要】 筋強直性ジストロフィー(以下 MyD と略す)の成人型は 20 〜 50 歳頃に発病し、発症後 15 〜 20 年で歩行不能に なるといわれる。この病型の特徴として、手指の異常な筋緊張(ミオトニア:myotonia)、四肢末梢の筋および顔 面筋など近位筋の萎縮・筋力低下、精神障害、呼吸機能障害などがある。特に精神障害では知能・性格障害や自発性 ・積極性・意欲の低下がおこり、リハビリテーションの阻害因子となっている。入院患者だけでなく、在宅の MyD 患者にとってリハビリテーションの継続はなおさら困難であり、身体機能や ADL 能力を低下させている。在宅にお いても残存機能を可能な限り維持する運動を日常的に取り入れることが大切である。 今回、在宅 MyD 患者のホームエクササイズのパイロットスタデイとして Myotonic 体操(以下 MyO 体操と略す) を考案し、当院で歩行可能な MyD 患者を対象に施行したので報告する。 【対象と方法】 対象は歩行可能な MyD 患者 3 名とした。MyO 体操は毎日午前 9 時からラジオ体操第一・第二の曲に合わせて約 10 分間行った。期間は 3 週間で、最初と最後に呼吸機能の改善がみられるかどうか知るために肺活量(VC)と 1 回換 気量(TV)を計測した。また運動時のリスク管理のためにメディカルチェックとして、パルスオキシメーター(木村 医科器製 model Handy 100)で SPO2 と脈拍を体操の前後に計測した。 MyO 体操を長期継続するためには、身体的・精神的に苦痛を与えないものであることが必須条件である。そのた めには、「楽しい・簡単・短時間・疲れない」ものでなければいけない。同時に関節可動域の増大・維持、関節の変 形や拘縮予防、呼吸機能の増大・維持をめざすことが望ましい。また過用性筋萎縮・筋力低下をおこさないように疲 労の自覚的運動強度として Borg 指数を使用し、以下のように MyO 体操を考案した。 1.腹式呼吸運動 ①下肢を肩幅に広げて立ち、息を鼻で大きく吸いながら上肢を挙上する。上肢を下垂しながら口を っくりと息を吐く。 2.顔面筋の運動 ②「アー」と声を出す要領で大きく口を開ける。 ③「イー」と声を出す要領で口角を引き上げる。 3.頚部筋の運動 ④頚を前後屈する。 ⑤頚を左右交互に回旋する。 4.上肢の運動 ⑥両手を合わせて左右に曲げる。 ⑦両手を合わせ、肘を伸展し上下する。 ⑧手・肘関節を伸展し、もう片方の手で指をストレッチする。左右交互に行う。 ⑨両手を背中で握り(肩関節の外転・内旋)上下する。 ⑩肩・肘関節を屈伸しながら、手を握ったり開いたりする。 5.体幹・下肢の運動 ⑪両手を大きく振り、その場で足踏みをする。 ⑫体幹を 90 °前屈し、腰に手をあてて後屈する。 ⑬肩関節を外転・外旋し、スクワットしながら左右へ体幹を捻る。 ⑭ゆっくりと体幹を側屈する。左右交互に行う。 - 13 - すぼめてゆ 平成 13 年度共同研究報告集 6.腹式呼吸運動 ⑮下肢を肩幅に広げて立ち、大きく鼻で息を吸いながら上肢を挙上する。上肢を下垂しながら口を っくりと息を吐く。 すぼめてゆ 【結果】 メディカルチェックとして測定した SPO2 と脈拍は体操前後でほとんど変化がなかった。SPO2 は 2 名で体操後 に約 1 %減少、1 名で 0.08 %増加した。。脈拍は 2 名で体操後 0.7 回/分増加、1 名で 6 回/分減少した。 VC と TV は、図 1 に示したようにいずれの対象者も 3 週間後に増加した。 VC TV (L) [図 1] 症例 A 〜 C 左は MyO 体操開始前 右は 3 週間後 (L) 4 1.5 3 2 1 1 0.5 0 0 A B C A B C 疲労度を示す Borg 指数は MyO 体操開始時は 20 段階の 13「ややきつい」であったが、1 週目になると 20 段階の 11「楽である」に変化した。 MyO 体操実施後、対象者のリハビリテーションへの意欲に以下のような変化がみられた。 ①運動療法室へ来る時間が早くなった。 ②これまでスリッパを履いていたのに自分から運動靴を履いてきた。 ③運動療法室内ではおしゃべりや居眠りをすることが多かったが、早く体操をしようと言ったり、体 操中のかけ声 を自発的にするようになった。 【考察】 筋ジストロフィーは病気の進行とともに呼吸機能の障害や血液ガスの異常が出現する。これは呼吸筋特に横隔膜の 筋ジストロフィー病変による麻痺のためと考えられる。MyD の特徴である高炭酸ガス血症は、歩行可能な運動機能 障害が比較的軽度な患者でも観察されることがあるため注意が必要である。そのために本研究でもリスク管理として パルスオキシメーターを使用し注意して施行した。MyO 体操は次に述べるように MyD の特徴を考慮して考案し た。 腹式呼吸運動:呼吸筋である肋間筋や横隔膜は、病気の進行による筋萎縮だけでなく、生活が不活発になると不使 用による廃用性筋萎縮も起こってくる。深呼吸しながら上肢を上下することによって胸郭の動きを保つ効果が期待で きる。 本研究で VC と TV の増加がみられた理由として、腹式呼吸運動の効果が考えられる。しかし、3週間と期間が短 かったため、スパイロメーターでの換気量測定に対する学習効果と測定誤差の影響も否定できず、今後さらに症例を 重ねて検討する必要がある。 顔面筋の運動:MyD は顔面筋・頬筋・咬筋・側頭筋・眼瞼挙筋などが筋萎縮を生じ、そのために瓜のように細長 いミオパチー様顔貌を呈する。また咽頭・喉頭筋・口蓋筋などの筋力低下のため発声も弱くなり発語が不明瞭になる 構音障害を生じる。この運動で顔面筋を大きく動かすことによって、豊かな表情をつくれるのではないかと考えた。 しかし最初は恥ずかしいという思いもあってか、わずかに口を開くだけであったが次第に慣れてくると思いきり大き な口を開け、表情も豊かになってきた。 頚部筋の運動:MyD では胸鎖乳突筋などの頚部筋が早期におかされ、車椅子生活になるとヘッドレストを高くし て座位を保たなければいけなくなる。さらに、頚の変形は脊柱変形にもつながるため頚部筋の筋力維持と伸張運動は 重要である。 上肢の運動:上肢や手指をゆっくりとストレッチした後に手を握ったり開いたりすることによって、MyD の特徴 であるミオトニアを緩和する。対象者たちにとって自分でストレッチすることや手を開くことは難しい運動のようで あったが、毎日続けることによってリズムに合わせ大きく手を開けるようになった。 体幹・下肢の運動:MyD では前脛骨筋や腓腹筋などの遠位筋が早期におかされ歩行が障害される。さらに車椅子 生活になると、腸腰筋・大腿筋膜張筋・ハムストリングスの短縮が生じてくる。体幹・下肢の運動は脊柱の変形を予 防し、立位バランスを向上させる。また体幹の側屈は胸郭の柔軟性を維持させるのに効果的である。 - 14 - 平成 13 年度共同研究報告集 リスク管理のため測定した SPO2 と脈拍や Borg 指数の結果から、MyO 体操は身体的負担の少ない安全・適度な運 動で、かつリハビリテーションへの意欲をもたらすということが分かった。したがって、MyO 体操は在宅患者に対 しても有効なのではないかと考える。今後、この MyO 体操を在宅患者へのホームエクササイズとして検討していき たい。また、入院している MyD 患者でも在宅の MyD 患者でも、変化のない日常生活の中にリズムをつけて精神的 な活性化を図り、活気ある日常生活を過ごせるように援助することが我々にも必要であると考える。 発表学会等: なし - 15 - 平成 13 年度共同研究報告集 平成13年度共同研究報告書 タイトル: 脳卒中片麻痺患者の歩行機能に関する研究 津軽保健生活協同組合健生病院 ○清野 敦美 弘前大学医学部保健学科 尾田 敦 歩行機能について調査するため,弘前大学医学部保健学科理学療法学専攻抄読会に参加し以下の文献を抄読担当し た。 脳卒中発症時の下肢の麻痺と歩行機能の予測 Prediction of Walking Function in Stroke Patients With Initial Lower Extremity Paralysis:The Copenhagen Stroke Study 【目的】脳卒中発症時の下肢の麻痺が,歩行機能の回復に関与しているかどうか検討することである。 【対象と方法】The stroke unit of Bispebjerg Hospital に入院した急性期脳卒中患者 73 名を対象とし,歩行機能が回 復した群(15 名)としない群(58 名)に分類した。そして対象者の入院時における年齢,性別,Barthel Index,神 経学的な検査や歩行の評価などが点数化されている Scandinavian Stroke Scale(SSS)score,CT 上の損傷範囲,合 併症を比較した。また SSSscore の下肢筋力の項目の点数を用い,発症直後から 1 週間毎に 3 週までの筋力を群間で 比較した。 【結果】入院時の BI を除いて,年齢,性別などは群間で有意差は認められなかった。入院時の BI が 50 点以上であ った対象者では全例が歩行機能の回復を認めた。下肢筋力については,歩行機能が回復した群では回復しない群と比 較して,発症直後の 1 週間での増加量に有意差が認められた。しかし 2 週目以降では有意差は認められなかった。 【考察】下肢麻痺症状を有する脳卒中患者において,発症直後に最終的な歩行機能を予測するための因子としては, BI と発症直後 1 週間で下肢筋力の増加量が挙げられる。 三点歩行:荷重時の床反力の変化 Three-Point Gait Crutch Walking:Variability in Ground Reaction Force During Weight Bearing 【目的】部分荷重(PWB)における三点歩行時の床反力のパターンの変化や,生体力学的な特性を運動学や運動力 学の見地から調査・研究することである。 【対象と方法】健常者 12 名(男 3 名,女 9 名)を対象とし,三点歩行の様式と体重の 10%,50%,90%PWB を指 導して,2 日間練習してもらった。自宅にて 1 日 30 分間杖歩行の練習をし,実験直前にも約 5 分間練習してもらっ た。正常歩行,10%,50%,90%PWB の順に 8 回ずつ歩行し,床反力計と三次元動作分析装置にて各歩行時の床反 力および各関節の角度,並びに時間的歩行要素について計測した。 【結果】杖歩行では重心が健側に移動し体幹や骨盤は前傾,そして患側の立脚初期の膝関節の屈曲角度が増大し,足 尖離地時の足関節底屈が減少していた。正常歩行と比較して杖歩行では,歩行率,歩行速度,歩隔,患側支持時間に おいて有意に減少し,歩幅,両脚支持時間は有意な変化はなかった。杖歩行時の床反力のパターンの変化は見られな かったが,垂直方向の床反力は減少した。また設定した三段階の部分荷重は 50%PWB の時を除いて正確に実施され ていなかった。 【考察】本研究における被験者は健常者であり,疼痛などのフィードバックがないため,特に 10%,90%PWB とい う極端な PWB が正確に実施することが出来なかった。杖歩行時患側で床反力が減少した理由として,杖により体重 の一部が支持されるために健側に重心が移動していること,また歩行速度が減少していること,さらに患側の膝・足 関節により床面から受ける衝撃を吸収していること,などが考えられた。 発表学会など:保健学科理学療法学専攻勉強会 - 16 - 平成 13 年度共同研究報告集 平成13年度共同研究報告書 タイトル: 介護老人保健施設における高齢者の体力評価 社会福祉法人博陽会 介護老人保健施設希望ヶ丘ホーム ○經堂 恵美 弘前大学医学部保健学科 尾田 敦 【概要】施設で生活する高齢者は、在宅で生活する高齢者に比べ日常の移動範囲は大きいものの、ADL や生活関連動作は介助に委ねられるため限られたものとなり、体力が容易に低下しやすいことが予想され る。 そこで今回、介護老人保健施設に入所する高齢者を対象に、全身筋力の指標とされる握力を測定し、移 動形態での比較検討を行った。 【対象と方法】対象は介護老人保健施設希望ヶ丘ホーム(以下、当ホーム)に入所中の女性 29 名であ る。平均年齢は 82.7 ± 5.69 歳である。日常生活で主な移動手段が車椅子の者(以下、車椅子群)は 12 名、独歩が可能な者(T 字杖、シルバーカーの使用を含む、以下独歩群)は、17 名であった。 握力は、スメドレー式握力計を用い、検者の「できるだけ力を入れて」の指示により、全力にて 3 秒 間持続保持させ、左右 3 回ずつ測定した。被験者の中には、上肢に麻痺のある者がいたが、実用手から 廃用手とレベルが様々だったため、利き手にはこだわらず、左右の測定結果から最大のもの(以下、最大 握力)を用いた。立位が不安定な者には、坐位で計測を行った。統計処理には、ウェルチのt-検定を用 いた。 【結果】車椅子群の最大握力は平均 11.8 ± 2.78kg、独歩群では平均 13.8 ± 4.27kg であり、両群の間 に有意な差がみられた(p<0.05)。 表1 車椅子 独歩群 車椅子群と独歩群の最大握力 年齢 80.3 ± 5.51 84.4 ± 5.30 最大握力 11.8 ± 2.78 13.8 ± 4.27 n=12 n=17 p<0.05 また、車椅子群では 80 歳未満の 2 名の値が、80 歳以上に比べ高い値となり,80 歳以上は低い値で一定 の分布がみられた。独歩群での分布は、緩やかに下降傾向を示し,大きな特徴はみられなかった。 【考察】在宅と比べ施設での生活は、居室から食堂、浴室などの ADL を行う場所までの距離は遠いこと が多い。車椅子の移動ではハンドリムを握る、離すという動作を繰り返すことになるが、今回の結果で は、そのような動作を日常的に行っていない独歩群の方が最大握力の値が高い結果となった。これは、車 椅子を自操するよりも、日常生活を立位で行っている方が上肢筋力が保たれていたといえる。 また、両群の散らばりでは、車椅子群で 80 歳未満の値が目立って大きく、80 歳以降では低い値で一 定の分布をしていた。これは、車椅子使用が加齢に伴う握力の減少に加速を加える可能性があることを示 唆しているかもしれない。一方、独歩群では分布が緩やかに下降傾向にあるものの分散しており、握力の 減少は加齢の影響もあるが、減少の速度はなんらかの要因により小さくなることが予想された。 また、文部省の「平成 10 年度体力・運動能力調査結果について 」によると、筋力の指標である「握 力」は,男女の差が 11 歳以降顕著になり,また,他の体力要素と比べ,ピークに達する時期が遅い。ピ ーク時を 100 %とすると,男女とも 75 〜 79 歳で約 70 %にまで低下する、とされている。80 歳以上の 握力のデータは公開されているものが少なく、予測の域を越えないが、独歩群の最大握力からピーク時の 握力を予測すると、今回の結果は 20 kg以下の低い値になり、多角的に継続して施設生活高齢者の体力 を評価していく必要性があると思われた。 発表学会:なし - 17 - 平成 13 年度共同研究報告集 平成13年度共同研究報告書 タイトル: 症例検討〜投球障害肩へのアプローチ (医)整友会 弘前記念病院 ○齊藤千恵美 弘前大学医学部保健学科 尾田 敦 【はじめに】当院では,1 年程前から投球障害肩に積極的に取り組んでいる。この間,試行錯誤しながら 行ってきたことを,1 症例を通して報告する。 【症例紹介】17 歳男性。M 高校 2 年,野球部投手。右投げ。2001 年 7 月より,投球時右肩痛出現,投 球障害肩の診断を受ける。8 月 28 日より,当院にて理学療法開始した。 【初期評価】疼痛は,cocking 期に右肩前面,acceleration 期に右肩後面にあった。ROM は,肩水平内 転,2nd plane での内旋に制限を認めた。筋力低下はなかったが,外旋テストで右肩甲骨の winging が 観察され,static alignment では肩甲骨前傾位だった。 【投球フォーム】投球フォームを一般的 phase に分け,問題点を考える。Wind up 期:軸足は不安定感 で,腰椎前彎位でステップ脚側の骨盤挙上が生じる。Early cocking 期:右肘位置は shoulder line より 下で,肩水平外転は過度だった。ステップ脚は out-step で,接地時に足趾伸展位となる。ステップ脚を 下ろすとき,左股関節痛を訴えた。Late cocking 期:右肘位置は,側面から見ると肩より前方にあっ た。Acceleration 期:リリース・ポイントは肘下がり状態で前方へ遠い。Follow-through 期:体全体が 投球方向に対し左回旋位となる。 【問題点】1.疼痛の原因:Cocking 期の右肩前面痛には,右肘下がり,過度な肩水平外転が影響してお り,僧帽筋の使い方に問題があると考えられた。Acceleration 期の肩後面痛は,体全体が左回旋し,リ リース・ポイントが前下方に遠いためと推測された。体全体が左回旋するのは,step 脚が out-step であ ることが影響していると考えられた。 2.下肢の影響:wind up 期で軸脚不安定だった。これをカバーするために腰椎前彎,step 脚側の骨盤挙 上が生じた。この動作の繰り返しが股関節痛の原因と考えられる。また,step 脚接地が out-step で,且 つ足趾伸展位だったことから,step 足の剛性低下が疑われた。 【理学療法方針】①足底挿板作製,②胸郭・肩甲骨の mobility 改善と僧帽筋強化,③ Early cocking 期 で,肩甲骨内転を意識する。 【経過】一旦,肩痛は消失したが,その後右肘痛や肩痛の再発あった。現在も経過観察中。 【疑問点と悩み】投球障害肩へのアプローチについて,本症例を通して感じたことは以下の通りである; ①正常な投球フォームとは何か?,②フォームの分析能力が重要,③どこまでアプローチするか(どこが ゴールか)?,④理学療法士として,どこまで関わるか? 他の病院での対応や意見等,情報収集中。 ○学会発表等:第 3 回青森県理学療法士会研修会 - 18 - 平成 13 年度共同研究報告集 平成13年度共同研究報告書 タイトル: 横アーチ測定方法の検討と足部評価との関連性について (医)整友会 弘前記念病院 ○武田 さおり 弘前大学医学部保健学科 尾田 敦 【 概要】 内側縦アーチについての文献は数多く,測定方法もいくつか考案されているが,横アーチについての文献は少ない。足部の malalignmentや柔軟性に関与する因子としてjoint mobilityや内側縦アーチ,横アーチなどが挙げられ,特に前足部には横アー チが影響していると考えられる。そこで,横アーチの指標として足囲( 非荷重位,荷重位) ,足幅,足長を計測し,4種類の横ア ーチ測定方法①荷重位での足囲に対する非荷重位の足囲の割合( 以下,足囲比) ②荷重位,非荷重位での足囲の増加率の 割合( 以下,足囲増加率) ③足長に対する足囲の割合( 以下,足囲足長比) ④足長に対する足幅の割合( 以下,足幅足長比) が有用であるかを検討することが本研究の目的である。また,横アーチ測定値といくつかの足部評価値( アーチ高率,母趾外 反角,後足部の変形評価) との間に関連性があるかを検討することである。 【 対象と方法】 対象者は14名( 男性4名,女性10名) の両側下肢28足で,術後の整形疾患も含まれた( 例: ACL再建者など) 。対象者の平均 年齢は26.9±9.6歳( 17〜42歳) ,平均身長は163.5±9.5cm( 147〜178.8cm) ,平均体重は60.1±10.0kg( 41〜76kg) であった。 測定項目は,足囲( 非荷重位,荷重位) ,足幅,足長,舟状骨高,母趾外反角,荷重位での後足部の踵骨の傾きとした。横 アーチの測定として,①足囲比②足囲増加率③足囲足長比④足幅足長比を百分率で表した。内側縦アーチの測定としてをア ーチ高率を求めた。 足囲は非荷重位,自然立位時の第1〜5MP関節の周径をmm単位で計測した。 足幅は自然立位時の第1中足骨頭内側端と第5中足骨頭外側端の距離をmm単位で計測した。 足長は自然立位時の踵後端から最も長い足趾前端までの距離をmm単位で計測した。 舟状骨高は自然立位時( 荷重位) の床面から舟状骨粗面高の高さをmm単位で計測した。 アーチ高率は足長に対する舟状骨高の比を百分率( %) で表した。 母趾外反角は第1中足骨の接線と第1基節骨の接線とのなす角度( °) を計測した。 後足部の変形評価として踵骨長軸と床に対する垂線とのなす角度を計測した( 外反位を+,内反位を-とした) 。 足囲比の百分率は( 足囲非荷重位/足囲荷重位) ×100で求めた。 足囲増加率の百分率は[ ( 荷重位-非荷重位) /非荷重位] ×100で求めた。 足囲足長比の百分率( 足囲荷重位/足長) ×100で求めた。 足幅足長比の百分率は( 足幅/足長) ×100で求めた。 4種類の横アーチ測定法の間に相関があるかを検討した。また,横アーチ測定法の測定値といくつかの足部評価値( アーチ 高率,母趾外反角,後足部の変形評価) との間に相関があるかを検討した。 【 結果】 測定項目の平均±SDは,足囲では非荷重位で228.2±11.8mm,荷重位で241.3±12.3mm,足幅は99.0±6.7mm,足長は239. 4±11.9mm,舟状骨高は3.8±4.1mm,アーチ高率は4.1±1.7%,母趾外反角は13.3±7.8°,踵骨の傾きは4.6±3.3°であっ た。4つの横アーチ測定の百分率の平均は,①足囲比は94.5±2.0%,②足囲増加率は5.7±2.2%,③足囲足長比は100.9±5. 5%,④足幅足長比は41.4±3.0%であった。 4つの横アーチ測定法の間に相関があるかを検討するため,それぞれの相関係数を求めたところ,高い相関を認めたのは ①足囲比と②足囲増加率( r=-0.99) ,③足囲足長比と④足幅足長比( r=0.9) であった。足囲と足幅にも高い相関が認められた ( r=0.88) 。 また,横アーチ測定値と足部評価値( アーチ高率,母趾外反角,後足部の変形評価) との間に相関があるかを検討するため それぞれの相関係数を求めたところ,比較的高い相関が認められたのは④足幅足長比と母趾外反角( r=0.72) ,③足囲足長 比と母趾外反角( r=0.54) であった。 - 19 - 平成 13 年度共同研究報告集 【 考察】 今回用いた4種類の横アーチ測定方法のうち,①足囲比と②足囲増加率が最も高い相関( r=-0.99) を認めた。横アーチは, 舟状骨・ 楔状骨・ 立方骨・ 中足骨などの骨格的な要素と足底筋膜や足部の固有筋などの要素から構成されており柔軟性をも っている。足底筋膜( 長趾屈筋,長母趾屈筋,短趾屈筋,母趾外転筋など) の張力により下方から押し上げられるように支持さ れており,荷重により骨構成体の下降を支持できる十分な足底筋膜の筋力や張力がなければアーチの扁平化がおこるとされ ている。足囲を用いた測定方法が今回高い相関を認めたことから,足囲を荷重位・ 非荷重位で測定することにより中足部の開 張の程度を表し,横アーチの構成要素を反映していると思われる。次に,③足囲足長比と④足幅足長比も高い相関を認めた ( r=0.9) 。足幅と足囲には高い相関( r=0.88) が認められたが,足長と足幅( r=0.2) ・ 足長と足囲( r=0.4) の相関は低い。よって足 長はその他の要素の影響を大きく受けているものと考えられ,アーチ高率の計測には足長も含まれることから内側縦アーチの 影響を受けているものと考えられる。そこで今回の研究結果からは,荷重位・ 非荷重位での足囲が最も横アーチの測定に適し ていると思われる。 また,横アーチ測定方法と足部評価との間で,比較的高い相関が認められたのは④足幅足長比と母趾外反角( r=0.72) ,③ 足囲足長比と母趾外反角( r=0.54) であった。外反母趾の発生要因の1つには,内側縦アーチ低下による踵骨の外反と前足部 の回内による歩行時の第1中足趾節関節へのストレスが挙げられる。足部全体が外反傾向になると足部が柔軟な状態となり 前足部が開張ストレスをうけることとなり,横アーチの沈み込みを招く。そのため,母趾外反角には縦アーチ・ 横アーチの双方 が影響していると思われ,足囲・ 足幅は横アーチの影響を受け,足長は縦アーチの影響を受けると思われることからこれらに は比較的相関があったのではないかと考える。 今回の研究では,症例数が少ないため整形疾患術後の下肢も被験足に含めていることから,今後正常人の症例数を増や し再度検討したいと考える。その上で,横アーチの標準値の検討や横アーチの測定方法と今回のようないくつかの足部評価を 組み合わせることにより,正常人や疾患別の足部形態の検討も行いたいと考える。 ○発表学会等: 第27回青森県理学療法士学会発表予定 - 20 - 平成 13 年度共同研究報告集 平成13年度共同研究報告書 タイトル: 腰椎椎間板ヘルニア患者における疼痛と下肢症状の関連 −屈曲群と伸展群での比較− (医)整友会 弘前記念病院 ○蛯子 智子 弘前大学医学部保健学科 尾田 敦 はじめに 腰椎椎間板ヘルニアは椎間板の線維輪が亀裂・断裂し,髄核や線維輪が脊柱管内あるいは椎間孔内外に 膨隆・脱出して脊髄や馬尾あるいは神経根に障害を与えるために下肢痛や神経麻痺症状を惹起しているも のである。髄核は脊柱屈曲時に後方へ移動し,反対に伸展時には前方へ移動するといわれている。しか し,椎間板の変性により髄核の脱出が正中部付近にある場合には,過伸展により神経の圧迫が増強し,疼 痛が出現する。したがって,腰椎椎間板ヘルニア患者で屈曲運動により疼痛が出現する者は髄核の脱出が 小さく,神経の圧排が少なく,反対に伸展運動により疼痛が出現する場合は神経の圧排程度が大きく,下 肢症状が強いと推測される。本研究では,central type と paracentral type の腰椎椎間板ヘルニア患者 を対象として屈曲運動で疼痛が生じる群を屈曲群,伸展運動にて疼痛が生じる群を伸展群と 2 群に分 け,疼痛と下肢症状の関係を調査した。なお,現在データを収集中で対象数が不足しているため,途中経 過を報告する。 Ⅰ方法 1.対象 腰椎椎間板ヘルニア患者 12 人(男性 6 人,女性 6 人)で,平均年齢は 34 ± 16 歳であった。ヘ ルニアのタイプは central type が 2 人,paracentral type が 10 人であった。腰部脊柱管狭窄症,腰椎 すべり症,腰椎変性症,腰椎不安定症の者,また,2 椎間以上にヘルニアが認められる者も除外した。 2.方法 対象に体幹屈曲と伸展運動を行わせ疼痛を再現させた。そして,下肢症状について評価を行っ た。評価項目は Lasegue test,MMT,感覚検査とした。屈曲で疼痛のある者(以下,屈曲群)と伸展 で疼痛のある者(以下,伸展群)に分け,下肢症状の各評価項目との関連性を調査した。 Ⅱ結果 屈曲群は 6 人,伸展群は 6 人であった。MMT では伸展群で筋力低下している者が多かった。 Ⅲ考察 現在の経過では,屈曲群で筋力低下が多い傾向があり,仮説とは反対の結果となっている。髄核は,脊 柱屈曲時に後方へ移動し伸展時には前方へ移動するといわれているが,変性した椎間板では逆方向の移動 が生じている可能性がある。椎間板性腰痛症患者を対象にした荒木らに研究によると,脊髄腔造影におい て前屈時痛群は後屈時痛群よりも有意に大きな圧排を示し,前屈時痛群においては後部線維輪の変性を理 由に挙げている。また,White らは屍体を用いた研究で,屈曲時に前方線維輪の垂直方向への圧迫力が 加わるため前方への膨隆が生じ後部線維輪では椎体間が離開するために自己安定化作用として後部線維輪 の垂直軸への伸張が生じ,また,後屈時には前部線維輪が垂直方向へ伸張されて前方移動させる,と報告 している。引き続きデータを集めて分析を行う。 - 21 - 平成 13 年度共同研究報告集 平成13年度共同研究報告書 タイトル: 等運動性一側膝関節伸展トルク発揮に反対側膝関節屈曲固定が及ぼす影響―膝関節屈曲固定角 度と大腿二頭筋筋活動による検討― 国立弘前病院 ○山田 克彦 弘前大学医学部保健学科 尾田 敦 本研究では健常成人 10 名を対象として,端坐位での膝関節伸展運動テストにおける反対側(以下,固定側)膝関 節屈曲固定が,テスト側膝関節伸展ピークトルク値に与える影響及び運動中の固定側大腿二頭筋の活動について検討 した。KIN/COM 上端坐位にて,固定側膝関節角度 0 ゚,45 ゚,90 ゚及び固定なしの 4 条件のもとで,(テスト側の) 膝関節伸展ピークトルク値と固定側膝関節屈曲力及び大腿二頭筋の筋活動を測定した。その結果,固定側膝関節屈曲 固定角度 3 条件及び固定なし間において,テスト側膝関節伸展ピークトルク値に差はなかった。固定側膝関節屈曲 力は固定角度が増すに従い減少する傾向を示した。それに対して固定側大腿二頭筋の筋活動量は膝関節屈曲固定角度 が増すに従い増加する傾向にあり,固定なしが最も低かった。 固定側膝関節を屈曲位固定することで大腿二頭筋の筋活動及び膝関節屈曲力が変化すると考えられた。その結果と して,骨盤後傾位固定に作用する力が変化し,測定肢(側)の膝関節伸展ピークトルク値に影響を及ぼすとの仮説を たてたが,結果はこの仮説に一致しなかった。固定側膝関節屈曲角度が小さいほど,大腿二頭筋の活動が少なく効率 がよい固定が得られると考えられたが,骨盤後傾位固定への関与については明確にされなかった。 ○発表学会等:理学療法学第 28 巻第 4 号 181 〜 186 頁(2001) 弘前大学医学部保健学科理学療法専攻抄読会に参加し,以下の論文を抄読担当した。 Beaupré LA, Davies DM, Jones GA, Cinats JG. Exercise combined with continuous passive motion or slider board therapy compared with exercise only:a randomized controlled trial of patients following total knee arthroplasty. Phys ther. 2001;81:1029-1037 【目的】この無作為抽出によるコントロールされた研究の主な目的は,以下に挙げる運動性のどの方法で,人工膝関 節全置換術(TKA)術後 6 ヶ月時における膝関節 ROM 最大角度が獲得されるかを決定することである―(1)標準 的運動(SE)と continuous passive motion(CPM),(2)SE と最小の膝関節 ROM を要し低コストで非技術的な 装置である sliding board(SB)療法,(3)SE のみ―。第 2 の目的は,この 3 群間で health ‐ related quality of life を比較することである。【被験者】被験者は本研究の参加に同意し,1997 年 6 月から 1998 年 7 月の間に教育機関 病院で TKA を受けた 120 名(n = 40/group)の患者である。【方法】被験者は術前,退院時,術後 3 ヶ月と 6 ヶ月 時に調査された。調査は膝関節 ROM の測定と,西オンタリオ州大学と McMaster 大学(WOMAC)変形性関節症イ ンデックスと Medical Outcomes Study 36-Item Short-Form Health Survey (SF-36)の完成から構成される。【結 果】3 つの治療群は,研究開始時の年齢,性別,診断は同様であった。どの測定間隔においても,膝関節 ROM, WOMAC 変形性関節症インデックス,SF-36 スコアに差はなかった。術後合併症発生率も群間で差はなかった。 【考察・結論】患者が用いる早期運動性に焦点を置く術後リハビリテーションを統制する際,毎日の SE セッション に行う付加的な ROM 療法(CPM と SB)は必要とされない。TKA 後 6 ヶ月で,患者は膝関節 ROM と機能につい て満足なレベルに達する。 Stackhouse SK, Stevens JE, Lee SCK, et al. Maximum voluntary activation in nonfatigued and fatigued muscle of young and elderly individuals. Phys Ther. 2001;81:1102-1109 【目的】高齢被験者(65 歳以上)における筋の中枢賦活に関する研究は,無疲労時のみの賦活が調査されている。 本研究では年齢に関連する筋力低下について,中枢賦活低下の影響を決定するために,疲労時と無疲労時の両方の状 態の下で若年者と高齢者が大腿四頭筋を随意的に賦活する能力を調査した。【被験者と方法】若年者 20 名(男性 11 - 22 - 平成 13 年度共同研究報告集 名,女性 9 名;平均年齢 22.67 歳,SD = 4.14,範囲= 18-32 歳)と高齢者 17 名(男性 8 名,女性 9 名;平均年齢 71.5 歳,SD = 5.85,範囲= 65-84 歳)が本研究に参加した。被験者はダイナモメーター上に坐り,固定された。中 枢賦活は大腿四頭筋の 3 〜 5 秒の最大随意等尺性収縮(MVC)の間に与えられる 100-Hz,12-pulse 電流による力発 生の変化に基づいて計測された。次に,被験者は筋疲労を目的として 25 回の MVC(5 秒間の収縮と 2 秒間の休息) を行った。最後の MVC で,再び中枢賦活が計測された。【結果】無疲労状態では高齢被験者は若年被験者に比較 し,より低い賦活であった。疲労状態では,この差は更に大きくなった。【考察・結論】若年被験者に比較し,高齢 被験者の大腿四頭筋の中枢賦活は疲労時・無疲労時状態で共に低下している。従って,年齢に関連する筋力低下の一 部分は疲労時・無疲労時状態における中枢賦活の低下に因るものかもしれない。 - 23 - 平成 13 年度共同研究報告集 平成13年度共同研究報告書 タイトル: 介護保険による住宅改修における理学療法士の役割 NPO 法人 住まいと介護のコミュニティネット ○釘元 充 弘前大学医学部保健学科 金沢 善智 研究目的 介護保険制度の中の諸サービスにおいて、住宅改修および福祉用具導入は、専門知識を有する人材の不足 やサービス提供者の地域ネットワークの未構築などにより、適切であるとは言い難い。我々は、より適切 な住宅改修を行うためには、利用者の Needs を改修の出発点とすることと、身体能力を最大限加味した 施工が重要であり、その意味で理学療法士(PT)が求められていると考えた。 今回我々は、上記の問題点や要望に応えるために、特定非営利活動法人住まいと介護のコミュニティネ ット(住まいネット)の設立に加わった。本報告は、住まいネットの活動の中で行った住宅改修指導の一 例を示す。 事例 96歳と高齢で長男夫婦と3人暮らしである。高齢のために難聴と視力低下、体重をかけると右膝に強い 痛みがあった。また体格は肥満傾向で、円背で膝を曲げ、痛みのために歩く様子は何かにつかまらなけれ ば歩けない状況であった。居間からトイレまでの距離は10 m 程度であったが、トイレで用を足す一連 の動作で疲労感が出現し(大便は20分ほどトイレに座ったまま)一休みしてからでないと居間まで戻っ てこられない状況であった。生活様式は和式の生活で、昼間の多くは掘りこたつで過していた。床からの 立ち上がり動作は、何かにつかまり片膝を立ててから、両手をコタツに添えて立ちあっていた。布団を使 っているので、夜間のトイレ動作は必ず長男の介助が必要になる。歩行は、必ず息子さんの見守りや介助 が必要であった。毎日の楽しみの一つが入浴であり、脱衣の介助や浴室までの歩行介助が必要であった が、入浴動作は時間をかけて自立していた。 - 24 - 平成 13 年度共同研究報告集 改修前 横手すり位置 縦手すり位置 L字手すり位置 ④ 段差 ② ③ ① 掘りこたつ ⑤ TV 日常生活の問題点:①堀こたつから立ち上がる場合、長男の介助が必要です。また上座に座っているため、トイレ までの移動距離が長くなっています。居室から廊下へは敷居の段差がありつまずく危険があります。②トイレから の立ち上がりが困難な状況です。夜間の尿意があり、毎回家族が付き添うため介助量が多いのが現状です。③入浴 は自立されています。1時間以上もかけてゆっくり入浴されています。家族は時々声がけを行う程度のようです。 膝の状況を考えると、適切な高さのシャワー椅子が望まれます。また跨ぎ量が多く、すのこを用いた跨ぎ量軽減が 望まれます。④外出で最も介助量が多い動作は、靴の着脱時上がりかまち部分から立ち上がる動作です。また立ち ながら靴の着脱を家族が介助する場合があり、手すりの設置が望まれます。⑤寝具にはふとんを用いられています。 就寝時や夜間のトイレ動作の介助量は多く、転倒の危険も伴います。可能であれば、介護用ベッドの導入が望まれ ます。 - 25 - 平成 13 年度共同研究報告集 改修後 横手すり位置 縦手すり位置 L字手すり位置 段差 掘り炬燵 TV 日常生活の問題点:①椅子から立ち上がる場合、肘掛に手を添えて PUSH UP で立ち上がります。何もつかま らずに立ち上がるのは困難な状況です。伝い歩きを行いながらトイレまで移動します。居室から廊下への移動は段 差があり、昇降に努力を必要とします。開き戸のため、後方へ下がらなければならず、危険です。トイレの立ち上 がりは、肘掛を用いて立ち上がるため、後方へ倒れやすい環境と考えます。 ②寝室から廊下への移動は、夜間のトイレの回数も多く、危険な動作です。体幹の回旋が少ないため、起き上がり が困難です。本来であれば、介護用ベッドと介助用スィングアームバーがあれば、起き上がりの努力量が減少する と思います。寝室から廊下までの段差があり、建具や引き戸につかまって昇降されます。 - 26 - 平成 13 年度共同研究報告集 平成13年度共同研究報告書 タイトル: 高齢者に対する日常生活災害のアンケート調査 NPO 法人 住まいと介護のコミュニティネット ○山田 滋 弘前大学医学部保健学科 金沢 善智 研究目的 本研究では、日常生活における災害弱者である高齢者に着目し、NPO法人住まいと介護のコミュニティネ ットおよび長寿社会文化協会(WAC)、東京理科大学工学部建築学科直井研究室と協力し、高齢者の日常生 活における事故の実態をアンケート調査した。 調査概要 (1)調査対象社団法人長寿社会 文化協会(WAC)会員の60歳以上1591人とし、60歳以上の同居者がいる場合はその人にも回答してもらっ た。 (2)調査項目 (a)回答者の年齢・性別、(b)過去3年以内における外因事故の有無(複数ある場合は最近の2件)、(c)事故 の種類、(d)発生時期、(e)発生場所、(f)ケガの種類、(g)ケガの部位、(h)ケガの処置、(i)事故の改善策 とした。 (3)調査方法 郵送によるアンケート調査 (4)調査実施時期 2001年(平成13年)9月11日〜10月10日 調査結果(表) 1591 通のうち返送 755 通(回収率 47.5%)、有効回答数 1094 通であった。そのうち外因事故全体では 481 人(609 件)、日常災害では 258 人(294 件)の回答が得られた。 外 因 事 故 総数 総数 鉄道 交 自動車 通 水上交通 事 航空機 故 自転車 その他 総数 交 労働災害 通 T 事 H 故建築災害 B 以 外 以外その他 外因その他 判別不能 総数 60 64 歳 65 69 歳 70 74 歳 T M F 不明 T M F 不明 T M F 不明 T M F 不明 609 263 345 1 186 54 132 0 197 98 99 0 120 55 65 0 42 20 22 0 11 3 8 0 18 7 11 0 6 4 2 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 7 5 2 0 1 1 0 0 2 1 1 0 2 1 1 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 34 14 20 0 9 1 8 0 16 6 10 0 4 3 1 0 1 1 0 0 1 1 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 497 201 296 0 155 40 115 0 154 75 79 0 99 42 57 0 2 0 2 0 2 0 2 0 0 0 0 0 0 0 0 0 294 119 175 0 94 23 71 0 86 40 46 0 56 23 33 0 240 95 145 0 77 19 58 0 70 32 38 0 46 18 28 0 54 24 30 0 17 4 13 0 16 8 8 0 10 5 5 0 201 82 119 0 59 17 42 0 68 35 33 0 43 19 24 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 70 42 27 1 20 11 9 0 25 16 9 0 15 9 6 0 - 27 - T 68 3 0 0 0 0 3 0 57 0 38 29 9 19 0 8 75 79 歳 M F 不明 41 27 0 2 1 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 2 1 0 0 0 0 34 23 0 0 0 0 26 12 0 20 9 0 6 3 0 8 11 0 0 0 0 5 3 0 T 37 4 0 2 0 0 2 0 32 0 20 18 2 12 0 1 80歳 M F 不明 15 22 0 4 0 0 0 0 0 2 0 0 0 0 0 0 0 0 2 0 0 0 0 0 10 22 0 0 0 0 7 13 0 6 12 0 1 1 0 3 9 0 0 0 0 1 0 0 T 1 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 1 年齢不詳 M F 不明 0 0 1 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 1 平成 13 年度共同研究報告集 平成13年度共同研究報告書 タイトル: 足部形態が足関節筋力に及ぼす影響 1)医療法人康和会 ヒロサキメデイカルセンター ○鳴海 陽子 弘前大学医学部保健学科 尾田 敦 【目的】現代人の生活で使用される様々な形態の靴は,扁平足や外反母趾などの変形を引き起こし,時には疼痛を生 じることもある。本稿では健常者における扁平足および外反母趾の割合,さらに足部形態による足関節機能(特に筋 力)の特徴を検討した。 【方法】女性では靴の多様化により,変形や疼痛がより多いとされるため,健常女性 62 名 124 足を対象とした。平 均年齢 21 ± 2 歳(19 〜 28 歳),平均身長 159.0 ± 5.8 ㎝(138.5 〜 175.0 ㎝),平均体重 53.2 ± 7.2 ㎏(40.0 〜 78.0 ㎏)であった。足部形態の分類として,足長(㎜)に対する舟状骨粗面高(㎜)の割合を算出し,アーチ高率 を求めた。平均± 1SD を標準として,扁平足群,標準足群,凹足群の 3 群に分類した。さらに,各々の群について 母趾外反角 16 ゚未満を正常足,16 ゚以上を外反母趾足として分類した。足長および母趾外反角は pedoscope(接地足 底投影器)のガラス平板上に投影された足底をデジタルカメラで撮影し,その画像より計測した。足趾屈筋群筋力は 既製の手指把握力計を足趾用に改良して測定し,足趾屈筋群筋力体重比(以下,足趾筋力)を求めた。足関節底背屈 筋力(以下,底背屈筋力)は,Digital Dynamometer を改良して測定し,torque lever arm(m)×出力(㎏)/体重 (㎏)により足関節底背屈トルク体重比(以下,底背屈トルク)を求めた。 【結果】124 足中,扁平足群 18 足(うち外反母趾 7 足,39 %),標準足群 86 足(うち外反母趾 28 足,32 %), 凹足群 20 足(うち外反母趾 4 足,20 %)であった。3 群間に占める外反母趾の割合に差はなかった。足趾筋力で は,扁平足群の筋力が他の群に比べて有意に大きかった(p< 0.05)。背屈トルクにおいては,扁平足群が標準足 群より有意に大きく(p< 0.05),凹足群とは差がなかった。底屈トルクでは 3 群間に差はなかった。各群での母 趾外反角による比較では扁平足群での背屈トルクにのみ有意差がみられ,外反母趾の背屈トルクが小さかった(p< 0.05)。 【考察】扁平足や外反母趾による変形が原因となり,足関節筋力は低下すると予想していたが,扁平足群の測定結果 は逆に標準足群より大きかった。このことについては,本来足趾筋力の効率を高めているアーチ高率が扁平足群で低 下していることで,その効率低下を補うために,筋力が増強されたのではないかと考えられた。しかしながら,実際 のアーチの機能が発揮されるのは,歩行時に足趾が床を押しつける力であり,本研究での足趾筋力の測定方法だけで は,それを確認することは不可能であった。背屈トルクにおいては,背屈トルク測定時にほとんどの被験者において 足趾が屈曲する傾向がみられたことから,足趾筋力が大きかった扁平足群では足趾の伸筋群がより伸張され,背屈筋 力を増大させる効果があったのではないかと考えられた。 - 28 - 平成 13 年度共同研究報告集 平成13年度共同研究報告書 タイトル: 頚髄損傷者の咳嗽介助手法についての文献的考察 弘前市立病院 ○佐藤 誠剛 弘前大学医学部保健学科 石川 玲 【抄読文献 1】 脊髄損傷者の咳嗽閾値について 脊髄損傷者の喫煙群と非喫煙群、健常者の喫煙群と非喫煙群の 4 群間の咳嗽閾値について比較・検討した。胸郭 可動域と音響応答が十分な咳嗽が 2 回誘発された濃度を咳嗽閾値と定義し、被験者に 6 種類の濃度(62.5mmol 〜 2mol)のクエン酸エアロゾルを吸入させ、 それらを測定した。結果は、脊髄損傷の喫煙群と非喫煙群の平均咳嗽閾値がそれぞれ 209mmol と 417mmol、健常者 の喫煙群と非喫煙群の平均咳嗽閾値がそれぞれ 467mmol と 1,027mmol であった。 実験結果より、脊髄損傷者の咳嗽閾値が健常者に比べ低い傾向にあること、更に喫煙者は非喫煙者に比べ咳嗽閾値 が低い傾向にあることが示唆された。脊髄損傷者の咳嗽閾値が低い要因は、脊髄の損傷により相反性制御から開放さ れた遠心性迷走神経が咳嗽感受性を増大させているものと考えられた。また、動物実験では喫煙により気道上皮組織 透過性が増大し咳嗽感受性が高まることが確認されているため、喫煙による咳嗽閾値低下の要因は、これによるもの と考えられた。 Kwan-Hwa Lin,Yih-Loong Lai,Huey-Dong Wu,Tyng-Quey Wang,Yen-Ho Wang : Cough threshold in people with spinal cord injuries, Physical Therapy.Vol.79:1026-1031.Number 11.November 1999. 【抄読文献 2】 Baclofen により引き起こされる頸髄損傷者の咳嗽抑制について GABA(γ−アミノ酪酸:中枢神経系伝達抑制物質)作動薬である Baclofen が、頸髄損傷者の咳嗽反射感受性に 与える影響について調査した。Baclofen は臨床において、痙性軽減目的のため脊髄損傷患者や多発性硬化症患者に 用いられている薬だからである。 対象は慢性頸髄損傷者で、Baclofen を服用しているグループと服用していないグループの 2 群である。実験は 0.98 〜 1,000 μmolの濃度の Capsaicin(赤とうがらしの成分)溶液をエアロゾルにて吸入させる方法で、2 回以上お よび 5 回以上の咳嗽を誘発する濃度が測定された。結果では、Baclofen を服用しているグループは、そうでないグ ループに比べ有意に高い咳嗽閾値(咳嗽感受性の低下)であることが示された。 Baclofen を服用している頸髄損傷者の咳嗽感受性が低いという結果は過去の調査結果と一致しているが、喫煙の 影響については今回の実験では加味されてはいない。また、頸髄損傷者が高い咳嗽感受性を持ちながらも効率的な咳 嗽を行えないのは、呼吸筋力が損失されているためである。よって、Baclofen の投与はその咳嗽感受性さえも低下 させるので、呼吸器合併症の発生率を更に高める危険性があると思われるが、臨床での使用に関しては更なる医学実 験を介しての検討が必要である。 Peter V.Dicpinigaitis,MD,David R.Grimm,EdD,Marvin Lesser,MD:Baclofen-induced cough suppression in cervical spinal cord injury,Arch Phys Med Rehabli.Vol 81:921-923 July 2000. - 29 - 平成 13 年度共同研究報告集 【考察】 頸髄損傷では呼吸筋が麻痺し換気能力が著しく低下する。特に呼気筋(腹筋群)麻痺により咳嗽能力が著しく低下 するという事態は深刻である。また、この病態では交感神経が遮断されるため、副交感神経の迷走神経は相互制御か 1 ら解放され、気道内分泌物を増加させる作用を示す )。これら分泌物(痰)が気道内に長く留まることは肺胞や末梢 気道の閉塞を来し、また、細菌繁殖の培地となる等、無気肺や肺感染症等の肺合併症発生の危険性が高まる。これら の理由から、頸髄損傷急性期では排痰援助が肺理学療法プログラムの中心となる。 通常、咳嗽を行うことが喀痰排出には簡便で有効な方法であるが、呼吸機能の弱化した頸髄損傷者は有効な咳嗽が 2 出来ない場合が殆どである。肺理学療法における咳嗽介助手技(呼出介助手技)については、胸郭を圧迫する )や、 1) 3) 胸郭と腹壁を瞬間的に強く圧迫する 、季肋部と横隔膜を比較的強く内上方に押し上げるように圧迫する 等の手法 が紹介されている。しかし、記述が詳細でないため実施にあたり不明確な部分が多く、手技に熟練を要する等の理由 もあり、臨床においては機械的吸引処置に依存されている傾向がある。このような現状をみるに、機械的吸引処置や 咳嗽に伴うリスクを今一度認識し、咳嗽能力の低下した頚髄損傷者への肺理学療法的排痰援助手法について再考する 必要がある。 1,3-5 なお、成書では「体位ドレナージ法(体位排痰法)」 )紹介されているが、これは末梢気管支から主気管支〜気 管まで痰を移動させる方法であって、直接体外へ排出する方法ではない。これを行っても、あくまで機械的吸引や咳 嗽という処置・行為が必要である。 <機械的吸引処置に伴うリスク> 頸髄の高位損傷、特に C1 〜 C2 では横隔膜が麻痺するため、全く人工呼吸器に依存する状態となり、排痰も機械 的吸引処置に頼るところとなる。また、C3 〜 C5 損傷で横隔膜機能が残存しても VC(肺活量)は 700 〜 1,000ml 前 3 後と著明に低下し )腹筋も麻痺するため、結局のところ排痰は機械的吸引処置に依存する傾向が多い。 機械的吸引処置については、太い吸引管を用い高い吸引圧で行えば喀痰は残らず吸引されるというのが原理であ る。しかし、規定以上の吸引圧や吸引時間の超過、更に管径比の不適切があれば、吸引による気道内陰圧作用により 末梢気道や肺胞が虚脱・閉塞される結果となり PaO2 の低下(低酸素症)を来す。また、吸引時の粗雑な操作により 気道粘膜損傷や線毛剥脱を起こし、気道の喀痰運搬機能が障害され、管理面では吸引カテーテル消毒不備による感染 6 症発症などと、機械的吸引処置に伴う問題は多い )。そもそも、吸引行為自体が患者にとって苦痛であることを忘れ てはならず、特に換気能力の低下した頚髄損傷者に低酸素症を惹起させる危険性があるのは好ましくない。 <咳嗽に伴うリスク> 咳嗽とは、最大吸気を行った後に声門を閉鎖し、呼気筋を収縮させて胸腔内圧を高め、声門を開放し突発的に呼気 7 を排出する動作である )。効率的な咳嗽には十分な排気量、高い胸腔内圧、十分な呼気流速という条件の揃うことが 必要である。 咳嗽において問題となるのは胸腔内圧上昇による心肺系への影響である。胸腔内圧は強い吸息においても-30 〜 8 3 -40mmHg とされているが )、咳嗽時には-50 〜-100mmHg まで達する )。胸腔内圧の上昇は大静脈を圧迫し頭蓋内圧 を亢進させる他、心臓への静脈環流の減少から心拍出量を低下させ血圧の下降を来す。咳嗽がひどく続くことによ 9 り、胸腔内圧上昇性失神(咳失神:cough syncope)という状態を来す場合もある )。また、咳嗽自体が体力を要す るので、排痰が有効に行われない場合の咳嗽は、いたずらに体力を消耗し疲労を来すだけである。頚髄損傷者の心肺 系は安静時においても非常な負担を強いられていると推測できる。不適切な咳嗽援助により、患者に胸腔内圧上昇や 疲労増大を来すことは好ましくない。 <頚髄損傷者への咳嗽介助手技> 頚髄損傷者への排痰援助にあたっては、極力機械的吸引処置に頼らずに咳嗽を用いて行うことが基本と思われる が、胸腔内圧上昇に伴う心肺系への負担減少を考慮する必要がある。また、慢性肺疾患患者や胸・腹部術後患者と違 い、最大の強制呼気筋である腹筋が麻痺しているため患者自身による呼出努力は存在せず、喀痰排出のための呼気流 速や呼気量コントロールは全て PT の手技に依存される形となる。よって、有効な呼出が行えるような介助手技につ いても考慮する必要があろう。 胸腔内圧は声門を閉鎖し「息ごらえ」を行うことで上昇するので、最大吸気位から声門を開いたまま強く長い呼気 - 30 - 平成 13 年度共同研究報告集 を行う Huffinng(ハッフィング)という方法を用いるのが良いと思われる。Huffing は従来、咳嗽の前処置的な位置 3 づけとされていたが、呼気を「ガー」とうがいをするように行うことにより痰の喀出も可能である )。この方法であ れば、声門閉鎖による胸腔内圧上昇のリスクを回避できる。 咳嗽(Huffing)介助手技についてであるが、十分な肺気流速を得るためには十分な肺気量が必要ゆえ、実際には 肺気量を多く確保する手技(吸気介助手技)と、呼気流速を速める手技(呼気介助手技)の 2 つに分けて考え、そ れらを組み合わせ実施する必要がある。 3 有効な咳嗽を行うには少なくとも 1,000ml の肺気量が必要 )とされているが、実際の臨床場面においてその程度の 肺気量患者の咳嗽は弱々しく、十分ではない印象を受ける。また、肺気量が少ないまま、それらも補おうと呼気介助 手技を強力に用いた場合、急激な気流の影響で気道閉塞を起こす可能性があるという点にも注意が必要である。よっ て、まず呼気介助に先立ち吸気時に胸郭を他動的に持ち上げる吸気介助手技をおこない、有効な肺気量を確保するこ とが必要条件となる。 呼気流速については、最大呼気中間流量(MMEF:maximum mid-expiratory flow)を指標とするのが良いと思われ 10 3 る。通常、20 代で 4.75L/sec、60 代で 2.57L/sec )、または 3 〜 5L/sec )が正常値とされており、効果的な咳嗽のため には 300L/min(5.00L/sec)の呼気流速が必要とされ )、2.67L/sec 以下では喀痰の喀出が日常的に困難になると言われ 2 ている )。急性期の頚髄損傷者の MMEF を正確に把握するのは難しいが、当然これらの数値を下回っているであろ うことは想像に難くなく、呼出介助手技を実施することの意義はある。 呼気介助手技の原理は、肺内の空気を押し出すことで痰を喀出しようとするものである。よって、窒息時の救急処 11 置で用いられるハイムリック法 )を応用した手法が良いと考えられる。ハイムリック法は、徒手にて上腹部を胸郭 内上方へ圧迫し肺内の空気を押し出すことで、窒息をきたしている異物を除去しようとする手技であり、原理は同様 である。ただし、これは内臓損傷の危険性が高いけれども、あえて救命のために紹介されている方法であることを注 意しておく必要がある。よって、内臓損傷の危険を回避する対策をとることで、この方法は頚髄損傷者の呼気介助手 技として応用できると考える。 救急法では救助者が患者の心窩部に両手をあてて強く圧迫する手法を紹介しているが、このように一点に応力が集 4 中することを避ければよい。実際には腰痛症患者が用いる腰部ベルト等を下部肋骨から心窩部の高さに装着し、患者 の呼気に合わせてベルトを通じて上腹部全体を均一の圧力で内上方に圧迫して呼気を介助するようする。このように 行うことで肋骨や腹部内臓を損傷する危険性も少なく、かつ、有効な呼出量が得られると考える。また、介助者の体 格の違い(手の大きさ)や用手方法に神経を配る必要も減るので、PT 以外のスタッフも簡便に利用・応用できる方 法であると考える。 <まとめ> 今回の考察により、機械的吸引と咳嗽の双方にリスクのあることが再認識された。これらより心肺系への負担回避 や内臓損傷回避の観点から、咳嗽よりも Huffing を用いること、吸気介助とハイムリック法応用手技を組み合わせて 用いる呼出介助手技を考察してみた。リスクを考慮した場合、これら肺理学療法によって喀痰の排出を試みる方が有 益であると思われる。横隔膜機能の残存している場合であれば行ってみる価値はあるが、体位との関連や効果判定等 について更なる検討は必要であろう。 また、病状の都合や極端な換気量不足により肺理学療法手技による痰の排出が及ばず、機械的吸引処置に頼らざる を得ない状態にある高位頸髄損傷者においても、極力体位ドレナージや呼出介助手技を用い咽頭や、もしくは気管カ ニューレ孔付近まで喀痰を移動させ、極力リスクを防止した状態での機械的吸引使用が望ましい。実際の臨床では、 看護スタッフと 1 日数回の排痰アプローチ実施時間を取り決め、気道給湿後に行うのが良いと思われる。人体への 侵襲を考慮した場合、緊急的な場面を除いては極力、安易に機械的吸引に頼る排痰管理は避けるべきである。 なお、抄読文献で挙げられた咳嗽感受性については、咳嗽自体が自発的にも反射的にも行われる性質があるため、 日常で排痰を促すセンサーとしての役割的には重要であるが、排痰目的に意識的に行う咳嗽という行為に直接的に関 わる因子としてはその関連性は薄いと考えられた。 【参考文献】 1)安藤徳彦,他:脊髄損傷マニュアル−リハビリテ−ション・マネージメント,第 1 版,医学書院:34-38,1984 2)濱田哲郎,他:ICU における頚髄損傷患者の理学療法,PT ジャーナル 34:95-100,2000 - 31 - 平成 13 年度共同研究報告集 3)細田多穂,他:理学療法ハンドブック,改訂第 3 版,共同医書出版:563-607,2000 4)三学会(日本胸部外科学会、日本胸部疾患学会、日本麻酔学会)合同呼吸療法認定士認定委員会編集:呼吸療法 テキスト,第 1 版,克誠堂出版:233-242,1996 5)芳賀敏彦,他:図説呼吸理学療法,第 1 版,メディカル葵出版:56-62,1987 6)稲田豊:最新看護セミナー呼吸管理ハンドブック,第 2 版,メヂカルフレンド社:75-92,1987 7)金子光,他:系統看護学講座 12、成人看護学 2,第 7 版,医学書院:13-14,1987 8)尾崎俊行,他:基礎人体生理学,改訂版 6 刷,廣川書店:1993 9)田崎義昭,他:神経病学,第 3 版,医学書院:1993 10)金井泉:臨床検査法提要,第 28 版,金原出版:1980 11)内藤裕史:図説臨床看護医学、第 15 巻、救急医療,第 1 版,同朋舎出版:1988 - 32 - 平成 13 年度共同研究報告集 平成13年度共同研究報告書 タイトル: GMFCS の信頼性研究および逆翻訳 1)弘前大学脳研機能回復部門 ○近藤和泉 弘前大学医学部保健学科 岩田 学 [概要] 【目的】粗大運動能力分類システム (GMFCS)は、脳性麻痺児(以下 CP 児)の粗大運動能力を分類するためにカナダ で考案されたシステムである。現在の ver1.1 を使って,信頼性研究を行うとともに,逆翻訳の作業を行った。 【方法】肢体不自由児施設 38 施設において、医師および理学療法士など合計 265 名の評価者が、1 歳から 12 歳まで の CP 児 432 名を評価した。各 CP 児の粗大運動能力の分類はその児を良く知る 2 名の評価者が完全に独立して行っ た。GMFCS の各レベルの kappa および全体の kappa および粗一致率を計算した。また,翻訳代行社を通じて逆翻訳 を行い,翻訳結果を原著者にチェックしてもらい,現行版が英語の原版と内容的に異なっていないかチェックを行っ た. 【結果】 全体の kappa は 0.65 であり,前回の結果と大差なかった。逆翻訳では,4カ所の変更を要求されたが,原 著者に説明した結果,日本語から英語に直す過程でのミスであることがわかり,現行版を大きく修正する必要がない ことが明らかになった. 【考察】 前回の検討に比べて,より広い範囲の療育関係職種に判定をお願いしたが,Kappa 値は低下しなかった。 これは,日本語版の信頼性が一定のレベルに達したことを示唆している.また,逆翻訳でも上記のような結果とな り,英語版との差異がほとんどないことが明らかになった.現在,最終的な ver.1.2 を作成中である. 発表学会等:57th Annual Meeting of the American Academy for Cerebral Palsy & Developmental Medicine に発表予定 - 33 - 平成 13 年度共同研究報告集 平成13年度共同研究報告書 タイトル: 「地域社会と作業療法−在宅に関わる作業療法−」−理学療法士の立場から− ときわ会病院 ○西田 傳、最上 忍 弘前大学医学部保健学科 金沢 善智 医療法人ときわ会では、平成 12 年度より介護保険導入に伴い、ときわ会訪問看護ステーションから訪問 リハビリテーションを行うことで、在宅サービスの充実を図っている。以下、当ステーションの訪問リハ について紹介する。 【現状について】①リハスタッフ:常勤 PT・OT 各 1 名、②利用者:50 名(介護保険 46 名・医療保険 4 名)、③主な疾患:脳血管疾患、④訪問地域:常盤村を含む近隣7市町村、⑤頻度:1回/週、⑥時間: 1件 1 時間、⑦件数:1 人当り 4 〜 5 件/日、⑧訪問手段:単独でステーションの車輌を運転、⑪サー ビス内容:毎回バイタルチェックにより状態確認。初回訪問時は、身体機能・能力面を中心に家族関係や 家屋環境など生活全体について評価。プログラムは、身体機能面に対する ROM 訓練や筋力訓練・確 認、能力面に対する基本動作訓練、ADL・APDL 訓練・確認、生活指導として離床促進や自主訓練の指 導・確認、家族指導として介助方法などの指導・確認、家屋環境の調整、余暇時間活用としてアクティビ ティの紹介・指導、精神・心理面への援助、看護・介護サービスとしてオムツ交換、手浴・足浴、着替え などの清潔の援助、内服確認、薬の塗布、排泄の確認、食事・水分摂取量の確認、創傷の処置など必要に 応じて実施。PT・OT のサービス計画・内容は統一し同様のサービスを提供。利用者や家族のニーズを 考慮しそれに合わせたリハを実施、また治療だけでなく生活の一部として、訪問時に楽しい時間を過ごせ るようにしている。 【課題について】(1)マンネリ化の改善:利用者の 2 / 3 は介護保険導入前から訪問リハを受けており、 導入後も訪問頻度や内容に変化の少ない機能維持のケースが多い。また、訪問リハに対し病院同様の訓練 を考える利用者も多く、新しいプログラムの導入が困難で、リハ内容がマンネリ化する傾向にある。それ に対し①訪問リハに対する利用者等のニーズや満足度を確認し、内容の再検討を行う、②利用者に対し、 訪問リハをその人らしく生活するための QOL 向上の手助けとして認識してもらう、といった課題が挙げ られる。(2)関係機関との連携の強化:当法人では同敷地内に医療・介護の両面における在宅サービス機 関を設置しており、利用者は当法人の在宅サービスを併用する場合が多い。このように各サービス担当者 間で連携をとりやすい環境下にあるが、連携システムを強化する余地はある。まして他の事業所がケアマ ネージメントを行っている利用者の場合、情報が不足し事前の生活状況の把握が困難である。他事業所と はケアマネージャーの電話連絡に止まり、他主治医とは紙面上の連絡しか行われていない。他のサービス 機関との連携を図り、きめ細かな計画のもとでサービス提供を実施するため、連携の方法を検討する必要 がある。 (3)訪問リハの必要性の理解:退院後も入院時の ADL 能力を発揮させるための家庭環境の確認 やリハの継続として、また、在宅への適応が不十分な場合にはその家庭環境に即した動作指導・訓練など による速やかな家庭復帰の手段として、訪問リハは有効であると考える。しかし、訪問リハの知識や必要 性を理解しているケアマネージャーは少ないと思われ、現状では、家庭復帰する際に病院リハ担当の PT ・OT からケアマネージャーに対する訪問リハ導入の助言が必要であり、訪問リハの認知・導入の判断な どについて実際に訪問リハを行う我々サービス提供者からの働きかけが必要である。 【OT へ期待することについて】① PT・OT の理解と共有:病院からの訪問リハでは、利用者に対する 目標・プログラムは、相互の専門性を重視したこともあり内容に相違があったが、現在は PT・OT がス テーションの訪問リハ専属となり、共通したサービスの提供や計画的な PT・OT 隔週の訪問で、双方が 関わることにより利用者や家族に良い刺激を与え、様々な視点でのアプローチが可能となった。在宅に関 わる PT・OT に境界線はなく、両者伴に少しでも多くの知識を取り入れ、利用者に満足される訪問リハ 34 平成 13 年度共同研究報告集 サービスの提供に努めるべきである。②訓練だけが訪問リハではない:訪問リハは訓練だけを指すのでは なく、在宅における介護状況に応じてケアサービスなども行う必要がある。例えば、運動前のオムツ交 換、内服の確認、感染予防の指導などである。利用者の在宅生活を支援するためには、リハ以外の援助も 必要であり、1サービス機関にとどまらず他のサービス機関との連携をとることにより、ニーズに合った 適切な在宅生活のアドバイスが求められる。従って、リハの専門知識のみならず、介護保険制度や看護・ 介護に関する知識なども必要であると考える。 ○発表学会名:第 14 回青森県作業療法学会(シンポジウム) 35 平成 13 年度共同研究報告集 弘前大学医療技術短期大学部理学療法学科 平成13年度 共同研究報告書 2002 年 5 月 20 日発行 編集・発行 編集責任者 編集協力者 弘前大学 医学部 保健学科 理学療法学専攻 〒 036-8564 青森県弘前市本町 66-1 対馬 栄輝 (弘前大学医学部保健学科理学療法学専攻) 石田 水里 (清明会鳴海病院リハビリテーション部) 蛯子 智子 (整友会弘前記念病院リハビリテーション科) 武田 さおり(整友会弘前記念病院リハビリテーション科) 豊田 麻美子(整友会弘前記念病院リハビリテーション科) 長谷川 至 (弘前大学医学部保健学科理学療法学専攻) (五十音順) 本冊子は URL: http://www.hs.hirosaki-u.ac.jp/pt/index-j.html に て pdf ファイルで公開しています。
© Copyright 2026 Paperzz