第2章 熱と流れの基礎

第2章
熱と流れの基礎
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第2章 熱と流れの基礎
「熱流体力学」で取扱う流れとは、どのようなものであろうか。この章では
まず熱の移動と伝熱の基礎となることがらを学ぶ。続いて熱流体が運動する場
合における「流れ」を力学的に扱うための基礎的な準備を行う。そして、最後
に、
「流れ」にはどのような種類があるかについて解説する。
2.1 熱の移動
温度が異なる二つの物体または流体があるとき、高温側から低温側へ向かっ
て熱の移動が起こる。このような熱の移動現象を伝熱(heat transfer)といい、伝
熱には熱伝導(heat conduction)、対流伝熱(heat convection)、ふく射伝熱(heat
radiation)の三つの機構がある。
2.1.1 熱流束と総伝熱量
図 2.1 に示すように移動する熱量を伝える面積(伝熱面積という)が A (m 2 ) で
あれば、単位時間、単位面積当たり移動する熱量、すなわち熱流束 q (W / m 2 ) と
伝熱面積全体から移動する熱量、すなわち、総伝熱量 Q (W ) との関係は、
(2.1)
Q  qA (W )
で与えられる。以下に説明する、伝導伝熱、対流伝熱やふく射伝熱については、
すべてこの基本関係式が成り立つから注目しておくこと。
伝熱面積
A(m2)
総伝熱量
Q=Aq(W)
温度変化
熱流束
面積
2
q(W/m
1m2)
流体
固
体
図 2.1
流体
熱流束と総伝熱量
2.1.2 熱伝導(heat conduction)
熱伝導とは図 2.2 に示すように、固体内部を高温側から低温側へ熱が移動す
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る現象である。このとき、単位面積、単位時間あたりの熱の移動量を熱流束(heat
flux)という。いま、熱流束を記号 q で表すとき、
Ta1
温度 T
熱伝達率 ha
T1
流体B
T1
dT
<0
dx
T2
流体A
熱伝達率 hb
固体壁
固体壁
厚さδ
図 2.2
T2
Tb2
固体壁 X
熱伝導と熱伝達
熱流束 q は、
q  
dT
dx
(2.2)
(W / m 2 )
で表される。これを熱伝導におけるフーリエの法則(Fourier's law)という。式
(2.2)において、熱は高い方から低い方に移動するため、その温度こう配は
dT dx0 であり、マイナス(-)の符号は熱流束 q を正にとるためである。ここ
で、  は熱伝導率(thermal conductivity)と呼ばれ、熱の伝わりやすさを表す物
理量で、その単位は W / m  K  である。  の値は物質や温度によって異なり、一
般に、金属が最も  が大きく、金属以外の固体、液体、気体の順に  は小さく
なる。伝導によって移動する総伝熱量 Q は熱流束 q に伝熱面積 A をかけて、
Q  qA  
dT
A
dx
(2.3)
(W )
となる。
--------------------------------------------------------------------------------------------------------☆2.1.1 熱伝導の研究課題
1.熱伝導率の意味を正確に日本語で記述せよ。ヒント:その単位を日本語で
物理的に正確に記述すればよい。
---------------------------------------------------------------------------------------------------------
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2.1.3 対流伝熱(heat convection)
対流伝熱とは、熱エネルギを持った流体が移動することによって、流体と共
に熱も移動する現象をいう。特に固体壁と流体間での熱移動を熱伝達(heat
transfer)といい、熱伝達によって移動する熱流束 q は次式で与えられる。
q  hdT
(2.4)
(W / m 2 )
図 2.2 の例では、温度差 dT は (Ta1  T1 ) または (T2  Tb 2 ) であるから、 q は、
q  ha (Ta1  T1 ) または q  hb (T2  Tb 2 )
で与えられる。ここで、 h は熱伝達率(heat transfer coefficient)とよばれ、
その単位は W / m 2  K である。なお、熱伝達率は流れの状態によって異なり、


おおよそつぎのような値となる。
☆熱伝達率 h の値
自然対流(natural convection): 1< h <20
強制対流(forced convection)
:100< h <限りなく大きく 1000 程度
この対流に基づく総伝熱量 Q は熱伝導の場合と同様であり、
(2.5)
Q  qA  ha (Ta1  T1 ) A (W )
で求められる。
2.1.4 ふく射伝熱
ふく射伝熱(radiation)とは、熱が電磁波の形で物体から物体へ伝わる現象で
ある。物体から放出されるふく射の量は、その絶対温度 T の4乗に比例する。
温度 T (K ) の黒体が放射するエネルギ E は、
W / m 
E  T 4
(2.6)
2
ここで、  はステファン・ボルツマン定数と呼ばれ、つぎの値である。
  5.67  10 8 W /( m 2  K 4 )
(2.7)
一般の物体の放射エネルギはこれより小さく、  をふく射率とするとき
E   T 4
(2.8)
ただし、ふく射率  は 0<  <1の値をとる。ふく射による総伝熱量 Q は、ふく
 
射による伝熱面積を A m 2 とするとき、
Q  EA   T A
4
(2.9)
(W )
で求められる。
--------------------------------------------------------------------------------------------------------☆2.1 熱の移動の総合演習問題
1.長さ1 m 、断面積 100 mm 2 、の金属棒の側面を断熱し、一端を 100  C 、他
端を 0  C に保ったところ、この棒を通して、3.7 W の熱が流れていた。この
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金属の熱伝導率  を求めよ。
解答:370W / m  K 
2.厚さ 10mm、熱伝導率   0.1W /( m  K ) の壁がある。この内側の表面温度が
20  C 、外側の表面温度が 10  C のとき、壁の熱流束qはいくらとなるか。
また伝熱面積が 20 m 2 であれば、外部に逃げる熱量はどれだけになるか。
解答: (100W / m 2 ) ; (2000W )
3. 内壁面温度が 100  C に保たれている円管の中に、温度 20  C の空気を流す。
熱伝達率が h  100W /( m 2  K ) であるとき、管から空気に伝わる熱量は単位
時間、単位面積あたりいくらか。
解答: (8000W / m 2 )
4.単位長さあたり 100 W / m の発熱がある直径 10 mm の長い丸棒を,温度 20  C
の水中に置いた。熱伝達率が h  100W /( m 2  K ) であるとき、丸棒の表面温
度はいくらとなるか。
解答:(51.8 C )
5.直径 5 mm の黒体の球が真空中にあり、その表面温度が 1500K に保たれて
いる。この球が外部へ放出するエネルギはいくらか。
解答: (22.5W )
6.
100 W の電球のフィラメント形状を、仮に直径 5 mm の球で近似して考える。
これが真空中にあるとき、その表面温度はどれほどになるか。ただし、フ
ィラメントは黒体で、フィラメント以外の物体が出す放射エネルギは無視
できるものとする。
解答:(2177 K )
7.熱の移動形式について、代表的なものを3つ述べ、その英語を記せ。
---------------------------------------------------------------------------------------------------------2.2 流れの状態を表す量
熱流体の流れの状態を表す量として速度、流量、圧力、せん断応力などが考
えられる。
2.2.1 速度と流量
図 2.3 に示すように流体が管路などを流れる場合、流体の速度、単位時間当
たりに流れる流体の流量等が流れの状態を表すために重要な量となる。
速度(velocity):単位時間あたりの流体の移動距離 (m / s)
流量(flow rate):ある断面を単位時間に通過する流体の量
図 2.3
速度と流量
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とくに、流量に関しては以下のような物理量(言葉)が大切となる。すなわち、
1)質量流量 M :単位時間に通過する流体の質量 (kg / s)
2)重量流量 G :単位時間に通過する流体の重量 (kgf / s)
3)体積流量 Q :単位時間に通過する流体の体積 (m 3 / s)
-------------------------------------------------------------------------------------------------------☆2.2.1 速度と流量の研究課題
1.流れの平均速度を U (m / s) 、断面積を A(m 2 ) 、密度を  (kg / m 3 ) 、比重量を
 (kgf / m 3 ) とすれば、記号 U , A,  ,  を使って以下の物理量を表すと、
質量流量 M =
(kg / s)
ここを各自記号
重量流量 G =
(kgf / s)
体積流量 Q =
で埋めよう。
(m 3 / s)
で与えられる。
---------------------------------------------------------------------------------------------------------2.2.2 圧力とせん断応力
流体内部の微小な要素、つまり図 2.4 に示すような直方体に働く力に注目す
ると、直方体の面に垂直に働く力 F または面に平行に働く力 F が考えられ、
それぞれ、垂直力および面平行力という。これらの直方体に働く力 F に垂直ま
たは平行な面積 A で割った、単位面積あたりの力をそれぞれ、圧力 P またはせ
ん断応力  とよぶ。
垂直圧縮力△F
面平行力△F
面積△A
面積△A
面積△A
面積△A
図 2.4
すなわち、
圧力(pressure) P
単位面積に作用する面垂直力
P  F / A (Pa )
圧力とせん断応力
; せん断応力(shearing stress) 
; 単位面積に作用する面平行力
  F / A (Pa )
;
(2.10)
と定義される。
- 30 -
2.3 流体の変形と回転
流体に力が加わると流体は変形する。流体の変形は図 2.5 に示すようにつぎ
の3種類が基本となっている。すなわち、
☆ 伸び変形(縮み変形);☆せん断変形;☆回転である。
伸び変形
せん断変形
図 2.5
回転
流体の変形と回転
では、以下に、これらの変形が数学的にどのように表現されるかについて説明
する。
2.3.1 伸び変形または圧縮変形
図 2.6 に示すように、流れの中に dx 隔たった2点 A、B を考え、点 A におけ
る x 方向の速度を u とすれば、点B
y
の速度は
u
u
dx
x
点A
点B
u
u  dx
x
u
である。微小時間 dt 経過したとき、
A 点にあった流体は udt 移動し、B
dx
u 

点の 流体は  u 
dx dt へ移 動す
x 

るから、2点間の伸びは差し引き
x
図 2.6
伸びまたは圧縮変形
u 
u

dx dt  udt 
dxdt
u 
x 
x

となる。ここで、材料力学におけるひずみの考え方を、流体の変形に応用して、
伸びひずみ速度はひずみの単位時間当りの変化量として定義され
u
dxdt
2点間の伸び
u
x方向伸びひずみ速度a
 x

元の距離  時間
dxdt
x
1 s 
となる。同様にして、 y 方向、 z 方向の速度成分を v および w とすれば
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(2.11)
y方向伸びひずみ速度b 
v
y
1 s 
(2.12)
w
1 s 
z
となる。なお、伸びひずみ速度の単位は 1 s  である。
z方向伸びひずみ速度c 
(2.13)
2.3.2 せん断変形
せん断変形とは図 2.7 に示すように、直交する2辺のなす角度 1   2  の時間
変化率であり、図の微小な長方形 ABCD において、 x および y 軸方向の速度成
分 u, v が一様でないとき、このせん断変形が流体に生じる。
y
u
速度 u  dy
y
D
C
θ
2
dy
速度u
θ
1
A
B
dx
速度 v 
v
dx
x
速度v
x
図 2.7
せん断変形
図 2.7 において、点Aの y 方向速度成分を v とすれば、 x 方向に dx だけ隔たった
点Bの y 方向速度は、
v
dx
x
であり、微小時間 dt における線分 AB の角度変化量 tan  1 は(反時計回りを正と
する)材料力学のせん断ひずみが   tan  で与えられたことを思い起こして
v
- 32 -


v 
 v  x dx dt  vdt
せん断変位


  v dt
せん断ひずみ( A  B) 
 tan 1  
元の寸法
dx
x
で求められる。同様にして、 dt 時間における線分 AD の角度変化量 tan  2(時計
回りを正とする)はつぎのようになる。


u 
dy dt  udt 
 u 
y 
せん断変位

  u dt
せん断ひずみ( A  D) 
 tan 2  
元の寸法
dy
y
以上から、これらの2つの関係式を合計することによって∠DAB の変化量が求
められる。さらに、求められた角度変化量 tan 1  tan  2  を時間 dt で割ると単位
時間当たりの角度変化、つまりせん断ひずみ速度が求まる。これを記号 h とお
くと、 xy 平面におけるせん断ひずみ速度 h は、
せん断ひずみ速度h 
tan1  tan 2 v u


dt
x y
( xy 平面)
(2.14)
同様にして、 yz 平面、 zx 平面におけるせん断ひずみ速度をそれぞれ記号 f 、
g とおけば、各平面におけるせん断ひずみ速度 f 、 g は、
せん断ひずみ速度f 
w v

y z
( yz 平面)
(2.15)
せん断ひずみ速度g 
u w

z x
( zx 平面)
(2.16)
で与えられる。
-------------------------------------------------------------------------------------------------------☆ コーヒーブレイク:せん断変形のみが起こる条件は?
ここで注意しておくべきことは、せん断変形の角度 1   2 のときのみ、純粋
なせん断変形が起こるのであって、  1 ≠  2 の時は、せん断変形と共につぎに述
べる回転運動が生じることだ。
-------------------------------------------------------------------------------------------------------2.3.3 回転
回転とは任意空間中に考えた微小な流体要素がその形を保持しつつ運動する
剛体運動である。では、図 2.8 に示す微小四角形 ABCD に注目しよう。まず、
線分 AB の角度変化量 tan  1 は、せん断変形の場合と同様にして、


v 
 v  x dx dt  vdt
せん断変位


  v dt
せん断ひずみ( A  B) 
 tan 1  
元の寸法
dx
x
また、線分 AD の角度変化量 tan  2 は、反時計回りを正にとれば
- 33 -


u 
dy dt  udt 
 u 
y 
せん断変位

   u dt
せん断ひずみ( A  D) 
 tan 2   
元の寸法
dy
y
となる。両者のせん断変形ひずみを合計し、単位時間あたりの変化量にした値
を  とおくと、
z軸まわりのうず度 
v u

x y
(2.17)
ここで、 は z 軸まわりの回転角速度の 2 倍となり、これを z 軸まわりのうず度
(Vorticity)という。
y
速度 u 
u
dy
y
C
D
θ
2
dy
θ
速度u
A
dx
1
B
速度 v 
v
dx
x
速度v
x
図 2.8
回転
同様にして、 x 軸、 y 軸まわりのうず度を記号  および  とすれば
x軸まわりのうず度 
w v

y z
(2.18)
y軸まわりのうず度 
u w

z x
(2.19)
となる。
- 34 -
-------------------------------------------------------------------------------------------------------☆コーヒーブレイク:回転運動のみが起こる条件は
ここでも、 1   2 のときのみ回転運動になり、  1 ≠  2 の時は回転とせん断変
形が起きるからね。
-------------------------------------------------------------------------------------------------------☆2.3 伸びひずみ、せん断ひずみおよび回転の研究課題
1.速度成分 u, v が次式のような分布をもつ場合について、2次元流れにおける
伸びひずみ速度 a, b 、せん断ひずみ速度 h および回転のうず度  を求めよ。
ただし、 r 2  x 2  y 2 で A, B はそれぞれ正の定数とする。
1) u  A  By, v  0 ;2) u  Ay, v  Ax
;3) u  Ax, v   Ay
4) u  Ay, v   Ax ;5) u  Ax r 2 , v  Ay r 2 ;6) u  Ay r 2 , v   Ax r 2
2.流体の変形と回転に関して、代表的な例を3つ示せ。
--------------------------------------------------------------------------------------------------------2.4 流れの状態の観察と分類
この節では身近な流れの状態を観察し、それを系統的に分類してみよう。
2.4.1 定常流と非定常流
熱流体の運動を空間に固定された任意の点について時間的に観察すると、図
2.9 に示すように物理量(速度や温度等)が時間的に変化しない場合と、時間的
速度 v
定常部分
非定常部分
速度 v
非定常流れ
v
0
t
v
≠0
t
v
≠0
t
時間 t
図 2.9
時間 t
定常流と非定常流
に変化する場合がある。そこでこのような流れの状態を分類して、
定 常 流(steady flow):時間によって物理量が変化しない流れ。 ( t  0)
非定常流(unsteady flow)
:時間とともに物理量が変化する流れ。 ( t ≠ 0)
とよぶ。
- 35 -
--------------------------------------------------------------------------------------------------------☆2.4.1 定常流・非定常流の研究課題
1.電気分野における定常、非定
電圧E1
常問題の一例として、過渡現象
を考えてみよう。つまり、抵抗
抵抗 R
RとコンデンサCからなる、図
2.10 の RC 回路において時間
スイッチ
電流 I
t  0 で電源スィッチを入れた
とき、電圧 E1 、 E 2 は時間 t に対 電源電圧
してどのように変化すると考
えられるか。この過渡応答曲線
をグラフ化し、定常、非定常状
態を明らかにせよ。(縦軸に電
圧 E1 、 E 2 および電流 I をとり、
E0
コンデンサC
電圧E2
図 2.10
横軸に時間 t をとること。)
RC 回路の過渡応答
--------------------------------------------------------------------------------------------------------2.4.2 一様流と非一様流
流体が流れている時、その速度ベクトルが 3 次元空間の位置および時間に関
わらず常に一定となっている流れを一様流(uniform flow)、空間の位置や時間
によって速度ベクトルが変化する流れを非一様流(non-uniform flow)という。
--------------------------------------------------------------------------------------------------------☆2.4.2 一様流と非一様流の研究課題
1.一様流は、地球上の重力場における自然現象あるいは人工的に作られた流
れも加味して、実際に存在または実現することは可能な流れか。
2.重力が働かない宇宙船内部の空間では一様な流れを実現できると考えるか。
---------------------------------------------------------------------------------------------------------2.4.3 旋回流
台風や竜巻、風呂場、台所、トイレの
排水などで、われわれは日常的にうずを
伴った流れを体験している。引用した図
2.11 はトイレの排水に伴ううずの流れ
を観察した写真である。図を見ると排水
口を中心として流体が回転しており、排
水口付近の水面は周りの高さに比べて
かなり下がっており、途中では水面が盛
り上がっている。さらに排水口の中心か
- 36 -
図 2.11
トイレの流れ
ら遠く離れた位置では水面が再び下がっていることも観察できる。このように
旋回している流れ、旋回流(vortex flow)は、2つの特徴的なうず運動に分類
できる。それは
1)自由うず(free vortex)
1
周速度 V ∝
r
V 
(2.20)
1
r
Vkr
r
r
2)強制うず(forced vortex)
周速度 V ∝ r
(2.21)
である。1)および2)のうず流
れを図 2.12 に示した。1)の自由
うずでは、周速度 V が流体の回転
中心からの半径 r に反比例する。
したがって、中心付近で周速度は
極めて大きい。一方、2)の強制
うずは周速度 V が流体の回転中心か
図 2.12
自由うずと強制うず
らの半径 r に比例して増加するので、いわゆる剛体回転流れとなる。
--------------------------------------------------------------------------------------------------------☆2.4.3 旋回流の研究課題
1.台風はいずれに属するうずか。強制うず、自由うず?、または他のうず?
2.自動洗濯機の中の水の流れ(ただし、回転方向が一定で変化しないとき)
はいずれのうずに相当するか。
3.自由うず、強制うずを実現するにはどのような装置を設計すればよいか。
それぞれについて提案せよ。
4.宇宙のブラックホールは星の墓場と呼ばれ、ブラックホールの強烈な重力
場は相手の星に異変を引き起こす。その成り立ちはどのようなものか。
--------------------------------------------------------------------------------------------------------2.4.4 層流と乱流
図 2.13 に示すように流れには層流と乱流がある。これを説明すると、
代表速度V
代表速度V
代表長さD
図 2.13
層流と乱流
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代表長さD
層流(laminar flow) :粘性係数が大きいかまたは速度や流路寸法が小さく、流
れが層状になる流れ。
乱流(turbulent flow):粘性係数が小さいかまたは速度や流路寸法が大きく、流
れが乱れた状態となる流れ。
となり、つぎの無次元数が極めて重要である。
☆レイノルズ数(Reynolds number) Re の定義
Re 
代表速度  代表長さ VD

動粘性係数

(無次元)
(2.22)
ここで、 V は代表速度、 D は代表直径、 は動粘度を表す。流れの状態はこの
レイノルズ数 Re で整理でき、Reynolds(レイノルズ)の膨大な実験から
Re <2300
で流れは層流
Re >4000
で流れは乱流
Re =2300
臨界レイノルズ数(critical Reynolds number)
2300< Re <4000
遷移領域(transition region)
と分類される。
--------------------------------------------------------------------------------------------------------☆コメント:レイノルズの実験
1880 年ごろレイノルズ(O.Reynolds)は円管内に水を流し、その中央に着色
液を注入し、その広がりを調べ、流れには層流と乱流があることを見出した。
その実験から、流れが層流または乱流になるかはレイノルズ数という無次元量
によって整理できることを発表した。
-------------------------------------------------------------------------------------------------------☆2.4.4 層流と乱流の練習問題
1.内径 50 mm の円管内を水が流れている。水の動粘度は 1.004  10 6 m 2 / s とし
て、流れを層流とするためには、断面の平均流速はいくら以下とすればよ
いか。
2.自然界の現象は乱れた乱流現象が多い。このような現象の振る舞いをカオ
スという。では、次の関数がカオス的な振る舞いを起こすことを考察し、
その結果をレポートにて提出せよ。
与式: X (t  1)  4  X (t )  1.0  X (t )、 t  0,1,2,3      29,30      n
- 38 -
ただし、0< X (t ) <1.0 とする。
課題:1.与式を t  0 から t  30 (任意)まで解きなさい。
2.計算結果を、横軸に t 、縦軸に X (t  1) をとりプロットせよ。
3.計算結果を、横軸に X (t ) 、縦軸に X (t  1) をとりプロットせよ。
4.プロットされたグラフやデ-タからカオス現象を考察せよ。
---------------------------------------------------------------------------------------------------------2.4.5 流線
流線(stream line)とは、流れの速度ベクトルの接線をつないだ包絡線をい
う。では、この方程式を説明しよう。
速度ベクトルV
y
V
v
速度ベクトルの方向
ds
θ
点(x,y)
dy
dx
u
x
図 2.14
流線と速度ベクトルの関係
☆2 次元流線方程式
流体中の任意点 ( x, y) の位置における流体の速度ベクトルをV、Vの x, y 方向
速度成分を u, v 時間を t とする。すなわち、u  f ( x, y, t ) ; v  f ( x, y, t ) と考える。
このように定義すると、図 2.14 の流線に示されるように、速度ベクトル V を x, y
方向に分解した速度三角形と流れの中にとった速度ベクトル V の S 方向線素
dx, dy, ds が作る微小要素三角形は相似であり、したがって、
dy v
 となり、こ
dx u
の式を変形して、2 次元流線方程式は結局、
dx dy

u
v
(2.23)
で表される。
- 39 -
☆3次元流線方程式
同様にして、 x, y, z 方向速度成分をそれぞれ u, v, w とし、 u  f ( x, y, z, t ) ;
v  f ( x, y, z, t ) ; w  f ( x, y, z, t ) と考えれば、3次元流線方程式は
dx dy dz


u
v
w
(2.24)
で表される。
--------------------------------------------------------------------------------------------------------☆参考と補足:円筒座標の流線方程式は
円筒座標系 (r , , z ) を用い、それぞれの方向の速度成分を (Vr ,V ,Vz ) とすれば、
円筒座標における流線の方程式は次式で与えられる。
dr rd dz


Vr
V
Vz
(2.25)
---------------------------------------------------------------------------------------------------------☆2.4.5 流線の研究課題
1.2次元流れにおいて速度成分が次式で与えられるとき、その流線を求めよ。
1) u  Ax ; v   Ay
2) u  Ay ; v  Bx
ただし、 A, B はそれぞれ正の定数とする。
2.非圧縮性2次元流れにおいて、速度成分が次式で与えられるとき、流れは
理論上可能か。
1) u  2 x  3 y ; v  x  2 y
2) u  5xy  y 2 ; v  xy  4 x
解答指針:流れが連続の式(第5章参照)を満たすか確かめればよい。
-------------------------------------------------------------------------------------------------------2.4.6 混相流
物質は気体、液体、固体などの相があり、これらの相が交じり合った流れを
混相流(multi phase flow)という。これらには、固気 2 相流;気液2相流;固
液2相流などがある。混相流の反対語は単相流(single phase flow)である。
2.4.7 等温流と非等温流
自動車の燃焼室、ロケットエンジンの燃焼室など空間的に温度の場が異なる
ような流れが存在している。これらを分類するとつぎのようになる。
等 温 流:流体の温度が場所によらず一定である流れ。
非等温流:流体の温度が場所によって変化する流れ。
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V 
1
r
Vkr
r
r
--------------------------------------------------------------------------------------------------------☆第 2 章 総合演習問題
1.クエット流れにおける伸びひずみ速度、せん断ひずみ速度およびうず度を
求めよ。ただし、平板間の距離を H 、平板の移動速度を U とする。
2.強制うずにおける伸びひずみ速度、せん断ひずみ速度およびうず度を求め
よ。ただし、V  r ( V :周速度、 r :半径、 :角速度)で与えられる。
3.自由うずにおけるうず度を求めよ。ただし、周速度は V  k r( V :周速度、
k :定数、 r :半径)で与えられる。
4.内径 10 mm の円管内を 20  C 、圧力1気圧の空気が平均流速 2.0m / s で流れ
ている。管内の流れは層流か乱流か。ただし、空気の粘度を 1.81 10 5 Pa  s 、
密度を 1.205kg / m 3 とする。
5.速度成分 u, v が次式のような分布をもつ場合について、2次元流れにおける
速度場の様子を x  y 平面上に模型的に図示せよ。ただし、 r 2  x 2  y 2 で
A, B はそれぞれ正の定数とする。
1) u  A  By, v  0
2) u  Ay, v  Ax
3) u  Ay r 2 , v   Ax r 2
6.速度成分 u, v が次式のような分布をもつ場合について、2次元流れにおける
流線の様子を x  y 平面状に模型的に図示せよ。ただし、 r 2  x 2  y 2 で A, B
はそれぞれ正の定数とする。
1) u  A  By, v  0 2) u  Ay, v  Ax
3) u  Ay r 2 , v   Ax r 2
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