農山村地域支援政策のあり方

農山村地域支援政策のあり方
論 説
明治大学 農学部 教授
小田切 徳 美 (おだぎり とくみ)
1.はじめに
「食料危機」「石油危機」「温暖化危機」
、そして「地球危機」
。新聞の見出しに、こ
うした言葉が連日のように登場する。
この新しい世紀は、パイの拡大を競う「産業と開発の世紀」ではなく、パイの制
約下における「資源・環境と持続性の世紀」であることが、ますます明らかになり
つつある。そして、世界をかけめぐるグローバルマネーもその資源・環境に向かっ
ている。特に、原油と食料は、いまや投機の対象である。また、各国は資源や環境
のポジションに応じて、様々な対応を始めている。それは、資源・環境の「戦略物
資化」であり、食料サミット(6月、ローマ)
、先進国サミット(7月、北海道洞爺
湖)は、それをめぐる対立や調整の場にほかならない。
このような地球規模の変動の中で、国内において食料、エネルギー、水、二酸化
炭素吸収源を不断に供給し、資源・環境の源となっているのが農山村である。それは、
「国内戦略地域」といっても、いまや過言ではない。
しかし、その農山村自体が「危機」に瀕していることも周知のとおりである。人(過
ぜいじゃく
疎化・高齢化)、土地(農林地の荒廃)、ムラ(集落機能の脆 弱化)の「3つの空洞化」
は、急テンポで進行しつつある。国内における農山村は「国内戦略地域」の役割を
果たすどころか、こうした段階的な空洞化が進んで、久しいといえる。
【図】中山間地域における空洞化の進展(模式図)
高度経済成長期
1960年
低成長期
1970年
1980年
経済構造調整期
1990年
2000年
人
社 会 減 少 →→→→→→→→ 自 然 減 少
空洞化の
領域
土地
ムラ
3つの空洞化
誇りの空洞化
注 1) そ の 一 部 は 本 誌
にも「農村地域再生の課
題」としてまとめた(『JA
総研レポート』VOL. 2、
2007 夏号)。併せて参照
していただきたい。
そうしたなかでも、近年では、この空洞化に対抗する動きも従来以上に強まって
いる。筆者らは、この数年間、農山村地域で生成している様々な動きを追跡し、そ
の取り組みがいかなる要素から成り立ち、そしてどのような性格を持つのかという
分析と議論を進めてきた注1) 。
その動き(新しい地域づくり、地域再生)は、大きくは2つの領域で進んでいた。
第1に、新たな経済の形成である。農林産物加工や農家レストラン等の6次産業
化は、いまや一般的に見られるが、最近では交流産業(グリーンツーリズム)がそ
ひょうぼう
こに合流しつつある。また、森林や里山等の地域の資源保全を標榜し、消費者の共
感を呼び込む地域資源保全型産業の動きも始まった。
2 《論説》農山村地域支援政策のあり方
JA 総研レポート/ 2008 /夏/第 6 号
第2に、地域コミュニティーの再編・構築である。地域自治組織の形成とその活
発な活動は、特に農山村で見ることができる。それは市町村合併により、周辺地化
しつつある農山村の危機対応であると同時に、自らの未来を自らの力で描き、実現
するという「手づくり自治区」の構築という積極的な対応でもある。そのため、都
市コミュニティー再生のモデルにもなる事例もある。
本稿では、このような2つの領域で進む新しい動きの特徴をあらためて明らかに
するとともに、それを一歩進めて、こうした農山村の新しい地域づくり(地域再生)
を支える地域支援政策のあり方を論じてみたい。
2.農山村地域再生の特徴
注 2)宮口侗廸『新・地域
を活かす』(原書房、2007 年)
第4章「地域づくりの意味
を問う」を参照。
近年における農山村地域における、新しい地域づくりの取り組みは、概ね3つの
特徴を持っている。
第1に、こうした取り組みに共通するのは、やはり地域からの「内発性」である。
筆者らが注目している取り組み事例では、急激な過疎化や災害のなかで、いずれに
おいても「負けてたまるか」と住民が立ち上がり、現在に至っている。農山村地域
では、過疎化・高齢化のなかで、内発性を発揮する基盤が弱まっているのは確かで
ある。しかし、そうであっても、やはり地域住民による内発性を基盤としなくては
ならないことが、諸事例からあらためて明らかになるといえる。
第2は、いずれの地域でも、その取り組みは「総合性」を有している。地域コミュ
ニティーにおける取り組みでも、活動領域が、産業・経済、環境、文化、教育、福
祉等にも及ぶことが少なくない。このような総合性は、人々の暮らしや行動が多面
的であることに由来しており、その点では当然のことである。しかし、今でも、地
わいしょう
域再生策が、行政主導による経済的活性化に矮小化された事例や政策は依然として
少なくない。そのため、「カネづくり」や産業・経済面だけでない総合性の再確認は
重要であろう。そして、この総合性の結果として、「多様性」が発現する。言うまで
もなく、これらの地域は農山村地域としての共通性はあるが、個々の取り組みは極
めて多様である。
第3に、いずれの取り組みも、活動や運営に新しい仕組みを取り入れている。今
までの仕組みに寄りかかり、それが機能しないことを嘆くのではなく、地域再生の
「場」「主体」「条件」をそれぞれに革新していることが確認できる。
この点は人口動向について考えるのが最もわかりやすい。今までの仕組みに寄り
かかり、それが機能しないことを嘆くことは、農山村地域、特に過疎地域では、人
口動向をめぐって繰り返されてきたことである。しかし、既に日本全体の人口が減
少に転じているなかで、ひとり農山村地域が人口増加を実現することは、いまや困
難である。もちろん、これ以上の「人の空洞化」を阻止する対応は必要であるもの
の、それと同時に現状やそのトレンドの人口フレームを前提とした対応が重要とな
る。そこで求められるのは、人口が多かった時代に作られた過去の様々な社会的シ
ステムまで含め、地域自らが再編し、「新しい仕組み」を創造するような「革新性」
である。
また、それぞれの地域の革新性は、このような仕組みのみならず、地域の「新し
い価値」の形成にまで至っている点も強調したい。むしろ、その点に、それぞれの
しゅうれん
地域の取り組みの目的は収斂しているといえる。宮口侗廸氏(地理学)がつとに指
摘しているように、
「地域づくりとは、時代にふさわしい新しい価値を地域の中から
つくり出し、それを育てることによって地域を方向づけること」注2)にほかならない
のである。
以上のように、「内発性」
「総合性・多様性」
「革新性」が、新しい農山村地域の地
域づくりの特徴と考えられる。それは、地域づくりの基盤としての「内発性」、その
中身の「総合性・多様性」
、そしてその仕組みとしての「革新性」と位置付けること
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ができよう。
また、それを歴史的に見れば、行政主導により、経済的成果を追求した 1970 年代
の「地域活性化」の動きに始まり、1980 年代∼ 1990 年代において取り組みの総合
性を実践した「地域づくり」を仲介して、
「内発性」
「総合性・多様性」
「革新性」を
実現する現在の地域再生(新しい地域づくり)に到達したといえる。
3.農山村地域支援政策の基本方向
注 3) 鳥 取 県 の「 市 町
村交付金」は、県による
小規模な奨励的補助金
(2006 年度の当初予算要
求にあった 38 事業)を
統合し、一定の算定方式
により、市町村に配分す
る交付金としたものであ
る。いわば「県版の地方
交付税」であり、「中山
間地域活性化交付金」の
対象エリアを拡げて(条
件不利地域市町村→全市
町村)、さらに自由度を
高めたものと理解するこ
ともできる。
(1) 基本的な方向
農山村地域における新しい地域づくりの取り組みに対しては、それに応じた新し
い支援方策が必要となろう。その基本的方向は、前節で析出した「内発性」「総合性・
多様性」「革新性」という3つの特徴的要素から導かれる。
第1に、「内発性」への支援であるが、言うまでもなく、内発力を直接に支援する
ことは、行政にできるものではない。ただし、それを間接的に支援することは可能
である。特に重要な点は、地域住民が当事者意識、つまり「地域づくりとは自らの
問題だ」という意識形成を支援することであり、それは端的にいえば、
「地域づくり
ワークショップ」の開催や運営に対する支援であろう。ワークショップの司会役と
なるファシリテーターの派遣に対するサポートなどはその代表である。
第2の「総合性・多様性」に対しては、柔軟な支援策という方向性が出てくる。
多様性については、支援メニュー自体が多様であることが必要となり、特に資金面
での支援(補助金等)であれば、その使途に高い自由度が求められる。また、総合
性については、行政にありがちな「縦割り」のために、単一の領域しかカバーでき
ないということは許されない。例えば、経済面のみならず、福祉、環境、教育面ま
でに至る総合的支援が、新しい地域づくりには要請されている。
第3に、「革新性」に対する支援は、何よりも新しい仕組みや新たな価値を作り出
すということに対する支援サイドの理解が必要であろう。なぜならば、古くからの
システムの変革と創造には多大なる時間がかかるものであり、そうしたことを実現
することには、一朝一夕にできるものではない。従って、
「革新性」を 1 つの特徴と
する新しい地域づくりは、単年度で達成されるような課題ではなく、支援策はおの
ずから長期にわたるものとなろう。
(2) それを実現する典型事例―鳥取県単事業―
このようにしてデザインできる支援の方向性を最も典型的に体現しているのが、
鳥取県で創設された「中山間地域活性化交付金」
(2001 年度∼ 2005 年度)である。
注3)
に再編されており、1 つの到達点を示
この交付金は現在では、「市町村交付金」
している。しかし、新しい地域づくりに対する支援策としては、かつての「中山間
地域活性化交付金」が象徴的な内容を具備していると思われる。そこで、この制度
を振り返ってみよう。
この事業は、
「地域が自ら諸問題を解決しつつ一層の活性化を図る」ことを目的と
する交付金である。対象となる地域は、県内の過疎法、辺地法、山村振興法、特定
農山村法の対象市町村内(市町村合併前では 39 市町村中 32 市町村)の集落等(複
数集落の地域や商店街を含む)。
これらの集落が地域づくりのための計画を樹立したときに、3年間で 500 万円か
ら 2000 万円を県から市町村に支払い、さらに同額の市町村負担分と合わせて総額
1000 万円から 4000 万円の補助金として、集落等に支出するものである。総事業費が、
4000 万円を超えた場合には、地元集落が負担することとなることから、要するに、
3年間にわたり、県が 1/2、市町村が 1/2 を負担する、総額 4000 万円を上限とする
地域づくり交付金といえよう。
そして特徴的なことは、次の4点である。①交付金の使途は、ソフト事業とハー
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ド事業の両者にわたり制限はない。②交付金の3年間にわたる配分を事業中に変更す
ることができる。③事業の申請要件は、その地域で「ワークショップ的なものを行う」
ことだけである。④採択の審査は、集落住民のプレゼンテーションに対して、県(県
庁企画部自立促進課〈当時〉または出先機関である県民局)が採点方式で行う。
以上の①と②は、地域づくりを行おうとしている集落等の地域がこの交付金をでき
るだけ使いやすくするために考えられた仕組みである。①のために、交付対象となっ
た地域では、「高齢者の交流」「集落のバリア・フリー化」「ホームページの作成」
「生
ゴミの堆肥化」等、極めて多様に交付金を活用している。また、②は、地域づくりは「生
き物」であり、むしろ当初の計画どおりに進まないことが多いことを配慮したもので
ある。このような弾力性を制度的にも確保するために、県は事業主体である市町村に
債務負担行為の設定を行い、県が市町村に対して総交付金額の確保を約束するという
画期的な仕組みを導入している。また、同じ理由から、計画書それ自体の様式は極め
て簡素なものにしている。
さらに③は、ワークショップ的な場を経て、地域住民が当事者意識を形成すること
が、地域が動くためには何よりも必要であり、その点だけでも実現されていれば、ど
の地域にも今後の発展の基盤が確実にある、という考えによるものである。
④の事業採択の審査方式も、住民の合意形成に特に重点がおかれているという特徴
を持つ。審査は、担当課(室)の5人の職員(スタート時の 2001 年度の場合)の採
点によって行われている。1人 25 点満点の内訳は、
「参画度」10 点、
「総意」10 点、
「継
続性」5点であり、事業内容の評価よりも、むしろその前提条件である「参画度」
「総意」
の比重が、はるかに高い。従って、1地域 50 分にわたる審査時のプレゼンテーション(約
20 分)と質疑(約 30 分)は、事業内容の説明よりも、その計画がどのような話し合
いにより生まれてきたのかという意志形成プロセスの十分な説明が要請され、質疑も
その点に集中するという。
なお、①や③の点と関連してさらに注目されることは、この交付金を活用しようと
する集落では、ワークショップを積み重ねて話し合いを進めれば進めるほど、導入し
ようとする施設規模が小規模化していくという点である。集落センター(集会場)の
ケースが典型的であるが、多くの集落では合意形成の過程で、地域のために何が本当
に必要な施設機能なのかの整理が進み、そして最終的には、事業総額も少額化してい
くという。従来の補助金とは異なる地域の対応が進んでいるのである。従って支払交
付金総額は、毎年県の予算を下回ることになるが、県の担当課は、いわゆる「予算消化」
のスタンスに立たず、使い残しを歓迎しており、ここにも従来と異なる発想が見られ
る。
以上で見られるように、この支援措置には、内発性、総合性・多様性、革新性の発
揮を促進するような目的が意図的に埋め込まれている。その結果、①主体性を促進す
るボトム・アップ型支援、②自由度の高い支援、③長期にわたる支援という特徴を実
現しているのである。こうした新しいタイプの支援は、その内容から「地域づくり基
金交付金」と表現できよう。
なお、国レベルの施策でも、農林水産省が 2000 年より開始した中山間地域等直接
支払制度も、上記の3つの内容を持っている(①地域が内発的に集落協定を作り、②
交付金の使途は原則自由、③期間は5年間が約束されている)。新しい地域づくりに
対応した支援策は、自治体レベル、国レベルを問わず動き始めている。
4.支援主体のあり方―地方自治体と中間支援組織―
このように動き出した新しい地域づくり支援策であるが、それと同時に、支援主体、
とりわけ地方自治体自体も、その役割の変化が求められている。
その変化の方向性をひとことでいえば、「統制・規制型行政から地域マネジメント
型行政への重点シフト」であろう。そこでは、住民自治組織(新しい自治組織)の設
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立と安定的運営や経済主体の持続的発展を支援することが課題となり、そのために
は、地域を持続的にマネジメントすることが必要となる。
従って、自治体職員は、
「地域マネジャー」として、地域の主体に、情報、人、金、
モノを直接提供したり、あるいはそれらのネットワークの接続機会を提供したりす
ることも、求められるようになる。 また、地域の新しい規範(ルール)づくりを支援することも重要な役割となる。
その場合には、ソフトな「規制」も重要である。例えば、手づくり自治区の立ち上
がりを支援するときに、男女共同参画の観点から、「役員は男女同数とする」ことを
求める「規制」やそれを行政支援の要件とする誘導なども必要であろう。
こうしたことは、言うまでもなく地域では先行している。「地域マネジメント型行
政」の取り組み事例は、枚挙にいとまがないが、最近、特に注目されるのは、自治
体職員の「地域担当制」である。職員が、1人ないしは複数で、コミュニティーを
担当し、機動的な情報提供やアドバイスをするような仕組みを導入する自治体が増
加している。なかには、条例を作り、辞令を交付している自治体の例もある。
しかし、これらのことは、行政組織でなくてはどうしてもできないことではない。
地域によっては、NPOの中間支援組織が部分的に担当しているところもある。農
山村地域におけるその最も典型的な例として、新潟県村上市の「都岐沙羅パートナー
ズセンター」がある。以下、その活発な活動の概要を紹介しよう。
都岐沙羅パートナーズセンターは、県の広域市町村圏を対象とするソフト事業
(ニューにいがた里創プラン事業)を中心にし、多様な事業を推進するために、岩船
地区に創設されたNPO法人(1999 年開設、2001 年法人化)である。
その事業内容は、ファーマーズ・マーケットから地域通貨の運営まで多岐にわた
るが、県単事業を基に実施していたのが「都岐沙羅の元気づくり支援事業」である
(1999 年度∼ 2005 年度)。これは、コミュニティー、個人、企業等が、新たな事業を
行うときに、その資金の一部を支援するものであり、先に述べた「地域づくり基金
交付金」の一種といえよう。その内容は、2部門に分かれており、
「発芽部門」は「本
格的な起業に向けて商品やサービスを実験的に販売したり、組織を整えるといった
準備に対して助成するもの」であり、一律 20 万円を助成する。また、
「開花部門」は、
「実際に起業するための事業計画を作成し、それを実施することに対して助成するも
の」であり、100 ∼ 300 万円の助成である。
ここでは、NPOの機動性を活かして、様々な工夫を見ることができる。第1に、
この事業の採択にかかわる審査が公開で行われていることである。公開の空間(例
えばスーパーマーケットの広場)を会場として、申請者のプレゼンテーションに対
して、審査が行われている。これは、従来の補助金で見られたいわゆる「箇所付け」
の密室性をなくし、説明責任を果たすとともに、審査会自体を、審査員のアドバイ
スや他の申請者とのネットワーク形成の場とすることを目的とした試みである。第
2には、採択された事業には、専門家の派遣やセンター事務局からの日常的アドバ
イスを得ることができる仕組みとなっている。そして、第3には、中間発表会や1
年後の成果発表会で報告をすることが義務づけられているが、その場もやはり事業
の評価や発展・改善に向けたアドバイスを得る場となっている。さらに、第4に、
こうした活動をさらに支援するために、この事業の採択を受けた者には、地元の信
用金庫が「しんきん都岐沙羅起業家応援ローン」を作り、無担保で最高 500 万円ま
での融資をするメニューを準備している。
このような工夫を取り入れた運営により、1999 年度∼ 2005 年度の6年間で、延べ
200 件、79 者(団体および個人)に対して、5500 万円の助成が行われ、観光・交流、
福祉・保健・医療、食文化、商品開発・ブランド等による起業や活動が支援された。
その実績は顕著であり、単に助成を受けた団体等の活動の活発化にとどまらず、審
査会や報告会を通じたネットワークにより、複数の団体の連携による新しい起業活
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動がスタートするような状況も生まれている。
なお、この事業を支えた県のソフト事業終了後の現在も、このNPO法人は、ファー
マーズ・マーケットやコミュニティー・カレッジの開催等で活発な活動を行っている。
このように、資金供給者は行政であっても、その供給の方法やアフターケア等の点で
は、NPO等のいわゆる中間支援組織が得意とする場合が少なくない。むしろ、本稿
で指摘したような農山村地域の新しい地域づくりに欠かせない「内発性」「総合性・
多様性」「革新性」を促進する主体としては、NPO等の組織が適合的である場合が
多いであろう。
こうした仕組みと主体は、EUの地域振興策では一般的に見られるものであるが、
そのような取り組みが、日本の農山村地域においても育ちつつあることに注目したい。
5.おわりに
本稿では、農山村地域でその取り組みが始まり、一部では成熟しつつある地域再生
(新しい地域づくり)の動きを一層前進させるための支援策を論じてきた。そのすべ
ては、現に農山村地域で行われているものであり、いわば「地域再生の現場力」から
学ぶべきものは限りなく多い。
しかしながら、「地域再生の現場力」のパワーだけでは、現在の格差社会における
農山村の再生が困難なことも事実である。つまり、「地域再生の現場力」から見えて
きた再生の方向性が「地域の自立(自律)に向けた内発的発展」だとすれば、そうし
た活動の基盤を支える「国土の均衡ある発展(都市と農村の格差是正)」も、同時に
重要となる。しばしば、国土政策の場面では、後者から前者への課題の転換が指摘さ
れているが、そうではなく「自立」と「均衡(格差是正)」の「2兎」を追うことが
必要なのである。
最後に、「2兎」を追うことを支える、より大きな枠組みの議論が必要なことを指
摘しておきたい。「小さな政府」が標榜され、財政的なパイの縮小が図られる下では、
政治的には都市と地方・農山村地域の「対立」の激化は繰り返し発生するものと予想
される。そのようななかでは、国土や国民経済という拡がりから、都市と農山村のあ
り方を論じる骨太の議論が欠かせない。
それは別の言葉でいえば、本稿の冒頭で論じた「資源・環境と持続性の世紀」にお
ける「国内戦略地域」としての農山村が、都市といかなる提携を果たすべきかを、具
体的に論じ、実践することでもある。
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