放送コンテンツの海外展開の促進強化策について その2 【国際コンテンツ見本市の活用】 ① 自国開催のコンテンツ見本市 国内で唯一の映画・放送番組に関する見本市である「TIFFCOM」は、昨今の不況下においても 前年比で参加者が微増しており、比較的健闘しているといえる。しかしながら、現状で十分かとい えば決してそうではない。海外の多くの見本市は純粋なBtoBで行われることは少なく、何らかの イベント等とカップリングするなど、少なからずBtoCの要素を織り込んでいる。例えば「ソウル・ドラ マアウォード」は、コンテンツ見本市「BCWW」に一般視聴者を対象にドラマの紹介をするイベント 「ソウル・ドラマフェスティバル」とドラマの国際コンテスト「ソウル・ドラマアウォード」の3つのイベン ト群で成り立っている。「ソウル・ドラマアウォード」は全国中継され、「ソウル・ドラマフェスティバル」 は様々なチャンネンルを使って宣伝される。その結果、イベントの国内外の認知度が上がり、国民 の期待も高まる。それにより、世界各国のセラーが集まり、トータルで繁栄するという仕組みになっ ている。上海テレビ祭も同様である。 また、TIFFCOM はオフィスビルの中で行われているが、諸外国の見本市は多くの場合、見本市 等を行うための器、例えばコンベンション・ホールなどで行われる。見本市を想定した作りの建物 は、大型の四角い構造で天井が非常に高い。そのため、全体のスケールが大きく、高さを気にせ ずブース設計ができる。こうした環境がフレキシビリティーを生み、各ブースが必要に応じて大小 様々に豪華なもの、シンプルなものを作る選択肢を与える。その点、オフィスビルは天井が低く、フ ロアも狭いことからブース設計に制限をかけざるを得ない。その結果、「1ブース1コマ」ということ になってしまう。これが何を意味するかといえば、メジャー級の出展者を呼びにくいということであ る。例えばハリウッドのメジャースタジオが出展を考えたと仮定しよう。メジャースタジオがわざわざ 日本に来て、小さなブースを構えようと思うだろうか。こうした主だった出展が減ればバイヤーの参 加インセンティブを阻害することになり、TIFFCOM は世界の見本市のトップ集団には到らないこと になってしまう。 それでは、どうすればよいのか。まず、環境的に限界があるオフィスビルを脱出することが急務 である。さらに、世界中のバイヤーを日本に誘引するような仕掛けをつくる必要がある。欧米人に してもアジア人にしても、アジア各国の中でどこに行きたいかと聞かれれば、「日本」と答える方が 多いと思う。その意味ではすでにバイヤーを呼ぶ環境として、日本はアドバンテージを持っている。 そのほかにどのようなインセンティブを持たせるか考えればよい。作品の内容やネックになってい る権利処理問題はひとまず置いておくとして、どのようなインセンティブが考えられるのか。多くの 1 諸外国の見本市に参加してきた海外番販担当者からのヒアリングで興味深い提案がいくつかあっ た。その一つは「見本市と観光の融合」である。例えば、諸外国の見本市のいくつかは都心部では なく、観光地で行われている。例えば MIPCOM/MIPTV のカンヌなどがそうである。これを日本に重 ね合わせると、意外に「熱海」あたりでの開催もおもしろい。「温泉」「海の幸」に宿泊施設も多くあり、 収容には問題がない。都心からも新幹線だと1時間足らずという好立地であり、バイヤー達にも喜 ばれるのではないか。「ようこそJAPAN」という運動にも符合するので、観光客誘致にも一役買う ことにもつながる。もちろん、受け容れのための地盤整備は必要になるが、こうした大胆な施策を とらないと画期的に状況が変化するとは思えない。これはアイデアの一つだが、こうした積極的な 方策を官民一体となって考えるべき時期にきていると強く感じる。 ② 海外のコンテンツ見本市 国内での見本市の見直しが必要であるとともに、海外のコンテンツ見本市への出展についても 考え直す必要がある。 世界各国のコンテンツ見本市をみると、主要国では、必ずといっていいほど「ナショナル・ブー ス」(ジャパン・パビリオン)を出展している。調査結果によると、「MIPCOM 2009」において公的支 援を受けて出展している数は、21 カ国で合計 34 団体。「MIDEM2010」では、53 のパビリオンに対し て各国の公的支援がある。政府支援の場合であったり、地域の公的支援を受けている場合であっ たりと背景は様々であるが、多くの国が何らかの公的支援を受けて出展している。一方、日本の 場合には、いわゆる「ナショナル・ブース」は、この2つの見本市においては1つだけ、それも映画 のカテゴリーである。規模も小さく、諸外国に比べて格段の差がある。 各国がどうしてこのように多額の投資をしてまで「ナショナル・ブース」を出展するのかといえば、 その国のコンテンツが優秀であることなどをPRするとともに、国としてどれだけコンテンツに力を入 れているかアピールするためでもある。実際に見本市会場で各国の大きな「ナショナル・ブース」を みると、やはりバイヤーの足がそれらに流れているのも明らかであり、国力を示すバロメーターに なっているのも事実だ。 日本の放送事業者の間でも、「ジャパン・パビリオン」的な出展が効果的であるという考え方は 強く、基本的には国力を示す具体的な形があった方がよい、という気持ちは持っている。海外のバ イヤーからみると、「日本のテレビ局にとってのライバルは、まだ日本国内(の他局)だ」というイメ ージもある。こうした考え方に固執してしまうと、ますます日本が世界のマーケットから取り残され てしまう。国内需要が減り、収益構造が変わってきている中、海外にコンテンツを売ることの重要 性が増していくことは自明の理である。ここで考え方を整理して、まず、日本のコンテンツ全体をア ピールする仕組みを作ることに注力すべきであろう。 今般の経営状況から、見本市への出展自体を取りやめるケースも多く、各社が出展にかかる費 用を捻出するのは困難な状況になっている。国が「ナショナル・ブース」設営の費用を拠出し、そこ に各社が出展するようなスキームを作れば、各社にとっても費用的な問題が解消するし、国として 2 もパワーを示すことができる。また、こうした仕組みを作ることにより、海外へのチャンネンルを持っ ていないローカル局の発信にも寄与することになろう。 2010 年 12 月には、国際ドラマフェスティバルが中心となり、アジアの中でバイヤーが多く集まる シンガポールの「ATF」において、「ジャパン・パビリオン」として NHK や在京キー局、ローカル局な ど 13 社が集まって出展。日本のコンテンツ・パワーをアジアの国々はもちろんのこと、ATF に参加 していたヨーロッパやアメリカ、アフリカなど世界にアピールし、日本コンテンツの健在を見せること ができた。今後もどの様に日本のコンテンツ・パワーというものを世界にアピールし、そしてよりビ ジネスにしていくかが課題といえるだろう。 3
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