人事管理に関する内部監査の留意事項

人事管理に関する内部監査の留意事項
1.会社の人事管理に関する基本方針は、経営戦略との整合性が十分に確保されており、基本方針が
不明確であれば、人事管理制度の運営は円滑に行われない。
2.実効性のある人事管理を行うためには、人事部門における権限および責任の所在が明確でなけれ
ばならず、職務分掌規程および職務権限規程は制定しているものの、内容が不明確で形骸化して
いるなど、会社の実態と埀離していたりするようなことはないか。
3.人事管理制度は、経営のトップマネジメントに対し、労務管理に関するスタッフ的機能を果たし
ているほか、人事管理は人材の募集・教育・配置・異動・考課および福利厚生という、あらゆる
人事労務管理に係る業務を行うものである。
4.会社の人事労務に関する基本方針は、従業員各層において理解されているとともに、一般従業員
と監督職や管理職の職制との間に意思の疎通がないと、会社の業績の向上および生産性の向上に
つながらない。
5.監督職および管理職の上長は、部下を信頼し信用して適切な権限委譲を行っているとともに、権
限委譲ができない場合には教育訓練および人材育成もできず、会社の経営規模も一定の範囲以上
に拡大しない。
6.人事管理に関する法令には、賃金に関するもの、労働条件および安全衛生に関するの、環境保全
に関するものなどがあり、これらの法令に反しないような人事管理制度が構築されているか。
7.人事管理には、女子従業員の福祉増進および地位向上を図ることを目的とした男女雇用機会均等
法が遵守されているとともに、募集・採用・教育・配置および昇進等に際して、同法の規定に配
慮した取扱いがなされているか。
8.従業員を他の企業で就労させることを業としている企業については、労働者派遣法の遵守がなさ
れているとともに、当該法令に基づいた措置が講じられているか。
9.人事管理制度では、高齢化社会の到来により、賃金総額の増加および役職位の不足等の問題が発
生しているが、将来の高齢化対策の必要性を認識し、あらかじめ対応策を講じているか。
10.IT技術を搭載した最新のコンピュータ機器が、工場・事務所および従業員に急速に普及してき
ているが、労働条件および安全衛生など安定雇用へ与える影響に対して考慮しているか。
11.ITシステムの発達は、事務部門におけるIT化という形態で急速に進展してきているが、IT
システムの導入による事務処理コストの削減および事務処理に係る迅速化が推進されているか。
12.パートタイマーの有効活用および能力開発では、パートタイマーの戦力化のためにパートタイム
労働者の就業規則を作成し、労働条件および教育訓練等を明確にするなどの対策が必要である。
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13.人事管理制度では、営業事務等の省力化および効率化のため、必要に応じて人材派遣会社の活用
について考慮しているか。
14.募集・採用では、女性の就業分野の拡大により、女子労働者が著しく増加してきているが、女性
の就業意識を把握した女子従業員の能力活用が図られているか。
15.教育・訓練では、女子従業員の高学歴化が進展してきているが、当該従業員の高度な技術および
特殊な技能の活用が図られているか。
16.業務のIT化に際しては、事務作業の精細化および標準化等がなされているとともに、導入企業
の事業規模ならびに業務の作業量に適合したITシステムの選択が行われているか。
17.人事管理制度では、中高年齢者の専門技術および専門技能を十分に発揮させるための人事制度が
採用されているとともに、当該中高年者のための職務再配置および体力づくりのほか、技術・技
能承継に必要な意識変革および教育訓練が実施されているか。
18.職場環境は、業務に対して積極的に取り組む従業員が多くおり、職場は活気に満ちているととも
に、自主性および創造性を発揮できるような環境づくりができているか。
19.就業規則は、使用者の成文化のもとで適正に運用されているとともに、労働基準法等に合致した
ものであり、人事管理の最も基本的基準として位置づけられる必要がある。
20.パートタイマーに関する就業基準では、パートタイマーは一般従業員と異なる取扱いをするため、
別にパートタイマー就業規則を作成する必要がある。
21.フレックスタイム制は、業務の繁閑に応じて時間を調整し、労働時間の無駄をなくすことができ
るものであるため、有効に活用する必要がある。
22.週40時間労働制では、企業は労働時間短縮の傾向を無視することができなくなってきたため、時
間短縮要求に対応する労働生産性の向上とともに、IT化の推進等の施策を講じているか。
23.時間外労働や休日労働に際しては、三六協定の締結および労働基準監督署への届出等が適法に実
施されているか。
24.年次有給休暇は、十分に消化されているとともに、休日および休暇の取得について従業員が不自
由を感じていないか。
25.休日・休憩・災害補償といった従業員の権利および服務規律等の義務は、就業規則に明確に定め
られているものの、権利の行使と義務の遂行の関連についても規定化する必要がある。
26.就業規則は、わかりやすく平易な用字・用語および文書で作成されているとともに、解釈上では
疑義もしくは誤解を生じないよう、不適切または曖昧な表現は避ける必要がある。
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27.就業規則の作成および変更では、労働組合または従業員代表の意見を聴取しているとともに、積
極的に聴取した意見を取り入れ、従業員の意向が就業規則へ反映するようにすべきである。
28.就業規則には、労働基準法第89条第1項に定める人事・勤務・賃金・教育訓練・安全衛生・災害
補償・福利厚生および賞罰等に関する事項が含まれているか。
29.中期経営計画の策定においては、要員計画は欠くことのできないものであり、人員の採用計画は
退職者による欠員の補充および業務拡大のための要員確保とともに、配置異動の計画を検討のう
え、決定されているか。
30.会社の発展のためには、優秀な人材の確保が必要であり、求人源の開拓および募集方法の工夫等
がなされているか。
31.使用者は、労働契約を締結するに当たり、労働条件の明示など法令に定められた手続を適正に行
っているか。
32.従業員の採用に際しては、書類選考・筆記試験および面接等を実施しているとともに、各人の能
力および適性を総合的に評価し、採用する人員を決定すべきである。
33.会社は、特定の大学出身者のみを採用したり、縁故等による採用は行わず、同質な人間が集団化
すると発想も画一化してしまうので注意する必要がある。
34.賃金は、当該個人の企業業績に対する貢献度によって決定されているとともに、賃金決定の原則
は学歴および性別による差別を排除した実力主義によるべきである。
35.住宅手当および通勤手当等の諸手当は、基本給の不完全な部分を補充するものとして支給される
とともに、各種手当は賃金の管理目標を設定のうえ、改善していくことが必要である。
36.賃金のベースアップは、会社の支払能力の実態のほか、生産性向上、付加価値率の上昇度および
企業業績を考慮して決定されるとともに、同一産業または同格企業の賃上額のみを重視して決定
することはないか。
37.賃金の支払方法については、労働基準法に準拠した方法によっているとともに、当該賃金は労働
者に対して、直接、全額を一定の期日に支払わなければならないこととされている。
38.従業員の構成および企業の特性に合致した賃金体系が導入されているとともに、ドンブリ勘定的
な決定ではなく、明確な基準に基づいた賃金決定をすることが必要である。
39.賞与の内訳は、生活費としての基礎部分および企業業績を反映させた部分ならびに従業員の人事
考課を反映させた部分から成り立っており、これらの構成割合は適正であるか。
40.賞与と毎月の賃金は、本来は性格の異なるものであるため、賃金管理においては賞与および賃金
を併せた年間総額で管理されているか。
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41.賞与の支給方法では、成果配分方式が導入されているとともに、成果の配分に当たっては情緒的
または恣意的な側面を考慮しないなど、一定のルールを作成することが必要である。
42.退職者には、退職後の生活が安定できるような退職金制度および退職年金制度が採用されている
ほか、金銭の支給以外の退職相談室といった制度についても配慮されているか。
43.退職者には、早期退職優遇制度または選択定年制度が検討されているとともに、早期に退職する
者に対しては奨励金をつけて優遇するなど、退職金算定方式の導入が必要となっている。
44.退職金の支給方式では、一時金方式に代えて年金方式で支給する方法について検討しているとと
もに、退職年金制度は退職金コストの平準化および税法上の優遇措置の面からも、会社の年齢構
成ならびに退職率を考慮のうえ、メリットのある方法を採用すべきである。
45.出張旅費規程は、支出基準が明確となっているとともに、経営活動が多様化するにつれて従業員
の出張の機会も増加するため、国内出張旅費規程および海外出張旅費規程を作成して出張旅費の
支出を管理すべきである。
46.海外出張旅費規程は、国内出張旅費規程とは別の形式で作成するとともに、海外出張は国内出張
と比べて為替相場の変動のほか、諸外国の慣習の違いからくる特別な出費等が発生するなど規定
化すべき事項が多く、別規程とすることが管理上においても便利である。
47.会社は、グローバルな企業活動により、海外で勤務する者が必然的に増加しているため、海外勤
務者に対しては特別な配慮をしているか。
48.出向者は、出向先法人において出向先法人の従業員との融和が重要であり、共存共栄の実効性を
確保する態度が必要なため、出向者については融和意識および協調意識等をもって出向するよう
教育しているか。
49.出向者を決定するに際しては、本人の家庭事情について調査し、労働条件を低下させないような
配慮をしているとともに、出向協定書を作成して出向期間および異動に伴う不利益扱いの防止を
する必要がある。
50.出向に際しては、出向者本人の合意を得ているとともに、出向は通常の人事異動と異なり、指揮
命令権の帰属者が変更されるため、法律上は本人の合意が必要とされている。
51.転籍の場合は、転籍前法人との労働契約が終了し、転籍先法人との新たな労働契約が開始される
ことから、転籍を円滑に行うためには本人の同意とともに、転籍に関する人事上の基本方針の理
解が必要である。
52.労務政策では、若い従業員の増加(人材派遣を含む。)・IT技術の革新ならびにグローバルな
企業活動により、企業内の福利厚生制度は変化してきていることから、伝統的な管理手法では従
業員の要望に対応できなくなっているため、現実に即した形態で福利厚生政策の見直しを行って
いるか。
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53.福利厚生政策では、利用者のない福利厚生施設や参加者を無理やり集めなければならない行事の
検討とともに、福利厚生制度の運用は従業員の要求や期待に適合したものでなければならない。
54.独身者に対する住宅では、独身寮を充実させるべきか否か、または独身者用住宅手当を支給すべ
きか否かについて、会社の経営方針を明確にすべきである。
55.社宅および寮に関する規程は、整備されているとともに、入居資格・維持費の取扱いおよび退去
に関する規定等を定め、住宅や寮の管理をする必要がある。
56.社宅および寮については、一定額以上の賃貸料を徴収しないと税務上課税される場合があるため、
社宅家賃や寮費等に係る税務上の配慮をしているほか、特に役員に対する家賃については特別な
取扱いに注意する必要がある。
57.住宅手当では、勤務地に対する補助を行っているとともに、人事異動により転勤した者に対して
は、勤務先における住居の斡旋および持家の借上げなどを行い、転勤者の負担を軽くする処置を
講ずるべきである。
58.従業員の資産形成では、資産形成のための持家促進を図っているとともに、低利融資について会
社自体に融資するだけの資金の余裕がない場合は、転貸融資または銀行保証のほか、利子補給に
ついても考慮すべきである。
59.従業員に対する貸付制度は、税務上問題となる融資条件であるため、無利息または著しい低金利
による貸付けを行っていないか。
60.従業員に対する融資制度は、一定の目的に限定されているため、住宅取得、車両の取得、結婚資
金または緊急貸出用資金等に限定し、単なる遊興目的のために貸出しをすることは本来の趣旨に
反するものである。
61.社内預金は、倒産等の不測の事態に備えて保全措置を講ずる必要があるため、法令に基づき適正
な保全措置を講じなければならない。
62.社内預金制度は、資金調達手段の多様化および資金運用手段の効率化のため、その存在意義が失
われつつあるものの、社内預金制度に対する十分な検討がなされているか。
63.従業員持株制度においては、従業員の退職時における株式の買取価額の算定方式が明確に定めら
れているか。
64.従業員持株制度の参加資格者では、役員または関係会社の従業員を含めている場合は、金融商品
取引法および投資信託法上の問題が生じるため、注意する必要がある。
65.非上場会社における従業員持株制度は、奨励金の支給および配当金で報いるようにし、銀行預金
の利回りを上回るようにするとともに、当該株式は流通性がないため、従業員の資産形成を援助
するようにすべきである。
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66.従業員持株会は、非上場会社については相続税対策として、将来の上場を目指す会社にあっては、
上場後の株価上昇による従業員の財産形成としての役割を果たすものである。
67.慶弔見舞金の制度は、金額の多寡よりも会社側の対応する姿勢が重要であるため、会社の誠意が
相手側に伝わるような行動がとられているか。
68.従業員の昇進および昇格は、当該従業員間に不公正感がないような明確な基準が必要である。
69.昇進・昇格等の人事異動では、当該役職および職務権限とともに、昇進・昇格者の能力を厳密に
選考したうえ、適正な人事が発令されているか。
70.人事異動では、従業員の配置転換を積極的に採用しているとともに、人事管理組織の活性化対策
としてジョブローテーションを制度化する必要がある。
71.人事考課および能力査定は、公正に行われているとともに、公正性に対する従業員の信頼感なら
びに会社への帰属意識が重要である。
72.人的資源としての人材育成および能力開発は、会社にとって極めて重要なことであることから、
従業員の有する職能を有効に活用するため、継続的な教育訓練が行われているか。
73.従業員に対する教育訓練は、金銭的かつ物質的な援助だけでなく、本人の可能性ならびに将来性
を考えた能力開発に重点を置いて行っているか。
74.新入職員の職場への適応指導は、十分に実施されているとともに、職場への配置については適性
検査の結果を取り入れるなど、科学的な人事管理を行う必要がある。
75.職場への不適応者に対しては、十分な教育指導がなされているとともに、当該不適応者について
は個性を重視した能力開発を行っているか。
76.従業員に対する制裁には、譴責・減給または懲戒解雇等があるが、その該当要件および事務処理
の手続について明確にしたうえ、成文化しているか。
77.現場技能者に対しては、作業方法および使用する機械装置の定期点検等の安全対策を実施し、危
険を除去するための予防措置を講じているか。
78.現場技能者に対しては、作業方法および作業手順についての技能訓練を行い、安全衛生上の教育
を実施するとともに、安全衛生および環境保全の意識を持たせるための施策を講ずることが必要
である。
79.現場技能者に対しては、作業方法に関する管理基準・管理手続およびマニュアル等が整備されて
有効に運用されているとともに、規模の経営を有する企業にあっては必要最小限の業務関連規程
を制定し、全社的に統一した業務管理を行う必要がある。
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80.人事関係規程には、会社財産の保全および機密保持に関する規則および手続が定められているか。
81.人事関係規程には、労働組合の結成および運営に対する支配ならびに介入等の不当労働行為は記
載されていないか。
82.労務政策では、合理化対策およびQCサークルなどの導入に際し、労働組合または従業員代表の
意見の合意は得られているか。
83.労使関係を円滑に運営するためには、従業員の立場・主張および意見を正確に把握し、使用者と
対等の立場で交渉する健全な労働組合が必要であり、労働組合では一般組合員の意思を正確につ
かんでいるか。
84.労使関係では、労働組合と労働協約が締結されているとともに、労働協約は双方の協力のうえに
成立したものであるため、円滑な関係を維持するうえで重要である。
85.労働協約は、日常の労働条件および就業規則の運用解釈とともに、適用に際して生じた問題につ
いては、従業員の不満を解決していく制度としての苦情処理制度が設けられているか。
86.労使関係では、労使間の意思の疎通および労働条件の維持改善のため、労使協議機関が設置され
必要な機能が発揮されているか。
87.労使関係の安定化のためには、労働条件を良好に管理して従業員の不満を解消し、使用者への信
頼感および会社への帰属意識を持たせるような努力をしているか。
88.労使関係では、労働基準法に準拠した最低労働条件が維持され、団結権および団体交渉権の行使
により、対等の立場で労使が交渉できる状態となっているか。
89.社内預金制度については、毎年1回、従業員に対して預金管理の状況報告を提出するなど、所定
の届出がなされているか。
90.休日または休暇は、金銭的条件よりも重要になってきていることから、休日または休暇の処理は
適正になされているとともに、従業員のモチベーションを高揚するような制度になっているか。
91.労働者の賃金から、法令で認められたもの以外を控除する場合には、賃金控除に関する協定書の
締結が必要であるとともに、当該協定書なくして賃金から生命保険料等が控除されているような
ことはないか。
92.労働者名簿は、労働基準法に準拠して作成されているとともに、名簿には当該従業員の能力・資
格および入社後の職歴等を併せてて記載し、人事情報として活用することが必要である。
93.従業員に対する健康診断は、採用時および定期健康診断の実施のほか、特殊作業に従事する者に
対する健康診断は、法令に定められたとおり実施されているか。
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94.工場内で火災等の事故があった場合または死傷者がでたときは、事故報告書および労働者死傷病
報告書を提出しなければならず、労働災害発生後の手続は十分であるか。
95.会社内における安全衛生上の管理体制では、安全衛生管理者・安全管理者・衛生管理者および産
業医等が法令に準拠して選任されているか。
96.労働保険に係る保険料の申告納付は、法令に準拠した手続により行われているとともに、特に建
設業等の有期事業については継続事業と異なった取扱いがなされるため、注意する必要がある。
97.労働者を採用したとき、転出および転入したとき、退職したときについては、所定の期限以内に
雇用保険に関する届出書や申請書等を公共職業安定所長まで提出しているか。
98.標準報酬月額に係る算定基礎届は、毎年8月1日から10日までに提出しなければならず、7月31
日までに労働者名簿および賃金関係書類の整理を行ったうえ、定時改定に備えた事前準備をして
いるか。
99.健康保険および厚生年金保険の事務手続は、正確になされているとともに、健康保険や厚生年金
保険の被保険者資格の取得もしくは喪失の届出または標準報酬月額の随時改定については速やか
に行われる必要がある。
100.労働基準監督署への各種届出は、法令の期限内に提出されているか。
(内部統制研究会から資料抜粋)
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