日本のネット生保の成長性と将来展望 ~韓国のネット生保との比較~

日本のネット生保の成長性と将来展望
~韓国のネット生保との比較~
趙 祥祐 / JOH SANGWOO(慶応義塾大学 商学部 商学科 3年)
<目次>
はじめに
第一章
日本のネット生保の現状
第二章
ネット生保のビジネスモデル
第三章
韓国のネット生保の現状
第四章
ネット生保の将来性及び課題
第五章
結論
~よりネット生保らしさを~
おわりに
<要約>
インターネット通販の規模は日々成長しており、ネットを通じて手に入る商品の数も増えている。
生命保険もその例の一つだ。2008年、SBIアクサ生命(現在のアクサーダイレクト生命)とライフネッ
ト生命の2社によってネット生保は初めて日本に登場した。従来の営業職員を介した対面販売ではな
く、インターネット上で自ら保険を設計することにより、保険料が安く抑えられる点が一番の売りで
あるネット生保。本論では、その日本の生命保険の現状と成長性、将来性について考察を行う。
ネット生保の誕生の背景には、何よりもインターネット及び通販の普及が挙げられる。また、20~
30代の若者の保険離れの現象が見られる中、既存の生保が高額である点、商品が複雑で難しい点、そ
して、職場のセキュリティー強化などにより営業職員との接触機会が減った点から、インターネット
に強い若者をターゲットにした「安い・シンプル・いつでもどこでも入れる」ネット生保が誕生に至
ったと考えられる。ネット生保は、保険契約者がインターネットを通じて保険会社と直接契約を結ぶ
ため、営業職員にかかる人件費や、店舗費、光熱費などの「付加保険料」がかからず、その分だけ保
険料が安いのが一番の特徴である。
ネット生保の市場の現状をみてみると、2008年開業して以来、2011年までは順調に契約者数を増や
してきたライフネット生命だが、2012年から、新規契約件数は減少している。アクサダイレクト生命
も 、2011年をピークに新規契約件数は減少中である。 一方、既存の生保会社によるネット生保への
参入も続いている。2011年にはオリックス生命とメットライフアリコ生命が、2012年には損保ジャパ
ンDIY生命とAIG富士生命、そして2013年には楽天生命とチューリッヒ生命がネットでの保険販売を始
めた。しかし、ネット生保の保険料シェアはわずか0.02%に留まっている。
ネット生保は、その多くがシンプルで分かりやすい商品から構成されている。ライフネット生命を
例に挙げると、2015年9月現在ホームページ上で販売されている商品は、大きく分けて、定期死亡保
1
険、終身医療保険、就業不能保険の3種類のみである。定期死亡保険の場合、生年月日と性別、保険
金額と保険期間を選ぶだけで、1次段階の申し込みが出来る。ネット生保は、自分が自ら保険を設計
して契約を結ぶという仕組み上、複雑で高度な保険知識を要する商品は提供していないことが分かる。
しかし、契約期間が最短でも10年で長期間のゆえに、一旦契約が締結しても告知義務違反解除によ
り保険金が貰えないケースも有り得るなど、考慮すべき要素は多い。健康に自信がない人の場合、自
分の判断で告知を行うことは不安であろう。また、アンダーライティングとモニターリングが行われ
るとしても、ネット生命の加入のしやすさから、不良リスクの契約者が集まりやすい恐れがあり、こ
のネット生保の「加入のしやすさ」とリスク管理に必要な「慎重さ」の矛盾は、今後ネット生保の存
続において重要な課題であるだろう。
ここからは韓国のネット生保市場について述べて行く。韓国のネット生保市場の特徴は、既存の大
手・中堅生命保険会社によってネット生保ビジネスが行われていることである。KDB生命や教保生命
の他にも、三星(サムスン)生命や、韓火(ハンファ)生命など、10大財閥系や大手都市銀行系の大手・
中堅保険会社がネット生保を展開している点が、日本との大きな違いである。しかし、韓国において
もネット生保の成長率は鈍く、 韓国の事例から見る限り、ネット生保の成功の鍵は、会社の知名度
だけではないことが分かる。
生命保険文化センターが行った「平成24年度 生命保険に関する全国実態調査」によると、直近加
入契約の加入チャネルは、依然として「営業職員」が68.2%として最も多いものの、「インターネッ
トを通じて」も上昇中であり、平成21年より1.6%上がった4.5%を記録した。今後の加入意思のある
チャネルとして「インターネット」を選んだ回答も平成21年より2.6%上昇した10.5%であり、ネッ
ト生保が消費者の間に浸透していることが見られる。また、日本のスマートフォン普及率も年々上昇
していることもネット生保においては追い風だ。それでも営業職員チャネルが圧倒的な強さを見せて
いる背景には、生命保険は自分の命、健康、家族に関わることから、消費者の認識はどうしても保守
的になりがちという点が考えられる。そのため、ネット生保会社は、非対面販売による不安を解消す
るために、業務提携などの方法で対面販売をし始めている。しかし、付加保険料を最大限抑えること
で安い保険料を売りにしてきたネット生保が、対面販売のために銀行や代理店などを挟むことにより
発生する付加保険料は、長期的にみれば、ネット生保の最大の強みを自ら弱めることになり得る。ま
た、現在のネット生保の加入者は、20代から40代が9割を占めていることから、長期的な意味で十分
なリスク管理が行われているかどうかは現時点では分からない部分もあり、今後のネット生保の課題
の一つとして考えられる。更に、最近では既存の生保チャネルでもスマートフォンやタブレット、イ
ンターネットと連携したサービスを提供しており、ネット生保ならではの強みが弱まっていることも
課題点である。
現在のネット生保は、既存の生命保険を単にシンプル化させてネット上で売っているだけだと言っ
ても過言ではない。現状のままでは、保守的な生命保険の市場においてネット生保を選ぶ消費者は多
くないと考えられるため、今後のネット生保の更なる成長のためには、スマートフォンとの連携を含
め、よりインターネットならではの特徴を活かした商品の開発が求められるところである 。
2