(5) 血清クレアチニン値で腎機能を評価するときの注意

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血清クレアチニン値で腎機能を評価するときの注意
山村 重雄
城西国際大学薬学部教授
医薬品の多くは肝臓で代謝されるか、腎臓から尿中に排
泄されます。腎機能が低下すると、腎排泄型の医薬品は排
泄が遅延して血中濃度が増加し、思わぬ副作用を招きます。
今回は、腎機能を評価するときの注意点を考えます。
具体的には、ファモチジンやラニチジンの添付文書では、
CLcrが70mL/minよりも低くなった場合には、投与量または
投与方法を変更する旨の記載があります。そこで、血清CR値
からCLcrを推定するときに注意すべき例を考えてみましょう。
例えば65歳で42kgの女性で血清CR値が0.75mg/dLの患者の
場合、血清CR値を見る限り基準値の範囲内にあります。しか
し式に当てはめてCLcrを計算すると約50mL/minとなり、腎
機能は健常者の1/2程度に落ちていることが予想されます。小
柄な人は筋肉量も少ないため毎日体内で産生されるクレアチ
●数式を用いて腎機能を推定する
腎機能の指標としては、血清クレアチニン値(血清CR値)
ニンの量も少なく、腎機能が正常なときの血清CR値も低いと
考えられます。血清CR値が基準値に入っていても腎機能が低
とクレアチニンクリアランス(CLcr or Ccr :腎臓の処理能
下している可能性があり、特に、高齢で小柄な患者では注意
力)の値がよく用いられます。血清CR値は患者に血液検査の
が必要です。次に、45歳105kgの肥満男性で血清CR値が
結果を見せてもらえればモニターできます。血清CR値の基準
1.5mg/dLのケースを考えます。計算するとCLcrは約
値は男性で0.5∼1.1mg/dL、女性は男性に比べて筋肉量が少な
92mL/minで腎機能は一見正常のように見えます。しかし、肥
いので男性の80%程度の0.4∼0.8mg/dLです。腎機能が低下す
満患者の筋肉量は体重には比例していません。この患者は血
ると、血清CR値が高値を示すようになります。
清CR値が高いので腎機能は相当低下しています。Cockcroft
腎機能に応じて投与方法や投与量を変更すべき医薬品(例
& Gault の式を肥満患者に適用する際は、理想体重に変換し
えば表の医薬品)の添付文書では、CLcrの値に応じて投与方
て用いるとよいでしょう。以上、腎機能を血清CR値から推定
法を変えるように記載されています。しかし、CLcrの値を直
するには患者の体重に注目することが大事というわけです。
接測定するには蓄尿が必要になるため、たとえばCockcroft &
Gaultの式を用いて血清CR値からCLcrを推定します。
(140−年齢)×体重
CLCr(mL/min)=
×0.85(女性の場合)
72×血清CR値
まず、血清CR値の基準値から、健康人のCLcrを求めてみま
しょう。体重65kg、血清CR値が0.9mg/dLの40歳の男性で、約
100mL/minとなります。健康人のCLcr値は80∼100mL/min程
度です。正常な腎臓は1分間に約100mL、1日に換算するとな
んと100L以上の血液を処理(ろ過)しています。しかし、尿
として体外に出るのは1日1L程度ですから、ほとんどの水分は
腎臓内で体内に再吸収されています。その過程で、腎臓を通
過する医薬品は100倍以上も濃縮され、腎臓内の組織は高濃度
の薬物にさらされます。そのため、腎臓は障害を受けやすく、
腎排泄型医薬品を投与するときには定期的に患者の血液検
査の結果を見せてもらい、腎機能の変化に注意する必要があ
ります。腎機能の低下が見られたときは、同じ作用のある他
の薬への変更を医師に求めるなどの対応が必要です。
表 腎機能低下時に投与量、投与方法を変化させる医薬品例
医薬品名
腎機能低下時の投与方法
テリスロマ 高度の腎機能障害(CLcr 30mL/min未満)のある患者では、
イシン錠
1日1回、300mg(力価)への減量を考慮すること
エナラプリ CLcrが30mL/分以下、又は血清クレアチニンが3mg/dL以
ル錠
上の場合には、投与量を減らすか、もしくは投与間隔をのばす
など慎重に投与すること
オセルタミ
ビルリン酸 CLcr(mL/分)
:10<Ccr≦30の場合
塩カプセル 治療:1回75mg1日1回、 予防:1回75mg隔日
(抜粋)
ナドロール CLcr値が50mL/分,糸球体ろ過値が50mL/分以下の場合
錠
は,投与間隔を延長するなど慎重に投与すること
ベザフィブ 腎機能障害のある患者への投与には十分注意する必要がある。
ラート錠
投与にあたっては,血清CL値に応じて減量すること
最も老化が早い臓器といわれています。
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