炭素税導入で2020年度CO2排出量20%削減と 2.0%経済成長の両立を

2013 年度
番外編⑤
公益社団法人
日本経済研究センター
Japan Center for Economic Research
2013 年 7 月 1 日公表
炭素税導入で2020年度CO2排出量20%削減と
2.0%経済成長の両立を目指せ
2013年度研究生グリーン成長班
1
<要旨>
世界的に温暖化防止への意識が高まる一方、わが国では東日本大震災以降、火力発電への依存度
が高まり、CO2 排出量は増加傾向にある。しかし、CO2 排出量削減を無理に進めることは、わが国の経
済成長を阻害する可能性が高い。そこで我々は、経済成長とCO2 排出量削減を両立させる方法を探り、
化石燃料由来のエネルギー価格を現在の 4 倍程度に上昇させる、最大 300%の炭素税を課すことが有
効であるとの結論に至った。
政府が企業に対し排出枠を設定し、その売買を可能にする排出権取引制度(キャップ&トレード)やエ
コポイント等の施策と比較して、炭素税は、公平性や持続可能性に優る。増加した税収を使った、省エネ
産業への補助金や法人税減税等の財源効果もメリットとして考えられる。
また、炭素税導入により、電気代等のエネルギーコストが高騰するため、再生可能エネルギーやスマー
トシティ等の環境ビジネスの発展が期待できる。炭素税をテコに技術力向上を継続していけば、今後世
界的に拡大が見込まれる環境ビジネス市場でのプレゼンスを一段と高めることにより、わが国の経済成長
を 2%まで押し上げることも可能であると考えている。
【 はじめに ~問題意識と提言~ 】⇒プレゼン資料 1~2 頁
地球温暖化防止に向けて、世界的にCO2 排出量削減意識が高まっている一方で、わが国で
は、とりわけ東日本大震災以降、エネルギー源として、化石燃料への依存が高まり、CO2
排出量は増加傾向にある。
他方、大幅なCO2 排出量削減計画は、国内での生産コストの増加を招き、経済成長を阻害
するとして、産業界からの反発が根強い。少子高齢化が進み、潜在成長率の低下が懸念され
るわが国にとって、CO2 排出量の削減と経済成長を両立させるシステム作りが喫緊の課題と
なっている。
本レポートは、炭素税を導入することで、各エネルギー消費部門の効率改善を促し、2020
年までにCO2 排出量の 1990 年対比 20%削減を達成することを提言するものである。公平性
に優れる炭素税は、省エネ意識を高めることで、新たな財・サービス需要を創出するだろう。
技術革新を促し、今後大幅な成長が期待できる海外の省エネ関連市場での、一段の躍進の足
がかりとなることも期待される。こうした経済へのプラス効果は、国内製造コスト増加・増
税に伴うマイナス影響を相殺して余りあると見込まれる。
もちろん、こうした経済へのプラス効果を最大限に引き出すためには、国内外での適切な
制度設計が前提となる。たとえば、炭素税による税収増を財源に、縮小が予想される産業か
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菊地秀朗(日本総合研究所)、森翔太郎(横浜銀行)、高野洋介(三井生命保険)。小林辰男(主任研究員)が監修。
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ら省エネ関連産業への速やかな労働移転が可能になるような、失業対策や職業訓練が必要に
なるだろう。わが国の省エネ技術を海外市場で売り込むためには、CO2 排出量削減に向けた
国際的な枠組みを構築することも不可欠である。こうした国内外の制度設計を円滑に進めて
いくためにも、野心的な排出量削減目標の設定と、それを実現するための起爆剤として、炭
素税が持つ意味は極めて重要である。
【 CO2 排出量削減の現状 】⇒プレゼン資料 3~5 頁、(参考)22~23 頁
まず、CO2 排出の現状を分析し、わが国のCO2 排出量増加の要因を探る。
(1) 各国のCO2 排出量削減の比較
各国のCO2 排出量を購買力平価ベースの一人当たりGDPで除して、CO2 排出効率の推
移をみると、各国とも生産あたりのCO2 排出効率は改善していることが確認できる。わが国
でも 1970 年から 90 年にかけて、2回の石油ショック等を受けた省エネ意識の高まりから、
3割以上の効率改善を、経済成長と両立しながら達成した。もっとも、90 年以降、効率の改
善ペースは停滞しており、結果として、排出量は高止まりが続いている。
米国・中国では、効率の改善が続いているが、そもそもの排出効率が悪く、経済成長とC
O2 排出量の増加は依然、正の相関関係を保ったままである。
一方、欧州各国では、一貫してわが国と同等以上の排出効率改善が続いており、すでに経
済成長とCO2 排出量の正の相関関係からの脱却(デカップリング)を実現している。
欧州との比較から、産業界からしばしば聞かれる、
「日本は世界一の省エネ社会であり、絞
りきった雑巾の状態。これ以上のCO2 排出量削減は難しい」という主張は、日本全体をみれ
ば、あたらないと考えられる。それでは、何がわが国のCO2 排出量増加の原因なのか。
(2) わが国のCO2 排出量増加の要因
1990 年以降のわが国のCO2 排出量の推移を部門別にみると、家庭部門・業務部門 2が増加
に大きく寄与している。一方、産業部門は排出量の減少に寄与している。以下では部門ごと
の排出状況を要因分解していく。

家庭部門
家庭部門でのCO2 排出量増加の主因は、世帯数の増加にある。わが国の人口は既に頭
打ちとなっている一方で、核家族化や単身世帯の増加を受け、平均世帯人員数は減少が
続いており、結果として世帯数の増加傾向が続いている。足元では、世帯あたりのエネ
ルギー消費量は、省エネ家電の普及等を受け、1990 年比でほぼ横ばいとなっているもの
の、エネルギー原単位あたりのCO2 排出量 3は大幅に増加している。これは、電力供給
元の火力発電依存度の高まりを示している。

業務部門
業務部門でのCO2 排出量増加の主因も、家庭部門と同様、排出源の数的増加、すなわ
2
業務部門とは、オフィスビルや商業施設、公共施設等を指す。
エネルギー原単位あたりCO2 排出量とは、CO2 排出量をエネルギー消費量で除したもので、1エネルギーを
生産するために必要なCO2 排出量、すなわちCO2 排出効率を示すもの。
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ち床面積の増加と、エネルギー原単位あたりのCO2 排出量増加にある。一方、床面積あ
たりのエネルギー消費量は大きく減少しており、家庭部門に比べ省エネ化が進展してい
ることが指摘できる。

製造業
製造業では、GDPの増加、すなわち生産活動の活発化が増加に寄与する一方、効率
の改善が減少に寄与し、排出量を抑制している。産業別にみると、機械工業など加工・
組立産業の排出効率改善が著しい一方、鉄鋼や紙・パルプなどの素材業種で効率が悪化
している。これは、素材業種では規模の経済が働きやすく、新興国との競争激化に伴う
生産減少・工場の稼働率低下がGDPあたりのCO2 排出効率の悪化として顕在化してい
るためである。
以上のCO2 排出要因の部門ごとの検証を踏まえ、以下3点の主張が可能である。
① CO2 排出量増加の主因は、家庭・業務部門である。当面、平均世帯人員数の減少が続く
なか、2020 年までに世帯数が減少に転じるとは見込み難く、オフィスや店舗等業務部門
の床面積減少も期待し難い。したがって、家庭・業務部門のCO2 排出量を減少させるた
めには、エネルギー効率の改善、および火力発電への依存度低下を急がねばならない。
② 製造業では効率改善が進んでいるものの、経済成長のためには製造業のGDPは増加さ
せざるを得ない。わが国のCO2 排出量の3割超を占める製造業は効率改善を持続し、C
O2 排出量を抑制し続けねばならない。
③ 製造業の効率改善のためには、産業構造自体の高付加価値化・低炭素シフトが不可欠で
あり、そのためには、一部素材産業の再編、生産拠点の集約は不可避と見ておくべき。
以上、3点を踏まえ、最も効率よく、公平に、省エネ化・火力発電への依存度低下・産業
構造の転換を進めていく適切な処方箋として、本レポートでは炭素税の導入を提言したい。
【 炭素税の概要 】⇒プレゼン資料 6~12 頁、(参考)24~28 頁
(1) 炭素税とは何か
炭素税とは、CO2 排出量に応じて化石燃料に対して課税を行う、地球温暖化対策の手法の
一つである。炭素税の一番の特徴は公平で分かりやすいという点であろう。炭素税の負担者
は化石燃料によってもたらされる財やサービスの消費者全般であり、金額的負担はCO2 排出
「C
量に比例する形となる。先述の通り、家庭及び業務部門がCO2 排出量増加の主因であるが、
O2 を排出するという行為」=「コスト」となっていないことが、その大きな要因であると考
えられる。炭素税の導入により、CO2 排出コストを人間の経済活動の中に組み込み、地球温
暖化現象という外部不経済を内部化することが期待できる。
この炭素税という手法だが、CO2 排出量削減において世界をリードしている欧州連合(E
U)各国では、多くの国で既に導入されている。わが国の現行の環境税制に基づく税率とイ
ギリスやドイツ、フランスといった先進国の税率を比較してみると、わが国では比較的高い
税率を課しているガソリンでさえ、EU各国では日本の約 2 倍の税率が課せられており、炭
素税の導入が進んでいることが分かる。
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(2) 炭素税とその他の地球温暖化政策の比較
次に、わが国における他の地球温暖化対策について、公平性や持続可能性の点から、炭素
税と比較したい。今回比較対象に選んだのは、現在、わが国において環境税制と並び地球温
暖化対策の主要施策として検討されているキャップ&トレード制度(以下、C&T制度)
、同
じく主要施策として 2012 年 7 月より実施されている再生可能エネルギー固定価格買取制度
(以下、FIT制度)
、そして 2011 年 3 月まで実施されたエコポイント制度である。

C&T制度
C&T制度とは、個々の事業者に目標となるCO2 排出枠(キャップ)を設定し、排出
枠の不足分や余剰分を売買(トレード)できる制度である。主な負担者はCO2 の大口排
出事業者に限定される。本制度は、余剰した排出枠を市場価格で売却できるため、CO2
削減インセンティブ効果があり、市場メカニズムに基づいたCO2 削減システムとして期
待されている。しかし、排出枠の設定の困難さが、この制度の大きな問題点である。
このC&T制度を先駆的に導入しているEUの事例(EU-ETS)を見てみたい。
現在EU-ETSでは、排出権取引価格の暴落が問題となっている。EU-ETSが本
格的に導入された 2008 年と比較すると 2013 年 4 月 17 日の取引価格は 2.75 ユーロ/tC
O2 と 1/10 以下の水準に下落している。価格暴落の要因は、欧州経済危機に伴うEU内
の産業活動の停滞によって、CO2 の排出量が大幅に減少し、全体の排出枠が供給過剰に
なったことだ。
EUの事例からも分かるとおり、個々の企業のCO2 排出量は様々な要因で変動するた
め、その排出量を予測し、有効な排出枠を設定することは非常に困難である。価格が下
落すれば、CO2 削減インセンティブが機能しなくなる。以上の点から、C&T制度は持
続可能的であるとは言い難いだろう。

FIT(Feed-in Tariff)制度
FIT制度とは、再生可能エネルギーを固定価格で一定期間買い取りすることを定め
た制度で、再生可能エネルギーの普及を促すことを目的としている。この制度は再生可
能エネルギー事業へ投資するインセンティブ効果が高く、実際にこの制度導入により、
太陽光発電を中心に再生可能エネルギーの普及は進んでいる。
しかし、この制度は公平性に欠けるという問題がある。再生可能エネルギー事業への
投資者は得をする一方、各電力会社の火力・原子力等による発電コストより高く設定さ
れた買取価格は、電気料金に転嫁され、主に小口電力需要家が負担する仕組みになって
いる。このように不公平な制度も持続可能とは言えないだろう。

エコポイント制度
エコポイント制度とは省エネ製品購入者に一定のエコポイントを付与し、そのポイン
トを使って、エコ商品等を購入できるようにする制度であり、主な制度の目的は省エネ
製品の普及である。
エコポイントは 2011 年年 3 月をもって終了しているため、実績をもとにその効果を検
証した。まず、CO2 増減に関する効果についてだが、会計検査院の試算では、エコポイ
ントの実施によって、CO2 は約 170 万トン増加したという結果が出ている。これは、短
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期的に生産活動が活発化したことが要因と考えられる。また経済効果については、製品
出荷増加額から予算を差し引く形で計算した結果、1368 億円との結果になった。しかし、
その後のテレビメーカーの不振からも分かるように、需要の先食いの結果による経済効
果であると考えられ、高い経済効果があったとは評価できず、温暖化対策としても不十
分な実績であったといえる。
以上、炭素税以外の 3 つの制度について検証したが、炭素税と比較して、公平性や持続可
能性に課題があり、炭素税がもっとも地球温暖化対策に適した制度と我々は考える。
(3) 最大 300%の炭素税導入方法
では、実際に炭素税をどのように導入するのかについて説明したい。
現在の環境税制は、10 個の税に細分化されている。具体的には、上流部門においては原油、
石炭、液化天然ガスに対して、石油石炭税と地球温暖化対策税が課せられ、下流部門におい
ては、ガソリン、軽油、ジェット燃料、灯油、重油に対して、ガソリン税、軽油引取税、航
空機燃料税、石油ガス税、電源開発促進税が課せられる。また、自動車関連の税として、自
動車重量税、自動車税、自動車取得税が別途課せられる。これらの税制からの 2012 年度の税
収(予算)は約 7 兆円となっている。
一方、炭素税は、最上流段階、すなわち化石燃料の採掘・輸入段階で、燃焼時のCO2 排出
量に応じ課税するものである。現行の複雑な税制は全て廃止し、炭素税に一本化すれば、徴
税コスト削減に繋がるだろう。
税率については、通常、排出されるCO2 の量に応じて課税されるため、排出係数(1単位
あたりのエネルギーを生産するために排出されるCO2 の量)が異なる燃料ごとに、税率は異
なる。今回は後述する試算の簡略化のため、エネルギー価格を現在のおよそ4倍にする税率
という意味で「300%」としている。このとき、税収は最大で 30 兆円となる見込みである。
(4) 炭素税導入による影響(マクロ目線)
次に、炭素税導入による影響をマクロ目線で捉えよう。
最大で 300%もの炭素税を課すので、コスト増加による既存の経済活動への悪影響は避け
られまい。可処分所得の減少に伴う消費の減少や、企業収益の悪化に伴う投資の減少は炭素
税導入による最大のデメリットとなる。他方、好影響として、省エネ・節電インセンティブ
の高まりによる省エネ関連産業の発達や、新たな環境ビジネスの誕生が期待できる。
したがって、炭素税による増収分は、悪影響を緩和しながら、好影響を加速させる政策に
充てるのが望ましい。具体的には、家計への配慮として、環境ビジネスへの再就職を容易に
するための職業訓練等の失業対策や、低所得者層への給付が挙げられる。産業部門に対して
は、省エネ産業への補助金のほか、法人税減税や輸出産業への補助金等で、競争力低下を緩
和する政策が考えられる。
(5)炭素税導入による需要の変化
炭素税導入による化石燃料価格の上昇を通じて、電気代などのエネルギーコストが高騰す
る。そのため、家庭用太陽光パネル等の省エネ関連の財・サービス需要は拡大が予想される。
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さらに、電力需要に焦点を当てると、割高な火力発電から再生可能エネルギーに需要がシフ
トするであろう。本稿 4では、エネルギーミックスに関しては、資源エネルギー庁のシナリオ
を元に、火力発電の発電総量占める割合は 2011 年実績の約 8 割から 35%まで減少すること
を想定して議論を進める。以下、炭素税導入による需要の変化によって、発展する可能性の
高い環境ビジネスの例を挙げる。
【 炭素税導入で発展する環境ビジネス 】⇒プレゼン資料 11~15 頁、(参考)29~30 頁
(1) 風力発電
再生可能エネルギーの需要が拡大する中で、風力発電も普及が進む。しかし、わが国では
設置に適している広い平地が少ないことや、近隣住民の騒音問題もあり、陸上での設置余地
は限られている。そこで、普及の鍵を握るのが洋上風力発電である。洋上風力発電には、海
底に固定するタイプの「着床式」と海に浮かべるタイプの「浮体式」があるが、わが国は遠
浅の海底が狭いことから、水深 50m~200mの海底にも設置可能な「浮体式」での設置が考
えられる。
「浮体式」は開発に高度な技術を要することから、わが国の高い技術力が強みを発揮でき
る。現在、東京大学等で研究・開発が行われている。
「浮体式」は欧州等、海外でも注目され
ていることから、開発に成功すれば、国内外で市場の獲得が期待できる分野である。
(2) スマートシティ
スマートシティは、街全体の電力需給を情報技術(IT)で管理することで、電力使用を
効率化し、環境への負荷を減らしていく都市インフラである。例えば、日中にオフィスや家
庭の屋根に設置している太陽光パネルで発電・蓄電し、夜間に街全体で使用することや、電
気自動車(EV)で発電・蓄電した電力を、家庭で利用するなど、様々なケースが考えられ
る。国内では、横浜市、豊田市、けいはんな学研都市、北九州市で実証実験が行われている
が、炭素税導入によりスマートシティを活用した都市開発が一般化すると見込まれる。
【 環境ビジネスの輸出は経済成長のエンジン 】⇒プレゼン資料 16~18 頁
世界的に温暖化対策への意識が高まる中、環境ビジネスは有望な成長市場である。例えば、
日経BPの試算によると、2020 年の世界スマートシティ市場は、年間 200 兆円規模にまで拡
大することが見込まれる。再生可能エネルギーの普及に伴う送電網の整備や、発電した電力
を蓄えるための蓄電池、水素と酸素から電気を作って走行する燃料電池車等、様々なビジネ
スの発展が想定される。われわれの試算では、わが国がこの市場で 3 割シェアを獲得できれ
ば、2020 年のGDP成長率を 2%まで押し上げることも可能である。
地域別で見ると中国の環境ビジネス市場は拡大余地が大きい。中国・天津での 2 兆 4000 億
円もの予算を掛けた、人口 35 万人規模のスマートシティプロジェクト等、既に着手されてい
る案件もいくつかある。中国は第 12 次 5 カ年計画(2011 年~2015 年)において、グリーン
経済・低炭素社会を標榜しており、CO2 の削減目標を設定する等、既に環境へ配慮した経済
政策へ転換しはじめている。とりわけ、わが国は中国に地理的に近いことから、欧米と比べ
ると中国の環境ビジネス市場を開拓する上では有利と言えよう。
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本レポートでは、発送電分離による電力自由化の実施を前提としている。
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こうした海外の環境ビジネス市場拡大の恩恵を、わが国はどのように取り込んでいくべき
であろうか。既に中国・台湾にシェアを奪われている太陽光パネルのような、大量生産によ
って価格競争に陥ってしまう分野では、人件費等を勘案すれば、新興国との競争でわが国は
不利である。一方、わが国はグリーンテクノロジーの特許申請件数で他国を圧倒してきた。
開発力を武器に先行者利益を得ることができれば、優位性を確保することも可能である。
【 CO2 排出削減シナリオ ~税率 300%は妥当か~ 】⇒プレゼン資料 19 頁、(参考 31
頁)
環境省の算出したエネルギー需要の価格弾力性 5を元に、2014 年から 2020 年の期間に段階
的に税率を引き上げるシナリオで、エネルギー価格の上昇が、家庭と業務部門のエネルギー
需要をどの程度減少させるか試算 6した。結果として、1990 年比で 20%のCO2排出削減が
可能となる税率は、300%(現在の化石燃料の価格が 4 倍になる税率)であった。このことは、
家庭と業務部門の省エネ努力のみで目標達成を目指す場合は、300%という非常に高い税率を
課す必要があることを示している。
一方、省エネ努力に加えて、火力発電から再生可能エネルギーに電力需要がシフトする効
果も考慮すると、300%もの税率を課さなくとも目標は達成可能である。
エネルギー使用者の視点で考えると、7 年もの期間をかけて税率引き上げが予定されてい
れば、家庭用太陽光パネル、コージェネレーション 7等の省エネ関連設備の導入を進めるだけ
の時間は十分ある。炭素税による税収をこのような設備導入の補助金に使うことも合わせて
考えれば、再生可能エネルギーへのシフトが進むシナリオの方が、蓋然性が高いだろう。
【 国際的な枠組み作りを日本がリード 】⇒プレゼン資料 20 頁
国際社会では、2009 年のラクイラサミットで、2050 年のCO2 排出量を 1990 年比で 50%
削減、先進国は 80%削減の数値目標で合意している。また、2011 年に南アフリカのダーバ
ンで行われたCOP17 8において、2015 年までに新たな法的枠組みを採択し、2020 年に全て
の国が参加する法的枠組みを発効することで合意するなど、地球温暖化防止に向けて、国際
社会での話し合いは進んでいる。
しかし法的拘束力を持って 2005 年に発効された京都議定書は、先進国の中で排出量の多い
米国や中国・インド等の新興国が参加していなかったため、当初からその効果は不十分とさ
れていた。京都議定書は 2012 年に終了し、その約束期間の延長が議論されたが、米国・中国
の不参加表明や、それを受けてわが国も参加を見送るなど、拘束力のある枠組み作りは難航
している。
こうしたなか、わが国は自ら高めのCO2 排出削減目標を掲げることで、拘束力のある削
減目標を含む国際的な枠組み作りを主導するべきだと考える。削減目標だけでなく、環境規
制や環境関連財・サービスの貿易ルール整備も、わが国の環境ビジネスを世界に売り込みや
すくするという意味で、国益に繋がろう。将来的には国際炭素税の導入により、CO2 排出
5
環境省(2008)「わが国におけるエネルギー需要の価格弾力性再推定結果について」。
家庭部門、業務部門のCO2 排出量の約 7 割が電力使用に由来していることから、便宜的に電力使用量をエネル
ギー使用量とみなして試算している。電力使用以外は主にガソリンや灯油燃焼等が挙げられる。
7 発電時に発生した熱を給湯や空調に利用するシステム。
8 気候変動に関する国連枠組条約第 17 回締約国会議。
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によるコストを世界的に平等に負担することができれば、競争力の格差も是正できる。
現在検討されている環太平洋経済連携協定(TPP)や日欧経済連携協定(EPA)をテ
コにすれば、米国や欧州と連携して環境規制・ルール作りを進展させることができよう。わ
が国が国際社会をリードし、世界的な環境ビジネス市場を整備すれば、環境ビジネスが主要
輸出産業として発展し、CO2 排出量削減と経済成長の両立も可能となる。
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