2012 年度 番外編④ 公益社団法人 日本経済研究センター Japan Center for Economic Research 2012 年 6 月 29 日公表 新製品普及の鍵は「機能の日常化」 ― 製造業復活のためデジタル化による多様なサービスの提供を!- 1 2012年度研究生製品普及班 <要旨> 戦後の日本経済を支えてきた製造業。その製造業を牽引してきた電機産業と自動車産業であるが、近 年は海外勢に押され、苦境に立たされている。我々は、製品の普及のメカニズムを考察することによっ て、今後の製造業復活のための手がかりを探った。 製品は、開発当初から普及するのではなく、既存製品から新製品へ一気に入れ替わるタイミングが存 在する。ここではこのタイミングを爆発的普及と位置づけ、近年爆発的普及が見られたデジタルカメラ、デ ジタルオーディオプレイヤー、スマートフォンを取り上げ「爆発的普及のメカニズム」を明らかにした。その 結果、爆発的普及には、「機能の日常化」「マイナス要因の除去」「女性層の取り込み」という 3 つの要因 があることがわかった。 以前は耐久消費財(カメラ、携帯音楽プレーヤー、携帯電話)に対する需要は耐久消費財そのものに 対する需要だと考えられていた。しかし、デジタル/ネットワーク化によって物理的な制約が取り払われ、 耐久消費財が多様なサービスを提供できるようになると、耐久消費財に対する需要だと思っていたもの が、耐久消費財が提供するサービスに対する需要であったことが明らかになってきた。その結果、消費財 (モノ)よりもそこで提供されるサービスの方が重要になりつつあり、単なる消費財(モノ)は売れなくなる。 本稿の爆発的普及のメカニズムを有効活用し、既存製品やサービスにとらわれることなく、製品がどん なサービスを提供できるのか、といった視点から製品開発を行っていくことが重要である。そして、ユーザ ーの新規需要を掘り起こすことで、日本企業が爆発的普及を巻き起こし、復活していくことを期待したい。 【 はじめに ~テーマ選択の問題意識~ 】⇒プレゼン資料 1~2 頁 戦後の日本経済を支えてきた製造業。その中でも、電機産業と自動車産業が製造業を牽引してきたと いえる。しかし、現在この 2 つの産業が苦境に陥っている。電機産業では 2012 年 3 月期連結決算でパナ ソニックが製造業として過去最大級の赤字を計上したのをはじめ、ソニー、シャープ、NEC が巨額の赤字 を計上した。また、自動車産業では 2011 年世界新車販売台数でトヨタが 4 年ぶりに首位から陥落したこと や自動車の消費を後押ししているエコカー減税が夏には終了することが予測されるなど苦しい状況が続 く。 製造業がこの苦境を脱するために必要なことは、新規の需要を切り開く、広く普及する製品を創出する ことだと考える。そこで我々はまず、近年爆発的に普及した製品の中からデジタルカメラ、デジタルオーデ ィオプレイヤー、スマートフォンの 3 製品を取り上げ、普及の要因を考察する。以上 3 製品を取り上げたの 1 伊藤 亮介(インターネットイニシアティブ)、高橋 大輝(第一生命経済研究所)、柳田 将志(足利銀行)。坪内浩(主任 研究員)が監修。 http://www.jcer.or.jp/ 経済百葉箱 番外編 2012.6.29 日本経済研究センター は、既存製品から置き換わっただけではなく、置き換わった製品を超えて広く普及していったという共通 点があるからである。これらの製品から「爆発的普及のメカニズム」を解明し、今後の製造業復活のための 手がかりを探る。 【 製品の爆発的普及 】⇒プレゼン資料 3 頁 まず、以上 3 製品がどのように普及していったのか、振り返ってみる2。 デジタルカメラ デジタルカメラは 1988 年に開発されたが、すぐに一般家庭に普及していったわけではない。普及の きっかけとなったのは、1995 年にカシオ計算機より発売され現在のデジタルカメラの基礎を作ったと もいうべき「QV-10」である。Windows95 の発売と重なったこともあり、大ヒットを記録した。ここから各 社の競争は激化し、デジタルカメラの性能はどんどん上がっていくことになり、日本では 2001 年にデ ジタルカメラの総出荷台数が銀塩カメラを上回った。デジタルカメラの登場から「QV-10」の発売まで 7 年程度かかったが、そこから 5 年程度で銀塩カメラを追い抜いたのである。 また、銀塩カメラの過去最高出荷台数が 1997 年の 525 万台であったのに対し、デジタルカメラの過 去最高出荷台数は 2008 年の 1111 万台である3。ただ単に、銀塩カメラがデジタルカメラに置き換わ っていくだけならば 2 倍もの最高出荷台数は記録できないはずであり、何らかの要因により爆発的普 及が起こったと考えられる。 デジタルオーディオプレイヤー デジタルオーディオプレイヤーに関しても、出現からすぐに普及したわけではない。1998 年にセハン 情報システムズが発売した「mpman」が世界初のデジタルオーディオプレイヤーとされているが、一部 の消費者に支持されただけであり一般に普及はしなかった。その後 2001 年に「iPod」が発売された が、当初は緩やかな普及スピードであった。しかし、2004 年から 2005 年にかけてそれまでをはるか に凌ぐスピードで総出荷台数が伸びた。 スマートフォン 国内初のスマートフォンは 2004 年にノキアから発売された「702NK」とされる。しかしスマートフォンも 発売当初から爆発的普及までにはタイムラグが存在する。2008 年度の国内総出荷台数は 110 万台4 (携帯電話のうち約 3%)程度であり、2011 年度の国内総出荷台数は 660 万台程度と予測されてい た5。しかし、実際には 2011 年度のスマートフォンの国内出荷台数は予測の約 4 倍の 2417 万台を記 録し、携帯電話の総出荷台数の 56.6%を占め、従来型携帯電話を逆転した6。 【 爆発的普及の 3 つの要因 】 ● 各製品の特長や普及した理由を紐解いていくと、爆発的普及には 3 つの要因があることが分かった。 「機能の日常化」「マイナス要因の除去」「女性層の取り込み」の 3 点である。以下では、この 3 つの要因に ついて詳しく述べる。 2 3 4 5 6 詳細についてはプレゼン資料 22~25 頁参照。 一般社団法人カメラ映像機器工業会(2012)『カメラ・交換レンズの日本向け出荷①』。 株式会社 MM 総研 (2010)『2009 年度通期国内携帯電話端末出荷概況』 。 株式会社 MM 総研 (2011)『国内携帯電話およびスマートフォンの市場規模予測』。 株式会社 MM 総研 (2012)『2011 年度通期国内携帯電話端末出荷概況』。 http://www.jcer.or.jp/ -2- 経済百葉箱 番外編 2012.6.29 日本経済研究センター <1. 機能の日常化>⇒プレゼン資料 4~9 頁 従来製品にはない新製品の特長をみていくと、各製品の機能がユーザーにとってより身近な存在にな ったことが分かる。 デジタルカメラ 従来の銀塩カメラでは、写真撮影にはフィルムが必須であり、一度に撮影できる枚数はフィルムによ って制限を受けていた。また、撮影した写真はその場で確認することができず、現像するまで上手く 撮れているか分からなかった。さらに写真を人と共有する方法は、現像した写真を見せたり渡したり することが主であった。ところが、デジタルカメラの登場により、大きな変化が訪れる。第一にフィルム が必要なくなった。撮影した画像はデジタル化され、一度に撮影できる枚数が劇的に増えた。第二 に液晶モニタの搭載により、撮ったその場で確認することができ、納得のいくまで何度でも撮り直しで きるようになった。第三に人との共有方法が変化した。現像する頻度が減り、メールやブログ等にて データのまま人と共有できるようになった。アンケート調査によると、「ネット上に写真を公開したことが ある」と 44%の人が回答しており、また、ネット上に投稿する理由の 53%は「友人や知人に近況を知ら せるため」と写真が思い出を残すものからコミュニケーション手段へと変化していることがわかる7。結 果として、銀塩カメラよりも写真を撮影する頻度が上がった8。 デジタルオーディオプレイヤー 従来の CD プレイヤーで音楽を聴くには、CD という物理媒体が必須であった。持ち運べる曲数は CD の枚数に依存しており、数が増えると荷物もかさばった。別の CD に入っている曲を聴く際には、 入れ替えなければならず不自由な状態だった。しかし、デジタルオーディオプレイヤーの登場により、 CD という物理媒体が必要なくなり、一度に数百曲持ち運べるようになった。曲の購入方法もインター ネットからの購入という選択肢が増え、手持ちの曲の中から気分に合わせていつでも聴きたい曲を聴 けるようになった。 スマートフォン アンケート調査によると、従来型携帯電話と比較し、スマートフォンのほうが「サイト閲覧」「検索」機能 の利用頻度が圧倒的に高い9。i モードや ezweb といった、携帯キャリアが用意した閉ざされた空間か ら、オープンなインターネットを快適に利用できるようになった。また、Twitter や Facebook の利用頻 度も従来型携帯電話よりも高くなっており、ソーシャルメディアとの親和性の高さとネットワークを通じ た情報共有が盛んになっていることが分かる10。さらに、スマートフォンはカメラや音楽再生、動画再 生、ゲームなどの豊富な機能を備えており、それらがインターネットと融合することにより、どこにでも 持ち歩き、その場で使えるように進化した。携帯電話だけではなく、デジタルカメラ、携帯音楽プレイ ヤー、携帯ゲーム機、パソコンなど、他の電子機器の機能を取り込みながら普及しているのである。 その結果、従来の携帯電話よりも利用時間が大幅に伸びており11、インターネットや他の機能がより 身近な存在になった。 デジタル/ネットワーク化の恩恵による「機能の日常化」 取り上げた 3 つの製品はデジタル/ネットワーク化によって物理的な制約を取り払い、写真、音楽、イン 7 株式会社ゲイン(2010)『「若者のデジタル写真利用実態」に関する調査』。 株式会社カカクコム(2010)『カメラ利用状況アンケート』。 9 デジタル・アドバタイジング・コンソーシアム株式会社(2011) 『スマートフォン利用実態調査 2011』。 10 インプレス R&D(2011、2010) 『スマートフォン/ケータイ利用動向調査 2012』。 11 楽天リサーチ(2012) 『スマートフォンの使用実態に関する調査』。 8 http://www.jcer.or.jp/ -3- 経済百葉箱 番外編 2012.6.29 日本経済研究センター ターネットといった機能を、より身近なサービスとして提供できるようにした。カメラが提供する「写真を撮っ て観る」というサービスが「好きなだけ撮ってその場で確認できる」ようになった。携帯音楽プレイヤーが提 供する「音楽を聴く」というサービスが「好きな曲を好きなときに聴ける」ようになった。携帯電話の提供する 「連絡を取る」というサービスに「インターネット、情報共有」といったサービスが追加された。耐久消費財と いうモノ自体ではなく、耐久消費財が提供するサービスの進化が、「機能の日常化」を導き、新たな需要を 掘り起こした。 <2. マイナス要因の除去>プレゼン資料 10~13 頁 「機能の日常化」という爆発的に普及した製品の特長は、製品が登場した当初から存在していた。しか し、どの製品もすぐに普及したわけではない。新製品から得られるメリットが、従来製品から乗り換えるデメ リットを超えなければ、普及は限定的である。従来製品と比較し、劣っている点がある程度解消されてから、 爆発的普及が加速したのである。 デジタルカメラ 1995 年に発売された「QV-10」の画素数は、35 万画素であり、銀塩カメラの写真と比べると明らかに 画質が劣っていた。2000 年以降、A4 に印刷した際にも鑑賞に堪えうる 300 万画素を超える製品が主 流となり、画質のマイナス要因は解消されていった。同時に価格も年々下落し、出荷価格をみてみる と 1999 年には 4 万 5000 円以上であったが 2 年後の 2001 年には 3 万円台まで下がり、普及が加速 していった。 デジタルオーディオプレイヤー 1999 年発売のソニー製品や、2001 年発売の初代「iPod」の価格帯は 4 万円以上であり、CD・MD プ レイヤーに比べると倍以上の価格差があった。2005 年に「iPod nano」が発売され、1 万円台の製品が 登場し、爆発的に普及することになった。 スマートフォン 2008 年「iPhone」発売時には、従来型携帯電話に存在した「おサイフケータイ」「赤外線通信」「ワン セグ」機能はスマートフォンには搭載されていなかった。また、ドコモ、au は携帯電話のメールアドレ ス(@docomo.ne.jp, @ezweb.ne.jp)を引き継ぐことができず、多くのユーザがスマートフォンへの乗り 換えを躊躇していた。しかし、2010 年 8 月以降にメールアドレスの引き継ぎが可能となり、2010 年 10 月以降に「おサイフケータイ」「赤外線通信」「ワンセグ」機能が搭載されたスマートフォンが発売され ると、急速に普及が拡がっていった。 <3. 女性層の取り込み>⇒プレゼン資料 14~17 頁 爆発的普及には、性別に関係なく受け容れられることが不可欠である。3 つの製品が爆発的に普及し た時期、女性の保有率が上昇しており、女性層が爆発的普及を牽引したと考えられる。女性層を取り込 むことができた背景には、デジタル化によって物理的な制約から解放され、自由に製品をデザインするこ とが可能になったことや、女性が扱いやすい便利な機能の追加などがある。 デジタルカメラ カシオ計算機が 2010 年に実施したアンケート調査によれば、女性が、「自分が写っている写真で満 http://www.jcer.or.jp/ -4- 経済百葉箱 番外編 2012.6.29 日本経済研究センター 足していない理由」の 8 割近くが「自分の表情が変」というものであった12。女性には、写真に綺麗に 写りたいという潜在的な欲求が存在し、スマイルシャッターや美肌モードなど、自分の納得がいく写 真を撮れる機能の追加が、女性層の取り込みに貢献したと考えられる。また、従来の銀塩カメラと比 べてコンパクトになることやカラーバリエーションの増加により、女性が持ち歩いてもファッションとして 違和感のないものとなった。 デジタルオーディオプレイヤー デジタルオーディオを購入する際の決め手は、男女ともに一番が価格、二番がデザインである13。た だし、女性がデザインを購入の決め手とする割合は男性よりも上回っており、男性と比べて、女性が デザイン面を重要視していることが分かる。2004 年に「iPod mini」、2005 年に「iPod nano」が発売され るなど、コンパクトかつカラフルな機種が登場した。これにより、女性が外に持ち運びやすくなり、需 要を喚起した。特に、「iPod nano」発売前後のデジタルオーディオ保有率の伸びを男女で比較する と、若年層では女性の方が高くなっており、爆発的普及を牽引する一因となった14。 スマートフォン 女性のスマートフォン保有率は、2010 年から 2011 年にかけて伸びが顕著であり、2011 年以降のス マートフォンの爆発的普及は、女性が牽引したといえる15。この背景としては、女性にとって便利なア プリが登場したことがあげられる。例えば、スマートフォンでレシピを見ながら料理をしたり、子供をあ やすために動画を見せたりといった使い方が可能になり、子育て層からの支持を集めた。またデザイ ン面でも、2011 年 8 月に発売された「Xperia ray」など、従来より小型化した女性向けモデルが登場 した。女性層の中でも 10 代から 30 代までの世代は、スマートフォンに対して、「軽い」「カラフル」「コ ンパクトで持ちやすい」といったデザインのこだわりを強くもっている16。女性層をターゲットにした機 種の登場も、スマートフォンが爆発的に普及した一因といえるだろう。 【爆発的普及のメカニズムとその応用】⇒プレゼン資料 18~20 頁 これまで 3 つの製品を取り上げ、爆発的普及について考察した結果、そのメカニズムが明らかになって きた。まず、デジタル/ネットワーク化の恩恵により、製品が限られた場所・時間等でしか使用できないとい う物理的な制約から解放される。その結果、ユーザーの日常に必須なもの、常に携帯するものへ進化す る「機能の日常化」が実現する。さらに、製品が様々なサービスを提供できるようになることで、女性層をは じめ、新たな需要を喚起する。 しかし、これらの要因だけで爆発的普及が起きる訳ではない。これまでみてきたように、新製品には既 存製品と比べてマイナスとなる要因が存在する。マイナス要因とはたとえば、高価格であったり、使い勝手 が悪かったりといったことである。これらのマイナス要因が除去されることで、ユーザーは、新製品が提供 するサービスを最大限享受できることになり、爆発的普及へと至る。つまり、爆発的普及のためには、マイ ナス要因を除去するような製品自身の改良と、製品が提供するサービスの向上の両方が必要なのである。 製品自身の改良だけでは、単なる買い替え需要を生むに過ぎず、サービスの向上だけでは、マイナス要 因に阻害されて普及は進まない。 以上を踏まえた上で、爆発的普及のメカニズムを他の製品に応用してみたい。本稿では、今後普及が 12 カシオ計算機株式会社(2010)『女性に対する写真の意識調査』 日本能率協会総合研究所マーケティング・データ・バンク(2005)『ポータブルデジタルオーディオプレーヤー と音楽配信サービスに関する消費者調査 結果報告書』。 14 日本レコード協会『2005,2006 年度音楽メディアユーザー実態調査』 。 15 インプレス R&D(2011、2010) 『スマートフォン/ケータイ利用動向調査 2012』『ケータイ白書 2011』。 16 MMD 研究所(2011) 『女性のスマートフォン利用に関する調査』 。 13 http://www.jcer.or.jp/ -5- 経済百葉箱 番外編 2012.6.29 日本経済研究センター 予想される電気自動車を取り上げた。現在電気自動車の普及にあたっては、航続距離の伸長、充電時 間の短縮、充電場所の拡充、価格の引下げといった課題があり、各自動車メーカーはこうしたマイナス要 因の除去に取り組んでいる。しかし、爆発的普及のためにはそれだけでは足りず、「機能の日常化」や「女 性層の取り込み」といった観点から、新しいサービスを提供する電気自動車を考えることが重要である。 具体的に考えられる電気自動車のメリットとしては、電子制御がしやすく操作性・安全性が向上すること、 また、自動運転との相性が良いため誰でも運転でき、自動車が多くの人に普及する可能性を秘めている。 さらに動力がエンジンからモーターに変わることによって、自動車の構造自体を変更することができ外観 だけではなく内部の空間を自由にデザインできること、などがあげられる。内部の空間を自由にデザイン できるメリットは、自動車の内部を自分の部屋のような居心地の良い空間にカスタマイズすることができると いう点である。電気自動車が「いつでも誰でも運転できる」、「自分専用の空間」という機能を備えることで、 ユーザーにとってより日常に欠かせないものとなり、新しい需要の創出につながるのではないだろうか。電 気自動車の爆発的普及のためには、単なる「移動手段」という従来の需要を超えて、ユーザーの需要を 掘り起こす必要がある。 今回明らかにした爆発的普及のメカニズムは、自動車産業のみならず、様々な製造業の分野に応用す ることが可能である。 【日本製造業復活に向けて】⇒プレゼン資料 21 頁 現在、日本の製造業が苦境に陥っている大きな原因は、製品自身の改良に重点が置かれ、製品が実 際に提供するサービスを向上させる、という視点が欠如していたことにあると考える。アイディアはあっても、 配慮しなければならない関連企業や部門が多すぎて身動きがとれなかったのかもしれない。関連企業や 部門が多いことは新製品やサービス開発にあたって大きな力になるものの、それが既存製品やサービス を置き換えるほど画期的な場合にはかえって歯止めになりかねない。デジタル/ネットワーク化の下で物 理的な制約が解除され、製品が多様なサービスを提供できるようになるにつれ、ユーザーの需要は単な る「モノ」から「サービス」へと移り変わっていく。今の世の中では「モノ」よりも「サービス」の方が重要になり つつあり、単純な性能の向上だけでは「モノ」は売れなくなっていく。 本稿の爆発的普及のメカニズムを有効活用し、既存製品やサービスにとらわれることなく、製品がどんな サービスを提供できるのか、といった視点から製品開発を行っていくことが重要である。そして、ユーザー の新規需要を掘り起こすことで、日本企業が爆発的普及を巻き起こし、復活していくことを期待したい。 【 おわりに ~ 留意点や残された課題 ~ 】 留意点や残された課題を以下に記す。 時間の都合上、今回取り上げた製品は 3 つに留まっている。爆発的普及のメカニズムとして、一 般化するにはさらに多くの事例の検証が必要になると認識している。 国内の普及についてのみ検討しているが、国際競争に打ち勝たなければ、製造業の復活は難 しい。今後、海外における普及も含めて検証する必要があるだろう。 (本稿に関するお問い合わせ:予測・研修グループ 03-6256-7730) ※本稿の無断転載を禁じます。詳細は総務本部までご照会ください。 ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― 公益社団法人 日本経済研究センター 〒100-8066東京都千代田区大手町1-3-7 日本経済新聞社東京本社ビル11階 TEL:03-6256-7710 / FAX:03-6256-7924 http://www.jcer.or.jp/ -6-
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