納税義務者1人当たり課税対象所得額の推移

1.市民所得指数、雇用自立度の背景説明
(1)市民所得指数
A.課税対象所得の長期的減少とその背景
課税標準額は長期時系列データが入手しがたいため、課税標準額のベースとなる 1 人当たり課税
対象所得(注)の長期推移をみると、倉吉市、鳥取県とも 1997 年頃までは増加基調であったが、
以後横ばいの時期を経て、2000 年代初頭からは明確に減少傾向に転じ、2005 年には一段と減少し
た。2005 年の減少幅が大きいのは、同年の配偶者特別控除(上乗せ部分)の廃止により住民税の課
税最低限度額が引き下げられたことも影響しているとみられるが、以後も 1 人当たり課税所得は減
少を続け、近年に至り漸く減少に歯止めがかかりつつある。全国でもほぼ同様の推移を辿っている
が、鳥取県、倉吉市に比べれば減少の程度は比較的小さい。
鳥取県、
倉吉市の 2000 年以降の 1 人当たり課税対象所得減少の要因としては以下が挙げられる。
①一般的に正規雇用に比べて所得の低い非正規雇用が拡大していること。図にみるように鳥取県
の雇用者に占める非正規雇用者の割合は 2000 年代に入り大幅な上昇を続けており、2002 年の
25.2%から 2012 年には 34.1%まで上昇し、この間の上昇率は全国平均を上回っている。
②2000 年頃から厳しい業況が厳しい中、多くの事業所が賃金の抑制、削減を行ったこと。
③2000 年代以降、鳥取県でも倉吉市でも、大手を含めエレクトロニクス関連産業を中心に製造業
の事業所閉鎖や雇用整理が相次ぎ、製造業の雇用(特に正規雇用)が大幅に縮小する一方、介
護・福祉関連産業の雇用が拡大しているが、一般的に介護・福祉関連産業では賃金水準が製造
業に比べて見劣りすること。
(注)所得=年収-経費 (給与所得の場合は、経費=給与所得控除)
総所得(課税対象所得)=各種所得の合計
課税標準額=総所得-社会保険料-医療費控除-生保・損保控除-配偶者控除-扶養控除
-基礎控除-その他の控除
納税義務者1人当たり課税対象所得額の推移
4,000
3,800
3,600
(千円)
3,400
3,200
3,000
2,800
2,600
2,400
2,200
鳥取県
全国
倉吉市
2,000
(注1)年次は調査対象年次とした(例:2013年調査であれば、その前年の課税状況が調査
対象年次となる)。(注2)倉吉市の計数は合併前の年次も旧関金町を含めて算出。
資料)「市町村別課税状況調」(総務省)から作成
非正規雇用が雇用者総数に占める割合
38.0%
36.0%
34.0%
32.0%
30.0%
28.0%
26.0%
24.0%
22.0%
20.0%
35.8%
33.0%
29.6%
34.1%
30.6%
25.2%
全国
2002
2007
鳥取県
2012
(資料)就業構造基本調査(総務省)から作成
B.市民所得指数の推移とその背景
鳥取県全体の 1 人当たり平均課税標準額に対する倉吉市の同指標の割合を示す市民所得指数は横
ばい、ないし若干の上昇基調で推移している。ただし、倉吉市の 1 人当たり課税標準額自体は、課
税対象所得額と同様減少が続き、
近年に至り漸く減少傾向に歯止めがかかったといえる状況にある。
鳥取県全体の 1 人当たり平均課税標準に比べれば僅かながら減少の度合いが小さいことにより、
市民所得指数が若干上昇しているわけであり、決して楽観できる状態にはない。
今後は各産業分野において付加価値額を「稼ぐ力」を強化しながら、賃上げや正規雇用の拡大な
どを通じて雇用者への分配を高めていかなければならない。
なお、1 人当たり平均課税標準額に比べて倉吉市の同指標の減少の程度が小さいのは、
(所得総額
ベースでウエイトの大きい)給与所得の 1 人当たり平均課税標準額が鳥取県のそれに比べれば減少
の度合が小さいことによる。ちなみに鳥取県の中心3市の中では(納税者の最も多い)鳥取市の給
与所得の 1 人当たり平均課税標準額の落ち込みが最も大きく、これが鳥取県全体の 1 人当たり平均
課税標準額を大きく押し下げる要因ともなっている。鳥取市の給与所得の 1 人当たり平均課税標準
額の大幅な低下はリーディング産業でかつ賃金水準も比較的高かったエレクトロニクス関連産業の
雇用減が主因とみられる。
(千円)
1,900
市民所得指数関連指標
1,700
95.0%
1,500
90.0%
1,300
1,100
85.0%
900
80.0%
700
500
2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012
(注)年次は調査対象年次ベース
資料)市町村課税状況調(総務省)から作成
2,000
1人当たり標準課税額(給与所得)
1,900
1,800
1,700
千(円)
1,600
1,500
1,400
1,300
100.0%
倉吉市
鳥取市
鳥取県
米子市
2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012
(注)年次は調査対象年次ベース
75.0%
倉吉市1人当
たり課税標
準額
鳥取県1人当
たり課税標
準額
倉吉市市民
所得指数(右
目盛)
(2)雇用自立度
A.雇用自立度の推移とその背景
倉吉市の雇用自立度は年を追って低下しており、1990 年(平成 2 年)の 85.4%から 2010 年(平
成 22 年)には 78.2%まで低下している。もっとも 2010 年の低下の一因は国勢調査における「不
詳(無回答)
」
(この場合であれば倉吉市に常住している就業者で従業地について無回答の人)が、
この年の国勢調査から現われたことも影響しており、
「不詳」分を除いて雇用自立度を算出すると、
79.9%と低下の度合いはやや小さくなる。
雇用自立度低下の要因は明確に把握できないが、推測として、以下のような要因が考えられる。
<雇用自立度低下の要因(推測)>
かつて雇用面で大きなウエイトを占めていた製造業や建設業、
卸・小売業の雇用が縮小する一方、
医療、介護・福祉関連産業の雇用が拡大。
⇒これらの産業(特に介護・福祉関連産業)は地域ニーズに密着した産業であり、倉吉市周辺の
町においても事業所開増設や雇用の拡大を図る動きがみられる。
⇒倉吉市常住の就業者においても市内の製造業や建設業、卸・小売業などを退職し、周辺の町の
医療、介護・福祉関連事業所に通勤する人が増加した。
なお、県中部地域は広域生活圏を形成していると考えられることから、対象地域を中部地域全体
に拡大して雇用自立度(中部地域常住の就業者で、中部地域内で従業している人の割合)をみると、
(2010 年の国勢調査「回答不詳」分を除けば)ほぼ横ばいで推移している。倉吉市単体でみる場合
に比べると、雇用自立度の大幅な低下はみられない。
(
100
95
90
85
80
% 75
70
65
60
55
50
倉吉市、中部地域全体の雇用自立度
94.5
85.4
83.1
94.4
81.7
91.7
(93.3)
)
81.7
倉吉市雇用自立度
78.2
(79.9)
中部地域全体の雇用自立度
1990
1995
2000
2005
2010
(注)カッコ内は国勢調査「回答不詳」を除いて算出し
た値。(資料)国勢調査から作成
B.雇用自立度の指標としての問題点
雇用自立度は以下の方法で算定する。
倉吉市民の市内での就業者数/倉吉市民である就業者数
=(倉吉市民である就業者数-倉吉市民で市外へ通勤する就業者数)/倉吉市民である就業者数
ここでは倉吉市外から市内への就業者は全く考慮されていないが、仮に市外へ通勤する倉吉市民
(の割合)が増えたとしても、それ以上に倉吉市外から倉吉市への通勤者(の割合)が増えていれ
ば、倉吉市の「雇用・就業の場の創出」という機能が衰えているとはいえない。
「倉吉市民で市外へ通勤する就業者」だけを問題とするのではなく、
「倉吉市外から市内に通勤す
る就業者」も考慮した指標についても検討すべきと考えられる。