要旨 - 医薬品医療機器レギュラトリーサイエンス財団

公衆衛生のためのレギュラトリーサイエンスの推進
-FDA のレギュラトリーサイエンス・イニシアチブに対するフレームワーク-
保健社会福祉省 米国食品医薬品局 長官事務局 首席科学官事務局
(2010 年 10 月)
要旨
概要
科学とテクノロジーにおける最近の進展-ヒトゲノムの配列からナノテクノロジーの新しい医
薬品への応用の進歩-は,病気を予防,診断,治療するわれわれの能力を転換する可能性がある.
このような発展により,治療法はそれぞれの患者向けに調整された個別的なアプローチをするこ
とによって,治療のベネフィットを最大にする一方で,安全性リスクを減尐する.同様に,研究
と情報技術の進歩により,われわれはより効率的に病原性微生物を特定し,食品汚染の発生を追
跡し,食品や他の FDA が規制する製品がどこで生産・製造されたか,どのように輸送されたか,
どこに輸送されて誰が利用するかを究明することができるようになっている.これらのツールは
また,より包括的な予防接種戦略(特に新興感染症のパンデミックの面で)を可能にすることに
よって,予防衛生における重要な役割を果たすこともできる.
これらが十分な可能性の域に達する進歩のためには,FDA は,安全かつ有効な製品を確保する
だけでなく,公衆衛生を促進し,新しい治療法と治療介入に向けられた科学研究事業により活発
に参加するため,政府機関としてますます重要な役割を果たさなければならない.われわれは,
評価と承認プロセスも近代化し,革新的な製品を,必要とする患者に必要とされるときに確実に
届ければならない.これらの新しい科学的ツール,テクノロジーやアプローチは,21 世紀におけ
る公衆衛生の進歩に重要な架け橋となる.それは,いわゆるレギュラトリーサイエンス(FDA が
規制する製品の安全性,有効性,品質と性能を評価する新しいツール,基準とアプローチを開発
する科学)を形成する.
この文書は,レギュラトリーサイエンスの発展と公衆衛生を改善する可能性を引き出すための
幅広いビジョンを概説する.FDA の役割,FDA 内及び全国におけるその分野の強化のためのパ
ートナーとの連携について説明する.
本文書は(1)レギュラトリーサイエンスへの期待,
(2)共同実施フレームワークの 2 つのセ
クションで構成されている.最初のセクションは,レギュラトリーサイエンスの新たな,期待さ
れる分野の背景,ならびに現在の活動例を紹介する.それから,7 つの異なる公衆衛生領域の検
証に続き,その分野における進歩は,米国民により良い,より安全な,より革新的な製品の供給
を促進することができる.第 2 のセクションは,われわれが全国的な取り組みを主導してレギュ
ラトリーサイエンスを推進し,
そのポテンシャルを利用して FDA の基本的使命(公衆衛生を促進,
保護する)を達成するにあたり,FDA の指針となる戦略的フレームワークを提示する.
イニシアチブ
FDA は,新しい「レギュラトリーサイエンス・イニシアチブ」を通してレギュラトリーサイエ
ンスを推進させる努力を先導することによって,クリティカルパス・イニシアチブと他のプロジ
ェクトの成功を基に前進することを提案をしている.レギュラトリーサイエンス・イニシアチブ
は4つのフレームワークによって支えられており,この文書の最終セクションでより詳細に概説
する.
1
•
•
•
•
科学と革新を支援するためのリーダーシップ,調整,戦略的な計画と透明性
FDA における,または,連携の極めて重要な応用研究に対する支援
科学的卓越性,専門的能力の開発と学習する組織に対する支援
傑出した科学者の採用と確保
2011 年度は大統領による 2500 万ドルの概算要求により,FDA 内の継続的努力を拡大して,ア
カデミア,業界,国内の政府との更なるパートナーシップを構築する予定である.レギュラトリ
ーサイエンスを専門とする新しいオフィスは,FDA 内で戦略的な発展と調整を導き,主要人員を
採用し,上級幹部を強化することに早期の努力を集中する.
2011 年度は,外部の協同と協力を結集し,4 つの主要なレギュラトリーサイエンスの研究分野
の調査を支援するために大半の予算が用いられる:
1. 患者のための製品開発を変革する:患者に進歩の成果をもたらす
(例: 毒性学を近代化する方法,個別化医療のためのバイオマーカー,幹細胞イニシアチブ,医
薬品審査基準の近代化)
2. FDA が規制する製品に関する新しい技術について取り組む科学
(例:ナノテクノロジーと新しい動物バイオテクノロジー製品を評価する専門知識)
3. 健康上のアウトカムのための情報科学
(例:医療機器レジストリーとデータ分析のための科学コンピューティング)
4. 未達成の公衆衛生ニーズへの対処
(例: 栄養と公衆衛生)
2011 年度の活動は,また,レギュラトリーサイエンスの研究拠点 (Centers of Excellence in
Regulatory Science) のネットワーク化を準備して,拡大された FDA 内部の研究と他の臨床研究
ネットワークを統合する.外部プログラムのための資金提供は競争的で,研究拠点を組織するた
めのパイロット・スタディーとフィージビリティー・スタディーに集中する.
この文書は,レギュラトリーサイエンスの進歩が, FDA における優先度の高い公衆衛生領域
の進展をどのように促進することができるかについて,詳細に述べている.
われわれのユニークな,現代のレギュラトリーサイエンスに関する一連の課題に対処できる発
見は一つもなく,また,特効薬もない.しかし,一つ明白なことは,われわれが今,直面する最
も緊急な公衆衛生における問題を解決しようとするならば,21 世紀のテクノロジーを活用するた
めの新しいアプローチ,新しい連携と新しい方法が必要になる.そして今,我々にはそれらが必
要である.
レギュラトリーサイエンスへの期待
レギュラトリーサイエンスとは何か?
レギュラトリーサイエンスは,新しいツール,基準とアプローチを開発し,FDA が管理する製
品の安全性,有効性,品質と性能を評価する科学である.
レギュラトリーサイエンスの可能性とは何か?
レギュラトリーサイエンスの分野(新しいツールを開発する際に発生した知識とツールそのも
のの両方の知識)には,幅広い範囲にわたる健康関連の進歩の情報を提供する可能性があり,多
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数の病気や状況もそれに含まれる.たとえば,組換えたん白とモノクローナル抗体の影響を変化,
妨害する望ましくない免疫反応を特徴づけ,予測する方法を調査するプロジェクトは,がん,関
節リウマチと他の病気の治療法との関連を示すことができる.そのような研究から生まれる知識
は,食品と医薬品の全種類にわたって十分に適用できるだろう.そして,そのような医薬品が安
全で,効果的なことをより支援することができる.
レギュラトリーサイエンスは,研究所の中だけのことではない.それは,科学的ツールと情報
収集,そして,データ,人,保健制度とコミュニティを調査する分析システムを含む.最も効果
的な成果をえるためには,レギュラトリーサイエンスの進歩は,製品開発プロセス全体に完全に
統合されなければならない.支援と共同の努力は,開発の初期段階での新しい発見とテクノロジ
ーの失敗または成功を予測することが不可欠であり,また製品の開発経費を縮小する.レギュラ
トリーサイエンスの進歩は,評価と承認プロセスをより効率的にするのを助け,より速く安全な
新製品を患者に届けるのを助けて,製品使用をモニターし,結果を向上する能力を強化し,患者
の予後をより良くする.
レギュラトリーサイエンスのプライオリティーは何か?
重点的課題と目標とする人材と財源の投資により,FDA はパートナーとの研究を存続し,製品
研究,発展,評価の文化と科学を変化させ,プロセスに新しい創造力を吹き込む.
以下のページでは,今日,米国民が直面する最も重要で緊急の公衆衛生課題に取り組むために,
レギュラトリーサイエンスの現在の活動と将来の機会を説明する.
I. 患者への新しい治療法の到達を促進
最近のアメリカにおける生物医学研究への投資が,生物学と病気に対するわれわれの理解を劇
的に拡大した.しかし,新しい治療法の開発は減尐傾向にあり,市場に導入するコストは急上昇
している.要するに,われわれは患者が時期を逸せずに最高の治療を受けられることを確実にす
るために,あらゆる機会を利用して,医療の効果と成果を向上させ,米国のバイオテクノロジー
産業の強さとイノベーションへの増大する脅威に対処しなければならない.
FDA は,何を行ってきたのか?
クリティカルパス・イニシアチブと他のプロジェクトの成功の結果として,FDA の科学者は,
基礎的発見の実用的価値を増やすという目的によって,多くのレギュラトリーサイエンスの成果
に貢献してきた.これは,患者が最先端の治療法にアクセスできることを確実にするために行わ
れる.既存の資源を活用し,センターの科学者の膨大な知識を利用することによって,FDA は自
身をヘルスケア・パラダイムの不可欠な部分として確立してきた.その業績には以下のようなも
のがある:
• 幹細胞特性評価の方法
FDA の科学者は他の科学者と協力して手法を開発し,”stemness”(つまり,幾つかの系列の
幹細胞の分化の程度)の遺伝子バイオマーカーを同定した.科学者は,異なる種類の幹細胞の存
在を確立するために,試験法と基準を開発した.これらの方法は現在,その未分化幹細胞が,患
者に投与される最終的な,より分化した幹細胞製品を汚染しないことを確実にするのに用いるこ
とができる.未分化幹細胞は,幹細胞治療の危険性を増加するかもしれない(Bhattacharya et al,
Blood 2004. 103:2956-2964.).
• がんの個別治療
2010 年 3 月に開始された「I-SPY 2 試験」は,画期的な新しい臨床試験モデルを示し,ハイ・
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リスクで急激に成長する乳がんを発症した女性のための,開発段階の最も有望な医薬品を科学者
が迅速かつ効率よく検査することを支援する.検査の間,治験薬は各女性の腫瘍のバイオロジー
を個々にターゲットとし,
「バイオマーカー」として知られている特定の遺伝子的または生物学的
マーカーを用いる.革新的な試験デザインを適用しつつ,研究者は 1 セットの患者の治療のデー
タを使用して他の患者を治療し,より速く,効果のない治療法と薬を除いていく.I-SPY 2 試験
は,FDA,国立衛生研究所,主要な製薬会社を含むユニークな官民のパートナーシップであり,
国立衛生研究所財団に統制されるバイオマーカー・コンソーシアムの下で発展した.
FDA は,レギュラトリーサイエンスへのさらなる投資で何ができるか?
科学と技術の発展は大きな可能性を持つが,新しい治療を開発,検証する方法は,十分に開発
または評価されないままである.FDA の独立した科学委員会が発見したことは:
「米国民の命は
危険にさらされている」なぜなら…
創薬と薬剤開発の世界が革命的変化(細胞ベースから,分子及び遺伝子ベースのアプローチに転
換)を遂げた一方で,FDA の評価方法は過去半世紀の間ほとんど変化しないままだった.1
レギュラトリーサイエンスの進歩がなければ,その可能性を評価するためのツールが不足して
いるというだけの理由で,有望な治療法が開発過程で放棄されてしまうかもしれない.また,時
代遅れの評価方法は,承認を必要以上に延ばしてしまうかもしれない.逆に,後に安全でないか
または効果がないことが明らかになる新しい治療を評価するために,多くの資金と年月を無駄に
するかもしれない.
レギュラトリーサイエンスの創造的な進歩により,その展望を完全に変えることができる.製
品開発を近代化することができ,開発から評価,製造にわたる全プロセスの速度,効率,予測性,
有効性と品質を改善する新しいツール,基準,分析,疾患モデル,そして科学ベースの経路を開
発することができる.FDA が継続的な影響を与えることができる領域は,下記のとおりである:
• より安全な鎮痛剤
われわれは,処方鎮痛剤の乱用と誤用の世界的まん延に直面している.同時に,つらい痛みを
持つ患者は,しばしばきちんと治療されないままである.新しい疼痛伝達経路が発見され,助け
となる新薬が開発中である.しかし,患者への新しい治療法の供給を速めるためには,より正確
な疼痛モデル,計測ツール(患者報告の評価を含む),臨床試験計画を見つけ,乱用の可能性がよ
り尐ない効果的な投薬治療の開発を可能にする必要がある.
• 結核のためのワクチン,医薬品,診断法
FDA は,薬剤耐性結核(TB)を予防,診断,治療し,結核ワクチンを開発する興奮に満ちた
治療研究を支援しており,これらは,米国民,旅行者,軍隊を含む何百万もの人々をいろいろな
場所で保護するために必要とされている.結核治療とワクチン(治療と保護を予測することがで
きるマーカーを特定することを含む)をより速く評価することができるアプローチを開発しなけ
ればならない.また,結核をより速く,より正確に診断することができるテスト(結核が特定の
治療に抵抗性がある場合を決定するテストも含む)も開発しなければならない.
脚注 1
FDA 科学委員会,危機的な FDA の科学と使命,科学技術調査会報告,2007 年 11 月
http://www.fda.gov/ohrms/dockets/ac/07/briefing/2007-4329b_02_01_FDA%20Report%20on%20Science%20
and%20Technology.pdf
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• ジェネリック医薬品のより大きな入手可能性
ジェネリック医薬品は,この国で出される処方箋の 70%以上を占め,多くの人にとって,入手
可能な治療の唯一の解決策である.しかし多くの製品は,特許が期限切れになった後もジェネリ
ック代替薬がない.もしいくつかの製品の生物学的同等性を決定する困難が克服されれば,より
多くのジェネリック製品が利用可能となる.しかし,定量吸入器,ドライパウダー吸入器,特定
の外用剤と全身に吸収されない製品は,生物学的同等性の決定に課題を呈している.これらの製
品についての生物学的同等性を決定する有効な方法を開発するために,研究を強化しなければな
らない.それによって良質で,より低価格のジェネリック製品が,より広く利用可能になる.
• 製造の近代化と製品の品質
FDA は「Quality by Design(QbD)
」の努力を先導している.それはレギュラトリーサイエン
スを適用して,医薬品製造プロセスの理解とコントロールを近代化するものである.レギュラト
リーサイエンスの進歩はより良い品質を確保するだけでなく,開発と製造コストを下げることも
できる.FDA によって支援される調査の領域は以下を含む.(1)原料が絶えず機器に流れて,全体
的な製造時間とコストを減らす連続処理,(2)医薬品製造工程管理技術(PAT)を使用して,単に
製品をテストすることとは対照的に製造をモニターし,管理する.そして,(3) プロセスまたは
製品品質の変化を検出する新しい統計アプローチ. これらのアプローチを適用することにより,
複雑な製造工程を管理し,効率を上げ,より信頼できる製品を患者に提供することを促す. 加え
て,フレキシブルな製造施設のような新技術や,モジュラーや使い捨て機材の使用は,日常や緊
急事態での製品の生産を速くすることができる.
公衆衛生には多くの問題がある.FDA は,その使命に不可欠な科学を強化し続け,他の政府機
関,業界,アカデミアとの新しく,刺激的な協力を模索しつつ,生活を変化させ,公衆衛生を保
護することを意図する.
II. 小児・子供の健康を増進
小児は,単に小さな大人ではない.彼らには,独特の健康と発達上の特徴があり,それが食品
と医薬品の反応の仕方に影響を及ぼす.FDA のレギュラトリーサイエンスは,治療がどのように
子供たちに影響を及ぼすかというわれわれの科学的な知識と,新しい治療法を開発する間のギャ
ップを克服するために大いに期待が出来る.発生生物学と小児の研究は生物医学研究の活発な領
域であるが,はっきりと異なる別の部分母集団として子供たちを評価する製品開発または臨床研
究に,研究結果がしばしば結びつかない.子供たちに適切な栄養と安全かつ有効な医薬品を提供
するには,われわれは成長への影響や,子供たちが代謝,行動とホルモンの影響において大人と
どのように異なるかを理解しなければならない.
FDA は,何を行ってきたか?
FDA は,小児と青年向けの医薬品評価に必要な特別な配慮に,熱心に取り組んできた.これら
には,発達,年齢,成長が,小児における治療の作用や,健康アウトカムへの働きにどう影響す
るかに対処する科学が含まれる.FDA は,薬がどのように小児に作用するかに取り組むのに必要
な科学に焦点を絞り,これらの懸念に対処する研究を計画した.法律の組合せ,特に小児最良医
薬品法(Best Pharmaceuticals for Children Act:BPCA)と小児研究公平法(Pediatric Research
Equity Act:PREA)を通じて,また,FDA 内外での科学的研究を通して,大人に対して薬が小
児ではどのように作用するかを評価するために多くの研究が実施された.これらの研究は,独特
の薬物動態の違いに対する注意,投与調整,小児のための安全性情報の強化を含む,350 以上の
市販薬の添付文書変更という結果をもたらした.研究の中から一つを紹介する.
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• 抗うつ薬使用から生じる青年期の自殺への対処
長い間,抗うつ薬でうつ病の治療を受けている患者には自殺念慮を持つ者がいると報告され,
多くの場合自殺を試みるとされてきた.このことは,抗うつ薬が,患者が衝動的な自殺を促す「活
性化効果」を持つかもしれないという意見を導いてきた.1990 年代にいくつかの調査が実施され,
実際には抗うつ薬と自殺既遂の危険性には関連性はないと結論づけられた.しかし,2003 年にい
くつかの小児科の試験データが分析され,抗うつ薬が子供たちの自殺未遂と自殺傾向の増加の原
因になったかもしれないことを示唆した. 2004 年に FDA が召集した諮問委員会の後で,FDA
は 12 の市販されている抗うつ薬の 8 つのスポンサーによって収集されたデータに対して独自調査
を開始した.データは,99,231 人の参加者による 372 件の臨床試験から作成された.大部分は未
発表のスポンサーのデータで,過去の研究において利用されなかったものである.
FDA による広範囲のマルチスタディー比較の努力の結果は,いくつかの重要な調査結果と結論
をもたらした.第 1 に,抗うつ薬を飲んでいる成人人口の自殺リスク増加のエビデンスはなかっ
た.しかし,研究が年齢別に分析されると,自殺のリスク増加が 25 歳未満の成人で見つかった.
この研究は,抗うつ薬と結びつく自殺念慮と既遂は,年齢依存的であるという理解を促した.25
歳未満の人ではリスクの増加,25~65 歳には影響がなく,一方,65 歳を超える成人では自殺を
減らす好ましい効果をもたらす可能性がある.これにより,FDA が添付文書と医薬品ガイドに警
告を表記させる結果となった.複数の臨床研究からデータを結合して,分析的ツールとデータ評
価の高度な統計を結合する能力なしでは,この重要な発見はなされなかった.
FDA は,レギュラトリーサイエンスへのさらなる投資の増加により,何ができるか?
レギュラトリーサイエンスは,小児独特の生態を調べて,その知見を製品開発と評価の科学に
適用し,われわれの子供を安全で健康に保つ機会を提供する.われわれが次世代を保護すること
ができるいくつかの方法を下記に示す:
• 医薬品医療機器の安全性を確実にすること
FDA は,小児における重要な吸入・静注薬の安全性イニシアチブ(Safety of Key Inhaled and
Intravenous Drugs in Pediatrics Initiative)のようなプロジェクトを通して,この作業をすでに
開始し,本プロジェクトでは小児と幼児に対する鎮静剤と麻酔薬の作用を調べており,幼児と小
児の健康に重要な影響を及ぼすであろう.このようなより多くのプロジェクトが,緊急に必要と
されている.
• われわれの食品供給を確保すること
小児は食品媒介病原体に特に弱い.彼らは,一般集団より食品媒介疾患による病気への罹患や,
死亡さえする可能性が高い.レギュラトリーサイエンスにおける FDA の関心の主要な焦点は,食
品中の微生物病原体を検出するより迅速で実用的な方法の開発,及び複数の汚染された食品サン
プルを同時に検査するために FDA の研究室を整備することである.そのうえ,FDA は効果的に
危険を減らす実行可能な医療介入を計画し,それを実行するために,食品媒介疾患の原因につい
て科学的な理解を深めなければならない.
• 小児と青尐年の喫煙を予防すること
小児と青尐年を対象とする際,喫煙を予防する努力が特に効果的であるということをわれわれ
は知っている.家庭内喫煙予防・タバコ規制法(Family Smoking Prevention and Tobacco Control
Act)によって認められた新しい権限と共に,FDA は小児と青尐年をターゲットとした広告とマ
ーケティングに対する規制を提案,実施して,小児と青尐年が喫煙を開始する機会を減らすこと
ができる.FDA は,どの業界活動が若者の喫煙に最も大きな影響を及ぼし,それを阻止する規制
当局の努力を促進するかの理解を高める必要がある.喫煙開始に及ぼすこれらの働きの効果を測
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ることにより,FDA は目標を達成することができるであろう.
• 肥満と戦うこと
小児と 20 歳未満の青年の 17%以上は肥満で,心血管疾患,2型糖尿病と他の慢性疾患の危険
にさらされている.この事実は,食品の栄養含有量を消費者に知らせるために必須の手段である
食品表示に関して,FDA の権限が決定的に重要なことを明白にしている.オバマ大統領によって
法制化された医療制度改革法は,栄養表示義務をレストラン・チェーンと自動販売機に拡大して
いる.この権限を最も効果的に行使するためには,健康的な選択をしたい消費者にとって,どの
ような食品のラベル表示のタイプが最も有用であるかを決定するために,FDA は科学的な分析に
取り組まなければならない.
• 毒素の危険性を理解すること
幼児と小児は成長,発育するに伴い,摂取する食品,使用する医薬品医療機器,その他の接触
する製品中の危険レベルの毒素への暴露から保護される必要がある.FDA の国立毒性研究センタ
ー(National Center for Toxicological Research)がこれらの毒素を特定し,市販される製品の
健康への悪影響の危険性を減らすことに尽力している.
製品の構成がますます複雑になり,FDA の科学も,これらの課題に対処するために適応しなけ
ればならない.
III. 新興感染症とテロリズムからの保護
伝染病は境界を知らない.われわれの世界は,パンデミック・インフルエンザから SARS コロ
ナウイルスのような新しい病原体まで,絶えず出現し,自然発生する新たな脅威に直面している.
同時に,われわれは世界が不安定であるという事実を認識しなければならない.したがって,化
学,生物,放射性物質及び核による攻撃にも影響されやすい.われわれは,幅広い範囲の潜在的
脅威に備えなければならない.それは自然,あるいは計画的な炭疽菌から天然痘,インフルエン
ザ,新しい予想外の脅威にまで及ぶ.更に,結核やマラリアのような深刻で壊滅的な感染病や,
ブドウ球菌のような一般細菌でさえも,可能な治療にますます耐性を持つようになり,世界中の
人々を脅かしている.
必要とされたワクチン,診断法と治療の進歩と評価への現在のアプローチは,世界的また国内
で の ニ ー ズ に 素 早 く , 十 分 に 応 え て い な い . こ れ ら に 必 要 な 医 学 的 対 応 策 ( medical
countermeasures:MCM)の発展は,基礎科学または製品開発-準備状況を変換し,世界の保健
を再定義する製造及び評価-において科学的なイノベーションを,いまだ最大限に活用していな
い.
FDA は,何を行ったのか?
長い間,FDA は,年間ベースで各々の新型インフルエンザから防ぐためにワクチンの同定と開
発の中心になってきた.2009 年の H1N1 インフルエンザの世界的流行で成功した官民のパート
ナーシップは,記録な速さで,安全かつ有効なワクチンの開発と承認をもたらした. 以下のより
詳細な例は,FDA で進行中のレギュラトリーサイエンスの努力のいくつかの例である.
• 国の血液供給の汚染を防止した
蚊によって蔓延するウェストナイル・ウイルスは,無症候性感染,熱,髄膜炎,脳炎または死
を引き起こす.2002 年には 4,156 件のウェストナイル・ウイルス感染の症例が報告された.この
数は,2003 年には 2 倍以上の 9,862 件までになり,その後,徐々におさまって 2009 年には 720
症例になった.FDA と CDC(Centers for Disease Control and Prevention)は,ウイルスが輸
7
血と臓器移植を通して感染する可能性があることを危惧し,2002 年 9 月にはそのような感染が確
かめられた.医療制度が死に至る可能性のある病気に感染した人を治療しようと取り組むに伴い,
FDA は,CDC,血液・診断薬業界と集中的に取り組み,血液の安全性に対する脅威に素早く対
応し,強力なレギュラトリーサイエンスをもって,試験の開発のために必要な標準化された試薬
を開発した.この努力は,献血時にウェストナイル・ウイルスを迅速に試験することについて,
全国的な支援として重要で,国の供給血液を確実に安全に保ち,輸血感染症の深刻な流行の可能
性を防止した.
FDA は,レギュラトリーサイエンスへの更なる投資の増加により,何ができるか?
公衆衛生上の脅威に立ち向かう医学的対応策を作りだすためには,レギュラトリーサイエンス
に対して徹底した,継続的な投資が不可欠である.
「公衆衛生上の緊急事態における医学的対応策
に関するレビュー」でも指摘されているように,
「最先端のレギュラトリーサイエンスと科学的評
価能力の強力かつ最高度の適用は,医学的対応策に関する規制プロセスの強化を助け,それによ
り,
医学的対応策の開発プロセスを効率化する.
FDA は新しいイニシアチブを開始するであろう...
それは,医学的対応策に特別に焦点を絞り,医薬品医療機器の安全性,有効性及び品質を評価す
るのに用いられるツールの強化に特化し,それら製品のコンセプトから効率的に承認プロセスに
導くよう設計されている.
」
われわれには,特に市場のインセンティブが欠けているか予測不能な場合に,未解決な科学的
課題を解決し,新製品に対する効率的な規制の経路を造り出すために,これらの投資が必要であ
る.必要性の高い特定の分野が,二つ存在する: (1) 製品の有効性を評価するより良い方法の
開発,(2) 複数の,未知でさえある脅威への対処に,より機敏に,素早く用いることのできる新
技術を可能にすること―である.FDA が公衆衛生を守るのにレギュラトリーサイエンスを用いる
ことのできる幾つかの例を示す.
・製品の有効性を評価する新規アプローチ
治療法が開発される必要があったときに,脅威が稀であったか,あるいは存在しなかったため
に,新興再興感染症やテロリストの脅威に対して,ワクチンや治療法が働くかを試験することは,
常に可能であるとは限らない.しばしば動物実験が唯一の可能な選択肢であるが,しかし,良い
動物モデルがない疾患は多く,動物試験は技術的に実施が難しく,概してそのサイズが小さい.
したがって,より良い予測モデルの開発及びバリデーションに,レギュラトリーサイエンスが必
要である.
レギュラトリーサイエンスは,また,製品の有効性のサロゲートな(代理の)方法の同定・バリデ
ーションを支援することができる.例えば,血球凝集抑制血清抗体力価の FDA による定義及び受
入れは,新規インフルエンザワクチンの承認に必要な時間を何年も減らし,その結果,米国の承
認を受けたインフルエンザワクチン・メーカーの数と供給量を2倍に増やすのに役立った.なお,
抗体力価はインフエンザワクチンの有効性の予測を助けるものである.そのような有効性を予測
するバイオマーカー(例えば,血液検査の反応,他の測定や医療画像)は,ほとんどのテロリス
トの脅威,新興病原体,そして主要な地球規模の感染症に対して,いまだ発見できていない.新
規バイオマーカーの開発・改良・バリデーションの努力は,開発のコストを低減し,公衆衛生上
のアンメット・ニーズに対する安全で有効な製品の開発を改善し,迅速化できる.
・製品の開発と製造へのよりフレキシブルで,機動的なアプローチ
遺伝子配列に関する知識のおかげで,われわれは製造に病原体を用いることなく,より早く安
全に,DNA ワクチンや組換えワクチンなどの製品,あるいは,必要な治療法や診断検査を作り出
すことができる.
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この種のプラットフォーム技術を用いることにより,より早く生産をスケールアップする可能
性を提供できるかもしれない.例えば,幾つかの技術により,数か月ではなく数週間で,パンデ
ミックに対する新規インフルエンザワクチンの大規模生産が将来的に実現可能になるかもしれな
い.プラットフォーム技術は,また,幅広い製品範囲に適用可能であろう.例えば,同じウイル
ス様粒子,生ベクター,DNA ワクチンや組換えたん白質の発現システムが,インフルエンザ,ペ
スト,SARS や結核などの疾患から守るための異なる,特徴あるワクチンを速く,開発・生産す
る基礎として用いることができるだろう.一層強力な共通性が,ハイスループットの抗体・抗原
定量や核酸検出などの検出や診断に用いられる技術全般に適用される.
そのようなマルチユースの技術と製品を評価することは,製品の品質,効能,安全性と有効性
を測定するための新しい方法論を含むレギュラトリーサイエンスの進歩を必要とする.FDA のガ
イダンスやパートナーとの関わりは,製品が将来のものから現在のものへと移り変わることがで
きるのを確実にするのに極めて重要であろう.
• 向上した有効性と迅速無菌試験のバリデーション
近代化された,迅速な試験方法は,緊急時における救命製品のより迅速な配備を支援するのに
必要である.FDA は,新興感染症と他の自然の,または人為的脅威に対する国民の公衆衛生上の
準備を向上させるため,微生物または他の製品汚染物質を検出,同定,調査するための,迅速で,
精度の高い,ハイスループットの方法を開発,実施することに取り組まなければならない.
• 製品の安定性を改善する方法
レギュラトリーサイエンスは,製品の保存期間を延長する方法を見つけるため,あるいは多く
の薬とワクチンに求められる冷蔵保存の必要性を避けるために適用することができる.これらの
改善が,緊急時には非常に重要で,世界規模で病気と戦うための重要なコスト削減ツールになる
かもしれない.
• 限られたデータによる有効性を評価する新しい統計アプローチ
実験科学が進んだと同時に,生物統計学的アプローチは急速に発展している.より限られたデ
ータセットから信頼できる情報を提供する新たな方法は,新興の病気の発生時には大変重要であ
る.
•安全性と有効性に関する細胞培養モデリングとコンピュータ・モデリング
試験管,またはコンピュータ・モデリングを通して安全性又は有効性を予測する能力は,時間
と資源を節約し,より安全で,より的を絞った治療法をもたらす場合かもしれない.そして,ま
れな病気や,臨床試験を完了する十分な時間がないときには非常に重要である.
• ケアを行う場所 (point-of-care) での新しい診断法
ナノテクノロジーのような新しい技術の適用は,非常事に,ケアを行う場所で病気を検出,診
断する能力を強化するために必要である.これは,公衆衛生上の非常事態の際に直ちに薬剤耐性
を検出するテストの開発を可能にし,患者は必ず有効な治療を受けられることになる.
• 新しい投薬形態とデリバリー方法
緊急時には応答時間がすべてである.無針システムのような新製品の形態と投与法は,製品の
より素早い流通と使用のために必要で,また必要に応じて自己投与も許される.
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• 製品性能のリアルタイム評価
情報テクノロジー・ツール,先進の生物統計学的方法と健康データマイニングの適用は,非常
時に製品の有効性と安全性を評価するために必要である.2009 年の H1N1 ワクチン接種計画の
ために導入された先例のない安全性モニタリングシステムは,実施中のリアルタイム評価の一例
である.FDA は,血液供給に対する潜在的脅威である新興感染症のためのバイオインフォマティ
クス・データベースの開発に取り組まなければならない.
•リスク評価とコミュニケーションの強化
リスク評価とリスクコミュニケーションの科学の進歩は,明快かつ正確で国民に理解できる情
報を提供し,国民の信頼を高め,国民が賢明な判断を下し,自身の健康とそのコミュニティを守
る力を与えるために必要である.
IV. 情報科学 (Informatics) を通しての安全と健康の強化
FDA は,知られている中で最大の臨床データのレポジトリー(収納庫)を有している.それは承
認前後の,医薬品,生物製剤,医療機器の安全性,有効性及び性能に関するユニークで,高品質
のデータである.しかし,これらのデータが入手可能であるにもかかわらず,部分人口集団にお
ける反応と基本的なプラシーボ効果についての質問は,未解答のままである.FDA のデータは,
新しい治療法に様々に反応する患者サブセット,または,薬がほぼ安全である患者サブセットに
ついての基本的な問題に対処するのに用いることができるであろう.しかし,われわれには複数
の研究とデータの流れ全体に渡る,これらの大きなデータセットを体系化し,分析する適切なイ
ンフラ,ツールと資源が不足している.言い換えれば,情報で満たされた価値ある図書館はある
が,インデックス(索引)又は翻訳のためのツールがないのである.
FDA は,何を行ってきたのか?
FDA は試験データを電子的に受け取り,大量のデータセットの分析に資する環境を作り上げる
ために必要なインフラに投資してきた.複数の研究を比較,分析できる科学的なコンピュータ環
境をつくるためのこの努力は,データの間の比較が効果的にできるデータのハーモナイゼーショ
ンと標準化を必要とする.FDA は,電子カルテを支援するシステムを開発する国家努力の一部で
ある Health Information Technology(HIT)標準へのシステム提携を始めるために,これらの取
り組みに参加し,パイロット・プロジェクトを開始した.データと情報を蓄積している世界で,
FDA は疑いなく,膨大なデータの蓄積と毎日到着しているますます複雑化するデータを保管,分
析するためのシステムとアプローチの追求を続けている.以下に言及するように,標準化活動へ
の関与は,市販前後の製品を評価するための健康情報テクノロジーに専念する活動の一つである.
•臨床データ交換標準コンソーシアム(CDISC)
CDISC は 1997 年に,FDA,製薬会社,ベンダーの代表者を含む 25 人のグループとして始ま
った.これらのボランティアは,いかなるスポンサー又は組織へのバイアスを持たずに業界,ア
カデミアにわたってデータを収集,分析する能力を向上するために,臨床試験で使用する基準の
開発を支援するために協力した.これらの基準は,より良い,より効率的な安全性及び有効性デ
ータの分析と重要な新薬のより速い評価を可能にする.CDISC は,世界中から何百人もの参加者
を持つ非営利組織に発展し,FDA に安全性,臨床電子データを提出するために使われる標準申請
臨床試験データモデル(SDTM)を含む,多数のデータ製作標準を生み出した(2009 年 11 月に,
FDA は SDTM 3.1.2 バージョンでの申請を受け付けると発表した)
.
FDA は,レギュラトリーサイエンスへの更なる投資の増加で何ができるか?
FDA に格納されている巨大なデータは,統一のフォーマットに変換し,共有するデータベース
にまとめられるべきである.そうすることによりトピックごとにクエリーを行い,重要な問題に
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対処するために分析することができる.これらのゴールは情報科学のハードウェアとソフトウェ
アへの投資と,リレーショナル・データベースと科学コンピューティングの標準データ・モデル
の開発を必要とする.
共通のプラットフォームが整えば,科学者は既存の過去データと同様に,毎日 FDA に入ってく
る新しいデータを利用することができる.たとえば,どの薬がどの患者にいつ最も効果があるか
について分析するために HIV 薬の 15 の研究をすぐに調べることができるだろう.あるいは,数
年の代わりに数か月間の何百万もの医療記録から安全性情報を取り込むことにより,新たな,ま
たは稀な安全性リスクを検出することができるだろう.これらのタイプの分析は,一つの研究か
ら得た教訓を他の研究に応用することにより,審査を強化するだけでなく,病気と治療法につい
て非常に価値ある情報とともに,その成功または失敗を左右するメカニズムに対する先例のない
洞察をもたらす.これらの洞察は,FDA 及び生物医学と医療コミュニティ一般に恩恵をもたらし,
医師は FDA が規制する製品の最適使用について,より情報に基づいた決定をすることができる.
病気の自然経過と特定の治療介入の影響のより良い理解は,新製品の臨床開発と評価をより効
率的で速くし,患者に対してはよりコストとリスクを低くすべきである.多くの進歩が見込まれ
る領域がある:
• 医療データを使った安全性データのリアルタイム・モニタリング
われわれは患者のプライバシー保護を保証すると同時に, FDA が規制する製品の有害事象報
告と他の安全性情報の受領,処理,保管,分析のために電子システムを拡大,ハーモナイズする
必要がある.データベースは,外部のユーザーがデータを簡単に提出することができるポータル
を必要とし,FDA はデータを組織化,分析する(このシステムは最終的に,Sentinel System(開
発中.HMO や他の保健制度のような医療情報保有者からの電子データを用いた承認後の製品の
安全性モニタリングのための積極的監視情報を提供する)と通信できるようになる)
.それぞれ異
なる患者集団における治療法の安全性について,継続的に,正確でリアルタイムな情報を提供す
ることができるシステムを開発するために,メディケア・メディケイド・サービスセンター(CMS)
や国防総省のような機関と協力を続けるとともに,医療と他の関連した監視データを獲得する更
なる投資が必要である.これらの複雑で相互に接続したデータ・システムを支援し,迅速に解釈
できるスポンサー・データの電子的提出を促進するための電子データ基準の開発を促進するには,
われわれはインフラへの投資する必要がある.
• データマイニングと科学コンピューティング
新しいソフトウェア・ツールへの投資が必要であるように,臨床試験,医療現場や生物学的研
究からの複雑なデータマイニングを行うためには,最新技術とアプローチをまとめる共同プロジ
ェクトが必要である.これらのアプローチは,審査の品質と効率を高めるだけではなく,製品開
発を個別化医療に近づけることができる知見を FDA に提供する.科学コンピューティングの焦点
となる重要な領域には以下が含まれるが,これに限定されるものではない.
:
■
医薬品の安全性を確認,評価するために保健制度データベースにクエリーを行う,積極的市販
後安全性監視システムを開発,実行する.
■ PRISM
(承認後迅速予防接種安全性モニタリング:Post-Licensure Rapid Immunization Safety
Monitoring)システムを他のワクチンと生物製剤に拡大する.
■ 安全性シグナルのより良い検出と分析のために,先進の情報科学,モデリングとデータマイニ
ングを使用する.
■ 患者の安全性に対する脅威を同定,評価するリスク評価とリスクコミュニケーション戦略に,
コンピュータでシミュレーションされたモデリングを適用する.定量的リスク・ベネフィット
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■
■
■
■
評価の方法を開発する.
メタアナリシスのために必要とされる科学コンピューティングとリスク評価のためのコンピュ
ーター・モデルをサポートする IT インフラを強化する.
新製品の開発を容易にするために,臨床試験シミュレーション・モデリング,アダプティブ・
デザイン及びベイジアン臨床試験デザイン法を適用する.
ヒトゲノム科学を新しい診断法,治療学及びワクチンの分析,開発及び評価に適用する.
ゲノム研究に適切な統計分析を適用する.
アカデミア,業界及び他の政府機関とのパートナーシップは,課題の重要な部分である.これ
らの努力は,臨床試験デザインのための新しいパラダイムと FDA の規制するすべての製品の監視
と共に,患者の予後を高め,FDA を完全に 21 世紀へと導く.
V. 食料の供給を保護 <略>
VI. 安全性試験を最新化
1 世紀以上の間,毒性学は大きく動物実験に頼ってきた.しかし,そのような検査は経費と時
間がかかり,必ずしもヒトにおける反応と確実に相関する結果を提供するとは限らない.その結
果,動物愛護の面から,動物実験を支障なく減らすか,改良するか,代替する方法を開発しなけ
ればならない.これには,安全性と他の製品特性を予測する際に信頼できる方法の開発とバリデ
ーションを必要とする.生命科学とエンジニアリングの進歩は,毒性学評価の方法を劇的に変え
る可能性の到来を告げているが,これらの新技術はまだ十分に研究または検証されていない.今
日の投資は,毒性学と危険評価における革新的変化が結実するのを支援することができる.
FDA は,何を行ってきたか?
FDA における安全性評価を行う基盤の一つは国立毒性研究センター(NCTR)であり,ここで
は,規制決定のための科学的に健全な根拠をつくり,FDA が規制する製品に伴うリスクを軽減す
るための, FDA のミッションにとって非常に重要で,ピアレビューされたクリティカル・パス
研究を行う責任がある.その研究は,次のことを目的としている;潜在的に有毒な化学物質や微
生物の生物学的影響の評価 ;その毒性を支配する複雑なメカニズムを定めること
毒性の発現に伴い起きるキーとなる生物学的事象の理解 ;ヒトの暴露,感受性及びリスクの
評価を改善する方法の開発
下記の例で例示されるように,FDA の各センターもまた,新薬,生物製剤又は医療機器の安全
性を評価するための新しいツールや基準を開発する研究努力に従事している.
• 前臨床における毒性研究のための新しい腎臓バイオマーカー
残念なことに,新薬候補は,開発のための大きな投資を既に終えてしまった後の遅い時期にし
ばしば失敗する.ヒト試験が始まる前のできるだけ早い開発時期に,潜在的な安全性の問題を見
つけ出すことは大変重要である.最も一般的に見られる毒性の問題には,肝臓,腎臓又は心血管
系に起こるものがある.最近では,FDA は欧州医薬品庁(EMA)と共同で,アカデミアと産業
界のグループとともにコンソーシアムを形成する幾つかの共同作業を行ってきた.その目的は,
前臨床の動物モデルにおける医薬品による腎毒性を検出する新規バイオマーカーを同定し,使用
に耐えるかどうか確認することにある.最近,FDA と EMA は,もともとマイクロアレイを用い
て見つけられ,同定された幾つかのこれらバイオマーカーを認めた.これらのバイオマーカーは,
動物モデルにおいて腎毒性を検出する非侵襲性の手法を提供し,そして従来の試験より精度が高
く,特異性も高い.その上,これらのマーカーは,ヒト試験における腎毒性の効果的なモニタリ
ング・ツールになるかもしれない(予測安全性試験コンソーシアム http://www.c-path.org/pstc.
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cfm)
.
FDA は,レギュラトリーサイエンスへのさらなる投資の増加で何ができるのか?
初期のレギュラトリーサイエンスへの投資は,動物モデル及び非動物モデルを改善し,両者間
の情報をつなぐための新しい技術,具体的に言えば,よりリスクから保護するためのバイオマー
カーを増強するのに向けられるだろう.例えば,細胞培養の方法,ゲノミクス・マイクロアレイ
からのデータは,プロテオミクスやメタボロミクスからのデータと同様に拡大され,動物試験の
結果とヒト臨床試験の経験の関連付けが行われるべきである.最終的には,予測マーカーにより,
曝露実験を代替するか改善することであろう.大きなデータセットの解析に対する投資は,化学
物質の各々のクラスがどのように毒性を引き起こすかを理解するための価値ある情報を与えてく
れるだろう.これらのアプローチでは,FDA の科学者がこれらのアプローチからのデータを用い,
解釈するのを可能にする新しい機器,プラットフォーム,データベース及びトレーニングが必要
である.アカデミア,産業界及び姉妹政府機関との協力は,非常に重要である.
レギュラトリーサイエンスを推進するもう一つの重要な関連分野は,毒性学の in vitro システ
ム,そして将来的にはコンピュータ・ベースのモデリング・システムの使用を増やすことである.
細胞株,遺伝子操作されたモデル組織及び他の細胞培養アプローチの開発は,曝露に続いてヒト
細胞においてもたらされる基礎的なメカニズムをよく理解するために決定的に重要なだけでなく,
現行のアプローチをより効率的でコスト効率のよい毒性試験で置き換えるのに,重要である.
ナノテクノロジーのような新しく,複雑なテクノロジーの利用が増えるにつれて,また,これ
らの物質の潜在的な毒性をよりよく評価,理解,そして予測するための新しいアプローチや手法
の必要性を創り出している.食品から医薬品にわたる,すべての FDA 規制下の製品に関して,わ
れわれはリスクとベネフィット双方を評価し,効果的に情報交換するための手法やモデルを改善
しなければならない.健全な規制上の意思決定を支援し,消費者に力を与え,そして —何よりも
— 公衆衛生を保護するために.
VII. タバコ規制の課題に対応
<略>
共同実施フレームワーク
FDA は,その内部及び全国でレギュラトリーサイエンスを推進させ,国民にその利益をもたら
す全国的な努力をリードするための4パートの戦略的なフレームワークを概説してきた.
• 科学とイノベーションを支援するリーダーシップ,調整,戦略的な計画と透明性
• FDA における,および,共同して行う非常に重要な応用研究に対する支援
• 科学的卓越性,専門的能力の開発と学習する組織に対する支援
• きわめて優れた科学者の採用と確保
計画の各パートは,FDA の科学的能力を強化し,政府,産業界及び学界のパートナーとの協力
を推進する活動を含む.究極的には,この計画は世界的にレギュラトリーサイエンスを強化し,
食品と医薬品医療機器の製品開発と安全性について新しくて何より創造的なアプローチを推進す
るために組織的で,明確な努力として結実すべきである.
I. 科学とイノベーションを支援するリーダーシップ,調整,戦略的な計画と透明性
首席科学官オフィスは,重要なレギュラトリーサイエンスとイノベーションのニーズを明らか
にし,内部及び外部のアウトリーチを調整し,FDA における科学のための戦略的計画を作成する
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であろう.首席科学官オフィス内では,科学及びイノベーション・オフィスが,戦略計画を作成
し,われわれの投資の成果を追跡し,センター横断的な科学的協力を組織し,外部とのパートナ
ーシップをモニターするであろう.
鍵となる情報は,以下によって提供されるだろう:
• 科学イノベーション戦略諮問協議会
内部的に FDA は,首席科学官及び長官オフィス,各センター及び ORA(規制執行オフィス)
の主要な上級指導部からなる幹部級の諮問協議会を設けた.本協議会は,尐なくとも年 2 回開催
し,各センターからの主要な科学的プライオリティーを同定し,それらを伝え,FDA のための重
要な横断的科学的プライオリティーを設定することを助け,それを討議し,主要なプログラムと
パートナーシップを提案し,評価する.この情報は,戦略的科学計画を進める助けとなる.
• FDA 科学委員会
FDA 科学委員会は,FDA の科学プログラム及び FDA,産業界及び学界内における複雑な科学
技術に関する課題について,長官,首席科学官及びセンターに対して助言を与えるために既に存
在している.科学委員会は,科学イノベーション戦略諮問協議会及び首席科学官によって提案さ
れる科学戦略計画及びレギュラトリーサイエンスのプライオリティーを定期的にレビューし,そ
の結果を知らせるよう要請されるであろう.
II. FDA とにおける,および,共同して行う非常に重要な応用研究に対する支援
FDA 内部の支援は,レギュラトリーサイエンスの分野を拡大する上できわめて重大である.
FDA の審査プロセスに直結する活発な研究プログラムは,FDA における審査,製品開発及び評
価に,必要とされるレギュラトリーサイエンスの進歩を直接もたらすだけでなく,ガイダンスや
政策の策定に価値を加えるであろう.
そのうえ,レギュラトリーサイエンスの分野は,パートナーシップと外部の研究及び協力の支
援によって作り上げられる必要がある.現行の FDA プログラムを強化し,拡大する機会,及びレ
ギュラトリーサイエンスを推進する効果的でより強固な外部及び共同の努力を支援する新しいプ
ログラムを開発する機会は十分にある.以下のように,既に進行中のプログラムもある:
・FDA と NIH によって最近設けられた合同リーダーシップ協議会 その目的は,強化された科
学的共同作業と,共同で支援し,管理するレギュラトリーサイエンスに関する外部研究助成金を
通じてのレギュラトリーサイエンスの大いなる推進である.
・アカデミアにおけるレギュラトリーサイエンスの卓越した研究拠点の設置と支援 その目的は,
独立にまたは FDA と共同して応用レギュラトリーサイエンス研究を実施すること及び FDA とア
カデミックの科学者双方のための科学的なやり取りとトレーニングの機会の中心となることであ
る.
• レギュラトリーサイエンスとイノベーションを推進する新規プログラを作るための他の
政府機関との強化された戦略的協力及び調整
・クリティカルパス・イニシアチブへの強化された支援とフォーカスは,医薬品医療機器の開発
と評価プロセスのイノベーションと現代化を通して,レギュラトリーサイエンスと公衆衛生を推
進するパートナーシップとコンソーシアムに触媒作用を及ぼし,それを可能にする.
・レギュラトリーサイエンスを支援するプロジェクトに関するレーガン-ユダール財団との提携
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III. 科学的卓越性,専門的能力の開発と学習する組織
FDA は,科学的な継続的学習と科学スタッフの専門的能力の開発の文化と能力を支援する.
FDA は,いくつかのアプローチを探求する:
・FDA スタッフのための最先端の継続教育と専門的能力の開発へのアクセス(たとえば大学や政
府機関を通して)と同時にこれらの活動を支持する方針と資源
・学術機関および政府機関との,および,国際的な規制機関との科学的交流プログラム
IV. きわめて優秀な科学者の採用と確保
FDA は,その研究所から審査チームに関わっている傑出した科学的要員を採用し,確保するよ
う努力する.そして,そのことは新しく,現れつつある技術に追いつこうとするものである.長
官の奨学金プログラムは,科学,イノベーション及び審査の重要な領域において,有望な若い科
学者を引きつけ,訓練し,採用し始めており,FDA の環境を豊かにしてきた.FDA は他のアプ
ローチを考慮していく:
・有望で新しく独立した新たな技術分野の専門家である科学者を採用し,FDA 全体に渡って研究
者,審査官になるのを支援するプログラム
・功労賞の提案.それは,最も優れ生産的な FDA の科学者が,FDA で仕事を続けることを支援
するために,競争的に授与される.
・FDA 専門医師プログラムの提案.大学等の教員と FDA ポストをパートタイムで兼ね,特に現
れつつある技術分野において,最先端の患者ケアに関する専門知識と,審査において改善され
た視点の双方から利益を得ることを支援する.完全に利害関係を審査された参加者は,審査と
政策活動において FDA の常勤職員とともに働く.
これらの 4 つのアプローチに対する支援は,イノベーションの期待を実現するために要求され
るツールと知識を提供することを助けるレギュラトリーサイエンスの分野を作り,推進する.こ
れらの努力は,われわれが,基礎科学の発見と,患者を助け,健康と安全を保護し,われわれの
医薬品と食品の安全性を強化し,革新的で効果的な医療と公衆衛生を支援する安全で効果的な製
品との隙間を埋める助けとなるであろう.
(翻訳 医薬品医療機器レギュラトリーサイエンス財団)
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