「授業改善」 [PDFファイル: 305.5KB]

授業改善研究【2年研究の1年目】
「児童・生徒の『つまずき』に対応するための授業改善にむけて」
新倉 哲 ・ 山本 智代 ・ 池 祐樹 ・ 金井 琢磨
児童・生徒の学習における「つまずき」の背景や要因について探求し、児童・生徒の「つま
ずき」を「生まない」及び「克服する」授業改善についての提案をまとめ、教員向けの『授
業改善リーフレット』を作成する。
はじめに
今年度は、2年研究の1年目として、
これからの時代に求められる学力やそれ
を育成するための授業づくりの考え方等
について、
まず、
研究員の知識を深めた。
その上で、さまざまな角度から児童・
生徒の「つまずき」の背景や要因につい
て探求し、実際の授業における「つまず
き」の場面や全国学力・学習状況調査結
果の傾向を整理した。
研究にあたり、横浜国立大学教育人間
科学部附属教育デザインセンター主任研
究員 三浦修一先生にご指導いただいた。
研究の内容
1 研究の基本方針
(1)「つまずき」の分析と探求
児童・生徒の学習における
「つまずき」
のさまざまな背景や要因を探求し、
「つ
まずき」を定義する。
全国学力・学習状況調査結果の分析か
らわかる国語及び算数・数学における具
体的な「つまずき」について、背景や要
因、実際の授業場面との関連性について
探求する。
(2) 授業改善リーフレットの作成
児童・生徒の「つまずき」を「生まない」
及び「克服する」ための授業改善につい
ての提案をまとめ、
『授業改善リーフレッ
ト』を作成し、平成29年4月に市内小
中学校教職員へ配布する。
2 研究経過
(1)学校で育てたい学力
学習指導要領の改訂を視野に、求めら
れる学力、授業改善や授業づくりの視点
などについて学んだ。
これまでの知識を再現するだけの学力
ではなく、教科を超えたリテラシー能力
(問題解決力)の必要性、また、それを
育む授業においては、アクティブラーニ
ング、言語活動の充実や見通しと振り返
り、学習評価などが学力を支える大切な
ツールとなること等を確認した。
(2)他市他校の授業参観
良い授業を観ることが、今後の授業づ
くりを研究するために必要と考え、研究
員が他市他校の授業参観に出向いた。
6 月 12 日
6 月 22 日
10 月 9 日
1 月 28 日
2 月 15 日
愛川町立愛川東中学校
寒川町立小谷小学校
寒川町立小谷小学校
愛川町立愛川東中学校
早園小学校
(3)
「つまずき」の背景・要因の分析
さまざまな角度から、児童・生徒の「つ
まずき」を生み出す背景や要因について
探求した。また、研究員自身の日々の授
業の中で、児童・生徒の「つまずき」の瞬
間や場面を捉え、
それを整理・分析を進め
た。
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3 研究の概要
(1)学校で育てたい学力の捉え
21世紀は「知識基盤社会」の時代と
いわれ、
このような時代が求める学力に、
経済協力開発機構(OECD)が提起し
た「主要能力(キー・コンピテンシー)
」
がある。
キー・コンピテンシーには、①社会・
文化的、技術的ツールを相互作用的に活
用する能力(個人と社会との相互関係)
②多様な社会グループにおける人間関係
形成能力(自己と他者との相互関係)③
自律的に行動する能力(個人の自立性と
主体性)がある。学習指導要領に示され
ている学力と共に、この「キー・コンピ
テンシー」が、これからの知識基盤社会
に必要な学力・能力であり、これをどの
ように学校教育において育成するかが、
重要な課題となっている。
この課題のために、主体的・能動的で
双方向性のある、自律的かつ双方向的な
学びであるアクティブ・ラーニングの中
で、メタ認知の意識を基盤とした学習に
取り組む必要がある。この学習の実現の
ためには、
「学習の見通しを立てたり学習
したことを振り返ったりする活動」や、
自分の思考・判断したことを、他者とコ
ミュニケーションを図る「言語活動の充
実」が求められる。アクティブ・ラーニ
ングの充実を図ることで、
「知識の習得の
みならず、思考力・判断力・表現力等や、
主体性を持って多様な人々と協働する態
度」や「学習の見通しを立て、主体的・
協働的に課題の発見・解決に取り組み、
学習したことを振り返る
(メタ認知する)
力」などが養われる。
また、
これからの授業づくりにむけて、
育成すべき資質・能力を以下のような三
つの柱で整理することが考えられる。
①「何を知っているか、何ができるか(個
別の知識・技能)
」基礎的・基本的な知識・
技能を着実に獲得しながら、既存の知
識・技能と関連付けたり組み合わせたり
していくことにより、知識・技能の定着
を図るとともに、社会の様々な場面で活
用できる体系化された知識・技能として
身に付けていくこと。
②「知っていること、できることをどう
使うか(思考力・判断力・表現力等)
」問
題を発見し、その問題を定義し解決の方
向性を決定し、解決方法を探して計画を
立て、結果を予測しながら実行し、プロ
セスを振り返ること(問題発見・解決)
や、情報を他者と共有しながら、対話や
議論を通じて互いの考え方の共通点や相
違点を理解し、相手の考えに共感したり
多様な考えを統合したりして、協力しな
がら問題を解決していくこと(協働的問
題解決)のために必要な思考力・判断力・
表現力等。
③「どのように社会・世界と関わり、よ
りよい人生を送るか(学びに向かう力、
人間性等)
」上記の①②の資質・能力を、
どのような方向性で働かせていくかを決
定付ける重要な要素であり、主体的に学
習に取り組む態度も含めた学びに向かう
力や、自己の感情や行動を統制する能力
など、いわゆる「メタ認知」に関するも
のや、多様性を尊重する態度と互いのよ
さを生かして協働する力、リーダーシッ
プやチームワーク、感性、優しさや思い
やりなど、
人間性等に関するものがある。
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(2)他市他校の授業参観・研究協議か
ら学んだこと
<愛川町立愛川東中学校>
社会の授業では、教師は必要最低限の
指示を与え、後は生徒が事前に調べてき
た語句と教科書を参考にして、日清戦争
の背景や結果について4人グループでマ
ッピングを作成するということを行って
いた。大半の時間がマッピングを作成す
る時間に当てられ、生徒達の教科書の語
句を用いて積極的に意見交換をしながら
マッピングを作成する姿が印象的であっ
た。教師は机間指導を行いながら生徒達
に助言し、流れを修正するときには全体
の作業を止めて簡潔に指示していた。授
業を作るのは生徒達であるということを
改めて学ばせてくれる授業であった。
また、校内研究として教員が行ってい
ることを生徒達にも知ってもらう努力を
し、全校や地域も巻き込んで研究を行っ
ている点が印象的であった。
具体的には、
生徒達が校内研究の受付をしていたり、
授業を参観していたり、研究授業後に生
徒インタビューを行ったりと生徒も研究
会に参加していた。また、教員が校内研
究でグループ毎に協議した内容の紙を廊
下に掲示したり、研究授業を保護者も参
観できたり、積極的に研究の内容を公開
していた。
こういった多くの目に見てもらうこと
によって、教員の意識も高まり、充実し
た研究ができると考える。実際、参加さ
せていただいた校内研究では、班での協
議の際、授業に対する活発な議論がどの
班でもなされていた。
授業自体もさることながら、研究に対
する取り組みという点でも学ぶべきこと
があった。
児童主体で進行する。課題に対して困っ
たことの発表や解き方の説明、他者の発
言の補足をするなど、児童一人ひとりの
意見をつないでいた。
<早園小学校>
言語活動に関わる段階表を、
全教室
(特
別教室も含む)に掲示して活用すること
で、校内で共通意識をもって指導にあた
ることができていた。学習指導案では、
教材観・児童観・本時案などを簡略化し、
評価規準と単元の計画に重点を置いてい
た。そうすることで、単元全体で子ども
に身につけさせたい力は何か、また、単
元のどこで何を身につけさせたいのかを
明確にしていた。
<寒川町立小谷小学校>
「聴いて・考えて・つなぐ」ことを目
的として、「聴く」と「話す」の2点に
ついて段階表を作成している。児童向け
にも共通の掲示物を各教室に掲示し、教
員の共通理解のもと指導が行われている。
授業では教員は活動の指示のみ行い、
(3)つまずきの背景・要因の分析
まず、本研究会における「つまずき」
を、学習の過程において、何らかの要因
により、学習内容が十分理解できないで
いる、あるいは、誤った理解のままでい
る状態が、ある程度の時間、継続してい
ることと定義する。
児童・生徒の学習の過程における
「つま
ずき」には、さまざまな要因が考えられ
る。
例えば、児童・生徒をとりまく生活や
家庭、学習の環境、人間関係や興味関心
などといった心理的背景もつまずきの要
因として考えられる。
学習習慣の未定着、
学校や家庭における学習環境の乱れ、人
間関係のトラブルなどによる学習意欲の
低下、知的障がいや学習症(LD)
・自閉
スペクトラム症(ASD)
・注意欠陥他動
症(ADHD)などの発達障がいもあげ
らる。さらに、学習事項の未定着も要因
の一つと考えられる。
基礎的・基本的な学
力、また、それらを活用(応用)する体
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験不足などによる既習事項の未定着も
「つまずき」の大きな要因といえる。
りをさせることが、つまずきの防止や早
期発見にも繋がると考える。
(新倉)
(4)全国学力状況調査の結果分析
小・中学校共に、国語では、「漢字を
正しく書くこと」に依然とした課題があ
る。また、「内容を整理しながら記事を
書くこと(小学校)」や「伝えたい事実
を明確に書くこと(中学校)」にも課題
があった。また、小学校算数では、「B
問題」が課題となっている。例えば、
「割
合」「図形」などで、理由を説明するこ
とにつまずきが見られる。また、中学校
数学では、「A問題」、主に中学1年生
で学習する内容でつまずきが多く見られ
た。学習後、期間があいてしまい忘れて
しまうということが原因の1つと考えら
れる。また、「B問題」では、無回答率
も高い。考えることを面倒に感じたり、
諦めてしまったりしているところがある
と考えられる。
・授業するにあたって、教師が、教材に
ついて深く理解し、児童に考えさせる発
問をしなければならない。しかし、児童
が考えたいと思えるような課題の提示を
することができなかったように感じる。
児童がつまずく原因として、まず教師の
教材研究不足を反省したい。児童自身に
よるつまずきの原因は、「学んだことを
活用して、問題を解くこと」「読み取っ
た問題を具体的にイメージすること」を
苦手としている、ということであると感
じた。問題に対して、一つ一つ順を追っ
て解かせ、考えさせる学びを取り入れて
いきたい。(山本)
(5)研究員の授業実践
・算数ブロックやおはじきなどの半具体
物の操作をして考えることから、さらに
抽象的な表現となる●を用いた図で考え
ることでつまずいていた。また、問題文
中の数字と●を用いた図で表現すること
で出てきた数字を混同して使い、誤った
立式をしてしまうミスが多く見られた。
このように、具体的操作から抽象的な表
現に変わることで理解が難しくなり、つ
まずく原因となっていた。
この現状から、
児童の個々の実態に合わせて支援の手段
や仕方を常に考えておくことや、子ども
同士での学び合いや説明し合う学習を積
極的に取り入れ、つまずかない、または
つまずきをなくす授業を展開していく必
要がある。また、
「児童用の単元計画表」
を作成し、一人ひとりに見通しと振り返
・一方的な教授では、児童・生徒の意欲
は高まらない。生徒の集中力が高まると
きは、自力で解決しようとするときであ
る。疑問点・不明点は生徒間で自然と話
し合いが発生し、試行錯誤を重ねる。課
題を解決した際には達成感が得られ、解
決できなくても他者の発表を聞くと納得
できる。このような授業を作るために、
適切な難易度の課題設定と、予想される
児童・生徒の反応に対する支援策を考え
ることが課題であると考える。(金井)
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・国語の場合、明確な答えが存在しない
場合がある。そのためか、生徒が自分の
考えなどを書き、それを他の生徒と交流
しても、他の人の考えや意見を聞き、自
身の見方や考え方を広げたり深めたり、
あるいは修正したりするという段階まで
中々行きつくことができない。単元の初
めに授業の流れや評価基準を明確に生徒
に提示しておくことで、生徒達が目的意
識をもってその単元に取り組むことがで
きる状態を整え、自身の考え方と他の人
の考え方のどういった点が異なるのか等、
具体的な視点や課題を設定して取り組ま
せていきたい。(池)
成果と課題
を整理・分析すること。
・その中で学校(教師)が授業を通して
解決・改善するために取り組めることを、
自身の授業を省みながら探求すること。
・授業改善の提案を「授業改善リーフレ
ット」にまとめ、市内教職員に発信する
こと。
1 成 果
1年間の研究を通し、以下の4点につ
いて、理解を深めることができた。
・育成すべき資質・能力の三つの柱を教育
課程にバランスよくふくませながら、各
教科等の文脈の中で身に付けていく力と、
教科横断的に身に付けていく力とを相互
に関連付けながら育成していき、
「チーム
学校」として、校内研究の充実を図りな
がら実現させていく必要があること。
・充実し、開かれた校内研究により、教
員の意識が高まり、より良い授業実践に
つながること。
・
「つまずき」の背景・要因は多種多様で
あり、それらが複雑に絡み合って、児童・
生徒の「つまずき」を生んでいること。
また、それらの中には、授業により改善
や克服できるものが多々あること。
・今後は、教え込みの授業から、話し合
い、考える授業へと転換していく必要が
ある。そのために、教師がアクティブ・
ラーニングを取り入れる目的を明確にし、
見通しと振り返りを大切にした授業に取
り組んでいく必要があること。
2 課 題
・児童・生徒の「つまずき」を解決・改善
するために、
考えられる様々な背景・要因
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