(平成 20 年度(第 7 回)助成団体の活動概況報告⑥】 自然の風を導くための窓など空間の取り方の調査研究(一部抜粋) 環境グループ 「ワラの家」 「竪の風が吹く家」 ○どんな家 「竪の風」といわれて、ピンときますか?普通風は窓から入ってきてリビングを通り抜け、向か いの窓から出ていく。つまり風は横に吹くものというのが一般常識である。しかし三重県にある 呼吸大学の建物は竪の風が吹いているというので、調査することにした。施主の説明ではこの家 は 500 年間腐ることなく建っていた民家を模倣したものだということだ。 風が通り抜けるには必ず入口と出口が必要である。竪の風の出入り口は窓から窓ではなく、床下 から瓦屋根である。確かに竪方向だが、頭を抱えますね。床はどうなっているのか? この建物は木造 2 階建てで造りかたは従来の木造家屋の軸組み工法だが、床仕上げはマダケの丸 竹を使っていて、その隙間を風が通り抜ける。床下は通常はコンクリートで基礎を打つが、この 建物は基礎におおきな窓が開いていて、床下に外気が自由に入ってこれる構造になっている。ま た天井はなく屋根は瓦敷きだが、瓦の下の土の盛り方に工夫があり、瓦と瓦の間にかなりの隙間 がある。下から見上げると、隙間から差し込む光がまぶしいくらいだ。屋根裏の温められた空気 はその隙間から出て行き、竪の風が起こるというわけだ。もちろん雨漏りはしない。 ○測定方法 建物に温湿度計をセットして、竪の風による涼がどれほどの効果があるかを客観的に調べること にした。1 回目の実験では外壁と屋根の仕上げが同じ土の壁と瓦でできており、同じ規模の従来 木造軸組み工法で建てられ家屋と比較する。2 回目の実験では横の風の影響をシャットダウンし て、竪の風だけでどれだけ室内の温度が違うかを観測する。 ○測定結果 最初の実験ではデーター的には 2~5℃の温度低下がみられた。動力を何も使わずこれだけの効果 は大きなものだ。この客観的な効果は建物の構造に起因しているが、生活スタイルの影響も見逃 せない。 この建物は和室を区切っている襖を全て取っ払い、その上ほとんど家具がないので窓から入って きた風は通りやすくなっている。家具がなければ室内に太陽が当たっても、蓄熱体がないという ことになり熱くなりにくい。また朝から晩まで窓を開けっぱなしにしているので、外気以上の温 度にならない。 昔の人はこんな生活スタイルが一般的だったので、今のようにクーラーがなくても十分快適に暮 らせたのだと思う。 竪の風には床下に敷いた特殊な土が大きな役割をしていると、設計者は話していた。土の科学的 根拠はわかりかねたが、確かに屋外から床下に入ってきた空気がそこで2~5 度下がっている。 理由はいろいろ考えられるが、確かなことはこの実験ではわからない。 客観的データーより心情的感覚では、実際体験してみて 8℃くらいの効果があったと思う。まず 床や天井仕上げが竹でできているので見た目も涼しく、歩いても竹の冷たさは気持ちいい。寝転 がると天国の気分になる。それから、何もない部屋の開放感は涼しさを感じさせる。味のある土 壁もくつろげる。四六時中吹く風は湿気を多く含んでいるがなんともさわやか、このトータルバ ランスは日本人の涼に対する感性の豊かさを感じさせた。 「地熱を利用した建築物における地熱効果の調査」 ○どんな家 地熱の利用した家なので風は関係ないと思いましたが、地熱を利用するための空気の移動に自然 の風を使うということで、測定することにした。 地下に床面積より一回り小さい平面積で 1mくらいの穴を掘り、地下空間をつくる。その地下空 間にブロック塀で間仕切をして、風が蛇行する地下の風の道を作りる。外気取入れ口から入って きた空気は 40m~80mの地下トンネルを蛇行しているうちに、年中一定温度である地下温度に近 づく。地下の温度はその土地の平均温度であるいので夏涼しく、冬暖かい空気が地下の風の道を 通って集会所の 1 階のフロアーに入ってくる仕組みになっている。この空気の移動に普通なら送 風機を使うところだが、この建物では動力は補助どして、基本的には屋根の上につけられた巾 60 センチ角、高さ 20mもある換気塔を使っている。十分に暖められた屋根裏の空気は上に上がろう として換気塔に入る。さらに換気塔の煙突効果がその空気の移動にスピードを加え、室内の空気 は排出される。空気が排出されれば負圧になるため、自動的に地下から空気が入ってくる換気シ ステムである。 ○測定方法 集会場に温湿度計、風速計を計 11 箇所設置して、地下の地熱の効果、煙突効果のスピードなど を測定する。換気塔の煙突効果は熱い空気が流れる夏だけしか使われないが、地熱は年中効果が あるというので、夏、秋、冬の 3 シーズン観測することにした。 換気塔の自然換気だけを使ったときの効果と、送風機の動力を使ったときの効果を調べる。 ○測定結果 地下の温度は約 10℃ほど外気より低くなっていた。室内に比べたら 15 度以上の差がある。しか し湿度は 100%と高くなっていた。 煙突効果は、煙突を流れる空気の最高風速 1.3m/s、平均風速 0.5m/sと早いスピードで空気 がどんどん換気されていた。しかし、建物自体の容量が大きく、その上ガラス張りの建物は夏は 40 度を越える猛暑となるため、計算では 10 回以上室内の空気全体を入れ替えていることになる が、それでも 1~2℃くらいしか下がっていない。送風機の動力を使って地下の空気を動かすと、 換気量が多いため全体で 5℃ほど下がった。 秋、冬は地下の温度は外気に比べ 10℃ほど高いが、このときはすでにこの建物が使用されていて、 中で職員の方が働いているため必要な実験がなかなかできない。その上地下の湿度が相変わらず 100%と高くヘタをすると結露の原因となりデーター取りはしたが、良い考察を得ることはでき なかった。 「無風の家にサーキュレーターを使って、部屋中に風を回す」 ○調査にいたる背景 都会では窓があっても、敷地が狭くて隣家が迫っているので、風の入らない家は多い。またマン ションなど、細長い間取りでは、窓際では風が吹いていても中まで風は入らず通り抜けない。だ から、少し暑くなるとすぐに冷房をつけてしまう。冷房をつければ電気を使い CO2 を排出するだ けでなく、外部に熱気を送るので気温が上がり、各家庭はさらに冷房をきつくする。という悪循 環になる。 そこで、サーキュレーターを使って、自然の風に近い風を室内全体に送り、涼を感じてもらうこ とで、冷房をつけない生活を提案できればと思う。電気代は冷房の 1/10 で、且屋外に熱気をだ さない。 ○測定方法 窓を閉め切った 15 帖ほどの和室の隅にサーキュレーター3 台、内、小型 2 台、中型 1 台を置き、 壁や襖、天井に風を反射させて、室内に適当に座っている約 30 名の人全員に風を送る。 ○測定結果 最初に一般の参加者にサーキュレーターをセットしてもらったが、何度やってもうまくいかない。 そこで「ワラの家」のメンバーがセットしなおして約 30 人全員が、ランダムな風を感じること ができた。 サーキュレーターは効果的に涼をとるマシンであるが、そのセットは経験を積んだものでないと なかなか難しいということがわかった。
© Copyright 2024 Paperzz