Embargoed Advance Information from Science The Weekly Journal of the American Association for the Advancement of Science http://www.aaas.org/ 問合せ先:Natasha Pinol +1-202-326-6440 [email protected] Science 2013 年 6 月 28 日号ハイライト 地震からの回復過程を詳しく観察する 黒サビ病との闘いにおける遺伝的ツール 前人未踏の領域に入るボイジャー1 号 気温上昇が微生物と土壌の運命を左右する 地震からの回復過程を詳しく観察する A Sensitive Look at the Earthquake Healing Process 中国の四川大地震を引き起こした断層の地下水の動きを直接計測することで、断層帯が「回 復」する仕組みの解明に新たな手掛かりが得られた。地震が発生している間、断層帯の岩盤 は激しい揺れで破砕し、岩盤の透水性は上昇する。透水性によって断層には圧力と応力がか かり、それが断層の回復に要する時間に影響する。断層の回復に関わる最大の要因をより詳 しく把握するには大地震直後の断層の地下水の動きを継続的に測定する必要があるが、今ま でのところ、そのようなデータの記録はなかった。Lian Xue らは断層帯の透水性と回復の関 係をより詳しく知るために、2008 年に起きたこの 50 年で中国最大級の四川大地震(M 7.9) を引き起こした断層から一年以上にわたってデータを収集した。彼らは四川大地震直後に掘 った深い掘削孔の地下水の振動(海水面の震動によって引き起こされるもの)の測定値を記 録した。高度な装置を用いて、18 ヵ月間、これらの振動を 2 分ごとに計測し、その結果得 られたデータから、計測期間の大半において断層帯の透水性は岩盤の割れが閉じるとともに 急速に低下したと推測した。しかし、透水性の突然の上昇によって回復は中断し、それは遠 く離れた場所の地震による撹乱が関係していることが分析によって判明した。断層帯の透水 性と回復の関係を理解することは、四川大地震で破壊された断層帯において特に重要であっ た。それは、この断層帯は回復に通常より長い時間を要することが示されてはいたが、その 原因となる撹乱要因がなかったためである。Xue らの研究では、継続的な観測によってこれ まで使用されてきた方法より正確に地震からの回復速度を推測でき、これまでの研究では捉 えられなかった地震後の重要な期間の透水性の変化を把握することができた。また、今後起 きる地震に対する断層帯の反応を推測するためのベースも示された。 Article #13: "Continuous Permeability Measurements Record Healing Inside the Wenchuan Earthquake Fault Zone," by L. Xue; E.E. Brodsky at University of California, Santa Cruz in Santa Cruz, CA; L. Xue; H.-B. Li; Z.-Q. Xu; H. Wang; J.-L. Si; W. Zhang; G. Yang; J.-L. Pei; Z.-M. Sun at Chinese Academy of Geological Sciences in Beijing, China; Y. Kano; J.J. Mori at Kyoto University in Kyoto, Japan; W. Zhang at Shandong Provincial Lunan Geo-engineering Exploration Institute in Yanzhou, China; Y. Huang at No. 6 Brigade of Jiangsu Geology and Mineral Resources Bureau in Lianyungang, China. 黒サビ病との闘いにおける遺伝的ツール Genetic Tools in the Battle Against Stem Rust 2 件の遺伝子に関する発見で、黒サビ病との闘いに希望がもたらされた。黒サビ病は、国際 社会にカロリーの 20%を供給している主要作物である小麦を殺してしまう破壊的な真菌疾患 である。20 世紀半ばに開発された一連の黒サビ耐性小麦品種のおかげで、黒サビ病は長い 間食い止められている。しかし現在、新しい伝染力の強い品種(これが蔓延すると世界的な 食料の安全保障を脅かす可能性がある)が現れており、科学者は、絶え間なく進化する脅威 に耐性を示す新しい小麦株の開発研究を促されている。このような脅威の 1 つである、これ までにアフリカ、イエメン、イランで検出されている Ug99 と呼ばれる真菌は、広く使用さ れている黒サビ病耐性遺伝子のほとんどに打ち勝つため、世界的な小麦の伝染病に関する懸 念が生じている。Science 今週号では、2 報の関連論文(双方とも Ug99 と闘うための世界的 な試みの一部である)で、これまでに同定されている 2 つの黒サビ病耐性遺伝子の更なる評 価が行われた。あまり耕作されていないがパンやパスタの小麦と近縁種である祖先小麦種の 遺伝子断片をクローニングし、クローニングした物質を現代の小麦の品種に挿入することで、 Cyrille Saintenac らは、遺伝子 Sr35 が Ug99 に対する免疫を付与することを明らかにした。こ の遺伝子を持つ小麦は、黒サビ病に感受性を示さなかった。Sambasivam Periyannan らは、同 様の研究を行い、遺伝子 Sr33 が新しい致命的な真菌疾患に対する耐性を付与することを明 らかにした。しかし、有効性は Sr35 よりも低かった。遺伝子 Sr33 はさまざまな Ug99 の類 縁株に対する耐性も付与した。双方の研究で、単離された遺伝子は、他の疾患耐性遺伝子に 典型的な特徴を示すタンパク質をコードしていた。絶え間なく進化する黒サビ病の脅威に対 する永続的な耐性は、耐性遺伝子を組み合わせることで強化できる可能性がある。研究者が、 Sr33 と Sr35 を両方発現するよう小麦品種を操作するのに必要なこの生命工学を利用すれば、 Ug99 の進行ペースを遅くし、世界的な小麦不足を避けることができるだろう。 Article #25: "Identification of Wheat Gene Sr35 That Confers Resistance to Ug99 Stem Rust Race Group," by C. Saintenac; A. Salcedo; H.N. Trick; E. Akhunov at Kansas State University in Manhattan, KS; W. Zhang; J. Dubcovsky at University of California, Davis in Davis, CA; M.N. Rouse at USDA-ARS Cereal Disease Laboratory in St. Paul, MN; J. Dubcovsky at Howard Hughes Medical Institute in Chevy Chase, MD. Article #26: "The Gene Sr33, an Ortholog of Barley Mla Genes, Encodes Resistance to Wheat Stem Rust Race Ug99," by S. Periyannan; J. Moore; M. Ayliffe; R. Mago; P. Dobbs; E. Lagudah at CSIRO Plant Industry in Canberra, ACT, Australia; U. Bansal; H. Bariana; R. McIntosh at The University of Sydney in Narellan, NSW, Australia; K. Deal; M. Luo; J. Dvorak at University of California, Davis in Davis, CA; X. Wang; L. Huang at Montana State University in Bozeman, MT; X. Kong at Chinese Academy of Agricultural Sciences in Beijing, China; X. Wang at Northwest A&F University in Yangling, China. 前人未踏の領域に入るボイジャー1 号 Voyager 1 Crossed Into Unexplored Territory 昨年の 8 月下旬に NASA の惑星探査機ボイジャー1 号が、想定外の太陽圏の領域 ―― 太陽 から発せられたプラズマバブルが太陽風によって拡散し、太陽系を取り囲んでいる領域 ― ― に入ったことが報告されている。35 年以上前に打ち上げられた同探査機は、2004 年にヘ リオシースという太陽圏の擾乱領域に進入したが、天文学者らは、同探査機が最終的に星間 物質すなわちオープンスペースに再び入ると予測していた。しかし、ボイジャー1 号は、こ れまで確認されていなかった太陽圏の境界を越えて、ヘリオシース減衰領域(heliosheath depletion region)と専門家の間で呼ばれているヘリオシースの一部へ入り込んでいたようで ある。今週号の Science では 3 報の論文の中で、同探査機が 2012 年の異なる時期に 5 回この 境界を通過した際に収集した様々な測定データが掲載されている。Leonard Burlaga らは、ボ イジャー1 号が実際に未知の領域に突入したことを証明する太陽圏磁場の測定結果について 報告している。同探査機が新たに発見された境界を通過する度に、この領域の荷電粒子数が 激減すると同時に太陽圏磁場の強度が急に増すという。もう 1 報の論文では、ボイジャー1 号がこのヘリオシース減衰領域に進入した際に、太陽から発せられた粒子が急激かつ一斉に 減少すると同時に、宇宙線が急増することを示すエネルギー粒子の詳細な測定結果が Stamatios Krimigis らによって報告されている。また、ボイジャー1 号が太陽圏内に留まって いることを同探査機の磁場計測データが示していたにもかかわらず、同探査機がこの境界を 通過した際に太陽圏からの低エネルギーイオンが突然消失し、宇宙線の流入に入れ替わった ことが Edward Stone らによって確認された。これらの成果をまとめると、このヘリオシース 減衰領域は、太陽圏とそれ以外の星間空間との間の大きな境界面の一部を成している可能性 が示唆される。 Article #21: "Magnetic Field Observations as Voyager 1 Entered the Heliosheath Depletion Region," by L.F. Burlaga at NASA-Goddard Space Flight Center in Greenbelt, MD; N.F. Ness at The Catholic University of America in Washington, DC; E.C. Stone at California Institute of Technology in Pasadena, CA. Article #22: "Search for the Exit: Voyager 1 at Heliosphere’s Border with the Galaxy," by S.M. Krimigis; R.B. Decker; E.C. Roelof; M.E. Hill at Johns Hopkins University in Laurel, MD; S.M. Krimigis at Academy of Athens in Athens, Greece; T.P. Armstrong at Fundamental Technologies, LLC in Lawrence, KS; G. Gloeckler at University of Michigan in Ann Arbor, MI; D.C. Hamilton at University of Maryland, College Park in College Park, MD; L.J. Lanzerotti at New Jersey Institute of Technology in Newark, NJ. Article #23: "Voyager 1 Observes Low Energy Galactic Cosmic Rays in a New Region Depleted of Heliospheric Ions," by E.C. Stone; A.C. Cummings at California Institute of Technology in Pasadena, CA; F.B. McDonald (Deceased) at University of Maryland, College Park in College Park, MD; B.C. Heikkila; N. Lal at NASA-Goddard Spaceflight Center in Greenbelt, MD; W.R. Webber at New Mexico State University in Las Cruces, NM. 気温上昇が微生物と土壌の運命を左右する Rising Temperatures Render Biocrusts’ Fates Uncertain 北米の砂漠土に存在する光合成細菌の調査により、特定の 2 つの種の細菌がこの乾燥地の大半を 占めていることが明らかになった。この 2 種のうち、1 種は温暖な気温を好み、もう 1 種は別の 種より寒冷な気候でしか生きられない。この結果を踏まえ、研究者は前者のシアノバクテリア種 が、世界的な気温上昇に伴って後者を駆逐する可能性があり、そのことによって土壌の肥沃度や 浸食作用に予期せぬ影響をもたらす恐れがあるとしている。Ferran Garcia-Pichel らは、米国西部 のバイオクラスト(微生物が結合し皮膜状になった土壌)の研究を行い、その微生物生態系を支 配しているとみられる主要なシアノバクテリア種として、Microcoleus vaginatus と M. steenstrupit の 2 種を同定した。この 2 種のゲノム配列決定を行ったところ、これらのシアノバクテリア種の 地理的な分布は主として気温により決定されていることがわかった(ラボでの実験でも、同様に このようなバイオクラストでの微生物の多様性は気温が最も重要な要素であることが確認されて いる)。また、バイオクラストは保水性、栄養素の移動や物理的な安定性など、土壌にとってき わめて重要な要素を担っていることから、研究者は、これら 2 種の分布が変わってしまった場合、 土壌の肥沃度や浸食作用にどのような影響が出るかはわからないと述べている。しかし、米国南 西部の気候が現在の割合で上昇を続けた場合、50 年ほどで M. steenstrupit は M. vaginatus に完全 に取って代わる可能性があると予測している。Perspective では、Jayne Belnap が、本研究につい て詳しく検討するとともに、生態系の管理と復元に関する情報をもたらすために、環境において 微生物が果たしている機能のさらなる研究を呼びかけている。 Article #16: "Temperature Drives the Continental-Scale Distribution of Key Microbes in Topsoil Communities," by F. Garcia-Pichel; V. Loza; Y. Marusenko; P. Mateo; R.M. Potrafka at Arizona State University in Tempe, AZ; V. Loza; P. Mateo at Universidad Autónoma de Madrid in Madrid, Spain. Article #2: "Some Like it Hot, Some Not," by J. Belnap at Biological Resources Division, U.S. Geological Survey in Moab, UT.
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