Embargoed Advance Information from Science The Weekly Journal of the American Association for the Advancement of Science http://www.aaas.org/ 問合せ先:Natasha Pinol +1-202-326-7088 [email protected] Science 2009 年 8 月 28 日号ハイライト 犬の被毛が明らかにする遺伝子の秘密 きわめて有害な酸化物 飢餓状態になると生殖の時計を巻き戻す線虫 マウスにおける毛色の変化の謎 犬の被毛が明らかにする遺伝子の秘密 Dog Coats Shed Genetic Secrets コッカースパニエルのシルクのように艶やかな巻き毛とシープドッグのぼさぼさしたモップの ような毛の違いには、わずか 3 つの遺伝子が関わっているだけであることが報告された。家庭 犬の体の被毛には長いもの、短いもの、まっすぐなもの、ウェーブがかったもの、カールした もの、針金のように剛いもの、柔らかいものなど実に様々なタイプが存在する。このようにバ リエーションに富んでいる理由を調べるために、Edouard Cadieu らは 80 種の犬種を対象に、 各ゲノムを多数スキャンして特定の特徴に関与する遺伝的変異を探すゲノムワイド関連研究を 行った。Cadieu らは被毛の外見的特徴が、長さ、カールしているかどうかといった成長パター ン、質感という単純な 3 つの特徴に分類できることを発見した。さらに、これら特徴はいずれ もひとつの主遺伝子によって調節されていることがわかった。組み合わされることにより、こ れら遺伝的変異 3 種が米国内に存在する純血種の犬の被毛「表現型」の大多数が決定され、遺 伝形質の数が少なくても再混合されて今までにないバリエーションを生み出すことが可能とな っていることが示された。 論本番号 16:"Coat Variation in the Domestic Dog Is Governed by Variants in Three Genes," by E. Cadieu; P. Quignon; H.G. Parker; A. Byers; D.S. Mosher; A.G. Elkahloun; T.C. Spady; E.A. Ostrander at National Human Genome Research Institute, National Institutes of Health in Bethesda, MD; M. Neff; K. Walsh; A. Rhue; A. Wong at University of California, Davis in Davis, CA; K. Chase; K.G. Lark at University of Utah in Salt Lake City, UT; B.M. VonHoldt; R.K.Wayne at University of California, Los Angeles in Los Angeles, CA; A. Boyko; M. Cargill at Cornell University in Ithaca, NY; C.D. Bustamante at Affymetrix Corporation in Santa Clara, CA; C.D. Bustamante at Genetics Navigenics, Inc. in Foster City, CA; C. André at UMR 6061, Faculté de Médecine in Rennes, France. きわめて有害な酸化物 A Very Destructive “Oxide” 亜酸化窒素は「笑気ガス」として知られているが、地球のオゾン層に及ぼす影響は笑いごとで はないと研究者らは報告している。事実、A. R. Ravishankara らは、よく知られた数学モデルを 用いて、亜酸化窒素が他の物質よりも、成層圏のオゾン層破壊を引き起こしていることを発見 した。亜酸化窒素の排出量は現在大量であり、排出制限に今すぐ取りかからない限り、亜酸化 窒素は 21 世紀最大規模のオゾン層破壊物質になるであろうと述べている。クロロフルオロカ ーボン(CFC)のような一般的によく知られているオゾン層破壊物質とは異なり、亜酸化窒素 には自然生成と人工生成の 2 つの発生源がある。オゾン層破壊物質の排出を抑制し、南極上空 の大きなオゾンホールの成長をくい止めるのに貢献する国際条約であるモントリオール議定書 では、亜酸化窒素の使用と排出については規制されていない。今回の研究結果を考慮すると、 Ravishankara らは、将来亜酸化窒素の排出を制限すれば、地球のオゾン層の回復を効果的に加 速し、さらに気候システムに及ぼす人為的影響を弱め、オゾン層と気候にとってお互いに有益 なシナリオが導かれるであろうと提案している。 論本番号 18:"Nitrous Oxide (N2O): The Dominant Ozone Depleting Substance Emitted in the 21st Century," by A.R. Ravishankara; J.S. Daniel; R.W. Portmann at National Oceanic and Atmospheric Administration in Boulder, CO. 飢餓状態になると生殖の時計を巻き戻す線虫 In Worms, Starvation Turns Back the Reproductive Clock 様々な動物で、飢餓や厳しいカロリー制限は加齢プロセスの「一時停止ボタン」として働いて いることが既に知られているが、線虫の場合、飢餓は新しい卵細胞の製造を遅らせるという生 殖システムの「リセットボタン」としての役割も果たしていることが、新しい研究から明らか になった。研究者らは、カロリー制限食がヒトを含む他の動物でも同じ効果を持っているのか どうかを検討する価値があると述べているが、これは現在のところ推測に過ぎない。C. elegans 線虫が飢餓やストレスに反応してその幼虫期の複数の時点で発達を停止することは既 に知られている。Giana Angelo らは、性的に成熟した成虫が飢餓にさらされた場合に起る発達 停止という別の段階について、詳しく説明している。成虫生殖休眠と呼ばれるこの段階では、 飢餓にさらされた線虫の排卵および卵成熟が停止し、ほとんどすべての生殖細胞系列(新しい 卵を生じさせる細胞)が絶滅してしまう。しかし実際には幹細胞が多少温存されており、飢餓 状態を脱するとまったく新しい機能的な生殖細胞系列をつくりだす。今回の発見の根底にある メカニズムについてはまだ正確にわかっていないが、細胞核にある NHR-49 と呼ばれるシグナ ル伝達受容体が関与していると思われる。この受容体は、一部のほ乳類の排卵調節や飢餓への 反応に関与しているシグナル伝達受容体に相当するものである。 論本番号 15:"Starvation Protects Germline Stem Cells and Extends Reproductive Longevity in C. elegans," by G. Angelo; M.R. Van Gilst at Fred Hutchinson Cancer Research Center in Seattle, WA. マウスにおける毛色の変化の謎 The Mystery of the Color-Changing Mice ネブラスカのサンドヒルズに生息するシロアシネズミは、周辺のくすんだ薄色に似た毛色にな ることでその環境に適応してきた。こういった特徴はサンドヒルズ形成前には発現しなかった 突然変異に起因すると研究者らは述べている。この研究結果から、新しい環境に対する生物の 迅速な適応が、必ずしもその個体群に存在する遺伝的変異に依存するものではなく、遺伝・発 生・進化のメカニズム全般が関わることが示された。Catherine Linnen らは米国中西部のサン ドヒルズに生息するシロアシネズミの調査で、濃色の土中に生息する毛色の濃いシロアシネズ ミとの比較を行った。その結果、毛色の薄いマウスにはこれまで知られていなかった着色パタ ーンがあることがわかり、これには毛色を決定する役割で知られる特定遺伝子、Agouti の変異 が関与していることを突き止めた。Linnen らは、毛色を変化させる Agouti の突然変異がその 遺伝子における単一アミノ酸の欠落に関係している(もしくは欠落そのものである)ことを示 すとともに、サンドヒルズに生息するシロアシネズミにとってはそれが有益なものとなってい ると述べている。 論本番号 8:"On The Origin and Spread Of an Adaptive Allele in Deer Mice," by C.R. Linnen; E.P. Kingsley; H.E. Hoekstra at Harvard University in Cambridge, MA; J.D. Jensen at University of California, Berkeley in Berkeley, CA.
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