博士(理学)市川隼人 学位論 文題名 Develo pment of New Aluminum Cat alysis for S elective Tr ans for mat ion of Oxy gen -Co nta ini ng Fun ctio n al G ro u ps (酸 素官能 基を 有す る化 合物 の選 択的 な変換反応に 有 効 な 新 規 ア ル ミニ ウ ム 触 媒 の 開 発 ) 学位論文内容の要旨 単量体の 有機ア ルミニ ウム化 合物が もつ高 いルイ ス酸性は,アルミニウム原子上の空のp軌道が オ クテッ ト則を 満たそ うとす るため に電子 対を受け 取るこ とに起 因して おり,ほとんどの有機ア ル ミニウ ム化合 物はル イス塩 基と激 しく反 応する。 このよ うな有 機アル ミニウム化合物の高いル イ ス酸性 は,エ ーテル のよう な中性 のルイ ス塩基で さえ比 較的強 固な1: 1の錯体を形成すること か らも明 らかで ある。 本研究 ではア ルミニ ウム化合 物の本 来的特 性を活 かした触媒的新規合成プ ロ セスの 案出を 目的と する。 ム ゆ + 眦 川 凡 → M n ゆ 1 r { ゆ ― 叫 ヤ 旦 } 十 O コ . り リ Q 有機リ チウム 反応剤 を用い たエポ キシド のアル キル化反 応は, ルイス 酸を用 いることで円滑に 進行す ること が知られているが(式(1)),ルイス酸としてトリアルキルアルミニウムを用いた場 合は, アート 錯体形 成が優 先して しまう。 そこで ,トリ アルキ ルアル ミニウ ムがへテロ原子を有 するエ ポキシ ドと5配 位複合 体(A)を形 成し得 ること に注目 し,概 念的に新 しいア ンフイフィリッ クアル キル化 反応に ついて 検討し た。 B n 。 ッ OH 10 moI% 坐 ! 型 -g--. PhC三 CLi toluene Bn0ヘノ上丶/C三C―P h 276% -780C,0.1h; 00C,5h (3% yield without Me3AI: Ph¥/′ 3 Me3AI PhC:CLi toluene 0 0C, 5h Ph¥/. OH C-C- Ph 4 0.7 % (10 mol% of Me3AI) 4 % (100 moI% of Me3AI) アル キニル リチウ ム反応剤 による エポキ シエー テル1のアルキル化反応におぃて触媒量のMe ユAl 170ー を用い たとこ ろ,位 置選択 的に良 好な収 率でア ルコー ル2が得 られた。 同様の 条件下 ,Me3 AIを用 いなけ ればア ルコー ル体は ほとん ど得ら れない ことか ら,Me3Alがエポキシドを強く活性化してい る こと が わ か る。 ま た , 1の 炭 素類 縁 体 である 3を用い て同様 に反応 を行っ たとこ ろ,使用 した MeっAlの 量にか かわら ず,ア ルキル化 体4はほ とんど 得られ なかった。この結果から,ヘテ口原子 を持た ないエ ポキシ ドでは Me、Alとの 複合体 形成よ りも, 有機リチウム反応剤とMe3A lとの間での アート 錯体形 成が有 利であ るもの と考え られる 。 次に ,新し く調製し たアル ミニウ ム触媒 ,MeAl(NTf2)2の エーテル合成反応における触媒活性を 評価し た。MeAI(NTf2)2は強 い電子求 引基で あるト リフル オロメ タンスルホンアミド基をアルミニ ウ ム 原 子 上 に ニ っ も っ こ と から , 高い ル イ ス酸 性 の発 現 が期 待 でき る 。 10mol% MeAI(NTf2)2 Ph人 CH2CI2,210C,0.5hPh)XOJXPh >99% 実際 ,MeAI(NTf2)2の塩化 メチレン 溶液中 にsec-フ ェネチ ルアルコールを加えることで,二量化 体で あるエ ーテル が定量 的に得 られた 。さらに アルコ ールの 保護基 として 有用な べンジルエーテ ルに ついて も容易 に合成 するこ とが可 能である 。 PhXO H+P h /X O H 10 m o I% M eA I (N Tf 2:2 -C ' O ' xP h C H2 C I2 , 0aC ,2C P h/ ' 89 % さ ら に 私 は, ア ル ミ ニウ ム 化 合 物を 触 媒として カルボ ニル基 を選択 的に還 元する MeerweinPonndrof・Verley (MPV) 還元反応を真に実用的な官能基変換反応とするために,触媒となるアルミニ ウムア ルコキ シドを 新たに デザイ ンした 。 まず ,アル ミニウム 化合物 の配位 子につ いてア セトフ ェノン の還元 反応をモ デルと して種々検 討を行 ったと ころ, フェノ ール基 とトリ フルオ ロメタ ンスルホ ンアミ ド基を 併せ持 っビフェニル 型の配 位子で 良好な 結果が 得られ た。こ こでト リフル オロメチ ル基の 炭素鎖 を延ば したパーフル オロオ クチル 基を導 入した 配位子 を用いることでさらに良い収率で還元体であるsec-フウネチルア ルコー ルを得 ること ができ る。 catalyst5 (10moI% ) i-PrOH (5 eq) CH2CI2, 25 0C, 5h 5a:65% 5b:75% cataIyst: :84% (with 10eqofFPrOH) 5a (R = CF3); 5b (R= C8F17) この 新しい アルミ ニウム 触媒5a,bを用いるMPV還元反応では,基質を5gまでスケールアップし, 触媒 量を5molo/oまで減 らした 条件にお ぃても ,lmmolス ケールの場合とほぽ同程度の収率で還元 体を 得るこ とがで きる。 − 171― O CI O O P 5 g scale 1 mmol scale 25 0C, 5 h: 86 % 25 0C, 2.5 h: 98 % 25 0C, 1 h: >99 % 25 0C, 3.5h:85% 25 0C, 1 h: >99 % 25 0C, 0.5 h, >99% また本触媒はアルゴン中において室温で長期保存が可能であり,M P V 還元反応を実用的なプロ セスとするためのーつの道筋を示すことができた。 以上のように,私は有機アルミニウム化合物の特性を活かした反応設計と分子デザインを基盤 とした新しい触媒的含酸素官能基変換反応の開発に成功した。 ― 172 学 位 論 文 審 査 の 要旨 主査 教授 辻 康之 副査 教授 丸 岡啓二( 京都大学大 学院理学 研究科) 副査 教授 辻 副査 助教授 孝 大井貴史(京都大学大学院理学研究科) 学位論文題名 D evelopment o f New Aluminu m Ca tal ysi s fo rS ele cti ve T ran sfo rma tio nofO xy ge n -C on ta in i ngF un c ti on alG r ou ps ( 酸 素官 能 基を 有する化 合物の選 択的な変 換反応に 有効な新規ア ルミニウム触媒の開発) 酸 素 原 子 を 含 む 官 能 基 は有 機 化 学 にお い て ご く一 般 的 な 置換 基 で あ る。 し た が って こ れ ら の 官 能 基 の 選 択 的 は 変 換 反 応 はこ れ ま で 多く の 化 学 者の 興 味 を 集め て き た 。本 論 文 で は、 有 機 ア ル ミ ニ ウ ム 化 合 物 の 本 来 的 な特 徴 を 活 かし た 反 応 設計 と 分 子 デザ イ ン を 基盤 と し た 新し い 触 媒 的含酸 素官能 基変換 反応の 開発に ついて 述べてい る。 ここで はまず 初めに 、トリ アルキ ルアル ミニウ ムがヘ テ口原子 を有す るエポ キシド と5配位複合体 を形成 し得る ことに 注目し て、通 常のア ート錯体 型のア ルキル 化反応とは全く異なった概念的に新し いアン フイフ ィリッ クアル キル化 につい て検討し ている 。アル キル1Jチウム試薬によるエポキシエー テルの アルキ ル化反 応にお いて、 触媒量 のトリメ チルア ルミニ ウムを用いることにより、位置選択的 に良好 な収率 で相当 するア ルコー ル体を 得ている 。また 、同様 の条件でト1Jメチルアルミニウムで処 理しな かった 場合、 および 、工ポ キシエ ーテルの 炭素類 縁体で ある単純なエポキシドを用いた場合で はほと んどア ルキル 化反応 は進行 しない ことを明 らかに してい る。著 者はキ レート 型5配位 複合体を 鍵 中 間 体 と し た 触 媒 的 な ア ン フ イ フ ィ リ ッ ク ア ル キ ル 化 反 応 を 実 現 に 初 め て 成 功 して い る 。 同様の 方法で 、著者 はトシ ルアジ リジン エーテ ル化合 物の位置 選択的なアルキル化にも成功してい る。こ の生成 物は容 易にア ミノア ルコー ル誘導体 ヘ導く ことが でき、本法はアミノアルコール類の位 置選択 的なア ルキル 化反応 を確立 したと いえる。 続いて 新規に 調製し たアル ミニウ ム触媒 、MeAl (NTf2 )2を各種アルコール化合物からのエーテル合成 に用い ること で、対 称及び 非対称 エーテ ルが効率 よく得 られる ことを見いだしている。またこの手法 一173― を 用いて 各種 アル コー ルのべ ンジ ル化 によ る保護 基導 入に も成功 して いる。 さらにMeerwein-Pondorf・Verley還 元反応を真に実用的な有機合成プ口セスとするためのに、新たな 触媒開発の 検討を行っている。その中で、2‐ヒドロキシ-2 '−パーフルオ口オクタンスルホニルアミノビ フ ェニルを配位子 とするアルミニウムアルコキ シドが極めて高い触媒活性 を有することを見いだし、 各 種ケ トン を 相当 する 2級 アルコールヘ高収率 で変換している。またケト ンをSg用いたスケールアッ プ 条件においても 本アルミニウムアルコキシド はスモールスケールの場合 と遜色のない結果が得られ て いる 。そ の 上、 アル ミニ ウムアルコキシド 前駆体のX線結晶構造解析に も成功し、その構造は驚< べ き こ と に 5配 位 ア ル ミ ニ ウ ム 化 学 種 を 含 む 二 量 体 で あ る こ と を 明 ら か に し た 。 著者は、いずれ も有機アルミニウム化合物の 本来的な性質を活かして、 合理的な反応設計と分子デ ザ インを基盤とし た新しい触媒的含酸素官能基 変換反応の開発に成功して おり、有機アルミニウム化 合物の実用 性を高めた点で有機化学に 大きく貢献したとぃえる。 よっ て著 者は 、北 海道 大学 博士 (理 学 )の 学位 を授 与さ れる資 格のあるものと認める。 - 174―
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