中国 - Goldman Sachs

情報提供資料 2011年7月
GSAM会長
ジム・オニールの視点
中国、中国、中国
先週の金曜日(7月1日)は、中国共産党(*)創立90周年の記念日でした。中国政府は、大々的な宣伝活動を行って、こ
れを祝いました。この機会にまた中国のこと、その将来、そして私たちへの影響について、じっくり考えてみました。
もちろん、これが初めてというわけではありません。
私が金融というすばらしい業界に身をおいてから、今年で30年になります。したがって、中国共産党の3分の1の歴史
とともに、職業的な目で世界を見てきたことになります。最初の10年間は、中国やその経済について考えを巡らせる
ことはほとんどありませんでした。最初に北京を訪れたのは、天安門事件の翌年の1990年。ほぼ21年前ですが、それ
以降は数えきれないくらい訪れています。この間の変化は、実に驚くべきものです。1990年当時は、欧米式のホテル
はほとんどなかったと記憶しています。おそらくザ グレート ウォールとセント レジスくらいではなかったかと思い
ます。当時、万里の長城のバーダーリン(八達嶺)地区を訪れたことなどが思い出されます。その際は、道中の最後
の3分の1は、ほとんど舗装されていない道路を行く旅となり、大変な冒険をしているような気分になりました。その
時案内用に乗せてもらった車の他には、自動車をほとんど見かけませんでした。運転者の一番の難題は、何千という
自転車や多くの荷車付自転車を避けて運転することでした。それが近年では北京の環状道路はこの地区付近まで整備
され、ここ数年で中国は世界最大の自動車市場となったのです。
私がゴールドマン・サックスに入社した1995年には、世の中はすでに大きく変化し始めていましたし、私もそれまで
には海外投資担当者と定期的に情報交換するためのパイプを築いていました。実際に過去を振り返るためゴールドマ
ン・サックスのGS ERWINウェブサイトからデータを拾ってみると、当時の中国のGDPは、わずか3,500億米ドルとい
う規模でした。皮肉なことに、この規模は、現在のギリシャとほぼ同じ水準です。私がゴールドマン・サックスに在
籍したほぼ16年の間に、中国はすでにGDPで日本を追い越し、そして今年は、米ドル換算でのGDPがおそらく7兆米
ドルを超える勢いです。 つまり、私がゴールドマン・サックスに在籍している間に、中国は自国経済を約20倍の規模
に拡大することになりそうです。話が少しそれますが、この中国の勢いを見ていると、ギリシャ問題やその他の世界
の問題にあまり熱心に向き合う気持ちになれないと、いろいろなところで申し上げております。もちろん、ギリシャ
問題の他国への波及が大きくなれば話は違います。今年だけで、中国が創出するGDP(米ドル換算)は、ギリシャの
約3倍にもなります。そして、その輸入の伸びは、ギリシャ一国の経済とほぼ同じ規模になりそうなのです。
*CCP、Chinese Communist Party または最近では時に CPC、Communist Party of China としても知られています。
1
かつてはゴールドマン・サックスのグローバル経済・コモディティー・投資戦略調査部統括部長として、そして今は
ゴールドマン・サックス・アセット・マネジメントの会長として、私は率先して、中国がおそらく向こう10年の後半
には世界一の経済大国になると提唱してきました。しかし、最初にはっきりと申し上げておきますが、かつても、そ
して現在も、2027年までには中国が世界一の経済大国になる可能性があると申し上げているのみで、必ずそうなると
は申し上げておりません。そのことについては、やや心苦しく思っております。
国が一党支配の元にあり、その党が共産主義を標榜しているにもかかわらず、現在進んでいる道をより一層押し進め
れば、16年ほどで世界一の経済大国になりますし、そのことは、われわれすべてに多大な影響を与えるはずです。実
際、ゴールドマン・サックス経済調査部が行う大局的なBRICの予測では、この間中国は年率8%程度の成長を遂げる
だろうとされています。しかし、この8%という成長率でさえ、過去10年、20年そして30年間の平均10%を超える驚く
べき成長率に比べればかなり低い水準です。
一般に中国共産党の広報紙とみられている人民日報は今週、中国のこれまでの成果を示すすばらしい事実やデータと
ともに、国民の暮らしぶりや将来への願望に関わる興味深いコメントを多く掲載していました。また、胡主席が金曜
日の創立記念式典で語ったとされる「社会主義市場経済」や「社会民主主義」の推進についても、多くの引用があり
ました。週末のフィナンシャル・タイムズでは、胡主席が発言の中で「民主主義」という言葉を32回使ったと伝えて
います。とはいえ、近い将来急激な政治体制の変化が起こると予想する政治関係者はほとんどいないようです。
このように、一党支配の下にある国がこれほどまでに拡大し、これほど豊かになるということは、現代における大変
皮肉な事態であり、世界最大の矛盾とも思えます。ゴールドマン・サックスによるBRICの2050年最新公式予測では、
中国の一人当たりGDPは50,000米ドルに達するとみられています。この水準は、ほとんどどの国よりも高いものでは
ありますが、しかし欧米先進各国の39年後の水準よりは低いものであるということも重要です。すでに多くの矛盾が
存在しています。ある調査によれば、中国には今現在すでに百万人以上の百万長者(百万米ドル)がいるということ
ですが、この数字は、国民の平均資産額が約6,000米ドルということを考え合わせると、極めて驚くべきことです。2011
年のフォーブスによる世界億万長者(十億米ドル)調査では、中国には300人を超す億万長者がおり、実はこれは全欧
州よりも1人多い数字となっています。香港に住む知人の中には、もしかしたら既に中国の億万長者の数は米国を上回
っているかもしれないと言う人もいます。
では、この先、何か物事がうまく行かなくなる可能性があるのでしょうか。私は、かなり大きな問題が起こるに違い
ないと多分に思っています。どこの国でも、いつかは起こることですから。そうは言っても、多くの方々の中国に関
する一般的な意見に接すると、中国の政策立案者たちが、自国の課題について他の誰よりも真剣に懸念しているとい
うことが分かります。そしてそのことに安心感を覚えることが多いのです。政策立案者たちが真剣に心配していなけ
れば、われわれ自身が心配しなくてはいけないからです。
こうした背景の中で、中国の都市化率がいったん70%にまで達したならば、多くの人が持っている懸念が現実味を帯
びてくる可能性があると考えています。都市化は過去からずっと経済成長の強力な牽引役であり、多くの人がこの都
市化が持っている着実な力を見逃してしまいがちです。最近見たデータから判断すると、現在の中国の都市化率は52%
程度です。ということは、中国の都市化はまだまだ途上であるということで、そのためにやがて起こってくる避けら
れない問題が隠されているかもしれません。中国人以外による研究で、「中国の都市化率はすでにもっと高い水準に
ある」と指摘するものをいち早く手に入れて見たことがあります。しかし、私自身は、OECD等の独立的な見解を支
持しています。
2
都市化が急を要する問題であると一般の人々が考える可能性は少ないでしょう。誰もが抱いている最大の懸念材料を2
つあげるとすれば、1つはGDP対比設備投資が過度に行われること、今1つは労働人口の高齢化でしょう。どちらも中
国にとって問題であることは間違いありませんが、これらが本当に深刻化するのは、完全な都市化が達成された時で
あると考えます。
何はともあれ、第12次5カ年計画は、この2つの問題に(もちろんその他の問題にも)配慮しており、その目指すとこ
ろはGDPに占める個人消費の比率を押し上げることです。この政策の成功は、中国以外のすべての国々にとって、非
常に重要なことです。もし中国がこれに成功すれば、中国の消費力が多くの国々に恩恵を与えることになるからです。
もちろん、何度も書きましたように、その兆候は明らかに表れています。つい今週、温首相が欧州を訪れた際に、再
度ドイツの対中国向け輸出トレンドを調べたところ、好ましい動きとなっていました。この直前には、両国が100億ユ
ーロを超える相互貿易案件の契約を行ったというニュースが流れていました。(これは、英国が結んだ額の約10倍に
も上ります)昨年暮れには、中国はドイツにとって7番目に大きい貿易相手国となっていましたが、今や上位にいる数
カ国との差はわずかなものです。向こう数カ月間に何かよほどの異常事態がなければ、中国がドイツの貿易相手国3番
手になる可能性はかなり高いと思われます。すぐ上に米国、少し離れてその上にフランスということになりそうです。
そして、もしかすると2012年に、そして2013年にはほぼ間違いなく、中国がドイツの最大輸出相手国となりそうです。
少し横道にそれますが、中国がドイツの最大貿易相手国になるということは、EMU(欧州通貨同盟)にとっても大き
な意味があります。前回のViewpointsでご紹介しましたが、このことによって、今後EMUの問題解決がより難しくな
る可能性が出てきます。
もうひとつ余談ですが、ゴールドマン・サックスのドイツ担当エコノミスト、ダーク・シューマッハから聞いたので
すが、ドイツのBRICs諸国向け輸出を合計すると、フランス向けよりすでに多くなっているということでした。この
点英国は対照的で、大臣たちの関心はBRICs諸国への輸出よりも、アイルランドへの輸出の方が多くあるべきだとい
うことに向いています。実際には、英国の輸出相手国構成はすでに変化していると思います。しかし、この話は英国
の貿易が前途多難であることを物語るものです。
中国が抱える「その他の問題」について、手短に4つの点をご説明します。一人っ子政策、所得格差、住宅価格そし
てインフレです。
一人っ子政策に関しては、一部の都市圏では、すでにこの政策は存在していないようなものです。この点は、上海の
しゃれた一角等で、繁盛しているコーヒーショップに入ってみれば分かります。一人っ子政策の撤廃は意図的に行わ
れている実験であり、第一子が女児だった場合に、第二子を持つことが許されることなどもその一環と思われます。
所得格差の問題は、重要な課題のひとつだと考えています。特に、中国共産党が現在の支配体制を守ろうとするなら
ば、これに対処すべきです。新たな5カ年計画で設定されたばかりの目標とこの格差問題は、相容れないものだからで
す。経済の急速な発展の恩恵を受けることのない何百万という人々が生まれ、特にそこにインフレが起こってくれば、
彼らが抵抗勢力となって問題を起こすことは十分考えられることです。しかしこうした問題についても、中国の政策
立案者たちは十分に認識しているようです。
この格差問題があるために、中国にとってインフレ問題が今非常に重要であり、温首相が欧州訪問に先立って「イン
フレが大きな問題であり続けることはない」と自信を示したことが注目に値するのです。中国内外で出されている多
3
くの予測は、今年の後半に中国の消費者物価指数が4.5%程度の水準に戻り、その後はさらに低下するであろうとして
いますが、私もこうした見方に賛成です。もし、その通りにならなければ、問題は極めて大きくなるでしょう。
住宅価格の問題は、インフレや所得格差の問題と関連する数多くの問題の1つです。もちろん、それ自体も重要な問題
です。もし中国が本当に、多くの欧米諸国が経験したような資産バブルの崩壊という結果を招いていたとしたら、経
済的、社会的混乱に陥っていたでしょう。この点について、日本のある政策立案者とお話しする機会がありました。
その方は、日本人専門家の中でも中国問題の第一人者として広く認められている方で、これまで中国に関わる分析に
携わってこられました。中国のこれまでの不動産問題を踏まえると、この方の楽観的な見方は非常に興味深いもので
した。また、偶然にも中国の代表的不動産業者の方とロンドンでお会いできましたが、その方も非常に楽観的な見方
をされていました。よく思い出すのが、2009年9月の北京への出張です。その際に行った中堅政策立案者の方々への昼
食会での講演の終盤で、近づいて来られた3人の方から「中国の不動産バブルを心配されていますか」という質問を受
ました。冗談めかして「はい、心配しています」とお答えしました。しかし、この質問が実は、急激な不動産価格の
上昇を止める施策を彼らが導入する可能性が極めて高いことのサインだったのだと後で分かりました。案の定、その
通りの政策が実行されたのです。
この先、いつかは、物事がうまく行かなくなる可能性と思いますが、どんな問題が起こるのかは分かりません。週末
のフィナンシャル・タイムズの記事に、ジェミル・アンデリニ記者のすばらしい比喩がありました。中国共産党は世
界最大の政党ではなく、むしろ世界最大の商工会議所だと彼は書いていたのです。
<中国への投資?>
欧米人の多くが抱える明らかな矛盾について申し上げると、彼らにとっては、中国への投資は全く魅力がないかのよ
うです。ゴールドマン・サックス・アセット・マネジメントの会長という新たな職務に就いて以来、非常に保守的な
投資家、特にアメリカの投資家についてそのように感じることが多くなりました。彼らが投資しない理由はさまざま
です。最近、ある年金基金運用責任者の方にお会いしましたが、受託者たちが「中国はアメリカから職を奪う」と頑
なに信じているために、中国への投資が認められていないとのことでした。 「どうしたら良いのだろう」と質問され
たので、冗談で「他の仕事を探されたらどうですか」とお答えしました。また、他の投資家の中には、「中国は外国
の投資家が収益を得ることを決して許さない」のだと、純粋に信じている方々もいらっしゃいます。そして、最後に
は、中国株式市場はBRICs4カ国の中では、2000年以降のパフィーマンスが最も低いというデータを持ち出す方々もい
らっしゃいます。 この間、中国がBRICs諸国の中でもっとも急速なGDP成長の実績を示しているのに拘らず、そうい
うご意見なのです。とても興味深いことです。しかし、一方で、最近2回のゴールドマン・サックス・アセット・マネ
ジメント、マンスリー・インサイト(Monthly Insight)でご紹介しました通り、中国市場は過去10年間では米国市場をは
るかに上回るパフォーマンスを上げていることも事実です。さらに重要なのは、多くの欧米諸国の市場や、未だに真
に新興市場と呼ばれるべき国々の市場とは違い、中国市場は米国の主要市場との相関関係が極めて低いことです。
中国が 2027 年に GDP で米国に追いつくとすると、われわれはもっと中国に投資することとなります。それは、好き
嫌いの問題ではありません。投資の方法は、われわれに代わって投資リスクを取ってくれる欧米企業を経由する間接
的なものか、あるいは発展を遂げた地場市場に直接投資するものなのかは、今後の展開を見てみないとわかりません。
おそらくどちらもが起こってくるものと思っています。
4
ジム・オニール
ゴールドマン・サックス・アセット・マネジメント会長
(原文:7 月 3 日)
本資料に記載されているゴールドマン・サックス・アセット・マネジメント(GSAM)会長ジム・オニール(以下「執
筆者」といいます。)の意見は、いかなる調査や投資助言を提供するものではなく、またいかなる金融商品取引の推
奨を行うものではありません。執筆者の意見は、必ずしもGSAMの運用チーム、ゴールドマン・サックス経済調査部
(執筆者の前在籍部署)、その他ゴールドマン・サックスまたはその関連会社のいかなる部署・部門の視点を反映す
るものではありません。本資料はゴールドマン・サックス経済調査部が発行したものではありません。追記の詳細に
つきましては当社グループホームページをご参照ください。
本資料は、情報提供を目的として、GSAM が作成した英語の原文をゴールドマン・サックス・アセット・マネジ
メント株式会社(以下「弊社」といいます。)が翻訳したものです。訳文と原文に相違がある場合には、英語の
原文が優先します。 本資料は、特定の金融商品の推奨(有価証券の取得の勧誘)を目的とするものではありませ
ん。本資料は執筆者が入手した信頼できると思われる情報に基づいて作成されていますが、弊社がその正確性・
完全性を保証するものではありません。本資料に記載された市場の見通し等は、本資料作成時点での執筆者の見
解であり、将来の動向や結果を保証するものではありません。また、将来予告なしに変更する場合もあります。
経済、市場等に関する予測は、高い不確実性を伴うものであり、大きく変動する可能性があります。予測値等の
達成を保証するものではありません。
本資料の一部または全部を、(I)複写、写真複写、あるいはその他いかなる手段において複製すること、(Ⅱ)弊
社の書面による許可なく再配布することを禁じます。
© Copyright 2011, Goldman Sachs. All rights reserved.
<審査番号:55212.OTHER.MED.OTU >
ゴールドマン・サックス・アセット・マネジメント株式会社
金融商品取引業者 関東財務局長(金商)第325号
日本証券業協会会員
(社)投資信託協会会員
(社)日本証券投資顧問業協会会員
5