BRICs生みの親 ~ジム・オニールの視点~ 「アフリカ

情報提供資料
GSAM 会長
2013年4月
ジム・オニールの視点
アフリカで過ごした数日間
今週は、アフリカで3日間を過ごしました。正確に言うと、南アフリカではケープタウンと短時間ヨハネスブル
クに滞在しました。そしてナイジェリアではラゴスとアブジャに行きました。このレポートの末尾に、アフリカ
の潜在力、課題、現状と将来における世界でのポジションについて、私のアフリカでのプレゼンテーション資料
を添付しました。イベントでお話ししたのですが、アフリカ諸国が経済面で一体となって行動できれば、2050
年までには経済面から見ればBRICsはBRICAになり得ると思います。南アフリカが、BRICs(小文字sは、複数の
s)はBRICS(大文字Sは南アフリカ)となるべきだとする主張が説得力を持つためには、南アフリカがアフリカ
大陸全体の潜在能力を引き出すために働き掛けをする必要があると思います。しかし、実際に、そのためには、
ナイジェリアの動きがカギになります。というのも、そこに大陸全体の15%の人口が住んでいるからです。この
点については、より詳しく後述しますが、今週は、サッチャー元首相の遺産と英国について、最初に触れなけれ
ばなりません。
英国とマギー(サッチャー元首相)
全世界とは言わないまでも、世界の多くの国で、全般的にはサッチャー元首相の遺した軌跡への敬意を表す声が
高まっているようですが、英国内での雰囲気は、1970年代後期と1980年代のサッチャー政権時代に、彼女によっ
て国が二分されたことの記憶が呼び戻されているかのようです。サッチャー氏が首相に就任した頃、私は博士号
取得のための研究を始めたばかりで、大学キャンパス内での彼女の評判はあまり芳しいものではありませんでし
た。特に、サッチャー政権の支出抑制策で、教育関連支出が打撃を受けたことが原因と思われます。私は、厳し
くかつ突然やって来る批判にもめげず、サッチャー政権の経済戦略を擁護するような話をよく行ったことを思い
出します。私には、幾分判官びいきを意気に感じるところがあり、交流のあった友人達のサッチャー政権に対す
る嫌悪感に対しても、そのように反応したのではないかと思います。今日振返ると、そこにいた何人の者が、議
論している内容は理解できても、後にサッチャー政権がもたらした成果を正当に評価できたかどうかは疑問で
す。英国のマスコミは今、サッチャー政権の光と陰について、大々的に報道をしていますが、私にとって親近感
のある2つのポイントについて、コメントを加えたいと思います。
1つ目に、サッチャー政権がロンドンのシティを開放し、為替管理を撤廃する政策をとったことによって多くの
成果が生まれましたが、その中には、シティを支配していた階層型雇用の終焉の始まりとも言える現象、そして
機会の創出等があります。これがなかったなら、私がこれまでに手にすることの出来たチャンスを、実現できる
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ことは決してなかったと思います。2つ目に、木曜日の英インデペンデント紙が見事に言い表したように、現在
の英国サッカーの状況があり、サッチャー氏が遺したものには、少なくとも国内的には、プラス評価とマイナス
評価が多くあるのです。このようなことから、私は今我々が手にしている資本主義を愛する人々と同じ意見です
が、しかし、それは、新しいものを取り入れることに、より柔軟で、より責任感を伴うものであるべきだと思い
ます。
サッチャー氏が遺した経済的な遺産について広く見るには、金曜日にフィナンシャル・タイムズに掲載された同
紙経済論説主幹マーティン・ウルフ氏による記事が、感情を排して実際に起こった事実のみを整理した素晴らし
いものでした。
米国の財政状況は改善
アフリカへの強行軍の出張から帰るなり、ゴールドマン・サックスのチーフ・エコノミストのヤン・ハチウスに
よる日次のコメントを読みましたが、最初は、時差のために内容を読み間違えたのかと思いました。3回程読ん
だ後でも、頭に入ってくるのは同じ内容です。この記事は、欧州(特に英国)の政策立案者の誰もが読むべきも
のです。米国の財政赤字が顕著な改善を見せつつあり、現状GDPの5%を下回る水準であると書いてあるからで
す。経済成長という言葉にはほど遠い状態の欧州のデータとは、まったくの好対照であり、確かに、金融引締め
をいつから行うべきかという議論には根拠があると思わせる強力なデータです。
その前の週のデータが、大きく予想を下回るものだったため、木曜日に発表された週次新規失業保険申請件数が
大幅に減少したことで、安堵が広がるとともに、米国景気の再減速はどの程度なのかという議論が続いています。
しっかり聞いて頂きたいのですが(米国市場は、すでにある程度このことを嗅ぎ取っているかもしれませんが)、
財政状況が改善しているため、今後のさらなる財政緊縮が景気に与える影響への懸念は、やや軽減されたと見て
よいでしょう。過去にしばしばそういうことがあったように、2013年から2015年にかけては、住宅事情の回復、
エネルギー価格での競争力に支えられた米国と言うバラ色のストーリーの展開が容易に想像できます。
中国、再び多くの疑問が
今週フィッチ・レーティングスが、ここ暫く多くの議論の対象となっていた中国国債の格付けを引き下げました。
負債の増加に対する懸念が理由です。同じタイミングで発表された最新の月次負債およびマネーサプライデータ
は、予想を上回る増加を見せており、中国事情をしっかりと分析している多くの人々は、中国の表裏の銀行シス
テムに対する懸念をしばらく抱き続けることになりそうです。ミクロ的に見れば、こうした懸念も理解できるの
ですが、マクロ的に捉えると賛成できません。中国経済は、非常に大きな貯蓄を持っており、むしろ貯蓄を減ら
すべきであり、かつ、よりよい借入れルートがあれば、借入れを増やすべきであるからです。
ハーバード大学のロデリック・マクファーカー歴史・政治学教授が金曜日のフィナンシャル・タイムズに、興味
深い記事を載せています。そこでは、中国が直面する主要な問題は政治的な腐敗であるとし、その根拠を述べて
います。教授は、この政治的腐敗を徹底的になくせば、一党独裁が終わり、存続させれば、好調な経済は終わる
と述べています。面白いことに、私が政治的腐敗について最も興味深い議論をしたのはナイジェリアでのことで、
私は政治的腐敗に関して行われている通常の議論の多くは、単純に過ぎると思っています。もちろん、政治的腐
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敗それ自体は、悪いことです。しかし、何らかのかたちで社会が存在する以上、政治的腐敗と無縁でいられるの
でしょうか。ナイジェリアの最長老のひとりは、腐敗が原因となって、より大きな問題が一国の経済に起こって
いるのであれば、腐敗の規模が問われるであろうし、問われるべきであろうが、実害がないのであれば、どのよ
うにこれに対応するのかについては、慎重であるべきだと述べていました。
この観点から私が注目しているのは、間もなく発表される3月の小売売上高です。2月の数字は、おそらく政府が
行った旧正月期間中の華美な贈答品に対する規制が上手くいったため、大きく予想を下回るものでした。3月に、
反動が大きく現れなければ、景気にとっては、悪材料となるでしょう。発表に先立つ自動車販売のデータは、か
なりの好調を示すもので、第1四半期を通して見れば、17%増加の442万台と、非常に高い水準が報告されました。
これは、消費者全般で見れば、予想以上に多くの富が蓄積されていることを示唆していると考えられます。
消費者物価指数(CPI)は、予想を大きく下回る2.1%上昇を示し、貿易は若干の赤字(輸入が強かったため)と、
多くのマスコミ報道とは対照的な結果であり、また、3月は2月と比較してもこれまた対照的に、中国経済にとっ
ては、はるかに良い月となりそうです。
その他の出来事
アフリカの話題に戻る前に、今週注目したことを2〜3ご紹介してみます。
1.
ロシアが、他のBRICs諸国同様に、今週になって2013年のGDP成長予測を3.6%から2.4%に大きく下方修正
しました。
2.
北朝鮮が引き続き注目の的となっています。この国がいつまでも同じような軍事力誇示を続けられるとは思
えませんし、やはり、これは(二つの韓国の)終わりの始まりだと見ています。
3.
豪ドルが、投資家にとって「アクションをしかけるべき」通貨として、ますます私のレーダーの中で、大き
くなってきています。対米ドルで1.05を上回る水準に戻りましたが、これは景気循環や商品価格の動向とは
何の関係もなく、欧州での混乱、そしてもちろん、日本の流動性増加が生んだ副産物のようであると思われ
ます。本来は、1.05を超える水準ではなく、0.85付近が妥当な水準であり、そろそろオーストラリア準備銀
行(RBA)が、これに対応するために大規模な措置をとるべき時期が近づいているのではないかと思って
います。
本当にわくわくするアフリカ
「お客さま各位。このホテル内でのマネー・ロンダリング活動は禁止されております。ご理解の程、よろしくお
願い申し上げます。」これは、ラゴスで宿泊したホテルのフロントデスクの後ろに掲げられていたサインです。
アブジャの中央銀行のロビーには、ライフルに×印のついた絵がはっきりと見えるように吊り下げられていまし
た。ナイジェリアでビジネスをすることに対して、懸念を抱かせ、アフリカ大陸全体に対する恐怖感を高めるよ
うなものは、そこら中にあります。ケープタウンで開かれたアフリカ・ベンチャー・キャピタル協会(AVCA)
の会合にゲスト・スピーカーとして出席したのですが、そこに出席していた人々の顔ぶれを見ると、心配する人
が出て来ても良いのではと感じます。優秀な投資家であれば、明らかにそこにある投資機会が、多くの人に等し
く行き渡ることなど望まないと思うからです。
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強気の理由は、次のように極めて単純明解です。アフリカ大陸の諸国が内戦を止め、またお互いに戦うことを止
めれば、ガバナンスは向上し、政治的腐敗も減り、都市化が進むようになる。そうすれば、技術やその他のイン
フラも整備され、生活水準や需要もどんどん向上することでしょう。農業では、同じような技術やインフラの整
備が、生産性を劇的に向上させることになります。
ナイジェリアは、この強気シナリオの中心的存在です。アフリカ大陸全体の人口のうち約15%(2050年までには、
米国に匹敵する可能性があります)が住んでおり、彼らは、より高い生活水準を渇望しています。そういう非常
にエキサイティングな国なのです。私は今回、ラゴスとアブジャの両都市を訪れ、政財界の首脳とお会いするこ
とができましたが、その熱意に打たれずにはいられませんでした。この国の将来は、有望です。
弱気シナリオのポイントは、アフリカ大陸の持つ潜在能力を実際に引き出すことが、本当に難しいという点にあ
ります。GSグローバルECS調査部作成の成長環境スコア(GES)が極めて低い水準にあることは、将来に対す
る期待が大きい一方で、現実が厳しいことを物語っています。教育水準が急速に改善されつつあること、(携帯
電話に限らず)あらゆる技術の使用がどんどん拡大していること、そしてもちろん法による支配が進み、政権が
安定し、政治的腐敗の規模が縮小していること等はすべて、潜在能力が引き出されるための前提条件です。
インドの都市を訪れたことのある人々にとっては、ラゴスやアブジャを旅しても、あまり驚く事はないと思いま
すが、安全面の備えは強化する必要があります。実際、聞いたり読んだりしたことから考えれば、今回1日で2つ
の都市を回って何とか仕事をやり遂げたその方法や成果は、驚きに値します。こうしたことが不可能なBRICsや
N-11(ネクスト・イレブン)の国々もまだまだあります。という訳で、今後も、私の興味は、N-11の中のN(ナ
イジェリア)に向けられそうです。
南アフリカ、BRICs 対 BRICS
今回ケープタウンでは忙しく過ごしましたが、その訪問目的は、ある意味、もはや意味のないものになりつつあ
ります。BRICS首脳は、彼らの間でBRICS開発銀行という具体的な政策アイデアを持ち出していますので、南ア
フリカをBRICsに含めるメリットやBRICSクラブの目的について未だに議論することは意味がないと思われま
す。今やこのBRICS開発銀行を信頼に足る、しかもしっかりと機能する組織とできるかどうかは、南アフリカと
他のBRIC諸国、そして各国のアドバイザーたちにかかっています。南アフリカは、先進的な金融システムを持
ち、法の支配を確立しているので、開発銀行を使って国境を越えた資本と貿易の流れを促し、大陸全体の経済的
一体感を醸成するよう役割を果たし、成功させるべきだと考えます。全体的に見れば、南アフリカが、大陸の他
の地域に関して政策面で行うべきは、良く知られています。それは難しい役割を担って、それを果たすことです。
今回も多くの人々にお話ししましたし、他のところでもこれまで述べてきたことですが、このことに関しては、
韓国の高いGESと高い水準にある富を見て、それをどう見習って模倣するかを考えることが最良の途であると思
います。
エチオピア−唯一 N-11 に入らなかった国
何人かの人とお話しした際に、エチオピアのことが話題になりました。また、最近行われたイタリアでの国際的
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な集まりで注目された国でもあります。この国はもちろん、経済規模が非常に小さく、おそらく500億米ドルを
わずかに上回る程度だと思います。それが原因で、2005年、当社(ここではゴールドマン・サックス・アセット・
マネジメントを指します)は、この国をN-11に入れませんでした。しかし、過去10年間で年率10%の成長を遂げ、
その潜在能力は見るべきものがあるようです。したがって、次に、アジア、欧州、あるいは南アメリカから政策
立案者が私を訪れ、2,000万人から4,500万人の人口を擁する国が「高い経済成長をしているにも関わらず」N-11
に含まれていないのはなぜなのだと聞かれれば、エチオピアは8,000万人の人口を擁し、しかも年率10%で成長
しているのに、皆さんの国は、そんなに成長していないからですと答えることになるでしょう。おそらくエチオ
ピアは、N-11のオーレ・グンナー・スールシャール(マンチェスター・ユナイテッドに長年在籍したノルウェー
の元サッカー選手。世界最高の「スーパーサブ」として知られた)となり得るのではないかと思います。
手招きする日本
あと3週間の任期中にも、私のめまぐるしい出張は続きます。来週後半には東京にいる予定です。私のゴールド
マン・サックスでの最後の旅に昔の仲間とも会えそうなので、記憶に残る旅になると思います。
ジム・オニール
ゴールドマン・サックス・アセット・マネジメント会長
(原文:4 月 13 日)
Nigeria, Africa, the N-11 and
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the World
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本資料に記載されているゴールドマン・サックス・アセット・マネジメント(GSAM)会長ジム・オニール(以
下「執筆者」といいます。)の意見は、いかなる調査や投資助言を提供するものではなく、またいかなる金融商
品取引の推奨を行うものではありません。執筆者の意見は、必ずしもGSAMの運用チーム、GSグローバル・イ
ンベストメント・リサーチ、その他ゴールドマン・サックスまたはその関連会社のいかなる部署・部門の視点を
反映するものではありません。本資料はGSグローバル・インベストメント・リサーチが発行したものではあり
ません。追記の詳細につきましては当社グループホームページをご参照ください。
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