1 代替財の価格の変化 • みかんの価格が上昇(低下)すると、みかんの代 替財であるりんごの需要曲線は右(左)へシフトす る。(第2章) • 図3.2は、みかんの価格が上昇したことによりりん ごの需要曲線が右シフトしたとき、りんご価格が どのように変化するかを示している。 • みかんの価格上昇前: りんごの供給曲線Sとりんごの需要曲線D0の交 点E0で、りんごの価格P0とりんごの均衡需給量 Q0が決まる。 経済学 第3章 価格の決定とその変化 3.2 需要曲線のシフトと財の価格の変化 中村学園大学 吉川卓也 2 図3.2 代替財の価格の上昇と価格の変化 • みかんの価格上昇後: ①りんごの供給曲線はSのまま。 ②みかんの価格の上昇により、代替財であるりんごを買う 人や一度に買う量が増える。 ③したがって、同じりんごの価格でりんごの需要が増加す るので、りんごの需要曲線は右にシフトしてD1となる。 ④りんごの供給曲線Sとりんごの需要曲線D1の交点E1で、 りんごの価格P1とりんごの均衡需給量Q1が決まる。 • みかんの価格の上昇前後を比較すると、みかんの価格 上昇後は、りんごの価格はP0からP1に上昇し、均衡需給 量はQ0からQ1に増加している。 価格 S E1 P1 P0 E0 D1 D0 0 Q0 Q1 りんごの需給量 3 4 2 「需要が増えると価格が上昇する」という意味 • 「りんごの価格だけが低下すると、りんごの需要 量は増える」 →価格↓=>需要↑ • 「りんごの需要が増えると、りんごの価格は上昇 する」 →価格↑=>需要↑ • この2つの現象は、矛盾しているように感じる。 • 「需要曲線上の需要の変化」と「需要曲線のシフト による需要の変化」は違う。 • 他の要因(みかんの価格、所得など)を一定とし て、「りんごの価格だけが低下すると、りんごの需 要量は増える」のは、需要曲線上の価格と需要 の関係。 • 他の要因が変化したとき(たとえばみかんの価格 が上昇したとき)、りんごの需要曲線が右にシフト して、「りんごの需要が増えると、りんごの価格は 上昇する」のは、需要曲線のシフトによる価格と 需要の関係の変化。 5 6 1 3 補完財の価格の変化 (1)なぜ需要の増加とともに価格が上昇するのか (2)「価格以外の要因」で需要が増える場合 • (他の要因が一定のとき)りんごの需要曲線上で は、「りんごの価格が上昇すれば、りんごの需要 量は減少する」 • (りんごの価格以外の要因によって、同じりんごの 価格での需要が増加して)りんごの需要曲線が右 にシフトすれば、「りんごの供給曲線と右にシフト した後のりんごの需要曲線との交点で決まるりん ごの価格は上昇する」 →りんごの供給曲線が右上がりだから。 (1)自動車の価格とガソリン価格の関係(図3.3) • 補完財の変化による価格の変化を考えるため、 ガソリン価格が上昇した場合の自動車の価格の 変化を考えてみる。 • 当初の自動車の需要曲線はD0、自動車の供給 曲線はS0。 • 当初の均衡価格はP0、均衡需給量はQ0。 7 8 図3.3 補完財の価格上昇と価格の変化 (2)ガソリン価格が上昇した場合 ①ガソリン価格が上昇 ②自動車を使用した際のコストが上昇。 ③自動車の利用の減少。 ④新規に自動車を購入したり、買い換え需要は減少。 • 以上から、ガソリン価格が上昇すると、自動車の需要曲 線は左にシフトする。(同じ価格では、自動車の需要は減 少する) • 自動車の需要曲線はD1にシフトし、自動車の供給曲線 S0との交点はE0からE1へ移動。 • 新たな均衡価格はP1へ低下、均衡需給量はQ1へ減少。 価格 S E0 P0 P1 E1 D0 D1 0 Q1 Q0 自動車の需給量 9 (3)現実との整合 • 今までの説明は、自動車市場が完全競争市場で あると仮定している。 • 自動車市場は、現実には完全競争市場ではない。 • その場合、ガソリン価格の上昇がわずかだったり、 短期的なものだったりする場合は、「ガソリン価格 が上昇すると、自動車価格は低下する」という結 論が現実には妥当しないかもしれない。 • しかし、ガソリン価格の上昇が一時的でなければ、 高い市場シェアをもった自動車会社も、自社の自 動車需要の減少に直面し、価格を引き下げなけ れば売れなくなるといえる。 11 10 • したがって、ここでの分析目的に限れば、自動車 市場を完全競争市場と仮定して分析することは 不適切な仮定ではないといえる。 12 2 4 所得の変化と価格の変化 図3.4 所得の変化と価格の変化 (1)消費者の所得の変化 • 消費者の所得が増加すると、正常財(上級財)の需要曲 線は右に、劣等財(下級財)の需要曲線は左にシフトす る。 • 液晶テレビの需要曲線と供給曲線(図3.4)で、当初の均 衡点は、E0で、均衡価格はP0、均衡需給量はQ0である。 (2)均衡価格の上昇 価格 S E1 P1 P0 E0 D1 • 消費者の所得が増加すると、正常財である液晶テレビの 需要曲線はD1のように右へシフトする。 • 新たな均衡点はE1で、均衡価格はP1に上昇、均衡需給 量はQ1へ増加する。 13 D0 0 Q0 Q1 液晶テレビの需給量 14 図3.5 天候の変化と価格の変化 5 その他の要因の変化による需要曲線のシフトと価格の変化 (1)暖冬の影響 • 冬物衣料品と暖冬の関係を考えてみる。(図3.5) • 暖冬になると、冬物衣料品の需要は減少すると 考えられる。 • 需要曲線はD0からD1へ左へシフトする。 • 均衡点はE0からE1へ移動し、均衡価格はP0から P1へ低下し、均衡需給量はQ0からQ1に減少する。 価格 S E0 P0 P1 E1 D0 D1 15 0 Q1 Q0 冬物衣料品の需給量 16 6 供給の価格弾力性 (1)価格の変化に対する供給量の変化 • 需要曲線がシフトしたときに、価格がどれだけ変 化するかは、以下の要因に依存する。 ①需要曲線のシフトの大きさ ②価格の変化によって供給量がどれだけ変化する か • ここでは、①の需要曲線のシフトの大きさを一定 として、②の要因について考える。 (2)供給の価格弾力性 • 供給の価格弾力性とは、価格がX%変化したとき に供給量が何%変化するかを示す数値である。 供給量の変化 価格の変化 ÷ 当初の供給量 当初の価格 = 供給量の変化率 ÷ 価格の変化率 供給の価格弾力性 = 17 18 3 図3.6 供給の価格弾力性 • 図3.6で、価格P0のとき供給量はQ0、価格がP1へ 上昇したとき、供給量はQ1に増加する。 • 価格がP0からP1へ上昇するときの供給の価格弾 力性は、以下の式で求められる。 価格 S P1 Q1 − Q0 P1 − P0 (3.2) ÷ Q0 P0 B P0 19 (3)弾力性が大きい=変化に大きく反応 • 供給の価格弾力性が大きいほど、供給量は価格 の変化に対して大きく変化する。 (4)1より大:価格弾力的、1より小:価格非弾力的 • 一般に、 ①供給の価格弾力性>1ならば、供給は価格弾力 的 ②供給の価格弾力性<1ならば、供給は価格非弾 力的 A Q0 0 Q1 需給量 20 (例)P0=100、P1=120、Q0=1000、Q1=1100のとき、 供給の価格弾力性を求めなさい。 (答)これらの数値を(3.2)式に代入する。 Q1 − Q0 P1 − P0 ÷ Q0 P0 1100 − 1000 120 − 100 ÷ 1000 100 100 20 100 100 1 = ÷ = × = 1000 100 1000 20 2 = 0.5 = 21 22 7 供給曲線の傾きと供給の価格弾力性 • 供給の価格弾力性が0.5ということは、価格が1% 上昇(低下)すると、供給が0.5%増加(減少)する ことを意味する。 23 • 供給の価格弾力性は、供給曲線の傾きと関係が ある。(図3.7) ①「財Xの供給曲線S0の傾き<財Yの供給曲線S1 の傾き」( =S0はS1より水平)である。 ②当初の価格がP0のとき、どちらの財の供給量も Q0である。 ③このとき、どちらの財の価格も同じだけ上昇して、 P1になったとする。 ④財Xの供給量はQ2 、財Yの供給量はQ1に増加す る。このとき、 Q2 >Q1である。 24 4 図3.7 供給の価格弾力性と供給曲線の傾き S1 価格 • どちらの財についても、価格の変化率は同じ。 →どちらの財も、価格の変化分はP1-P0、当初の価格は P0だから。 • 一方、財Xの供給量の変化率は、財Yの供給量の変化 率より大きくなっている。 →財Xの供給量の変化分Q2 -Q0は、財Yの供給量の変化 分Q1 -Q0より大きいから。 • したがって、価格がP0 から P1 に上昇するとき、 財Xの供給の価格弾力性>財Yの供給の価格弾力性 • つまり、「供給曲線の傾きが緩やか(水平)な方が、供給 の価格弾力性は大きい。」 S0 B C P1 P0 A Q0 0 E D Q2 Q1 需給量 25 26 8 需要曲線のシフトと供給の価格弾力性 • 図3.8は、供給曲線の価格弾力性が大きい(傾き が緩やかな)ケースで、需要曲線が右へシフトし た状況を示している。 • 需要曲線がD0からD1へ右へシフトすると、 ①価格はP0からP1へわずかに上昇 ②均衡需給量はQ0からQ1へ大きく増加 • このとき、市場では以下のことが起きている。 ①需要曲線の右シフトにより、需要が増える。 ②価格が上昇する。 ③供給が大きく増える。 (1)工業製品の場合 • 工業製品(家電製品、パソコンなど)は、価格の変 化に対応して供給量を調整しやすい。 • したがって、工業製品は供給の価格弾力性が大 きい。 • たとえば、消費者の所得増加により需要が増えて も、価格はあまり上がらず、需要の増加に対応し て供給量が増える傾向にある。 27 図3.8 供給の価格弾力性と需要曲線のシフト 供給の価格弾力性が大きいケース • 図3.9は、供給曲線の価格弾力性が小さい(傾き が急な)ケースで、需要曲線が右へシフトした状 況を示している。 • 需要曲線がD0からD1へ右へシフトすると、 ①価格はP0からP1へ大きく上昇 ②均衡需給量はQ0からQ1へわずかに増加 • このとき、市場では以下のことが起きている。 ①需要曲線の右シフトにより、需要が増える。 ②価格が上昇する。 ③供給がわずかに増える。 価格 S E1 P1 P0 E0 D1 D0 0 Q0 Q1 需給量 28 29 30 5 図3.9 供給の価格弾力性と需要曲線のシフト 供給の価格弾力性が小さいケース (2)農産物・天然資源の場合 • 農産物や天然資源は、需要が変化しても供給量を直ち に変化させられない。 (3)石油の供給例 S 価格 E1 P1 • たとえば、石油の需要曲線が右にシフトして石油価格が 上昇しても、短期に石油の生産を増やすことは難しい。 • そのため、短期的な石油の供給曲線の傾きは急になり、 石油の供給の価格弾力性は小さくなる。 • ただし、長期的には、価格の上昇に対応して新しい油田 開発などによって石油の供給量も増えるので、石油の供 給の価格弾力性の大きくなる。 31 P0 E0 D1 D0 0 Q0 需給量 Q1 32 図3.10 供給の価格弾力性と需要曲線のシフト 供給の価格弾力性が無限大のケース 9 無限大とゼロの供給の価格弾力性 (1)弾力性無限大の場合 • 図3.10の供給曲線Sは、横軸に水平な直線。 • この場合、以下のことがいえる。 ①価格が上昇しなくても、供給量は需要の増加に 応じていくらでも増加する。 ②このとき、供給の価格弾力性は無限大になって いる。 ③需要曲線がシフトしても価格は変化しない。 • このようなケースは、今までよりも費用をかけるこ となく、需要の変化に応じて生産を調整できる工 業製品に当てはまる傾向がある。 価格 P0 E0 E1 S D1 D0 33 (2)弾力性ゼロの場合 • 図3.11の供給曲線Sは、横軸に垂直な直線。 • この場合、以下のことがいえる。 ①価格が上昇しても、供給量は増加しない。 ②このとき、供給の価格弾力性はゼロになっている。 ③需要曲線がシフトすると、価格が大きく変化するが、均衡 需給量は変化しない。 • このようなケースは、短期的に需要の変化に応じて生産 を調整できない農産物などに当てはまる傾向がある。 • 長期的には、農産物も作付面積や輸入の増減により供 給量を調整できるので、農産物の供給曲線も緩やかな 右上がりの曲線になると考えられる。 35 0 Q0 Q1 需給量 34 図3.11 供給の価格弾力性と需要曲線のシフト 供給の価格弾力性がゼロのケース 価格 S E1 P1 P0 E0 D1 D0 0 Q0 需給量 36 6
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