はじめに

はじめに
1995年のWindows95登場によって、パソコンの導入は一気に加速し
ユーザーの過失か、性悪な行為かを問わず、パソコンに端を発する情
た。企業では1人に1台が行きわたり、メールによる情報交換、業務シス
報漏洩問題は後を絶たない。ノートパソコンの社外への持ち出し禁止を
テムの操作のすべてがパソコンを前提に構築されるようになり、ITイン
掲げる企業もある。
フラとして不可欠な存在になっている。
セキュリティ強化の一環として、シンクライアントの導入を検討して
2005年の日本国内のパソコンの出荷台数は1200万台を超え、企業向け
いる企業も多い。ネットワークの広帯域化と低価格化が、シンクライア
だけでも700万台以上が出荷されている。産業としても1兆3000億円の一
ントの普及に弾みをつけている。ブレード・サーバーやブレードPCとい
大市場である。
った製品や、運用管理のためのソフトウエアが充実してきたことも、これ
パソコンの能力の向上もすさまじく、搭載されるプロセッサの処理能
を後押ししている。
力は、一昔前の大型サーバーに引けを取らない。卓上に設置された1200
シンクライアントを利用する場合には、通常のパソコンが1台で提供す
万台の演算処理能力の総和は、同時期に出荷されたサーバーの処理能力
る情報の「表示」
(ディスプレイ)と「演算」
(CPU)、
「記憶」
(ハードディス
の合計を1ケタ上回る。ストレージに目を向けても、年間に出荷されるパ
ク)
という機能を、物理的に分割しネットワークを通じて接続する。
ソコンの内蔵ハードディスクの総容量は、サーバー向け外付けディスク
このことを「機能の分割と再配置」と称している。
の7倍以上だ。
個々の機能ごとに最適な運用管理を実現することで、セキュリティの
一方、パソコンを利用するための煩雑さも増している。導入設置、資
強化と運用コストの低減を両立させている。
産管理、ヘルプデスク、認証、検疫、ユーザーの監査、故障対応から廃
本書では、シンクライアントに適した業務、導入事例、実装技術、企業
棄処理まで、ライフサイクル全体への対応が迫られている。数千台から1
のITインフラへの適用について、
「機能の分割と再配置」という考え方に
万台を超すパソコンを管理する企業の負荷は甚大である。
基づいて解説している。
パソコンを保有する際のTCO(Total Cost of Ownership、総所有コ
スト)は想像以上に大きく、ITインフラの根幹を占めるクライアント環
境がどうあるべきなのか、その方向性が問われている。
そこで注目されているのが、シンクライアントである。セキュリティ対
策に有効だということが強調されるが、製品の歴史をたどると、運用コ
微力ながら、シンクライアント・システムの導入に際して、一助とな
れば幸いである。
2006年8月
松本 光吉
ストの削減を目指して誕生したことがわかる。
2
3