1.1 アナログ画像情報の3次元表示

1.1 アナログ画像情報の3次元表示
画像の実態は光である。光の強弱、波長の違いが人
間の網膜上の視神経を刺激し、脳の中で、「イメージ」
として認識される。自ら発光している被写体や、被写
体の表面で反射した光が画像情報を形成する。光の
強弱は、画像の明暗濃度(輝度濃度)となり、光の波
長の違いは、色として検知される。これを画像信号処
理では、明暗度や色情報の強度分布が、2次元平面
上に展開された情報信号と解釈する。
Fig1及びFig2は、明暗濃度の変化のみで構成された
白黒画像と、その強度分布の3次元グラフへの表示で
ある。2次元空間に展開されたアナログ信号分布とし
て考えると、空間座標のX軸方向に水平座標点x、y軸
方向に垂直座標yの2つの変数を持つ、2変数関数f
(x,y)と定義することができる。関数f(x,y)の出力yが
画像の強度を表す情報となる。
変数x,yと関数出力yの3変数が連続である画像を、
アナログ画像という。実際のディジタル信号処理におい
ては、このアナログ画像情報(光)を電気信号に変換し
て(光電変換)して、前述した3変数が離散的な値にな
るように、ディジタル化する。画像のディジタル化は次
の2つの観点で行われる。
*画像の標本化(Sampling)
座標(x,y)を離散的な値に変換する空間的離散化。
生成された離散的データ点を画素(Pixel)という。
*画像の量子化(Quantization)
強度yを離散的な値に変換する振幅方向の離散化。
離散化された画像は、ディジタル画像として、コンピュー
タ上で処理され、さまざまな画像処理が施される。
Mfile:Img3D
Fig1 画像の2次元及び3次元表示<事例1>
a
a
b
Fig2 画像の2次元及び3次元表示<事例2>
b
Mfile:IMSS0
1.2 画像情報の標本化
連続なアナログ信号を、離散的なディジタル信号に変換する処理が、標
本化(Sampling)である。Fig1が連続時間の1次元信号の標本化処理で
ある。時間の経過と共に、振幅が連続的に変化する信号Fig1aを、時間
間隔T秒毎に存在する単位インパルス関数σ(nT) Fig1bで抜き出すこと
で、連続信号Fig1aは、離散時間信号Fig1cとなる。数学的には、連続信
号Fig1aと単位インパルス関数列Fig1bを乗算する。単位インパルス関数
はデラックのデルタ関数ともいわれ、サンプリング点で1(大きさが無限大、
幅が無限小、面積が1)、それ以外で0の値を持つ関数である。サンプリン
グ間隔Tの逆数1/Tがサンプリング周波数fsである。
a
画像信号の標本化処理は、2次元空間に
連続的に変化する画像強度の変化を2次
元空間にサンプリング間隔T毎に配置され
た2次元単位インパルス関数で標本化する。
Fig2が実際の画像の標本化処理である。
b
連続的な強度変化を持つ2次元画像信号
Fig2aを、2次元平面上に等間隔に並んだ
単位インパルス関数列δ(Px,Py)Fig2bに
よって構成されたN×Mの方形標本格子で、
3次元局面をうちむく、これにより水平N画
c
素、垂直M個の画素で構成されたディジタ
ル画像が生成される。空間サンプリング間
隔Tの逆数1/Tが画像の空間サンプリング
周波数fsとなる。
Fig1 1次元信号の標本化処理
Fig2 2次元画像の標本化処理
a
b
c
2.1 移動平均フィルタによる平滑化処理
Mfile:FAVEmex / FAVEm(N)
Fig1 NxN移動平均フィルタマトリクス
注目画素を中心とする近傍領域の画素の平均値を、
その画素の代表値(移動平均値)として算出する処
理が移動平均平滑化処理である。
Fig1に示すように、移動平均平滑化を行う領域の
画素に乗算される重み係数は、平均化であるため、
均一であり、水平N画素、垂直N画素の場合、1/K=
1/(NxN)である。
例えば、3x3の場合は1/9を、9x9の場合は1/81
を重み係数として指定された領域の画素に乗算し、
総和を取ることで注目画素の値を算出する。
Fig2の原画像aを移動平均マトリクスの次数N=3,
5,9と増加した場合の平滑化処理の結果をb,c,dに
示す。次数の増加に従い、画像の高周波成分は平
滑化され、細かい繰り返し模様や、エッジ成分が「ぼ
けた」画像になっている。ガウスノイズのような、高周
波成分にエネルギーが集中しているノイズの除去な
どの効果はあるが、演算の次数が上がる程、平均処
理によって本来の画像の高周波情報まで失ってしま
う。
1/K
Fig2
1/K
1/K
K= N x N
注目画素を中心とした
NxNの画素領域の画
素値の平均を求める。
1/K
1/K
1/K
1/K
1/K
1/K
移動平均フィルタによる平滑化処理画像
a 原画像
b
c
d
2.2 加重平均フィルタによる平滑化処理
加重平均フィルタは、移動平均フィルタのように、
処理を行う領域の画素にすべて同じ重み係数を
掛けるのではなく、注目する画素の重み係数が大
きく、周辺画素の重み係数が、これより小さく設
定されたマトリクスを用いて演算を行う。注目画
素に対して、周辺画素の関与が少ない平滑化処
理が実現できる。
Fig1が加重平均マトリクスの重み係数の設定手
法である。注目画素の係数A0に対して、周辺画
素のA1〜A8の重み係数は、独立に設定でき、
A0を他の係数より大きくする程、平滑化処理の
近傍画素の影響が小さくなってくる。A0〜A8の
総和Kで計算値を割ることで、直流成分の変動を
抑える。
Fig2は3種類の加重平均マトリクスによる平滑
化処理した画像である。h1のマトリクスは注目画
素に対して、水平:垂直方向の近傍画素に対して
処理を行うもので、斜め方向の成分に関しては、
平滑化処理を行わない。h2、h3は、注目画素の
重み係数が一番大きく、近傍画素の影響を抑え
て処理が実現できる。
Mfile:FAVEpex
Fig1 NxN 加重平均フィルタマトリクス
A1/K
A2/K
A4/K
A0/K
A5/K
A6/K
A7/K
A8/K
Fig2
1/5
1/5
1/5
K:A0〜A8の総和
注目画素の係数A0
に対して、周辺画素
のA1〜A8の重み係
数は、独立に設定
加重平均フィルタによる平滑化処理画像
マトリクス h1
0
1/5
0
A3/K
0
1/5
0
マトリクス h2
マトリクス h3
1/16 2/16 1/16
2/16 4/16 2/16
1/16 1/16 1/16
1/10 1/10 1/10
1/10 2/10 1/10
1/10 1/10 1/10
Mfile:sinmix / cosmix
5.1 フーリエ級数
周期性のある信号は、どんなに複雑な波形でも、単純な周
期関数の総和で表すことができる。Fig1は、この元になる周
期関数にSIN関数を用いて、任意の周期信号を合成した事
例である。合成するSIN関数の周波数のうち、最も低い周波
数のSIN波を、「基本波」といい、これ以上の周波数を持つ
SIN波を「高調波」という。
この基本波の奇数倍の周期を、持つSIN波で合成した波形
が、Fig1(a)であり、方形波となっている。Fig1(b)は、基本
波の偶数倍のSIN波で合成したもので、三角波となっている。
Fig2(a)、(b)は、COS波で同様の合成を行った事例である。
周期関数の合成にとって最も重要なことは、合成される信号
の周期性を維持するために、高調波の周波数は、基本波の
整数倍である必要がある。(基本波がゼロになるところで高
調波成分もゼロになる必要がある。) 周期的な信号は、SIN
波、CIS波を基本波とし、この整数倍の高調波を組み合わせ
て、総和をとることで必ず合成できる。周期関数合成に使用
したSIN、COS成分の係数列を称して、「フーリエ級数」という。
Fig3は、周期信号f(t)のフーリエ級数式であり、a0は信号
f(t)の1周期における平均値、すなわち直流成分である。
Fig3 周期信号f(t)のフーリエ級数式
∞
f(t) = a 0 + ∑(ancos 2Tπn t + bnsin 2Tπn t)
n =1
Fig1 SIN波3次高調波までの合成波形
a
b
Fig2 COS波3次高調波までの合成波形
a
b
Mfile:sinsin / sincos / coscos / cossin
5.2 直交基底
信号の周波数解析は、ターゲットとなる信号に、解析のもと
になる評価信号が、どの程度含まれているかを求めることで
ある。この評価信号となる関数のことを、「基底関数」といい、
抽出された成分を、「基底成分」という。
フーリエ級数における基底関数は、SINとCOSの三角関数で
ある。FIg1は、各周波数成分におけるフーリエ級数を求める
式であり、基底関数であるSIN,COS関数と信号x(t)を周期T
の区間の畳込み積分で算出される。
Fig2 SIN波基底同士の内積
Fig1 フーリエ級数の係数算出式
an = T1 ∫ x (t)cos 2Tnπ tdt bn = T1 ∫ x (t)sin 2Tnπ tdt
T
T
0
0
最適な基底関数に成りえる条件としては、基底関数同士が
互いに影響し合わないことが重要である。基底関数をベクト
ルと考えると、他の基底関数とのベクトルの内積がゼロであり、
かつ、それ自身の内積が1になるような関数を選ぶことで、精
度の高い解析が実現できる。内積がゼロの2つのベクトルのな
す角度は90°であることから、この基底関数群を「直交基底」
という。
SIN6πtの基底関数に、同一周波数のCOS基底及び周波
数の異なるSIN、COS基底の内積をとった結果を、Fig2、Fig3
に示す。SIN6πt以外との内積の結果は、すべてゼロになって
いる。SIN、COS基底は、直交基底である。
Fig3 SIN波基底とCOS基底の内積
6.18 ウェーブレットファミリー(1):マザーウェーブレット関数
Mfile: WGausPlot / WMorlPlot / WMhatPlot
ウェーブレット変換において、マザーウェーブレットとして選択される関数になるためには、観測信号を個々の
ウェーブレットに分解でき、且つ分解された個々のウェーブレットを合成して、再び元の観測信号に再構成でき
るような基底関数の元となる波動関数でなければならない。
Fig1 連続ウェーブレット変換のみ可能なマザーウェーブレット
<マザーウェーブレット関数の必要条件>
(1)マザーウェーブレット関数の無限区間での積分値が
ゼロであること(アドミシッブ条件の成立)。
(2)関数が連続であること(1次微分)。
(3)時間軸上で無限方向に進むに連れて、急速にゼロ
に収束するか、ある決められた有限区間以外はゼロで
あること。
*ある決められた有限区間のみ波形が存在することを、
「コンパクトサポートを持つ」という。
但し、この条件のみでは、連像ウェーブレットt変換は
可能であるが、離散ウェーブレット変換は不可能である。
離散ウェーブレットのマザーウェーブレットとなるために
は、後述する「直交ウェーブレット」としての性質が条件
として追加される。Fig1に連続ウェーブレット変換のみ
可能な代表的なマザーウェーブレット関数を示す。
スケーリング関数
Mfile
WGausPlot
Gaussian
WMorlPlot
Meyer
WMhatPlot
Mexican
hat
6.19 ウェーブレットファミリー(2):直交ウェーブレット
直交ウェーブレット関数には、ウェーブレット
関数と対になるスケーリング関数が存在して
おり、この双方の関数をペアにして、観測信
号をレベル毎に分解することで、離散ウェー
ブレット変換を可能にしている。
Mfile:WHaarPlot / WMeyerPlot(2)
/ WDbPlot(2) / WSymPlot(2)
/ WCoifPlot(2)
Fig1 直交性を持つマザーウェーブレット(直交ウェーブレット)
スケーリング関数
ウェーブレット関数
Mfile
WHaarPlot
<直交Waveletの条件>
(1)変換前の観測信号の離散値はスケーリ
ング関数を基底関数として表現できる。
(2)ウェーブレット関数とスケーリング関数は、
直交する。両関数の内積がゼロ:干渉しない。
(3)両関数の無限区間での積分値
ウェーブレット関数=0
スケーリング関数=1
(4)トゥースケール関係が成立
伸張されたスケーリング関数、ウェーブレッ
ト関数は、分解レベルによらず決まっている
分解数列で補間することで、伸張前のスケー
リング関数を復元することができる。言い換
えるなら、伸張前のスケーリング関数を基底
関数として、伸張後のウェーブレット関数、ス
ケーリング関数が生成される。
Haar
WMeyerPlot(2)
Meyer
WDbPlot(2)
Daubechies
WSymPlot(2)
Symets
WCoifPlot(2)
Coifets
6.20 ウェーブレットファミリー(3):双直交ウェーブレット
Mfile: WBiorPlot(3.9)
スケーリング関数とウェーブレット関数の整数トランスレート同士は直交していないが、それと対をなし直交
関係にある「共役ウェーブレット関数」「共役スケーリング関数」が存在し、この双対関係にある関数にて、離
散ウェーブレット変換を行う。
<双直交ウェーブレットの条件>
(1)双対な関係にある「スケーリング関数」と「共
役スケーリング関数」同士は直交する。
(2)双対な関係にある「ウェーブレット関数」と「共
役ウェーブレット関数」同士は直交する。
(3)線形位相の性質を持つ。
Fig1 双直交ウェーブレット
Biorthogonal3.9
分解用スケーリング関数
分解用ウェーブレット関数
故に分解用、再構成用それぞれのスケーリング関
数及びウェーブレット関数が存在する。
再構成用スケーリング関数 再構成用ウェーブレット関数