アクサ損害保険株式会社 代表取締役社長 藤井靖之 殿 2012年9月20日 内閣総理大臣認定適格消費者団体 特定非営利活動法人消費者支援ネット北海道 理事長 向 田 直 範 〒060-0004 札幌市中央区北 4 条西 12 丁目ほくろうビル 4F 電話:011-221-5884 / FAX:011-221-5887 申入書 当NPO法人は、消費者問題に関する調査・研究、消費者への情報提供等を通じて、消 費者被害を未然に防止することを目的に、消費者団体と、消費生活専門相談員・学者・弁 護士・司法書士などの消費者問題専門家により構成されているNPO法人です(詳細は当 NPO法人のホームページ URL http://www.e-hocnet.info/index.php をご参照下さ い。 ) 。 また、平成22年2月25日からは「消費者契約法」に基づき、内閣総理大臣の認定を 受け、差止請求関係業務(不特定かつ多数の消費者の利益のために差止請求権を行使する 業務並びに当該業務の遂行に必要な消費者の被害に関する情報の収集並びに消費者の被害 の防止及び救済に資する差止請求権の行使の結果に関する情報の提供にかかる業務)を行 なえる「適格消費者団体」としての活動も開始しております。 昨年来、当NPO法人では、自動車保険の商品内容に組み込まれている、いわゆる「人 身傷害保険」に関する消費者問題を調査・研究してきました。また、消費者が不利益を被 らないように各保険会社に対する申入活動も行ってきました。これまでの活動内容につい ては、当NPO法人のホームページでも公表しておりますので、是非、ご覧ください。 URL http://www.e-hocnet.info/detail.php?ct=mo&no=196 当NPO法人は、人身傷害保険の約款のうち、重度後遺障害を負った被害者に対して、 契約保険金額の2倍の保険金が支払われる条項(以下「倍額条項」といいます。 )の有無に ついての調査を行い、貴社からも、平成23年8月17日付及び平成24年3月23日付 で御回答をいただいております。 当NPO法人は、これまでの調査結果をふまえ、以下のとおり、申入いたします。 1 第1 申入の趣旨 貴社の自動車保険が、他の保険会社や共済組合の取り扱う自動車保険・共済と比較 して、 同じ補償内容で保険料が安い旨の広告を行うことを中止するよう申し入れます。 また、本申入に対する貴社の対応について、平成24年10月末日までに、御回答 いただきたくお願い申し上げます。 第2 申入の理由 1 貴社の自動車保険商品と他社の自動車保険商品について 当NPO法人が、貴社も含めた21社の保険会社(以下「保険」 「保険会社」という 場合には自動車共済、自動車共済を扱う共済組合を含みます。 )の販売している自動車 保険を調査した結果、倍額条項がないのは、貴社を含め4社のみでした。 契約件数で考えても、圧倒的多数の自動車保険の人身傷害保険には、倍額条項が附 帯していることになります。 他方、貴社の回答によれば、貴社の自動車保険には倍額条項がありません。 自動車保険は、万一の自動車事故に備えるものであり、介護が必要な重度の後遺障 害が残る事案は、保険契約者が最も深刻な経済的被害を受け、切実に補償を必要とす る場面です。その場合に、どの程度の給付がなされるのかは、保険契約者にとって、 契約を締結するか否かを判断する重要な事項の一つと考えられます。例えば、契約保 険金額が 5000 万円の人身傷害保険であれば、倍額条項がある場合とない場合では、給 付金額は最大で 5000 万円も異なりますので、この相違は、保険契約者である消費者が 契約を締結するか否かを判断するにあたって極めて重大な相違と考えられます。 2 貴社の広告内容 貴社は、インターネットのホームページにおいて、広告を行っております。 http://www.axa-direct.co.jp/auto/product/premium/index.html この中では、例えば、 「ホンダフィット」というタイトルのもとで「国内損害保険会 社4社の内最も高い保険料とアクサダイレクトを比べてみると・・」との文章の下に、 グラフを掲げて、B社(54,860 円) 、C社(53,470 円) 、A社(52,640 円) 、D社(45,430 円)と記載したうえで、これと比較する趣旨で、貴社の自動車保険の保険料について 「インターネット割引前 31,810 円 43.1%OFF!!」 、 「インターネット割引後 28,310 円」などと記載されております。 また、この記載の下に「お見積り」というボタンがあり、これをクリックすると、 実際に保険料の見積が可能となっております。この見積の設定項目の中には、人身傷 害保険についての設定項目もありますが、そこで設定できるのは、特約自体について 2 「あり」 「なし」 「搭乗中のみ補償」の3択と、保険金額の選択をする内容となってお ります。 以上のような貴社の一連のインターネット上の広告を見て、自動車保険の見積を行 った消費者は、次のような認識を持つことは明らかです。 そもそも、 補償内容が異なるのであれば、 比較すること自体が無意味なのですから、 貴社の広告を見た通常の消費者は、比較対象とされている大手4社に比べて、貴社の 自動車保険は 「同じ補償内容で保険料が安い」 という印象を受けることが明らかです。 見積の設定において、当該消費者が現在契約している自動車保険(貴社以外)の条件 と同じ設定にしたうえで、見積の結果、貴社の保険料が安価である場合には、なおさ ら、そのような印象を強く受けると思われます。 しかしながら、上記1のとおり、貴社の自動車保険商品の人身傷害保険の内容は、 保険契約者が最も切実に経済的補償を必要とする場面において、他社の半額しか給付 がなされない場合があるものであり、同じ補償内容とは到底いえません。 3 貴社の広告の問題点 貴社の広告は、法令に照らして、以下の点で極めて問題があり、消費者に不利益を 与えるものと考えております。 (1) 保険業法300条1項6号 保険業法300条1項6号は、禁止行為の一つとして、以下のとおり規定してお ります。 保険契約者若しくは被保険者又は不特定の者に対して、一の保険契約の契約内容につき 他の保険契約の契約内容と比較した事項であって誤解させるおそれのあるものを告げ、又 は表示する行為 そして、金融庁は「保険会社向けの総合的な監督指針」Ⅱ-3-3-6において は、保険業法300条1項6号の解釈につき、次のとおり指摘しています(下線は 当NPO法人が引いたものです。 ) 。 (6)法第 300 条第 1 項第 6 号関係 ① 保険契約に関する表示(告げることを含む。以下同じ。 )に関し、顧客の十分な理解が得 られるような措置が講じられているか。商品の特性に応じた表示となっているか。なお、 表示には次に掲げる方法により行われるものを含むものとする((7)において同じ。 ) 。 ア. パンフレット、ご契約のしおり等募集のために使用される文書及び図面 イ. ポスター、看板その他これらに類似するものによる広告 3 ウ. 新聞紙、雑誌その他の出版物、放送、映写、演劇又は電光による広告 エ. インターネット等による広告 オ. その他情報を提供するための媒体 ② 比較表示に関し、法第 300 条第 1 項第 6 号に抵触する行為には次の事項が考えられる。 ア.客観的事実に基づかない事項又は数値を表示すること。 イ.保険契約の契約内容について、正確な判断を行うに必要な事項を包括的に示さず一部 のみを表示すること。 (注1)「契約概要」を用いた比較表示(それぞれの「契約概要」を並べる方法により行う 場合や、 「契約概要」の記載内容の全部を表形式にまとめ表示する場合等)を行う場合は、 保険契約の契約内容について、正確な判断を行うに必要な事項を包括的に示したものと 考えられる。 (注2)比較表示(その記載内容を表形式にまとめ表示する場合を含む。 )を行うに際し、以 下の各要件が全て充足されている場合には、保険契約の契約内容について、正確な判断 を行うに必要な事項を包括的に示したものと考えられる。 (ア)比較表示の対象とした全ての保険商品について、比較表示を受けた顧客が「契約概 要」を入手したいと希望したときに、その「契約概要」を速やかに入手できるような 措置が講じられていること。 例えば、a.比較表示の対象とした全ての保険商品について、比較表示と同時に「契 約概要」が提供されること、又は、b.比較表示の対象とした全ての保険商品につい て、インターネットのホームページ上に「契約概要」を表示できるようにすること、 あるいは顧客からの要望があれば遅滞なく郵送等で要望のあった「契約概要」を交付 できるようにすること等の体制を整備したうえで、これを顧客に周知すること、等が 考えられる。 (イ)比較表示に関し、以下のような注意喚起文言が記載されていること。 ・比較表には、保険商品の内容の全てが記載されているものではなく、あくまで参 考情報として利用する必要があること。 ・比較表に記載された保険商品の内容については、必ず「契約概要」やパンフレッ トにおいて全般的に確認する必要があること。 ウ.保険契約の契約内容について、長所のみをことさらに強調したり、長所を示す際にそ れと不離一体の関係にあるものを併せて示さないことにより、あたかも全体が優良であ るかのように表示すること。 エ.社会通念上又は取引通念上同等の保険種類として認識されない保険契約間の比較につ いて、あたかも同等の保険種類との比較であるかのように表示すること。 4 (注) 例えば、終身保険と定期保険のように保険期間の相違がある保険商品の比較を行う 場合や、有配当保険と無配当保険の比較を行う場合等には、商品内容の相違を明確に 記載する等、顧客が同等の保険商品と誤解することがないよう配慮した記載を行うこ とが求められる。 オ.略 カ.略 ③ 保険料に関する比較表示を行う場合は、保険料に関して顧客が過度に注目するよう誘導 したり、補償内容等の他の重要な要素を看過させるような表示を行うことがないよう配慮 されているか。 また、顧客が保険料のみに注目することを防ぐため、保険料だけではなく補償内容等の 他の要素も考慮に入れた上で比較・検討することが必要である旨の注意喚起を促す文言を 併せて記載すること等、比較表の構成や記載方法等を顧客が誤解を招かないように工夫が されているか。 (注1)契約条件や補償内容の概要等保険料に影響を与えるような前提条件を併せて記載す ることが適切な表示として最低限必要と考えられる。 (注2)顧客の年齢や性別等の前提条件に応じ適用される保険料の相違が顕著である場合に は、前提条件の相違により保険料が異なる場合があるので、実際に適用される保険料に ついて保険会社等に問い合わせたうえで商品選択を行うことが必要である旨の注意喚起 を促す文言を併せて記載することが適当と考えられる。 貴社のインターネット上の広告は、上記引用の監督指針に違反するものと思われ ます。 他社では通常支払われる保険金の半額しか支払われない場合があるにもかかわら ず(したがって、そもそも補償内容に違いのある保険商品です。 ) 、貴社の広告にお いては、そのことが示されておらず、また、上記③に指摘される配慮や工夫も、全 くなされていません。そのため、インターネット上の広告のみを見た顧客が適切な 比較をして合理的な判断をすることが困難です。 なお、 日本損害保険協会の定める 「保険募集の適正な活動に関するガイドライン」 においても、保険業法300条1項6号違反の例として「内容・条件の違う他社の 保険契約と、意図的に保険料のみを比較して、自社の保険料の方が安くて有利であ ると説明した。 」があげられています。 (2) 不当景品類及び不当表示防止法4条1項2号 不当景品類及び不当表示防止法(以下「景表法」といいます。 )4条1項2号は、 禁止行為として、次のとおり規定しています。 5 商品又は役務の価格その他の取引条件について、実際のもの又は当該事業者と同種若しくは 類似の商品若しくは役務を供給している他の事業者に係るものよりも取引の相手方に著しく 有利であると一般消費者に誤認される表示であつて、不当に顧客を誘引し、一般消費者による 自主的かつ合理的な選択を阻害するおそれがあると認められるもの 貴社の自動車保険の広告は、他の保険会社の提供する自動車保険とは、そもそも 補償内容に大きな相違があるにもかかわらず、単純に保険料のみを比較しているも のであり、そのため、消費者において「同じ補償内容で保険料が安い」旨の誤認を 与える可能性の高いものと言わざるをえません。したがって、景表法4条1項2号 に違反する恐れがあります。 なお、公正取引委員会は「比較広告に関する景品表示法上の考え方」において、 比較広告についての解釈指針を示しており、その中で、比較広告が景表法に違反し ないためには、以下の三つの要件をすべて満たす必要があるとしています。 ① 比較広告で主張する内容が客観的に実証されていること ② 実証されている数値や事実を正確かつ適正に引用すること ③ 比較の方法が公正であること 貴社の比較広告は、他社の商品内容と重要な相違点があるのに、これを表示せず に、保険料のみを比較しているものであり、上記解釈指針に照らしても、問題があ ると考えます。 (3) 消費者契約法4条 消費者契約法4条2項は、次のような勧誘行為により、消費者が意思表示をした ときは、これを取り消すことができるとしております。 消費者は、事業者が消費者契約の締結について勧誘をするに際し、当該消費者に対してあ る重要事項又は当該重要事項に関連する事項について当該消費者の利益となる旨を告げ、か つ、当該重要事項について当該消費者の不利益となる事実(当該告知により当該事実が存在 しないと消費者が通常考えるべきものに限る。 )を故意に告げなかったことにより、当該事実 が存在しないとの誤認をし、それによって当該消費者契約の申込み又はその承諾の意思表示 をしたときは、これを取り消すことができる。 6 上記は、 「不利益事実の故意の不告知」と呼ばれる勧誘行為ですが、ここでいう「重 要事項」の意味について、同法4条4項において、次のとおり規定されています。 第一項第一号及び第二項の「重要事項」とは、消費者契約に係る次に掲げる事項であって 消費者の当該消費者契約を締結するか否かについての判断に通常影響を及ぼすべきものをい う。 一 物品、権利、役務その他の当該消費者契約の目的となるものの質、用途その他の内容 二 物品、権利、役務その他の当該消費者契約の目的となるものの対価その他の取引条件 保険料の額は、消費者が契約をするか否かの判断をするにあたって、極めて重要 な事項です。この点について「他社より保険料が安い」旨の表示は、利益となる旨 を告げていることは明らかです。他方、前記1のとおり、倍額条項が存在しない場 合には自動車事故によって最も深刻な経済的被害を受けた場合の補償額が数千万円 単位で少なくなるのですから、この点が「不利益となる事実」であることも明らか です。そして、貴社のインターネット上の広告を見た消費者は、他の保険会社の自 動車保険の補償内容と同程度の補償がなされると通常考えるといえます。そうする と、貴社の広告は、重要事項について利益となる旨を告げ、かつ、当該重要事項に ついて不利益事実を告げていないことになると考えられます。 また、当NPO法人が、平成24年2月20日付の質問書において、他の保険会 社の自動車保険商品には一般的に倍額条項が附帯されている旨を通知しましたので、 以後の勧誘は「故意」に行われていることとなります。 よって、貴社の広告は消費者契約法4条2項に規定する「不利益事実の故意の不 告知」に該当する勧誘行為であると考えられます。 4 結論 適格消費者団体は、不当な比較広告がなされている場合や「不利益事実の故意の不 告知」にあたる勧誘がなされている場合には、その停止・予防等を求めることができ ます(景表法10条、消費者契約法12条1項) 。 よって、当NPO法人は、貴社の自動車保険が他の保険会社の取り扱う自動車保険 と比較して同じ補償内容で保険料が安い旨の広告を行うことを中止するよう申し入れ ます。 なお、本件については、金融庁及び消費者庁にも、情報提供をしておりますので、 申し添えます。 以上 7
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