第 14 回 <けいはんな>新産業創出交流センター シーズフォーラム 要 旨 集 <兵庫県立大学> (1)「試験管内ウイルス粒子合成技術の開発」 兵庫県立大学大学院 工学研究科 物質系工学専攻 教授 今高 寛晃 ウイルスは遺伝物質である DNA や RNA をタンパク質の殻で包んだ粒子である。その大きさは 20 nm から 300 nm であり、形も多様性に富む。ウイルスは自分自身がエネルギー生産やタンパク質合成のシ ステムを持たないため、宿主細胞のシステムを借りて増殖している。では、もしこれらのシステムを 人工的に与えてやれば、生きた細胞が無くてもウイルスを試験管内で増殖させることができるのでは ないだろうか? 我々は独自で開発したヒト成分由来タンパク質合成システムを用い、脳心筋炎ウイ ルス (EMCV) を効率良く試験管内で合成することに成功した。人工的に合成したウイルス粒子はワク チンとしての利用の他、その殻をドラッグデリバリーのキャリアーとして用いることも考えられる。 また、粒子の表面を化学反応の足場として利用する、など人工ウイルス粒子はナノバイオテクノロジ ーにおいて利用価値の高い材料に成り得る。 (2)「ナノ強誘電体の作製と物性」 兵庫県立大学大学院 工学研究科 電気系工学専攻 教授 清水 勝 強誘電体は優れた誘電性、圧電性、焦電性、分極履歴特性などを有するため、古くよりコンデンサ や圧電素子、赤外線センサなどに用いられてきた。最近では、分極反転を利用した強誘電体不揮発メ モリやそれを用いた非接触 IC カード、圧電性を利用したインクジェットプリンターヘッド、更にはカ メラ手ぶれ補正やカーナビシステムのセンサなどにも用いられている。 デバイスの微細化、高集積化、低消費電力化、低環境負荷化などの要求に対応するには、更なる薄 膜化や強誘電体の面内方向(横方向)のサイズをナノサイズにまで縮小する必要があるため、最近、 基板上に形成されたナノサイズの強誘電体(以下、ナノ強誘電体)の物性研究に注目が集まるように なってきた。ここでは、ナノ強誘電体の作製法や興味ある基礎物性に関して紹介する。 (3)「ガスクラスターイオンを利用したタンパク質の質量分析技術」 兵庫県立大学大学院 工学研究科 機械系工学専攻 教授 持地 広造 二次イオン質量分析法(SIMS)は、イオン(一次イオン)を試料に衝突させたときに試料表面から放 出される二次イオンの質量を計測することにより、試料表面に存在する原子や分子の種類および化学 構造を調べる方法である。現在の SIMS では一次イオン照射によって試料分子が分解しやすいため、タ ンパク質などの巨大分子の質量を正確に計測することが困難であった。我々はこの課題を解決するた めに、アルゴンなど多数の気体原子が凝集したガスクラスターイオンを一次イオンに利用する SIMS を開発してきた。ガスクラスターイオンは衝突によって自らが多数の構成原子に分解するため、試料 分子の分解を抑えて放出させることができる。これまでにいくつかの生体分子に応用した結果、キモ トリプシンなど質量が 25,000 ダルトンを超えるタンパク質分子の二次イオンを分解させずに検出す ることに成功した。 1 <神戸大学> (4)「ナノ・マイクロトライボロジーと新ナノカーボン材料」 神戸大学大学院 工学研究科 機械工学専攻 助教 木之下 博 MEMS を代表するように駆動機構を伴う機器のナノ・マイクロメートルレベルの超小型化が推し進め られているが、それにともなっての摩擦・摩耗・潤滑(トライボロジー)問題もナノ・マイクロレベル に達しつつある。例えば、ナノ・マイクロサイズの部品の接触部分には自重に匹敵する (主に水吸着 よる)凝着力が存在し、それによって動作が妨げられたり固着したりする。 一方、グラファイトやダイヤモンドのカーボン材料は固体潤滑剤として古くから知られていたが、 近年になってフラーレンやカーボンナノチューブなどナノメートルサイズの微細構造を持つ新ナノカ ーボン材料が発見されている。それらはそのサイズに由来する特異なトライボロジー特性を有するこ とが明らかとなりつつある。本フォーラムでは近年ナノ・マイクロトライボロジーに画期的な進歩を もたらすと考えられる、新ナノカーボン材料の生成方法とそれらのナノ・マイクロトライボロジーに ついて講演する。 (5)「機能性高分子(カプセル)微粒子の創製」 神戸大学大学院 工学研究科 応用化学専攻 教授 大久保政芳 演者らは2種(以上)のポリマーからなるサブミクロンサイズやミクロンサイズの複合高分子微粒 子を主に水媒体中で合成してきた。異なるポリマー同士は相溶しないことから、粒子中で相分離して 異相構造が形成されるが、その構造は必ずしも熱力学的に安定なものではなく、重合条件に強く依存 し、粒子物性を支配するので、機能性高分子微粒子合成にとって大変重要な手段となり得る。また、 その場合、しばしば、異形の粒子が生成され、新たな機能性として注目を集めている。また、演者ら が提案する新しいカプセル粒子合成法を用いて各種の機能性カプセル粒子の創製を提起している。こ れらのシーズをニーズに円滑に繋げるために(独)科学技術振興機構の支援を得て3年前に大学発ベ ンチャー㈱スマート粒子創造工房を起業した。それらの話題を提供したい。 (6)「シリコン近赤外光学素子」 神戸大学大学院 工学研究科 電気電子工学専攻 教授 藤井 稔 シリコン結晶を陽極化成すると、数ナノから数十ナノメートルのナノワイヤーのネットワークから なるスケルトン構造が形成される。このような材料は多孔質シリコン(ポーラスシリコン)と呼ばれ、 様々な分野で応用が期待されている。我々は、ポーラスシリコンが近赤外領域で透明であり、またそ の実効的な屈折率を広範囲に制御できるという特徴に注目し、近赤外用の光学素子の作製を行ってき た。特に、作成時のエッチング電流を複雑に制御することにより、サイドローブや高次の反射が無い 高性能なルゲート型フィルターの開発を行った。また、面内に屈折率異方性を持つポーラスシリコン のルゲートフィルターを形成し、入射光の偏光方向によりその特性が異なるフィルターを開発した。 このフィルターは、近赤外用偏光フィルターとして機能する。講演では、様々なポーラスシリコン光 学素子を紹介するとともに、その特徴について議論する。 2
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