総合的な学習の時間 自己を表現しようとする生徒を育てる指導

総合的な学習の時間
−
自己を表現しようとする生徒を育てる指導の一試み
表現スキルの学習プログラムの作成と自己表現の場の設定の工夫を通して
白石市立福岡中学校
概
−
川田
尚
要
自己表現とは,自己の確立や社会化に結び付く生涯にわたる重要な課題である。本研
究は「総合的な学習の時間」に,表現スキルの学習と自己表現の場を,系統的・発展的
に配列することによって,生徒が表現の方法・手段と表現する内容を学び,自分の思い
や考えを,よりよく表現しようとする態度を身に付けることを目指した実践的な一つの
試みである。
1
主題設定の理由
「総合的な学習の時間」は,横断的・総合的な学習や生徒の興味・関心に基づく学習を通して,学
び方やものの考え方を身に付け,問題の解決や探究活動に主体的,創造的に取り組む態度を育て,自
己の生き方を考えることができるようにすることをねらいとしている。
本校では,
「自己表現」をテーマに「総合的な学習の時間」に取り組んでいる。そして,本年度,2
学年では,自分の進路を考えることを通して,健全な職業観・勤労観の育成や,よりよい生き方の自
覚を深めることを意図し,
「私の未来予想図」という学年テーマを設定して,進路学習の分野で実践に
取り組むことにした。
本校生徒の実態を見ると,自己表現が苦手であったり,はやりの言葉を安易に使うことが目立った
りして,うまく自分の考えを相手に伝えられないのが現状である。そのため,互いに意見を聞き合い,
自分の考えを深める学習経験が乏しい。
「総合的な学習の時間」のねらいに迫るためには,自己を表現
しようとする意欲や態度の育成が必要であり,そのために,2学年の段階では,学び方やものの考え
方を学ぶスキル学習が必要であると考えた。
また,個が社会や集団の中で生き生きと生きるためには,自分の思いや考えを正しく表現すること
が必要であると考える。正しく表現するためには,自己理解はもちろん,他者理解も必要となる。ま
た,表現活動の基盤には,互いを受け入れる集団づくりは欠かせない。こうした意味から,自己の思
いや考えを表現できる能力は,社会や集団とかかわる社会化の能力でもあると言える。
以上のことから,本研究では,「総合的な学習の時間」の展開の中で「生きる力」を支える「自己
表現」の新しい位置付けを明らかにしたい。
実践過程は,第Ⅰ期を,生徒の自己表現の準備段階として,言語表現を学ぶ時期と位置付けている。
第Ⅱ期は,第Ⅰ期で学んだ言語表現に加え,視覚表現を学び,プレゼンテーション能力を高める時期
と考えている。そして,第Ⅲ期は最終段階として,生徒が学んだことを活用して自由な表現をする総
合表現期にしたい。この実践の中で,生徒が習得したスキルをどのように活用し,自己を表現しよう
としたか,自己評価や相互評価・教師の評価を累積し,生徒の表現の変容をとらえたい。
このように,表現スキルや表現の場を,系統的・発展的に年間の学習の中に配列することによって
生徒は見通しをもって「総合的な学習の時間」に取り組むことができ,自己を表現していこうとする
意欲は高まると考える。この自己を表現しようとする意欲は,自己の確立と自己の社会化に結び付く
ものであり,それは,
「総合的な学習の時間」のねらいである「生きる力」を支えるものであると考え
本主題を設定した。
2
研究の目標
- TK1 -
自己を表現しようとする生徒を育てる指導の一試み
生徒たちが学んだ表現スキルを活用し,自分の思いや考えを表現していく学習の展開の在り方を,
2学年の「総合的な学習の時間」における自己表現の体験的学習を取り入れた授業実践の中で探る。
3
研究の仮説
表現の体験的学習を取り入れた「総合的な学習の時間」において,次の手だてを工夫すれば,自己
をよりよく表現しようとする生徒が育つであろう。
(1) 先行授業や実態調査を行い,個々の生徒及び集団の問題点や課題を明確にする。
(2) 個々の生徒及び集団の実態や学習課題に応じて,必要な表現スキルをリストアップし,指導計画
を作成する。
(3) テーマ素材や形態が明確で,学んだスキルが活用できる自己表現の場の設定を工夫する。
4
研究の対象と方法
4.1 研究対象
白石市立福岡中学校 第2学年 (男55名 女46名 計101名)
4.2 研究の方法
? (1)「総合的な学習の時間」や「自己表現」などに関する文献研究を行う。
(2) 実態調査を行い,表現活動における問題点について分析する。
(3) 仮説に基づいて,指導計画を作成し,実践する。
① 生徒の実態と発達段階に応じた表現スキルの学習プログラムを作成する。
② 学んだスキルが活用できる自己表現の場の設定を行う。
③ 自己評価・相互評価・教師の評価を累積し,生徒の表現の内容や方法の変容をとらえる。
(4) 実践での生徒の学習・活動の様子を分析・評価して,仮説を検証する。
5
研究の概要
5.1 研究主題について
5.1.1 「自己を表現しようとする」について
ここでの自己表現とは「自分の思いや考え,体験を再構成し,ふさわしい言葉や文章・その他様々
な方法を用いて,相手に向けて発信すること」ととらえる。5.1.3にまとめたような表現スキル
を学ぶことによって表現手段をもち,行事などの体験を素材として,自分の思いや考えを,よりふさ
わしい方法で発信しようとする状態を「自己を表現しようとする」ととらえる。また,
「自己を表現す
る」とは単なるスキルの問題だけではなく,生徒そのものの人格的な表現と受け止め,人間性の確立
と社会化を育成していくという視点を大切にしたい。
5.1.2 「自己表現の場」について
「自己表現の場」の設定には二つの要素があると考える。一点目は,何を表現しようとするのかと
いう表現の内容に関することである。そして,二点目はどんな方法や手段を用いるのかということで
ある。本研究では,行事を素材とした表現の体験学習に「未来予想図∼職場体験から見付けた自分∼」
などのタイトルをつけることによって,基本的な課題の方向付けをし,その上で生徒個々に表現内容
や方法・手段の工夫をさせたいと考えている。さらに,教師のアドバイスや生徒相互の情報交換を通
して,生徒の課題追究の意欲を喚起し,発表に至るまでの課題追究の過程を見取りたい。
5.1.3 「表現スキル」について
音声言語スキル・文字言語スキル・視覚表現スキル・身体表現スキル・総合表現スキルという五つ
の分類を考えた。各スキルの具体例と特性は表1の通りである。本研究では,生徒の実態に応じて,
これらの基本的な表現スキルを指導する年間の学習計画を作成するとともに,体験学習や発表会など
- TK2 -
自己を表現しようとする生徒を育てる指導の一試み
を設定し,生徒が状況に応じて課題解決に活用できる能力を身に付けることを目指す。
表1 五つに分類した表現スキル
音声言語スキル
文字言語スキル
視覚表現スキル
身体表現スキル
総合表現スキル
具
体
例
ディベート・パネルディスカッション 等
メモ・レポート・手紙(依頼状・御礼状) 等
展示法・データのグラフ化・思考の平面構成 等
創作ダンス・身体を使った音楽 等
演劇・ディスプレイ型ポートフォリオ 等
表 現 の 特 性
一回型の論理的表現
多元・思考型の論理的表現
思考・想像・状況的表現
感情・イメージ的表現
高次の総合的表現
5.2 生徒の自己表現に関する意識調査
(1) ねらい
表現活動における意識や態度を把握し,今後の表現スキルの内容や指導の手だてを探る。
(2) 調査対象と期日
① 白石市立福岡中学校 第2学年 101名 (男55名 女46名) ② 平成14年5月17日(金)
(3) 調査方法
質問紙法(多肢選択,自由記述)
(4) 調査結果と考察
① 表現活動の実態について
得意 1.0%
やや得意
自分の思いや考えを表現することが得意か,という設問
15.0%
に対して,得意だ・やや得意だと答えた生徒は,16%だっ
苦手
た。その理由として挙げられたのは,ジュニアリーダーと
37.0%
しての経験や人前で話をするのが好きという,学校の学習
やや苦手
とはかかわりの薄いものであった。
47.0%
一方,やや苦手だ・苦手だと答えた生徒は,84%と圧倒
的に多かった。その理由を見ると,大きく三つの要因があ 図1 表現活動についての実態
ることが分かった。第1に,表現したことがない,話すことや文章を書くのが苦手,どう表現したら
いいか分からないという表現方法・体験の乏しさである。第2に,自分のことが分からない,何を表
現したらいいか分からないという自己理解の不足である。そして第3に,目立つのが嫌い,人にいろ
いろ言われる,友達との関係が悪くなるという人間関係の未成熟である。
この結果を踏まえ,特に著しく表現の未成熟な生徒や表現活動に拒否的な態度をとる生徒に対して,
個人カウンセリングを実施するなど,個に応じた対策を講じていきたい。
② 表現方法の実態について
自分の思いや考えを表現するのに一番使いやすい方法は,という設問に対して音声言語・文字言語
を合わせると8割近い生徒が,言葉を用いると答えている。しかし,その理由は,他の方法が思いつ
かないといった消極的なものが多い。また,自分が得意・不得意といった観点からしか方法を考えず,
相手がどう受け取るかという,相手への意識はほとんど見られない。生徒個々に多様な表現スキルを
学ばせる必要性を感じるとともに,表現スキルの特性も理解させ,伝える相手に合わせた表現方法の
選択の能力も身に付けさせたいと考える。
5.3 指導対策
研究仮説と調査結果を踏まえ,以下のような指導対策を立てて本研究を進めたいと考えた。
5.3.1 課題解決の過程と表現活動のかかわり
2学年の「総合的な学習の時間」の大きな課題は,
「自分の進路を考えること」である。ここでの進
路とは単に上級学校を選択することではなく,職業や生き方までを含んだ人生そのものの考察と押さ
えている。そして,そうした大きな課題に迫らせるため,体験学習や,体験学習を素材として表現活
動を行う2学年の「総合的な学習の時間」を「 Fタイム」と名付け,
「Fタイム」に組むたびに,生徒
個々に学習課題を設定させている。これを繰り返すことによって,よりよい課題設定の能力が身に付
くと考える。また,表現スキルタイムは,生徒が課題を追究する過程で必要とする表現技能を身に付
- TK3 -
自己を表現しようとする生徒を育てる指導の一試み
けるための時間であるが,単なる技能の習得だけではなく,ものの見方や考え方の学習でもある。生
徒が課題解決の結果を発表する表現活動を通して,結果のみならず課題追究の過程を見取り,次の学
習へ向かわせたい。
5.3.2 「総合的な学習の時間」の学習系統図の作成
生徒の実態を踏まえ,学年テーマ,取り上げる表現スキル,体験学習,
「Fタイム」を以下のように
系統立てて学習を展開した。
(1) 学年テーマについて
テーマの「未来予想図」には,生徒個々にかけがえのない自分の人生を切り開いてほしいという願
いが込められている。一人一人が描く予想図は違ったものになるはずである。課題解決の経験を自分
の中で位置付けさせ,自分の人生を描かせたい。
(2) 「総合的な学習の時間」における表現活動の学習系統図
表 現 ス キ ル タ イ ム
個人課題の追究の過程や「Fタイム」の発表で必要とする表
現技能を学ぶとともに課題そのものも吟味し,修正していく
第
Ⅰ
期
言
語
表
現
期
○電話
電話の応対の基
本と場に応じた
言葉遣い
○インタビュー
相手から情報を
得るための話の
聞き方
↓
○メモ
○レポート
メモのとり方の → 目的に応じた報
基本と実践
告の仕方
○ディスカッショ
→ン
目的に応じた話合
いの仕方
○手紙
手紙の書き方の基本と実践
第
Ⅱ
期
視
覚
表
現
期
○グラフ
数値のグラフ化
と適切なグラフ
の選択
○ビジュアル
グラフ・写真・
資料の活用の仕
方
○プレゼンテーシ
ョン
相手を意識した効
果的な表現
○レイアウト
効果的な紙面構
成のガイダンス
○編集
自分の目的に合
った紙面構成練
習
○展示
見せることを意識
した空間表現
→
体 験 学 習
「未来予想図」を描く
ための核となる学習
「Fタイム」
個人課題の追究過程や解
決の内容を発表する
◎仙台職場体験学習
各自の希望に基づいた
職場を開拓し,職業の
体験学習を行う
<ねらい>
・社会体験を通して自
己の生き方を見つめさ
せる
・職業観や勤労観を深
化させる
◎ニュース番組作成
職場体験学習を素材とし
て,「職場体験迫る」と
いうテーマでニュース番
組を作成する
<基本課題>
職場体験学習は自分の進
路を考える上でどのよう
な意味をもつのか
◎「仙台タウン情報職
場体験版」作成
職場体験学習の準備・
当日・事後の学習の内
容を職場ごとにまとめ
→ 雑誌の形に編集する
<ねらい>
・自分の体験をまとめ
見せ合うことによって
体験の共有化を図る
←
↓
◎「仙台タウン情報」発
表会
まとめた内容の中からポ
イントを絞って,自由な
形式でプレゼンテーショ
→ ンを行う
<基本課題>
実社会で自分が学んだも
のは何か
↑
第
Ⅲ
期
総
合
表
現
期
○音声表現
音声による多様
な表現
○文字表現
文字による多様
な表現
→
選択制
○機器を利用し
○描画表現
た表現
絵・デザインに
パソコン・ビデ
よる表現
オの活用法
○身体表現
身体音楽・パン
トマイム等
◎立志式(自由表現)
自分の志を,一番ふさ
わしい方法で表現する
<ねらい>
→ ・自己を見つめ生き方
や進路について考え自
己実現の意欲を高める
・自分を育んでくれた
人々への感謝を表す
○PA的活動
ゲームを通して
の集団活動
- TK4 -
◎文化祭(表現活動)
学年テーマに基づいた
「総合」の成果のプレゼ
ンテーション
<基本課題>
「未来予想図」の方向性
中間発表
◎「私の未来予想図」
→ (自由表現)
「総合的な学習の時間」
のまとめの自由発表
<基本課題>
これからの自分の進路と
実現のための課題
自己を表現しようとする生徒を育てる指導の一試み
5.3.3 指導の観点
(1) 第Ⅰ期・言語表現期について
第Ⅰ期は,言語表現に焦点を絞って実践を進める。職場体験学習を核とし,準備段階で,電話・手
紙・インタビューといった身近な活動を取り上げ,生徒個々の場に応じた言語表現の技能を高めたい。
ここでの学習は,実際に職場に電話をしたり手紙を書いたりする活動に結び付くものであり,その緊
張感が,生徒の学びの動機付けにもなる。また,メモやレポートの文字表現の正確性は,体験活動を
行う上で欠かせないものである。そして,スキルの最終段階でディスカッションを取り上げる。この
ディスカッションは,第Ⅰ期のまとめといえるもので,この段階までの表現技能の向上を,思考・判
断の向上にまで結び付けるものと位置付けている。
スキルを習得し学習課題がうまく解決できた時の充実感や達成感は生徒にとって貴重な財産となる
であろう。また,失敗も経験するであろうが,その原因に目を向けさせ,次の機会へ生かすことがで
きる指導を心掛けたい。
(2) 第Ⅱ期・視覚表現期について
第Ⅰ期で学習した言語表現をもとに,さらに相手を意識したプレゼンテーション能力を高めること
をねらいとするのが,第Ⅱ期視覚表現期である。職場体験学習という貴重な体験の中には,人に伝え
たいできごとが,たくさんあったはずである。それを自分が伝えたい内容にふさわしい表現方法を用
いて表現させたい。また,言語活動が苦手だった生徒にも新たな活躍の場を設定したい。
(3) 第Ⅲ期・総合表現期について
第Ⅲ期の総合表現は,文化祭,
「私の未来予想図」といった,自由表現を支える表現スキルの学習の
最終段階であり,生徒の表現力を鍛える時期である。そこで,様々な総合表現を体験させ,活動の幅
を広げさせたい。この段階では,基本的に個人に焦点を絞りたいと考えている。そのため,二度の自
由表現を設定し,
「立志式」の自由表現で互いに表現を聞き合い,学び合った成果を,まとめの「私の
未来予想図」で発揮させたいと考えている。
第Ⅲ期のねらいは,生徒に自分の得意な表現分野や表現方法を自覚させることである。ここまでの
経験を生かし,学んだスキルや教科の学習の成果を有機的に結び付けたオリジナルの表現が見られる
ことを期待している。
5.3.4 評価について
評価の観点は次の7点を設けた。
(1) 問題や課題を発見できる力<課題発見>
(2) よりよい課題を設定できる力<課題追究>
(3) 課題解決の見通しや方策について考える力<判断力・思考力>
(4) 課題を追究しようとする態度・解決できる力<探究能力>
(5) 他とかかわり合う力<経験・感性>
(6) 課題追究の過程やまとめたことを分かりやすく伝える力<表現力>
(7) 情報を収集し,活用できる力<情報活用能力>
これらの観点を基に,生徒のポートフォリオ・年間「総合的な学習の時間」記録プリントや教師の
個人カルテを活用し,多様な評価法を用いて生徒の変容をとらえ,肯定的評価を行う。
5.4 実践授業
5.4.1 実践授業例1 (第Ⅰ期 言語表現期 音声表現スキル)
(1) 主題 表現スキル「電話の達人になろう!」①②
(2) 実施期日 平成14年6月20日(木),7月3日(水)
(3) ねらい
① 職場体験学習の準備の一環として,正しい電話のかけ方を学ばせるとともに,実践意欲を育て
る。
② 電話のかけ方を学ぶことを通して,社会的な常識やマナーを学ばせる。
- TK5 -
自己を表現しようとする生徒を育てる指導の一試み
③ 電話をかける活動を通して,自分たちの言語活動を振り返らせる。
(4) 学習形態
① 6月20日 学年:T・T(体育館)
②7月3日
学級:一部T・T(各教室)
(5) 学習過程①<6月20日>
学 習 活 動
導入 1 本時の学習活動を確認する。
10
電話の達人になろう!
分 2 電話をかける時の基本を確認する。
展 3
支 援 の 視 点
○場体験学習において電話をかける機会が必
ずでてくることを意識させる。(T1)
評価の観点・方法等
職場に電話で確認する内容を考える。 ○まず項目のみを考えさせる。
開 4 ロールプレイングでシミュレーション ○生徒数名に対し,T2・T4が対応する。
30
してみる。
他の生徒は,シミュレーションを聞きながら,
分
気付いたことをメモする。
5 実際に電話をかける時の原稿を書く。
ま 6
今日の活動を振り返る。
○活動を振り返り教師が助言する。(T3)
と 7
め
10
分
次回の学習の内容を知る。
○電話をかける時,そして実際に職場に行っ
た時の「敬語」の必要性を教え,次回は「敬
語(場に応じた言葉遣い)」の学習をするこ
とを告げる。(T1)
◎経験・感性(活
動の観察)
◎情報活用能力
(活動の観察)
学習過程②<7月3日>
学 習 活 動
導 1 次回の学習活動を確認する。
入
職場に電話をかけよう!
支 援 の 視
○体験先一覧を配布する。
点
評価の観点・方法等
10 2 プリント(別紙)をもとに電話をかけ ○「企業研修マニュアル 」「
: 敬語の使い」
「電
分
る時の基本を確認する。
話のかけ方」をもとに具体的に説明する。
展 3 実際に職場に電話をして確認する内容 ○原稿が早くできた生徒から相手をする。終
開
と表現を考える。
了後にアドバイスをし,原稿を練らせる。
◎探究能力(活
動の観察)
35 4 教師を相手にロールプレイングでシミ ○参考になる聞き方や言葉遣いがあれば,全
分
ュレーションする。(全員)
体に紹介する。
◎表現力(ロー
ルプレイング)
ま 5
今日の活動を振り返る。
と
め 6
5分
○よかった点,欠けている点についてコメン
トする。
次回の学習内容を知る。
○四つのグループに分かれ,自信があるグル
ープから,電話をかけることを告げる。
この後「メモのとり方」の表現スキルを学習し,実際に職場に電話をかける学習を行った。
5.4.2 実践の様子
仕事中の職場に電話をし,自分たちの希望や必要な事項を確認するという活動は,生徒たちにかな
りの緊張感をもたらすものであった。特に職場体験学習を,少人数のグループあるいは一人での活動
に設定したので,人に頼れない,人任せにできない状況がより集中力を高めることになったと思う。
電話で話す用件を確認し,実際に話す原稿を作成する学習では,最初の自己紹介の段階から何度も
原稿を練り直す様子が見られた。初めは教師とシミュレーションをすることさえ尻込みしていたが,
数名が練習を始めると,実際に声に出してみないと原稿が作成できないことに気付き,次々にシミュ
レーションを始めるようになった。また,教師と練習する前に,生徒同士で練習をする姿も見られた。
その後のメモのとり方の学習では,普段見られないような集中力が見られた。 企業の新人研修マニ
ュアルをもとに数種類の参考資料を作成したが,それも臨場感を高めるのに役立った。
実際に職場へ電話をかける場面では,生徒同士で最終確認の練習をしたり,表現スキルの学習プリ
ントを見直したりする姿があちこちで見られた。電話をかけている姿は真剣そのもので,それを見守
る生徒たちもまた,かたずを呑んでいた。首尾よく電話を終えた時のあんど感と満足感の入り交じっ
た笑顔は大変印象的だった。返事のファクシミリが中学生に対してでも敬語で書かれていて恐縮した
り,生徒は多くの貴重な体験をした。ファクシミリが届いたお礼の電話を自主的に行うグループも出
- TK6 -
自己を表現しようとする生徒を育てる指導の一試み
てきて「たいへんだったけれど,きちんと電話をしてよかった」と生徒が感じられる実践となった。
学習後の自己評価の自由記述では次のような感想が出てきた。
<電話をかけた生徒>
・すごく緊張した。敬語の使い方に慣れてなかったし,相手の答えもいろいろだったから,どう言えばいいか迷ったところもあ
った。でもけっこうおもしろかった!!
・聞くことをまとめて書いておいたが,相手から予想もしない質問や答えが返ってきて,少しパニックになった。だけど,うま
く自分なりに返せたのでよかった。また電話しなければいけないので,そのときまたがんばりたいと思う。
<電話をかけなかった生徒>
・見ている方も緊張した。うまく言えなかったので相当緊張したんだなと思った。
・電話しているときの真剣さはすごいと思った。ものすごく勇気がいることだと思った。
・自分の声が聞こえないように,離れていた。今までは電話で敬語などをあまり使わなかったけど,今回のことをきっかけに,
大人の人には敬語を使って話したいです。
・「 実践モード突入!電話の達人になろう!」のプリントで敬語がかなり詳しくなったと思う。
5.4.3 実践授業例2 (第Ⅲ期 総合表現期 選択制スキル)
(1) 主題「私の未来予想図」「
: 仙台職場体験学習を通して学んだこと∼人はなぜ働くのか∼」のプレ
ゼンテーションをしよう
(2) 実施期日 平成14年10月3日(木)5校時
(3) 活動のねらい
2学年の「総合的な学習の時間」のテーマ「私の未来予想図」のイメージを生徒個々が描くために
職場体験学習を通して自分自身を見詰めさせ,
「人はなぜ働くのか」という共通課題に対する答えを自
分の思いにふさわしい表現方法で表そうとする態度を育む。
(4) 学習形態 学年:選択性の五つのスキルレッスン
① パソコンレッスン:パワーポイント,写真・映像の取り込み 等
② ビデオレッスン:ビデオカメラの効果的な使い方,効果的な編集 等
③ 音声表現レッスン:スピーチのいろいろな形態(朗読,一人芝居 等)
④ 文字表現レッスン:文字表現のいろいろな形態(新聞,手紙,フォトストーリー 等)
⑤ 描画レッスン:絵,デザイン,漫画,レタリング 等
(5) 学習過程(文字表現レッスンのケース)
学 習 活 動
導 1 本時の学習活動を確認する。
入 文章表現の様々な方法を学ぼう!
5分
2 プリントに例示された文字表現
の内容を知る。
支 援 の 視 点
○前時のスキル学習の内容を喚起させ,本時
の学習との関連を意識させる。
評価の観点・方法等
展
○おおまかな説明をし,詳しく知りたい文字
表現に関しての質問を受ける。
○言葉の説明では分かりにくい文字表現につ
いては,参考作品やサンプルを用意し,具体
的な完成のイメージをもたせる。
◎判断力・思考
力(観察・質問)
開
○手紙 ○新聞
○フォトストーリー
○作文
○ディスプレイ型ポートフォリオ
○文学作品創作
○パンフレット作成
20
分
新聞の秘密を探る生徒
ディスプレイ型ポートフォリオサンプルを見る生徒
- TK7 -
自己を表現しようとする生徒を育てる指導の一試み
3
発
展
20
分
ま 4
と
め
5分
自分が興味をもった文字表現の練習に ○それぞれの文字表現について練習用の課題
取り組む。
を準備する。
○課題以外に自分で工夫をして練習を行いた
○手紙
いという生徒は自分の考えた表現に取り組ま
→自分への手紙
せアドバイスをする。
○新聞
○他の表現方法との組み合わせに発展させる
→レイアウトの練習
ことができるようなアドバイスを心掛ける。
○フォトストーリー
○独自の表現方法を思い付いた生徒がいれば
→1枚の写真をもとにサンプル作成
全体に紹介して参考にさせる。
○ディスプレイ型ポートフォリオ
→レイアウトの練習
○文学作品創作
→俳句の創作
○パンフレット作成
→ページ構成の練習
○作文
→書き出しの練習
文字表現の練習に取り組む生徒たち
今日の活動を振り返り自己評価する。 ○自己評価を行うだけでなく,本時の学習内
容の中で自分にとって参考になったものにつ
いて重み付けをさせたい。
◎情報活用能力
(活動の観察)
◎表現力(練習
作品)
◎判断力・思考
力(自己評価プ
リント)
(6) 評価の観点と評価規準
○判断力・思考力・・課題解決の方策について考えることができる。
○表現力・・・・・・課題追究の過程やまとめたことを相手に分かりやすく伝えられる。
○情報活用能力・・・情報を収集しそれを活用することができる。
5.4.4 実践の様子
文字表現スキルの簡単なガイダンスでは,なかなかイメージがつかみにくかった生徒も,周りの生
徒と話をしながら,徐々に自分で取り組みたい練習を選び活動を始めるようになった。そのうち,練
習課題を発展させ,ディスプレイ型ポートフォリオと文学作品創作を結び付けたり,参考例になかっ
た書道でのプレゼンテーションを考え始める生徒も出てきた。前日の選択スキルで学んだパワーポイ
ントと文字表現の組み合わせ方について真剣に悩む生徒もいた。授業終了の時間が近づいたころに自
分がやってみたい方法を思い付き,授業後の感想で「 時間がもっとほしかった。」と書いていた生徒も
いた。
今までは同じテーマと同じ方法で表現活動に取り組んできた生徒たちは,自分のオリジナルの表現
方法を考えることに戸惑いをもっていた。しかし,今回選択制の表現スキルの学習に取り組み,手持
ちの表現スキルが増えたことによって,表現の幅と可能性が大きく広がったようだ。次々とオリジナ
ルの表現方法を発想し,それを互いに伝え合い,互いに触発し合う意欲的な活動であった。
5.5 結果と考察
5.5.1 実践授業結果と考察
図2は7月に行った職場体験学習の準備のための電話をか
ける実践と9月に行った「職場体験迫る」というタイトルニ
ュース番組作成の取組の自己評価を比較したものである。電
話実践よりもニュース番組作成の方が必要とするスキルが多
かったことと,ニュース番組は最後に上映会を行い,互いの
作品を見合ったことによって「もっと工夫すればよかった」
という感想が多く見られた。そのため,全体として自己評価
- TK8 -
自己を表現しようとする生徒を育てる指導の一試み
は低くなっている。しかし,相互評価や教師の評価は自己評価の数値を大きく上回っており,目標が
高くなったために,自己評価が低くなったこと
2%
がうかがえる。(A:4点・B:3点・C:2
9%
62%
27%
点・D:1点と換算した結果,自己評価の平均
は,3.1点,相互評価の平均は,3.4点,教師の
12%
64%
23%
評価の平均は,3.3点であった。)
1%
図3は2日間連続して行った選択制のスキル
0%
20%
40%
60%
80%
100%
学習の自己評価を比べたものである。選択スキ 図 2 表 現 活 動 の 自 己 評 価
ル①と選択スキル②の自己評価に大きな変容が
3%
見られる。これは,1回目の選択スキルでは気
17%
61%
18%
付かなかった可能性について2回目の選択スキ
ルの学習を通して気付いたり,1回目の学習内
容と2回目の学習内容を総合することにより新
15%
39%
44%
1%
たな発見があった結果だと考える。ここから,
0%
20%
40%
60%
80%
100%
系統的に表現スキルを学ぶことによって,生徒
図3 表現スキル学習の自己評価
は既習の学習内容を自分で有機的に結び付け,
できることの幅を広げたり,表現の内容を深化させていくと考えられる。
5.5.2 事後アンケート調査の結果と考察
5月の実態調査と10月の事後調査の結果
を比べたのが図4である。実践を通して表
5月
37%
47%
15%
現活動を苦手とする生徒が減り,やや得意
とする生徒が増えていることがわかる。得
意と答えた生徒の数は変わっていないが,
10 月
19%
51%
29%
特に苦手だと感じていた生徒から段階的に
表現活動への抵抗感がなくなってきている
0%
20%
40%
60%
80%
100%
図 4 表 現 活 動 の 実 態
と言える。また,「今までの表現活動や学
んだ表現スキルをこれからの活動に生かしたい」と答えた生徒は全体の46%であった。そのうち,今
後さらに自分のオリジナルの表現を工夫してみたいと考えている生徒は38%であり,表現の意欲は高
まっていることがうかがえる。また,自己を表現することがやや苦手と答えた生徒のうち33%が「今
までの表現活動や学んだ表現スキルをこれからの活動に生かしたい」と次の学習へ意欲を高めていた
のが特徴的であった。ここから,自分の思いをうまく表現したいという生徒の願いが伝わってくる。
5.5.3 個人カルテから見た生徒の変容
表2は生徒の個人カルテの一部である。男子生徒Mは,表現活動にまったく意欲をもっていなかっ
た。しかし,スキル学習を進めるうちに,できることが増え,ニュース番組のキャスターを務め,同
級生や先生方に認められたことが,表現活動の意欲の向上に大きくつながった。女子生徒Kは,はじ
めのスキル学習までは,
「 面倒くさくてやりたくない」という感想を書いていたが,ニュース番組作成
で学んだスキルが生かせることを実感し,その後スキル学習や発表会への意欲が高まった。
表2 生徒の個人カルテから(A∼Dの4段階評価)
電話スキル メモスキル 第Ⅰ期評価 ニュース役割 ニュース自己 ニュース ニュース 選択スキルレッ 学習後 選択スキルレッ 学習後 5月
10月 総合表現
評価
相互評価 教師評価 スン①
意欲① スン②
意欲② 表現意欲 表現意欲 意欲
男子M B
B
B キャスター A(4.0) 3.7 4.0 パソコン A ○ 音声表現 B
D
B
B
女子K C
C
C リポーター B(3.0) 4.0 2.5 パソコン B ○ ビデオ A ○
C
B
A
6
研究のまとめと今後の課題
- TK9 -
自己を表現しようとする生徒を育てる指導の一試み
6.1 研究のまとめ
表現スキルと発表の場を系統的・発展的に配列した「総合的な学習の時間」を実践することによっ
て次のような成果が得られた。
(1) 表現スキルの学習を系統的・発展的に配列することにより,生徒は難易度の低いスキルから段階
的にスキルを学ぶことになり,見通しをもって学習に取り組むことができた。それが学習や表現の意
欲の向上につながった。また,既習のスキルを有機的に結び付けて,自分の表現活動の幅を広げるこ
とができた生徒も多かった。
(2) 発表の場の設定を工夫し,発表会の性質を明確にすることにより,生徒はグループで活動して学
び合うのか,自分のみで活動し,学習の質を深化させるのか,はっきり意識して学習に取り組んだ。
そのため,発表会を経験するごとに自分の課題が明確になり,次の活動への意欲が高まった。また,
表現スキルを学び,課題設定や課題解決へのアプローチの方法が増えたことによって,新たな課題設
定や追究の方法を発見し,学習の幅を広げることができた。
(3) 「総合的な学習の時間」で培った表現力が,日常生活で使える力になってきている。例えば学級
活動などでのプリントの記述を見ると,以前は単語だけを書いたり,「○○なのでよかった。(悪かっ
た)」という型通りの記述が多かったりしたが,自分の気持ちや感想をきちんと伝えようと詳しく丁寧
に書く生徒が増えてきた。また,集会などで全校生徒の前で発表する生徒は,原稿を練り,はっきり
した話し方を意識するようになった。12月12日に行った「立志式」と学習成果の発表会では,式のし
おりの作成や学習発表の記録ビデオ撮影まで生徒たち自身の手で行い,保護者から驚きのコメントも
寄せられた。
6.2 今後の課題
ここまでの研究で,生徒たちの表現意欲の向上を図ることはできた。今後,学習をさらに効果的な
ものにしていくために,次のことを課題としたい。
(1) 本年度は,2学年に対象を絞って研究を進めたが,学習をより効果的にするためには,教科の既
習事項も生かした,3年間を見通した表現スキルの系統的な学習が必要であると感じた。今後は,表
現スキルの系統的な学習について,さらに開発を進めていきたい。
(2) 発表の場については,3年間の系統性をさらに重視した場の設定を研究していきたい。例えば1
学年の学習で各自がもった課題が,2学年で解決でき,さらに3学年への新たな課題が設定できるよ
うな系統的な発表の場の設定を工夫したい。また,体験学習以外の表現活動の素材の開発に取り組み
たい。
(3) 今回の研究では「表現活動が苦手である」という生徒を減らすことはできた。しかし「表現活動
が得意である」という生徒の拡充は,まだ不十分であった。全体的な意欲の向上とともに表現活動が
得意な生徒をさらに伸ばす指導の手だてや学習の構成を研究していきたい。また,本年度は,ややも
すると,生徒の意識が表現方法に集中する傾向があったので,今後は,さらに表現内容を深め,優れ
た表現活動に結び付ける指導の在り方を研究したい。
主な参考文献
全般的な参考文献
[1] 文部省:「中学校学習指導要領」
大蔵省印刷局
[2] 中野重人・無藤隆・澁澤文隆 編著:「『総合的な学習』展開のアイディアと実践中学校編」
東京書籍
[3] 荒木紀幸 編著:「総合的学習で育てる知識・能力・態度」
明治図書
[4] 井上裕吉 編:「学校行事と総合的な学習」
教育出版
[5] 中西一弘・星野東洋紀 編:「表現力を伸ばす発表学習」
明治図書
[6] 大隅紀和 著:「ディスプレイ型ポートフォリオ」
黎明書房
[7] 佐野金吾・小島宏 編著:「新しい評価の実際③『総合的な学習の評価』」
ぎょうせい
[8] 宮城県育研修センター:「平成13年度長期研修員(B・C・D)研究報告書」
- TK10 -
1998
1999
2001
2001
2000
2002
2001
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