労働法メモランダム

オランダ労働法について
本メモランダムの内容は2014年9月1日現在の法規に基づき作成されたものであり、2015
年に発効予定の改正労働法の内容は反映されておりませんのでご注意下さい。
I
はじめに
以下では、オランダ労働法についての一般的なご説明をいたします。なお、個別の事案については別
途の検討が必要ですので、その際には当事務所にご相談ください。
目次
1
オランダ労働法の法源 ............................................................. 2
2
オランダ法のもとでの個別の労働契約 ............................................... 3
2.1 ... 総説 ............................................................................ 3
2.2 ... 労働契約の種類................................................................... 3
2.3 ... 賃金 ............................................................................ 4
2.4 ... 労働契約上の権利義務 ............................................................. 4
2.4.1
総説........................................................................ 4
2.4.2
試用期間 .................................................................... 5
2.4.3
労働時間 .................................................................... 5
2.4.4
時短勤務労働者 .............................................................. 5
2.4.5
年次有給休暇 ................................................................ 5
2.4.6
特別の休業 .................................................................. 5
2.4.7
安全衛生 .................................................................... 6
2.4.8
身体障害者となった労働者の職務復帰 .......................................... 6
2.4.9
損害賠償義務 ................................................................ 7
2.4.10
差別的取扱 .................................................................. 7
2.5 ... 労働契約における制限的規定 ....................................................... 8
2.5.1
秘密保持義務 ................................................................ 8
2.5.2
競業避止義務 ................................................................ 8
2.5.3
知的財産権の保護 ............................................................ 8
2.6 ... 年金制度 ........................................................................ 9
2.7 ... 労働条件の均一化................................................................. 9
2.7.1
使用者による一方的な変更 .................................................... 9
2.7.2
合意による変更 .............................................................. 9
2.7.3
判例における労働条件の変更 .................................................. 9
3
オランダ法のもとでの団体的労使関係 .............................................. 10
3.1 ... 労働組合 ....................................................................... 10
3.2 ... 使用者団体 ..................................................................... 10
3.3 ... 労働協約 ....................................................................... 10
3.3.1
総説....................................................................... 10
3.3.2
労働協約の適用 ............................................................. 10
4
オランダ法における労働契約の終了 ................................................ 10
4.1 ... 総論 ........................................................................... 10
4.2 ... 停職 ........................................................................... 11
4.3 ... 事前の同意のない労働契約の終了 .................................................. 11
4.3.1
試用期間 ................................................................... 11
4.3.2
有期の労働契約 ............................................................. 11
4.3.3
緊急の事情による即時解雇 ................................................... 12
1
©BUREN N.V. 2014
4.4 ... 期間の定めのない労働契約の終了 ..................................................
4.4.1
解雇許可及び解雇予告 .......................................................
4.4.2
簡易裁判所での労働契約の解消 ...............................................
4.4.3
緊急の事情による即時解雇 ...................................................
4.4.4
双方の同意による契約の終了 .................................................
4.5 ... 退職金の計算....................................................................
4.6 ... 取締役の解任....................................................................
4.6.1
はじめに ...................................................................
4.6.2
オランダ会社法に基づく解任 .................................................
4.6.3
オランダ労働法に基づく解雇 .................................................
4.7 ... 整理解雇 .......................................................................
4.7.1
はじめに ...................................................................
4.7.2
ソーシャルプラン ...........................................................
4.7.3
労働者委員会(ondernemingsraden)による助言及びスケジュール .................
5
労働者委員会(ondernemingsraden) ...............................................
5.1 ... 労働者委員会設置義務 ............................................................
5.2 ... 労働者委員会の構成及び活動方法 ..................................................
5.3 ... 労働者委員会の委員の保護 ........................................................
5.4 ... 情報アクセス....................................................................
5.5 ... 協議の権利 .....................................................................
5.6 ... 助言の権利 .....................................................................
5.7 ... アムステルダム高等裁判所商事部での手続 ..........................................
5.8 ... 同意権限 .......................................................................
5.9 ... 取締役の選任及び解任 ............................................................
5.10 .. 小規模事業主について ............................................................
6
事業譲渡 .......................................................................
6.1 ... はじめに .......................................................................
6.2 ... 合併規則 .......................................................................
6.2.1
適用.......................................................................
6.2.2
労働者保護制度 .............................................................
6.2.3
罰則.......................................................................
6.3 ... 労働者委員会法..................................................................
6.4 ... 労働者の移転....................................................................
6.4.1
事業譲渡 ...................................................................
6.4.2
株式の買取及び法律上の合併 .................................................
II
オランダ労働法
1
オランダ労働法の法源
12
12
13
14
14
14
15
15
15
15
16
16
16
17
17
17
18
18
19
19
19
20
21
21
21
22
22
22
22
22
23
23
23
23
24
オランダ労働法の法源は、以下の5つに大別されます。
1.
オランダ議会の法令 (例:法律、規則、命令)
労働者保護の基本的な根拠法となります。オランダの民法(Dutch Civil Code。以下
「オランダ民法」といいます。)第7巻第610条から第691条は、オランダの労
働契約における法的権利義務を定めています。
2.
個別の労働契約
個別の労働契約においては、使用者と労働者との間の個別の労働条件について定めま
2
©BUREN N.V. 2014
す。契約当事者は主要な条件を労働契約に明記します。また、裁判所においては黙示
の条件が労働契約の一部となると判断することがあります。黙示の条件とは、その条
件が契約に含まれることが当事者間において明白であったため、契約当事者があえて
明示的に契約書に記載しなかったものです。黙示の条件として労働契約の一部と判断
された裁判例は数多くあります(秘密保持義務など)。なお、法令で要求されている
労働契約に必要な要件を省略することはできません。
3.
労働協約
労働協約は 、労働組合と使用者または使用者団体との間の協定でありますが、労働
者と使用者との間の個別の労働契約を直接規律する効力を有します。一般的には労働
契約を規律する優先順位は、法令、労働協約、個別の労働契約です。
4.
判例(jurisprudentie)
判例は、裁判所によってこれまで確立されてきた裁判の判断例です。判例により、不
明確な法令の規定や契約条項の解釈につき、重要な先例や原則が示されます。
5.
EC 法
(EU 法の一部としての)EC 法その他の国際条約、規則等も重要な法源の一つです。
EC 法その他の国際条約は、オランダ労働法に様々な面で影響を及ぼします。EC 法の
うち労働法についての EC 指令は、オランダにおいては議会によって制定された法律、
規則、命令によって数多く国内法化・国内実施されています。例えば、いわゆる事業
譲渡指令(Acquired Rights Directive)は、オランダでは1981年の事業譲渡
(労働者保護)規則(Transfer of Undertaking (Protection of Employment)
Regulations)として国内法化・国内実施されました。
2
オランダ法のもとでの個別の労働契約
2.1
総説
オランダ労働法によると、労働契約とは、ある自然人(労働者)が、別の自然人もしくは法
人(使用者)に雇用され、その者の指揮命令のもとに労働して報酬を得ることを言います。
一般に、使用者から指揮命令を受ける関係は、労働契約の重要な要素件とされています。
労働契約は口頭または書面にて成立します(オランダ語による必要はありません。雇用者と
被用者が相互に理解可能であるとみなすことができる言語によるならば、労働契約は有効に
成立します)。しかし、ある特定の条項(競業避止義務など)は書面にて合意する必要があ
ります。オランダ民法第7巻第655条は、使用者はすべての労働者(一般社員、常勤社員
及び非常勤社員)に対して、労働契約の開始から1か月以内(労働契約の期間が1か月未満
のときはそれより早く)に、労働契約に必須の労働条件を提示しなければならないとしてい
ます。この労働条件が記載された書面は使用者の署名が必要です。この労働条件の提示を怠
った使用者、正確な労働条件の提示を怠った使用者は、労働者において生じた損害を賠償す
る責任を負います。
2.2
労働契約の種類
オランダ労働法ではいくつかの種類の労働契約が可能です。期間の定めのない労働契約も、
期間の定めのある労働契約も可能です。期間の定めのある労働契約は、客観的基準に基づき
3
©BUREN N.V. 2014
特定の時間または期間において可能です(例えば、ある特定のプロジェクトが行われる間な
ど)。どの種類の労働契約でも常勤(フルタイム)または非常勤(パートタイム)の労働が
可能です。
無期または有期の労働契約とは別に、オランダには伝統的にいくつかの非典型的な労働契約
が存在します。例えば、24時間待機(on-call)の労働契約や、労働時間の定めがない労働契
約(zero-hours contract)などがあります。また、多くの使用者は派遣労働者を使用していま
す。オランダ法(民法第7巻第690条)における労働者派遣契約の要件を満たす場合、派
遣労働者につき、実際に労務を提供する派遣先企業ではなく、派遣元企業との間で労働契約
が成立していることになります。派遣先企業と派遣元企業とは、労働者派遣契約
(overeenkomst van opdracht)を締結する必要があります。
オランダ民法第7巻668条 a によると、有期の労働契約が連続して更新され、一定の要件
を満たした場合、自動的に期間の定めのない労働契約へと変更される場合があります
(“chain” of contracts)。すなわち、(1)連続して更新された有期の労働契約が36か月を
超えた場合、または(2)有期の労働契約の更新が3回を超えた場合です。自動的に期間の定め
のない労働契約へと変更された場合、下記 4.4 にてご説明する期間の定めのない労働契約の
終了に関する規定が適用されることになります。また、このオランダ民法の規定は、別の使
用者との間で労働契約が継続した場合においても適用されます。すなわち、労務の性質にも
よりますが、その使用者が以前の使用者の地位を承継したとみなされる場合です。労働者の
派遣元企業と派遣先企業は通常それぞれが労働契約の承継人とみなされることになります。
グループ内の別企業においても同様です。
2.3
賃金
原則として労働契約の当事者は、労働者が支払われる賃金について自由に合意することがで
きます。しかし、最低賃金及び最低休日出勤手当に関する法律(the Act on Minimum Wages
and Minimum Holiday Allowances)は、一定の最低賃金と最低休日出勤手当について定めてお
り、この金額は通常毎年調整されます。さらに、オランダ民法第7巻第646条や、男女均
等待遇法(Wet Gelijke behandeling van mannen en vrouwen )、その他の均等待遇に関する法
律により、労働契約の当事者間の契約の自由は制限されることになります。また、労働組合
と使用者団体との間の労働協約(Collectieve Arbeidsovereenkomst)により個別の使用者を拘
束する給与基準が定められることもあります。
賃金は、労働者が労務に従事していなかった場合には支払う必要はありませんが、 労働者が、
(i)病気、妊娠、出産、または(ii)使用者の責めに帰すべき事情により、労務の提供をするこ
とができなかった場合にはこの限りではありません。
2.4
労働契約上の権利義務
2.4.1
総説
労働契約上の使用者と労働者の権利義務は、労働契約に規定された諸条件のほか、法規、慣
習、労働協約、判例に基づき労働契約の一部とみなされる諸条件に基づき定まります。オラ
ンダ法における重要な一般原則のひとつに合理性及び公平性の原則(redelijkheid en
billijkheid)があり、労働契約上の権利義務は、通常この一般原則に基づき解釈されます。
この原則のもとでは、使用者と労働者は、「合理的な使用者」、「合理的な労働者」である
4
©BUREN N.V. 2014
ことが求められます。その他、数多くの判例により、労働契約上の諸条件の解釈が示されて
います。
2.4.2
試用期間
労働契約においては、使用者、労働者とも即時に契約を終了させることのできる試用期間を
定めることができます。この場合、使用者は、労働者の書面による請求に基づいて契約終了
の理由を示すことが義務付けられるに過ぎません(オランダ民法第7巻第652条)。試用
期間については書面により定めなければならず、(i)2年未満の労働契約においては最大1か
月、(ii)2年以上または無期限の労働契約においては最大2か月の期間で設定することがで
きます。
2.4.3
労働時間
労働時間法(Arbeidstijdenwet)に基づく労働時間と労働条件の規制は、広範囲で複雑なもの
となっています。労働時間についての規制は、職種や業種、業界によって異なります。原則
として、労働者は1日最大9時間、週に最大45時間、13週間につき週最大40時間の範
囲内で働くことができます。労働時間に関する定めは労働協約においてもしばしば置かれま
す。個別の労働契約に含まれる労働時間の定めで、労働時間法に反するものは、裁判所にお
いて無効であると判断される場合があります。
2.4.4
時短勤務労働者
労働時間修正法(Wet aanpassing arbeidsduur)に基づき、労働者は使用者に対して労働時間
の縮減または増加を請求することができます。使用者は原則として、(i)その労働者がその使
用者のもとで1年以上働いていたとき、または(ii)その労働者の請求が使用者の重大な利益
を害さないとき(再度の人員配置の負担、安全性の問題など)
2.4.5
年次有給休暇
年次有給休暇の法定付与日数は、通常のフルタイムでの週間労働日数の4倍の日数とされて
います(オランダ民法第7巻第634条から第642条は、労働者の休暇の権利及びその行
使方法について詳しく定めています)。当事者間の合意によって、労働者により多くの年休
を付与することは可能であり、実務上そのように運用されている場合が多いです(オランダ
では5~6週間の休暇付与が一般的です)。労働協約においてもしばしば法定付与日数を超
える年休が設定されることがあります。法定付与日数に満たない年次有給休暇の合意は無効
です。また、祝祭日や、労働者に特別な出来事があった場合には(例えば、子の誕生や親戚
の死去など)、労働者は法定の年次有給休暇とは別に年休を取得することができます。
年次有給休暇は、別途の賃金の支払いによって代替することはできません。しかしながら、
法定付与日数を越える年休については、労働者と使用者との合意により買上げが可能です。
また、労働契約の終了に際しては、未消化の年休について賃金による支払いがなされます。
2012年1月1日以後に発生した年休のうち未消化のものは、6か月の経過後に消滅する
こととされています。また、法定付与日数を超える年休は、5年の経過後に消滅します。
2.4.6
特別の休業
ほとんどの特別の休業に関する規定は、労働及び介護に関する法律 (Wet arbeid en zorg)に
5
©BUREN N.V. 2014
定められています。なお、ここでは家庭内の緊急事態、短期介護休業、夫またはパートナー
のための産前産後の休業などについてはご説明をいたしません。これらの制度の詳細につい
ては当事務所にお問い合わせください。
2.4.6.1
傷病
使用者は、労働者の傷病による休業について、最初の2年間、労働者の賃金の少なく
とも70%の支払いをする義務を負います。また、最初の1年間は、法定最低賃金制
度が適用されます。さらに、個別の労働契約または労働協約により、オランダのほと
んどの使用者は傷病の最初の1年間は100%の賃金の支払い義務を負うことになり
ます。また、傷病の最初の2年間は、使用者は解雇通知により労働契約を終了するこ
とも禁止されます。
一方、労働者においても一定の義務を負います。労働者は、使用者または第三者のた
めに代替的な職責を果たすことを求められることがあります。さらに、労働者は使用
者の求めに応じて医師による合理的な診断・診療を受ける義務があります。
2.4.6.2
出産及び養子縁組
労働者は16週間の産前産後の休業の権利を有します。また、養子縁組については、
縁組の日の2週間前から18週間の間に、連続した4週間の(無給の)休業をする権
利が発生します。産前産後の休業の間に、労働者は労働保障局 UWV WERKbedrijf から
最低限の給付金を受け取ることになります。使用者は最後の賃金の70%の支払義務
がありますが(オランダ民法第7巻第629条)、前述の給付金の分だけ差し引くこ
とができます。労働協約または個別の労働契約により、以上よりもよい条件を設定す
ることができます。
2.4.6.3
育児
8歳以下の子の父母または後見人で、1年以上同一の使用者のもとで労働をしている
ものは、無給の育児休業をすることができます。休業の期間は、労働者が週に何時間
労働をしているかによります。
2.4.6.4
政治活動
労働者は、使用者に対して一定の政治団体の集会に参加することの許可を請求するこ
とができます。この休業に関して賃金に関する法律上の規定はありません。
2.4.7
安全衛生
労働環境に関する法律(Arbeidsomstandighedenwet)その他関連する法律は、使用者に対し、
労働者の安全衛生を確保するための多くの重要な義務を課しています。とりわけ使用者は、
労働者の傷病や健康に対する危険を防止し、また労働者の職務への復帰を促進する義務を負
います。また、使用者は、産業医(Arbodienst)の支援を受ける義務を負います。産業医は、
使用者の危険の調査・診断を支援し、傷病に罹患した労働者を援助し、また傷病に罹患した
労働者の復帰について使用者に助言するなどします
2.4.8
身体障害者となった労働者の職務復帰
労働者が身体障害者となってしまった場合、使用者は、その労働者が再度労務の提供をする
6
©BUREN N.V. 2014
ことができるように労働条件及び労働環境を変更するか、その代替手段を講じる義務を負い
ます。この点に関しては、次の判例がその義務を明確にしています。



労働者がパートタイムのみでしか働けない場合、使用者はその労働者に対してパート
タイムの時間でフルタイムの仕事を行うことを許容する義務があると判断したもの。
労働者がフルタイムで働けはするが、以前の職務内容をこなすことができない場合
(例えば重い荷物の運送など)、使用者はその職務内容を別の者に配分する義務があ
ると判断したもの。
労働者が以前と同様の職務内容をこなすことができない場合、使用者はその労働者に
適切な業務を割り振る義務があると判断したもの。
これらの使用者に対する義務は、身体障害者職務復帰法(Wet Reïntergratie
Arbeidsgehandicapten)及びゲートキーパー法(Wet Poortwachter)において規定されています。
使用者は産業医(Arbodienst)及び身体障害者となった労働者と協力して、積極的な職務復帰
を目的とした“アクションプラン”を作成する義務を負います。このプランには、少なくと
も、使用者と労働者とで行われる職務復帰のために必要な措置、これらの措置のスケジュー
ル、及びこれらの措置及びアクションプランの評価のスケジュールを含む必要があります。
労働者は積極的にこのアクションプランの作成と評価に協力をし、障害に応じて割り振られ
た適切な業務を受け入れ、必要があれば労働条件の変更を受け入れる義務を負います。もし
労働者が協力をせず、障害に応じて割り振られた適切な業務を受け入れようとしない場合に
は、使用者は賃金の支払い義務を負いません。一方、もし使用者が上記の義務に従わない場
合には、労働保障局(UWV)は使用者に対して2年を超える期間の賃金の支払い命令を行うこ
とができます。
2.4.9
損害賠償義務
使用者は、その事業所において労働者の身体・生命の危険、重要な財産への損害を回避する
ため、安全衛生に配慮した労働環境を整備する義務を負います。業務に際して負傷等をした
その使用者において安全衛生に配慮した労働環境を整備していなかった場合には、労働者は
その使用者に対して生じた損害の賠償を求めることができます。もしその損害が労働者の不
注意な行動によるものである場合には、使用者はその責任を負いません。この場合のその不
注意は、使用者において証明する責任があります。労働者の一人がその業務に際して第三者
に損害を与えた場合には、使用者はその第三者に対して損害を賠償する責任を負います。
2.4.10 差別的取扱
男女間の平等取扱の原則は、ヨーロッパにおける発展に伴って、オランダ労働法においても
取り入れられてきました。男女平等取扱法 (Wet gelijke behandeling van mannen en
vrouwen)は、労働契約の開始及び終了、賃金、労働訓練、昇進その他の労働条件について、
男女間の平等取扱について規制しています。これらの事項について、いかなる場合において
も、直接的または間接的に(例えば、既婚未婚、家族状況に基づいてなど)、男女間におい
て差別をしてはならないとされています。もし労働者がこれらの規定に反する取り扱いを受
けたと考える場合、労働者はいわゆる平等取扱委員会(Commissie gelijke behandeling)に通
報することができます。
その他の特に労働法規によって禁止されている差別的取扱として、年齢、フルタイム、パー
トタイム雇用かどうか、有期または無期雇用かどうかに基づく差別的取扱、身体障害者に対
7
©BUREN N.V. 2014
する差別的取扱などが挙げられます。これらの規制の根拠となるのは、平等取扱法
(Algemene wet gelijke behandeling )、年齢差別に関する労働者平等取扱法 (Wet gelijke
behandeling op grond van leeftijd en arbeid)、常勤及び非常勤雇用に関する平等取扱法
(Wet gelijke behandeling van tijdelijke en vaste werknemers )、有期雇用に関する平等
取扱法 (Wet gelijke behandeling voor werknemers met een contract voor bepaalde
tijd)、身体障害及び慢性疾患労働者に関する平等取扱法(Wet gelijke behandeling op
grond van handicap of chronische ziekte )が挙げられます。さらに、オランダにおける人
種に基づく差別は刑法(Wetboek van Strafrecht)によって禁止され、信教、政治的信条、人
種、性別その他の理由による差別は憲法(Grondwet)によって禁止されます。一般に憲法は国
家のみを名宛人とし、私人間の関係には直接には適用されませんが(この点については学者
の間でも争いがあります)、労働関係において、例えば信教、政治的信条に基づく差別は、
裁判所において非難を受けることは明らかであり、なんらの正当化自由のない場合、そのよ
うな差別は債務不履行、または不法行為とされ、解雇の場合にはその解雇が「明らかに不合
理」と判断される場合があります。
2.5
労働契約における制限的規定
2.5.1
秘密保持義務
労働期間中もしくは退職後に、使用者の事業に関する秘密をもらすことは刑事上の犯罪行為
となります。労働契約においては、しばしばどのような情報が秘密として保護され、誰に対
してその情報を開示してはならないかを規定しています。
2.5.2
競業避止義務
オランダ法のもとでは、労働契約において、以前の労働契約の終了後一定期間、以前の使用
者との競業する行為を制限する競業避止条項を定める場合があります。競業避止条項は書面
にて合意される必要があります。
労働者においては、裁判所にこの競業避止条項を緩和したり、無効とするよう求める場合が
あります。この場合、裁判所は、この競業避止条項を存続させる使用者の利益と比べ、労働
者にとって過度の負担とならないかを判断することになります。また、裁判所は、競業避止
条項が存続する期間につき、労働者に対する金銭的補償をするよう判断する場合もあります。
さらに、使用者は、労働契約の終了について損害を賠償する責任を負う場合には、競業避止
条項に基づく権利を行使することができない場合があります。
2.5.3
知的財産権の保護
特許法(Rijksoctrooiwet)によると、労働者がある発明を行い且つそのような発明が当該労働
者の雇用された職務範囲に属するものであるならば、使用者は当該発明について特許を受け
る権利を有します。労働者の賃金が、発明についての対価を含むものとみなされない場合に
は、その労働者は相当の対価の支払を受ける権利を有します。労働者によって文学、科学ま
たは芸術について著作物が作成された場合、使用者はその著作物について著作権を有します
が、それは労働者の著作物の作成が、その業務の範囲内であった場合に限ります(著作権法
(Auteurswet))。統一ベネルクスデザイン法(Eenvormige Beneluxwet inzake Tekeningen of
Modellen)によると、労働者の労務の提供によって作成されたデザインは、通常使用者の権利
に属することとなります。
8
©BUREN N.V. 2014
2.6
年金制度
一般に、使用者においては年金制度を提供する義務を負いません。しかし、ほとんどの場合、
年金制度は労働協約において規定されており、使用者によっては個別の労働契約において年
金の定めをおいている場合もあります。一定の産業においては、その産業における(強制
の)年金基金を設置している場合もあります。使用者が年金制度をおいている場合、年金法
(Pensioenwet)が適用されることになります。
オランダ法においては、主に2種類の年金制度が挙げられます。一つ目は、確定拠出年金で
あり、保険会社、産業別年金基金、もしくは企業年金基金への使用者の拠出金額、投資の収
益、費用によって受給金額が定まるというものです。また、もうひとつは確定給付年金であ
り、退職時の受給金額は拠出金額によって定まるのではなく、労働者が加入した時点で受給
金額をあらかじめ定めるというものです。確定給付年金にはいくつかの種類があり、平均給
与方式(middelloonregeling)及び最終給与方式(eindloonregeling)とに細分されます。
2.7
労働条件の均一化
2.7.1
使用者による一方的な変更
オランダ民法第7巻第613条によると、(i) 使用者の一方的な労働条件の変更につき両当
事者において書面にて合意済みであり、且つ(ii) 使用者においてその労働条件のにおいて相
当の利益(zwaarwegend belang)を有する場合には、使用者は一方的に労働条件の変更をする
権利を有します。
両当事者において、使用者のそのような権利について書面で合意をしていなかった場合には、
その使用者は原則としてそのような一方的な労働条件の変更をすることはできません。ただ
し、例外的に、使用者が一方的に労働条件の変更をすることができる場合がいくつかありま
す。
2.7.2
合意による変更
使用者は、労働者との合意により(=労働者の承諾を得られるならば)、労働条件の変更を
行うことができます。
2.7.3
判例における労働条件の変更
使用者による労働条件の変更に労働者が同意しない場合には、使用者は裁判所に労働条件の
調整を求めることができます。オランダ最高裁の判例によると、労働環境の変更に伴う労働
条件の変更についての使用者の合理的な提案に、労働者は従うべきであるとされています。
労働者がそのような使用者の提案を拒否できるのは、労働者にそのような使用者の提案を受
け入れることが合理的見地からして期待できないときに限られます。
変更される労働条件の性質に従い、それらの変更は労働者委員会法(Wet op de
ondernemingsraden)第27条第1項各号の定義に該当する場合があります。その場合、労働
条件の変更には、個別の労働者の同意だけではなく、労働者委員会の同意も必要とされます。
この労働者委員会による同意については、以下の 5.8 において詳述いたします。
9
©BUREN N.V. 2014
3
オランダ法のもとでの団体的労使関係
3.1
労働組合
オランダにおいて、最も重要な労働組合として、Federation of Dutch Trade Unions ( FNV)、
及び National Federation of Christian Democratic Workers ( CNV)が挙げられます。集団解
雇を伴う撤退、再編の場合、オランダでは労働組合、労働者委員会、従業員代表との間でい
わゆる雇用調整計画(social plan)に合意をするのが実務でよくおこなわれています。
3.2
使用者団体
最も重要な使用者団体は Confederation of Netherlands Industries and Employers ( VNONCW)であり、貿易業、工業、交通、金融業、保険業、卸売業、大規模小売業などの使用者団
体で構成されています。
3.3
労働協約
3.3.1
総説
労働組合と使用者団体とで、労働協約に合意をすることがあります。労働協約は、合意され
ると、一定の使用者団体の構成員の全ての労働者に適用されることになります。労働協約は、
労働組合と個別の大規模な事業者との間で合意されることもあります。その場合、労働協約
は、その個別の事業者にのみ適用されます。
3.3.2
労働協約の適用
労働協約の一般的な適用の宣言に関する法律(Wet op het algemeen verbindend en
onverbindend verklaren van bepalingen van collectieve arbeidsovereenkomsten) による
と、労働協約の当事者の請求により、社会問題相(the Minister of Social Affairs)は、一
定の事情のもとで、特定の労働協約の条項が、特定の業界における全ての労働関係に一般的
に適用されると宣言することができます。この場合、使用者団体の構成員ではない使用者に
おいても、その労働協約の規定が適用されることになります。また、実務上、「よく組織さ
れた」使用者は、労働者が労働協約の当事者となった労働組合の組合員であるか否かにかか
わらず、労働者を平等に取り扱います。労働協約には、個別の使用者を拘束する給与基準、
休暇、労働時間などが定められます。使用者と労働者とは、原則として適用される労働協約
の条件から逸脱することはできず、これにより個別の労働契約の合意が制限されます。ただ
し、労働協約以上の賃金の支払いを合意するなどの、労働者にとって有利な合意を個別にす
ることは可能です。
4
オランダ法における労働契約の終了
4.1
総論
オランダにおいては、労働契約の終了に関しては、他のヨーロッパの国々と比べて、労働者
の利益が大幅に保護されることとなっています。最も著しい違いは、労働契約を終了させる
ためには、原則として労働保障局(UWV WERKbedrijf)または裁判所の事前の承認を得なければ
ならないと言うことです。
10
©BUREN N.V. 2014
事前の承認が不要な場合としては、以下の場合があります。
(i)
試用期間中の労働契約の終了(下記 4.3.1)。
(ii)
期間の定めのある労働契約の期間が経過し、なんらの通知も合意されない場合(下記
4.3.2)。
(iii) 緊急の事情により即時解雇の方法で労働契約が終了する場合(下記 4.3.2)。
繰り返しになりますが、本章記載のご説明は一般的なものであり、個別の事案における(解
雇の)判断の根拠とされることはお避けください。労働協約の適用、個別の労働契約の逸脱、
その他の状況により、法的な帰結が異なる場合があります。
4.2
停職
停職について明文上の規定はありませんが、一般に、使用者が、労働者において即時解雇事
由となる緊急の事情を引き起こしたと疑う重大な事情がある場合において許されます。その
ような場合、停職はその停職事由の調査のために許容されます。契約終了手続中においても
停職がされる場合がありますが、それはその労働者の職場での存在が容認されないと認めら
れる場合に限られます。下級審の裁判例では、一般的に労働者の働く権利を認める傾向にあ
ります。停職中においても労働者は賃金を受け取る権利を有します。
4.3
事前の同意のない労働契約の終了
4.3.1
試用期間
試用期間中においては、使用者、労働者ともに、即時に労働契約を終了させる通知を発する
ことができます。労働者が請求をした場合には、使用者は書面にて労働契約の終了の理由を
提示しなければなりません。
4.3.2
有期の労働契約
有期の労働契約は、法律上その合意された期間の経過により終了します(労働契約において
別途定めた場合は除きます)。そのため、労働契約の解約告知や労働保障局 UWV WERKbedrijf
による解雇許可は不要です。また、有期の労働契約の労働者には、通常所謂退職金は支給さ
れません。
使用者が、期限前に有期の労働契約を終了させたい場合は、労働保障局 UWV WERKbedrijf に
よる解雇許可を得るか(注:そのためには労働契約中に契約期間の中途で解約告知を許す規
定が含まれていることを要します)、または簡易裁判所に労働契約の終了を求める必要があ
ります。
労働契約の期間の終了後、新たな雇用契約を締結することなく雇用が継続された場合、新し
い契約の期間は、以前のものと同期間とみなされます。連続する雇用契約も法律上期間の満
了により終了しますが、オランダ民法第7巻第668条 a の要件に当てはまる場合にはこの
限りではありません。この「契約の連鎖」(chain of contracts)に関する規定は、上記 2.2
にてご説明いたしました。この規定の要件が満たされると、有期の労働契約は自動的に期間
の定めのない契約へと変更されることとなり、その場合には下記 4.4 の労働契約の終了に関
する規定が適用されることになります。
11
©BUREN N.V. 2014
4.3.3
緊急の事情による即時解雇
即時解雇を正当化するような「緊急の事情」(dringende reden)がある場合には、労働契約を
即時に終了させることができます。これは、1日たりともこれ以上労働関係を継続させるこ
とが合理的に期待し得ないような事情がある場合に認められます。「緊急の事情」があるか
どうかの判断には、すべての関連する事実関係・事情が考慮に入れられます。そのため、特
定の場合につき、裁判所が「緊急の事情」があると認定するかどうかを予測することはしば
しば困難となります。即時解雇に関していつどのように労働者に通知をするかにつき、厳格
な手続の要件が定められています。「緊急の事情」は相手方に即時に通知されなければなら
ず、猶予期間なしに労働契約は終了されなければなりません。しかし、判例によれば短期間
の遅れ、例えば法律家への相談の時間などは許容されます。
4.4
期間の定めのない労働契約の終了
4.4.1
解雇許可及び解雇予告
解約予告により労働契約を終了させるためには、労働保障局 UWV WERKbedrijf が発行する
「解雇許可」が必要です。使用者はオランダの当局である労働保障局 UWV WERKbedrijf の事
務所において書面による請求により労働者の解雇を求めることができます。一般に、解雇許
可の請求は、使用者の経済的事由、または労働者の成績不良などの非経済的事由に基づき行
われます。
労働保障局 UWV WERKbedrijf において解雇の合理性の判断を行います。労働保障局 UWV
WERKbedrijf が、解雇理由が合理的であり、使用者が職務の変更などの代替措置を十分に試み
たと判断した場合に限って、解雇が許可されることになります。成績不良を理由とする解雇
の場合では、労働保障局 UWV WERKbedrijf は成績不良の原因について調査を行います。この
場合には、労働者が使用者から成績不良につき警告を受け、成績向上のための十分な時間と
指導が行われたことを示す資料が必要となります。
使用者の経済的事情に基づき解雇の場合は、使用者がその事情について証明し、かつ「比例
性の原則」(afspiegelingsbeginsel)に従う必要があります。その趣旨では、使用者は、社内
において、いわゆる「交換可能な職務」(uitwisselbare functies)があるかどうかを確認す
る必要があります。職務が交換可能な場合には、使用者は、一定の年齢のグループ内におい
て、もっとも最近に入社した労働者からまず解雇を行わなくてはなりません。年齢グループ
は、(i) 25歳未満、(ii) 25歳以上35歳未満、(iii) 35歳以上45歳未満、(iv) 4
5歳以上55歳未満、(v)55歳以上に分けられます。しかし、例えば、職務の内容によって
は、またはある労働者がより高い能力もしくは適任である場合などには、例外が認められる
場合があります。労働保障局 UWV WERKbedrijf は、その労働者が行っている職務が経済的理
由により消滅するべきかどうか、使用者の経済的事由が労働契約の終了の結論を正当化する
かどうかを判断するだけでなく、別の職務が社内もしくは関連会社に存在するかどうかの判
断も行います。
労働保障局 UWV WERKbedrijf における手続は、一時的には書面により行われ、労働者が十分
の防御の機会が与えられたかに従い、数週間から数か月を要することになります。そのため、
解雇許可を得る手続は、ほとんどの場合において、時間を要するうえ、結果も予期すること
が難しいものとなっています。
12
©BUREN N.V. 2014
オランダ民法は、解雇予告による労働契約の終了が制限されるさまざまな場合(たとえ解雇
許可が労働保障局 UWV WERKbedrijf から発せられた場合であっても)について規定を置いて
います。最も重要な法律上の制限は、労働者が病気となった最初の2年間は解雇予告による
労働契約の終了が禁止されるというものです。しかし、労働保障局 UWV WERKbedrijf におい
て書面による解雇許可の請求が受理された後にその労働者の病気が発症した場合には、この
病気中の解雇の禁止の規定は適用されません。その他の例外としましては、妊娠中や労働者
委員会の構成員であることも挙げられます。これらの規制に反する解雇は無効となります。
解雇許可が発せられた後、使用者は解雇予告を行うことができます。解雇予告は月末でもっ
て行われる必要があります。また、法定もしくは契約上の予告期間が遵守される必要があり
ます。この解雇予告期間の経過を持って労働契約は終了することとなります。このときにな
って初めて労働者の賃金その他の報酬を受け取る権利及び労務を提供する義務は消滅するこ
ととなります。使用者において遵守するべき法律上の解雇予告期間は、以下のとおりです。

5年未満の期間雇用されていた労働者に対して、1か月

5年以上10年未満雇用されていた労働者に対して、2か月

10年以上15年未満雇用されていた労働者に対して、3か月

15年以上雇用されていた労働者に対して、4か月
解雇許可がある場合には、解雇予告は1か月短縮されることになります(最低1か月前に予
告する必要があります)。
解雇許可を得て、解雇予告期間を遵守した場合であっても、労働者は復職または「不当解
雇」として補償の支払いを求めて裁判所に訴えを提起することができます。実務上、裁判所
は復職を認めることはめったにありませんが、代わりに、解雇が(解雇許可に関わらず)
「明白に不合理」(kennelijk onredelijk)であると判断した場合には、使用者に対して補償
の支払いを命じます。
解雇許可を得て解雇予告を行って労働契約を終了させた場合、所謂退職金の支払いは法律上
求められていません。当然、両当事者においてそのような退職金の支払いを合意することは
可能であり、実務上しばしばそのように合意されています。この場合、退職金の金額は、簡
易裁判所に雇用契約の解約を請求して認められた場合に裁判所により認定されるであろう金
額を参考にして決定されることになります。
解雇許可の申請が不許可となった場合、これに対する不服申立てを行うことはできません。
また、新たな申請により解雇許可が発せられるためには、以前の申請手続において考慮され
なかった新たな事情が発生した場合に限られます。
4.4.2
簡易裁判所での労働契約の解消
解雇予告による労働契約の終了に変わって、使用者はいつでも管轄裁判所において労働契約
の解消を求めることで、労働契約を終了させることができます。裁判所は、労働契約の終了
につき重大な事由(gewichtige redenen)がある場合に、労働契約を解消します。これらの事
由は説得力を持って主張される必要があります。重大な事由とは、解雇のための「緊急の事
情」に類する状況がある場合か、即時もしくは短期間に労働契約を終了させることを正当化
するような状況の変化がある場合などを言います。人員整理、事業所の閉鎖その他の経済的
事由は、労働契約の解消の重大な事由になり得ます。
解雇予告の場合における労働契約の終了の制限の規定は、この裁判所による労働契約の解消
の場合には適用されません。しかし、裁判所はこれらの規定が適用される場合には、容易に
13
©BUREN N.V. 2014
労働契約を解消させることはありません。特に労働者の病気の場合は、裁判所は労働契約の
解消には抑制的な態度をとることになります。
労働契約の解消手続では、両当事者が双方の主張に基づいて陳述を行います。その後、口頭
審理が行われます。裁判所における審理は非公式のもので、公式的な証人尋問は行われませ
ん。ほとんどの裁判官は当事者の主張に自由に口出しをしてきますし、例えば一時的に審理
を中止して、裁判外での和解による紛争の解決を求めてくることもあります。手続は、全体
でおおよそ6週間から8週間を要します。
労働契約は、裁判所の判決の日(または両当事者が合意をした日。例えば月末または合意の
翌日) に解消されます。解雇予告期間を置く必要はありません。当事者が「法律の錯誤」を
発見しない限り、解消の判決について不服申立てをすることはできません。
労働契約の解消により、裁判所は一方当事者に対して補償の支払いを命じる場合があります。
オランダ民法においては、この補償は合理的なものでなければならないと定めています。裁
判所は、このような補償の金額を定めるにあたり、通常、その事案に関するすべての事情
(例えば労働契約を終了させる理由の重大性、労働者の年齢、労働契約の長さ、事業の財務
状況など)を考慮に入れます。簡易裁判所においては、通常この補償の金額を計算するため
に使用される「公式」を発展させてきました。この公式については、以下の 4.5 においてご
説明します。このように簡易裁判所手続きにおいて裁判官によって認められ、簡易裁判所公
式により計算される補償の額を、実務ではよく退職金と呼んでいます。
4.4.3
緊急の事情による即時解雇
期間の定めのない労働契約においても、緊急の事情に基づく労働契約の即時の終了が認めら
れます。この即時解雇については上記 4.3.3 をご参照ください。
4.4.4
双方の同意による契約の終了
労働契約は当事者間の双方の同意により終了させることができます。労働者は、使用者から
の労働契約の終了の提案を受け入れた場合でも、原則として失業手当給付金を受け取ること
ができます。そのため、双方の同意による契約の終了は一般的です。当事者においては、労
働契約を終了させるための条件について合意を行います。通常は、簡易裁判所の労働契約の
解消手続における「公式」に基づく退職金を参考に、使用者が労働者に対して一定の金銭的
な補償を行います。この「公式」については下記 4.5 においてご説明します。
4.5
退職金の計算
上記でご説明したとおり、裁判所は、解雇の際の補償ができるだけ正確に計算されるような
「公式」を発展させてきました。この「公式」は簡易裁判所の公式として明らかにされてい
ます。この公式においては、解雇手当の計算において、以下の A、B、C の 3 つの要素が考慮
に入れられます。グロスの(税引前の)解雇手当の金額は、A×B×C となります。
要素 A: 雇用期間(「加重された」年数に切り捨てて計算されます)。(i) 労働者の 35 歳の
誕生日の前までの雇用年数は 0.5 年と計算され、(ii) 35 歳から 45 歳の誕生日の間の雇用年
数は 1 年と計算され、(iii) 45 歳から 55 歳の誕生日の間の雇用年数は 1.5 年と計算され、さ
らに(iv) 55 歳の誕生日の後の雇用年数は 2 年と計算されます。
14
©BUREN N.V. 2014
要素 B: グロスの月額賃金(これには確定し合意された休暇手当などの報酬が含まれます)。
一般に、労働者の年金制度への分担金、自動車費用手当、使用者の医療保険への分担金、変
動的な従業員利益分配制度などは除かれます(ただし、従業員利益分配制度については含ま
れることがあります)。(通常過去 3 年以上にわたって)定期的に支払われるボーナスは通
常含まれます。
要素 C: 調整係数。例えば、解雇に至った理由について、裁判所が両当事者どちらにおいて
も帰責性がないと考える場合(少なくとも、一方がもう一方に対して帰責性の程度が高くな
いと考える場合)、乗数は 1 となります(A x B の計算結果に影響を及ぼしません)。事案に
より、裁判所が労働者の側において解雇についての全面的な責任があるとし、使用者に解雇
手当の支払いを命ずるのが不当であると判断する場合には、裁判所はこの乗数を 0 とします
(解雇手当の支払いは行われません)。一方、労働契約を終了させるに至る事情の変更につ
き、使用者の側に責任がある場合には、裁判所は乗数を1を超えて設定する場合があります。
こちらも事案によりますが、組織の再編や会社の閉鎖による解雇の場合には(再編の必要等
を判断し)、乗数は 1 もしくは 1.5、例外的な事情において一般に最大で 2 となります。その
労働者の労働市場での地位や使用者における財務状況(証明される必要があります)なども、
乗数決定の要素となります。
4.6
取締役の解任
4.6.1
はじめに
会社とその取締役との関係は、通常オランダ会社法のほか、オランダ労働法により規定され
ます。取締役の解任の効果を発生させる手続を決定するに当たっては、オランダ会社法に基
づく取締役の地位からの解任手続と、オランダ労働法に基づく労働契約そのものの終了の手
続とを区別して検討する必要があります。
4.6.2
オランダ会社法に基づく解任
オランダ民法第 2 巻によると、取締役を選任する権限のある会社の機関は(一般に株主総会
または監査役会)、いつでもその会社の取締役を解任することができると定めています。監
査役会は、取締役の解任の効力が発生する前に株主総会に解任について諮問をする義務があ
ります。
解任の決定自体が法律または定款に反する場合、その解任の決定は無効となります。解任の
決定の手続に関する規定に違反する解任の決定は、取り消される場合があります。会社の機
関の権限配分について考慮される合理性・公平性(redelijkheid en billijkheid)の原則に反
する解任の決定も同様に取り消される場合があります。取締役は、関係する会社機関が解任
を検討している事実をまず知らされる必要があり、権限のある会社機関に対して解任につい
ての自らの意見を述べる機会が与えられる必要があります。
労働者委員会においては、取締役の解任についての助言を行う機会が与えられる必要があり
ます(当該取締役が労働者委員会法に定める取締役である場合)。
4.6.3
オランダ労働法に基づく解雇
オランダ最高裁の判例においては、会社法上の取締役の地位が終了したからといって、自動
的にその会社と取締役との間の労働契約が終了するものではないとしています(ただし、そ
15
©BUREN N.V. 2014
の取締役(兼労働者)が株主総会の召集通知を受け取った時点において病気だった場合、両
当事者が別途合意していた場合を除きます)。そのような場合、労働契約は株主による解任
後、使用者においてオランダ労働法に基づき有効に労働契約を終了することができるまで、
その取締役との間の労働契約は存続することになります。なお、取締役の労働契約は、労働
保障局 UWV WERKbedrijf の事前の許可なく終了させることができます。
近時の判例においては別途判断される場合もありますが、労働契約を終了させる場合の取締
役が受け取る補償の額の算定に当たっては、取締役の簡易裁判所における退職金についての
「公式」がしばしば使用されます。一定の労働契約においては、取締役の解任に当たって支
払われる退職金についての規定が含まれることがあります(いわゆるゴールデンパラシュー
ト)。そのような規定は有効ではありますが、必ずしも取締役において裁判所にてより高い
金額の退職金の支払いを求めることを排除するものではありません。一方、解雇が明らかに
不合理だからといって、取締役において再雇用を求めることは困難です。もし取締役におい
て株主により不当に解雇されたと考えるならば、取締役は不合理な解雇として補償を求める
裁判手続を開始することができます。
4.7
整理解雇
4.7.1
はじめに
使用者が同一地域において 3 か月以内に少なくとも 20 名以上の労働者を解雇する場合、整理
解雇の通知に関する法律(Wet Melding Collectief Ontslag)が適用されます。この法律によ
ると、使用者は予定する解雇について UWV WERKbedrijf 及び関係する労働組合に対して通知
する義務があり、まず労働組合との間で解雇及びその社会的影響について協議する必要があ
ります。個別の解雇許可の申請は、予定される整理解雇の通知の 1 か月後にのみ行うことが
できます。その後、使用者は UWV WERKbedrijf による事前の同意が得られた後にはじめて、
個別の労働者を有効に解雇することができます。
4.7.2
ソーシャルプラン
この点では、事業所の閉鎖や相当程度の解雇の場合、ソーシャルプランについて労働組合や
労働者委員会との間で合意をするのが慣習といえます。労働協約においては、しばしば使用
者におけるソーシャルプランについての労働組合との協議義務を規定しています。UWV または
裁判所からの批判に耐えうるソーシャルプランを作成することが重要です。労働組合が書面
によるソーシャルプランについてあらかじめ協議を受け、同意をしていた場合には、UWV や裁
判所は、解雇許可及び解雇手当の決定の基礎として受け入れることになります。裁判所は、
そのソーシャルプランが明らかに不合理である場合に限って、個別の労働者により高額な退
職金を付与することになります。
上記のとおり、労働者においては、労働契約が終了するまでは賃金について全額を支払われ、
労働し続けることができます。労働契約の正式な終了前に子会社の清算が行われた場合、そ
の問題となる労働者については、賃金の支払いを維持したまま非懲罰的な停職を行うことが
もっとも妥当です。
労働者委員会(ondernemingsraden)がその会社に置いて設置されていない場合、上記以外の
規制を除き、会社の閉鎖や解雇の告知の時期について、特段の法的な要件はありません。以
下では、労働者委員会の特定の規定につきご説明します。
16
©BUREN N.V. 2014
4.7.3
労働者委員会(ondernemingsraden)による助言及びスケジュール
「通常」の会社の再編・事業所閉鎖は、すべての手続が完了し、労働契約が終了するまでに、
少なくとも6か月から8か月を要します。労働者委員会による裁判が行われるような最悪の
シナリオでは、1年を要する場合もあります。
一般に、オランダ労働者委員会法(Wet op de ondernemingsraden)によると、労働者委員会へ
の諮問は、労働組合との協議と同時に行うものとされています。上記のとおり、労働組合と
の間でソーシャルプランについて実際に合意をするという法律上の要件はなく、単なる協議
で足ります。使用者は、原則として協議を一度行えばそれで足ります。しかし、一般に、使
用者は、同意されたソーシャルプランがない場合、労働者委員会から好ましい助言を得るこ
とは困難となります。労働者委員会法第25条に従い使用者に義務付けられるこの助言手続
は、以下の 5.6 にてご説明します。
整理解雇の手順に関する定まったスケジュールはありませんが、整理解雇の通知に関する法
律による1か月の待機期間を考慮に入れる必要があります。実務上、労働者委員会が助言を
行い、ソーシャルプランが締結されるまで最大3から4か月を要します。事業主の決定が労
働者委員会の助言に沿ったものである場合、その事業主はこの決定をそのまま実行すること
ができます。もしそうでない場合、1か月の待機期間を遵守する必要があります。労働者委
員会によって提起されたアムステルダム高等裁判所の商事部(Ondernemingskamer van het
Gerechtshof te Amsterdam)での裁判手続では、手続の数か月にわたる遅延が発生することが
あります。
労働者委員会法によると、使用者においてその決定を実行することが可能となった後、使用
者は UWV に対して解雇許可を申請しなければなりません。この手続には通常2から3ヶ月を
要します。解雇許可を得た後は、解雇予告期間の規制に従ってすべての個別の労働者に通知
がなされる必要があります。法律上の解雇の禁止が適用される労働者については、解雇予告
の通知を行う代わりに、労働契約の解消手続が行われることもあります。
5
労働者委員会(ondernemingsraden)
5.1
労働者委員会設置義務
労働者委員会法によると、通常少なくとも50名の労働者を有する事業を行う事業主は、諮
問手続及び会社の労働者の代表のため、労働者委員会を設置する義務を負います。この義務
は、労働協約においても規定されることがあります。この場合、労働者委員会法の規定も適
用されます。
労働者委員会法は、「事業」について、労働契約に基づき労務が遂行される、社会において
独立の事業体として活動するすべての組織と定義されています。この規定は、「事業」につ
いて必ずしも会社である必要はないことを示しています。また「事業主」とは事業を行うあ
らゆる自然人もしくは法人を指します。
公法により設立された法人に対しては、特別の規定が適用されます。これらの規定について
はこのご説明では省略させていただきます。
17
©BUREN N.V. 2014
2つ以上の事業を行う事業主はすべての事業のために中央労働者委員会を設置することがで
きます。事業主は、事業の各労働者委員会の過半数の賛成により求められた場合は、中央労
働者委員会を設置する義務を負います。これらの規定は、1つの企業グループにおいて2つ
以上の労働者委員会が設置された場合に準用されます。中央労働者委員会は、その設置の目
的であるすべてまたは過半数の労働者委員会の共通の利益に関する事項についてのみ権限を
有します。中央労働者委員会によって取り扱われる事項については、別の労働者委員会は取
り扱う権利を有しません。
事業主は、行う事業の全部ではなく一部について、1以上のグループ労働者委員会を設置す
ることもできます。
5.2
労働者委員会の構成及び活動方法
労働者委員会の委員は、その事業において雇用される同一の地位の者の中から直接選出され
ます。委員の人数は事業における労働者の数により異なり、3名から最大25名となります。
労働者委員会は、とりわけ、その委員の選出手続及び活動方法についての付属定款を作成す
る義務を負います。事業主の許可を得て、労働者委員会は、付属定款により、労働者委員会
の委員の人数を決定し、また1人以上の代表者を選任することができます。労働者委員会の
委員の候補者のリストは、投票権を有する労働者が在籍する労働組合によって提出されるか、
労働組合員ではない投票権を有する30名未満の労働者で、かつ労働者の3分の1未満の者
により提出されます。
労働者委員会は、少なくとも1年に60時間以上の間、会議を開催することができます。委
員は年間少なくとも5日以上、就業時間中に賃金の支払いを受けながら研修に参加すること
ができます。労働者委員会は、常設または臨時の委員会を開催することもできます。事業主
は労働者委員会の運営に必要な設備を提供しなければなりません。事業主は労働者委員会の
活動に必要な合理的な経費を負担することになります。事業主は、労働者委員会によって使
用される費用につき、必要と思われる金額に固定することができます。
特定の議題が取り扱われる際には、労働者委員会の会議に専門家を招致することができます。
さらに、専門家に対して書面にて意見の提出を求めることもできます。専門家への相談に要
した費用については、そのような費用が発生することについて事前に事業主に通知した場合
に限り、事業主において負担されることになります。
労働者委員会は、その権利の実現のために事業主に対して法的手続をとることもできます。
これについての費用は事業主において負担されますが、そのような費用が発生する前に通知
した場合に限られます。労働者委員会は、事業主によって行われた法的手続の費用について
は責任を負いません。
5.3
労働者委員会の委員の保護
労働者委員会の委員の地位を保護するため、労働者委員会法は、事業主において、労働者委
員会の委員候補、委員、元委員について、委員候補であること、委員であること、委員であ
ったことを理由とした、その事業におけるあらゆる不利益を受けないようにする義務がある
と規定しています。さらに、(i) 労働者が書面にて労働契約の終了に同意した場合、(ii) 緊
急の事情により即時解雇された場合を除き、労働者委員会の委員についての労働契約を終了
させることは禁じられています。会社の活動の一部または全部の停止の場合には、その活動
18
©BUREN N.V. 2014
の停止により委員の職務が存在しなくなる場合には、労働者委員会の委員との労働契約を終
了させることは可能となります。さらに、使用者は、労働者委員会の委員であるということ
と関係なしに労働契約の解消の請求を行っていることを示すことができた場合、労働契約の
解消を簡易裁判所に求めることができます。
5.4
情報アクセス
労働者委員会は、その役割を果たすために合理的に必要なすべての情報を受け取ることがで
きます(書面にてそのように求めた場合)。事業主は、労働者委員会に対して、協議の冒頭
で、協議の議題に関する一般的な情報(例えば、事業の組織構成に関する法律的な事項につ
いて等)を提供することが求められます。さらに、事業主は労働者委員会に対し、少なくと
も年2回、口頭または書面により、その事業の活動、前期の実績(特に労働者委員会の事前
の助言が求められる事項について(5.6 参照))、業績予想、次期におけるオランダまたは海
外での全ての投資について、一般的な情報を提供する義務があります。事業主は、存在する
場合、事業の長期的戦略についても情報提供する必要があります。採択された場合は、速や
かに(連結の)年次決算及び年次報告書も労働者委員会に提出される必要があります。
その会社がいわゆる大会社の場合、年次決算及び年次報告書は株主総会と同時に労働者委員
会にも提出される必要があります。
事業主は、少なくとも年2回、前期の労働力の構成及び福利厚生のほか、人員の成長予想に
ついて、書面にて情報提供する必要があります。
労働者委員会の委員及び助言をする専門家は、その権限により得られた、事業に関する情報、
明示に守秘義務が課された情報、または黙示に秘密とすることが求められる情報について、
第三者に開示しない義務を負います。
5.5
協議の権利
事業主と労働者委員会は、一方からの理由が付された請求があった場合、その請求の2週間
以内に協議を行わなければなりません。さらに、労働者委員会法により義務付けられている
議題について協議するため、少なくとも年6回の協議を行う義務があります。労働者委員会
はその議題について提案し、その意見を述べる権利を有します。事業の経営者は、その協議
において事業体を代表します。労働者委員会法において、「経営者」とは、単独または共同
で、その事業の業務を指揮する最高の権力を直接に行使する者と定義されています。労働者
委員会との協議においては、少なくとも年2回、事業の一般的な状況について話し合いがな
されます。事業主が公開有限責任会社(naamloze vennootschap または N.V.)もしくは非公開
有限責任会社(besloten vennootschap met beperkte aansprakelijkheid または B.V.)であ
る場合、(設置されている場合)監査役会(またはその代表者)もその協議に出席する義務
を負います。他の会社が株式の少なくとも半分が直接または間接に保有している場合、その
親会社の取締役会(またはその代表者)は、同様に労働者委員会の協議に出席する義務があ
ります。
5.6
助言の権利
労働者委員会法第25条によると、例えば、(i) 事業の全部または一部の譲渡、(ii) 他の事
業の開始、買収、または売却、(iii) 事業の全部または重要な一部の閉鎖、(iv) 事業の活動
19
©BUREN N.V. 2014
の相当の縮減、拡大、または変更、(v) 事業の組織または事業内の権限配分の重要な変更、
(vi)これらの事項についての助言のための外部専門家の指名などの経営上の事項につき、決
定またはその実行を行うに当たっては、事業主は労働者委員会の事前の助言を求める必要が
あります。
労働者委員会に対する助言の請求は、労働者委員会が問題となる事項について実際に影響を
及ぼすことが可能な時期に行う必要があります。助言の請求を行う際には、事業主は労働者
委員会に対して、その検討されている経営上の事項について説明をし、その事業において勤
務している労働者についての決定に対する理由と、その決定による結果を軽減するためにと
られる手段について説明をする義務があります。
検討されている経営判断は、少なくとも1回の協議において話し合いが行われる必要があり
ます。労働者委員会が助言を行うための定まった期間はありません。合理的な期間が与えら
れればよく、数週間から数か月となります。労働者委員会がより多くの情報を求めたり、別
の提案を行ったりすることで、手続の遅延が頻繁に起こります。労働者委員会の助言に関連
する限りにおいて、そのような情報の追加提供が行われる必要があります。基本的に、関連
するかどうかは労働者委員会の判断に任されます。
助言がなされた後は、事業主はその助言に従って経営上の決定を行うかは自由です。事業主
は、その決定がなされた後、出来るだけ早く、労働者委員会にその決定について書面にて通
知をすることになります。その決定が完全に労働者委員会の助言に沿ったものではない場合、
その事業主は書面にてなぜその助言から逸脱したかについて説明をする義務を負います。決
定が助言と異なる場合には、事業主は、その決定の日から1か月の待機期間の間、その決定
を実行することが出来ません。
5.7
アムステルダム高等裁判所商事部での手続
事業主の決定が労働者委員会の助言から逸脱し、また、助言を行った当時もし知り得ていた
ならば、別の助言を行うに至っていたというような事実または状況が明らかとなった場合、
事業主の決定の通知がなされて1か月以内に、労働者委員会においてその決定について商事
部に不服申立を行うことが出来ます。商事部は、労働者委員会の請求により、事業主の経営
上の決定を、手続の間停止させることが出来ます。商事部は、利益考量のうえで、合理的な
事業主であれば行わなかったであろう決定をその事業主が取ったと判断した場合には、その
事業主の決定を取り消すことが出来ます。判例では、商事部は、実質的な理由で事業主の経
営上の決定を取り消すことは少ないといえます。しかし、明らかに関連する状況を考慮に入
れていないで決定された場合などにおいては、裁判所は事業主の決定を取り消すことがあり
ます。
労働者委員会の助言を得る手続に関する理由で、多くの事業主の決定が取り消されています。
まったく助言を得ていなかったということだけではなく、重要な情報が労働者委員会に提供
されなかった場合や、助言を求めるのが遅かった場合、労働者委員会が十分に事案を検討す
る機会が与えられなかった場合などがあげられます。さらに、商事部においては、労働者委
員会が行った主張によりなぜ別の経営上の決定に至らなかったのかについて、十分に満足し
うる程度に(特に十分詳細に)事業主が説明をしなかった場合には、その経営上の決定が明
白に不合理であると判断する場合が増加しています。
20
©BUREN N.V. 2014
5.8
同意権限
労働者委員会法第27条によると、事業主が事業における「社会的な」制度を新たに導入し
たり、変更したり、廃止したりする特定の決定(例えば年金制度、従業員利益配分制度また
は貯蓄制度、休日労働時間、賃金や職務分類)を行う場合には、労働者委員会による事前の
同意が必要とされています。事業主は、決定に至る理由の要約と、事業における労働者が受
ける予想される結果について、書面による説明を行う義務があります。検討されている決定
においては、少なくとも1回の協議にて話し合われる必要があります。労働者委員会の同意
は、労働協約において既に規定されている場合には必要とされません。
事業主が労働者委員会の同意を得なかった場合、事業主は、特別委員会(bedrijfscommissie)
による調停が成立しなかった後に、簡易裁判所にその経営上の決定についての許可を求める
ことが出来ます。簡易裁判所は、労働者委員会が行った同意の拒絶の決定が不合理であるか、
事業主の検討されている決定が重要な組織上、経済上、社会上の理由に基づいている場合に
のみ、その決定についての許可をします。
労働者委員会の事前の同意、または簡易裁判所の許可なしになされた事業主の決定は無効で
す。その決定が労働者委員会に通知されたとき、または労働者委員会において事業主が決定
を実行していることを知ったときから1か月以内に、労働者委員会はその決定の取り消すこ
とが出来ます。労働者委員会は、簡易裁判所に対して、事業主によるその無効の決定の実行
の差止めを求めることができます。
5.9
取締役の選任及び解任
労働者委員会法においては、事業の取締役(その者が、単独または共同で、その事業の業務
を指揮する最高の権力を直接に行使する場合)の選任または解任の決定につき、事業者は労
働者委員会の事前の助言を求める義務があります。一方、労働委員会は事業者がその助言か
ら逸脱した場合であっても、商事部に対して手続きを求めることはできず、事業主は1か月
の間その決定の実施を停止する必要はありません。
事業がいわゆる大会社である場合、(structuurvennootschap)(例えば、簡潔に要約すると、
(i) 発行済株式資本と準備金との合計額が少なくとも EUR 16,000,000 であるか、(ii)その子
会社において(法定の)労働者委員会があるか、または(iii) 連結にて従業員が100人以
上いる場合において、労働者委員会は監査のための取締役の選任について助言をする権限を
有します。これらの権限については、ここでは詳述しません。
5.10
小規模事業主について
労働者委員会法は、10人以上50人未満の労働者を雇用している小規模事業主における従
業員代表(personeelsvertegenwoordiging)に関して、特別の規定を置いています。通常の労
働者委員会に適用される全ての規定が、この「準」労働者委員会においても適用されるわけ
ではありません。もっとも重要な違いは、準労働者委員会の助言を行う権限は、少なくとも
その事業の4分の1以上の労働者において、失業や業務の性質、労働条件、業務遂行の環境
などの重要な変化などをもたらす決定を事業主が行う場合に限られます。
21
©BUREN N.V. 2014
6
事業譲渡
6.1
はじめに
オランダにおいて既に確立した事業を取得するためには(i) 株式の取得、 (ii) 事業に関す
る全部または一部の財産の取得、または(iii) 法律上の合併を行います。ここでは、買収に
関する労働法規の適用に焦点を当ててご説明いたします。
別の会社の支配権を取得する場合(50%以上の影響力の取得の場合)の労働者保護を目的
とした制度は合併規則(SER Fusiegedragsregels)及び労働者委員会法によって規定されてい
ます。さらに、オランダでは事業譲渡における労働者の権利に関する1977年2月14日
付 EU 指令 77/187(1998年(98/50)及び2001年(2001/23)に改正されています)の
国内法化・国内実施が行われております(オランダ民法第7巻第662条から第666条)。
労働協約においては一定の労働者保護規定が含まれることがあります。一般に、オランダ民
法第7巻662条から第666条の規定を除き、これらの規制は買収の方法に関わらず適用
されます。一方、オランダ民法第662条から第666条の規定は、事業財産の購入により
買収が行われる場合に一般に適用されます。
6.2
合併規則
合併規則は、社会経済委員会により作成された行動規範であり、合併交渉中の労働者の利益
保護について定めるものです。合併規則においては、合併は、ある事業における全部または
一部、もしくは事業グループ全体の支配権を、直接または間接に取得するものと定義されて
います。
合併規則は、合併交渉における株主(第1章)及び労働者(第2章)の両方の保護を目的と
しています。この規則は、買主と売主が最終的な合意に至る以前の段階で遵守される必要が
あります。
6.2.1
適用
合併規則は、(i) 合併に1以上のオランダにて設立された会社が関係しており、100人以
上の従業員を有する場合、または(ii) 合併に関係する会社がオランダで設立された会社のグ
ループの一員であり、400人以上の従業員を有する場合に適用されます。労働協約におい
て、これらの基準に合致するかどうかに関わらず、合併規則が適用されるものとすることが
出来ます。
合併規則は、(i) 全ての合併の当事者が企業グループの一員である場合か、(ii) オランダ法
の適用外で行われる合併である場合は適用されません。合併規則には地域的な適用範囲があ
ります。
6.2.2
労働者保護制度
労働組合は、予定されている合併における労働者の利益について、意見を表明する機会を与
えられます。労働組合の関与は、組合の判断が、合併を行うかどうかの決定及び合併の条件
にまだ十分影響を与えることが出来る時期に行われる必要があります。
22
©BUREN N.V. 2014
合併規則によると、当事者は、合併の事実、その法的、経済的、社会的影響について労働組
合に報告する義務があります。また、これらの影響に関して採られる対応手段について情報
を提供する必要があります。この労働組合に情報を提供する義務の理由は、労働組合におい
て合併の条件が確定する前に意見を表明する機会を与えるためです。労働組合は、合併及び
(一時的には)社会的影響について追加の情報の提供を求める権利があります。労働組合に
おいては、これらの提供を受けた情報を外部に開示することは禁じられます。
合併交渉は、合併の条件が確定する前に行われる協議において、少なくとも1回労働組合と
の間で話し合いが行われる必要があります。この協議では、労働組合は意見を表明する機会
が与えられますが、労働組合による合併への同意は必要とされません。
合併の準備または成立に関する公告が行われる場合、労働組合は公告前にその内容が通知さ
れます。
労働組合への通知と同時に、社会経済委員会は、予定されている合併につき書面にて通知が
されます。
6.2.3
罰則
合併規則は法律ではなく、単なる行為規範です。したがって、労働者委員会法とは異なり、
合併規則について労働組合による法的救済制度は規定されていません。しかし、合併規則紛
争解決委員会により、合併規則の不遵守についての決定がなされる場合があります。この委
員会の決定は公開されます。さらに、合併規則は、一般的で慣習上の注意義務を規定してお
り、合併規則に反する行為は差し止められる場合があります。
6.3
労働者委員会法
上記 5.6 にてご説明したとおり、労働者委員会法第25条に基づき、事業主は、経営上の事
項のうち、(i) 事業の全部または一部の支配権の移転、(ii) 他の事業の開始、買収、廃止に
ついて、特定の決定及びその実施をする場合には、労働者委員会の事前の助言を請求する義
務を負います。合併規則によると、この助言手続は、労働組合との間の最初の協議が行われ
るまでは、開始されてはならないとされています。助言手続の詳細については、上記 5.6 を
ご参照ください。
6.4
労働者の移転
6.4.1
事業譲渡
事業の財産の売買による事業の移転の場合、オランダ民法第7巻第662条から第666条
の規定が適用されます。オランダ民法第7巻第662条によると、「事業譲渡」とは、合意
による(財産の)移転と考えられます。判例によると、第7巻第662条から第666条の
規定が適用されるためには、その合意が事業活動自体の移転を導くことになることが要求さ
れます。一般に、このことは「財産・負債購入契約」となります。これらの規定は、破産の
場合の破産管財人による事業譲渡には適用されませんが、支払停止における事業譲渡には適
用されます。
これらの規定の要件を満たすと、事業譲渡の場合に、使用者の権利義務及び労働者との間の
23
©BUREN N.V. 2014
既存の労働契約のもとでの事業は、法律上事業の買主が承継することになります。譲渡後1
年間、売主と買主は、連帯して、譲渡以前に発生した義務の限りで労働契約上の義務を果た
す責任を負います。
オランダ民法第7巻第664条第1項において、年金受給についての特別の例外を規定して
います。しかし、同条第2項においては、第1項の例外は、労働者において譲渡前の部門別
の年金基金への加入が義務付けられており、譲渡度もこの義務が継続する場合には適用され
ないと規定しています。
事業譲渡に際して裁判手続が行われていた場合、手続は使用者の移転とともに移転すること
になります。労働協約に規定された労働条件も、同様に譲受人に移転します。
6.4.2
株式の買取及び法律上の合併
使用者の人員構成を変動させない株式の取得による事業の移転は、オランダ民法代7巻第6
62条から第666条の規定の適用外です。法律上の合併の場合も同様です。
*
*
24
*
©BUREN N.V. 2014