脳波判読のポイント - 九州大学 医学部・大学院医学系学府・大学院医学

脳波判読のポイント
九州大学大学院医学研究院脳研臨床神経生理
飛松省三
2004 年 4 月 1 日
Version 1.0
2006 年 4 月 5 日
Version 2.0
1
Ⅰ -1
はじめに
脳波に対するアレルギーを少しでも減らそうとして、「脳波を楽しく読むためのミ
ニガイド」と「脳波アトラス」を作成しました。今回、この 2 つを編集し直して、脳
波判読のポイントを作成しました。脳波に関する解説書、教科書は多数ありますが、
肩 の こ ら な い 内 容 に し て い ま す 。 判 読 の 手 助 け に な れ ば 幸 い で す 。 こ の 章 で は 、 1) 脳
波 で よ く 使 わ れ る 表 現 、 2) 導 出 法 の 特 徴 、 3) 目 の つ け ど こ ろ な ど を 解 説 し ま す 。
Ⅰ -2
脳波を楽しみましょう
脳波の有用性を理解している神経内科医ですら、近年は脳波よりも画像所見を重視
するようになってきました。これは何故でしょうか。おそらく、脳波を自在に読みこ
なすには、脳波に対する経験と臨床的知識が不可欠であり、初心者に取って、これは
とても長く困難な道のように思えるからでしょう。
神経内科の研修医時代に恩師加藤元博九大名誉教授から脳波の手ほどきを受けまし
たが、いつになったら加藤先生のようにいともたやすく脳波を判読できるようになる
のだろうかと憧れとともに不安が一杯でした。時が経ち、研修医に脳波を教える立場
になり、脳波所見会でポカーンとし、あるいは居眠りをしている研修医に脳波の魅力
をいかに教えるかは私にとって試練でした。学部学生に脳波や誘発電位を教えた後ア
ンケート調査をすると、1 割弱に「脳波は難しい」との答えが返ってきます。教え方
が悪いと反省する一方、8 割は大体わかったという回答があり、来年も今以上に工夫
して教えなければならないと元気が湧いてきます。熱心な学生は脳波カンファレンス
に 参 加 し て く れ 、 以 下 の 感 想 を メ ー ル で 送 っ て き ま し た (文 面 ま ま )。
昨日は脳波カンファに参加させて頂き、ありがとうございました。実際の判読の様
子は、やはり自ら考えられる点で面白かったですし真剣にもなれます。しかし脳波は
デジタル情報ではなくてアナログ情報である分、脳波の検査用紙に書かれた膨大な量
の波形を前に、自分のような初心者にはどこが正常でどこが異常なのか全く分かりま
せんでした。飛松教授が、「ここなんかどう?」と何度か指摘してくださるうちにす
こし着眼点がわかるようになりましたが、次第にありとあらゆる箇所が怪しく感じら
れるようになり、?が多く残りました。やはり、難しいです。脳波は心電図とも違っ
て正常な波形すら分かりにくいですし、異常波形の出現時間が短すぎなので、何か見
落 と し が 無 い か ド キ ド キ し ま す 。今 回 担 当 の 方 が「 こ こ は・・・特 に な さ そ う で す ね 。」
とおっしゃりつつ先に進むたび、事前の詳細な検討と判読力の的確さに感嘆の思いで
した。やはり飛松教授のもとで毎回鍛錬している方々は違いますね。僕のような小心
者は自信がないので、せめて振動数別(α、β、θ、δ波)に色分けなどコンピュー
ターで処理できれば・・・などと思ってしまいます。出来ればもっと多くの症例を経
験してみたいのですが、時間の方が取れにくく、継続して参加というのはできそうに
なく、残念です。でももし機会があればメールしますのでご迷惑でない範囲で結構で
す の で 参 加 さ せ て く だ さ い 。 そ の と き は よ ろ し く お 願 い し ま す 。 (S.F. 九 州 大 学 医 学
部医学科3回生)
上記の感想は、おそらく脳波を読み始めた多くの医師が感じることでしょう。脳波
をただの波形分析として捉えると退屈で面白くありません。脳機能のダイナミックス
2
を知るには、最小限度の事を頭に入れておくと楽しく脳波を読めるようになるのでは
ないでしょうか。
Ⅰ -3 脳 波 で よ く 使 わ れ る 表 現 を 覚 え ま し ょ う
1)
脳波は時々刻々と変化する脳の自発的電気的活動を頭皮上の電極から記録したもの
で す 。 脳 波 は 読 ん で 字 の 如 く 波 か ら 構 成 さ れ 、 し ば し ば リ ズ ム を 形 成 し ま す 。 0.5〜 1
秒ほど一定の周波数の波が連続すると人間の目には脳波が律動的に見えます。脳の活
動状態により脳波の波形、振幅、周波数が変化します。
周 波 数 成 分 は 波 の 速 さ に よ っ て 以 下 の よ う に 区 分 さ れ 命 名 さ れ て い ま す 。す な わ ち 、
α (ア ル フ ァ )波 : 8〜 13Hz、 β (ベ ー タ )波 : 14〜 30 Hz、 θ (シ ー タ )波 : 4〜 7Hz、 δ (デ
ル タ )波 : 0.5〜 3Hz、 で す 。 δ 波 、 θ 波 は 徐 波 、 β 波 は 速 波 と も 呼 ば れ ま す 。 脳 波 の
振 幅 は 谷 か ら 山 ま で の 高 さ を い い 、 通 常 は 5〜 150 µV で す 。
よく使われる表現を以下にまとめてみました。
1) 律 動 、 律 動 的 rhythm, rhythmic
一定の周波数の波が連続して出現すると律動的に見えます。後頭部のα波や睡眠紡
錘波などが代表的です。
2) 活 動
activity
脳波全誘導に出現するあらゆる種類の脳波背景活動を指します。
3) 覚 醒 度
vigilance
脳波は時々刻々と変化するため常に覚醒度を考慮しながら、読む必要があります。
後頭部のα波の連続性が乏しくなったり、その周波数が遅くなり、振幅が低下すると
覚醒度が低いということになります。この時に徐波が出現しても覚醒度が高い時に出
現する徐波に比べて病的意義はありません。
4) 同 期 的 vs 非 同 期 的
synchronous vs asynchronous
徐波や棘徐波結合が左右両半球にほぼ同時に出現する場合、徐波や棘徐波結合が両
側同期的に前頭部優位に出現するなどと表現します。一方、このような徐波の非対称
性 (左 右 ど ち ら か が 振 幅 が 大 き い )が 明 ら か な 場 合 、 非 同 期 的 に 出 現 す る と い う 表 現 を
使 い ま す 。 一 方 、 脱 同 期 (desynchronization)は 、 同 期 し て 出 て く る α 波 が 開 眼 に よ
り 覚 醒 度 が 上 が り 、 視 床 -皮 質 間 の 脱 同 期 に よ り 抑 制 さ れ る 時 な ど に 使 い ま す 。
5) 間 欠 的 vs 持 続 的
intermittent vs continuous (persistent)
徐波が不規則な間隔でバースト状に出現する場合を間欠的といい、前頭部間欠性δ
活 動 (frontal intermittent delta activity, FIRDA)が そ の 代 表 で す 。 ほ ぼ 連 続 的 に
出 現 す る 場 合 を 持 続 的 と 表 現 し 、持 続 性 多 形 性 δ 活 動 (persistent polymorphous delta
activity, PPDA)が そ の 代 表 で す 。 間 欠 的 に 出 現 し て い て も 、 一 定 の 間 隔 で 出 る 場 合
は 周 期 的 (periodic)と い う 言 葉 を 使 い ま す 。 Creutzfeldt-Jakob 病 の 周 期 性 同 期 性 放
電 (periodic synchronous discharges, PSDs)が そ の 典 型 で す 。 PSD よ り も っ と 間 隔 が
短 く な る と 反 復 性 repetitive と い う 表 現 に な り ま す 。
6) 反 応 性 reactivity
開眼、音、光、痛み刺激に対する脳波の反応性を指します。反応性がないとそれだ
け異常の程度が強いことを意味します。
3
7) ま れ に rare, 時 に occasional, し ば し ば frequent
種々の活動の出現頻度を表します。まれに出現する活動は脳波所見用紙に記載して
も、脳波異常判定の程度には重きをおかない方が無難です。
8) 低 振 幅 (low amplitude) < 20 µV、 中 等 振 幅 (moderate amplitude) 20 µV〜 80 µV、
高 振 幅 (high amplitude) 80 µV>
振 幅 に は 上 の よ う な 基 準 が あ り ま す 。 振 幅 100〜 150 µV 程 度 の δ 波 と 具 体 的 に 記 載
するのも良いですが、高振幅のδ波と書いても構いません。
Ⅰ -4 導 出 法 の 特 徴 を つ か み ま し ょ う
2)
1) 差 動 型 増 幅 器
脳 波 は グ リ ッ ド 1 の 電 極 と グ リ ッ ド 2 の 電 極 の 電 位 差 (差 分 )を 測 定 し ま す 。 こ れ に
よ り 同 相 信 号 (交 流 雑 音 )は 相 殺 さ れ 、 異 相 信 号 (脳 波 )が 検 出 さ れ ま す 。 脳 波 計 で は 上
向 き の 振 れ が 陰 性 で 、下 向 き が 陽 性 で す 。陰 性 か 陽 性 か は 相 対 的 な も の で す 。例 え ば 、
グ リ ッ ド 1 の 電 位 が -80 µV、 グ リ ッ ド 2 の 電 位 が -30 µV な ら 脳 波 計 に は -50 µV、 す
な わ ち 陰 性 の 上 向 き の 振 れ と し て 記 録 さ れ ま す 。 同 じ -50 µV の 振 れ は 、 極 端 な 話 グ リ
ッ ド 1 の 電 位 が 0 µV、 グ リ ッ ド 2 の 電 位 が +50 µV で も 起 こ り え ま す 。 極 性 は 相 対 的
であると肝に銘じておきましょう。
FP1-A1
FP2-A2
F3-A1
F4-A2
C3-A1
C4-A2
P3-A1
P4-A2
O1-A1
O2-A2
F7-A1
F8-A2
T3-A1
T4-A2
T5-A1
T6-A2
Fz-A2
Cz-A2
F7-FP1
FP1-FP2
FP1-F3
FP2-F4
F3-C3
FP2-F8
F7-F3
F4-C4
C3-P3
F3-Fz
Fz-F4
F4-F8
A1-T3
T3-C3
C3-Cz
Cz-C4
C4-P4
P3-O1
P4-O2
FP1-F7
FP2-F8
F7-T3
C4-T4
T4-A2
F8-T4
T3-T5
F4-T6
T5-P3
P3-Pz
Pz-P4
T5-O1
T6-O2
Fz-Cz
Cz-Pz
P4-T6
T5-O1
T6-O2
Pz-A2
50 µV
1 sec
図 1 耳朶の活性化
37 歳 女 性 の 脳 波 で 、 臨 床 診 断 は 側 頭 葉 て ん か ん で す 。 基 準 電 極 導 出 で は 右 優 位 に 陽 性
棘 波 を 認 め ま す (左 欄 )。 し か し 、 双 極 導 出 で は F8 で 位 相 反 転 が あ り ま す の で 、 そ こ に 陰
性 棘 波 の 焦 点 が あ る こ と が わ か り ま す (中 欄 )。 そ こ で 、 注 意 深 く 観 察 す る と 基 準 電 極 導 出
で は 、 F8 で 陽 性 棘 波 の 振 幅 が 最 も 小 さ く そ の 前 に 小 さ な 陰 性 成 分 が あ る こ と が わ か り ま
す 。 し た が っ て 、 右 耳 朶 が F8 の 陰 性 棘 波 に よ り 活 性 化 さ れ 、 そ の 振 幅 は F8 と ほ ぼ 同 じ く
ら い で あ る こ と が わ か り ま す 。 モ ン タ ー ジ ュ を 変 え て も F8 に 陰 性 棘 波 が あ る こ と が 示 さ
れ ま す (右 欄 )。
4
2) 基 準 電 極 導 出 (referential derivation)
耳朶を基準とするので、左右差、半球性の異常を見つけやすい特徴があります。た
だ し 、 必 ず し も 耳 朶 の 電 位 は 0 で は あ り ま せ ん (活 性 化 ! )。 し た が っ て 、 単 極
(monopolar)導 出 と い う 言 葉 は 出 来 る 限 り 避 け 、 基 準 電 極 導 出 と よ ぶ 方 が 良 い で し ょ
う 。 側 頭 葉 て ん か ん で は 耳 朶 の 活 性 化 が 起 こ り や す い の で 、 要 注 意 で す (図 1)。
3) 双 極 導 出 (bipolar derivation)
2 つ の 電 極 間 の 電 位 差 を み る (相 対 振 幅 )の で 、 位 相 反 転 (phase reversal)に よ り 局
在 性 の 異 常 を 見 出 し や す い 利 点 が あ り ま す (図 2)。 た だ 、 注 意 し な け れ ば な ら な い の
は、2 つの電極の電位差が小さいと、振幅が低下し、平坦に見えることです。平坦な
ら 2 つ の 電 極 が 等 電 位 と い う こ と を 頭 に 入 れ て お い て く だ さ い 。ま た 、双 極 導 出 で は 、
タ テ (longitudinal)と ヨ コ (transverse)の 電 極 配 置 か ら 電 位 分 布 を 頭 の 中 に 思 い 描 く
こ と -頭 皮 上 マ ッ ピ ン グ が 大 事 で す (図 3) 3) 。 局 在 性 の 異 常 を 見 出 し た 時 は 、 電 位 分 布
を必ず推定する習慣をつけてください。
電
極
列
I
基準電極導出波形
(1)
(1)
(2)
(2)
双極電極導出波形
(1)→(2)
S
(2)→(3)
(3)
(3)=(b)
電極列II
(e)
(d)
(b)
(c)
(a)
(4)
(3)→(4)
(4)
(4)→(5)
(5)
基準電極導出波形
(e)
(d)
(c)
(b)=(3)
(5)
(a)
双極導出波形
(e)←(d) (d)←(c) (c)←(b)
(b)←(a)
図 2 位相反転による電位の局在
決定法
部位 S に最大振幅の陰性電位が
出現し、周囲に陰性電位が同心円
状に広がっている場合を仮定す
る。任意の縦の電極列Ⅰをみる
と 、 基 準 電 極 導 出 で は 電 極 (3) で
最高電位を認め、双極導出ではそ
の部に位相反転がみられるので、
そこを中心とする電位が存在する
ことがわかる。一方、横の電極列
Ⅱでは、電極 c の部位が最大電位
で あ り 、 電 極 b(あ る い は 3) よ り
も電位は大きい。これは、電極 c
が 電 源 S に 電 極 b(3) よ り も 近 い
ためである。そこで、c を通る縦
の電極列で脳波を記録し、c に最
大電位があることを確認する必要
が あ る (文 献 2 よ り 引 用 )。
4) 平 均 電 位 基 準 (average potential reference, AV)法
全電極から導出した脳波電位の平均値を基準とするものです。どれか一つの電極に
大 き な 入 力 (ア ー チ フ ァ ク ト )が 混 入 し た り 、 あ る 程 度 広 が り を も っ た 高 振 幅 の 電 位 が
あ る と 、 全 導 出 に 影 響 し ま す (活 性 化 ! )。
一 つ 忘 れ て な ら な い の は 、脳 波 所 見 は 導 出 方 法 に 関 わ ら ず 一 致 す る と い う こ と で す 。
モ ン タ ー ジ ュ が 変 わ っ た ら 、 必 ず 所 見 の 再 確 認 を し ま し ょ う (図 1)。 所 見 が 一 致 し な
い、あるいはモンタージュを変えた時にその所見が認められない場合は、デジタル脳
波計で記録していればリモンタージュしてみましょう。
5
A
B
横
縦
Fz = 0
F4 = 0 - 6
F8 = -6 - 76
Cz = 0
C4 = 0 - 0
T4 = 0 - 90
A2 = -90 + 50
Pz = 0
P4 = 0 - 0
T6 = 0 - 20
F7-T3
F3-Fz
Fz-F4
F4-F8
A1-T3
T3-C3
C3-Cz
= 0 µV
= -6
= -76
=0
=0
= -90
= -40
=0
=0
= -20
Fpz = 0
F8 = 0 - 44
T4 = -44 - 84
T6 = -128 + 60
Oz = -68 + 30
FP2= 0
F4 = 0 - 0
C4 = 0 - 0
O2 = 0 - 0
FP1-F7
F7-T3
T3-T5
T5-O1
Fp2-F8
F8-T4
T4-T6
T6-O2
Fp1-F3
Cz-C4
FP2
C4-T4
T4-A2
F4
T4
C4
F4
P3-O1
Fp2-F4
T5-P3
P3-Pz
FP2
F3-C3
C3-P3
F8
= 0 µV
= -44
= -128
= -68
= -38
=0
=0
=0
=0
C4
A2
F8
T4
F4-C4
Pz-P4
P4
P4-T6
P4
C4-P4
P4-O2
T6
100 µV
100 µV
1 sec
T6
O2
1 sec
図 3 鋭波の等電位マップ
横 方 向 の 双 極 導 出 で 記 録 さ れ た 鋭 波 (A)と 同 時 期 に 縦 方 向 の 双 極 導 出 で 記 録 さ れ た も の
(B)を 示 し ま す 。 各 脳 波 記 録 の 右 に あ る の は 各 電 極 の 電 位 を 基 に 計 算 し た 等 電 位 マ ッ プ で
す 。 T4 で 最 高 電 位 で あ る こ と が わ か り ま す (文 献 3 よ り 引 用 )。
Ⅰ -5 こ こ に 目 を つ け ま し ょ う
健 常 者 に お い て も 脳 波 の 波 形 は 、 被 験 者 の 中 枢 神 経 系 の 発 達 ・成 熟 の 程 度 や 、 意 識
レベル、覚醒レベル、精神活動の程度などにおける変化により鋭敏に変化します。し
たがって、安静覚醒閉眼状態における脳波が判定の基本となります。脳波判読は基本
的に目でみた波形分析です。まず、以下の活動に注目してみましょう。
1) 優 位 律 動 (dominant rhythm)
脳 波 の 背 景 活 動 (background activity)と し て 注 目 す る の は 、 優 位 律 動 (dominant
rhythm)と 、 混 入 す る 徐 波 と 速 波 で す 。 優 位 律 動 と は 脳 波 の す べ て の 背 景 活 動 を 構 成
する各種の周波数成分のうち、いちばん時間的に多く出現している周波数成分のこと
です。健常成人の安静覚醒閉眼時では、通常後頭部優位に出現するα波が優位律動と
な り ま す 。 そ の 周 波 数 (Hz)、 振 幅 (µV)、 分 布 、 左 右 差 の 有 無 、 出 現 量 、 刺 激 (開 閉 眼 )
や 各 種 賦 活 法 に よ る 変 動 性 を 注 意 深 く 観 察 し ま す 。正 常 成 人 (25〜 65 歳 )で は 、9〜 11 Hz
のα波が後頭部優位に出現します。開眼、光、音刺激などで抑制されます。周波数の
変 動 は 1 Hz 以 内 で 、 そ れ を 超 す と 不 規 則 で 非 律 動 的 に 見 え ま す 。 こ の 時
organization(組 織 化 )が 不 良 と い い ま す 。 何 ら か の 脳 障 害 に よ り 後 頭 部 優 位 の α 活 動
が な く 、全 般 的 に 高 振 幅 の δ 波 が 出 現 し 、記 録 の 大 半 を 占 め て い て も 、間 違 っ て も 優 位
律 動 は δ 波 と 書 い て は い け ま せ ん 。ま た 、脳 波 記 録 開 始 の 部 分 か ら 徐 波 が 多 い 時 に は 、
開眼や音刺激を繰り返して覚醒度を上げた状態でもα波の出現が悪く、徐波が出るこ
とを確認する必要があります。
6
2) 背 景 活 動 (background activity)
優位律動以外に混入する徐波と速波がないかどうかをチェックします。正常ではウ
ト ウ ト 状 態 drowsy state に な ら な い 限 り θ 、 δ 波 は 出 現 し ま せ ん 。 た だ し 、 加 齢 の
影 響 で 側 頭 部 に θ が 10%程 度 出 現 す る こ と は 許 容 範 囲 で す 。 前 頭 部 に は 低 振 幅 の β 波
が出現することがあります。
3) 突 発 波 (paroxysmal waves)
背 景 活 動 か ら 浮 き 立 つ 波 で 、棘 波 (spike)、鋭 波 (sharp wave)、棘 徐 波 結 合 (spike and
wave complexes)、 徐 波 バ ー ス ト (slow burst)な ど を 指 し ま す (図 4) 4) 。 棘 波 は 持 続
が 20〜 70 msec、 鋭 波 は 70〜 200 msec で す
1)
。持続時間により定義されていますが、
生 理 的 意 義 は ど ち ら も 易 興 奮 性 (irritable)の 状 態 、 す な わ ち て ん か ん 原 性 で あ る 可
能性を示唆します。
図 4
主な突発性異常波の種類
(文 献 4 よ り 引 用 )。
3Hz棘徐波結合
棘波
鋭徐波結合
シータ群発
鋭波
多棘徐波結合
デルタ群発
50 µV
不規則棘徐波結合
1 sec
4) ア ー チ フ ァ ク ト
体動、眼球運動、筋電図、心電図、脈波などのアーチファクトをいかに脳波と鑑別
するかは非常に重要です。見て明らかなアーチファクトもあれば脳波とまぎらわしい
も の ま で 種 々 様 々 で す 。 簡 単 な 見 分 け 方 と し て 、 脳 波 は 広 が り を も っ た 電 位 分 布 (2 個
以 上 の 電 極 で 記 録 さ れ る )を 示 し ま す が 、 電 極 の ア ー チ フ ァ ク ト は 広 が り が な く 1 個
の 電 極 で 説 明 で き ま す (図 5)。 脳 波 計 の チ ャ ン ネ ル に 余 裕 が あ れ ば 、 垂 直 ・ 水 平 方 向
の 眼 球 運 動 、心 電 図 を モ ニ タ ー し て お け ば ア ー チ フ ァ ク ト と の 鑑 別 に 便 利 で す (図 6)。
5) 睡 眠 脳 波
睡眠には浅い眠り、深い眠りといったいくつかの段階があります。睡眠に入る直前
には、意識レベルは低下し、身体の動きも少なくなり全身の筋肉は弛緩します。睡眠
がだんだん深くなってくると、脳波の周波数は遅くなりα波が消失しθ、δ波が出現
7
し ま す 。 こ の よ う に 脳 波 の 周 波 数 が 遅 く な る こ と か ら 徐 波 睡 眠 (ノ ン レ ム 睡 眠 )と 呼 ば
れ て い ま す 。も う 一 つ の 睡 眠 が レ ム 睡 眠 (REM 睡 眠 )で す 。REM は 急 速 眼 球 運 動 (rapid eye
movement)の 頭 文 字 を 取 っ た も の で す 。 こ の 睡 眠 の と き に は 眼 は 閉 じ て い ま す が 、 眼
をきょろきょろ動かす運動、身体や頭を支える筋の緊張の消失があり、夢をみていま
す。
図 5 アーチファクト
T5 に 陽 性 の 棘 波 様 ア ー チ
ファクトを認めます。アー
チファクトとした理由は、
電 位 が T5 の み に 限 局 し て
いるためです。もし、棘波
なら広がりがあるため、
F7-T3 に 陰 性 棘 波 が 認 め ら
れるはずです。
Fp1-F7
Fp2-F8
F7-T3
F8-T4
T3-T5
T4-T6
T5-O1
T6-O2
Fp1-C3
Fp2-C4
C3-O1
C4-O2
F7-Fz
Fz-F8
T3-Cz
Cz-T4
T5-Pz
Pz-T6
50 µV
1 sec
図 6 眼球運動
眼 球 運 動 (EOG)や 心 電 図 (EKG)を モ
ニターしておくとアーチファクトと
の鑑別に有用です。網膜は静止膜電
位によりマイナスに帯電していま
す。その結果、角膜はプラスとなり
電流双極子が形成されます。九州大
学病院検査部脳波室では、右下眼瞼
内側と右上眼瞼外側を結び垂直・水
平方向の眼球運動を記録していま
す。今、仮に眼球が上転すればプラ
ス が 近 づ く た め 、 Fp1 と Fp2 に は 下
向きの陽性の振れとして眼球運動は
記録されますが、下眼瞼内側の記録
電極では上向きの陰性の振れとなり
ま す 。 つ ま り 、 Fp1、 Fp2 と 下 眼 瞼 の
記録電極が同位相なら脳波、逆位相
なら眼球運動ということになりま
す 。 同 様 に 水 平 方 向 の 眼 球 運 動 は F7
と F8 で 逆 位 相 と な り ま す 。 つ ま り 、
眼 球 が 右 に 動 け ば 、 F8 が 陽 性 、 F7 は
陰 性 電 位 と な り ま す 。 本 例 (図 1 と 同
一 症 例 )で は 、 垂 直 お よ び 水 平 方 向 の
眼 球 運 動 (斜 め 方 向 )が あ り 、Fp1、Fp2
と EOG は 逆 位 相 な の で 、 上 向 き の 眼
球運動ということになります。同様
に F7 と F8 が 逆 位 相 で あ り 、 左 方 向
に動いたことがわかります。
FP1-A1
FP2-A2
F3-A1
F4-A2
C3-A1
C4-A2
P3-A1
P4-A2
O1-A1
O2-A2
F7-A1
F8-A2
T3-A1
T4-A2
T5-A1
T6-A2
Fz-A2
Cz-A2
Pz-A2
EOG
EKG
50 µV
1 sec
8
脳 波 か ら ノ ン レ ム 睡 眠 の 段 階 を み る と 以 下 の よ う に 分 類 さ れ ま す (図 7) 2) 。 国 際 分
類ではノンレム睡眠を 4 つの段階に分けています。
第 1 段 階 (入 眠 期 ): ウ ト ウ ト し た 状 態 。軽 い 刺 激 で 覚 醒 状 態 に 戻 る こ と が で き ま す 。
α波の周波数が遅くなって消失し、θ波が出現します。第 2 段階に移行する時期には
頭 蓋 頂 鋭 波 (vertex sharp transient)が 出 現 し ま す 。
第 2 段 階 (軽 睡 眠 期 ): 浅 い 眠 り で 寝 息 を た て る 状 態 。 強 い 刺 激 を 与 え な い と 覚 醒 し ま
せ ん 。θ 波 と 同 程 度 の 周 波 数 で あ る が 、振 幅 は 増 加 し 、と き ど き 紡 錘 波 (sleep spindle)
が見られます。
第 3、4 段 階 (深 睡 眠 期 ): 深 い 眠 り で 完 全 な 眠 り 。ゆ り 動 か さ な け れ ば 覚 醒 し ま せ ん 。
高 振 幅 δ 波 が 見 ら れ ま す 。 第 3 段 階 で は 2Hz 以 下 で 振 幅 が 75µV 以 上 の 徐 波 が 記 録 の
20〜 50%を 占 め ま す 。 第 4 段 階 で は 2Hz 以 下 で 振 幅 が 75µV 以 上 の 徐 波 が 記 録 の 50%以
上を占めます。
安静覚醒脳波では、軽睡眠期まで覚醒度が低下することはありますが、深睡眠期に
なることは滅多にありません。もし、睡眠脳波がみられた時は、睡眠段階と全記録の
何 %く ら い そ う い っ た 状 態 に あ っ た か を 記 載 し て お き ま し ょ う 。
覚醒
図 7 脳波による睡眠段階の分
類
安 静 開 眼 時 は 速 波 (β 波 )、 安
静閉眼時はα波が主体となりま
す。第 1 段階ではα波の振幅が
低下し、比較的低振幅で種々の
周 波 数 (2〜 7Hz)の 波 が 混 じ り ま
す。第 2 段階に移行する時期に
は頭蓋頂鋭波が出現します。第
2 段階では紡錘波、第 3 段階で
は 2Hz 以 下 で 振 幅 が 75µV 以 上
の 徐 波 が 記 録 の 20〜 50%を 占 め
ま す 。 第 4 段 階 で は 2Hz 以 下 で
振 幅 が 75µV 以 上 の 徐 波 が 記 録
の 50%以 上 を 占 め ま す 。 (文 献 2
よ り 引 用 )。
開眼安静時
閉眼安静時
ノンレム睡眠
第1段階
頭蓋頂鋭波
紡錘波
第2段階
第3段階
第4段階
レム睡眠
眼球運動
50 µV
1 sec
以上、脳波でよく使われる表現、導出法の特徴、目のつけどころなどを解説しまし
た。次章では、具体的な判読のポイントを述べます。
9
Ⅰ -6 文 献
1) Noachtar S, Binnie C, Ebersole J, Mauguiere F, Sakamoto A, Westmoreland B:
A glossary of terms most commonly used by clinical electroencephalographers
and proposal for the report form for the EEG findings. Electroenceph clin
Neurophysiol (suppl), 52: 21-41, 1999.
2) 大 熊 輝 雄 : 臨 床 脳 波 学 , 第 5 版 , 医 学 書 院 , 1999 年 .
3) Lesser RP, Luders H, Dinner DS, Morris H: An introduction to the basic concepts
of polarity and localization. J Clin Neurophysiol, 2:45-61. 1985.
4) 廣 瀬 源 二 郎 : 脳 波 検 査 . 濱 口 勝 彦 (編 ) 臨 床 検 査 MOOK No. 35 神 経 ・ 筋 疾 患 の 臨
床 検 査 , 1990, pp.75-85.
10
Ⅱ -1 は じ め に
こ の 章 で は 、 1) 順 序 立 っ た 判 読 の 仕 方 、 2) 優 位 律 動 を 含 む 背 景 脳 波 と 脳 波 の 反 応
性 、 3) て ん か ん 突 発 波 と 疑 性 て ん か ん 発 作 波 を 中 心 に 解 説 し ま す 。
Ⅱ -2 脳 波 判 読 は 順 序 だ っ て や り ま し ょ う
1) 較 正 (calibration)の 確 認
1 頁目に較正信号が入力されています。以下の 7 つの項目を必ずチェックしてくだ
さい
1, 2)
。
(1) 紙 送 り ス ピ ー ド (paper speed): 通 常 は 3 cm/sec で す 。 睡 眠 ポ リ グ ラ フ 検 査
の 時 は 1.5 cm/sec に な り ま す 。
(2) 基 線 (baseline): 基 線 の 揺 れ が な い か ど う か を み ま す 。
(3) ペ ン の 配 列 (pen alignment): ペ ン は 等 間 隔 に 配 置 さ れ 、 す べ て の ペ ン の 配 列
が頭から揃っているかどうかをみます。
(4) ペ ン 圧 (damping): ペ ン 圧 が 低 い と オ ー バ ー シ ュ ー ト (ヒ ゲ の よ う に 跳 ね る )、
高 い と ダ ン ピ ン グ (先 が 丸 く な る )と な り ま す 。
(5) 感 度 (sensitivity): 振 幅 は 50 µV/5 mm で す が 、 脳 死 の 判 定 の 時 は 4 倍 以 上
に 感 度 を 上 げ ま す 。 実 際 的 に は 10 µV/5 mm に す れ ば 問 題 あ り ま せ ん 。
(6) 時 定 数 (time constant, TC): 低 周 波 数 フ ィ ル タ ー で す 。 入 力 信 号 が 1/e(自 然
対 数 の 底 )す な わ ち 約 1/3 に 減 衰 す る 時 間 を 指 し ま す 。時 定 数 が 0.3 秒 の 時 0.53Hz、0.1
秒 の 時 1.59Hz 以 下 の 波 が カ ッ ト さ れ ま す (TC= 1/2π F (F: 周 波 数 )。
(7) 高 周 波 数 フ ィ ル タ ー (60 or 30 Hz)を 入 れ た 場 合 は 記 載 が あ り ま す 。
図 1 音刺激による
覚醒脳波の出現
睡眠 I 期で、拍手
により覚醒反応が出
現 し て い ま す (文 献
2)よ り 引 用 )。
FP1-C3
FP2-C4
C3-O1
C4-O2
C3-T3
覚醒
C4-T4
T3-FP1
T4-FP2
50 µV
1 sec
拍手
2) 優 位 律 動 の 分 析
(1) 基 準 電 極 導 出 で の O1, O2 の チ ャ ン ネ ル を 中 心 に み ま す 。 振 幅 、 周 波 数 、 左 右
差 、 modulation (waning & waxing)、 organization を チ ェ ッ ク し ま す
3)
。この際、閉
眼状態で覚醒度が高いと考えられる頁での優位律動をチェックします。1 頁目でα波
が み ら れ な い 場 合 は 、 病 的 な 意 識 障 害 か 正 常 で あ れ ば drowsy に な っ て い ま す の で 、
開 閉 眼 を さ せ た 頁 を み ま す 。 音 刺 激 に よ り 覚 醒 度 を 上 げ た 頁 で も 構 い ま せ ん (図 1)。
11
したがって、脳波を 1 頁目から順を追って時系列的に読み進めて行く必要はありませ
ん。優位律動は脳機能、とくに皮質の機能を表しますので、きちんと評価しなければ
なりません。α波の周波数が遅いことは、脳機能低下を示唆します。正常人でも右後
頭 部 の α 波 が 左 よ り も 振 幅 が 大 き い 傾 向 に あ り ま す 。 し か し 、 振 幅 の 左 右 差 が 50%以
上 あ れ ば 、 病 的 で す 。 周 波 数 の 左 右 差 も チ ェ ッ ク し て 下 さ い (図 2)。 ま た 、 優 位 律 動
は 数 %の 人 で α 波 に 乏 し い 低 振 幅 速 波 パ タ ー ン を 呈 す る こ と が あ り ま す 。
図 2 優位律動の左右差
20 歳 男 性 で 、 左 前 頭
葉に孔脳症があります。
後 頭 部 α 波 の 左 右 差 (右
は 9.5 Hz で 左 は 6 Hz)
が 明 ら か で す (文 献 3)よ
り 引 用 )。
Fp1-A1
Fp2-A2
C3-A1
C4-A2
O1-A1
O2-A2
T3-A1
T4-A2
75 µV
1 sec
Fp1-A1
Fp2-A2
Fp1-F3
F3-A1
F4-A2
F3-C3
Fp2-F4
C3-A1
F4-C4
C3-P3
C4-A2
C4-P4
P3-A1
P4-A2
O1-A1
P3-O1
P4-O2
Fp1-F7
O2-A2
Fp2-F8
F7-A1
F7-T3
F8-T4
F8-A2
T3-A1
T4-A2
T5-A1
T3-T5
F4-T6
T6-A2
Fz-A2
T5-O1
Cz-A2
Fz-Cz
T6-O2
Cz-Pz
Pz-A2
50 µV
1 sec
図 3 優位律動の頭皮上分布
基準電極導出ではαが後頭部優位ながらもびまん性に出現しています
(左 )。 し か し 、 双 極 導 出 で は 側 頭 部 で は T5 、 T6 、 頭 頂 部 で は P3 、 P4 ま の 拡
がりしかないことが分かります。基準電極導出では、耳朶の活性化によりα
波が前頭部まで拡がっているように見えますので、要注意です。
12
(2) 双 極 導 出 で 優 位 律 動 の 電 位 分 布 を み ま す 。 基 準 電 極 導 出 で は 、 耳 朶 の 活 性 化 が
起 こ る こ と が あ り 、 分 布 を 正 確 に 評 価 で き ま せ ん (図 3)。 基 準 電 極 導 出 で び ま ん 性 α
(diffuse α )と い う 表 現 は 、 双 極 導 出 で 分 布 に 拡 が り が な い 限 り 、 極 力 さ け て く だ さ
い 。 正 常 人 で の 分 布 は 側 頭 部 で は T5、 T6、 頭 頂 部 で は P3 、 P4 ま で で す (図 3)。 T3、
T4、 C3、 C4 ま で 分 布 が 広 く な っ て い る と 脳 機 能 低 下 が 示 唆 さ れ ま す 。
Fp1-A1
Fp2-A2
Fp1-F3
F3-A1
F4-A2
F3-C3
F4-C4
C3-A1
C4-A2
C3-P3
C4-P4
P3-O1
P4-O2
Fp2-F4
P3-A1
P4-A2
O1-A1
O2-A2
F7-A1
Fp1-F7
Fp2-F8
F8-A2
T3-A1
F7-T3
F8-T4
T4-A2
T3-T5
T5-A1
T6-A2
T4-T6
T5-O1
Fz-A2
Cz-A2
T6-O2
Fz-Cz
Pz-A2
Cz-Pz
50 µV
1 sec
図 4 局所性徐波
64 歳 男 性 の 脳 波 で す 。 左 頭 部 外 傷 に よ る て ん か ん が あ り ま す 。 基 準 電 極 導
出 (左 )で は 左 前 頭 側 頭 部 に 高 振 幅 の 不 規 則 δ 活 動 が み ら れ ま す 。双 極 導 出 (右 )
で は F3、 F7 に 位 相 反 転 が み ら れ 、 基 準 電 極 導 出 の 所 見 と 一 致 し ま す 。 ま た 、
双 極 導 出 で は 鋭 波 が T3 に 認 め ら れ ま す が 、 基 準 電 極 導 出 で は 、 局 在 性 は は っ
きりしません。
3) 背 景 脳 波 の 分 析
優位律動以外の活動がないかをみます。徐波あるいは棘波がある時はその分布が両
側性か半球性か局所性かを基準電極導出で大まかにつかんだ後、双極導出でその分布
を 検 討 し ま す (図 4)。 Ⅰ 章 で も 述 べ ま し た よ う に 、 脳 波 所 見 は 導 出 方 法 に 関 わ ら ず 一
致 す る と い う こ と で す 。モ ン タ ー ジ ュ が 変 わ っ た ら 、必 ず 所 見 の 再 確 認 を し ま し ょ う 。
所見が一致しない、あるいはモンタージュを変えた時にその所見が認められない場合
は 、デ ジ タ ル 脳 波 計 で 記 録 し て い れ ば リ モ ン タ ー ジ ュ し て み ま し ょ う 。双 極 導 出 で は 、
タ テ (longitudinal)と ヨ コ (transverse)の 電 極 配 置 か ら 電 位 分 布 を 頭 の 中 に 思 い 描 い
て み ま し ょ う (Ⅰ 章 図 3 参 照 )。 徐 波 の 場 合 、 周 波 数 が 遅 く な れ ば な る ほ ど 、 ま た 振 幅
が高くなればなるほど病的意義は高いと言えます。当然認められるべき波形が認めら
れない場合と、認められないはずのδ波や高振幅速波などがほぼ持続的に認められる
場合も異常です。もしそうした異常が限局性であるならば、その局在部位に器質的異
13
常が存在します。
図 5 Squeak 現 象
26 歳 女 性 の 脳 波 で 、 閉 眼
直後にα波の周波数が元の
レベルよりも早くなるが直
ち に 元 に 戻 り ま す (文 献 3)よ
り 引 用 )。
閉眼
Fp1-Cz
Fp2-Cz
O1-Cz
O2-Cz
T3-Cz
T4-Cz
T5-Cz
T6-Cz
75 µV
1 sec
4) 脳 波 の 反 応 性
(1) 開 閉 眼 : 開 眼 に よ り 優 位 律 動 (α 波 )は 抑 制 さ れ ま す (α -blocking)。 こ れ は 、
視 床 − 皮 質 反 響 回 路 間 の 脱 同 期 に よ る も の で す 。閉 眼 直 後 は 、α 波 の 周 波 数 が 最 大 2 Hz
ほ ど 速 く な る こ と が あ り ま す (squeak 現 象 )(図 5) 3) 。 一 側 で 開 眼 に よ る α 波 の 抑 制 が
欠 如 す る 場 合 (Bancaud 現 象 )は 、 そ の 半 球 の 機 能 異 常 が 示 唆 さ れ ま す (図 6)
3)
。 drowsy
の 時 に 、 開 眼 さ せ る と 覚 醒 度 が あ が り 、 逆 に α 波 が 出 現 し ま す (paradoxical α )(図 1
参 照 )。 ま た 、 徐 波 が 出 現 し て い る 場 合 は そ の 反 応 性 を み て く だ さ い 。 反 応 性 が 低 い
と そ れ だ け 病 的 意 義 が 高 い と 判 断 さ れ ま す (図 7A)。
図 6 Bancaud 現 象
47 歳 男 性 で 左 側 頭 葉 に 悪
性神経膠腫があります。左側
のα波の周波数が右に比べ
て や や 遅 く organization が
よくありません。開眼に対す
る反応性も不良であまり抑
制 さ れ ま せ ん (文 献 3) よ り 引
用 )。
Fp1-F7
F7-T3
T3-T5
T5-O1
Fp2-F8
F8-T4
T4-T6
T6-O2
閉眼
開眼
70 µV
1 sec
14
A
B
Fp1-A1
Fp2-A2
F3-A1
F4-A2
C3-A1
C4-A2
P3-A1
P4-A2
O1-A1
O2-A2
F7-A1
F8-A2
T3-A1
T4-A2
T5-A1
T6-A2
Fz-A2
Cz-A2
Pz-A2
EOG
EKG
50 µV
1 sec
開眼
光刺激
図 7 局在性徐波の反応性
図 4 と 同 じ 症 例 の 脳 波 で す 。 開 眼 (A)あ る い は 光 刺 激 (B)で 左 前 側 頭 部 に あ る
徐波の反応性は悪く、抑制されません。
(2) 光 刺 激 : 光 駆 動 (photic driving)が 起 こ り ま す (図 8)
4)
。視覚誘発反応であり、
刺 激 頻 度 と 同 じ (第 一 調 和 成 分 、 first harmonic response)か 、 そ の 倍 あ る い は 3 倍
図 8 光駆動
12 歳 の 男 児 で 4 歳 か ら 欠 伸 発 作 が
あ り ま す 。 8 お よ び 4 Hz の 光 刺 激 に
同 期 し て 光 駆 動 を 認 め ま す (文 献 4)
よ り 引 用 )。
Fp1-F7
F7-T7
T7-P7
P7-O1
Fp2-F8
F8-T8
T8-P8
P8-O2
Fp1-F3
F3-C3
C3-P3
P3-O1
Fp2-F4
F4-C4
C4-P4
P4-O2
Photic
stim.
50 µV
1 sec
15
の 反 応 が み ら れ ま す (第 二 調 和 成 分 (second harmonic)、 第 三 調 和 成 分 (third
harmonic))。 正 常 人 で も 抑 制 の み で 光 駆 動 が 出 現 し な い こ と は よ く あ り ま す 。
一側で光駆動が欠如する場合は、その半球の機能異常が示唆されます。光過敏性
が あ る 場 合 は 、 光 突 発 反 応 (photoparoxysmal response)が 出 現 し ま す (図 9)。 眼 瞼 の
み が 収 縮 す る 光 筋 原 反 応 (photomyogenic response)は 、 病 的 意 義 は あ り ま せ ん 。 ま た 、
徐波が出現している場合はその反応性をみてください。反応性が低いとそれだけ病的
意 義 が 高 い と 判 断 さ れ ま す (図 7B)。
図 9 光突発反応
光駆動とは異なり、光突発反
応は光刺激と必ずしも同期して
出現しません。この症例は全般
性強直間代発作がありますが、
光 感 受 性 は あ り ま せ ん (文 献 4)
よ り 引 用 )。
FP1-F3
F3-C3
C3-P3
P3-O1
FP2-F4
F4-C4
C4-P4
P4-O2
17/sec
75 µV
1 sec
(3) 過 呼 吸 : 呼 吸 性 ア ル カ ロ シ ー ス に よ り 脳 血 管 が 収 縮 し 、 徐 波 化 (build up)が 起
こ り ま す (図 10)。 成 人 で は 小 児 に 比 べ build up は 目 立 ち ま せ ん 。 徐 波 化 し て も 大 体
1 分以内に元の背景活動に戻ります。遷延するときは、脳機能低下があると考えてよ
いでしょう。モヤモヤ病では、いったん背景活動が元のレベルに戻った後、再度徐波
化 (re-build up)が 起 こ り ま す 。 し か し 、 モ ヤ モ ヤ 病 の 診 断 が は っ き り つ い て い る と
き は 、 過 呼 吸 は 禁 忌 で す 。 発 作 波 (欠 神 発 作 )や 徐 波 の 賦 活 な ど が 起 こ り ま す 。
過呼吸前
過呼吸30秒
過呼吸2分
過呼吸後50秒
FP1-C3
FP2-C4
C3-O1
C4-O2
O1-T3
O2-T4
C3-T3
C4-T4
T3-FP1
T4-FP2
C3-F7
C4-F8
図 10 過 呼 吸 に よ る 著 明 な 徐 波 化
こ の 例 で は 30 秒 の 過 呼 吸 で 後 頭 部 の 徐 波 化 が 認 め ら れ 、 2 分 後 に は 著 明 な 徐 波
化 と な り ま す 。 過 呼 吸 を 止 め て 50 秒 経 つ と ほ ぼ 元 の レ ベ ル に 戻 っ て い ま す (文 献
2)よ り 引 用 )。
16
(4) 睡 眠 賦 活 : 突 発 波 が 賦 活 さ れ や す く な り ま す 。 覚 醒 脳 波 で 突 発 波 が 記 録 で き な
い時は、睡眠脳波を取ります。通常の安静覚醒脳波では、軽睡眠期まで覚醒度が低下
することはありますが、深睡眠期になることは滅多にありません。もし、睡眠脳波が
み ら れ た 時 は 、 睡 眠 段 階 と 全 記 録 の 何 %く ら い そ う い っ た 状 態 に あ っ た か を 記 載 し て
おきましょう。
(5) 音 刺 激 : 背 景 脳 波 の 変 化 な ど を み ま す 。 覚 醒 度 が 低 下 し て い る 時 に 優 位 律 動 の
出現を促す場合や徐波の反応性をみます。徐波の反応性が低いとそれだけ病的意義が
高いと判断されます。
(6) 痛 み 刺 激 : 意 識 障 害 、 脳 死 の 時 に は 必 ず 行 わ な け れ ば な り ま せ ん
5)
。重篤な意
識 障 害 で は 、 背 景 活 動 に 変 化 が み ら れ ま せ ん 。 軽 い 意 識 障 害 の 時 は paradoxical
arousal response(図 11)が み ら れ る こ と が あ り ま す 。 こ れ は 、 覚 醒 度 が 上 が っ て 本 来
なら徐波が抑制されるはずなのに、逆に増加する現象です。意識障害、とくに意識レ
ベ ル の 低 下 が 軽 く 意 識 内 容 の 変 容 が あ る 時 な ど 、気 を つ け て 見 る と よ く 認 め ら れ ま す 。
A
B
Fp1-A1
Fp2-A2
F3-A1
F4-A2
F7-A1
F8-A2
C3-A1
C4-A2
T3-A1
T4-A2
P3-A1
P4-A2
T5-A1
T6-A2
O1-A1
O2-A2
150 µV
1 sec
痛み刺激
図 11 奇 異 性 覚 醒 反 応
3 歳男児で、ウイルス性髄膜脳炎です。痛み刺激で覚醒度が上
が る と 、 抑 制 さ れ る は ず の 徐 波 (左 )が 逆 に 増 え ま す (右 )。 こ の 現
象 を 奇 異 性 覚 醒 反 応 と 呼 び ま す (文 献 5)よ り 引 用 )。
Ⅱ -3 突 発 波
突発波とは、背景活動に含まれるα波などとは、形、周波数、振幅などの点で区別
される一過性の波形で、棘波、鋭波やそれに徐波を伴う棘徐波結合、鋭徐波結合、多
棘 徐 波 結 合 、 徐 波 の バ ー ス ト (burst)な ど い ろ い ろ な パ タ ー ン が あ り ま す 。 こ う し た
突発波が脳波上に認められれば、逆に臨床的に発作症状が観察される可能性が高いこ
とがわかります。突発波は被験者が実際に臨床発作を起こしていないときにも認めら
れ ま す 。 徐 波 の バ ー ス ト に 棘 波 が 時 に 重 畳 す る 場 合 は 、 slow burst with spike と い
17
う 表 現 を し ま す 。 ま た 、 棘 波 の よ う に 見 え る が 、 irritable か ど う か 判 断 が つ き か ね
る 時 は 、 sharp transients と い う 言 葉 を 便 宜 的 に 使 う こ と も あ り ま す 。 こ の 様 に 、 脳
波 専 門 医 で す ら 、 棘 波 な の か そ う で な い の か 意 見 が 分 か れ る こ と が あ り ま す 。 図 12
に棘波の特徴を示します
6)
。棘波は立ち上がりが立ち下がりより急峻で、背景活動か
ら浮き立つと覚えておきましょう。陽性より陰性棘波の方が病的意義は高いと考えら
れています。
D
C
B
50 µV
S
1 sec
Q
B
+
E
M
A
F
P
理想のてんかん発作波
G
図 12 棘 徐 波 結 合 の 波 形 の 変 動 性
A に理想の棘徐波結合の模式図
を示します。小さな初期陽性波
(BMS)に 続 い て 主 陰 性 成 分 (MSP)、
最 後 に 後 期 陽 性 波 (SPQ)が 出 現 し ま
す 。 B〜 H は あ る 患 者 の 5 分 間 の 脳
波 記 録 (C3-Cz)で 棘 波 と 自 動 的 に 判
定された波形です。波形にはかな
り変動がありますが、棘波と同定
された理由は、振幅と主陰性鋭波
成分の特徴に基づいています。典
型 的 な 棘 波 は 立 ち 上 が り (MS)の 方
が 立 ち 下 が り (SP)よ り 持 続 が 短
い 、 す な わ ち 急 峻 で す (文 献 6)よ
り 引 用 )。
H
最近は、てんかんのモニタリングが盛んです。臨床発作がつかまった場合、発作起
始部がどこなのかを見つけることは重要です。しかし、発作終了後の脳波変化も注意
深 く 観 察 し て お く と 、 片 側 性 か 否 か わ か る こ と が あ り ま す (図 13) 7) 。
A
発作時
図 13 て ん か ん 発 作 後 の 脳 波 変 化
28 歳 の 患 者 で 発 作 時 と 発 作 終 了
140 秒 後 の 脳 波 で す (A)。 発 作 終 了
後、左側頭部にδ波を認めます。
発 作 時 脳 波 で は 5 Hz の 律 動 性 の θ
が 出 現 し て い ま す 。 T4 に あ る 徐 波
は ア ー チ フ ァ ク ト で す 。 26 歳 の 患
者 で 発 作 時 と 発 作 終 了 14 秒 後 の 脳
波 で す (B)。 発 作 終 了 後 、 左 半 球 で
脳 波 が 抑 制 さ れ て い ま す (文 献 7)
よ り 引 用 )。
発作後のデルタ波出現
Fp1-F3
F7-T3
T3-T5
T5-O1
Fp2-F8
F8-T4
T4-T6
T6-O1
70 µV
1 sec
B
発作間欠期
発作後の脳波抑制
Fp1-F3
F3-C3
C3-P3
P3-O1
Fp2-F4
F4-C4
C4-P4
P4-O2
100 µV
1 sec
18
Ⅱ -4 て ん か ん 発 作 波 と 間 違 い や す い 活 動 に 気 を つ け ま し ょ う
偽 性 て ん か ん 発 作 波 pseudo-epileptiform
pattern
としては以下の活動がありま
す。いずれも正常人でも出現するので、病的意義はないと考えられています
8,
9)
。
1) 小 鋭 棘 波 (small sharp spikes, SSS)
SSS は drowsy〜 軽 睡 眠 時 に 出 現 し ま す 。 20〜 50μ V の 低 振 幅 で 持 続 が 短 い 単 発 性 の
小 棘 波 で 、 徐 波 を と も な い ま せ ん 。 良 性 な の で benign epileptiform transients of
sleep(BETS)と も 呼 ば れ ま す (図 14)。
A
図 14 小 鋭 棘 波
双 極 導 出 (A) と 基 準 電
極 導 出 (B) の 脳 波 で 両 側
側 頭 部 に SSS を 認 め ま す
(文 献 2)よ り 引 用 )。
B
Fp1-F3
C3-A1
C4-A2
F7-T3
F7-A1
T3-T5
F8-A2
T5-O1
T3-A1
Fp2-F8
T4-A2
F8-T4
T5-A1
T6-A2
T4-T6
50 µV
1 sec
T6-O2
50 µV
1 sec
2) 14& 6Hz 陽 性 棘 波 (14 & 6 Hz positive spikes)
14& 6Hz 陽 性 棘 波 は 主 と し て drowsy で 出 現 し ま す 。3〜 14 歳 で よ く 見 ら れ ま す (図 15)。
A
B
P3-A1
P4-A2
O1-A1
O2-A2
図 15 14 & 6 Hz 陽 性 棘
波
8 歳、男児の脳波です。
睡 眠 I 期 (A)で は 14 Hz
陽性棘波が右後側頭部
に 、睡 眠 II 期 (B)で は 6 Hz
陽性棘波が同じ部位にみ
ら れ ま す (文 献 2)よ り 引
用 )。
T5-A1
T6-A2
50 µV
1 sec
3) 6Hz 棘 徐 波 結 合 (6 Hz spike and wave)
6Hz 棘 徐 波 結 合 は 覚 醒 時 〜 drowsy で 出 現 し ま す 。 棘 波 の 振 幅 が 徐 波 に 比 べ て 目 立 た
な い の で phantom spike and wave と も 呼 ば れ ま す (図 16)。
19
図 16 6Hz 棘 徐 波 結 合
39 歳 、 女 性 で 、 頭 痛 が
主 訴 で す 。 6Hz 棘 徐 波 結 合
の種々のサンプルを示し
ま す (文 献 2)よ り 引 用 )。
Fp1-F3
F3-C3
C3-P3
P3-O1
Fp2-F4
F4-C4
C4-P4
P4-O2
50 µV
1 sec
4) 律 動 性 中 側 頭 部 放 電 rhythmic mid-temporal discharges
精 神 運 動 発 作 異 型 (psychomotor variant)と も 呼 ば れ ま す 。 drowsy で よ く 出 現 し 、
中 側 頭 部 中 心 に 律 動 的 θ が 群 発 し ま す (図 17)。
図 17 律 動 性 中 側 頭 部 放
電
38 歳 、 女 性 で 、 浮 動 感
が主訴です。右側頭部
(T4)優 位 に ノ ッ チ の あ る
律 動 的 θ 波 が drowsy で
出 現 し て い ま す (文 献 8)
Fp1-F7
F7-T3
T3-T5
T5-O1
Fp2-F8
F8-T4
T4-T6
T6-O2
50 µV
1 sec
5) ブ リ ー チ リ ズ ム breach rhythm
Breach は 裂 け 目 の 意 味 で 、 頭 部 外 傷 や 脳 手 術 に よ る 頭 蓋 骨 欠 損 部 あ る い は そ の 付 近
か ら 6〜 11Hz の ミ ュ ー 波 様 の 波 形 の 活 動 が 出 現 し 、多 く は 速 波 成 分 を 伴 い ま す (図 18)。
A
図 18 ブ リ ー チ リ ズ ム
左前頭・側頭部の開頭
術後の患者の脳波です。
左側優位に高振幅のβ波
(B)と ミ ュ ー 波 様 の リ ズ
ム (A)を 認 め ま す (文 献 9)
よ り 引 用 )。
B
Fp2-F4
F4-C4
C4-P4
P4-O2
Fp1-F3
F3-C3
C3-P3
P3-O1
100 µV
1 sec
20
6) 成 人 潜 在 性 律 動 性 脳 波 発 射 subclinical rhythmic electrographic
(theta)
discharges of adults (SREDA)
SREDA は 単 発 の 高 振 幅 ・ 単 相 性 の 鋭 波 あ る い は 徐 波 で 始 ま り ま す 。 1〜 数 秒 後 に 鋭 波
の 出 現 頻 度 が 早 く な り 、 次 第 に 周 波 数 を 増 し 、 4〜 7Hz の 持 続 的 ・ 律 動 的 正 弦 波 様 パ タ
ー ン に な り ま す 。 10 秒 〜 5 分 ( 平 均 40〜 80 秒 ) 続 き 、 突 然 終 了 し ま す 。 2000 人 に 1
人 の 割 合 で 見 ら れ ま す (図 19)。
開始
図 19 成 人 潜 在 性 律 動 性
脳波発射
65 歳 、 女 性 で 脳 下 垂 体
腫瘍摘出を受けていま
す 。 SREDA は 単 発 の 高 振
幅・単相性の鋭波あるい
は徐波で、次第に周波数
を 増 し 、 4〜 7Hz の 持 続
的・律動的正弦波様パタ
ーンになり、突然終了し
ま す (文 献 8)よ り 引 用 )。
T3-Fp1
T4-Fp2
Fp1-F3
Fp2-F4
C3-P3
C4-P4
P3-O1
P4-O2
(連続記録)
50 µV
1 sec
7) ウ ィ ケ ッ ト 棘 波 wicket spikes
Drowsy〜 軽 睡 眠 期 に 側 頭 部 に 出 現 す る ミ ュ ー 波 に 似 た ア ー チ 状 の 波 で す 。 50 歳 以 降
でよく見られます。単発で出現した場合には、棘波と見誤ることがあります。徐波を
伴 わ な い こ と が 鑑 別 の 助 け と な り ま す (図 20)。
Fp1-F7
Fp1-T1
F7-T3
T1-T3
T3-T5
T3-T5
T5-O1
T5-O1
Fp2-F8
Fp2-T2
F8-T4
T2-T4
T4-T6
T4-T6
T6-O2
T6-O2
図 20 ウ ィ ケ ッ ト 棘 波
69 歳 、 男 性 で パ ー キ ン
ソン病の診断です。ウィ
ケ ッ ト 棘 波 は drowsy〜 軽
睡眠期に側頭部に出現す
るミュー波に似たアーチ
状 の 波 で す (文 献 8)よ り
引 用 )。
50 µV
1 sec
21
Ⅱ -5 文 献
1) 柴 崎
浩 : 脳 波 の 合 理 的 な 判 読 法 . 臨 床 脳 波 , 16: 304-313, 1974.
2) Current practice of clinical electroencephalography. Klass DW, Daly D (eds),
Raven Press, New York, 1979.
3) Markand ON: Alpha rhythms. J Clin Neurophysiol, 7:163-189, 1990.
4) The treatment of epilepsy. Principles and practice. Wyllie E (ed.), 3rd ed,
Lippincott Williams & Wilkins, Philadelphia, 2001.
5) Markand ON: Electroencephalography in diffuse encephalopathies. J Clin
Neurophysiol, 1: 357-407, 1984.
6) Frost JD Jr. Automatic recognition and characterization of epleptiform
discharges in the human EEG. J Clin Neurophysiol, 2:231-249, 1985.
7) Kaibara M, Blume WT. The postictal electroencephalogram. Electroenceph clin
Neurophysiol, 70:99-104, 1988.
8) Westmoreland BF, Klass DW. Unusual EEG patterns. J Clin
Neurophysiol, 7: 209-228, 1990.
9) Kozelka JW, Pedley TA: Beta and mu rhythms. J Clin Neurophysiol, 7:191-207,
1990.
22
Ⅲ -1 は じ め に
今までの 2 章では、成人の脳波の判読手順や注意事項について述べました。この最
終章では小児の脳波判読のコツならびに脳波所見と臨床との関連性について解説しま
す。
Ⅲ -2 小 児 の 脳 波
1) 年 齢 依 存 性
表 1 に年齢別正常脳波所見をまとめています
1)
。健常小児の覚醒・睡眠脳波所見を
しっかり頭に入れておきましょう。基本的な脳波の読み方は成人に準じますが、背景
脳波では優位律動とその他の活動、各種賦活に対する脳波の反応性、突発波の有無、
睡眠段階の確認などです。小児では成人に比べ検査に協力が得られず、薬物による睡
眠脳波を判読せざるをえないことがあります。なるべく覚醒時から自然睡眠に至る連
続記録を行うよう努力してください。
表 1
年齢別正常脳波判定基準
覚醒脳波
3 ヶ月
1〜 1.5 才
5〜 6 才
8才
12 才
15〜 25 才
25〜 65 才
65 才 〜
睡眠脳波
3 ヶ月
5〜 6 ヶ 月
2才
3才
8才
11 才
後頭部に律動性θ波が出始める
α周波数出現
α波とθ波の量がほぼ等しくなる
8 〜 9 Hz α 波 が 優 位
前頭・側頭部にはかなりのθ波があってもよい
中および後側頭部にθ律動があってもよい
α波とβ波
Posterior slow waves of youth
α variant
時に側頭部にθ波
成人(本文参照)
Organization 軽 度 不 良
slow α
側頭部に低振幅θ波(特に左)
Spindle 出 現
Vertex sharp waves 出 現
軽眠期に中心部に低振幅速波
Hypnagogic hypersynchrony 出 現
Spindle 両 側 同 期 性 と な る
Vertex sharp waves 最 も 顕 著
中振幅非律動性徐波
Hypnagogic hypersynchrony 消 失
2) 覚 醒 脳 波
異常と間違いやすい生理的リズムに気をつけなければなりません
2- 6)
。
(1) 若 年 性 後 頭 部 徐 波 (posterior slow waves of youth)
若 年 者 で は 、 後 頭 部 に α 波 に 混 じ っ て 2〜 3 Hz の 徐 波 が み ら れ ま す 。 2 歳 以 下 あ る
い は 21 歳 以 上 で は ま れ で 、 8〜 14 歳 で 最 も よ く 見 ら れ ま す 。 α 波 と 徐 波 が 重 な る こ と
により、棘徐波結合のように見えます。見分け方の一つは、優位律動と同じ反応性を
示 す こ と で す 。 開 眼 に よ り 抑 制 さ れ 、 drowsy に な る と 消 失 し ま す (図 1)。
23
図 1 若年性後頭部徐波
18 歳 女 性 で 特 に 異 常 所
見はありません。電極間
距離が長い中心−後頭部
導出でこのタイプの徐波
が よ り 強 調 さ れ ま す (文
献 2)よ り 引 用 )。
Fp1-C3
Fp2-C4
C3-O1
C4-O2
C3-T3
C4-T4
T3-Fp1
T4-Fp2
50 µV
1 sec
(2) ミ ュ ー リ ズ ム (Mu rhythm)
中 心 部 (C3, C4)に 出 現 す る 7〜 11Hz の α 波 に 似 た ア ー チ 状 の 波 で す 。 4 歳 以 下 で は
ま れ で す が 、 8〜 16 歳 で は 成 人 で み ら れ る 頻 度 (18%)に な り ま す 。 非 対 称 に 出 現 し 、 尖
ってみえることがあります。α波とは異なり、開眼で抑制されません。しかし、反対
側 の 手 を 握 ら せ る と 消 失 し ま す の で 、 技 師 さ ん の 技 量 が 問 わ れ ま す (図 2)。
図 2 ミューリズム
15 歳 健 常 若 年 者 の 脳 波
です。開眼で後頭部のα
波は抑制されますが、中
心 部 (C3, C4)に 出 現 す る
ミュー波は抑制されませ
ん。しかし、手を握らせ
る と 消 失 し ま す (文 献 3)
よ り 引 用 )。
Fp1-F3
F3-C3
C3-P3
P3-O1
Fp2-F4
F4-C4
C4-P4
P4-O2
75 µV
1 sec
開眼
手を握る
リラックス
(3) ラ ム ダ 波 (lamda waves)
小児では開眼時や視覚パターンを見つめたりしていると、両側後頭部に尖った波が
出 現 し ま す (図 3)、 こ れ を ラ ム ダ 波 と よ び ま す 。 衝 動 性 眼 球 運 動 に 関 連 し た 波 で あ る
と考えられています。
3) 脳 波 の 反 応 性
(1) 光 刺 激
小 児 の 数 %に 光 感 受 性 が み ら れ 、 光 突 発 反 応 (photoparoxysmal response)が 出 現 し
ま す (Ⅱ 章 、 図 9)。
24
図 3 ラムダ波
12 歳 健 常 女 児 の 脳 波 で
す。開眼時に絵を見つめ
たりすると、両側後頭部
に 鋭 波 が 出 現 し ま す (文 献
2)よ り 引 用 )。
O1-A1
O2-A2
T5-A1
T6-A2
Fp1-C3
Fp2-C4
C3-O1
C4-O2
50 µV
絵を見る
1 sec
閉眼
(2) 過 呼 吸
成 人 に 比 べ 小 児 で は 徐 波 化 (build up)が 目 立 ち ま す (Ⅱ 章 、 図 10)。 徐 波 化 し て も 大
体 1 分以内に元の背景活動に戻ります。モヤモヤ病では、いったん背景活動が元のレ
ベ ル に 戻 っ た 後 、 再 度 徐 波 化 (re-buildup)が 起 こ り ま す 。 し か し 、 モ ヤ モ ヤ 病 の 診 断
が は っ き り つ い て い る と き は 、 過 呼 吸 は 禁 忌 で す 。 発 作 波 (欠 神 発 作 )の 賦 活 も 起 こ り
ま す (図 4)。
図 4 3Hz 棘 徐 波 結 合
8 歳女児で、最近欠伸発作が出現し
て い ま す 。 過 呼 吸 中 に 全 般 性 に 3Hz 棘
徐 波 結 合 過 出 現 し 25 秒 間 持 続 し ま し
た。その間、一点を凝視し、反応しな
く な り ま し た (文 献 5)よ り 引 用 )
Fp1-F7
F7-T7
T7-P7
P7-O1
Fp2-F8
F8-T8
T8-P8
T6-O2
Fp1-F3
F3-C3
C3-P3
P3-O1
Fp2-F4
F4-C4
C4-P4
P4-O2
300 µV
1 sec
25
4) 睡 眠 脳 波
小児では覚醒〜睡眠に至る変化が急で、予測不可能なことがあります。睡眠時に、
異常と間違いやすい生理的リズムが出現しますので、覚醒度の変化に気をつけて脳波
を読む必要があります
1, 4)
。
(1) 入 眠 時 過 同 期 (Hypnagogic hypersynchrony)
Drowsy state で 4 ヶ 月 頃 か ら 11 歳 頃 ま で 中 心 頭 頂 部 優 位 に 全 般 性 に 3、 4〜 6Hz の
高振幅徐波が律動的に出現します。時に棘波を混じることがあり、てんかん性の異常
波 と 見 誤 る こ と が あ る の で 、要 注 意 で す 。よ く 見 ら れ る の は 4〜 9 歳 の 年 齢 で す (図 5)。
図 5 入眠時過同期
14 歳 健 常 女 児 で 、 10 歳
時 に drowsy の 時 に 突 発 性
に徐波のバーストが出現
し、その後経過観察中で
す。この年齢での入眠時過
同 期 は ま れ で す (文 献 2)よ
り 引 用 )。
Fp1-A1
Fp2-A2
C3-A1
C4-A2
O1-A1
O2-A2
T5-A1
T6-A2
50 µV
1 sec
(2) 頭 蓋 頂 鋭 波 (vertex sharp transients)
睡 眠 I 期 に 出 現 し ま す 。 頭 蓋 頂 を 中 心 に 高 振 幅 の 鋭 波 が 出 現 し ま す 。 特 に 2〜 4 歳
で は 高 振 幅 で 連 続 的 に 出 現 す る こ と が あ り 、 突 発 波 と の 鑑 別 が 大 事 で す (図 6)。
図 6 頭蓋頂鋭波
11 歳 健 常 男 児 の 脳 波 で
す。頭蓋頂鋭波が反復性に
出現し、一部鋭波様に見え
ま す (文 献 2)よ り 引 用 )。
Fp1-A1
Fp2-A2
C3-A1
C4-A2
O1-A1
O2-A2
T3-A1
T4-A2
50 µV
1 sec
26
(3) 紡 錘 波 (spindle)
睡 眠 Ⅱ 期 に 出 現 し ま す 。12〜 14 Hz の 紡 錘 波 は 前 頭・中 心 部 優 位 で す が 、精 神 遅 滞 、
脳 性 麻 痺 な ど で は 、 広 汎 か つ 持 続 的 に 出 現 す る こ と が あ り 、 extreme spindle と よ ば
れています。
(4) 後 頭 部 陽 性 鋭 一 過 波 (positive occipital sharp transients of sleep, POSTS)
POSTS は 4〜 5Hz の 陽 性 鋭 波 で 睡 眠 時 後 頭 部 に 出 現 し 、 時 に 非 対 称 性 で す 。 15〜 35
歳 で よ く 認 め ら れ ま す 。 双 極 導 出 法 で は 、 O1、 O2 の 陽 性 電 位 が み か け 上 陰 性 電 位 と な
っ て 見 え る の で 、 棘 波 ・ 鋭 波 と 見 誤 る こ と が あ り ま す (図 7)。
図 7 後頭部陽性鋭一過波
17 歳 健 常 女 児 の 脳 波
で 、 drowsy の 時 に POSTS
が 出 現 し て い ま す (文 献 2)
よ り 引 用 )。
Fp1-C3
Fp2-C4
C3-O1
C4-O2
C3-T3
C4-T4
T3-Fp1
T4-Fp2
50 µV
1 sec
(5) 出 眠 時 過 同 期 (postarousal hypersynchrony)
幼小児では、睡眠から覚醒する時に成人とは異なった反応を示すことがあります。
乳 児 期 で は 2〜 4 Hz の 広 汎 性 高 振 幅 徐 波 が 律 動 的 、 持 続 的 に 出 現 し ま す 。 5〜 6 歳 に な
る と 振 幅 が 低 下 し 、 4〜 8 Hz の 律 動 性 徐 波 と な り ま す 。
5) 突 発 波
入 眠 期 、睡 眠 Ⅱ Ⅲ 期 で は 覚 醒 時 や REM 期 に 比 べ て 突 発 波 が 出 現 し や す く な り ま す
4)
。
異 常 所 見 を 見 つ け る こ と も 大 事 で す が 、そ の 臨 床 的 意 義 を よ く 考 え る 必 要 が あ り ま す 。
(1) 局 在 性 棘 波 の 意 義
局 在 性 棘 波 の 頻 度 で す が 、 40%は 側 頭 部 、 29%は 後 頭 部 、 23%は 中 心 部 、 8%は 前 頭 部
でみられます
4)
。 多 焦 点 性 棘 波 は 3 Hz 棘 徐 波 結 合 よ り も 頻 度 が 高 い よ う で す 。 け い
れ ん 発 作 を も つ 5〜 11 歳 の 小 児 で は 35%に 棘 波 を 認 め ま す 。 側 頭 部 に 棘 波 が あ る 症 例
の 90%に 、 前 頭 部 に 棘 波 が あ る 75%に 臨 床 的 発 作 を 認 め ま す 。 一 方 、 中 心 部 や 後 頭 部
の 棘 波 を も つ 症 例 で は 、 臨 床 発 作 の 頻 度 は 54%以 下 に な り ま す 。 多 焦 点 性 棘 波 を も つ
症 例 の 75%に 臨 床 発 作 が 起 こ り ま す 。 し か し 、 棘 波 の 出 現 量 と け い れ ん 発 作 の 頻 度 に
は相関はありません。
27
(2) 全 般 性 棘 徐 波 結 合
持 続 が 1.5 秒 以 下 の 短 い 全 般 性 棘 徐 波 結 合 (generalized abortive spike-and-wave
activity)は 2〜 10 歳 で よ く み ら れ 、 16 歳 以 下 で は ま れ で す
4)
。 2/3 の 症 例 で 、 強 直
間代けいれん発作やミオクローヌスてんかんが起こりますが、残りは無症状です。
(3) 小 児 良 性 ロ ー ラ ン ド て ん か ん benign epilepsy of childhood with centrotemporal
spikes (BECTS)
BECTS は 中 心 側 頭 部 に 棘 波 を 認 め る 良 性 の 部 分 て ん か ん で す 。 Rolandic
discharges(RD)と も よ ば れ ま す 。 睡 眠 期 に 出 現 し 、 片 側 性 の こ と が 多 い の で 気 を つ け
ま し ょ う 。 ま た 、 熱 性 け い れ ん や 頭 痛 な ど で も み ら れ る こ と が あ り ま す 。 RD が 出 た か
ら と い っ て 、 安 易 に て ん か ん 性 疾 患 と し て 治 療 し て は い け ま せ ん (図 8)。
図 8 小児良性ローラン
ドてんかん
5 歳男児の脳波です。
C3、 C4 に 独 立 し た 棘 波 を
認め、側頭部に波及して
い ま す (文 献 6)よ り 引
用 )。
Fp1-F3
F3-C3
C3-P3
P3-O1
Fp2-F4
F4-C4
C4-P4
P4-O2
Fp1-F7
F7-T3
T3-T5
T5-O1
Fp2-F8
F8-T4
T4-T6
T6-O2
200 µV
1 sec
Fz-Cz
Cz-Pz
Ⅲ -3 か な り 特 異 的 な 異 常 脳 波 所 見 は 覚 え て お き ま し ょ う
1) 薬 物 速 波
ベンゾジアゼピン系、バルビツール系薬剤の服用により、生理的にみられるβ波よ
り 振 幅 が 高 い β 波 が 前 頭 中 心 部 優 位 に 出 現 し ま す (図 9) 3) 。
図 9 薬物速波
ペントバルビタールによる薬
物速波です。びまん性ですが、
前頭部優位にβ波が増強してい
ま す (文 献 3)よ り 引 用 )。
Fp1-Ave
F3-Ave
C3-Ave
P3Ave
O1-Ave
Fp2-Ave
F4-Ave
C4-Ave
P4-Ave
O2-Ave
75 µV
1 sec
28
2) 前 頭 部 間 欠 性 律 動 性 デ ル タ 活 動 (frontal intermittent rhythmic delta activity,
FIRDA)
FIRDA は 前 頭 部 優 位 に 間 欠 的 に 両 側 同 期 性 に 出 現 す る 律 動 性 δ で す (図 10)。 間 脳 ・
脳幹部などの深部病変を示唆する所見と考えられていましたが、むしろ、代謝性、中
毒性、炎症性などの原因による軽度〜中等度の脳症に見られることが多いことがわか
ってきました
7)
。また、アルツハイマー病などの広範な皮質機能低下時にも出現しま
す 。 後 述 の PPDA と は 異 な り 、 刺 激 に 対 し て 反 応 性 が あ り ま す 。 小 児 〜 若 年 成 人 で は
OIRDA (Occipital intermittent rhythmic delta activity)と し て 認 め ら れ ま す 。
図 10 前 頭 部 間 欠 性 律 動 性
デルタ活動
82 歳 男 性 で 、 3 日 間 の 意
識障害とせん妄状態の病歴
があります。一過性の代謝
性 脳 症 の 回 復 期 に FIRDA を
認 め て い ま す ( 文 献 7) よ り
引 用 )。
Fp1-A1
Fp2-A2
F3-A1
F4-A2
F7-A1
F8-A2
C3-A1
C4-A2
T3-A1
T4-A2
P3-A1
P4-A2
T5-A1
T6-A2
O1-A1
O2-A2
70 µV
1 sec
3) 持 続 性 多 形 性 デ ル タ 活 動 (persistent polymorphous delta activity, PPDA)
PPDA は 限 局 性 に 持 続 的 に 出 現 す る 不 規 則 な 高 振 幅 徐 波 で あ り 、 限 局 性 の 病 変 、 す な
わ ち 皮 質 に 近 い 白 質 病 巣 を 示 唆 し ま す (Ⅱ 章 、 図 4、 7 を 参 照 )。 FIRDA と は 異 な り 刺 激
に対して反応性に乏しいのが特徴です
7)
。
4) 周 期 性 一 側 性 て ん か ん 波 発 射 (periodic lateralized epileptiform discharges,
PLEDs)
PLEDs は 一 側 性 に 同 期 的 に 出 現 す る 高 振 幅 複 合 波 で す (図 11)。 ヘ ル ペ ス 脳 炎 に 特 異
的と言われますが、重篤な急性脳血管障害でもみられます
29
8)
。
図 11 周 期 性 一 側 性 て ん
かん波発射
14 歳 男 児 で 生 検 に よ り
ヘルペス脳炎の診断が確
定しています。右側頭部
中 心 に 2〜 2.5 秒 周 期 で
高振幅鋭波が出現してい
ます。右側ではα波が欠
如していることも注目す
べ き 所 見 で す (文 献 7)よ
り 引 用 )。
Fp1-A1
Fp2-A2
C3-A1
C4-A2
O1-A1
O2-A2
T3-A1
T4-A2
70 µV
1 sec
5) 周 期 性 同 期 性 放 電
(periodic synchronous discharges, PSDs)
Creutzfeldt —Jakob 病 で は 短 周 期 性 の PSD を 認 め ま す (図 12) 8) 。
図 12 周 期 性 同 期 性 放 電
65 歳 男 性 で 、 CreutzfeldtJakob 病 の 診 断 が つ い て い ま
す。両側同期性に約 1 秒周期で
PSD が 出 現 し ま す (文 献 8)よ り 引
用 )。
Fp1-A1
Fp2-A2
F3-A1
F4-A2
C3-A1
C4-A2
P3-A1
P4-A2
O1-A1
O2-A2
F7-A1
F8-A2
T3-A1
T4-A2
T5-A1
T6-A2
100 µV
1 sec
6) 亜 急 性 全 硬 化 性 脳 炎 (subacute sclerosing panencephalitis, SSPE)
SSPE で は 長 周 期 性 ( 3 秒 前 後 ) の 高 振 幅 複 合 波 ( slow wave complexes) を 認 め ま
す (図 13) 8) 。
30
図 13 亜 急 性 全 硬 化 性 脳 炎
13 歳 女 児 で 亜 急 性 全 硬 化
性脳炎の診断がついていま
す 。 4〜 5 秒 の 周 期 で 高 振 幅
複合波を認めます。左上腕
二頭筋の筋電図からはミオ
クローヌス放電を認めます
(文 献 7 よ り 引 用 )。
Fp1-A1
Fp2-A2
C3-A1
C4-A2
O1-A1
O2-A2
T3-A1
EMG
(左上腕)
70 µV
1 sec
7) 三 相 波 (triphasic waves)
A blunt( 鈍 い ) spike and a wave と も 記 載 さ れ る 陰 − 陽 − 陰 の 三 相 性 波 形 で す (図
14)。 前 頭 〜 中 心 部 に 著 明 で 、 肝 性 脳 症 に 特 徴 的 な 脳 波 所 見 と さ れ て い ま す が 、 他 の
代謝性脳症でも出現します
7)
。
図 14 三 相 波
36 歳 の 患 者 で 急 性 白 血 病
に急性腎不全を伴い半昏睡
の状態です。三相波が前半
部優位に出現しています。
このように肝性脳症以外の
代謝性脳症でも三相波が出
現することに気をつけてく
だ さ い (文 献 7 よ り 引 用 )。
Fp1-A1
Fp2-A2
C3-A1
C4-A2
O1-A1
O2-A2
T3-A1
T4-A2
75 µV
1 sec
8) バ ー ス ト ・ サ プ レ ッ シ ョ ン パ タ ー ン (burst suppression pattern)
同期性に不規則高振幅徐波複合が出現し、その間欠期では背景脳波が抑制され平坦
と な っ た 状 態 で す (図 15)。 重 篤 な 脳 障 害 を 示 唆 し ま す が 、 バ ル ビ ツ ー ル 系 薬 物 中 毒 で
も出現します
2)
。
31
図 15 バ ー ス ト ・ サ プ レ
ッションパターン
50 歳 の 患 者 で 心 停 止 に
よる重症の無酸素脳症の
状態です。この脳波記録
の 1 週間後に死亡しまし
た。同期性に不規則高振
幅徐波複合が出現し、そ
の間欠期では背景脳波が
抑制され平坦となってい
ま す ( 文 献 7) よ り 引
用 )。
Fp1-A1
Fp2-A2
C3-A1
C4-A2
O1-A1
O2-A2
T5-A1
T6-A2
75 µV
1 sec
9) α 昏 睡
昏 睡 coma 状 態 で は α 波 が 主 体 の α -coma、β 主 体 の β -coma、睡 眠 紡 錘 波 spindle coma
の 出 現 が み ら れ る こ と が あ り ま す 。 α -coma は 脳 幹 部 ( 橋 ) の 血 管 障 害 の ほ か 無 酸 素
性脳症、薬物中毒などでもみられます。正常のα波と異なり、分布がびまん性で痛み
刺 激 に 反 応 し ま せ ん (図 16)
2)
。
図 16 α 昏 睡
24 歳 男 性 で 3 日 前 に 心
停止後、昏睡状態となり
ました。正常のα波とは
異なり、分布がびまん性
で痛み刺激に反応しませ
ん (文 献 2)よ り 引 用 )。
Fp1-F3
F3-C3
C3-P3
P3-O1
Fp2-F4
F4-C4
C4-P4
P4-O2
50 µV
1 sec
左上腕に
痛み刺激
10) 平 坦 脳 波 electrocerebral inactivity
2μV 以上の電気的脳活動がみられない状態で、いわゆる脳死を意味します。脳死
判定時には感度を 4 倍以上あげて記録し、痛み刺激などの反応性をみなければなりま
せ ん (図 17)。 双 極 導 出 で の 電 極 間 距 離 を 長 く す る (例 : Fp1-C3, C3-O1)こ と も 必 要 で
す。バルビツール中毒でも認められますので、気をつけましょう。
32
図 17 平 坦 脳 波
61 歳 男 性 で 2 日 前 に
心停止を来しました。
心電図の混入以外には
脳の電気的脳活動がみ
られません。いわゆる
平 坦 脳 波 で す (文 献 2)よ
り 引 用 )。
Fp1-F3
F3-C3
C3-P3
P3-O1
Fp2-F4
F4-C4
C4-P4
P4-O2
50 µV
1 sec
Ⅲ -4 よ く 見 ら れ る 異 常 脳 波 所 見 と そ の 臨 床 的 意 義
異常脳波というのは正常では出現しない波形の脳波はもちろん、波形は正常でも出
現が異常であるようなものも含みます。また、安静時には異常が認められなくても、
睡眠や過呼吸あるいは閃光のような刺激によって引き起こされ、潜在的な異常が見出
されることもあります。優位律動の周波数、徐波の混入の程度を知ることにより、脳
の基本的な機能水準を推測することができます。優位律動の徐波化、徐波の混入の増
大は大脳皮質の機能低下を示唆します。
1) 優 位 律 動 の 徐 波 化 (slow dominant rhythm)
両側性なら軽度〜中等度の脳機能低下、一側性ならその半球の機能低下が示唆され
ます。
2) 優 位 律 動 の 消 失 (lack of dominant rhythm)
両側性なら中等度〜高度の脳機能低下、一側性ならその半球の中等度〜高度の機能
低下が示唆されます。
3) 背 景 活 動 の 徐 波 化 (diffuse background slowing)
周波数が遅くなればなるほど、その振幅が大きくなるほど異常の程度が強くなりま
す 。 例 え ば 、 中 等 振 幅 の 6 Hzθ 波 よ り 高 振 幅 の 2 Hz δ 波 の 方 が よ り 異 常 の 程 度 が 強
いと考えられます。開眼、音、光、痛み刺激に対する反応性がないとそれだけ異常の
程度が強くなります。
Ⅲ -5 脳 波 所 見 の 書 き 方
優位律動を含む背景活動の所見を書きます。その後、光刺激、過呼吸による変化、
発作波の出現の有無を記載します。徐波や棘波をみた時は、等電位マップを頭に描い
てみましょう。最後に異常の程度を判定します。脳波所見から病態生理の鑑別診断を
行なった後に、臨床所見と対比します
で述べてきましたが、最近の総説
9,
1)
10 )
。脳波判読の落とし穴に関しては、Ⅰ、Ⅱ章
も参考にしてください。
33
1) 軽 度 異 常
mildly abnormal
背景脳波または優位律動が軽度に異常である場合をいいます。健康人でもこの位の
異 常 は 20%位 に あ り 得 ま す 。
2) 中 等 度 異 常
moderately abnormal
軽度または高度異常を除いた異常脳波です。脳波所見と臨床的相関が明らかに認め
られます。
3) 高 度 異 常
markedly abnormal
正常の背景脳波または優位律動が全くみられないか、著明な異常波がある場合をい
います。
Ⅲ -6 脳 波 所 見 の サ ン プ ル
私が書いた所見を下記に示します。読者が脳波所見を頭の中に直ぐに思い描ければ
(想 像 で き れ ば )、 幸 い で す 。 な お 、 先 に 臨 床 情 報 を 得 る と 先 入 観 か ら 、 所 見 に 対 す る
解釈の誤りを犯しやすいので、情報を得ずに虚心坦懐で読むことを心がけましょう。
てんかん疑いということで脳波のオーダーがあった場合、ちょっとでも先の尖った波
を見ると棘波と思い込むことがよくあります。
1) サ ン プ ル 1 (64 歳 、 男 性 )
背 景 活 動 : 優 位 律 動 は 8〜 9 Hz の 中 等 振 幅 の α 波 で 、 左 の 方 が 右 に 比 べ て 出 現 は 不 良
で あ る 。 開 眼 に よ り 抑 制 さ れ る が 、 modulation や organization は 不 良 で あ る 。 中 側
頭部〜中心部まで分布しており、正常よりも広い。左前側頭部に持続性多形性δ活動
(PPDA)を 認 め る 。
光 刺 激 : 光 駆 動 は な い が 、 優 位 律 動 は 抑 制 さ れ る 。 PPDA は 抑 制 さ れ な い 。 記 録 の 10%
程度に睡眠脳波がみられ、頭蓋頂鋭波および紡錘波が出現することから睡眠 2 期であ
る。
過 呼 吸 : 明 ら か な 徐 波 化 は 認 め な い 。 PPDA は 増 強 さ れ る 傾 向 を 認 め た 。
突 発 性 異 常 : し ば し ば 左 前 側 頭 部 (F7)に 鋭 波 が 出 現 す る 。
判定: 中等度異常覚醒および軽睡眠脳波
臨床との相関: 左半球の機能低下が示唆される。また、左前側頭部に占拠性病変があ
り 、 部 分 発 作 (二 次 性 全 般 化 )の 可 能 性 が あ る 。
2) サ ン プ ル 2 (60 歳 、 女 性 )
背 景 活 動 : 優 位 律 動 は 8 Hz 前 後 の 中 等 振 幅 の slow α 波 で 、 明 ら か な 左 右 差 は な い 。
開 眼 に よ り 抑 制 さ れ る が 、 modulation や organization は 不 良 で あ る 。 中 側 頭 部 〜 中
心 部 ま で 分 布 し て お り 、 正 常 よ り も 広 い 。 5〜 6 Hz の 中 等 振 幅 の θ が 両 側 び ま ん 性 に
混 入 す る 。 時 に 前 頭 部 間 欠 性 律 動 性 δ 活 動 (FIRDA)が 出 現 す る 。 記 録 の ほ と ん ど は 覚
醒状態であった。
光 刺 激 : 光 駆 動 は な い が 、 優 位 律 動 は 抑 制 さ れ る 。 FIRDA は 抑 制 さ れ る 。
過 呼 吸 : 明 ら か な 徐 波 化 は 認 め な い 。 FIRDA は 増 強 さ れ る 傾 向 を 認 め た 。
突発性異常: 出現なし。
判定: 中等度異常覚醒脳波
臨 床 と の 相 関 : 優 位 律 動 の 徐 波 化 お よ び FIRDA が 時 に 出 現 す る こ と か ら 、 両 半 球 の 広
34
汎 な 機 能 低 下 が 示 唆 さ れ る 。び ま ん 性 脳 障 害 (変 性 疾 患 、代 謝 性 、中 毒 性 )が 疑 わ れ る 。
Ⅲ -6 お わ り に
コ ン ピ ュ ー タ 断 層 撮 影 法 (CT)や 磁 気 共 鳴 画 像 (MRI)の 発 達 に よ り 、 脳 の 形 態 異 常 を
画像として捉えるのは容易になってきました。しかし、画像として捉られることの少
ない機能的神経疾患群、特にてんかんの診断と治療には脳波は欠かせない補助診断法
です。また、代謝性脳症、脳死の診断にも有用な検査法です。この判読のポイントが
初心者の脳波に対するアレルギーを少しでも減らし、脳波判読の向上に役立てば幸い
です。中級者に対しては、基礎知識の復習に使っていただけるのではないかと思いま
す 。ま た 、脳 波 を 専 門 と す る 上 級 者 か ら は 忌 憚 の な い ご 意 見 を い た だ け れ ば 幸 い で す 。
Ⅲ -7 謝 辞
資料の提供ならびに編集にご協力いただいた当教室の谷脇考恭助教授、後藤純信助
手、大学院生の山崎貴男、前川敏彦、黒川智美、鶴澤礼実、秘書の渡邉 陽さんに深
謝致します。
Ⅲ -8 文 献
1) 柴 崎
浩 : 脳 波 の 合 理 的 な 判 読 法 . 臨 床 脳 波 , 16: 304-313, 1974.
2) Current practice of clinical electroencephalography. Klass DW, Daly D (eds),
Raven Press, New York, 1979.
3) Kozelka JW, Pedley TA: Beta and mu rhythms. J Clin Neurophysiol, 7:191-207,
1990.
4) Mizrahi EM: Avoiding the pitfalls of EEG interpretation in childhood epilepsy.
Epilepsia, 37(suppl. 1): S41-S51, 1996.
5) The treatment of epilepsy. Principles and practice. Wyllie E (ed.), 3rd ed,
Lippincott Williams & Wilkins, Philadelphia, 2001.
6) Current practice of clinical electroencephalography. Ebersole JS, Pedley TA
(eds), 3rd ed, Lippincott Williams & Wilkins, Philadelphia, 2003.
7) Markand ON: Electroencephalography in diffuse encephalopathies.
J Clin Neurophysiol, 1: 357-407, 1984.
8) Brenner RP, Schaul N: Periodic EEG patterns: Classification, clinical
correlation, and pathophysiology. J Clin Neurophysiol, 7: 249-267, 1990.
9) 加 藤 元 博 : 脳 波 判 読 の pitfalls (I). 臨 床 脳 波 , 43: 454-462, 2001.
10) 加 藤 元 博 : 脳 波 判 読 の pitfalls (II). 臨 床 脳 波 , 43: 524-532, 2001.
35
Appendix
成人脳波判読の流れ
優位律動
(基礎律動)
異常
・8 Hz以下
・9〜12 Hz
・周波数
・組織化
・1 Hz以上の変動
・左右差(+)
・1 Hz以内の変動
・左右差(−)
・左右差
・反応性
・反応性(−)
・びまん性
正常
・反応性(+)
・後側頭〜頭頂部
・分布
非突発性異常
(徐波・速波)
+
・持続性
・間欠性
・限局性
・片側性
・周期性
・全般性
突発性異常
非賦活時
+
賦活時
・焦点性
・片側性
・全般性
・過呼吸
・光刺激
・睡眠
異常
・軽度
・中等度
・高度
所見・総合判定
36
正常
脳波簡易アトラス
導出法の原理
覚醒度と脳波
覚醒
電位分布
開眼安静時
β
閉眼安静時
α
電位
ノンレム睡眠
0
A
B
C
D
E
F
G
Stage 1
R(耳朶)
電極の位置
頭蓋頂鋭波(stage
紡錘波
局在の決定
基準電極導出: 最大電位
(Rの活性化により変化!)
双極導出: 位相逆転(*)
2
A-R
A-B
B-R
B-C
C-R
C-D
D-R
D-E
E-R
F-R
G-R
1から出現)
A-C
3
4
*
レム睡眠
E-F
C-E
眼球運動
F-G
E-G
δ
G-R
50 µV
1 sec
主な異常波
主なアーチファクト
発汗
交流雑音
てんかん原性(+)
棘波
3Hz棘徐波結合
鋭徐波結合
F3
T4
F7
T6
*
筋電図
鋭波
不規則棘徐波結合
F7
F7
T3
T3
多棘徐波結合
筋電図
*
* *
*
瞬目
眼球運動(側方向)
F3
F7
F4
F8
脈波
F7
C4
てんかん原性(-)
シータ群発
T4
不規則デルタ
デルタ群発
*
*
*
T3
*
心電図
*
*
*
*
*
電極接触不良
T3
*
電極接触不良
T3
*
*
P3
50 µV
P3
1 sec
50 µV
1 sec
37