走行フォーム評価用 WEB システムの構築

走行フォーム評価用 WEB システムの構築
信州大学大学院 理工学系研究科 情報工学専攻
13TM513F
1. まえがき
小林 聖
走行フォームの評価結果の一例を図2~4に示す.
近年のマラソンブームを受け,ランナーの走行フォームを評
価する手法への関心が高まっている.当研究室では H24 年度
から産官学連携プロジェクトの中で,腰に装着した 3 軸加速度
センサを用いた走行フォーム評価システムの開発を進めている
[1].これまでは,加速度センサの走行データを,PC やスマート
フォンに転送し,独自に開発した専用ソフトウェアを用いて解
析していた[2].しかし,計測した走行データの一元管理が難し
く,アルゴリズムの改良に伴うソフトのアップデート等の作業が
煩雑であった.そこで今回,WEB サーバ上に走行フォーム評
価システムを構築することにした[3].本稿では,それらの概要
と,新たに追加した機能について述べる.
2. システム構成
試作した WEB システムの構成を図1に示す.
図2
走行の評価指標
図2では,ペース (min/km),速度(km/h),周期(sec),推定
接地時間(sec),ピッチ(歩/sec),ストライド(m/歩),ストライドと身
長の比,左右バランス(%) の8つの評価指標がグラフや偏差
図1
システム構成
ランナーの重心点に近い腰に3軸加速度センサを装着し,
値バー(範囲±3σ)で表示される.また,比較する他のランナー
の評価指標値も同時に表示する機能がある.
そのデータを CSV ファイル形式で保存する.次に, PC やス
マートフォンのブラウザを用いて,データを WEB サーバにアッ
プロードする.サーバ側では,加速度波形を解析し,走行フォ
ームに関する評価結果を画像に変換しブラウザ上に表示する.
なお,本システムで使用しているサーバは Ubuntu(14.04.3),
Apache,MySQL,PHP,Java を利用している.
3. WEB システムの機能
本システムは,スタンドアローン型の走行評価システムをベ
ースに構築しており,評価指標値や腰の推定軌跡を表示する
機能がある.さらに,WEB システムを構築するにあたり,事前
に長野県内のトップランナーに対して WEB システムの新機能
に関するヒヤリングを実施した.それらの結果をもとに,①評価
値の比較,②評価平均値の推移グラフ表示,③推定軌跡・加
速度の平均波形表示,④平均波形比較の4つを新機能として
実装した.
4. システムの評価結果
図3
評価平均値の推移グラフ
図3では,図2に示した各評価指標の平均値が,データアッ
プロードの時系列に基づく推移グラフとして表示される.
6. 左右バランスの評価手法
一般に長期にわたって,左右バランスのズレを表す指標が
拡大傾向にあるとき,怪我をする可能性が高いと言われており,
怪我や故障の予兆を見出す指標として用いられる.図6に,走
行フォームと腰の推定軌跡の関係を示す.図の下は,ランナ
ーの1周期分の動作を表しており,①~②,③~④は足
が接地している区間,②~③,④~①は地面から離れて
いる区間である.推定軌跡の②,④付近にクロスする点
があり,これを基準として左側が右足接地(青),右側が
左足接地(赤)のように分類することができる.本システ
ムでは,両区間の推定軌跡の長さの比を左右バランスと
定義した.
2
[m/s]
2
[m/s]
図4
腰の推定軌跡と平均波形
図4では,加速度を2回積分して得られる腰の推定軌跡[2]と
図6
走行フォームと腰の推定軌跡
加速度・推定軌跡の平均波形が表示される.また図2と同様,
比較する他のランナーの平均波形も同時表示される.
7. まとめおよび今後の課題
腰に装着した 3 軸加速度センサを用いて,走行フォームを
5. 平均波形の算出手法
評価する WEB システムを構築した.本システムでは加速度の
本システムでは,ランナーの右足が接地してから再び接地
波形から,接地周期などの評価指標や腰の推定軌跡,走行平
するまでの時間を走行における一周期としている.図4に示し
均波形等を算出し,数値やグラフにより表示する機能がある.
た推定軌跡と加速度の平均波形は,走行周期内の波形を線
今後の課題として,①サーバのセキュリティ強化,②ランナーの
形補間により平均周期長に正規化し,それら全ての正規化波
走行波形のクラスター解析,③ランナー間のフォームの類似度
形の平均値を求めることで得られる.図5に全ての正規化波形
推定などが挙げられる.特に,走行フォームは,レベル,年齢,
とその平均波形を赤い線でプロットした例を示す.
性別,国籍等の様々な要因により変化することから,多変量解
析を用いた統計的な解析手法が有効と考えられる.今後,シス
テムの実践的な運用を図り,幅広いレベルのランナーから走行
2
データ収集が可能なシステム形態に発展させることが望まれる.
[m/s]
参考文献
[1] 小林他 :「腰に装着した加速度センサを用いた走行フォームの評価手
法」, H25 年度電子情報通信学会信越支部大会,32, (2013)
[2] 寺田他 :「走行フォーム評価システムの開発-腰に装着した加速度センサ
による…」, H26 年度電子情報通信学会信越支部大会,125, (2014)
[3] 小林他 :「走行フォーム評価用 WEB システムの構築」, H27 年度電子
情報通信学会信越支部大会,58, (2015)
図5
平均波形(青:正規化波形
赤:平均波形)