巻頭言

巻 頭 言
特集:光ネットワークの更なる
高速広帯域化に向けて
常務取締役
研究統轄本部副本部長
インフォコミュニケーション・社会システム研究開発センター長
矢野 厚
距離別時間差課金という従前の電話主体の通信キャリア
のビジネスモデルが崩壊し、月額定額料金のインターネッ
トプロトコル(IP)が拡大してきた。デジタルプロセッ
サ・メモリの能力の急進と、光ファイバケーブルによる通
信回線帯域の拡大、モバイル通信技術の進展による携帯端
末の長足の進歩により、通信キャリアのビジネスモデルは、
ビット当たり単価の急落をクラウドサービスとコンテン
ツ・アプリケーションによる収益でまかなうサービスプロ
バイダモデルへと大きく変化すると共に、システムベン
ダ・部品デバイスベンダのグローバルなビジネスモデルに
大きな課題を突きつけ、以下に述べるように技術開発・
製品戦略に大きな変化をもたらしている。
1. 情報通信分野の製品技術開発が直面している課題
1 − 1 通信トラフィック容量のチャレンジ
2007 年
に世界の都市人口が農村人口を上回ったが、新興国の経済
成長とともに人口 1000 万人以上のメガシティが世界各地
に形成されている。2030 年には世界の 6 割以上の人々が
都市に集中し、人口・エネルギー・物流など過度な集積に
よる都市問題の解決が現在以上に、グローバルに大きな課
題となると予測されている。
2012 年の時点で、人口 1 千万人以上のメガシティ都市
圏が世界に 26 都市ある。世界最大のメガシティが東京圏
(37 百万人)であり、僅か 550km の東名阪ゾーンに 3 大メ
ガシティ圏が存在するこの地域の 2012 年から 2017 年の 5
年間のモバイルネットトラフィック(月間)の伸び率は、
世界のモバイル IP トラフィックの増加率 12.4 倍(Cisco
Visual Networking Index Mobile Data Traffic Forecast
and Methodology, 2012-2017)を上回る 18 倍と予測さ
れている。首都圏のモバイル IP バックボーンのトラフィッ
クは年々倍増しているとのキャリアからの報告もあり、4G
スマートフォン・モバイルタブレットの増加、YouTube
などの映像マルチメディアやソーシャルメディアを駆使し
た個人発信メディアの急増により、クラウドデータセンタ
−(
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)− 巻頭言
へのトラフィック集中をもたらし、世界の ICT 産業は巨大
なボリュームチャレンジに直面している。
1 − 2 モバイルから M2M へ、Connected World の
チャレンジ
必要な時に話しかける=通信リンク【呼=
Call】を設定するスタイルから、いつでも誰かと繋がって
いたい= always-connected【Wi-Fi で IP】というライフス
タイルの変化は、人対人から人対 machine の通信により時
間差・地域差を克服し、Twitter や Facebook などのパーソ
ナルメディアの普及でグローバルなコミュニティの形成と
意識の同時性をもたらしている。更に、センサー技術の進
展と膨大なデータの蓄積・処理をリアルタイムで実現する
プロセッサ・メモリ・ネットワーク技術の長足の進展が、
machine-to-machine 通信ニーズを急増させ、Connected
Car(スマートカー)
、Connected Home(スマートホーム)
、
ITS = Intelligent Transport System【車や信号、道路イン
フラが connected】や橋梁・構造物のヘルスモニタなど、
スマートシティへと広がり、省エネ・ CO2 削減・老朽化イ
ンフラの保全投資の効率化などの社会的な課題解決のニー
ズに応えようとしている。このスコープの加速的拡大トレ
ンドは、世帯数で制約されていた電話ネットワークの規模
を飛躍的に拡大させ、IP アドレスで管理すべきネットワー
ク端末数と、生起するトラフィックデータを集約管理する
データセンタの規模(数、量、時間)は巨大化を余儀なく
され【クラウドデータセンタでのビッグデータ処理】
、これ
らを支える情報通信インフラにとてつもないチャレンジを
要求している。
1 − 3 セキュリティのチャレンジ
PC のインター
ネット利用の拡大とともに、多くの人が同種の基本ソフト
を利用することによる利便性が飛躍的に向上する一方で、
悪意を持った他人がシステムに侵入するハッキングのリス
クも拡大し、情報セキュリティの確保が大きな課題となっ
た。多様な社会インフラシステムが IP ネットワークでグ
ローバルにリンクされ、更にモバイルネットワークによる
IP 利用の拡大により、捕捉困難なセキュリティの脅威はグ
ローバルに益々増大している。これに対して高速広帯域 IP
ネットワークの電気物理層(レイヤ)から、ネットワーク、
アプリケーションの各レイヤでこのセキュリティ問題への
様々な取組が進められている。
品技術、クラウドデータセンタ周りの近距離高速広帯域光
伝送デバイス製品技術の 4 分野 11 件を取り上げた(図 1 参
照、図中の①〜⑪は以下の説明の①〜⑪に対応)
。
まず、光ファイバケーブル製品技術では、①映像など高
速広帯域を必要とする PC と周辺機器向け Thunderbolt 光
ケーブル、②急増するバックボーン IP トラフィック伝送を
可能にする複数コアを持つ超大容量のマルチコアファイ
バ、③マルチコアファイバを光伝送装置や従来型シングル
モードファイバに接続するコネクタ型光分岐部品、④
FTTH(Fiber To The Home)の開通工事をローコストで
効率的に実現するための細径高密度光ファイバケーブルに
ついて紹介する。アクセスネットワークシステム製品技術
では、⑤ CATV ネットワークの光化を実現する事業者向け
FTTH システム、⑥ 10Gbit/s の高速 IP 通信を実現する光
加入者系 PON システムの事業者におけるオペレーション
改善について紹介する。また、デジタルコヒーレント方式
に対応する中長距離通信用デバイス製品技術では、⑦
100Gbit/s コヒーレント通信用波長可変レーザの発振波長
を制御する IC 技術、⑧ 100Gbit/s 位相変調による高速通
信を実現する線幅 200kHz の波長可変レーザ、⑨中長距離
基幹通信システム用の 100Gbit/s コヒーレント光を受信し
電気信号に変換するデバイスについて取り上げた。最後に、
近距離高速広帯域伝送用光デバイス製品技術に関しては、
⑩データセンタ内/間を短距離で接続するシングルモード
ファイバ用の低消費電力小型光トランシーバ、⑪データセ
ンタにおける超高速マルチモードファイバ通信用の垂直共
振器面発光型短波長レーザと受信用フォトダイオードを取
り上げた。
高速広帯域化に関連する技術として、低損失光ファイバ
等の重要な光技術でも、公表タイミングの関係で本特集に
加えられなかったものも多い。先に紹介した多くの技術や
製品を含め今後の特集に期待願いたい。
2. 住 友 電 工 の 情 報 通 信 分 野 の 研 究 開 発 戦 略 と
本特集の狙い
一般家庭から企業・政府での映像配信、クラウド、ビッ
グデータ活用など多彩なブロードバンドデータの利用拡大
を支える光ネットワークの更なる高速広帯域化ニーズに応
え、前掲の 3 つのチャレンジに対応するため、住友電工で
は、幅広い研究開発と製品化を進めている。
具体的には、スマートホーム向け宅内サービスゲート
ウェイや映像セットトップボックスなどのユーザ宅内機器
製品技術、光ファイバケーブルやアクセスネットワーク装
置、バックボーンネットワーク用光デバイス、クラウド
データセンタ向けの光伝送デバイス、M2M 向け通信技術、
各種のセンサー技術、スマートモビリティを支える社会イ
ンフラシステムである ITS(高度道路交通システム)技術、
企業向けセキュリティアプリケーションパッケージ製品、
車載レーダや衛星通信用の化合物半導体無線デバイスなど
の研究開発・製品開発を進めている。
今回の特集では、上述の幅広い研究開発・製品開発の中
から、猛烈な勢いで進行する通信トラフィック増加に対応
すべく力を注いでいる IP ネットワークの高速広帯域化を支
える次世代の光技術に焦点を当てた。
以下に概説するとおり、アクセス系ネットワークのコス
トダウンと、より大量情報の伝送を目指す光ファイバケー
ブル製品技術、CATV の光化や 10Gbit/s 高速広帯域アクセ
ス網構築を目指すアクセスネットワークシステム製品技術、
急増するバックボーンネットワークの伝送容量拡大に対応
するデジタルコヒーレント方式中長距離通信用デバイス製
【バックボーンネットワークの伝送容量拡大】
デジタルコヒーレント方式中長距離通信用デバイス
製品技術3件(⑦、⑧、⑨)
衛星通信
無線通信幹線網
Ultra Long Haul
光通信幹線網
(DWDM)
Long Haul
車載レーダ
無線LAN
基地局間
無線通信網
光通信網(メトロ)
【CATVの光化】
【10Gbit/s高速広帯域
アクセス網構築】
光通信加入者系 アクセスネットワークシステム
(アクセス) 製品技術2件(⑤、⑥)
企業内光通信網
(データセンタ)
【アクセス系ネットワーク】
【大量情報の伝送】
光ファイバケーブル
製品技術4件(①、②、③、④)
(ルータ)
(スイッチ)
(サーバ)
携帯電話
基地局
【クラウドデータセンタ周り】
近距離高速広帯域伝送用光伝送デバイス
製品技術2件(⑩、⑪)
図 1 当社製品関連 IP ネットワークと本特集掲載論文の対応
2 0 1 3 年 7 月・ S E I テ クニ カ ル レ ビ ュ ー ・ 第 1 8 3 号 −(
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