年度 被災地における精神障害等の情報把握と介入効果の検証及び介入

厚生労働科学研究費補助金
障害者対策総合研究事業(精神障害分野)
被災地における精神障害等の情報把握と介入効果の検証
及び介入手法の向上に資する研究
平成25年度
総括・分担研究報告書
研究代表者
金
吉晴
平成26年(2014年)3月
目
I.
次
総括研究報告書
被災地における精神障害等の情報把握と介入効果の検証及び介入手法の向上に
資する研究 ---------------------------------------------------------------研究代表者
金
吉晴
II. 分担研究報告書
1. 持続エクスポージャー療法(Prolonged Exposure Therapy: PE)の普及体制の
確立に関する研究------------------------------------------------------分担研究者
金
吉晴
研究協力者
河瀬さやか、中山未知、大滝涼子、荒川和歌子
2. WHO 版心理的応急処置(サイコロジカル・ファーストエイド:PFA)の普及と研修
成果に関する検証------------------------------------------------------分担研究者
金
吉晴
研究協力者
鈴木 満、井筒 節、堤
敦朗、荒川亮介、大沼麻実、
菊池美名子、小見めぐみ、大滝涼子
3. 感情の表出に関する尺度の標準化研究 ------------------------------------分担研究者
金 吉晴
研究協力者
林 明明、河瀬さやか、大滝涼子、伊藤真利子
4. 自然災害時の精神保健医療対応と多文化対応 ------------------------------分担研究者
秋山 剛
研究協力者
荻原かおり、Linda Semlitz、澤智恵、谷口万稚、石井千賀子、
Ian de Stains、森本ゆり、川村弘江、松本聡子
5. -海外において災害被害や犯罪被害等により精神不調をきたした邦人の実態把握
と対応ガイドラインの作成---------------------------------------------分担研究者
鈴木 満
研究協力者
阿部又一郎、荒木 剛、石田まりこ、井上孝代、大川貴子、
大滝涼子、大沼麻実、柏原
誠、金 吉晴、久津沢りか、
小林利子、佐藤麻衣子、重村 淳、杉谷麻里、高山典子、
堤
敦朗、傳法 清、仲本光一、原田奈穂子、本郷一夫、
松本順子、山中浩嗣、吉田常孝
6. 医療初動から中期的な保健予防活動までのマネジメント手法の確立 ----------分担研究者
荒木 剛
研究協力者
桑原 斉、菊次 彩、笠井清登
7. 一般住民におけるトラウマ被害の精神影響の調査手法 ----------------------分担研究者
川上憲人
研究協力者
梅田麻希、立森久照、宮本かりん
8. 「中長期の災害精神保健活動:専従組織と既存組織の役割」 ----------------分担研究者
加藤 寛
9. 大規模災害による長期避難生活者のソーシャルキャピタルの変化に関連する要因
---------------------------------------------------------------------分担研究者
荒井秀典
研究協力者
林 幸史、廣島麻揚
10. 岩手県こころのケアセンターの活動の分析 --------------------------------分担研究者
酒井明夫
研究協力者
大塚耕太郎
11. みやぎ心のケアセンターの活動分析 --------------------------------------分担研究者
松本和紀
研究協力者
福地 成、渡部裕一、片柳光昭、樋口徹郎、丹野孝雄
12. 被災地における支援活動について-「ふくしま心のケアセンター」の活動分析をも
とに- ---------------------------------------------------------------分担研究者
昼田源四郎
研究協力者
前田正治、植田由紀子、内山清一、高橋悦男、松田聡一郎、
壬生明日香、落合美香
13. 被災地域におけるグリーフ・ケア研究-岩手県における実践から- ----------分担研究者
山田幸恵
研究協力者
中島聡美、中谷敬明、中村美津子、藤澤美穂
14. 広域自然災害の精神医療保健体制に及ぼす影響の情報把握と対応のあり方の検討
---------------------------------------------------------------------分担研究者
富田博秋
15. Hyperarousal Scale 日本語版の開発に関する研究 -------------------------------------分担研究者
三島和夫
研究協力者
綾部直子、北村真吾
16. 東日本大震災「こころのケアチーム」派遣・実績に関する研究 -------------分担研究者
渡
路子
研究協力者
荒川亮介、吉田 航、小見めぐみ、中神里江、小菅清香
17. 「サイコロジカル・ファーストエイド(PFA)を実施する際に必要な基本的コミュ
ニケーションスキル訓練」----------------------------------------------分担研究者
堀越 勝
研究協力者
新明一星
18. 東日本大震災のメディア報道による子どもたちのメンタルヘルスへの影響 ---分担研究者
神尾陽子、金 吉晴
研究協力者
大沼麻実
19. 災害時の避難所・仮設住宅における子どもとその家族のための生活環境と支援ニ
ーズの実態調査 およびガイドライン遵守のためのチェックリスト作成 -------分担研究者
神尾陽子、金 吉晴
研究協力者
森脇愛子
III.研究成果の刊行に関する一覧表 ----------------------------------------------
Ⅰ. 総括研究報告
平成 25 年度厚生労働科学研究費補助金(障害者対策総合研究事業(精神障害分野)
)
被災地における精神障害等の情報把握と介入効果の検証及び
介入手法の向上に資する研究
研究代表者
金吉晴
総括研究報告書
国立精神・神経医療研究センター
精神保健研究所 災害時こころの情報支援センター
分担研究者氏名
富田博秋
東北大学災害科学国際研究所災害精神
秋山
剛
NTT東日本関東病院精神神経科
医学分野
三島和夫
鈴木 満
国立精神・神経医療研究センター
岩手医科大学神経精神科学講座
外務省メンタルヘルス対策上席専門官
荒木 剛
東京大学ユースメンタルヘルス講座
川上憲人
東京大学大学院医学系研究科
精神保健学分野
加藤 寛
兵庫県こころのケアセンター
荒井秀典
精神保健研究所 精神生理研究部
渡
路子
国立精神・神経医療研究センター
精神保健研究所
災害時こころの情報
支援センター
堀越
勝
国立精神・神経医療研究センター
認知行動療法センター
神尾陽子
国立精神・神経医療研究センター
京都大学大学院医学研究科
精神保健研究所 児童・思春期精神
人間健康科学系専攻
保健研究部
酒井明夫
岩手医科大学神経精神科学講座
松本和紀
東北大学大学院 医学系研究科
予防精神医学寄附講座
みやぎ心のケアセンター
昼田源四郎
ふくしま心のケアセンター
山田幸恵
岩手県立大学社会福祉学部
総合的に支援することを目的とし、ハイリ
1
はじめに
平成 23 年に起きた東日本大震災は甚大
スク者の検討、ケアのニーズ把握、活動デ
ータベースの作成等を行っている。子ども、
な被害と喪失をもたらし、住民の精神健康
高齢者、PTSD、複雑性悲嘆、睡眠障害、多
被害が強く懸念されている。精神健康の悪
文化対応、脳科学研究などの特殊な事例、
化は、復興の遅れ、社会不安の持続とも関
疾患、ならびに疫学研究を行い、阪神淡路
連しており、災害後の適切な精神保健医療
大震災の対応経験のある諸専門家を参加さ
対応の重要性と、中長期的な住民の精神健
せ、それぞれの分担研究者が補完的な専門
康の回復の促進の必要性が認識されている。
的主題について研究調査を行う。これらは、
それを受けて、被災 3 県には、
「こころのケ
被災地での心のケアチーム活動などの実態
アセンター」が設置された。これは阪神淡
に即した、包括的に組織された研究である。
路大震災後に開設された兵庫県こころのケ
またそれだけではなく、その成果を心のケ
アセンターを皮切りとした動きである。
アセンターに直ちに還元することによって
こころのケアセンターの役割は、設置さ
れた自治体の特質、災害の性質、設置時期、
センターの研究活動を補完し、疑問に即応
できる研究ネットワークをも形成する。
地域精神保健の状況などさまざまな因子に
本年度における本研究班の研究活動の具
影響されるが、多くの災害を通じた普遍的
体的な概要は次項で示すが、主には次のよ
な役割も有しており、住民への直接支援や
うな研究領域において進展が見られた。今
普及・啓発事業、また支援者の育成・研修・
後、大規模な余震が生じる可能性が高いこ
ケアなど、さまざまな機能を担うことが期
とを踏まえた、多文化状況も念頭に置いた
待されている。しかし一方で、過去の震災
災害時の初期対応の再検討。WHO 版心理的
における被災地での精神保健医療活動やこ
応急処置(サイコロジカル・ファーストエ
ころのケアセンター活動は、必ずしも科学
イド:PFA)の導入とその効果の検証。近年
的、実証的な検証が十分であったとは言え
増加している邦人の海外における被災事例
ない。したがって、効率的な住民支援を実
に対する効果的対応の研究。複雑性悲嘆へ
現するためにその活動を科学的基盤の上に
の対応や災害時における子どもへの対応な
確立し、実証的に検討することが急務であ
ど、個別のイシューに関する研究。平時か
る。今後 PTSD などの重症ストレス障害が健
らの住民の定点健康観測調査の実現可能性
在化する懸念も高く、また大規模余震によ
とプロトコルについての検討。上述の研究
って住民の精神健康被害が増悪する可能性
成果に基づいた新たな震災時のこころのケ
もある。こころのケアセンターが各県の事
アチームの研修プログラム開発及びその普
情に応じた効率的な活動を実現するための
及と有効性の検討。被災 3 県のこころのケ
研究支援が必要である。
アセンターの活動実績の分析と、中長期的
こうした中、本研究班では、科学的方法
な被災地の現状把握。中期的に健在化する
論に基づいた情報収集、調査、分析活動、
と懸念される PTSD 治療対応の臨床家育成
ならびに現地での支援活動の実証的検討を
のシステムの効率的構築に関する研究。東
日本大震災時に被災地に残された相談個票
である。PTSD に対しては薬物を含む治療法
および処方箋の分析を通した、全国から派
のなかでもっとも効果が実証されている持
遣された心のケアチームの活動実績に対す
続エクスポージャー療法(PE)を適切に普
る、全国レベルで統一した形での評価など
及することが求められている。この治療法
である。
は、PTSD 以外の、複雑性悲嘆に対する認知
このような研究により、被災者への迅速
行動療法の基礎ともなっている。指導者の
な成果還元が期待できるほか、災害後の精
育成による普及を促進するために、認定 PE
神保健医療対応に関連する業務の円滑な遂
治療者、認定コンサルタント(スーパーバ
行、被災者への包括的な精神保健医療対応
イザー)
、認定指導者の各段階の人材を効果
の促進、効率的な中長期計画の立案・実行
的に育成するとともに、こうした人材を活
への寄与等が見込まれる。また、災害時こ
用した研修のあり方について検討した。ま
ころの情報支援センターと被災地心のケア
たスーパーバイズ用のマニュアル資料を翻
センターとの有機的な連携が促進され、か
訳、導入した。
かるセンターを設置した厚労行政の目的を、
次に、
「WHO 版心理的応急処置(サイコロ
センター外の研究者との研究ネットワーク
ジカル・ファーストエイド:PFA)の普及と
も活用しながら、より発展させることがで
研修成果に関する検証」を行った。2011 年
きる。加えて、東日本大震災における全国
の東日本大震災を受けて、被災者のための
レベルでの心のケアチーム活動を統一して
こころのケアが再度重視される中、災害時
評価することにより、今後の国レベルでの
こころの情報支援センターは平成 24 年度
大規模災害時の精神保健医療活動の在り方
から WHO 版の心理的応急処置(サイコロジ
を検討する際の基礎資料を得ることができ
カル・ファーストエイド:PFA)を日本語に
た。
翻訳・導入し、PFA が有事の人道的支援の
標準となるよう研修活動を行ってきた。PFA
2
研究内容
金は、
「持続エクスポージャー療法
とは、深刻な危機的出来事に見舞われた人
びとに対して行う、人道的かつ支持的な支
(Prolonged Exposure Therapy: PE)の普
援であり、被災者の尊厳、文化、能力を尊
及体制の確立に関する研究」
、
「WHO 版心理
重した心理社会的支援の枠組みを提示した
的応急処置(サイコロジカル・ファースト
ものである。
WHO や機関間常設委員会
(IASC)
、
エイド:PFA)の普及と研修成果に関する検
各種国際的専門団体から、心理的ディブリ
証」および「感情の表出に関する尺度の標
ーフィングに代わる、緊急時における支援
準化研究」について研究を行った。
の在り方として支持されている。平成 24 年
まず、災害時には種々の精神疾患が生じ
度に行われた指導者研修から発展し、今年
るが、その中でもトラウマによる PTSD、ま
度は様々な地域・分野において、国内講師
たその特殊型としての悲嘆反応が、慢性化
が PFA 研修を展開してきた。PFA 一日研修
しやすく、かつ日常臨床において十分な臨
や講義が各地で約 30 回開催され、12 月に
床経験を積むことが困難な病態として重要
は昨年に続き 2 回目となる指導者研修が行
われた。その成果として更なる指導者要員
とんどないのが現状であり、被災者支援の
が確保されたとともに、今後は国内のトレ
ためにも、こうした尺度の標準化が強く求
ーナーによる指導者研修を開催することが
められる。なおこうした感情表出は、トラ
可能となった。本年度行われたそれぞれの
ウマを受けた人々のほかにも、抑うつ、統
研修や講義において、事前事後における質
合失調症などにおいても重要な役割を果た
問紙(Pre-Post Test)が配布され、参加者
すことが指摘されており、このテーマで研
の災害支援に関する能力と知識の自己評価、
究を進めることは広い臨床的な応用が期待
及び PFA の理解度が評価された。研修前後
される。このため、感情の表出を測定する
の質問紙の結果を比べると、有事における
2つの尺度の日本語版を作成し、信頼性お
心理社会的支援に対して、研修参加者の知
よび妥当性を検討した。日本語版 EES の内
識・能力の自己評価及び PFA の基礎知識に
的整合性を示すクロンバックのα係数.84
関する理解の向上が確認され、研修の有効
~ .86 であり、約1か月の再検査信頼性
性が認められた。
は.61 であった。
日本語版 BEQ においては、
また、
「感情の表出に関する尺度の標準化
全体的なクロンバックのα係数は.83、再検
研究」として、国際的に広く用いられてい
査信頼性.61 と同様の結果であった。日本
る感情の表出を測定する自己記入式尺度を
語版 BEQ の下位尺度においても、内的整合
翻訳し、日本語版感情表出尺度を開発、さ
性は.61 ~ .77、再検査信頼性は.57 ~ .61
らに有用性を確認し標準化することを目的
であったことから、それぞれの尺度のおお
として、英語版自己記入式感情表出度尺度
むね満足した信頼性が示された。また、妥
の Emotional Expressivity Scale(EES)お
当性の検討では、各尺度全体および下位尺
よびの Berkeley Expressivity
度と、その他尺度(情緒的表現性・セルフ
Questionnaire(BEQ)日本語標準化を行った。
モニタリング・自尊感情・感情のコントロ
東日本大震災後、トラウマを受けた被災者
ール・抑うつ・性格5因子を測定する尺度)
支援への社会的ニーズと、トラウマ研究へ
との相関から、収束的妥当性および弁別的
の期待が高まっているが、このような被災
妥当性が示された。本研究は信頼性や妥当
者の心理状態を適切に評価する尺度はまだ
性を証明した日本語版の自己記入式感情表
十分に日本で開発されているとは言えない。
出尺度を作成した初めての研究であり、今
トラウマ被害については PTSD などの診断
後の被災者支援や臨床場面における尺度の
基準を当てはめるだけではなく、様々な心
応用が期待される。また、本研究で示され
理特性を的確に把握することが、治療関係
た結果のうち、オリジナルの英語版尺度と
の構築や、社会適応の促進などにとって重
は異なる点があり、文化差による影響が考
要である。なかでも自らの感情を表出する
えられる。今後はより日本人独自の感情表
能力に関しては、これまでの研究から、ト
出の特徴を捉えられるよう、尺度の構成等
ラウマを受けた後で難しくなることが指摘
をさらに検討していく必要がある。
されている。しかし日本では感情の表出を
秋山は、
「自然災害時の精神保健医療対応
測定する標準化された自己記入式尺度がほ
と多文化対応」について研究を行った。外
国人は災害弱者であり、平成 23 年度の聞き
加者が平均 3 以上、25%の参加 4 以上の自
取り調査と情報収集によって、災害前に、
己能力評価をするようになっており、PFA
日本各地において「外国人精神保健支援ネ
研修は効果があったと考えられる。
ットワークづくり」を進める必要があるこ
鈴木は、
「海外において災害被災や犯罪被
とを明らかにした。平成 24 年度は、ネット
害等により精神不調をきたした邦人の実態
ワークづくりの基盤となる資料として、
把握と対応ガイドラインの作成」について
2011 年に発表された、
「移住者の精神保健
調査研究を行った。2012 年に 125 万人に達
および精神保健ケアについての世界精神医
した海外在留邦人および毎年 1700 万人前
学会のガイダンス」の翻訳を行った。また、
後を推移する海外渡航邦人は、大規模自然
外国人によって運営されている組織が、震
災害や凶悪犯罪、大規模事故、テロなどに
災前にどのような災害への対応体制を持っ
巻き込まれた際に災害弱者となりうるだけ
ていたか、災害後にどのような対応を行っ
ではなく、その一部はトラウマ関連障害を
たか、どのようなことが課題であったかに
呈し、専門的治療の適応となる。しかし、
ついて、聞き取り調査を行った。外国人組
その実態把握はいまだ十分とは言えず、被
織に対する調査では、心理社会的支援、情
災国での早期介入、現地医療機関との連携
報収集が課題として指摘された。この結果
など多くの課題がある。また、現地で被災
を受けて平成 25 年度は、6 つの在留大使館
者、被害者、さらに家族、遺族のケアを担
を対象に、災害時における心理社会的支援
当するケアギバーは隠れた被災者、被害者
に関する一日研修を各大使館につき 1 回、
であり、彼らを対象としたケアと教育を行
計 6 回実施し、研修を通じて災害時下の望
う体制は十分整備されていない。本調査研
ましい対人支援の在り方に関する知識およ
究では、海外在留邦人、外務省在外公館邦
び自己効力感がどのように変化するかを検
人援護担当領事および医務官を対象に、災
証した。方法としては、①15 項目からなる
害被災や犯罪被害等により精神不調をきた
被災者へのこころの支援について正しい知
した邦人事例について調査を行うとともに、
識を持っているか調査を行い、対応のある
海外在住の邦人ケアギバー間の連携強化と
t検定で効果を検証した。②8 項目からな
スキル向上を目的とした調査と啓発教育を
る被災者へのこころの支援に関する自己能
行い、これらの調査結果を反映した対応ガ
力評価に関する調査を行いノンパラメトリ
イドラインを作成する。本研究では、海外
ック検定で効果を検証した。その結果、知
渡航邦人のメンタルヘルスの現況把握を行
識の変化については、平均値が有意水準
い、その対策として在外邦人コミュニティ
0.1%で改善を示したのみならず、半数以上
の支援力強化、コミュニティ間の連携強化、
の参加者が全問に正答できるようになった
PFA を代表とする共通支援ツールの啓発普
ことから、知識の改善については、PFA 研
及の重要性が明らかとなった。さらに海外
修は、極めて大きな効果があったと考えら
邦人支援で蓄積した「精神医療過疎地への
れる。自己能力評価の変化についても、平
遠隔支援」のノウハウを東日本大震災の被
均が有意水準 0.1%で改善を示し、99%の参
災地支援に応用しうることが示された。今
後は、これらの研究で得られた知見を盛り
合があり、またその診断有用性(尤度比)
込みガイドラインを完成させる予定である。
が低下していることが明らかとなった。こ
荒木は、
「医療初動から中長期的な保健予
れらは K6 を被災者で使用する場合に注意
防活動までのマネジメント手法の確立」に
しなくてはいけない可能性を意味している。
ついて研究を行った。東日本大震災におい
K6 の回答選択肢ごとの人数分布を確認し、
て東大病院は、震災直後から現在に至るま
「少しだけ」の回答のみが増加しているか
で、多職種スタッフを宮城県に派遣して、
どうかを確認することで K6 の特性が被災
身体・こころのケアの活動を続けている。
により変化しているかどうかを確認するこ
活動の教訓として、被災地スタッフと連携
とが推奨される。被災地における心の健康
し、医療チーム・地域・国レベルでの円滑
に関する調査の留意点については、調査員
な支援活動のコーディネートによる市民へ
のヒアリングから、調査員が種々の調査技
の保健医療サービス、救急医療の初動から
術を活用していることが明らかになった。
こころのケアの保健・予防活動までの長期
また被災地調査では、聞き取り調査が好ま
的視野にもとづく多職種協働チームでの支
れることが示唆された。これらは災害時に
援の重要性を認識した。このような包括的
おける調査マニュアルに生かせる情報と考
なマネジメントが今後の災害医療において
えられる。
も重要であり、手法の確立が必須である。
加藤は、
「中長期の災害精神保健活動:専
本年度は東大精神科の震災支援についての
従組織と既存組織の役割」についてまとめ
振り替えりを後方視的な検証をもとに行い、
た。大災害からの復興期における精神保健
さらに子どものこころのケアについての結
上の問題は多岐にわたっている。医学的観
果を論文にした。
点から見れば、PTSD や悲嘆を主体とするト
川上は、
「一般住民におけるトラウマ被害
ラウマ反応だけでなく、生活再建プロセス
の精神影響の調査手法」について研究調査
で生じる二次的ともいえるストレスから生
を行った。本年度研究では、被災地におけ
じる心身の変調が大きな問題となる。しか
るK6の特性およびその使用の注意点をこ
し、これらの問題を訴えて診療を希望する
れまでの既存調査あるいは既存データの再
被災者は限定的であり、心のケア活動は啓
解析から明らかにした。また被災地住民の
発と健康教育を主体とした、地道な精神保
調査に係わった経験のある調査員からの聞
健活動にほかならない。阪神・淡路大震災
き取りを行い、被災地における心の健康に
や新潟県中越地震では、復興期の心のケア
関する調査の留意点をまとめた。岩手県お
活動を担う専従機関が設置されたが、保健
よび福島県で実施された調査の文献レビュ
所や市町村の地域保健部門との連携と協働
ーおよびデータの二次解析からは、被災者
が活動の充実には不可欠であった。東日本
における K6 の回答選択肢の分布を見ると、
大震災後に各県に設置された心のケアセン
「少しだけ」という軽症の選択肢に対する
ターの活動でも、県保健所や市町の保健部
回答が増加していた。また福島県被災者サ
門との連携が模索されており、職員を派遣
ンプルでは K6 のカットオフが上昇する場
するなどの新たな方法が試みられている。
本年度の研究では、こうした取り組みとと
比較して震災後に点数が下がりにくい傾向
もに、既存組織側が取り組んでいる精神保
があった。震災後は、属性やソーシャルサ
健活動についてまとめた。
ポートの有無に関わりなく SC が低下した。
荒井は、
「大規模災害による長期避難生活
特に集団避難地域でない地域に住んでいる
者のソーシャルキャピタルの変化に関連す
人、震災後にソーシャルサポートがなくな
る要因」について研究調査を行った。ソー
った人、経済状況が悪化した人はよりソー
シャルキャピタル
(以下 SC)
は精神健康度、
シャルキャピタルが大きく低下しており、
自殺予防との関連が報告されており、地域
より多くの支援が必要な対象であること、
住民の精神的健康や自殺予防に欠かせない
また近所づきあいなどのネットワークを構
概念である。本研究では長期に避難生活を
築しやすい環境づくりをしていく必要があ
送る成人を対象に、震災前と震災後のソー
ることが示唆された。
シャルキャピタルおよび関連が予想される
酒井は、
「岩手県こころのケアセンターの
因子を解析し、震災前後のソーシャルキャ
活動の分析」を行った。東日本大震災津波
ピタルの変化に関連する要因を検討した。
により岩手県沿岸地域では甚大な被害を受
福島県大熊町に住民票を置く 20 歳以上の
けた。災害発生当初 1 週間目より岩手医科
男女のうち、県内の総合健診会場に申し込
大学では、こころのケアの体制を整備し、
みを行った 1,595 名に対し、調査用紙を総
活動を開始した。こころのケアチームとし
合健診問診票とともに郵送配布し、研究協
て岩手県では約 30 チームが活動を行い、岩
力に同意の得られた人のみ回答を依頼し、
手医科大学こころのケアチームも岩手県北
健康診査受診会場にて回収を行った。回収
沿岸にて震災後のこころのケアのモデル構
率は 92.7%(1478 名)であった。震災前後
築を県、市町村、関係機関と連携しながら
のソーシャルキャピタルの変化に関して、
行った。多職種専門職によるこころのケア
年齢、性別、婚姻状況、震災後の住居地、
チームによるこころのケアを中長期的に継
住居形態、そして震災前後で起きた同居家
続していくために、岩手県こころのケアセ
族の有無・職業・地域活動の有無・ソーシ
ンターによる事業が岩手県から岩手医科大
ャルサポートの有無・経済状況の変化によ
学内に業務委託された。岩手医科大学では
る影響を検討した。ソーシャルキャピタル
「岩手県こころのケアセンター」を同大学
の震災前後での変化量は、-4.68±4.07 点
内に、
「地域こころのケアセンター」を沿岸
であり、婚姻状況では現在同居している既
4か所に設置した。こころのケアセンター
婚者、地域活動の有無の変化では震災後に
の活動方針は、これまでこころのケアチー
活動しなくなった人、物質的・金銭的支援
ムが担ってきた地域・地元市町村支援を中
者の有無の変化では震災後にいなくなった
心とした活動を出発点とし、活動当初は専
人、経済状況の変化では悪化した人が他群
門職による支援を念頭におきつつ、中長期
と比較して震災後に点数が下がる傾向があ
的には地域主体になる支援への移行を目標
った。震災後の住居形態では仮設住宅の人、
としている。現在の岩手県こころのケアセ
同居家族の有無の変化では独居者が他群と
ンターの具体的な活動としても、1)訪問
活動などを通じた被災者支援、2)震災こ
た。さらに、集計には反映されない活動の
ころの相談室による精神科医師、精神保健
実情を可能な限り拾い上げ、記述的に検討
専門職による個別相談、3)
市町村等の
を行った。同センターの柱となる活動は①
地域保健活動への支援、4)従事者支援、
地域住民支援、②支援者支援、③人材育成、
5)自殺対策、6)その他地域のニーズに
④普及啓発となっているが、この中で特に
よる活動、を骨子として活動している。本
重要な活動は①に該当する被災者の戸別訪
年度においても、被災地域におけるこころ
問であり、地域における健康調査の結果か
のケアセンターで対応した相談者の主訴で
ら要フォロー者への訪問を行った。ハイリ
は身体症状、他の精神症状、不眠が多かっ
スク者の選定基準は、各自治体の判断で設
た。身体症状は抑うつや不安を背景とした
定されるが、同センターでは①K6 が 13 点
症状が考えられた。背景の問題として、住
以上、②朝から飲酒、③65 歳以上で単身生
居環境変化、家族・家庭問題等が目立って
活、④何らかの疾患の治療中断の 4 点を判
おり、二次的生活変化によるストレス過重
断基準として推奨した。多くの自治体では、
の問題が出現していると考えられた。住民
K6 が 13 点以上の住民は 8~9%程度、朝か
はいまだに不自由で困難な生活を送ってお
ら飲酒をしている住民は 1~2%程度の範囲
り、今後も被災地におけるこころのケアを
にあった。また、各自治体からの報告では
推進していく必要があると考えられた。
身体疾患の発症と悪化、適切な治療を受け
松本は、
「みやぎ心のケアセンターの活動
ていないことも危惧された。開設当初はよ
分析」を行った。宮城県に設置されてまも
り多くの被災者に対して「浅く広く」と接
ないみやぎ心のケアセンターは、東日本大
触し、リスクの高い住民への見守りを行っ
震災により心理的影響を受けた県内の住民
てきた。時間の経過とともに様々なストレ
がコミュニティの中で、一日も早く安心し
ス反応が自然軽快に向かう住民が増える一
て生活できるよう、地域の実情に合わせた
方で、軽快へ向かうことのできないより少
支援事業を行っている。本研究では、みや
数の難治例に対して「狭く深く」対応する
ぎ心のケアセンターの経時的な活動内容を
ことが求められる機会も増えてきた。同セ
分析することにより、こころのケアセンタ
ンターとして専門治療に対する知識の拡充
ーを通した大規模災害後の精神保健活動の
および地域医療機関との連携強化が必要に
あり方について検討し、今後の災害後の復
なると考えられた。
興支援について検討・準備することを目的
昼田は、
「被災地における支援活動につい
とする。本年度も昨年度に引き続き、平成
て-「ふくしま心のケアセンター」の活動
25 年 4 月から 12 月までのみやぎ心のケア
分析をもとに-」研究を行った。ふくしま
センターの設置状況、その後の事業概要、
心のケアセンターの概要を紹介し、本年度
実情と課題についてまとめた。また、同セ
の 活 動状 況に つい て、 DMHISS( Disaster
ンターで集計している活動内容を分析し、
mental health information support system)
それぞれのフェーズで各地域ではどのよう
を用いた記述統計結果から分析を行い、今
な支援を必要とされているのか検討を行っ
後の課題等について考察した。ふくしま心
のケアセンターの活動はもっぱら訪問相談
な喪失に関する心理教育の効果を検討する
を中心としているが、その一方で、サロン
ことである(研究Ⅰ)
。さらに、専門職を対
活動や他機関連携、講演・研修等の実施な
象とした研修会を実施し、悲嘆やあいまい
ど多岐にわたった。また福島県内にある 6
な喪失に関する知識の向上を目指した(研
つの方部センターによって活動内容は大き
究Ⅱ)。本研究の結果、心理教育によるグリ
く異なっており、①地域性、②市町村、県、
ーフへの理解の向上、およびストレスの軽
医療機関との関係性、③スタッフの凝集性、
減する傾向が認められた。被災地の支援の
④スタッフの専門性の 4 つの要素がそれら
現場からは、遺族の悲嘆の語りがうかがえ
各方部のあり方を規定していると考えられ
るものの、本研究の母体となる遺族ケアの
る。今後、このような特徴の上に、如何に
ためのセミナーへの参加者は多くはない。
してセンターとしての帰属感や統合感を持
このことは、被災地には潜在的なニーズが
たせるかが課題となることが示された。
あるものの、遺族が自ら支援を求める状況
山田は、
「被災地域におけるグリーフ・ケ
ではないことが推察された。被災地でのグ
ア研究-岩手県における実践から-」を行
リーフ・ケアは様々な形で行われる必要が
った。東日本大震災は地震と津波体験が及
あり、被災地の支援者が悲嘆やあいまいな
ぼすトラウマ体験であったと同時に、大切
喪失に対する理解を含め、広く被災者のケ
な人、住居、財産、見慣れた故郷の風景、
アに関われることが望ましいと考えられた。
思い出、仕事など、様々な喪失体験でもあ
富田は、
「広域自然災害の精神医療保健体
った。岩手県では震災で亡くなった方が
制に及ぼす影響の情報把握と対応のあり方
4,672 名にのぼった。さらに、震災後も震
の検討」を行った。本研究は東日本大震災
災関連死が増え続けている。死別によって
の教訓を踏まえて、今後予想される災害に
身近な人を失った人が身体・認知・行動面
対応することのできる強い精神医療保健体
で様々な反応を示す悲嘆反応は、死別とい
制を構築するため、被災県の精神科病院協
う大きな喪失体験に対する自然で正常な反
会、保健所、自治体などと協力して、東日
応であるが、悲嘆の複雑化は心理的困難に
本大震災における精神科医療保健に関わる
つながることが示されている。また、死別
機関の被害と対応の実態や、災害の復興・
ではなくとも、行方不明者の家族にとって
防災に関する有益な情報を抽出し、得られ
の喪失体験は、亡くなったのか亡くなって
た教訓を今後の精神科医療に関わる医療機
いないのかあいまいな喪失であり、喪失の
関の防災・減災に活かすことを目指すもの
あいまいさゆえに悲嘆が複雑化しやすいこ
である。本年度は、宮城県下の精神科医療
とが示されている。これらのことから、遺
機関を対象に各医療機関の事前の災害への
族や行方不明者の家族の周囲の理解を高め
備えと災害が精神科医療機関の施設、医薬
ること、自然な悲嘆反応を促進すること、
品、物資、職員、精神疾患罹患者の診療体
また悲嘆の複雑化を予防する遺族の心理的
制に及ぼした影響等を分析し、精神科医療
なケアが重要であると考えられる。本研究
機関の今後の災害への備えに有用な情報を
の目的は、死別による悲嘆反応とあいまい
抽出することを目的に宮城県全域の精神科
医療機関 26 病院を対象にアンケート調査
その後、 20 歳以上の一般地域住民を対象
と聞き取りを行い、うち、14 病院からの情
に、作成した HAS 日本語版、抑うつ、不安、
報集積を完了した。東日本大震災発災時点
不眠の重症度、睡眠障害、その他睡眠状態
では被災医療機関の被災状況の支援側への
や精神的健康と関連する質問票に回答を求
伝達や支援者側の状況把握のあり方は定ま
め、すべての質問票に回答した男女 288 名
っておらず、伝達に遅れがみられた医療機
(平均年齢 38.80±10.45 歳)を解析対象と
関が多く、中には深刻な支援の遅れに至っ
した。本研究の結果、HAS 合計得点におい
たケースがみられた。広域災害の場合、被
て、性別、年代別に有意な差異はみとめら
災地域内の精神科医療機関の被災状況と支
れなかった。次に、HAS 日本語版の信頼性
援のニーズのアセスメントを早期に行うこ
の検討のため、クロンバックのα係数を算
とは災害後急性期のメンタルヘルス支援の
出したところ、α= .84 であり、高い信頼
枠組みの中で重要事項に位置づけるべきで
性を有していることが示された。また、構
ある。本年度の調査から精神科医療機関の
成概念妥当性検討のため、HAS 日本語版と
今後の防災・減災・災害対応に向けて有益
抑うつ、不安、不眠の重症度等の睡眠関連
な情報が多く得られた。今後、更に情報の
の指標との相関分析を行ったところ、有意
集積、抽出を進め、全国の精神科医療機関
な高い相関関係が示された。したがって、
の防災・減災・災害対応の体制づくりに有
HAS 日本語版は高い信頼性と構成概念妥当
用な情報の共有を図る予定である。
性を有していると考えられた。これらの結
三島は、「Hyperarousal Scale 日本語版
果から、本尺度は生理的過覚醒の側面から
の開発に関する研究」を行った。災害後に
簡便にうつ病、不眠症、PTSD 等に対する罹
生じる不眠症、気分障害、PTSD 等に共通し
患脆弱性のスクリーニングに有用である可
た病態として、生理的過覚醒(Hyperarousal) 能性が示唆された。
の存在が想定される。不眠症患者は健常者
渡は、
「東日本大震災「こころのケアチー
と比較すると過覚醒得点が有意に高く、さ
ム」派遣・実績に関する研究」を行った。
らに、うつ症状やストレス、睡眠に関する
東日本大震災においては、厚生労働省から
問題行動と関連していることが知られてい
全国自治体等に対し、災害時精神保健医療
る。そこで本研究は、 Hyperarousal Scale
活動を行ういわゆる公的な「こころのケア
(HAS)日本語版を作成し、その信頼性と妥
チーム」の派遣の斡旋が行われた。しかし
当性の検討を行うことを目的とした。HAS
ながら、支援活動が大規模かつ長期間に渡
は 26 項目4件法の自記式質問票である(得
ったことから、個別での報告はなされてい
点範囲 0~78 点)
。日本語版作成にあたり、
たものの、その全体像の把握と評価は行わ
原著者の許諾を得た上で原版を翻訳し、バ
れていない。また、こころのケアチームの
イリンガルによるバックトランスレーショ
活動が一部非効率的であったこと等を踏ま
ンを行った。そして、バックトランスレー
え、平成 25 年 4 月に厚生労働省より災害派
ションを行ったものと原版との比較を原著
遣精神医療チーム(DPAT)活動要領が発出さ
者に依頼し、等価性についての確認を得た。
れており、東日本大震災におけるこころの
ケアチームの全体像を評価した上で具体的
果から、事前のコミュニケーションスキル
な活動内容を検討していく必要がある。そ
研修を受けることで、PFA 研修による正確
こで本研究は、全国レベルでの派遣および
な知識の習得率が高まる可能性があること、
活動実績を統一した手法で集計し、東日本
コミュニケーションスキル研修の受講によ
大震災における公的な支援の全体像を明ら
り、参加者は自身の基本的コミュニケーシ
かにし、また、DPAT を体制整備するにあた
ョンスキルを正確にモニターできるように
り、自治体の現状について整理した上で、
なることなどを確認した。また、CBTの
今後あるべき災害時精神保健医療活動につ
RCTを実施した研究者を米国に尋ねる海
いて検討することを目標として掲げた。本
外視察を行い、訓練の仕方などについて情
年度は、研究Ⅰ:福島県における東日本大
報を収集し、PFA研修を実施する際の参
震災こころのケアチーム活動実績調査およ
考とした。
び研究Ⅱ:都道府県・政令指定都市の災害
神尾および金は「東日本大震災のメディ
時精神保健医療体制整備状況調査を行った。
ア報道による子どもたちのメンタルヘルス
調査結果から、研究Ⅰでは、今後は活動中
への影響」、「災害時の避難所・仮設住宅に
に精神保健医療活動に関する実績について
おける子どもとその家族のための生活環境
は評価できる仕組み(災害精神保健医療情
と支援ニーズの実態調査およびガイドライ
報支援システム;DMHISS)を活用し、対策
ン遵守のためのチェックリスト作成」につ
を随時検討していく必要があると考察され
いて研究を行った。
た。研究Ⅱでは、災害発生後から迅速にか
まず、
「東日本大震災のメディア報道によ
つ効率的に精神保健医療に関する活動を行
る子どもたちのメンタルヘルスへの影響」
っていくためには、平時において、自治体
研究は、東日本大震災後のメディアへの暴
レベルでは具体的な体制、人材の確保、ロ
露が、遠隔地の子どもの心身の成長やメン
ジスティックスを含めた人材育成を、国レ
タルヘルスに与える影響を調査することを
ベルでは特に広域災害に関する研修、訓練
目的としている。東日本大震災での揺れの
を実施する必要があると考えられた。
激しさや押し寄せる津波の破壊力は、メデ
堀越は、
「サイコロジカル・ファーストエ
ィア報道を通じて被災地から離れた地域に
イド(PFA)を実施する際に必要な基本
も伝達され、テレビを視聴した子どもの中
的コミュニケーションスキル訓練」につい
には、頭痛や腹痛を訴えたり、嘔吐してし
て調査研究を実施した。この研究は、心理
まう子どももおり、保護者からは視聴が子
的応急処置を実施する際に、その土台とな
どもに悪影響を及ぼすのではないかという
るコミュニケーションの技法を教えること
不安の声が上がった。メディアの影響につ
の意義を検証し、それに合うコミュニケー
いては専門家の間でも懸念され、たとえば
ションプログラムを開発することを目的と
日本小児神経学会は、被害映像に配慮を求
している。本年度は、その予備調査として、
める宣言をマスメディアに対して行ってお
コミュニケーションプログラム実施群と実
り、その宣言では子どもは未発達であるが
施をしない群とを比較した。予備調査の結
ゆえにメディアの影響を強く受ける可能性
があることを示唆している。しかし災害の
の個別性や多様性にも応じることができる
メディア視聴が子どもに及ぼす影響につい
よう考慮すべき点についても検討を行った。
ては、諸外国では PTSD 症状との関係性につ
チェックリストに加えるべき複数の項目が
いての研究や被災現場からの距離の近さが
挙げられたがこれらの観点を含み、ガイド
PTSD 有病率に関係することを明らかにした
ライン遵守のためのチェックリストを作成
研究などがあるものの、日本では体系的な
することを今後の課題とする。
研究に基づく論文発表が未だになされてお
らず、エビデンスに乏しい。そこで本研究
3
では、メディアへの暴露とプレ要因として
(1)
特許取得
の子ども側の要因(自閉傾向や気質など)と
(2)
実用新案登録
の関連を明らかにし、要支援児の同定およ
(3)
その他
び早期対応のためのエビデンスを提供する。
いずれもなし
本年度は、多摩地区の 6 歳児、426 名の保
護者に対し質問紙による郵送調査を実施し
た。また、その素集計データを中心に、一
部のデータ解析の報告、ならびに次度度の
研究の予定についてまとめた。
次に、
「災害時の避難所・仮設住宅におけ
る子どもとその家族のための生活環境と支
援ニーズの実態調査およびガイドライン遵
守のためのチェックリスト作成」研究は、
国際的な基準に準拠した日本版の子どもと
その家族を取り巻く避難所等における環境
改善のためのガイドラインに基づいて、今
後の支援活動に役立つガイドライン遵守の
ためのチェックリストを作成することを目
的としている。本年度は、東日本大震災直
後の避難所等における「子どもにやさしい
空間(Child Friendly Space)
」など支援の
場の有無や、子どもを取り巻く生活環境に
ついての保護者面接調査行い、さらに子ど
もの精神医学的症状を質問紙評価により把
握した。これらの結果からガイドラインの
達成状況や、生活環境面における問題点・
支援ニーズについて整理した。またチェッ
クリスト作成に際し、地域や個々の子ども
知的所有権の取得状況
Ⅱ. 分担研究報告
平成 25 年度 厚生労働科学研究費補助金(障害者対策総合研究事業(精神障害分野))
被災地における精神障害等の情報把握と介入効果の検証及び
介入手法の向上に資する研究
分担研究報告書
持続エクスポージャー療法(Prolonged Exposure Therapy: PE)の普及体制の
確立に関する研究
分担研究者 金吉晴 1)、
研究協力者 河瀬さやか 1)2)、中山未知 1)2)、大滝涼子 1)、荒川和歌子 3)
1) 国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所 災害時こころの情報支援センター
2) 東京女子医科大学女性生涯健康センター
3) 南平岸内科クリニック
研究要旨
災害時には種々の精神疾患が生じるが、その中でもトラウマによる PTSD、またその特
殊型としての悲嘆反応が、慢性化しやすく、かつ日常臨床において十分な臨床経験
を積むことが困難な病態として重要である。PTSD に対しては薬物を含む治療法のな
かでもっとも効果が実証されている持続エクスポージャー療法(PE)を適切に普及する
ことが求められている。この治療法は、PTSD 以外の、複雑性悲嘆に対する認知行動
療法の基礎ともなっている。指導者の育成による普及を促進するために、認定 PE 治療
者、認定コンサルタント(スーパーバイザー)、認定指導者の各段階の人材を効
果的に育成するとともに、こうした人材を活用した研修のあり方について検討
した。またスーパーバイズ用のマニュアル資料を翻訳、導入した。
1
はじめに
その恐怖を回避するために記憶内容やその
外 傷 後 ス ト レ ス 障 害 ( posttraumatic
ときの感情、時には今現在の現実感の麻痺
stress disorder: PTSD)は生死に関わる強
が生じている病態。こうした体験の後で
い衝撃を受けたことによって恐怖条件付け
PTSD を発症する率は、事故や災害で数%、
が形成され、その体験の記憶が心理的外傷
強姦や戦闘で 60-70%程度である。一時的に
(トラウマ)となって絶えず想起されては
PTSD を発症してもその 7 割程度が半年以内
当時の恐怖が反復体験され、動悸や筋緊張、
に自然寛解する。したがってこの病態の問
または物音への共学反応を生じるとともに、
題は発症ではなくて慢性化にある。被害者
の多くは怒り、恥、罪悪感、信頼感の喪失
治療ガイドライン、米国精神医学会による
に悩まされており、家族や友人、職場など
エキスパートコンセンサス・ガイドライン
の調整が必要なこともある。生命の危険に
を始め、PTSD に対する治療法としては、選
匹敵するような危険、被害に直面した後、
択的セロトニン再取り込み阻害薬
その体験の情動記憶が本人の意思と関係な
selective
くフラッシュバック様に想起され、当時と
inhibitor(SSRI)による薬物療法と並んで、
同じ恐怖が再体験されるという現象を中核
第一選択にあげられているなど、もっとも
とし、それに伴って回避麻痺、過覚醒が生
良く研究去れ、一貫して効果が実証されて
じ、これらが1ヶ月以上持続する病態であ
きた技法である。また米国学術会議報告書
る。
によって、
PTSD に関するあらゆる薬物療法、
B
診断のためには以下の基準を満たす
必要がある。なお昨年 DSM-5が制定された
serotonin
reuptake
心理療法の中で唯一十分なエビデンスがあ
ると認められた治療法でもある。
が、現在参照すべき臨床研究は DSM-ⅣTR に
この治療は、恐怖はひとつの認知構造と
基づいているので、その基準を踏まえて記
して記憶の中に表現されるのであり、それ
載をする。
は危険を回避する“プログラム”だという
1
事故、犯罪、性暴力、虐待、災害な
情動処理理論に基づき、その回避を無効化
ど、大多数の者が死を確信するような出来
することと、回避に伴って生じる、あるい
事を体験または目撃した後で症状が見られ
は回避を強化している認知的偏りを修正す
ていること。
るという治療方法である。恐怖記憶につい
2
以下の症状のすべてが一ヶ月以上続
いていること
が明確であり、そのために治療の fidelity
a 侵入症状;体験内容が、当時と同じ苦
痛な感情や次項に示す身体の反応を伴って
本人の意図に反して想起される。
b 過覚醒症状
ての基礎理論との整合性も高く、治療機序
動悸、驚愕、発汗、筋緊
張、苛立ち、不眠。
c 回避・麻痺症状
を均一に保ちやすい。
この治療法を習得するためには、開発
者の Foa の主催する、あるいは公認された、
4 日間のワークショップに参加し、その後 2
症例についてスーパーバイズを受けること
体験を連想させる刺
で、まずは認定 PE 治療者となる。その後、
激や場面を避ける。またトラウマとなった
数例の治療経験を積んだ後、5 日間のスー
体験の一部が想起できず、感情が麻痺して
パーバイザー育成のためのワークショップ
いると感じる。
に参加し、認定コンサルタント(スーパー
バイザー)となる。その後、更に研鑽を積
2持続エクスポージャー療法(Prolonged
み、後任ワークショップのアシスタントな
Exposure Therapy: PE)は、Pennsylvania 大
どを務めた後、指導者育成のためのワーク
学 Edna Foa 教授によって作成され、PTSD
ショップに参加することによって、4 日間
に対する治療として高く評価されている。
ワークショップを開催する資格を得、認定
国際トラウマティックストレス学会による
指導者となる。
阪神淡路大震災(1995)以降、今般の東日
ーパーバイズであるが、少なくとも②症例
本大震災以降、PTSD 治療への関心は増大し
についてセッション毎のスーパーバイズを
ており、米国で PTSD に関して保健認可を受
受けることは PE 臨床家になるための必須
けている paroxetine が日本でも効能追加
条件である。しかし従来、日本ではスーパ
が認められた。しかしながら、PE の普及が
ーバイザーがいないため、この指導を受け
遅れている。
ることが困難であったが、近年、スカイプ
そこで本研究班では、以下の活動を通じ
等の媒体による遠隔通信が可能となり、こ
て PE の効果的普及の feasibility を検討し
の形式の指導を受けることが出来るように
た。
なった。Foa 教授のスタッフからの直接指
① Foa 教授の下に臨床家を派遣して指導
導を受けることが出来るのは英語に堪能な
者資格を取得させ、日本での普及、指導
治療者、あるいはそうした治療者による通
体制の促進の有効性を検討する。
訳補助が可能な場合に限られるが、それ以
② スカイプを利用し、同意の得られた患者
外の場合には上記で育成された指導者が日
について Foa 教授のスタッフから直接
本国内でスカイプを通じてもしくは直接に
スーパーバイズを受ける。
指導を行うことによって、米国において求
③ 日本でのワークショップの参加者を対
められているのと同等の指導を行うことが
象として、まだ PE に踏み切ることが出
可能となった。この点は、内容と言うより
来ないもの数名を参加させる症例検討
も制度的な大きな進歩であると考えられる。
会を開催する。
上記の指導方法は、実際に PE を実施して
いることが条件となっているが、現実には
2
検討結果
身近に指導者がいない場合には PE に踏み
Foa 教授の教室には合計 4 名の臨床家を 3
切ることが出来ない場合も多い。そのよう
週間派遣したが、きわめて有効な研修効果
な臨床家の関心とスキルの維持と向上のた
を得ることが出来た。その内容は必ずしも
めに、スカイプを用いた集団での事例検討
数値化されていないが、本人たちの効力感、
会を開催しており、これによって意欲を均
知識、スキル増大の感覚と、指導をした Foa
一に保つことが可能となった。また実際に
教授のスタッフによる評価による判断であ
PE を実施している臨床家同士が、スーパー
る。従来筆者らは不定期の助言、訪問によ
バイズとは別に症例を提出し合い、相互研
って指導を受け、近年になってスカイプに
鑽するという形式も定着している。
よるセッション毎のスーパーバイズも受け
るようになったが、そうした体験から得ら
資料作成
れた研修効果と比較して、PE の背景にある
今後のスーパーバイズ、指導を円滑に進
様々な臨床的基礎、研究体制、評価方法、
めるためには指導者用の資料を用いること
などについて自信を深めることが出来たこ
が不可欠である。その一部を翻訳し、資料
とは大きな収穫であった。
として添付した。
次にスカイプを用いたセッション毎のス
3
知的所有権の取得状況
(1) 特許取得
(2) 実用新案登録
(3) その他
いずれもなし
(資料:抜粋)
セラピストの忠実度と能力判断スケール
セッション1
パート I: セラピー要素
1.
セラピストは、治療計画やトラウマ面接、呼吸再調整法を含めたセッション内容を設定したか?
2.セラピストは、治療プログラムの概要を提示したか(セッションの回数、長さなど)?
Yes No
Yes No
3.セラピストは、トラウマ後の反応を長引かせる要因(回避と否定的なトラウマに関連した考えや思い込み)
について話したか?
Yes No
4.セラピストは、PTSD を長引かせる回避と、軽減するエクスポージャー法の関連性を説明したか?
Yes No
5.セラピストは、想像エクスポージャーについて説明したか?(情報の消化と処理を助ける)
Yes No
6.セラピストは、現実エクスポージャーについて説明したか?(避けている状況は危険ではないと認識させる)
Yes No
7.セラピストは、クライアントに STI を渡す、又は一緒に読み返して、トラウマインデックスを構築したか?
Yes No
8.セラピストは、呼吸法再調整法の原理を示したか?
Yes No
9.セラピストは、クライアントに呼吸法を教え、セッション中にコーチしたか?
Yes No
10.セラピストは、宿題を出したか?(呼吸法練習 1 日 3 回とセッションテープを聞く事 1 回)
Yes No
セラピー要素での Yes の合計 =_________
パート II: 忠実度の質問
1.
セラピストは、マニュアルや治療モデルに含まれていない手順を取り入れたか?
Yes
No
もし Yes であれば, 説明しなさい:_____________________________________________________
_________________________________________________
セラピストに関する項目:
Y or N
1. クライアントと対話的な関わりができた
Y or N
2. クライアントに対して、批判的でなく、サポート的で共感的な態度で接することが出来た
Y or N
3. 治療に対する自信を伝えることが出来た
Y or N
4. 論理的で首尾一貫した説明が提供できた(例:治療の原理や手順、クライアントの症状や経験に
関しての説明)
Y or N
5. (言及された際には)クライアントに関連した例を使うことが出来た
Y or N
6. 指導的で課題に沿った治療環境を提供出来た
Y or N
7. よく構成されたセッションを実施出来た
Y or N
8.セッションの準備がきちんと成されていた(例:時間を守る、まとまりがよい、セッション用の
資料が用意されている、セッション内容を理解している)
セラピストに関する項目での Yes の合計=____________
1
セラピストの忠実度と能力判断スケール
セッション2
パート I:
セラピー要素
1.
セラピストは、セッションの計画事項を設定した
Yes
No
2.
セラピストは、宿題を振り返り、フィードバックを与えた。もしやってこなかった場合には、宿題の重要性を強
く説明した。
Yes
No
3.
セラピストは、クライアントとトラウマ体験に対する一般的な反応について話し合った
Yes
No
4.
セラピストは、会話中クライアントのトラウマに対する反応を聞きだし、それが当然のリアクションであること
5.
を話した
Yes
No
セラピストは、現実エクスポージャーの原理を話した
Yes
No
6. セラピストは、回避は短期的に不安を減らすのに役立つが、長期的には PTSD 症状を長引かせ、新しい学びを
妨げることを説明した
7. セラピストは、以下のエクスポージャーに関する説明をした(5 つのうち3つ):
•
回避したり逃げ出すことでつらさを減少する、という習慣を打破する
•
恐れている状況が予測される危害をもたらす、というクライアントの思い込みを反証する
•
不安は一生続くという考えが事実でないことを検証する
•
馴化を促進する
•
クライアントの自信と有能感を向上する
8. セラピストは、現実エクスポージャーの例を挙げた(例:タクシー運転手や男の子と海)
Yes
No
Yes
No
Yes No
9. セラピストは、SUDS を紹介し、目印となるポイントを設定した(レベル 100 はトラウマに関する事柄のみ)
Yes
No
10. セラピストとクライアントは、5 つ以上の特定的かつ具体的な避けている状況、そのうち少なくとも 2 つは
SUDS 中間レベルのもの(例:「混雑した場所に行く」ではなく、「週末に近所のショッピングセンターに出か
ける」といった具体的な設定)を見つけ出し、現実エクスポージャーの不安階層表を設定した。
Yes
No
11. セラピストは、セッション 2 の宿題を出したか?(呼吸法の練習、トラウマ体験に対する一般的な反応の振り
返り、不安階層表の項目を加える、現実エクスポージャーを始める、セッションのテープを1度聞くなど)
Yes
No
セラピー要素での Yes の合計 =_________
2
パート II: 忠実度の質問
1.セラピストは、マニュアルや治療モデルに含まれていない手順を取り入れたか?
Yes No
もし Yes であれば, 説明しなさい:____________________________________________________
_________________________________________________
セラピストに関する項目:
Y or N
1. クライアントと対話的な関わりができた
Y or N
2. クライアントに対して、批判的でなく、サポート的で共感的な態度で接することが出来た
Y or N
3. 治療に対する自信を伝えることが出来た
Y or N
4. 論理的で首尾一貫した説明が提供できた(例:治療の原理や手順、クライアントの症状や経験に関
しての説明)
Y or N
5. (言及された際には)クライアントに関連した例を使うことが出来た
Y or N
6. 指導的で課題に沿った治療環境を提供出来た
Y or N
7. よく構成されたセッションを実施出来た
Y or N
8. セッションの準備がきちんと成されていた(例:時間を守る、まとまりがよい、セッション用の資
料が用意されている、セッション内容を理解している)
セラピストに関する項目での Yes の合計=____________
3
セラピストの忠実度と能力判断スケール
セッション3
パート I:
セラピー要素
1.
セラピストは、セッションの計画事項を設定した
2.
セラピストは、宿題を振り返り、フィードバックを与えた。もしやってこなかった場合には、宿題の重要性を強く
3.
Yes
No
説明した
Yes No
セラピストは、以下の想像エクスポージャーに関する説明をした(5 つのうち3つ):
Yes
No
•
トラウマ記憶の処理と整理
•
トラウマを"思い出すこと“ と"再びトラウマ被害を受けること” の区別がより出来るようになる;トラウ
マを思い出すことが危険ではないことを学ぶ
•
馴化を促進する
•
トラウマの出来事とその他の類似した出来事の違いをはっきりとさせる、つまり特定のトラウマに対する感
覚が、似ているが実は安全である状況に般化(Generalization)することを防ぐ
•
個人の有能感を強化する:やり遂げる感覚と自信を向上する
4.
セラピストは、類似例を挙げた(例:悪い食べ物、ファイルキャビネット、物語の恐ろしい場面)
Yes No
5.
セラピストは、セッション中に想像エクスポージャーを行うための手順を示したか?
Yes No
6.
セラピストは、5 分ごとに SUDS の評価を行ったか?
Yes No
7.
セラピストは、想像エクスポージャーの最中に適所で補助的なコメントが出来たか?
Yes No
8.
想像エクスポージャーは、45 から 60 分間続けたか(許容範囲は 15-65 分間)?
Yes No
9.
セラピストは、想像エクスポージャーの体験をクライアントとプロセスしたか?
Yes No
10. セラピストは、宿題を出したか(セッションのテープを 1 度聞く、想像エクスポージャーのテープを毎日聞く、
現実エクスポージャーの宿題をやり遂げる、呼吸法)?
Yes No
セラピー要素での Yes の合計 =_________
4
パート II: 忠実度の質問
1. セラピストは、マニュアルや治療モデルに含まれていない手順を取り入れたか?
Yes No
もし Yes であれば, 説明しなさい:____________________________________
______________________________________________________________________
セラピストに関する項目:
Y or N
1. クライアントと対話的な関わりができた
Y or N
2. クライアントに対して、批判的でなく、サポート的で共感的な態度で接することが出来た
Y or N
3. 治療に対する自信を伝えることが出来た
Y or N
4. 論理的で首尾一貫した説明が提供できた(例:治療の原理や手順、クライアントの症状や経験に関
しての説明)
Y or N
5. (言及された際には)クライアントに関連した例を使うことが出来た
Y or N
6. 指導的で課題に沿った治療環境を提供出来た
Y or N
7. よく構成されたセッションを実施出来た
Y or N
8. セッションの準備がきちんと成されていた(例:時間を守る、まとまりがよい、セッション用の
資料が用意されている、セッション内容を理解している)
セラピストに関する項目での Yes の合計=____________
5
平成 25 年度厚生労働科学研究費補助金
障害者対策総合研究事業
被災地における精神障害等の情報把握と介入効果の検証
及び介入手法の向上に資する研究
分担研究報告書
WHO 版心理的応急処置(サイコロジカル・ファーストエイド:PFA)の
普及と研修成果に関する検証
分担研究者 金吉晴 1)
研究協力者 鈴木満 2)3)
、井筒節 4)、堤敦朗 5)、荒川亮介 1)、大沼麻実 1)、
菊池美名子 1)、小見めぐみ 1)、大滝涼子 1)
1) 国立精神・神経医療研究センター 精神保健研究所 災害時こころの情報支援センター
2) 外務省
3) 岩手医科大学神経精神科学講座
4) 世界銀行東京開発ラーニングセンター
5) 国際連合大学グローバルヘルス研究所
研究要旨
2011 年の東日本大震災を受けて、被災者のためのこころのケアが再度重視される中、災害時こころの情報
支援センターは平成 24 年度から WHO 版の心理的応急処置(サイコロジカル・ファーストエイド:PFA)
を日本語に翻訳・導入し、PFA が有事の人道的支援の標準となるよう研修活動行っている。PFA とは、深刻
な危機的出来事に見舞われた人びとに対して行う、人道的かつ支持的な支援であり、被災者の尊厳、文化、
能力を尊重した心理社会的支援の枠組みを提示したものである。WHO や機関間常設委員会(IASC)、各種
国際的専門団体から、心理的ディブリーフィングに代わる、緊急時における支援の在り方として支持されて
いる。平成 24 年度に行われた指導者研修から発展し、平成 25 年度は様々な地域・分野において、国内講師
が PFA 研修を展開してきた。今年度は、PFA 一日研修や講義が各地で約 30 回開催され、12 月には昨年に
続き 2 回目となる指導者研修が行われた。更なる指導者要員が確保されたとともに、今後は国内のトレーナ
ーによる指導者研修を開催することが可能となった。今年度行われたそれぞれの研修や講義において、事前
事後における質問紙(Pre-Post Test)が配布され、参加者の災害支援に関する能力と知識の自己評価、及び
PFA の理解度が評価された。研修前後の質問紙の結果を比べると、有事における心理社会的支援に対して、
研修参加者の知識・能力の自己評価及び PFA の基礎知識に関する理解の向上が確認され、研修の有効性が認
められた。
Keywords 災害、精神医療、こころのケア、サイコロジカル・ファーストエイド
A.
はじめに
ない。多くの人びとが被災者に手を差し伸べたいと
2011 年 3 月の東日本大震災発生後、被災者への支
思い、東日本大震災後にも様々な団体や機関、多職
援活動や地域の復興活動が進められる中、災害時に
種の支援者が援助にあたった。震災発生から 3 年経
おける被災者のためのこころのケアの在り方が見直
った今なお、多くの団体が支援活動を継続している。
されている。震災から 3 年経ち復興計画が検討され
このように、支援者が被災地に入って支援活動を行
る現在、被災者への今後の細やかな心理的支援が重
う、あるいは後方支援にあたる際には、現地の人び
視されている。
との被災体験や、被災者が直面している状況とそれ
大規模な災害や危機的状況が発生した際に、被災
に伴うストレスや混乱、そのような状況で起こりう
者の支援にあたるのは医療関係者に限ったことでは
る反応をよく理解した上で、被災者のこころに寄り
添うような形の支援をすることが重要と言える。心
の枠組みであり、被災者の快復力を支援するための
理的応急処置(サイコロジカル•ファーストエイド:
支援の在り方である。PFA には各国、各種団体によ
PFA)は、そのような緊急時における支援者のため
り、異なるバージョンが存在する。米国では
の人道的かつ支持的で実際に役立つ心理社会的支援
National
のガイドラインである。被災者の尊厳や文化、また
National Center for PTSD が 出 版 し て い る
能力を活かした方法での安全な支援の在り方を提示
Psychological First Aid: Field Operations Guide も、
し、支援にあたる際の心構えを記すものと言える。
よく使われており(4)、これについては兵庫こころ
Child
Traumatic
Stress
Network,
のケアセンターが日本語翻訳版の作成し HP から入
B.
災害時の初期対応の背景
手可能となっている(5)。
緊急時の初期対応の背景としては、これまでの世
昨年度より災害時こころの情報支援センター(以
界各地における危機的な状況において、様々な団体
下:当センター)が翻訳・導入しているのは、国際
が支援にあたり支援活動を行ってきた。その過程で
的に広く認められ、活用されている WHO 出版の
は、外部から支援が入ったことで現地に更なる混乱
Psychological First Aid: Guide for field workers で
が生じたり、被災者が 2 次被害を受けたりするよう
ある(6)。すでに数か国語に翻訳され、世界各地での
な、良好に支援が進まなかった過去の経験も多い。
普及も進められている。日本の特徴と言える自然災
緊急対応では支援の方策が錯綜し、心理的支援に関
害のみならず、世界中の紛争地域や被災地域で使わ
してもそうなる傾向がある。このような失敗を繰り
れるために作成されたこの PFA は、WHO や国連本
返すことがないよう、各種団体の経験を集結して作
部の職員の研修にも取り入れられ、多職種の支援者
成され、推奨されるようになったのが PFA である。
への支援のための手引きとなっている。これは、
1970~80 年代にかけては、緊急時の支援として
WHO, War Trauma Foundation, World Vision の 3
Critical Incident Stress Management と、その中の
団体が協働で手掛け、レヴューには世界各地の緊急
手法の一つである Debriefing (心理的ディブリーフ
時に支援にあたる数多くの国際的な団体や専門家が
ィング)という介入方法が開発され、有効的だと考え
携わり、それぞれの支援の経験を集結した。IASC
られていた。これは、米国の軍隊兵士、警察、消防
ガイドラインで推奨されている人道的心理社会支援
隊員のトラウマケアのために開発された技法で、危
の在り方に基づいて、戦争や自然災害、事故、対人
機的な状況を体験した者から、その体験直後に出来
暴力、犯罪等、多岐にわたる危機的出来事が起こっ
事の話を聞き出すことが、トラウマの影響を防ぐの
た時、実際に被災者の役に立つ支援のガイドライン
に役立つという考えのもとに用いられていた。しか
を記している(7)。
し、その後の国際的な研究や検証では、この心理的
PFA は、心理的ディブリーフィングとは異なり、
ディブリーフィングは PTSD の予防効果は認められ
医療関係者や心理士等専門家のみが行う介入方法で
ず、不安や鬱を軽減するという結果も得られていな
はない。これが PFA の大きな特徴のひとつでもあり、
い(1)
。また、被災者が望んでいないのにも関わら
支援にあたる者であれば誰でも知っておくべき支援
ず無理に話を聞き出すことで、更なる精神的苦痛を
の在り方であると言える。責任をもった支援を行う
与えるリスクもあると考えられる。
こと、被災者の安全、尊厳、権利、文化を尊重して
今日では、機関間常設委員会(IASC)をはじめと
行動することに加えて、支援者が自分自身のケアを
した各種国際団体から、緊急時の被災者の支援には
行うこと(セルフケア)も重要な項目として取り上
心理的ディブリーフィングに代わって PFA を提供
げられている。特に、東日本大震災のような大規模
するべきだと推奨されている。PFA の有効性につい
な災害で被害が多大である場合、また、長期的支援
ては、PTSD 等の精神症状を予防する効果があると
が不可欠となる状況では、支援者の疲弊が大きな問
いう統計的実証はされていないが、支援関係者の経
題として上がってくる。震災から 3 年経ち、継続的
験からは、実際に役立つ人道的支援としては認めら
な支援が見直される今、これは今現在の大きな課題
れているといえるだろう(2)(3)。
であり、また今後起こりうる大規模災害への対策と
しても重要な点である。PFA では、被災者のみなら
C.
WHO 版心理的応急処置(PFA)
PFA は、前に述べたように人道的な心理社会支援
ず支援者にとっても安全な支援であることを重視し
ている。
PFA の行動原則は、医療や支援の専門家に限らず、
どのような立場の支援者でも容易に習得できるよう、
象)から東北の被災地、今後災害のリスクが高いと
考えられる地域まで、幅広く行われた。(表 1)
わかりやすく提示されている。まず支援に入る前に
研修・講義のスタイルは、演習を多く取り入れた
現場の状況や安全性、現地のサービスや既存の支援
5~6 時間の一日研修から、短時間の講義まで、各団
等を調べる準備(Prepare)から始まり、支援に入
体の要望や参加者のニーズによって、どの項目に重
る際の重要な原則を「見る•聞く•つなぐ(Look,
点をおくか、どのような演習を取り入れるか等、講
Listen, Link)」と簡潔に示している。特に、被災者
師が各研修ごとに対応した。研修講師は 2~3 人一
を落ち着かせるような接し方や、被災者に寄り添う
組で取り組み、講義を分担したり、研修中での演習
ような支援、無理に話をさせずに傾聴する姿勢も重
やディスカッションがより円滑に、より効果的に行
視され、これらを実践・練習する演習が、PFA 研修
われるように研修の進め方を工夫した。また、平成
の醍醐味でもあると言える。また、支援者が自分の
25 年 8 月には、昨年度の指導者研修受講者が集まる
役割をわきまえ、被災者を必要な情報やサービスに
研究会を開催し、これまでの活動報告や近況、PFA
つなぐことや、よりリスクの高い人を見極めて専門
に関する倫理綱領の再検討や、今後の展開について
家につなぐことの重要性も示し、より支持的、実際
話し合われた。
的な支援が提示されている。
この WHO 版 PFA が国際的に認められ、各地に
(平成 25 年 12 月第 2 回国内指導者研修)
普及されていく中、現地で研修を実施できるファシ
昨年度行われた指導者研修では国内指導者の育成
リテーターの必要性が重視され、昨今 WHO 版 PFA
に成功し、その後数々の団体・機関から PFA 研修の
のファシリテーターガイドも WHO より出版された。
要望が増える中、さらなる指導者の育成、指導者要
これには、研修のプログラム、進め方、有効なファ
員確保の必要性が見受けられた。そのため、平成 25
シリテートの仕方、使用可能な教材など、詳細が記
年 12 月に、昨年度に続き第 2 回目となる指導者研
載されており、指導者となる者のためのマニュアル
修を実施した。今回も、国連大学グローバルヘルス
となっている。
研究所との共催で、War Trauma Foundation の
Leslie Snider 氏を招聘し、日本各地から約 20 名が
D.
WHO 版 PFA の国内普及と指導者研修
(昨年度からの流れ)
指導者研修に参加した。参加者の選考に関しては、
災害や緊急支援に関わる専門職や DMAT の職員、
平成 24 年に当センターでは WHO 版 PFA の翻訳
また、今後被災のリスクが高いと考えられている地
版を作成•導入した。平成 24 年 10 月には、WHO
域の自治体職員や教育機関から選ばれた。今回は
版 PFA の作成及びレヴューに携わっている War
Snider 先生の指導に加え、国内での PFA 研修を主
Trauma Foundation(戦争トラウマ財団)の Leslie
に担当している当センターの研究員 2 名がファシリ
Snider 氏及び Margriet Blaauw 氏を招聘し、4 日
テーターとなり、4 日間に渡る指導者研修を開催し
間にわたる PFA 指導者研修(Training of Trainers:
た。
ToT)を行った。この研修は、当センターと国際連
研修の工程は図 1 の通り、昨年と同様、初めの 2
合大学グローバルヘルス研究所の共催で行われ、医
日間にわたって講師とファシリテーターによる講義
療関係者、心理士、社会福祉士、警察職員、自衛官、
やロールプレイ、ディスカッションを多様に含んだ
NGO 職員、大学職員等含む約 40 名が参加した。こ
演習が行われ、3 日目には参加者が実際に講師とな
の研修によって認定された国内の PFA 指導者が、今
って研修を行う模擬研修が行われた。この 1 日研修
年度に実施された研修の指導者となり、各地・各分
には外部からの参加者約 60 名が参加し、指導者候
野で PFA の普及活動を展開してきた。
補者(ToT 参加者)は 3 つのチームにわかれて、別
室で各 20 名を対象とした研修を実施した。Snider
(今年度の展開・PFA の普及)
先生、及び当センターのファシリテーターは、各部
平成 25 年 1 月から平成 26 年 2 月までに行われた
屋の研修をスーパーヴァイズする形をとり、研修中
研修・講義は、約 30 回にも及び、教育機関、医療
の指導者のサポートも行われた。この研修は、PFA
機関、行政機関、自衛隊や外務省等を含む各種機関
を実用的な支援として身につける研修であるため、
で実施された。開催地は海外シンガポール(邦人対
日本の被災状況や、今後遭遇する可能性がありうる
事例が多く用いられた。
ない、あまりない、ふつう、ある、非常にある」の
いずれかで評価された。後半は、PFA の基礎知識と
<1~2 日目> 海外講師 Leslie Snider 氏
指導者研修
災害時こころの情報支援センター職員
(ファシリテーター)2 名
ToT 参加者 20 名
して、災害時の被災者の反応、被災者との接し方、
支援者としての注意点の理解を検証するために、16
の質問に「はい・いいえ」のどちらかで答える様式
になっている。研修の事前事後に 5-10 分程度時間を
取り、質問紙の記入を行うよう研修に組み込まれて
いる。
(結果)
<3 日目>
一日模擬研修
各 20 名の 3 グループ
一般参加
<4 日目>
今年度行った研修参加者のうち事前事後質問紙の
回収が可能であった全 606 名の回答から結果を報告
する。質問紙の一頁目の、災害や緊急時の対応に関
ToT まとめと振り返り
する知識や能力の自己評価を表 3 に示した。研修前
の回答では、そのような知識や能力がほとんどない
=14.5%、あまりない=31%、ふつう=39.1%、あ
(図 1)第 2 回国内指導者研修工程
る=14.9%、非常にある=0.6%であった。「あまり
ない」「ふつう」との回答がそれぞれ全体の 3 割以
指導者研修の最終日には、模擬研修の振り返りに
上をしめ、「ある」「非常にある」との回答は全体の
加え、日本国内における PFA の普及に関する倫理綱
約 15%であった。それに対して、研修後の回答では、
領についても話し合われた。昨年度から提案されて
ほとんどない=0.7%、あまりない=10.8%、ふつう
いる倫理5項目は以下の通りである。①PFA の目的
=42.6%、ある=42.9%、非常にある=2.9%となり、
は、災害、犯罪、事故などの困難に直面した人や地
「ほとんどない」
「あまりない」との回答が顕著に減
域の回復を阻害しないことである。②他の支援活動
少し、
「ある」「非常にある」との回答が増加した。
や支援者を尊重し、連携と調和を心がける。③現地
研修後には「ふつう」「ある」「非常にある」との回
の文化にあった礼節を守る。④時と場所、自分の立
答が全体の 85%以上をしめた。この結果より、参加
ち位置をわきまえる。⑤支援活動をする個人や組織
者の知識や能力に関する自己評価が、研修によって
の営利のために行わない。PFA の普及に際してはこ
向上したと言える。
れらの項目について考慮した上で、指導者として研
修を行っていくことが合意された。
質問紙 2 頁目に記載された PFA の基礎知識に関
する二択の質問の正答率を表 4 に示した。全 16 項
目の質問に関する正答率は、研修前 86.4%に対し、
E.
事前事後質問紙(Pre-Post Test)の実施と結果
研修後 94.9%となり、参加者の PFA に関する基礎
今年度行われた全 PFA 研修では、主催者の了解を
知識の習得がみられたと言える。質問ごとの正答率
得た上で、参加者から質問紙の記入に協力を得た。
を見ると、事前の質問紙で正答率が 80%以下だった
研修の事前事後に全く同形式の質問紙を配布し、参
項目(質問 1,2,3,5,7,8)においても、研修後にはい
加者の災害支援に関する能力・知識の自己評価と、
ずれも 80~90%が正解していた。
PFA 基礎知識の理解度を測った。これは昨年度から
特に、質問 7 の心理的ディブリーフィングに関す
使用しているもので、WHO 版 PFA 研修時に海外講
る質問では、研修前の正答率は 43.4%と低かった。
師が用いている事前事後質問紙(Pre-Post Test)を
これより、参加者の中には、まだ心理的ディブリー
翻訳して使用している。
(質問紙:表 2)
フィングが PTSD やトラウマには有効であるという
質問紙の前半は、災害や緊急時の対応に関する知
認識を持っていることがうかがわれた。しかし、研
識や能力の自己評価を 5 段階評価で記すものである。
修後には、この質問に関する正答率は 86%まで上が
被災者の反応に関する理解、支援する能力、自分や
り、参加者がディブリーフィングに関する新しい知
同僚をケアする能力、傾聴の能力、するべきこと、
識を習得し、それに代わる PFA の基礎的な理解を得
するべきではないことに関する知識等が、
「ほとんど
たと言える。
展開していくか、より安全で有効なシステムの構築
F.
研修の成果と国内における普及
PFA は、専門家のみが習得すべき介入法ではなく、
に向けて取り組む必要がある。指導者によって研修
内容や演習に異なりが出ることを避け、研修のクオ
支援に関わる者であれば誰でも身につけておくべき
リティーをコントロールしていくことも今後の課題
知識とスキルであることから、幅広い層に受け入れ
であると言える。
られ、各種団体から研修の要望が増加した。
PFA 研修の特徴は、危機的状況を想定したシミュ
レーションやロールプレイ、エクササイズが豊富に
謝辞
本 PFA 研修の導入、普及にご尽力頂いた War
取り入れられている点であり、各研修において講師
Trauma Foundation の Leslie Snider 先生、研修に
はこの点を重視した。今年度開催した全研修の中に
ご参加頂いた諸先生方に心より感謝申し上げます。
は、5~6 時間かけて濃密な演習を行う一日研修と、
短時間で基礎的な知識を身につける講義と、両者が
実施されたが、そのような時間的制約がある場合に
文献
も、講師は参加者の関心やニーズに対応し、それぞ
1. Rose SC, Bisson J, Churchill R, Wessely S
れの研修に応じてカスタマイズした。たとえ短時間
(2009). Psychological debriefing for
の講義でも、講師によるロールプレイのデモンスト
preventing post traumatic stress disorder
レーションや、小規模なディスカッション、シミュ
(PTSD). Available from:
レーションやロールプレイの動画を用いて講義する
http://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1002/146
等の工夫がなされた。その結果として、どの研修に
51858.CD000560/abstract
おいても、事前事後の質問紙の評価を比べると、研
修後には、参加者の自己評価、災害支援の知識は向
上したと言える。
また、4 日間に渡る指導者研修に関しては、講義、
演習を受けるのみでなく、参加者が実際に講師とな
る模擬授業が取り入れられた点が効果的であると考
えられる。これは、指導者研修参加者が講義から知
識を習得するだけでなく、自らその知識をかみ砕い
て理解し他者に教えることで、より理解を深め、指
導者としての経験と自信を持って今後の研修に臨む
ことができるからである。また、指導者研修では、
グループワークやディスカッションが豊富に取り入
れられるため、参加者間の交流が深まり、今後の普
及にも協力的な各種機関間の全国に広がるネットワ
ークが生まれた。このような指導者研修システムを
取り入れたことは、研修の有効性をさらに高めたと
言える。
さらに、今後国内における PFA 指導者の育成を行
っ て い く にあ た っ ては 、今 年 度 の 指導 者 研 修で
Snider 先生をアシストしつつファシリテーターを
務めた当センター職員が、来年度の指導者研修を展
開させていく予定である。PFA の更なる普及のため
に、今後は当センターの職員が主体となって、国内
の指導者研修を育成していくことも可能となった。
今後は、研修を終了し指導者となった者のフォロ
ーアップや、異なる規模の研修や講義をどのように
2. Bisson JI, Lewis C (2009). Systematic Review
of Psychological First Aid. Commissioned by
the World Health Organization.
3. World Health Organization (2010). mhGAP
Intervention Guide for Mental Health,
Neurological and Substance Use Disorders in
Non-specialized Health Settings. Geneva:
WHO Mental Health Gap Action Program.
Available from:
http://www.who.int/mental_health/mhgap
4. National Child Traumatic Stress Network
and National Center for PTSD (2006).
Psychological First Aid: Field Operations
Guide, 2nd Edition. Available from:
http://www.nctsn.org/sites/default/files/pfa/en
glish/1-psyfirstaid_final_complete_manual.pd
f
5. 兵庫こころのケアセンター(2009). サイコロジ
カル・ファーストエイド実施の手引き.
Available from:
http://www.j-hits.org/psychological/index.html
6. World Health Organizations (2011).
Psychological First Aid: Guide for field
workers.
Available from:
http://whqlibdoc.who.int/publications/2011/97
89241548205_eng.pdf
7. Inter-Agency Standing Committee (2007).
IASC Guidelines on Mental Health and
Psychosocial Support in Emergency Settings
Available from:
http://www.who.int/mental_health/emergenci
es/guidelines_iasc_mental_health_psychosoci
al_june_2007.pdf
8. World Health Organization, War Trauma
Foundation and World Vision International
(2011). Psychological first aid: Guide for field
workers. WHO: Geneva. (訳:
(独)国立精神・
神経医療研究センター、ケア・宮城、公益財団
法人プラン・ジャパン(2012). 心理的応急処置
(サイコロジカル・ファーストエイド:PFA)フ
ィールド・ガイド). Available from:
http://saigai-kokoro.ncnp.go.jp/pdf/who_pfa_g
uide.pdf
G.
知的所有権の取得状況
1.
特許取得
2.
実用新案登録
3.
その他
いずれもなし
(表 1)2012 年 10 月~2013 年 1 月末までに実施した研修
1
2
3
4
5
6
7
8
在東南アジ
浜松市精神
研修・主催
厚労省
DMAT
保健福祉セ
桜美林大
ア邦人精神
国立医療科
埼玉県臨床
保健専門家
学院
心理士会
JANIC
臨床心理セ
ンター
ンター
連携会議
日時
2012.10.17
場所
霞が関
2012.12
2012.12.11
2012.12.20
浜松市
飯田橋
2013.1.26
2013.2.1
2013.3.3
2013.3.16
和光市
埼玉県
桜美林大学
シンガポー
ル
医師、心理
市民ボラン
参加者(対
厚労省医官
地域保健所
NGO 職員
士、看護師、
ティアや対
象、人数)
(約 20 名)
臨床心理士
長、保健士
(約 20 名)
教育関係者
人援助職
(50 名)
(22 名)
(27 名)
2 時間公開
研修の種類
1 時間講義
講義
30 分講義
1 時間講義
3 時間研修
1 日研修
1 日研修
講座
9
10
11
12
13
14
15
16
17
東京医科歯
東京大学
科大学 医
日本赤十字
徳島県保健
ジャムズネッ
学習院大学
京都支部
東北みらい
医学部 健
学部 保健
創りサマー
衛生学科
スクール
康総合科学
自衛隊合同
横浜国立大
福祉部医療
ト・アジア
訓練
学
健康総局
科
看護学専攻
2013.6.4&
2013.4.19
2013.5.9-10
2013.7.22-23
2013.8.10
2013.8.25
2013.8.29
タイ・バンコ
朝霞駐屯地
2013.9.20
2013.9.24-26
6.11
東京医科歯
京都
東京大学
学習院大学
岩手
科大学
横浜国立大
徳島県
ク
(和光)
学
全国の陸・
日本赤十字
看護学部
看護学部 4
ンティア論を
年生
学ぶ大学生
社京都支部
海・空自衛
ト会員、教
隊に所属し
員、大学教
(27x2=54
120-140 名)
学部生・大
臨床心理士
員、企業関
ている臨床
員、大学院
名)
員(119 名)
ジャムズネッ
保健師、教
学部生(ボラ
学院生(22
(32 名程度)
係者、大使
心理士
館員(33 名)
(100 名程
名)
生(20 名)
度)
犯罪臨床心
6 時間(2 日
3 時間(2 日
にわけて)
にわけて)
2 時間講義
6 時間
2 時間 30 分
6 時間
6 時間
6 時間
理学講義内
にて説明
18
19
20
21
22
さいたま市こ
23
24
沖縄県精神保
25
NPO Green
福島臨床心
ころの健康
外務省
外務省
岩手大学
健福祉センタ
立正大学
Project(国士
理士会
センター
ー
舘大学)
2013.10.29
2013.11.3
2013.11.13
2013.11.20
2013.11.30
2013.12.5
2013.12.8
2013.12.8
さいたま市
福島
外務省
外務省
岩手
沖縄
立正大学
国士舘大学
県内精神科病
院に勤務する
課長、課長
臨床心理士
臨床心理士
大学生・留学
補佐、事務
(20 名程度)
医師、看護師、
領事、事務
(19 名程度)
大学生
大学生
(臨床)心理
官(18 名)
生(21 名)
官(18 名)
士、精神保健
福祉士等(30
名)
6 時間
5 時間 30 分
26
4 時間
27
4 時間
3 時間 15 分
28
5 時間
29
3 時間
30
31
指導者研
指導者研修
修の際の
日本産業カウン
川崎市精神保
セラー協会
健福祉センター
2014.1.11
2014.1.11
2014.1.24
2014.1.31
香川
名古屋
川崎市
国立保健医療科学院
香川大学院
国立保健医療科学院
模擬研修
2013.12.9-12
2013.12.11
アルカディア市ヶ
アルカディ
谷
ア市ヶ谷
自治体、関係団
各分野専門職
体、ボランティア
区役所保健福
(DMAT、自衛隊、
専門職、支
大学院生(40
団体、教育機
祉センター(保
自治体職員、大学
援者 57 名
名程度)
関、経済団体、
健所) 精神保
企業、一般市民
健担当(26 名)
13 名
教員含む)20 名
の方々(141 名)
4日間
6 時間
6 時間
2 時間講義
3 時間半
6 時間 30 分
2 時間
(表 2) 事前事後質問紙
Psychological First Aid (PFA) Training
心理的応急処置(サイコロジカル・ファーストエイド:PFA)研修
Pre-Post Test
質問紙(研修の前後に実施)
受付番号:______
日付:________
研修:
前
・
後
(どちらかに○を付けて下さい。)
1) ご自分について、あてはまる番号に○を付けてください。
ほとんど
あ ま り
ない
ない
1
2
3
4
5
1
2
3
4
5
1
2
3
4
5
1
2
3
4
5
1
2
3
4
5
6.被災者の役に立つ情報を見つけるための知識
1
2
3
4
5
7.被災者を、必要としている支援やサービスにつ
1
2
3
4
5
1
2
3
4
5
1.災害や深刻なストレスを経験した人びとを支援
ふつう
ある
非常に
ある
する能力
2.どのような要因が、危機的出来事への人びとの
反応に影響するかに関する理解
3.つらい状況にある人を支援するために言うべき
ことやするべきことに関する全般的知識
4.被災者の支援にあたっている時、自分自身や自
分のチームメンバーのケアをする能力
5. 相手を支持するように話を聞く(傾聴する)能
力
なげる能力
8. 被災者をこれ以上傷つけないために、言うべき
ではないことやするべきではないことの知識
2) 以下の各文に関して、はい・いいえのどちらがより正しいかチェックをしてください。
はい
災害や人災を経験した人びとに関して、以下の記述に「はい」か「いいえ」で答
えてください。
1. 被災したほとんどの人びとが精神障害を引き起こす
2. 被災したほとんどの人びとが、
専門家によるメンタルヘルスのケアを必要とす
る
3. 被災したほとんどの人びとが、
周囲からのサポートや支援を得て自分で回復し
ていく
悲惨な出来事を経験した人びとにとって、以下の項目は役に立つでしょうか
4.人びとを他機関に紹介したり、基本的なニーズ(例:社会的支援など)につな
ぐ
5.被災者にトラウマ的な出来事の詳細を語ってもらう
6.話を邪魔しないよう支持的に耳を傾ける
7.心理的ディブリーフィングを行う(トラウマとなる体験の直後に、グループを
作って、ひとりずつストレス体験を話し共有する)
8.被災者に他の人から聞いた話をして、多くの人が同じような体験をしたと伝え
る
9.被災者に期待を持たせるような約束をする
(例:あなたの家はまたすぐ建ちますよ、など)
10.被災者に、すべてうまくいくから心配しなくていいと言う
11.被災者が次に同じ間違いをしないように、被災者がとった行動を批判する
(例:こうすればよかったのに、違うように行動するべきだった、など)
12.状況や利用可能なサービスについて調べ、被災者が必要としているニーズを
満たせるように手助けする
13.被災者にその人がどう感じるべきか伝える
(例:生き残ったのだからラッキーだと感じるべきだ、など)
支援者として、あなたがすべきことは…
14.ストレスを感じる時は、たばこを吸ったり、ドラッグやアルコールで取って
リラックスする
15.危機的状況が終わるまでは、支援している人びとのことだけに集中し、自分
自身のニーズや心配事は忘れようとする
16.危機的状況であなたが他の人を支援するために出来ること、出来ないことの
限界を知り、それを受け入れる
いいえ
(表 3)災害対応の知識と能力に関する自己評価(質問紙 1 頁目)回答数と平均値
事前質問紙
ほとん
どない
あまりない
ふつう
ある
非常に
ある
Q1.1
142
215
200
39
2
0.6%
Q1.2
91
177
239
91
2
Q1.3
80
217
239
62
2
14.9 14.5
% %
Q1.4
105
206
227
58
2
Q1.5
20
69
288
210
12
Q1.6
87
214
230
67
1
Q1.7
107
212
213
68
0
Q1.8
62
172
237
116
6
合計
694
1482
1873
711
27
14.50%
31.00%
39.10% 14.90%
0.60%
%
39.1
%
1
2
31%
3
4
5
1=ほとんどない、2=あまりない、3=ふつう
4=ある、5=非常にある
事後質問紙
ほとん
どない
あまりない
ふつう
ある
非常に
ある
2.9%
Q1.1
9
95
315
155
9
Q1.2
5
41
221
307
8
Q1.3
3
43
231
289
16
Q1.4
1
60
285
241
15
Q1.5
0
30
194
324
33
Q1.6
5
105
284
174
11
Q1.7
9
106
273
184
9
Q1.8
2
26
186
332
36
合計
34
506
1989
2006
137
0.70%
10.80%
42.60%
42.90%
2.90%
%
0.7% 10.8
%
1
2
42.9
%
42.6
%
3
4
5
(表 4)PFA 基礎知識(質問紙 2 頁目)正答率
正解
1.被災したほとんどの人々が精神障害を引き起こす
2.被災したほとんどの人びとが、専門家によるメンタルヘルスのケアを必
要とする
3.被災したほとんどの人びとが、周囲からのサポートや支援を得て自分
で回復していく
4.人びとを他機関に紹介したり、基本的なニーズを(例:社会的支援な
ど)につなぐ
事前(Pre)
事後(Post)
正答率%
正答率%
いいえ
77
88.7
いいえ
74.1
92.7
はい
71.2
79.8
はい
97.4
98.6
77
96.4
5.被災者にトラウマ的な出来事の詳細を語ってもらう
いいえ
6.話を邪魔しないように支持的に耳を傾ける
はい
98.1
98.4
いいえ
43.4
86
いいえ
71.2
92.9
いいえ
97.1
98.8
いいえ
95.9
99.5
いいえ
98.1
99.5
はい
96.9
97.4
いいえ
93.8
98.3
いいえ
97.1
95.6
いいえ
94.7
97.6
はい
98.1
97.7
全体
86.4
94.9
7.心理的ディブリーフィングを行う(グループを作って、一人ずつストレス
体験を話し共有する)
8.被災者に他の人から聞いた話をして、多くの人が同じような体験をした
と伝える
9.被災者に期待を持たせるような約束をする(例:あなたの家はまたすぐ
経ちますよ、など)
10.被災者に、すべてうまくいくから心配しなくていいと言う
11.被災者が次に同じ間違いをしないように、被災者がとった行動を批判
する(例:こうすればよかったのに、違うように行動するべきだった、など)
12.状況や利用可能なサービスについて調べ、被災者が必要としている
ニーズを満たせるように手助けする
13.被災者にその人がどう感じるべきか伝える
14.ストレスを感じる時は、たばこを吸ったり、ドラッグやアルコールで取っ
てリラックスする
15.危機的状況が終わるまでは、支援している人々のことだけに集中し、
自分自身のニーズや心配事は忘れようとする
16.危機的状況であなたが他の人を支援するために出来ること、できな
いことの限界を知り、それを受け入れる
平成 25 年度 厚生労働科学研究費補助金(障害者対策総合研究事業(精神障害分野))
被災地における精神障害等の情報把握と介入効果の検証及び
介入手法の向上に資する研究
分担研究報告書
感情の表出に関する尺度の標準化研究
分担研究者 金 吉晴
1) 2)
研究協力者 林 明明
2)
河瀬さやか
大滝涼子
伊藤真利子
2) 3)
1)
2)
1) 国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所災害時こころの情報支援センター
2) 国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所成人精神保健研究部
3) 東京女子医大付属女性生涯健康センター
研究要旨
【背景】東日本大震災後、トラウマを受けた被災者支援への社会的ニーズと、トラウマ研
究への期待が高まっているが、このような被災者の心理状態を適切に評価する尺度はまだ
十分に日本で開発されているとは言えない。トラウマ被害については PTSD などの診断基
準を当てはめるだけではなく、様々な心理特性を的確に把握することが、治療関係の構築
や、社会適応の促進などにとって重要である。なかでも自らの感情を表出する能力に関し
ては、これまでの研究から、トラウマを受けた後で難しくなることが指摘されている。し
かし日本では感情の表出を測定する標準化された自己記入式尺度がほとんどないのが現状
であり、被災者支援のためにも、こうした尺度の標準化が強く求められる。なおこうした
感情表出は、トラウマを受けた人々のほかにも、抑うつ、統合失調症などにおいても重要
な役割を果たすことが指摘されており、このテーマで研究を進めることは広い臨床的な応
用が期待される。
【目的】国際的に広く用いられている感情の表出を測定する自己記入式尺度を翻訳し、日
本語版感情表出尺度を開発、さらに有用性を確認し標準化することを目的とした。
上記の目的のために英語版自己記入式感情表出度尺度の Emotional Expressivity
Scale(EES)およびの Berkeley Expressivity Questionnaire(BEQ)日本語標準化を行った。
【方法】原版尺度の著者から許可を得た後、バックトランスレーション手続きを経て日本
語版 EES・日本語版 BEQ を作成した。インターネット調査会社へ登録している学生 504
名(男性 252 名、女性 252 名、平均年齢 20.5 ± 1.1 歳)を対象に、日本語版 EES・日本語版
BEQ およびその他質問紙尺度の回答を求めた。再検査信頼性を検討するため、241 名(男性
120 名、女性 121 名、平均年齢 20.6 ± 1.1 歳)が約1か月後に 2 回目の日本語版 EES・日本
語版 BEQ に回答した。
【結果】日本語版 EES の内的整合性を示すクロンバックのα係数.84 ~ .86 であり、約1か
月の再検査信頼性は.61 であった。日本語版 BEQ においては、全体的なクロンバックのα
係数は.83、再検査信頼性.61 と同様の結果であった。日本語版 BEQ の下位尺度においても、
内的整合性は.61 ~ .77、再検査信頼性は.57 ~ .61 であったことから、それぞれの尺度のお
おむね満足した信頼性が示された。また、妥当性の検討では、各尺度全体および下位尺度
と、その他尺度(情緒的表現性・セルフモニタリング・自尊感情・感情のコントロール・
抑うつ・性格5因子を測定する尺度)との相関から、収束的妥当性および弁別的妥当性が
示された。
【考察】感情の表出を測定する2つの尺度の日本語版を作成し、信頼性および妥当性を検
討した。本研究は信頼性や妥当性を証明した日本語版の自己記入式感情表出尺度を作成し
た初めての研究であり、今後の被災者支援や臨床場面における尺度の応用が期待される。
また、本研究で示された結果のうち、オリジナルの英語版尺度とは異なる点があり、文化
差による影響が考えられる。今後はより日本人独自の感情表出の特徴を捉えられるよう、
尺度の構成等をさらに検討していく必要がある。
研究目的
東日本大震災後、トラウマを受けた被災
ジェスチャーなど様々な表出のレベルを含
む。
者支援への社会的ニーズと、トラウマ研究
感情を表出することは精神的および身体
への期待が高まっているが、このような被
的健康に寄与することが知られているほか
災者の心理状態を適切に評価する尺度はま
(Smyth, 1998)、社会的機能 (Burgin et al.,
だ十分に日本で開発されているとは言えな
2012)とも関連が指摘されている。そのため、
い。トラウマ被害については PTSD などの
表出が困難となることは健康的な問題のみ
診断基準を当てはめるだけではなく、様々
ならず、対人関係や社会生活が疎外される
な心理特性を的確に把握することが、治療
可能性も生じ得る。しかし日本では感情表
関係の構築や、社会適応の促進などにとっ
出を測定する標準化された自己記入式尺度
て重要である。なかでも自らの感情を表出
がほとんどないのが現状であり、被災者支
する能力に関しては、これまでの研究から、
援のためにも、こうした尺度の標準化が強
トラウマを受けた後で難しくなることが指
く求められる。
摘されている(Frewen & Dozois, 2012)。
なおこうした感情表出は、トラウマを受
感情表出とは、感情を外に向けて表すこ
けた人々のほかにも、抑うつ(Sloa et al.,
とであり(Kring et al., 1994)、ポジティブや
2001)、統合失調症(Earnst & Kring, 1999)
ネガティブな感情の種類や、顔表情・声・
などにおいても重要な役割を果たすことが
指摘されており、このテーマで研究を進め
能力を測定する尺度である。
ることは広い臨床的な応用が期待される。
d) セルフ・モニタリング尺度: Snyder
(1974)によって作成された、状況や他者の
B.研究方法
行動に基づいて自己の表出行動や自己呈示
1. 翻訳
など、行動を統制するセルフモニタリング
原版尺度の著者から許可を得た後、2名
の傾向を測定する尺度である。岩淵ら
の翻訳者がそれぞれ日本語訳を作成し、第
(1982)によって日本語版が開発された。25
3の翻訳者が2つの訳を統合した。原版を
項目 5 件法で回答を求める。
知らないプロの翻訳家によるバックトラン
e) 日本語訳 Rosenberg Self-esteem Scale:
スレーションを行い、原著者からの意見を
Rosenberg (1965)によって開発された自尊
もとに翻訳者らが訳を修正した。再度原著
感情を測定するための尺度であり、自分自
者からの確認を得た後に最終的な日本語表
身をどのように感じるかについて 10 項目 4
現の調整を行い、日本語版 BEQ および日本
件法で回答を求めるものである。Mimura
語版 EES を完成させた(添付資料 1,2)。
& Griffiths (2007)によって日本語版が作成
された。10 項目 4 件法で回答を求める。
2. 使用尺度
f) Courtauld Emotional Control Scale 日
a) 日 本 語 版 Emotional Expressivity
本語版: Watson & Greer (1983)による、
Scale(EES): Kring et al. (1994)によって
感情をコントロールする傾向を評価する尺
開発された、感情表出を測定するための自
度である。岩満ら(2003)によって日本語化
己記入式尺度であり、国際的に広く使用さ
された。17 項目 4 件法で回答を求める。
れている。感情表出に関する項目について
g) CES-D うつ病(抑うつ状態)自己評価尺
どの程度自分に当てはまるかを、17 項目 6
度: Radloff (1977)によって開発され、島
件法で回答を求める。
(1998)によって日本語版が作成された。20
b) 日 本 語 版
項目 4 件法の回答により、一般人のうちの
Berkeley Expressivity
Ques-tionnaire(BEQ) : Gross & John
抑うつ状態について測定を行うものである。
(1995)によって開発された、感情の表出を
h) 日本語版 NEO-Five Factor Inventory:
測定するための自己記入式尺度であり、国
Costa & McCrae (1992)によって開発され
際的に広く使用される。3つの下位尺度「ポ
た、神経症傾向、外向性、開放性、調和性、
ジティブな表出」
「ネガティブな表出」
「衝
誠実性の性格5因子を測定する質問紙であ
動の強さ」によって構成され、感情表出の
る。日本語版は下仲ら(2011)によって作成
程度を 16 項目 7 件法で質問するものである。
されている。5つの各次元を 12 項目 5 件法
c) 日本語版 Social Skills Inventory より情
で回答を求める。
緒的表現性尺度: Riggio (1986)によって開
発され、榧野(1988)によって日本語版が作
3. 手続き
成された。15 項目 5 件法によって情緒状態
インターネット調査会社へ登録している
や非言語的コミュニケーションを表現する
学生 504 名(男性 252 名、女性 252 名、平
均年齢 20.5 ± 1.1 歳)を対象に、日本語版
の強さ)ごとの得点を求め、それぞれ記述
EES・日本語版 BEQ およびその他質問紙
統計および信頼性を Table 3 に示した。1
尺度の回答を求めた。再検査信頼性を検討
回目および 2 回目のクロンバックのα係数
するため、
241 名(男性 120 名、
女性 121 名、
は 、BEQ 合 計 (.83)、 ポジ テ ィブ な 表出
平均年齢 20.6 ± 1.1 歳)が約 1 か月後に 2
(.68-.71)および衝動の強さ (.75-.77) では
回目の日本語版 EES・日本語版 BEQ に回
十分であり、ネガティブな表出では少し低
答した。オンライン調査の回答より、信頼
かった(.61-.64)。1 か月の再検査間の相関は
性の検討として内的整合性を示すクロンバ
各下位尺度で.57 から.61、BEQ 合計で.61
ックのα係数、再検査信頼性を示す2回の
であり、おおむね満足できる数値であった。
回答間の相関係数を求めた。また、妥当性
BEQ および他の尺度との相関は Table 4
の検討として、日本語版 EES・日本語版
の通りであった。BEQ 合計得点と情緒的表
BEQ と他尺度間の相関係数を求めた。
現性尺度との間に高い正の相関が認められ
本研究は国立精神・神経医療研究センタ
た。合計得点はこの他、セルフモニタリン
ーの倫理委員会より承認を受けて実施した。
グ・神経症傾向・外向性・開放性と弱い正
の相関があり、感情のコントロールとは負
C.結果
の相関があった。自尊感情・抑うつ・調和
1. 日本語版 EES
性・誠実性とは有意な相関はなく、収束的
日本語版 EES の合計得点を求め、記述統
妥当性および弁別的妥当性が示された。
計および信頼性を Table 1 に示した。クロ
下位尺度ではそれぞれ、ポジティブな表
ンバックのα係数による尺度の内的整合性
出は情緒的表現性・セルフモニタリング・
は 1 回目.84、2 回目.86 と高かった。1 か月
自尊感情・外向性・開放性・調和性と正の
の再検査間の相関は.61 であり、おおむね満
相関があり、感情のコントロールおよび抑
足できる信頼性が認められた。
うつとは負の相関があった。一方、ネガテ
EES と他尺度との相関を Table 2 の通り
ィブな表出では正の相関は情緒的表現性・
であった。情緒的表現性尺度と高い正の相
神経症傾向・外向性との間に認められ、負
関が認められた。また、外向性、調和性、
の相関は感情のコントロール・調和性・誠
セルフモニタリング、自尊感情を測定する
実性との間に認められた。
尺度とは有意な正の相関があり、感情のコ
さらに、衝動の強さの下位尺度では、情
ントロール、神経症傾向、抑うつを測定す
緒的表現性・セルフモニタリング・抑うつ・
る尺度とは有意な負の相関があった。開放
神経症傾向・開放性と正の相関、自尊感情
性や誠実性との有意な相関はなく、収束的
と負の相関があった。この他には、有意な
妥当性および弁別的妥当性が示された。
相関は認められなかった。それぞれの下位
尺度でも収束的妥当性および弁別的妥当性
2. 日本語版 BEQ
日本語版 BEQ の合計得点、下位尺度(ポ
ジティブな表出、ネガティブな表出、衝動
が示され、また下位尺度間で測定内容が異
なっていることが他尺度との相関から示さ
れた。
D.考察
G.研究発表
本研究では、感情の表出を測定する尺度
1) 林 明明,相井さやか,大滝涼子,伊藤
と し て 、 日 本 語 版 Berkeley Expressive
真利子,金 吉晴:感情表出性尺度 Berkeley
Questionnaire および日本語版 Emotional
Expressivity Questionnaire 日本語版の信
Expressivity Scale の作成を行った。内的
頼性および妥当性の検討.第6回不安障害
整合性を示すクロンバックのα係数および
学会学術大会,東京,2014.2.1-2.
再検査信頼性を示す 2 回の回答間の相関係
2) 伊藤真利子,相井さやか,林 明明,大
数より、2 つの日本語版尺度の信頼性が示
滝 涼子 ,金 吉 晴 :日 本語 版 Emotional
された。また、情緒的表現性や感情のコン
Expressivity Scale 作成の試み.第6回不
トロールなどを測定する尺度との相関から、
安障害学会学術大会,東京,2014.2.1-2.
尺度の妥当性が示された。本研究は、信頼
性・妥当性を証明した日本語版の自己記入
式感情表出尺度を作成した初めての研究で
H.知的財産権の出願・登録状況
なし
あり、今後は被災者支援や臨床場面などに
おける尺度の応用が期待される。
引用文献
ただし、本研究で示された信頼性・妥当
1) Frewen P, Dozois D, Neufeld R, Lanius
性の係数の値はオリジナルの英語尺度
R. Disturbances of emotional awareness
(Gross & John, 1995; Kring et al., 1994)と
and expression in posttraumatic stress
は異なる点があり、本研究で採用したオン
disorder: Meta-mood, emotion regulation,
ライン調査という方法、またオリジナルの
mindfulness, and interference of emo-
研究が行われたアメリカと日本の間の文化
tional. Psychol Trauma Theory, Res Pract
差による影響が考えられる。さらに、再検
Policy. 2012; 4: 152–161.
査信頼性が双方の尺度の合計得点とも
2) Kring A, Smith D, Neale J. Individual
に.61 という、安定した特性を測定するには
differences in dispositional expressive-
少し低い値であったため、ある程度の状態
ness: Development and validation of the
の変化も反映している可能性がある。
Emotional Expressivity Scale. J Pers Soc
また、文化差により、オリジナルの尺度
Psychol. 1994; 66: 934–949.
が開発されたアメリカとは異なり、感情の
3) Smyth J. Written emotional expres-
表出に日本人特有の構造がある可能性も考
sion: Effect sizes, outcome types, and
えられる。今後は学生以外のサンプルや他
moderating variables. J Consult Clin
の手法での測定も組み合わせることによっ
Psychol. 1998; 66:174–184.
て、尺度の有用性をより確認するとともに、
4) Burgin C, Brown L, Royal A, Silvia P,
日本人特有の感情表出の特徴を計測できて
Barrantes-Vidal N, Kwapil T. Being with
いるか、またより日本人の特徴を計測でき
others and feeling happy: Emotional ex-
るように尺度構造をさらに検討していく必
pressivity in everyday life. Pers Individ
要があると考えられる。
Dif. 2012; 53:185–190.
5) Sloan D, Strauss M, Wisner K. Dimin-
Princeton University Press; 1965.
ished response to pleasant stimuli by
13) Mimura C, Griffiths P. A Japanese
depressed women. J Abnorm Psychol.
version of the Rosenberg Self-Esteem
2001; 110: 488–493.
Scale: Translation and equivalence as-
6) Earnst K, Kring A. Emotional re-
sessment. J Psychosom Res. 2007; 62:
sponding in deficit and non-deficit schiz-
589–594.
ophrenia. Psychiatry Res. 1999; 88:
14) Watson M, Greer S. Development of a
191–207.
questionnaire measure of emotional con-
7) Gross J, John O. Facets of emotional
trol. J Psychosom Res. 1983; 27: 299–305.
expressivity: Three self-report factors
15) 岩満優美, 下田和孝, 相浦玲子, 大川
and their correlates. Pers Individ Dif.
匡子. Courtauld Emotional Control Scale
1995; 19: 555–568. Available at:
日本語版の作成と信頼性・妥当性の検討.
8) Riggio R. Assessment of basic social
精神科治療学. 2003; 18: 701–708.
skills. J Pers Soc Psychol. 1986; 51:
16) Radloff L. The CES-D Scale: A
649–660.
Self-Report Depression Scale for Re-
9) 榧野潤. 社会的技能研究の統合的アプロ
search in the General Population. Appl
ーチ(1)―SSI の信頼性と妥当性の検討. 関
Psychol Meas. 1977; 1: 385–401.
西大学大学院人間科学:社会学・心理学研
17) 島悟. CES-D うつ病(抑うつ状態)自
究. 1988; 31: 1–16.
己評価尺度 使用の手引き. 東京: 千葉テス
10) Snyder M. Self-Monitoring of expres-
トセンター; 1998.
sive behavior. J Pers Soc Psychol. 1974;
18)
30: 526–537.
NEO-PI-R and NEO-FFI professional
11) 岩淵千明, 田中国夫, 中里浩明. セル
manual. Odessa, FL: Psychological As-
フ・モニタリング尺度に関する研究. 心理
sessment Resources; 1992.
学研究. 1982; 53: 54–57.
19) 下仲順子, 中里克治, 権藤恭之, 高山
12) Rosenberg M. Society and the Ado-
緑. NEO-PI-R,NEO-FFI 使用マニュアル改
lescent
訂増補版. 東京: 東京心理; 2011.
Self-Image.
Princeton,
NJ:
Costa
P,
McCrae
Table 1. 日本語版 EES の記述統計および信頼性
M
SD
Time 1 (n=504)
59.43
11.53
.84
Time 2 (n=241)
59.07
11.53
.86
**p < .01 (two-tailed).
クロンバックのα
再検査信頼性
.61**
R.
Revised
Table 2. 日本語版 EES と他尺度間の相関
NEO-FFI
EES 合計
EE
SMS
RSES
CECS
CES-D
N
E
O
A
C
.71**
.22**
.26**
-.49**
-.27**
-.12**
.47**
.06
.10*
.02
Note: EE = 情緒的表現性尺度 (日本語版 Social Skills Inventory より); SMS = セルフ・モニタリング
尺度; RSES = 日本語訳 Rosenberg
Self-Esteem Scale; NEO-FFI = 日本語版 NEO-Five Factor
Inventory; N = 神経症傾向; E = 外向性; O = 開放性; A = 調和性; C = 誠実性; CECS = Courtauld
Emotional Control Scale 日本語版.
* p < .05, **p < .01 (two-tailed).
Table 3. 日本語版 BEQ の記述統計および信頼性
Time 1 (n = 504)
Time 2 (n = 241)
再検査信頼性
M
SD
クロンバックのα
M
SD
クロンバックのα
BEQ 合計
4.14
0.77
.83
4.08
0.70
.83
.61**
IS
4.31
1.01
.75
4.16
0.93
.77
.57**
NE
3.81
0.82
.61
3.79
0.78
.64
.59**
PE
4.29
1.04
.71
4.29
0.94
.68
.61**
Note: IS = 衝動の強さ; NE = ネガティブな表出; PE = ポジティブな表出 **p < .01 (two-tailed).
Table 4. 日本語版 BEQ と他尺度間の相関
NEO-FFI
EE
SMS
RSES
BEQ 合計 .51** .13** -.01
CECS
CES-D
N
E
O
A
C
-.25**
.01
.24**
.20**
.17**
.04
-.06
.27**
.09
-.04
IS
.26** .12** -.13**
-.07
.13**
.40**
.02
NE
.49** -.06
-.35**
.02
.13**
.13** -.01
PE
.50** .23**
.05
.31**
-.04
.13** -.21**
-.12**
.12**
-.16**
-.16**
.14**
.03
Note: IS = 衝動の強さ; NE = ネガティブな表出; PE = ポジティブな表出; EE = 情緒的表現性尺度
(日本語版 Social Skills Inventory より); SMS = セルフ・モニタリング尺度; RSES = 日本語訳
Rosenberg
Self-Esteem Scale; NEO-FFI = 日本語版 NEO-Five Factor Inventory; N = 神経症傾
向; E = 外向性; O = 開放性; A = 調和性; C = 誠実性; CECS = Courtauld Emotional Control Scale
日本語版. **p < .01 (two-tailed).
添付資料1.日本語版 Emotional Expressivity Scale
全く当てはまらない
まれに当てはまる
ときおり当てはまる
ふだんは当てはまる
ほとんどいつも当てはまる
いつも当てはまる
以下の文章は、あなたやあなたの感情に関するものです。それぞれの文章において、あなたに最も
近い数字を下の尺度から選び、○で囲んでください。
1.
私は他人に自分の感情をあらわさない。
1
2
3
4
5
6
2.
私は強い気持ちを体験しているときでも、それ
1
2
3
4
5
6
1
2
3
4
5
6
を外にあらわさない。
3.
他人は私のことをとても感情的だと思ってい
る。
4.
人は私の感情を“読みとる”ことができる。
1
2
3
4
5
6
5.
私は自分の気持ちを自分だけにとどめている。
1
2
3
4
5
6
6.
他人は私がどう感じているかを、簡単には見て
1
2
3
4
5
6
とることができない。
7.
私は他人に自分の感情をあらわにする。
1
2
3
4
5
6
8.
人は私を感情のない人だと思っている。
1
2
3
4
5
6
9.
私は自分がどう感じているかを他人に気づかれ
1
2
3
4
5
6
たくない。
10.
私は自分の感じ方を隠すことができない。
1
2
3
4
5
6
11.
私はあまり感情表現が豊かではない。
1
2
3
4
5
6
12.
私は他人からよく無関心だと思われる。
1
2
3
4
5
6
13.
私は他人の前で泣くことができる。
1
2
3
4
5
6
14.
私はたとえとても感情的になっても、他人には
1
2
3
4
5
6
自分の気持ちを気づかれないようにしている。
15.
私は自分のことを、感情表現が豊かだと思う。
1
2
3
4
5
6
16.
私の感じていることは、私がどう感じているか
1
2
3
4
5
6
1
2
3
4
5
6
について他人が思っていることとは違う。
17.
私は自分の気持ちを外に出さない。
添付資料2. 日本語版 Berkeley Expressivity Questionnaire
私が肯定的な感情を感じているときにはいつでも、私が何を
強くそう思う
1.
どちらでもない
全くそう思わない
以下の文章について、あなたがそう思うか、または、そう思わないかを示して下さい。次の評価尺度
から適切な数字を選び、○で囲んでください。
1
2
3
4
5
6
7
感じているかが正確に、簡単に人に分かってしまう。
2.
私は悲しい映画の最中に泣くことがときどきある。
1
2
3
4
5
6
7
3.
多くの場合、私の感じていることは人に気づかれない。
1
2
3
4
5
6
7
4.
誰かが冗談を言って、それが面白かったときには、私は大声
1
2
3
4
5
6
7
で笑う。
5.
私にとって、自分の恐怖を隠すことは難しい。
1
2
3
4
5
6
7
6.
私が幸せなときには、私の感じていることが表に出る。
1
2
3
4
5
6
7
7.
私の体は、感情をかきたてられるような状況に対してとても
1
2
3
4
5
6
7
1
2
3
4
5
6
7
1
2
3
4
5
6
7
強く反応する。
8.
私は自分の怒りを表に出すよりもそれを抑える方が良いこ
とを学んできた。
9.
私はどんなに緊張したり動揺していても、見た目には冷静さ
を保っていることが多い。
10.
私は感情表現が豊かな人間だ。
1
2
3
4
5
6
7
11.
私には強い感情がある。
1
2
3
4
5
6
7
12.
私はときどき、自分の感じていることを隠したくても隠せな
1
2
3
4
5
6
7
1
2
3
4
5
6
7
1
2
3
4
5
6
7
くなる。
13.
私が否定的な感情を感じているときにはいつでも、私が何を
感じているかが正確に、簡単に人に分かってしまう。
14.
私はこれまでに、泣き止もうと思ってもできないことがあっ
た。
15.
私は自分の感情をとても強く体験する。
1
2
3
4
5
6
7
16.
私が感じていることは、私の顔中にあらわれる。
1
2
3
4
5
6
7
平成 25 年度 厚生労働科学研究費補助金(障害者対策総合研究事業(精神障害分野))
被災地における精神障害等の情報把握と介入効果の検証及び
介入手法の向上に資する研究
分担研究報告書
自然災害時の精神保健医療対応と多文化対応
分担研究者 秋山 剛
1)
1) NTT 東日本関東病院精神神経科
研究要旨:外国人は災害弱者であり、平成 23 年度の聞き取り調査と情報収集によって、災害前
に、日本各地において「外国人精神保健支援ネットワークづくり」を進める必要があることを明ら
かにした。平成 24 年度は、ネットワークづくりの基盤となる資料として、2011 年に発表された、
「移住者の精神保健および精神保健ケアについての世界精神医学会のガイダンス」の翻訳を行った。
また、外国人によって運営されている組織が、震災前にどのような災害への対応体制を持っていた
か、災害後にどのような対応を行ったか、どのようなことが課題であったかについて、聞き取り調
査を行った。外国人組織に対する調査では、心理社会的支援、情報収集が課題として指摘された。
この結果を受け、平成 25 年度は、6 つの在留大使館を対象に災害時における心理社会的支援に関す
る一日研修を各大使館につき 1 回、計 6 回実施し、研修を通じて災害時下の望ましい対人支援の在
り方に関する知識および自己効力感がどのように変化するかを検証した。
研究協力者
荻原かおり 1、Linda Semlitz1 、澤智恵 1、谷
口万稚 1、石井千賀子 1、Ian de Stains1、
森本ゆり 1、川村弘江 1、松本聡子 2,3
1
認定特定非営利活動法人
TELL(東京英語い
のちの電話)
2
国立がん研究センターがん対策情報センター
がん情報提供研究部
3
NTT東日本関東病院精神神経科
ートを与える方法が考えられる。
大使館員は、災害時の心理的支援、メンタル
ヘルスへのサポートについて、通常知識、経験
がない。そこで、平成 25 年度は、6 つの在留大
使館を対象に災害時における心理社会的支援
に関する一日研修を各大使館につき 1 回、計 6
回実施し、研修を通じて災害時下の望ましい対
人支援の在り方に関する知識および自己の能
力に関する評価がどのように変化するかを検
A. 研究目的
証した。
災害時に、外国人居住者の心理的支援、メン
タルヘルスへのサポートを行うのは、現地にい
る日本人の保健師や心理士などの精神保健従
B. 研究方法
研修内容は、世界保健機関(WHO)をはじ
事者、国際交流協会などのボランティアのほか
めとする国際人道支援組織が緊急時下あるい
に、各国の大使館員が自国市民への支援、サポ
はその発生直後における初期段階での心理社
会的介入法として推奨し、現時点で国際的なコ
ンセンサスを得ている心理的応急処置(サイコ
C. 研究結果
ロジカル・ファーストエイド;PFA)のガイド
1.参加者
本研究への参加者の大使館別の内訳は以下の
とおりある。
アメリカ
22 名
アンゴラ
13 名
カナダ
10 名
オーストラリア 17 名
イギリス
10 名
フランス
19 名
合計
91 名
ラインに沿って構成した。講師はWHO版のPFA
に精通し、国際機関からPFA講師として認定を
受けたトレーナー4名が務めた。研修への参加
は各大使館内で任意で募ったため参加者の所
属部署は様々であったが、その大半は在留自国
民や一般の日本人と日常的に関わる領事部関
連の職員や、大使館内に設置された災害対策委
員会に籍を置く職員など、発災時には大使館内
外の被災者を相手に緊急支援的な対応を求め
られる者たちであった。
調査は平成25年9月13日~平成25年12月
16日に行われ、得られた回答数は75(回答
率 82.4%)であった。
参加者らには、研修実施に先立って事前ア
ンケートをメール送付し、これまで大使館職員
として災害に対応した経験の有無や今後もし
2.知識の変化
表1に研修前後の知識の変化を示す。研修前
そのような状況に置かれた場合の懸案事項、本
の知識に関する正答数は平均 9.84、中央値 10
研修から学びたい事柄などについて自由記述
であった。研修後の知識に関する正答数は平均
形式で回答を求めた(資料1)。その結果、多
13.77、中央値 15 であった。平均値は有意水準
くの参加者が緊急時下において自身に与えら
0.1%で改善を示した。
れている役割を果たすことへの不安を抱えて
いることが分かった。
そこで、災害時下での心理社会的支援に関す
3.自己能力評価の変化
表 2 に研修前後の自己能力評価の変化を示す。
る参加者の知識および自己効力感の強化のた
研修前の自己能力評価に関する点数の合計は
めの本研修の有効性を確認するために、研修直
平均 22.4、中央値 23 であった。研修後の自己
前および直後に参加者全員に対して、
能力評価に関する点数の合計は平均 30.0、中央
1. 15項目からなる被災者へのこころの支
援について正しい知識を持っているか
値 30 であった。平均は有意水準 0.1%で改善を
示した。
調査を行い、対応のあるt検定で効果を
検証した。
2. 8項目からなる被災者へのこころの支援
D.考察と結論
知識の変化については、平均値が有意水準
に関する自己能力評価に関する調査を
0.1%で改善を示したのみならず、半数以上の参
行いノンパラメトリック検定で効果を
加者が全問に正答できるようになったことか
検証した
ら、知識の改善については、PFA 研修は、極め
この事前事後調査票は、WHO版PFAファシリ
て大きな効果があったと考えられる。
テーター・マニュアルに含まれているものを採
自己能力評価の変化についても、平均が有意
用した(資料2)。資料3は、資料2の日本語
水準 0.1%で改善を示し、99%の参加者が平均 3
訳である。
以上、25%の参加 4 以上の自己能力評価をする
ようになっており、PFA 研修は効果があったと
考えられる。
F. 健康危険情報
なし
G. 研究発表
1) Tsuyoshi Akiyama: Fukushima P
roject in Japan, Disaster psych
iatry: Mental health consequenc
es after disaster in Asia. 4th
World Congress of Asian Psych
iatry. Bangkok, Thailand, 8.2023, 2013.
2) Tsuyoshi Akiyama (Chairperson): Fukush
ima Project. World Psychiatric Associatio
n. Vienna, Austria. 2013.10.27-30.
2)
3)
4)
5)
6)
999.
秋山剛,酒井佳永,五味渕隆志:東京英
語いのちの電話による外国人労働者と家
族への援助.産業精神保健.8:206-211,
2000.
Akiyama.T. Addressing the mental hea
lth consequences of the Japan triple ca
tastrophe. World Psychiatry. 10(2).85.
2011.
河村代志也,藤原修一郎,秋山剛. .阪神大
震災および東日本大震災における精神医療
支援の経験. 総合病院精神医学. 23(2).152
-159.2012.
金吉晴,秋山剛,大沼麻実.東日本大震災後の
精神医療初期対応について.精神保健研究.
58.15-20.2012.
秋山剛.被災地支援と災害対策における学
術団体の役割.精神障害とリハビリテーシ
ョン.16(2).140-145.2012.
H. 知的財産権の出願,登録状況
参考文献
1 ) 秋山 剛:在日外国人の精神保健-主とし
て欧米系.臨床精神医学.28:507-514,1
該当なし
資料1
Please indicate the following about yourself:
Male / Female
Staff Role:
1) What is your primary professional role? Who do you interact with as part of your job?
2) As an embassy staffer have you ever been part of a disaster response? Were there any
additional tasks/roles that you had to take on in dealing with this disaster?
3) What kinds of problems did you encounter in performing those tasks/roles?
4) What were some of the things that made your work stressful during the disaster?
5) What will your role be if a major disaster occurs in the central Tokyo area? Are there
any additional roles you will be expected to perform?
6) What are your concerns, if any, about performing such tasks/roles? What kinds of
problems do you anticipate for yourself (or for your organization)?
7) Are there any interventions you want to learn more about or problems you want to
better deal with in relation to disasters? If yes, which?
a) Skills you want to build?
b) Interventions you want to learn more about?
c) Specific groups of people you want to learn more about?
8) Finally, please write any comments you may have about the above items or about your
organization’s disaster response in general:
資料2
Psychological First Aid (PFA)
Pre-Post Test
Date:
Your name:
□Pre
□Post
(Please check appropriate box)
Please circle the number that best
corresponds to how you rate your
perceived…
Very
Low
Low
Mediu
m
High
Very
High
1.Ability to support people who have
experienced disasters and other stressful 1
2
3
4
5
1
2
3
4
5
1
2
3
4
5
when 1
2
3
4
5
1
2
3
4
5
that can help people affected by a crisis 1
2
3
4
5
1
2
3
4
5
not to cause harm when helping people 1
2
3
4
5
events
2.Understanding of what influences how
someone responds to crisis
3.Overall knowledge of what to say and do
to be helpful to someone in distress.
4.Ability to take care of yourself and
support
your
team
members
assisting people affected by crisis
5. Ability to listen in a supportive way
6. Knowledge of how to find information
event
7. Ability to link people affected by crisis
to needed services
8. Knowledge of what not to say or do so as
affected by crisis
Continued to next page ⇒⇒⇒
Please check the best correct answer (yes or no) for each statement below…
Which of the following is true for people who have experienced crisis Yes
No
events?
1. Most people affected will develop mental illness.
2. Most people affected will need specialized mental health services.
3. Most people affected will recover from distress on their own using their
own supports and resources.
Which of the following can be helpful for people who experienced very Yes
No
distressing events?
4. Providing referrals and linking people with basic services (e.g. social
services).
5. Asking people to recount their traumatic experiences in detail.
6. Listening in a supportive way without interrupting.
7. Conducting psychological debriefing (assembling a group of people and
asking them to share their stressful experiences).
8. Telling them the story of someone else you just saw so that they know
they are not alone.
9. Giving any reassurance to help people feel better (e.g. your house will
be rebuild soon).
10. Telling an affected person that everything will be fine and they should
not worry.
11. Judging the person’s actions and behavior (e.g. you should have
stayed) so they won’t make the same mistakes next time.
12. Finding out more about the situation and available services so that you
can assist people in getting their needs met.
13. Tell an affected person how they should be feeling (e.g. you should feel
lucky you survived).
As someone providing assistance to others you should…
14. Focus only on the people you are helping, and try to forget your own
needs and concerns until after the crisis situation is over.
15. Practice self-care by taking regular breaks.
Yes
No
平成 25 年度 厚生労働科学研究費補助金(障害者対策総合研究事業(精神障害分野)
)
被災地における精神障害等の情報把握と介入効果の検証及び
介入手法の向上に資する研究
分担研究報告書
- 海外において災害被災や犯罪被害等により精神不調をきたした
邦人の実態把握と対応ガイドラインの作成 -
分担研究者
鈴木 満 (岩手医科大学神経精神科学講座客員准教授)
(外務省メンタルヘルス・コンサルタント)
研究協力者
阿部又一郎 1)、荒木 剛 2)、石田まりこ 3)、井上孝代 4)、
大川貴子 5)、大滝涼子 6)、大沼麻実 6)、柏原 誠 7)、
金
吉晴 6)、久津沢りか 8)、小林利子 9)、佐藤麻衣子 10)、
重村 淳 11)、杉谷麻里 12)、高山典子 13)、堤 敦朗 14)、
傳法 清 15)、仲本光一 16)、原田奈穂子 17)、本郷一夫 18)、
松本順子 19)、山中浩嗣 20)、吉田常孝 21)
1)パリ西大学ナンテール校
12)上海臨床心理士の会
2)東京大学ユースメンタルヘルス講座
13)外務省人事課
3)ブラッセル・インターナショナルスクール
14)国連大学グローバルヘルス国際研究所
4)明治学院大学
15)ジャパニーズソーシャルサービス
5)福島県立医科大学
(JSS)
6)国立精神・神経医療研究センター
16)在カナダ日本国大使館
7)シャリテ・ベルリン医科大学
17)ボストンカレッジ
8)J-クリニックスマンギ
18)東北大学大学院教育学研究科
9)Community of Japanese
19)ParkWay Health
Creative Arts Therapists
10)アメリケアズ
11)防衛医科大学精神科学講座
20)千葉県精神科医療センター
21)在タイ日本国大使館
研究要旨
2012 年に 125 万人に達した海外在留邦人および毎年 1700 万人前後を推移する海外渡
航邦人は、大規模自然災害や凶悪犯罪、大規模事故、テロなどに巻き込まれた際に災害
弱者となりうるだけではなく、その一部はトラウマ関連障害を呈し、専門的治療の適応
となる。しかし、その実態把握はいまだ十分とは言えず、被災国での早期介入、現地医
療機関との連携など多くの課題がある。また、現地で被災者、被害者、さらに家族、遺
族のケアを担当するケアギバーは隠れた被災者、被害者であり、彼らを対象としたケア
と教育を行う体制は十分整備されていない。本調査研究では、海外在留邦人、外務省在
外公館邦人援護担当領事および医務官を対象に、災害被災や犯罪被害等により精神不調
をきたした邦人事例について調査を行うとともに、海外在住の邦人ケアギバー間の連携
強化とスキル向上を目的とした調査と啓発教育を行い、これらの調査結果を反映した対
応ガイドラインを作成する。海外邦人コミュニティを対象としたメンタルへルス支援
は、精神科医療過疎地への遠隔支援という点で、東日本大震災被災地コミュニティへの
それと共通項がある。本調査研究では両者の異同について検討した上で、遠隔支援の方
法論について上記ガイドラインに盛り込む予定である。
A.背景と目的
計である邦人援護統計にトラウマ関連事例の
海外に 3 ヶ月以上滞在する在留邦人はこの
記載は設定されていない。また初期対応は非
30 年間で 2.5 倍に増え、2012 年には 125 万
専門家である領事担当者の経験智に委ねられ
人を超え今なお増加を続けている。また年間
ることが多く、彼らのメンタルヘルスに関す
海外渡航邦人数はここ数年 1,700 万人前後を
る知識、支援技能も十分に把握されていない。
推移している。海外は大多数の邦人にとって
本調査研究では、海外在留邦人、海外在住
精神医療過疎地域であり、海外邦人の多くは
の邦人精神保健専門家、外務省在外公館に勤
災害弱者となりうる。外務省在外公館で援護
務する邦人援護担当領事および医務官を対象
された邦人数は年間 20,378 人(2012 年海外
に、災害被災や犯罪被害等による被援護事例
邦人援護統計)であり、対前年比で 4.33%増
について聞き取り調査を行い、海外での災害
加しているが、これらに伴うトラウマ関連障
被災や犯罪被害等により精神不調をきたした
害などの実態については十分に把握されてい
邦人事例の実態、現地の地域精神医療システ
ない。世界約 200 カ所に配置された外務省在
ム、メンタルヘルス関連の人的資源、邦人コ
外公館では、邦人援護業務として精神不調を
ミュニティの支援力などについて調べる。合
きたした邦人の保護を行っているが、その集
わせて海外邦人コミュニティに在住する邦人
援護職、医療、看護、教育関係者間の連携強
・ジャカルタからの報告:久津沢りか(看護
化とスキル向上を目的とした会合を企画し、
師/J-クリニックスマンギ、MRCCC Siloam
ケアギバーである彼らにメンタルヘルスに関
Hospitals Semanggi)
する啓発教育介入を行い、その効果を検証す
・ベルギーからの報告:石田まりこ(多文化
る。また、海外邦人コミュニティへの遠隔メ
メンタルヘルスアドバイザー/ブラッセル・イ
ンタルヘルス支援の方法論が東日本大震災の
ンターナショナルスクール)
被災地コミュニティへのそれに応用できるか
・ベルリンからの報告:柏原
とどうかについても検証する。
研究者/ベルリン)
誠(公衆衛生
・パリからの報告:阿部又一郎(精神科医/
B. 結果
パリ西大学ナンテール校)
1)第3回海外邦人メンタルヘルス連絡協議会
・トロントからの報告:傳法
の開催:2010年10月に研究分担者が代表世話
ーズソーシャルサービス(JSS)副会長)
人として東京で開催した第1回海外邦人メン
・ボストンからの報告:原田奈穗子(看護師
タルヘルス連絡協議会、2012年9月に山形で
/ボストンカレッジ)
開催した第2回連絡協議会に続き、2013年7月
・ニューヨークからの報告:小林利子(アー
27日に東京で第3回海外邦人メンタルヘルス
ト セ ラ ピ スト / Community of Japanese
連絡協議会を開催した。海外在住の邦人メン
Creative Arts Therapists)
タルヘルス専門家から、世界各地の邦人コミ
・ニューヨーク・オタワからの報告:仲本光
ュニティにおける現況と精神医療資源につい
一(医務官/在カナダ日本国大使館)
て報告があり、海外での惨事ストレスの発生
・バンコクからの報告:吉田常孝(医務官/
を想定してコミュニティ間の連携を強化した。
在タイ日本国大使館)
下記13席の報告、米国在住の臨床心理士 Dr
・サイコロジカル・ファーストエイド WHO
Joe Ozawaによる特別講演「海外在留邦人・
版(以下 PFA)の紹介:大沼麻美・金
海外惨事ストレス被災者・支援者へのケア」
晴(国立精神・神経医療研究センター精神保
に続き総合討論を行った。参加者は、約50名
健研究所災害時こころの情報支援センター)
であった。本協議会は、翌月バンコクで開催
・東日本大震災被災地における IT を用いた
した会議(後述)におけるアジア在住邦人メ
遠隔 MH 支援:鈴木
ンタルヘルス専門家の連携強化にも寄与した。
科大学・外務省)
清(ジャパニ
吉
満(精神科医/岩手医
・上海からの報告①:松本順子(臨床心理士
/ParkWay Health)
2)中国 4 都市における聞き取り調査:2012
・上海からの報告②:杉谷麻里(臨床心理士/
年 11 月に予定していた調査が尖閣諸島問題
上海臨床心理士の会代表、上海デルタ西クリ
の影響により延期となったものである。北京、
ニック)
上海、広州、香港の邦人コミュニティにおけ
る聞き取り調査を 2013 年 5 月に施行した(海
企画した。このところ海外で頻発する自然災
外邦人医療基金助成)
。調査の対象者は、在外
害、政変に加えて、2013 年前半だけでもアル
公館邦人援護担当領事および医務官、中国邦
ジェリア人質拘束事件、グアム無差別殺人事
人コミュニティを俯瞰できる立場にある駐在
件、エジプト気球事故等が勃発しており、本
員や邦人医療・心理・教育専門家等である。
シンポジウムでは、海外での惨事ストレスへ
2012 年 12 月に行った駐在員を対象としたア
の対応、メンタルヘルス対策、さらにリスク
ンケート調査により、赴任地、赴任時期、赴
マネジメントに関する議論を行った。シンポ
任者、赴任形態などによって生活勤務ストレ
ジストと演題は以下の通り。
ス要因は多様であるものの、共通するストレ
・重村
ス要因の存在が明らかとなり、聞き取り調査
鈴木
からもこれを裏付ける結果が得られた。
外務省):海外発生事案のトラウマケア - 急
2012 年に中国で相次いで発生した反日運
淳(防衛医科大学校精神科学講座)、
満(岩手医科大学神経精神科学講座・
性期と中長期、外国と日本 –
動、大気汚染、鳥インフルエンザ感染は中国
・菅沼
茂(AMDA グループ代表)
:44 年間
在留邦人に多大な生活不安を与えた。個々の
の海外医療協力の危機管理
ストレス要因は解決されたわけではなく、い
・勝田吉彰(関西福祉大学)
:災害とリスクコ
ずれも再発、再燃、増悪しうるものであり、
ミュニケーション
これらがほぼ同じ時期に発生したことで、経
済活動に支障をきたしたり、移動の自由が制
4)シンポジウム「海外邦人や医療過疎地住
限されたりで駐在員と帯同家族の生活不安が
民を対象とした遠隔メンタルヘルス支援の試
助長された。「安全」に関する客観的かつ時
み」の開催:2013年7月21日に東京で開催さ
機に合った適切な情報提供と、主観的な「安
れた第17回日本渡航医学会において精神医療
心」を得るための配慮が、現地邦人コミュニ
過疎地への遠隔メンタルヘルス支援に関する
ティや報道機関の共通理解事項とすることの
シンポジウムを企画した。海外邦人コミュニ
重要性が指摘された。また「急性混乱期」に
ティや東日本大震災被災地におけるメンタル
あって冷静に事態を受け止め、適切に対処行
ヘルス需要の実態をふまえながら、個別相談
動を取れるストレス耐性が高くコミュニケー
や支援者間コミュニケーションの道具として
ション能力の高い人材の育成の必要性が示さ
の遠隔画像支援技術の活用の現況と展望につ
れた。
いて、すでに遠隔医療支援を実践している医
療者ならびに技術開発者の視点から議論を深
3)シンポジウム「海外惨事ストレスと在外
めた。面談が診断と治療の基本となる精神科
邦人のメンタルヘルスケア」の開催:2013 年
領域における遠隔画像機器を用いた医療行為
6 月 14 日に宇都宮で開催された第 20 回多文
の可否という基本問題に加え、面談から得ら
化間精神医学会において上記シンポジウムを
れる双方向情報の質は言語的および非言語的
コミュニケーションの精度に大きく依存する
ド、インドネシア、パキスタン、そして現地
といった技術的な議論も展開された。シンポ
のタイ在住の専門家が集まった。職種は在外
ジストと演題は以下の通り。
公館領事、医務官をはじめ精神科医師、内科
・鈴木満(外務省・岩手医科大学神経精神学
医師、臨床心理士、研究員、カウンセラー、
講座・NPO 法人心の架け橋いわて)
、上田雅
精神保健福祉士、民間企業人事担当者と多職
士(NPO 法人心の架け橋いわて)
、長谷川朝
種にわたった。プレ・ポストテストにより大
穂(NPO 法人心の架け橋いわて・公徳会若宮
半の参加者に教育効果が認められた。
病院)
:遠隔支援者間の情報共有と遠隔相談の
ための新しいツール「スマートアウトリーチ」
6)岩手高等教育コンソーシアム主催の復興
・長江信和(福岡大学人文学部・一般社団法
支援者育成事業「第2回東北みらい創りサマ
人日本遠隔カウンセリング協会)
:海外在留邦
ースクール」および外務省領事研修における
人のメンタルヘルスと遠隔心理支援の可能性
啓発教育的講演および PFA 研修会の開催:
・徳田雅明(香川大学医学部)
:チェンマイ(タ
2013 年 8 月 10 日に岩手県在住の学生、教員
イ)在住ロングステイヤーへの遠隔健康相談
などを対象に、被災者へのメンタルヘルス支
の現状と展望
援に関する啓発教育的講演および PFA 研修
・浅井貴浩(株式会社リコーネットワークア
会を開催した。同年 11 月 13 日、20 日には外
プライアンス事業部)IT を用いた海外遠隔医
務省の領事研修において同様の講演と研修会
療支援の可能性を探る
をそれぞれ施行した。研修前後のプレ・ポス
トテストにより、経験豊かな対人援護職にお
5)在アジア邦人精神保健専門家等を対象と
いても研修による学習効果が得られることが
した PFA 研修会の開催:2013 年 8 月 24 日に
明らかとなり、研修の意義を検証することが
在タイ日本国大使館会議室(バンコク)にお
できた。
いて、Japanese Medical Support Network
(JAMSNET) in ASIA の設立総会が開催され
7)「東日本大震災長期支援のための国際遠
た。翌 25 日にアジア在住の邦人メンタルヘル
隔連携シンポジウム - 全生活支援の中での
ス専門家等を対象とした連携会議および PFA
メンタルヘルス専門家の役割と国境・県境を
研修会を開催した。東京から参加した大沼、
越えた学際・職際を考える」の開催:2013年
佐藤両氏による進行のもと、海外で惨事スト
12月に仙台において上記シンポジウムを開催
レスに暴露した邦人のケアを想定して研修会
した(主催:NPO法人心の架け橋いわて、共
が行われた。母語、母文化を共有する支援者
催:日本精神課救急学会)
。本シンポジウムで
の育成のみならず参加者間の連携強化の場と
は,海外邦人支援と多くの共通点を有する「精
なり意義深いものであった。参加者数は 30
神医療過疎地への遠隔メンタルへス支援」と
名であった。日本を始め、シンガポール、イ
いう切り口から、被災地メンタルヘルス支援
に関わってきた多職種専門家がそれぞれの活
遠隔地支援活動による最大の課題はチーム
動報告を行い、地元の支援者支援と人材育成、
内のコミュニケーションであるが、HP、FB、
国境・県境を超えた連携のあり方について協
ML などのインターネット資源を駆使した情
議した。シンポジウムは国内外のサテライト
報共有、特に遠隔テレビ会議システムの導入
会場(東京、盛岡、釜石、ニューヨーク、オ
はチーム内情報共有を飛躍的に改善し、理事
タワ、バンコク)にも配信され、双方向の議
会、定例会議、参加応募者面接などで活躍し
論がなされた。シンポジストとそれぞれの発
ている。
表概要は以下の通りである。
我々の目的のひとつは、従来から医療過疎
・山中浩嗣(千葉県精神科医療センター・NPO
地域であった被災地に多職種によるメンタル
法人心の架け橋いわて)岩手県大槌町への「出
ヘルス・アウトリーチサービスを提供する活
– 精神医療過疎地
動を通して、災害メンタルヘルスの専門家を
前型支援」の課題と展望
への遠隔支援モデル -
岩手県沿岸部は震災以前より精神医療の広
域医療過疎が問題であり、長期にわたる人的
育成することであり、育った専門家がその地
域の精神医療を支援なしで運営できることを
我々の最終目標としている。
資源の確保が求められている。NPO 法人心の
本発表では、活動が現在中盤を迎え、地元
架け橋いわて(2012 年 8 月認証)は、米国の
の精神医療資源への円滑な移行と活動収束に
Japan Society 等による活動資金と、日本精
向けてどのようなありが望ましいのかを描く
神科救急学会による多職種人材提供を得て、
段階にあり、これに関し議論を深めたい。
岩手県心のケアセンターとの協働により岩手
・大川貴子(NPO 法人相双に新しい精神科医
県大槌町を中心とした長期メンタルヘルス支
療保健福祉システムをつくる会・福島県立医
援を行っている。人口1万人強の同町にはこ
科大学看護学部)
:地域のニーズに応えるメン
れまで、常駐精神科医はなく、今後もその確
タル・ケアの拠点づくりをめざして - 福島県
保は困難な状況にあり、これに対し、全国各
相双地域からの報告 -
地から毎週金土曜日に多職種専門家3-4名
福島県の太平洋沿岸北部に位置する相双地
が参集して、「出前型支援」(各支援者は月1
域は、津波の被害を受けると共に、原発事故
-2回)を行っている。
による避難指示が発令され、この地域の精神
具体的活動として、毎週金曜日の看護師・
科病床を有する 5 病院はすべて避難対象とな
臨床心理士による大槌町社会福祉協議会によ
り、精神科医療が極めて希薄な状態となった。
る仮設住宅訪問への同行活動、岩手県と精神
そのような状況の中で、福島県立医科大学医
科救急学会との協働作業による医師による震
学部神経精神医学講座および看護学部精神看
災ストレス相談と個別訪問、啓蒙活動として、
護学担当教員によって組織された福島県立医
落語、軽運動、音楽などを医学講話と組み合
科大学心のケアチームは、多くの外部支援者
わせた多職種によるサロン活動などである。
の協力のもと、支援活動を行った。
2011 年 11 月には、NPO 法人「相双に新し
身体科チームと共に震災支援を行ってきた。
い精神科医療保健福祉システムをつくる会」
その後も、現在に至るまで東大精神科の震災
を発足させ、2012 年 1 月に当法人による「相
支援は継続されている。急性期の精神医療活
馬広域こころのケアセンターなごみ」を開所
動から中長期的な精神保健活動、こどものこ
して、心のケアチームが行ってきた保健活動
ころのケアなど多岐にわたって活動を継続し
を継続実施できるような体制づくりを行った。
て行ってきた。我々の支援の大きな特徴のひ
また、本ケアセンターと同じ建物内に「メン
とつとして、精神科科長をはじめに、3 月の
タルクリニックなごみ」を開設し、医療活動
急性期に支援に関わったものが、現在も活動
の拠点をつくった。
を続けているところがある。その長い支援に
現在、
「相馬広域こころのケアセンターなご
おいて、特に注意してきたのが、我々の支援
み」は、アウトリーチ推進事業(震災対応型)、
が地元の支援者の妨げにならないようにする
および、ふくしま心のケアセンター事業(相
ことである。地元の支援者が的確に把握して
馬方部センター)の委託を受けて活動を行っ
いる現地のニーズを共有して、依頼や要望が
ている。これらの委託事業を主軸に展開して
あればできるだけそれに応えるようにしてき
いる活動内容について報告していきたい。
た。そのため地元の支援者と密に連絡をとる
また当 NPO 法人は活動方針として、①震
必要があったが、いつの間にか、地元の支援
災後のメンタルヘルスの増進と自殺予防等に
者に対しての支援を気が付かないうちにやっ
関すること、②精神障がい者への地域生活支
てきた感がある。今後も支援は必要と考えて
援に関すること、③高齢者のメンタルケアに
おり、支援を継続する予定ではある。今後は
関すること、④子どものメンタルケアに関す
医療や保健のみでは対応できない全生活支援
ることの 4 点を掲げている。今後どのような
があらゆる立場の支援者を巻き込んで必要と
活動を展開していこうとしているのかについ
なってくる時期である。今回、あらためてこ
ても述べていきたい。
こ 2 年 9 か月に渡る活動を振り返り、現地で
なお、当法人においては、多職種チームで
の学びを共有するとともに、大学の教員とし
活動を行っている。様々な職種のスタッフが
て行える将来へ向けた布石についても紹介す
上手に連携しながら活動していくために求め
る。
られることは何かについても言及していきた
・本郷一夫(東北大学大学院教育学研究科):
いと思う。
宮城県における被災児童および保護者への
・荒木
中・長期的支援
剛(東京大学ユースメンタルヘルス
講座):宮城県東松島市における東京大学精
神科の支援について
東京大学精神神経科は、宮城県東松島市に
おいて、東日本大震災発生直後の急性期から
私は、東日本大震災以降、主として、①保
育所の巡回相談と保育者研修会、②「ケア宮
城」の立ち上げと教員研修会、③「震災子ど
も支援室」の立ち上げについて関わってきた。
その中で感じたことは、
「時間・関係・文化の
ンティアによる岩手県大槌町支援 - 国際的
中での支援」の重要さである。たとえば、時
視点による長期支援の展望 -
間の流れの中での支援としては、①子どもの
明治学院大学ボランティアセンターは、教
体験の意味は、子どもの成長とともに違う、
育理念“Do for Others”を標榜し、阪神淡路大
②子どもの発達に伴って、子どもが抱える問
震災がきっかけとなり設立された。
題が異なる、③子どもの発達に伴って、子ど
東日本大震災後の支援においては、
「明学・
もと保護者との関係が変わる、などの点を考
大槌町吉里吉里復興支援プログラム」として、
慮する必要がある。
岩手県大槌町吉里吉里地区で、住民主体の復
そのような観点から、大きく2つのトピッ
興(持続可能な地域システム)を目指しての
クについて話題提供を行う。第1に、保育所
活動が 2011 年4月に立ちあがった。これまで
の巡回相談や保育者研修から見えてきた保育
多様なアクター、セクターと連携し、延べ 474
所の子どもと保護者の変化についてである。
名の学生が参加している。日本イスラエイ
震災直後、震災2か月後、震災 11 か月後の子
ド・サポート・プログラムとも連携し、イス
どもと保護者の変化について紹介する。第2
ラエルのアートセラピストによる学生への心
に、
「震災子ども支援室」の活動から見えてき
理支援がなされている。
た問題について紹介する。時間の経過に伴っ
支援の目標として、
「震災支援活動を通して
て新たに出現した問題、変化した問題、変わ
築く『笑顔』循環型社会の実現~吉里吉里は
らない問題を時間・関係・文化の枠組みに当
復興し、学生は成長し、大学は社会に開かれ
てはめて考えてみる。
る、これら 3 者のつながりが、笑顔を作り、
それらの点を踏まえ、時間・関係・文化を
社会を変える」を掲げている。これは、PDSA
考慮したアセスメントに基づく支援の重要性
サイクルの導入を通した、社会的インパクト
について述べる。すなわち、①狭い意味での
と学生の学びと成長の促進を期待するもので、
PTSD に限定することなく、子どもや子ども
そのため、住民や学生、大学へのアセスメン
を取り巻く大人の幅広い精神保健・心理社会
トを実施してきた。
的ウェルビーイングに目を向けたアセスメン
結果、【被災地にもたらしたインパクト】:
トと心理社会的支援、②時間軸を考慮したア
①大学生が中学生のロールモデルになった、
セスメントと支援、③個人の特性、個人の経
②地域に笑顔が増えた。③震災による地域内
験(種類と程度)
、環境(物的環境、人的環境、
の軋みを緩和した。また、
【学生にもたらした
環境移行)を考慮した多様なアセスメントと
インパクト】
:①「学ぶ意欲の向上」や「社会
支援、④支援者への支援の重要性について述
への問題意識」の高まり、②1年時における
べる。
経験が大学での学びに影響を及ぼす、などが
・井上孝代(明治学院大学・一般社団法人 日
示された。
本イスラエル支援プログラム):大学生ボラ
全体としては、(1)学生が被災地の新たなニ
ーズを認識する、(2)学生の学びを充実させ
日にウィーンで開催される中東アフリカ領事
るには大学での学びやキャリアへ接続すべき
会議もまた、在外勤務中の邦人援護担当領事
である、(3)大学は変化する被災地や学生のニ
26 名が一同に会する貴重な機会である。2013
ーズをくみ取るべきである、(4)アセスメント
年夏にカイロで開催される予定であったが政
は、評価だけでなく、ステークホルダーの相
情不安のため年度末の欧州開催となった経緯
互理解や新たなニーズ・課題を発見し、プロ
がある。ここではメンタルヘルス専門教育を
グラムの改善を目指すべきである、などが示
受けていない邦人援護担当領事(多くは警察
された。
からの出向)を対象とした啓発的講義とサイ
コロジカル・ファーストエイド(WHO 版)
参加者を対象としたアンケート調査より、
の紹介を行う予定である。合わせて上記の医
多職種間の情報交換に関して大きな需要があ
務官を対象としたものと同様のアンケート調
り、長期的展望による支援課題を支援団体間
査を施行する予定である。
で共有することの意義が明らかとなった。ア
これら二つの会議の間を縫って在デュッセ
ンケート調査における教育効果の判定では、
ルドルフ日本国総領事館および在ドイツ日本
「国内支援組織間連携の必要性についての理
国大使館を訪問し、両館の邦人援護担当領事
解が進んだ」、「遠隔テレビ会議の技術革新に
から聞き取り調査を行う。またドイツ在住の
ついて学んだ」のポイントが高かった。
邦人医師は約 10 名おり、日本語による医療サ
ービスを提供している。彼らからも、在留邦
8)北アフリカおよび欧州在外公館医務官、
人のメンタルヘルスの現況や事例について聴
中東アフリカ在外公館邦人援護担当領事、在
取する予定である。
デュッセルドルフ日本国総領事館、在ドイツ
日本国大使館(ベルリン)邦人援護担当領事
および現地医師からの聞き取り調査:2014 年
C.考察
1 年目および 2 年目の海外調査によりアジ
3 月 18 日から 28 日の日程で施行予定である。
ア在留邦人の急増に伴う邦人コミュニティに
3 月 18−19 日に開催される北アフリカ医務官
おけるメンタルヘルスケアの需要の高まりが
意見交換会には北アフリカおよび欧州に勤務
明らかとなった。中国においては 2012 年に
する外務省医務官 17 名が参集する。2013 年
上海が世界最大規模の邦人コミュニティとな
に起きたアルジェリア邦人人質拘束事件に加
り、東南アジアへのビジネスシフトはあるも
えて頻発するアラブ圏の政変における在留邦
のの、経済的パートナーとしての重要性とい
人の現況とメンタルヘルス対策について聴取
う位置付けに変わりはない。しかしながら中
する得がたい機会である。時間的な制約があ
国においては、二国間緊張関係、環境汚染、
るため、個別聴取は一部に止めざるを得ず、
鳥インフルエンザ感染不安という 3 大生活勤
アンケート調査を行う予定である。3 月 25-26
務ストレス要因の遷延化を認めており赴任に
消極的となる邦人や帯同家族は少なくない。
した惨事ストレスの際に災害弱者となった在
東南アジア在留邦人の増加の勢いは止まらず、
外邦人の後方支援機能が期待されるところで
急変する社会経済状況下においてストレス耐
ある。アジアにおいて在留邦人を対象とした
性の低さからメンタルヘルス不調をきたす事
メンタルヘルスケアのハブとなりうるのは、
例が多く発生している。東南アジアでは地震、
条件つきながら日本の医療資格が認められる
水害、事故、政変が頻繁に発生しており、在
がゆえに圧倒的な人的資源を擁し、天候、政
留邦人のみならず邦人観光客の増加に伴い、
治面でも安定しているシンガポールとなろう。
それらに巻き込まれる事例も増えることが懸
2 年間の聞き取り調査や会合での発言から、
念される。グアムの無差別銃乱射事件、バン
現地在住の邦人メンタルヘルス専門家の危機
コクの反政府デモ長期化、インドネシアのダ
介入の経験や手法に多様性を認めた。また現
イバー遭難事件などが記憶に新しい。一方、
地支援者として非専門家ながら在外公館邦人
在留邦人数の少ない地域に目を向けることも
援護担当領事や民間企業の人事担当者、日本
忘れてはならない。アフリカにおけるビジネ
人学校教員などに支援者技能向上に関する需
ス展開を志向している民間企業は多い。距離
要を認めた。そこで 2 年目の調査研究では、
的にも文化的にも距離があり、医療資源が不
聞き取り調査と人的連携強化を継続しつつ、
十分な赴任地における生活勤務ストレスは過
在外公館邦人援護担当領事と医務官ならびに
酷な開発途上国の邦人コミュニティにおける
在外邦人コミュニティの対人支援職を対象に
メンタルヘルスケアの需要が高まることが予
啓発教育および PFA の研修を行った。PFA
想される。またアルジェリアでの邦人人質拘
は文化や業種を超えて使用できるようデザイ
束事件など緊急事態へのリスクマネジメント
ンされており、多職種専門家および非専門家
にメンタルヘルスケアを導入することも重要
が惨事ストレス時における共通支援ツールと
な課題である。
して有用性が高い。様々な海外在留邦人を対
本研究による聞き取り調査は、海外在住の
邦人メンタルヘルス専門家のネットワーク構
象とした研修においてもその教育効果を確認
することができた。
築に直結し、国境を越えるネットワーク間連
筆者は長きにわたり岩手県の精神科医療に
携につながった。1 年目にシンガポールで開
携わっており、海外邦人へのメンタルヘルス
催した第 3 回東南アジア連携会議は 2 年目に
支援の動機づけは精神医療過疎地における臨
中国に拡がり、すでに米国で構築されていた
床体験に基づくものであった。東日本大震災
JAMSNET と連携する JAMSNET-ASIA に
以来、岩手医科大学附属病院での被災者診療
発展した。本調査研究の成果の一つというこ
に加えて、岩手県大槌町における震災ストレ
とができよう。このネットワークは個々の脆
ス相談も担当する中で、海外邦人を対象とす
弱なボランティア組織の継続性を支援するシ
る遠隔メンタルヘルス支援の方法論と東日本
ステムとして有用であり、国境を越えて発生
大震災被災地へのそれとの共通点が浮き彫り
となってきた。10 年前から始めたバンコク邦
邦人コミュニティの支援力強化、コミュニテ
人 コ ミ ュ ニ テ ィ へ の 遠 隔 支 援 が
ィ間の連携強化、PFA を代表とする共通支援
JAMSNET-ASIA に発展しえたのは、地道な
ツールの啓発普及の重要性を明らかとした。
組織間連携構築、現地支援者支援、現地コミ
さらに海外邦人支援で蓄積した「精神医療過
ュニティの歴史と人的資源を尊重した後方支
疎地への遠隔支援」のノウハウを東日本大震
援によるもの考える。今後は IT 活用による遠
災の被災地支援に応用しうることを示した。
隔支援の効率化や標準化が期待される。12 月
に開催した「東日本大震災長期支援のための
E. 研究発表
国際遠隔連携シンポジウム」では、これまで
1.論文発表
の海外邦人遠隔支援のノウハウを活かし、被
鈴木 満: 海外邦人をめぐるメンタルヘルス
災 3 県において長期メンタルヘルス支援を行
の動向 - 海外生活ストレスへの対応および
っている多職種専門家を集めて多施設接続の
大規模緊急事態へ備え - こころと社会 44(4):
テレビ会議を実現することができた。
100-106, 2013
3年目の調査研究では、引き続き海外邦人お
よび外務省在外公館邦人援護担当領事・医務
官を対象とする聞き取り調査とPFA研修会を
吾妻 壮,鈴木 満,井上洋一,武田雅俊: 在
外邦人の精神医学的危機介入−ニューヨーク
行い、これまでの調査データをもとに対応ガ
での体験を通して. 心と文化 12(2): 140−148,
イドラインを作成する。本ガイドラインの主
2013
たる使用者として、海外在住の対人専門職を
想定し、メンタルヘルスケアの基礎知識、PF
Aの概要、各種セルフチェック法、海外で利
用可能なメンタルヘルス資源を包含するポケ
ット版書籍の作成を予定している。
2.学会発表
重村 淳, 鈴木 満: 海外惨事ストレスと在外
邦人のメンタルヘルスケア. 第 20 回多文化間
精神医学会学術総会(宇都宮)2013.6.14
D.
まとめ
「国境を超えた災害、事件、事故」に巻き
鈴木 満, 上田雅士, 長谷川朝穂: 遠隔支援者
間の情報共有と遠隔相談のための新しいツー
込まれた「移動する国民」へのメンタルヘル
ル「スマートアウトリーチ」. 第 17 回日本渡航医
スケアは、
「想定外」では済まされず国益にも
学 会 学 術 集 会 ( 東 京 ) 2013.7.13 同 抄 録 集
通じる重要な課題である。本研究では 125 万
p.44
人を超えてさらに増加を続ける海外在留邦人、
年間 1700 万人の海外渡航邦人のメンタルヘ
ルスの現況把握を行い、その対策として在外
山中浩嗣, 鈴木 満: 岩手県大槌町における遠
隔メンタルヘルス支援の試みと課題. 第 21 回
日本精神科救急学会 (東京) 2013. 10. 5 同抄
録集 p. 62
鈴木 満:東日本大震災被災地コミュニティの
長期的再生に向けて. 日本教育心理学会公開
シンポジウム (仙台) 2013.9.28
平成 25 年度 厚生労働科学研究費補助金(障害者対策総合研究事業(精神障害分野)
)
被災地における精神障害等の情報把握と介入効果の検証及び
介入手法の向上に資する研究
分担研究報告書
医療初動から中長期的な保健予防活動までのマネジメント手法の確立
分担研究者
荒木 剛
1)
研究協力者
桑原 斉
2)、菊次
彩
1)、笠井清登
3)
1)東京大学ユースメンタルヘルス講座
2)東京大学大学院医学系研究科、こころの発達医学
3)東京大学大学院医学系研究科、精神医学
研究要旨
東日本大震災において東大病院は、震災直後から現在に至るまで、多職種スタッフを宮
城県に派遣して、身体・こころのケアの活動を続けている。活動の教訓として、被災地ス
タッフと連携し、医療チーム・地域・国レベルでの円滑な支援活動のコーディネートによ
る市民への保健医療サービス、救急医療の初動からこころのケアの保健・予防活動までの
長期的視野にもとづく多職種協働チームでの支援の重要性を認識した。このような包括的
なマネジメントが今後の災害医療のおいても重要であり、手法の確立が必須とされる。本
年度は東大病院の震災支援についてまとめ発表・投稿を行い、さらに子供のこころのケア
についての結果を論文にした。
A.研究目的
2011 年 3 月 11 日に生じた東日本大震災に対し
の自然災害において、災害医療マネッジメントの
手法を生かすことにより、こころのケアを含む円
て東大病院は、震災直後から現在に至るまで、多
滑かつ総合的な災害医療を提供することが可能
職種スタッフを宮城県に派遣して、身体・こころ
となると考えられる。
のケアの活動を続けている。こうした活動の教訓
として、被災地スタッフと連携し、医療チーム・
B.研究方法
地域・国レベルでの円滑な支援活動のコーディネ
東大病院の荒木は震災医療の初動から中長期
ートによる市民への保健医療サービス、救急医療
的保健・予防活動に関して、東日本大震災におい
の初動からこころのケアの保健・予防活動までの
て宮城県東松島市にて深く関わってきた。その経
長期的視野にもとづく多職種協働チームでの支
験を基に災害医療マネッジメントの手法を確立
援が重要であることを認識した。このような包括
していく。また東松島市において震災後より健康
的なマネッジメントが今後の災害医療のおいて
調査・訪問調査において精神症状の評価を行って
も重要であり、手法の確立が必須とされる。今後
おり、それらを基にして、心理社会的支援・精神
医療の有効的な提供を行ってきた。これらの精神
は,2011 年 11 月,2012 年 11 月と実施し,その
症状評価尺度を後方視的に解析することによっ
度ごとに結果の解析及び各学校へのフィードバ
て、震災後の精神症状の推移を観察することが可
ックを実施した。2011 年 11 月,2012 年 11 月は
能となる。またその推移に応じた適切な精神医
教員のスクリーニングも同時に実施した。児童の
療・保健活動を行えたかどうかを検証できる。こ
様子を把握することの重要性、さらに教員に対す
の後方視的研究は、「大規模震災後に発症する精
る啓発の重要性などが明らかであった。
神症状に関する臨床評価指標の後方視的研究」と
して東京大学倫理委員会にて承認されている。
今回、自記式質問紙 PTSSC15(post traumatic
symptoms scale for children)を用いてスクリー
ニングを行った。対象は小学生 1102 名、中学生
C.研究結果
1157 名。津波による影響を受けた地域と受けて
本年度はまず 2011 年 3 月から 2013 年 3 月まで
いない地域との 2 群にわけて解析を行った。小中
において、被災地における精神科医療のニーズの
学生全員の解析においては、影響の有無による
変化について言及する。さらに子供のケアについ
PTSSC のスコアの群間の有意差は認められなか
てもふれる。
った。しかし中学生においては、津波の被害を受
1) こころの相談窓口における相談内容
けた地域の子供の方がやや PTSSC のスコアが高
支援の原則はニーズに基づいた支援であり、これ
くなっていることがわかった。
は震災直後から中長期的な時期に移行しても最
D.考察
も大切なことである。地元の被災者の支援を適切
こころの相談窓口に関しては、このように、年
に把握し、それに対応する支援を行わなければ意
単位でみるとニーズの変化が明らかであるとと
味のある震災支援は行えない。
もに、あらためて振り返ると急性期から中長期に
宮城県東松島市では、こころのケア相談窓口を開
かけてニーズの変化が週単位、月単位で推移して
設していたが、そこにおける平成 23 年度と平成
きた印象が強い。そのため、円滑な支援を行うた
24 年度の相談内容の内訳を報告する(図1)
。
めには、現地のニーズを的確に把握できるキーパ
平成 23 年度つまり震災から約 1 年の間の相談内
ーソンとの連携が欠かせない。またそのニーズに
訳で、最も多かったのが、不眠・不安・抑うつで
応じた支援を行う姿勢を支援側が共通して持つ
あった。それらでほぼ 7 割の相談内訳を占めてい
ことが大切となる。このようなニーズの把握と周
た。
知徹底がマネジメントにおいて重要な側面を占
平成 24 年度となって、不眠・不安の割合が減少
める。
し、抑うつとアルコールの問題が明らかとなって
また子どもの心のケアにおいては、津波の被害に
きた。この 2 項目でほぼ 6 割の相談内訳を占めて
あった有無も大切ではあるが、年齢に応じて、そ
いた。
の反応が異なっており、早期から年齢に応じた適
切な支援が必要であることがわかる。
2)子供のケア
小児に関しては,2011 年 4 月に教員や教育委
E.結論
員会の要望に応じる形で、児童精神科医が、学校
本年度は東大精神科の震災支援についての振
の教員を対象に,児童・生徒の精神保健的・医学
り替えりを後方視的な検証をもとにおこなった。
的対応についての講演会を実施した。また、同様
2014 年 2 月現在でも急性期から支援を行ってい
に教員や教育委員会の要望に基づいて、2011 年 4
たスタッフによる支援が継続されているのが、東
月に全校児童・生徒を対象にスクリーニング調査
大精神科の支援の特徴である。今後も現地のニー
を実施した。その後,2011 年 5 月~2012 年 3 月
ズがある限りは支援を続けていきたいと考えて
まで心理士が学校へ訪問し相談を行った。市内全
いる。3 年にわたる支援活動の全ては現地の市役
14 校に 1 校当たり 2 回~5 回の訪問を行い、教員
所の保健師の方々の適切な指揮によって進めら
と児童・生徒の精神保健的・医学的問題について
れてきた。地元の保健師の方々との関係を築けた
相談を実施した。
ことに感謝する。
2011 年 4 月に 1 回目を行ったスクリーニング
2. 学会発表
F.研究発表
荒木剛:講演座長;演者:門脇裕美子:これから
1. 論文発表
の地域精神保健~心を育てる関わりについて~.
第 17 回日本精神保健予防学会学術集会、東京、
Kuwabara H, Araki T, Yamasaki S, Ando S,
2013 年 11 月 24 日.(理念共有セミナー3)
Kano Y, Kasai K: Regional diffrerences in
post-traumatic
children
stress
after
the
Higashi-Matsushima,
symptoms
2011
Japan.
among
荒木剛:宮城県東松島市における精神医療・精神
tsunami
in
保健.第 21 回日本精神科救急学会学術総会、東
Brain
&
京、2013 年 10 月 4 日.
(シンポジウム 災害精
Development (in press)
神科救急マネジメント 座長兼演者)
荒木剛、桑原斉、笠井清登:災害直後のこころの
荒木剛:災害直後のこころのケアのあり方 東京
ケアのあり方
東京大学医学部附属病院災害医
大学病院災害医療マネジメント部の取り組み.第
in 特集 東日本
109 回精神神経学会学術総会、福岡、2013 年 5
療マネジメント部の取り組み
大 震災か らの復 興に向け て‐災 害関連 精神 医
月 24 日.
(シンポジウム)
学 ・ 医 療 の 課 題 と 展 望 ‐ 精 神 神 経 学 雑 誌 (in
G. 知的財産権の出願・登録状況
press)
特になし
荒木剛(企画).精神疾患の早期支援と保健・予
防.医学のあゆみ 246:281-318, 2013
図1
平成 25 年度 厚生労働科学研究費補助金(障害者対策総合研究事業(精神障害分野)
)
被災地における精神障害等の情報把握と介入効果の検証及び
介入手法の向上に資する研究
分担研究報告書
一般住民におけるトラウマ被害の精神影響の調査手法
分担研究者 川上憲人(東京大学大学院医学系研究科精神保健学分野 教授)
研究協力者 梅田麻希(東京大学大学院医学系研究科精神保看護学分野 特任助教)
立森久照(国立精神神経医療研究センター精神保健研究所)
宮本かりん(東京大学大学院医学系研究科精神保看護学分野 院生)
研究要旨
本年度研究では、被災地におけるK6の特性およびその使用の注意点をこれまでの既存調査あるいは
既存データの再解析から明らかにした。また被災地住民の調査に係わった経験のある調査員からの聞き
取りを行い、被災地における心の健康に関する調査の留意点をまとめた。
岩手県および福島県で実施された調査の文献レビューおよびデータの二次解析からは、被災者におけ
る K6 の回答選択肢の分布を見ると、
「少しだけ」という軽症の選択肢に対する回答が増加していた。ま
た福島県被災者サンプルでは K6 のカットオフが上昇する場合があり、またその診断有用性(尤度比)が
低下していることが明らかとなった。これらは K6 を被災者で使用する場合に注意しなくてはいけない可
能性を意味している。K6 の回答選択肢ごとの人数分布を確認し、
「少しだけ」の回答のみが増加してい
るかどうかを確認することで K6 の特性が被災により変化しているかどうかを確認することが推奨され
る。
被災地における心の健康に関する調査の留意点については、調査員のヒアリングから、調査員が種々
の調査技術を活用していることが明らかになった。また被災地調査では、聞き取り調査が好まれること
が示唆された。これらは災害時における調査マニュアルに生かせる情報と考えられる。
キーワード:災害精神保健、K6、信頼性、妥当性、尤度比
A.研究目的
科学的根拠および国内関係者のコンセンサスな
どをもとに、統一的な災害時の精神保健の評価方
法を推奨・提案する。これにより、災害時の症状
評価方法を統一し、共通の方法で災害時の精神保
健の情報収集、整理、相互比較が可能になる枠組
みを提供する。昨年度の文献レビューから、抑う
つ・不安に関する尺度である K6(1-3)は、版権フリ
ーであり国内外で被災状況での研究において使用
されつつあるが、被災状況での妥当性・カットオ
フ値の検討を行う必要があることが判明した。本
研究ではK6をとりあげて、そのスクリーニング
効率を被災地住民と一般住民とで比較することで、
被災地におけるK6の特性およびその使用の注意
点をこれまでの既存調査あるいは既存データの再
解析から明らかにした。
また被災地における心の健康の調査に際しては
尺度の選択だけでなくその調査の方法についても
工夫が必要である。被災地住民の調査に係わった
経験のある調査員からの聞き取りを行い、被災地
における心の健康に関する調査の留意点をまとめ
た。
B.研究方法
1.被災地におけるK6の特性
1)岩手県被災者調査
東日本大震災後、岩手県では被災状況が特に深
刻な大槌市、釜石市、山田市、陸前高田市を対象
に、平成 23 年度厚生労働科学研究費補助金「東日
本大震災被災者の健康状態に関する研究」
(研究代
表者林賢治)および平成 24 年度厚生労働科学研究
費補助金(健康安全・危機管理対策総合研究事業)
研究「岩手県における東日本大震災津波被災者の
支援を目的とした大規模コホート研究(指定研究)
(代表者小林誠一郎)として被災者の健康に関す
る長期追跡研究が実施されている(4)。この研究で
は、東日本大震災に被災した岩手県住民の調査デ
ータ 4014 人と平成 22 年国民生活基礎調査からの
全国調査データ(岩手県被災者健診データと性別、
年齢層の構成比率が一致するように対象者を無作
為に抽出)
1724 人とで K6 の得点分布を比較した。
2)福島県仮設住宅調査(1)
福島県立医科大学放射線医学県民健康管理セン
ターの調査事業として、2012 年 10 月から 2103
年3月までの間に、福島県の2つの仮設住宅の 16
歳以上住民 913 人、平成 24 年度「こころの健康
度・生活習慣に関する調査」で K6 が 20 点以上の
者のうちから抽出された者 150 人、および福島県
内の精神科医療機関を震災と関連した抑うつ・不
安状態で受診した者で期間中に調査可能だった者
に 対 して K6 を 含 む自己 記 入式 調 査票 およ び
WHO 統合国際診断面接(CIDI)3.0 版による調査
が実施された(5)。
CIDI では DSM-IV 診断による4つの気分・不
安障害(大うつ病性障害、気分変調性障害、全般
性不安障害、心的外傷後ストレス障害)の過去 12
ヶ月経験を調査した。精神科受診者のうち CIDI
で診断がつかなかった者 6 人は他の精神疾患に罹
患している可能性が高いため解析から除外した。
K6 に欠損値のある者、地震、津波、原発事故のい
ずれも経験していないと回答した者も解析から除
外した。各群それぞれ 101 人、22 人、9 人を解析
対象とし、気分・不安障害の過去 12 ヶ月の経験を
外的基準として、K6 の ROC 曲線、感度、特異度、
尤度比を算出している。
ここで尤度比(ゆうどひ)(likelihood ratio, LR)
とは、疾患の検査前確率を検査後にどの程度増加
させることができるかという数値である。検査結
果陽性の場合の尤度比 LR(+)は感度/(1-特異
度)として表される。検査前確率と検査ごとの尤
度比(LR)値から、検査後確率(診断の確から
しさ)が以下のように計算できる。検査前オッズ
=検査前確率/(1-検査前確率)とすると、検
査後オッズ=検査前オッズ×LR(+)。これから検査
後確率=(検査後オッズ)/(1+検査後オッズ)
。
尤度比は大きいほど検査後に疾病の確率を効率的
に増加させることができるため有用である。一般
に尤度比は 10 を越えると大きい、5 を越えると中
等度とされる。尤度比を検査の数値別に求めたも
のを層別尤度比(stratum-specific likelihood ratio,
SSLR)という
3)福島県仮設住宅調査(2)
福島市の仮設住宅(2カ所)に居住する避難区
域A町住民(全員)
、南相馬市の仮設住宅(3カ所)
に居住するB市住民(全員)を対象として、平成
25 年 10 月 1 日から平成 26 年 1 月 31 日の間に
CIDI3.0 による面接調査および質問票調査(K6 な
ど)が実施された(6)。仮設住宅住居のうち 64.1%
に接触、居住者のうち 518 人(69.4%)に面接調
査が実施された。このデータを二次解析し、CIDI
では DSM-IV 診断による気分・不安・物質使用障
害(大うつ病性障害、気分変調性障害、双極性障
害、全般性不安障害、パニック障害、社交不安障
害、広場恐怖、心的外傷後ストレス障害、アルコ
ール乱用・依存)の過去 12 ヶ月経験を調査した。
気分・不安・物質使用障害の過去 12 ヶ月の経験を
外的基準として、K6 の ROC 曲線、感度、特異度、
尤度比を算出した。
このデータを同時期に実施された世界精神保健
日本調査セカンドの関東地方一般住民 527 人のデ
ータの二次解析結果と比較した(7)。
2.被災地における心の健康に関する調査の留意
点
東日本大震災で宮城県沿岸部の調査に携わった
経験のある調査会社の調査員7名へのヒアリング
を行った。
C.研究結果
1.被災地におけるK6の特性
1)岩手県被災者調査
岩手県被災者では K6 の平均値(標準偏差)は
4.62(4.56)点、5 点以上、9 点以、13 点以上の者は
42.7%、 18.1%、 6.2%であった。一方、震災前の
岩手県住民の K6 の平均値(標準偏差)は 3.33 (4.39)
点、5 点以上、9 点以、13 点以上の者は 29.1%、
12.9%、4.5%と被災者の方がいずれも高かった。
K6の回答選択肢別の人数分布を6項目で平均し
た場合には、岩手県被災者では「全くない」が減
少し、
「少しだけ」が増加していることがわかる。
2)福島県被災者調査(1)
気分・不安障害の過去 12 ヶ月経験者は合計 38
人であった。K6 の ROC 曲線下の面積は 0.836 で
あり、感度+特異度の和が最大になるカットオフ
点は 12+であった。K6 の既存カットオフ点を使用
した場合、感度、1-特異度、尤度比は、5+(心
理的ストレス相当)
でそれぞれ 0.941,
0.541, 1.740、
10+(気分・不安障害相当)で 0.853, 0.276, 3.096、
13+(重症の精神障害相当)で 0.735, 0.194, 3.793
であった。尤度比は 17+で最大の 4.900 に達した
がこれ以上点数を上げても増加しなかった(図2)
。
得点区分別の層化尤度比はオーストラリアおよび
日本の一般人口を対象とした研究(3)にくらべ低
かった。
3)福島県仮設住宅調査(2)
気分・不安・物質使用障害の過去 12 ヶ月経験者
は合計 28 人であった。K6 の ROC 曲線下の面積
は 0.780 であり、感度+特異度の和が最大になる
カットオフ点は 3+であったが、2+から 7+まで感
度+特異度の和は大きく異ならなかった。尤度比
は点数を上げても増加しなかった(図3)
。得点区
分別の層化尤度比は同時期に実施された世界精神
保健日本調査セカンド(関東地方一般人口)にく
らべ低かった。世界精神保健日本調査セカンドで
は最適カットオフ点は 5+であった。
2.被災地における心の健康に関する調査の留意
点
資料1に調査員の自由回答をまとめた。調査に
あたって調査員が注意すべき点があげられた(亡
くなった方に関する質問、避けるべき言葉「他よ
りマシですよ」や「お気持ち分かります」など)。
また質問紙調査より面接調査が好まれることが述
べられた。
D. 考察
1.被災地におけるK6の特性
福島県被災者(1)の調査(4)では、K6 の最適
カットオフ点は 12 点となり、既存のカットオフの
中 では 13+に近 かった。 川上ら (2007)およ び
Sakurai ら(2011)の最適カットオフ点 5+を使用し
た場合には特異度が 50%を下回り、半数以上の健
常者が陽性者に含まれる。一般住民を対象とした
Furukawa ら(3)にくらべ本調査では尤度比も低か
った。この福島県被災者サンプルでは K6 のカッ
トオフが上昇し、またその診断有用性(尤度比)
も低下していた。また福島県被災者(1)の調査
(4)では、最適カットオフ点が明確でなく、その診
断有用性(尤度比)が低下していることが観察さ
れた。これらは K6 を被災者で使用する場合に注
意しなくてはいけない可能性を意味している。
岩手県被災者における K6 の回答選択肢の分布
を見ると、
「少しだけ」という軽症の選択肢に対す
る回答が増加していた。被災地では困難な状況に
おかれていることから、症状調査に対して回答が
誘導されたり、あるいはより症状を回答しやすい
雰囲気ができていることも考えられる。このこと
が K6 のスクリーニング効率を低下させている可
能性がある。
この点は昨年度の岩手県被災者における K6 の
IRT 分析とも一致した結果である。IRT を用いて
尺度得点の情報か K6 の心理測定特性に変化が生
じていることを確認することが有用と考えられる。
しかし一般に被災地では IRT のような高度な統計
解析を行う技術者やソフトウェアが得られにくい。
その場合には K6 の回答選択肢ごとの人数分布を
確認し、
「少しだけ」の回答のみが増加しているか
どうかを確認することが推奨される。また K6 に
ついては今後さらに被災地における妥当性検討が
なされることが求められる。
2.被災地における心の健康に関する調査の留意
点
被災地の調査員のヒアリングから、調査にあた
って調査員が種々の調査技術を活用していること
が明らかになった。また被災地調査では、聞き取
り調査が好まれることが示唆された。これらは災
害時における調査マニュアルに生かす情報と考え
られる。
E.結論
本年度研究では、被災地におけるK6の特性お
よびその使用の注意点をこれまでの既存調査ある
いは既存データの再解析から明らかにした。また
被災地住民の調査に係わった経験のある調査員か
らの聞き取りを行い、被災地における心の健康に
関する調査の留意点をまとめた。
岩手県および福島県で実施された調査の文献レ
ビューおよびデータの二次解析からは、被災者に
おける K6 の回答選択肢の分布を見ると、
「少しだ
け」という軽症の選択肢に対する回答が増加して
いた。また福島県被災者サンプルでは K6 のカッ
トオフが上昇する場合があり、またその診断有用
性(尤度比)が低下していることが明らかとなっ
た。これらは K6 を被災者で使用する場合に注意
しなくてはいけない可能性を意味している。K6 の
回答選択肢ごとの人数分布を確認し、「少しだけ」
の回答のみが増加しているかどうかを確認するこ
とで K6 の特性が被災により変化しているかどう
かを確認することが推奨される。
被災地における心の健康に関する調査の留意点
については、調査員のヒアリングから、調査員が
種々の調査技術を活用していることが明らかにな
った。また被災地調査では、聞き取り調査が好ま
れることが示唆された。これらは災害時における
調査マニュアルに生かせる情報と考えられる。
F. 健康危険情報
該当なし。
G. 研究発表
該当なし。
H. 知的財産権の出願・登録状況
該当なし。
I. 文献
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人口中の精神疾患の簡便なスクリーニングツ
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界精神保健日本調査セカンド. 総括・分担報告
書, 2014.
図1 岩手県被災者では被災前の岩手県住民(国民健康基礎調査)にくらべて K6 の項目選択肢の「少し
だけ」への回答が増加. 項目反応理論からは被災者では K6 への回答パタンが変化している
図2 福島県被災者調査(1)における K6 の得点区分別の尤度比を世界精神保健日本調査(一般人口)
による Furukawa ら (2008)の数値と比較した結果。過去 12 ヶ月間の気分・不安障害をスクリーニング
する K6 のカットオフ点が上昇し、高得点での疾患判別能力が低下している。
尤度比
60
50
福島仮設住宅調査(2)
40
世界精神保健日本調査2
30
20
10
0
0 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17
カットオフ点
図3 福島県被災者調査(2)における K6 のカットオフ点別の尤度比を世界精神保健日本調査セカンド
(関東地方一般住民)と比較した結果。福島県被災者では K6 が高得点になっても、過去 12 ヶ月間の気
分・不安・物質使用障害をスクリーニングする K6 の判別能力が低下している。
資料1 被災地住民の調査に従事した調査員からの聞き取り結果
1. 被災者に対する調査で気をつける必要のあることについて
これまでの経験から、被災者に対する調査で気をつける必要のあることについてお考えがあれば教
えてください。
・ 強引に感じるような言い方をしない
・ 相手のペース(予定)に合わせる
・ 仮設敷地内ですれ違う人には全て声掛けや挨拶をしている。何度同じ人とすれ違っても笑顔であ
る事が大事だと思って調査していた。
・ 訪問時は常に丁寧で、優しい話し方をする様に心掛けた。
・ 大変だった情況を、話しする方がいました。時間がなかったのですが、少しでも、聞いてあげる
だけで明るい笑顔になりました。個人情報の関係もありますが、
(うなづくだけでもいいと思いま
す。
)あたたかい言葉を、かけてあげるよう努力しています。暗くなってからの訪問も、言葉づか
いに気をつけています。
・ 被災者は、調査やアンケートに、飽々している感がある。よって初対面時、様々な意見や、時に
は文句を言って鬱憤を晴らす人がいる。しかし、そういう人程、協力的だったりする。よって最
初の印象が悪くても先入観を持たず正しい手順、正しい説明で対応する事が大事だと思う。
・ こちらからはあまりいろいろ聞かないようにしてご挨拶や、天気が良いとか、悪いとか、一般的
な話をしながら相手の態度をみながらすすめてゆくようにしている。
・ 特に気をつける事はなかった。通常通りの調査の仕方で良いのでは。仮設でしばしば被災当時の
話とかに及ぶ事があるが、さえぎることなく話を聞いてあげる事が大切かもしれません。
・ 別になし
2. 質問しにくい質問について
心の健康やアルコール問題についての調査に従事したことがありますか。その時、どのような質問
が被災地の住民に対してたずねにくかったですか(例「罪悪感についての質問に回答してもらう時、
考え込まれた経験がある」
)
。
・ 性体験を訊く質問や“下”の質問
・ 依存性を尋ねる場合でも単直に質問に入らず「ごめんなさいね!」など、こちらも恐縮して質問
している事を言葉に表しています。
・ (特になし)
・ アルコール中毒の方と面接調査しましたが、一人暮らしでしたので色々、答えてくれましたが家
族が、いっしょだと答えてくれたかどうか、分かりませんが、同じような事を、何度も、聞いた
為めんどうだと言っていましたが、けいさつにつかまった事まで話ししてくれました。調査員と
して、全く、知らない人だったからかもしれませんが、信頼していただけるよう、あくまでも、
お願いしていただいている言葉と態度に気をつけるようにしています。
・ 家族や、知人で亡くなった人がいたか→それは誰か、の問いの時、ため息をつかれ、答えてもら
ったが嫌な顔をされた。震災を思い出させる質問をした時に、自身も津波にのまれたが、生き残
ってしまって申し訳無いと泣かれた事がある。
・ さりげなく本題に入ってゆくので特別気を悪くされたように感じたことはない
・ あります。特に聞きにくいことはなかった。
・ 別になし
3. 被災地の健康問題の実態について
被災地の調査に従事されている経験から、震災から2年が経過した現在、被災地の住民はどんな健
康や生活上の問題を抱えているように感じますか。その理由(背景)となるご経験についても教え
て下さい(例「ひとりで昼間からアルコールを飲んでいるという問題。仮説住宅を訪問していると
お酒を飲みながら調査員にくっついてくる中年男性に出会うことがある。」
)
。
・ 壁が薄いので、よく眠れない。
・ 隣人トラブル(妬みなど)
・ 少し、アルコール入っている方は、いましたが、家族の方が協力的だったので調査は、しました。
一人でアルコールを飲んでいる時は、調査日を変えるようにしています。
・ ひざ、足が弱くなったと言う人が多くなった様に思う。広い家から仮設に移ったせいなのか、運
動量が減ったのだと思う。血圧が高くなったとか、震災前より太ったと云った人も多かったと思
う。
・ いつも言われている事ですが高齢者の方で一人暮らしの方達に孤独感を感じている方が多く何
日も誰とも接していないという人達がたくさんいて、つらく思う。
・ 仮設に入居されている人は高齢者が多いので健康に関する話はよく聞いた(愚痴が多い)。昼か
らアルコール飲んでいる人は見た事はないが、アルコールの量が増えたとかの話は聞く。酒、タ
バコを長年やめていたがアルコールもタバコも又、始めたという女性には会った。50 歳台の人で
した。
・ 無気力感を持っている方、又は、イカリをブッハリケル(注:原文ママ)方を見かけます
4. 被災時の経験をたずねる時の調査員の態度について
被災時の大変な経験を調査でうかがう時に、調査員はどのような態度でいるのがよいでしょう。ご
経験に基づいてあなたの考えを教えて下さい。
・ 対象者の方の気が済むまで話を聴いてあげる。
・ 質問に入る前に自分は震災時どこにいてどの様な状況だったかを先に少し話してから当時の状
況を自然と話し出す様な方向性に持って行くようにした。
・ 先に言葉でききづらい事も、あります。お答えできるはんいでいいですよとか、あとは、さらっ
と聞きとりしていきますが、被災地の方は何度も、調査をされて、なれている方が多く、調査員
として、たんたんと聞きとりしてました。
・ 2で書いた経験(震災時になくなった家族や知人について尋ねた時に、ため息をつかれて嫌な顔
をされたり、回答者の生き残ってしまったという罪悪感が刺激されて泣かれてしまった経験)が
あるが、普通で良いと思う。回答中に、自身の体験を話される人がいるが、適当な所で、次に進
む方向に変えて行く事が大事だと思う。
・ 対象者の方が自分からお話をして下さるように何か話されたことをきっかけにして、そこから聞
いていくようにしている
・ 被災者。特に仮設住宅に入居されている方々は、調査があまり沢山くるのでいやがっている人も
居るので、大変だがよろしくお願いしますの姿勢が大切だと思う。
・ 被災者に対して、あまり入りこまないことを、心がけています。
5. 被災者の調査にあたってのその他の注意事項について
その他で、被災者の調査にあたって気をつけるべき点があれば、ご経験に基づいてあなたの考えを
教えてください。
・ 「大変でしたね」や「他よりマシですよ」や「お気持ち分かります」とは言わない。
・ 調査期間が短いと無理がかかります
・ 今回の様な調査は特に希死念慮があっても「ない」と答えるケースがほとんどだと思うので、
「あ
り」と本音で答えてもらう為には十分な説明や雰囲気が大事です。単に件数の消化ではなく、実
のある内容である為に調査に余裕がほしいと思っています。
・ もともと、明るい方は、どんな状況でも、前向きに生きている方が多いと感じました。しかし、
性格が暗いというか、離婚したとか、精神的になやみやすい方は、どこにいても、後向きな考え
をしていると思いますので、調査する時、相手の方とお話ししながらその時の情況に合わせて気
をつけるようにしています。
・ 国の調査だと思うと政府への不満や、意見を言い始める人がいるが、それを受けて自分の思想や
意見は云うべきではない(調査をスムーズに進めたいが為に不要な同情をする人がいた)
。
・ 被災者の方に死とかつらいことを思い出すような言葉は使わないように気をつけている。相手の
方が言う言葉は絶対に否定せず共感できるような言葉を選んで話すようにしている。
・ 時々だがこんな話をする人が居た。いろいろな、行政機関や、大学関係の調査がくるが心配して
くれるのはありがたいが、こう云う事にお金をつかうなら、1円でいいから、仮設の入口に現金
をくれた方がもっと助かる等言われる事がある。
・ 臨機応変に対応しています。
6. 被災者に喜ばれる調査とは
もし調査が被災者にとって喜ばれる側面があるとすれば何でしょう。どのように調査をすれば、被
災者が気持ちよく調査に参加してくれるでしょう。
・ 協力する事で、対象者自身に感じられるメリットがないので、メリットを感じられる様にした方
が良い(粗品以外のメリット)
。
・ 粗品は大事です。協力して下さった方々に対する気持ちですので、出張のホテルの上限を決める
など、経費を削っても謝礼にまわすべき!調査結果が見られるのも重要ですが、気の利いた粗品
が一番喜ばれると思う(クライアントも努力すべき!)
。
・ 被災地では、記入する書類が、たくさんあり、もう、うんざりだと言う方がたくさんいました。
いくら記入しても、前にすすまないといわれた地域がありました(石巻の仮設でした)
。大変です
が、ききとり調査が、よかったです。
・ 調査に参加する事により、自信の現状を知り、問題があればサポートも受けれる事はメリットが
有る、という事を伝える。
・ 思い上がった言葉かもしれませんが被災者の方の気持ちを少しでも多く理解できるようにその
人の心に少しでもよりそえるように誠意をもって接すると相手の方も調査員の心をくみとってく
れて調査も協力してくれてる
・ 粗品は決ってしまったようだが商品券等、現金に代わるものを、御礼に出せば、大変喜ばれると
思う。
・ 対象者により、臨機応変に!
平成 25 年度 厚生労働科学研究費補助金(障害者対策総合研究事業(精神障害分野)
)
被災地における精神障害等の情報把握と介入効果の検証及び
介入手法の向上に資する研究
分担研究報告書
「中長期の災害精神保健活動:専従組織と既存組織の役割」
分担研究者
加藤 寛 1)
1)公財)兵庫震災記念 21 世紀研究機構 兵庫県こころのケアセンター センター長
研究要旨
大災害からの復興期における精神保健上の問題は多岐にわたる。医学的観点から見れば、
PTSD や悲嘆を主体とするトラウマ反応だけでなく、生活再建プロセスで生じる二次的と
もいえるストレスから生じる心身の変調が大きな問題となる。しかし、これらの問題を訴
えて診療を希望する被災者は限定的であり、心のケア活動は啓発と健康教育を主体とした、
地道な精神保健活動にほかならない。阪神・淡路大震災や新潟県中越地震では、復興期の
心のケア活動を担う専従機関が設置されたが、保健所や市町村の地域保健部門との連携と
協働が活動の充実には不可欠であった。東日本大震災後に各県に設置された心のケアセン
ターの活動でも、県保健所や市町の保健部門との連携が模索されており、職員を派遣する
などの新たな方法が試みられている。本年度の研究では、こうした取り組みとともに、既
存組織側が取り組んでいる精神保健活動について、まとめた。
者は 5 年、後者は 10 年の期限付きで設置さ
A. 阪神・淡路大震災での状況
れた。それぞれの組織の活動内容について
1.専従組織が直面した問題点
は昨年度の報告書にまとめ、直面した問題
被災者を対象とした精神保健活動を担う
点を述べた。それは、ほぼ共通しており、
専従組織「こころのケアセンター」が作ら
方針を確立し活動が軌道に乗るまで時間を
れた災害は、東日本大震災以前に3つある。
要すること、マンパワーの確保の困難さ、
阪神・淡路大震災、新潟県中越地震そして
行政組織との調整の困難さ、などであった。
新潟県中越沖地震である。このうち新潟の
阪神・淡路大震災の場合、相談ケース数
二つの地震における組織は運営主体が同じ
がピークに達するのは、平成 9 年度であっ
であるので、ここでは一括して扱う。いず
た。つまり、新しい組織が認知され、活動
れも復興基金を財源としているため、精神
が軌道に乗るまでには時間が必要だった。5
保健に関する啓発を行う民間組織(県精神
年間をとおしてコーディネートであった藤
保健福祉協会)に運営業務が委託され、前
田はこの点について、「我々が頑張ると『5
年間しかないのに、その後が困るからそん
明石市は神戸市に隣接した人口約 28 万 1
なに関わらないでよ』とストップがかかり、
千人(当時)の中規模の市で、震源となっ
逆に要望通りに関わらないと、
『せっかく作
た明石海峡にもっとも近い地域であるが、
った新しい機関のくせに何もやらないつも
被害は比較的少なく市民の死者は 24 名、重
りか』とお叱りを受ける。
」と、他機関との
傷者 139 名、全壊家屋 4029 世帯(全世帯
葛藤を述懐している。
数 97628 世帯)にとどまった。避難所は最
また、新潟県中越地震の場合、設置時期
大 30 カ所、仮設住宅は 13 カ所 856 戸が建
が震災から 10 ヶ月を経ていたことから、仮
設された。地域内には明石市 1 市だけを管
設住宅への訪問活動は市町の保健師を中心
轄する兵庫県明石保健所があり、明石市と
として行われており、そこに加わる余地は
協力して地域保健活動を行っており、平成
なかった。そのため、活動の場を求めて被
7 年当時は精神保健に関する業務は主に県
災市町村の地域保健担当者との協議を重ね、
保健所が担当していた。震災前から、ある
小千谷市、長岡市十日町地区、川口町など
開業医の強力なリーダーシップによって精
において仮設住宅に入居しなかった被災者
神保健に関する意識が高い地域であった。
を対象とした全戸訪問を行った。しかし、
震災後には専従組織は設置せず、地域内の
全体の活動は普及啓発に重点が置かれ、当
ネットワークを強化することによって、さ
初は被災地域で「こころの健康づくり講座」
まざまな問題に取り組んだ。
などと題した講演会が多数開催されたほか、
3 年目からは、地域が被災前から抱えてい
た自殺予防、高齢者のメンタルヘルス対策
に軸足を徐々に移していった。
(明石市仮設住宅ケアネット)
被災者支援システムは平成 7 年 3 月に設
置された。これは、震災前からあった「明
石市要援護老人保健医療福祉システム」を
2.既存組織の活動
もとに新設されたものである。当初の対象
専従組織の活動が軌道に乗るまでには、
は高齢者であったのを震災後は拡大し「明
どうしても時間が必要である。時間の経過
石市仮設住宅ケアネット」とした。その後、
とともに明らかになっていく精神保健上の
仮設住宅から復興公営住宅に被災者が移っ
問題もあるが、災害前から把握されている
たのにあわせて「ケアネット2」と名称が
精神障害者への対応などは、直後から既存
変更された。ネットワークには保健、医療、
の枠組みの中で対応していく必要がある。
福祉の担い手が参画し、それぞれの立場で
しかし、被災によって増大した地域内のニ
仮設住宅に出向いて把握したニーズを協議
ーズに応えるためには、賦活化させるため
し、被災者の健康を維持するための活動に
の働きかけが必要になる。その一例として、
還元するという理念に基づいて活動した。
阪神・淡路大震災後の兵庫県明石市での取
主な方針としては以下の点が掲げられた。
り組みについて当時の記録をもとにまとめ
① 地域全体の被災状況の確認、被災者の
る。
(明石市の復興期における保健活動)
生活環境の把握と対応
② 個別支援の量を増加させ質を高める、
継続した関わりの重視
③ 閉じこもり予防、コミュニティづくり
への支援
査項目には心理測定尺度も含まれており、
平成 10 年度の調査では PTSD 症状のスク
リーニングに出来事インパクト尺度
④ 災害復興従事者への支援
(IES-R)が使用され、ハイリスク者の割
⑤ 新規事業への取り組みへの支援
合は明石市では 28%であった。
⑥ 支援システム、ネットワークの構築、
連携の強化
⑦ 災害保健活動展開のための活動体制の
整備
新たな事業の支援としては、アルコール
関連疾患に関する活動がある。仮設住宅で
の孤独死の死因が肝疾患で、その背景にア
ルコール依存が隠されていることが注目さ
れ、アルコール依存症者への対策強化の必
具体的には、県保健所の被災家庭訪問数
要性が注目された。明石市では関係機関を
は平成 8 年度 2252 件、平成 9 年度 1643 件
集めた「明石地域アルコール連絡協議会」
と推移しており、これを 7 人の常勤保健師
を開催し、支援者向けの講演会を開催した。
に新たに期限付きで配置された災害対応保
また、断酒会の協力を得て、アルコール依
健師 1 人で行った。疾患別に見ると精神保
存症者の作業所とグループホームが平成 9
健分野の訪問が年々増加し、平成 8 年は
年 8 月に設置された。
16%程度であったものが、平成 11 年度には
3 分の 1 以上に達している。また、生活習
3.既存組織との連携
慣病や腰痛などの不定愁訴に関連したもの
上述したように、被災程度がそれほど大
が半数を占めていたため、在野の看護師を
きくなく、かつ被災前から精神科医療・保
「健康アドバイザー」として新たに雇用し、
健に関するネットワークがあった明石市で
健康管理業務を担わせた。訪問以外に主な
は、それを強化し新たな事業やマンパワー
7 カ所の仮設住宅では健康相談会を毎月開
を加えることで、災害後の地域精神保健活
催し、保健師だけでなくボランティアなど
動は十分に展開することが可能であった。
も参加し、住民同士の交流を促進させた。
一方、被災が激しく既存のネットワークだ
相談会は復興住宅でも継続され、仮設住宅
けでは対応が困難であった神戸市や阪神間
では 98 回、復興住宅では 84 回開かれた。
の地域には、新たな組織として「こころの
また、研修会や事例検討会も定期的に開催
ケアセンター」が設置された。しかし、既
され、参画者のスキル向上に寄与した。
存のネットワークに加わり、それを活用し
兵庫県は震災発生の平成 7 年から神戸市
ていくことが、活動を賦活するために重要
を除く地域の仮設住宅、復興公営住宅住民
であった。そのために、15 カ所に置かれた
を対象とした健康調査を継続的に行った。
地域センターには、地元の精神科医療機関
調査票の回収は保健師が訪問で行うことが
の医師をセンター長や顧問として迎えた。
多く、その際に状況を把握するだけでなく、
定例のインテーク会議やケース検討会には、
結果を参照することにより健康支援が必要
地元の精神科医だけでなく、保健所や市町
な人を発見する機会として活用された。調
の保健師、PSW なども参加し、ケースの対
応をとおして連携を深めていった。また、
れ根付いていくことに貢献した。これらの
県が毎年行った仮設住宅や復興住宅での健
社会復帰施設は、こころのケアセンター事
康調査では、PTSD 症状、うつ症状がスク
業が 5 年で終了した後も、運営され、現在
リーニングされた。ハイリスク者のフォロ
に至っている。
ーには、保健師とこころのケアセンタース
タッフがあたった。
阪神・淡路大震災では被災地外にも仮設
B.東日本大震災における試み
1.心のケアへの関与
住宅が建設された。被災地に隣接する地域
東日本大震災では、当初からこころのケ
だけでなく、兵庫県姫路市や大阪府泉佐野
アへの関心が高く、全国から多数の支援チ
市、八尾市などにも作られた。こうした仮
ームが入った。その活動を受け入れたのは、
設での保健活動は、地元の保健師が行った
地元の市町における地域保健担当者、県保
が、こころのケアセンター本部がスタッフ
健所、そして精神保健福祉センターなどで
を派遣するなどの協力をした。たとえば、
あり、多くの場合、保健師がコーディネー
大阪府下の仮設住宅を担当する PSW2 人を
ターの役割を担っていた。保健師側から見
追加で雇用し、大阪府こころの健康総合セ
ると、こころのケアは DMAT などの救急医
ンター内に、活動拠点を置かせてもらった。
療活動が終わった時期から復興期に至るま
さらに、八尾市では周辺の精神科医療機関
で、保健師業務の重要な柱と位置づけられ
にも協力を依頼し、八尾志紀仮設連絡会を
ている。
作り、情報を共有したり、健康相談会など
の催し物への協力を得た。
初期には、精神障害者の状況把握や支援、
避難所や被災者宅を訪問する中で発見され
る精神科的問題への対応が主体となる。こ
4.作業所・グループホームの運営
ころのケアチームの活動も、保健師が発見
こころのケアセンターの年間事業費は約
してくる問題への対応が、多くの場合は主
3 億円であったが、そのうちの約 1 億円は
な内容となる。また、復興期には仮設住宅
精神障害者の小規模作業所やグループホー
を中心として、積極的に訪問を行いながら、
ムの運営に充てられた。当時、被災地とそ
健康相談や住民同志の交流促進事業などの
の周辺には精神障害者の社会復帰施設は数
催しを調整するなど、保健師の役割は大き
が少なく、それを拡充することが精神保健
い。
対策上の大きな課題であった。被災した精
2. 陸前高田市における精神保健活動
神障害者も多く、彼らの支援をすることは、
岩手県陸前高田市では平成 23 年 5 月から、
復興基金の目的にも叶うことであったため、
仮設住宅でのサロン活動を、社会福祉協議
9 カ所の小規模作業所、11 カ所のグループ
会や NPO が開始したが、多くの支援チー
ホームが作られ、家族会や精神科病院など
ムが参加したため、その調整が必要だった
に運営が委託された。地域内の従前からの
ことが報告されている。なお、同市には全
精神保健上の課題に取り組むことは、ここ
国から 17 の保健師チームが入り、延べ 6120
ろのケアセンター事業が地域に受け入れら
人が活動したほか、こころのケアチームも
東京都チームなど 7 チーム(延べ 630 人)
、
医療チームは 94 チーム(延べ 8191 人)の
C. まとめ
外部支援者が入った。これらの調整業務を
復興期の精神保健活動は、保健師などが
県保健所と市の保健師が、外部のスーパー
担ってきた平時の活動と、地域ネットワー
バイザーの協力を得て行っており、その活
クの活性化をベースにして、その中に新し
動は高く評価されるべきだろう。
く作られた機関が役割を見いだし参入し、
地域全体の認識が深まり、活動が充実され
3.
健康調査をとおした心理的問題のスク
リーニング
ていくことが重要である。そして、災害後
の活動が昇華され、地域が抱える精神保健
多くの自治体では復興期になると、仮設
上の問題に取り組む契機となることが望ま
住宅住民を中心に健康状態のスクリーニン
れる。その一例として、岩手県大船渡保健
グが実施され、精神的問題に関する項目も
所が始めた自殺予防を目指した事業を紹介
入れられている場合が多い。たとえば、宮
したい。これは「はまってけらいん、語っ
城県はみなし仮設住宅とプレハブ仮設住宅
てけらいん運動」と呼ばれており、孤立を
の住民を対象とした悉皆調査を経時的に行
予防し地域住民同士のつながりを深めるた
っている。項目として K6 が入れられてお
めの活動である。
「はまって」とは方言で「皆
り、総得点 13 点以上の住民に対して、訪問
で集まって」という意味で、象徴的な標語
や架電によるフォローが続けられている。
を用いることによって、地域全体のメンタ
仮設住宅などでの訪問やスクリーニング
ルヘルスへの関心を高めることを目指して
をとおして、心理的問題の強い被災者が認
いる。東北は以前から自殺率の高い地域で
知されると、対応が必要となり、専門的な
あり、災害後の心のケアへの高まりが、自
知識をもったスタッフの関与が求められる
殺予防に向けたプロモーション活動に展開
ことになる。みやぎ心のケアセンターは、
されており、今後の活動の進展を注視した
震災から約 1 年後に活動を始めたため、当
い。
初は役割を見いだすのが難しかった。しか
し、健康調査のフォロー業務に加わること
D. 健康危険情報:該当なし
を契機として、既存の組織に役割が認知さ
れ、次第に活動が拡充されていった。また、
E. 研究発表:該当なし
市町の保健部門は深刻なマンパワー不足に
直面していたため、看護職などを出向させ、
F. 知的財産権の出願・登録状況:
本来の保健業務を支援しており、時間の経
該当なし
過とともに心のケアセンターの価値が認知
されてきている。
G. 参考資料
1) 兵庫県精神保健協会こころのケアセン
ター編 「こころのケアセンター活動報
4) 陸前高田市民生部健康推進課 東日本大
震災陸前高田市の保健活動記録(中間報
告)
告書平成 11 年度-5 年間の活動を終えて」 5) 松本珠実. 平成 24 年度 地域保健総合
神戸、2001
2) 新潟県精神保健福祉協会こころのケア
センター編「事業実施報告書 7 年間の
まとめ(平成 17 年度~平成 23 年度)」
3) 兵庫県明石保健所 1995 兵庫県南部地
推進事業
東日本大震災における保健
師活動の実態とその課題報告書
6) 坂元昇.東日本大震災の自治体による保
健医療福祉支援の実態と今後の巨大地
震に備えた効率的・効果的支援のあり方
震と明石の保健活動2-平成 8 年度~平
について
成 11 年度復興期保健活動のまとめ
Vol.62 No.4 p.390-404
保健医療科学
2013
平成 25 年度 厚生労働科学研究費補助金(障害者対策総合研究事業(精神障害分野)
)
被災地における精神障害等の情報把握と介入効果の検証及び
介入手法の向上に資する研究
分担研究報告書
大規模災害による長期避難生活者のソーシャルキャピタルの変化に
関連する要因
分担研究者
荒井秀典
1)
研究協力者
林 幸史
1)、廣島麻揚
1)
1) 京都大学大学院医学研究科人間健康科学系専攻
研究要旨
ソーシャルキャピタル(以下 SC)は精神健康度、自殺予防との関連が報告されており、
地域住民の精神的健康や自殺予防に欠かせない概念である。本研究では長期に避難生活を
送る成人を対象に、震災前と震災後のソーシャルキャピタルおよび関連が予想される因子
を解析し、震災前後のソーシャルキャピタルの変化に関連する要因を検討した。福島県大
熊町に住民票を置く 20 歳以上の男女のうち、
県内の総合健診会場に申し込みを行った 1,595
名に対し、調査用紙を総合健診問診票とともに郵送配布し、研究協力に同意の得られた人
のみ回答を依頼し、健康診査受診会場にて回収を行った。回収率は 92.7%(1478 名)であ
った。震災前後のソーシャルキャピタルの変化に関して、年齢、性別、婚姻状況、震災後
の住居地、住居形態、そして震災前後で起きた同居家族の有無・職業・地域活動の有無・
ソーシャルサポートの有無・経済状況の変化による影響を検討した。ソーシャルキャピタ
ルの震災前後での変化量は、-4.68±4.07 点であり、婚姻状況では現在同居している既婚者、
地域活動の有無の変化では震災後に活動しなくなった人、物質的・金銭的支援者の有無の
変化では震災後にいなくなった人、経済状況の変化では悪化した人が他群と比較して震災
後に点数が下がる傾向があった。震災後の住居形態では仮設住宅の人、同居家族の有無の
変化では独居者が他群と比較して震災後に点数が下がりにくい傾向があった。震災後は、
属性やソーシャルサポートの有無に関わりなく SC が低下した。特に集団避難地域でない地
域に住んでいる人、震災後にソーシャルサポートがなくなった人、経済状況が悪化した人
はよりソーシャルキャピタルが大きく低下しており、より多くの支援が必要な対象である
こと、また近所づきあいなどのネットワークを構築しやすい環境づくりをしていく必要が
あることが示唆された。
Ⅰ:はじめに
3.調査方法
東日本大震災では福島や岩手などの東北
対象者に調査用紙を総合健診問診票ととも
地方を中心に甚大な被害が生じ、2012 年 8
に郵送配布し、健康診査受診会場にて留め
月の段階で、死者 15868 人、行方不明者
置き法で回収する。
2848 人、負傷者 6109 人、建物被害は全壊
4.調査項目
が 129316 戸、半壊が 283845 戸などとなっ
1)属性に関する質問項目として性別、年齢、
ている。1)
婚姻状況、就業状況、社会参加状況、同居
震災後、多くの人が住まいを離れ、長期
の有無、住まいの地理状況をたずねた。
に避難生活を送らなければいけない状況と
2)震災前後での SC の度合いの関する質問
なった。避難生活を送る人には、個人の生
項目として本橋ら 5)6)の尺度を用いる。なお
活の再建という課題の他に、コミュニティ
本研究では得点範囲が 0-15 点までの 5 項目
の再建という課題もある。
を合計した得点を算出し、得点が高いほど
公衆衛生学の領域にソーシャルキャピタ
SC の度合いが強いことを意味するものと
ル(以下 SC)という概念があり、SC は、
して扱う。
「社会活動の特徴であるネットワーク
5.分析方法
(network)、規範(norms)、信頼(trust)とい
属性の項目ごとに震災前後の SC 点数差を
ったものであり、協調的な行動を促進する
クラスカル・ウォリス検定で多重比較した
ことで社会の効率性を改善するものであ
後、各群を U 検定で示された結果をボンフ
る」と言われている 2)。精神健康度、自殺
ェローニ法で調整し比較した。
予防との関連が報告されており
3)-5)、
地域住
統計分析には SPSS 21.0
for windows
民の精神的健康や自殺予防に欠かせない概
を用い、5%を有意水準とした。
念である。
6.倫理的配慮
本研究では震災のために長期に避難生活
京都大学倫理審査委員会の承認と、大熊町
を送る成人を対象に、震災前と震災後の SC
の倫理的規定に基づく判断で決済を受け、
および関連が予想される因子を測定し、震
倫理的配慮を行った。主な点は以下の内容
災前後の SC の変化の程度に関連する要因
である。
を検討した。
1)情報管理について
・調査用紙には表紙をつけ、回収の際に回
Ⅱ:研究対象と方法
答した内容が見えないようにする。
1.調査対象
・回収された調査用紙には本調査用 ID 番号
福島県大熊町に住民票を置く 20 歳以上の
を付け、匿名性を確保する。
男女のうち、県内の総合健診会場に申込み
・データの保存媒体はセキュリティ機能を
を行った 1595 名
持ち、パスワードロック機能アクセス制御
2.調査期間
を行い管理し、パソコンは LAN 接続しない
平成 24 年 10 月(倫理委員会承認後)~25 年
研究専用のものを使用する。
3 月まで
2)理解を求め同意を得る方法
・研究参加への同意は質問調査用紙に趣
後に点数が下がりにくい傾向があった。ま
旨・方法・倫理的配慮を記入した表紙をつ
た震災後の住居地による差が認められ、年
けておき、読んでいただいた上で質問調査
齢、性別、震災前後の職業の変化において
用紙の提出をもって同意したものとみなす。
は群間に差は見られなかった(図2)
。
Ⅲ:結果
Ⅳ:考察
震災後、全体的に SC 低下が見られた。
① アンケート回収率
特に、震災後に社会的活動を行うことがで
アンケート回収率は 92.7%(1478 名)で
きなかった人、支援を失った人は顕著に SC
あった。また回収されたもののうち以下の
低下が見られたことから、これらの特徴を
項目すべてに回答している人数は 990 名
持つ人に対してはより多くの支援が必要で
(62.1%)であった。
あると示唆された。
また、震災後の住居地区によって SC の
② 対象者の基本属性に関して
低下に差が出た理由として、会津若松市と
対象者の平均年齢は 57.3 歳で男性が
いわき市では、市の面積が倍以上違い、震
38.3%、女性が 61.7%であった。また、全
災前に近所付き合いがあった人たちが避難
体の約 53%の方が震災後に失職し、
約 49%
先として同じいわき市に移転したとしても
の方が、経済状況が悪化していた(表1)。
住居地の距離が遠くなり、近所付き合いが
減ったという事例が多いことが関係してい
③ 全体での震災前後の SC 合計点数、SC
の変化
るのではないかと考えられる。
震災後の住居形態によって SC の低下に
対象者全体での震災前後の SC、震災前後
差が出た理由として、仮設住宅はもともと
での変化量の平均値±標準偏差は、それぞれ
近所づきあいのある人が多く近くの地区に
11.2±2.69 点、6.48±3.49 点、-4.68±4.07
配属されるため、移転後も近所の人々との
点であった(図1)
。
関係性を構築しやすいことが関係している
と考えられる。
④ 属性ごとの SC 点数差の比較
以上の 2 点から、震災後に近所づきあい
属性ごとに比較した結果、婚姻状況では
が構築しやすい環境であることが SC 低下
現在同居している既婚者、地域活動の有無
を軽減することにつながることが示唆され
の変化では震災後に活動しなくなった人、
る。
物質的・金銭的支援者の有無の変化では震
本橋 5)6)は、地域において近隣づきあいな
災後にいなくなった人、経済状況の変化で
どのネットワークを強化すること、相互信
は悪化した人が他群と比較して震災後に点
頼・相互扶助を強化すること、社会的活動
数が下がりやすい傾向があった。震災後の
への住民の積極的参加を図ることが、地域
住居形態では仮設住宅の人、同居家族の有
の SC を増加させることにつながり、また
無の変化では独居者が他群と比較して震災
地域の自殺予防に良い影響を与えると述べ
ている。このことからも近所づきあいが構
2) Putnam, Robert D, etc 1992. Making
築しやすい環境づくりを、自治体を中心と
Democracy Work: Civic Traditions in
して推進していく必要があるのではと考え
Modern Italy. Princeton University
られる。しかしながら、自治体職員も被災
Press.[河田潤一訳. 2001.『哲学する民
者であり、マンパワー不足で対応困難な面
主主義
もある。他の地域からの保健師の派遣、福
NTT 出版.]
-伝統と改革の市民的構造』
祉事務所や民生委員などインフォーマルサ
3) 儘田徹:日本におけるソーシャル・キ
ポートとの連携を積極的に行い、支援体制
ャピタルと健康の関連に関する研究の
を強固にしていくことが重要であると考え
現状と今後の展望.
られた。
護学部紀要 16 : 1-7. 2010
4) 埴淵知哉,
愛知県立大学看
村田陽平, 市田行信
他:
Ⅴ:結論
保健師によるソーシャルキャピタルの
本研究では以下のことが示された。
地区評価.日本公衆衛生雑誌, 55(10) :
・震災後、全体的に SC が低下した
716-723. 2008
・震災後に社会的活動を行わなかった人、
5) 本橋豊,金子善博,山路真佐子:ソー
支援が受けられなくなった人、経済状況が
シャル・キャピタルと自殺予防. 秋田
悪化した人は特に SC が低下した
県公衆衛生学雑誌 3(1) :21-31. 2005
・震災後の住居地域によって SC の変化に
6) 本橋豊:地域づくり型自殺予防対策の
差があった
有効性に関する研究―ソーシャルキャ
・震災後の住居形態が仮設住宅である人は
ピタルモデルの構築―, 2007 年度科学
他の形態の人と比べて SC が低下しなかっ
研 究 補 助 金 研 究 成 果 報 告
た
書 ,http://kaken.nii.ac.jp/pdf/2009/sei
これらのことを踏まえ、震災後、社会的
ka/jsps-1/11401/18390193seika.pdf
活動を行わなかった人、支援が受けられな
くなった人、経済状況が悪化した人に対し
Ⅶ:研究発表
てより多くの支援が必要であること、また
1. 論文発表
近所づきあいなどのネットワークを構築し
やすい環境づくりをしていく必要があるこ
1) Miyata C, Arai H, Suga S, Nurse
manager's recognition behavior with
とが示唆された。
staff nurse in Japan -Based on
semi-structures
Ⅵ:参考文献
1) 警視庁、東日本大震災について
状況と警察措置.
被害
警視庁ホームペー
interviews,
Open
Journal of Nursing, 4(1):1-8, 2014.
2) Chen
LK,
Liu
P,
LK,
Woo
Auyeung
J,
ジ
Assantachai
TW,
http://www.npa.go.jp/archive/keibi/bi
Bahyah KS, Chou MY, Chen LY, Hsu
ki/index.htm
PS, Krairit O, Lee JS, Lee WJ, Lee Y,
Liang CK, Limpawattana P, Lin CS,
Peng LN, Satake S, Suzuki T, Won
Dir Assoc, 14(12): 911-5, 2013.
8) Miyata
C,
Arai
H,
Suga
S,
CW, Wu CH, Wu SN, Zhang T, Zeng
Perception Gaps for Recognition
P, Akishita M, Arai H, Sarcopenia in
Behavior between Staff Nurses and
Asia: consensus report of the asian
Their Managers, Open Journal of
working group for sarcopenia, J Am
Nursing, in press.
Med Dir Assoc, 15(2):95-101, 2014.
9) Sampaio
3) Arai H, Akishita M, Chen LK,
Yamada
PYS,
Sampaio
M, Ogita
RAC,
M, Arai
H,
Growing research on sarcopenia in
Validation and Translation of the
Asia, Geriatr Gerontol Int, 14 Suppl
Kihon Checklist (frailty index) into
1:1-7, 2014.
Brazilian
4) Yamada M, Moriguch Y, Mitani T,
Aoyama T, Arai H, Age-dependent
Portuguese,
Geriat
Gerontol Int, in press.
10) Sampaio
RAC,
Sampaio
PYS,
changes in skeletal muscle mass and
Yamada M, Tsuboyama T, Arai H,
visceral fat area in Japanese adults
Self-reported quality of sleep is
from 40 to 79 years-of-age, Geriatr
associated with bodily pain, vitality
Gerontol Int, 14 Suppl 1:8-14, 2014.
and
5) Sampaio RA, Sewo Sampaio PY,
Yamada M, Yukutake T, Uchida MC,
cognitive
Japanese
impairment
older
adults,
in
Geriat
Gerontol Int, in press.
Tsuboyama T, Arai H, Arterial
11) Tanigawa T, Takechi H, Arai H,
stiffness is associated with low
Yamada M, Nishiguchi S, Aoyama T,
skeletal muscle mass in Japanese
Effect
community-dwelling older adults,
memory function in older adults
Geriatr Gerontol Int, 14 Suppl
with mild Alzheimer’s disease and
1:109-14, 2014.
mild cognitive impairment, Geriat
6) Miyata
C,
Arai
Characteristics
of
H,
Suga
the
S,
of
physical
activity
on
Gerontol Int, in press.
nurse
12) Yukutake T, Yamada M, Fukutani N,
manager's recognition behavior and
Nishiguchi S, Kayama H, Tanigawa
its relation to sense of coherence of
T, Adachi D, Hotta T, Morino S,
staff nurses in Japan, Collegian
Tashiro Y, Arai H, Aoyama T,
Online publication, pp.1-9, 2013.
Arterial stiffness determined by
7) Yamada M, Nishiguchi S, Fukutani
cardio-ankle vascular index (CAVI)
N, Tanigawa T, Yukutake T, Kayama
is associated with poor cognitive
H, Aoyama T, Arai H, Prevalence of
function
sarcopenia in community-dwelling
elderly, J Atheroscler Thromb, in
Japanese older adults, J Am Med
press.
in
community-dwelling
13) Yamada M, Arai H, Nishiguchi S,
Okamura T, Miyamato Y, Small
Kajiwara Y, Yoshimura K, Sonoda T,
Dense
Yukutake T, Kayama H, Tanigawa T,
Cholesterol can Predict Incident
Aoyama T, Chronic kidney disease
Cardiovascular Disease in an Urban
(CKD) is an independent risk factor
Japanese Cohort: The Suita Study, J
for long-term care insurance (LTCI)
Atheroscler Thromb, 20(2):195-203,
need
2013.
certification
Japanese
adults:
prospective
Gerontol
among
A
cohort
Geriatr,
older
Lipoproteins
two-year
study,
57(3):
Arch
328-32,
2013.
2. 学会発表
1) Arai H, Family care for frail older in
Japan (Symposium) Role of family in
14) Sampaio
Yamada
Low-Density
RAC,
M,
Sampaio
Ogita
care
of
older
people
in
Asian
Sandra
countries, The 9th Congress of the
Marcela Mahecha Matsudo, Raso V,
EUGMS (European Union Geriatric
Tsuboyama
Medicine Society), Oct.2-4 2013,
T,
Arai
M,
PYS,
H,
Factors
associated with falls in active older
adults in Japan and Brazil, J Clin
Gerontol Geriatr, 4(3):89-92, 2013.
Venice Lido, Italy.
2) Arai
H,
(Symposium)
Health
Promotion and Disease Prevention
RAC,
for older persons: Cardio metabolic
H,
healthcare in older people in Japan,
Importance of Physical Performance
IAGG2013 (The 20th IAGG World
and Quality of Life for Self-Rated
Congress
Health in Older Japanese Women,
Geriatrics), Jun. 23-27 2013, Seoul,
Phys Occup Ther Geriatr, 31:1-11,
Korea.
15) Sampaio
PYS,
Sampaio
Yamada M, Ogita M, Arai
2013.
Of
3) Yamada
Gerontology
M,
And
Nishiguchi
S,
16) Akishita M, Ishii S, Kojima T,
TanigawaT, Kayama H, Yukutake,
Kozaki K, Kuzuya M, Arai H, Arai H,
Aoyama T, Arai H, Nutritional
Eto M, Takahashi R, Endo H, Horie
supplementation during resistance
S, Ezawa K, Kawai S, Takehisa Y,
training improved skeletal muscle
Mikami H, Takegawa S, Morita A,
mass
Kamata
Japanese
M,
Ouchi
Y,
Toba
K,
in
community-dwelling
frail
older
adults,
Priorities of healthcare outcomes for
IAGG2013 (The 20th IAGG World
the elderly, J Am Med Dir Assoc,
Congress
14(7):479-484, 2013.
Geriatrics), Jun. 23-27, 2013, Seoul,
17) Arai H, Kokubo Y, Watanabe M,
Sawamura T, Ito Y, Minagawa A,
Of
Gerontology
And
Korea.
4) Arai H, (Symposium) Roundtable On
Advances In Strat Egies On Fall
9) 大倉美佳, 荻田美穂子, 山田実, 荒井
Prevention: Prevention Of Falls By
秀典, 基本チェックリスト未回収者に
Complex
Obstacle
おける二次予防事業対象者の把握, 第
Negotiation Exercise In Japanese
72 回日本公衆衛生学会総会, 2013 年
Elderly,
IAGG2013
10 月 23 日〜25 日, 三重県総合文化セ
IAGG
World
Course
(The
20th
Congress
Of
Gerontology And Geriatrics), Jun.24,
ンター(三重)
10) 荒井秀典, 山田実, 青山朋樹, サルコ
Jun. 23-27 2013, Seoul, Korea.
ペニアおよびサルコペニア肥満は要
5) Arai H, (Symposium) Frailty And
介護と関連する, 第 34 回日本肥満学
Sarcopenia: Reversibility Is The
会, 2013 年 10 月 11 日〜12 日, 東京国
Main And Common Characteristics
際フォーラム(東京)
Of
Frailty
Sarcopenia,
11) 荒井秀典, 糖尿病大血管症の予防・治
IAGG2013 (The 20th IAGG World
療を目指した脂質管理の EBM, シン
Congress
And
ポジウム 3「糖尿病大血管症の予防・
Geriatrics), Jun. 23-27 2013, Seoul,
治療を目指した新しい治療戦略」, 第
Korea.
28 回糖尿病合併症学会, 2013 年 9 月
Of
And
Gerontology
6) 荒井秀典, ACC/AHA ガイドラインを
どう読み解くのか?, 第 14 回動脈硬
化教育フォーラム, 2014 年 2 月 2 日,
仙台国際センター(宮城)
13 日〜14 日, 旭川グランドホテル(北
海道)
12) 荒井秀典, 動脈硬化性疾患予防ガイド
ライン普及啓発セミナーにおけるア
7) 荒井秀典, 動脈硬化性疾患予防ガイド
ンケート調査, 第 45 回日本動脈硬化
ライン・治療ガイドのエッセンスー血
学会総会・学術集会, 2013 年 7 月 18
清脂質評価の最新の考え方ーシンポ
〜19 日, 京王プラザホテル(東京)
ジウム 「動脈硬化性疾患の予防およ
び診療における脂質検査の現状と課
題」, 第 60 回日本臨床検査医学会学術
集会, 2013 年 10 月 31 日〜11 月 3 日,
神戸国際会議場(兵庫)
8) 林幸史, 荒井秀典, 大倉美佳, 山田実,
高橋万紀子, 新田真由美, 天谷真奈美,
廣島麻揚, 大規模災害による長期避難
生活者のソーシャルキャピタルの変
化に関連する要因, 第 72 回日本公衆
衛生学会総会, 2013 年 10 月 23 日〜25
日, 三重県総合文化センター(三重)
年齢
平均年齢±SD
性別
震災後の住居地域、住居形
態
婚姻状況
震災前後の経済状況の変化
20代
30代
40代
50代
60代
70代
80代
90代
57.3±14.2
男
女
会津若松市の借り上げ住宅
会津若松市の仮設住宅
会津若松市のその他の形態
いわき市の借り上げ住宅
いわき市の仮設住宅
いわき市のその他の形態
その他の市町村の借り上げ住宅
その他の市町村の仮設住宅
その他の市町村のその他の形態
その他
未婚
既婚(同居)
既婚(別居、死別)
悪くなった
変わらない
良くなった
その他
仕事形態
会社員
アルバイト
自営業・農林水産
業
無職
その他
同居家族の有無
有
無
相談相手の有無
有
無
地域活動の有無
有
無
物質的、金銭的な支援者の有無
有
無
表1:対象者の基本属性(n=990)
人数
38
112
134
186
314
158
46
2
%
3.8
11.3
13.5
18.7
31.7
16
4.6
0.2
379
611
245
173
4
236
109
31
136
4
18
34
96
740
154
484
436
51
19
38.3
61.7
24.7
17.5
0.4
23.8
11.0
3.1
13.7
0.4
1.8
3.4
9.7
74.7
15.6
48.9
44.0
5.2
1.9
震災前 人数
278
191
%
28.1
19.3
震災後 人数
65
52
%
6.6
5.3
194
19.6
31
3.1
317
10
60
930
939
51
513
477
833
157
32.0
1.0
6.1
93.9
94.8
5.2
51.8
48.2
84.1
15.9
833
9
123
867
883
107
299
691
778
212
84.1
0.9
12.4
87.6
89.2
10.8
30.2
69.8
78.6
21.4
図1:全体での震災前後のソーシャルキャピタルの点数(n=990)
図2:属性ごとのソーシャルキャピタルの点数差の比較(n=990) *:P<0.01,平均値±SEM
平成 25 年度 厚生労働科学研究費補助金(障害者対策総合研究事業(精神障害分野)
)
被災地における精神障害等の情報把握と介入効果の検証及び
介入手法の向上に資する研究
分担研究報告書
岩手県こころのケアセンターの活動の分析
分担研究者
酒井明夫
1)
研究協力者
大塚耕太郎
1)、2)
1)岩手医科大学医学部神経精神科学講座
2)岩手医科大学医学部災害・地域精神医学講座
研究要旨
東日本大震災津波により岩手県沿岸地域では甚大な被害を受けた。災害発生当初 1 週間目より岩手医科大
学では、こころのケアの体制を整備し、活動を開始した。こころのケアチームとして岩手県では約 30 チーム
が活動を行い、岩手医科大学こころのケアチームも岩手県北沿岸にて震災後のこころのケアのモデル構築を
県、市町村、関係機関と連携しながら行った。多職種専門職によるこころのケアチームによるこころのケア
を中長期的に継続していくために、岩手県こころのケアセンターによる事業が岩手県から岩手医科大学内に
「地域こころのケアセン
業務委託された。岩手医科大学では「岩手県こころのケアセンター」を同大学内に、
ター」を沿岸4か所に設置した。こころのケアセンターの活動方針は、これまでこころのケアチームが担っ
てきた地域・地元市町村支援を中心とした活動を出発点とし、活動当初は専門職による支援を念頭におきつ
つ、中長期的には地域主体になる支援への移行を目標としている。現在の岩手県こころのケアセンターの具
体的な活動としても、1)訪問活動などを通じた被災者支援、2)震災こころの相談室による精神科医師、
精神保健専門職による個別相談、3) 市町村等の地域保健活動への支援、4)従事者支援、5)自殺対策、
6)その他地域のニーズによる活動、を骨子として活動している。平成 25 年度においても、被災地域におけ
るこころのケアセンターで対応した相談者の主訴では身体症状、他の精神症状、不眠が多かった。身体症状
は抑うつや不安を背景とした症状が考えられた。背景の問題として、住居環境変化、家族・家庭問題等が目
立っており、二次的生活変化によるストレス過重の問題が出現していると考えられた。住民はいまだに不自
由で困難な生活を送っており、今後も被災地におけるこころのケアを推進していく必要があると考えられた。
Keywords
災害、岩手県、こころのケア、
A.はじめに
平成 23 年 3 月 11 日に発生した東日本大震災以後、
が設置され、災害医療に全学的に取り組んだ。岩手
県の災害対策本部に岩手医科大学も加わり、精神科
岩手医科大学では被災地におけるこころのケアに取
スタッフも足を運んだ。また、岩手県災害医療支援
り組んできた。震災から 3 年目に入り、被災後のこ
ネットワーク(岩手県担当各課(保健福祉部、医療
ころのケアは長期的な復興を視野にいれた段階にき
局など)
、岩手医科大学、岩手県医師会、日本赤十字
ている。
病院、国立病院機構)においても岩手医科大学神経
精神科学講座スタッフも参加し、災害医療の全体的
B.初動期
岩手医科大学では災害発生当日より災害対策本部
な流れの中でのこころのケアについての情報共有や
方法論提示等を行った。3 月 15 日より 3 月 22 日ま
で、岩手医科大学における災害派遣医療チームにメ
田村こころの健康相談センターを中心に、相談、訪
ンタルヘルス関連各科(精神科、心療内科、睡眠医
問、従事者教育、保健事業への協力などの支援活動
療科)が加わり、岩手県沿岸での災害医療を開始し
を行った。
た。
D.こころのケアチームとしての中期的活動
C. こころのケアの受入体制の整備
保健医療福祉分野での対策としては、災害ではこ
東日本大震災発生時より、災害医療においては、
ころ、身体、運動、栄養、対人交流、生活習慣など
こころのケアが重要領域の一つであり、最終的にこ
の健康問題が継続して課題となるため、包括的な健
ころのケアチームに代表される多職種による精神保
康問題への対策として保健事業計画を講じる必要性
健チームを被災地へ派遣することが想定された。現
がある。また、就労、経済、生活面での問題も併存
地では、保健所や市町村など行政との連携なくして、
しているため、生活支援など対策との連携も必要で
継続的な活動は困難である。加えて、現場の行政と
ある。そして、問題への対処行動がメンタルヘルス
連携や調整を行う必要がある。さまざまな支援チー
に与える影響も大きいため、問題の抽出と介入をセ
ムを現地の行政が調整することは負担が大きい。こ
ットでとらえる必要がある。
のため、岩手県における支援チームに関しても、当
仮設住宅入居が開始されると、それまでの避難所
初より窓口は岩手県に一本化して、現地との調整を
の集団生活から個々の生活へ状況が変化する。個別
図る方針が出された。4 月上旬に、災害時のこころ
なケアとして、訪問だけでなく、震災こころの相談
のケアの対策の中長期的計画を立案し、全県へ方向
室の体制整備や、関係機関との連携した支援も重要
性の周知を図った。
となった。また、地域精神保健福祉的介入としての、
住民教育や、関係従事者へのケア的な視点や、教育
C.こころのケアチームの派遣
的アプローチを重視した。加えて、集会場でのサロ
1.発災直後から平成 24 年 3 月まで全国から 30
ン活動を実践し、安心して語れる場づくりを行い、
チーム以上の「こころのケアチーム」の派遣をうけ
地域住民のつながりや絆を構築できるようなことを
た。県、市町村、地域の関係機関が密接に連携し、
重視して、地域の関係従事者の教育を実施した。
こころのケア対策を推進した。こころのケアチーム
こころのケアを実践する上では、地域市町村の保
は保健所、市町村との連携、指示のもとで避難所巡
健師や看護師、栄養士、職員などや、県保健所の保
回、相談、診療が行われた。また、仮設住宅への入
健師等、児童相談所職員、保健師や他の医療チーム
居後も、継続して、保健師の訪問への同行や、困難
などと連携を取ってきた。
ケースのスーパーバイズなどの後方支援的活動や市
地域支援をひろげていくために、地域の医療従事
町村保健師からの依頼ケースの対応も行われた。ま
者、相談窓口担当者、メンタルヘルス関連の従事者
た沿岸 7 地域に震災こころの相談室を設置し、震災
等に対して、被災者の支援法を教育していくことが
ストレス関連の相談対応の拠点も整備された。
求められた。例えば、こころの危機を迎えているも
3 月 24 日より岩手県北沿岸の久慈地域において岩
のへの低強度の認知行動療法的アプローチや、筆者
手県のこころのケアチームとして、岩手県立久慈病
の研究班(平成 22 年度科学研究費補助金基盤 C「医
院、久慈享和病院、日本医科大学、九州大学、大分
療、精神保健、および家族に対する精神科的危機対
大学、順天堂大学、澤病院の協力を得て、該当 4 市
応の習得を目的とした介入研究」
,主任研究者)も作
町村、久慈保健所、久慈医師会と連携し、活動を開
成に加わったメンタルヘルス・ファーストエイドを
始した。当初、ケアチームの活動は避難所巡回、ハ
もとにした内閣府のゲートキーパー養成プログラム
イリスク者の個別訪問、遺族支援、従事者ケアを中
(内閣府 HP:http://www8.cao.go.jp/jisatsutaisa
心として開始した。岩手医科大学での災害時のここ
ku/kyoukagekkan/gatekeeper_text.html)などでは、
ろのケアの活動は、岩手県におけるモデル構築の位
被災地の従事者教育やゲートキーパー養成に活用さ
置づけとなることもあり、岩手県障がい保健福祉課
れた。
や岩手県精神保健福祉センターと相互補完的な協力
地域では健診をはじめとした住民への保健事業へ
体制をとってきた。久慈地域(久慈市、洋野町、野
こころのケアの観点を含めて支援を行った。たとえ
田村、普代村)を担当し、災害の相談拠点である野
ば、健診とメンタルヘルスのスクリーニング事業を
組み合わせることなどがその一例である。
こころのケアセンターの活動方針は、これまでこ
行政職員や消防署員なども大震災の復旧復興業務
ころのケアチームが担ってきた地域・地元市町村支
等に係り勤務時間の増加など被災後の強いストレス
援を中心とした活動を出発点とし、活動当初は専門
を経験したものも多数おり、職員の健康状態が懸念
職による支援を念頭におきつつ、中長期的には地域
されていた。職場のメンタルヘルス対策への協力や
主体になる支援への移行を目標としている。
ハイリスク者の対応なども行った。
また、被災以前より岩手県では自殺対策などの領
そして、地域の自殺対策を推進することも当初よ
域で、精神科医療等の社会資源に乏しく、少ない社
りこころのケアの重要な骨子として位置づけてきた。
会資源を有効に活用し、様々な機関によるネットワ
岩手県では震災前より県北の久慈地域における自殺
ークを構築し、マンパワーの不足を機関相互の連携
対策「久慈モデル」を全県的なモデルとして自殺対
により補う精神保健体制を推進してきた。震災後の
策を岩手県、岩手医科大学等の協力により進めてき
こころのケア活動も同様に、こころのケアセンター
た。
が地域の支援体制に加わり、市町村や関係機関との
密接な連携のもと、地域のネットワークの構成機関
E. 岩手県こころのケアセンターの設置
として活動することが求められる。
災害発生当初は、医師、看護師、保健師、臨床心理
そして、
「医療」、
「保健」、
「福祉」の三領域において、
士、精神保健福祉士、社会福祉士など精神科専門職
こころのケアセンターは「保健」の領域における活
で構成されるこころのケアチームが被災地の保健
動を主体として、
「医療」、
「福祉」の領域との連携を
所・自治体との連携・指示により避難所での巡回相
図りながら、支援を行っていく。たとえば、被災者
談や診療が行われる。東日本大震災でも大規模災害
へのメンタルヘルス対策としての医療化させないた
であったため、県内の支援だけではチームの充足は
めのこころの健康づくりなどをとおした予防介入や
困難であり、全国の病院や行政機関などから派遣を
健康増進、医療が必要な者への早期介入、継続的な
受けた。財源としても災害救助法の範疇で支援が提
相談支援による見守り、サロン活動などでの保健活
供されていた。その後、仮設住宅が設置されていく
動の提供、従事者への支援 など幅広い支援を地域の
と、仮設住宅への訪問や保健事業の支援が必要とな
状況に合わせて提供することが目標となった。
る。避難所設置時期では被災住民へ集団的介入が可
能な時期であるが、仮設住宅へ入居後は、被災住民
F.岩手県こころのケアセンターの具体的な活動
の個別介入が主体となる。岩手県においても、平成
1)こころのケアセンターの活動骨子
23 年 4 月より被災の影響が強い自治体において震災
被災地のメンタルヘルスとしては、メンタルヘルス
こころの相談室を開設し、個別相談や支援者へのス
不調者への個別介入だけでなく、被災地住民のメン
ーパーバイズ等が開始され、同年 8 月までに最終的
タルヘルスリテラシーの向上、住民の相互交流の再
に 7 か所に設置された。
構築、生活支援との連携、従事者へのメンタルヘル
こころのケアチームは、保健所・市町村との連携・
ス対策など包括的な対策が求められる。中長期には
指示により、主に避難所を巡回し、相談や診療等を
自殺対策事業の構築も重要であり、平成 24 年 8 月に
行ってきた。そして、仮設住宅の設置とともに、保
改正された自殺総合対策大綱では、自殺対策として
健師の訪問活動への同行、困難ケースへの対応、ス
「4.心の健康づくりを進める」の項目で、あらた
ーパーバイズなど、市町村毎の精神保健活動の状況
に「(4)大規模災害における被災者の心のケア、生
を踏まえながら、地域や市町村が主体となった活動
活再建等の推進」が課題として提示された。
への支援を中心に行ってきた。
現在の岩手県こころのケアセンターの具体的な活
このような多職種専門職によるこころのケアチー
動としても、1)訪問活動などを通じた被災者支援、
ムによるこころのケアを中長期的に継続していくた
2)震災こころの相談室による精神科医師、精神保
めに、こころのケアセンターによる事業が構築され
健専門職による個別相談、3)市町村等の地域保健
た。岩手県では、岩手県から岩手医科大学内に業務
活動への支援、4)従事者支援、5)自殺対策、6)
委託により「岩手県こころのケアセンター」を同大
その他地域のニーズによる活動、を骨子として活動
学内に、
「地域こころのケアセンター」を沿岸4か所
している。特に、中長期的視点で考えた場合には、
に設置された。
地域の人材を育成していく人づくりの視点が最重要
課題である。地域支援をひろげていくためには、地
(1)被災地における住民のメンタルヘルスや生活状
域の医療従事者、相談窓口担当者、メンタルヘルス
況の変化の把握
関連の従事者等に対して、被災者の支援法を教育し
現在、被災地では高台移転や復興住宅への住民の入
ていくことが求められる。例えば、こころの危機を
居が開始されている。被災者の生活と合わせた適切
迎えているものへの低強度の認知行動療法的アプロ
な支援につなげるために、住民のメンタルヘルスの
ーチは、相談対応の時に役立つため、ボランティア
変化のプロセスの実態を踏まえた対応を行っていく。
レベルから医療従事者レベルまでの教育を実践して
(2)メンタルヘルス不調者に対する健康面と生活面
きた。また、自殺対策と災害支援はそれぞれに困難
の両面の支援
を抱えた人を支援するというアプローチであり、方
被災者は徐々に自立的生活を求められるようにな
法論、システム、人材養成等で共役性がある。内閣
る。生活の回復に至らない場合にメンタルヘルス不
府での自殺対策緊急強化基金などは災害支援の中で
調を呈することが従来から指摘されており、健康面
の自殺対策としての活用が推進されている。
に加えて生活面も含めたケア体制を地域で構築して
平成 24 年度および平成 25 年度(途中経過)の活
いく。
動の概要を、表1にしめした。活動開始当初から、
(3)被災地における地域ケアの充実化:こころの健康
沿岸各地域において行政、関係機関と調整を行った。
づくりと自殺対策
また、関連の事業調整で、地域のニーズも踏まえて
ケアセンター事業を具体的に検討していった。
被災地沿岸では、精神科医療施設及び精神科医が
少ない。精神医療に加えて、こころのケア活動によ
相談者の主訴では平成 24 年度(図1)と平成 25
る予防的介入としての精神保健活動における地域ケ
年度(図2)では身体症状、他の精神症状、不眠が
アが充実することで、住民がこころの健康を享受で
多いという傾向は同様であった。身体症状は抑うつ
きる。そのためには、住民への普及啓発や支援者へ
や不安を背景とした症状が考えられた。
の教育等の地域づくりとしてすすめる健康づくり事
平成 24 年度の背景の問題(図3)では、住居環境
業や自殺対策事業を浸透させていく必要がある。深
変化、家族・家庭問題等が目立っており、二次的生
刻な問題を抱えメンタルヘルス不調となっている自
活変化によるストレス過重の問題が出現していると
殺ハイリスクの住民も少なくないため、自殺対策は
考えられた。平成 25 年度(図4)は健康問題も背景
必須の課題である。これまで、岩手医科大学と岩手
として抽出することにしたが、健康問題が多くその
県がすすめてきた「久慈モデル」による総合的な自
他、平成 24 年度と同様に被災生活での悩みが検知さ
殺対策モデルを地域に展開していく必要がある。骨
れていた。
子になった戦略研究の自殺対策のエビデンスも明ら
今後も、保健事業などの支援により住民がこころ
かとなった(Ono Y et al. Pros one, 2013)
。また、
の健康に対する理解が深まっていくようなこころの
今後も精神保健活動を充実させるために、地域関係
健康づくりが推進されることが求められる。このよ
従事者に対するゲートキーパー養成研修プログラム
うな包括的なモデルは地域づくりでもあり、地域復
を地域に提供していく(大塚は内閣府のゲートキー
興における生活基盤と豊かな心をはぐくむことにも
パー養成研究プログラムにおいて被災地対応編の作
つながると考えられる。今だ地域は復興の真っ只中
成に協力してきた)。また、地域連携会議等において
であるが、被災地支援と自殺対策を連動させながら、
実務者のネットワーク活動をひろげていく。
今後もこころのケアセンターを含めた被災地保健医
(4)こころのケアに関する方法論の構築
療事業を推進し、被災地住民や各地の心理的危機に
岩手医科大学では、これまでも学術団体として地
ある方々への支援が行き届くような仕組みづくりが
域精神保健従事者や住民に対する教育活動を行って
推進される体制の構築が必要である。そして、健康
きた。今後も被災地の精神保健活動への支援として、
を大切にする地域づくりを通して、地域が再構築さ
適切な教育法や、支援法などのノウハウを構築し、
れ、地域住民がこころの豊かな生活を安心して享受
地域へ還元していく。
できる社会につながる取組を提供していくために、
(5)今後のこころのケアに対するニーズについて
長期的な視点で支援が提供されることが大切である。
被災者は持続的なストレスが継続しており、さら
に現実的な生活の様々な困難を抱え問題も長期化し
4)今後の課題
ている。このため、新たにメンタルヘルス不調を訴
える住民が出現し、ケアに対するニーズが増える可
て行った。
能性がある。また、今後、県内外からの支援団体が
撤退することも予測され、こころのケアの重要性が
さらに高まると考えられる。
(6)長期的支援のための計画や財源確保等の枠組み
G.研究倫理
ケアセンターにおける調査研究に関しては、大学
内の倫理委員会の承認を得ている。
の必要性
大規模災害により、地域の復興と住民の生活の回
H.終わりに
復に至るまでに、いまだにかなりの期間が必要と考
今現在も被災地住民は、住宅再建や住宅確保、地
えられ、その間、メンタルヘルス不調者が継続的に
域産業の再興、生活再建などさまざまな問題に直面
出現することが想定される。災害支援と自殺対策の
している。被災地住民のメンタルヘルスへこれらの
両面にわたって中長期的視点にたって地域事業を構
状況が及ぼす影響は大きいと想定され、今後はさら
築していく必要がある。地域住民への支援、人材養
にこころのケアへのニーズは高まっていくことが予
成、健康づくり等はいずれも長期的視点に立って事
想される。一方でこれまで指摘されていた精神科医
業を実施することが重要である。財源等も長期的展
や専門職の不足、そして今後見込まれる支援者の減
望にたって確保することが対策の基盤として重要で
少という問題もあり、財源の確保等の継続的な措置
ある。
も含めたこころのケアの推進体制の強化が必要とさ
岩手県は精神科医不足であり、ケアセンターで相
れる。精神医療機関の抱える現状と課題としては、
談室業務に従事する精神科医の確保も必須の課題で
精神科医の不足が従来からあり、中長期的に支援す
ある。このような状況の中、岩手県こころのケアセ
る精神科医の必要性、現場精神科医に負担をかけな
ンターにおいては、岩手県立病院の一戸病院、中央
いトリアージの必要性があり、精神保健相談・プラ
病院、南光病院、さらに国立病院機構の花巻病院、
イマリケアレベルの対応をケアセンターによる相
希望ヶ丘病院、未来の風晴和病院の医師派遣を受け
談・診察拠点が協力することが重要である。そして、
ている。また、学術団体として精神科救急学会が医
地域のさまざまな関係機関が重層的に支援を提供す
師派遣を行っている。さらに、全国精神医学講座担
ることで、被災者のこころに寄り添った支援が可能
当者会議の 16 大学による支援を受けている。このよ
となると考えられる。
うな県内外の支援の存在が、岩手県のこころのケア
の推進力を一層高めている。
当然ながら、精神保健従事者の安定的な確保も必
要となる。そして、支援者が行うべき支援の増加や
これまで被災地のこころのケアに携わっていただ
いた県内外の多くの方々の協力なしには被災地支援
は成立しない。支援いただいた関係各位にこころよ
り感謝している。
内容の多様化も見られてきており、支援者に対する
ケア体制の充実を図っていく必要がある。
文献
1. 大塚耕太郎、酒井明夫、中村光、赤平美津子:
F.情報発信
情報発信に関しては、時々に応じて新聞やテレビ、
ラジオ、広報などを通じて、被災後のメンタルヘル
ス状況や、対策等を通知した。また、各地域におい
て地域センターの情報周知をチラシや広報等を通じ
東日本大震災後の岩手県沿岸の住民のメンタ
ルヘルス対策について.精神神経学雑誌 115
(5):485-491、2013
表1.平成 24 年度岩手県こころのケアセンター活動概要(中央センター、地域センター)
領域
内容
被災者支援
相談利用延人数
7444
7999
15433
相談室実施回数
323
206
529
1294
763
2057
支援者面接人数
916
1478
2394
市町村,関係機関
等との連絡調整・
ケース検討等
会議参加
662
1110
1772
参加人数
1636
2565
4201
190
38
228
サロン,仮設集会
所等での活動への
支援
実施回数
48
73
121
296
579
875
住民健康教育,人
材養成研修等
実施回数
352
290
642
参加人数
12479
6276
18755
(特定健診,全戸
訪問等)への支援
実施回数
1627
1900
3527
参加人数
2455
1995
4450
167
564
731
117
115
232
5
11
16
266
207
473
97
145
242
580
484
1064
相談室利用延人数
ケース検討
参加人数
支援者に対する研 専門家による同行訪問
修,技術援助等
スーパーバイズ
保健師向け技術支援研修会
参加人数
センター職員研修
参加人数
図 1.平成 24 年度の相談主訴の内訳(N=7714)
H24.4-H25.3
H25.4-H25.12
合計
図 2.平成 25 年度の相談主訴の内訳(N=7988)
図1.相談の主訴
図⒉ 相談の主訴
(平成24年4月~平成25年3月 N=7,714)
(平成25年4月~平成25年12月 N=7,988)
図 3.平成 24 年度相談の背景にある主な原因別内訳
図3.相談の背景
(平成24年4月~平成25年3月 N=7,714)
図 4. 平成 25 年度相談の背景にある主な原因別内訳
図4.相談の背景
(平成25年4月~平成25年12月 N=7,988)
平成 25 年度 厚生労働科学研究費補助金(障害者対策総合研究事業(精神障害分野)
)
被災地における精神障害等の情報把握と介入効果の検証及び
介入手法の向上に資する研究
分担研究報告書
みやぎ心のケアセンターの活動分析
分担研究者
研究協力者
松本和紀
福地成
渡部裕一
片柳光昭
樋口徹郎
丹野孝雄
東北大学予防精神医学寄付講座
公益社団法人宮城県精神保健福祉協会
公益社団法人宮城県精神保健福祉協会
公益社団法人宮城県精神保健福祉協会
公益社団法人宮城県精神保健福祉協会
公益社団法人宮城県精神保健福祉協会
公益社団法人宮城県精神保健福祉協会
みやぎ心のケアセンター
みやぎ心のケアセンター
みやぎ心のケアセンター
みやぎ心のケアセンター
みやぎ心のケアセンター
みやぎ心のケアセンター
研究要旨
みやぎ心のケアセンターは東日本大震災により、心理的影響を受けた県内の住民がコミュニティーの中で、
一日も早く安心して生活できるよう、地域の実情に合わせた支援事業を行っている。阪神淡路大震災の後に
開設された兵庫県こころのケアセンターを皮切りに、我が国では大規模災害後に「こころのケアセンター」
が設置されている。こころのケアセンターの役割は、設置された自治体の特質、災害の性質、設置時期、地
域精神保健の状況などさまざまな因子に影響されるが、一方で、多くの災害を通じた普遍的な役割も有して
いる。本研究では、宮城県に設置されたみやぎ心のケアセンターの経時的な活動内容を分析することにより、
こころのケアセンターを通した大規模災害後の精神保健活動のあり方について検討し、今後の災害後の復興
支援について検討・準備することを目的とする。
本研究では昨年度に引き続き、平成 25 年 4 月から 12 月までの当センターの設置状況、その後の事業概要、
実情と課題についてまとめた。また、当センターで集計している活動内容を分析し、それぞれのフェーズで
各地域ではどのような支援を必要とされているのか検討を行った。さらに、集計には反映されない活動の実
情を可能な限り拾い上げ、記述的に検討を行った。
当センターの柱となる活動は①地域住民支援、②支援者支援、③人材育成、④普及啓発となっているが、
この中で特に重要な活動は①に該当する被災者の戸別訪問であり、地域における健康調査の結果から要フォ
ロー者への訪問を行った。ハイリスク者の選定基準は、各自治体の判断で設定されるが、当センターでは①
K6 が 13 点以上、②朝から飲酒、③65 歳以上で単身生活、④何らかの疾患の治療中断の 4 点を判断基準とし
て推奨した。多くの自治体では、K6 が 13 点以上の住民は 8~9%程度、朝から飲酒をしている住民は 1~2%
程度の範囲にあった。また、各自治体からの報告では身体疾患の発症と悪化、適切な治療を受けていないこ
とも危惧された。
開設当初はより多くの被災者に対して「浅く広く」と接触し、リスクの高い住民への見守りを行ってきた。
時間の経過とともに様々なストレス反応が自然軽快に向かう住民が増える一方で、軽快へ向かうことのでき
ないより少数の難治例に対して「狭く深く」対応することが求められる機会も増えてきた。当センターとし
て専門治療に対する知識の拡充および地域医療機関との連携強化が必要になると考えられた。
A. 研究目的
みやぎ心のケアセンターは東日本大震災により、
心理的影響を受けた県内の住民がコミュニティー
の中で、一日も早く安心して生活できるよう、地
域の実情に合わせた支援事業を行っている。本セ
ンターの活動内容を分析することにより、災害後
の中長期的なリカバリーセンターとしての役割を
検討し、今後の我が国の災害に備えることを目的
とする。
B. 研究方法
本センターで集計している活動内容を分析し、
それぞれのフェーズで地域ではどのような支援を
必要とされているのかを検討する。また、集計に
は反映されない活動の実情を可能な限り拾い上げ、
記述的に検討を行う。
C. 結果
1.当センターの概要
<職員の構成>
当センターの職員構成を資料 1 に示す。平成
24 年 4 月の発足当時は総数 34 名(常勤 28 名、
非常勤 6 名)で開始したが、徐々に増員が行わ
れ平成 26 年 1 月時点で 61 名(常勤 47 名、非
常勤 20 名)となった。職種としては精神保健福
祉士 26 名と最多になった。精神科医は 11 名で
あるがほとんどが非常勤であり常勤は 1 名であ
った。その他、心理士、保健師、看護師などの
多職種により職員は構成されていた。
<地域センターの設置>
宮城県では、基幹(仙台)
、石巻、気仙沼の 3
つの地域センターを設置し、人員をできるだけ
各センターに集約するような形で人員配置を行
っている。また、それぞれの地域センター長は
地域で活動する主要精神科医療機関の精神科医
に依頼する形をとり、地域の精神科医療関係者
との連携が図られるように配慮した。基幹セン
ター42 名(うち非常勤 14 名)で、宮城県の内
陸、東部、南部などの平野地域を仙台を拠点に
カバーしており、センター全体の統括も行って
いる。石巻地域センター14 名(うち非常勤 3 名)
は、石巻市、東松島市、女川町をカバーしてお
り、下記に示すような形で自治体などへの職員
派遣の比率(7 名)が高い。また、同地域には
「一般社団法人 震災こころのケア・ネットワ
ークみやぎが運営する「からころステーション」
があり、当センターと相補的な活動を行ってい
る。気仙沼センター11 名(うち非常勤 3 名)は、
気仙沼市と南三陸町をカバーしている。
<自治体への職員派遣>
当センターでは、心のケアセンターの人員を、
要請のあった被災自治体に対して精神保健業務
にかかわる専門職として派遣を行っている。派
遣された職員は、計 10 機関 11 名となり、昨年
度よりも要請が増えた(開設当時は計 6 機関 8
名)
。派遣された自治体において、住民個別相談
および自治体職員のメンタルヘルス相談、精神
保健福祉相談や健診業務など市町村の各種事業
の支援を行った。
2.地域住民への直接支援
平成 25 年 4 月~12 月の支援実績を示す(資料
2,3)
。活動総数は 4,345 件であり、家庭訪問が
2,563 件(59%)を占めた。月別の平均活動数は
483 件だった。昨年と比較して電話相談が減少し、
直接面接が増えた。なお、既存の電話相談窓口が
あるため、当センターは電話のホットラインの開
設は行っていない。対象者の年齢分布としては、
高齢女性が多い傾向が見られた。直接面談を行っ
た住人のうち 76.3%が精神疾患として診断が可能
なレベルにあり、疾患分類は F2,3 が多く、その約
7 割は震災後の新たな発症だった(資料 4)
。
3.普及・啓発事業
地域住人を対象とした普及啓発を目的とした研
修会は延べ 168 回実施し、参加人数は 2,774 名だ
った。
「うつ」、
「アルコール」、
「PTSD」
、
「不眠」
、
「悲嘆」、「子どもの理解と対応」の内容でパンフ
レットを作成し、関係機関へ配布した。年 4 回の
広報誌を作成し、関係諸機関へ配布した。当セン
ターのホームページを開設し、センターの事業内
容、各地域情報の発信や連携各機関のリンクを張
った。1 日平均 60 件のアクセスがあった。
4.人材育成・研修事業
復興に向けて必要となる知識や技術を習得した
人材を育成するために、専門職を対象とした研修
事業の企画を行った。延べ 199 回、参加人数は
3,884 名だった。特色のあるものを以下に記す。
<支援者交流会の実施>
行政や医療機関、教育機関の担当者や民間の
支援員などを対象に交流会を計 3 回行った。
様々な領域で活動を行う支援者同士が交流する
ことで、支援における連携を促進することを目
的とし、それぞれの職域における取組の報告や
情報交換を行った。
<心理支援スキルアップ講座>
合わせながら、調査の集計、ハイリスク者への
訪問、結果に基づいた啓発活動を行った。
・ 対象:県内の医療機関、教育機関、行政機関
などの心理職を中心にした 30 名
・ 内容:認知行動療法、うつ病や不安障害など
の心理支援に関すること。
①
<アルコール問題に特化した専門職育成事業>
震災以前からアルコール関連疾患に取り組ん
できた東北会病院との連携のもと、当センター
職員及び被災地の医療機関スタッフが集中的に
受講し、支援に必要な知識と実践的なスキルの
獲得によって関連問題に対応可能な人材育成を
行った。
②
5.支援者支援事業
被災者を身近に支える支援者への支援も重点的
に取り組んだ。延べ 1,263 件行った。その職域は
多岐にわたり、対人救助職や対人支援職、公的機
関の職員、または仮設支援員などの非専門職への
支援も行った。①事業企画・推進に関するコンサ
ルテーション、②住民支援に関するスーパーバイ
ズ、③職員のメンタルヘルス支援に大きく分類さ
れる。③の内容としては、講話を中心として各種
ロールプレイ、グループワーク、リラクゼーショ
ン、個別相談などをニーズに合わせて組み合わせ
て提供をした。
6. 住民健康調査実績
宮城県医療整備課と協力して、借り上げ仮設
住宅および応急仮設住宅を対象として健康調査
を行った(資料 5)
。平成 26 年 1 月現在までに
計 3 回(平成 24 年 1 月~3 月、平成 24 年 12
月~平成 25 年 3 月、平成 25 年 9 月~11 月)実
施した。K6 が 13 点以上の「中等度精神障害相
当」の住人は 8~10%程度みられた。朝から飲
酒している住人は 1~2%程度見込まれた。借り
上げ仮設よりも応急仮設に単身高齢者が居住し
ていることが想定された。
また、借り上げ仮設住宅対象の健康調査計 2
回を集計し、双方に返答している住民を対象と
して再集計を行った(資料 6)
。対象者は 13,095
名であり、K6 は減少傾向にあるものの、持病の
有無や朝から飲酒の割合は増加し、身体的な健
康状態の悪化が危惧された。
7. 自治体独自の健康調査への協力
県が主体として行った健康調査以外に、独自
の予算をもとに一部の市町村(松島町、多賀城
市、塩釜市)で健康調査を行った(資料 7)
。調
査様式は市町村それぞれで異なり、適宜助言を
行なった。前述の県の健康調査の結果と照らし
③
松島町
平成 24 年 4 月に特定健診の案内に同封して簡
単な健康調査を行った。つまり、対象者は 40
~74 歳の公的医療保険加入者となった。結果
からは著しい健康状態の悪化は考えられず、
継続した調査は行わないこととなった。町内
にある借り上げ仮設住宅 100 件前後を定期的
に全件訪問する形式となっている。
多賀城市
平成 24 年は多職種混成チームにより津波被
災地域を家庭訪問し、面接により健康確認を
行った。平成 25 年は居住者全世帯に郵送式で
行った。それゆえ母数は 24,25 年で異なって
いる。回収率も高く、戸別訪問の対象が 600
世帯を超え、マンパワーの不足が課題となっ
ている。
塩釜市
平成 24,25 年ともに特定健診の案内に同封
して簡単なアンケートを行った。つまり、対
象者は 40~74 歳の公的医療保険加入者とな
った。無記名式であったため、集計後のハイ
リスク者のフォローは行わなかった。また、
K6 などの心理評価尺度を用いておらず、対象
者の健康状態を推し量ることには限界がある。
8. 特定健診での相談窓口
特定健診に抱合せた「こころの相談窓口」は、
平成 24 年度は 4 市町村と協働して行ったが、平
成 25 年度は東松島市と松島町のみだった。地域
特定健診に抱き合わせる形で「こころの相談窓
口」を開設し、専門職を配置した。ハイリスク
の住人もしくは相談希望者に対して面接を行っ
た。
①
東松島市
特定健診の案内に同封して問診票を送付、健
診時の受付にて任意で提出してもらった。K6
により心の健康状態を、CAGE により飲酒状
況を確認し、その後の家庭訪問へつなげた。
②
松島町
特定健診の窓口にて K6 を行い、窓口に「心
の相談窓口」を併設、希望者にのみ専門職が
個別面接にて対応した。また、健診会社と協
働して機器による疲労度を測定し、その場で
フィードバックを行った。リスクの高い住民
に対しては継続して戸別訪問を行った。
9. サロン事業
仮設住宅に居住している地域住民に対して、安
定した日常生活を送ることができるように、集う
場所づくりとしてサロン事業を行った(資料 8)。
山元町、気仙沼市、塩釜市と協力してサロン活動
を行った。なお、名取市の応急仮設対象の活動は
平成 24 年 11 月で終了となった。
①
山元町「ほっとサロン」
全ての応急仮設の集会場で各 1 回ずつ実施し
た。看護師、保健師、精神保健福祉士、作業
療法士で運営した。専門職による講話、作業
療法士によるレクレーション(ストレッチ、
お茶会、簡単な物作り)
、個別相談を行った。
参加者の平均年齢は 70 歳を超え、女性が 6
割を占めた。
②
気仙沼市「心(ここ)カフェ」
借り上げ仮設住宅で生活する住民を対象とし
て、月に 1 回で実施した。当センターと気仙
沼市、社会福祉協議会で協力して行った。専
門職による講話、作業療法士によるレクレー
ションやアロマテラピーなどを行った。
③
塩釜市
塩釜市では平成 25 年 12 月より、被災者のみ
を対象とするのではなく、町内会全体でのサ
ロン運営を開始した。
10.本センター独自の事業
既存の精神保健事業に沿った支援に加えて、本
センター独自の企画による取り組みをいくつか並
行して実施した。多くの企画は職員の今までの経
験に基づく自発的なアイデアに端を発している。
すべての取り組みは、孤立するリスクが高い被災
者の孤立を防ぎ、被災者同士の交流を増やすこと
が目的に含まれている。被災者支援に役立つこと
はもちろんであるが、こうした独自の企画は職員
が支援活動におけるモチベーションを維持する上
でも重要な役割を担っている。
① 東松島市「ここファーム」
本センターで東松島市の農地を借り上げ、地
域住民に声掛けをして農作業の機会を提供し
ている。平成 25 年 4 月より隔週で開始し、参
加者は毎回 5~6 名だった。
② 石巻市「作品展」
石巻地域の住民を対象に、自宅で作成した作
品(手芸、編み物など)を持ち寄り、作品展
と交流会を実施した。お茶飲み会とハンドマ
ッサージのサービスも行った。
計 3 回開催し、
延べ 105 名の参加があった。
③ 仙台市・名取市「子どもキャンプ」
仙台市および名取市の親子を対象として、心
理教育などの予防プログラムを含んだキャン
プ事業を行った。本年度は 1 回実施し、29 名
の親子が参加した。
D. 考察
本センターの人員は、地域のニーズに応じて少
しずつ拡充しているが、それでも地域のニーズに
応え切れておらず、この点では必ずしも人員が十
分に充足しているとは言えない状況が続いている。
また、時間の経過とともに地域の課題が変化する
ため、常に新たな課題が突きつけられる現場では、
専門性に基づく柔軟な対応と、地域の人々との信
頼関係を構築し維持していくことが求められ続け
ている。
本センターの地域住民支援の柱の 1 つとなって
いるのは、宮城県と共同で実施した住民健康調査
(資料 5, 6)と、これに基づく戸別訪問活動であ
る。この調査では、仮設住宅に居住する世帯(応
急仮設および借り上げ仮設)に調査票を送付し、
集計を行い、その結果を各自治体へフィードバッ
クしている。基本的にハイリスク者を選定する基
準は各自治体の判断に任されているが、当センタ
ーでは①K6 が 13 点以上、②朝から飲酒、③65 歳
以上で単身生活、④何らかの疾患の治療中断の 4
点を判断基準として推奨した。地域により若干の
違いはあるものの、K6 が 13 点以上の住民は 8~
9%程度、朝から飲酒をしている住民は 1~2%程
度の範囲であった。また、各自治体からの報告か
らは身体疾患の発症と悪化、適切な治療を受けて
いないことも危惧された。
本センターが直接接触した地域住人のうち、
ICD-10 による分類では F2,3 に該当する者が多
く、震災後に新たに精神疾患を発症した者が 7 割
を占めた。今回の調査から因果関係を明らかにす
ることには限界はあるが、震災のストレスが発症
にかかわる要因として強く関与したと考えられる
住人が多く含まれると考えられた。また、もう一
つの要因として考えられるのは、地域の保護因子
の破綻も無視できない。危機を体験したコミュニ
ティーは凝集し、警戒心が高まる傾向にあるが、
そのために、今までは地域で「ちょっと変わった
人」として受け入れられていた住人が、周囲への
迷惑行為として精神保健相談へ繋がることも少な
くないと思われた。
各自治体独自の健康調査や特定健診の相談窓口
など、ハイリスクアプローチの手法を用いた対策
が多くの地域で行われた。その多くは K6 などの
心理評価尺度を用いてスクリーニングを行い、人
海戦術で電話確認や家庭訪問を行っている。当セ
ンターでは前述の県の健康調査と照らし合わせて、
各自治体の特徴に合わせた戦略の助言を行った。
例えば、松島町は応急仮設住宅がなく、震災に伴
うストレスを抱える住民は、借り上げ住宅に集中
していることは当初から考えられた。町独自の健
康調査は初年度のみで終了したため、当センター
の助言を参考にして松島町では、県の借り上げ住
宅の健康調査を利用した支援活動へと戦略を変更
した。
地域における研修会や講演会のニーズにも変化
が見られる。発災から時間が経過して、災害に特
化した内容から一般的な精神保健に対する知識を
求められることが多くなってきた。専門職による
講話形式の座学から、グループワークやディスカ
ッションなどの主体的な参加を要する形式に対す
るニーズも高まっている。また、職場のメンタル
ヘルスに関する研修会の依頼も増えており、産業
精神保健への関心や必要性が高まっていると考え
られる。特に震災直後に対人救助を行った職場で
は、辛く厳しい体験の記憶を高いプロ意識で乗り
切ってきた人々が多いが、そうした人々の中にも
復興にかかわる活動の長期化により心労が重なる
ことで破綻を来す事例が少なくない。
サロンなどの「集い」の場にも変化が見られる。
時間経過とともに地域住民の居住形態が変化し、
「集い」に求める内容が変化してきていると考え
られる。災害当初はコミュニティーを維持する目
的で、応急仮設住宅に自然発生したところが多く
見られた。しかし、その後コミュニティー崩壊の
危機にあるのは応急仮設よりも借り上げ仮設の住
人であることに気付き、地域の中で借り上げ仮設
の住人を対象とした「集い」が企画された。さら
にその後、避難している住人の全てが元の地域に
戻ることはできないことに気付き、避難先の住人
と新しいコミュニティーを作る目的で、町内会な
どを中心とした被災の有無は問わない「集い」を
作る必要性が高まっている。一方、こうした地域
におけるコミュニティ形成に関わる活動では、そ
れがどのような形態であっても、参加者は比較的
健康な高齢女性に多く(資料 9)
、男性の地域参加
をどのように高めていくかが課題として挙がっ
た。
前述の通り、現在の当センターの活動の中心は
戸別訪問であり、多くは地域での健康調査の結果
から要フォロー者への訪問を行っている。今まで
はより多くの被災者に「浅く広く」接触し、リス
クの高い住民への見守りを行ってきた。時間の経
過とともに様々なストレス反応が自然軽快に向か
う住民が増える一方で、軽快へ向かうことのでき
ないより少数の難治例に対して「狭く深く」対応
することが求められる機会も増えてきた。当セン
ターとして専門治療に対する知識の拡充および地
域医療機関との連携強化が必要になると考えられ
る。
E. 結論
本研究では、平成 25 年 4 月~12 月までの当セ
ンターの取り組みについて提示し、実情と課題に
ついて検討を行った。
発災からまもなく 3 年を迎えようとしているが、
被災者の抱える精神保健上の課題は、時間ととも
に変化し、常に新しい課題が挙がってくる状況は
続いている。特に、支援が届きにくい遠方地域や
孤立化しやすい集団に対する支援のニーズは高ま
っており、また、時間を経て現れてくる問題の多
くは、複数の要因が複雑に絡み合ったものである
ことも多く、解決が難しいものも多い。このため、
被災地での支援ニーズは、まだまだ高い状態で続
いており、精神保健の専門スタッフが、今後も被
災者に寄り添いながら支援を継続していく必要性
は高い。
今後は復興の格差がさらに一層広がることが予
想されている。このため、みやぎ心のケアセンタ
ーでは、地域と時間による変化を把握しながら、
被災地域住民のニーズに応え、適切な支援を提供
するために、対応を柔軟に工夫していく必要があ
ると考えられた。
F. 健康危険情報
なし
G. 研究発表
<論文>
1.
福地成:「災害時の心の反応とその対応」.
小児内科 Vol.45. No.8,1438-1441(2013).
2.
福地成: 「被災地の精神保健の現状と課題」.
日本病院・地域精神医学会雑誌「病院・地域
精神医学」Vol55 No4,15-17(2013).
3.
松本和紀:東日本大震災における宮城県の精
神科医の活動.精神医学 Vol.55.No.4.391
-400(2013).
4.
松本和紀:宮城県における震災後の精神医療
の状況―震災から1年を経て―.精神神経学雑
誌 Vol.115 No.5.492-498(2013).
5.
松本和紀:Health of Disaster Relief Supp
orters
Japan Medical Association J
ournal
6.
Vol.56 No.2,70-72(2013).
松本和紀:支援者と働く人々のケア - 東日本
大震災の経験から.精神医療 No.72,31-40
(2013).
<発表>
7. 福地成. 東日本大震災後の子どもたち. 第
109 回日本小児精神神経学会;2013;大宮.
8. Naru Fukuchi: The Psychosocial Impact of
Disaster on People with Developmental
Disabilities: The 3rd IASSID Asia Pacific
Regional Conference; 2013; Tokyo.
9. 福地成. 宮城県の子どものこころの現状と課
題、災害時の子どものこころの支援~東日本
大震災から 2 年間を振り返って~. 第 31 回日
本小児心身医学会;2013;米子.
10. 内田知宏、高橋葉子、上田一気、松本和紀、
伊丹敬祐、鈴木妙子、山崎剛.東日本大震災
における被災自治体の職員に対する支援:メ
ンタルヘルス研修会の報告.第 12 回トラウマ
ティックストレス学会;2013 年;東京.
11. 内田知宏、松本和紀、高橋葉子、越道理恵、
佐久間篤、桂雅宏、佐藤博俊、松岡洋夫.災
害後の精神疾患予防の取り組み
第 109 回日本精神神経学会学術総会;2013;
福岡.
12. 越道理恵、高橋葉子、佐久間篤、八木宏子、
駒米勝利、丹野孝雄、阿部幹佳、松本和紀.
東日本大震災後の派遣職員のメンタルヘルス
対策研修についての報告―派遣職員のニーズ
と対処法―.第 12 回トラウマティックストレ
ス学会;2013 年;東京.
13. 上田一気、松本和紀 宮城県における東日本
大震災後の精神健康の現状と課題.第 12 回ト
ラウマティックストレス学会;2013 年;東京.
14. 松本和紀、佐久間 篤、桂雅宏、佐藤博俊、高
橋葉子、内田知宏、林 みづ穂、小原聡子、福
地 成、原 敬造、松岡洋夫.宮城県の活動を
振り返って.第 109 回日本精神神経学会学術
総会;2013 年;福岡.
H. 知的財産の出願・登録状況
なし
資料 1
当センターの職員構成(平成 26 年 1 月 1 日時点)
資料 2
月別の活動状況
資料 3
年齢別の対象者数
資料 4
疾患別の対象者数
資料 5
被災住民の健康調査の結果
資料 6
借り上げ仮設居住者の推移
資料 7
自治体独自の健康調査
期間
松島町
H24年4月~8月
期間
多賀城市
H24年4月~H25年2月
H25年11月~12月
期間
回収率
K6
37.9%
2.3%
回収率
K6
64.4%
64.6%
8.7%
7.7%
回収率
塩釜市
H23年3月
H24年3月
42.5%
37.7%
お酒の飲
眠れない 食欲がない み方が心
配
5.7%
1.0%
3.2%
健康状態
良くない
27.8%
27.9%
イライラす
お酒が増 る、気分
体調不良 眠れない 食欲がない
えた
が落ち込
む
8.8%
14.2%
5.1%
4.9%
15.3%
19.2%
14.7%
5.1%
4.4%
4.4%
資料 8
サロン活動
資料 9
山元町サロン参加者属性
平均参加人数
男性
女性
平均年齢
最少年齢
最高年齢
個別相談
11.7歳
10%
60%
72.9歳
32歳
87歳
1.3名
平成25年度 厚生労働科学研究費補助金(障害者対策総合研究事業(精神障害分野))
被災地における精神障害等の情報把握と介入効果の検証及び
介入手法の向上に資する研究
分担研究報告書
被災地における支援活動について
-「ふくしま心のケアセンター」の活動分析をもとに-
分担研究者
昼田源四郎 1)
研究協力者
前田正治 1)2)、植田由紀子 1)、内山清一 1)、高橋悦男 1)、
松田聡一郎 1)、壬生明日香 1)、落合美香 1)
1) ふくしま心のケアセンター
2) 福島県立医科大学医学部 災害こころの医学講座
研究要旨
ふくしま心のケアセンターの概要を紹介し、本年度の活動状況について、DMHISS(Disaster
mental health information support system)を用いた記述統計結果から分析、今後の課題等に
ついて考察した。当センターの活動はもっぱら訪問相談を中心としているが、その一方で、サロ
ン活動や他機関連携、講演・研修等の実施など多岐にわたった。また福島県内にある 6 つの方
部センターによって活動内容は大きく異なっており、①地域性、②市町村、県、医療機関との関
係性、③スタッフの凝集性、④スタッフの専門性の 4 つの要素がそれら各方部のあり方を規定
していると考えられる。今後、このような当センターの特徴の上に、如何にしてセンターとして
の帰属感や統合感を持たせるかが課題である。
Ⅰ.はじめに
て 2 年を経ると、それぞれに特色が出始めて
東日本大震災後、福島においては、地震・
おり、地域性や災害特性によって有効な支援
津波災害に加え深刻な原発災害も被り、きわ
方法も異なってきていることがうかがえる。
めて複雑かつ長期的なメンタルヘルス上の問
その福島県におけるメンタルケアの活動拠点
題が福島県に引き起こされている。その概要
として、ふくしま心のケアセンター(以下、
はすでに昨年度報告書1)や他著2)で報告
センター)の組織体制及び支援活動の面から
している。また、被災者のメンタルケアの専
分析し、考察を深めることで、今後の支援に
門機関として、岩手、宮城、福島の3県に心
活かしたい。
のケアセンターが設立された。活動をはじめ
Ⅱ.検討内容の詳細
所の確保がかなわなかった県中以外は、地域
の保健福祉事務所内に拠点を構えて活動をス
検討Ⅰ.ふくしま心のケアセンターの組織体
制に関する分析
タートさせた。
平成 26 年 1 月現在では、いわき、会津は、
独立して事務所を構えており、保健福祉事務
A. 目的
所内に拠点を構えているのは、県南と県北の
センターについて、相談拠点の体制、または
2センターである。
人員配置、専門職の属性等、組織体制につい
駐在については、当センター設立前の市町
て分析、より有効な組織構造について検討す
村ニーズ調査においてニーズの高かった行政
る。
機関に重点的に対応するべく、南相馬市、双
葉町(埼玉県加須市)、福島県県庁障がい福祉
B. 検討方法
課に配置した。
センターの相談拠点(基幹センター、方部セ
ンター、駐在)について、その成り立ちや組
織体制について報告し、現在までの活動につ
いて、DMHISS(Disaster mental health
information support system)の統計から、
2) 人員体制
職員(平成 25 年 11 月 1 日現在)の属性に
ついて分析する。
センター全体で、60 名(非常勤を含む)の
今までの活動について振り返る。人員体制に
職員を抱える。およそ 2 割が県外からの福島
ついては、配置、専門職の属性等について、
に入職した職員である。
データを用いて分析。また、本センターにお
当センター専門員のうち、精神科で勤務し
いて、開設以来、基幹センターと方部センタ
た経験のない職員は全体の約 6 割を占める。
ー(もしくは駐在)の両方を経験した専門員
(図2)
を招集し、センター運営に関する検討委員会
を開催。2 度の協議(のべ 8 時間)を重ねた。
3) 人員配置
60 名の内、11 名を基幹センターに配置して
C. 結果
いる。その他方部には、地域状況に応じて人
1) 組織体制
員を配置しているが、県中といわきに 10 名程
県庁所在地である福島市に基幹センター
度。その他方部には4~5名を配置している。
(以下、基幹)を設置。その他、県内全域に
散らばった東京電力第一原発事故での避難者
D. 考察
のケアに対応すべく、浜通り(相馬、いわき)
、
まずは、基幹センターの役割について考察
中通り(県北、県中、県南)、会津(会津)に
する。基幹センターは、人事と予算を司る拠
6つの方部センター(以下、方部)を配置し
点であり、人事の面からみても全体の約 2 割
た(図1)。相馬地区を管轄する相馬方部セン
の配置と比重が大きい。しかしながら、他に
ターは、相馬広域心のケアセンターなごみに
9つもの拠点を県内全域に配置していること
業務を委託し、その他の方部に関しては、場
から、全体の状況を把握、集約すること、マ
ネジメントに関しては、実質的に困難であっ
相談支援活動及び、それ以外の活動について、
た。
DMHISS の統計(平成 25 年 4 月~9 月)を
組織設立の時点から、基幹センター、方部
センター等の役割や関係性に関する枠組みが
基に分析、考察し、今後の活動についての課
題を検討する。
必ずしも明確でなく、そのことは組織内に混
乱を生じさせた。しかしながら、拠点の多さ、
B. 検討方法
各拠点同士の距離、福島の広域性や地域性を
当センターの相談支援活動について、記述
鑑みると、当初から構築化されたシステムを
統計データに基づき、相談対象者の属性、相
作ることがきわめて困難であったことは否め
談経緯、症状などの分析を行った。加えて、
ない。したがって、地域の状況に応じて、各
相談支援活動以外の活動については、各方部
方部が暗中模索でセンター全体のシステムを
の特徴など地域性と照らし分析した。上述の
構築していくやり方は致し方なかったものと
ような検討委員会を開催し、分析データを基
振り返ることが出来る。
に、2 度の協議を重ね、今後の活動方針など
また他県出身スタッフが比較的多かったこ
についてまとめた。
とや、精神科での臨床経験がほとんどないス
タッフが多かったため、開設当初の方部スタ
C. 結果
ッフの負担は相当に大きなものであった。そ
1) 相談方法
の中で、方部センターは独自に地域のニーズ
相談支援の方法としては、全体の 73.0%が
を察知しつつ、方部センターを育ててきた。
訪問でほとんどを占めている。次いで集団活
そして以下に紹介するように、活動開始後 2
動の中での相談(12.4%)、電話相談(9.3%)
、
年を経過すると、益々、各地域(方部センタ
来所相談(4.0%)となる。
(図3)
ー)の状況は差が大きくなり、全体で画一的
な活動を目指すのは状況にそぐわなくなって
2) 相談場所
いる面もある。以上を要約すると、次にあげ
仮設住宅(43.6%)が最も多く、次いで民間賃
る4つの特性によって方部のあり方が規定さ
貸借り上げ住宅(19.2%)(以下、借り上げ)
、
れていると考えられる。①地域性、②市町村、
自宅(15.4%)となっている。
(図4)仮設は避
県、医療機関との関係性、③スタッフの凝集
難住民が集合している居住地区であるため、
性、④スタッフの専門性。これら 4 点は各方
アウトリーチ活動としては効率がよいため件
部でもかなり異なっており、それに応じて活
数が多いと予測が出来る。一方、借り上げ及
動を展開していく必要がある。
び自宅は、1軒1軒を訪問する活動であり、
労力と時間を要すが、合わせると全体の 3 分
検討Ⅱ.ふくしま心のケアセンターの活動実
の1以上を占めている。
績調査
3) 相談契機と同行訪問
A. 目的
当センターにおける被災者支援活動のうち、
訪問相談のなかで、全体の 4 分の1は被災
地行政機関の地域保健担当者(保健師)等と
の同行訪問となっている。
相談契機をみると、本人からの依頼が2割
などの精神病性障害を有するものが多いこと
がうかがえる。
程度にとどまり、全体の約6割は行政機関か
らの依頼(健康調査等からのピックアップを
7)相談支援活動以外の活動(集団支援、健
含む)となっている。
(図5)
診支援、外部機関との会議等)
以上を踏まえると、行政機関から依頼を受
各方部で事業展開には特徴があるが、ここ
けた際に、訪問初回は行政職員(多くは保健
では訪問等相談支援以外の活動、すなわち被
師)との同行訪問として訪問先で紹介しても
災地支援で重要な集団活動(サロン活動)、市
らい、その後はセンタースタッフが単独で訪
町村の重要な事業である健診への支援、その
問支援を継続するという構図が浮かび上がっ
他地域との連携のための会議出席の 3 点につ
てくる。
いてみていくこととする。
集団支援(仮設等におけるサロン活動など)
4) 相談対象者の属性
相談対象者は、ほとんどが本人(88.4%)
で、家族による相談は1割程度。ひきこもり
やアルコールなどに関する相談の場合、本人
は、相馬、南相馬の相馬地区、中通りでは県
北が多いが、一方でいわきは少ないなど、方
部間で差が大きい。(図11)
また、健診支援については、南相馬が突出
に会えず、家族への相談支援となる。
(図6)
して多い。次いで、相馬、いわきの順になっ
男女別でみると、若干ではあるが女性が多
ているが、半数の方部で健診支援が実施され
い(57%)。対象者の年齢区分では、小児(15
ていないなど、やはり差が顕著である。
(図1
歳以下)は、ごく少数、高齢者(65歳以上)
2)
が約4割を占めている。
(図7)
地域連携に関する会議については、いわき
が突出しており、概算すると月に 13 回以上の
5) 相談対象者 治療状況等
相談対象者のうち、精神科診断(病名)の
有無を見てみると、精神科診断を有している
外部の会議に出席していることになる。
(図1
3)いわきに避難者が多く、また避難市町村
の役場が多いことを示している。
者が約半数と多い。
(図8)さらにこのような
診断がついている対象者については、東日本
D.考察
大震災前からの発症の割合が、震災後に発症
ケアセンター設立2年目の相談支援活動を
した割合の2倍である。
(図9)また、精神科
俯瞰すると、相談形式としてはアウトリーチ
診断を有している対象者について、その病名
で行っている支援、訪問支援が圧倒的に多い。
別分類をみると、最も多いのが精神病性障害
相談活動の効率や要支援者のプライバシーを
であり、次いで気分障害となる。対象者では、
考えると、訪問サービス機能の一部を来所等
高齢者が多いにも関わらず、認知症などの器
の相談形式へ移行することも考えられるが、
質性精神障害は少ない。
(図10)
今後の課題であろう。相談の受理は、地域の
以上を踏まえると、支援対象者の特徴とし
保健師からの依頼が多く、初回は同行訪問を
て、震災前から精神障害、とくに統合失調症
して、その後ケアセンターで継続支援をする
というパターンが出来ているようである。す
おいては、避難市町村が多いことやそれに伴
なわち地域の保健師が一旦スクリーニングし
い関係団体の多さや連携について、煩雑であ
たケースにおいて、よりメンタルヘルスに焦
る地域事情がみえてくる。よって各機関との
点を絞った、専門的ケアを要するケースとし
関係、調整に重きを置いていることがわかる。
て当センターに依頼を行っている。
一方、外部との会議がさほど多くない方部に
相談対象者の特徴としては、高齢者が多く、
おいては、関係づくりがすでに出来ている、
震災前からの精神障害、精神病を有する者が
もしくは地域事情としてある程度落ち着いて
多かった。また、精神病性障害の割合が高い
いる(避難町村が限られているなど)ことが
ことを鑑みると、地域の精神医療サービスが
うかがえる。
震災によってダメージを被り、必要なサービ
以上、相談支援活動以外に 3 点を取り上げ
スを安定的に受けられない対象者に対して、
たが、各地域(拠点)の状況によって、相当
当センターが支援をしていることがうかがえ
に活動の違いが生じていることがうかがえる
る。
結果であった。
一度の面談で終結ということよりは、継続
支援となるケースが多いのも、このように慢
性精神障害を有するものを対象にしているこ
とも理由として挙げられる。
Ⅲ.今後の展望
以上、述べたように当センターは開設後 2
年を経過し、それなりの成果を上げた一方で、
相談支援活動以外の活動をみると、集団活
まだまだ課題が多い。上述したように、①地
動については、当センターが業務委託をして
域性、②市町村、県、医療機関との関係性、
いる相馬広域こころのケアセンターなごみの
③スタッフの凝集性、④スタッフの専門性の
ように、独自に積極的なサロンを開催してい
4 つの要素が各方部のあり方を規定している。
るところと、県北方部のように、行政機関等
これらは各方部で、あまりにも相違があるた
が主催するサロンの手伝いをしているところ
め、方部のあり方もそれに応じて、かなり異
がある。このように、多くの方部・駐在にお
なっている。福島においては、こうした差異
いて、いずれの地域においてもサロン活動の
はむしろ広がりつつ有り、それはまた当地の
ような集団活動が行われているが、実施主体
被災状況をよく表しているようである。すな
や状況等に応じて、当センターの活動が異な
わち、画一化・標準化というよりも、差異化・
っている。
特異化しつつある。
さて、健診については、方部・駐在が所属
このような状況の中で、どのようにしてセ
する、あるいは避難している市町村に協力す
ンターとしての統合感、帰属感を生むかが当
る形で支援に入っている。住民が集まる非常
センターの大きな課題である。残念ながら、
に有効な支援の機会であり、単に健診の手伝
福島においては、まだまだ復興の具体的足取
いというよりもより深いレベルで住民サービ
りは聞こえてこず、今なお 15 万人弱という大
スに結びついているようである。
量の避難者がいる状況である。こうした現状
ところで、外部組織の会議への参加につい
を前にして、当センター自体が息切れし、能
ては、いわきが突出して多い。いわき地区に
力が低下しないためにも、センターとしての
凝集性をいかに高めるかが非常に重要である。
参考文献
1)昼田源四郎、前田正治:福島県被災住民
メンタルヘルスに関する現状と課題.平成 24
年度厚生労働科学研究費補助金(障害者対策
総合研究事業(精神障害分野))被災地におけ
る精神障害等の情報把握と介入効果の研修及
び介入手法の向上に資する研究 分担研究報
告書 pp116-131,2013.
2)Maeda,M.,Oe,M.: Disaster behavioral
health: Psychological effects of the
Fukushima nuclear power plant accident.
(eds.)Tanigawa,K.&Chhem,R.K.: Radiation
Disaster Medicine. Springer, New York,
pp79-88, 2013.
3)松本和紀、福地 成、片柳光昭、渡部裕一:
みやぎ心のケアセンターの活動分析.平成 24
年度 厚生労働科学研究費補助金(障害者対策
総合研究事業(精神障害分野))被災地におけ
る精神障害等の情報把握と介入効果の研修及
び介入手法の向上に資する研究 分担研究報
告書 pp108-115,2013.
4)酒井明夫、大塚耕太郎:岩手県こころの
ケアセンターの活動の分析.平成 24 年度 厚
生労働科学研究費補助金(障害者対策総合研
究事業(精神障害分野))被災地における精神
障害等の情報把握と介入効果の研修及び介入
手法の向上に資する研究 分担研究報告書
pp94-106,2013.
基幹
県北方部
相馬方部
福島県庁駐在
南相馬駐在
県中方部
会津方部
双葉町駐在
(埼玉県加須市)
県南方部
いわき方部
図1.当センターの方部所在地
図2.職員における精神科経験(平成 25 年 11 月 1 日現在)
図3.相談方法
図4.相談場所
図5.相談の契機
図6.相談者
図7.相談対象者の属性(年齢別)
図8.相談対象者 精神科診断の有無
図9.精神疾患発症の時期
図10.精神科診断
病名別分類
図11.活動拠点別
集団支援活動(実施回数)
図12.活動拠点別
健診支援(実施回数)
図13.活動拠点別
外部会議の出席(実施回数)
平成 25 年度 厚生労働科学研究費補助金(障害者対策総合研究事業(精神障害分野))
被災地における精神障害等の情報把握と介入効果の検証及び
介入手法の向上に資する研究
分担研究報告書
被災地域におけるグリーフ・ケア研究
-岩手県における実践から-
分担研究者
山田幸恵
1)
研究協力者
中島聡美
2 )、中谷敬明 1 )、中村美津子 3 )、藤澤美穂 4 )
1)岩手県立大学社会福祉学部
2)国立精神神経医療研究センター
3)一般財団法人岩手済世医会
精神保健研究所
成人精神保健研究部
三田記念病院
4)岩手医科大学教養部
研究要旨
東日本大震災は地震と津波体験が及ぼすトラウマ体験であったと同時に、大切な人、住居、財
産、見慣れた故郷の風景、思い出、仕事など、様々な喪失体験でもあった。岩手県では震災で亡
くなった方が 4,672 名にのぼった。さらに、震災後も震災関連死が増え続け 434 名となった(平
成 26 年 1 月 31 日現在)。震災による直接死と関連死を合わせると、5,106 名にのぼる。また、関
連死は今後も増えることが予想される。
亡くなった方 1 人に対し 4~5 名の親密な関係者がいると想定すると、岩手県内だけでも 3 万
人を超える遺族が存在することになる。死別によって身近な人を失った人が身体・認知・行動面
で様々な反応を示す悲嘆反応は、死別という大きな喪失体験に対する自然で正常な反応である
が、悲嘆の複雑化は心理的困難につながることが示されている。
また、岩手県の震災による行方不明者は 1,142 名である。行方不明者の家族にとっての喪失体
験は、亡くなったのか亡くなっていないのかあいまいな喪失であり、一般的な死別に対する悲嘆
反応とは異なる。そして、喪失のあいまいさゆえに悲嘆が複雑化しやすいことが示されている。
これらのことから、遺族や行方不明者の家族の周囲の理解を高めること、自然な悲嘆反応を促
進すること、また悲嘆の複雑化を予防する遺族の心理的なケアが重要であると考えられる。
本研究では、死別による悲嘆反応とあいまいな喪失に関する心理教育の効果を検討することを
目的とした(研究Ⅰ)。さらに、専門職を対象とした研修会を実施し、悲嘆やあいまいな喪失に
関する知識の向上を目指した(研究Ⅱ)。本研究の結果、心理教育によるグリーフへの理解の向
上、およびストレスの軽減する傾向が認められた。被災地の支援の現場からは、遺族の悲嘆の語
りがうかがえるものの、本研究の母体となる遺族ケアのためのセミナーへの参加者は多くはな
い。このことは、被災地には潜在的なニーズがあるものの、遺族が自ら支援を求める状況ではな
いことが推察された。被災地でのグリーフ・ケアは様々な形で行われる必要があり、被災地の支
援者が悲嘆やあいまいな喪失に対する理解を含め、広く被災者のケアに関われることが望ましい
と思われる。
Keywords
東日本大震災、悲嘆、あいまいな喪失、心理教育、グリーフ・ケア、
A.研究目的
(1)はじめに
となっている。
1 人 に 対 し 4~ 5 名 の 親 密 な 関 係 者 が
2 0 11 年 3 月 11 日 、 東 北 太 平 洋 地 域
い る と 想 定 す る と 、岩 手 県 内 だ け で も 3
はマグニチュード 9 という地震とそれ
万人を超える遺族が存在することにな
に続く大津波によって甚大な被害を受
る。被災者の多くは家屋が流出し、仕
けた。東北から太平洋にかけての太平
事も失っているため、岩手県内陸部に
洋沿岸、特に岩手・宮城・福島の沿岸
も避難してきている現状であり、遺族
市町村は、地域自体が流されるという
は被災の大きい沿岸地域だけではなく、
未曽有の被害をこうむった。
岩手県内の全ての地域に居住している
東日本大震災は地震と津波体験が及
ことは想像に難くない。さらに、被災
ぼすトラウマ体験であったと同時に、
した宮城県や福島県からの避難者も岩
大切な人、住居、財産、見慣れた故郷
手県内陸部に転入してきている。
の風景、思い出、仕事など、様々なも
のを失う喪失体験でもあった。
岩手県の被災地域は、震災前から精
神保健医療体制が脆弱な地域であり、
今回の震災による精神保健システムの
(2)岩手県における被災状況および
ダメージから回復しつつあるものの、
現状
圧倒的に精神科医、臨床心理士、精神
今回の東北地方太平洋沖地震により、
保健福祉士といった専門職が不足して
岩 手 県 で は 震 災 に よ る 死 者 が 4,672 名
いる。こころのケアセンターを中心と
にのぼった。さらに、震災後の震災関
した被災地のこころのケア体制が構築
連 死 も 増 え 続 け 434 名 と な っ た ( 平 成
されてきたものの、十分とはいえない
2 6 年 1 月 3 1 日 現 在 )。 震 災 に よ る 直 接
状況である。
死 と 関 連 死 を 合 わ せ る と 、5 , 1 0 6 名 に の
ぼる。また、関連死は今後も増えるこ
(3)グリーフ(悲嘆)とは
とが予想される。また、岩手県の震災
グ リ ー フ ( 悲 嘆 ) と は 、「 強 い 結 び つ
に よ る 行 方 不 明 者 は 1,142 名 で あ り 、
きがある誰か(あるいは何か)を「喪
こ の う ち 死 亡 届 の 受 理 件 数 が 1,124 件
失 (loss)」し た こ と に 伴 う 極 め て 強 い 感
情 状 態 で あ る (1)。 ま た Bowlby(2)は 、
雑化・長期化する要因が複数あてはま
喪失によって起こる一連の心理過程を
ることからも、予防的観点からも被災
「 悲 哀 ( m o u r n i n g ) 」、こ の 悲 哀 の 心 理 過
者のグリーフ・ケアは重要である。
程で経験される苦痛や絶望などの情動
体験を悲嘆と定義している。悲嘆は喪
(5)あいまいな喪失
失に対する自然な反応であり、全ての
あ い ま い な 喪 失 と は 、「 親 密 」 な 関 係
感 情 に は 機 能 あ る い は 意 味 が あ る ( 3 )。
にある人が失われたのかどうかが不明
その中でも大切な人との「死別」は最
確な喪失であり、はっきりしないまま
も大きなストレスとなるライフ・イベ
残り、解決することも終結することも
ントと考えられており、死別経験は、
な い 喪 失 を い う ( 1 4 ) 。そ し て 、あ い ま い
免 疫 機 能 の 低 下 (4)や 、 通 院 頻 度 の 増 加
な喪失の中にある人は、喪失のあいま
(5)、 飲 酒 や 喫 煙 の 増 加 (7)、 自 殺 の 増 加
いさゆえに悲嘆の過程をはじめること
(8)、 死 亡 率 の 増 加 (9)、 の リ ス ク フ ァ ク
ができず複雑化しやすい。また、あい
ターであるとされている。
まい性と不確実性は、個人のアイデン
ティティや役割を混乱させ、家族のダ
(4)悲嘆の複雑化
死別によって身近な人を失った人が
イナミクスをも混乱させる。
あいまいな喪失には、身体的な喪失
身体・認知・行動面で様々な反応を示
と心理的な喪失の 2 つのタイプがある。
す悲嘆反応は、死別という大きな喪失
心理的には存在しているが、心理的に
体験に対する自然で正常な反応である
は存在しない状態である「さよなら」
が、悲嘆の複雑化は心理的困難につな
のない別れ、と、身体的には存在して
が る こ と が 示 さ れ て い る ( 1 0 ) ( 11 ) 。複 雑
いるが心理的には存在しない状態をさ
化した悲嘆は、他の精神疾患と区別さ
す別れのない「さよなら」である。今
れるべき病態であることが明らかにさ
回の東日本大震災で行方不明者の家族
れ て き て い る が 、 DSM-Ⅳ -TR( 12) で
は、まさにこ の別れ のない「さよ なら」
は「臨床的関与の対象となることがあ
を経験したのである。
る他の状態」という付録的な扱いに留
あいまいな喪失によるストレスは、
まっており、専門家への相談や受診に
対処がもっとも難しいストレスの一つ
つながりにくく、さらに適切なケアを
であると言われており、死別による悲
受けることが難しい。
嘆への対処とは異なる。今回の震災で
ス マ ト ラ 沖 地 震 か ら 14 ヶ 月 後 の 調 査
は行方不明者の数も多く、あいまいな
で は 、 近 親 者 を 失 っ た 人 の 42%が 外 傷
喪失を体験した人々に対するケアも必
後ストレス反応を示し、複雑性悲嘆反
要とされている。
応も同程度の割合で見られた。また、
62% が 精 神 的 健 康 の 低 下 を 示 し て い た
(6)喪失に対するこころのケア
( 1 3 )。 今 回 の 東 日 本 震 災 は 、 死 別 が 複
1)被災地における心理支援
被災地では必ずしも心理的支援を望
族の会や自死遺族の会などが自助グル
んでいない被災地域の住民も多い。ま
ープを行っている。しかしながら、そ
た、何らかの問題を抱えていても、援
の効果について検討した研究は多くは
助を求める自発的な行動につながりに
ない。
く い と い わ れ て い る 。こ の こ と か ら も 、
被災地においては、死別に対する自
個別的な関わりよりも地域精神保健活
然な反応としての悲嘆プロセスを促進
動と協働したサロン的な関わりの方が、
させる、悲嘆を複雑化させないための
対象者にとっては参加しやすいものと
予防的な関わりが必要であると考えら
考えられる。
れる。また、遺族の周囲の人の理解を
さらに、災害時の心理支援は特殊で
深め、二次的な被害を予防することも
あり、一般の心理職や医療職はこうし
重要である。
た動き方に慣れていないことが指摘さ
3)心理教育
れ て い る ( 1 5 ) 。ま た 、支 援 者 自 体 も 悲 嘆
心理教育とは正しい知識や情報を心
やトラウマティック・ストレスの対応
理面への十分な配慮をしながら伝え、
を熟知していない現状がある。岩手県
自分自身の状態をよりよく理解すると
には自殺予防対策の一環として要請さ
ともに、問題や困難に対する対処方法
れた傾聴ボランティア組織が災害後の
を修得することを目的とする。認知行
支援を行っているケースも多い。傾聴
動療法では、治療プログラムの一環と
ボランティアは被災者の話を聴く中で、
して用いられることが多く、治療初期
死別にまつわる話を聴くことも多いが、
に症状と治療内容の理解のために行わ
どのように対応してよいか困惑してい
れる。心理教育のみによる治療効果や
るといった声もあがっている。遺族だ
予防効果に関する研究は散見されるの
けではなく、遺族に関わる支援者にと
みであるが、今回の東日本大震災では
っても心理教育が必要な実態が被災地
対象となる方が多いことや、これまで
にあるといえるであろう。つまり、遺
述べた被災地の状況を踏まえ、集団を
族への支援だけではなく、遺族を支援
対象とした心理教育が有効であると考
する支援者への支援としての心理教育
えられる。
も求められている。
2)グリーフ・ケア
(4)目的
複雑化した悲嘆については、複雑性
以上のことを踏まえ、今回の震災に
悲嘆の認知行動療法が開発され、その
よる被災者に対して死別による悲嘆反
効 果 に 関 す る 研 究 が 進 ん で い る 。一 方 、
応に関する心理教育ならびにあいまい
一般的なグリーフ・ケアについては、
な喪失に関する心理教育を行う効果を
個別のカウンセリングだけではなく自
検討することを目的として岩手県臨床
助グループなどの手法がとられること
心理士会の協力の下、実践研究を開始
が多い。わが国においても交通事故遺
した。なお、心理教育後に遺族のわか
ちあいの時間を設け、遺族のピア・グ
心理教育開始前に研究の趣旨と、質
ループを立ち上げにつなげることも意
問紙は無記名であり個人のプライバシ
図している。
ーは保護されること、回答は自由意志
住居や仕事の問題のため、沿岸から
であること、回答しなくても不利益は
内陸部に転居した被災者も多いこと、
ないこと、回答途中でやめてもかまわ
沿岸部に親族をもつ内陸部居住者も多
ないことなどを対象者に説明し、回答
いことから、被災した沿岸部だけでは
をもって同意とした。なお、研究Ⅰは
なく、内陸部の中核都市である盛岡市
岩手県立大学倫理審査委員会による審
内でも心理教育を実施した。
査を受け、承認されている。
さらに、専門職を対象とした研修会
を実施し、専門職の知識を向上させる
D.研究Ⅰ:心理教育による心理的ス
ことも第 2 の目的とした。
トレス軽減効果の検討
【内陸部(盛岡市)での実践】
B.方法
(1)研究の構成
本研究は以下の2つの研究によって
(1)方法
震災で家族や友人を失った被災者お
よび関係者を対象とした「遺族ケアセ
構成されている。
ミ ナ ー 」と し て 、4 5 分 の 心 理 教 育 と 4 5
研究Ⅰ:心理教育による心理的ストレ
分のわかちあいの時間から構成される
ス軽減効果の検討
セミナー形式で、月 1 回実施した。心
研究Ⅱ:遺族のこころのケアに関する
理教育の効果を検討するために、心理
研修会における支援者の意識変化に関
教育の前後で質問紙への回答を求めた。
する調査
(2)心理教育の内容
(2)対象者
本研究では対象を遺族やあいまいな
喪失を体験した方だけではなく、それ
らの方の友人・知人 といった周囲の 方、
支援者などを広く対象とした。その理
3 か 月 で 1 ク ー ル と し 、 平 成 25 年 度
の各回の心理教育のテーマは以下の通
りであった
セ ミ ナ ー 1 :「 大 切 な 人 を 失 っ た 方 の
こころ」
由は先に述べたとおり、コミュニティ
セ ミ ナ ー 2:「 子 ど も の こ こ ろ の ケ ア 」
の支えあいの力を育成する意味も含ま
セ ミ ナ ー 3 :「 あ い ま い な 喪 失 」
れているからである。また、被災地に
おける支援者は、被災者であり支援者
である方も多い。以下、対象者を広く
被災者および支援者とする。
(3)測定指標
ストレスの変化を測定するために、
the stress response scale (SRS-18)を
用 い た ( 1 6 ) 。こ の 尺 度 は 日 常 的 に 経 験 す
(3)倫理的配慮
る心理的ストレス反応を測定すること
が可能であり、かつ簡便に用いること
Q5: 家 族 が 行 方 不 明 の 場 合 悲 し い の
ができる尺度である。18項目4段階
は 当 た り 前 で あ り 、一 人 で 解 決 し
評定であり、信頼性と妥当性が確認さ
なければいけない
れている。
また、各セミナーの知識に関する質
問項目を本研究のために作成し使用し
(4)結果
<分 析 1>悲 嘆 の 心 理 教 育
た。各セミナーごとに 5 項目が作成さ
悲 嘆 の 心 理 教 育 の セ ミ ナ ー ( 平 成 24
れ、まったくそう思わない~大いにそ
年度からのべ 8 回)参加者のうち、研
う思う、まで 5 件法で回答を求めた。
究参加に同意し、心理教育前後に回答
グリーフ・ケアに関わる回であるセミ
した質問紙に欠損がなかった者のデー
ナー1 の質問項目は以下の通りであっ
タを分析対象とした。分析対象者は計
た。
26 名 ( 男 性 7 名 , 女 性 18 名 , 不 明 1
Q1: 大 切 な 人 を 失 っ た 人 た ち が 平 気
名 , 平 均 年 齢 43.76 歳 , SD=13.30) で
な 顔 を し て い る の は 、悲 し く な い
あった。
からである。
1)ストレス得点
Q2: 大 切 な 人 を 失 っ た 人 た ち は 、 そ
の死が自分のせいであると思う
ことがある。
Q3: 亡 く な っ た 人 の こ と は 話 題 に 出
さない方がいい。
Q4: 時 間 が た て ば 悲 し み は 薄 れ て い
くものである。
Q5: 大 切 な 人 を 亡 く す と 悲 し い の は
当 た り 前 で あ り 、一 人 で 解 決 し な
ければならない。
あいまいな喪失に関わる回であるセ
ミナー3の質問項目は以下の通りであ
った。
心理教育前後のストレス得点の平均
値 と 標 準 偏 差 を Ta b l e 1 に 示 し た 。
心理教育前後のストレス得点の平均
値の差を検討するため t 検定を行った
結 果 、有 意 差 が 認 め ら れ た( t( )= 2 . 1 5 ,
p = . 0 5 , F i g . 1 )。 こ の こ と か ら 、 心 理 教
育による心理的ストレス得点の軽減が
示された。
2)知識項目得点
心理教育の内容に関する知識を問う
質問項目の心理教育前後の得点の平均
値 と 標 準 偏 差 を Ta b l e 2 に 示 し た 。
心理教育前後の知識に関する質問項
Q1: 行 方 不 明 の 方 の ご 家 族 は 、 そ の
目の得点の変化について検討するため
方の死を認めたほうがよい。
に t 検 定 を 実 施 し た 。 そ の 結 果 、 Q3、
Q2: あ い ま い な 喪 失 は 答 え を 出 し た
方がよい。
Q3: 行 方 不 明 の 方 の こ と は 話 題 に 出
さない方がいい
Q4: 時 間 が た て ば 悲 し み は 薄 れ て い
くものである
Q 4 、Q 5 で 有 意 差 が 認 め ら れ た( t( 2 6 )
=3.26, p<.01, t( 26) =2.98, p<.01, t
( 2 6 ) = 3 . 7 3 , p < . 0 0 1 , F i g . 2 , 3 , 4 , )。 有
意差の認められた項目のいずれも、知
識の向上を示している。
<分 析 2 >あ い ま い な 喪 失 の 心 理 教 育
あいまいな喪失の心理教育のセミナ
the stress response scale (SRS-18)を
用いた。
ー(のべ 3 回)参加者のうち、研究参
また、セミナー内容の知識に関する
加に同意し、心理教育前後に回答した
質問項目を本研究のために作成し使用
質問紙に欠損がなかった者のデータを
し た 。5 項 目 が 作 成 さ れ 、ま っ た く そ う
分析対象とした。分析対象者は計 3 名
思わない~大いにそう思う、まで 5 件
( 男 性 1 名 ,女 性 2 名 ,平 均 年 齢 3 9 . 6 7
法で回答を求めた。質問項目は以下の
歳 , S D = 8 . 3 3 )で あ っ た 。そ の た め 、 こ
通りであった。
こでは記述統計のみを記す。
1)ストレス得点
心理教育前後のストレス得点の平均
値 と 標 準 偏 差 を Ta b l e 3 に 示 し た 。
2)知識項目得点
心理教育の内容に関する知識を問う
質問項目の心理教育前後の得点の平均
値 と 標 準 偏 差 を Ta b l e 4 に 示 し た 。
Q1: 災 害 後 の 心 身 の 不 調 は 、 時 間 の
経過に従い落ち着いてくるもの
である。
Q2: 大 切 な 人 を 失 っ た 人 た ち は 、 そ
の死が自分のせいであると思う
ことがある。
Q3: 亡 く な っ た 人 の こ と は 話 題 に 出
さない方がいい。
Q4: 大 切 な 人 を 亡 く す と 悲 し い の は
【沿岸部での実践】
当 た り 前 で あ り 、一 人 で 解 決 し な
(1)方法
ければならない。
震災で家族や友人を失った被災者お
よび関係者を対象とし、た「遺族ケア
Q5: 追 悼 行 事 や 宗 教 儀 礼 な ど は 、 子
どもに参加させない方がよい。
セ ミ ナ ー 」 と し て 、 60 分 の 心 理 教 育 と
60 分 の わ か ち あ い の 時 間 か ら 構 成 さ れ
(4)結果
るセミナー形式で実施した。心理教育
沿岸部のセミナー(のべ10回)の
の効果を検討するために、心理教育の
参加者のうち、研究参加に同意し、心
前後で質問紙への回答を求めた。
理教育前後に回答した質問紙に欠損が
な か っ た 2 3 名( 男 性 7 名 ,女 性 1 6 名 ,
(2)心理教育の内容
心 理 教 育 の 内 容 は 、「 大 切 な 人 を 亡 く
した人のこころ」であり、遺族の心理
状態を中心として、子どものこころの
ケアや震災後の心身の変化についてま
とめたものであった。
平 均 年 齢 44.29 歳 , SD=15.14) の デ ー
タを分析対象とした。
1)ストレス得点
心理教育前後のストレス得点の平均
値 と 標 準 偏 差 を Ta b l e 5 に 示 し た 。
心理教育前後のストレス得点の平均
値の差を検討するため t 検定を行った
(3)測定指標
ストレスの変化を測定するために、
結 果 、 有 意 傾 向 が 認 め ら れ た ( t( 22)
= 2 . 6 4 , p < . 0 5 , F i g . 5 )。 こ の こ と か ら 、
心理教育の前後でストレスが軽減する
時間がたてば薄れていくもので
傾向が示唆された。
ある。
2)知識項目得点
心理教育の内容に関する知識を問う
質問項目の心理教育前後の得点の平均
値 と 標 準 偏 差 を Ta b l e 6 に 示 し た 。
心理教育前後の知識に関する質問項
目の得点の変化について検討するため
に t 検 定 を 実 施 し た 。 そ の 結 果 、 Q1、
Q4: 大 切 な 人 を 亡 く す と 悲 し い の は
当 た り 前 で あ り 、一 人 で 解 決 し な
ければいけない。
Q5: 亡 く な っ た 人 と の 思 い 出 は 、 話
題に出さない方がいい
また、研修終了後に自由記述による
感想を求めた。
Q 3 で 有 意 差 が 認 め ら れ た( (
t 2 2 )= - 3 . 6 0 ,
p < . 0 1 , t ( 2 2 ) = 2 . 2 4 , p < . 0 5 , F i g . 6 , 7 )。
有意差の認められた項目のいずれも、
知識の向上を示している。
(3)結果
研修会参加者のうち、研究参加に同
意し、心理教育前後に回答した質問紙
に欠損がなかった者のデータを分析対
E.研究Ⅱ:遺族のこころのケアに関
象 と し た 。分 析 対 象 者 は 計 1 9 名 で あ っ
する研修会における支援者の意識変化
た 。参 加 者 の 職 域 は F i g . 8 の 通 り で あ っ
に関する調査
た 。そ の う ち 9 名( 4 7 % )が 以 前 に も 悲
(1)方法
嘆の研修会に参加したことがあった。
岩手県内の支援者を対象として、遺
ま た 、 参 加 者 の う ち 11 名 ( 5 8 % ) が 何
族のこころのケアに関する研修会(テ
らかの形での東日本大震災でのグリー
ーマ:複雑性悲嘆の理解と対応)を実
フ・ケアの経験を有していた。
施し、研修会前後にアンケートを実施
し、参加者の意識の変化を検討した。
研修内容に関する項目の研修前後の
得 点 の 平 均 値 と 標 準 偏 差 を Ta b l e 7 に 示
した。得点の変化について検討するた
(2)測定項目
研修内容に関する質問項目を本研究
の た め に 作 成 し 使 用 し た 。5 項 目 が 作 成
め t 検 定 を 実 施 し た 。そ の 結 果 、項 目 5
についてのみ有意差が認められた
t
( 1 8 ) = 3 . 3 8 , p < . 0 1 )。
され、まったくそう思わない~大いに
自由記述から、正常な悲嘆反応と介
そ う 思 う 、ま で 5 件 法 で 回 答 を 求 め た 。
入が必要な悲嘆反応について理解する
質問項目は以下の通りであった。
ことができた、悲嘆の支援について知
Q1: 大 切 な 人 を 失 っ た あ と は 、 そ の
ることができた、これまで話を聞くこ
人 と の 関 係 性 に か か わ ら ず 、一 様
とを避けてしまいがちであったがこれ
に悲嘆反応が生じる。
からは伺えそうである、といった変化
Q2: 大 切 な 人 を 失 う 体 験 は 、 無 力 感
が認められた。
を生じさせることがある。
Q3: 大 切 な 人 を 亡 く し た 悲 し み は 、
F.考察
本研究の第 1 の目的は、グリーフに
なっているように感じるとあったこと
関する心理教育およびあいまいな喪失
から、被災地でのグリーフ・ケアの必
に関する心理教育のストレス軽減効果
要性は高いものと考えられるため、複
を検討することであった。統計学的な
数の介入経路を検討する必要もあるだ
分析に耐えうる対象者数となったグリ
ろう。
ーフに関する心理教育について分析し
また、第 2 の目的として支援者の知
た結果、心理教育前後でのストレス軽
識の向上を目指し、専門職を対象とし
減が有意であった。また、グリーフに
た研修会を実施した。その結果、一部
関する理解度が一定の向上を示した。
において知識の向上がみられたのみで
このことから、心理教育により、グリ
あった。今回の研修会の参加者は、す
ーフへの理解が向上し、ストレスが軽
でに類似の研修を受講した者も多かっ
減した可能性が示された。今後は心理
たことが理由であると考えられた。な
教育による理解度の向上とストレス軽
お 、 変 化 が 見 ら れ た 項 目 は 、「 亡 く な っ
減の因果関係についての分析が必要と
た人との思い出は、話題に出さない方
される。また、あいまいな喪失に関す
がいい」というものであり、支援者で
る心理教育についても、対象者数を増
あっても亡くなった方に関しては被災
やして検討する必要がある。
された方と話しにくく、あえて触れな
本研究の母体となる遺族ケアセミナ
い話題であることがうかがえた。
ーへの参加者は少なく対象者がごく限
遺族は自発的に援助を求めることが
られていた。しかしながら、特に沿岸
少ない。このことから、日常の生活支
部では不安定ながらも一定数の参加者
援の中に悲嘆やあいまいな喪失に留意
があり、開催の意味があると考えられ
した活動が求められる。心理や福祉関
る 。参 加 者 が 少 な い 理 由 の 一 つ と し て 、
連の専門職だけではなく、生活支援を
多くの遺族はまだまだ生活再建の途上
行う行政職員やボランティアに対する
にあり、自らセミナーに参加してご自
研修を行い、様々な支援の中に生かし
身の悲嘆に向き合う段階には至ってい
ていける体制が求められるだろう。
ない可能性が考えられる。また、仮設
住宅の多くが、交通が不便な立地にあ
り、自家用車を持たない高齢者にとっ
ては参加が難しいという問題もある。
G.結論
複雑性悲嘆は遷延化することが知ら
れていることから、被災地におけるグ
著者のアウトリーチ活動や、傾聴ボ
リーフ・ケアは継続性が求められる。
ランティアの活動では、遺族の悲嘆が
また、東日本大震災の死者・行方不明
語られることも多い。しかし、自発的
者の数は非常に多く、推定される遺族
に出かけていってということには抵抗
は膨大な数にのぼる。支援者への心理
があるようである。また研修会の参加
教育を実施することにより、広く被災
者の自由記述からも複雑性悲嘆が多く
者の悲嘆に対するケアができることが
144: 437-441, 1987.
望ましい。
5. Mor
among
論文発表
C
and
S
Secondary
morbidity
recently
bereaved.
the
A m e r i c a n J o u r n a l o f P s y c h i a t r y.
なし
2.
McHorney
Sherwood:
H.研究発表
1.
V,
143:158-163, 1986.
学会発表
山田幸恵・藤澤美穂
悲嘆の心理教育
6. Kaprio
J,
Koskenvuo
が心理的ストレス反応に及ぼす効
Langinvanio
果-東日本大震災の遺族を対象と
influences on use and abuse of
第 12 回 日 本 ト ラ ウ マ テ ィ
して-
alcohol:
a
H,
et
study
al:
M,
of
Genetic
5638
adult
ッ ク・ス ト レ ス 学 会 2 0 1 3 年 9 月 東
Finnish twin brothers. Alcoholism,
京
Clinical
and
Experimental
R e s e a r c h . 11 : 3 4 9 - 3 5 6 , 1 9 8 7 .
7 . G l a s s TA , P r i g e r s o n H G , K a s l S V
I.知的所有権の取得状況
1. 特 許 取 得
et al: The effects of negative life
events
なし
2. 実 用 新 案 登 録
on
alcohol
consumption
among older men and women. The
J o u r n a l s o f G e r o n t o l o g y. S e r i e s B ,
なし
3.そ の 他
Psychological Sciences and Social
Sciences. 50: S205-S216, 1995.
なし
8 . Z i s o o k S & Ly o n s L E : P r e d i c t o r s
文献
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1. Reber AS, Reber ES: The Penguin
the early stages of widowhood.
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2. Bowlby J: Grief and mourning in
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10.
3. Neimeyer R: Lessons of loss: A
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Life
events,
depressive
L:
Annotation:
Childhood bereavement following
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Tr e m b l a y, G . a n d A . I s r a e l :
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C h i l d r e n ’s a d j u s t m e n t t o p a r e n t a l
A m e r i c a n J o u r n a l o f P s y c h i a t r y.
death.
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( 南 山 浩 二 訳 『「 さ よ な ら 」 の な い
1998.
別 れ 別 れ の な い「 さ よ な ら 」- あ い
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ま い な 喪 失 - 』 学 文 社 , 2005)
American Psychiatric
15.
Association, Diagnostic and
金
吉 晴 :危 機 へ の 心 理 支 援 学
Statistical Manual of Mental
91 の キ ー ワ ー ド で わ か る 緊 急 事 態
D i s o r d e r s F o u r t h E d i t i o n , Te x t
に お け る 心 理 社 会 的 ア プ ロ ー チ
R e v i s i o n ; D S M - I V- T R . A m e r i c a n
日本心理臨床学会監修
Psychiatric Association:
災 害 支 援 の 心 構 え:2 2 - 2 , 遠 見 書 房 ,
Wa s h i n g t o n , D C , 2 0 0 0( 高 橋 三 郎 他
東 京 , pp22-24, 2010.
訳 『 D S M - I V- T R 精 神 疾 患 の 診 断 ・
統 計 マ ニ ュ ア ル 』 医 学 書 院 , 2002)
13.
16.
第 2 章( 3 )
鈴 木 伸 一・嶋 田 洋 徳・三 浦 正 恵 ・
片柳弘司・右馬埜力也・坂野雄二
Johannesson KB, Michel PO,
新 し い 心 理 的 ス ト レ ス 反 応 尺 度
Hultman CM, Lindam A, et al.:
( SRS-18 ) の 開 発 と 信 頼 性 ・ 妥 当
Impact of exposure to trauma on
性 の 検 討 .行 動 医 学 研 究 ,4 ,2 2 - 2 9 ,
posttraumatic
1998.
stress
symptomatology
tourist
tsunami
in
disorder
Swedish
survivors.
Journal of Nervous and Mental
Disease 197(5):316-23, 2009.
14.
Boss,
P. ,
Ambiguous
謝辞
本研究は岩手県臨床心理士会主催の
遺族ケアセミナーにおいて実施いたし
Loss,
Harvard University Press, 1999
ました。岩手県臨床心理士会のみなさ
まのご協力に感謝いたします。
Table 1 悲嘆の心理教育前後のストレス得点の変化
pre
post
mean
SD
mean
SD
13.50
9.43
11.60
8.95
Table 2 悲嘆の心理教育の内容についての知識に関する質問項目の平均点と標準偏差
pre
post
mean
SD
mean
SD
Q1
Q2
Q3
Q4
Q5
1.23
.51
1.08
.27
3.81
.94
3.58
1.36
2.69
.84
2.12
.91
2.88
.91
2.31
1.23
1.77
.71
1.35
.49
Table 3 あいまいな喪失の心理教育前後のストレス得点の変化
pre
post
mean
SD
mean
SD
24.33
21.73
17.33
13.05
Table 4 あいまいな喪失の心理教育の内容についての知識に関する質問項目の平均点と標準偏差
mean
pre
SD
mean
post
SD
Q1
Q2
Q3
Q4
Q5
2.50
.71
2.67
.58
3.33
2.08
2.33
.58
3.33
1.53
2.67
.58
4.00
1.00
3.00
1.00
3.00
2.00
3.33
2.08
Table 5 沿岸部セミナーの心理教育前後のストレス得点の変化
pre
post
mean
SD
mean
SD
12.52
10.12
8.60
9.29
Table 6 沿岸部セミナーの心理教育の内容についての知識に関する質問項目の平均点と標準偏差
pre
post
mean
SD
mean
SD
Q1
Q2
Q3
Q4
Q5
3.09
1.08
3.78
.80
3.70
1.11
3.70
1.02
2.78
.90
2.39
.78
1.88
1.03
1.88
.95
1.61
.66
1.91
.95
Table 7 研修会の内容に関する質問項目の平均点と標準偏差
pre
post
mean
SD
mean
SD
Q1
Q2
Q3
Q4
Q5
3.21
1.32
3.42
1.50
4.74
.56
4.68
.48
2.95
.97
2.53
1.12
1.53
.77
1.32
.48
1.74
.73
1.26
.56
平成 25 年度 厚生労働科学研究費補助金(障害者対策総合研究事業(精神障害分野)
)
被災地における精神障害等の情報把握と介入効果の検証及び
介入手法の向上に資する研究
分担研究報告書
広域自然災害の精神医療保健体制に及ぼす影響の情報把握と
対応のあり方の検討
分担研究者
富田博秋 1)
1) 東北大学災害科学国際研究所
災害精神医学分野
研究要旨
本研究は東日本大震災の教訓を踏まえて、今後予想される災害に対応することのできる強い精神医療保健体
制を構築するため、被災県の精神科病院協会、保健所、自治体などと協力して、東日本大震災における精神
科医療保健に関わる機関の被害と対応の実態や、災害の復興・防災に関する有益な情報を抽出し、得られた
教訓を今後の精神科医療に関わる医療機関の防災・減災に活かすことを目指す。本年度は宮城県下の精神科
医療機関を対象に各医療機関の事前の災害への備えと災害が精神科医療機関の施設、医薬品、物資、職員、
精神疾患罹患者の診療体制に及ぼした影響等を分析し、精神科医療機関の今後の災害への備えに有用な情報
を抽出することを目的に宮城県全域の精神科医療機関 26 病院を対象にアンケート調査と聞き取りを行い、
うち、14 病院からの情報集積を完了した。東日本大震災発災時点では被災医療機関の被災状況の支援側への
伝達や支援者側の状況把握のあり方は定まっておらず、伝達に遅れがみられた医療機関が多く、中には深刻
な支援の遅れに至ったケースがみられた。広域災害の場合、被災地域内の精神科医療機関の被災状況と支援
のニーズのアセスメントを早期に行うことは災害後急性期のメンタルヘルス支援の枠組みの中で重要事項に
位置づけるべきである。今年度の調査から精神科医療機関の今後の防災・減災・災害対応に向けて有益な情
報が多く得られた。今後、更に情報の集積、抽出を進め、全国の精神科医療機関の防災・減災・災害対応の
体制づくりに有用な情報の共有を図る予定である。
A.研究目的
本研究は東日本大震災の教訓を踏まえて、今後予想
B.研究方法
される災害に対応することのできる強い精神医療保
調査対象: 宮城県全域の精神科医療機関 25 病院、
健体制を構築するため、被災県の精神科病院協会、
および、宮城県立精神医療センター
保健所、自治体などと協力して、東日本大震災にお
調査主体: 災害科学国際研究所、宮城県精神科病院
ける精神科医療保健に関わる機関の被害と対応の実
協会
態や、災害の復興・防災に関する有益な情報を抽出
調査方法: 郵送または訪問面接調査
し、得られた教訓を今後の精神科医療に関わる医療
調査期間: H25 年 10 月 3 日~現在
機関の防災・減災に活かすことを目指す。本年度は
調査項目:被害について(施設の被害状況、施設の
宮城県下の精神科医療機関を対象に各医療機関の事
復旧状況、診療への影響)
、地震保険について(加入
前の災害への備えと災害が精神科医療機関の施設、
状況、加入に対する考え、未加入である理由)
、避難
医薬品、物資、職員、精神疾患罹患者の診療体制に
訓練(想定した災害内容・時間帯・出火元・階層、
及ぼした影響等を分析し、精神科医療機関の今後の
訓練内容、防災訓練の内容に含まれておらず実際の
災害への備えに有用な情報を抽出することを目的に
震災で想定外であったこと、防災訓練の内容に含ま
調査を行った。
れていたが、実際の震災で実行出来なかったこと、
震災の体験を通して、防災訓練に取り入れた方が良
いと思ったこと)
、避難について(震災当日に避難を
拠)
、通信について(災害時用通信回線設置、衛星電
した場合の、患者の状況別の避難・誘導方法や注意
話や衛星携帯の保有、衛星回線のインターネット使
事項、今後起こり得る災害を想定した避難方法や避
用可否、院内電話交換機の非常用電源回路接続可否、
難誘導方法のアドバイス)
、防災マニュアルについて
通信機器の充電状態を含めた管理の実施、非常時も
(策定年月日・改訂年月日、防災マニュアルの中で
使用できるトランシーバーか PHS、EMS の参加状
震災で実際に役に立った内容、震災の体験を通して、
況、EMS の緊急時の入力者の設定、困ったこと)、
防災マニュアルに新たに取り入れた方が良いと思っ
その他(震災後に地域被災者に対して行ったこと、
たことや、改良すべき点であると思ったこと、緊急
震災前からやっておけばよかったこと、震災時にや
時の職員の非常招集についてのマニュアル設定状況、
っておけばよかったこと、震災後災害に備えて心掛
災害・緊急時の職員の非常招集の設定内容、災害・
けておいた方がよかったこと、など)
緊急時の職員の非常招集について震災後に変更した
点・新たに設定したこと)
、震災直後の被災状況の発
(倫理面への配慮)医療機関の被害状況と災害対応
信について(被害状況を発信した日、発信先、発信
のあり方についてのみの情報収集を行い、個人を特
方法)
、震災直後の外部からの支援状況について(支
定する情報の収集は一切行わなかった。
援があった日、支援元、支援の内容)
、不足していた
支援について(いつ頃まで不足していたか、不足し
C.研究結果
ていた支援内容)
、緊急時に備えた他医療機関との連
全対象 数 26 病院のうち、14 病院(53.8 %)
携・契約状況について(契約状況、契約先、契約内
からの情報の回収、情報の聴取を終了した。これま
容、契約及び調整内容、連携すべき点等)
、緊急時に
での結果から得られた被害の概要と東日本大震災の
備えた業者との契約状況について(契約状況、契約
体験から精神科医療機関の防災や災害対応として考
内容、契約時期、連携・契約すべてき点等)
、職員に
慮するべき主な点は下記の通りである。詳細な結果
ついて(職種別職員数への影響、減少理由、必要で
は別途、公表予定である。
あった制度・支援・準備等、安否確認完了日、連絡
1. 被害について:
に時間を要した理由、連絡方法の改善点、職員の通
a. 施設の被害状況: 14 病院のうち、全壊 2、
一部損壊 12
勤被害への対応、子ども保育への対応、生活支援、
健康支援のあり方)、病院への避難者について(受け
b. 施設の復旧状況: 14 病院のうち、復旧のめ
入れ有無、食事提供、病院への影響)
、隔離・拘束に
どが立たない 2、復旧済 12 (復旧時期:発災
ついて(問題になったこと、誘導方法)
、患者の転院
年 67%、翌年中 25%、翌々年 8%)
受け入れ・送出しについて(有無、問題点、備えて
c.
外来診療への影響:受け入れ制限を行った
おくべきこと、必要なシステム)
、転院超過入院につ
病院 5(最短 4 日間、最長 10 日間)
、受け
いて(有無、工夫した点・病院にもたらした影響)
、
入れが全くできなかった病院 4(最短 2 日間、
診療緑について(震災時に使用していた診療録、診
最長 23 日間)
療への支障、電子カルテの導入状況・導入の問題点)、
d. 入院診療への影響:受け入れ制限を行った
ライフラインについて(被害有無、復旧時期、震災
病院 4(最短 4 日間、最長 11 日間)
、受け
後変更した点、給水方法、停電時でも使用可能な井
入れが全くできなかった病院 2(最短 24 日
戸設備の有無、自家発電機燃料種類、備蓄燃料の種
間)
類、持ち運び可能なポータブル発電機の所有、異な
2.防災訓練の内容に含まれておらず実際の震災で
る複数種類のエネルギー利用)
、医薬品について(外
想定外であったことと対応の例
来診療の医薬品処方方法、医薬分業システムの改善
・停電時に病棟の電気錠が働かなかったのでドア付
点、医薬品備蓄計画の有無、医薬品リストの策定状
近に職員が張り付いた。
況、医薬品の備蓄量、災害時に不足していた薬剤、
・電気は簡易自家発電を利用したがすぐに燃料不足
保険診療以外で提供した薬剤の有無、薬剤支援供給
になった。
の望ましい制度)
、備蓄量について(自家発電、生活
・停電により水を屋上のタンクまで上げることがで
用水・飲用水、患者用・職員用・職員家族用の食糧、
きなかった。そのため下のバルブで水を汲み、人力
実際に備蓄しておいた方がよかった備蓄量とその根
で各階にあげた。
・外来患者の津波避難誘導及び避難場所を想定して
を重ね防災意識を深めること。
いなかった。
・外部との連絡。当時通信手段が不通となり、数日
・地震の揺れが強いため屋外への避難は無理だった。
孤立したため、可能な連絡手段を複数想定し、訓練
・電力に頼らない暖房器具がなく、毛布の重ね着や
することが必要。現在は、アマチュア無線(ハンデ
厚着で寒さを凌いだ。
ィ機)を常備。
・外部との連絡手段がなく、情報収集に手間取った。
・患者が不安にならないよう、停電で明かりがない
・自治体が指定した病院の周辺地域住民の避難先に
中でも、常に声掛けをするように心がける。
津波がきた。市のハザードマップでは津波による被
・寝具のマットレスを 2 階の廊下いっぱいに敷き詰
害は想定されていなかったところ津波がきた。
め、床の冷たさを感じにくくする。避難前に病室の
・自家発電(水冷式)がオーバーヒートして停止し
危険物を除去する。
た。
・情報収集の際、窓口を一本化し、即報告する体制
・行政の支援リストからもれ孤立状態になった。
が必要。
・防災無線も聞こえず広報車も回ってこなかった。
・長期に及ぶライフラインの停止に備え、発電機の
・ライフラインの長期停止。
作動訓練や飲料水の搬送訓練、炊き出し等の訓練が
・ガソリン不足
必要。すべての電気が途絶えた場合、夜間も含めど
・しばらく食糧供給する委託業者との連絡が取れな
う対処するのかといった訓練も必要。
くなった。
5. 防災マニュアルの中で、震災で実際に役に立った
・発電機の軽油の確保に苦慮した。
内容
・トイレの水、生活用水の不足
・建物及び避難設備の安全確認。
3.防災訓練の内容に含まれていたが、実際の震災
・患者の避難誘導
で実行出来なかったことの例
・予め定めていた震災時出動体制が機能
・病院の電話と携帯電話が不通になり連絡網が機能
・全職員・全患者に配布している安全のためのヘル
しなかった為、職員間の情報伝達に時間を要した。
メット
・あまりの強い揺れで、人員の確認、被害状況の報
・津波警報時の上階へ一階の患者を移動
告が遅れた。
6.震災の体験を通して、防災マニュアルに新たに
・地震の際は、断水に備え浴槽に生活用水の貯水を
取り入れた方が良いこと、改良すべき点
行う規定だったが、断水が長期に及んだため、貯水
・建物の倒壊による負傷者が発生した場合の救出救
が飲料水を減らしてしまう結果になった。
護活動
4.震災の体験を通して、防災訓練に取り入れた方
・建物内部に閉じ込められたり、落下物の下敷きに
が良いと思ったこと
なった人を救出する場面での対処の方法
・停電に備えてポータブル発電機を購入した。防災
・負傷者の応急処置は駐車場もしくはグラウンドに
訓練時にポータブル発電機の使用方法を確認してい
テントを設置して行うこと
る。
・電気、ガス、水道のライフライン停止に加え、電
・入院患者の全員避難の実施。以前は動ける患者及
話の不通、燃料(ガソリン・軽油・重油)の不足、
び歩行困難(軽度)な患者の誘導が主で、重症患者
しかも長期間の対応
避難誘導は行っていなかった。
・状況によって臨機応変に対応できる余地を残して
・停電時の熱源確保策を含めた防災訓練を検討して
おく
いく必要がある。
・物資、備品の調達方法及び職員用を含めた備蓄品。
・実際の場面を想定した患者の避難誘導。例えば、
職員の通勤手段、燃料の調達方法
2人一組で担架や毛布等で避難させる訓練だけでな
・水の確保のための手段
く、緊急時には、一人で抱きかかえたり、背負った
・職員へのケア
り、肩に担いだりして非難させる訓練も必要と思わ
・津波警報発令時は、避難行動以外は一階での作業
れる。
を一切行わないようにし、全員二階以上のフロアで
・建物の損壊場所を複数を想定し、避難経路・避難
待機した方が良い
場所への誘導訓練すること。また机上(頭上)訓練
・何よりもまずは自分の命を守ることが最優先であ
ること
期に行うことは災害後急性期のメンタルヘルス支援
の枠組みの中で重要事項に位置づけるべきである。
D.考察
今回の調査から精神科医療機関の今後の防災・減
被災医療機関の被災状況の支援側への伝達と支援
災・災害対応に向けて有益な情報が多く得られた。
ニーズ
今後、更に情報の集積、抽出を進め、全国の精神科
東日本大震災発災時点では被災医療機関の被災状況
医療機関の防災・減災・災害対応の体制づくりに有
の支援側への伝達や支援者側の状況把握のあり方は
用な情報の共有を図る予定である。
定まっておらず、伝達に遅れがみられた医療機関が
多く、中には深刻な支援の遅れに至ったケースがみ
F.研究発表
られた。広域災害の場合、被災地域内の精神科医療
論文発表
機関の被災状況と支援のニーズのアセスメントを早
1. 富田博秋、根本晴美:第 6 章
期に行うことは災害後急性期のメンタルヘルス支援
と精神保健.東日本大震災を分析する.明石書店
の枠組みの中で重要事項に位置づけるべきである。
pp82-91, 2013
防災マニュアル・防災訓練
2. 富田博秋、根本晴美:災害時の精神医療保健に関
防災マニュアルの内容は施設毎で、力点が置かれて
わる対応.土木学会 東日本大震災調査報告書(印刷
いるところや、抜けている点など、大きくことなる。
中)
また、防災訓練で想定されている内容、訓練方法な
3.富田博秋、東海林 渉:精神的サポート.災害時糖
ども大きく異なっており、事前の訓練が功を奏した
尿病診療マニュアル(日本糖尿病学会編)
.文光堂(印
と思われる点、改善を要すると思われる点が散見さ
刷中)
れた。防災マニュアル・防災訓練の改良・標準化を
4. 富田博秋:災害精神医学に関する研究の課題.
検討する必要性が示唆された。
東日本大震災からの復興に向けて
防災設備・備蓄・協定関係
学・医療の課題と展望~ .精神神経学雑誌(印刷中)
東日本大震災で事前に準備されていた防災設備、備
学会発表
蓄されていた物資、医薬品は医療機関ごとに大きく
1. Tomita H. Psychosocial postventions following
災害時の精神医療
~災害精神医
異なり、災害時に有用だったことや困難を招いたこ
the 2011 Great East Japan Earthquake and
とがみられた。事前に他の医療機関や業者と災害時
Tsunami. Session 3:
の救援の協定、取り決めを行っていたことで災害後
cultural aspects of Disaster. UK Japan
の復旧が円滑に行われた事例がみられた。防災設
Disaster Risk Reduction Workshop. London
備・備蓄・協定関係に関する情報の整理・共有化を
(University College London), November 22,
行うことが今後の防災・減災・災害対応に有用であ
2013
ると考えられる。
Medical, social and
2. 富田博秋.災害精神医学に関する研究の課題.
今後、宮城県の残りの医療機関での調査を行うと
シンポジウム 18「災害関連精神医学・医療の展
ともに、他県の医療機関についても原子力発電所事
望と課題」
(東日本大震災特別委員会 2)第 109
故などの人為的要因も含め調査検討を行い、精神科
回日本精神神経学会学術総会
福岡[2013/5/24]
医療機関の大災害への備えのあり方と被災精神科医
3. 富田博秋.東日本大震災後のメンタルヘルスの
療機関への支援のあり方に関する包括的な指針の策
現状と課題.シンポジウム「東日本大震災後の
定することが望まれる。
中長期的な健康課題-宮城県における公衆衛生
の視点から」第 49 回宮城県公衆衛生学会学術総
E.結論
会
仙台[2013/7/11]
東日本大震災発災時点では被災医療機関の被災状況
の支援側への伝達や支援者側の状況把握のあり方は
G.知的所有権の取得状況
定まっておらず、伝達に遅れがみられた医療機関が
1. 特許取得
多く、中には深刻な支援の遅れに至ったケースがみ
2. 実用新案登録
られた。広域災害の場合、被災地域内の精神科医療
3.その他
機関の被災状況と支援のニーズのアセスメントを早
なし
なし
なし
厚生労働科学研究補助金(障害者対策総合研究事業)
分担研究報告書
被災地における精神障害等の情報把握と介入効果の検証
及び介入手法の向上に資する研究
分担研究報告書
Hyperarousal Scale 日本語版の開発に関する研究
分担研究者
三島和夫 1
研究協力者
綾部直子 1・北村真吾 1
1
国立精神・神経医療研究センター精神生理研究部
研究要旨 災害後に生じる不眠症、気分障害、PTSD 等に共通した病態として、生理的過
覚醒(Hyperarousal)の存在が想定される。不眠症患者は健常者と比較すると過覚醒得点
が有意に高く(Regestein, Q et al., 1993)、さらに、うつ症状やストレス、睡眠に関する問題
行動と関連していることが知られている(Ulla Edéll-Gustafsson et al., 2006)。そこで本研究
は、 Hyperarousal Scale(Regestein, Q et al., 1993、以下、HAS とする)日本語版を作成
し、その信頼性と妥当性の検討を行うことを目的とした。HAS は 26 項目4件法の自記式質
問票である(得点範囲 0~78 点)。日本語版作成にあたり、原著者の許諾を得た上で原版
を翻訳し、バイリンガルによるバックトランスレーションを行った。そして、バックトランスレーシ
ョンを行ったものと原版との比較を原著者に依頼し、等価性についての確認を得た。その
後、 20 歳以上の一般地域住民を対象に、作成した HAS 日本語版、抑うつ、不安、不眠の
重症度、睡眠障害、その他睡眠状態や精神的健康と関連する質問票に回答を求め、すべ
ての質問票に回答した男女 288 名(平均年齢 38.80±10.45 歳)を解析対象とした。本研究
の結果、HAS 合計得点において、性別、年代別に有意な差異はみとめられなかった。次
に、HAS 日本語版の信頼性の検討のため、クロンバックのα係数を算出したところ、α= .84
であり、高い信頼性を有していることが示された。また、構成概念妥当性検討のため、HAS
日本語版と抑うつ、不安、不眠の重症度等の睡眠関連の指標との相関分析を行ったとこ
ろ、有意な高い相関関係が示された。したがって、HAS 日本語版は高い信頼性と構成概念
妥当性を有していると考えられた。これらの結果から、本尺度は生理的過覚醒の側面から
簡便にうつ病、不眠症、PTSD等に対する罹患脆弱性のスクリーニングに有用である可能性
が示唆された。
A. 研究目的
やストレス、睡眠に関する問題行動と関連して
大規模災害後に睡眠問題が急増し、急性
いることが知られている(Ulla Edéll-Gustafsson
期では共通して約 60%の住民で不眠症状が
et al., 2006)。そこで本研究は、 HAS 日本語
認められる。たとえば、東日本大震災後の調
版を作成し、その信頼性と妥当性の検討を行
査においても、社会的役割の高い世代にお
うことを目的とした。
いて、不眠症へのリスクが高いことが示唆され
た。さらに、震災後に不眠症を有していた群で
B. 研究対象と方法
は、高率に心理的ストレスや抑うつ状態を呈し
調査対象者 東京近郊エリアに配布した広告
ていたことが明らかにされている。
媒体を用いて、これまで交代勤務に従事した
ところで、震災後に生じる不眠症、気分障
ことのない一般成人男女対象に調査を行った。
害、PTSD 等に共通した病態として、生理的過
広告配布期間は 2013 年 9 月 21 日からとし、
覚醒(Hyperarousal)の存在が想定されている。
最終的にすべての質問票に回答した 288 名
生理的過覚醒とは、たとえば、交感神経の緊
を解析対象者とした。
張が持続的に高まる、ストレスホルモン(副腎
皮質ホルモンなど)の分泌が過剰になる、基
調査項目 以下の質問票を用いた。
礎代謝が亢進する、体温が上昇するなど、絶
1.HAS 日本語版
えず身体的興奮が持続している状態を指す。
日本語版作成にあたり、原著者の許諾を得
一般に、震災のような甚大なストレスを受けた
た上で原版を翻訳し、バイリンガルによるバッ
場合、ヒトは不安を感じ、一時的に覚醒した状
クトランスレーションを行った。そして、バックト
態に陥る(情動的過覚醒)。しかしながら、高
ランスレーションを行ったものと原版との比較
齢者や、心配や不安が強いなどの個人特性
を原著者に依頼し、等価性についての確認を
を有している場合は、情動的過覚醒の状態か
得た。
ら抜け出せずに生理的過覚醒に移行すること
2.抑うつ(CES-D)
によって、不眠が慢性化するといった悪循環
3.不安(新版 STAI 状態ー特性不安検査)
に陥る可能性が高まることが知られている。し
4.睡眠障害(日本語版ピッツバーグ睡眠質問
たがって、不眠症や気分障害、PTSD 等の背
景にある生理的過覚醒を評価し、これらの疾
票;PSQI)
5.朝型夜型タイプ(朝型夜型質問紙;MEQ、
患への罹患脆弱性をスクリーニングすることが
Munich
できれば、臨床的に非常に有用であると考え
MCTQ)
られる。
海外においては、過覚醒の状態に着目し
ChronoType
Questionnaire ;
6.不眠症リスク(Ford Insomnia Response to
Stress Test;FIRST)
た Hyperarousal Scale(Regestein, Q et al.,
7.日中の眠気(エプワース眠気尺度;ESS)
1993,以下 HAS とする)が存在する。この尺度
8.日中の支障度(Sheehan Disability Scale 日
は自記式 26 項目で構成され、不眠症群は健
常者群と比較すると過覚醒得点が有意に高
いことや(Regestein, Q et al., 1996)、うつ症状
本語版;SDISS)
9.不眠の重症度(Athens Insomnia Scale;AIS、
日本語版不眠重症度質問票;ISI)、
10.気分状態( 日本語版 POMS (Profile of
Mood Status)短縮版)
ら構成される。すべての項目の合計得点を
HAS 得点とした。得点範囲は 0 点~78 点であ
11 . ス ト レ ス ( 知 覚 さ れ た ス ト レ ス 尺 度
り、得点が高いほど過覚醒状態が高いことを
(Perceived Stress Scale)日本語版;PSS)
示す。288 名の HAS 得点の分布を Figure2 に
12.性格・人格検査(NEO FFI)
示す。平均得点は 27.57±9.43 点(男性 114
13.健康関連 QOL(HRQOL: Health Related
人:26.73±9.73 点、女性 174 人:28.13±9.21
Quality of Life;SF-8)
点)であった。性別と年代を独立変数、HAS 得
14.対処行動(3次元モデルにもとづく対処方
点を従属変数とした2要因分散分析を行った
略 尺 度 ( Tri-axial Coping Scale-24 ;
結果、性別、年代ともに有意な交互作用は認
TAC-24)
められなかった(Figure3)。
(倫理面への配慮)
3)信頼性の検討
本研究は国立精神・神経医療研究センター
クロンバックのα係数を用いて、信頼性の検
倫理委員会の承認を受けており、臨床研究及
討を行った。その結果、α = .84 を示したこと
び疫学研究の倫理指針に基づく手続きを遵
から、高い信頼性を有していることが示され
守した。個人情報をはずした情報のみを分析
た。
に用いており個人のプライバシーは保護され
ている。
4)構成概念妥当性の検討
HAS 得点と抑うつ、不眠の重症度、不安、気
C. 結果
分状態の指標との相関分析を行った。その結
1)対象者の年齢
果、抑うつ(CES-D)、不眠の重症度(AIS、
対象者 288 名全体の平均年齢は 38.80±
ISI)、不安(STAI-T、STAI-S)、気分(POMS)
10.45 歳であった(男性 114 名(42.5%):41.61
と有意な高い相関関係が示された(Figure4-1、
±10.81 歳、女性 174 名(57.5%):36.95±9.8
4-2、4-3、4-4、4-5、4-6)。したがって、過覚
歳)。また、対象者の年代は、20 代 59 名、30
醒状態が高いほど、抑うつや不眠症状、不安
代 106 名、40 代 72 名、50 代 42 名、60 代以
やネガティブな気分状態との関連が示された。
上 9 名(男性:20 代 15 名、30 代 36 名、40 代
これらの結果から、作成した HAS 日本語版は、
35 名、50 代 22 名、60 代以上 6 名、女性:20
高い構成概念妥当性を有していることが示唆
代 44 名、30 代 70 名、40 代 37 名、50 代 20
された。
名、60 代以上 3 名)であった(Figure1)。
5)過覚醒状態とその他の指標との関連
2)HAS 得点の分布
本研究で作成した HAS 日本語版を Table1
HAS 得点について平均点±1SD を基準とす
る 3 群を設定した(低群・中群・高群)。各群の
に示す。原版と同様に、各項目について「全く、
平均点と人数については、それぞれ低群
そうでない(1点)」~「きわめて、そうだ(4点)」
14.79±3.33 点(42 名) 、中群 26.31±4.79
の4件法で評価するものとし、合計 26 項目か
点(194 名) 、高群 42.60±5.79 点(52 名) で
あった(Figure5)。過覚醒の状態像を明らかに
比較をすると、日本語版における HAS 得点は
するために、過覚醒 3 群を独立変数、その他
やや低いことが示された。また、スウェーデン
の指標を従属変数とした一要因分散分析を
語版における HAS 得点は、女性のほうが高い
行った結果、抑うつ(F(2,285)=43.04、p<.01)、
ことが明らかにされているが、日本語版におい
不安の重症度(AIS:F(2,285)=36.22、p<.01、
ては HAS の合計得点に性差はみとめられな
ISI:F(2,285)=38.46、p<.01)、不安(STAI-T:
かった。これらの結果の差異については、スウ
F (2,285)=63.54、p <.01、STAI-S: F(2,285)=
ェーデン語版においては、40 歳代以上の男
34.06、p<.01)において、高群>中群>低群
女を対象に調査を行っており、平均年齢は男
の順に HAS 得点が有意に高かった(Figure
性 59.4 歳、女性 58.5 歳と本研究の平均年齢
6-1、6-2、6-3、6-4、6-5)。また、気分状態の
より約 20 歳高いことが考えられる。また、HAS
うち、ネガティブな気分状態を示す下位項目
得点の性差については、日本語版において
(緊張・不安: F(2,285)=77.72、 p<.01、抑うつ・
項目ごとに男女の得点を比較した結果、7項
落込:F(2,285)=47.26, p<.01、敵意:F(2,285)
目で男女差がみとめられ、すべて女性の得点
=19.23、p<.01、疲労:F(2,285)=29.89、p<.01、
は高いことが示された。これらの結果をふまえ
混乱:F(2,285)=44.09、 p<.01)においても、高
ると、本研究においては 60 歳代以上の対象
群>中群>低群の順に HAS 得点が有意に高
者が少ないことから、睡眠の質が悪化する高
かった。
齢世代のサンプルを追加してもなお同様の結
さらに、入眠潜時および総睡眠時間を従属
変数として同様の検討を行ったところ、低群は、
果になるかどうか検討が必要であると考えられ
る。
中群、高群と比較して有意に入眠潜時が短か
った(F(2,285) = 4.89、p <.01;Figure7-1)。そ
2.信頼性・妥当性の検討
の一方で、過覚醒状態 3 群による総睡眠時間
信頼性についてはクロンバックの α 係数を
に有意な差異はみとめられなかった(F(2,282)
用いて検討を行ったところ、α=.84 を示し、高
= 1.92、 n.s. ;Figure7-2)。また、朝型夜型質
い信頼性を有していることが示された。また、
問紙(MEQ)を用いて、過覚醒状態と対象者
妥当性の検討においては、抑うつ、不眠の重
の睡眠のタイプを分類した結果、夜型になる
症度、不安、気分状態の指標を用いて検討を
ほど過覚醒状態が高い者の割合が増加する
行った。その結果、いずれの指標とも有意な
ことが示された(Figure8)。
高い相関関係を示した。過覚醒の高さが、抑
うつ、不安、不眠の重症度との関連を示したこ
D.考察
本研究では、HAS 日本語版を作成し、その
信頼性・妥当性を検討することを目的とした。
とから HAS 日本語版は高い構成概念妥当性
を有していると考えられる。なかでも HAS 高群
については、従属変数として用いた抑うつや
不眠の重症度の各指標のカットオフ得点を超
1.HAS 日本語版の得点分布
えており(CES-D:16 点、AIS:6 点、ISI:10 点)、
スウェーデン語版 Hyperarousal Scale(Ulla
過覚醒の得点が高い者ほど気分障害や不眠
Edéll-Gustafsson et al., 2006)の合計得点と
症の罹患脆弱性が高い状態像を示唆してい
wavelength. J Physiol Anthropol, 32
るものと考えられる。
(1): 16-, 2013
したがって、本研究の結果をふまえると、
HAS 日本語版は気分障害及び不眠症の罹患
3.
Ohtsu
T,
Kaneita
Y,
Aritake
S,
脆弱性のスクリーニング尺度として有用である
Mishima K, Uchiyama M, Akashiba T,
ことが示唆された。今後の展望として、患者群
Uchimura N, Nakaji S, Munezawa T,
における過覚醒傾向と臨床経過・症状を評価
Kokaze A, Ohida T.: A Cross-sectional
することにより本尺度の概念、因子構造、有用
Study of the Association between
性を検証するとともに、本尺度を用いたコホー
Working Hours and Sleep Duration
ト調査や治療介入研究での有用性の検討が
among
望まれる。
Population.. J Occup Health, 2013
E.結論
the
Japanese
Working
総説
1.Hyperarousal Scale(HAS)日本語版の作
1.
三島和夫: 不眠症治療の今日的課題.
CLINICIAN, 60 (): 18-24, 2013
成を行った。
2.HAS 日本語版は高い信頼性と構成概念妥
2.
三島和夫: 睡眠と depression. 神経内科,
79 (1): 92-99, 2013
当性を有していると考えられた。
3.
F. 健康危険情報
片寄泰子, 兼板佳孝, 野崎健太郎, 井上
雄一, 内村直尚, 山寺亘, 渡辺範雄, 本
多真 , 北村真吾, 肥田昌子 , 守口善也,
特になし
岡島義, 中島俊, 三島和夫: 東日本大震
G. 研究発表
災による不眠症頻度およびメンタルヘ
論文発表
ル ス へ の 影 響 . 不 眠 研 究 2013,
原著
23-24, 2013
1.
Hida A, Kitamura S, Ohsawa Y,
4.
三島和夫: II.概日リズムと疾患
():
睡眠
Enomoto M, Katayose Y, Motomura Y,
障 害 . 日 本 臨 牀 , 71 (12): 2103-2108,
Moriguchi Y, Nozaki K, Watanabe M,
2013
Aritake S, Higuchi S, Kato M, Kamei Y,
Yamazaki
S,
Goto
Y,
Ikeda
M,
Mishima K.: In vitro circadian period
1.
三島和夫: 精神科臨床に役立つ睡眠障害
circadian/sleep
の診断と治療.第 109 回日本精神神経学
preference. Sci Rep, 3 (2074): 1-7, 2013
会学術総会.福岡: 20130523 - 20130525
is
2.
学会発表・招待講演等
associated
with
Lee SI, Hida A, Tsujimura SI, Morita T,
2.
Mishima
K:
Rhythm
and
blues:
Mishima K, Higuchi S.: Association
Mismatch of social and body clocks in
between
depressive people .WFSBP Congress
melanopsin
gene
polymorphism (I394T) and pupillary
2013,
11th
World
Congress
of
light reflex is dependent on light
Biological Psychiatry.京都: 20130623 -
20130627
3.
三島和夫: 大規模自然災害の被災地にお
ける「睡眠障害」の実態とフェーズに配
慮した対策
東日本大震災後の日本人の
睡眠とメンタルヘルス:ストレス反応と
レジリアンス.日本睡眠学会第 38 回定
期学術集会.秋田: 20130627 - 20130628
4.
三島和夫: 難治性うつ病の作用点として
の不眠、過眠、過覚醒.第 3 回治療抵抗
性うつ病研究会.秋田: 20130712
5.
三島和夫: 不眠症治療の Up to date.日
本睡眠学会第 38 回定期学術集会.秋田:
20130627 - 20130628
6.
三島和夫: 睡眠薬の適正使用ガイドライ
ン―出口を見据えた不眠治療に向けて―.
日本睡眠学会第 38 回定期学術集会.秋
田: 20130627 - 20130628
7.
三島和夫: うつ病と睡眠障害の関連.第
10 回 日 本 う つ 病 学 会 総 会 . 福 岡 :
20130719
8.
三島和夫: アレルギー性鼻炎に伴う睡眠
障害と QOL.第 18 回那須ティーチイン.
東京: 20130727
9.
三島和夫: 睡眠薬の適正な使用と休薬の
ためのガイドライン-出口を見据えた不
眠症治療に向けて-.不眠症治療
講演会.熊本: 20131004
H. 知的財産権の出願・登録状況
なし
特別
Table1 Hyperarousal Scale(HAS)日本語版
1
几帳面だ
2
朝は目覚めが悪い
3
注意深く仕事をする
4
いつも考え事をしている
5
自分や他人の感情を気にしがちだ
6
明るい光、人混み、騒音、車の行き来が煩わしい
7
夕方から夜にかけてが最も好きな時間帯だ
8
昼寝はしようと思ってもできない
9
問題が起こると思いがちだ
10 寝室は散らかっている
11 何事も自分自身に関連づけて考える
12 たくさんの事が同時に起こると混乱してしまう
13 細かい作業が得意だ
14 寝つきが悪い
15 用心深い人間だ
16 夜、寝床に入っても考え続けてしまう
17 突然、大きな音を聞いたら、どきどきがなかなか収まらないだろう
18 過度に実直だ
19 カフェインが非常に良く効く
20 物事がうまくいかないと落ち込みやすい
21 日常の活動はいつもほぼ同じである
22 何度も何度も同じ事を考え込んでしまう
23 決断するのに時間がかかる
24 飲酒すると眠くなる
25 些細なことで涙が出る
26 いつまでも同じ事が頭から離れない
※4件法で回答
「0:全く、そうでない/1:少し、そうだ/2:かなり、そうだ/3:きわめて、そうだ」
Figure1 対象者の年齢分布
Figure2 HAS 得点の分布
Figure3 性別・年代別の HAS 得点
CES-D
Figure4-1
Figure4-2
HAS と AIS の相関
Figure4-5
HAS と STAI-T の相関
HAS と CES-D の相関
Figure4-3
Figure4-6
HAS と ISI の相関
HAS と STAI-S の相関
Figure4-6 HAS と POMS の下位尺度との相関
Figure5 HAS3群の得点分布
**
**
**
**:p <.01
Figure6-1
HAS3 群と CES-D 得点
**
**
**
**
**
**
**:p <.01
Figure6-2
HAS3 群と AIS 得点
**:p <.01
Figure6-3
**
HAS3 群と ISI 得点
**
**
**
**
*
**:p <.01
**:p <.01,*:p <.05
Figure6-4
HAS3 群と STAI-T 得点
Figure6-5
HAS3 群と STAI-S 得点
**
**:p <.01
Figure7-1
HAS3 群と入眠潜時
Figure8
Figure7-2
HAS3 群と朝型夜型タイプ
HAS3 群と総睡眠時間
平成 25 年度 厚生労働科学研究費補助金(障害者対策総合研究事業(精神障害分野))
被災地における精神障害等の情報把握と介入効果の検証及び
介入手法の向上に資する研究
分担研究報告書
東日本大震災「こころのケアチーム」派遣・実績に関する研究
分担研究者 渡 路子
1)
研究協力者 荒川亮介
1)
吉田 航
1)
小見めぐみ
1)
中神里江
1)
小菅清香
1)
1) 国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所災害時こころの情報支援センター
研究要旨
【背景】 平成 23 年東日本大震災においては、厚生労働省から全国自治体等に対し、災害
時精神保健医療活動を行ういわゆる公的な「こころのケアチーム」の派遣の斡旋が行われ
た。しかしながら、支援活動が大規模かつ長期間に渡ったことから、個別での報告はなさ
れていたものの、その全体像の把握と評価は行われていない。また、こころのケアチーム
の活動が一部非効率的であったこと等を踏まえ、平成 25 年 4 月に厚生労働省より災害派遣
精神医療チーム(DPAT)活動要領が発出されており、東日本大震災におけるこころのケアチ
ームの全体像を評価した上で具体的な活動内容を検討していく必要がある。
【目的】 全国レベルでの派遣および活動実績を統一した手法で集計し、東日本大震災に
おける公的な支援の全体像を明らかにする。また、DPAT を体制整備するにあたり、自治体
の現状について整理した上で、今後あるべき災害時精神保健医療活動について検討する。
【方法】
研究Ⅰ.東日本大震災こころのケアチーム活動実績調査;平成 24 年度に行った宮城県、仙
台市での調査と同様に、平成 25 年度は福島県において、こころのケアチームが行った相談・
診療の個人ごとの記録(個票)より個人情報以外の ID、年齢、性別、相談場所、症状及び
処方箋を、1 日の集計結果としての記録(日報)より相談対応延件数を抽出し、入力及び集
計を行う。
研究Ⅱ.都道府県・政令指定都市の災害時精神保健医療体制整備状況調査;平成 25 年度
DPAT 研修に参加した 67 都道府県・政令市、188 名(精神保健福祉センター長、チームリ
ーダー、事務担当者)に対し、自治体における災害時精神保健医療整備状況、訓練状況に
ついてアンケート調査を行った。
【結果】
研究Ⅰ.日報に計上されていた相談対応延件数が 6609 件、そのうち個票として残されてい
たのが 4021 件であった。福島県全体の相談対応延件数は、震災発生後約 2 か月をピークと
して減少し、震災発生後 3 か月半から急激に減少する経過であった。県北、県中では、震
災発生後約 3 か月からはほとんど相談対応が行われていなかった。相談者の性別、年齢、
症状については、地域、時期別の差はほとんど見られなかった。
研究Ⅱ.局所災害、広域災害とも、窓口が未確定である自治体が約 6 割、初期活動を行う
ための人員が確定していない自治体が 8-9 割であることが分かった。また研修や訓練につ
いては、特に広域災害に関するものは自治体独自では困難である状況が把握できた。また、
特に災害時のロジスティックス担当者に対する研修、訓練はほとんどなされていなかった。
【考察】
研究Ⅰ.福島県における「こころのケアチーム」の活動実績を全て集計した。宮城県におけ
る実績と比較すると、早期(発災後約 3 か月半)に支援が終息していることがわかった。
その背景には、福島県には原発事故の影響等により、支援開始がその他の地域より遅れ、
多くの自治体がすでにその他の地域に割り付けられ活動を継続している状況があり、継続
した支援投入を行えなかったことが考えられた。今回の調査により、発災後 3 年が経過し
た時点でようやく客観的な支援投入量の評価を行ったことになるが、今後は、活動中に精
神保健医療活動に関する実績については評価できる仕組み(災害精神保健医療情報支援シ
ステム;DMHISS)を活用し、対策を随時検討していく必要があると考えられた。
研究Ⅱ.東日本大震災後の全自治体における災害精神保健医療体制について調査した。災
害発生後から迅速にかつ効率的に精神保健医療に関する活動を行っていくためには、平時
において、自治体レベルでは具体的な体制、人材の確保、ロジスティックスを含めた人材
育成を、国レベルでは特に広域災害に関する研修、訓練を実施する必要があると考えられ
た。
研究Ⅰ.福島県におけるこころのケアチー
がって、本研究ではこころのケアチームの
ム活動実績調査
活動実績を統一した手法に基づいて集計し、
被災県における今後の活動の基礎資料とす
A.研究目的
東日本大震災において、厚生労働省を経
由した「こころのケアチーム」の派遣など、
る。さらに、今後発生が予想される大規模
災害時の精神保健医療体制の在り方を検討
する際の基盤とする。
様々な外部支援が行われたが、派遣された
チームによって報告様式が異なり、全国レ
ベルで評価することが困難であった。した
B.研究方法
平成 24 年 7 月 24 日付で厚生労働省から
岩手県、宮城県、福島県、仙台市の本庁に
のの、どの時期も思春期から成人(16~64
依頼文を送付した。その後、平成 24 年度は
歳)が約半数以上を占めており、小児(15
宮城県、仙台市より、平成 25 年度は福島県
歳以下)は 1 割弱であった。
より承諾を得て、災害時こころの情報支援
4.症状<大項目>(図 9)
センターから調査スタッフを派遣し、ここ
不安症状は約 1 割、身体症状は約 2 割、
ろのケアチームが行った相談・診療の個人
症状なしは約 3 割と、震災発生から時期に
ごとの記録(個票)より個人情報以外の ID、
よる変動は明確ではなかった。不眠は震災
年齢、性別、相談場所、症状及び処方箋を、
発生から 2 週目は 5 割を占めたが、3 週目
1 日の集計結果としての記録(日報)より
から約 1~2 割に減少した。その他の精神症
相談対応延件数を抽出し、入力及び集計を
状は震災発生から約 3 か月までは約 1 割で
行った。
あったが、それ以降は約 3~4 割に増加した。
5.相談場所(県北、県中、相双、南会津地
C.研究結果
域)(図 10~13)
日報に計上されていた相談対応延件数が
県北、県中、南会津地域ではほとんどが
6609 件、そのうち個票として残されていた
避難所での対応であった。相双地域は震災
のが 4021 件分であり、全てをデータベース
発生後約 3 か月までは避難所での対応が 8
化した。なお、下記 1~5 は個票データから
割を占めていたが、その後は自宅が約 2~3
集計した。
割、仮設住宅が約 3~6 割と増加していた。
1.相談対応延件数(福島県全体および県北、
県中、相双、南会津地域)(図 1~6)
D.考察
福島県全体を見ると、震災発生後約 2 か
福島県における「こころのケアチーム」
月をピークとして減少し、震災発生後 3 か
の活動実績を全て集計した。宮城県におけ
月半から更に減少する経過であった。再掲
る実績と比較すると、早期(発災後約 3 か
で県北、県中、南会津地域を見ると、同じ
月半)に支援が終息していることがわかっ
ように震災発生後約 1~2 か月でピークを
た。その背景には、福島県には原発事故の
迎え、震災発生後約 3 か月からはほとんど
影響等により、支援開始がその他の地域よ
相談対応が行われていなかった。しかし、
り遅れ、多くの自治体がすでにその他の地
相双地域は震災発生後 1 年を経過しても相
域に割り付けられ活動を継続している状況
談対応が行われていた。昨年度調査を行っ
があり、継続した支援投入を行えなかった
た宮城県の結果と比較すると、福島県では
ことが考えられた。今回の調査により、発
早期に支援が終了していることが分かった。
災後 3 年が経過した時点でようやく客観的
2.性別(図 7)
な支援投入量の評価を行ったことになるが、
震災発生から時期による変動は小さく、
今後は、活動中に精神保健医療活動に関す
女性約 6 割、男性約 4 割であった。
る実績について評価できる仕組み(災害精
3.年齢(図 8)
神保健医療情報支援システム;DMHISS)
震災発生から時期によって変動があるも
を活用し、対策を随時検討していく必要が
あると考えられた。
づいた DPAT の受け入れに関する検討を行
い、DPAT の運用も含めた災害時精神保健
研究Ⅱ.都道府県・政令指定都市の精神保
医療に関して必要な平時の準備及び訓練に
健医療体制整備状況調査
ついて教示した上で、参加者 188 名に対し
て、アンケート調査を行った。調査項目は、
A.研究目的
(ア)各都道府県等の災害精神医療に関す
東日本大震災において、既存の精神医療
る訓練体制(局所災害、広域災害)
(イ)今
システムの機能不全や、こころのケアチー
後の災害精神保健医療体制整備にあたって
ムにおける指揮命令系統が確立されていな
の災害時こころの情報支援センターへの要
いことを背景に、こころのケアチームの活
望とした。
(イ)の研修の具体的内容に関し
動が一部非効率であったことを踏まえ、平
ては、a.災害精神保健医療に関する講義、
成 25 年 4 月 1 日に厚生労働省より
「災害派
b.所属する都道府県等の局所災害への派遣
遣精神医療チーム(以下:DPAT)活動要領」
訓練、c.広域災害への派遣訓練、d.所属する
が発出された
(障精発 0401 第 1 号)
。
今後、
都道府県等内への受け入れ訓練の 4 項目に
地域で DPAT を整備するにあたり、現在の
ついて、希望するか回答を求めた(複数回
自治体における災害時精神保健医療体制に
答可)
。
ついて把握し、課題について整理する必要
がある。
C.研究結果
1.平成 24 年度の体制整備状況について
B.研究方法
(ア)こころのケアチーム等の災害精神保
1.平成 24 年度の体制整備状況について
健医療の派遣と受け入れについて
全都道府県等の精神保健担当者 67 名を
a.都道府県等内への派遣
対象にアンケート調査を行った。調査項目
都道府県等内に派遣する場合の平時の体
は、平成 24 年度の(ア)災害精神保健医療
制整備について回答を求めた。窓口が決ま
体制(こころのケアチーム等の災害精神保
っている都道府県等が 25、派遣をするチー
健医療の派遣と受入れについて)の有無(イ) ムの第 1 班の機関が決まっている都道府県
災害精神保健医療関連研修の開催回数と参
等が 12 であった。内訳は図 14 の通りであ
加人数(ウ)平時の物資の準備(薬剤・医
る。
療機材、標準ロジスティックス関連機材、
b.都道府県等外への派遣
個人装備)の有無とした。
2.今後の災害精神保健医療体制整備
都道府県等外に派遣する場合の平時の体
制整備の有無について回答を求めた。窓口
平成 25 年度 DPAT 研修において、災害
が決まっている都道府県等が 19、派遣をす
派遣医療チーム(DMAT)のロジスティク
るチームの第 1 班の機関が決まっている都
ス隊員による災害時のロジスティクスに関
道府県等は 7 であった。内訳は図 15 の通り
する講義や実習、架空の災害想定を用いた
である。
DPAT の派遣実習、自治体の災害想定に基
c.都道府県等が被災した場合の受け入れ
都道府県等が被災した場合のこころのケ
参加し、参加の内訳は精神保健福祉センタ
アチーム等の受け入れについて、平時の体
ー長(または準ずるもの)が 59 名、チーム
制整備の有無について回答を求めた。窓口
リーダーが 57 人、事務担当者が 72 人であ
が決まっている都道府県等が 19、発災後に
った。
関係機関を集めて会議をして方針を決定す
(ア)各都道府県等の災害精神医療に関す
ると回答した都道府県等が 7 であった。窓
る訓練体制
口の内訳に関しては、図 16 の通りである。
a.局所災害について
(イ)災害精神保健医療関連研修の開催回
数と参加人数
DPAT 研修の参加者 188 名に対し、所属
の都道府県等において、都道府県内の局所
都道府県等が主催した、災害精神保健医
災害を想定した精神医療に関する訓練
療に関する研修の開催回数と参加人数につ
(DPAT の演習を含む)の実施の可否につ
いて、主な対象者(保健医療関係者・事務
いて回答を求めた。可能と回答したのが
担当者・一般)ごとに回答を求めた。対象
119 人、不可と回答したのが 57 人、無回答
者ごとの結果は図 17 の通りである。また、
が 12 人であった(図 18)
。可能と答えた中
参加人数については最大が 1014 人、
最小が
には、
「どこがどのようにやるかが問題」
「所
7 人と、都道府県等間でばらつきのある結
管課の調整が必要」と添え書きがしてある
果となった。
ものもあり、
“条件つき”で可能という回答
(ウ)平時の物資等の準備状況について
も含んでいた。
DMAT 標準資機材リストを参考に、薬
b.広域災害について
剤・医療機材(精神疾患治療薬剤、一般身
所属の都道府県等において、近隣の都道
体疾患治療薬剤、血圧計などの医療関連機
府県等を含んだ広域災害を想定した精神医
材)
、ロジスティクス関連機材(通信・記録
療に関する訓練(DPAT の演習を含む)の
機器、生活用品・雑品、非常食、調理器具)
、
実施の可否について回答を求めた。全体で
服装等の個人装備について平時の準備状況
は、可能と回答したのが 83 人、不可と回答
の有無について回答を求めた。結果につい
したのが 91 人、無回答が 14 人であった(図
ては表 1 の通りであるが、全ての項目で 4
18)
。局所災害に比べて不可の割合が大きく、
割を切る結果となった。
広域災害については、都道府県等が主導で
2.今後の災害精神保健医療体制整備につい
研修を行うことは難しいと考えていること
て
が分かった。
平成 25 年度 DPAT 研修は、厚生労働省
(イ)災害精神保健医療体制整備にあたっ
より全都道府県等に対して、都道府県等の
ての災害時こころの情報支援センターへの
精神保健を統括する立場である精神保健福
要望
祉センター長(または準ずるもの)
、都道府
今後の災害精神保健医療体制整備に当た
県等が推薦するチームリーダー(精神科医
って、災害時こころの情報支援センターの
師)
、事務担当者の 3 名 1 組を基本として参
研修を希望するか回答を求めた。希望する
加を依頼したものである。全都道府県等が
と回答したのが 182 人、希望しないと回答
したのが 2 人、無回答が 4 人であった(図
19)
。
研修の具体的内容に関しては、図 20 の通
参考文献
1) 宮城県資料
東日本大震災~保健福祉
りであった。全ての項目において全体の約
部災害対応・支援活動の記録
5 割~6 割の要望があり、特定の内容に関わ
http://www.pref.miyagi.jp/uploaded/att
らず、研修を希望していることがわかった。
achment/121782.pdf
2) 宮城県の被災状況とその対応 佐藤宗一
D.考察
東日本大震災後の全自治体における災害
郎 , 樹 神 學 : 老 年 精 神 医 学 雑 誌 23 :
165-168,2012
精神保健医療体制について調査した。局所
3) 東日本大震災における心のケア活動の
災害、広域災害とも、窓口が未確定である
調整-岩手県精神保健福祉センターの視
自治体が約 6 割、初期活動を行うための人
点から 黒澤美枝:日本社会精神医学雑誌
員が確定していない自治体が 8-9 割であ
21:367-373,2012
ることが分かった。また研修や訓練につい
4) 福島県原発事故と精神科病院入院患者
ては、特に広域災害に関するものは自治体
避難-私たちの経験-熊倉徹雄:臨床精
独自では困難である状況が把握できた。ま
神医学 40:1417-1421,2011
た、特に災害時のロジスティックス担当者
5) 福島原発事故と精神科病院の緊急避難
に対する研修、訓練はほとんどなされてい
杉山健志:日本精神病院協会雑誌 31:
なかった。災害発生後から迅速にかつ効率
906-911,2012
的に精神保健医療に関する活動を行ってい
6) 福島県いわき市被災最前線の現場から
くためには、平時において、自治体レベル
-現場からの教訓と提言 緑川大介,澤
では具体的な体制、人材の確保、ロジステ
温:日本社会精神医学雑誌 21:572-577,
ィックスを含めた人材育成を、国レベルで
2012
は特に広域災害に関する研修、訓練を実施
する必要があると考えられた。
7) ロジスティックスの活用 米川博之:
Modern Physician 32:625-527,2012
8) 平成 24 年度厚生動労科学研究費補助金
G.研究発表
なし
障害者対策総合研究事業(精神障害分野)
「被災地における精神障害等の情報把握
と介入効果の検証及び介入手法の向上に
H.知的財産権の出願・登録状況
なし
資する研究」
(件)
600
500
400
300
200
100
0
0 2 4 6 8 10 12 14 16 18 20 22 24 26 28 30 32 34 36 38 40 42 44 46 48 50 52 54 56 58 60
(週)
図 1.宮城県における相談対応延件数
(件)
600
500
400
300
200
100
0
0 2 4 6 8 10 12 14 16 18 20 22 24 26 28 30 32 34 36 38 40 42 44 46 48 50 52 54 56 58 60 (週)
図 2.福島県における相談対応延件数
(件)
250
200
150
100
50
0
0
2
4
6
8 10 12 14 16 18 20 22 24 26 28 30 32 34 36 38 40 46 48 50 52 54 (週)
図 3.福島県(県北地域)における相談対応延件数
(件)
250
200
150
100
50
0
0
2
4
6
8 10 12 14 16 18 20 22 24 26 28 30 32 34 36 38 40 46 48 50 52 54 (週)
図 4.福島県(県中地域)における相談対応延件数
(件)
250
200
150
100
50
0
0
2
4
6
8
10 12 14 16 18 20 22 24 26 28 30 32 34 36 38 40 46 48 50 52 54 (週)
図 5.福島県(相双地域)における相談対応延件数
(件)
250
200
150
100
50
0
0
2
4
6
8
10 12 14 16 18 20 22 24 26 28 30 32 34 36 38 40 46 48 50 52 54 (週)
図 6.福島県(南会津地域)における相談対応延件数
100%
90%
80%
70%
60%
50%
40%
30%
20%
10%
0%
女
男
1
2
3
4
5
6
7
8
9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 (週)
図 7.福島県における性別相談対応延件数の割合
100%
90%
80%
70%
60%
50%
40%
30%
20%
10%
0%
高齢(65歳以上)
思春期から成人(16-64歳)
小児(15歳以下)
1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 (週)
図 8.福島県における年齢層別相談対応延件数の割合
100%
90%
80%
70%
60%
50%
40%
30%
20%
10%
0%
不眠
不安症状
その他の精神症状
身体症状
症状なし
1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 (週)
図 9.福島県における症状別相談対応延件数の割合
100%
90%
80%
70%
60%
50%
40%
30%
20%
10%
0%
その他
相談拠点
仮設住宅
自宅
避難所
1
2
3
4
5
6
7
8
9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 (週)
図 10.福島県(県北地域)における相談対応場所別相談対応延件数の割合
100%
90%
80%
70%
60%
50%
40%
30%
20%
10%
0%
その他
相談拠点
仮設住宅
自宅
避難所
1
2
3
4
5
6
7
8
9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 (週)
図 11.福島県(県中地域)における相談対応場所別相談対応延件数の割合
100%
90%
80%
70%
60%
50%
40%
30%
20%
10%
0%
その他
相談拠点
仮設住宅
自宅
避難所
1
2
3
4
5
6
7
8
9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 (週)
図 12.福島県(相双地域)における相談対応場所別相談対応延件数の割合
100%
90%
80%
70%
60%
50%
40%
30%
20%
10%
0%
その他
相談拠点
仮設住宅
自宅
避難所
1
2
3
4
5
6
7
8
9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 (週)
図 13.福島県(南会津地域)における相談対応場所別相談対応延件数の割合
窓口
第1班の機関
県庁・市役
所担当課,
20
未定,
42
確定,
25
精神保健福
祉セン
ター, 4
合同, 2
未定,
55
確定,
12
その他, 2
精神保健福
祉セン
ター, 8
両方, 1
図 14.都道府県等内への派遣に対する体制
窓口
第1班の機関
合同, 1
県庁・市役
所担当課,
17
未定,
48
未定,
60
確定,
19
両方, 1
精神保健福
祉セン
ター, 1
図 15.都道府県等外への派遣に対する体制
県庁・市役
所担当課,
16
未定,
48
確定,
19
両方, 2
精神保健福
祉セン
ター, 1
図 16.こころのケアチーム等の受け入れ窓口
確定,
7
その他, 1
精神保健福
祉セン
ター, 5
保健医療関係者
3
事務担当者
4
0回
24
40
1
0回
1-5回
6-10回
1-5回
63
一般・その他
5
0回
1-5回
6-10回
61
図 17.災害精神保健関連研修の開催状況
表 1.物資等の平時の準備が有と回答した都道府県等の割合
薬剤・医療機材
ロジスティックス関連機材
標準薬剤(精神)
25%
通信・記録機器
39%
標準薬剤(その他)
24%
生活用品・雑品
28%
医療関連機材
40%
非常食
19%
調理器具
18%
28%
服装
広域災害
局所災害
無回答,
14人
無回答,
12人
不可,
57人
個人装備
可能,
119人
不可,
91人
図 18.各都道府県等での災害精神保健医療に関する訓練の実施の可否
希望しない,
2人
無回答,
4人
希望する,
182人
図 19.災害時こころの情報支援センターへの研修の要望の有無
可能,
83人
(人)
図 20.災害時こころの情報支援センターに希望する研修内容(複数回答可)
その他
派遣受け入れ訓練
広域災害への派遣訓練
局所災害への派遣訓練
災害精神保健医療に関する
講義
180
160
140
120
100
80
60
40
20
0
平成 25 年度 厚生労働科学研究費補助金(障害者対策総合研究事業(精神障害分野)
)
被災地における精神障害等の情報把握と介入効果の検証及び
介入手法の向上に資する研究
分担研究報告書
「サイコロジカル・ファーストエイド(PFA)を実施する際に必要な
基本的コミュニケーションスキル訓練」
研究分担者
堀越 勝 国立精神・神経医療研究センター 認知行動療法センター
研修指導部長
研究協力者
新明一星 国立精神・神経医療研究センター 認知行動療法センター
研究要旨
本分担研究班は、心理的応急処置を実施する際に、その土台となるコミュニケーショ
ンの技法を教えることの意義を検証し、それに合うコミュニケーションプログラムを開
発することを目的としている。25年度は、その予備調査として、コミュニケーション
プログラム実施群と実施をしない群とを比較した。予備調査の結果から、事前のコミュ
ニケーションスキル研修を受けることで、PFA 研修による正確な知識の習得率が高まる
可能性があること、コミュニケーションスキル研修の受講により、参加者は自身の基本
的コミュニケーションスキルを正確にモニターできるようになることなどを確認した。
<A.研究目的>
心理的応急処置(P・F・A)が目指
していることの多くは、重要なことを押
「安心させ、心を落ち着けるように手助
けする」など、相手を安心させる術、ま
た、相手の心が落ち着いているかどうか
し付けずに相手に渡すなど相手に無理強
いをせずに実施しなければならないこと
を知る力などが必要になる。では、実際
が多い。実際に、P・F・Aのマニュア
に災害の只中にある人を前にした時に、
ルの随所に、
「押し付けずに」
、
「無理強い
押し付けずに、重要な情報や援助を提供
をせずに」などの言葉を見つけることが
する、また、話を無理強いせずに他人の
出来る。たとえば、P・F・Aのマニュ
話を聞き、安心を与え、心を落ち着ける
アルの「P・F・Aが目指しいているこ
ように指示された場合、どのようにすれ
と」には、下記の文言が記載されている。
ばそれらが可能なのかについての理解が
「実際に役立つ支援や援助を提供する、
どのくらい浸透しているのだろうか。
ただし押し付けない」、「話を聞く、ただ
PFAの「見る・聞く・つなぐ」はあ
し話すことを無理強いしない」、さらに、
る意味でコミュニケーションの型である。
見る、聞く、つなぐの流れは、医療現場
ログラムの叩き台を開発し、その効果を
で行われる治療の流れと似ている。
「どう
検証すること。また、近年、米国では、
しましたか?」から始まる、一連の医療
熟練セラピストを使わずに(修士レベル
現場での対応は、精神的な危機状態にあ
の訓練を受けている途中のセラピスト)、
る人物に対しても同様に行われる。した
訓練生を用いてRCTを実施する機運が
がって、PFA新しい介入モデルではな
高まっており、そうしたことを実際に行
く、ケアのコミュニケーションを精神的
っている、海外の専門家を尋ね、訓練方
な危機介入の型と解釈することが出来る。 法や質の担保などについて情報を収取す
一般に、こうしたコミュニケーションス
ることを目標とする。
キルの土台は、PFA実施以前の段階で
それぞれが専門家として持ち合わせてい
●予備調査
るものである。しかし、PFAを一般人
研究計画:ケアのコミュニケーション
に導入するにあたり、基本的なケアのコ
の研修プログラムを開発し、P・F・A
ミュニケーションスキルを復習する、ま
の研修を実施する際に、ケアのコミュニ
たは学習し、その流れの中で PFA を応用
ケーションスキル訓練を提供する群とし
することにより PAF をより効果的に実施
ない群の前後比較を行う。
することが出来ると考えた。本研究では、
P・F・Aを専門家の間で拡大するだけ
倫理的な配慮:本研究の対象者は患者で
でなく、広く一般にも均霑化することを
はなく看護師であり、本年度は予備調査
目指している。一般でも専門家同様に
として協力を依頼して同意を得ること、
P・F・Aを実施出来るようになるため
また、無記名で本人を特定できないとい
には、P・F・Aの研修を実施する際に、
う点で配慮した。
ケアのコミュニケーションスキル訓練を
提供することが望ましいのではないだろ
被験者
うか。
●グループ1:
そこで、本分担研究班では、以上のこ
コミュニケーション研修無し(N=18)
とを踏まえて、P・F・Aの研修を実施
(研修実施日:2013 年 11 月 13 日)
する際に、ケアのコミュニケーションス
キル訓練を提供するためのプログラムの
●グループ2:
構築と、そのプログラムの効果を検証す
コミュニケーション研修有り(N=18)
ることにある。
(研修実施日:2013 年 11 月 20 日)
<B.研究方法>
手続き
25年度は、まず予備調査として、P・
●それぞれのグループに対し、コミュニ
F・Aの研修を実施する際に提供するケ
ケーション訓練を加えた PFA 研修と加え
アのコミュニケーションスキル訓練をプ
ない研修を実施し、それぞれのグループ
の前後の比較と群間の比較を実施した。
は以下の通りである。
質問の正答数について分散分析を行っ
●コミュニケーション研修プログラムは
たところ、群×研修前後の交互作用が有
堀越が作成した 60 分のモジュールで、講
意傾向であった(F(1,26)=3.97, p<.10)
。
義と練習問題が含まれている。
そこで単純主効果の検定を行ったところ、
いずれの群においても研修前後の単純主
●質問紙:心理的応急処置:研修 Pre-Post
効 果 が 有 意 で あ っ た 。( そ れ ぞ れ
Test 質問紙(研修の前後に実施)
F(1,26)=17.50, p<.01 、 F(1,26)=55.01,
p<.01)。また、研修前では群の単純主効
<C.研究結果>
果が有意であった。
(F(1,26)=4.25, p<.05)
●質問紙前半(自身の援助能力に関する
自信を尋ねるもの)
8 つの質問の合計点について分散分析
を行ったところ、群×研修前後の交互作
用が有意で、コミュニケーション研修な
し群の方が得点の伸びが良かった(図1)
。
統計的な記述は以下の通りであった。
8 つの質問の合計点について分散分析を
行ったところ、群×研修前後の交互作用
が有意であった。
(F(1,29)=4.53, p<.05)
。
そこで単純主効果の検定を行ったところ、
いずれの群においても研修前後の単純主
効 果 が 有 意 で あ っ た 。( そ れ ぞ れ
F(1,29)=89.80, p<.01 、 F(1,29)=38.64,
p<.01)。
●質問紙後半(PFA についての正確な知識
を尋ねるもの)
質問の正答数について分析を行った。
その結果、研修後の正答数については天
井効果が認められた(得点範囲は 0~16、
M=14.86、SD=1.27)
。本来は分析から外す
べきところであるが、分散分析を実施し
てみたところ、コミュニケーション研修
あり群の方が PFA に対する正確な知識の
伸び率が良かった(図2)。統計的な記述
<C.考察>
以上の結果から、研修前はコミュニケ
ーション研修あり群の方が PFA に対する
法を実施して効果研究を実施する際、海
正確な知識が少なかったものの、コミュ
外ではライセンスを持ったセラピストが
ニケーション研修と PFA 研修によってコ
治療を実施するのが定石である。なぜな
ミュニケーション研修なし群と同等の
ら、実施者の質が低いことが効果に影響
知識水準まで向上したことが示された。
することがないようにする配慮といえる。
天井効果はあったものの、事前のコミ
つまり、ライセンスを持っていることは、
ュニケーションスキル研修を受けること
海外の場合幾つかの関門を潜り抜けた証
で、PFA 研修による正確な知識の習得率が
しであり、介入者の質を担保するものだ
高まる可能性がある。コミュニケーショ
と考えられるからである。
ンスキル研修の受講により、参加者は自
しかし今回のPFA研修は一般人も視
身の基本的コミュニケーションスキルを
野に入れ、広くこの介入法を伝えていく
正確にモニターできるようになり、多く
ことになり、介入者の質を担保するもの
の場合、一度自身のコミュニケーション
はない。近年米国では(NIMH など)、介入
スキルに対する評価が下がる(より正確
研究の実施者に、恐らく経済的な理由か
な評価?)
。その後、具体的なコミュニケ
らか、訓練中の大学院生などを使うこと
ーションスキルについて研修の中で学ぶ
が多くなってきた。つまり、経験豊富な
ことにより、自身のコミュニケーション
介入者ではない、半ば素人の介入者を訓
スキルに対する自信や評価が高まる傾向
練し介入プログラムを動かし、データを
にある。今回の PFA 研修では一連のコミ
取っているのである。今回は、そうした
ュニケーションスキル研修の最初の一部
方法で、CBTのRCTを実施した研究
分を実施したため、自身の援助能力に対
者を米国に尋ね、実際の訓練の様子や方
する自己評価が研修後では低めとなった
法などを学ぶ機会を持った。
可能性がある。
一般人に PFA 研修を実施する場合、コ
Dobkin 博士(ロザンナ・ドブキン博士:
(Roseanne Dobkin, Ph.D, 米国・ラトガ
ミュニケーションスキル訓練を実施する
ース大学医学部(Robert Wood Johnson
ことは恐らく有意義であるが、短時間の
Medical School)の准教授)は世界初の
コミュニケーション研修では、かえって
パーキンソン病患者に対するCBT介入
コミュニケーションについての自信を喪
のRCTを実施し、2002年に無作為
失させるリスクがある。したがって、研
割り付け試験の結果を発表した。Dobkin
修を実施する場合は、PFA 研修と別途行う
博士は、介入のためのセラピストを大学
方が良いかもしれない。また、コミュニ
院生に定め実験を行い有意味な効果を導
ケーションスキルの習得度を正確に測る
き出している。従来、クリ二カル・サイ
尺度を使うことが望ましい。
コロジストのライセンスを取得している、
何年以上の臨床経験を持ち合わせている
●海外視察
認知行動療法(CBT)などの精神療
ことなどを条件とする場合が多いが、密
なスーパービジョンを実施しながら、パ
ーキンソン病のCBTを実施し、効果を
あげており、訓練の仕方などについて情
報を収集し、P・F・Aの研修を実施す
る際の参考にすることとした。
<視察から学んだこと>
今回の視察では、精神療法の訓練につ
いて幾つかの点が判明した。①スーパー
ビジョンの重要性:スーパービジョン(個
人指導)抜きに、介入者の質向上はない。
②具体的なスキルを教える。単なる座学
では精神療法を実施するための実力の向
上は望めない。以上の2点が重要である
ことが判明した。
ドブキン博士
今後の課題:一般人に PFA 研修を実施す
る場合、コミュニケーションスキル訓練
を実施することは恐らく有意義であるが、
ラトガース大学
短時間のコミュニケーション研修では、
かえってコミュニケーションについての
自信を喪失させるリスクがある。したが
って、研修を実施する場合は、PFA 研修と
別途行う方が良いかもしれない。また、
コミュニケーションスキルの習得度を正
確に測る尺度を使うことが望ましい。
<ケアのコミュ二ケーションプログラム>
(一部抜粋)
平成 25 年度 厚生労働科学研究費補助金(障害者対策総合研究事業(精神障害分野))
被災地における精神障害等の情報把握と介入効果の検証及び
介入手法の向上に資する研究
分担研究報告書
分担研究報告書
被災地の子どもの精神医療支援
研究協力報告書
東日本大震災のメディア報道による子どもたちのメンタルヘルスへの影響
分担研究者
神尾 陽子
1)、金
研究協力者
大沼 麻実
2)
吉晴
2)
1) 国立精神・神経医療研究センター 精神保健研究所 児童・思春期精神保健研究部
2) 国立精神・神経医療研究センター 精神保健研究所 災害時こころの情報支援センター
[研究要旨]
東日本大震災での揺れの激しさや押し寄せる津波の破壊力は、メディア報道を通じて被災地から離れた
地域にも伝達され、テレビを視聴した子どもの中には、頭痛や腹痛を訴えたり、嘔吐してしまう子どもも
おり、保護者からは視聴が子どもに悪影響を及ぼすのではないかという不安の声が上がった。メディアの
影響については専門家の間でも懸念され、たとえば日本小児神経学会は、被害映像に配慮を求める宣言を
マスメディアに対して行っており、その宣言では子どもは未発達であるがゆえにメディアの影響を強く受
ける可能性があることを示唆している(1)。
しかし災害のメディア視聴が子どもに及ぼす影響については、諸外国では PTSD 症状との関係性について
の研究や被災現場からの距離の近さが PTSD 有病率に関係することを明らかにした研究などがあるものの、
日本では体系的な研究に基づく論文発表が未だになされておらず、エビデンスに乏しいという現状がある。
そこで本研究は、東日本大震災後のメディアへの暴露が、遠隔地の子どもの心身の成長やメンタルヘル
スに与える影響を調査することを目的とする。そのうえで新たな視点として、メディアへの暴露とプレ要
因としての子ども側の要因(自閉傾向や気質など)との関連を明らかにし、要支援児の同定および早期対応
のためのエビデンスを提供したい。なお本研究は継続中の課題であるため、本報告書においては実施した
質問紙の素集計データを中心に、一部のデータ解析の報告、ならびに来年度の研究の予定についてまとめ
ている。
Key words:東日本大震災、メディア暴露、子ども、メンタルヘルス
においても津波映像の視聴が児童に心理的悪影響を
1. 背景
ニューヨーク 9.11 テロの後では、テレビでのビル
爆破映像を視聴した児童が PTSD になったという研
与えるのではないかとの懸念が一部の専門家によっ
て指摘されており、日本での調査報告もまだないと
いう現状にある。
究結果が出たが、他方でこの度改正された DSM-5
では特殊な場合を除き、テレビ視聴による PTSD 発
症は認められていない。しかし今般の東日本大震災
2. 研究目的
本研究は、1)東日本大震災後のメディアへの暴
露が遠隔地の子どもの心身の成長やメンタルヘルス
スコアをアウトカムとする。カットオフと
に与える影響を調査した上で、2)プレ要因として
して、厚生労働省の web サイトに記載さ
の子ども側の要因(自閉傾向や気質など)との関連
れた Matsuishi et al(2008)の日本におけ
を明らかにし、3)要支援児の同定および早期対応
る SDQ(保護者評価)標準値を用いて、3
のためのエビデンスを提供することを目的とする。
群に分類した。情緒、行為、仲間関係の問
また後述するが、結論から先に言えば、先行研究で
題は、スコア 5-10 点を High Need、4 点
は、テレビを視聴した際の即時的なストレス反応の
を Some Need、0-3 点を Low Need とし、
有無や、それがどのくらいの期間で回復するのかに
多動・不注意の問題は 7-10 点を High
ついては調査されていないことが明らかとなった。
Need、6 点を Some Need、0-5 点を Low
そこで、即時的な反応の持続期間に加え、震災前後
Need とした。Total Difficulties スコアは、
の体重・身長といった発育、通園状況を調査するこ
16-40 点を High Need、13-15 点を Some
とにより、影響を受けた子どもがどのくらいの期間
Need、0-12 点を Low Need とした。
で回復していくのかを明らかにしたい。
なお、本研究は当センターの倫理委員会の承認を
7)Social Responsiveness Scale[対人応答性
尺度(自閉症的特徴)](2012 年 1 月末〜3
受けて実施している[NCNP 倫理委員会, 承認番号
月 31 日:児童部の既存データ)
A2012-056]。
自閉症的行動特徴の程度を定量的に測定
し、診断カテゴリーによらない ASD 診断
3. 研究方法
群から閾下群までを連続量で捉えること
国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所
のできる質問紙。
「あてはまらない(0 点)」
児童・思春期精神保健研究部に研究協力者として登
〜「ほとんどいつもあてはまる(3 点)」の 4
録された、多摩地区の 6 歳児、426 名の保護者に対
件法で評価し、SRS 合計得点を算出する。
し、2013 年 2 月 6 日から 2013 年 3 月 9 日にかけて
SRS のカットオフについては、男児は、T
質問紙による郵送調査を行った。質問紙の作成にあ
スコア 78 点以上を ASD-Probable 群、T
たっては、先行研究をレビューし(平成 24 年度の報
スコア 51-77 点を ASD-Possible 群、50 点
告書参照)、先行研究と比較可能な項目を網羅したう
以下を ASD-Unlikely 群とした〈※3〉。
え、独自に作成した項目を含めて作成した。本年度
8)親の現在の精神状態(K6)〈※4〉
は、質問紙が返送された後にデータ入力を行った。
うつ病・不安障害のスクリーニングのため
その集計結果と SPSS によるデータ解析の一部につ
の質問紙。被災地域住民と平常時の地域住
いて報告する。
民との比較のため、10 点以上を精神健康
質問紙の主な質問項目は、下記の通りである。
1)Demographic features
不調として算出した(平成 22 年国民生活
基礎調査特別集計)(2)。
2)震災時とその後の生活状況
3)震災関連の報道映像の視聴内容とその際(当
※ 1:初めて子どもと一緒に震災映像を視聴した
日ないし翌日)の子どもおよび保護者のス
際の子どものストレス反応を調査する単体で
トレス反応とその持続時間〈※1〉
の適切な尺度が見当たらなかったため、本研
4)映像の視聴に対する親の認識
究では先行研究で使用された尺度の重複項目
5)視聴を挟む震災前後(2010 年 3 月〜2012 年
や、対象と同年齢のお子さんをお持ちでかつ
12 月)の子どもの発育・通園状況
実際に症状があったという保護者の方から聞
6)震災の 2 年後の Strength and Difficulties
き取り調査を行い、それをもとに尺度を作成
Questionnaire; SDQ「子どもの強さと困
した(平成 24 年度厚生労働科学研究費補助金
難さアンケート(子どもの情緒や行動の問
報告書参照)。
題)」〈※2〉
※ 2:SDQ とは、Goodman(1997)によって開発
下位尺度である 1.情緒の問題、2.行為の問
され、4〜16 歳を対象とした「子どもの強さ
題、3.多動・不注意の問題、4.仲間関係の
と困難さアンケート」紙である(3)。保護者ま
問題と、その合計である Total Difficulties
たは教師が 3 件法で回答する形式で、行為、
多動、情緒、仲間関係のサブカテゴリーの合
あり 8.4%(n=16)、視察なし 91.6%(n=174)であった。
計得点に基づき支援の必要性を High Need,
また回答保護者では(n=190)、視察あり 12.1%(n=23)、
Some Need, Low Need の 3 段階によって評価
視察なし 87.9%(n=167)であった。回答保護者に被
する。日本では Sugawara, et.al(2006)が翻訳
災した家族・親戚の有無については(n=190)、あり
を行い、その後、森脇ら(2012)によって信頼
12.1%(n=23)、なし 87.9%(n=167)であり、被災した
性と妥当性が認められている(4)(5)。
友 人 ・ 知 人 の 有 無 に つ い て は (n=189) 、 あ り
※ 3:SRS は、Constantino(2003)によって開発
25.4%(n=48)、なし 74.6%(n=141)であった。また、
された対人応答性尺度であり、対象年齢は 4
被災した家族・親戚がいることを子どもが知ってい
〜18 歳である(6)。尺度は保護者または教師に
るかどうかについては(n=23)、知っている子ども
よって評価され、自閉的な社会性障害をスク
78.3%(n=18)、知らない子ども 8.7%(n=2)であり、
リーニングすることが可能である。日本でも
被災した友人・知人がいることを子どもが知ってい
妥当性が、神尾ら(2009)の検証によって認め
るかどうかについては(n=48)、知っている子ども
られている(7)。
20.8%(n=10)、知らない子ども 64.6%(n=31)であっ
※ 4:K6 とは、Kessler(2002)が開発し、うつ病・
た。
不安障害をスクリーニングするために、6 項
【3、震災関連の報道映像の視聴内容とその際の子
目からなる 5 件法の自記式評価尺度である(8)。
どもおよび保護者のストレス反応とその持続時間】
大野ら(2002)によって日本語版が作成され、
テレビ視聴に関しては、子どもが初めて震災映像
尺度の有用性も検証により認められている
を見たときに回答保護者と一緒だったかどうかは
(9)。
(n=191)、一緒だった 85.3%(n=163)、一緒ではなか
った 8.4%(n=16)であった。子どもが初めて回答保護
4. 研究結果
者と一緒に震災映像を視聴した時期は(n=191)、震
4−1.素集計結果
災当日 75.4%(n=144)、翌日 10.5%(n=20)、翌々日
【1、Demographic features】
1.6%(n=3)、おぼえていない 11.0%(n=21)であった
192 名の保護者から回答を得て(回答率 45.1%)、
解析にあたっては震災時に福島県にいた 1 名を除外
〈図1〉。
子どもが視聴した映像の種類は(n=169 複数回答)、
した。性別については(n=189)、男児 53.4%(n=102)、
津波 90.5%(n=153)、地震 77.5%(n=131)、家屋の崩
女児 46.6%(n=89)であった。回答保護者の続柄は
壊 52.1%(n=88)、人々の家屋の屋上への取り残し
(n=188)、母親 96.8%(n=182)、父親 3.2%(n=6)
35.5%(n=60)、帰宅難民 30.8%(n=52)、人々の救出
であった。
23.7%(n=40)、人々の逃走や泣き叫び 84.6%(n=143)、
【2、震災時とその後の生活状況】
誰かのケガや死亡 0.6%(n=1)であった〈図2〉。子
震災発生時にいた場所については(n=190)、自宅
どもによるこれらの視聴映像の種類数は(n=169)、
にいた子ども 31.1%(n=59)、保育所あるいは幼稚園
1種類 19.5%(n=33)、2 種類 21.3%(n=36)、3 種類
にいた子ども 47.4%(n=90)、その他(屋外など)
16.6%(n=28) 、 4 種 類 16.6%(n=28) 、 5 種 類
21.6%(n=41)であった。子どもがいた場所の階数は
11.8%(n=20)、6 種類 8.9%(n=15)、7 種類 5.3%(n=9)
(n=164)、1 階 67.1%(n=110)、2 階 23.2%(n=38)、
であった〈図3〉。
それ以上 9.8%(n=16)であった。震災発生時に家族と
視聴直後には 20 の症状項目(複数回答)のうち、親
一緒だった子ども 55.3%(n=105)であり、一緒では
への過剰な甘え(n=169)は 43.8%(n=74)、災害関連
なかった子ども 44.7%(n=85)であった。また、一緒
の遊び(n=168)は 39.9%(n=67)、家族の怪我や死亡
ではなかった子どもが家族に会えるまでの時間は、
への不安(n=167)は 35.3%(n=59)、過敏さ(n=169)は
1 時間 32.9%(n=28)、2 時間 23.5%(n=20)、3 時間
29.6%(n=50) 、 震 災 映 像 の 忌 避 (n=169) は
20.0%(n=17) 、 4 時 間 10.6%(n=9) 、 そ れ 以 上
16.0%(n=27)、睡眠障害(n=169)は 13.6(n=23)、震
12.9%(n=11)であった。震災に伴って子どもを避難
災映像の視聴欲求は(n=170)は 10.6%(n=18)、不自
させたかどうかについては、避難させた 6.8%(n=13)、
然にはしゃいだ(n=169)は 10.7%(n=18)、口数が増
避難させなかった 93.2%(n=177)であった。震災後
え た (n=169) は 5.9%(n=10) 、 爪 か み (n=169) は
の被災地域の子どもの視察の有無は(n=190)、視察
4.7%(n=8)、涙もろさ(n=169)は 4.1%(n=7)、消化器
系の症状(n=169)は 3.6%(n=6)、食欲の変化(n=4)は
Need85.6%(n=160)であり、行為の問題は、High
2.4%(n=4)、赤ちゃん返り(n=168)は 2.4%(n=4)、癇
Need8.0%(n=15) 、 Some Need9.1%(n=17) 、 Low
癪(n=167)は 1.2%(n=2)、動きの乏しさ(n=169)は
Need82.9%(n=155)であり、多動・不注意の問題は、
1.2%(n=2)、頭痛(n=168)は 0.6%(n=1)であり、失禁、
High Need9.6%(n=18)、Some Need4.8%(n=9)、Low
持病の悪化、チック症状については該当者はいなか
Need85.6%(n=160) で あ り 、 仲 間 関係 の 問題 は、
った。子どもによるこれらの視聴映像の種類数は
High Need5.9%(n=11)、Some Need7.0%(n=13)、
(n=160)、0 種類 23.1%(n=37)、1 種類 23.1%(n=37)、
Low
2 種類 18.8%(n=30)、3 種類 13.1%(n=21)、4 種類
Difficulties は High Need8.6%(n=16) 、 Some
10.0%(n=16)、5 種類 5.0%(n=8)、6 種類 1.9%(n=3)、
Need10.7%(n=20)、Low Need80.7%(n=151)であっ
7 種類 2.5%(n=4)、8 種類 0.6%(n=1)、10 種類
た。厚労省の HP に記載された Matsuishi らのデー
1.9%(n=3)であった〈図4、図5〉。
タと比較しても、本研究の子どもたちが偏った群で
【4、映像の視聴に対する親の認識】
はないことがわかる〈図7〉。
Need87.2%(n=163) で あ っ た 。 Total
震災後 1 ヶ月間に子どもへの視聴の影響を心配し
【7、Social Responsiveness Scale[対人応答性尺
ていたかどうかは(n=191)、とても心配していた
度(自閉症的特徴)](2012 年 1 月末〜3 月 31 日:
12.0%(n=23)、やや心配していた 41.9%(n=80)、あ
児童部の既存データ)】
まり心配していなかった 34.6%(n=66)、まったく心
児童部の既存データにて群分けを行った結果、男
配していなかった 7.9%(n=15)、おぼえていない
児
3.7%(n=7)であった。震災後 1 ヶ月間に子どもの視
Possible11.3%(n=9)、Unlikely82.5%(n=66)であり、
聴を制限していたかどうかは(n=191)、とても制限
女
し て い た 4.2%(n=8) 、 や や 制 限 し て い た
Possible13.8%(n=9)、Unlikely78.5%(n=51)であっ
38.7%(n=74) 、 あ ま り 制 限 し て い な か っ た
た。
36.1%(n=69) 、 ま っ た く 制 限 し て い な か っ た
【8、親の現在の精神状態(K6)】
20.4%(n=39)、おぼえていない 0.5%(n=1)であった。
(n=80)
児
は
(n=65)
、
は
、
Probable6.3%(n=5)
Probable7.7%(n=5)
、
、
K 6 は (n=189) 、 10 点 以 上 の 精 神 健 康 不 調 は
現在でも当時の視聴の子どものへの影響を心配して
5.3%(n=10)、10 点未満は 94.7%(n=179)であった。
い た か ど う か は (n=191) 、 と て も 心 配 し て い る
なお、平時の東京都民の K6 では 10 点以上の割合は
2.6%(n=5)、やや心配している 10.5%(n=20)、あま
10.5%であるため、回答保護者の精神状態が健康な割
り心配していない 57.1%(n=109)、まったく心配し
合は高いといえる(平成 22 年国民生活基礎調査特別
ていないのは 27.2%(n=52)、わからない 2.6%(n=5)
集計)〈図8〉。
であった。身近な地域の震災等の映像は子どもに好
ましくない影響があるかどうかについては(n=190)、
4−2.解析結果
とても影響があると思う 10.0%(n=19)、やや影響が
まず子どもの視聴直後の症状種類数を従属変数と
あると思う 63.7%(n=121)、あまり影響がないと思
して、子どもの視聴映像種類数、保護者の視聴直後
う 20.5(n=39)、まったくないと思う 1.6%(n=3)、わ
の症状種類数、子どもの自閉症的傾向の 3 つで重回
からない 4.2%(8%)であった〈図6〉。
帰分析を行った。保護者の視聴直後の症状種類数は
【5、視聴を挟む震災前後(2010 年 3 月〜2012 年 12
1%水準で有意であり、子どもの視聴映像種類数や自
月)の子どもの発育・通園状況】
閉 症 的 傾向 と の 間に は 有意 差 が なか っ た (R2 乗
2011.3.11 を起点として、前後 1 年間の身長と体
=.170)。このことから、見たかどうかでいう点では
重の伸びと通園状況を分析した。子どもや親の不安
ほとんどの子どもがメディア暴露していたが、見た
と、子どもの発育や通園状況との間には有意差はな
範囲の程度つまり視聴映像の種類数には子どもは影
かった。
響を受けておらず、むしろ保護者の反応と密接であ
【 6 、 震 災 2 年 後 の Strength and Difficulties
ることがわかった。
Questionnaire; SDQ「子どもの強さと困難さアンケ
ート(子どもの情緒や行動の問題)」】
次に、震災から 2 年後の子どもの情緒や行動の困
難さである SDQ を従属変数として、子どもの視聴
2 年後の SDQ において、情緒の問題は、High
映像種類数、子どもの視聴直後の症状種類数、保護
Need8.0%(n=15) 、 Some Need6.4%(n=12) 、 Low
者の視聴直後の症状種類数、子どもの自閉症的傾向
の重回帰分析を行った。子どもの視聴直後の症状種
て具体的な助言を可能とする。特に、情緒や行動の
類数は 1%水準で有意だった(R2 乗=.069)。震災後の
問題といった精神的健康面のリスクが高い子どもの
精神健康には視聴種類数よりも直後の反応が関係し
場合には、一般の子どもと比べて生活環境の影響を
ていたことから、こうした映像刺激に対して敏感な
受けやすく、支援ニーズがより高いと推測される。
子どもの一群が存在することが疑われる。
だが、どのような支援がより効果的であるかという
さらに、震災から 2 年後の親の K6 を従属変数と
ことは十分に調べられていないことから、災害後に
して、子どもの視聴映像種類数、子どもの視聴直後
限定することなく平常時においても汎用できるよう
の症状種類数、保護者の視聴直後の症状種類数、子
な、地域における育児支援や発達支援の体制構築を
どもの自閉症的傾向で重回帰分析を行った。保護者
促進することが期待される。
の視聴直後の症状種類数は 1%水準で有意であった
ものの、子どもの視聴映像種類数や、子どもの視聴
直後の症状種類数、子どもの自閉症的傾向との間に
は有意差は見られなかった(R2 乗=.119)。
文献
1.
http://child-neuro-jp.org/visitor/iken2/20110325
.html (2014.3.1 現在)
2.
平成22年国民生活基礎調査特別集計(災害時こ
ころの情報支援センター;
5. 考察
http://saigai-kokoro.ncnp.go.jp/document/
現在の SDQ の結果を見る限り、ほとんどの子ど
もは支援の必要がなかったが、子どもの症状種類数
と子どもの SDQ に有意な正の相関があったため、
3.
解釈としては、SDQ の結果がメディアや災害自体の
影響というよりも、些細なストレスへの閾値が低い
4.
ために反応が大きいのではないかと考えられる。つ
まり当時反応が大きかった子どもというのは、情緒
medical.html)
Goodman, R.(1997). The Strengths and
Difficulties Questionnaire: A Research Note.
Journal of Child Psychology and Psychiatry,
38, 581-6.
http://www.sdqinfo.org/py/sdqinfo/b3.py?langu
age=Japanese (2014.3.1現在)
5.
の不安定さ、集団生活でのいろいろなストレスに対
森脇愛子, 藤野博, 神尾陽子.(2012). 子ども
の強さと困難さアンケート(Strength and
しても予測できるということがいえる。ゆえに、不
Difficulties Scale:SDQ)日本版の標準化と信頼
安や症状が出やすい子どもたちに対しては、軽微な
性・妥当性検証. 日本社会精神医学会プログラ
出来事でも丁寧に対応していくことが大事になって
ム・抄録集, 31, 125.
くる。
6.
また、ほとんどの子どもが津波、地震、倒壊家屋
Constantino, J.N. et al.(2003).Validation of a
brief quantitative measure of autistic traits:
等の報道映像を目撃していたが、精神、行動面での
comparison of the social responsiveness scale
反応は子どもよりは保護者に多かったという点も明
with the autism diagnostic interview-revised.
らかになった。
Journal of Autism Developmental Disorder,
33(4), 427-33.
6. 今後の課題
(http://portal.wpspublish.com/portal/page?_pa
今後の課題は、子どもの自閉症的傾向については
geid=53,70492&_dad=portal&_schema=POR
まだ素点の段階のため下位分類も含めてもう少し詳
しくみていく必要があるということと、重回帰分析
での R2 乗が少ないということもあるため、より幅
7.
広い変数を含めて検討する必要がある。その上で本
データの解析から期待される成果としては、メディ
ア暴露が子どもの心身の成長に及ぼす影響について
実証的なエビデンスを提供することにより、今後の
8.
TAL) (2014.3.1現在)
神尾陽子, 辻井弘美, 稲田尚子ほか.(2009).
対人応答性尺度(Social Responsiveness
Scale; SRS)日本語版の妥当性検証-広汎性発
達障害日本自閉症協会評定尺度(PDD-Autism
Society Japan Rating Scale; PARS)との比較.
精神医学, 51(11), 1101-9.
Kessler, R.C.(2002).Short screening scales to
災害に備えてメディアに対して一定の提言が可能と
monitor population prevalences and trends in
なることがまず挙げられる。さらに、子どもの個人
non- specific psychological distress.
差に注目した本研究の成果は、支援者が知っておく
Psychological Medicine, 32, 969-76.
べき、メンタルリスクの高い子どもへの対応につい
9.
大野裕ほか.(2002).一般人口中の精神疾患の
特別研究事業)心の健康問題と対策基盤の実態
簡便なスクリーニングに関する研究. 平成14
に関する研究-研究協力報告書.
年度厚生労働科学研究費補助金(厚生労働科学
平成 25 年度厚生労働科学研究費補助金(障害者対策総合研究事業(精神障害分野)
)
被災地における精神障害等の情報把握と介入効果の検証及び
介入手法の向上に資する研究
分担研究報告書
分担研究報告書
被災地の子どもの精神医療支援
研究協力報告書
災害時の避難所・仮設住宅における子どもとその家族のための生活環境と
支援ニーズの実態調査 およびガイドライン遵守のためのチェックリスト作成
分担研究者
神尾 陽子
1)、金
研究協力者
森脇 愛子
1)
1)国立精神神経医療研究センター 精神保健研究所
吉晴
2)
児童・思春期精神保健研究部
2)国立精神神経医療研究センター 災害時こころの情報支援センター
【研究要旨】
本研究は国際的な基準に準拠した日本版の子どもとその家族を取り巻く避難所等におけ
る環境改善のためのガイドラインに基づいて、今後の支援活動に役立つガイドライン遵守
のためのチェックリストを作成することを目的とする。今年度は東日本大震災直後の避難
所等における「子どもにやさしい空間(Child Friendly Space)」など支援の場の有無や、
子どもを取り巻く生活環境についての保護者面接調査行い、さらに子どもの精神医学的症
状を質問紙評価により把握した。これらの結果からガイドラインの達成状況や、生活環境
面における問題点・支援ニーズについて整理した。またチェックリスト作成に際し、地域
や個々の子どもの個別性や多様性にも応じることができるよう考慮すべき点についても検
討を行った。チェックリストに加えるべき複数の項目が挙げられたがこれらの観点を含み、
ガイドライン遵守のためのチェックリストを作成することを今後の課題とする。
A.背景と目的
近年は災害直後からの避難所・仮設住宅等
被災した子どもたちが災害に関連した心
における子どもの権利の保護や心理社会的
理的苦痛から精神的健康を回復していくた
支援を行うための「子どもにやさしい空間
めは、急性期における対応が重要である。
(Child Friendly Space:CFS)
」という視
点の重要性について国際的に提言されてい
B.方法
る。国連機関である UNICEF(2010)によ
1.東日本大震災により被災した子どもを対
る ガ イ ド ラ イ ン “ A Practical Guide to
象とした実態調査
Developing Child Friendly Space”では、
1)対象者
緊急避難場所における CFS の設置・運営の
東日本大震災および東京電力第一原子力
ための指針が明記されている。今年度、筆
発電所事故による被害を受け、福島県内の
者らを含めたチームがこの原版を日本語に
応急仮設住宅に住む 15 歳以下の子どもを
翻訳し、さらに我が国の実情にあった内容
持つ保護者を対象として研究協力を依頼し
を加えて「子どもにやさしいガイドブック
たところ、中学生 6 名(男 3 名:女 3 名)、
(第 1 部理念編、第 2 部実践編)
」として公
高校生 1 名(女)の計 7 名の保護者から同
表した(金・小野・湯野・本田・大滝・森
意を得た。実態調査のための面接および質
脇,2013)。これが国際的な基準に準拠した
問紙回答は保護者に対して個別に実施した。
我が国のガイドラインとして普及されるこ
なお調査は 2012 年 12 月に実施したため、
とによって、CFS の理念とともに人道的支
震災発生(2011 年 3 月 11 日)当時から子
援における理念や原則についての理解が周
どもたちには 2 学年進級している。
知されることが望まれる。
2)調査方法
そこで本研究では災害時の避難所や仮設
①UNICEF(2010)による CFS ガイドラ
住宅における子どもとその家族を取り巻く
インをもとにした、暫定的なチェック項目
生活環境面の問題点や支援ニーズを明らか
を用いた
(詳細は H24 年度報告書で報告済)
。
にした上で、今後の CFS 等の環境整備や支
【暫定チェック項目】
援活動に役立つガイドライン遵守のための
・子どものための場の設置有無
チェックリストを作成することを目的とす
・ガイドライン原則(表 1)の達成状況
る。今年度の進捗として以下の 2 点につい
・利用状況
て報告する。
・利用満足度
1.
東日本大震災において被災した子ども
・子どもの支援ニーズ
の保護者に対する面接調査を行い、災
②福島県の協力を得て、15 歳以下の子ども
害直後の避難所等における子どもを取
をもつ県下の仮設住宅に居住する保護者に
り巻く生活環境面の実態と支援ニーズ
研究協力依頼書を書面で送付した。研究参
を明らかにする。
加者は同意の旨を郵便にて返信し、電話連
災害時の子どもを取り巻く環境の整
絡により面接調査日を決定した。
備・支援に関して国際的な基準に準拠
③質問紙および聞き取り調査(約 60 分)を
しているガイドラインに基づき、避難
行った。調査内容は次の通りである。
2.
所等において速やかに子どもの生活環
まず現在の子どもの状況を把握するため
境の改善が図られるよう、ガイドライ
に、質問紙「子どもの強さと困難さアンケ
ン遵守のためのチェックリスト作成に
ート;SDQ」(Strengths and Difficulties
向けた課題を明らかにする。
Questionnaire (Goodman,1997) を 実 施 し
表 1 災害時の避難所等における子どもの生活環境と支援に関するガイドライン(「子ども
にやさしい空間 第 1 部(理念編)
」より抜粋)
【子どもにやさしい空間:CFS とは】
災害や自己などの緊急事態において、避難した先で子どもたちが安心して、そして安全に過ごすこと
ができる場を指す。そこでは、子どもたちの遊びや学び、こころやからだの健康を支えるための多様な
支援活動や情報が提供される。
【子どもにやさしい空間
1.
6 原則】
CFS は、あらゆる子どもの権利侵害から守る場の提供、また保
子どもにとって安心・安
全な環境であること
護者や周りの大人が適切な育児や支援ができる場の提供を行うこ
と
2.
子どもを受け入れ、支え
る環境であること
3.
地域の特性や文化、体制
や対応力に基づいている
CFS を起点に生活・遊び・学習などの子どもの日常生活の復元
に努めることによって、子どもの回復力を支えること
地域文化・特性と既存の組織や対応力を尊重し、発災直後から中
長期にわたって持続的に実行可能な CFS 体制をつくること
こと
4.
みんなが参加し、ともに
つくりあげていくこと
5.
さまざまな領域の活動や
支援を提供すること
CFS の地域の様々な役割を持つ人々(子ども・保護者など)が
参加し、協働して設置・運営ができるようにすること
災害の程度・時期、あるいは個々の支援ニーズに応じて、医療・
福祉・心理社会的支援など多領域の支援提供ができるよう、分野や
領域の枠を超えて連携ができるようにすること
6.
誰にでも開かれているこ
と
子どもの多様性(発達段階、性別、障害の有無、国籍、家庭環境
など)に配慮し、これらの要因によって CFS への参加が制限され
たり、支援が行き届かないことがないようにすること
た。SDQ は 4~16 歳まで適用できる子ども
校教育の状況)について
の情緒・行動面の精神医学的症状を量的把
・暫定的チェック項目に沿い、被災直後の
握する質問紙であり、25 項目を 3 件法で評
避難所等における子どもの遊びや学習のた
価する。今回は日本語版保護者評価を用い
めの場所(CFS)の有無とその環境に関し
て各児における現状について回答を依頼し
て尋ねた。リッカートによる評価および追
た。
加の情報については自由回答とした。
続いて面接調査では以下の内容について
本研究は国立精神・神経医療研究センタ
回答を依頼した。
ーおよび福島県立医科大学の倫理委員会の
・子どもの基礎的な情報(年齢・性)
承認を得て行われた。また面接調査に際し
・災害直後からの避難経過(避難所や応急
て対象者(保護者と子ども)にとって負担
仮設住宅の滞在期間・家庭状況の変化・学
がないよう十分に配慮を行って実施した。
3) 分析方法
個々の子どもの基礎情報、災害直後から
外の 5 名の TDS はカットオフを下回ってい
た。
の避難経過、また暫定チェック項目につい
2)聞き取り調査について
ての自由回答の内容を整理して記録した。
①子どもとその家族の背景情報
次に各チェック項目について KJ 法を用い
て内容の類似性を考慮し分類した。
SDQ については規定の得点算出方法を
面接を行ったすべての世帯で、震災後に
父母あるいはそのどちらかが就業先の移転
や転職に伴い県内外に転居しており、子ど
用いて各児の得点を算出した。
もは片親と、あるいは祖父母と応急仮設住
2.ガイドライン遵守のためのチェックリス
宅で同居していた。
ト作成
チェックリストの作成手順は以下の通り
また発災直後~半年後にかけて、世帯毎
に様々な避難経過を辿っており、避難場所
である。
や避難方法も異なっていた。現在の応急仮
①既存のガイドラインから、原則および行
設住宅に転居するまでに複数の避難場所の
動指針等に準拠した暫定チェック項目を挙
移動があり、中でも比較的長期間(3 か月
げる(H24 年度実施)
。
以上)滞在した場所としては避難者のため
②実態調査から浮かび上がった問題点や支
に一時的に開放されたホテルや旅館などの
援ニーズをふまえ、チェックリスト作成に
宿泊施設であった。なお避難場所や応急仮
関わる課題について検討する(本年度)
。
設住宅への入居時期および振分けの際に、
③暫定チェックリストの内容に修正を加え、 震災前の居住地域やコミュニティの要件は
CFS ガイドライン遵守のためのチェックリ
考慮されていなかったとのことであった。
ストを完了する(予定)
。
また、全ての子どもたちが避難場所の移動
に伴い県内外の学校へ複数回の転出入を経
C.結果
験していた。
1.実態調査
②ガイドラインに基づく暫定的チェック項
1)SDQ 得点について
目に対する回答
情緒の問題、行為の問題、多動性/不注
主要項目に対する回答は KJ 法による内
意・仲間関係の問題の 4 指標の合計点から
容の統合ののち表 2 に整理して示した。各
総合的な子どもの困難さを示す得点(Total
回答から、対象となる子どもとその家族の
Difficulty Score:TDS)を個別に算出した。
生活環境および CFS の実態について以下
日本語版標準化に際し示されたカットオフ
の観点が明らかになった。
によると、
10 歳~15 歳では男児 15 点以上、

多くの避難所で「子どものための場」
女児 14 点以上の得点は臨床レベルの症状
の提供が行われていたが、形態の違い
を 有 す る ( 上 位 約 10% ) と 考 え ら れ る
(設置場所/設置運営者/利用対象児
(Moriwaki et al., 2014)
。本研究の対象で
/支援内容)が利用状況や利用者の満
は 7 名中 2 名(男女各1名)の TDS がそれ
足度に影響していた。
ぞれ性別のカットオフを上回った。それ以

保護者・自治体が主導で設置された場
合、意見や要望の反映、あるいは利用
護者が子どものことについても相談で
者間での情報共有が円滑に行われたよ
きる場や相手(医療・保健関係者、教
うである。しかし運営資金や人材確保
育関係者、自治会・警察等の地域支援
において困難な例があった。一方で、
者)を得ることができた場合には、保
外部支援者(公的/私的なものを含む)
護者の心身の健康に対しても非常に効
が参入し、子どものための場所を設置
果が高いことが示唆された。
した場合、地域の自発的関与が減少し、
2.ガイドライン遵守のためのチェックリスト
単発イベントで終了するような継続性
作成
実態調査の結果を踏まえてチェックリス
の乏しい活動となってしまう傾向が見

られた。
ト作成時の考慮点として以下の点が考えら
年長(小学校高学年以上)の子どもへ
れた。
の支援が相対的に不十分であると考え

られた。特に遊び・運動・学習のため
別途作成することが望ましい。原則の
の空間的制限が顕著であった。また年
達成状況や支援者について、双方向か
長の子どもほど子どものプライバシー
ら確認ができることが重要である。
が守られる空間や、性別(ジェンダー)

示された。

基本的な項目については汎用的なもの
幼児~低学年児と比較して年長の子ど
としながら、地域や子どもの多様性に
もの場合には、個々に不安やストレス
応じて柔軟に変更したり修正して使用
を感じていたとしても周囲の大人から
してよいことを明記する。
気付かれにくく、結果的に行動問題(反

避難所や支援の場に到達しにくい対象
社会的/非社会的行動)へと発展しや
者(孤児や障害児、他国出身者や観光
すい傾向が見られた。そのため、周囲
客等)への気付きや支援が届かない地
の大人からのネガティブな評価による
域がないように全体を把握する視点を
二次的な傷つき体験をしたケースが多
加える。
いことが懸念された。

質問項目には緊急時でも評価し易いよ
う具体例を挙げる。
の違いに配慮した支援が必要であると

避難所等の設置運営者用と利用者用に

定期的なモニタリング評価を促進し、
中高生で一般的に見られるような思春
支援経過を中・長期評価として把握で
期特有の関わりの難しさと、震災によ
きるようにすることを明記する。
る衝撃や不安、生活環境の変化からく
実態調査の結果および上述した考慮点を
るストレス等との判別が困難な場合が
反映させる形式で、災害直後の避難場所に
あることが保護者の困り感に繋がって
おける子どもと家族のための環境整備と支
いた。年長の子どもの場合においても、
援(主に CFS の提供)に関するガイドライ
保護者への育児等に関する専門的なア
ン遵守のためのチェックリスト作成を今後
ドバイスや支援のニーズがあると考え
の課題とする。
られた。本調査で得られた情報では保
D.考察
本研究は災害時の避難所や仮設住宅にお
むガイドライン遵守のためのチェックリス
トを作成することを今後の課題とする。
ける子どもとその家族を取り巻く生活環境
面の問題点や支援ニーズの実態を踏まえて、 E.引用文献
今後の CFS 等の環境整備や支援活動に役
Goodman R.(1997)The strength and
立つガイドライン遵守のためのチェックリ
difficulties questionnaire: a research
スト作成を目的として検討を行った。本年
note. Journal of Child Psychological
度(H25 年度)は、東日本大震災により被
and Psychiatry,38, 581-586.
災した子どもとその保護者への面接による
金吉晴/編著・小野道子・湯野貴子・本田
実態調査結果をまとめ、CFS の提供や支援
涼子・大滝涼子・森脇愛子(2013)子ど
体制の在り方に関する課題を明らかにした。
もにやさしい空間ガイドブック 第 1 部
特に実態調査では震災当時に小学校高学年
(理念編)第 2 部(実践編).公立財団法
以上の年長の子どもが主な対象となったが、
人日本ユニセフ協会 東日本大震災緊急
避難所等での居場所づくりや具体的な支援
支援本部/独立行政法人国立精神・神経
は乏しい状況であったことが示された。一
医療研究センター精神保健研究所 災害
般的に CFS 等、子どものための場所と聞く
時こころの情報支援センター.
と比較的乳幼児~低年齢の子どもに対して
Moriwaki A., & Kamio Y. ( 2014 )
手厚い支援に偏る傾向があると考えられて
Normative
data
いる。年長の子どもでは大人と同じように
properties
of
周囲から扱われることで不安やストレスに
difficulties
気付かれにくく、ネガティブな評価を受け
Japanese school-aged children. Child
ることもあることから二次的な傷つき体験
and Adolescent Psychiatry and Mental
に繋がることが懸念された。こういったリ
Health, 8(1), 1-12.
スクのある発達段階やその他の要因から支
and
the
psychometric
strengths
questionnaire
and
among
UNICEF(2010)A Practical Guide for
援の場に到達しにくい子どもも CFS 等の
Developing
支援の場を活用したり、見過ごされてやす
http://toolkit.ineesite.org/toolkit/INEEc
い子どもの変化や特性に保護者や大人たち
ms/uploads/1064/Practical_Guide_Devel
が気付くことを促進し、相談窓口となるよ
oping_Child_Friendly_EN.pdf.
うな『利用しやすさ(Accessibility)』の視
2014/2/1)
Child
Friendly
点に対するチェックが重要であると考えら
れた。
さらにチェックリスト作成に際し、地域
や個々の子どもの個別性や多様性にも柔軟
に応じることができるよう、考慮すべき点
についても検討を行った。複数の明記すべ
き項目が挙げられたが、これらの観点を含
F.研究成果
なし
G.知的所有権の取得状況
なし
Space.
(access;
表2

面接調査における自由回答のまとめ
子どもの 遊び ・学び の 場
の設定

多くの避難所等で子どもが自由に過ごすための場所が設置されていた。ただし、その設置方法は場所によって
異なっていた。
 子どもたちが自由に遊べるスペースのみ提供された場合
 自治会主導で「子どもの学習室」が設置された
 避難所運営者が子どもや高齢者のためのふれあいスペースを提供された
原則の達成状況
1.
子どもの安全・安心
支援者(保護者・自治体の職員・保育士など)の常駐は半数程度。安全管理のみ行うところから、専門支援介
入まで程度はさまざまであった。
2.
子どもの多様性に応
低年齢児への支援が中心で、小学校高学年~中高生への場、遊び道具・学習用具の提供や具体的支援はほとん
どなく、トラブルが多く問題になった。
じた支援
3.
地域に基づく体制
保護者や自治体によって設置された場合は、要望が反映されたり情報共有が円滑だった。運営のための人や資
金等の確保が困難だった。
4.
参加の向上
設置者に運営が任されてしまうと、外部の人が意見や要望を伝えたり、自発的に関与することが難しい。元々のコミュニテ
ィではない人で構成された場合には困難。
5.
支援領域の拡大や連
携
6.
開かれた場、利用の
制限
小学校高学年~中高生間のトラブルが増加したことで、自治体の関係機関(教育委員会・学校・警察など)が
それぞれ保護者を通じて連携したケースがあった。
小学校高学年以上の子どもへの支援は十分に達成されていたとは言えない。学習面(学習の遅れ、受験対策)
については比較的ニーズが反映されていたが、併せてメンタルヘルスに関わる支援が必要だったと思われる。

利用状況
学習室や単発の活動プログラムには参加しやすかった。

利用満足度
スタッフや支援者のいない場では対人トラブルが起こりやすく、徐々に利用しなくなった。子ども同士のトラ
ブルが周囲の大人を巻き込んだトラブルになり負担だった。単発でも活動があるほうがストレスを発散できた。
特に年長の子どもが運動できる場が制限されたり、プライバシー、性別(ジェンダー)への配慮がないと活動
が継続できない。

他の支援ニーズ
年長の子どもは大人と同等に扱われてしまい、自由に表現したり振舞うこと、遊ぶことなどが見逃されやすい
ようだった。思春期の関わりの難しさも相まってストレスをためていても気付かれにくく、ネガティブな行動
の問題に繋がりやすい。
Ⅲ. 研究成果の刊行に関する一覧表
研究成果の刊行に関する一覧表
書籍
著者氏名
論文タイトル 書籍全体の
名
編集者名
金 吉晴
鈴木 満
書 籍 名
出版社名 出版地
精神保健福祉 集団的災害対応 中央法規 東京
白書編集委員 精神医療システ
会編:精神保 ム
健福祉白書20
14年版
他
鈴木
満
計見一雄
鈴木 満
鈴木 満
出版年
ページ
2013
東京
2013
全520頁
日本企業中国駐 海 外 邦 人 東京
在員のメンタル 医療基金
ヘルス - 海外生
活における急激
な環境変化や大
規模緊急事態へ
の対応 -(報告
書)
2013
全61頁
巨大災禍への精 弘文堂
神医学的介入
福地成
災 害 時 の 発 達 古荘純一
障害児への支
援
発 達 障 害 医 学 の 診 断 と 治 東京
進歩25
療社
2013
36-42
福地成
大 震 災 と 子 ど 日本小児科
ものこころ
医会
東 日 本 大 震 災 - 日 本 小 児 東京
小児科医の足跡医 事 出 版
-
社
2013
92-97
富田博秋、
第6章 災害時 東北大学災 東日本大震災を 明石書店
の 精 神 医 療 と 害科学国際 分析する
精神保健
研究所、平川
新・今村文彦
2013
82-91
災害時の精神
医療保健に関
わる対応
東日本大震災調 土木学会
査報告書
(印刷中)
精神的サポー
ト
災害時糖尿病診 文光堂
療マニュアル
(日本糖尿病学
会編)
(印刷中)
根本晴美
富田博秋、
根本晴美
富田博秋、
東海林渉
雑誌
発表者氏名
論文タイトル名
発表誌名
巻号
ページ
出版年
金 吉晴
災害時の不安障害のマネ 保健医療科学
ジメント
62(2)
144-149
2013
金 吉晴
自然災害後の精神医療対 日本精神科病
院協会雑誌
応の向上の取り組み
32(10)
19-26
2013
金 吉晴
放射線災害への不安と精 精神医学
神科医(東日本大震災・福
島第一原発事故と精神科
医の役割 8)
55(9)
899-908
2013
鈴木満
海外邦人をめぐるメンタ こころと社会 44(4)
ルヘルスの動向 - 海外生
活ストレスへの対応およ
び大規模緊急事態へ備え -
100-106
2013
吾妻 壮,鈴木 満,
在外邦人の精神医学的危 心と文化
機介入−ニューヨークでの
体験を通して
140-148
2013
井上洋一,武田雅俊
12(2)
荒木剛、桑原斉、笠井清登
災害直後のこころのケア 精神神経学雑誌
のあり方 東京大学医学
部附属病院災害医療マネ
ジメント部の取り組み
In press
Kuwabara H, Araki T,
Regional diffrerences in Brain & Dev
elopment
post-traumatic stress
symptoms among
children after the 2011
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between Staff Nurses
and Their Managers
Sampaio PYS,
Validation and
Geriat
Sampaio RAC,Yamada M, Translation of the Kihon Gerontol Int
Ogita M, Arai H
Checklist (frailty index)
into Brazilian
Portuguese
in press
Sampaio RAC,
Self-reported quality of Geriat
in press
Sampaio PYS, Yamada M, sleep is associated with Gerontol Int
Tsuboyama T, Arai H
bodily pain, vitality and
cognitive impairment in
Japanese older adults
Tanigawa T, Takechi H,
Effect of physical
Geriat
Arai H, Yamada M,
activity on memory
Gerontol Int
Nishiguchi S, Aoyama T
function in older adults
in press
with mild Alzheimer’s
disease and mild
cognitive impairment
Yukutake T, Yamada M,
Arterial stiffness
Fukutani N, Nishiguchi S, determined by
Kayama H, Tanigawa T,
cardio-ankle vascular
Adachi D, Hotta T,
index (CAVI) is
J Atheroscler
in press
Thromb.
Morino S,Tashiro Y, Arai H, associated with poor
Aoyama T
cognitive function in
community-dwelling
Yamada M, Arai H,
elderly
Chronic kidney disease Arch Gerontol 57(3)
Nishiguchi S, Kajiwara Y, (CKD) is an
Yoshimura K, Sonoda T,
independent risk factor
Yukutake T, Kayama H,
for long-term care
Tanigawa T, Aoyama T.
insurance (LTCI) need
328-32
2013
4(3)
89-92
2013
31
21-11
2013
Geriatr
certification among
older Japanese adults: A
two-year prospective
cohort study.
Sampaio RAC,
Factors associated with J Clin
Sampaio PYS, Yamada M, falls in active older
Ogita M, Sandra Marcela
adults in Japan and
Gerontol
Geriatr
Mahecha Matsudo, Raso V, Brazil
Tsuboyama T, Arai H
Sampaio PYS,
Importance of Physical Phys Occup
Sampaio RAC, Yamada M, Performance and
Ogita M, Arai H
Quality of Life for
Self-Rated Health in
Older Japanese
Women
Ther Geriatr
Akishita M, Ishii S,
Priorities of healthcare J Am Med Dir 14(7)
Kojima T, Kozaki K,
outcomes for the elderly. Assoc
479-484
2013
195-203
2013
437-42
2013
8-15
2013
16-24
2013
Kuzuya M, Arai H, Arai H,
Eto M, Takahashi R,
Endo H, Horie S,
Ezawa K, Kawai S,
Takehisa Y, Mikami H,
Takegawa S, Morita A,
Kamata M, Ouchi Y,
Toba K
Arai H, Kokubo Y,
Small Dense
Watanabe M, Sawamura T, Low-Density
Ito Y, Minagawa A,
Lipoproteins
Okamura T,
Cholesterol can Predict
Miyamato Y
Incident Cardiovascular
J Atheroscler 20(2)
Thromb.
Disease in an Urban
Japanese Cohort: The
Suita Study.
Yamada M, Takechi H,
Global brain atrophy is Geriatr
13(2)
Mori S, Aoyama T, Arai H associated with physical Gerontol Int
performance and the
risk of falls in older
adults with cognitive
impairment
Okura M, Uza M, Izumi H, Factors that affect the
Open Journal 3
Ohno M, Arai H, Saeki K
of Nursing
process of professional
identity formation in
Okura M, Noro C, Arai H
public health nurses
Development of a
Open Journal 3
career-orientation scale of Nursing
for public health nurses
Vol.45. 1438-144 2013
1
No.8.
福地成
災害時の心の反応とその 小児内科
対応
福地成
被災地の精神保健の現状 病院・地域精神 Vol55.
と課題
医学
No4.
松本和紀
東日本大震災における宮 精神医学
Vol.55
城県の精神科医の活動
No.4
松本和紀
15-17
2013
391-400
2013
宮城県における震災後の 精神神経学雑 Vol.115 492-498
精神医療の状況―震災か 誌
No.5
ら1年を経て―
2013
松本和紀
Health of Disaster Reli Japan Medic Vol.56
ef Supporters
al Associatio
No.2
n Journal
70-72
2013
松本和紀
支援者と働く人々のケア 精神医療
No.72
31-40
2013
- 東日本大震災の経験か
ら
富田博秋
災害精神医学に関する研 精神神経学雑
究の課題. 東日本大震 誌
災からの復興に向けて
~災害精神医学・医療の
課題と展望~
(印刷中)
厚生労働科学研究費補助金(障害者対策総合研究事業(精神障害分野)
)
被災地における精神障害等の情報把握と介入効果の検証及び介入手法の向上に資する研究
平成25年度 総括・分担研究報告書
発行日 平成26(2014) 年3月
発行者 研究代表者 金 吉晴
発行所 国立精神・神経医療研究センター 精神保健研究所 災害時こころの情報支援センター
〒187-8553 東京都小平市小川東町 4-1-1