日中語彙における女性を表す語彙の比較研究

『台灣日本語文學報創刊 20 號紀念號』PDF版
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中日代表女性詞彙之比較研究
─以正面及負面評價之詞彙為主─
林玉惠
銘傳大學應用日語學系助理教授
摘要
因中日詞彙中 代表 女性 詞彙 的數 量及 種類 相當 多, 故本研
究選擇其中的正面及負面評價之詞彙為主題進行探討。本研究
的目的是期望能藉由中日代表女性詞彙中關於正面及負面評價
之詞彙的考察及比較,進而找出兩者的特徵及異同。本研究的
詞彙收集自中日的國語辭典、類義語辭典、專門用語辭典、詞
彙集、小說等;並根據各個詞的詞義將收集來的詞彙分類為
“ 家 族 關 係 "“ 容 貌 美 醜 "“ 比 喻 表 現 "“ 品 德 及 操 行 方
面"“學藝優秀的女性及罵人話"“其他"。透過本研究可得
到 以 下 幾 點 結 論 。 (1) 日 文 裏 代 表 女 性 正 面 評 價 之 詞 彙 的 數 量 稍
比負面評價之詞彙的數量多,但中文裏代表女性正面評價之詞
彙 的 數 量 卻 遠 超 過 負 面 評 價 之 詞 彙 。(2)中 日 詞 彙 在 各 分 類 中 皆
以 「 容 貌 美 醜 」 這 一 類 的 詞 最 多 。 (3)中 文 裏 代 表 女 性 負 面 評 價
之 詞 彙 數 量 不 多 , 而 多 數 是 怒 罵 女 性 的 詞 語 。 (4)因 本 研 究 之 日
文 詞 彙 以「 漢 語 」居 多 , 所 以, 中 日 詞 彙 中 代 表 女 性 正 面 及 負 面
評價之詞彙有不少類義表現及中日同形詞。
關 鍵 詞 :女 性 , 詞 彙 , 中 日 詞 彙, 中 日 代 表 女 性 之 詞 彙 , 正 面 及
負面評價之詞彙
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A comparative study of expressions and phrases of
wo men in Ch inese and Japanese: A p e r s p e c t i v e o f
p o s i t i v e a n d n e g a t i v e e x p re s s i o n s a n d p h r a s e s
L i n Yu - H u i
A s s i s t a n t P r o f e s s o r, M i n g C h u n g U n i v e r s i t y
Abstract
B e c a u s e o f t h e l a rg e n u m b e r a n d v a r i e t y o f v o c a b u l a r y, w h i c h
represents women in Chinese and Japanese, I chose positive and
negative expressions and phrases for women as the theme for the
research.
The purpose of this research is to find out the
characteristics,
similarities,
and
d i ff e r e n c e s
in
the
two
languages' in this regard by researching and comparing them.
The conclusions of this research are as follows.
(1) In Japanese,
the number of positive expressions and phrases for women is
s l i g h t l y m o r e t h a n t h e n e g a t i v e o n e s ; h o w e v e r, i n C h i n e s e , t h e
positive expressions and phrases for women are far greater than
the negative ones.
( 2 ) Wo r d s f r o m t h e “ P h y s i c a l A p p e a r a n c e ”
category are far greater than those in all other categories.
(3)
The number of negative expressions and phrases for women in
C h i n e s e a r e r e l a t i v e l y f e w, b u t t h e m a j o r i t y o f t h e m a r e
concerned
with
cursing
women.
(4)
Since
the
Japanese
vocabulary of this research is mostly ‘kanji’, there are a lot of
synonyms and homographs between the Japanese and Chinese.
Keywords: Women, Vocabulary, Vocabulary of Chinese and Japanese,
Expressions and Phrases for Women in Chinese and
Japanese, Vocabulary of Positive and Negative
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日中語彙における女性を表す語彙の比較研究
―プラス表現とマイナス表現を中心に―
林玉惠
銘伝大学応用日本語学科助理教授
要旨
日 中 語 彙 に お け る 女 性 を 表 す 語 彙 の 数 と 種 類 は 多 い 。本 稿
ではこの中のプラスとマイナス表現の語彙を中心に検討し、
それらを考証・比較することによって、日中語彙における女
性を表すプラスとマイナス表現の語彙の特徴・相違点・類似
点などを明らかにすることを目的とする。なお、調査語は日
中の国語辞典・類語辞典・専門辞典・語彙集・小説などより
収 集 し 、 そ れ ぞ れ の 語 の 意 味 に よ っ て 、「 家 族 関 係 」「 容 姿 の
美 醜 」「 比 喩 表 現 」「 心 や 振 る 舞 い 関 係 」「 学 芸 に す ぐ れ た 女
性 を 誉 め る 言 葉 、女 性 を 罵 る こ と ば 」
「 そ の 他 」に 分 類 し た 。
その結果、一つに日本語における女性を表す語彙には、プ
ラス表現の語数がマイナス表現の語数よりやや多く見られ
るが、中国語においては、プラス表現の語数はマイナス表現
よりずっと多かったこと、二つに日中語彙とも、各分類のう
ち 、「 容 姿 の 美 醜 」 に 分 類 さ れ る 語 が 最 も 多 か っ た こ と 、 三
つ に 中 国 語 の マ イ ナ ス 表 現 の 語 は 少 な く 、そ の 多 く は 女 性 を
罵 る こ と ば で あ る こ と 、四 つ に 日 本 語 の 中 に は 漢 語 が 多 い た
め 、日 中 語 彙 に お い て 女 性 を 表 す プ ラ ス と マ イ ナ ス 表 現 の 語
彙に、同表現のものや同形語も少なくないことが分かった。
キーワード:女性、語彙、日中語彙、日中語彙における女性
を表す語彙、プラスとマイナス表現の語彙
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日中語彙における女性を表す語彙の比較研究
―プラス表現とマイナス表現を中心に―
林玉惠
銘伝大学応用日本語学科助理教授
1. は じ め に
こ れ ま で 女 性 に 関 す る こ と ば の 研 究 は 、女 性 が 使 う こ と ば の
特徴、特に男女差の観点より分析するものが多かった。だが、
女性そのものを表す語彙についての研究はそれほど多くない。
時 代 が 移 り 変 わ る に つ れ 、社 会・ 家 庭 に お け る 女 性 の 役 割 が 変
化 し つ つ あ る 。こ の よ う な 変 化 は そ の ま ま 語 彙 に も 反 映 す る た
め 、現 代 語 に お け る 女 性 を 表 す 語 彙 の 数 と 種 類 は 以 前 よ り 豊 富
で、かつ多様化していることは容易に想像できる。
このような女性を表す語彙の変化は、日本語だけでなく、
他 の 言 語 に お い て も 見 ら れ る こ と で あ る た め 、比 較 研 究 を す
る の に 恰 好 の 対 象 と な っ て い る 。し か し な が ら 女 性 を 表 す 語
彙 に 関 す る 研 究 の 大 部 分 は 、日 本 語 を 対 象 に す る も の で あ っ
て、他言語と比較対照した研究は極めて少ない。一方、様々
な 比 較 研 究 に よ れ ば 、日 本 語 の 特 徴 は 他 言 語 と の 比 較 に よ っ
て、より一層浮び上がらせることができる。したがって、本
稿 で は こ の よ う な 研 究 の 不 足 部 分 を 補 う こ と と す る 。比 較 に
あたり、漢字を媒介にし、文字表記において日本語との関係
が近い、中国語を対象とした。
た だ し 、日 中 語 彙 に お け る 女 性 を 表 す 語 彙 と 一 口 に 言 っ て
も 、 そ の 数 と 種 類 が 多 い こ と は 林 玉 惠 ( 2004) の 調 査 よ り 窺
い知ることができる。また、同調査では日中語彙における女
性 を 表 す 語 彙 の 中 に は 、女 性 を 評 価 す る プ ラ ス 表 現 と マ イ ナ
ス表現の語や、昆虫・動物などをイメージして女性をたとえ
る 語 や 、色 で 女 性 を 表 現 す る 語 な ど の よ う に 興 味 深 い 表 現 が
あることが判明した。そこで、本稿ではこれらの語について
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詳細に検討する。
本 稿 の 目 的 は 、日 中 語 彙 に お け る 女 性 を 表 す プ ラ ス と マ イ
ナス表現の語彙を中心に検討し、それらを考証・比較するこ
と に よ っ て 、日 中 語 彙 に お け る 女 性 を 表 す プ ラ ス と マ イ ナ ス
表現の語彙の特徴・相違点・類似点などを明らかにすること
である。
2. 先 行 研 究
日中語彙における女性を表すプラスとマイナス表現の語
彙についての研究は、管見の限りでは見当たらないが、女性
を表す語彙の研究は、日本語における女性の呼称、女性に対
す る 差 別 用 語 、「 女 性 」「 婦 人 」「 彼 女 」 の よ う な 個 別 語 の 語
誌 研 究 や 意 味 分 析 な ど が 行 な わ れ て き た 。日 中 比 較 研 究 は 極
め て 少 な い が 、 劉 学 新 ( 1989) の 日 中 語 彙 に お け る 「 妻 」 を
意味する語彙についての研究が挙げられる。この論文は、現
代における親族用語「妻」を表す一群の語における日中両言
語の差異を考察したものである。
注 意 す べ き こ と は 、日 本 語 に お け る 女 性 を 表 す 語 彙 の 研 究
は 、1 9 7 9 年 よ り 遠 藤 織 枝 を 中 心 に 一 連 の 研 究 が 行 わ れ て い る
ということである。遠藤織枝は日本語の国語辞典・新聞・雑
誌 な ど を 対 象 に し 、女 性 を 表 す 語 彙 の 研 究 を 行 っ た 。さ ら に 、
遠藤織枝は坂入啓子・本郷明美・丸山和香子・佐竹久仁子ら
と 共 同 研 究 と い う 形 で 、日 本 語 に お け る 女 性 を 表 す 語 彙 の 研
究を進めてきた。以下、本稿と関連するものについて検討す
る 。 な お 、 林 玉 惠 ( 2004) で は 女 性 を 表 す こ と ば を 中 心 に 、
以 下 で 検 討 す る 先 行 研 究 、 本 郷 明 美 ( 1 9 8 1 )・ 坂 入 啓 子
( 1981)
・遠 藤 織 枝( 2 0 0 1 )
・山 田 小 枝( 1 9 9 8 )を 検 討 し た が 、
ここでは、それらの検討した内容をまとめたうえ、さらにプ
ラスとマイナス表現に関する記述を加わって詳しく検討す
ることにする。
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遠 藤 織 枝 ( 1 9 8 0 ) で は 、『 岩 波 国 語 辞 典 第 3 版 』 の 見 出 し
語の中より、女性を表す語、女性固有のものとされる語、女
性を限定・修飾する語を採取し、これらの語を意味によって
大 き く〔 A〕~〔 G〕の 七 つ の グ ル ー プ に 分 け た 。そ の う ち の
〔 D 〕状 態 ・ 属 性 を 表 わ す 語 と い う グ ル ー プ で は 、11 0 名 の 男
女 を 対 象 に イ メ ー ジ 調 査 を 行 い 、女 性 を 表 す 語 彙 と 男 性 を 表
す 語 彙 の ど ち ら に プ ラ ス イ メ ー ジ の 語 が 多 い か 、マ イ ナ ス イ
メ ー ジ の 語 が 多 い か を 調 べ た 。そ の 結 果 、
「美人」
「醜女」
「醜
婦 」の よ う な 容 姿 の 美 醜 に 関 す る 語 が 女 性 を 表 す 語 彙 に 多 い
こ と 、ま た 女 性 に 関 す る マ イ ナ ス 評 価 の 語 も 多 い と い う 結 果
が 得 ら れ た 。遠 藤 の こ の 論 文 で は 男 性 を 表 す 語 と の 比 較 も 行
い、女性を表す語には男性との関係で生じるものが多いが、
男 性 を 表 す 語 に は 、対 社 会 的 関 係 で 生 じ る も の が 多 い と 指 摘
する。
本 郷 明 美 ( 1981) で は 、 国 語 辞 典 の 用 例 を 資 料 と し 、 そ の
中 の 男 を 表 す こ と ば と 女 を 表 す こ と ば に お け る 、男 女 の 性 の
扱いに問題がないかについての調査が行われた。その結果、
5 種 類 1の 国 語 辞 典 よ り 、 男 を 表 す こ と ば が 計 95 種 、 女 を 表
す こ と ば が 計 97 種 得 ら れ た 。 こ れ ら の 語 は 資 料 と し て 同 調
査 に も 載 せ て あ る た め 、本 稿 と 関 連 の あ る 女 性 を 表 す プ ラ ス
とマイナス表現の語は「特殊名称」という項目に入っている
ことが分かった。本郷のこの調査は、用例数男女比の問題、
男女を表すことばの様相から考えられる男女の存在形態の
問 題 、男 女 を 表 す 一 般 名 称 か ら 探 る 男 女 像 の 問 題 と い う 三 つ
の 観 点 よ り 、国 語 辞 典 に お け る 男 女 と い う 二 つ の 性 の 扱 い に
ついて検討している。結果として、男を表すことばが用例上
数量的に優位にたつということが分かった。
坂 入 啓 子( 1 9 8 1 )は 、各 種 の 国 語 辞 典 の 見 出 し 語 か ら 、
「……
1『
新 明 解 国 語 辞 典 』『 角 川 新 国 語 辞 典 』『 岩 波 国 語 辞 典 第 三 版 』『 小 学
館 新 選 国 語 辞 典 』『 学 研 国 語 辞 典 』 を 指 す 。
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な 女 」「 … … を す る 婦 人 」 の よ う な 女 性 そ の も の を さ す と 説
明 さ れ て い る 語 を 抜 き 出 し 、比 喩 表 現 が 使 わ れ て い る 女 性 を
表す語彙について考察している。比喩表現の語彙として、女
性に対するプラスとマイナス評価の語も数多く羅列・分類さ
れている。結果として、比喩表現の語彙を使用することによ
り 、① : レ ベ ル を 高 め る も の 、② : レ ベ ル を 低 め る も の 、③ :
①と②の入り混っているもの、④:レベルとは無関係に直接
表現をさけているもの(隠語的性格)につながることが分か
った。また、坂入のこの論文では、外来語の女性を表す語彙
の隠語的性格の有無についても調査した。結果、外来語に、
より明るい、開放的な語感がみとめられ、隠語というには明
るすぎると指摘する。
遠 藤 織 枝 ( 2001) で は 、 日 本 語 辞 書 に お い て 、 女 性 が 如 何
に変化したかを探るため、語の採録の変化、語釈の中の語の
変化、差別的な語のあつかいという観点より、改めて辞書に
おける女性に関する記述などを考察した。その結果、日本語
辞書の語の採録・語釈・用例などに女性差別は未だに看取さ
れ る が 、2 0 年 前 の 辞 書 と 比 べ る と 進 歩 が 見 ら れ る と い う こ と
が分かった。遠藤のこの論文は、女性に対する差別用語を調
査 す る こ と が 主 で あ る が 、差 別 用 語 の ほ と ん ど は 女 性 を 表 す
語彙のマイナス表現と一致していることも分かった。
以 上 の 先 行 研 究 は 、 こ こ 20 年 の 日 本 語 を 対 象 に し た も の
で あ る が 、山 田 小 枝( 1998)は 、二 言 語 辞 書 2お よ び『 江 戸 語
の 辞 典 』、 モ ダ ン 辞 典 類 の 見 出 し 語 を 調 査 資 料 と し て 用 い 、
明 治 よ り 昭 和 の 始 め に 至 る 一 世 紀 余 の 日 本 社 会 に お け る 、女
性 の 社 会 的 立 場 の 変 遷 を 言 語 表 現 の 面 か ら 調 査 し た 。山 田 の
この論文は、職業関係における女性を表す語彙や、女性の評
価 な ど を 中 心 に 調 査 し 、明 治 よ り 昭 和 の 始 め に お け る 女 性 を
表す語彙そのものを考察したものである。これより、女性の
2
『 仏 語 明 要 』『 和 蘭 字 彙 』『 孛 和 袖 珍 辞 書 』 な ど で あ る 。
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評価において、すべての年代を通じ、美醜や性格に関するも
の、年齢にまつわるもの、主婦としての資質に関するものが
多いということが分かった。
以上の研究は、様々な観点から行なわれた、日本語辞書・
新聞・雑誌などにおける女性を表す語彙の実態調査である。
そ の 調 査 結 果 は 、多 数 の 辞 書 で は 女 性 を 表 す 語 彙 に は 差 別 が
見 ら れ る こ と 、女 性 を 表 す 語 彙 の 類 義 語 の 相 違 が 見 出 せ な い
こ と 、女 性 の 社 会 的 立 場 が 変 化 す る こ と に よ り 女 性 を 表 す 語
彙も変化することを示している。
また、これらの調査では、女性を表す語彙のイメージを、
容姿の美醜・素質・能力などの観点によって、プラス評価と
マイナス評価の語に分けられることが分かった。しかし、こ
れらの結果は、日本語に限ることであるのか、それとも他言
語 に も 見 ら れ る か ど う か に つ い て は 論 じ ら れ て い な い 。例 え
ば 、中 国 語 に お け る 女 性 を 表 す 語 彙 に は 如 何 な る も の が あ る
の か 、ま た そ の 中 の プ ラ ス と マ イ ナ ス の 表 現 は ど れ ほ ど あ る
のか、日本語のそれと同じなのか異なるのか、それらの記述
は 女 性 に 対 す る 差 別 が 見 ら れ る か 、な ど は 興 味 深 い 問 題 で あ
る。そこで、本稿では、日中語彙における女性を表すプラス
とマイナス表現の語彙を比較・考察することにする。
3. 研 究 対 象 お よ び 研 究 資 料
語彙研究を行う場合、まず、その研究対象を限定しなけれ
ばならない。本稿の目的は、日中語彙における女性を表すプ
ラ ス と マ イ ナ ス 表 現 の 語 彙 の 比 較 で あ る た め 、そ れ ら の 語 を
集めることは極めて重要である。以下、まず日中語彙におけ
る 女 性 を 表 す 語 彙 に つ い て 説 明 し た の ち 、本 稿 で 取 り 上 げ ら
れる研究資料および調査語の選定を検討する。
3.1 日 中 語 彙 に お け る 女 性 を 表 す 語 彙 に つ い て
日 中 語 彙 に お け る 女 性 を 表 す 語 彙 に は 、如 何 な る も の が あ
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る の か 、 ま た ど れ ほ ど あ る の か に つ い て 、 林 玉 惠 ( 2004) の
調査結果をまとめながら見てみよう。
林 玉 惠( 2 0 0 4 )で は 、日 本 語 で は『 新 明 解 国 語 辞 典 第 五 版 』
( 三 省 堂 1 9 9 7 )、 中 国 語 で は 台 湾 で 出 版 さ れ た 『 新 編 國 語 日
報 辭 典 』( 國 語 日 報 社 2 0 0 0 ) を 用 い 、 日 中 語 彙 に お け る 女 性
を 表 す 語 彙 の 数 と 種 類 を 調 査 し た 。そ の 結 果 、
「家族関係」
「女
性 に 関 す る 名 称 ・ 表 現 」「 女 性 の 職 業 ( 仕 事 )・ 地 位 」「 表 象
( 印 象 ・ イ メ ー ジ ・ 質 感 ・ マ イ ナ ス 表 現 )」「 女 性 を 評 価 す る
語 彙 ( プ ラ ス 表 現 )」「 官 職 制 度 ・ 礼 儀 な ど の 女 性 に 関 す る 語
彙 」「 そ の 他 」 の 7 つ の グ ル ー プ に 分 け ら れ る と い う こ と が
分かった。本稿はその中の「表象(印象・イメージ・質感・
マ イ ナ ス 表 現 )」 と 「 女 性 を 評 価 す る 語 彙 ( プ ラ ス 表 現 )」 を
対 象 に し て 考 察 す る も の で あ る 。 以 下 、『 新 明 解 国 語 辞 典 第
五 版 』 と 『 新 編 國 語 日 報 辭 典 』 は 、 そ れ ぞ れ 『 新 明 解 』『 新
編』と略記する。
この 7 つのグループに属する『新明解』と『新編』の語数
は次の表の通りである。ただし、注意すべきことは、多義語
の場合は、それぞれの項目に入れたため、表で示したのは延
べ語数であり、実際調査した語数とは異なるため、表で示し
た語より下回ることがある。
語数
『新明解』
『新編』
家族関係
121 語
208 語
女性に関する名称・表現
女 性 の 職 業 ( 仕 事 )・ 地 位
表象(印象・イメージ・質感・マイナス表現)
女性を評価する語彙(プラス表現)
官職制度・礼儀などの女性に関する語彙
その他
合計(延べ語数)
69 語
65 語
26 語
34 語
27 語
19 語
361 語
89 語
53 語
25 語
41 語
16 語
15 語
447 語
種類
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3.2 研 究 で 使 用 す る 資 料
語彙研究に際し、語の採録の客観性はまず問われるため、
本稿の調査語は、少し分野を広げ日中の国語辞典・類語辞
典・専門辞典・語彙集・小説などから集めることにした。各
分 野 の 書 籍 を 網 羅 的 に 使 用 す る こ と は 不 可 能 に 近 い た め 、各
分 野 よ り 代 表 と 思 わ れ る も の を 選 び 、語 を 採 録 す る こ と に し
た。ただし、中国語の語彙集は日本語のものと比べ、かなり
不足しているため、台湾で出版された『新編國語日報辭典』
( 國 語 日 報 社 2000) を 使 用 し た ほ か 、 補 足 と し て 女 性 が 主
人公あるいは女性を表す語彙がより多く出てくると思われ
る 10 冊 の 小 説 よ り 語 を 集 め た 。 む ろ ん 本 稿 で 使 用 す る 中 国
語の資料は、量にしても質にしても日本語の資料と比べ、か
な り 開 き が あ る が 、日 中 語 彙 に お け る 女 性 を 表 す プ ラ ス と マ
イ ナ ス 表 現 の 語 彙 を あ る 程 度 、概 観 す る こ と が で き る と 思 わ
れる。
本 稿 で 使 用 す る 資 料 は 次 の 通 り で あ る 。調 査 資 料 は 比 較 の
便 宜 上 、 中 国 語 で 書 か れ た も の は 、 繁 体 字 3と 簡 体 字 4と に か
かわらず、すべて繁体字を用いることにする。集めた語もす
べて繁体字を使用する。なお、調査資料は以下で示したよう
に、日本語資料と中国語資料に分けて羅列した。日本語資料
は 編 者 の 五 十 音 順 、中 国 語 資 料 は 著 者 の 漢 字 音 の 音 読 み 順 に
よって配列した。
日本語資料
池 原 悟 他 1997『 日 本 語 語 彙 大 系 』 東 京 : 岩 波 書 店
遠 藤 織 枝 1 9 8 0 「 女 性 を 表 わ す こ と ば 」『 こ と ば 』 1 東 京 : 現
代 日 本 語 研 究 会 pp.19-54
3
繁体字は漢字を略さないものをいう。
簡体字とは旧来正字体いわゆる繁体字に対し、画数を減らして簡単
にしたもの
である。
4
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大 野 晋・浜 西 正 人 1 9 8 1『 角 川 類 語 新 辞 典 』東 京:角 川 書 店( 1 9 8 5
年 は 『 類 語 国 語 辞 典 』)
国 立 国 語 研 究 所 1964『 分 類 語 彙 表 』 東 京 : 秀 英 出 版
国 立 国 語 研 究 所 2 0 0 4『 分 類 語 彙 表 ― 増 補 改 訂 版 』 東 京 : 大 日
本図書株式会社
佐 々 木 瑞 枝 2000『 女 と 男 の 日 本 語 辞 典 上 巻 』東 京:東 京 堂 出 版
佐 々 木 瑞 枝 2003『 女 と 男 の 日 本 語 辞 典 下 巻 』東 京:東 京 堂 出 版
小 学 館 辞 典 編 集 部 編 1994『 使 い 方 の 分 か る 類 語 例 解 辞 典 』
東京:小学館
長 野 伸 江 2 0 0 5 『 賞 賛 語 ( ほ め こ と ば )・ 罵 倒 語 ( け な し こ と
ば)辞典』東京:小学館
山 田 忠 雄 他 編 1997『 新 明 解 国 語 辞 典 第 五 版 』 東 京 : 三 省 堂
中国語資料
朱 天 心 1997『 古 都 』 台 北 : 麥 田 出 版
國語日報出版中心主編 2000『新編國語日報辭典』台北:國語日報社
蕭 麗 紅 1981『 千 江 有 水 千 江 月 』 台 北 : 聯 經 出 版 事 業 公 司
蕭 颯 1988『 走 過 從 前 』 台 北 : 九 歌 出 版 社 有 限 公 司
李 昂 1983『 殺 夫 』 台 北 : 聯 經 出 版 事 業 公 司
廖 輝 英 1983『 不 歸 路 』 台 北 : 聯 經 出 版 事 業 公 司
梅 家 駒・ 竺 一 鳴・ 高 蘊 琦・殷 鴻 翔 編 1 9 8 3『 同 義 詞 詞 林 』上 海 :
上海辭書出版社
平 路 2000『 凝 脂 温 泉 』 台 北 : 聯 經 出 版 事 業 公 司
施叔青 1997『寂寞雲園―香港三部曲之三』台北:洪範書店有限公司
蘇 偉 貞 1983『 世 間 女 子 』 台 北 : 聯 經 出 版 事 業 公 司
楊 小 雲 2003『 禁 地 愛 情 』 台 北 : 九 歌 出 版 社 有 限 公 司
袁 瓊 瓊 1981『 自 己 的 天 空 』 台 北 : 洪 範 書 店 有 限 公 司
3.3 調 査 語 の 選 定
語 彙 調 査 お よ び 語 の 意 味 分 析 に 際 し 、対 象 と な る 語 の 選 定
は重要なことである。特に語彙研究を個人で行う場合、膨大
な 語 よ り 調 査 目 的 に 合 せ て 語 を 限 定 す る 必 要 が あ る 。本 稿 は
日中語彙における女性を表すプラスとマイナス表現の語彙
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の 類 似 点 と 相 違 点 を 論 じ る も の で あ り 、如 何 に し て プ ラ ス と
マイナス表現の語彙を選び出すかは最も重要なことである。
本 稿 で の プ ラ ス と マ イ ナ ス 表 現 の 判 断 基 準 は 、社 会 一 般 に
お け る そ の 語 の も つ イ メ ー ジ の 受 け 止 め 方 と 、日 中 両 言 語 の
辞 書 の 記 述 に 従 う 。語 の も つ イ メ ー ジ の 受 け 止 め 方 に つ い て 、
遠 藤 織 枝 ( 1 9 8 0 ) が 11 0 名 の 男 女 を 対 象 に イ メ ー ジ 調 査 を 行
った結果を参考にした。遠藤のこの調査によれば、女性を表
す プ ラ ス 評 価 の 語 は 17 語 が あ り 、 マ イ ナ ス 評 価 の 語 は 29 語
が あ る 。 そ の う ち の プ ラ ス 評 価 の 17 語 は す べ て 本 稿 の 調 査
語 に 入 れ た が 、 マ イ ナ ス 評 価 の 語 の 「 足 弱 」「 色 女 」「 後 家 」
「 女 囚 」「 出 戻 り 」「 年 増 」「 ホ ス テ ス 」「 や も め 」「 行 き 戻 り 」
は 、現 代 日 本 語 で は 必 ず し も マ イ ナ ス の 評 価 に な ら な い た め 、
こ の 9 語 を 取 り 除 く こ と に し た 。 な お 、「 オ ー ル ド ミ ス 」 の
よ う な 女 性 に 対 す る 差 別 用 語 は 、マ イ ナ ス 表 現 に 入 れ る こ と
にする。
調査語の選定に際し、女性に対する敬称・美称・謙称、例
え ば 、 日 本 語 の 「 愚 妹 」「 尊 夫 人 」「 令 嬢 」 と 、 中 国 語 の “ 令
堂 ”( ご 母 堂 )、“ 舍 妹 ”( 愚 妹 )、“ 愚 妻 ”( 愚 妻 ) の よ う な 語
は 取 り 除 く こ と に す る 。一 方 、よ く 知 ら れ て い る 歴 史・伝 説 ・
童 話 に 現 わ れ る 人 名 、 例 え ば 、「 小 町 」 や “ 西 施 ” 5 の よ う な
語は取り上げることにする。
以 上 の 定 義 と 基 準 に そ っ て 、本 稿 の 調 査 対 象 と な る 語 を 選
んだ。以下のように、最終的には日本語における女性を表す
プ ラ ス 表 現 の 語 は 65 語 、 マ イ ナ ス 表 現 の 語 は 52 語 を 選 定 し
た 。 一 方 、 中 国 語 に お け る 女 性 を 表 す プ ラ ス 表 現 の 語 は 87
語 、 マ イ ナ ス 表 現 の 語 は 37 語 を 選 定 し た 。 中 国 語 の 調 査 語
は 台 湾 で 使 用 す る 意 味 に 準 じ て 分 類 す る 。な お 、語 の 配 列 は 、
日本語は五十音順に従い、中国語は画数順とした。
5
春秋時代越王勾践が呉王夫差に献上した美女。後、一般に代表的美
女 を 指 し た 。“ 西 子 ” と も い う 。
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プラス表現
日本語
愛妻 愛妾 愛嬢 艶妻 奥妻 思い妻 佳人 蛾眉 看板娘 貴婦
人 傾国 閨秀 閨秀画家 閨秀作家 傾城 賢妻 賢女 賢夫人
賢婦人
賢母
恋妻
恋女房
紅一点
小町
才媛
才女
慈母
シャン 淑女 女傑 女丈夫 女流 聖女 節婦 世話女房 善女
た お や め
手弱女 高嶺の花 玉 たわやめ 貞女 貞婦 天女 美姫 美女
美少女
美人
ひ
ぼ
悲母
ビューティー
ビューティークイーン
ふんたい
やさおんな
ヒ ロ イ ン ブ ロ ン ド 粉黛 別 嬪 愛 娘 名 花 優女
大和撫子
尤物 良妻 良妻賢母 麗人 烈女 烈婦 レディー
中国語
一代紅妝 一枝花 二八佳人 九烈三貞 三貞九烈 千金 才女
幗英雄 大家閨秀 小家碧玉 女丈夫 女中魁首 女將 尤物
巾
少艾
天人 天仙 天香國色 玉人 玉女 仙子 仙女 巧婦 安琪兒 西施
好女人 好女孩 好太太 好母親 好妻子 好媳婦 名媛 孝女 孝婦
良家婦女 佳人 佳麗 佼人 芙蓉出水 乖女 乖女兒 美人 美女
美眷 貞女 貞姫 貞節烈女 貞婦 紅袖 紅顏 姝麗 窈窕女子 烈
女 烈 婦 粉 黛 徐 娘 半 老 娥 (蛾 )眉 淑 女 淑 媛 國 色 國 色 天 香
媛 絶色 傾城 傾國 傾城傾國 傾國傾城 掌上明珠 掌中珠 掌珠
貴婦 貴婦人 解語花 節女 節婦閨秀 漂亮女人 蜘蛛美人 賢内
助 賢妻良母 嬌女 嬌妻 嬌娃
嬌娘 聰明女子 麗人 豔婦
マイナス表現
日本語
悪妻
悪女
悪性女
阿婆擦れ
阿婆擦れ女
アプレ娘
あ
ま
阿魔
うまずめ
淫婦 石女 梅干し婆 売れ残り オールドミス お亀 お多福
おにばば
お ひきずり
男女 男嫌い 男狂い 鬼婆 御引摺 かかあ左衛門 かかあ天
か ん ぷ
か ん ぷ
き じ ょ
くそばばあ
しゅうじょ
下 姦婦 悍婦 鬼女 狂女 糞婆 口裂け女 しこめ 醜女 醜婦
ずべ すべた
たぬきばばあ
狸 婆
ば い た
畜生腹 ちんくしゃ 毒婦 どら娘 売女
ばくれん
莫連 蓮っ葉 跳ね(っ)返り バンプ ぶおんな ぶす 不美人
め ろ う
よ う か
よ う き
古女房 女郎 山の神 妖花 妖姫 妖女 妖婦
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中国語
不孝媳婦 母老虎 母夜叉 交際花 老賊婆 老瘋婆子 死婊子 奸婦
花瓶 長舌婦 虎姑婆 狐狸精 風塵女子 臭女人 虔婆 悍婦 淫婦
嫫 嫫 母 (姆 ) 惡 妻 惡 婦 雌 老 虎 管 家 婆 禍 水 賤 人 賤 骨 頭 賤 貨
潑婦 醜八怪 醜丫頭 醜女 蕩婦 蹄子 壞女人 騷娘兒們 騷婦 騷貨
4.日 中 語 彙 に お け る 女 性 を 表 す プ ラ ス と マ イ ナ ス 表 現 の 語 彙
本 節 で は 、 ま ず 、 3.3 で 集 め た 調 査 語 を 量 的 観 点 よ り 検 討
する。単純に数字を見た場合、プラス表現では中国語の語数
は 日 本 語 よ り 多 い が 、マ イ ナ ス 表 現 で は 逆 に 日 本 語 の 語 数 が
多いことがわかった。また、日本語のプラス表現の語数はマ
イ ナ ス 表 現 よ り や や 多 い が 、中 国 語 の プ ラ ス 表 現 の 語 数 は マ
イナス表現より大幅に多いこともわかった。
し か し 、プ ラ ス 表 現 で は 中 国 語 の 語 数 が 日 本 語 よ り 多 い の
は 、 中 国 語 の プ ラ ス 表 現 で は “ 巾 幗 英 雄 ”“ 大 家 閨 秀 ”“ 小 家
碧 玉 ” の よ う な 四 字 熟 語 が 多 い こ と 、“ 九 烈 三 貞 ” と “ 三 貞
九 烈 ”、“ 傾 城 傾 國 ” と “ 傾 國 傾 城 ”、“ 天 香 國 色 ” と “ 國 色 天
香”のような語順が逆転してはいるものの、意味はほぼ同じ
で あ る ペ ア と 、“ 掌 上 明 珠 ”“ 掌 中 珠 ”“ 掌 珠 ” の よ う な 類 義
語 ペ ア な ど が 多 く 含 ま れ る こ と が そ の 理 由 で あ る 。こ れ ら の
語を除外すれば、両言語の語数はさほど差がない。これに対
し て 、中 国 語 の マ イ ナ ス 表 現 は 以 上 の よ う な 現 象 が 見 ら れ な
いため、語数が少ない理由の一つになると思われるが、もと
もとマイナス表現はプラス表現より少ないことも調査語資
料より窺い知ることができる。
次 に 、 3 . 3 で 集 め た 調 査 語 を 意 味 や 特 徴 に よ っ て 、「 4 . 1 家
族 関 係 」「 4 . 2 容 姿 の 美 醜 」「 4 . 3 比 喩 表 現 」「 4 . 4 心 や 振 る 舞 い
関 係 」「 4 . 5 学 芸 に す ぐ れ た 女 性 を 誉 め る 言 葉 、 女 性 を 罵 る こ
と ば 」「 4 . 6 そ の 他 」 の 六 つ に 分 類 し 、 語 数 、 意 味 、 語 種 、 語
構 成 と い う 四 つ の 観 点 か ら 、日 中 語 彙 に お け る 女 性 を 表 す プ
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ラ ス と マ イ ナ ス 表 現 の 語 彙 の 相 違 点 と 類 似 点 を 検 討 す る 。た
だ し 、本 稿 は 4.1~ 4.6 に 属 す る 日 中 語 彙 の 特 徴 を 比 較 ・ 概 観
す る こ と を 目 的 と す る の で 、各 語 に 関 す る 詳 細 な 意 味 分 析 な
どは別稿に譲る。なお、多義語の場合は、その語を囲み線で
示 し た う え で 、そ れ ぞ れ の 項 目 に 入 れ た 。例 え ば 、
“美眷”
(美
人 妻 ) は 、 妻 の 意 味 「 4.1 家 族 関 係 」 に 入 れ る が 、 美 人 の 意
味 で 「 4.2 容 姿 の 美 醜 」 に も 入 れ る こ と に し た 。
4.1 家 族 関 係
「家族関係」に収録される語は、血縁あるいは姻戚関係によ
って家族になるような状態・属性を表すものである。その詳
細は以下の通りである。
愛妻
愛妾
愛嬢
艶妻
奥妻
思い妻
賢妻
日
賢夫
ひ ぼ
プラス
人
賢母
恋妻
娘
良妻
良 妻 賢 母 ( 計 17 語 )
本
語
マイナス
中
プラス
国
語
マイナス
悪妻
恋女房
かかあ左衛門
好太太
好母親
乖女兒
美眷
不孝媳婦
惡妻
慈母
かかあ天下
好妻子
賢内助
世話女房
どら娘
好媳婦
賢妻良母
孝女
悲母
愛
古 女 房( 計 5 語 )
孝婦
乖女
嬌 妻 ( 計 12 語 )
管家婆(計 3 語)
語数から見た「家族関係」の場合、日中語彙ともプラス表
現の語はマイナス表現の語よりずっと多いことがわかった。
そ の 理 由 と し て は 、マ イ ナ ス 表 現 の 語 自 体 は あ る が 今 回 の 調
査では出てこないこと、もともと「家族関係」においてプラ
ス表現が多いことが考えられる。これについて、中国語の場
合 を 考 え て み よ う 。プ ラ ス 表 現 の 語 か ら マ イ ナ ス 表 現 の 語 を
つ く る こ と が で き る の は 、“ 好 太 太 ” を “ 壞 太 太 ”、“ 好 母 親 ”
を“ 壞 母 親 ”、
“ 好 妻 子 ”を“ 壞 妻 子 ”、
“ 好 媳 婦 ”を“ 壞 媳 婦 ”、
“孝女”を“不孝女”のペアである。これらの語をマイナス
表現に入れても、プラス表現の語より少ないのである。日本
語でも同じことが言える。そうすると、やはり「家族関係」
では日中語彙ともプラス表現の語はマイナス表現の語より
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多いというの結論が得られる。
意 味 か ら 見 た こ れ ら の 語 の 最 大 の 特 徴 は 、そ の 多 く は 女 性
の 家 庭 に お い て の 役 割 か ら 生 ま れ た 語 で 、特 に 夫 と 子 供 に 対
するものが目立つ。例えば、日本語では夫の立場から見てよ
い 妻 の 場 合 、「 賢 妻 」「 世 話 女 房 」「 良 妻 」 な ど が あ る 。 中 国
語 で は “ 好 太 太 ”“ 好 妻 子 ”“ 賢 助 ” な ど が あ る 。 一 方 、 日 本
語 で は 夫 の 立 場 か ら 見 て わ る い 妻 の 場 合 、「 悪 妻 」「 古 女 房 」
がある。中国語では“惡妻”がある。また、日本語では子供
か ら 見 て よ い 母 の 場 合 、「 賢 母 」「 慈 母 」 な ど が あ る 。 中 国 語
では“好母親”がある。そのほか、可愛がられている、ある
い は よ い 娘 を 表 す 日 中 語 彙 も 見 ら れ る 。例 え ば 、日 本 語 の「 愛
嬢 」「 愛 娘 」 と 中 国 語 の “ 乖 女 ”“ 乖 女 兒 ” な ど で あ る 。 そ し
て 、今 回 の 調 査 で は 日 本 語 に は な い が 、中 国 語 で は“ 好 媳 婦 ”
と“不孝媳婦”のような嫁に関する語もある。
語 種 か ら い う と 、「 家 族 関 係 」 に 属 す る 日 本 語 は 漢 語 が 圧
倒的に多い。その次は和語と混種語であり、外来語は見られ
ない。そして、中国語も同様に外来語が見られない。
語構成の観点から見た「家族関係」の特徴であるが、日中
語彙ともプラス表現あるいはマイナス表現の形容詞を付け
加えることによって、語をつくることが一般的である。例え
ば 、 日 本 語 で は 「 愛 」「 賢 」「 良 」 を 使 っ て 、「 愛 妻 」「 賢 母 」
「 良 妻 」な ど の 語 が つ く ら れ る 。一 方 、中 国 語 で は“ 好 ”
(よ
い )、“ 乖 ”( お と な し い )、“ 賢 ”( 賢 い ・ よ い ) を 使 っ て 、“ 好
母 親 ”“ 乖 女 兒 ”“ 賢 内 助 ” な ど の 語 が つ く ら れ る 。
4.2 容 姿 の 美 醜
「容姿の美醜」に収録される語は、主として女性の顔かたち
や姿など、容姿の美醜に関するものであるが、比喩表現で女
性の容姿の美醜を表す語もこの項目に入れた。なお、よく知
られている歴史・伝説・童話に現われる女性(美人)の名前
も収録することにした。その詳細は以下のようである。
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日
佳人
蛾眉
看板娘
天女
美姫
美女
傾国
傾城
美少女
美人
プラス
小町
シャン
玉
ビューティー
ビ
ふんたい
ューティークイーン
本
ブロンド
粉黛
別嬪
名花
麗 人 ( 計 21 語 )
尤物
語
しゅうじょ
梅干し婆
お亀
お多福
マイナス
たぶおんな
中
プラス
二八佳人
香國色
玉人
人
佳麗
国
紅顏
姝麗
語
天香
媛
解語花
マイナス
嫫
粉黛
絶色
醜婦
すべ
尤物
天人
天仙
天
西施
佳
仙子
仙女
安琪兒
芙蓉出水
美人
美女
美眷
紅袖
娥 (蛾 )眉
國色
國色
傾城傾國
傾國傾城
徐娘半老
傾城
漂亮女人
嫫 母 (姆 )
小家碧玉
玉女
佼人
醜 女
不 美 人 ( 計 10 語 )
ぶす
一枝花
しこめ
傾國
蜘蛛美人
醜八怪
嬌娃
醜丫頭
麗人
豔 婦( 計 4 0 語 )
醜女(計 5 語)
本稿での調査語のうち、語数が最も多いものは、この「容
姿の美醜」の語である。また、日中語彙ともプラス表現の語
は マ イ ナ ス 表 現 の 語 よ り ず っ と 多 い こ と が わ か っ た 。特 に 中
国 語 の ほ う は 40 語 も あ る た め 、 中 国 語 語 彙 の プ ラ ス 表 現 の
半分を占めることになる。これは、どの言語も女性の顔や外
見 を 評 価 し や す い た め 、こ の 分 野 の 語 が 当 然 多 く な る と 考 え
られる。しかし、プラス表現の語と比べると、マイナス表現
の 語 は 、日 中 語 彙 と も 語 数 は そ ん な に 多 く な い こ と に 気 が つ
く。要するに美しい女性は様々なことばで賞美されるため、
プラス表現の語も豊富になるのだと考えられる。
「容姿の美醜」は、日中語彙における女性を表すプラス表現
において、語数が多いだけでなく、種類も豊富である。その
表す意味の特徴として、まず、日中語彙とも「美」という語
を 用 い て 女 性 の 美 し さ を 評 価 す る こ と が 挙 げ ら れ る 。例 え ば 、
「 美 女 」「 美 少 女 」「 美 人 」 や “ 美 人 ”“ 美 女 ” な ど で あ る 。
次に、日中語彙とも比喩表現を用いて女性を評価する。例え
ば 、「 蛾 眉 」「 傾 国 」「 傾 城 」 や “ 蛾 眉 ”“ 傾 城 ”“ 傾 國 ” な ど
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である。そして、日中語彙とも歴史・伝説・童話に現われる
美人の名前を用いて、女性を評価することも挙げられる。例
え ば 、「 小 町 」“ 西 施 ” な ど で あ る 。 さ ら に 、 日 中 語 彙 と も 外
来 語 を 用 い て 、 女 性 を 評 価 す る 。 例 え ば 、「 シ ャ ン 」「 ビ ュ ー
テ ィ ー 」「 ブ ロ ン ド 」 や “ 安 琪 兒 ” な ど で あ る 。
注 意 す べ き こ と は 、「 容 姿 の 美 醜 」 は 日 中 語 彙 に お け る 女
性 を 表 す マ イ ナ ス 表 現 に お い て 、語 数 に し て も 種 類 に し て も 、
プ ラ ス 表 現 よ り ず っ と 少 な い と い う こ と で あ る 。今 回 の 調 査
語 に 限 っ て 見 た 場 合 、中 国 語 で は“ 醜 八 怪 ”
“醜丫頭”
“醜女”
と い う 3 つ の 語 し か 見 ら れ な い 。 こ の よ う に 、「 醜 」 を 用 い
て女性の醜さを評価する語は、日本語にもある。例えば、
しゅうじょ
「 醜 女 」「 醜 婦 」 な ど で あ る 。 そ の ほ か 、 日 本 語 で は 和 語 の
「 お 亀 」「 お 多 福 」「 し こ め 」 な ど を 用 い て 、 女 性 の 醜 さ を 表
す例もあるため、中国語より種類がやや多く見られる。上述
し た よ う に 、「 容 姿 の 美 醜 」 で は 、 女 性 を マ イ ナ ス 評 価 す る
語 が 日 中 語 彙 と も 少 な い の は 、女 性 を ほ め る こ と が 女 性 を け
なすことよりも重要視されているためではないかと思われる。
語 種 か ら い う と 、「 容 姿 の 美 醜 」 に 属 す る 日 本 語 は 漢 語 が
最も多いが、和語、外来語、混種語とも見られる。一方、中
国 語 で も “ 安 琪 兒 ”( a n g e l ) と い う 英 語 の 訳 語 が あ る 。
語構成の観点から見た「容姿の美醜」の特徴であるが、ま
ず 、日 中 語 彙 と も プ ラ ス 表 現 あ る い は マ イ ナ ス 表 現 の 形 容 詞
を 付 け 加 え る こ と に よ っ て 、語 を つ く る こ と が 一 般 的 で あ る
こ と が 挙 げ ら れ る 。 例 え ば 、 上 述 し た 「 美 ( し い )」 や 「 醜
( い )」 を 用 い る 場 合 で あ る 。 そ し て 、 中 国 語 で は “ 國 色 天
香 ”“ 傾 城 傾 國 ”“ 傾 國 傾 城 ”“ 漂 亮 女 人 ”“ 蜘 蛛 美 人 ” の よ う
な二次複合語も少なくない。
4.3 比 喩 表 現
「比喩表現」に収録される語は、他の項目と異なった特徴が
あり、単純に女性を表す語彙ではなく、昆虫・動物などをイ
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メ ー ジ し て 女 性 を 例 え る も の や 、色 で 女 性 を 表 現 す る も の に
関 す る も の で あ る 。本 稿 で は 一 括 し て 比 喩 表 現 と 呼 ぶ こ と に
する。その詳細は以下の通りである。
ふんたい
蛾眉
プラス
日
傾国
傾城
紅一点
高嶺の花
粉黛
大和撫子(計 8 語)
うまずめ
本
石女
語
マイナス
名花
梅干し婆
ひきずり
きじょ
引摺
鬼女
売れ残り
お亀
お多福
おにばば
お
鬼婆
御
たぬきばばあ
口裂け女
狸
婆
ちんくしゃ
蓮っ葉
ようか
跳ね(っ)返り
一枝花
中
プラス
国
マイナス
少艾
天人
天仙
仙子
紅袖
粉黛
徐娘半老
兒
西施
芙蓉出水
眉
傾城
傾國
中珠
語
千金
母老虎
掌珠
狸精 雌老虎
傾城傾國
蜘蛛美人
母夜叉
妖 花 ( 計 15 語 )
山の神
交際花
禍水
傾國傾城
仙女
安琪
娥 (蛾 )
掌上明珠
掌
解 語 花 ( 計 23 語 )
花瓶
長舌婦
虎姑婆
狐
醜 八 怪 ( 計 10 語 )
語数から見た「比喩表現」の場合、プラス表現では、中国
語のほうが日本語より多く見られるが、マイナス表現では、
日 本 語 の ほ う が 中 国 語 よ り 多 い こ と が わ か っ た 。注 意 す べ き
こ と は 、中 国 語 の プ ラ ス 表 現 の 語 が 日 本 語 に 比 べ て 多 く 見 ら
れ る 原 因 の 一 つ は 、 中 国 語 で は “ 傾 城 傾 國 ”“ 傾 國 傾 城 ”“ 掌
上 明 珠 ”“ 掌 中 珠 ”“ 掌 珠 ” の よ う な 類 似 表 現 が 多 い た め と 考
えられるが、これらの語を除いてみても、中国語のほうはや
はり日本語より多いということである。一方、マイナス表現
で は 日 本 語 の 「 比 喩 表 現 」 の 語 は 計 16 語 が あ り 、 中 国 語 の
ほ う は 計 10 語 が あ る こ と に 注 目 し た い 。 比 率 に 変 え て 言 え
ば 、そ れ ぞ れ マ イ ナ ス 表 現 の 語 の 四 分 の 一 と 三 分 の 一 に な る 。
これは、日中語彙とも「比喩」という婉曲な言い方で女性を
けなすことが多いためであろう。
意味より見た「比喩表現」の場合、この項目の語の最大の
特徴は、プラス表現にしても、マイナス表現しても、日中語
彙とも植物の「花」を用いて、女性を表現することである。
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例 え ば 、 プ ラ ス 表 現 に お い て 、 日 本 語 で は 「 高 嶺 の 花 」「 名
花 」「 大 和 撫 子 」 が あ り 、 中 国 語 で は 、“ 一 枝 花 ”( 女 が 4 0 歳
に な る と 花 に よ う に 美 し い こ と の た と え )、“ 芙 蓉 出 水 ”( 開
い た ば か り の ハ ス の 花 。 初 々 し い 美 し さ に た と え る )、 な ど
が見られる。マイナス表現において、日本語では「妖花」が
あ り 、 中 国 語 で は “ 交 際 花 ”( 社 交 界 の 花 ) の よ う な 語 が 見
られる。しかし、動物の比喩に関しては、日中語彙には相違
が 見 ら れ る 。 例 え ば 、 中 国 語 で は よ く “ 母 老 虎 ”( 雌 の 虎 )
や “ 狐 狸 精 ”( 伝 説 の 中 の 狐 の お 化 け ) を 用 い る が 、 日 本 語
で は 「 狸 婆 」「 ち ん く し ゃ 」( 犬 ) な ど を 使 用 し 、 女 性 を 表 現
す る 。 そ し て 、 動 物 で 女 性 を た と え る 場 合 、「 蛾 眉 」“ 蛾 眉 ”
“蜘蛛美人”以外は女性をけなす語である。また、日中語彙
とも「赤」という色で女性を評価することも見られる。例え
ば 、 日 本 語 の 「 紅 一 点 」 と 中 国 語 の “ 紅 袖 ”( 女 性 の 赤 い 袖
で美人をたとえる)である。
語 種 か ら い う と 、「 比 喩 表 現 」 に 属 す る 日 本 語 は 和 語 が 最 も 多
く 、そ の 次 は 漢 語 で あ る 。外 来 語 と 混 種 語 は 、と も に 見 ら れ な い 。
一 方 、 中 国 語 で は “ 安 琪 兒 ”( angel) と い う 英 語 の 訳 語 が あ る 。
語構成の観点から見た「比喩表現」の特徴であるが、日中
語 彙 と も プ ラ ス 表 現 と マ イ ナ ス 表 現 に お い て 、「 梅 干 し 婆 」
「 口 裂 け 女 」“ 傾 城 傾 國 ”“ 蜘 蛛 美 人 ” の よ う な 二 次 複 合 語
が見られることが挙げられる。
4.4 心 や 振 る 舞 い 関 係
「 心 や 振 る 舞 い 関 係 」に 収 録 さ れ る 語 は 、女 性 の 品 位 や 貞 操 や
振 る 舞 い に 関 す る も の で あ る 。な お 、女 性 の 上 品 さ や 優 し さ を
表す語も収録することにする。その詳細は以下の通りである。
た お や め
日
貴婦人
賢女
賢婦人
淑女
聖女
節婦
善女 手弱女
やさおんな
本
語
プラス
たわやめ
貞女
貞婦
( 計 15 語 )
284
優 女
烈女
烈婦
レディー
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悪女
悪性女
阿婆擦れ
マイナス
っ葉
バンプ
九烈三貞
中
プラス
好妻子
貞姫
国
マイナス
奸婦
娘兒們
妖姫
妖女
三貞九烈
淫婦
毒婦
蓮
名媛
孝女
貞節烈女
貞婦
烈女
好女孩
好太太
孝婦
良家婦女
好母親
貞女
烈婦
淑女
淑媛
蕩婦
潑婦
壞女人
貴婦
節 婦 ( 計 24 語 )
風塵女子
騷婦
妖 婦 ( 計 11 語 )
好女人
好媳婦
貴婦人節女
語
阿婆擦れ女
ようき
淫婦
惡婦
騷
騷 貨 ( 計 10 語 )
語数から見た「心や振る舞い関係」の場合、プラス表現で
は一見、中国語の語数は日本語より多く見られるが、これは
中国語では“好”という接頭語によって 6 語増えているため
である。この 6 語を取り除くと、日中語彙の語数はあまり変
わらない。そして、マイナス表現では日本語と中国語の語数
は ほ ぼ 同 じ で あ る 。「 心 や 振 る 舞 い 関 係 」 に お い て 、 プ ラ ス
と マ イ ナ ス 表 現 と も 、日 中 両 言 語 の 語 数 は ほ ぼ 同 じ と い う こ
とがわかった。そして、日中両言語ともプラス表現の語がマ
イナス表現の語より語数・種類とも多いことがわかった。
意味より見た「心や振る舞い関係」の場合、日本語と中国
語 と 同 表 現 の 語 も 多 く 見 ら れ る 。例 え ば 、
「 淑 女 」と“ 淑 女 ”、
「 烈 女 」 と “ 烈 女 ”、「 烈 婦 」 と “ 烈 婦 ” な ど で あ る 。
語種からいうと、日本語では漢語が最も多い。その次は和
語である。混種語と外来語も見られる。一方、中国語では外
国語の訳語が見られない。
語構成より見た「心や振る舞い関係」の語の特徴は、これ
ら の 語 は 修 飾 語 を 用 い て 、女 性 の 心 や 行 い の 良 さ と 悪 さ を 表
す こ と が 挙 げ ら れ る 。 例 え ば 、 日 本 語 で は 「 賢 」「 淑 」「 貞 」
「烈」
「 悪 」な ど の 修 飾 語 を 用 い 、中 国 語 で は“ 好 ”
“貞”
“烈”
“ 淑 ”“ 節 ”“ 悪 ” な ど を 使 用 す る 。
4.5 学 芸 に す ぐ れ た 女 性 を 誉 め る 言 葉 、 女 性 を 罵 る こ と ば
「学芸にすぐれた女性を誉める言葉、女性を罵ることば」に
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収 録 さ れ る 語 は 、プ ラ ス 表 現 で は 学 芸 に す ぐ れ た 女 性 や 才 能
の あ る 女 性 に 対 す る ほ め こ と ば で 、マ イ ナ ス 表 現 で は 女 性 を
罵ることばである。その詳細は以下のようである。
日
プラス
閨秀
あ ま
くそばばあ
マイナス
阿魔
糞 婆
本
語
中
プラス
国
語
マイナス
閨秀画家
閨秀作家
畜生腹
才媛
才女
女流(計 6 語)
ばいた
めろう
売女
女郎(計 5 語)
才女(計 1 語)
老賊婆
頭
老瘋婆子
賤貨
蹄子
死婊子
騷娘兒們
臭女人
騷婦
虔婆
賤人
賤骨
騷 貨 ( 計 12 語 )
語数より見た「学芸にすぐれた女性を誉める言葉、女性を
罵ることば」の場合、プラス表現では日本語のほうが中国語
よ り 多 く 見 ら れ る が 、マ イ ナ ス 表 現 で は 中 国 語 の ほ う が 日 本
語より多く見られる。
意味から見れば、その特徴は学芸にすぐれた女性では、日
本 語 の 語 数 と 種 類 は 中 国 語 よ り 豊 富 で あ る が 、女 性 を 罵 る こ と
ば で は 、中 国 語 の 語 数 と 種 類 は 日 本 語 よ り 豊 富 で あ る こ と が わ
か っ た 。中 国 語 に お い て 女 性 を 罵 る こ と ば が 多 い の は 、女 性 に
対する不満はことばに反映されることが多いと思われるから
で あ る 。罵 る こ と ば に 関 し て は 、中 国 語 の 語 数 が 多 い だ け で な
く、女性を罵る程度は日本語よりひどいこともわかった。
語種からいうと、日本語では漢語が最も多い。その次は和
語 で あ る 。混 種 語 も 見 ら れ る が 、外 来 語 は 見 ら れ な い 。一 方 、
中国語では外国語の訳語が見られない。
語構成より見る「学芸にすぐれた女性を誉める言葉、女性
を 罵 る こ と ば 」の 語 の 特 徴 は 、こ れ ら の 語 は 修 飾 語 を 用 い て 、
二次複合語をつくり、女性をほめるあるいは罵る点にある。
例 え ば 、 日 本 語 で は 「 閨 秀 」 と い う 修 飾 語 を 用 い て 、「 閨 秀
画家」と「閨秀作家」という二次複合語をつくる。一方、中
国 語 で は “ 老 ” を 用 い て 、“ 老 賊 婆 ” と “ 老 瘋 婆 子 ” と い う
二次複合語をつくる。
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4.6 そ の 他
4.1~ 4.5 に 分 類 で き な い も の を こ の 項 目 に 入 れ た 。 そ の 詳
細は以下のようである。
日
プラス
女傑
ヒロイン(計 3 語)
女丈夫
かんぷ
本
語
アプレ娘
マイナス
プラス
国
語
かんぷ
悍婦
中
男女
男嫌い
男狂い
姦婦
女中魁首
女將
ばくれん
狂女
一代紅妝
巧婦
マイナス
オールドミス
莫 連 ( 計 10 語 )
ずべ
巾幗英雄
窈窕女子
閨秀
大家閨秀
聰明女子
女丈夫
嬌女
嬌 娘( 計 12 語 )
悍婦(計 1 語)
こ れ ら の 語 の 種 類 は 様 々 で あ る 。例 え ば 、
「 オ ー ル ド ミ ス 」の
よ う に 年 齢 で 女 性 を 表 す 語 が 見 ら れ る 。 そ し て 、「 女 傑 」「 女 丈
夫 」「 ヒ ロ イ ン 」“ 巾 幗 英 雄 ”“ 女 丈 夫 ”“ 女 中 魁 首 ”“ 女 將 ”な ど
女 性 の 能 力 を 評 価 す る 語 も あ る 。さ ら に 、
「男女」
「男嫌い」
「男
狂い」のように、対男性の視点より女性を表現する語もある。
5. お わ り に
以上、国語辞典・類語辞典・専門辞典・語彙集・小説など
を 調 査 資 料 と し 、日 中 語 彙 に お け る 女 性 を 表 す プ ラ ス と マ イ
ナ ス 表 現 の 語 彙 を 調 査 し 、さ ら に 意 味 の 特 徴 に よ っ て そ れ ぞ
れを分類した。結果として、一つに日本語における女性を表
す 語 彙 で は 、プ ラ ス 表 現 の 語 数 は マ イ ナ ス 表 現 の 語 数 よ り や
や多く見られるが、中国語における女性を表す語彙では、プ
ラ ス 表 現 の 語 数 は マ イ ナ ス 表 現 よ り ず っ と 多 い こ と 、二 つ に
日 中 語 彙 と も 、 各 分 類 の 内 、「 4 . 2 容 姿 の 美 醜 」 に 分 類 さ れ た
語 が 最 も 多 い こ と 、三 つ に 中 国 語 の マ イ ナ ス 表 現 の 語 は 少 な
く、そのうち女性を罵ることばが多く見られること、四つ目
に 漢 語 が 多 く あ る た め 、日 中 語 彙 に お け る 女 性 を 表 す プ ラ ス
とマイナス表現の語彙の同表現や同形語も少なくないこと
が分かった。
し か し 、調 査 対 象 と し た 日 中 語 彙 に は 女 性 を 表 す プ ラ ス 表
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現 と マ イ ナ ス 表 現 の 語 彙 が 数 多 く あ る た め 、今 回 は 調 査 語 の
収集、およびその意味分類と特徴の概観にとどまり、日中語
の 詳 細 な 比 較 は で き な か っ た 。今 後 は 日 中 語 彙 に お け る 女 性
を表すプラスとマイナス表現の同表現と異表現について考
察 し た い 。 例 え ば 、 同 表 現 で は 「 賢 母 」 と “ 好 母 親 ”、「 良 妻
賢 母 」 と “ 賢 妻 良 母 ”、「 ぶ お ん な 」「 ぶ す 」「 不 美 人 」 と “ 醜
女 ”な ど の 語 の 比 較 で あ る 。な お 、同 表 現 で は「 蛾 眉 」と“ 蛾
眉 ”、「 閨 秀 」 と “ 閨 秀 ”、「 美 人 」 と “ 美 人 ” の よ う な 同 形 語
も 少 な く な い の で 、こ れ ら の 語 の 考 察 も 今 後 の 課 題 と し た い 。
異 表 現 で は 主 と し て 、動 物 を イ メ ー ジ し て 女 性 を た と え る 語
の比較である。例えば、マイナス表現において、日本語では
「狸」を用いて女性を表すが、中国語では「雌の虎」を使用
する、といったことである。そして、女性を罵ることばや軽
視 ま た は 蔑 視 し た 差 別 表 現 も あ わ せ て 考 察 し た い 。以 上 の よ
うに、意味特徴の考察をするほか、品詞分類の観点も加わっ
て考察したい。さらに、男性を表す語彙との比較も行い、そ
れによって女性を表す語彙と表現の特徴を浮かび上がらせ
たいと考えている。
参考文献
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まで』東京:三省堂
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―新 聞 の 人 物 紹 介 と 雑 誌 広 告 の 欄 か ら 」
『 日 本 語 学 』5 臨
時 増 刊 号 vol.12 東 京 : 明 治 書 院 pp.193-205
遠 藤 織 枝 2 0 0 1「 2 2 章 日 本 語 辞 書 の 中 の 女 性 は ど う 変 わ っ た
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か 」遠 藤 織 枝 編『 女 と こ と ば ― 女 は 変 わ っ た か 日 本 語 は
変 わ っ た か 』 東 京 : 明 石 書 店 pp.241-252
坂 入 啓 子 1981「 辞 書 に み る 女 性 ~ 国 語 辞 典 共 同 研 究 比 喩 的
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本 郷 明 美 1981「 辞 書 に み る 女 性 ~ 国 語 辞 典 共 同 研 究 国 語 辞
典 の 用 例 に 現 れ る 「 男 を 表 わ す こ と ば 」「 女 を 表 わ す こ
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山 田 小 枝 1 9 9 8 「 辞 書 表 現 に 見 ら れ る 女 性 」『 千 葉 大 学 人 文 研
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究」田島毓堂・金直洙・申玟澈編『国際シンポジウム比
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常 敬 宇 2 0 0 0『 漢 語 詞 彙 與 文 化 』台 北 : 文 橋 出 版 社( 原 出 版 者 :
北京大學出版社)
胡 澎 2 0 0 2「 從 “ 賢 妻 良 母 ” 到 “ 新 女 性 ” 」『 日 本 學 刊 』 第 6 期 中
国 : pp.133-147
付記
本稿は行政院国家科学委員会研究補助金による研究成果
の 一 部 と し て ま と め た も の で あ る 。 計 画 案 の 番 号 は
N S C 9 4 - 2 4 11 - H - 1 3 0 - 0 0 7 - で あ る 。こ こ に 記 し て 感 謝 申 し 上 げ る 。
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