Ⅲ ネットワークシステムやソフトウェアに関する基礎的 研究

Ⅲ
1
ネットワークシステムやソフトウェアに関する基礎的
研究
ネットワークシステムに関する基礎的な学習
(1) ネットワークシステムの概要
ネットワークシステムとは,複数のコンピュータやプリンタ等をケーブルなどで接続し,
コンピュータ同士がデータや情報を交換しながら通信を行うコンピュータネットワークシス
テムが基本となっている。
コンピュータネットワークシステム( 以下,
「ネットワーク」という。)の概要は,図Ⅲ-1
のようになっている。
図Ⅲ-1
コンピュータネットワークシステム
インターネット
パソコンA
パソコンB
パソコンC
プリンタ
独立したコンピュータの利用形態であるスタンドアロンに比べて,ネットワークには
次のような利点がある。
①
データや情報を共有できる。
②
ハードウェア(プリンタ,記憶媒体等)やソフトウェアを共有できる。
③
インターネット接続などにより,最新情報を入手しやすい。
今日のネットワークは,限られた比較的狭い範囲で構築されたローカルエリアネットワー
ク(Local Area Network)(以下 ,「LAN」という 。)の技術が基盤となっている。コンピュー
タを区別する識別番号である「IPアドレス (Internet Protocol Address)」,それをわかりやす
い文字に置き換えた「ドメイン名 」,コンピュータ同士が通信する上での約束事である「プ
ロトコル」等を使い,それぞれのLANをインターネットに接続することができる。
特にインターネットで標準的に使用するプロトコルである「 TCP/IP(Transmission Control
Protocol/Internet Protocol)」の普及により,ネットワーク環境は飛躍的に発展している。
Ⅲ- 1
ネットワークの形態は,接続された複数のコンピュータの相互関係により ,「ピアツーピ
ア型」ネットワークと「クライアントサーバ型」ネットワークに分類される。
「ピアツーピア型」ネットワークは,図Ⅲ-2のようにコンピュータ同士が対等の関係に
あり,小規模なLAN接続に使用されることが多い。
「クライアントサーバ型」ネットワークは,図Ⅲ-3のようにサーバ(サービスを提供す
るコンピュータ)とクライアント(サーバからのサービス利用するコンピュータ)に区別し
た関係にあり,役割を分担することにより効率的なネットワークを形成できる。
現在では,「クライアントサーバ型」ネットワークが一般的である。
図Ⅲ-2 ピアツーピア型
図Ⅲ-3
クライアントサーバ型
サーバ
対 等
パソコンA
パソコンC
クライアント
パソコンB
パソコンB
パソコンA
サーバの主な種類と役割をまとめると表Ⅲ-1のようになる。
表Ⅲ-1
サーバの主な種類と役割
サーバの種類
ファイルサーバ
サ
ー
バ
の
役
割
クライアントがファイル等を共有できるように,プログ
ラムやデータのファイルを提供する。
DNS(Domain Name System)
サーバ
Webサーバ
(WWWサーバ)
ドメイン名をIPアドレスに変換するサービスを提供す
る。
Webページと呼ばれる,HTML文書や画像などの情報を蓄
積し,クライアントからの要求に応じて,これらの情報を
提供する。
データベースサーバ
共有データとしてのデータベースを管理・蓄積し,クラ
イアントからの要求に応じて,これらの情報を提供する。
プリンタサーバ
クライアントからの印刷要求に応じて,プリンタを共有
するサービスを提供する。
メールサーバ
電子メールの送受信を行うためのサービスを提供する。
(2) ネットワークシステムに関する科目での取扱い
ネットワークシステムに関する基礎的な学習の指導例として,科目「実習」の単元「総合
実習」のネットワーク実習として「 ネットワークの基礎」を取り扱う。
(表Ⅱ-5
習」の年間指導計画例参照)
Ⅲ- 2
科目「 実
指導に当たっては,通信プロトコルなどの具体的な事例を取り上げ,通信技術に関する基
礎的な知識と技術を習得させることが大切である。
実習に関連した科目「ハードウェア技術」の単元「通信技術」では,ネットワーク技術及
びネットワークシステムの設計について取り扱い,LANに関する内容が取り上げられている。
実習と連携を深め,理論的な内容についての基礎・基本の習得に努める必要がある。
この実習は,コンピュータネットワークシステム及びソフトウェアの概要を理解し,LAN
ケーブルの製作や,ピアツーピアによるコンピュータの接続等の実際的な作業を通して,実
践的な知識と技術を習得させることをねらいとする。
(3) ネットワークの基礎的な学習内容
コンピュータを利用したネットワークに関する知識や技術を習得し,実際に活用する能力
と態度を育てるためには,ネットワークの全体像を捉え,その役割,データ通信,要素技術,
構築,運用管理などに関する基礎的な知識や技術を学習する必要がある。
今日の高度情報通信社会を支えるネットワークは,会社,学校,家庭等にいたるまで普及
し,身近な情報通信ネットワークに関する関連機器(ハードウェア)について理解するとと
もに,ネットワークに関する基本的な知識の理解が求められている。
このため,専門科目の中でネットワークに関する基礎・基本を学習するとともに,基礎的
なネットワークの構築などの実習を通して,問題解決能力を養い,実践力を高めることが大
切である。
ネットワークの基礎的な学習項目と内容を整理すると次の表Ⅲ-2のようになる。
表Ⅲ-2
学
習
項
目
①ネットワークの基礎
ネットワークの学習項目と内容
内
容
関
連
用
語
ネットワークの役割
スタンドアロン
ネットワークの形態
ピアツーピア型,クライアントサーバ型
ネットワークの要素
LANケーブル,ネットワークカード
ハブ
プロトコル等
OSI参照モデル,TCP/IP,IPアドレス
MACアドレス,サブネットマスク
②ネットワークの構築
・運用
ネットワークの分析
アドレスマップ,サーバの構築
ネットワークの設計
サービスのインストール
ネットワークの構築
ユーザの登録,アクセス権の設定
ネットワークの運用
ウィルス対策
管理
①
ネットワークの基礎
コンピュータを利用したネットワークを生徒に指導する際に ,「なぜネットワークにす
るのか」という視点で,ネットワークの役割等を指導することが大切である。スタンドア
ロンのコンピュータと比較し ,「情報の共有 」,「機器(プリンタ等)の共有 」,「データ転
送」などの利点を知ることにより,ネットワークを構築するための基礎的な技術に興味・
関心を高めることができる。
Ⅲ- 3
さらに,ネットワークを構成する要素のLANケーブル,ネットワークカード,ハブなどの
役割を学習し,LANケーブルの製作実習などを通して,ネットワークの全体像を理解するこ
とができる。
また,複数の異なるコンピュータが通信するためには,送受信のタイミングを合わせる
などの通信の約束事「プロトコル」が必要である。さらにネットワークにある複数のコン
ピュータを識別するためには ,「IPアドレス 」,「MACアドレス 」,などが各コンピュータに
必要であることがわかる。
例えばIPアドレスの指導に当たっては,IPアドレスの三つのクラスについて図Ⅲ-4の
ように図を示し ,「ネットワークアドレス 」,「ホストアドレス 」,「サブネットマスク」等
の意味を説明し,初めは「ピアツーピア型」ネットワークのコンピュータにアドレス等を
設定する実習などを通して具体的に指導する必要がある。さらに,効果的に資源を共有す
るために「クライアントサーバ型」ネットワークの学習へと進めていくことができる。
図Ⅲ-4
IPアドレスの三つのクラス
クラスA
0
7ビット
8ビット
8ビット
8ビット
① ネットワークアドレス:0~127 ホストアドレス:0.0.1~255.255.254
② 下位24ビットがホストアドレスなので、ホストアドレスは16,777,214個
クラスB
1 0
6ビット
8ビット
8ビット
8ビット
① ネットワークアドレス:128.0~191.255 ホストアドレス:0.1~255.254
② 下位16ビットがホストアドレスなので、ホストアドレスは65,534個
クラスC
1 1 0
5ビット
8ビット
8ビット
8ビット
① ネットワークアドレス:192.0.0~223.25.255 ホストアドレス:1~254
② 下位8ビットがホストアドレスなので、ホストアドレスは254個
ネットワークアドレス部
②
ホストアドレス部
ネットワークの構築・運用
ネットワークを実際に構築する際に,ファイル転送,メッセージ交換,データベースの
利用等のネットワークに対する要求を明確にし,ネットワークを分析,設計する必要があ
る。
生徒に指導する際は,科目「実習」の中でクライアントサーバ型の実習を中心に,より
実際的,体験的に学習する方法が効果的である。
本研究では,クライアントサーバ型ネットワークシステムを構築した。クライアント側
のオペレーティングシステムはWindowsXP,サーバ側のオペレーティングシステムには
Linux(Fedora Core3)をインストールし,各種サーバを構築した。
ユーザの登録,アクセス権の設定などによりサーバの運用管理などについても学習する
ことができる。
Ⅲ- 4
(4) ネットワークの教材
①
教材のねらい
作成した教材は,LANケーブルを製作し,パソコン同士を接続し,通信することで通信技
術やハードウェア技術等の各科目における基礎的な学習の定着を図るとともに,ネットワー
クの基礎に関する実際的な知識と技術を習得させることをねらいとした。
②
教材の概要
作成した教材の内容は表Ⅲ-3のとおりである。
表Ⅲ-3
教材名
1 ネットワークの基礎(Ⅰ)
2 ネットワークの基礎(Ⅱ)
③
主な内容
科目 実習に関連した科目
・ネットワークの概要とLANケ 実習 ハードウェア技術
ーブルの製作
・ピアツーピアによるコンピ 実習 ハードウェア技術
ュータ接続
学習指導案及び時間ごとの実習内容例
学
実
教材の内容
習
名
材
指
導
案
ネットワークの基礎
実習クラス
教
習
年
組
実習時数
3時間
名
センター作成教材「ネットワークの基礎(Ⅰ)」
センター作成教材「ネットワークの基礎(Ⅱ)」
実
習
の
情報通信ネットワークとして,パソコン同士を接続したネットワークについ
ね
ら
い
て,役割やデータ通信及び要素技術に関する基礎的な知識や技術を習得させる。
時
1
実習計画
実
(1) ネットワークの概要
2
(2) LANケーブルの製作
3
内
ネットワークの概要とLANケーブルの製作
・
・
習
ピアツーピアによるコンピュータ接続
(1) IPアドレスの設定
(2) コマンドによるデータ通信
Ⅲ- 5
容
実
実
習
名
実習クラス
ネットワークの基礎
年
組
習
指
導
実習時数
案
1・2・3時間目/3時間
名
単元(項目) 総合実習
指導項目
ネットワークの基礎
テキスト
センター作成教材「ネットワークの基礎(Ⅰ)」
センター作成教材「ネットワークの基礎(Ⅱ)」
本時の
情報通信ネットワークとして,コンピュータ同士を接続したネットワークについ
て,役割やデータ通信及び要素技術に関する基礎的な知識や技術を習得する。
ねらい
段階
学習内容
学習活動【教材・教具】
導入
本時の学習のねらい
本時の学習のねらいと作業手順を説明する。
展開
(1) ネットワークの概要
【ネットワークの概要とLANケーブルの製作】
ネットワークの利点について考えさせる。
LANを接続するための機器(LANケーブル,ネッ
トワークカード,ハブ)の役割を説明する。
(2) LANケーブルの製作
LANケーブルの種類について説明する。特にスト
レートケーブルとクロスケーブルの違いについて
説明する。
LANケーブルの製作のために必要な材料及び工具
について説明し,製作手順について理解させる。
例題(ストレートケーブルの製作)について説
明しながら,製作させる。
演習(クロスケーブルの製作)について説明し
製作させる。
(3) IPアドレスの設定
【ピアツーピアによるコンピュータ接続】
複数のパソコンを識別するための方法について
考えさせる。
IPアドレスの設定方法を説明する。
特に,ネットワークアドレスとホストアドレス,
サブネットマスクの意味を説明する。
(4) コマンドによるデー
タ通信
コマンドによるデータ通信について説明し,設
定手順について理解させる。
例題(パソコンにIPアドレスを設定し,データ
通信をする方法)について説明しながら各自設定
し,通信させる。
演習の手順について説明し,各自設定し,通信
させる。
整理
まとめ,終了処理
本時の学習内容をまとめる。
Ⅲ- 6
評価の観点
関心・意欲・態度
コンピュータを利
用したデータ通信の
仕組みについて関心
をもち,LANケーブ
ルの製作やデータ通
信のための基本的な
要領を身に付けよう
としている。
思考・判断
IPアドレスに関す
る基礎的・基本的な
知識と技術を活用し
て,コンピュータを
利用したデータ通信
について様々な角度
から客観的に考察し
ている。
技能・表現
L AN ケ ー ブ ル を 製
作するための基本的
な技能を身に付けて
いる。
IPアドレスを設定
するための基本的な
技能を身に付けてい
る。
知識・理解
LANケーブルの製
作方法やIPアドレス
に関する基礎的な知
識を理解している。
2
ソフトウェアに関する基礎的な学習
(1) ソフトウェアの概要
ソフトウェアとは,コンピュータの機能を有効に利用するために用意されたプログラム等
やコンピュータの利用技術をいう。
コンピュータを構成する電子回路や周辺機器などの物理的実体をハードウェアと呼ぶ。こ
れに対して,コンピュータに処理させる手順や命令を記述したプログラムやプログラムを動
作させるのに必要なデータの集合体をソフトウェアという。
さらに,広い意味では,プログラムやデータを作成するときの操作・運用などに関するマ
ニュアル及びアルゴリズム等を含めた利用技術の総称をいう。例えば表計算ソフトウェアを
例に考えると図Ⅲ-5のようになる。
図Ⅲ-5
表計算ソフトウェア
表計算ソフトウェアの
表計算ソフトウェアのマニ
ュアル及びアルゴリズム等
プログラム及びデータ
ソフトウェアはその役割によって,図Ⅲ-6のように基本ソフトウェアと応用ソフトウェ
アに分類され,お互いに連携し,コンピュータを効率よく動作させている。
基本ソフトウェアは,主にオペレーティングシステム(OS)と呼ばれ,コンピュータシス
テムの中核となっている。Windows,Mac OS,UNIX,Linuxなどがある。
応用ソフトウェアは,アプリケーションソフトウェアと呼ばれ,利用目的に応じたソフト
ウェアであり,オペレーティングシステムが必要となる。ワードプロセッサ,表計算ソフト
ウェア,プレゼンテーション支援ソフトウェアなどがある。
図Ⅲ-6
ソフトウェアの分類
基本ソフトウェア
応用ソフトウェア
Windows
ワードプロセッサ
Mac OS
表計算ソフトウェア
UNIX
プレゼンテーション支援
Linux
ソフトウェア
ソフトウェアは,著作権法(著作者人格権,著作者財産権等)で保護されており,利用者
はソフトウェアの使用許諾契約を結ぶことにより,ソフトウェアを使用することができる。
Ⅲ- 7
(2) ソフトウェアに関する科目での取扱い
教科「工業」の科目「情報技術基礎」では,ソフトウェアの概要について理解させるとと
もに,利用に必要な基本的な操作を習得させることとあり ,「オペレーティングシステムの
基礎」及び「アプリケーションソフトウェアの利用」について取り扱い,ソフトウェアに関
する基礎的な知識と技術を習得させることをねらいとしている。
また,科目「ソフトウェア技術」は,コンピュータを運用し,活用するために必要となる
オペレーティングシステムやアプリケーションプログラムに関する基礎的な知識と技術を習
得させ,実際に活用する能力と態度を育成することをねらいとしている。
これらの科目の指導に当たっては,技術の動向にも留意しながら,生徒の実態や学科の特
色に応じて,適切なオペレーティングシステム及びアプリケーションプログラムを選択し,
コンピュータを活用した実習に十分時間をかけて,実際的,体験的に理解させることが大切
である。
(3) ソフトウェアの基礎的な学習内容
今日の高度情報通信社会を支えるためには,コンピュータを利用したソフトウェア技術に
関する知識を習得し,実際に活用する能力を育てていかなければならない。
そのためには,基礎的な基本ソフトウェア(Linux等)のサーバを構築したり,アプリケ
ーションソフトウェアを動作させる実習等を通して,問題解決能力を育て,実践力を高めて
いくことが大切である。
ソフトウェアの基礎的な学習項目と内容を整理すると次の表Ⅲ-4のようになる。
表Ⅲ-4
学習項目
内
容
関
連
用
語
①ソフトウェアの基礎
ソフトウェアの分類
基本ソフトウェア,応用ソフトウェア
②オペレーティングシ
オペレーティングシ
Windows,Linux
ステムの基礎
③アプリケーションソ
フトウェアの利用
①
ソフトウェアの学習項目と内容
ステムの役割
アプリケーションソ
OpenOffice.org
フトウェアの利用
インストール
ソフトウェアの基礎
ソフトウェアの基礎を指導する際に,ソフトウェアを「何の目的でソフトウェアを使用す
るのか」という視点で,生徒に基本ソフトウェアと応用ソフトウェアの役割,特徴等を理解
させる必要がある。
②
オペレーティングシステムの基礎
ハードウェアとソフトウェアをつなぐオペレーティングシステムの必要性,役割及び機能
などをわかりやすく扱うために,代表的なオペレーティングシステムである「Linux」や
「Windows」の基本操作などを実際的,体験的に学習し,オペレーティングシステムの理解
を深める必要がある。
③
アプリケーションソフトウェアの利用
アプリケーションソフトウェアとしては,ワードプロセッサ,表計算ソフトウェア,プレ
Ⅲ- 8
ゼンテーション支援ソフトウェアなどを取り扱い,その基本的な操作方法等を習得させる必
要がある。同様の機能を持つフリーソフウェアである「OpenOffice.org」などの利用も有効
である。
本研究では,オペレーティングシステムとしてLinux,アプリケーションソフトウェアに
関わる教材として「OpenOffice.org」を取り上げている。
Ⅲ- 9