三菱電線工業時報 第 109 号 2012 年 9 月 次世代光通信を担うマルチコアファイバおよびファン アウト機能部品の開発 Development of Multi-core Fiber and Fan-in/Fan-out Device 光部品事業部 技術部 光部品事業部 技術部 田中 正俊 ■ M. Tanaka 光部品事業部 技術部 八若 正義 ■ M. Hachiwaka 谷口 浩一 ■ H. Taniguchi 本報では,次世代光通信を担うマルチコアファイバとファンイン / ファンアウト機能部品の開発について報告する。 3種類のマルチコアファイバ(ステップ型構造,障壁層付加構造,トレンチ付加構造)を試作し,マルチコアファイバ の実用化課題であるクロストークと光ファイバ構造の関係を示した。また,コネクタ接続に適した多角形クラッドのマ ルチコアファイバを作製し,通常の光ファイバ同等の機械強度を有することを確認した。ファンイン / ファンアウト部 レーザ 品の開発では,細径ファイバを用いて一括固定型の六方最密構造を試作し,±1m m のコアの位置合わせ精度を実現した。 マルチコアファイバ,クロストーク,ファンイン,ファンアウト 〔キーワード〕 We report the development of the multi-core fiber and fan-in/fan-out device that support the next generation optical communication in this report. 3 kinds of multi-core fiber (step structure, barrier layer structure, trench structure) were fabricated, the relation between the crosstalk and optical fiber structure were shown. We fabricated the multi-core fiber with polygon clad for the connection by the connector. The fan-in/ fan-out device with the hexagonal close-packed structure was fabricated by using the small diameter fiber and the high precision ferule. We confirmed that these devices had the alignment position of core of 1 m m within accuracy. 〔Key words〕 Multi-core Fiber , Crosstalk, Fan-in, Fan-out のコアが配置されているため,光ファイバを接続する場 1 まえがき 合は,すべてのコアが一致するように回転方向を高精度 インターネットの発達に伴い,現在においても年率約 に調整する必要がある。さらに光ファイバだけでなく, 40%でトラフィックが増加し続けている。これまで波長 送信機などの通信機器に接続するには,各コアを単心に 多重通信方式,多値変調方式で伝送容量の拡大の検討が 分離する必要性があるため,ファンイン / ファンアウト 進められ,過去 20 年間で 3 桁の大容量化が図られた。 部品を新たに開発する必要がある。 今後も爆発的なトラフィックの増大が予測されている。 本報では,次世代の光通信を担うマルチコアファイバ, しかし, 「ファイバフューズ」と呼ばれる高強度の光で およびファンイン / ファンアウト部品の開発について報 コアが熱的破壊する現象などによって,布設されている 告する。 汎用ファイバの伝送容量拡大に限界が迫ってきており, その容量は 100 Tb/s と言われている a 。 2 マルチコアファイバのクロストーク抑制 汎用光ファイバの伝送容量の限界を打破する光ファイ バとして,マルチコアファイバが提案された b 。光ファ 2 .1 マルチコアファイバの構造 イバ一心に複数のコアを設けて,更なる伝送容量拡大と 3 種類のマルチコアファイバ(ステップ型構造,障壁層 空間利用効率を高めることができる。伝送実験では,汎 付加構造,トレンチ付加構造)を試作した。光ファイバ断 用光ファイバの考えられている限界を超える 300 Tb/s 面写真,構造パラメータなどを図 1 に示す。中心コア 1 が既に報告されている c。 個と外側コア 6 個の 7 個のコアからなるマルチコアファ マルチコアファイバの実用化には複数の課題がある。 イバである。 例えば,コアが互いに接近して配置されているため,コ ステップ型構造は,単純なステップ型屈折率分布で, ア間で光の電力移行によってクロストークが発生する。 石英コアにゲルマニウムをドープすることで屈折率を上 クロストークは雑音として通信品質を劣化させるため, げている。障壁層付加構造とトレンチ付加構造は,共に その低減が課題になる。また,汎用光ファイバと異なり, 光の電界分布の広がりを抑制してクロストークを低減す マルチコアファイバは中心だけでなく,その周囲に複数 るため,フッ素をドープした低屈折率層をクラッドに設 マルチコアファイバ,クロストーク,ファンイン,ファンアウト Multi-core fiber, Crosstalk, Fan-in, Fan-out -1- 次世代光通信を担うマルチコアファイバおよびファンアウト機能部品の開発 構造 ステップ型 障壁層付加 トレンチ付加 ー30 波長 1550 nm ー40 コア 低屈折率層 クロストーク(dB) 断面写真 低屈折率層 屈折率分布 コア間隔 Aeff l = 1550 nm クラッド径 図1 49 m m 49 m m 48 m m 80 m m2 80 m m2 76 m m2 170 m m 170 m m 170 m m 5 dB 15 dB ー50 ー60 SMコア構造 ー70 障壁層付加 トレンチ付加 ー80 10 100 1000 10000 100000 ファイバ条長(m) 試作マルチコアファイバ 図2 Multi-core fiber クロストークのファイバ条長依存性 Fiber length dependences of crosstalk けている。 0 ステップ型構造,トレンチ付加構造の伝送損失は, 0.2 dB/km(l =1550 nm)であり,汎用光ファイバと同 波長 1550 nm 条長 100 km ー10 クロストーク(dB) 等である。障壁層付加構造の伝送損失は,約 0.5 dB/km (l =1550 nm)であった。損失が高い原因は,Stack 法と 呼ばれるガラス部材を複雑に組み合わせて母材を作製す ることにより生じたものであり,設計上の問題ではない。 ー20 ー30 ー40 障壁層付加 ー50 2 .2 コア間クロストーク コア間クロストークの条長依存性の測定を行なった。 ー60 測定結果を図 2 に示す。測定波長は 1550 nm である。ク トレンチ付加 30 35 40 コア間隔( ロストークの条長に対する変化量(図中の傾き)は,電 図3 力結合理論 d で導き出される変化(条長が 10 倍で 10 45 50 55 m) クロストークのコア間隔依存性 Core interval dependences of crosstalk dB の増加量)としている。 クロストークは,マルチコアファイバの入力端で中心 3 コネクタ接続を考慮したマルチコアファイバ コアのみに励振した時の,出力端における外側コアの光 電力と中心コアの光電力の比として計算した。図では外 3 .1 非円形クラッドのマルチコアファイバ構造 マルチコアファイバのコアは中心だけでなく,その外 側コア 6 個分のクロストークの平均値を記載している。 なお,本報告のマルチコアファイバのクロストーク測定 側にも複数のコアが配置されている。このため,光ファ はすべて直径 160 mm のボビン巻きの状態で計測してい イバ同士を接続するには,全てのコアが一致するように る。図 2 の結果から,障壁層を付加することで 5 dB ,ト 回転方向の角度を調整する必要がある。その許容角度ず レンチを付加することで 15 dB の改善が図られている e 。 れは,コア数 7 個の場合, 0 .86 と報告されている f 。 条長 100 km 相当(波長 1550 nm)で推定されるクロスト 従来の光ファイバのようにクラッド外縁が円形状であれ ークは,ステップ型構造,障壁層付加構造,トレンチ付加 ば,光ファイバとフェルールは互いに回転する。しかし, 構造はそれぞれ,− 33 dB ,− 38 dB ,− 48 dB である。 クラッド外縁が非円形状で,かつコネクタフェルールの 低屈折率層を設けることで低いクロストークが確保でき 挿通孔の形状がその外縁に一致するものであれば,フェ た。 ルールに対して光ファイバは一定の回転角度方向に固定 障壁層付加構造,トレンチ付加構造ともにコアパラメ され,角度ずれは抑えることができる。図 4 はフェルー ータ(比屈折率差,コア径)はそのままにして,コア間 ル取付けと,V 溝固定(メカニカルスプライス)の模式 隔のみを狭くしたファイバを試作した。コア間隔とクロ 図である。 ストークの関係を把握するためである。得られた結果を コネクタ接続時における角度ずれを容易にするため, 図 3 に示す。コア間隔が狭くなるとクロストークが増加 六角形クラッド構造のマルチコアファイバを検討した。 する。これより必要なコア間クロストークを確保するた 光ファイバ断面写真を図 5 ,構造寸法を表 1 に示す。ク めの必要なコア間隔が求められる。 ラッド外縁が六角形を維持している。 -2- 三菱電線工業時報 第 109 号 2012 年 9 月 フェルール 5.1 V溝 4.9 動疲労係数:20.4 ln f(破断強度) 4.7 図4 4.5 4.3 引張長 :500 mm 引張速度 :2.5,5,25,50,250 mm/min 4.1 コネクタ取付け模式図 3.9 Schematic diagram of multi-core fiber suitable for connectivity 3.7 0 1 2 3 4 5 6 7 ln ’ (引張速度) W1 図7 動疲労試験 Dynamic Fatigue characteristics W2 4 ファンイン/ファンアウト機能部品 4 .1 部品構成 マルチコアファイバを送信機,中継器,あるいは受信機 に接続するには,ファンイン,ファンアウト機能を有する 図5 六角形クラッドマルチコアファイバ 光機能部品が必要である。1 心に複数のコアが設けられ Hexagonal shape cladding multi core fiber 表1 ているマルチコアファイバを,複数のシングルコアファ イバに分離する機能を果たす。ファンアウト機能部品の 構造パラメータ Structure of hexagonal shape cladding multi-core fiber 項目 W1 W2 構成を図 8 に示す。 測定値[m m] 166 151 44 Λ シングルコアファイバ (細径ファイバ) フェルール (単心側) マルチコアファイバ 3 .2 機械強度特性 フェルール (一括固定側) 多角形クラッドファイバの採用では,機械強度の信頼 性が課題になる。そこで引張破断試験と動疲労試験を実 施した。引張破断試験の試験条件は試験長 0.5 m ,引張 速度は 5% /min ,サンプル数は 50 である。ワイブル確 率分布を図 6 に示す。これより低強度の破断は見られず 良好であることが判る。動疲労試験は,試験長 0.5 m ,引 ファンアウト機能部品 張速度を 2.5 ,5 ,25 ,50 ,250 mm/min で動疲労試 図8 ファンアウト機能部品の模式図 Schematic diagram of fan-out device 験を行った。試験結果を図 7 に示す。 動疲労係数は20.4 で, 汎用のシングルモード光ファイバと同等の結果であった。 7 心のシングルコアファイバには細径ファイバを用い, 累積破断確率(%) 99.9 99 90 片端は 7 心を一つのフェルール内に一括固定し,反対端 は各々フェルールを取り付けて分離する。一括固定側の 50 7 心の細径ファイバのコアは,マルチコアファイバのコ 20 アに一致するように配置されている。また,接続損失を 10 5 抑制するため,細径ファイバのモードフィールド径はマ 2 1 0.5 ルチコアファイバと同じにしている。試作したファンア 10 100 破断強度(N) 図6 1000 ウト部品の一括固定側のフェルール端面と接続実験に使 用したマルチコアファイバを図 9 に示す。一括固定側の ワイブル確率分布 コア間隔を計測した結果を表 2 に示す。マルチコアファ Weibull plot of tensile test イバのコア間隔 50 m m に対して,一括固定側は,光ファ -3- 次世代光通信を担うマルチコアファイバおよびファンアウト機能部品の開発 0 最密配置することで 50 ± 1 m m の位置合わせ精度が実現 ー10 ポート1 ー20 ポート2 ー30 ポート3 ー40 ポート4 ー50 ポート5 ー60 ポート6 ー70 ポート7 クロストーク(dB) イバ径 50 m m のシングルコアファイバを隙間無く,六方 している。 コア間隔50 m ー80 1 2 3 4 5 6 7 マルチコアファイバ→光機能部品接続ポート 図 11 クロストーク特性 Crosstalk 5 むすび 一括固定側端面 図9 ファイバ端面 本報では次世代光通信を担うマルチコアファイバとファ ファンアウト部品の端末 ンイン /ファンアウト機能部品の開発について報告した。 Cross sectional view of fan-out device 3 種類のマルチコアファイバ(ステップ型構造,障壁層付 表2 コア間隔測定結果 加構造,トレンチ付加構造)を試作し,マルチコアファイ Results of core pitch in fan-out device 測定位置 コア間隔全体平均 コア間隔全体最大 コア間隔全体最小 中心−外層平均 中心−外層最大 中心−外層最小 外層間平均 外層間最大 外層間最小 バの実用化課題であるクロストークと光ファイバ構造の関 コア間隔[m m] 50 .34 50 .6 50 .1 50 .31 50 .5 50 .1 50 .38 50 .6 50 .1 係を示した。またコネクタ接続を考慮した多角形クラッド のマルチコアファイバでは,課題となる機械強度特性は汎 用のシングルモード光ファイバと同等で良好な特性であっ た。ファンイン /ファンアウト部品の開発では,細径ファイ バを用いて一括固定型の六方最密構造を試作し, 1 m mの コアの位置合わせ精度を実現した。 今回報告したマルチコアファイバ,およびファンイン / ファンアウト部品からマルチコアファイバに入力した 場合の接続損失を測定した。回転方向をずらすなどして 6 ファンアウト機能部品が更なる性能向上を遂げ,次世代 光通信を支える主要な光部品となることに期待している。 回測定を行なった。その結果を図 10 に示す。測定波長は 1550 nmである。測定の結果,接続損失は平均 0.5 dB,最 謝 辞 大は 1.0 dBに抑えられていることが判った。 この研究は,独立行政法人情報通信研究機構の高度通 接続損失は接続箇所でコアの配置ずれなどによって生 信・放送研究開発委託研究/革新的光ファイバ技術の研 じ,光は漏洩する。漏洩した光が隣接するコアに結合す 究開発,および革新的光通信インフラの研究開発の一環 ればクロストークの原因となる。クロストークの測定結 としてなされたものである。 果を図 11 に示す。測定波長は 1550 nm である。測定の 結果,クロストークは− 45 dB 以下に抑えられているこ 参考文献 とを確認した。 a D. Qian et al. 101.7Tb/s(370-294-Gb/s)PDM-128 QAM-OFDM Transmission over 3×55km SSMF 接続損失(dB) 1.2 using Pilot-based Phase Noise Mitigation. OFC/ 1.0 サンプル1 0.8 サンプル2 サンプル3 0.6 サンプル4 0.4 b T. Morioka. New generation optical infrastructure technologies.“EXAT initiative”towards 2020 and サンプル5 0.2 0.0 NFOEC, PDPB5, 2011. beyond Proc. 14th OECC FT4, 2009. サンプル6 1 2 3 4 コアNo. 5 6 7 c J. Sakaguchi et al. 19-core fiber transmission of 19x100x172-Gb/s SDM-WDM-PDM-QPSK signals at 図 10 接続損失特性 Insertion loss 305Tb/s OFC/NFOEC, PDP5C1, 2012. d K. Takenaga et al. Reduction of crosstalk Quasi- homogeneous solid multi-core fiber, OFC2010 -4- 三菱電線工業時報 第 109 号 2012 年 9 月 OWK7, 2010. e 田中正俊ほか.マルチコアファイバのクロストー ク低減に関する検討.電子情報通信学会信学技報. OFT2011-58, 2012. f 長瀬.光通信技術の飛躍的高度化.オプトロニクス 社. 2012, p269-276. -5-
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