「女の子なのにすごいね」:女子中学生と数学に対する意欲

「女の子なのにすごいね」:女子中学生と数学に対する意欲
◯森永 康子 1,坂田 桐子 2,古川 善也 1,福留 広大 1
(1 広島大学大学院教育学研究科,2 広島大学大学院総合科学研究科)
キーワード:ジェンダー,ステレオタイプ,数学
従来,好意的性差別 (BS: benevolent sexism) を含んだ発言
英語で BS 条件が統制条件よりも得点が高く,得意だとして
が女性の課題遂行を妨げたり,雇用における男女平等を求
いた (表 1) が,他の教科においては有意な差が見られなか
める意図を減じたりすることが報告されてきた。また,こ
った(ps>.231)。将来の数学の試験成績の予測や思い浮かべた
うした過程に喚起された感情がかかわることが示唆されて
教師の性別には差異がなかった。直近の数学の試験の成績
いる。このことから,数学で良い成績をとった女子生徒を
は統制条件のほうが低かったため (p=.043),以降の分析で
「女の子なのにすごいね」と誉めることで,その生徒の数
はこれを統制変数 (共変量) として分析した (分析対象者
学への意欲を低めること,さらにそこに感情がかかわって
は数学成績無回答の 2 名を削除)。
いることが予測できる。本研究はこうした過程を検討する
2. 意欲への影響 (表 1): BS 条件は統制条件よりも,数学を
ことを目的とした。
がんばろうと思う程度が低く,やる気も低かった。以下,
「が
方 法
んばろうと思う」の回答のみについて報告する。
対象者:中学 2, 3 年の女子 100 名。調査会社のモニターを
3. 感情生起:感情 12 項目を因子分析 (探索的&確証的)した
している親に協力を依頼。ウェブ上で調査。
上で,2 因子解(ポジ 6 項目α=.92,ネガ 6 項目α=.94)を
手続きと質問項目 (質問順):1.年齢,2.シナリオの呈示 2 条
採用した。各因子ごとに平均値を算出し,感情得点とした。
件:数学の試験で良い成績をとり,数学の教師から「女の
両感情の相関は,BS 条件では r=-.537, p<.000, 統制条件では
子なのにすごいね (BS 条件)」
「すごいね (統制条件)」と誉
r=-.072, ns であった。2 (条件)×2 (感情:参加者内) の共分散
められる。3. PANAS をもとに作成したポジティブ感情 6 項
分析を行ったところ,感情の主効果と交互作用が有意であ
目及びネガティブ感情 7 項目に意欲の測度「やる気がでた」 った。単純主効果を検定したところ,各条件での感情間,
の合計 14 項目を回答者ごとにランダム呈示した。4 段階尺
各感情での条件間に有意差が見られた。しかし,統制条件
度 (1:あてはまらない〜4:とてもあてはまる)。
4. 数学をがん
ではほとんどネガティブな感情が生起していなかった。
ばろうと思うか。5 段階尺度 (1:ぜんぜんがんばろうと思わ
4. 感情による媒介効果:条件による意欲の差異を感情が媒
ない〜5:いっしょうけんめいがんばろうと思う)。5. もう一
介しているのではないかと考え,ポジ感情とネガ感情の差
度同じレベルの試験を受けたら,成績はどのくらいだと思
得点(ポジ―ネガ)を用いて媒介分析を行ったところ,媒
うか。3 件法 (1:前と同じくらい,2:悪い点,3:良い点)。6. 思
介効果が見られた (図 1)。
い浮かべた教師の性別。7. 各教科の好き嫌い,得意苦手。5
*.38**
.63**
段階尺度。8. 直近の数学の試験の成績 (1:0-59, 2:60-74,
3:75-89; 4:90-100; 5:NA)。以下,自尊心尺度などが続くが今
(0:
回は報告しない。なお,性別や学年は親が回答。
!
,!!1:BS)
*.19+
.05!
結 果
1. 各教科の好き嫌いと得意苦手:各教科の好き嫌いには条
考 察
件間に有意な差が見られなかった(ps>.123)
。得意苦手では, 本研究の結果は,好意的性差別表現が女性の意欲を低下
させるという従来の研究と一致する結果であった。また,
そこに感情が関与することが示
唆された。さらに,BS 条件では
ネガティブ感情が高く喚起され
ている者から喚起されていない
者までいた。今後は好意的性差別
の影響の受けやすさについても
検討する必要があるだろう。