感情がプレミアム製品の購買・評価に及ぼす影響の解明

感情がプレミアム製品の購買・評価に及ぼす影響の解明
①
(1) 調査概要と調査内容
―――はじめに
(2) 検証方法と手段
②
(3) 分析結果と考察
―――序論
1.
研究テーマ
2.
現状分析
(1) プロダクト戦略
(1)
市場の変化と企業の戦略
(2) プレイス戦略
a.
成熟型消費社会
(3) プロモーション戦略
b.
製品のコモディティ化
c.
ブランド拡張
(2)
(3)
3.
③
4.
④
プレミアム製品の概要と特徴
(2) 今後の展望
a.
プレミアム製品の定義
(3) おわりに
b.
プレミアム製品の変遷と消費者
c.
プレミアム製品購入時の感情
参考文献
現状分析まとめ
補録――アンケート調査表
問題意識と問題設定
既存研究レビュー
(1) 感情に関する研究
a.
感情と意思決定
b.
ポジティブ感情とネガティブ感
情
(2) ブランドに関する研究
a.
ブランド拡張
b.
ブランド拡張の効果
c.
ブランド拡張研究から得られた
本研究における知見
(3) 既存研究まとめ
2.
仮説の提唱
(1) 購買時に感情が与える影響の解明
(2) 購買後に感情が与える評価の解明
3.
―――結論
(1) まとめ
―――本論
1.
新規提案
仮説の検証
1
荻野泰成
橋本朋美
山下麗
大窪凪沙
森泉亮介
山元勇人
① ―――はじめに
求めるのか着目し、検証する。
そこで本研究では、消費者の感情が、その後の
特別な時に通常よりも少し高価な「プレミアム
ブランドや既存製品、プレミアム製品にどのよう
製品」を購買した経験はないだろうか。近年、あ
な影響を与えるのかを実証していく。さらに、要
らゆる市場で「プレミアム」という言葉を見かけ
因を解明した後、新規提案として飽和したプレミ
る。自動車や鞄、腕時計など高額のプレミアム製
アム製品に向けて消費者の感情を利用した差別化
品は以前から存在していたのに対し、近年では「午
戦略を提示する。
後の紅茶 ミルクティー」1のような一般的な既存製
品よりも「午後の紅茶 ザ・パンジェンシー 茶葉 2
② ―――序論
倍ミルクティー」2のように、数十円から数百円高
1.
い食料品を中心とした低価格のプレミアム製品が
研究テーマ
主流である。特にビールやアイス、スナック菓子
などの食料品をはじめ、ティッシュなどの使用時
なぜプレミアム製品が急激に増加し、求められ
間が極めて短い製品においてもプレミアム製品が
るようになったのか。遠藤[2007]によると、プレ
増加している。したがって富裕層だけでなく、一
ミアム製品が必要な理由は、メーカー側と消費者
般の消費者にもちょっとした贅沢が楽しめるよう
側の双方に存在しているという。様々な分野にお
になったのである。
いてプレミアム製品やサービスが展開されている
プレミアム製品が続々と発売される一方で、
が、その理由として第一に、メーカーやサービス
様々な企業間で顧客を囲い込むための戦略や価格
提供者にとって、既存製品よりも高い価格で訴求
競争が激化している。その結果、プレミアム製品
できることにある。近年、物価指数は全般に横ば
が市場において飽和状態にあり、プレミアム製品
いないし下落傾向であり、流通業同士の価格競争
間でも差別化をはかる必要があるのではないかと
が発生している。流通業はお互いに低価格を競う
考えた。その差別化の一つとして消費者の感情に
傾向にあり、メーカーの希望とは逆の低価格を標
着目した。例えば、嬉しい時にはご褒美のために、
榜する流通業にとっては、競合する店舗よりも高
疲れている時や悲しい時には自分を慰めるために
い値付けは難しい。このような状況において、よ
プレミアム製品を購買するなど、消費者の感情に
り高価格を期待できるプレミアム製品を開発する
よって求める商材は変わってくる。このように、
ことが企業やサービス提供者にとってメリットに
消費者がどのような感情の時にプレミアム製品を
なることは当然である。第二に、消費者の高級・
高品質志向が原因である。日本のような成熟した
1 KIRIN の販売するミルクティー。
消費社会において、消費者は従来の商品水準に満
内容量 500ml。価格 140 円。
足出来ず、より高級かつ高品質な商品に満足を見
2
出す傾向がある。
KIRIN の販売するプレミアムミルクティー。午後の紅茶
以上のような理由からプレミアム製品が続々と
ミルクティーの 2 倍の茶葉を使用しており、贅沢感を訴
求している。
発売されている。そして、このような高価格なプ
内容量 460ml。価格 150 円
レミアム製品を購買する際、消費者は特別な感情
を持っているであろうと考えた。普段は既存製品
2
を購買する人がどんな感情の時にプレミアム製品
成熟型消費社会へと移ってきた。塩田[2002]は、我
を購買したくなるのだろうか。我々はその特別な
が国の大衆消費社会の生成、発展、成熟のプロセ
感情に注目していくことにした。
スにおいて、経済成長期から石油ショックまでの
消費者行動研究において、既存製品購買時に広
時期を成長型消費社会、石油ショック以降を成熟
告や宣伝など、外部刺激による購買への影響が数
型消費社会と論じている。成熟型消費社会では、
多く研究されている。しかし、
「プレミアム製品購
消費者の購買行動も千差万別となり、消費者の個
買時において、消費者のどのような感情が影響を
性化や多様化が進行している。そのため、企業に
及ぼすのか」また、
「製品購買後の購買製品と他方
とって消費者行動が以前にも増して捉えにくいも
の製品、ブランド自体の影響」についての研究は
のとなってきた。そして今日、多くの業界にみら
非常に少ない。そこで、我々は「感情がプレミア
れるように、長引く経済不況により、総需要の拡
ム製品の購買・評価に及ぼす影響の解明」を本研
大が困難な状況にある。そのため、ある企業が売
究のテーマとして設定した。
上を伸ばせば別の企業がその分の売上を減らすと
学術的にプレミアム製品の購買行動に感情を加
いう厳しい競争の時代になってきた。したがって、
えて分析をし、実務的にプレミアム製品の今後の
市場が成熟するにつれて、企業は利益の確保が難
戦略に新たな視点を取り入れることを研究意義と
しくなってきたということがわかる。
して、本研究テーマを検証していく。
b. 製品のコモディティ化
また、研究において、対象財を、ブランドの垂
直拡張によりプレミアム戦略を始めた製品とする。
市場が成熟してきたのに加えて、多くの企業に
そして、当初から販売している通常価格の製品を
おいて、製品のコモディティ化も大きな課題にな
既存製品、ブランドの垂直拡張によって販売され
っている。コモディティ化とは、恩蔵[2007]による
始めた高価格、高品質の製品をプレミアム製品と
と、企業間の技術的水準が同質的となり、供給さ
して進めていく。
れる製品やサービスの本質的部分での差別化が困
難で、顧客側からはほとんど違いを見出すことの
2.
現状分析
できない状況と定義されている。もちろん、企業
は様々な差別化の努力を行い、価値を増加させる
(1)
市場の変化と企業の戦略
ことによって、価格競争から逃れ、利益の拡大を
近年、多くの企業が市場の成熟や製品のコモデ
図ろうとしている。それにも関わらず、製品のコ
ィティ化に頭を悩ませている。このような状況に
モディティ化が生じるのには、二つの理由がある。
おいては、価格競争が起こりやすく、利益の確保
第一に、そうした差別化努力が短期間にライバル
が難しくなってきている。本研究では、こうした
の企業に同質化されるからである。第二に、せっ
市場環境への対応策の一つとしてプレミアム戦略
かくライバルの企業に同質化されにくい差別化を
を取り上げる。
行っても、その差別化が顧客に十分な価値をもた
らさない場合があるからである。我が国において
a. 成熟型消費社会
今日、消費社会3が進展し、成長型消費社会から
3
間々田[2000]は、「消費社会とは、人々が消費に対して
強い関心をもち、高い水準の消費が行われる社会であり,
それにともなってさまざまな社会的変化が生じるような
社会である」と定義している。
3
は、競争の激化と市場の成熟化のなかで、こうし
「ザ・プレミアム・モルツ」は幅広い消費者から
た現象が増加している。つまり、企業は製品のコ
支持を集めており、2013 年には 1,767 万ケース(対
モディティ化によって、差別化が難しくなり、利
前年 107%)と 10 年連続で過去最高販売数量を達成
益の確保が難しくなってきたということがわかる。
した。(図表 1)サントリーの調査によると、ビール
類総市場は 2003 年に 5 億 1344 万ケースだったが、
c.
2006 年以降 5 億ケースを割り込み、2014 年には 4
ブランド拡張
億 2600 万ケース(対前年 98%)にまで縮小するも
そうしたなかで、本研究では、企業が利益を得
るための戦略の一つとして、ブランドの垂直拡張
のと推定されている。こうした市場動向にあって、
によるプレミアム製品の展開を取り上げる。なぜ、
本格的な味わいを追求し、素材や製法にこだわっ
これによって利益を得ることができるのだろうか。
たプレミアムビールは、消費者の幅広い支持を集
それは、既存の製品のブランドを使ってプレミア
め、2014 年は対前年 1 割程度増と伸長する見込み
ム製品を販売することができるからである。これ
である。つまり、ビール業界自体は縮小傾向にあ
は、ブランド拡張のメリットである。
るが、プレミアムビール市場は増加傾向にあると
Aaker[1991]によるとブランド拡張とはある製
いえる。
品クラスにおいて確立されたブランド・ネームを
他の製品クラスに参入するために使用することで
■図表―――1
ある。新しいブランドを立ち上げるためには、多
プレミアムビールの年別販売実績推移
大な投資や時間、管理体制が必要になるが、既存
「ザ・プレミアム・モルツ」の
年別販売実績推移
ブランドを用いればそのような負担は軽減され、
コストを下げることが可能である。そのため、ブ
つまり、既存製品やプレミアム製品、ブランドは
2013
2012
2011
2010
2009
2008
2007
ドを傷つける恐れがあるので、注意が必要である。
2006
2003
ると、新製品が売れないばかりか、既存のブラン
2005
繁に行なわれる。ただし、ブランド拡張で失敗す
2004
2000
1500
1000
500
0
ランド拡張は、新規ブランドの立ち上げよりも頻
万ケース:大瓶換算
互いの評価に影響を与えることがわかる。
ここで、ブランド拡張をしたプレミアム製品の
出典:サントリーニュースリリース
具体例として「ザ・プレミアム・モルツ」を取り
上げる。1986 年にサントリーはスタンダードなビ
プレミアムビールを出しているのは、サントリ
ールである「モルツ」を発売した。2000 年には「モ
ーだけでなく、アサヒの「ドライプレミアム」や
ルツ」のプレミアム製品である「モルツ・スーパ
キリンの「一番絞りプレミアム」など競合他社も
ー・プレミアム」が発売され、2003 年には新たに
販売している。そのため、プレミアム製品間の競
「ザ・プレミアム・モルツ」が発売された。この
争も激化している。以上のことから、プレミアム
ように、既存製品である「モルツ」から、
「ザ・プ
製品は、消費者からも企業からも注目を集め 、ヒ
レミアム・モルツ」というプレミアム製品を販売
ットを生むキーワードの一つとなっている。この
するときに、ブランド拡張がなされている。現在、
ことから、プレミアム製品は注目に値する戦略で
4
あることが示された。
た。そのため、それを購買する人も、高所得者な
どの富裕層に限られていたのである。つまり、80
(2)
プレミアム製品の概要と特徴
年代後半のプレミアム製品は、富裕層がもつ高級
品のことであった。数千億円~数兆円と市場規模
a. プレミアム製品の定義
は大きかったが、その後バブル崩壊とともに一気
本節では、プレミアム製品の定義について述べ
に縮小した。
90 年代後半になると、バブル期に見られた高所
る。
田中[2008]はプレミアム製品を通常価格よりも
得者が高級品を持つというプレミアムは崩れてい
高価格で値付けされた商品と述べている。遠藤
った。なぜなら、消費者がこだわり消費をするよ
[2007]はプレミアムとは、プラスアルファの対価を
うになったからである。こだわり消費とは、製品
支払ってでも手に入れたいと思わせる特別な価値
によって、こだわるものとそうでないものの差が
プラスアルファの価値と定義することができる。
はっきりしている消費を指す。例えば、BMW を運
したがって、これまでにも述べたように、プレミ
転して 100 円ショップに買物に行く消費者のよう
アムとは一部の高額商品にだけ限定されるもので
に、食事や日用品はスーパーの特売で極力抑え、
はない。商品単価が低い日常的な商品でもプレミ
時計やバックなど、こだわるものには極端にお金
アムはありえるし、逆に単価の高い高額商品であ
を使う傾向になってきた。つまり、プレミアム製
っても、消費者が認知するプラスアルファの価値
品の定義は 80 年代後半とほとんど変わらないが、
がなければプレミアムにはならない、と指摘して
消費性向が変化してきたのである。
いる。井上[2008]はプレミアム製品とは、上質な原
しかし、ここ数年はプレミアム製品の意味が変
料を使用し、従来認知されている一般的な製品の
わってきている。今日のプレミアム製品は、多様
価格よりも高価格であり、一般的な製品と同様の
化している。これまでプレミアム製品というと宝
チャネルを通じて販売され、なおかつ高級感を訴
飾品、バックといった単価の高い製品であったが、
求したプロモーションを行っている製品であると
近年では、ビールやお菓子、ティッシュペーパー
指摘している。本研究においては、これらの指摘
など単価の低い製品へと幅広い分野に及んでいる。
を踏まえた上で、井上[2008]を参考に研究を進めて
また、消費者も、所得や資産、経済的余裕の有無
いく。
に関わらず、幅広い層へと広がっている。つまり、
限定された人に限らず、大衆的になり、さらには
b. プレミアム製品の変遷と消費者
プレミアム製品がより身近なものになったといえ
前節で述べたようなプレミアム製品は、近年よ
る。これを、遠藤[2007]の場合、日常の贅沢(最寄
く目にするようになった。しかし、プレミアムと
り品)=「ちょっとプレミアム」と非日常の贅沢(高
なる製品と消費性向は、時代によって大きく異な
級品)=「アイデンティティ・プレミアム」の二極
る。そのため、博報堂[2008]を参考にしながら、時
化と述べられている。また、博報堂[2008]の記事に
代ごとにプレミアム製品を見ていくことにする。
よると、人からどう見られるかを意識した「ソト」
80 年代後半のプレミアムとなる製品は、外車・
向きの消費であったが、食品や日用品など現在の
宝飾品・マンションなどのように、平均単価帯が
プレミアム製品は、自分にしか分からないが、肩
数百万円~数億円にもなる超高級品が中心であっ
肘の張らない、日常生活に小さな喜びや花を添え
5
る「ウチ」向きの消費であると述べられている。し
ないか。本研究では、この感情に着目して研究し
たがって本研究では、近年増加してきた単価の低
ていく。
いプレミアム製品に着目して研究を進めていく。
■図表―――2
c. プレミアム製品購入時の感情
プチ贅沢をする割合
ではなぜ、単価の低いプレミアム製品が増加傾
「プチ贅沢」をする?
向にあるのか。この背景は、遠藤[2007]によると、
15%
日常生活において高級感を演出し、気軽な贅沢を
4% 6%
よくする
ときどきする
楽しみたいという欲求が消費者の間で高まってい
るからである。このような消費性向をプチ贅沢と
しない
75%
いう。平日は発泡酒で我慢して休日にプレミアム
よくわからない
ビールを飲む、会社で嫌なことがあった日には、
ちょっと贅沢に価格が高いハーゲンダッツを購買
出典:アサヒグループホールディングス 青山ハッ
するといったような行動である。このように商品
ピー研究所
カテゴリーによる、こだわるものとそうでないも
のの買い分けではなく、同じカテゴリーの製品で
■図表―――3
も、日によって気分によってプレミアム製品を購
プチ贅沢の頻度
買するというプチ贅沢を行うようになっている。
「プチ贅沢」の頻度
は? 週1回以上
アサヒグループホールディングスの青山ハッピー
研究所によると、
「プチ贅沢」するかという質問に
5% 5%
対して、8 割以上が「プチ贅沢する」と回答してい
る。
(図表2)また頻度に関しては、
「週 1 回以上」
18%
21%
と回答した人は 18.6%、
「月 1~3 回」という声も
月1回程度
半年に数回
33%
51.1%となり、全体の 6 割以上が少なくとも「月 1
月2~3回
18%
年に1回程度
ここ何年もない
回以上」の頻度で「プチ贅沢」を行っていること
が明らかとなった。(図表 3)では、どんなときに
出典:アサヒグループホールディングス 青山ハッ
「プチ贅沢」をしているのか。1 位は「楽しいこと、
ピー研究所
嬉しい事があった時に」32.8%、2 位は「ストレス、
(3)
イライラが溜まっている時に」32.1%であった。
現状分析まとめ
そのほかにも、
「疲れが溜まり、何をするにも面倒
市場の成熟化や製品のコモディティ化により、
な時に」や「仕事、プライベートで何か目標を達
企業は利益を得ることが難しくなってきた。そこ
した時に」などがランクインしている。つまり、
で、ブランド拡張や既存製品よりも高価格で販売
感情によってプレミアム製品の購買に影響を与え
することにより、利益を得るための戦略として、
ていることがわかる。このことから、プレミアム
プレミアム製品が注目を集めるようになった。近
製品が増加し、競争が激化してきた今日、消費者
年では、単価の低い製品でもプレミアム製品が増
の感情に着目したプレミアム戦略を行うべきでは
加傾向にあり、プレミアム製品間でも競争が激化
6
している。しかし、プレミアム製品が失敗すれば、
しながら分析する点がある。近年の購買行動のプ
既存製品やブランドに傷がつく可能性があること
ロセスとして、1920 年代にアメリカのサミュエ
を忘れてはいけない。つまり、プレミアム製品を
ル・ローランド・ホールによって示された、購買
ただ売れば良いという考えでは、企業は生き残る
行動を attention, interest, desire, memory, action
ことが困難になってきた。また、プレミアム製品
の 5 段階に分類した AIDMA モデル、近年、イン
が増加してきた理由として、消費者のこだわり消
ターネットの普及を加味し提唱されている、
費やプチ贅沢といった消費を取り上げた。さらに、
AISAS モデル(購買行動を attention, interest,
プチ贅沢を行うときに感情が影響していることも
search, action, share に 分 類 し た も の ) や 、
わかった。したがって、感情に着目したプレミア
AICEAS モデル(AISAS モデルをさらに詳しく
ム戦略の示唆を得ようと考えている。
action,interest, search, comparison, examination,
action, share に分類したもの)など、購買プロセ
3.
問題意識と問題設定
スの始まりを、広告の外的な刺激による注意の喚
起としているものが主とされている。しかし、詳
しくは既存研究として後述するが、Schwarz[1990]、
前述の現状分析から、我々は以下の問題意識を
掲げる。
原・山本[1995]、北村・沼崎・工藤[1994]により、
購買行動において、感情が影響すると述べられて
・プレミアム製品と既存製品で購買の仕方、購
いる。さらに、前述のように、プレミアム製品の
買後の評価が異なる。
購買時には特別な感情が働いていることがわかる。
・プレミアム製品の購買に、感情が影響を与え
しかし、既存の研究では、プレミアム製品と既存
る。
製品を分け、それぞれの場合での感情の影響を分
・感情が、製品の購買後の評価に影響を与える。
析しているものはない。そこで我々は、プレミア
ム製品と既存製品の購買時において、感情が与え
る影響を明らかにすることを学術的意義として唱
上記の問題意識を解明することにより、実務的、
える。
学術的に大きな意義がある。
また、本研究において、対象者を大学生とする。
初めに、実務的意義としては、プレミアム製品
その理由は、大学生のプレミアム製品購買頻度が
戦略に新たな可能性を加えることができる点であ
高いと考えられるからである。日清オイリオの生
る。現状分析でも述べたように、今日、プレミア
活科学情報によると、男女年代別で見たところ、
ム製品市場の競争は激化しており、企業は更なる
男女とも 20 代がプチ贅沢をしている高く、その際
差別化、価値の提供が必要とされている。そこで、
最も多く購買されるのはスイーツなどの甘味であ
プレミアム製品の購買行動に、感情という新たな
った。このことから、若者がプチ贅沢をする傾向
視点を取り入れて研究することで、消費者が求め
が強いことがわかり、対象者として設定した。
るプレミアム製品の提案をより正確にできるよう
になる。ここに実務的意義がある。
次に、学術的意義である。学術的意義としては、
① ―――本論
購買行動に感情を加えて分析する点、さらに、購
買行動をプレミアム製品と既存製品に分け、比較
7
1. 既存研究レビュー
てこの仮説が実証されてきた。しかしその後、理
論の不備が指摘されるようになり、Forgas[1995]
本章では、我々が仮説の設定にあたり参考にし
は感情混入モデルを提唱した。このモデルでは、
た二点の既存研究について概観する。第一に感情
感情の影響を受けた情報が判断者の思考や判断に
に関する研究で、第二にブランド拡張に関する研
影響を与えるという前提のもと、情報処理者に関
究である。以下で概要を述べ、仮説設定の基礎と
する要因を導入し、気分一致効果が生じる条件が
する。
詳細に明らかにされた。
このように感情が意思決定に影響を及ぼすとい
(1)
感情に関する研究
うことは、数多くの研究と実証を重ねたことで証
明されてきた。ここから我々は、感情が消費者の
a.
感情と意思決定
購買行動にどのように影響を与えるかを解明して
感情はこれまで心理学において多くの研究で取
いく。特に、プレミアム製品購買時において、消
り上げられてきた。消費者行動研究においても
費者のどのような感情が影響を及ぼすのか、また
1950〜60 年代には、抑圧された動機を解明する一
製品購買後の購買製品と他方の製品、ブランド自
つの方法として感情に関心を向けられるようにな
体の影響を研究する。では、具体的に感情にはど
った。しかし 70 年代以降になると、感情は非合理
のような種類があるのだろうか。
的な判断を導く要因であるものとみなされ、認知
過程の付随的要素として軽視されるようになった。
b.
その後、感情が認知心理学の研究の発展とともに
感情の定義は、立場によって異なった捉えられ
再び研究されるようになってきたのは 1980 年代
方をしているため多様であり、定まっていないの
になってからである。その代表的な研究として、
が現状である。濱・鈴木・濱[2001]によると、感情
Bower[1981] の気分一致効果があげられる。この
は、広義には情動や気分や情操を含む包括的な概
研究によりポジティブな気分のときにはポジティ
念であるが、狭義には、快—不快を両極とし、様々
ブな情報が再生されやすく、ネガティブな気分の
な中間層を持つ状態としている。
ポジティブ感情とネガティブ感情
ときにはネガティブな情報が再生されやすいとい
また、Watson,tellegen[1988]によると、ポジテ
うことが証明された。つまり感情に影響された情
ィブ感情はエネルギー、集中力、熱心さと正の関
報が、経験記憶や判断に沿って選択され、意思決
連を示し、ネガティブ感情は困惑、不快と正の関
定や物事の捉え方に影響を及ぼすということであ
連を示す。これらの研究から、感情はポジティブ
る。その後 90 年代になると、認知心理学において
感情とネガティブ感情の二つであり、独立したも
感情と認知は相互に関係があるとみなされるよう
のだといえる。そして、本研究では、そこで、我々
になり、その他の分野あるいは購買意思決定にお
は 感 情 を は か る も の と し て The Positive and
いても感情の影響が捉えられるようになった。
Negative Affect Schedule(PANAS)に着目した。こ
Schwarz[1990]は感情情報仮説により、感情状態が
の PANAS は、Watson,Tellegen[1985]が日常によ
情報源として判断に影響することや情報処理の選
く見られるような快感情と不快感情をそれぞれ独
択を左右させることを提唱し、これまでに原・山
立の次元として取り扱った二次元の尺度である。
本[1995]、北村・沼崎・工藤[1994]らに広告を用い
つまり、この PANAS ではポジティブ感情とネガ
8
ティブ感情の二つが測定されている。また、
ための代表的な方法として注目されているのが、
PANAS は様々な言語に翻訳され、ポジティブ感情
ブランド拡張である。Aaker[1991]によるとブラン
とネガティブ感情の二因子構造が確認されており、
ド拡張とはある製品クラスにおいて確立されたブ
日本でも佐藤・安田[2001]によって翻訳されている。
ランド・ネームを他の製品クラスに参入するため
しかし、川人・大塚・甲斐田・中田[2011]によると、
に使用することとして位置づけられ、その目的は、
この日本版は原版から理論的、数学的根拠が明確
すでに確立した既存ブランドを利用することで新
に示されずに 4 項目削除され、16 項目で作成され
製品の市場導入リスクを軽減するだけでなく、既
ている。そのため原版と同様の 20 項目で構成し、
存ブランドをテコとすることで市場参入コストを
信頼性と妥当性の再検討のもと行われた川人・大
抑えられることにある。このブランド拡張は、価
塚・甲斐田・中田[2011]の PANAS を本研究では使
格やカテゴリーといった軸によって、水平的拡張
用する。
と垂直的拡張の二つに分類される。水平的拡張と
このように感情とはポジティブ感情とネガティ
は、既存ブランドと同じ価格帯の別カテゴリーに
ブ感情の大きく二つの要素であり、それぞれが独
ブランドを拡張することであり、垂直的拡張とは
立し、それぞれの感情に特有の機能があると想定
既存ブランドと同じカテゴリーの異なる価格帯に
できる。そこで、我々の研究においてポジティブ
ブランドを拡張することである。
感情とネガティブ感情を区分するにあたり、
本研究におけるプレミアム戦略はブランド拡張
PANAS を用いることは妥当であるといえる。
の一つであり、既存製品に比べ高価格のため垂直
的拡張の上方拡張に該当するものである。したが
(2)
ブランドに関する研究
って、ブランド拡張研究における概念は本研究に
おいても適用可能であるといえる。
a.
ブランド拡張
b.
今日ブランドが研究者や実務家の間で最も注目
ブランド拡張の効果
されるマーケティング領域の一つとなっている。
ブランド拡張に関する研究は、当初こそ市場参
その理由は、1991 年に Aaker がブランドを企業の
入した新製品のリスク削減や成果向上に研究の焦
競争優位を創出する資産とみなし、その維持、強
点が当てられていたものの、市場参入した新製品
化および有効的活用について論じた「Managing
が既存ブランドに及ぼす影響について議論するな
Brand Equity」を出版し、ブランド・エクイティ
ど広がりを見せている。図表 4 は、ブランド拡張
という新しい視点からのアプローチが創出された
の構成要因である「拡張新製品」「既存ブランド」
からである。Aaker[1991]によると、ブランド・エ
「既存製品」がそれぞれに与える影響を示したも
クイティとはブランドないしその名前とシンボル
のである。
に結びついたブランド資産と負債の集合であり、
製品やサービスに価値を加えたり減じたりするも
のと定義されている。言い換えれば、全く同じ製
品であってもどのブランドが付加されているかに
よって価値の差が生じるという考え方である。
このブランド・エクイティを有効的に活用する
9
■図表―――4
の一つとしてブランド・イメージの希薄化が挙げ
ブランド拡張の基本枠組み
られる。ブランド・イメージの希薄化とは、ブラ
ンド拡張によって既存ブランドの従来の製品カテ
ゴリーとの関連性が弱まることや、 既存のブラン
ド・イメージが拡散してしまうことである。この
問題は、ブランド拡張がそもそも既存ブランドの
知識を拡張新製品に移転させることを狙った戦略
であるため起こり、ブランド拡張を行う際の障壁
出典:小林[1994]
でありマーケターを悩ます一つの要因となってい
る。例えば、
「午後の紅茶」という製品を製造する
ブランド拡張が既存ブランド、既存製品に与える
KIRIN が「午後の紅茶 プレミアムおしるこ」とい
影響について、洪[2010]のブランド拡張のフィード
った製品を発売したと想像してほしい。消費者は
バック効果を用いて説明する。ブランド拡張が及
この製品についてどういった評価をするだろうか。
ぼす影響は、大きく対新製品ブランド効果とフィ
おそらく消費者は「午後の紅茶」といえば、ミル
ードバック効果の二点に分けられる。
クティーやレモンティーなどの紅茶を想像するで
対新製品ブランド効果とは既存製品および既存
あろう。しかし、その想像とは異なる「午後の紅
ブランドのイメージが拡張新製品に与える影響の
茶 プレミアムおしるこ」という製品が発売されれ
ことである。一般にブランド力のある既存ブラン
ば、
「午後の紅茶」というブランドのイメージ自体
ド・ネームを使用することによって、拡張新製品
が曖昧になることもあり得る。このようにブラン
にもそのブランド力が派生し、新ブランドを立ち
ドに対して消費者が持っているイメージとかけ離
上げた場合と比較して宣伝コストが削減でき、は
れた拡張が行われるとき、ブランド・イメージの
じめから高い信頼を得ることができるとされてい
希薄化が生じるのである。
る。
c.
フィードバック効果とは直接フィードバック効
果と間接フィードバック効果に分類され、拡張新
ブランド拡張研究から得られた本研究にお
ける知見
製品が既存ブランドに与える影響のことである。
本研究における拡張新製品とはプレミアム製品、
直接フィードバック効果とは、拡張新製品の評価
既存ブランドとは既存製品とプレミアム製品の両
が既存製品に直接影響を与える効果であり、一方
者を所有するブランドのことを指す。 図表 5 は以
間接フィードバック効果とは拡張新製品の評価が
上の関係を示したものである。
既存ブランドを経由し、さらに既存製品の評価に
影響を与える効果である。
ブランド拡張は、主要な資産(ブランド・ネーム)
に対して多大な影響を既存ブランドと新しいブラ
ンドの双方に与える。そのためブランド拡張に対
する誤った意思決定は、もとのブランド・エクイ
ティにダメージを与える可能性を持っている。そ
10
■図表―――5
感情が心理的要因として購買に影響を与えていた。
本研究におけるブランド拡張効果
そこで、ポジティブ感情とネガティブ感情はプレ
ミアム製品の購買に影響を与えると考えられるた
めに、以下、仮説を提唱する。
仮説 1-1 ポジティブ感情はプレミアム製品の
購買に影響を与える
出典:筆者作成
仮説 1-2 ネガティブ感情はプレミアム製品の
購買に影響を与える
(3)
既存研究まとめ
(1)では、感情が意思決定に影響を及ぼすこと、
(2) 購買後に感情が与える評価の解明
その感情とはポジティブ感情とネガティブ感情に
分かれることをレビューした。このことからプレ
次に製品購買後に感情が心理的要因として、ブ
ミアム製品の購買の際に、ポジティブ感情とネガ
ランドと既存製品もしくはプレミアム製品の評価
ティブ感情の二つが関わると考えた。
にどのように影響を与えるかを探る。そこで既存
(2)では、ブランド拡張に関する研究をレビュー
研究で述べたブランド拡張のフィードバック効果
した。この研究により、ブランド拡張の概要とフ
にもとづき、購買製品がブランドと他方の製品に
ィードバック効果によりプレミアム製品と既存製
与える影響を検証する。また、感情が購買後の評
品、ブランドに与える影響を述べた。
価に与える影響を確かめることとする。以下、仮
説を提唱する。
以上、大きく分けて二点の既存研究より、感情
がプレミアム製品の購買とその後の既存製品とブ
ランドへの評価に与える影響を検証する。その際
仮説 2-1 既存購買後、既存製品の評価と、プレミ
に、ポジティブ感情とネガティブ感情に分けた
アム製品の評価は正の相関がある。
PANAS の項目を用い、ブランド拡張効果をもとに
仮説 2-2 既存製品購買後、既存製品の評価とブラ
購買後の影響をはかる。
ンドへの評価は正の相関がある。
仮説 2-3 プレミアム製品購買後、プレミアム製品
2. 仮説の提唱
の評価と、既存製品の評価は正の相関が
ある。
(1) 購買時に感情が与える影響の解明
仮説 2-4 プレミアム製品購買後、プレミアム製品
既存研究より、感情とはポジティブ感情とネガ
の評価と、ブランドへの評価は正の相関
ティブ感情の独立した二つで、意思決定に影響を
がある。
及ぼすものであることが判明した。また、前章ま
仮説 2-5 ポジティブ感情と購買後の評価は
でで述べてきたように、プレミアム製品とは「上
正の相関がある。
質な原料を使用した高価格製品であり、一般的な
仮説 2-6 ネガティブ感情と購買後の評価は
製品と同様のチャネルを通じて高級感を訴求した
正の相関がある。
プロモーションを行っている製品」である。また、
11
3. 仮説の検証
■図表―――6
調査概要
仮説の検証にあたり、今回は調査対象を、KIRIN
の販売する、「午後の紅茶 ミルクティー」を既存
調査方法
インターネット
製品、
「午後の紅茶 ザ・パンジェンシー茶葉 2 倍
調査対象
大学生
ミルクティー」をプレミアム製品として設定した。
サンプル数
232 人
その理由を三点から述べる。
有効回答数
126 人
一点目に、本研究ではプレミアム製品と既存製
調査期間
10 月 5 日~8 日
品の違いを正確に比較するため、ブランドの好み
調査内容
感情が製品購買時、お
や商材による嗜好の違いが出ないようにする必要
よび購買後の評価に与
があるからである。そこで、共に KIRIN の販売す
える影響
る「午後の紅茶」というブランドで、ミルクティ
ーという商材に統一した。
調査内容
二点目に、問題意識と問題設定の章でも述べた
調査票の内容としては、デモグラフィック属性
ように、大学生がプチ贅沢の対象として買い求め
の調査、製品購買時の感情の調査、購買後の評価
るのは最寄り品の中でもスイーツ等の甘味なもの
についての三部構成である。そして、第二部と第
が多いからだ。そのため、大学生にとって飲料と
三部では既存製品、プレミアム製品それぞれの購
いう手軽に購買できる最寄り品であり、甘味なも
買時を想定させて回答を集めた。
のであるミルクティーを対象と設定した。
第一部ではデモグラフィック属性の質問をした。
三点目に、今回の調査では、購買後の評価を比
詳しい内容は、性別、年齢、対象財である「午後
較することも目的の一つだからである。したがっ
の紅茶 ミルクティー」、「午後の紅茶 ザ・パンジ
て、対象財はプレミアム製品と既存製品どちらと
ェンシー茶葉 2 倍ミルクティー」の購買経験につ
も購買経験が高い必要がある。そのため、調査対
いての質問である。ここで、既存製品である「午
象である大学生が購買経験の高い、「午後の紅茶
後の紅茶 ミルクティー」と、プレミアム製品であ
ミルクティー」
、
「午後の紅茶 ザ・パンジェンシー
る「午後の紅茶 ザ・パンジェンシー茶葉2倍ミル
茶葉 2 倍ミルクティー」を選択した。
クティー」の購買経験について、あると答えたも
のを有効回答とした。
(1) 調査概要と調査内容
第二部では、製品購買時の感情を調査する質問
を行った。質問項目は川人・大塚・甲斐田・中田
調査概要
[2011]の PANAS 尺度にもとづいている。具体的な
本研究では、大学生を対象に web 上でのアンケ
内容はポジティブ感情 10 項目、ネガティブ感情 10
ートを行い、回答を収集した。調査期間は 10 月 5
項目で、これらの項目が既存製品購買時、プレミ
日から 8 日までの 4 日間である。また、得られた
アム製品購買時の気分として当てはまるかをそれ
有効回答数は 126 人であった。なお、補録として
ぞれ 5 段階尺度で調査している。
アンケート調査票を掲載する。図表 6 に調査の概
第三部は、購買後の評価を設問とした。内容は、
要を記す。
購買製品についてどう思ったかの質問が 2 問、
12
KIRIN というブランドをどう思ったかの質問が 1
t 検定を用いる。ここで得点に差が認められれば、
問、他方の製品(既存製品購買時にはプレミアム
それぞれの購買時の感情が異なっていることにな
製品、プレミアム製品購買時には既存製品)をど
り、プレミアム製品の購買に感情が影響を与える
う思ったかの質問が 2 問で構成されており、それ
といえる。
ぞれ 5 段階尺度で調査している。
d.購買後の評価の相関
(3)
分析結果と考察
方法:相関分析
次に、仮説 2-1、2-2、2-3、2-4 の検証である。
仮説の検証の前段階として、感情得点、購買後
の評価の得点の算出を行う。
洪[2010]のブランド拡張のフィードバック効果よ
り、購買製品への評価、ブランドへの評価、関連
a.感情得点の算出
ブランドへの評価は影響し合っていると考える。
方法:因子分析、信頼性分析
そこで既存製品購買時とプレミアム製品購買時で
本研究では、感情得点として川人・大塚・甲斐
それぞれ購買後の評価の得点を相関分析にかけ、
田・中田[2011]の PANAS 尺度をもとに質問を作成
検証する。
した。しかし、検証に際して PANAS 尺度が感情
をはかる尺度として相応しいかを因子分析、信頼
e.感情が購買後の評価に与える影響
性分析によって検証する必要がある。その結果か
方法:重回帰分析
ら、本研究で感情をはかる際の PANAS 尺度の妥
最後に、仮説 2-5、2-6 の検証である。ポジティ
当性を検証する。妥当性が認められた際、佐藤
ブ感情とネガティブ感情が購買後の評価に影響を
[2001]にもとづき、ポジティブ感情の質問、ネガテ
与えているかをはかるために、従属変数を購買商
ィブ感情の質問の合計得点をそれぞれポジティブ
品への評価、独立変数をポジティブ得点、ネガテ
得点、ネガティブ得点とする。
ィブ得点とし、重回帰分析を行う。ここで、ポジ
ティブ得点とネガティブ得点が独立変数として認
b.購買後の評価の得点の算出
められれば、それぞれの感情が購買後の評価に影
方法:主成分分析
響を与えているといえる。
次に、購買後の評価の得点の算出を行う。購買
製品への評価に関する設問 2 つ、他方の製品への
評価に関する設問 2 つにそれぞれ主成分分析を行
分析結果
い、算出された得点を購買後の評価得点とする。
前述の分析の結果を先に記した順で述べる。そ
の際、すべての分析において株式会社 IBM の統
c.感情が製品選択に与える影響
計パッケージ「IBM SPSS Statistics 20」を用いた。
方法:t 検定
続いて、仮説 1-1、1-2 の検証として、プレミア
a.感情の得点の算出
ム製品の購買に感情が影響を与えるかを検証する。
方法:因子分析、信頼性分析
手段として、既存製品購買時とプレミアム製品購
川人・大塚・甲斐田・中田[2011]の PANAS 尺度
買時で感情得点に違いがあるかをはかる。その際、
をもとに作成した設問から因子分析を行った結果
13
を述べる。その際の因子の抽出法としては、変数
間に相関があると予測されたため、最尤法を用い、
回転はプロマックス(斜行)回転を用いた。
■図表―――7
分析結果:既存製品購買時の感情
■図表―――8
分析結果:プレミアム製品購買時の感情
14
こで、第一因子はネガティブ因子、第二因子はポ
ジティブ因子が抽出されたと解釈した。
また、それぞれの因子は 2 項目以上で構成され
ているため、信頼性分析を行い、α係数を求めた。
その際、α係数の妥当性としては Bagozzi[2004]
より 0.6 以上を基準値とする。その結果は図表 9、
10 のようになり、基準値である 0.6 を大幅に上回
っている。そのため、それぞれの因子の内的整合
性は非常に高いといえる。
■図表―――9
分析結果:既存製品購買時
信頼性分析
ネガティブ因子
ポジティブ因子
■図表―――10
分析結果:プレミアム製品購買時
因子分析の結果、既存製品購買時とプレミアム
信頼性分析
ネガティブ因子
製品購買時の双方においてポジティブ因子とネガ
ティブ因子が抽出され十分な説明力が証明された。
以下、分析結果を詳しくみていく。
図表 7 および 8 より、スクリープロットをみる
ポジティブ因子
と因子数が 2 個と 3 個で大きく傾きが緩やかにな
っている。そのため、因子数を 2 個と設定した。
そして、構造行列から、第一因子を構成するのは
「うろたえた」、「敵意を持った」「うしろめたい」
など、第二因子は「活気のある」
、
「誇らしい」
「熱
以上の点から、この分析結果の説明力は十分であ
狂した」などであり、川人・大塚・甲斐田・中田[2011]
ることが証明される。そのため、第一因子の項目
の PANAS 尺度でそれぞれネガティブ因子、ポジ
の合計得点をネガティブ得点、第二因子の項目の
ティブ因子を構成している項目と同様である。そ
合計得点をポジティブ得点とし、今後の分析に利
15
用する。
■図表―――12
分析結果:プレミアム製品購買後の評価
プレミアム製品購買後のプレミアム製品への評価
b.購買後の評価の得点の算出
方法:主成分分析
購買後の評価の得点を算出するため、先述のよ
うに主成分分析を行った。その結果は以下の通り
である。
■図表―――11
分析結果:既存製品購買後の評価
既存製品購買後の既存製品への評価
プレミアム製品購買後の既存製品への評価
既存製品購買後のプレミアム商品への評価
以上の結果から、すべての場合において、一つ
の成分が抽出された。また、その成分行列をみて
みると、すべてが正の重みを示している。そこで、
主成分分析によって購買後の総合評価が正しく抽
出されたと判断し、それぞれの主成分得点を購買
後の評価として利用する。
c.感情が製品選択に与える影響
方法:t 検定
仮説 1-1、1-2 を検証するため、既存製品購買時
とプレミアム製品購買時で感情得点が異なってい
るかを検証する。ここで、ポジティブ得点、ネガ
16
ティブ得点に有意な差が検出されればそれぞれの
購買時の感情に差が認められたこととなる。結果
d.購買後の評価の相関
は以下の通りである。
方法:相関分析
仮説 2-1、2-2、2-3、2-4 を検証するために、既
■図表―――13
分析結果:t 検定
感情の違い
存製品購買時の既存製品への評価、プレミアム製
品への評価、ブランドへの評価で相関分析を、プ
レミアム製品購買時のプレミアム製品への評価、
既存製品への評価、ブランドへの評価で相関分析
をそれぞれ行った。結果は以下のようになった。
■図表―――14
分析結果:相関分析
既存製品購買時
t 検定の結果をポジティブ感情、ネガティブ感情
の順にみていく。
初めに、ポジティブ感情である。ポジティブ感
情での t 検定は有意確率が.006 となり、5%の有意
水準で有意差がでた。これは、プレミアム製品購
買時のポジティブ得点は既存製品購買時のポジテ
ィブ得点より平均値が上回っていることを示して
プレミアム製品購買時
いる。
次に、ネガティブ感情をみていく。ネガティブ
感情は有意確率が.220 となった。この値は既存製
品購買時とプレミアム製品購買時でネガティブ感
情に平均値の差が検出されなかったことを表して
いる。
以上の分析から、プレミアム製品購買時の方が
既存製品購買時に比べてポジティブ感情は高いが、
その結果、すべてにおいて、1%水準で有意水準
ネガティブ感情は差がないことが統計的に判明し
を満たし、正の相関が認められた。そのため、仮
た。これにより、仮説 1-1 は立証され、逆に 1-2
説 2-1、2-2、2-3、2-4 が立証された。
は棄却される。
仮説 2-1 購買後、既存製品の評価が高いと、
仮説 1-1 ポジティブ感情はプレミアム製
プレミアム製品の評価が高くなる。[立証]
品の購買に影響を与える。[立証]
仮説
仮説 1-2 ネガティブ感情はプレミアム製
ブランドの評価が高くなる。[立証]
品の購買に影響を与える。[棄却]
仮説 2-3 購買後、プレミアム製品の評価が高
2-2 購買後、既存製品の評価が高いと、
いと、既存製品の評価が高くなる。[立証]
17
仮説 2-4 購買後、プレミアム製品の評価が高
いと、ブランドの評価が高くなる。[立証]
a.
e.感情が購買後の評価に与える影響
方法:重回帰分析
仮説 2-5、2-6 を検証するため、従属変数を購買
後の購買製品に対する評価、独立変数をポジティ
分析の結果、既存製品購買時、プレミアム製品
ブ得点、ネガティブ得点として、既存製品購買時、
購買時のどちらの場合もネガティブ得点を外し、
プレミアム製品購買時でそれぞれ重回帰分析を行
ポジティブ得点のみを独立変数としたモデルが抽
った。その際、変数の投入法は、変数投入の際の F
出された。今回は変数投入の際の F 値確率の基準
値確率の基準を投入<=.050、除去>=.100 としたス
を投入<=.050、除去>=.100 としている。そのため、
テップワイズ法とした。結果は以下の通りである。
ネガティブ得点は 10%水準で購買後の評価を説明
する変数として認められなかった。詳しい結果を
■図表―――15
既存製品購買時、プレミアム製品購買時の順にみ
分析結果:重回帰分析
ていく。
既存製品購買時
初めに、既存製品購買時の結果である。ネガテ
ィブ得点を外した際の結果は決定係数 R2 乗値
が.021 と低い値を示しているが、有意確率が.041
となっており、5%水準で有意となっている。
次に、プレミアム製品購買時の結果である。ネ
ガティブ得点を外した際の結果は、決定係数 R2 乗
値が.093、有意確率は.000 と 1%水準で有意となっ
ている。したがって、このモデルプレミアム製品
購買時の購買後の評価を予測するに相応しいモデ
ルとなっている。
このことから、購買後の評価に影響を与える感
情としてポジティブ感情のみを考慮することが相
応しいとわかった。したがって、仮説 2-5 は立証
プレミアム製品購買時
されたが、仮説 2-6 は棄却された。
仮説 2-5 ポジティブ感情は購買後の評価
に正の影響を与える。[立証]
仮説 12-6 ネガティブ感情は購買後の評価
に正の影響を与える。[棄却]
考察
本研究では、感情がプレミアム製品の購買と購
18
買後の評価に与える影響について研究した。本節
では分析順序に沿って結果についてのまとめと考
仮説 3-1 既存製品購買時とプレミアム製
察を行う。
品購買時では、購買製品の評価に
差がある。
a. 感情の得点の算出
仮説 3-2 既存製品購買時とプレミアム製
分析の結果、製品購買時の感情として、ポジテ
品購買時では他方製品の評価に
ィブ感情、ネガティブ感情の 2 種類があることが
差がある。
わかった。したがって、ポジティブ得点、ネガテ
仮説 3-3 既存製品購買時とプレミアム製
ィブ得点を感情の尺度とし、その後の分析に活用
品購買時ではブランドへの評価
した。
に差がある。
b. 購買後の評価の得点算出
購買後の評価として、主成分分析を行い、購買
■図表―――16
製品、他方の製品に対する購買後の評価を算出し
分析結果:t 検定
た。
c. 感情が製品選択に与える影響
分析の結果、ポジティブ感情が高い消費者がプ
レミアム製品を購買していることがわかったが、
ネガティブ感情については既存製品購買時とプレ
結果は図表 16 のようにとなった。以下、順に結
ミアム製品購買時に違いはみられなかった。その
果と考察を述べる。
ため、プレミアム製品はポジティブな気分の人を
初めに、購買製品への評価の差である。購買後
ターゲットとする戦略が有効であると示唆される。
の評価は優位確率が.844 となり有意がみられなか
った。その理由を Kotler[2000]による満足度の理
d. 購買後の評価の相関
論から説明する。Kotler[2000]は、満足は期待と成
購買製品の評価が、ブランド、他方の製品への
果の関係によって説明されるとしている 。プレミ
評価に影響することがわかった。そのため、企業
アム製品は既存製品と比較して高品質であるが、
は販売する製品が、ブランド、他方の製品への評
価格も高くなる。そのため成果は高くなるが、そ
価へ影響を与えることを再認し、適当な判断をす
れと比例して期待も高まってしまうため、満足を
る必要があると考える。
十分に感じず、評価の差が生じなかったと考えら
また、購買後の評価について、高価格で品質が
れる。
優れているプレミアム製品は、既存製品と比較し、
次に、ブランドへの評価の差である。ブランド
評価が高くなると予想した。そのため、既存製品
への評価の差は、有意確率が.018 となり、5%水準
購買時とプレミアム製品購買時で購買後の評価に
でプレミアム製品購買時の方が、ブランドへの評
差があると考えた。そして、新たに以下の仮説を
価が高いという結果となった。ここでは、プレミ
提唱し、検証を行った。
アム製品の品質の良さが、ブランドへの評価へ良
19
い影響を及ぼしたと考えられる。
も高くなるといえる。
最後に、他方製品への評価の差である。結果は
また、ネガティブ得点は独立変数として認めら
有意確率が.065 となり、10%水準で有意を満たし
れなかった。その理由として、ネガティブ得点と
た。内容は、プレミアム製品購買時の既存製品へ
ポジティブ得点との間に多重共線性が生じた可能
の評価より、既存製品購買時のプレミアム製品へ
性が考えられる。その理由は、図表 15 の許容度が
の評価が高いというものである。
既存製品購買時に.736、プレミアム製品購買時
なぜ、優れているはずのプレミアム製品購買時
で.741 と高いことから説明できる。村瀬・高田・
の評価が、既存製品購買時より低くなっているの
広瀬[2010]によると、多重共線性とは、独立変数間
だろうか。その理由は、消費者がプレミアム製品
の相関が高すぎる際に生じる現象で、言い換える
の品質の良さを理解しているからだと考える。既
と、説明変数間にすでに別の線形回帰関係が含ま
存製品よりプレミアム製品の品質が優れているこ
れていることである。多重共線性が生じた場合、
とを知っているからこそ、プレミアム製品購買後
パラメータの推定が不安定になり、モデルの説明
に既存製品の評価はあまり高くならない。逆に、
力を上げるためには片方の説明変数をのぞくこと
既存製品購買後には、プレミアム製品にさらなる
が必要となる。実際に、詳しくは後述するが、今
品質の高さを期待し、高い評価をしていると考え
回のモデルではポジティブ得点とネガティブ得点
られる。以上の結果をまとめると以下のようにな
では正の相関がみられた。 そのため、多重共線性
る。
が生じ、ネガティブ得点が除去されたと考えられ
る。
仮説 3-1 既存製品購買時とプレミアム製
以上の分析結果から、製品購買時と、購買後の
品購買時では、購買製品の評価に
評価のどちらにおいてもネガティブ感情の有意が
差がある。[棄却]
検証されなかった。その理由として、日本語版
仮説 3-2 既存製品購買時とプレミアム製
PANAS 尺度がネガティブ感情の抽出として十分
品購買時では他方製品の評価に
出なかった可能性が示唆される。この根拠として、
差がある。[立証]
原版 PANAS と日本語版 PANAS では、ポジティ
仮説 3-3 既存製品購買時とプレミアム製
ブ感情とネガティブ感情の間に異なった相関が報
品購買時ではブランドへの評価
告されていることがある。
原版 PANAS 尺度では、
に差がある。[立証]
Watson[1998]によるとポジティブ因子とネガティ
ブ因子、お互いが弱い負の相関を示すとされてい
る。しかし、山崎[2006]によると、日本語版 PANAS
e. 感情が購買後の評価に与える影響
では両感情に優位な正の相関が出るとされている。
分析 e では購買時の感情が購買後の評価に影響
実際に、図 17 からもわかるように、今回の分析結
を与えるかを検証した。その結果、ここでも既存
果も、ポジティブ因子とネガティブ因子は有意水
製品購買時とプレミアム製品購買時のどちらの場
準 1%で相関係数が.812 と正の相関を示していた。
合においても、ポジティブ感情のみが影響を与え
ここから、阿久津[2009]は、日本語版 PANAS と原
るという結果となった。このことから、ポジティ
版 PANAS が同じものだと解釈する前に更なる検
ブ感情が高いときに購買した製品は購買後の評価
20
討が必要であり、ネガティブ感情の信頼性を高め
ングショット」を挙げる。2002 年 10 月、アサヒ
ることが必要だと述べている。ここから、本研究
飲料は、缶コーヒーユーザーの約4割が朝に缶コ
でもネガティブ感情がうまく抽出されず、仮説が
ーヒーを飲んでいるという飲料調査データに着目
立証されなかった可能性が示唆される。
した。そして「朝専用」というこれまでになかっ
た飲用シーン訴求型の缶コーヒーとして、
「ワンダ
■図表―――17
モーニングショット」を開発した。「ワンダ モー
分析結果:相関分析
ニングショット」は、商品・広告宣伝・販売促進
の全てを「朝」というコンセプトに集中して効果
的に展開することにより、発売以来、自動販売機
部門・手売り部門ともに好調な売上で推移してい
る。発売 1 週間で年間予算の四分の一の 100 万ケ
ースを売上げ、発売2ヶ月で、販売目標の 400 万
ケースを突破した。これは、日本人全員が一本ず
また、ポジティブ感情はプレミアム製品の購買、
つ飲んだ計算となる。2002 年の業界コーヒーカテ
購買後の評価のどちらにも影響があることがわか
ゴリーは上期が前年比 98%、下期見込みが 99%と
った。つまり、ポジティブ感情が高まっている人
ほぼ横ばいで推移している中、アサヒ飲料は「ワ
はプレミアム製品を買いやすく、購買後の評価も
ンダ モーニングショット」発売以降、前年同月比
高くなるということである。そのため、プレミア
で 10 月が 136%、11 月は 143%と好調に推移して
ム戦略の際には、ポジティブ感情が高い人をター
いる。(図表 18)
ゲットとすることで、購買の確率が上がり、購買
後も高く評価することが予測される。
■図表―――18
この考察を踏まえ、我々はポジティブ感情に着
ワンダモーニングショットの販売推移
目して、実務的な提案を行う。その際、ターゲッ
トを本研究の対象と合わせ、大学生とする。
4. 新規提案
(1) プロダクト戦略
我々は「ワクワクするとき食べるチョコ」や「嬉
出典:アサヒ飲料ニュースリリース 2002 年
しいときに食べるチョコ」など、シーンや消費者
を特定する製品の展開を提案する。ここで、消費
者のポジティブ感情を特定することが重要である。
「ワンダ モーニングショット」がヒットした最
この背景として、近年、ある特定のシーンや時間
大の理由は、朝に飲用シーンを絞ることで、今ま
軸に絞り込んだマーケティング手法が成功してい
でになかった時間軸をコンセプトとしたことであ
ることを挙げる。
る。朝に相応しいすっきりとした味わいが、多く
その成功例としてアサヒ飲料の「ワンダ モーニ
の顧客から支持を得たことで、「ワンダ モーニン
21
グショット」は朝の缶コーヒーの定番となること
ができたのであろう。「ワンダ モーニングショッ
ト」のように、多くの消費者をターゲットとする
のではなく、ある特定の時間軸やターゲットに絞
り込むというマーケティング手法は有効であると
いえる。
我々はこの限定的なマーケティング手法、分析
結果をふまえ、消費者の限定された感情を有効に
活用するべきであろうと考えた。そこで提案する
のが、シーンや消費者を特定する製品類の展開で
ある。
具体的に、ロッテの「コアラのマーチ」を挙げ
出典:筆者作成
る。
「コアラのマーチ」は 1984 年 3 月より発売し
(2) プレイス戦略
ているスナック菓子であり、ロッテのロングセラ
ー製品として多くの人に認知されている。この馴
次に、我々はポジティブ感情が働くシーンを利
染みのあるパッケージに新しく高級感を出し、価
用した提案を打ち出す。大学生がポジティブにな
格も数十円高くしたプレミアム製品を新たに展開
るシーンは、主に季節のイベントや旅行であると
する。ただし、このプレミアム製品は普通のプレ
考えた。
ミアム製品と異なり、直接ポジティブな感情に訴
初めに、イベントについて述べる。約半分もの
えかける。そうすることで、消費者の購買意欲が
大学生が、ハロウィンやクリスマスといった季節
高まり、より高い売上が見込めるであろう。また、
のイベントに参加していることや、女性の 70.7%、
既存製品から派生したプレミアム製品を販売する
男性の 84.9%がスポーツ観戦をすることが好きで
ことで二つの利点がある。第一に、この既存製品
あることがわかった。そのため、イベントやスポ
を認知している消費者にとって手に取りやすくな
ーツ観戦の際、ポジティブ感情が働き、そこに訴
ること、第二に、既存製品購買後にはプレミアム
求できると考えた。今回はイベントの中でもスポ
製品である本製品の評価が高くなることである。
ーツ観戦に着目した。
この戦略を用いることで、プレミアム製品の購
アサヒグループホールディングスの青山ハッピ
買が見込めるポジティブな消費者をターゲットと
ー研究所によると、現状分析でも述べた「ウチ」
し、的確にアプローチできる。
向き消費の増加の影響で、95.7%もの人が自宅でス
ポーツ観戦をしており、欠かせないアイテム 1 位
■図表―――19
でビールなどのアルコール類が 60.4%を占める。
ポジティブ感情に訴えた製品イメージ
以上のことから、自宅のスポーツ観戦者にアルコ
ール類を訴求できると考えた。今日プレミアムモ
ルツなどのプレミアムビールが既に発売されてい
るが、それよりもポジティブ感情や応援向けの製
品を打ち出す。例えば、応援するチームのロゴや
22
選手が印刷されているパッケージや、グッズが当
ム製品のビールを一本入れることで、既存製品購
選するキャンペーンを行うことで、購買時にポジ
買者に対し、プレミアム製品の的確なプロモーシ
ティブ感情をより高めることができると考えた。
ョンを行うことができる。その結果、既存製品購
二つ目に、旅行時に家族や友人へお土産を選ぶ
買者はプレミアム製品を購買することが期待され、
際、わくわくするといったポジティブ感情に着目
有効なプレミアム製品のプロモーション戦略とな
し、ここに訴求できるのではないかと考えた。お
る。
土産についての本音・実態調査によると、20 代で
最も人気があるのは「洋菓子」で約 73%、次に「和
菓子」で約 70%と高い割合を占めているという。
④―――結論
近年、お土産として、観光地のご当地グッズが人
(1)
気を集めている。例えば北海道の「白い恋人」や、
まとめ
東京の「東京ばな奈」のように、様々なご当地限
一般的な既存製品よりも数十円から数百円高い
定のお菓子がある。そのため、お土産は贈りやす
食料品を中心とした低価格のプレミアム製品が登
さや好みの関係でお菓子類を選ぶことが多いとわ
場して以来、プレミアム製品に対する需要は増し
かる。そこで新たな戦略として、ご当地限定のお
ていった。サービス提供者にとって既存製品より
菓子に対してプレミアム戦略を提案する。例えば、
も高価格で訴求でき、消費者にとっては高級・高
既存の「東京ばな奈」より数百円高価な「東京ば
品質志向に訴求できるからである。
な奈 プレミアム」が挙げられる。このように旅行
あらゆる市場で「プレミアム」という言葉をみ
時のお土産を選ぶ際のポジティブ感情を利用し、
かける今日、優位性を保つことが難しくなってき
新たな戦略を打ち出す。
ているため、プレミアム製品間でも差別化をはか
る必要があると考えた。その差別化のために、我々
(3) プロモーション戦略
はプレミアム製品購買時の感情に着目することに
本研究の結果、既存製品購買後、プレミアム製
した。ここに我々がプレミアム製品を研究対象に
品の評価が高くなることがわかった。そこで、既
した所以がある。本研究は、プレミアム製品に焦
存製品購買者にプレミアム製品の販売促進を行う
点を当て、感情がプレミアム製品の購買・評価に
ことが有効なプレミアム戦略であると推測できる。
及ぼす影響を解明した。
この戦略では、既存製品を体験し、プレミアム製
検証結果から、ポジティブ感情がプレミアム製
品への期待が高まっている消費者に対し、的確な
品購買と購買後の評価に正の影響を与えること、
プロモーションを行うことができるのである。実
プレミアム製品は既存製品に比べて購買後の製品
際に、不二家は、通常のミルキーの袋に生ミルキ
自体への評価が高いことが解明された。また購買
ーをサンプルとして付随させるサンプリングプロ
後の評価から、既存製品購買者はプレミアム製品
モーション戦略を行った。
を高く評価することも判明した。ゆえにプレミア
この例をもとに、具体的にビールでのサンプリ
ム製品の購買を促すには既存製品から誘導させる
ングプロモーションを提案する。現在、一般に販
ことが重要であると考えられる。
売されている缶ビールには 6 本入り等のケースで
そこで我々は提案として消費者のポジティブ感
販売されているものがある。その中に、プレミア
情を利用し、既存製品よりも上質で高価格である
23
プレミアム製品の新たな戦略としてプロダクト戦
PANAS を用いたためであると考えられる。日本語
略、プレイス戦略、プロモーション戦略を打ち出
版 PANAS は原版であるアメリカ版 PANAS とは
す。前述したこれらの戦略のもと、馴染みがある
異なり、既存研究間でも訳し方や分析結果が異な
既存製品のプレミアム製品を販売することで既存
るからである。本研究とは異なったネガティブ因
製品購買後のプレミアム製品の評価やブランドに
子の尺度を用いれば、また違った結果を得られた
対しての評価が高くなり、さらなる購買に繋がる
かもしれない。
ことが見込める。このように、本研究は新規性に
(3)
富んだ意義のある研究であり、今後のプレミアム
製品の販売戦略において本研究の結果が新たな方
おわりに
今日、市場競争は激化しており、コモディティ
向性を示すことができたであろう。
化に陥っている市場において、感情を重視したプ
レミアム戦略は有効な手段であると考えられる。
(2)
今後の展望
本研究が飲料業界をはじめ、様々な業界に寄与し、
本研究の目的は、感情がプレミアム製品の購
今後マーケティング分野の発展に少しでも役立て
買・評価に及ぼす影響の解明である。分析結果と
れば幸いである。
既存研究から考察を深めた結果、前述した成果を
最後に、本研究にご協力、ご支援いただいた全
得ることができた。
ての方々に、この場を借りて多大なる感謝の意を
しかし、本研究の限界を把握しておく必要があ
表したい。
る。まず本研究における調査対象を大学生にした
ことである。問題意識と問題設定の章でも述べた
通り、20 代は最もプチ贅沢をする層であり、その
際最も感情によって購買する層と一致しているが、
より一般化させるためには幅広い層からアンケー
トを取る必要がある。
また、本研究では感情がプレミアム製品の購
買・評価に及ぼす影響を解明するために、対象財
を選定する必要性が生じた。調査対象である大学
生が求めやすい最寄り品であり、感情が購買に影
響するプチ贅沢をする際多く購買されるスイーツ
などの甘味なものの中で、既存製品とプレミアム
製品の双方の購買経験があるものを議論した結果、
「午後の紅茶」を対象財とした。今後他のカテゴ
リーの財においても同様の調査を行うことで本研
究をより一般化できるのではないかと考える。
本研究では、当初想定していたネガティブ因子
についての仮説は残念ながら支持されなかった。
その理由として、アンケート調査に日本語版
24
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26
補録
プレミアム商品購買時における感情の影響に関する調査
本調査はプレミアム商品の購買時とスタンダード商品購買時それぞれにおいて
感情がどのように影響するのかを調査するものです。
今回の調査で知り得た内容については、調査の目的以外には使用いたしません。
個人が特定できるような集計は行わず、回収した調査票・データについても適切に管理し、
本プロジェクトの目的以外に利用することはありません。
*必須
1.あなたの性別を教えてください *
o
男性
o
女性
2.あなたの年齢を教えてください *
3.あなたがコンビニエンスストアに行く頻度を教えてください *
「午後の紅茶」が「KIRIN」という会社の商品だと知っていますか *
o
はい
o
いいえ
商品説明
以降の質問は以下の画像 A、画像 B の商品についての質問です。 それぞれの画像と
説明をお読みになった上、お答えください。
27
画像 A(午後の紅茶 ミルクティー)内容量:500ML 価格:140 円
画像 B(午後の紅茶 ザ・パンジェンシー茶葉2倍ミルクティー) 内容量:460ML
価格:
150 円
午後の紅茶
ミルクティー」購買経験について
4.「午後の紅茶
o
ある
o
ない
ミルクティー」を購買した経験はありますか *
あなたの「午後の紅茶 ミルクティー」購買時の気分についてお伺いします。最も
当てはまるものをお応えください。
以下の質問は「午後の紅茶 ミルクティー」購買時のことを思い浮かべてお答えく
ださい。
5.強気な *
1
2
3
4
全く当てはまらない
5
とても当てはまる
28
6.やる気がわいた *
1
2
3
4
5
全く当てはまらない
とても当てはまる
7.活気のある *
1
2
3
4
5
全く当てはまらない
とても当てはまる
8.熱狂した *
1
2
3
4
5
全く当てはまらない
とても当てはまる
9.興味のある *
1
2
3
4
5
全く当てはまらない
とてもあてはまる
10.興奮した *
1
2
3
4
5
全く当てはまらない
とてもあてはまる
11.誇らしい *
1
2
3
4
5
全く当てはまらない
とても当てはまる
12.機敏な *
1
2
3
4
5
全く当てはまらない
とても当てはまる
13.決心した *
1
2
3
4
5
全く当てはまらない
とても当てはまる
14.注意深い *
29
1
2
3
4
5
全く当てはまらない
とてもあてはまる
15.恐れた *
1
2
3
4
5
全く当てはまらない
とても当てはまる
16.おびえた *
1
2
3
4
5
全く当てはまらない
とても当てはまる
17.うろたえた *
1
2
3
4
5
全く当てはまらない
とても当てはまる
18.恥ずかしい *
1
2
3
4
5
全く当てはまらない
とても当てはまる
19.うしろめたい *
1
2
3
4
5
全く当てはまらない
とても当てはまる
20.びりびりした *
1
2
3
4
5
全く当てはまらない
とても当てはまる
21.苦悩した *
1
2
3
4
5
全く当てはまらない
とても当てはまる
22.イライラした *
1
2
3
4
5
30
全く当てはまらない
とても当てはまる
23.神経質な *
1
2
3
4
5
全く当てはまらない
とても当てはまる
24.敵意を持った *
1
2
3
4
5
全く当てはまらない
とても当てはまる
購買後の「午後の紅茶 ミルクティー」への評価
25.「午後の紅茶
1
ミルクティー」の味についてどう思いましたか。 *
2
3
4
5
とても悪い
とてもよい
26.「午後の紅茶
ミルクティー」を今後買いたいと思いましたか。 *
1
2
3
4
5
全く思わない
とても思う
27.「KIRIN」という会社についてどう思いましたか。 *
1
2
3
4
5
とても悪い
とてもよい
購買後の「午後の紅茶 ザ・パンジェンシー茶葉2倍ミルクティー」についての評
価
28.「午後の紅茶
ザ・パンジェンシー茶葉2倍ミルクティー」の味についてどう
おもいましたか。 *
1
2
3
4
5
とても悪そう
とてもよさそう
29.「午後の紅茶
ザ・パンジェンシー茶葉2倍ミルクティー」を今後買いたいと
思いましたか。 *
1
2
3
4
5
31
全く思わない
とても思う
「午後の紅茶
茶葉2倍プレミアムミルクティー」の購買経験について
30.「午後の紅茶
茶葉2倍プレミアムミルクティー」を購買した経験はあります
か *
o
ある
o
ない
あなたの「午後の紅茶 ザ・パンジェンシー茶葉2倍ミルクティー」購買時の気分
についてお伺いします。最も当てはまるものをお応えください。
以下の質問は「午後の紅茶 ザ・パンジェンシー茶葉2倍ミルクティー」購買時の
ことを思い浮かべてお答えください。
31.強気な *
1
2
3
4
5
全く当てはまらない
とても当てはまる
32.やる気がわいた *
1
2
3
4
5
全く当てはまらない
とても当てはまる
33.活気のある *
1
2
3
4
5
全く当てはまらない
とても当てはまる
34.熱狂した *
1
2
3
4
5
全く当てはまらない
とても当てはまる
35.興味のある *
1
2
3
4
5
全く当てはまらない
とても当てはまる
36.興奮した *
32
1
2
3
4
5
全く当てはまらない
とても当てはまる
37.誇らしい *
1
2
3
4
5
全く当てはまらない
とても当てはまる
38.機敏な *
1
2
3
4
5
全く当てはまらない
とても当てはまる
39.決心した *
1
2
3
4
5
全く当てはまらない
とても当てはまる
40.注意深い *
1
2
3
4
5
全く当てはまらない
とても当てはまる
41.恐れた *
1
2
3
4
5
全く当てはまらない
とても当てはまる
42.おびえた *
1
2
3
4
5
全く当てはまらない
とても当てはまる
43.うろたえた *
1
2
3
4
5
全く当てはまらない
とても当てはまる
42.恥ずかしい *
1
2
3
4
5
33
全く当てはまらない
とても当てはまる
44.うしろめたい *
1
2
3
4
5
全く当てはまらない
とても当てはまる
45.びりびりした *
1
2
3
4
5
全く当てはまらない
とても当てはまる
46.苦悩した *
1
2
3
4
5
全く当てはまらない
とても当てはまる
47.イライラした *
1
2
3
4
5
全く当てはまらない
とても当てはまる
48.神経質な *
1
2
3
4
5
全く当てはまらない
とても当てはまる
49.敵意を持った *
1
2
3
4
全く当てはまらない
5
とても当てはまる
購買後の「午後の紅茶 ザ・パンジェンシー茶葉2倍ミルクティー」への評価
50.「午後の紅茶
ザ・パンジェンシー茶葉2倍ミルクティー」の味についてどう
思いましたか。 *
1
とても悪い
51.「午後の紅茶
2
3
4
5
とてもいい
ザ・パンジェンシー茶葉2倍ミルクティー」を今後買いたいと
34
思いましたか。 *
1
2
3
4
5
全く思わない
とても思う
52.「KIRIN」という会社についてどう思いましたか *
1
2
3
4
5
とても悪い
とてもよい
購買後の「午後の紅茶 ミルクティー」についての評価
53.「午後の紅茶
1
ミルクティー」の味についてどう思いましたか *
2
3
4
5
とても悪そう
とても良さそう
54.「午後の紅茶
1
全く思わない
ミルクティー」を今後買いたいと思いましたか。 *
2
3
4
5
とても思う
35