PDF版 - 消費者の窓

資料5
消費者基本計画に追加すべき施策
金融オンブズネットコーディネーター
原 早苗
1.包括的金融サービス・市場法の検討
本通常国会に証券取引法の金融商品取引法への改正が提案されているが、金融
分野での消費者との取引の実情から見て不十分な内容となっている。そもそも今回
の提案にあたっては、現段階での合意内容によるが、法制定後もさらに検討を続ける
ことがあらかじめ表明されており、下記の諸点を満たした包括的な金融サービス・市
場法制の検討を行うことについて、消費者基本計画に盛り込むべきである。
(1)金融商品取引法第一条(目的)は、「投資者の保護に資する」とあるが、交渉力な
ど力の差に鑑み、「消費者の保護に資する」とすべきである。法案全体をとおして
「消費者保護」を明確にすること。
(2)銀行、保険、商品先物取引、海外商品先物取引及びオプション取引、不動産特
定共同事業などを含む横断的・包括的なものとすること。また、消費者保護の観点
に立てば、多大な被害をもたらした融資一体型保険も含むべきである。
(3)第三十四条の四(特定投資家以外の顧客である個人が特定投資家とみなされる
場合)は削除する。
現状、一般投資家(アマ)が特定投資家(プロ)になることは認めるべきではない。
(4)第三十八条(禁止行為)三項の括弧書きを削除し、不招請勧誘の禁止規定は、
原則禁止とする。政令による指定制ではトラブルが起きてからの後追いになる。
また、商品先物取引等においては「不招請勧誘の禁止」規定を即刻置くこと。
(5)第四十条(適合性の原則等)に「適合性レター」の導入を図り、損害賠償規定など
の民事効を置き実効性の確保を図ること。
(6)苦情・紛争の解決の仕組みづくり、被害救済のあり方について検討を尽くすこと。
公益法人金融商品取引業協会、認定投資者保護団体の業務に「苦情の解決」「あ
っせん」が掲げられているが、業界から独立した横断的・包括的な紛争解決スキー
ムを構築すること。不当利得の吐き出し、消費者団体への団体訴権の付与と検討
を進めるべきである。
苦情・紛争の解決の視点からいえば、商品取引所法への「損失補てんの禁止」規
定の導入には反対である。金融商品取引法の「損失補てんの禁止」条項とあわせ
て、真に被害者救済になる方策とすること。
(7)「金融に係る知識の普及」等は、事業者の業務の一環と位置づけられているが、
金融消費者教育の重要性は、第一章に総則として掲げること。早急に関係各行政、
関係機関と連携をとり実現化を図ること。
2.統一消費者信用法制等の検討
05 年 3 月から、金融庁の貸金業懇談会において消費者金融のあり方及び金利規
制について検討を重ねてきているが、4 月 21 日に「中間とりまとめ」を出し、手当てを
急ぐ部分については、今秋の国会での法定化をめざしての作業に入る。昨年からの
最高裁での貸金業規正法の「みなし弁済」規定のあり方についての判決が大きな問
題提起になり、「過剰貸付」「金利規制」が大きな論点になっている。貸金懇では、残さ
れた課題について引き続き検討をすすめる予定だ。
一方、経済産業省の産業構造審議会割賦分科会のもとで、05 年 11 月から基本問
題小委員会が設置され、情報漏洩、個人信用情報機関のあり方について検討をすす
めてきたが、これについては一定の結論を得たところで、現在、割賦販売法に係る論
点をあげての検討に入っている。これは、昨年、大きな問題になったリフォーム詐欺
などにみられる次々販売の温床にクレジットの仕組みが使われていることも大きい。
これまでも信販会社による加盟店管理の問題は指摘されてきたところである。
現在、消費者信用は消費者金融の分野は金融庁が管轄、販売信用に係る分野は
経済産業省の管轄と縦割り行政のもとにあった。さらに、議員立法もあり、煩雑で、で
こぼこ感のあるルールにとどまっている。諸外国では、統一消費者信用法制の枠組
みは30年前から確立しているところもあり、日本の法整備は非常に遅れている。貸
金業懇談会の検討、産構審基本問題小委員会の検討を重ね合わせ、統一消費者信
用法の制定に向かうべきだと考える。
(1)統一消費者信用法の制定に向けての検討に着手すること。(内閣府、金融庁、経
済産業省、法務省)
(2)金利規制は、貸金業規正法の第43条の「みなし弁済」規定を削除、グレーゾーン
を排すこと。上限金利規制は、現行利息制限法の上限にもっていくこと。さらに、
利息制限法の金利規制については、昭和29年のままであり、再考すること。
(3)「過剰貸付」の防止に有効な手立てを講じること。広告、ATM, 個人信用情報の
扱い、リボルビング返済のあり方などを通じて、総量規制が図られること。
(4)統一消費者信用法制には、(2)(3)を含み、さらに、参入規制、広告など勧誘の
あり方、説明義務、信用情報の扱い、取り立て規制、保証人、実効性の確保を図
る方策を盛り込んだものであること。
(5)販売信用の分野では、加盟店管理の責務のあり方の明確化、割賦要件の見直し
などを図り、現状に合った法制とすること(割賦販売法は 20 年来大きな改正がな
い。まず販売信用法に改正し、その後、統一消費者信用法制へ向かうこと)
(6)金融経済教育の充実を図ること。
(7)返済が困難な状況に陥った場合に適切な相談、カウンセリングを受けられる場、
担い手を育成すること(消費者センター等の活用)を通じて消費者信用分野の公
的なセーフティネットの構築を図ること。
(8) 上限金利を引き下げ、「過剰貸付」の防止の実効性確保策を講ずる際には、多
重債務者の窮状につけこんだヤミ金による被害拡大につながらないよう、ヤミ金の取
締りを強化することが必要である。
3.割賦販売法の改正(2の前段階として)
(1) 割賦販売法を販売信用法とし、法整備を図ること。
・割賦要件を外し 1 回払いも含むとすること ・指定商品制の廃止
・個品割賦事業者を登録制にすること
(2)加盟店管理責任の明確化を図ること
・ 既払い金の返還請求 ・書面交付にあたっての共同責任など
(3)過剰与信の防止を図ること
4.法テラスと消費者センターとの連携強化
06 年秋にスタートする法テラスとの連携がうまく図れるように事案を通じて検討を尽
くすこと。
5.被害救済のために不当利得吐き出しの制度の検討を尽くすこと。
6.有料老人ホームの表示・契約のあり方、質の確保等(厚生労働省 国土交通省
公正取引委員会 内閣府)
有料老人ホームは老人福祉法の改正により、人数制限が撤廃され、さまざまな形
態、規模のものが多く登場してきている。本格的な高齢社会を迎え、ますますその
需要は高まってくることが考えられる。
国民生活センターでは、06 年 3 月『有料老人ホームをめぐる消費者問題に関する
調査研究』をまとめているが、このなかでも多くの問題点を指摘している。「有料老
人ホームの利用者の保護を図るとともに、今後、必要性が増大する高齢者・障害
者の居住のための法制度を再構築する」ことが必要だと述べている。
実際、入居一時金の返還を求めるトラブルや、表示・契約のありようを問う声も
大きい。有料老人ホームについて高齢消費者の視点から問題点を抽出し、改善を
図るべきだと考える。
原早苗